ゲスト
(ka0000)
優しくなんかしてやらない
マスター:波瀬音音

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/10 19:00
- 完成日
- 2015/12/25 03:58
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●かき乱される
村の中心にある教会に、あたしを含めた村人たちは集まっていた。
村を囲む森に現れた雑魔を討伐しに、これからハンターが来るというのだけれど、自分たちの安全の為に一ヶ所に集まるようにしたのだ。そんなことはないと信じたいけれど、ハンターと戦闘中に雑魔が村に逃げてきたら……なんていう『万一』の事態に備える為だ。
あたしは教会の隅で、雑魔の影に怯えたり、でもハンターが来てくれるからもう大丈夫と安堵したりしている村の人達を見て、ざらついた感情を持て余していた。
あの時と似ている。
なんとなくそんなことを考えて鼓動を鎮めるように胸を押さえつけていると、
「ルネはどこ!? まだ来ていないの!?」
ある夫人の、そんな悲痛な叫びが教会中に響いた。
一瞬場が静まり返り、次に先程とは違うざわめきが起こり始める。
更にその直後、
「ぼく、あいつが行ってる場所に心当たりがあるので行ってきます!」
まだ声変わりもしていない男の子が叫んだ。
声の主――クレールは、大人たちが反応を返す前にはもう教会の扉のところまで行っていた。
その姿を見て、あたしの中でさっきまでとは別種の気持ちがざわめく。
「だめだよ、母さん! クレールなら戻ってくるってば! 待ってようよ!」
「あの子はまだ、友達と一緒じゃないと森で迷っちゃうのよ……!」
あの時の記憶が、あたしの中でフラッシュバックする。
だから今度も、「やめてよ、なんでそこであんたが行くのよ」と言いたかった。
でもクレールは、その前に既に教会を飛び出していた。
あたしは、一歩も動けなかった。
●とある姉弟のはなし
クレールがあたしの弟になったのは、あたしが六歳の頃だった。
彼とは、血は繋がっていない。
孤児院にいたところを、父さんが引き取って養子にしたのだ。
理由はわかっている。
あたしの為。
もちろん他にも色々あるだろうけど、少なくとも自分が理由になるだけの自覚はある。
父さんは仕事が忙しくて、家にいないことが多い。
兄弟もいない。
そして母さんは、あたしを産んだ後あたりから病気がちで、もう子供は望めないだろうと言われていた。
そうと知るのはクレールが来てから少し後の話になるのだけれども、それまでにあたしがどれだけ「弟か妹がほしい」と言っていたかと思うと、母さんに謝りたい気持ちでいっぱいになったものだった。
幸い、小さい村の中にある割に、あたしの家は決して貧しい訳ではなかった。
思うように動けない母さん、幼かったあたし以外にもお手伝いさんがいたりしたのだけど、寂しいものは寂しい。
だから、ある時帰ってきた父さんがクレールを連れてきたのだった。
突然の環境の変化にビックリしていたんだと思う。
当時まだ三歳だったクレールは、よく泣いた。
その度に彼を落ち着かせたのは、母さんだった。
……ただでさえベッドの上にいる時間が長くなっていた母さん。
クレールがきてからというもの、あたしが母さんとふれあえる時間は彼に奪われるかたちで少なくなった。
別に姉弟仲が悪いわけじゃなかった。あたしも「お姉さん」であろうと頑張ったし、クレールだって懐いてくれた。
でも、あたしでは母性までは埋められない。
だから仕方ないといえば仕方ないのだけど、それが寂しくて、そして悔しく思うこともあって――。
そして、あの日は訪れた。
三年も経てば、クレールも大分村に溶け込んだ。小さい村だけど、同世代の友達が何人か出来たらしい。村にはあたしとは同い年の子がいないから、ほんの少し羨ましかった。
でもその頃から、森には雑魔が現れるようになっていた。
雑魔の脅威と恐怖を、その時クレールたちはよく知らなかった。
あたしも、その点は人のことは言えない。
ハンターが雑魔討伐に来るにあたり念の為と村人たちが教会に集められて、あたしも初めて「そういうものだ」と知ったのだから。
集められた人々の中に、クレールの姿はなかった。
たまたま身体の調子が良かったのも手伝って、母さんはあたしや周りの制止を振り切って森に行き――。
