ゲスト
(ka0000)
仇
マスター:鳴海惣流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/12/08 12:00
- 完成日
- 2015/12/13 18:22
みんなの思い出
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オープニング
●
「帰れ! 俺に顔を見せるな」
グラズヘイム王国ラスリド領にある田舎村リーランに住む刀匠ドリューは声を荒げ、近くにあった適当なものを投げつけた。
刀を作ってほしい。尋ねて来た女の鬼を鋭く睨みつける。
「俺は東方の生まれだ。お前たち鬼のせいで、妻は……ちくしょう!」
直接の原因でなかったにしろ、故郷を鬼に追われたせいで体の弱かったドリューの妻は移住先で病に倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
故郷を追い出したのは目の前にいる鬼ではないかもしれない。だが、仲良くする気にはなれなかった。
事情を聞いた女鬼は怒るでもなく、肩を落としてドリューの前から立ち去った。
●
その日の夜。ドリューの娘のエリーは夢を見た。
住み慣れた故郷を怖い鬼に追われ、逃れた先で最愛の母は死んだ。病気のせいだとエリーの父親ドリューは言った。
その後、エリーはドリューと一緒にリーランへ移住した。とてものどかで温かい村だった。
そのうちに、ソニアという少女と仲良くなった。
いつしかエリーは、ママの分まで生きようと思うようになっていた。
そんな時、平和なリーランに多くのゴブリンが攻め込んできた。その際に、ソニアの母親は死んだ。エリーやソニアの目の前で。
「うわあっ!」
死んだソニアの母親と目が合ったところで、エリーは飛び起きた。
ベッドから起きたエリーは、隣を見た。同じ部屋でソニアが眠っている。起こしてしまったかと思ったが、すやすやと心地よさそうに寝息を立てている。
よかったと安堵してから、窓際に立つ。月がとても綺麗だ。
久しぶりに見た悪夢で怖くなったエリーは、自分の宝箱から小さな短剣を手に取った。それは友情の証として、ソニアがくれたものだった。
最初、エリーは困惑して受け取るのを拒否した。短剣だから危ないと思ったわけではない。その短剣は、ソニアの母親の形見だったからだ。
――こんなに大切なもの、貰えないよ。
エリーは言った。するとソニアは微笑んだ。
――これはエリーちゃんに持っていてほしいの。私たち二人の友情の証として。
何度かのやりとりの末、最終的にエリーは受け取った。二人のお守りとして大切に持っておこうと決めた。
何気なく鞘から引き抜いた短剣の輝きが巡り会わせたのか、エリーは遠目に巨大な影が動くのを見た。
すでに外は徐々に明るくなりつつある。何だろうと思ったエリーは急いで着替え、外に出てみた。
吐く息が白く舞い上がる中、小走りで巨大な影を見た方へ向かう。
そこでエリーは見てしまう。傷を負い、村奥の森へ向かう一体のゴブリンを。
遠目からでも絶対に見間違わない。それは何度も夢に出てきた顔だった。
反射的に浮かぶソニアの母親の最後と、ソニアの泣き顔。
何かを考える前に、エリーは走り出していた。ソニアの母親の形見である短剣を片手に。
●
早朝。エリーの父親のドリューは、激しくドアを叩く音で起こされた。
ドアを開けると、村の男が立っていた。
「た、大変だ。村の奥の森に、デカいゴブリンがいたんだ!」
「ゴブリン? まさか村に攻め込んできたんですか!?」
「いや。一体だけで、どうやら傷を負っていたみたいだった。だが問題はそこじゃないんだ!」
焦った様子の男は、とんでもない発言をした。
なんと、エリーがそのゴブリンの後を追って、森へ入ったというのである。
一瞬にして、ドリューの顔から血の気が引いた。眠気も吹き飛び、嫌な汗が全身からどっと噴き出す。
「声をかけようとしたんだが、追いかけた時には森の中へ入って、どこへ行ったかわからなくなっちまったんだ。エリーは手に短剣を持っていた。変なことを考えてなきゃいいんだが……」
変なこと。それはすなわち仇討ちだ。
ドリューと男の話が聞こえていたのか、ソニアが部屋から出て来た。
「おじさん……エリーちゃんは……私が短剣なんてあげたりしなければ……!」
「落ち着くんだ、ソニア。君のせいじゃない。相手がゴブリンだというのなら、俺たちじゃどうにもならない。すぐにハンターへ依頼を出そう」
「だ、だが、ハンターが来るまでは時間がかかる。その間にエリーは殺されちまうぞ!」
そんなのは百も承知だ。だからといって適当に追いかけたら、エリーともどもゴブリンの餌食にされる可能性が高い。
どうすればいいんだ。頭を抱えるドリューの家のドアが、何者かに叩かれた。
訪ねて来たのはつい先日、激しく追い返したばかりの女鬼だった。
「アタシさ、ラスリド領内で売ってたアンタの刀に惚れたんだ。どうしても作ってほしいんだよ」
申し訳なさそうな顔をする女鬼に、ドリューは躊躇いなく頭を下げた。
「頼む! 助けてくれ!」
「え? な、何があったんだい?」
妻を失ってしまった悲しみや、故郷を追われた憎しみは絶対に消えない。それでもなお、ドリューは娘のために女鬼へ懇願した。娘を、エリーを助けてほしいと。
●
「そんなチンケな武器で、このドンガ様を殺そうとしやがったのか。チビニンゲンめ!」
エリーが見上げる先で、一体の茨小鬼が叫ぶ。
