【審判】明日を蝕む死の舞踏

マスター:鹿野やいと

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/12/07 22:00
完成日
2015/12/19 18:05

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 北方で起きたゴブリンロードの騒動は、予想外の影響を王都にもたらしていた。ヴィオラ・フルブライト(kz0007)は頭を抱えて突っ伏したい気持ちをなんとか押さえ込む。上司・同僚・部下と揃っていなければそうしていたように思う。
 理由は北方でのゴブリンロードとの決戦の折、アークエルス近郊にて法術陣が使用された事だ。全てが露呈したというわけではないが、一部の勘の良い者達はこの国の遠大な仕掛けの端緒を掴んだだろう。
 ヴィオラが説明の為に呼び出されたのはそんな折だ。頭を抱えたくもなる。それでも場に立てば狼狽する様子は見せない。いつも以上の鉄面皮のまま、彼女は秘密を共有する仲間の前に立った。
 状況は主犯に近いと思しき人物を捕縛して以降、二ヶ月間大きく変化していない。王都付近での巡礼者襲撃は未だに続いており、事件は終息の気配が無い。簡易にだが時系列を追い説明を終えたヴィオラは、目を伏せて話を締めくくった。
「法術陣が狙われている可能性がある以上、状況が確定するまではお知らせするわけにはいきませんでした。御理解ください」
 場は沈黙した。感情は複雑に交錯している。疎外感と無力感を覚えるものが多かっただろうか。ヴィオラは気づいてはいたが頓着はせず、変わらぬ調子で話を続けた。
「現在、捕縛した男を尋問しています。結果が出ればまたお知らせします」
「尋問……。その尋問を行っているのはもしや?」
「アイリーンをつけています」
 それを聞いて苦い顔をしたのは質問をした壮年の司祭だけではなかった。戦争以後の若い世代も同じように――いや、若い世代はよりあからさまに納得のいかぬ顔をしている。代わりに若者達は先の戦争の英雄であるヴィオラに遠慮しているが、壮年の者は憚ることはなかった。
「彼女にですか……」
「彼女ほどの適任者はいません」
「しかし、あのような者を――」
「彼女以外に適任者がいるのですか?」
 ヴィオラは有無を言わせぬ口調でその言葉を遮った。壮年の司祭は何かを更に言い募ろうと口を動かしていたが、結局は目を逸らして口をつぐんだ。
 彼女の人選は正しい。それはイスルダ島で証明されている。でなければ6年前の戦争で多くを救うことはできなかった。度重なる国外遠征でも聖堂戦士団は大敗の憂き目に会っていない。ただそれが平時に近くなるほど人は疎ましいと思ってしまう。彼女自身が何一つ変わっていなくともだ。
「ヴィオラ殿、話は少し変わりますが宜しいですかな?」
 静まり返った中から遠慮がちに声を上げたのは、その場ではほぼ最年長のクロヴィス司祭だった。
「クロヴィス司祭。……何でしょうか?」
「実は一つ、気がかりな情報がありましてな」
 彼は小さく咳払いをすると渋い表情で言葉を続けた。
「フレデリク司祭が王都に戻っているらしいのです。……おっと、「元」でしたね」
 彼の言葉に、何名かの壮年の司祭があからさまな嫌悪を表情に現した。若い者は名前を知らない為に若者同士で顔を見合わせている。ヴィオラは名前に心当たりのある側だったが表情は複雑だった。
 彼の事はよく覚えている。「信仰を失った」「神は人を救わない」と公言し、聖堂戦士団を辞めて行った男の名前だ。信仰の篤い人物だったがホロウレイドの戦いで変わってしまった。世界や信仰に絶望して去った者と違って死を心配する必要はなかったが、道を違えた感触だけが残ってしまった。
「彼は法術陣を知る人物でしたか?」
「知らないはずですが、高位の司祭であれば知っていた可能性はあります。オーランのような研究者を通じて知る可能性もあるだろう」
 クロヴィスは他の者と違い彼を嫌悪する様子はなかったが表情は重く憂鬱だ。
「同じ仲間を疑いたくはないのですが、彼の来訪は事件の起こった時期と合致します。もしかすると、もしかするかもしれません。私の思い違いであれば良いのですが……」
「私もそう思います」
 心からヴィオラはそう思う。ただ、懸念は増えてしまった。
「念には念を入れましょう。私のほうで調べておきます」
「すみませんね。こんな仕事ばかり押し付けてしまって」
「構いません。これが私の役割です」
 ヴィオラは微笑んだ。知らず調査を始めるよりは余程良い。
「質問はありませんか? では、話は以上です。情報は差しさわりの無い範囲で開示しましたが、人員の配置はこれまでどおり変更はありません。各自、通常通りで業務を行ってください」
 ヴィオラは言い終わると席を立った。何名かが呼び止めようとしたが、一つも聞く素振りを見せず、彼女はそのまま部屋を出て行った。