次にクレールとともにハンターに発見された時には、もう助からない命になっていた。
あんたが、教会に居なかったから。
あんたが、あの時まだ森になんて居たから。
あんたが、この家に来たから――母さんは、死ななくていい時に、死んだ。
それ以来、あたしはろくにクレールとは口をきいていない。
当初、クレールは何度も泣きそうになりながら謝りにきたけれど、あたしは聞かなかった。
そのうち空気でも読んだのか、クレールがあたしに話しかけてくることもなくなって。
あたしもクレールも、家ではお手伝いさんか、たまに帰ってくる父さんとしか話さなくなっていた。
それなのに。
どうして今ここで、あんたが、あの時の母さんと同じことをするの。
今更何をやったって母さんは帰ってこない。それはわかっているはずなのに。
いや――違う、そうじゃないんだ。
あの時雑魔を倒したハンターが、気を失っているクレールをあたしのところに連れて来て言ったことを、不意に思い出す。
「もう事切れそうなのは、私たちの目からはすぐ分かった……。
それでもこの子は、泣きそうな顔だったけど、お母さんを守ろうと必死になって雑魔の前に立ち塞がろうとしていたよ」
守りたい。母さんを、友達を。
あの時も今も、ただそれだけで身体を動かしている。
泣き虫なのに。
――でもそんなのってないよ。
これであんたがあの時の母さんみたいなことになったら、あたしはどうすればいいっていうの?
そんなのは絶対に嫌だ。
だって何があってももう、クレールはあたしの弟なんだ。
考えれば考えるほど、頭の中に激しい感情が駆け巡る。
そんな時、あたしにとっては恐ろしいほどのタイミングの良さで、村人の安全を確認しに来たハンターたちが教会へ入ってきた。
いてもたってもいられなかった。あたしは思い切り教会の中を走り抜けるとハンターたちの前に躍り出て、叫んだ。
「早く行って!
ルネだけじゃなくクレールも――あたしの家族を、助けてよッ!!」
村の中心にある教会に、あたしを含めた村人たちは集まっていた。
村を囲む森に現れた雑魔を討伐しに、これからハンターが来るというのだけれど、自分たちの安全の為に一ヶ所に集まるようにしたのだ。そんなことはないと信じたいけれど、ハンターと戦闘中に雑魔が村に逃げてきたら……なんていう『万一』の事態に備える為だ。
あたしは教会の隅で、雑魔の影に怯えたり、でもハンターが来てくれるからもう大丈夫と安堵したりしている村の人達を見て、ざらついた感情を持て余していた。
あの時と似ている。
なんとなくそんなことを考えて鼓動を鎮めるように胸を押さえつけていると、
「ルネはどこ!? まだ来ていないの!?」
ある夫人の、そんな悲痛な叫びが教会中に響いた。
一瞬場が静まり返り、次に先程とは違うざわめきが起こり始める。
更にその直後、
「ぼく、あいつが行ってる場所に心当たりがあるので行ってきます!」
まだ声変わりもしていない男の子が叫んだ。
声の主――クレールは、大人たちが反応を返す前にはもう教会の扉のところまで行っていた。
その姿を見て、あたしの中でさっきまでとは別種の気持ちがざわめく。
「だめだよ、母さん! クレールなら戻ってくるってば! 待ってようよ!」
「あの子はまだ、友達と一緒じゃないと森で迷っちゃうのよ……!」
あの時の記憶が、あたしの中でフラッシュバックする。
だから今度も、「やめてよ、なんでそこであんたが行くのよ」と言いたかった。
でもクレールは、その前に既に教会を飛び出していた。
あたしは、一歩も動けなかった。
●とある姉弟のはなし
クレールがあたしの弟になったのは、あたしが六歳の頃だった。
彼とは、血は繋がっていない。
孤児院にいたところを、父さんが引き取って養子にしたのだ。
理由はわかっている。
あたしの為。
もちろん他にも色々あるだろうけど、少なくとも自分が理由になるだけの自覚はある。
父さんは仕事が忙しくて、家にいないことが多い。
兄弟もいない。
そして母さんは、あたしを産んだ後あたりから病気がちで、もう子供は望めないだろうと言われていた。
そうと知るのはクレールが来てから少し後の話になるのだけれども、それまでにあたしがどれだけ「弟か妹がほしい」と言っていたかと思うと、母さんに謝りたい気持ちでいっぱいになったものだった。