後をつけ、不意打ちを食らわせたまではよかった。だが致命傷を与えられなかった。
「そうだよ。ソニアちゃんのママの形見で、エリーが仇を討つんだもん!」
「グギャギャ! じゃあ、俺もオマエを殺してやる。他のニンゲンに傷をつけられた腹いせにナァ!」
ドンガが丸太のような腕から、棍棒を振り下ろそうとする。
殺される。エリーが目を閉じた時、衝撃音がすぐ前方で響いた。
目を開けると、そこには女性の鬼が立っていた。両手に持つ大剣で、ゴブリンの棍棒を受け止めている。
「お、鬼!? ど、どうして……」
「アンタがエリーかい。アタシはアオユキだ。アンタの父親に頼まれた――って、どこへ行こうとするんだい!」
「鬼なんて嫌いっ! 守ってくれなくていいもん! だって、だって、エリーのママは、ママは……!」
「事情は聞いてる。けど、アンタが死んだら、父親は悲しむだろ。頼むからおとなしくしてておくれよ!」
「ヤだっ! 鬼と一緒になんかいたくないっ!」
「く……ど、どうすればいいんだいっ!」
●
勢いよく、グラズヘイム王国ラスリド領内のとある街にあるハンター支部のドアが開かれた。
やってきたのは田舎村リーランに住むドリューという男だった。
「た、助けてくれっ! 娘を! エリーを一刻も早く!」
求められたのはエリーという娘の救出。
偶然村に居合わせたアオユキという女鬼に救出をお願いしたが、森には他にも歪虚が住み着いていたりで、覚醒者でもないアオユキだけでは時間稼ぎがやっとだと言う。
エリーを助けるためには迅速な決断と行動が必要と判断し、受付の若い男性はドリューの依頼を受理した。
そしてすぐに、たまたま支部を訪れていたハンターたちに声をかける。
「どなたか! 今すぐにでもリーランへ向かえる人はいませんか!?」
「帰れ! 俺に顔を見せるな」
グラズヘイム王国ラスリド領にある田舎村リーランに住む刀匠ドリューは声を荒げ、近くにあった適当なものを投げつけた。
刀を作ってほしい。尋ねて来た女の鬼を鋭く睨みつける。
「俺は東方の生まれだ。お前たち鬼のせいで、妻は……ちくしょう!」
直接の原因でなかったにしろ、故郷を鬼に追われたせいで体の弱かったドリューの妻は移住先で病に倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
故郷を追い出したのは目の前にいる鬼ではないかもしれない。だが、仲良くする気にはなれなかった。
事情を聞いた女鬼は怒るでもなく、肩を落としてドリューの前から立ち去った。
●
その日の夜。ドリューの娘のエリーは夢を見た。
住み慣れた故郷を怖い鬼に追われ、逃れた先で最愛の母は死んだ。病気のせいだとエリーの父親ドリューは言った。
その後、エリーはドリューと一緒にリーランへ移住した。とてものどかで温かい村だった。
そのうちに、ソニアという少女と仲良くなった。
いつしかエリーは、ママの分まで生きようと思うようになっていた。
そんな時、平和なリーランに多くのゴブリンが攻め込んできた。その際に、ソニアの母親は死んだ。エリーやソニアの目の前で。
「うわあっ!」
死んだソニアの母親と目が合ったところで、エリーは飛び起きた。
ベッドから起きたエリーは、隣を見た。同じ部屋でソニアが眠っている。起こしてしまったかと思ったが、すやすやと心地よさそうに寝息を立てている。
よかったと安堵してから、窓際に立つ。月がとても綺麗だ。
久しぶりに見た悪夢で怖くなったエリーは、自分の宝箱から小さな短剣を手に取った。それは友情の証として、ソニアがくれたものだった。
最初、エリーは困惑して受け取るのを拒否した。短剣だから危ないと思ったわけではない。その短剣は、ソニアの母親の形見だったからだ。
――こんなに大切なもの、貰えないよ。
エリーは言った。するとソニアは微笑んだ。
――これはエリーちゃんに持っていてほしいの。私たち二人の友情の証として。
何度かのやりとりの末、最終的にエリーは受け取った。二人のお守りとして大切に持っておこうと決めた。
何気なく鞘から引き抜いた短剣の輝きが巡り会わせたのか、エリーは遠目に巨大な影が動くのを見た。
すでに外は徐々に明るくなりつつある。何だろうと思ったエリーは急いで着替え、外に出てみた。
吐く息が白く舞い上がる中、小走りで巨大な影を見た方へ向かう。
そこでエリーは見てしまう。傷を負い、村奥の森へ向かう一体のゴブリンを。
遠目からでも絶対に見間違わない。それは何度も夢に出てきた顔だった。
反射的に浮かぶソニアの母親の最後と、ソニアの泣き顔。
何かを考える前に、エリーは走り出していた。ソニアの母親の形見である短剣を片手に。
●
早朝。エリーの父親のドリューは、激しくドアを叩く音で起こされた。
ドアを開けると、村の男が立っていた。
「た、大変だ。村の奥の森に、デカいゴブリンがいたんだ!」
「ゴブリン? まさか村に攻め込んできたんですか!?」
「いや。一体だけで、どうやら傷を負っていたみたいだった。だが問題はそこじゃないんだ!」
焦った様子の男は、とんでもない発言をした。
なんと、エリーがそのゴブリンの後を追って、森へ入ったというのである。
一瞬にして、ドリューの顔から血の気が引いた。眠気も吹き飛び、嫌な汗が全身からどっと噴き出す。
「声をかけようとしたんだが、追いかけた時には森の中へ入って、どこへ行ったかわからなくなっちまったんだ。エリーは手に短剣を持っていた。変なことを考えてなきゃいいんだが……」
