ゲスト
(ka0000)
約束の時
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/07 19:00
- 完成日
- 2015/12/17 21:24
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
大峡谷を中心にひたすら亜人を狩り続けていた美しき聖導士、『北の戦乙女』と呼ばれた凄腕のハンターがいた。
だが、『北の戦乙女』は、ある日を境にして、ハンターオフィスへ姿を現す事は無かった……。
●元覚醒者
王国北部ネオ・ウィーダの街の大通りに面した一角、その者の屋敷があった。
屋敷といっても大きい建物ではない。塀に囲まれた広めの庭と石造りの質素な2階建の建物だ。領主の屋敷から程近く、有事の際は、兵士や馬が寝泊まり出来るようにもなっている。
「一人で住むには、広すぎるな……」
屋敷の主は女性であった。
その名をリルエナ・ピチカートという。
15年前に消えた聖女『エリカ』の実妹であり、『北の戦乙女』と呼ばれていた。今は、覚醒者としての能力を失っており、ハンターも引退している。
それでも、長きに渡る亜人との戦いを称え、街の領主から小さい屋敷を賜ったのだが、一人で住むには広すぎる。故郷の村は茨に飲み込まれているし、そもそも、10年程前に家出してから実家には戻っていない。
普段は宿で宿泊していた事もあり、家具の類もなかった。
「一生、困らないだけのお金はあるのだがな」
誰もいないのに、つい、独り言がでてしまう。これが独り暮らしというものなのだろうか。
ひたすらハンターとして活動を続け、慎ましく生活していた為か、ピースホライズンで豪遊した暮らしをしなければ問題ないだろう。
それに、彼女が急に生活スタイルを変えられるものではない。
「エリカお姉ちゃん……」
ポツリと呟いた。
手には質素ながらも宝石が装飾されている髪飾りが二つ。
幼い頃、姉と約束したのだ。この髪飾りを一緒につけると……。
だが、姉はもうこの世にいない。エクラの御許だ。
「……決めた」
しばしの逡巡の後、リルエナはスッと立ち上がった。
茨の王を打倒した日から、ずっと悩み続けていた事に決断をつけたからだ。
●とあるハンターオフィスにて
受付嬢兼報告官ミノリは日々の業務に追われていた。
というのも、別のオフィスへの異動が決まっているにも関わらず、同僚が風邪で寝込んでしまったからだ。
「……もう、なんで、肝心な時に風邪ひくかな~」
一休憩のつもりで大きく伸びをする。
どうせなら、もう少し早く異動出来ればよかったのに。
「って、おわっ! い、いつの間に!」
思いっきり伸びしていたら、目の前に、巨大な双頭が視界の下の方に見えた。
「リ、リルエナ様!?」
こんなに大きい胸の持ち主をミノリは一人しかしらない。
急いで姿勢を正す――確かに、リルエナだった。
「気にしなくていい。依頼を探しにきたわけじゃない」
優しげな微笑みのリルエナは、どことなく、悲しみも帯びていた。
ミノリはその理由を知っている。リルエナのハンター登録を取り消した事務作業を行ったのは、ミノリ自身だったから。
「依頼をお願いしたい」
カウンター越しに出された書類をミノリは受け取った。
そこには、大峡谷への護衛が記されている。
「……行かれるのですね」
その言葉にリルエナは深く頷いた。豊かなソレも反動で頷いた。
茨小鬼らが生み出された元凶の場所へ。茨が覆う、あの洞窟へ。
「約束を果たす為、にな……」
●茨の洞窟へ
復興途中のパルシア村を抜け、一行は大峡谷へと入っていく。
この先に目的となる洞窟はあるのだ。
「今までずっと、依頼を受ける側だった私が、逆の立場でいるというのは、不思議なものだ」
リルエナがそんな事を言った。
身のこなしには重たさが感じられる。おまけに胸も……重たそうだ。というか、また成長した?