 捕縛した事件の主犯をアイリーンは尋問した。と、他の司祭達には報告したが実際には不十分な内容だった。
 聖堂戦士団の所有物である屋敷の一室に主犯の人物は繋がれていたが、まともな尋問が行えるような相手ではなかったのだ。彼は縛られて以降、欠かさず何かに祈りを捧げていた。
「天使様………ああ……天使様。私に安息と平穏をお与えください」
 万事この調子で、アイリーンが話しかけてもぶつぶつと天使を呼ぶばかりである。アイリーンはこの男の状況をじかに見せてハンターへの説明にしつつ、依頼の要旨を説明することとした。
「私はここで身内相手にも人払いをし、他人に言えない道に外れた方法で密かに尋問を行っている。頑なな犯人もじきに膝を屈するであろう。という旨の話を嘘をつかない範囲で噂に流しているわ。貴方達の仕事は、この情報の真偽の確認するために動くと予想される彼の上役や、あるいは組織・指揮系統などの情報を集めること。ここまでで何か質問は?」
 幼年学校の教師のように優しく笑顔を作るアイリーン。ハンター達は幾つか疑問点はあったが、捕縛された男を見てその何割かは質問を引っ込めた。捕縛された男は特に痛めつけられた風でも薬を使われた風でもないからだ。
 それもそのはずでアイリーンは外道な手を知る者ではあったが、外道であることを武器とする者ではない。だが周囲の評価は芳しくなく、いざとなれば手段を選ばないと思われている。
 今回はその評価ととりうる手段が不明瞭であることを逆手に取った。聖堂戦士団の行う温い尋問であれば、誰もが動かない。しかし未知の方法を使う彼女であれば、情報が漏れる可能性もある。敵は彼女の手段を知る為、あるいは主犯を殺す為にも動かざるを得ない。
「身内にこそ敵は居る。とは予想してるけど、どこまでが身内なのかって問題もあるのよね。……これで一通りの話は全部よ。じゃ、仕事の話を始めようかしら」
 アイリーンは嫣然と微笑んだ。そこから先こそが戦うべき戦場だと、その表情が如実に伝えていた。

リプレイ本文

 聖堂戦士団での会議が行われて数日後のこと。クロヴィス司祭と面会を希望するハンターが現れた。
 ハンターのヴァージル・チェンバレン(ka1989)である。彼はヴィオラ・フルブライト(kz0007)に雇われたハンターだと名乗った。
 ヴァージルは前振りもそこそこに現在のヴィオラの活動を事細かに説明し始めた。
「まずフレデリクの調査には参加した仲間の内でも特に優秀な2名をつけました。司祭殿の懸念はじきに晴れると思われます。残り2名は尋問の係についています。必要なら尋問の進捗も随時連絡を差し上げましょう」
 ヴァージルは普段の彼らしからぬ丁寧な口調でこの後も順を追ってハンター達の名前もあげながら細かい進捗も説明した。
 クロヴィス司祭は時折相槌や、ハンター達への労い・賞賛を口にしながらも、熱心に耳を傾けていた。それは好意への返礼でもあったが、ヴァージルはそれ以外の意図がないか慎重に所作を眺めていた。
「そして私と彼女が連絡係です。まあ、雑用みたいなものと思って何なりと申し付けください。彼女は新米ですが、それでもハンターの端くれです。どうかご安心を」
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は話題に合わせて深く礼をすると、再び壁の花になった。今日の彼女は新人という設定だ。装備も誰かのお下がりのように見せかけている。
「何から何までありがとうございます。しかし、隠密での仕事と聞いていましたが宜しいのですか?」
「もちろん。ヴィオラ殿からクロヴィス司祭は最も信用できる司祭であると聞いております。この程度のことは構いません」
「それは……素直に嬉しいですね。孤高の女性だとばかり思っていましたから。……そういえば、残る2人は?」
 8人と言った以上、当然突っ込まれる内容だった。
 ギルベルト(ka0764)とウィンス・デイランダール(ka0039)の件を頭に浮かべ、ヴァージルは苦い顔を作った。
「あー、……気にしないでください。あいつらはダメです」
「……と言いますと?」
「片方は仕事そっちのけで行方しれずですし、もう片方は女の尻ばかり追い回して仕事などしてません。
 あいつらのおかげでスケジュールがカツカツですよ」
 半分は嘘だ。見かけ上そうだが、彼らは彼らで必要な仕事をしている。
 出来れば油断を誘いたい。司祭は納得したような顔だが、その思考までは読めなかった。
(ここまでは特に反応無しか。手強いな。あるいは本当に「白」なのか)
 ヴァージルは朗らかな笑顔を崩さぬままに思考する。この仕事は餌の質と餌の撒き時が肝心だ。
 食いつかざるをえない良い餌を、不自然でないように、興味を引くように、油断を誘うように。
 囮捜査の成否はこの餌の撒き加減で変わってくる。ヴァージルは慎重に次の話題、フレデリクの噂に話を繋げていった。
 