変なこと。それはすなわち仇討ちだ。
ドリューと男の話が聞こえていたのか、ソニアが部屋から出て来た。
「おじさん……エリーちゃんは……私が短剣なんてあげたりしなければ……!」
「落ち着くんだ、ソニア。君のせいじゃない。相手がゴブリンだというのなら、俺たちじゃどうにもならない。すぐにハンターへ依頼を出そう」
「だ、だが、ハンターが来るまでは時間がかかる。その間にエリーは殺されちまうぞ!」
そんなのは百も承知だ。だからといって適当に追いかけたら、エリーともどもゴブリンの餌食にされる可能性が高い。
どうすればいいんだ。頭を抱えるドリューの家のドアが、何者かに叩かれた。
訪ねて来たのはつい先日、激しく追い返したばかりの女鬼だった。
「アタシさ、ラスリド領内で売ってたアンタの刀に惚れたんだ。どうしても作ってほしいんだよ」
申し訳なさそうな顔をする女鬼に、ドリューは躊躇いなく頭を下げた。
「頼む! 助けてくれ!」
「え? な、何があったんだい?」
妻を失ってしまった悲しみや、故郷を追われた憎しみは絶対に消えない。それでもなお、ドリューは娘のために女鬼へ懇願した。娘を、エリーを助けてほしいと。
●
「そんなチンケな武器で、このドンガ様を殺そうとしやがったのか。チビニンゲンめ!」
エリーが見上げる先で、一体の茨小鬼が叫ぶ。
後をつけ、不意打ちを食らわせたまではよかった。だが致命傷を与えられなかった。
「そうだよ。ソニアちゃんのママの形見で、エリーが仇を討つんだもん!」
「グギャギャ! じゃあ、俺もオマエを殺してやる。他のニンゲンに傷をつけられた腹いせにナァ!」
ドンガが丸太のような腕から、棍棒を振り下ろそうとする。
殺される。エリーが目を閉じた時、衝撃音がすぐ前方で響いた。
目を開けると、そこには女性の鬼が立っていた。両手に持つ大剣で、ゴブリンの棍棒を受け止めている。
「お、鬼!? ど、どうして……」
「アンタがエリーかい。アタシはアオユキだ。アンタの父親に頼まれた――って、どこへ行こうとするんだい!」
「鬼なんて嫌いっ! 守ってくれなくていいもん! だって、だって、エリーのママは、ママは……!」
「事情は聞いてる。けど、アンタが死んだら、父親は悲しむだろ。頼むからおとなしくしてておくれよ!」
「ヤだっ! 鬼と一緒になんかいたくないっ!」
「く……ど、どうすればいいんだいっ!」
●
勢いよく、グラズヘイム王国ラスリド領内のとある街にあるハンター支部のドアが開かれた。
やってきたのは田舎村リーランに住むドリューという男だった。
「た、助けてくれっ! 娘を! エリーを一刻も早く!」
求められたのはエリーという娘の救出。
偶然村に居合わせたアオユキという女鬼に救出をお願いしたが、森には他にも歪虚が住み着いていたりで、覚醒者でもないアオユキだけでは時間稼ぎがやっとだと言う。
エリーを助けるためには迅速な決断と行動が必要と判断し、受付の若い男性はドリューの依頼を受理した。
そしてすぐに、たまたま支部を訪れていたハンターたちに声をかける。
「どなたか! 今すぐにでもリーランへ向かえる人はいませんか!?」
リプレイ本文
●依頼開始前~エリーを助けたい~
「どうして子供が歪虚が住み着いている森の中へ入っていったのかは分からないけど、だからといって放っておく訳にはいかないわね。それに……既に助けに向かった人が覚醒者でないのなら、一緒に危険に巻き込まれる可能性も高い。何としても助けに向かわないとね」
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)が言い、可能な限り短時間で村へ到着した。
待っていたソニアから事情を説明され、改めて一行は状況を理解する。
ソニアに村で待ってるように告げたあと、すぐに森の出入口へ移動した。
「まーたあの子は大変なことに……!」
森を見ながら言ったのはティス・フュラー(ka3006)だ。エリーとは面識がある。
「……と言っても、仕方ないかしらね。私だって親しい人の仇が目の前にいたら、冷静でいられる自信はないし。急いでエリーと……偶然居合わせて森に向かったっていうアオユキさんを助けなくちゃ」
ティスの言葉に、真っ先に頷いたのはコントラルト(ka4753)だ。彼女もまた、エリーを知っていた。
「そうね。あの子は思い立ったらすぐ行動してしまうものね」
ドリューから預かったエリーの服の切れはしを、連れてきた狛犬に嗅がせてエリーのにおいを覚えさせる。少しでも早く居場所を特定させるためだ。
「鬼の奴が助けに行ったのか、んで目的の奴は鬼が苦手か……余計にパニック起こしそうだがな」
同じ不安を抱いたのか、高槻 龍一郎(ka4896)の心配に十色 乃梛(ka5902)が同意する。
「思った以上に危険な状態……かも」
年代の近い友人のティスと、ギルドの仲間であるユーリと森へ入る準備を進めるアニス・エリダヌス(ka2491)が軽く瞼を閉じて呟く。
「……他人事とは思えません」
他ならぬアニス自身が、歪虚への復讐心から戦いに身を投じていた。それゆえに、エリーの話を自分自身の事のように感じたのである。
「……だからこそ。わたしから彼女に言うことができる言葉がきっとあるでしょう」
「子供が仇討ちに? 短剣ひとふりだけ持って、たったひとりで……!」
複雑な感情を、そのまま顔に表したのは八原 篝(ka3104)だ。
