ゲスト
(ka0000)
ワルサー総帥、慰霊祭(?)を催す
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/06 22:00
- 完成日
- 2015/12/14 18:43
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
王国北部はゴブリンの侵攻によって、多くの領土を荒らされた。
そして、多くの人々が傷つき、倒れていった。
古都での決戦を終えた今も、その傷痕は深い。
ルサスール領もそうした被害をうけた中の一つである。
事後処理も落ち着き、表向きは日常を取り戻しているかに見えた。
「けれど、民の心は沈んでいますわ」
きっぱりとそう宣言するのは、領家の息女サチコ・W・ルサスールである。
彼女は、領主であり父親のカフェに対して強く迫っていた。
「今回の事件は大きすぎました。民にとって、何を区切りにすればよいかわからぬほどに」
「うむ。サチコのいうとおりだ」
ここのところ、領民に元気がないことをカフェは察していた。
冬越しを前に、現状のままでは精神的に安全ではない。
「そこで、提案がありますわ」
サチコはにやっと笑って、一冊の本を取り出した。
それはリアルブルー大全と呼ばれる、リアルブルーの酸いも甘いもアレもこれも入った書籍である。
「こことここを見てください」
サチコが開いたのは、リアルブルーの慰霊祭に関する記述である。
一節では、祖霊を迎えるために円形になって踊り狂う儀式が描かれていた。他方、仮装をすることで邪霊を祓うことについても書かれていた。この二つはまったく異なる風習なのだが、当然サチコは知る由もない。
「つまり、仮装して踊り狂う。これがリアルブルーの慰霊祭のようですわ」
「……奇抜すぎやしないか?」
難色を示すカフェに、サチコはずいっと迫る。
「いいですか、おと……領主様。気持ちが沈んでいるからこそ、こうした派手なお祭りをして気分を盛り上げるのです」
そして、かぼちゃを食べて英気を養うのですと意気揚々である。
「かぼちゃ?」
「えぇ、これによれば冬にカボチャを食べるといいらしいですわ」
いろいろ知識が混ざっていくが、サチコは真剣だ。
「……わかった」
近頃、サチコはゴブリンとの戦いの中で硬い表情をしていることが多かった。
決着がついたとはいえ、気持ちの整理がつききっていないのは確かだろう。
一方で、リアルブルーの風習を語るサチコはとても楽しそうでも会った。実はサチコは、家出中でありワルワル団なる組織を勝手に作っている。そのため、サチコが楽しそうにリアルブルーについて語る姿をカフェは初めて見た。
そして、ときめいた。これを親ばかという。
「かぼちゃと会場の手配は任せ給え」
「助かりますわ。それでは、失礼致しますわね」
約束を取り付け、サチコは屋敷を後にする。
自分の住む山小屋に戻ってきた時、高笑いを上げた。
「わーはっはっは! 久々に、ワルワル団として活躍するのだぜ!」
「え」
傍らにいた従者のタロが驚きの表情を見せる。この頃、おとなしかったサチコが高笑いをしたからだ。
「慰霊祭として盛り上げるべく、ワルサー総帥、大復活なのです……だぜ!」
久々のワル口調をたどたどしく使って、サチコは宣言をする。
ここにワルワル団首領、ワルサー総帥が復活するのであった!
●
だが、彼女は知らない。
自分がどのような仮装をさせられるのか、ということを。
「仮装か……」
サチコが帰った後の部屋、ぽつりとカフェが親バカっぽく漏らすのであった。
王国北部はゴブリンの侵攻によって、多くの領土を荒らされた。
そして、多くの人々が傷つき、倒れていった。
古都での決戦を終えた今も、その傷痕は深い。
ルサスール領もそうした被害をうけた中の一つである。
事後処理も落ち着き、表向きは日常を取り戻しているかに見えた。
「けれど、民の心は沈んでいますわ」
きっぱりとそう宣言するのは、領家の息女サチコ・W・ルサスールである。
彼女は、領主であり父親のカフェに対して強く迫っていた。
「今回の事件は大きすぎました。民にとって、何を区切りにすればよいかわからぬほどに」
「うむ。サチコのいうとおりだ」
ここのところ、領民に元気がないことをカフェは察していた。
冬越しを前に、現状のままでは精神的に安全ではない。
「そこで、提案がありますわ」
サチコはにやっと笑って、一冊の本を取り出した。
それはリアルブルー大全と呼ばれる、リアルブルーの酸いも甘いもアレもこれも入った書籍である。
「こことここを見てください」
サチコが開いたのは、リアルブルーの慰霊祭に関する記述である。
一節では、祖霊を迎えるために円形になって踊り狂う儀式が描かれていた。他方、仮装をすることで邪霊を祓うことについても書かれていた。この二つはまったく異なる風習なのだが、当然サチコは知る由もない。
「つまり、仮装して踊り狂う。これがリアルブルーの慰霊祭のようですわ」
「……奇抜すぎやしないか?」
難色を示すカフェに、サチコはずいっと迫る。
「いいですか、おと……領主様。気持ちが沈んでいるからこそ、こうした派手なお祭りをして気分を盛り上げるのです」
そして、かぼちゃを食べて英気を養うのですと意気揚々である。
「かぼちゃ?」
「えぇ、これによれば冬にカボチャを食べるといいらしいですわ」
いろいろ知識が混ざっていくが、サチコは真剣だ。
「……わかった」
近頃、サチコはゴブリンとの戦いの中で硬い表情をしていることが多かった。
決着がついたとはいえ、気持ちの整理がつききっていないのは確かだろう。
一方で、リアルブルーの風習を語るサチコはとても楽しそうでも会った。実はサチコは、家出中でありワルワル団なる組織を勝手に作っている。そのため、サチコが楽しそうにリアルブルーについて語る姿をカフェは初めて見た。
そして、ときめいた。これを親ばかという。
「かぼちゃと会場の手配は任せ給え」
「助かりますわ。それでは、失礼致しますわね」
約束を取り付け、サチコは屋敷を後にする。
自分の住む山小屋に戻ってきた時、高笑いを上げた。
「わーはっはっは! 久々に、ワルワル団として活躍するのだぜ!」
「え」
傍らにいた従者のタロが驚きの表情を見せる。この頃、おとなしかったサチコが高笑いをしたからだ。
「慰霊祭として盛り上げるべく、ワルサー総帥、大復活なのです……だぜ!」
久々のワル口調をたどたどしく使って、サチコは宣言をする。
ここにワルワル団首領、ワルサー総帥が復活するのであった!
