ゲスト
(ka0000)
【深棲】水底より迫る狂敵
マスター:旅硝子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/08 07:30
- 完成日
- 2014/08/16 23:28
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
帝国における唯一の軍学校、イルリヒト機関。
「入りなさい」
校長室の扉を叩く音に、アンゼルム・シュナウダーは静かに声をかけた。
「失礼します!」
4つの声が重なり、扉が開く。
「こーちょーせんせー、何か用なのか?」
大きな声で尋ねた少女の頭を、2mほどの巨体に長い黒軍服を引っ掛けた青年が軽く小突く。
「アホ、どんな挨拶だ。エルガー・ウンターゲーエン一等兵、参りました」
「ベルフラウ二等兵、参りましたっ!」
元気よく背を伸ばしたのは、十五か六かといった歳の頃の長い栗色の髪の少女。
「ゲルト・デーニッツ二等兵、参りました」
その横で冷静な表情を崩さず口を開いたのは、少女よりも二つ三つ年上の少年であった。
「はーい。ハラーツァイ二等兵、参りました!」
最後に少女の声が響き渡ったところで、校長アンゼルムは頷いて口を開く。
「錬魔院から、マテリアル観測装置の実験要請が入っている。今回は、この装置による歪虚の探知、その範囲や精度についての確認をしたいとのことだ」
「マテリアル観測装置、ですか? 私達にもちゃんと扱えるのですか?」
ぱちりと瞬きして問うベルフラウに、校長は大丈夫だと頷いた。
「操作自体は行えないが、起動は錬魔院の職員が行ってくれる。探知については誰にでもわかるように、負のマテリアルの接近とその強度をランプとブザーで知らせる仕組みを組み込んだそうだ。今回は、その機能の実地実験となる」
そこまで聞いて、ゲルトが真剣な顔で眉を寄せ、眼鏡をくいと上げる。
「そこまでの装置となると、かなりの大きさとなりそうですが」
「その通りだ。だが今回は問題がないようにしている」
その言葉に首を傾げた生徒達を、校長はゆっくりと見渡して言った。
「今回のマテリアル観測装置は、船に設置してある。今回の演習は、錬魔院からの実地実験と共に、同盟領で発生している狂気の歪虚が紛れ込んでいる可能性の高い、ベルトルード近海の警備も兼ねる」
「そういうことか。歪虚が現れたら、装置を……というか、船を守って戦わなきゃならないんだな?」
得心したようにエルガーが頷いた。その通りだと校長が首肯する。
「……船沈んだら、魔導装置壊れるべな?」
割と大きな声で呟いたハラーツァイに、一同がぎょっとした顔を向ける。
その中で校長は平静にそうだね、と言った。
「精密な装置だそうだから、海水には耐えられないだろう。そもそも重さもかなりあるから、運んで来ることは出来ないだろうね」
「そ、それを4人で警備するんですか!? 大変です、もし装置を壊してしまったら弁償を要求されて借金生活で、それはそれはとってもひもじいことに……」
「落ち着け、ベルフラウ」
両手で頭を抱えて言い募るベルフラウに、ゲルトが表情を変えぬままツッコミを入れ、エルガーが口を開く。
「もうハンターに依頼を入れてあるんだろう? それが今回の狂気の歪虚に対する帝国の方針だし、ハンターとの協力体制は校長の方針でもある」
「その通り。その推察力を、そろそろ卒業して帝国軍で生かしてもらえると嬉しいんだがね」
校長の言葉に、エルガーはふいと視線を逸らした。
既に22歳。卒業試験に通らぬのではない、一度も受けていないのだ。
そんなエルガーの様子に小さく溜息を洩らした校長は、机の上に置いてあった封書を差し出す。
「これは、帝国ユニオンAPVへの紹介状だ。タングラム女史に渡せば、依頼してあるハンター達と合流させてもらえるだろうし、ハンターズソサエティの転移門を使えるように話を付けてある」
頷く4人の生徒達を見渡し、校長は再び口を開いた。
「エルガー、それにハラーツァイ。君達とチームを前回までチームを組んでいた2人は、命を取り留めたがまだ回復には遠い。ゆえに、ベルフラウ、ゲルト、今回はこの4人でチームを組んでもらう――では、無事に演習を終え帰還を果たすように。検討を祈る!」
「はい!」
姿勢を正した4人の声が揃い、校長室に響いた。
ベルトルードは帝国の南東の端にある、自由都市同盟との貿易拠点ともなっている港町である。
今回の任務は、その近海の警備でもあった。
依頼を請けたハンター達と4人のイルリヒト生徒達が乗った船は、平穏に海を進んでいる。
「ふむ、まだ装置に動きはないか……」
興味深げに装置を覗き込むハンター達と共に、ゲルトが装置のランプを確かめて呟く。
「あー、にしてもこの辺はやっぱあっちーなぁ……」
船べりでは、シャツの襟元をぱたぱた煽いで風を入れるハラーツァイ。
「……ところでベルフラウ、なぜ水着なんだ」
「え? 水中戦に特化した装備と聞きましたので! え、というか私、また水に入らないんですか!?」
「わからん。出会う歪虚次第だろうな」
そう言いながら腕組みをしたエルガーは、長袖の黒軍服の下に黒の防具を着けている。
ベルフラウが再び口を開きかけたところで――突如、けたたましい警報と共にランプが光り輝く!