 騎士団の質素ながらも清潔な応接間は長い沈黙で満たされていた。太陽は中点を過ぎた頃合いで、外からは訓練に励む騎士達のかけ声が聞こえてくる。ウィンスは周囲の変化に心動かされることなく、真摯な目でエリオットの答えを待っていた。あるいはその目は睨めつけると表現しても差し支えない鋭さだった。
 ウィンスの質問はただ一つ。
「ヘクス・シャルシェレットの裏切りという仮説について、知ることはないか?」
 ヘクスから歪虚陣営へ流れた情報が今回の事件やクラベルのオーラン・クロス襲撃に繋がっているのでは。
 推論を要約するならば以上のような話になる。もし事実であれば王国の屋台骨を揺るがす最悪の事態となるだろう。自然とエリオットの答えも慎重にならざるをえなかった。
「残念だが、今の俺ではその仮説を結論づける情報は持ち合わせていない。
 それに、内容が内容だ。軽々しく推測を述べることも立場上難しい」
 状況を心苦しく思うのだろうか。息を吐いたエリオットは席を立ち、窓から庭に視線を向けた。
「もっとも、ヘクスへの指摘は一理ある。だが……俺は、やつがどんな人間か理解しているつもりだ」
 冷静に語る青年からはヘクスへの強い信頼が垣間見えた。ウィンスは敏感にその空気の差を感じ取り、ダメ押しとばかりに懐に手を入れた。
「その発言はこいつに誓って、言えることか」
 ウィンスの取り出した物は翠光中綬章だった。
「これは、あの戦いに至るまでにクラベルと戦い、傷付き、或いは命を落として来た連中の……一人一人の誇りだ」
 誓えるか。流れた数多の血に、戦場に散った無念の思いに、希望を願う声なき声に。
 ウィンスの眼は射殺すような鋭さでエリオットを見据えた。
 対するエリオットはと言えば、なぜか普段見ることのない穏やかな顔つきに変わっていた。その表情は、どこか懐かしいものを見つめるような温かさすら感じる。
「誓えばこそ、だ。それに、俺はお前のように1兵士の戦い方はできない。許されていない、と言うべきかもしれん」
 エリオットは言い終えて再び視線を庭先に送る。その視線が、一瞬鋭くなった。
 寒気を感じたように腕をさすると木窓の支えを取る。
「……ウィンス、今日はもう帰れ」
「何?」
「お前の言う『敵』が、少し騒がしい」
 ウィンスは今日初めて違う表情を見せた。素直に椅子から立ち上がると、礼もせずにドアに向かう。
 その背中にエリオットは珍しく挑発的な言葉を投げかけた。
「ウィンス。ここまで踏み込んだ以上、お前は“当然、この戦いに挑む”のだろうな?」
 足を止め、肩越しに視線だけ投げかける少年は無言を答えとした。
 当然だ。今更問われるまでもない。そう示すように鼻をならすと、部屋を出て乱暴にドアを閉めた。