●
だが、彼女は知らない。
自分がどのような仮装をさせられるのか、ということを。
「仮装か……」
サチコが帰った後の部屋、ぽつりとカフェが親バカっぽく漏らすのであった。
リプレイ本文
●
王国北部に位置するルサスール領。
その中でも中央に位置し、比較的大きな町の広場は大いに盛り上がっていた。
領主の声の下、慰霊祭が開かれるというのだ。
「領民を思っての祭か、立派だな」
カボチャの入ったカゴを抱え、鞍馬 真(ka5819)は呟く。
「んんー、賑やかなお祭りですね―」
「蒼の地の催しかの。此度も腕を振るうとしよう」
ナナセ・ウルヴァナ(ka5497)や蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)も真たちの運んできたカボチャを手に取り、思い思いに調理を開始する。
「蒸してから使うとするかな」
「ついでにこっちのも蒸してくれるか?」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が追随する横では、
「茹でるための大鍋も来たよ」
とザレム・アズール(ka0878)が並々水を入れた鍋を火にかけていた。
ついでにとレーヴェ・W・マルバス(ka0276)が小さなカボチャを合わせて茹でる。
大勢がごった返した調理場は、まるで戦場のような熱気に包まれていた。
実際、蒸したり茹でたりの蒸気が充満して、暑い。
そんな喧騒から少し離れ、生のカボチャに挑む人々がいた。
「よし、ここは俺が……」
ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)は武器のような包丁を片手に、全身へマテリアルを潤滑させ一気に筋力を増強。 その力で、包丁を一気に振り下ろす。
叩き入れられた刃が、カボチャの硬い外皮を突き破り身を真っ二つにした。
主婦層から感心する声が上がる中、サチコがふらりと姿を現した。
「見事ですわね」
「お、わるわるさー。適材適所ってやつだ。カボチャ提灯も量産するぜ」
頼もしいですわ、というサチコに、
「おう」とヴォーイは快活に笑う。
そのとき、子どもたちの笑い声があがった。
何事かと振り向けば、凰牙(ka5701)がカボチャに拳を叩き込んでいた。
「ほがー。こがカボチャめたんこ硬か! 今度は必ず割ってやるだ」
拳で割れるはずがないと思っているのか、蜜鈴に言われてカボチャを繰り抜きながら見守る子どもたちはにやついていた。
「凰よ。カボチャは本当に硬いから気をつけ……」
凰牙の兄貴分、帳 金哉(ka5666)が声を上げる前で凰牙は再び拳を振り下ろした。気を込めるのを忘れていたが、持ち前の筋力と勘所を発揮しカボチャの急所をついた。
「かかか! 貴様なかなかやるではないか」
金哉と同じく、子どもたちも大いに歓声を上げる。
カボチャは見事に、砕けていた。
「見事なものですわね」
ため息混じりにサチコが呟く。
「あの砕け方だと、スープだね。手間が省けた」
「奈月さんも料理を?」
いつのまにか、鈴胆 奈月(ka2802)が隣に立っていた。
サチコの問いかけに、いつものようにゆるい態度で答える。
「そうだな……特別上手って訳でもないけど。んー、まぁ……適当に」
「期待してますわ」
「過剰な期待には答えられないけど、やるだけやってみるよ」
見れば金哉もスープを作る準備をしている。競うつもりはないし、被るならのんびりやろうと思い直す奈月であった。
奈月と一度別れたサチコは、今度はレーヴェに捕まる。
「よいところに、ちと頭の大きさを測らせてくれ」
「え」
いわれるがまま、サチコはレーヴェに計測される。
何のためにと言う前に、夜桜 奏音(ka5754)が答えを述べた。
「サチコさんもカボチャを被るんですか?」
「正確には被ってもらうのだがな」とレーヴェ。
聞いてないけどと振り返るサチコを無視して、会話は続く。
「仮装用の衣装を持ってきてないですし、これで代用しようと思ってます」
「では、ともに作るとしよう」
「はい。あ、料理も似てますね」
奏音は、スープやグラタン、プリンをかぼちゃの器に入れようとしていた。
一方レーヴェも、カボチャごとのプリンも作ろうとしていた。
「カボチャを使うお祭りですし、器もカボチャにしたくなりますよね」
「プリンは作る人が多いみたいだね」
ロラン・ラコート(ka0363)もまた、プリン勢の一人であった。
ただし、マフィンやブリュレも含め三種のデザート作成を彼は目指す。
「俺は仮装しないけど、皆の仮装は楽しみにしてるよ」
あくまで料理をしに来たスタンスらしい。
デザート類が多いとなれば、それなりに紅茶もいるな……と思案する。
話がそれたのに乗じて、脱しようとしたサチコだったが、
「ちょうどいいところに」とザレムに話しかけられた。
「仮装、俺が持ってきたものも後で着てもらえます?」
「へ、変なのではないですよね?」
「女性専用の戦闘服ですよ」
それなら、問題無いとサチコは快諾してしまう。
「じゃあ、後でね」
ザレムのほほ笑みの意味をサチコはまだ知らない。
やっと落ち着ける。
サチコがそう思った矢先、目の前に美少女探偵が現れた。
「ワルサー総帥という悪人がいると噂で聞きました。私の名は、月詠クリス(ka0750)。名探偵にして、天才発明家です」
「む」
いきなりの自己紹介だったが、どこか近しいにおいをサチコは感じ取った。
微妙に残念なにおいだったことは、本人たちは気づかない。
「あなたは、領主の娘サチコ・W・ルサスールさんですね」
「そうですわ」
「はじめまして。早速ですがワルサー総帥についてご存知のことをお伺いしたく……」
「彼女でしたら、すでにこの会場に侵入していますわ」
「なんと!」
「何を隠そう、この……」とサチコが言いかけた時。
「おのれ、ワルサー総帥、逃しはしませんよ!」
クリスはすでに点となって、広場の彼方にいるのだった。
「……」
そして、サチコは一人残された。
●
料理の準備が着々と進む中、別の場所でとある準備も始まっていた。
「またせたな、親父さん。サチコの衣装、じっくりと話しあおうぜ」
「うむ」
姿を現したのは、ヴァイス(ka0364)。待ち構えていたのは、領主カフェであった。
ヴァイスは徐ろにサチコの衣装提案を始める。
それは黒のとんがり帽子、ローブそしてミニスカという魔女っ子衣装だった。
「ほう。似合いそうだな」
「だよな。せっかくだし、途中で俺と入れ替わらないか?」
「入れ替わる……?」
ヴァイスは全身を覆うマント、シルクハット、そして顔を隠すオペラマスクを取り出す。今宵はこの恰好で、顔や背格好がわからないようにするのだという。
「ふむ」
「もし、二人で出ちまった時は兄弟とでもごまかすさ」
「心遣い痛み入る」と頭を下げようとしたカフェを手で制す。
「お互い楽しむためだ。礼には及ばないさ」
「ふむ……それにしても」
「あぁ、楽しみだな」
なにも暗躍はここだけではない。
サチコに何を着せるのか……これは重要なインシデントなのであった。
●
祭の準備も終わりを迎え、様子を見に来たサチコは
「へくち」とくしゃみを一つした。
「風邪か?」
心配そうに問いかけるのは、龍崎・カズマ(ka0178)だ。
「いえ、そういうわけでは……」
「ならいいが、できるだけあったかい食べ物を食べるんだな」
カズマは言いながら、まるごとカボチャのグラタンを取り出す。
ぐつぐつと焼色のついたチーズが食欲をそそる。
「開会式が始まるのじゃ、さ、着替えるぞ」
「え」とやってきたレーヴェに連れて行かれるサチコにカズマは告げる。
「今日は騒ぐだけじゃない。亡くなった人を思い、一緒に楽しむという主眼を忘れずにな」
着替え場に消える直前、サチコはカズマの言葉にしっかりと頷くのだった。
●
「ハーハッハッハ! 俺様がワルサー総帥なのだぜ!」
カボチャ頭を付け、いつものゴシックドレスを纏ったサチコが壇上で宣う。その隣には血まみれのシェフに扮したレーヴェとファントムを着たヴォーイが控えていた。
わかっている領民は暖かくサチコの言葉に聞き入っていた……のだが。
「ふっふっふ、私は天才発明家にして名探偵の月詠クリス! その衣装……貴女がワルサー総帥ですねっ!」
インバネスコートにパイプを持って、クリスが参上。
壇上に上がって、対峙する。
「その通りで……だぜ!」と久々の口調に苦労しつつ、カボチャを外す。