「うわっ!?」
思わず一番近くにいたハンター達とゲルトが、一瞬耳を塞ぐ。
「かなり大きい反応だ。大きさか、数か……」
そう呟いた瞬間、水中からいくつもの半透明の影が飛び出した。
「あれはっ……」
「くらげ?」
緊迫感に満ちたハンター達の声に、ぽへっとしたハラーツァイの声が重なる。
海水を滴らせながらふわふわと空中を漂う――確かに見た目は非常にクラゲである。
「数が多いな……1体の強さはわからんが」
「あの」
「やるしかないよね」
「あの……」
「ベルフラウ、戦闘だ」
「あ、はい。あの……えっと……」
「どうした?」
ようやくベルフラウの訴えに耳を傾けたハンターに、ぱっと顔を輝かせたベルフラウが慌てて海の下を指す。
「たぶん、下にもいます! 大きいのが!」
「!?」
船べりにいたハンター達が、下を覗き込む。――いた。
直径8mほどのクラゲが、ふわぁりふわぁりとゆらめき――徐々に、海面に近付いてくる!
「あれ、ぶつかったら船やばいんじゃ?」
「まずいな」
そう言った瞬間、海中から海面を貫き空へと駆け抜ける閃光。
発生源は明らかであった。水中のクラゲの触手の一本が、まだバチバチと光を放っている。
「……ぶつからなくてもやばいです?」
「そう、だな」
思わず顔を見合わせる全員。
ハンターの一人が、口を開く。
「……二手に分かれよう。半数は浮いてるクラゲからの船の防衛、半数は下の大クラゲを戦闘で引き付け、倒す」
「あっじゃあ私行きま」
「俺とハラーツァイが下に行こう。ベルフラウとゲルトは水中では武器の特性が殺される」
あっさりとエルガーが言って、軍服の上着を脱ぎ捨てた。船べりに立てかけていた槍を手にし、頷いたハラーツァイが手袋をはめる。
「それじゃ、行くぞ!」
「おー!」
ざばりと海に飛び込んだハンター達と2人の生徒。近づくにつれ、露わになったその半透明な巨体は――確かな敵意を孕んだ触手を伸ばす!
「入りなさい」
校長室の扉を叩く音に、アンゼルム・シュナウダーは静かに声をかけた。
「失礼します!」
4つの声が重なり、扉が開く。
「こーちょーせんせー、何か用なのか?」
大きな声で尋ねた少女の頭を、2mほどの巨体に長い黒軍服を引っ掛けた青年が軽く小突く。
「アホ、どんな挨拶だ。エルガー・ウンターゲーエン一等兵、参りました」
「ベルフラウ二等兵、参りましたっ!」
元気よく背を伸ばしたのは、十五か六かといった歳の頃の長い栗色の髪の少女。
「ゲルト・デーニッツ二等兵、参りました」
その横で冷静な表情を崩さず口を開いたのは、少女よりも二つ三つ年上の少年であった。
「はーい。ハラーツァイ二等兵、参りました!」
最後に少女の声が響き渡ったところで、校長アンゼルムは頷いて口を開く。
「錬魔院から、マテリアル観測装置の実験要請が入っている。今回は、この装置による歪虚の探知、その範囲や精度についての確認をしたいとのことだ」
「マテリアル観測装置、ですか? 私達にもちゃんと扱えるのですか?」
ぱちりと瞬きして問うベルフラウに、校長は大丈夫だと頷いた。
「操作自体は行えないが、起動は錬魔院の職員が行ってくれる。探知については誰にでもわかるように、負のマテリアルの接近とその強度をランプとブザーで知らせる仕組みを組み込んだそうだ。今回は、その機能の実地実験となる」
そこまで聞いて、ゲルトが真剣な顔で眉を寄せ、眼鏡をくいと上げる。
「そこまでの装置となると、かなりの大きさとなりそうですが」
「その通りだ。だが今回は問題がないようにしている」
その言葉に首を傾げた生徒達を、校長はゆっくりと見渡して言った。
「今回のマテリアル観測装置は、船に設置してある。今回の演習は、錬魔院からの実地実験と共に、同盟領で発生している狂気の歪虚が紛れ込んでいる可能性の高い、ベルトルード近海の警備も兼ねる」
「そういうことか。歪虚が現れたら、装置を……というか、船を守って戦わなきゃならないんだな?」
得心したようにエルガーが頷いた。その通りだと校長が首肯する。
「……船沈んだら、魔導装置壊れるべな?」
割と大きな声で呟いたハラーツァイに、一同がぎょっとした顔を向ける。
その中で校長は平静にそうだね、と言った。
「精密な装置だそうだから、海水には耐えられないだろう。そもそも重さもかなりあるから、運んで来ることは出来ないだろうね」
「そ、それを4人で警備するんですか!? 大変です、もし装置を壊してしまったら弁償を要求されて借金生活で、それはそれはとってもひもじいことに……」
「落ち着け、ベルフラウ」
両手で頭を抱えて言い募るベルフラウに、ゲルトが表情を変えぬままツッコミを入れ、エルガーが口を開く。
「もうハンターに依頼を入れてあるんだろう? それが今回の狂気の歪虚に対する帝国の方針だし、ハンターとの協力体制は校長の方針でもある」
「その通り。その推察力を、そろそろ卒業して帝国軍で生かしてもらえると嬉しいんだがね」
校長の言葉に、エルガーはふいと視線を逸らした。
既に22歳。卒業試験に通らぬのではない、一度も受けていないのだ。
そんなエルガーの様子に小さく溜息を洩らした校長は、机の上に置いてあった封書を差し出す。
「これは、帝国ユニオンAPVへの紹介状だ。タングラム女史に渡せば、依頼してあるハンター達と合流させてもらえるだろうし、ハンターズソサエティの転移門を使えるように話を付けてある」
頷く4人の生徒達を見渡し、校長は再び口を開いた。
「エルガー、それにハラーツァイ。君達とチームを前回までチームを組んでいた2人は、命を取り留めたがまだ回復には遠い。ゆえに、ベルフラウ、ゲルト、今回はこの4人でチームを組んでもらう――では、無事に演習を終え帰還を果たすように。検討を祈る!」
「はい!」
姿勢を正した4人の声が揃い、校長室に響いた。
ベルトルードは帝国の南東の端にある、自由都市同盟との貿易拠点ともなっている港町である。
今回の任務は、その近海の警備でもあった。
依頼を請けたハンター達と4人のイルリヒト生徒達が乗った船は、平穏に海を進んでいる。
「ふむ、まだ装置に動きはないか……」
興味深げに装置を覗き込むハンター達と共に、ゲルトが装置のランプを確かめて呟く。
「あー、にしてもこの辺はやっぱあっちーなぁ……」
船べりでは、シャツの襟元をぱたぱた煽いで風を入れるハラーツァイ。
「……ところでベルフラウ、なぜ水着なんだ」
「え? 水中戦に特化した装備と聞きましたので! え、というか私、また水に入らないんですか!?」
「わからん。出会う歪虚次第だろうな」
そう言いながら腕組みをしたエルガーは、長袖の黒軍服の下に黒の防具を着けている。
ベルフラウが再び口を開きかけたところで――突如、けたたましい警報と共にランプが光り輝く!