幸い、小さい村の中にある割に、あたしの家は決して貧しい訳ではなかった。
思うように動けない母さん、幼かったあたし以外にもお手伝いさんがいたりしたのだけど、寂しいものは寂しい。
だから、ある時帰ってきた父さんがクレールを連れてきたのだった。
突然の環境の変化にビックリしていたんだと思う。
当時まだ三歳だったクレールは、よく泣いた。
その度に彼を落ち着かせたのは、母さんだった。
……ただでさえベッドの上にいる時間が長くなっていた母さん。
クレールがきてからというもの、あたしが母さんとふれあえる時間は彼に奪われるかたちで少なくなった。
別に姉弟仲が悪いわけじゃなかった。あたしも「お姉さん」であろうと頑張ったし、クレールだって懐いてくれた。
でも、あたしでは母性までは埋められない。
だから仕方ないといえば仕方ないのだけど、それが寂しくて、そして悔しく思うこともあって――。
そして、あの日は訪れた。
三年も経てば、クレールも大分村に溶け込んだ。小さい村だけど、同世代の友達が何人か出来たらしい。村にはあたしとは同い年の子がいないから、ほんの少し羨ましかった。
でもその頃から、森には雑魔が現れるようになっていた。
雑魔の脅威と恐怖を、その時クレールたちはよく知らなかった。
あたしも、その点は人のことは言えない。
ハンターが雑魔討伐に来るにあたり念の為と村人たちが教会に集められて、あたしも初めて「そういうものだ」と知ったのだから。
集められた人々の中に、クレールの姿はなかった。
たまたま身体の調子が良かったのも手伝って、母さんはあたしや周りの制止を振り切って森に行き――。
次にクレールとともにハンターに発見された時には、もう助からない命になっていた。
あんたが、教会に居なかったから。
あんたが、あの時まだ森になんて居たから。
あんたが、この家に来たから――母さんは、死ななくていい時に、死んだ。
それ以来、あたしはろくにクレールとは口をきいていない。
当初、クレールは何度も泣きそうになりながら謝りにきたけれど、あたしは聞かなかった。
そのうち空気でも読んだのか、クレールがあたしに話しかけてくることもなくなって。
あたしもクレールも、家ではお手伝いさんか、たまに帰ってくる父さんとしか話さなくなっていた。
それなのに。
どうして今ここで、あんたが、あの時の母さんと同じことをするの。
今更何をやったって母さんは帰ってこない。それはわかっているはずなのに。
いや――違う、そうじゃないんだ。
あの時雑魔を倒したハンターが、気を失っているクレールをあたしのところに連れて来て言ったことを、不意に思い出す。
「もう事切れそうなのは、私たちの目からはすぐ分かった……。
それでもこの子は、泣きそうな顔だったけど、お母さんを守ろうと必死になって雑魔の前に立ち塞がろうとしていたよ」
守りたい。母さんを、友達を。
あの時も今も、ただそれだけで身体を動かしている。
泣き虫なのに。
――でもそんなのってないよ。
これであんたがあの時の母さんみたいなことになったら、あたしはどうすればいいっていうの?
そんなのは絶対に嫌だ。
だって何があってももう、クレールはあたしの弟なんだ。
考えれば考えるほど、頭の中に激しい感情が駆け巡る。
そんな時、あたしにとっては恐ろしいほどのタイミングの良さで、村人の安全を確認しに来たハンターたちが教会へ入ってきた。
いてもたってもいられなかった。あたしは思い切り教会の中を走り抜けるとハンターたちの前に躍り出て、叫んだ。
「早く行って!
ルネだけじゃなくクレールも――あたしの家族を、助けてよッ!!」
リプレイ本文
●
正直なところ、カイン・マッコール(ka5336)は敵がゴブリンでないと知った時点でキャンセルして帰ろうかとも考えていた。
けれども、ひとまず他のハンターと一緒に教会に入ったことから、彼の中でも事情が変わる。
唐突な少女の叫びに、ハンターたちは流石に最初は面食らった。
けれども、周りの村人に聞いて簡潔ながら事情を把握すると――、
「金が必要になったので、仕事はします」
口からはそんな言葉が出たけれど、本心では別の感情もある。家族を喪う辛さは、彼もよく知っていた。
一方でディーナ・フェルミ(ka5843)は一歩前に出、未だ昂ぶった感情を露わにしたままのリヌと目を合わせる。
そして彼女の頭を、そっと撫でた。
「うん、大丈夫だよ?