「あぁ分かってるわよ。東方の長い戦いも、茨ゴブリンとの戦争も終わった。でも何もかも元通りになんてならない。傷跡は残り続けるんだって事くらいっ」
叫ぶように言って篝は一歩を踏み出す。
●序盤~急げや急げ~
森の中を少し進んだところで、一行は歩を止める。視界の先に歪虚と思われる複数の蜘蛛を発見したからだ。
「森に入って早々蜘蛛の雑魔が行き手を塞いでるけど、エリーもアオユキもここには居ないなら……。時間が無いわ。ここは任せて先に行って」
嫌な予感を覚えた篝は味方へ言うと同時に、猟銃で横並びしている蜘蛛の一体に制圧射撃をした。
すぐさまリロードしながら、篝が叫ぶ。
「早く、アイツが立ち直るまでに駆け抜けて!」
ユーリ、アニス、ティスの三人が、動きを封じられた蜘蛛の横を抜ける。
続こうとしたコントラルトを、乃梛が引き止める。プロテクションをかけるためだ。
「これで少しは防御が高まったはずだよ。エリーちゃんとアオユキさんをお願い」
「任せておいて。私も篝が行動を封じてくれた蜘蛛の所から、強引に突破するわ」
言葉どおりに蜘蛛の並ぶラインを通り抜けたコントラルトは、すぐに先行していた三人と合流する。
コントラルトの狛犬と、マテリアルの流れからエリーのおおよその位置に見当をつけたユーリが先頭に立つ。
「道中の雑魔は行く手を阻むなら排除する程度に留め、エリー達を探す事を優先します」
■
「あのでかいゴブリンみたいのは俺だと無理そうだ、やったらやったで面白そうだけど、戦線が崩れるのはなあ、此処で蜘蛛を倒そう。俺の変質者みたいな格好見て鬼嫌いの嬢ちゃんが、発狂してどっかに逃げたら責任重大だからな」
腰に両手を当てた龍一郎が、正面にいる三体の蜘蛛を見ながら言った。
四人を行かせた蜘蛛の歪虚たちは、この場に残った乃梛に狙いを定めた。
「任せたけど、無茶はしないでね。アンバサ」
察知した乃梛は、すぐに蜘蛛から距離を取ろうとする。
行動不能中の蜘蛛を除く二体が向かってくる中、篝と龍一郎が乃梛を守ろうと立ち塞がる。
■
森の奥ではアオユキと対峙中のドンガが、太い腕から強烈な棍棒の一撃を繰り出したところだった。
すんでのところで回避したアオユキは、ドンガの棍棒によってえぐれた地面を見て舌打ちをする。
よそ見して食らったりすれば、一撃で絶命してしまうかもしれない。
より集中しないといけないのに、鬼嫌いのエリーはアオユキから離れようとする。
「そっちへ行くんじゃないよ!」
「ヤダ! 鬼の言う事なんか、聞かないもん」
ぷいと顔を背けたエリーが、アオユキの側から走り去ろうとする。
だが、その先には歪虚と思わしき蜘蛛が数体いる。
逃げるのに夢中のエリーは、その存在に気づいてないみたいだった。
●中盤~エリーの説得~
森の出入口付近にいた蜘蛛たちを突破した四人のハンターは、エリーの探索中に数体の新たな蜘蛛歪虚を発見する。
「連中は私が引き受けるわ。皆はエリーやアオユキさんの救出に向かって」
ティスの提案に誰かが反対する前に、大きな激突音が周囲に響いた。
発生源に視線を向けると、巨体の茨小鬼が暴れている。ドンガだ。
そちらにエリーとアオユキもいる可能性が高い。
コントラルト、ユーリ、アニスの三人はこの場をティスに任せ、ドンガの方へ向かうのを決断した。
「皆、頼んだわよ。さて、こちらはこちらで始めましょうか。手加減はしないわよ」
二体の蜘蛛が直線で重なる位置へ移動したティスは、同時に仕留めるためにライトニングボルトを放った。
雷撃が一直線に伸びて、二体の蜘蛛を襲う。
一体には回避されたものの、もう一体には命中した。
強力な一撃となり瀕死に追い込んだが、絶命には至らない。
蜘蛛の動きを注視しながら、ティスは二発目を撃つ準備に入る。
先ほどの先制攻撃でティスを狙ってくれれば楽だったが、蜘蛛たちはあくまでも前方にいるエリーを標的にする。
ティスには目もくれず、ダメージを負った蜘蛛でさえも森の奥へと前進していく。
■
数体の蜘蛛の相手をティスに任せた三人は、真っ直ぐにドンガを目指して突き進む。
そのうちにドンガだけでなく、アオユキとエリーの姿も目視できるようになった。
「こちらに注意を引き付けます」
やや離れた位置から、アニスがホーリーライトでドンガを狙う。
輝く光の弾丸が、命中と同時に衝撃を発生させる。
結構な威力だったはずが、ドンガは巨体をよろめかせもせず、攻撃を仕掛けたアニスをじろりと見た。
その隙にユーリは馬上からエリーの説得を開始する。
「どうしても仇を討ちたいと言うのなら、私たちが代わりに討ってあげる。だから、アオユキの側で待っていて」
「鬼の近くなんて嫌だもんっ! だってママは……」
「鬼に対するわだかまりはあるだろうけど、彼女が本当に害を為すのなら、助けには来ていないわ!」
必死に説得をするも、エリーはまだ納得してくれない。
それでも当初ほど拒絶する雰囲気がなくなった。
ユーリに続いてコントラルトも、アオユキとドンガの間に割り込みながらエリーへ言葉をかける。
「エリー、貴女が死んだら、ソニアは貴女と同じ苦しみを味わうのよ? 貴女のお父さんもね」
「う……で、でも……」
「貴女は残されてしまう悲しさを知っているのではないの? だから今はとにかくアオユキさんと下がっていて」
まだ納得しきれないのか、躊躇う様子を見せるエリーに、コントラルトは悪戯っぽく笑ってこうも言った。
「実はね。私もこんな筋肉ゴブリン相手に、接近戦をし続けたくないの」
助けに来てくれたアオユキに感謝の気持ちはあっても、過去の出来事から素直になれずにいた。