「うわっ!?」
思わず一番近くにいたハンター達とゲルトが、一瞬耳を塞ぐ。
「かなり大きい反応だ。大きさか、数か……」
そう呟いた瞬間、水中からいくつもの半透明の影が飛び出した。
「あれはっ……」
「くらげ?」
緊迫感に満ちたハンター達の声に、ぽへっとしたハラーツァイの声が重なる。
海水を滴らせながらふわふわと空中を漂う――確かに見た目は非常にクラゲである。
「数が多いな……1体の強さはわからんが」
「あの」
「やるしかないよね」
「あの……」
「ベルフラウ、戦闘だ」
「あ、はい。あの……えっと……」
「どうした?」
ようやくベルフラウの訴えに耳を傾けたハンターに、ぱっと顔を輝かせたベルフラウが慌てて海の下を指す。
「たぶん、下にもいます! 大きいのが!」
「!?」
船べりにいたハンター達が、下を覗き込む。――いた。
直径8mほどのクラゲが、ふわぁりふわぁりとゆらめき――徐々に、海面に近付いてくる!
「あれ、ぶつかったら船やばいんじゃ?」
「まずいな」
そう言った瞬間、海中から海面を貫き空へと駆け抜ける閃光。
発生源は明らかであった。水中のクラゲの触手の一本が、まだバチバチと光を放っている。
「……ぶつからなくてもやばいです?」
「そう、だな」
思わず顔を見合わせる全員。
ハンターの一人が、口を開く。
「……二手に分かれよう。半数は浮いてるクラゲからの船の防衛、半数は下の大クラゲを戦闘で引き付け、倒す」
「あっじゃあ私行きま」
「俺とハラーツァイが下に行こう。ベルフラウとゲルトは水中では武器の特性が殺される」
あっさりとエルガーが言って、軍服の上着を脱ぎ捨てた。船べりに立てかけていた槍を手にし、頷いたハラーツァイが手袋をはめる。
「それじゃ、行くぞ!」
「おー!」
ざばりと海に飛び込んだハンター達と2人の生徒。近づくにつれ、露わになったその半透明な巨体は――確かな敵意を孕んだ触手を伸ばす!
リプレイ本文
「夏と言えば旅行先で船着き場の端に溜まっていた水母の群れを思い出す」
安藤・レブナント・御治郎(ka0998)がきりりとした顔で言った。
「ふむ、故郷の話か?」
エルガーがそう尋ねるのに、そうだ、と御治郎は頷く。リアルブルー出身であることは、ここに来るまでの船の上で話していた。
「……要するに大変キモイので潜りたくないという話だ」
御治郎の、大変きりりとしたままの表情であった。
「まぁ、潜らないとどちらにせよ水の中に落ちるがな」
皮肉でもなくあっさりとエルガーが応える。
「海だー! クラゲは綺麗だー!」
そして全く御治郎とは逆の感想を持ったのは、ニーナ・アンフィスバエナ(ka1682)である。
「けど、倒さなきゃいけないのはちょっともったいないね。とはいえ、あんまり無い機会だし」
ビキニ水着に動きやすいジャケット姿、クレイモアを掴んだニーナは楽しげに笑う。
「遠慮なくやらせてもらうんだけどね」
そう言ってニーナは、船べりからイルリヒト機関生徒、エルガーとハラーツァイに向き直る。
鳴神 真吾(ka2626)と共に、軽く話し合って決めた作戦の概要、特に呼吸に上がる順番と、ハンドサイン等の連携を説明、そして確認。
「あ、こっちが合図出したら戦闘不能者すぐに回収できるように準備ヨロシク」
そうレベッカ・アマデーオ(ka1963)レベッカも打ち合わせに加わってから、操船担当にふと声をかける。
「……あの手のバケモノが完全浮上したらやばいしね。少し船も動かしといた方がいいと思うよ」
そのアドバイスに、操船担当の帝国兵は肩を竦める。
エルガーが気にするな、とレベッカに話しかける。
「帝国兵はハンターだけではなく、俺達のことも好きではないからな」
「ふぅん……ま、あたし達が食い止めればいい話か」
「ま、危なくなったら自己判断で動いてくれるだろうさ」
ふっと笑ってエルガーは、再び二ーナと真吾の話を聞き始める。
情報の伝達と確認が終わったのを確かめ、ニーナは笑顔で頷いて。
「大丈夫、あたしらに負けは無いよ。あるのは勝利か大勝利、ねっ」
頷いたエルガーが槍の柄で己の肩をぽんと叩きハラーツァイが拳を空に突き上げる。
「不利な海の中、その上相手はかなりの大物ね」