 ヴァージルの調査が一段落し、エヴァンス・カルヴィ(ka0639)、柊 真司(ka0705)、アルトの調査はフレデリク司祭へと集中させる事となる。
 この段階でエヴァンスと柊の調査は行き詰まっていた。
 クロヴィスは長年信頼を積み上げた司祭であり、信徒からは彼の不審な情報は聞く事ができなかった。
 対して内部で心証の悪いフレデリクに関しては悪い話は多く転がり出た。
 部外者のエヴァンスから見れば、そこに認知バイアスがあることは明白だった。信用できず立証もできない情報は成果と言えない。
 何を不審と判断すべきかの情報を得られなかったエヴァンスにこれ以上の調査は不可能だった。
 一方で柊はフレデリク司祭の調査内容を調べるという、最初の目標はすぐに達成した。
 旅人の危機管理の範疇内の調査であり、フレデリク自身も隠していなかった。問題はそこから敵味方を判別する情報を引き出せなかったことだ。
 尾行も行ったが人通りの多い道、人の多い宿に陣取るフレデリクに隙はなく、強引に尋問するわけにもいかなかった。
 顔を隠して接触し情報を得る、あるいは挑発して行動を誘発する算段もあったが、相手が明確に黒である根拠が無いままに実行すれば、騎士団に捕縛されるのはハンターの側になる。ヴィオラの名前を出せば回避可能だが、現状では相手が黒であっても言い逃れを許してしまうだろう。噂を流して治安の悪い地域へ聞き込みも行った。
 調査の際にアルトと柊は襲撃を受けはしたが、全てが事件と無関係の強盗達だった。調査の本命である司祭に動く様子はなく、聞き込みも結果は出ない。信仰を捨てても司祭は秩序側の住人であり、行動範囲は比較的治安の良い場所に限定された。
 ここまでの情報では事件に対して無関係と言う結果が出たものの、聞き込みや囮捜査だけでその情報を確定する事はできなかった。
 あとは噂を流し様子を見る算段であったが、その試みも数日で変更を余儀なくされた。
 柊がフレデリクと同じ酒場に入り、カウンターの席についた頃合を見計らってフレデリクが急に隣へと移動してきた。
「私に何か御用ですか?」
「いや……俺は……」
「少々、尾行が露骨過ぎますよ」
 柊はそれ以上は答えず、視線を険しくした。フレデリクは長身で優しい風貌の男性であったが、カソックの袖からは鍛えた腕が見え隠れしていた。
 武器を帯びてはいないが油断はできない。
「それはこっちの台詞だ。あんた、何しに王都に戻ってきた?」
 柊の異変を察したエヴァンスがフレデリクを挟み込むように席を取る。
「何をといわれましても。旅行です、と言えば信じてくれますか?」
「そいつは…」
 エヴァンスは言い返そうとして口を噤む。信じることはできない。疑って調べることが役割だからだ。
「時期が時期だ。俺達はあんたを疑っている」
「そうでしょうね。だと思いました」
「あんた、何か知っているのか?」
 フレデリクは何も答えなかった。一つ前の質問と同じで、何を言っても信じてもらえず、おまけに何を言っても不利になる。
 頑なな態度のまま、フレデリクは来た時と同じく唐突に立ち上がった。
「お互い立場が変わったらその時に会いましょう」
「おい、どこへ―」
「エクラは誰も救わない」
 引きとめようとしたエヴァンスの手は聞き覚えのあるフレーズで停止する。
「それが答えです。今も昔もね」
 フレデリクはそれだけ告げると、悠々と酒場を出ていく。その後、王都でフレデリクの姿を見ることはなかった。



 ナタナエル(ka3884)と星野 ハナ(ka5852)は犯人を拘留する屋敷に留まり、尋問の続きに参加していた。
 尋問とは言ってもこの時点で既に一通りのことは終えている。ナタナエル自身は尋問とは別の目的があり眺めるだけで、星野が食事の配膳とほんの少しの会話を投げかけるだけだった。
「私はリアルブルーの人間で八百万の神々を信じてましたから天使って見たことないんですぅ。おじさん、天使さまって私でも見れますぅ?」
 ヤオヨロズという単語に首を傾げながらも、男はにこやかに対応していた。
「ああ、見れるよ。ほら、そこに天使様がいらっしゃる」
 視線は何も無い空中に向けられている。当然のように星野には何も見えない。その目はあまりにもまっすぐで、これが演技とは考えにくい。
「見えないかい? 大丈夫、君にも見えるよ」
「本当ですか? おじさん、天使さまのこともっと教えてください」
 焦点の合わない目とにこやかな笑顔。星野は徒労を感じながらも、精一杯の笑顔を返す。
 長居しては警戒される可能性もあるため、この会話は食事のたびに少しずつ行われた。
 変化があったのはその数日後の事。変わらず配膳と益体の無い会話を続けていた時であった。
「私エクラ教って全然詳しくないですけどぉ、おじさんが心の平穏が得られるよう、教会で祈ってきますねぇ?」
「教会? エクラの教会に天使様はいないよ」
 男に変化が現れた。脈絡のない笑顔が消え去り、表情は人形のように硬く強張っている。
「じゃあ、天使様に会えないですね」
 落ち込む演技の星野に男はまた焦点の合わない目で笑顔を向けた。
「心配しなくて良い。テスカの教えは偉大だ。名前を唱えるのです、天使様の名前を」
「名前を?」
「そうだよ。さあ、私に続いて唱えなさい。天使様。私に安寧を、静寂を、穏やかな眠りを与えください。深い闇こそが私たちの望みです」
 天使の名を口にしながら男はその場にへたり込む。
 星野は男に続いて天使の名前を唱えながら同じポーズをとる。
 天使の名前に聞き覚えは無かったが、敵の正体が不明な現状では大きな情報となった。
 