次の瞬間。クリスは、
「え、これは仮装パフォーマンスだったのですか!?」と口走った。
「は?」
意外な反応に戸惑うサチコをよそに、クリスの暴走は止まらない。
「領主様の一人娘が悪人なわけないですものね! おのれ、本物はどこに……!」
勝手に納得し、再び疾走。領民の中に溶け消えていった。
一人残されたサチコは、「私、本物ですわ」とひとりごちるが声は届かない。
「あー、よっし、今日は亡くなった人との思いを胸に思いっきり楽しもうぜ!」
とっさに近くで見守っていたヴォーイがサチコの後を継ぐ。
「そ、そうですわ。皆様、本日は楽しみましょう!」
ヴォーイに助けられ、サチコも最後の挨拶をしっかりと締めるのだった。
●
祭の開始宣言とともに様々な料理が、運ばれてくる。
「って、カボチャ~? ったく肉とか酒とかだろ。普通祭ったらよ~」
へそ出しルックな狼女の恰好で、ボルディア・コンフラムス(ka0796)は不満を漏らしていた。
「まずは、カボチャサンドだな。カボチャサラダとレタスを挟んだお手軽料理」
「こっちはシチューにまるごとグラタン。作ってるのは、妾だけではないようじゃ」
レイオスと蜜鈴、加えてカズマも料理を運んでくる。
「俺を含めて少なくとも3つ以上あるな……」
「スープも被ってますね。鍋で温めたままにしたほうがいいかも」
カボチャを被った奏音も、そう進言する。
作りすぎたのでは、と所狭しと並ぶ料理を見て蜜鈴は思う。キョンシーの仮装で付けた札をいじりつつあたりを見渡せば、
「こんなもんじゃ腹も膨れ……ウマっ」
とがっつり食べるボルティアや、
「にいさ! にいさ!こがんばがぼちゃ料理、全部食べてよがだ? オラたらふくくいてぇだ!」
「ふむ。これだけ多くこさえてあれば、構わんのじゃないか。食え食え」
金哉の許しを得て、がつがついく凰牙もいる。
近隣の領民もこぞって来ているのだし、問題ないだろうと思えた。
「お肉ならきのことかぼちゃの炒めものに、入れてますよ」
と、熊耳をつけたナナセも追加を持ち寄る。
ザレムも鴨ステーキのパンプキンソースがけを並べていた。それなりに肉もあるようだ。
「おまえは、いつぞやのクラブサンド強奪魔! まさか味をしめてまた奪いに!」
レイオスの声に全員が振り向く。サチコだった。
「え、あーえー、そ、その通りなので……だぜ!」
ぐでぐでだった。
「ちょうどいいところに、さっきの……」
ザレムが話しかけようとした時、遠くから強奪という言葉に反応したクリスが駆け寄ってきた。その音に、サチコはひとまず逃げ出してしまうのだった。
●
「一時撤退です……なのだぜ」
「わるわるさー。リアルブルーの料理はいかが?」
辿り着いた先で真は、かぼちゃの煮つけを差し出した。
甘辛いカボチャの煮つけに舌鼓を打っていると、エルバッハ・リオン(ka2434)が姿を笑わした。
「リアルブルーで行われている慰霊祭ですか。しかし、私の知っているのとは違うようですが、それは言わないほうがいいのでしょうね」
そんな呟きをしつつ、彼女もカボチャ料理を受け取る。
意気揚々と久々のに総帥口調のサチコを見て、
「日常が戻ってきたと喜ぶべきなのでしょうか」と複雑な表情を見せる。
「ほくほくして美味しいですわ」
「一部のリアルブルー出身者には、懐かしい味だよ」
だが、サチコの面がデフォルトにはなってきているようだ。
「サチコさん。新しい衣装ですよ。着ましょう」
「え」と魔法少女姿のエルを見る。彼女が持ってきたのは、自分とお揃いの魔法少女の衣装だった。ただし、色は白色……ワルサー総帥の黒とは真逆の色だ。
「えと……」と躊躇いがちな彼女に、エルは告げる。
「前にも同じようなことを言いましたが、真のワルならば、これくらい軽く着こなすくらいできないといけないのではないかと思います」
「そう、いうなら……」
「それでは着替え場に行きましょうか」
承諾したサチコをエルは着替え場へと連れて行く。
その後姿を、リーラ・ウルズアイ(ka4343)が眺めていた。
「一足遅かったわね……あなたが渋るかかしら?」
横を見れば、柊 真司(ka0705)の渋面があった。
半ば強引に、ハロウィンと盆踊りを混ぜたような謎の祭に連れてこられた真司はしょっぱなから嫌な予感が全開だった。
「みんな仮装してるし、嫌な予感してたんだよな」
「いいじゃない。楽しいし」
「ほんと、なんか企んでそうな顔してると思ったら、俺の分も用意してるとか周到だな、オイ」
当たり前よ、とリーラはいう。
「サチコと三人、お揃いにしたいんだから」
「それが何でパジャマなんだよ。仮装なのかこれ? それに男のパジャマ姿って何処に需要があるんだよ!?」
青の星柄パジャマを先んじて着せられた真司は、リーラにがなる。
それを宥めるように……いや煽っているような笑顔で答える。
「普段とは違う恰好でギャップ萌えっていうのかしら。需要ありそうじゃない?」
「あるか!」
そう文句を言いながらも着ているのは、抵抗が無駄だと知っているからだ。
真司の嘆息は、祭の喧騒に消えていくのだった。
●
「やっと会えました!」
着替え場でアシェ-ル(ka2983)は、サチコを見て駆け寄ってきた。
貴族の娘で覚醒者、アシェールにとっては憧れの的だった。祭の会場が広くて、中々巡り会えなかったのだが……。
「お手伝いしますよ」と待っていたのだ。
本当に着替えるのかとエルをちらり見るサチコに、アシェールは告げる。
「千変万化の総帥なんて、かっこいいです!」
「なら、やってみますわ!」
ちょろかった。
「じゃあ、早速」とサチコの着替えをアシェールは手伝う。
その途中。
「胸が……」
「ん?」
「あ、いえ……なんだか、安心しました」
という一幕があったのだが、サチコは気にしないことにした。
隣に立つ同じ服装のエルと何かが決定的に違うきもしたが、気にしないことにした。
「完成です! 似合ってますよ」
「う、あ、はい」
やはりミニスカートは落ち着かないのか、裾をそっと握ってしまう。
一方のアシェールも浴衣「遊女」を纏っていた。
「それじゃあ、お披露目に行きましょう」
アシェールたちに付き添われ、サチコは踊りの会場へ赴くのだった。
●
踊りの会場では、一際目立つ人だかりがあった。
和の音楽に彩られたそこでは、一人の太夫が艶やかに舞っていた。
綺羅びやかな扇子を右へ左へ、上へ下へと動かしては止める。
「はぅ」
遊女を模した浴衣を着たアシェールは、その姿にため息を漏らす。
舞い踊る女性の名は、紫吹(ka5868)。心静かに、無となり有となり……花開く変幻自在な様で人々を魅了する。
舞い終わると同時に、止めどない拍手が続く。
「アンタがサチコ、だね。楽しんでもらえたかい?」
「見事でしたわ」
近くで見れば雰囲気はさらに増す。派手で艶やかでしっとりと、それでいて気品ある女性だった。
「それはよかった。慰霊祭……節目ってヤツだねぇ。楽しむんだよ。アタシも……そうするからねぇ」
笑みを浮かべて、紫吹は人々を惹きつけながら去っていく。
その笑みが少しさみしげに見え、サチコは声をかけようとしたのだが彼女を追う男たちに邪魔されてしまうのだった。
「次の……が、始まりそうだな」
いつのまにかヴォーイも隣に来ていた。
「……息が切れてますわよ」
「子どもたちって……元気だな!」
子どもたちをスウィングして遊んであげていたらしい。
子どもの相手というのは、ハンターとはいえ重労働なのだ。
「お、なんかスゴイ音楽が流れだしたな!」
紫吹とは一風変わった和の音楽。より重々しく激しい旋律が流れだす。
壇上に登場したのは、クマドリに紅白の重たいカツラを被った二人の少女だった。歌舞伎の衣装を纏っているが、その体の小ささや動きの繊細さは少女だと知れる。
その正体は、天竜寺 舞(ka0377)と天竜寺 詩(ka0396)の姉妹だ。
音楽に合わせ力強く飛び跳ね、回り、見得を切る。
「おぉぅ」
ドン、と時折音を立てる激しい舞いに思わずサチコは息を呑む。
舞い踊る本人たちは、必死だった。
無論、失敗したからといって誰に咎められるわけでもない。だが、彼女らの父親たちが行ってきたそれを成功させたいのは意地だった。
踊ることは楽しい。が、それを置いても首を振り、重たいカツラをぶん回して毛をなびかせるのは辛い。
後半に差し掛かるにつれ、ふんばらないと毛に体が持って行かれそうになる。舞が横目で見れば、明らかに詩の息が上がっていた。