クレイモアを両手に掴み、ゴーグル越しに海の中を覗き込んだレム・K・モメンタム(ka0149)がにかっと笑う。
「相手にとって不足は無いわ、苦境で勝てばそれだけ私の名も上がるってモンよ!」
――けれど、彼女の思惑はそれだけではない。
(イルリヒト機関、その評判は孤児院時代に聞いた事があるわね)
孤児出身の生徒が立身出世の為に入ることもあるというイルリヒト機関。
彼らに対して勝る思いは、仲間意識より競争心。彼らに、後れを取るわけにはいかないと。
(ま、お手並み拝見ってトコね。私も簡単には負けてやらないわよ)
そう気合を入れるように笑った、レムの後方で。
「初めての水中戦に、大物退治……ああ、撃つのが楽しみね」
そううっとりと呟いたのは、愛用の銃を嬉しそうに撫でたアリサ・ケンプファー(ka0399)である。
大事なのは撃つことだ。狙うは己の銃弾で、巨大な歪虚に風穴を空けることのみだ。
「相手が何であろうと、撃てるなら問題ないわ」
ちなみに腰には水中拳銃、背中には大き目の水中銃が既に装備されている。
船べりに立った真吾が、ふっと息を吐く。
「気に入らないのはどの歪虚も同じだが、その中でもテメエらは特別だな……我が物顔で海を荒らし回りやがって」
リアルブルーに現れて人々を蹂躙したのと同じ存在と思われる、狂気の歪虚。その跳梁跋扈は、真吾にとっては許し難い。
「地球もこの世界もテメエらの好きにはさせねえよ! 覚醒!!」
気勢と共に首から下にヒーロー姿の幻影が重なり、すぐさま真吾は頭部装甲を被り水へと飛び込む。
「海上ほどじゃないけど、海だったら庭みたいなモンだね。行くよ!」
さらにレベッカが、長い金髪を揺らしてひらり。
そしてシュノーケルを用意したレムが、足ヒレで甲板を蹴って飛び出した御治郎が、思いっきり息を吸い込んだニーナが、さらにエルガーとハラーツァイが、最後にしっかりとオートマチックピストルを構えたアリサが、次々に海へと飛び込んでいく。
身体が沈み切らぬよう、アリサは水を蹴って水中から上半身を出して。
「GO!」
武器にマテリアルを込めて、引き金を引く瞬間一気に解き放つ。水面ギリギリから放たれた弾丸は、水の抵抗を突き破り半透明の影へと迫り――その表面を、波紋状にゆるがせる!
にっ、とアリサの頬が、笑みを形作った頃――全力で水中を泳いだ一同は、巨大クラゲの全貌をその目に収めていた。
美しいとも言えるような、海に揺らめく半透明の巨体。けれど同じ色の触手は、明らかに侵入者への敵意を持って伸ばされている。
足ヒレの使用でやや速度を上げていた御治郎が、最初にクラゲの攻撃圏内へと入った瞬間――伸ばされた触手が、すぐさま体全体を締め上げる!
水泳技術を身に着けたレムと真吾が追いつき、真吾が器用に太刀を使い触手を切る。その間にレムは向かってくる触手の間を縫い、時に剣で弾き飛ばしながらクラゲの胴体の目の前に向かう。
斬、と振るった大剣は、半透明の身体を大きく斬り裂いた――瞬間。
ぶるるるる、と透明な体が震え、長い長い触手が数本まとめた状態で思いっきり振るわれた。
もしも陸上であれば、風を裂く音がしたであろう。水の抵抗を感じさせぬ、鋭い――数撃。
それは真吾の力で触手から脱出した御治郎、そして前戦に位置するレムとニーナへと当たる。あとは外れ、水を切ったのみ。
運よく共に電撃を受けなかったレムが、踏み込むように水を掻くと同時に勢いよく大剣を振り下ろす。
御治郎は機導砲の輝きを解き放ちクラゲの身体を金色に輝かせる。脚にマテリアルを集中させたニーナは、水を足場代わりに蹴るように一気に進み、さらに身体へと回したマテリアルの力で身体能力を上げて一挙に斬りつける。
水の中での戦いに、彼らが慣れているわけではない。けれど、覚醒者としての本能と経験が、水中で戦う力を与えてくれる。
(海賊だって弓くらい使うわよ?)
仲間達の少し後ろに位置したレベッカが、水を軽く掻いて場所を調整する。触手に邪魔されぬよう、クラゲの頭頂部分を狙えるように。
そして、構えていた弓を――引き絞り、矢を解き放つ!
ずぶり、と刺さった所からクラゲの身体を走る波紋。さらに反対側から走った波紋は、アリサが上から撃った銃弾だろう。真吾が伸ばされた触手を足場代わりに蹴りつけ、地上へと一気に浮上する――!