そんなエリーもユーリやコントラルトの説得のおかげで、態度を変えた。
「ハ、ハンターのお姉ちゃんに言われたからだもん。本当はエリー、一緒にいたくないんだもん!」
「あ、ああ……わかってるよ。ありがとう」
微妙に良い雰囲気になりつつあるエリーとアオユキを、コントラルトは同時に下がらせる。あとは自分が引き受けると言わんばかりに。
■
オートマチックとバックラーを構えて、篝が前に出る。
放った寒夜が大きなダメージを与え、弱った蜘蛛の動きを阻害する。
そこを逃さず、龍一郎が蜘蛛の腹部に向かって刀を突き立て、一体を消滅させた。
「人間やるよりよっぽど面倒臭えぞこれ」
軽くため息を吐く龍一郎に、乃梛が近づく。
「怪我はしてないみたいなので、プロテクションをかけておくね。出来る限り回復もするから、信頼してよね」
「結構いいもんだな。さあ、できる仕事はしっかりやらせてもらうか」
プロテクションをかけてもらった龍一郎が、新たな蜘蛛へ挑む。
正面に立たず、横に回り込みながら脚を攻撃する。
首尾よくダメージを与えたところで、狙い澄ました篝のターゲッティングが蜘蛛の命を奪った。
●終盤~ドンガとの決着~
蜘蛛が直線に並ぶ位置を探しては移動し、ティスは再びライトニングボルトを食らわせる。
また一体瀕死に追い込むものの、先ほどダメージを与えた蜘蛛には回避されてしまった。
「しぶといわね。それなら倒れるまで、何度でもご馳走してあげるわ」
すぐさまライトニングボルトを追加しようとした矢先、唐突に一体の蜘蛛がティス目掛けて糸を放ってきた。
決して油断したわけではないが、結果的にティスは蜘蛛の糸に絡められて体の動きを制限されてしまう。
それを見ていたもう一体の蜘蛛が、ティスを攻撃してきた。
避けきれないと判断したティスは防御に専念するも、脚にわずかなダメージを負ってしまう。
ダメージの程度を確認するより先に、ライトニングボルトを再度使って、二体の蜘蛛にとどめを刺した。
「大丈夫ですか? 今、治療しに向かいます」
手前の蜘蛛を倒して視界が開けたのもあり、ティスがダメージを負う様子を見ていた乃梛が大きな声で言った。
すぐさま行動を開始した乃梛を、掠り傷だからとその場に留まらせようとしたティスが大きく口を開く。
「後ろっ! すぐそこまで蜘蛛が迫っているわよ!」
慌てる乃梛に、今度は篝が後ろを振り向かずに走ってと声をかける。
乃梛がティスの方へ向かっていくのを確認したあと、篝は寒夜で乃梛を狙う蜘蛛へダメージを与えると同時に行動の阻害に成功する。
動きの鈍った蜘蛛に龍一郎がとどめを刺す。
手前にいた三体を殲滅したところで、篝と龍一郎もティスの方へ向かう。
「薬と酒が抜けてる時にやる相手じゃねえわな」
苦笑いを浮かべる龍一郎は横目で見たドンガではなく、あくまで蜘蛛を相手に戦闘するつもりだった。
■
コントラルトの背中に隠れるようにして、アオユキはエリーを守りながら、ティスが抑えている蜘蛛がいるのとは逆方向に逃げる。少しでもドンガとの距離を取るためだ。
ドンガの視線がそちらを向きそうになれば、余所見をするなとばかりにアニスがホーリーライトを命中させる。
激昂するドンガの一挙手一投足を、五感を総動員するユーリが読み切る。
すでに馬から降りており、ユーリは居合の構えを取っている。ドンガが間合いに入ってくるのを待っているのだ。
「――ここっ! 一気に片をつけます!」
ドンガがユーリの接近に気づいた時には、もう懐深くまで入り込んでいた。
強く踏み込んだ勢いそのままに、武器の重さと刀を振り抜く速度を乗せた一撃をドンガの胴体へ命中させる。
陣風からの雷切で勝負あったかと思われたが、致命傷には至らない。
「ずいぶんと硬いわね」
かすかに痺れた手をチラリと見ながら、小声でユーリが言った。
ダメージを負わされたドンガは浅くない傷の痛みすら忘れたように、ユーリへ迫る。
「怒るのは勝手だけれど、私から目を離しても得はないわよ」
クールに言ったコントラルトが、エレクトリックショックでドンガを麻痺させる。
「グガア! ニンゲンどもめ! 遠くからチマチマとォ!」
「そんなに言うなら、接近してあげます!」
魔法威力を上乗せしたアニスのフォースクラッシュに、高い防御力と生命力を誇ったドンガも断末魔の叫びを上げる。
「チク、チクショオ! モット、ニンゲンヲ……コ、コロシ……コロ……」
仰向けに倒れたドンガは、それきりピクリとも動かなくなった。
アオユキに守られてその様子を見ていたエリーは、両手で持つ短剣をぎゅっと抱きしめた。
「ソニアちゃんのママ、エリーじゃ駄目だったけど、ハンターのお姉ちゃんたちが仇を討ってくれたよ」
■
ドンガが倒された頃、蜘蛛歪虚との戦闘も佳境に入っていた。
先に合流した乃梛がティスのダメージを回復させ、後に合流した篝が銃で遠距離から蜘蛛を牽制。
ダメージを与えたところで龍一郎が刀を振るい、ティスはウィンドスラッシュで一体ずつ仕留めていく。
エリーとアオユキの安全が確保されれば、急ぐ必要はない。
数でも勝るようになったハンターが、蜘蛛歪虚を全滅させるのに時間はさほどかからなかった。
●依頼終了後~エリーとアオユキ~
「もうこんな事するんじゃないわよ。あなたに何かあったら悲しむ家族が居る。それを忘れないで」
森から出る前に、合流した篝がエリーと真っ直ぐ視線を合わせて言った。
「アオユキにもお礼言っときなさいよ。鬼、じゃないわよ。いの一番に駆けつけてくれた命の恩人、でしょ?」