「何とか……あと少しだから」
舞は詩に目配せで、そう伝える。
残る気力を振り絞って、最後の一振りを通り切る。ドンっという大きな足音を打ち鳴らし、見えを切る。音楽が止まるとともに、盛大な拍手が起こった。
崩れかけた詩を支えるように抱き、舞はささやく。
「頑張ったね」
●
「あ、サチコ! じゃなくて、今は総帥だね。どうだった?」
「どちらでも、かまいませんわ……どうだったとは」
「その前に、こっちはあたしの妹だよ。さっきの舞、二人でやったんだ」
初めて知ったという顔で、サチコは感心する。
「温かいスープだ。どうぞ」と通りかかったカズマが詩と舞にスープを手渡す。
踊り終わって疲れた身体に、甘いカボチャのスープはよく染み渡る。
「あれ。この人、前に一番大事なものを知りたがってた……」
「……それは過去の話ですわ」とサチコはどこか気恥ずかしそうな顔を見せる。
やや黒歴史化していた。
「おねえちゃんといつの間にか友達になってたんだ」
「そうだよ」
わいきゃいとあれやこれや話している間に、再び話題は踊りのことへ。
「せっかくだから、隈取を施してあげよう」
「あ、隈取は面白そうだよね。是非やってもらわなくちゃ」
「え」
「じゃあ、恰好も着替え用か。その恰好じゃ合わないしね」
「え」
戸惑う間に、サチコは再び連れて行かれるのだった。
そして、気がついた時には何故か壇上にいた。
連獅子を踊るわけではなく、金哉に登らされたのだ。
「踊る阿呆に見る阿呆というのがある。貴様も一緒に踊るがよい!」
羽織の布と傘を用いて踊る金哉に合わせて、見よう見まねでサチコも踊る。
「さっすがオラのにいさだべ! こぎゃん踊り場見れてオラはしあーせもんだべ!」
「凰よ。上がってこい!」
「え、オラは駄目だべさ。踊りば、よう踊れんさ」
「関係ない。この娘も見よう見まねだ。さぁ、一緒に踊るがよい!」
引っ張りあげられる形で凰牙も壇上に連れ出される。気がつけば、誰も彼も上がったり踊ったりでわちゃわちゃになっていた。
●
「つ、疲れましたわ」
「お疲れ様です!」とアシェールはサチコに水を差し出す。
気がつけば、彼女とヴォーイに加えてヴァイス(?)の姿もあった。
「あなたも一緒に?」
「……」と黙して語らないのは、喉を傷めたのだとさっき聞いていた。
わずかに頷いて、答え代わりにする。ちなみに中身はカフェなのだが、パルムのキノを携えているのでヴァイスだと誤認させるのは簡単だった。
ちなみにキノは記録係として大いに働いていた。
「お、ちょうどいいところに」
加えてボルティアが腹を満たして現れた。返事を待たずにサチコは連れて行かれてしまった。
「……」と静かに見守るヴァイス(カフェ)は、サチコの楽しげな様子に静かに頷くのだった。
「た、大変な目にあいましたわ」
「せっかくの祭りだし、着飾らないとな。いやー、庶民の言うことを聞いてくれるなて。さすが、ワルワル団団長だなー」
持ち上げられながら、サチコが着せられたのはフリル満載、レースも重ねに重ねた綺羅びやかなドレスだった。カフェに100ポイントのダメージが入る。
「本当にお姫様みたい……」とアシェールは見惚れる。
そこへ、駆け寄ってくる2つの人影があった。
「探しましたぞ、サチコ様!」
「やっと、合流……できた」
「その声は、タロ……ジロ?」
人影の正体は、従者のタロとジロだったのだが……。
タロは何故か総帥としていつも纏っているようなゴス風ドレス、ジロは魔法少女な衣装を纏っていた。筋肉質な二人がそれらを纏うと、破壊力抜群だった。
「くっ……ぷっ……ぷくく」
おもにサチコの腹筋に対して。
「サチコさーん」
そこに黒幕、最上 風(ka0891)がやってきた。
「タロさん&ジロさんの仮装はどうですかー。なかなか似合いませんかー?」
返事がない。
サチコは抱腹絶倒のようだ。
倒れてドレスが汚れないようアシェールが支えていた。
「その様子だと、かなり気にいってもらえたみたいですねー」
「……」
タロとジロはふと、ヴァイス(仮)の様子に気づいた。無論、中身がカフェであることにも察しがついた。
「弁明を! サチコ様、弁明させてください!」
実際にはカフェに当てた弁明を、タロは叫ぶ……。
小一時間ほど前、サチコがエルにドナドナされたとき、流石に着替え場の中に入るわけにはいかず二人は手持ち無沙汰だった。
そこに現れたのが、風だ。
「さて、お二人とも仮装してください」
「は?」
タロとジロは、「何言ってんだこいつ」みたいな表情で風を見る。
だが、風は気にする様子もなく、衣装を取り出した。
「ジロさんは魔法少女好きなので、魔法少女の仮装です。どうですか嬉しいですか?」
「ふむ……」
「ふむじゃない、ジロ」
「嬉しそうでなによりです。で、タロさんは何マニアか不明なのでワルサー総帥の仮装をどうぞー」
「いや、そもそも我々は……」
断ろうとするタロだが、風が引くわけがない。
「さぁさぁ、お二人の主が、皆さんにいぢられているのだから、従者のお二人もいぢられてくださいねー」
「一理ある」とジロが受け入れかけ、タロは抵抗するも無駄に終わる。
半ば強制的に連行され、戻ってきた時にはサチコの姿もなかった。
しかも、サチコは二人の存在を忘れていた……。
「いや、それ……ってジロは受け入れましたの!?」
「結構、のりのりでしたねー。踊りにもいってましたし」
タロは頭を抱え続けていたという。
二人のそばにヴァイス(領主)が近づいて、肩をつかむ。ビクッと二人が震えたが、逃げ場などなかった。
一方のサチコも、
「そろそろ次の衣装、いってみようか」
「いつの間に!?」
ザレムに肩をつかまれていた。逃げ場などなかった。
戻ってきたサチコは純白のウェディングに身を包み、顔を耳の先まで真っ赤にしていた。この衣装が何であるのか知識はないが、何か特別な重みを感じていた。
「これは、ない……絶対にないですわ!」
「何がないんだい?」
「いや、女性用の戦闘服という話でしたわよね!? 絶対に違いますわ!?」
「攻撃力高いぞー。すごく強そうだ」
「ザレムさんのいうとおりですよー。風もそう思いますー」
タロジロいじりも一段落した風が、横から口を出す。
アシェールは貴族だ、と感心していた。
「それに、似合ってるぞ」
「それについては同意だな」とヴォーイが深く頷く。
四面楚歌な状況で、サチコはなおも抵抗する。
「こ、攻撃力が高いというのは、やっぱり嘘ですわよね?」
「えっ、ウソじゃないよ。ほら、KOされている人が」
ザレムに言われて振り返れば、ヴァイス(サチコの父)が倒れていた。
「ヴァ、ヴァイスさん!?」
タロとジロに支えられながら、祭の会場から退場していく。
心配そうに近づこうとするサチコを風が止める。
「カ……彼ならだいじょうぶですよー。後で風が治療しておきますからー」
「さ、サチコは祭を楽しもうぜ」
ヴォーイもフォローに回り、カフェを逃がす。
サチコが「そうですわね」と納得したので、事なきを得た。
「いや、それはそれとして、この恰好は……」
「ほら、マテリアルが高まってるぞ?」
まだまだ、いじられるサチコであった。
●
しばらくして、祭を彩る踊りも激しいものから落ち着いたものに変わる。
「やっと軽くなりました」
サチコの恰好も元鞘の総帥服へ戻っていた。
「攻撃力がもとに……」
「それは、もういいですから!」
ザレムの言葉に、サチコは即座にツッコミを入れる。
「それじゃあ、今度はこちらなんてどうかしら?」
「今度は……なんですの……」
声した方を見れば、リーラがパジャマを持って構えていた。
「やっと会えたわ。さぁ、早速着替えるわよ?」
「なんでパジャマ……」
「今回のお祭りは両方とも夜に行うもの。それにだいぶ日も落ちてきたから、パジャマでも問題無いわ」
「人に見せるものでは、ありませんわ!?」
「そうだな、うん。俺もそう思う」
しみじみとリーラの隣で真司が同意を示す。
だが、無意味だ。
「今までの仮装よりはいいんじゃない?」
「……」
少し考えて、
「一緒ぐらい……ですわね」と複雑な表情で悩む。
「少し、見てみたい気もします」
「ほら、彼女もそういっているわ」
アシェールの言葉をすぐにとらえて、リーラは反撃する。
「楽しんでますか―?」
そこへナナセや、
「なんだ。揉め事か?」
真も姿を現す。これ以上、揉めているとあの迷探偵も来そうな気がする。