「はぁっ……!」
苦しげに息を吸い込んだ口を大きく開いたまま、深い呼吸を真吾は繰り返す。アリサが頷き、船の上にピストルを放り投げて水中銃に持ち替え、そのまま真吾と交代に水中へと泳いでいく。
仲間達の攻撃がクラゲに殺到する中、レベッカは軽く振り向いたハラーツァイに合図を送る。触手の根元を引っ掴み、それを引く勢いで体を進め爪先を叩きこんだハラーツァイが、急いで触手を避けて浮上する。それを確かめたレベッカは、一発矢を撃ち込んでからハラーツァイの後を追う。
水面に浮かび上がる前に、真吾とすれ違う。目線を交わした3人は頷き合い、真吾は下へ、2人は上へ。
「ぷっはぁ!」
「ぷはー!」
ハラーツァイに少し続いて、レベッカが水面に顔を出す。慣れているおかげで、呼吸を整えるのはレベッカの方が早い。
おざなりに荒い息を抑え込んで息を吸い、潜ろうとしたハラーツァイを、レベッカは止める。
「ちゃんと呼吸整えな、次はもっと長いよ」
「ありがと!」
にかっと笑って、ハラーツァイは呼吸を整え直す。
2人が一緒に潜った時には、レムが触手から逃げながら上昇中であった。
「……ぷはーっ! やっぱ覚醒者でも苦しいモンは苦しいわね」
水面に現れたレムが、方で呼吸を繰り返す。覚醒者といえど、自由に息もできぬ激しい運動は当然消耗する。
「よし、生き返ったトコでもう一丁!」
けれどレムは、その身を一気に水へと沈めた。死に近づくような呼吸できぬ苦しみに耐えながらも――斃さねばならぬ敵と、共に戦う仲間がいるから。
クラゲの傘の上に陣取っていた御治郎が、機導砲をエルガーの近くのクラゲの身体に放つ。突然目の前に現れた輝きにエルガーが上を向けば、御治郎がついと浮上の合図をした。
槍を使い触手の間から穂先を突き刺していたエルガーが、片手で浮上の合図をし、もう片方の手で刺さったままの槍を梃子のように操り、スピードを付けて水面へと向かう。今回集まったハンター達よりも、かなり戦いに精通しているように見受けられた。
――ここに来るまでに交わした会話を、御治郎は思い出す。
「なんとか機関、だっけ? いつからいるんだ?」
「そうだな、もう14年ほども前からだ」
「14年!? 教育機関に?」
「まぁ……色々あったのさ。革命前からある場所だからな」
「番長は卒業したがらないからな!」
「おい、ハラーツァイ」
「……ハラーツァイ、は?」
「16歳! イルリヒトさ入ったのは去年だよ!」
「なるほど。えっと、ハラ……」
「ハラーツァイ! 呼びづらいしょ、辺境の出身だから、帝国じゃ珍しいかんね」
――多くのハンター達よりも、もしかしたら戦いの経験を積んでいるかもしれない。それが、少し聞いた話と目にした技術から推し量れる。
けれど、そのような人間がなぜ教育機関であるイルリヒトに在籍しているのか――?
「ぷはっ!」
「ぶはっ!」
顔を出した2人は息を荒げ、必死に肺に酸素を取り込む。
人心地つけば、また息も出来ぬ水中行きだ。
その前に、何か話そうとして――御治郎は、
「行こうか」
「ああ、頑張ろうか」
そう会話を交わしただけで、再びエルガーと共に水中へと飛び込んで行った。
己に絡んだ触手を、レムに手伝われながらニーナが必死に切り離す。意外と丈夫な触手は、レムの二度目の斬撃によってようやく斬り落とされ、ニーナが最後の力を振り絞り絡んだ触手を一気に解く。
剣をしっかりと叩き付けられるほどには腕に力は入らないが、何とか水を掻き必死に地上を目指すことは出来た。
途中ですれ違ったエルガーが、やや速度の鈍っていたニーナの腕を横から掴み、反動を付けて上へと飛ばす。スピードを上げて浮上していく中、ニーナは感謝を込めて手を振った。
「ぷはっ……は……はぁっはぁっはぁっ!」
限界を迎えた呼吸は、喉の痛みすら伴う。触手に絡まれた拍子に塩水を呑んでしまった喉も、休憩を訴える。
6交代という息継ぎのタイミングは、攻撃の手が減りにくい代わりに、呼吸ができず気絶する可能性と表裏一体だ。
けれど――もう、数秒後には、アリサが上がってくるのだ。攻撃の手も、触手に絡まれた時の助け手も、減らす訳にはいかない――!
笑顔を作る。平気って笑ってみせる。
(笑えるうちは大丈夫なんだね)
水中に体を沈めたのと、アリサがクラゲに向かって銃撃を放ちながら浮上したのはほぼ同時。
そして――水面に顔を出したアリサははっと息を呑んだ。
ニーナも、思わず息を呑んだ。
――小クラゲが、数匹。
こちらの戦線に加わり、ハンター達を脅かそうとしている――!
目だけで一瞬の意思疎通を図り、アリサは呼吸を整える。そしてニーナは勢いを付けて、下へ下へと潜って行った。
水中に潜ろうとする小クラゲよりも、速く!
仲間達に向かって、小クラゲ襲来の合図をする。僅かに目を見張り、表情を変えたハンター達は、けれどすぐに巨大クラゲへと向き直る。
よほど危機に陥らない限り、小クラゲを無視し大クラゲを討伐すると決めていた。その時には御治郎と真吾、それにハラーツァイが電撃触手を受けて動きを鈍らせていたが、幸い攻撃には支障はない。
が、その時――触手が徐々に集まり始め、先端に金色の光を灯し――バチリ、バチリと鳴るそれが、だんだん大きくなっていく――!
向かう先は、真吾。けれど、明らかに避けられるだろうと思った光の範囲は意外に広く、身体は意外に言う事を聞かない。
光が、最大限に収束し――放たれる寸前、レムが思いっきり真吾の身体を押し飛ばす!