「すまない。少し、休憩させてくれないか」
大きな岩を乗り越えた所で肩で荒く息をして根を上げる。
「身体は鍛えていたつもりなのだがな……」
重たいのはきっと胸に付いた巨大なそれのせいでもありそうだが……。
覚醒できない事にリルエナは苦笑を浮かべる。
「私の力のほとんどは、姉のものだったという事だ……」
茨の王を討ったあの日、法術陣の儀式によってリルエナの持っていた力は失われた。
本来、そのまま死んでしまう所だったかもしれない。
以前はそれでも構わないと思っただろう。だが、今の彼女は違う。
なにかを言い出そうと口を開いたその時だった。
茂みから杖を持った亜人が飛び出して来たからだ。
「ニ、ニンゲン!? モ、モウ、ダメダ……」
人語を発したと思ったら、その場でヘナヘナと崩れ落ちる。
「この亜人……いや、後ろからなにか来る!」
リルエナの言葉通り、亜人の後ろからソレは姿を現した。
「ん? おっぱ……違うな。丸い球状の雑魔か?」
肌色した一抱えはある弾力たっぷりの球。なにか突起物がついているが、変な事を連想させる。
それが二つ並んで迫ってくるのだ。
ハンター達は武器を構えた。とりあえず、得体の知れない相手なのは間違いない。
「茨の洞窟まで、後少しという所で……」
だが、『北の戦乙女』は、ある日を境にして、ハンターオフィスへ姿を現す事は無かった……。
●元覚醒者
王国北部ネオ・ウィーダの街の大通りに面した一角、その者の屋敷があった。
屋敷といっても大きい建物ではない。塀に囲まれた広めの庭と石造りの質素な2階建の建物だ。領主の屋敷から程近く、有事の際は、兵士や馬が寝泊まり出来るようにもなっている。
「一人で住むには、広すぎるな……」
屋敷の主は女性であった。
その名をリルエナ・ピチカートという。
15年前に消えた聖女『エリカ』の実妹であり、『北の戦乙女』と呼ばれていた。今は、覚醒者としての能力を失っており、ハンターも引退している。
それでも、長きに渡る亜人との戦いを称え、街の領主から小さい屋敷を賜ったのだが、一人で住むには広すぎる。故郷の村は茨に飲み込まれているし、そもそも、10年程前に家出してから実家には戻っていない。
普段は宿で宿泊していた事もあり、家具の類もなかった。
「一生、困らないだけのお金はあるのだがな」
誰もいないのに、つい、独り言がでてしまう。これが独り暮らしというものなのだろうか。
ひたすらハンターとして活動を続け、慎ましく生活していた為か、ピースホライズンで豪遊した暮らしをしなければ問題ないだろう。
それに、彼女が急に生活スタイルを変えられるものではない。
「エリカお姉ちゃん……」
ポツリと呟いた。
手には質素ながらも宝石が装飾されている髪飾りが二つ。
幼い頃、姉と約束したのだ。この髪飾りを一緒につけると……。
だが、姉はもうこの世にいない。エクラの御許だ。
「……決めた」
しばしの逡巡の後、リルエナはスッと立ち上がった。
茨の王を打倒した日から、ずっと悩み続けていた事に決断をつけたからだ。
●とあるハンターオフィスにて
受付嬢兼報告官ミノリは日々の業務に追われていた。
というのも、別のオフィスへの異動が決まっているにも関わらず、同僚が風邪で寝込んでしまったからだ。
「……もう、なんで、肝心な時に風邪ひくかな~」
一休憩のつもりで大きく伸びをする。
どうせなら、もう少し早く異動出来ればよかったのに。
「って、おわっ! い、いつの間に!」
思いっきり伸びしていたら、目の前に、巨大な双頭が視界の下の方に見えた。
「リ、リルエナ様!?」
こんなに大きい胸の持ち主をミノリは一人しかしらない。
急いで姿勢を正す――確かに、リルエナだった。
「気にしなくていい。依頼を探しにきたわけじゃない」
優しげな微笑みのリルエナは、どことなく、悲しみも帯びていた。
ミノリはその理由を知っている。リルエナのハンター登録を取り消した事務作業を行ったのは、ミノリ自身だったから。
「依頼をお願いしたい」
カウンター越しに出された書類をミノリは受け取った。
そこには、大峡谷への護衛が記されている。
「……行かれるのですね」
その言葉にリルエナは深く頷いた。豊かなソレも反動で頷いた。
茨小鬼らが生み出された元凶の場所へ。茨が覆う、あの洞窟へ。
「約束を果たす為、にな……」
●茨の洞窟へ
復興途中のパルシア村を抜け、一行は大峡谷へと入っていく。
この先に目的となる洞窟はあるのだ。
「今までずっと、依頼を受ける側だった私が、逆の立場でいるというのは、不思議なものだ」
リルエナがそんな事を言った。
身のこなしには重たさが感じられる。おまけに胸も……重たそうだ。というか、また成長した?