 その日の夜は広く雲が広がり、一段と薄暗い闇夜となった。ハンター達が拠点にする屋敷に灯りは少ない。その数少ない灯りを避けるように、屋敷へと侵入する影があった。影は塀を乗り越え庭を抜け、窓に手をかけ――。
「なに? 君も夜這いにきたの?」
 黒い装束の男は驚き振り返る。
 ひょろ長い長身の男、ギルベルトがにやついた笑みを浮かべて侵入者を覗き込んでいた。
「貴様!?」
 男はギルベルトから距離を取る。はずだった。男がギルベルトを見て立ちすくんだ一瞬に、矢で足を撃ち抜かれていた。
 伏せていたアイリーンが矢を放ったのだ。ギルベルトはニヤついたまま倒れた侵入者の腹を踏みつけた。
「今日が手薄な日って誰に聞いたのかなぁーん? もしかしてぇ、クロヴィスとかいう司祭様だったりー?」
「……」
 男は答えないが、その眼には明らかな動揺があった。
「で、他にも友達と一緒に来てるんでしょ?」
「……」
「ざーんねん! そっちもダメだよ、きっと」
 果たしてギルベルトの言うとおりになった。屋敷の反対側から侵入した敵は2人。
 彼らは屋敷内に入り込み監禁された男を抹殺せんとしたが、部屋に入って5秒で後方の1人は斬殺された。
 退路を断つように立ち塞がったのは血塗れの刀を携えたアルトだった。
「……お前、隠していたな」
「新人って聞いてた? お生憎様ね」
 残った男は逃げられないと悟り、監禁された仲間の殺害を優先した。懐からナイフを抜き打ちで投擲する。
 毒を塗ったナイフは当たれば十分致命傷となる、はずだった。侵入者のもくろみは外れ、監禁されていた男は飛来した刃を短剣で弾き返す。
 それは尋問に加わり主犯の男を観察し、精巧に化けたナタナエルだ。
「侵入がばれた時点で、細工済みを疑うべきでしたね」
 ナタナエルは間髪要れずに侵入者に飛び掛り、短剣を太股へ深く刺す。倒れた侵入者はアルトとナタナエル2人に押さえつけられ、あっと言う間に捕縛されてしまった。
「私達で1人、外で1人か。話を聞くには十分だな。それにしても……」
 アルトはギルベルトの所業を思い出して陰鬱な気分になった。今回敵を誘導したのはヴァージルの流した偽情報だが、ここまで完璧に侵入路を特定したのはギルベルトだ。
 アイリーンの部屋に忍び込む為に経路を探すと言っていたのが、このためとは思わなかった。
 ヴァージルが事前に扱き下ろしていたのも彼の警戒を解くためだろう。ギルベルトの評価を変えなければならない。アルトは渋々ながらそう考えていた。
「あーもう、アイちんホント好き! ますます汚してあげたい!
 ぐちゃぐちゃに泣かして、涙を舐めてあげたい! ヒヒヒ」
「ちょ…止めてよ! セクハラどころじゃないでしょそれ!」
 外から聞こえる声に、アルトはどんよりと眼を曇らせる。ギルベルトはただの下衆から鼻の効く下衆に評価を上げよう。それで十分に思えた。


 
 クロヴィス司祭はその日の内に、親交のあった司祭数名と共に姿をくらませた。
 ハンターの報告を受けたヴィオラの指示で、何名かの聖堂戦士が足止めに向かっていたが、途中現れた歪虚により全て返り討ちとなってしまった。
 まともな会話のできる人間を2名捕縛した為、事件の調査は捗ると思われるが、根深い暗闇の存在は聖堂戦士団を大きく動揺させることとなった。

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MVP一覧

  • 猛毒の魔銀
    ギルベルトka0764
  • 俯瞰視の狩人
    ヴァージル・チェンバレンka1989
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナka5852

重体一覧

参加者一覧

  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダール(ka0039
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • オールラウンドプレイヤー
    柊 真司(ka0705
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 猛毒の魔銀
    ギルベルト(ka0764
    エルフ|22才|男性|疾影士
  • 俯瞰視の狩人
    ヴァージル・チェンバレン(ka1989
    人間(紅)|45才|男性|闘狩人
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 《死》を翳し忍び寄る蠍
    ナタナエル(ka3884
    エルフ|20才|男性|疾影士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談用
柊 真司(ka0705
人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/12/07 21:19:37
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/12/06 23:13:21