真吾の身体を押し飛ばした力だけ、地上とは違いレムも反対方向へと動く。さらに上から放たれた御治郎の機導砲とアリサの銃撃が、束ねた触手へと当たり放たれるビームの軌道をやや下に逸らす。
それでもふりかかる光線は、レムと真吾がそれぞれ武器で受け止め、方向を逸らして傷を軽微にする。
そしてその間に、ニーナとレベッカ、そしてエルガーとハラーツァイは、クラゲに反対方向からしたたかな一撃を加えていた。
時折途切れそうになる息継ぎのローテーションを守り抜き、小クラゲの攻撃を無視して攻撃を加え続け――やがて、動きを鈍らせたクラゲに、次々に突き刺さった武器が――ひとつ残らず、弾き飛ばされる。
己達も弾き飛ばされながら、新たな攻撃か、と警戒したハンター達は、それが杞憂であったことを知る。
なぜならば――目を開けた時、そこに半透明の巨大クラゲは――影も形も、なかったからである。
次の瞬間、ハラーツァイがぷかっと脱力した。慌てて御治郎とエルガーが支え、船へと急ぐ。
急いで水を吐かせた彼女は、やがて意識を取り戻して。
「すまねえなぁ迷惑さかけて、ありがと」
そう、笑ってみせた。
誰一人欠けることはなかったとはいえ、前の巨大クラゲ後ろの小クラゲと攻撃を受け続けたハンター達は、傷と疲労で座っているのがやっと。
そんな中――水着のまま、満面の笑顔でニーナは言ったものである。
「ねぇねぇ、さっきあのゲルトって人が持ってたガントンファー! あれ気になるっていうか欲しいんだね! どうしたらもらえるかな?」
船上の戦いを担当したハンター達と話していたゲルトが、慌てて『一品ものだ、渡せないぞ』と首を振る。残念そうなニーナ。
「お疲れ様! いい戦いぶりだったね!」
レムがイルリヒトの2人に賞賛の顔と言葉を向ける。その上で、共闘する機会に巡り会いたい、その時も彼らに負けぬ意地を見せたいと願って。
「ああ、ハンターの皆もいい戦いだった」
「あはは、最後私不甲斐なかったな。今度は頑張るからまた戦おうな!」
はにかむようなエルガーと、屈託ない笑顔で頷くハラーツァイ。
真水をたくさん、と頼んだレベッカは、運ばれた水で早速顔を洗う。
「あー、ちゃんと真水で目ぇ洗ってね。そのまま乾くと文字通り泣きたくなるから」
その言葉に、慌てて真水の樽に飛び付く一同。
「陸の風でも痛くなるのに、潮風とかだと洒落にならない……」
まさに、海の上で過ごしてきた者の言葉である。
そして、ハンター達を乗せた船は――無事に、帰路につくのだった。
安藤・レブナント・御治郎(ka0998)がきりりとした顔で言った。
「ふむ、故郷の話か?」
エルガーがそう尋ねるのに、そうだ、と御治郎は頷く。リアルブルー出身であることは、ここに来るまでの船の上で話していた。
「……要するに大変キモイので潜りたくないという話だ」
御治郎の、大変きりりとしたままの表情であった。
「まぁ、潜らないとどちらにせよ水の中に落ちるがな」
皮肉でもなくあっさりとエルガーが応える。
「海だー! クラゲは綺麗だー!」
そして全く御治郎とは逆の感想を持ったのは、ニーナ・アンフィスバエナ(ka1682)である。
「けど、倒さなきゃいけないのはちょっともったいないね。とはいえ、あんまり無い機会だし」
ビキニ水着に動きやすいジャケット姿、クレイモアを掴んだニーナは楽しげに笑う。
「遠慮なくやらせてもらうんだけどね」
そう言ってニーナは、船べりからイルリヒト機関生徒、エルガーとハラーツァイに向き直る。
鳴神 真吾(ka2626)と共に、軽く話し合って決めた作戦の概要、特に呼吸に上がる順番と、ハンドサイン等の連携を説明、そして確認。
「あ、こっちが合図出したら戦闘不能者すぐに回収できるように準備ヨロシク」
そうレベッカ・アマデーオ(ka1963)レベッカも打ち合わせに加わってから、操船担当にふと声をかける。
「……あの手のバケモノが完全浮上したらやばいしね。少し船も動かしといた方がいいと思うよ」
そのアドバイスに、操船担当の帝国兵は肩を竦める。
エルガーが気にするな、とレベッカに話しかける。
「帝国兵はハンターだけではなく、俺達のことも好きではないからな」
「ふぅん……ま、あたし達が食い止めればいい話か」
「ま、危なくなったら自己判断で動いてくれるだろうさ」
ふっと笑ってエルガーは、再び二ーナと真吾の話を聞き始める。
情報の伝達と確認が終わったのを確かめ、ニーナは笑顔で頷いて。
「大丈夫、あたしらに負けは無いよ。あるのは勝利か大勝利、ねっ」
頷いたエルガーが槍の柄で己の肩をぽんと叩きハラーツァイが拳を空に突き上げる。
「不利な海の中、その上相手はかなりの大物ね」
クレイモアを両手に掴み、ゴーグル越しに海の中を覗き込んだレム・K・モメンタム(ka0149)がにかっと笑う。
「相手にとって不足は無いわ、苦境で勝てばそれだけ私の名も上がるってモンよ!」
――けれど、彼女の思惑はそれだけではない。
(イルリヒト機関、その評判は孤児院時代に聞いた事があるわね)
孤児出身の生徒が立身出世の為に入ることもあるというイルリヒト機関。
彼らに対して勝る思いは、仲間意識より競争心。彼らに、後れを取るわけにはいかないと。
(ま、お手並み拝見ってトコね。私も簡単には負けてやらないわよ)
そう気合を入れるように笑った、レムの後方で。
「初めての水中戦に、大物退治……ああ、撃つのが楽しみね」
そううっとりと呟いたのは、愛用の銃を嬉しそうに撫でたアリサ・ケンプファー(ka0399)である。
大事なのは撃つことだ。狙うは己の銃弾で、巨大な歪虚に風穴を空けることのみだ。
「相手が何であろうと、撃てるなら問題ないわ」
ちなみに腰には水中拳銃、背中には大き目の水中銃が既に装備されている。
船べりに立った真吾が、ふっと息を吐く。
「気に入らないのはどの歪虚も同じだが、その中でもテメエらは特別だな……我が物顔で海を荒らし回りやがって」
リアルブルーに現れて人々を蹂躙したのと同じ存在と思われる、狂気の歪虚。その跳梁跋扈は、真吾にとっては許し難い。
「地球もこの世界もテメエらの好きにはさせねえよ! 覚醒!!」
気勢と共に首から下にヒーロー姿の幻影が重なり、すぐさま真吾は頭部装甲を被り水へと飛び込む。
「海上ほどじゃないけど、海だったら庭みたいなモンだね。行くよ!」
さらにレベッカが、長い金髪を揺らしてひらり。
そしてシュノーケルを用意したレムが、足ヒレで甲板を蹴って飛び出した御治郎が、思いっきり息を吸い込んだニーナが、さらにエルガーとハラーツァイが、最後にしっかりとオートマチックピストルを構えたアリサが、次々に海へと飛び込んでいく。
身体が沈み切らぬよう、アリサは水を蹴って水中から上半身を出して。
「GO!」
武器にマテリアルを込めて、引き金を引く瞬間一気に解き放つ。水面ギリギリから放たれた弾丸は、水の抵抗を突き破り半透明の影へと迫り――その表面を、波紋状にゆるがせる!