「いいですわ。着てさし上げましょう!」
「おお、物言いが貴族の娘っぽいです!」とアシェール。
「じゃあ、さっそく着替えてこようか」
リーラに連れられ、本日何度目かわからない着替え場へ行く。
パジャマに着替えるのにそう時間はいらない。
すぐに二人は戻ってくる。
「ぬいぐるみ……」とぬいぐるみのオプションをサチコは付与されていた。
「かわいいですね」
忌憚なき意見をナナセに述べられ、ほんのり顔を赤らめる。
「うっ、飲み物を取ってきますわ」
気恥ずかしさが先行し、サチコは一度別れるのだった。
●
「……一人ですの?」
「本来、人混みは苦手なんだ」
飲み物を取りに行く途中、視界の隅に奈月の姿が見えた。
すっと近づくと、立ち上がった。
「ずっと動いてるのも飽き……疲れてきたからな。サボ……休憩中だ」
「そうですの」
「この後、舞台の方でハーモニカでも吹きに行くけど、戻るのかい?」
「えぇ、飲み物を取ってくるだけですわ」
「じゃあ、それまで休憩しておこう」
そういって奈月はハーモニカの調律を始めた。
楽しみにしてますわ、とサチコは告げて去っていく。
数分後、奈月のハーモニカを含めた音楽に乗ってサチコは踊っていた。
「今日は無礼講ですし、踊ってくれませんか?」
カボチャ頭の奏音に誘われたのだ。
なれないパジャマ姿での踊りに、時折、足下を崩しては真やレイオスにぶつかってしまう。が、そこはくさっても貴族の令嬢。奏音としっかり踊り切る。
そして、今は落ち着きを得てロランの入れた紅茶に舌鼓を打っていた。
「あ、舞の……。楽しんでいますの?」
サチコは紫吹を見つけ、声をかけた。
「一応、ね。ま、未だにあのヒトを引きずってるアタシには、難しい祭だけどさ」
ふと、サチコの前では心情をこぼせた。
サチコは答えず、まっすぐと紫吹を見てその言葉を受け入れる。
「そうですの」と深くは突っ込まない。
静かな時間が流れる中、その話を聞いていたヴォーイがサチコに尋ねる。
「これ、祖先の霊を召喚する儀式ダンスらしいな」
「えぇ、リアルブルーの文献に書いてありましたわ」
「サチコさまは会いたい人、居るかい?」
サチコは即答しない。
かといって、迷っているわけでもなかった。
涼やかな風が頬を撫でると同時に、ぽつりと漏らす。
「母上……ですわ」
「そうか」
ヴォーイの声と同時に、サチコは頭を撫でられた。
ふと見れば、その手はヴォーイではなくヴァイスのものだった。
無論、中身はまだカフェである。
「……」
「なんですの?」
「……」
サチコに問われ、手を引っ込める。寂しさに耐えているようなサチコの横顔に、カフェは何もいうことはできない。ただ、ヴァイスに彼は感謝を捧げるのだった。
娘の普段は絶対にいわない言葉を、聞けたのだから。
「さ、サチコさま。祭はまだまだ続きますよ」
「今度はわ、わたくしと踊ってくれませんか?」
「やはりもう一度、攻撃力の高い服に挑戦してみないか」
賑やかな仲間が、ハンターが……そして何より「サチコ様」という領民が居る。
人々の輪に混じっていくサチコの背中を見て、ヴォーイは呟く。
「サチコさまが何を守ったのか。もっと目に焼き付けて欲しいぜ」
「それに大事なのは、今の自分は彼らの上に成り立っているって事を忘れないことさ。彼女なら、大丈夫だろう」
いつのまにか舞踏会場にも足を伸ばしていたカズマも続けていう。
彼女が守るものがれば、彼女を守るものがいる。
「どうでした、親父さん?」
「……ありがとう。ヴァイスくん。これからも、娘を頼む」
「その言い方は誤解を生みますぜ」
「当たり前だ! サチコはまだ当分、嫁にはやらん!」
これはまだ、苦労しそうだな。
心中でそっと呟くヴァイスであった。
●
あたたかな空気の裏で……一つの事件が起こっていた。
「あなた方が、ワルワル団ですね! 変態はすべからく逮捕です!」
「いや、我々はサチコさまの……」
「さては、ストーカーですか! おのれ、この名探偵クリスが許しませんよ」
もとの姿に戻れていなかったタロとジロはクリスに捕まり、連行されていったという。
王国北部に位置するルサスール領。
その中でも中央に位置し、比較的大きな町の広場は大いに盛り上がっていた。
領主の声の下、慰霊祭が開かれるというのだ。
「領民を思っての祭か、立派だな」
カボチャの入ったカゴを抱え、鞍馬 真(ka5819)は呟く。
「んんー、賑やかなお祭りですね―」
「蒼の地の催しかの。此度も腕を振るうとしよう」
ナナセ・ウルヴァナ(ka5497)や蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)も真たちの運んできたカボチャを手に取り、思い思いに調理を開始する。
「蒸してから使うとするかな」
「ついでにこっちのも蒸してくれるか?」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)が追随する横では、
「茹でるための大鍋も来たよ」
とザレム・アズール(ka0878)が並々水を入れた鍋を火にかけていた。
ついでにとレーヴェ・W・マルバス(ka0276)が小さなカボチャを合わせて茹でる。
大勢がごった返した調理場は、まるで戦場のような熱気に包まれていた。
実際、蒸したり茹でたりの蒸気が充満して、暑い。
そんな喧騒から少し離れ、生のカボチャに挑む人々がいた。
「よし、ここは俺が……」
ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)は武器のような包丁を片手に、全身へマテリアルを潤滑させ一気に筋力を増強。 その力で、包丁を一気に振り下ろす。
叩き入れられた刃が、カボチャの硬い外皮を突き破り身を真っ二つにした。
主婦層から感心する声が上がる中、サチコがふらりと姿を現した。
「見事ですわね」
「お、わるわるさー。適材適所ってやつだ。カボチャ提灯も量産するぜ」
頼もしいですわ、というサチコに、
「おう」とヴォーイは快活に笑う。
そのとき、子どもたちの笑い声があがった。
何事かと振り向けば、凰牙(ka5701)がカボチャに拳を叩き込んでいた。
「ほがー。こがカボチャめたんこ硬か! 今度は必ず割ってやるだ」
拳で割れるはずがないと思っているのか、蜜鈴に言われてカボチャを繰り抜きながら見守る子どもたちはにやついていた。
「凰よ。カボチャは本当に硬いから気をつけ……」
凰牙の兄貴分、帳 金哉(ka5666)が声を上げる前で凰牙は再び拳を振り下ろした。気を込めるのを忘れていたが、持ち前の筋力と勘所を発揮しカボチャの急所をついた。
「かかか! 貴様なかなかやるではないか」
金哉と同じく、子どもたちも大いに歓声を上げる。
カボチャは見事に、砕けていた。
「見事なものですわね」
ため息混じりにサチコが呟く。
「あの砕け方だと、スープだね。手間が省けた」
「奈月さんも料理を?」
いつのまにか、鈴胆 奈月(ka2802)が隣に立っていた。
サチコの問いかけに、いつものようにゆるい態度で答える。
「そうだな……特別上手って訳でもないけど。んー、まぁ……適当に」
「期待してますわ」
「過剰な期待には答えられないけど、やるだけやってみるよ」
見れば金哉もスープを作る準備をしている。競うつもりはないし、被るならのんびりやろうと思い直す奈月であった。
奈月と一度別れたサチコは、今度はレーヴェに捕まる。
「よいところに、ちと頭の大きさを測らせてくれ」
「え」
いわれるがまま、サチコはレーヴェに計測される。
何のためにと言う前に、夜桜 奏音(ka5754)が答えを述べた。
「サチコさんもカボチャを被るんですか?」
「正確には被ってもらうのだがな」とレーヴェ。
聞いてないけどと振り返るサチコを無視して、会話は続く。
「仮装用の衣装を持ってきてないですし、これで代用しようと思ってます」
「では、ともに作るとしよう」
「はい。あ、料理も似てますね」
奏音は、スープやグラタン、プリンをかぼちゃの器に入れようとしていた。
一方レーヴェも、カボチャごとのプリンも作ろうとしていた。
「カボチャを使うお祭りですし、器もカボチャにしたくなりますよね」
「プリンは作る人が多いみたいだね」
ロラン・ラコート(ka0363)もまた、プリン勢の一人であった。
ただし、マフィンやブリュレも含め三種のデザート作成を彼は目指す。
「俺は仮装しないけど、皆の仮装は楽しみにしてるよ」