篝の発言に、乃梛も頷いてエリーに声をかける。
「好き嫌いの前に、感謝の一つくらいは言おうよ? あなたが今無事なのはこの人のおかげなんだから、ね? 一つを見て、その全てを嫌いになる事は、とても勿体ない事だと思うわ」
乃梛にも言われて、ようやくエリーはアオユキにぺこりと頭を下げた。
「……助けてくれて、ありがとう」
「いいんだ。アンタが鬼を恨むのは当然だ。ただ……無事でよかったよ」
アオユキに軽く頭を撫でられたエリーが「怖かったよぉ」と泣き出した。
「わたしもエリーさんと同じように、復讐心から戦い始めました」
涙が止まらなくなりつつあるエリーに、優しくアニスが話しかける。
「その中で、復讐の心だけではなにも生まないと仲間たちが教えてくれました。あなたにも、ぼろぼろになりながら守ってくれたアオユキさんが何かを教えてくれたのではないでしょうか」
笑顔のアニスに、両手で目を押さえながらエリーは何度も頷いて見せた。
全員で村へ戻る時にはもう涙は乾いており、エリーは自分の足でピクニックにでも向かうように楽しげに歩いていた。
色々な話をしてくれる優しいハンターに囲まれ、真っ先に自分を助けに来てくれたアオユキと手を繋ぎながら。
「どうして子供が歪虚が住み着いている森の中へ入っていったのかは分からないけど、だからといって放っておく訳にはいかないわね。それに……既に助けに向かった人が覚醒者でないのなら、一緒に危険に巻き込まれる可能性も高い。何としても助けに向かわないとね」
ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)が言い、可能な限り短時間で村へ到着した。
待っていたソニアから事情を説明され、改めて一行は状況を理解する。
ソニアに村で待ってるように告げたあと、すぐに森の出入口へ移動した。
「まーたあの子は大変なことに……!」
森を見ながら言ったのはティス・フュラー(ka3006)だ。エリーとは面識がある。
「……と言っても、仕方ないかしらね。私だって親しい人の仇が目の前にいたら、冷静でいられる自信はないし。急いでエリーと……偶然居合わせて森に向かったっていうアオユキさんを助けなくちゃ」
ティスの言葉に、真っ先に頷いたのはコントラルト(ka4753)だ。彼女もまた、エリーを知っていた。
「そうね。あの子は思い立ったらすぐ行動してしまうものね」
ドリューから預かったエリーの服の切れはしを、連れてきた狛犬に嗅がせてエリーのにおいを覚えさせる。少しでも早く居場所を特定させるためだ。
「鬼の奴が助けに行ったのか、んで目的の奴は鬼が苦手か……余計にパニック起こしそうだがな」
同じ不安を抱いたのか、高槻 龍一郎(ka4896)の心配に十色 乃梛(ka5902)が同意する。
「思った以上に危険な状態……かも」
年代の近い友人のティスと、ギルドの仲間であるユーリと森へ入る準備を進めるアニス・エリダヌス(ka2491)が軽く瞼を閉じて呟く。
「……他人事とは思えません」
他ならぬアニス自身が、歪虚への復讐心から戦いに身を投じていた。それゆえに、エリーの話を自分自身の事のように感じたのである。
「……だからこそ。わたしから彼女に言うことができる言葉がきっとあるでしょう」
「子供が仇討ちに? 短剣ひとふりだけ持って、たったひとりで……!」
複雑な感情を、そのまま顔に表したのは八原 篝(ka3104)だ。
「あぁ分かってるわよ。東方の長い戦いも、茨ゴブリンとの戦争も終わった。でも何もかも元通りになんてならない。傷跡は残り続けるんだって事くらいっ」
叫ぶように言って篝は一歩を踏み出す。
●序盤~急げや急げ~
森の中を少し進んだところで、一行は歩を止める。視界の先に歪虚と思われる複数の蜘蛛を発見したからだ。
「森に入って早々蜘蛛の雑魔が行き手を塞いでるけど、エリーもアオユキもここには居ないなら……。時間が無いわ。ここは任せて先に行って」
嫌な予感を覚えた篝は味方へ言うと同時に、猟銃で横並びしている蜘蛛の一体に制圧射撃をした。
すぐさまリロードしながら、篝が叫ぶ。
「早く、アイツが立ち直るまでに駆け抜けて!」
ユーリ、アニス、ティスの三人が、動きを封じられた蜘蛛の横を抜ける。
続こうとしたコントラルトを、乃梛が引き止める。プロテクションをかけるためだ。
「これで少しは防御が高まったはずだよ。エリーちゃんとアオユキさんをお願い」
「任せておいて。私も篝が行動を封じてくれた蜘蛛の所から、強引に突破するわ」
言葉どおりに蜘蛛の並ぶラインを通り抜けたコントラルトは、すぐに先行していた三人と合流する。
コントラルトの狛犬と、マテリアルの流れからエリーのおおよその位置に見当をつけたユーリが先頭に立つ。
「道中の雑魔は行く手を阻むなら排除する程度に留め、エリー達を探す事を優先します」
■
「あのでかいゴブリンみたいのは俺だと無理そうだ、やったらやったで面白そうだけど、戦線が崩れるのはなあ、此処で蜘蛛を倒そう。俺の変質者みたいな格好見て鬼嫌いの嬢ちゃんが、発狂してどっかに逃げたら責任重大だからな」
腰に両手を当てた龍一郎が、正面にいる三体の蜘蛛を見ながら言った。
四人を行かせた蜘蛛の歪虚たちは、この場に残った乃梛に狙いを定めた。
「任せたけど、無茶はしないでね。アンバサ」
察知した乃梛は、すぐに蜘蛛から距離を取ろうとする。
行動不能中の蜘蛛を除く二体が向かってくる中、篝と龍一郎が乃梛を守ろうと立ち塞がる。