「すまない。少し、休憩させてくれないか」
大きな岩を乗り越えた所で肩で荒く息をして根を上げる。
「身体は鍛えていたつもりなのだがな……」
重たいのはきっと胸に付いた巨大なそれのせいでもありそうだが……。
覚醒できない事にリルエナは苦笑を浮かべる。
「私の力のほとんどは、姉のものだったという事だ……」
茨の王を討ったあの日、法術陣の儀式によってリルエナの持っていた力は失われた。
本来、そのまま死んでしまう所だったかもしれない。
以前はそれでも構わないと思っただろう。だが、今の彼女は違う。
なにかを言い出そうと口を開いたその時だった。
茂みから杖を持った亜人が飛び出して来たからだ。
「ニ、ニンゲン!? モ、モウ、ダメダ……」
人語を発したと思ったら、その場でヘナヘナと崩れ落ちる。
「この亜人……いや、後ろからなにか来る!」
リルエナの言葉通り、亜人の後ろからソレは姿を現した。
「ん? おっぱ……違うな。丸い球状の雑魔か?」
肌色した一抱えはある弾力たっぷりの球。なにか突起物がついているが、変な事を連想させる。
それが二つ並んで迫ってくるのだ。
ハンター達は武器を構えた。とりあえず、得体の知れない相手なのは間違いない。
「茨の洞窟まで、後少しという所で……」
リプレイ本文
●雑魔
亜人と、その後ろに見える2体の雑魔。
「いや、訳がわからねえぞ」
リュー・グランフェスト(ka2419)が視線を雑魔に向ける。
亜人の方は敵意は無さそうだ。人の言葉を解しているようなので盾だけを構えて刀を鞘に納めた。
そんなリューの横をスッと進み出たのは、葛音 水月(ka1895)だった。刀先を無慈悲にも亜人の首元に向けている。
「……あれ、エネミンさん? どうしてこんなところにー?」
口調は至って普通というか、久しぶりに再会した友人に言っているようだが、今にも亜人の細い首を刎ねてしまいそうだ。
「ニ、ニンゲン、ヤメロ、アブナイ」
冷や汗タラタラの亜人の反応を楽しみつつ、もう片方の手に持った拳銃で雑魔に向けて発砲した。
怯える亜人と、雑魔の形態を見ながらアルラウネ(ka4841)が楽しそうに口を開く。
「見覚えのある亜人と、ざくろんが好きそうなのが出てきたわね……」
時音 ざくろ(ka1250)がわたわたして反論する。
「ざくろ、別に変な想像とかしてない。してないから!」
「って、言いながら、私の胸を見てるの?」
「そ、その、ま、間に合ってるもん。というか、アルラ、あの亜人と知り合いなんだ?」
話しの流れを変えるようにざくろが訊ねる。
「まぁーそーねー」
あからさま、亜人が嫌そうな顔をした。
アルラウネとざくろのやり取りを眺めつつ、龍崎・カズマ(ka0178)が心の中で呟く。
(あれで反応するって、どんだけ思春期だよ)
確かに見た目は、女性の胸特有な弾力と張りを感じさせるが、それだけだ。
(イイ女ってんならともかく。たかが、一部で反応するとかガキじゃねぇんだから)
ある意味、微笑ましい光景なのかもしれないが。
気を取り直してカズマは注意深く雑魔を観察する。
槍を構えて一番に突撃していくカズマを後ろから見守りながら、クリスティン・ガフ(ka1090)はふと思った。
(前門の虚乳、後門の牛乳……等と冗談言っている場合ではないな)
ハンター達の背後にはリルエナが控えているのだが……確かに、冗談を言っている場合ではない。
「私はクリスティン。一先ずは私の後ろへ。話は後で伺う故」
「タ、タスカル」
亜人が、まるで水月から逃れるように、クリスティンの背後に回る。
「リルエナちゃんは、僕の後ろ……にッ!?」
檜ケ谷 樹(ka5040)が庇う様に突き出した左手が、目測を誤ってリルエナの豊満なそれに直撃した。
弾力を楽しむ余裕どころではなく、恐る恐るリルエナに視線を向けるが、彼女は特に気にした様子なく、頷くとサッと樹の後ろに下がる。
ホッと溜め息をついて顔を上げると、なぜか、ざくろと目が合った。
「ルイトモっていう言葉知ってるわ」
アルラウネが楽しそうに呟いた。
機導術の光筋が2体の雑魔に伸びていく。
ざくろが放ったものだ。
「外見に惑わされはしない……アルラ、行くよ!」
「そうね。危なくなったら、私を見て。それにしても、ものには、ちょうどいい大きさってものがあるのよ」
意味に若干の食い違いがあるが、二人のハンターが前に出る。
その二人よりも先に槍で攻撃していたカズマは槍を大地に突き刺すと盾と鞭を構えた。
「刺突も打撃も、あまり効果が無さそうだぞ」
突いてみても叩いても手応えはイマイチだった。スライム状の雑魔に近いかもしれない。
その感触を仲間達に告げる。
「カズヤ……いや、カズマ。情報助かる」
クリスティンは亜人の前に立ちながら応える。
万が一、雑魔が迫って来た時は、突起物の方を狙ってみようと思ったからだ。注意深く突起物を観察していた次の瞬間の事だった。
その先端から白いなにかが射出された。
「伏せろ!」
と叫びつつ、亜人を守る為に身体を張るクリスティン。
甘い匂いがする液体のようなものが、身体にまとわりつく。特に気にはならない――見た目的には、あまり、よろしくないかもしれないだろうが。