あくまで料理をしに来たスタンスらしい。
デザート類が多いとなれば、それなりに紅茶もいるな……と思案する。
話がそれたのに乗じて、脱しようとしたサチコだったが、
「ちょうどいいところに」とザレムに話しかけられた。
「仮装、俺が持ってきたものも後で着てもらえます?」
「へ、変なのではないですよね?」
「女性専用の戦闘服ですよ」
それなら、問題無いとサチコは快諾してしまう。
「じゃあ、後でね」
ザレムのほほ笑みの意味をサチコはまだ知らない。
やっと落ち着ける。
サチコがそう思った矢先、目の前に美少女探偵が現れた。
「ワルサー総帥という悪人がいると噂で聞きました。私の名は、月詠クリス(ka0750)。名探偵にして、天才発明家です」
「む」
いきなりの自己紹介だったが、どこか近しいにおいをサチコは感じ取った。
微妙に残念なにおいだったことは、本人たちは気づかない。
「あなたは、領主の娘サチコ・W・ルサスールさんですね」
「そうですわ」
「はじめまして。早速ですがワルサー総帥についてご存知のことをお伺いしたく……」
「彼女でしたら、すでにこの会場に侵入していますわ」
「なんと!」
「何を隠そう、この……」とサチコが言いかけた時。
「おのれ、ワルサー総帥、逃しはしませんよ!」
クリスはすでに点となって、広場の彼方にいるのだった。
「……」
そして、サチコは一人残された。
●
料理の準備が着々と進む中、別の場所でとある準備も始まっていた。
「またせたな、親父さん。サチコの衣装、じっくりと話しあおうぜ」
「うむ」
姿を現したのは、ヴァイス(ka0364)。待ち構えていたのは、領主カフェであった。
ヴァイスは徐ろにサチコの衣装提案を始める。
それは黒のとんがり帽子、ローブそしてミニスカという魔女っ子衣装だった。
「ほう。似合いそうだな」
「だよな。せっかくだし、途中で俺と入れ替わらないか?」
「入れ替わる……?」
ヴァイスは全身を覆うマント、シルクハット、そして顔を隠すオペラマスクを取り出す。今宵はこの恰好で、顔や背格好がわからないようにするのだという。
「ふむ」
「もし、二人で出ちまった時は兄弟とでもごまかすさ」
「心遣い痛み入る」と頭を下げようとしたカフェを手で制す。
「お互い楽しむためだ。礼には及ばないさ」
「ふむ……それにしても」
「あぁ、楽しみだな」
なにも暗躍はここだけではない。
サチコに何を着せるのか……これは重要なインシデントなのであった。
●
祭の準備も終わりを迎え、様子を見に来たサチコは
「へくち」とくしゃみを一つした。
「風邪か?」
心配そうに問いかけるのは、龍崎・カズマ(ka0178)だ。
「いえ、そういうわけでは……」
「ならいいが、できるだけあったかい食べ物を食べるんだな」
カズマは言いながら、まるごとカボチャのグラタンを取り出す。
ぐつぐつと焼色のついたチーズが食欲をそそる。
「開会式が始まるのじゃ、さ、着替えるぞ」
「え」とやってきたレーヴェに連れて行かれるサチコにカズマは告げる。
「今日は騒ぐだけじゃない。亡くなった人を思い、一緒に楽しむという主眼を忘れずにな」
着替え場に消える直前、サチコはカズマの言葉にしっかりと頷くのだった。
●
「ハーハッハッハ! 俺様がワルサー総帥なのだぜ!」
カボチャ頭を付け、いつものゴシックドレスを纏ったサチコが壇上で宣う。その隣には血まみれのシェフに扮したレーヴェとファントムを着たヴォーイが控えていた。
わかっている領民は暖かくサチコの言葉に聞き入っていた……のだが。
「ふっふっふ、私は天才発明家にして名探偵の月詠クリス! その衣装……貴女がワルサー総帥ですねっ!」
インバネスコートにパイプを持って、クリスが参上。
壇上に上がって、対峙する。
「その通りで……だぜ!」と久々の口調に苦労しつつ、カボチャを外す。
次の瞬間。クリスは、
「え、これは仮装パフォーマンスだったのですか!?」と口走った。
「は?」
意外な反応に戸惑うサチコをよそに、クリスの暴走は止まらない。
「領主様の一人娘が悪人なわけないですものね! おのれ、本物はどこに……!」
勝手に納得し、再び疾走。領民の中に溶け消えていった。
一人残されたサチコは、「私、本物ですわ」とひとりごちるが声は届かない。
「あー、よっし、今日は亡くなった人との思いを胸に思いっきり楽しもうぜ!」
とっさに近くで見守っていたヴォーイがサチコの後を継ぐ。
「そ、そうですわ。皆様、本日は楽しみましょう!」
ヴォーイに助けられ、サチコも最後の挨拶をしっかりと締めるのだった。
●
祭の開始宣言とともに様々な料理が、運ばれてくる。
「って、カボチャ~? ったく肉とか酒とかだろ。普通祭ったらよ~」
へそ出しルックな狼女の恰好で、ボルディア・コンフラムス(ka0796)は不満を漏らしていた。
「まずは、カボチャサンドだな。カボチャサラダとレタスを挟んだお手軽料理」
「こっちはシチューにまるごとグラタン。作ってるのは、妾だけではないようじゃ」
レイオスと蜜鈴、加えてカズマも料理を運んでくる。
「俺を含めて少なくとも3つ以上あるな……」
「スープも被ってますね。鍋で温めたままにしたほうがいいかも」
カボチャを被った奏音も、そう進言する。
作りすぎたのでは、と所狭しと並ぶ料理を見て蜜鈴は思う。キョンシーの仮装で付けた札をいじりつつあたりを見渡せば、
「こんなもんじゃ腹も膨れ……ウマっ」
とがっつり食べるボルティアや、
「にいさ! にいさ!こがんばがぼちゃ料理、全部食べてよがだ? オラたらふくくいてぇだ!」
「ふむ。これだけ多くこさえてあれば、構わんのじゃないか。食え食え」
金哉の許しを得て、がつがついく凰牙もいる。
近隣の領民もこぞって来ているのだし、問題ないだろうと思えた。
「お肉ならきのことかぼちゃの炒めものに、入れてますよ」
と、熊耳をつけたナナセも追加を持ち寄る。
ザレムも鴨ステーキのパンプキンソースがけを並べていた。それなりに肉もあるようだ。
「おまえは、いつぞやのクラブサンド強奪魔! まさか味をしめてまた奪いに!」
レイオスの声に全員が振り向く。サチコだった。
「え、あーえー、そ、その通りなので……だぜ!」
ぐでぐでだった。
「ちょうどいいところに、さっきの……」
ザレムが話しかけようとした時、遠くから強奪という言葉に反応したクリスが駆け寄ってきた。その音に、サチコはひとまず逃げ出してしまうのだった。
●
「一時撤退です……なのだぜ」
「わるわるさー。リアルブルーの料理はいかが?」
辿り着いた先で真は、かぼちゃの煮つけを差し出した。
甘辛いカボチャの煮つけに舌鼓を打っていると、エルバッハ・リオン(ka2434)が姿を笑わした。
「リアルブルーで行われている慰霊祭ですか。しかし、私の知っているのとは違うようですが、それは言わないほうがいいのでしょうね」
そんな呟きをしつつ、彼女もカボチャ料理を受け取る。
意気揚々と久々のに総帥口調のサチコを見て、
「日常が戻ってきたと喜ぶべきなのでしょうか」と複雑な表情を見せる。
「ほくほくして美味しいですわ」
「一部のリアルブルー出身者には、懐かしい味だよ」
だが、サチコの面がデフォルトにはなってきているようだ。
「サチコさん。新しい衣装ですよ。着ましょう」
「え」と魔法少女姿のエルを見る。彼女が持ってきたのは、自分とお揃いの魔法少女の衣装だった。ただし、色は白色……ワルサー総帥の黒とは真逆の色だ。
「えと……」と躊躇いがちな彼女に、エルは告げる。
「前にも同じようなことを言いましたが、真のワルならば、これくらい軽く着こなすくらいできないといけないのではないかと思います」
「そう、いうなら……」
「それでは着替え場に行きましょうか」
承諾したサチコをエルは着替え場へと連れて行く。
その後姿を、リーラ・ウルズアイ(ka4343)が眺めていた。
「一足遅かったわね……あなたが渋るかかしら?」
横を見れば、柊 真司(ka0705)の渋面があった。
半ば強引に、ハロウィンと盆踊りを混ぜたような謎の祭に連れてこられた真司はしょっぱなから嫌な予感が全開だった。
「みんな仮装してるし、嫌な予感してたんだよな」
「いいじゃない。楽しいし」
「ほんと、なんか企んでそうな顔してると思ったら、俺の分も用意してるとか周到だな、オイ」
当たり前よ、とリーラはいう。
「サチコと三人、お揃いにしたいんだから」