にっ、とアリサの頬が、笑みを形作った頃――全力で水中を泳いだ一同は、巨大クラゲの全貌をその目に収めていた。
美しいとも言えるような、海に揺らめく半透明の巨体。けれど同じ色の触手は、明らかに侵入者への敵意を持って伸ばされている。
足ヒレの使用でやや速度を上げていた御治郎が、最初にクラゲの攻撃圏内へと入った瞬間――伸ばされた触手が、すぐさま体全体を締め上げる!
水泳技術を身に着けたレムと真吾が追いつき、真吾が器用に太刀を使い触手を切る。その間にレムは向かってくる触手の間を縫い、時に剣で弾き飛ばしながらクラゲの胴体の目の前に向かう。
斬、と振るった大剣は、半透明の身体を大きく斬り裂いた――瞬間。
ぶるるるる、と透明な体が震え、長い長い触手が数本まとめた状態で思いっきり振るわれた。
もしも陸上であれば、風を裂く音がしたであろう。水の抵抗を感じさせぬ、鋭い――数撃。
それは真吾の力で触手から脱出した御治郎、そして前戦に位置するレムとニーナへと当たる。あとは外れ、水を切ったのみ。
運よく共に電撃を受けなかったレムが、踏み込むように水を掻くと同時に勢いよく大剣を振り下ろす。
御治郎は機導砲の輝きを解き放ちクラゲの身体を金色に輝かせる。脚にマテリアルを集中させたニーナは、水を足場代わりに蹴るように一気に進み、さらに身体へと回したマテリアルの力で身体能力を上げて一挙に斬りつける。
水の中での戦いに、彼らが慣れているわけではない。けれど、覚醒者としての本能と経験が、水中で戦う力を与えてくれる。
(海賊だって弓くらい使うわよ?)
仲間達の少し後ろに位置したレベッカが、水を軽く掻いて場所を調整する。触手に邪魔されぬよう、クラゲの頭頂部分を狙えるように。
そして、構えていた弓を――引き絞り、矢を解き放つ!
ずぶり、と刺さった所からクラゲの身体を走る波紋。さらに反対側から走った波紋は、アリサが上から撃った銃弾だろう。真吾が伸ばされた触手を足場代わりに蹴りつけ、地上へと一気に浮上する――!
「はぁっ……!」
苦しげに息を吸い込んだ口を大きく開いたまま、深い呼吸を真吾は繰り返す。アリサが頷き、船の上にピストルを放り投げて水中銃に持ち替え、そのまま真吾と交代に水中へと泳いでいく。
仲間達の攻撃がクラゲに殺到する中、レベッカは軽く振り向いたハラーツァイに合図を送る。触手の根元を引っ掴み、それを引く勢いで体を進め爪先を叩きこんだハラーツァイが、急いで触手を避けて浮上する。それを確かめたレベッカは、一発矢を撃ち込んでからハラーツァイの後を追う。
水面に浮かび上がる前に、真吾とすれ違う。目線を交わした3人は頷き合い、真吾は下へ、2人は上へ。
「ぷっはぁ!」
「ぷはー!」
ハラーツァイに少し続いて、レベッカが水面に顔を出す。慣れているおかげで、呼吸を整えるのはレベッカの方が早い。
おざなりに荒い息を抑え込んで息を吸い、潜ろうとしたハラーツァイを、レベッカは止める。
「ちゃんと呼吸整えな、次はもっと長いよ」
「ありがと!」
にかっと笑って、ハラーツァイは呼吸を整え直す。
2人が一緒に潜った時には、レムが触手から逃げながら上昇中であった。
「……ぷはーっ! やっぱ覚醒者でも苦しいモンは苦しいわね」
水面に現れたレムが、方で呼吸を繰り返す。覚醒者といえど、自由に息もできぬ激しい運動は当然消耗する。
「よし、生き返ったトコでもう一丁!」
けれどレムは、その身を一気に水へと沈めた。死に近づくような呼吸できぬ苦しみに耐えながらも――斃さねばならぬ敵と、共に戦う仲間がいるから。
クラゲの傘の上に陣取っていた御治郎が、機導砲をエルガーの近くのクラゲの身体に放つ。突然目の前に現れた輝きにエルガーが上を向けば、御治郎がついと浮上の合図をした。
槍を使い触手の間から穂先を突き刺していたエルガーが、片手で浮上の合図をし、もう片方の手で刺さったままの槍を梃子のように操り、スピードを付けて水面へと向かう。今回集まったハンター達よりも、かなり戦いに精通しているように見受けられた。
――ここに来るまでに交わした会話を、御治郎は思い出す。
「なんとか機関、だっけ? いつからいるんだ?」
「そうだな、もう14年ほども前からだ」
「14年!? 教育機関に?」
「まぁ……色々あったのさ。革命前からある場所だからな」
「番長は卒業したがらないからな!」
「おい、ハラーツァイ」
「……ハラーツァイ、は?」
「16歳! イルリヒトさ入ったのは去年だよ!」
「なるほど。えっと、ハラ……」
「ハラーツァイ! 呼びづらいしょ、辺境の出身だから、帝国じゃ珍しいかんね」
――多くのハンター達よりも、もしかしたら戦いの経験を積んでいるかもしれない。それが、少し聞いた話と目にした技術から推し量れる。
けれど、そのような人間がなぜ教育機関であるイルリヒトに在籍しているのか――?