■
森の奥ではアオユキと対峙中のドンガが、太い腕から強烈な棍棒の一撃を繰り出したところだった。
すんでのところで回避したアオユキは、ドンガの棍棒によってえぐれた地面を見て舌打ちをする。
よそ見して食らったりすれば、一撃で絶命してしまうかもしれない。
より集中しないといけないのに、鬼嫌いのエリーはアオユキから離れようとする。
「そっちへ行くんじゃないよ!」
「ヤダ! 鬼の言う事なんか、聞かないもん」
ぷいと顔を背けたエリーが、アオユキの側から走り去ろうとする。
だが、その先には歪虚と思わしき蜘蛛が数体いる。
逃げるのに夢中のエリーは、その存在に気づいてないみたいだった。
●中盤~エリーの説得~
森の出入口付近にいた蜘蛛たちを突破した四人のハンターは、エリーの探索中に数体の新たな蜘蛛歪虚を発見する。
「連中は私が引き受けるわ。皆はエリーやアオユキさんの救出に向かって」
ティスの提案に誰かが反対する前に、大きな激突音が周囲に響いた。
発生源に視線を向けると、巨体の茨小鬼が暴れている。ドンガだ。
そちらにエリーとアオユキもいる可能性が高い。
コントラルト、ユーリ、アニスの三人はこの場をティスに任せ、ドンガの方へ向かうのを決断した。
「皆、頼んだわよ。さて、こちらはこちらで始めましょうか。手加減はしないわよ」
二体の蜘蛛が直線で重なる位置へ移動したティスは、同時に仕留めるためにライトニングボルトを放った。
雷撃が一直線に伸びて、二体の蜘蛛を襲う。
一体には回避されたものの、もう一体には命中した。
強力な一撃となり瀕死に追い込んだが、絶命には至らない。
蜘蛛の動きを注視しながら、ティスは二発目を撃つ準備に入る。
先ほどの先制攻撃でティスを狙ってくれれば楽だったが、蜘蛛たちはあくまでも前方にいるエリーを標的にする。
ティスには目もくれず、ダメージを負った蜘蛛でさえも森の奥へと前進していく。
■
数体の蜘蛛の相手をティスに任せた三人は、真っ直ぐにドンガを目指して突き進む。
そのうちにドンガだけでなく、アオユキとエリーの姿も目視できるようになった。
「こちらに注意を引き付けます」
やや離れた位置から、アニスがホーリーライトでドンガを狙う。
輝く光の弾丸が、命中と同時に衝撃を発生させる。
結構な威力だったはずが、ドンガは巨体をよろめかせもせず、攻撃を仕掛けたアニスをじろりと見た。
その隙にユーリは馬上からエリーの説得を開始する。
「どうしても仇を討ちたいと言うのなら、私たちが代わりに討ってあげる。だから、アオユキの側で待っていて」
「鬼の近くなんて嫌だもんっ! だってママは……」
「鬼に対するわだかまりはあるだろうけど、彼女が本当に害を為すのなら、助けには来ていないわ!」
必死に説得をするも、エリーはまだ納得してくれない。
それでも当初ほど拒絶する雰囲気がなくなった。
ユーリに続いてコントラルトも、アオユキとドンガの間に割り込みながらエリーへ言葉をかける。
「エリー、貴女が死んだら、ソニアは貴女と同じ苦しみを味わうのよ? 貴女のお父さんもね」
「う……で、でも……」
「貴女は残されてしまう悲しさを知っているのではないの? だから今はとにかくアオユキさんと下がっていて」
まだ納得しきれないのか、躊躇う様子を見せるエリーに、コントラルトは悪戯っぽく笑ってこうも言った。
「実はね。私もこんな筋肉ゴブリン相手に、接近戦をし続けたくないの」
助けに来てくれたアオユキに感謝の気持ちはあっても、過去の出来事から素直になれずにいた。
そんなエリーもユーリやコントラルトの説得のおかげで、態度を変えた。
「ハ、ハンターのお姉ちゃんに言われたからだもん。本当はエリー、一緒にいたくないんだもん!」
「あ、ああ……わかってるよ。ありがとう」
微妙に良い雰囲気になりつつあるエリーとアオユキを、コントラルトは同時に下がらせる。あとは自分が引き受けると言わんばかりに。
■
オートマチックとバックラーを構えて、篝が前に出る。
放った寒夜が大きなダメージを与え、弱った蜘蛛の動きを阻害する。
そこを逃さず、龍一郎が蜘蛛の腹部に向かって刀を突き立て、一体を消滅させた。
「人間やるよりよっぽど面倒臭えぞこれ」
軽くため息を吐く龍一郎に、乃梛が近づく。
「怪我はしてないみたいなので、プロテクションをかけておくね。出来る限り回復もするから、信頼してよね」
「結構いいもんだな。さあ、できる仕事はしっかりやらせてもらうか」
プロテクションをかけてもらった龍一郎が、新たな蜘蛛へ挑む。
正面に立たず、横に回り込みながら脚を攻撃する。
首尾よくダメージを与えたところで、狙い澄ました篝のターゲッティングが蜘蛛の命を奪った。
●終盤~ドンガとの決着~
蜘蛛が直線に並ぶ位置を探しては移動し、ティスは再びライトニングボルトを食らわせる。
また一体瀕死に追い込むものの、先ほどダメージを与えた蜘蛛には回避されてしまった。
「しぶといわね。それなら倒れるまで、何度でもご馳走してあげるわ」
すぐさまライトニングボルトを追加しようとした矢先、唐突に一体の蜘蛛がティス目掛けて糸を放ってきた。
決して油断したわけではないが、結果的にティスは蜘蛛の糸に絡められて体の動きを制限されてしまう。
それを見ていたもう一体の蜘蛛が、ティスを攻撃してきた。
避けきれないと判断したティスは防御に専念するも、脚にわずかなダメージを負ってしまう。