「エネミンさん、逃げたり変なことしちゃだめですからねー」
「イイカラ、ハヤク、タオセ」
水月の言葉に亜人が伏せながら即答する。
もう一度、「だめですからねー」と言い放ちながら、刀での斬撃を叩き込んでいく。
こうなったら、どんどん攻撃を繰り出していくしかない。
「こりゃなんだ? 斬ってもあまり効果がねぇみたいだ」
それでも斬るしかないリューは刀を振り続け、雑魔の注意を引く。
更に盾をかざして射線を塞ぐ事により、後衛への接近させない目論見だ。
2体並んでいる雑魔が急に突起物を真上に向けると、先程放った白い液体を盛大に噴出する。
「絶対なんか出てくると思ってた……」
「え? ざくろんなんで?」
うっと返答につまるざくろに構わず、カズマ、水月、リューの力押しにて雑魔が討伐されたのは、この直後の事。
雑魔が放った液体で足を滑らせた樹がリルエナのもっとも弾力のある所に飛び込む事になったのも、同様の事であった。ついで言うと、ざくろもバランスを崩し、アルラウネのある部分を掴んだのだが、彼の名誉の為にそれは伏せておこう。
●茨の真相へ
「ニンゲン。タスカタ」
亜人が安堵しながら人語を発した。
「私の事覚えてる?」
「ヤ、ヤメロ、ヘンナノ、アテテクルナ」
得意な所を押し当てながら亜人に訊ねるアルラウネ。亜人は逃れるように離れるとキョロキョロと周りを見渡す。
同じ様に周囲に視線を向ける水月。
「お仕事の途中? 何をしにここへ?」
エネミンの主であるゴラグオの姿は見えない。
なにか『仕事』なのだろうか。
「イバラ、ドウグツ、ミハル、シゴト」
「どういう事?」
亜人の返事に今度はざくろが首を傾げた。
ここは亜人の勢力域である。見張る必要もなさそうではあるのだが……。
「イバラ、モトメ、テリトリー、オカス、ヤツ、イル」
どうやら、この一帯はゴラグオが率いる亜人のテリトリーを通過するみたいであり、それを警戒しての事だろう。
エネミンもゴラグオも、茨小鬼と敵対した以上、警戒を続けているのは納得がいく。
「さて、行くか。茨の洞窟まで後、少しなんだろ」
カズマが宣言して、一行の先頭を歩く。
再び全員が歩き出した所で振り返ったカズマがリルエナに向かって言う。
「覚醒者としての力を失った、って言ってたな」
その台詞にリルエナは頷いた。
そして、自分の両手をみつめる。
「こいつは俺の予想だがね……」
視線を前に向けながらカズマは前置きしてから話しだした。
覚醒者としての力は失ったのではなく、『その必要が無くなった』からじゃないのかと。
あの日――茨の王を討ち取った時、法術陣にマテリアルを回収され、リルエナは覚醒者ではなくなった。
「力は、他の力とぶつからずには居られない。それを抱えたまま安寧とは過ごせない。君の姉は、もう、戦わなくて良いから、力を持って行ったんじゃねぇかな」
「だとしたら、なぜ、私は、あの時、姉の元へと行けなかったのだろうか。多くの茨小鬼のように……」
「……妹には自分に出来なかった、普通の人生を歩んで欲しかったんじゃないかな」
一度、力を手にしたら最後、簡単には手放せない。
自分が、あるいは、周囲が、力を求めてしまうかもしれない。
「普通の人生……」
思い返せば戦いばかりの日々だった。
「そういえば、いくつか訊きたい事がある」
クリスティンが言葉を考えながらリルエナに訊ねる。
例えば、茨は姉の最後の意思だったのか、適性検査の内容や、結果的に不幸な結末を迎えた聖女からマテリアルを回収した事に対する教義への問題などなど。
それらに対して、リルエナは丁寧に答えていく。
「茨に関して分からないが、死んでもなお残った姉の思念の一部だと思う。最後の場所が、茨の洞窟であったかもしれないが……検査はマテリアルの有無の確認だったな。それと、マテリアルの回収の件については……色々と見解があるだろうが、少なくとも、私は……あのマテリアルの根底は、大勢の人々の祈りや願いであり、むしろ、回収されない方が、冒涜にあたっていたと思う」
つまり、もし、エクラを冒涜している事があるとすれば、マテリアルを回収できなかった事であるという事だ。
「またもや聞いていいか?」
相変わらず先頭を歩きながら振り返りもせずにカズマが言った。
ぶっきらぼうというわけではない。疲れやすいリルエナの為に、獣道に伸びてきている藪を払っているのだ。
「茨の力は、聖女が持っていたものなのか。なにか、聖女の力を発揮していた事はあったのか。そして……聖女は生前、どんな姉だったのか?」
「……茨の力は姉が元々持っていたものではない。ただ……聖女として村に帰ってきた時、姉はすぐに傷が回復していたのは覚えている」
その傷が死に至るほどであった事をリルエナは敢えて言わなかった。
自死とはエクラ教において禁忌であるが故に。
「それと……姉は、とても、優しい人だった。いつも、私や家族や村の皆に気配りして……」
「そうだったんだな」
カズマは聖女と呼ばれた少女の人となりを少しでも知れて、そんな感想を呟いた。
「結局、あの茨ってのはなんだったんだろう? 誰が求め、何故現出したのか再び現れる事はあり得るのか?」