「それが何でパジャマなんだよ。仮装なのかこれ? それに男のパジャマ姿って何処に需要があるんだよ!?」
青の星柄パジャマを先んじて着せられた真司は、リーラにがなる。
それを宥めるように……いや煽っているような笑顔で答える。
「普段とは違う恰好でギャップ萌えっていうのかしら。需要ありそうじゃない?」
「あるか!」
そう文句を言いながらも着ているのは、抵抗が無駄だと知っているからだ。
真司の嘆息は、祭の喧騒に消えていくのだった。
●
「やっと会えました!」
着替え場でアシェ-ル(ka2983)は、サチコを見て駆け寄ってきた。
貴族の娘で覚醒者、アシェールにとっては憧れの的だった。祭の会場が広くて、中々巡り会えなかったのだが……。
「お手伝いしますよ」と待っていたのだ。
本当に着替えるのかとエルをちらり見るサチコに、アシェールは告げる。
「千変万化の総帥なんて、かっこいいです!」
「なら、やってみますわ!」
ちょろかった。
「じゃあ、早速」とサチコの着替えをアシェールは手伝う。
その途中。
「胸が……」
「ん?」
「あ、いえ……なんだか、安心しました」
という一幕があったのだが、サチコは気にしないことにした。
隣に立つ同じ服装のエルと何かが決定的に違うきもしたが、気にしないことにした。
「完成です! 似合ってますよ」
「う、あ、はい」
やはりミニスカートは落ち着かないのか、裾をそっと握ってしまう。
一方のアシェールも浴衣「遊女」を纏っていた。
「それじゃあ、お披露目に行きましょう」
アシェールたちに付き添われ、サチコは踊りの会場へ赴くのだった。
●
踊りの会場では、一際目立つ人だかりがあった。
和の音楽に彩られたそこでは、一人の太夫が艶やかに舞っていた。
綺羅びやかな扇子を右へ左へ、上へ下へと動かしては止める。
「はぅ」
遊女を模した浴衣を着たアシェールは、その姿にため息を漏らす。
舞い踊る女性の名は、紫吹(ka5868)。心静かに、無となり有となり……花開く変幻自在な様で人々を魅了する。
舞い終わると同時に、止めどない拍手が続く。
「アンタがサチコ、だね。楽しんでもらえたかい?」
「見事でしたわ」
近くで見れば雰囲気はさらに増す。派手で艶やかでしっとりと、それでいて気品ある女性だった。
「それはよかった。慰霊祭……節目ってヤツだねぇ。楽しむんだよ。アタシも……そうするからねぇ」
笑みを浮かべて、紫吹は人々を惹きつけながら去っていく。
その笑みが少しさみしげに見え、サチコは声をかけようとしたのだが彼女を追う男たちに邪魔されてしまうのだった。
「次の……が、始まりそうだな」
いつのまにかヴォーイも隣に来ていた。
「……息が切れてますわよ」
「子どもたちって……元気だな!」
子どもたちをスウィングして遊んであげていたらしい。
子どもの相手というのは、ハンターとはいえ重労働なのだ。
「お、なんかスゴイ音楽が流れだしたな!」
紫吹とは一風変わった和の音楽。より重々しく激しい旋律が流れだす。
壇上に登場したのは、クマドリに紅白の重たいカツラを被った二人の少女だった。歌舞伎の衣装を纏っているが、その体の小ささや動きの繊細さは少女だと知れる。
その正体は、天竜寺 舞(ka0377)と天竜寺 詩(ka0396)の姉妹だ。
音楽に合わせ力強く飛び跳ね、回り、見得を切る。
「おぉぅ」
ドン、と時折音を立てる激しい舞いに思わずサチコは息を呑む。
舞い踊る本人たちは、必死だった。
無論、失敗したからといって誰に咎められるわけでもない。だが、彼女らの父親たちが行ってきたそれを成功させたいのは意地だった。
踊ることは楽しい。が、それを置いても首を振り、重たいカツラをぶん回して毛をなびかせるのは辛い。
後半に差し掛かるにつれ、ふんばらないと毛に体が持って行かれそうになる。舞が横目で見れば、明らかに詩の息が上がっていた。
「何とか……あと少しだから」
舞は詩に目配せで、そう伝える。
残る気力を振り絞って、最後の一振りを通り切る。ドンっという大きな足音を打ち鳴らし、見えを切る。音楽が止まるとともに、盛大な拍手が起こった。
崩れかけた詩を支えるように抱き、舞はささやく。
「頑張ったね」
●
「あ、サチコ! じゃなくて、今は総帥だね。どうだった?」
「どちらでも、かまいませんわ……どうだったとは」
「その前に、こっちはあたしの妹だよ。さっきの舞、二人でやったんだ」
初めて知ったという顔で、サチコは感心する。
「温かいスープだ。どうぞ」と通りかかったカズマが詩と舞にスープを手渡す。
踊り終わって疲れた身体に、甘いカボチャのスープはよく染み渡る。
「あれ。この人、前に一番大事なものを知りたがってた……」
「……それは過去の話ですわ」とサチコはどこか気恥ずかしそうな顔を見せる。
やや黒歴史化していた。
「おねえちゃんといつの間にか友達になってたんだ」
「そうだよ」
わいきゃいとあれやこれや話している間に、再び話題は踊りのことへ。
「せっかくだから、隈取を施してあげよう」
「あ、隈取は面白そうだよね。是非やってもらわなくちゃ」
「え」
「じゃあ、恰好も着替え用か。その恰好じゃ合わないしね」
「え」
戸惑う間に、サチコは再び連れて行かれるのだった。
そして、気がついた時には何故か壇上にいた。
連獅子を踊るわけではなく、金哉に登らされたのだ。
「踊る阿呆に見る阿呆というのがある。貴様も一緒に踊るがよい!」
羽織の布と傘を用いて踊る金哉に合わせて、見よう見まねでサチコも踊る。
「さっすがオラのにいさだべ! こぎゃん踊り場見れてオラはしあーせもんだべ!」
「凰よ。上がってこい!」
「え、オラは駄目だべさ。踊りば、よう踊れんさ」
「関係ない。この娘も見よう見まねだ。さぁ、一緒に踊るがよい!」
引っ張りあげられる形で凰牙も壇上に連れ出される。気がつけば、誰も彼も上がったり踊ったりでわちゃわちゃになっていた。
●
「つ、疲れましたわ」
「お疲れ様です!」とアシェールはサチコに水を差し出す。
気がつけば、彼女とヴォーイに加えてヴァイス(?)の姿もあった。
「あなたも一緒に?」
「……」と黙して語らないのは、喉を傷めたのだとさっき聞いていた。
わずかに頷いて、答え代わりにする。ちなみに中身はカフェなのだが、パルムのキノを携えているのでヴァイスだと誤認させるのは簡単だった。
ちなみにキノは記録係として大いに働いていた。
「お、ちょうどいいところに」
加えてボルティアが腹を満たして現れた。返事を待たずにサチコは連れて行かれてしまった。
「……」と静かに見守るヴァイス(カフェ)は、サチコの楽しげな様子に静かに頷くのだった。
「た、大変な目にあいましたわ」
「せっかくの祭りだし、着飾らないとな。いやー、庶民の言うことを聞いてくれるなて。さすが、ワルワル団団長だなー」
持ち上げられながら、サチコが着せられたのはフリル満載、レースも重ねに重ねた綺羅びやかなドレスだった。カフェに100ポイントのダメージが入る。
「本当にお姫様みたい……」とアシェールは見惚れる。
そこへ、駆け寄ってくる2つの人影があった。
「探しましたぞ、サチコ様!」
「やっと、合流……できた」
「その声は、タロ……ジロ?」
人影の正体は、従者のタロとジロだったのだが……。
タロは何故か総帥としていつも纏っているようなゴス風ドレス、ジロは魔法少女な衣装を纏っていた。筋肉質な二人がそれらを纏うと、破壊力抜群だった。
「くっ……ぷっ……ぷくく」
おもにサチコの腹筋に対して。
「サチコさーん」
そこに黒幕、最上 風(ka0891)がやってきた。
「タロさん&ジロさんの仮装はどうですかー。なかなか似合いませんかー?」
返事がない。
サチコは抱腹絶倒のようだ。
倒れてドレスが汚れないようアシェールが支えていた。
「その様子だと、かなり気にいってもらえたみたいですねー」
「……」
タロとジロはふと、ヴァイス(仮)の様子に気づいた。無論、中身がカフェであることにも察しがついた。
「弁明を! サチコ様、弁明させてください!」
実際にはカフェに当てた弁明を、タロは叫ぶ……。
小一時間ほど前、サチコがエルにドナドナされたとき、流石に着替え場の中に入るわけにはいかず二人は手持ち無沙汰だった。
そこに現れたのが、風だ。
「さて、お二人とも仮装してください」
「は?」
タロとジロは、「何言ってんだこいつ」みたいな表情で風を見る。
だが、風は気にする様子もなく、衣装を取り出した。