「ぷはっ!」
「ぶはっ!」
顔を出した2人は息を荒げ、必死に肺に酸素を取り込む。
人心地つけば、また息も出来ぬ水中行きだ。
その前に、何か話そうとして――御治郎は、
「行こうか」
「ああ、頑張ろうか」
そう会話を交わしただけで、再びエルガーと共に水中へと飛び込んで行った。
己に絡んだ触手を、レムに手伝われながらニーナが必死に切り離す。意外と丈夫な触手は、レムの二度目の斬撃によってようやく斬り落とされ、ニーナが最後の力を振り絞り絡んだ触手を一気に解く。
剣をしっかりと叩き付けられるほどには腕に力は入らないが、何とか水を掻き必死に地上を目指すことは出来た。
途中ですれ違ったエルガーが、やや速度の鈍っていたニーナの腕を横から掴み、反動を付けて上へと飛ばす。スピードを上げて浮上していく中、ニーナは感謝を込めて手を振った。
「ぷはっ……は……はぁっはぁっはぁっ!」
限界を迎えた呼吸は、喉の痛みすら伴う。触手に絡まれた拍子に塩水を呑んでしまった喉も、休憩を訴える。
6交代という息継ぎのタイミングは、攻撃の手が減りにくい代わりに、呼吸ができず気絶する可能性と表裏一体だ。
けれど――もう、数秒後には、アリサが上がってくるのだ。攻撃の手も、触手に絡まれた時の助け手も、減らす訳にはいかない――!
笑顔を作る。平気って笑ってみせる。
(笑えるうちは大丈夫なんだね)
水中に体を沈めたのと、アリサがクラゲに向かって銃撃を放ちながら浮上したのはほぼ同時。
そして――水面に顔を出したアリサははっと息を呑んだ。
ニーナも、思わず息を呑んだ。
――小クラゲが、数匹。
こちらの戦線に加わり、ハンター達を脅かそうとしている――!
目だけで一瞬の意思疎通を図り、アリサは呼吸を整える。そしてニーナは勢いを付けて、下へ下へと潜って行った。
水中に潜ろうとする小クラゲよりも、速く!
仲間達に向かって、小クラゲ襲来の合図をする。僅かに目を見張り、表情を変えたハンター達は、けれどすぐに巨大クラゲへと向き直る。
よほど危機に陥らない限り、小クラゲを無視し大クラゲを討伐すると決めていた。その時には御治郎と真吾、それにハラーツァイが電撃触手を受けて動きを鈍らせていたが、幸い攻撃には支障はない。
が、その時――触手が徐々に集まり始め、先端に金色の光を灯し――バチリ、バチリと鳴るそれが、だんだん大きくなっていく――!
向かう先は、真吾。けれど、明らかに避けられるだろうと思った光の範囲は意外に広く、身体は意外に言う事を聞かない。
光が、最大限に収束し――放たれる寸前、レムが思いっきり真吾の身体を押し飛ばす!
真吾の身体を押し飛ばした力だけ、地上とは違いレムも反対方向へと動く。さらに上から放たれた御治郎の機導砲とアリサの銃撃が、束ねた触手へと当たり放たれるビームの軌道をやや下に逸らす。
それでもふりかかる光線は、レムと真吾がそれぞれ武器で受け止め、方向を逸らして傷を軽微にする。
そしてその間に、ニーナとレベッカ、そしてエルガーとハラーツァイは、クラゲに反対方向からしたたかな一撃を加えていた。
時折途切れそうになる息継ぎのローテーションを守り抜き、小クラゲの攻撃を無視して攻撃を加え続け――やがて、動きを鈍らせたクラゲに、次々に突き刺さった武器が――ひとつ残らず、弾き飛ばされる。
己達も弾き飛ばされながら、新たな攻撃か、と警戒したハンター達は、それが杞憂であったことを知る。
なぜならば――目を開けた時、そこに半透明の巨大クラゲは――影も形も、なかったからである。
次の瞬間、ハラーツァイがぷかっと脱力した。慌てて御治郎とエルガーが支え、船へと急ぐ。
急いで水を吐かせた彼女は、やがて意識を取り戻して。
「すまねえなぁ迷惑さかけて、ありがと」
そう、笑ってみせた。
誰一人欠けることはなかったとはいえ、前の巨大クラゲ後ろの小クラゲと攻撃を受け続けたハンター達は、傷と疲労で座っているのがやっと。
そんな中――水着のまま、満面の笑顔でニーナは言ったものである。
「ねぇねぇ、さっきあのゲルトって人が持ってたガントンファー! あれ気になるっていうか欲しいんだね! どうしたらもらえるかな?」
船上の戦いを担当したハンター達と話していたゲルトが、慌てて『一品ものだ、渡せないぞ』と首を振る。残念そうなニーナ。
「お疲れ様! いい戦いぶりだったね!」
レムがイルリヒトの2人に賞賛の顔と言葉を向ける。その上で、共闘する機会に巡り会いたい、その時も彼らに負けぬ意地を見せたいと願って。
「ああ、ハンターの皆もいい戦いだった」
「あはは、最後私不甲斐なかったな。今度は頑張るからまた戦おうな!」
はにかむようなエルガーと、屈託ない笑顔で頷くハラーツァイ。
真水をたくさん、と頼んだレベッカは、運ばれた水で早速顔を洗う。
「あー、ちゃんと真水で目ぇ洗ってね。そのまま乾くと文字通り泣きたくなるから」
その言葉に、慌てて真水の樽に飛び付く一同。
「陸の風でも痛くなるのに、潮風とかだと洒落にならない……」
まさに、海の上で過ごしてきた者の言葉である。
そして、ハンター達を乗せた船は――無事に、帰路につくのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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【相談】水底より迫る狂気 レム・K・モメンタム(ka0149) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/08/08 00:14:15 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/02 23:44:00 |