そんな質問を投げかけたのはリューだ。
王国北部で繰り広げられた数々の戦いと悲劇。それを繰り返さない為にも、その真相は知っておく必要はある。
「マテリアルが何らかの作用を引き起こして茨の力となった。後は、その力を茨の王が得て、行使した。だから、同じ事は同様の事がない限り、まず起きないはずと思う」
そもそもは回収できなかったマテリアルが発端なのだ。それほどのマテリアルと同じ現象は、きっと、これから先、ないはずだ。
「……茨の王ってのは、どんな亜人だったか知らないか?」
エネミンに対してカズマが訊ねる。
その質問の回答に一行の視線がエネミンに集まった。
「クワシク、シラナイガ……」
前置きをしてから、エネミンは答える。
もともと、小さい群れのリーダーであった事。人間達に追いたてられ、茨の洞窟に辿り着いた。そして、ひそかに勢力を広げていった事……。
「姉との約束を果たす為に、私は大峡谷へと足を運んだ。だが、亜人の勢力域だった。私は亜人を駆逐しようと思い、戦いを始めたのだ」
エネミンの言葉に続き、リルエナが告白する。
それが、彼女が大峡谷に拘り続けた理由なのだろう。
「約束って……なんだったのか聞いてもいいか?」
リューの問い掛けにリルエナは髪飾りを取りだした。
「これを一緒につける事だった……今は、姉が眠る洞窟に、供えたいと思う」
ニッコリと笑ったリルエナの表情はどこか、満足感があるようであった。
「私は、母が何か知りたい。恐らく母性溢れる貴女の胸に少し飛び込んでもいいか」
そんな事を真面目に、唐突にクリスティンが呟くように言った。
一瞬にして場の空気が凍ててしまったが、当のリルエナは気にした様子なく答える。
「ただの脂肪だぞ。戦闘でも邪魔になるしな。あとで湯浴みした時にでも確認すればいい」
頼もしいというのか、これが母性なのか、堂々と答えるリルエナに、これまた堂々と頷くクリスティン。
その様子に、アルラウネがざくろの腕を全身で抱え込む。
「な、な、なに?」
慌てるざくろにジトっとした目付きでアルラウネはこう言い放ったのであった。
「一人でどこか行っちゃダメだから。絶対、そんな気がする」
この男――時音 ざくろ――は、覗きをするような男ではない。
それでも、生まれつきの星というものが存在する。それをアルラウネは心配しているのだ。
「所でアルラって、姉妹居るの?」
「いたとして、どんな姉妹だと思う~?」
ギュっと身体を強く密着させながら返答してやった。
「……ざくろん、鼻血出してる場合じゃないよ」
「う? えっ!?」
鼻血が流れた事に慌てだしたざくろをそのままに、アルラウネは顔を上げてエネミンに話しかけた。
「あれから人を襲ったりしてるの? そして、きみ達は、今後どう動くつもり?」
「モット、オクニ、イドウスル」
今の所、彼らのテリトリーに侵入した人間は居なかったようだ。
そして、これからは、更に大峡谷深部へと移動するつもりらしい。
「奥になにかあるのか?」
怪訝な顔付きでクリスティンが尋ねた。
「キョダイナ、ドウクツ、デンセツ」
大峡谷の奥深くには、巨大な洞窟とも遺跡ともなにかあるという話しがあったりなかったりする。
「オマエタチ、イイニンゲン。テリトリー、ツウカ、ゴラグオ、ユルスハズ」
ハンター達と距離を取りながらエネミンはそう言った。
後ろの茂みが大きく揺れた――気がした。
「私を、許すというのか? お前らの同胞を殺し続けた私を」
「センシ、ジャナイカラ、アイテニシナイ。アルジ、ソウイッタ」
「……そうか……」
立ち去ろうとするエネミンの背後に向かって水月が声をかける。
「ゴラグオさんが言ったみたいに、次は敵対するならぜひ僕のところへー。すぱっと終わらせてあげますよー?」
「オマエノ、トコロニハ、ゼッタイ、イカナイ」
醜い顔だが、きっと笑顔なのだろう。
エネミンは最後にそう言うと、茂みの中へと消えて行った。
おしまい
●Happy End
茨の洞窟にて、髪飾りを供えて目的を達した一行は、洞窟から出る。
「あれ? 樹さんとリルエナさんは?」
「俺達は少し、待機だぜ」
冷やかすようなリューの言葉に全員が頷いた。
「夢の約束……果たしたからね」
茨の一角、見覚えのある位置で樹が呟いた。
ある日見た不思議な夢。その中で出逢った聖女が居た場所だ。
「樹……」
名前を呼ばれて振り返ると、仲間達の姿は見えなかった。気を使ってくれたのだろう。
ランタンの淡い光の中、リルエナが微笑みながら見つめてくる。正面に向き合い、樹は口を開いた。
「最初はリルエナちゃん見た時、綺麗で可愛くて強くて、言い伝えで聞いた戦乙女だと思ったんだ」
それと、大きくてとも言い掛けたがなんとか堪える樹は、言葉を続ける。
「でも、実は凄い優しくて、頑張り屋さんで、頼る事を知らなくて、抱え込んで、一人で頑張って来た女の子なんだって、知った」
だから、ほっとけなくて。生きてくれればいいと思った。
何度か泣かしてしまって、都度、命をかけても守ろうと誓った。空周りの時もあったけど。
「あの日、リルエナちゃんがいなくなるかもしれないっていう状況が目の前に迫って、初めて思ったんだ。君を失いたくない、って。僕は……君が、す」