「ジロさんは魔法少女好きなので、魔法少女の仮装です。どうですか嬉しいですか?」
「ふむ……」
「ふむじゃない、ジロ」
「嬉しそうでなによりです。で、タロさんは何マニアか不明なのでワルサー総帥の仮装をどうぞー」
「いや、そもそも我々は……」
断ろうとするタロだが、風が引くわけがない。
「さぁさぁ、お二人の主が、皆さんにいぢられているのだから、従者のお二人もいぢられてくださいねー」
「一理ある」とジロが受け入れかけ、タロは抵抗するも無駄に終わる。
半ば強制的に連行され、戻ってきた時にはサチコの姿もなかった。
しかも、サチコは二人の存在を忘れていた……。
「いや、それ……ってジロは受け入れましたの!?」
「結構、のりのりでしたねー。踊りにもいってましたし」
タロは頭を抱え続けていたという。
二人のそばにヴァイス(領主)が近づいて、肩をつかむ。ビクッと二人が震えたが、逃げ場などなかった。
一方のサチコも、
「そろそろ次の衣装、いってみようか」
「いつの間に!?」
ザレムに肩をつかまれていた。逃げ場などなかった。
戻ってきたサチコは純白のウェディングに身を包み、顔を耳の先まで真っ赤にしていた。この衣装が何であるのか知識はないが、何か特別な重みを感じていた。
「これは、ない……絶対にないですわ!」
「何がないんだい?」
「いや、女性用の戦闘服という話でしたわよね!? 絶対に違いますわ!?」
「攻撃力高いぞー。すごく強そうだ」
「ザレムさんのいうとおりですよー。風もそう思いますー」
タロジロいじりも一段落した風が、横から口を出す。
アシェールは貴族だ、と感心していた。
「それに、似合ってるぞ」
「それについては同意だな」とヴォーイが深く頷く。
四面楚歌な状況で、サチコはなおも抵抗する。
「こ、攻撃力が高いというのは、やっぱり嘘ですわよね?」
「えっ、ウソじゃないよ。ほら、KOされている人が」
ザレムに言われて振り返れば、ヴァイス(サチコの父)が倒れていた。
「ヴァ、ヴァイスさん!?」
タロとジロに支えられながら、祭の会場から退場していく。
心配そうに近づこうとするサチコを風が止める。
「カ……彼ならだいじょうぶですよー。後で風が治療しておきますからー」
「さ、サチコは祭を楽しもうぜ」
ヴォーイもフォローに回り、カフェを逃がす。
サチコが「そうですわね」と納得したので、事なきを得た。
「いや、それはそれとして、この恰好は……」
「ほら、マテリアルが高まってるぞ?」
まだまだ、いじられるサチコであった。
●
しばらくして、祭を彩る踊りも激しいものから落ち着いたものに変わる。
「やっと軽くなりました」
サチコの恰好も元鞘の総帥服へ戻っていた。
「攻撃力がもとに……」
「それは、もういいですから!」
ザレムの言葉に、サチコは即座にツッコミを入れる。
「それじゃあ、今度はこちらなんてどうかしら?」
「今度は……なんですの……」
声した方を見れば、リーラがパジャマを持って構えていた。
「やっと会えたわ。さぁ、早速着替えるわよ?」
「なんでパジャマ……」
「今回のお祭りは両方とも夜に行うもの。それにだいぶ日も落ちてきたから、パジャマでも問題無いわ」
「人に見せるものでは、ありませんわ!?」
「そうだな、うん。俺もそう思う」
しみじみとリーラの隣で真司が同意を示す。
だが、無意味だ。
「今までの仮装よりはいいんじゃない?」
「……」
少し考えて、
「一緒ぐらい……ですわね」と複雑な表情で悩む。
「少し、見てみたい気もします」
「ほら、彼女もそういっているわ」
アシェールの言葉をすぐにとらえて、リーラは反撃する。
「楽しんでますか―?」
そこへナナセや、
「なんだ。揉め事か?」
真も姿を現す。これ以上、揉めているとあの迷探偵も来そうな気がする。
「いいですわ。着てさし上げましょう!」
「おお、物言いが貴族の娘っぽいです!」とアシェール。
「じゃあ、さっそく着替えてこようか」
リーラに連れられ、本日何度目かわからない着替え場へ行く。
パジャマに着替えるのにそう時間はいらない。
すぐに二人は戻ってくる。
「ぬいぐるみ……」とぬいぐるみのオプションをサチコは付与されていた。
「かわいいですね」
忌憚なき意見をナナセに述べられ、ほんのり顔を赤らめる。
「うっ、飲み物を取ってきますわ」
気恥ずかしさが先行し、サチコは一度別れるのだった。
●
「……一人ですの?」
「本来、人混みは苦手なんだ」
飲み物を取りに行く途中、視界の隅に奈月の姿が見えた。
すっと近づくと、立ち上がった。
「ずっと動いてるのも飽き……疲れてきたからな。サボ……休憩中だ」
「そうですの」
「この後、舞台の方でハーモニカでも吹きに行くけど、戻るのかい?」
「えぇ、飲み物を取ってくるだけですわ」
「じゃあ、それまで休憩しておこう」
そういって奈月はハーモニカの調律を始めた。
楽しみにしてますわ、とサチコは告げて去っていく。
数分後、奈月のハーモニカを含めた音楽に乗ってサチコは踊っていた。
「今日は無礼講ですし、踊ってくれませんか?」
カボチャ頭の奏音に誘われたのだ。
なれないパジャマ姿での踊りに、時折、足下を崩しては真やレイオスにぶつかってしまう。が、そこはくさっても貴族の令嬢。奏音としっかり踊り切る。
そして、今は落ち着きを得てロランの入れた紅茶に舌鼓を打っていた。
「あ、舞の……。楽しんでいますの?」
サチコは紫吹を見つけ、声をかけた。
「一応、ね。ま、未だにあのヒトを引きずってるアタシには、難しい祭だけどさ」
ふと、サチコの前では心情をこぼせた。
サチコは答えず、まっすぐと紫吹を見てその言葉を受け入れる。
「そうですの」と深くは突っ込まない。
静かな時間が流れる中、その話を聞いていたヴォーイがサチコに尋ねる。
「これ、祖先の霊を召喚する儀式ダンスらしいな」
「えぇ、リアルブルーの文献に書いてありましたわ」
「サチコさまは会いたい人、居るかい?」
サチコは即答しない。
かといって、迷っているわけでもなかった。
涼やかな風が頬を撫でると同時に、ぽつりと漏らす。
「母上……ですわ」
「そうか」
ヴォーイの声と同時に、サチコは頭を撫でられた。
ふと見れば、その手はヴォーイではなくヴァイスのものだった。
無論、中身はまだカフェである。
「……」
「なんですの?」
「……」
サチコに問われ、手を引っ込める。寂しさに耐えているようなサチコの横顔に、カフェは何もいうことはできない。ただ、ヴァイスに彼は感謝を捧げるのだった。
娘の普段は絶対にいわない言葉を、聞けたのだから。
「さ、サチコさま。祭はまだまだ続きますよ」
「今度はわ、わたくしと踊ってくれませんか?」
「やはりもう一度、攻撃力の高い服に挑戦してみないか」
賑やかな仲間が、ハンターが……そして何より「サチコ様」という領民が居る。
人々の輪に混じっていくサチコの背中を見て、ヴォーイは呟く。
「サチコさまが何を守ったのか。もっと目に焼き付けて欲しいぜ」
「それに大事なのは、今の自分は彼らの上に成り立っているって事を忘れないことさ。彼女なら、大丈夫だろう」
いつのまにか舞踏会場にも足を伸ばしていたカズマも続けていう。
彼女が守るものがれば、彼女を守るものがいる。
「どうでした、親父さん?」
「……ありがとう。ヴァイスくん。これからも、娘を頼む」
「その言い方は誤解を生みますぜ」
「当たり前だ! サチコはまだ当分、嫁にはやらん!」
これはまだ、苦労しそうだな。
心中でそっと呟くヴァイスであった。
●
あたたかな空気の裏で……一つの事件が起こっていた。
「あなた方が、ワルワル団ですね! 変態はすべからく逮捕です!」
「いや、我々はサチコさまの……」
「さては、ストーカーですか! おのれ、この名探偵クリスが許しませんよ」
もとの姿に戻れていなかったタロとジロはクリスに捕まり、連行されていったという。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/06 16:34:40 |
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相談卓 最上 風(ka0891) 人間(リアルブルー)|10才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/12/06 16:36:28 |