ダメージの程度を確認するより先に、ライトニングボルトを再度使って、二体の蜘蛛にとどめを刺した。
「大丈夫ですか? 今、治療しに向かいます」
手前の蜘蛛を倒して視界が開けたのもあり、ティスがダメージを負う様子を見ていた乃梛が大きな声で言った。
すぐさま行動を開始した乃梛を、掠り傷だからとその場に留まらせようとしたティスが大きく口を開く。
「後ろっ! すぐそこまで蜘蛛が迫っているわよ!」
慌てる乃梛に、今度は篝が後ろを振り向かずに走ってと声をかける。
乃梛がティスの方へ向かっていくのを確認したあと、篝は寒夜で乃梛を狙う蜘蛛へダメージを与えると同時に行動の阻害に成功する。
動きの鈍った蜘蛛に龍一郎がとどめを刺す。
手前にいた三体を殲滅したところで、篝と龍一郎もティスの方へ向かう。
「薬と酒が抜けてる時にやる相手じゃねえわな」
苦笑いを浮かべる龍一郎は横目で見たドンガではなく、あくまで蜘蛛を相手に戦闘するつもりだった。
■
コントラルトの背中に隠れるようにして、アオユキはエリーを守りながら、ティスが抑えている蜘蛛がいるのとは逆方向に逃げる。少しでもドンガとの距離を取るためだ。
ドンガの視線がそちらを向きそうになれば、余所見をするなとばかりにアニスがホーリーライトを命中させる。
激昂するドンガの一挙手一投足を、五感を総動員するユーリが読み切る。
すでに馬から降りており、ユーリは居合の構えを取っている。ドンガが間合いに入ってくるのを待っているのだ。
「――ここっ! 一気に片をつけます!」
ドンガがユーリの接近に気づいた時には、もう懐深くまで入り込んでいた。
強く踏み込んだ勢いそのままに、武器の重さと刀を振り抜く速度を乗せた一撃をドンガの胴体へ命中させる。
陣風からの雷切で勝負あったかと思われたが、致命傷には至らない。
「ずいぶんと硬いわね」
かすかに痺れた手をチラリと見ながら、小声でユーリが言った。
ダメージを負わされたドンガは浅くない傷の痛みすら忘れたように、ユーリへ迫る。
「怒るのは勝手だけれど、私から目を離しても得はないわよ」
クールに言ったコントラルトが、エレクトリックショックでドンガを麻痺させる。
「グガア! ニンゲンどもめ! 遠くからチマチマとォ!」
「そんなに言うなら、接近してあげます!」
魔法威力を上乗せしたアニスのフォースクラッシュに、高い防御力と生命力を誇ったドンガも断末魔の叫びを上げる。
「チク、チクショオ! モット、ニンゲンヲ……コ、コロシ……コロ……」
仰向けに倒れたドンガは、それきりピクリとも動かなくなった。
アオユキに守られてその様子を見ていたエリーは、両手で持つ短剣をぎゅっと抱きしめた。
「ソニアちゃんのママ、エリーじゃ駄目だったけど、ハンターのお姉ちゃんたちが仇を討ってくれたよ」
■
ドンガが倒された頃、蜘蛛歪虚との戦闘も佳境に入っていた。
先に合流した乃梛がティスのダメージを回復させ、後に合流した篝が銃で遠距離から蜘蛛を牽制。
ダメージを与えたところで龍一郎が刀を振るい、ティスはウィンドスラッシュで一体ずつ仕留めていく。
エリーとアオユキの安全が確保されれば、急ぐ必要はない。
数でも勝るようになったハンターが、蜘蛛歪虚を全滅させるのに時間はさほどかからなかった。
●依頼終了後~エリーとアオユキ~
「もうこんな事するんじゃないわよ。あなたに何かあったら悲しむ家族が居る。それを忘れないで」
森から出る前に、合流した篝がエリーと真っ直ぐ視線を合わせて言った。
「アオユキにもお礼言っときなさいよ。鬼、じゃないわよ。いの一番に駆けつけてくれた命の恩人、でしょ?」
篝の発言に、乃梛も頷いてエリーに声をかける。
「好き嫌いの前に、感謝の一つくらいは言おうよ? あなたが今無事なのはこの人のおかげなんだから、ね? 一つを見て、その全てを嫌いになる事は、とても勿体ない事だと思うわ」
乃梛にも言われて、ようやくエリーはアオユキにぺこりと頭を下げた。
「……助けてくれて、ありがとう」
「いいんだ。アンタが鬼を恨むのは当然だ。ただ……無事でよかったよ」
アオユキに軽く頭を撫でられたエリーが「怖かったよぉ」と泣き出した。
「わたしもエリーさんと同じように、復讐心から戦い始めました」
涙が止まらなくなりつつあるエリーに、優しくアニスが話しかける。
「その中で、復讐の心だけではなにも生まないと仲間たちが教えてくれました。あなたにも、ぼろぼろになりながら守ってくれたアオユキさんが何かを教えてくれたのではないでしょうか」
笑顔のアニスに、両手で目を押さえながらエリーは何度も頷いて見せた。
全員で村へ戻る時にはもう涙は乾いており、エリーは自分の足でピクニックにでも向かうように楽しげに歩いていた。
色々な話をしてくれる優しいハンターに囲まれ、真っ先に自分を助けに来てくれたアオユキと手を繋ぎながら。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 4人 |
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相談卓です ティス・フュラー(ka3006) エルフ|13才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/12/07 12:43:33 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/04 05:39:51 |