樹の言葉は最後まで続かなかった。好きだという言葉も、生きていてくれた感謝の言葉も言えなかった。
なぜなら、言葉を発すべき唇をリルエナが塞いでいたから。
彼女の柔らかい吐息を感じる。
そして、小さく囁いたのであった。
(居て欲しいのは、私の方……ありがとう、樹……いつでも、あの街で待ってる……)
亜人と、その後ろに見える2体の雑魔。
「いや、訳がわからねえぞ」
リュー・グランフェスト(ka2419)が視線を雑魔に向ける。
亜人の方は敵意は無さそうだ。人の言葉を解しているようなので盾だけを構えて刀を鞘に納めた。
そんなリューの横をスッと進み出たのは、葛音 水月(ka1895)だった。刀先を無慈悲にも亜人の首元に向けている。
「……あれ、エネミンさん? どうしてこんなところにー?」
口調は至って普通というか、久しぶりに再会した友人に言っているようだが、今にも亜人の細い首を刎ねてしまいそうだ。
「ニ、ニンゲン、ヤメロ、アブナイ」
冷や汗タラタラの亜人の反応を楽しみつつ、もう片方の手に持った拳銃で雑魔に向けて発砲した。
怯える亜人と、雑魔の形態を見ながらアルラウネ(ka4841)が楽しそうに口を開く。
「見覚えのある亜人と、ざくろんが好きそうなのが出てきたわね……」
時音 ざくろ(ka1250)がわたわたして反論する。
「ざくろ、別に変な想像とかしてない。してないから!」
「って、言いながら、私の胸を見てるの?」
「そ、その、ま、間に合ってるもん。というか、アルラ、あの亜人と知り合いなんだ?」
話しの流れを変えるようにざくろが訊ねる。
「まぁーそーねー」
あからさま、亜人が嫌そうな顔をした。
アルラウネとざくろのやり取りを眺めつつ、龍崎・カズマ(ka0178)が心の中で呟く。
(あれで反応するって、どんだけ思春期だよ)
確かに見た目は、女性の胸特有な弾力と張りを感じさせるが、それだけだ。
(イイ女ってんならともかく。たかが、一部で反応するとかガキじゃねぇんだから)
ある意味、微笑ましい光景なのかもしれないが。
気を取り直してカズマは注意深く雑魔を観察する。
槍を構えて一番に突撃していくカズマを後ろから見守りながら、クリスティン・ガフ(ka1090)はふと思った。
(前門の虚乳、後門の牛乳……等と冗談言っている場合ではないな)
ハンター達の背後にはリルエナが控えているのだが……確かに、冗談を言っている場合ではない。
「私はクリスティン。一先ずは私の後ろへ。話は後で伺う故」
「タ、タスカル」
亜人が、まるで水月から逃れるように、クリスティンの背後に回る。
「リルエナちゃんは、僕の後ろ……にッ!?」
檜ケ谷 樹(ka5040)が庇う様に突き出した左手が、目測を誤ってリルエナの豊満なそれに直撃した。
弾力を楽しむ余裕どころではなく、恐る恐るリルエナに視線を向けるが、彼女は特に気にした様子なく、頷くとサッと樹の後ろに下がる。
ホッと溜め息をついて顔を上げると、なぜか、ざくろと目が合った。
「ルイトモっていう言葉知ってるわ」
アルラウネが楽しそうに呟いた。
機導術の光筋が2体の雑魔に伸びていく。
ざくろが放ったものだ。
「外見に惑わされはしない……アルラ、行くよ!」
「そうね。危なくなったら、私を見て。それにしても、ものには、ちょうどいい大きさってものがあるのよ」
意味に若干の食い違いがあるが、二人のハンターが前に出る。
その二人よりも先に槍で攻撃していたカズマは槍を大地に突き刺すと盾と鞭を構えた。
「刺突も打撃も、あまり効果が無さそうだぞ」
突いてみても叩いても手応えはイマイチだった。スライム状の雑魔に近いかもしれない。
その感触を仲間達に告げる。
「カズヤ……いや、カズマ。情報助かる」
クリスティンは亜人の前に立ちながら応える。
万が一、雑魔が迫って来た時は、突起物の方を狙ってみようと思ったからだ。注意深く突起物を観察していた次の瞬間の事だった。
その先端から白いなにかが射出された。
「伏せろ!」
と叫びつつ、亜人を守る為に身体を張るクリスティン。
甘い匂いがする液体のようなものが、身体にまとわりつく。特に気にはならない――見た目的には、あまり、よろしくないかもしれないだろうが。
「エネミンさん、逃げたり変なことしちゃだめですからねー」
「イイカラ、ハヤク、タオセ」
水月の言葉に亜人が伏せながら即答する。
もう一度、「だめですからねー」と言い放ちながら、刀での斬撃を叩き込んでいく。
こうなったら、どんどん攻撃を繰り出していくしかない。
「こりゃなんだ? 斬ってもあまり効果がねぇみたいだ」
それでも斬るしかないリューは刀を振り続け、雑魔の注意を引く。
更に盾をかざして射線を塞ぐ事により、後衛への接近させない目論見だ。
2体並んでいる雑魔が急に突起物を真上に向けると、先程放った白い液体を盛大に噴出する。
「絶対なんか出てくると思ってた……」
「え? ざくろんなんで?」
うっと返答につまるざくろに構わず、カズマ、水月、リューの力押しにて雑魔が討伐されたのは、この直後の事。
雑魔が放った液体で足を滑らせた樹がリルエナのもっとも弾力のある所に飛び込む事になったのも、同様の事であった。ついで言うと、ざくろもバランスを崩し、アルラウネのある部分を掴んだのだが、彼の名誉の為にそれは伏せておこう。
●茨の真相へ
「ニンゲン。タスカタ」
亜人が安堵しながら人語を発した。
「私の事覚えてる?」
「ヤ、ヤメロ、ヘンナノ、アテテクルナ」
得意な所を押し当てながら亜人に訊ねるアルラウネ。亜人は逃れるように離れるとキョロキョロと周りを見渡す。
同じ様に周囲に視線を向ける水月。
「お仕事の途中? 何をしにここへ?」
エネミンの主であるゴラグオの姿は見えない。
なにか『仕事』なのだろうか。
「イバラ、ドウグツ、ミハル、シゴト」
「どういう事?」
亜人の返事に今度はざくろが首を傾げた。
ここは亜人の勢力域である。見張る必要もなさそうではあるのだが……。
「イバラ、モトメ、テリトリー、オカス、ヤツ、イル」
どうやら、この一帯はゴラグオが率いる亜人のテリトリーを通過するみたいであり、それを警戒しての事だろう。
エネミンもゴラグオも、茨小鬼と敵対した以上、警戒を続けているのは納得がいく。
「さて、行くか。茨の洞窟まで後、少しなんだろ」
カズマが宣言して、一行の先頭を歩く。
再び全員が歩き出した所で振り返ったカズマがリルエナに向かって言う。
「覚醒者としての力を失った、って言ってたな」
その台詞にリルエナは頷いた。
そして、自分の両手をみつめる。
「こいつは俺の予想だがね……」
視線を前に向けながらカズマは前置きしてから話しだした。
覚醒者としての力は失ったのではなく、『その必要が無くなった』からじゃないのかと。
あの日――茨の王を討ち取った時、法術陣にマテリアルを回収され、リルエナは覚醒者ではなくなった。
「力は、他の力とぶつからずには居られない。それを抱えたまま安寧とは過ごせない。君の姉は、もう、戦わなくて良いから、力を持って行ったんじゃねぇかな」
「だとしたら、なぜ、私は、あの時、姉の元へと行けなかったのだろうか。多くの茨小鬼のように……」
「……妹には自分に出来なかった、普通の人生を歩んで欲しかったんじゃないかな」
一度、力を手にしたら最後、簡単には手放せない。
自分が、あるいは、周囲が、力を求めてしまうかもしれない。
「普通の人生……」
思い返せば戦いばかりの日々だった。
「そういえば、いくつか訊きたい事がある」
クリスティンが言葉を考えながらリルエナに訊ねる。
例えば、茨は姉の最後の意思だったのか、適性検査の内容や、結果的に不幸な結末を迎えた聖女からマテリアルを回収した事に対する教義への問題などなど。
それらに対して、リルエナは丁寧に答えていく。
「茨に関して分からないが、死んでもなお残った姉の思念の一部だと思う。最後の場所が、茨の洞窟であったかもしれないが……検査はマテリアルの有無の確認だったな。それと、マテリアルの回収の件については……色々と見解があるだろうが、少なくとも、私は……あのマテリアルの根底は、大勢の人々の祈りや願いであり、むしろ、回収されない方が、冒涜にあたっていたと思う」
つまり、もし、エクラを冒涜している事があるとすれば、マテリアルを回収できなかった事であるという事だ。
「またもや聞いていいか?」
相変わらず先頭を歩きながら振り返りもせずにカズマが言った。
ぶっきらぼうというわけではない。疲れやすいリルエナの為に、獣道に伸びてきている藪を払っているのだ。
「茨の力は、聖女が持っていたものなのか。なにか、聖女の力を発揮していた事はあったのか。そして……聖女は生前、どんな姉だったのか?」
「……茨の力は姉が元々持っていたものではない。ただ……聖女として村に帰ってきた時、姉はすぐに傷が回復していたのは覚えている」
その傷が死に至るほどであった事をリルエナは敢えて言わなかった。
自死とはエクラ教において禁忌であるが故に。
「それと……姉は、とても、優しい人だった。いつも、私や家族や村の皆に気配りして……」
「そうだったんだな」
カズマは聖女と呼ばれた少女の人となりを少しでも知れて、そんな感想を呟いた。
「結局、あの茨ってのはなんだったんだろう? 誰が求め、何故現出したのか再び現れる事はあり得るのか?」
そんな質問を投げかけたのはリューだ。
王国北部で繰り広げられた数々の戦いと悲劇。それを繰り返さない為にも、その真相は知っておく必要はある。
「マテリアルが何らかの作用を引き起こして茨の力となった。後は、その力を茨の王が得て、行使した。だから、同じ事は同様の事がない限り、まず起きないはずと思う」
そもそもは回収できなかったマテリアルが発端なのだ。それほどのマテリアルと同じ現象は、きっと、これから先、ないはずだ。
「……茨の王ってのは、どんな亜人だったか知らないか?」
エネミンに対してカズマが訊ねる。
その質問の回答に一行の視線がエネミンに集まった。
「クワシク、シラナイガ……」
前置きをしてから、エネミンは答える。
もともと、小さい群れのリーダーであった事。人間達に追いたてられ、茨の洞窟に辿り着いた。そして、ひそかに勢力を広げていった事……。
「姉との約束を果たす為に、私は大峡谷へと足を運んだ。だが、亜人の勢力域だった。私は亜人を駆逐しようと思い、戦いを始めたのだ」
エネミンの言葉に続き、リルエナが告白する。
それが、彼女が大峡谷に拘り続けた理由なのだろう。
「約束って……なんだったのか聞いてもいいか?」
リューの問い掛けにリルエナは髪飾りを取りだした。
「これを一緒につける事だった……今は、姉が眠る洞窟に、供えたいと思う」
ニッコリと笑ったリルエナの表情はどこか、満足感があるようであった。
「私は、母が何か知りたい。恐らく母性溢れる貴女の胸に少し飛び込んでもいいか」
そんな事を真面目に、唐突にクリスティンが呟くように言った。
一瞬にして場の空気が凍ててしまったが、当のリルエナは気にした様子なく答える。
「ただの脂肪だぞ。戦闘でも邪魔になるしな。あとで湯浴みした時にでも確認すればいい」
頼もしいというのか、これが母性なのか、堂々と答えるリルエナに、これまた堂々と頷くクリスティン。
その様子に、アルラウネがざくろの腕を全身で抱え込む。
「な、な、なに?」
慌てるざくろにジトっとした目付きでアルラウネはこう言い放ったのであった。
「一人でどこか行っちゃダメだから。絶対、そんな気がする」
この男――時音 ざくろ――は、覗きをするような男ではない。
それでも、生まれつきの星というものが存在する。それをアルラウネは心配しているのだ。
「所でアルラって、姉妹居るの?」
「いたとして、どんな姉妹だと思う~?」
ギュっと身体を強く密着させながら返答してやった。
「……ざくろん、鼻血出してる場合じゃないよ」
「う? えっ!?」
鼻血が流れた事に慌てだしたざくろをそのままに、アルラウネは顔を上げてエネミンに話しかけた。
「あれから人を襲ったりしてるの? そして、きみ達は、今後どう動くつもり?」
「モット、オクニ、イドウスル」
今の所、彼らのテリトリーに侵入した人間は居なかったようだ。
そして、これからは、更に大峡谷深部へと移動するつもりらしい。
「奥になにかあるのか?」
怪訝な顔付きでクリスティンが尋ねた。
「キョダイナ、ドウクツ、デンセツ」
大峡谷の奥深くには、巨大な洞窟とも遺跡ともなにかあるという話しがあったりなかったりする。
「オマエタチ、イイニンゲン。テリトリー、ツウカ、ゴラグオ、ユルスハズ」
ハンター達と距離を取りながらエネミンはそう言った。
後ろの茂みが大きく揺れた――気がした。
「私を、許すというのか? お前らの同胞を殺し続けた私を」
「センシ、ジャナイカラ、アイテニシナイ。アルジ、ソウイッタ」
「……そうか……」
立ち去ろうとするエネミンの背後に向かって水月が声をかける。
「ゴラグオさんが言ったみたいに、次は敵対するならぜひ僕のところへー。すぱっと終わらせてあげますよー?」
「オマエノ、トコロニハ、ゼッタイ、イカナイ」
醜い顔だが、きっと笑顔なのだろう。
エネミンは最後にそう言うと、茂みの中へと消えて行った。
おしまい
●Happy End
茨の洞窟にて、髪飾りを供えて目的を達した一行は、洞窟から出る。
「あれ? 樹さんとリルエナさんは?」
「俺達は少し、待機だぜ」
冷やかすようなリューの言葉に全員が頷いた。
「夢の約束……果たしたからね」
茨の一角、見覚えのある位置で樹が呟いた。
ある日見た不思議な夢。その中で出逢った聖女が居た場所だ。
「樹……」
名前を呼ばれて振り返ると、仲間達の姿は見えなかった。気を使ってくれたのだろう。
ランタンの淡い光の中、リルエナが微笑みながら見つめてくる。正面に向き合い、樹は口を開いた。
「最初はリルエナちゃん見た時、綺麗で可愛くて強くて、言い伝えで聞いた戦乙女だと思ったんだ」
それと、大きくてとも言い掛けたがなんとか堪える樹は、言葉を続ける。
「でも、実は凄い優しくて、頑張り屋さんで、頼る事を知らなくて、抱え込んで、一人で頑張って来た女の子なんだって、知った」
だから、ほっとけなくて。生きてくれればいいと思った。
何度か泣かしてしまって、都度、命をかけても守ろうと誓った。空周りの時もあったけど。
「あの日、リルエナちゃんがいなくなるかもしれないっていう状況が目の前に迫って、初めて思ったんだ。君を失いたくない、って。僕は……君が、す」
樹の言葉は最後まで続かなかった。好きだという言葉も、生きていてくれた感謝の言葉も言えなかった。
なぜなら、言葉を発すべき唇をリルエナが塞いでいたから。
彼女の柔らかい吐息を感じる。
そして、小さく囁いたのであった。
(居て欲しいのは、私の方……ありがとう、樹……いつでも、あの街で待ってる……)
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/03 12:56:08 |
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【相談用】目的の場所へ 龍崎・カズマ(ka0178) 人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/12/07 18:40:30 |