必ずルネちゃんとクレール君を無事に連れ帰るから……二人が居そうな場所、教えて貰える?」
「……わかんない」
リヌは目の端に雫を浮かべたままだったけれど、穏やかな声のおかげで少しだけ落ち着きを取り戻したらしい。消え入りそうな声でそう呟いた。
すると、
「たぶんデカい木のところか小屋だと思う!」
周りで話を聞いていた人々の中から幼い声が上がった。大人たちの間をすり抜けて、一人の少年がハンターたちの前に現れる。
「皆であのどっちかでよく遊んでたから……」
その話を聞いたハンターたちは、視線を交錯させる。二手に別れる必要がありそうだ。
ディーナの声は、優しいながらも教会の中でよく響いていた。だからこそ、リヌも村人たちも最初よりは落ち着いていたし、少年の情報も得られたと言える。
彼女は出掛けに、リヌを優しくハグする。
「じゃ行ってくるね? お姉ちゃんはしっかりここで待っててね?
……大丈夫だよ」
そのまま背中をポンポンと叩くと、リヌも「……うん、待ってる」と漸く落ち着いたようだった。
「世話の焼ける小僧だな……二人とも助けてやるから安心しろ」
人々に背を向けながら不動シオン(ka5395)が言い、ハンターたちは教会を後にした。
●疾駆
「家族を助けて、ですか……あんなに思って貰える家族が居て羨ましいですね」
教会を出て簡単に行動を打ち合わせながら、エリス・カルディコット(ka2572)は呟く。
「大切な家族を失ってしまう悲しみは、凄く分かるのですよ。
リヌさん、とても心配なのでしょうね……」
続いて放たれたシャルア・レイセンファード(ka4359)の言葉に、彼は「そうですね」と肯いた。
見目麗しいエリスだけれども、本当はれっきとした男性である。
それでも彼が少女の姿を装っているのは、まさにその『家族』に命を狙われているからで。
同じ『家族』でもこうも違うのかと思うと、リヌの思いやりを愛しく感じた。
リヌの為にも、何としてもクレールたちを雑魔より先に見つける必要がある。
北東にある巨木と、北西にある小屋。二手に別れて雑魔とクレールたちを探すことにした。
北西へ向かうのは、シャルア、ディーナと町田紀子(ka5895)の三人。
紀子はバイクに跨っていたけれども、
「くそ……! なかなか進めない……!」
林道から外れた凸凹した道を疾走するのはストレスが溜まるものだった。
加えて、「守るべきものは守らないといけない」という彼女自身の根本と呼ぶべき信条もあり、かなり我武者羅になっている。後ろから追いかけてくるシャルアとディーナとの距離もそれほど離れておらず、このままバイクに頼るよりも走った方が早いと紀子は途中でバイクを乗り捨てた。
その後方にいる二人のうち、シャルアは馬と柴犬を連れていた。
木々の匂いが強く、人の嗅覚では追い切れない気配も、柴犬の嗅覚なら――といったところである。
そしてその狙いは当たったけれど、ある意味当たりで、別の意味では外れといった結果だった。
柴犬が、警戒心の強い唸り声を上げる。
身体を低くして威嚇するようなポーズを取った柴犬を見、戻ってきた紀子を含めたハンター三人は顔を見合わせた。
「いますね……」
シャルアが呟いた途端、何かが叩きつけられる鈍い音と、葉が不自然にざわめく音が立て続けに響いた。
「一旦退こう?」
ディーナの提案に、二人も肯く。
倒すべき相手のいる場所がそれほど遠くないのは分かったけれども、今はそれより優先したいことがあった。
北東。
エリスもまた魔導バイクに跨がり、森の中の道なき道を疾走る。
此方は北西に比べると木々の間もならされており、彼自身の運転技術もあってすいすいと進んでいく。
目指すは巨木である。やや後方には馬に跨ったカインと、疾走するシオンが追ってきていた。バイクよりも小回りが利く為、カインもそれほど苦労はしていない。
あっという間に、巨木へと辿り着く。
バイクを降りたエリスは、まずは周りをきょろきょろと見回した。
今のところ、追走してくる二人以外に人の姿は見えない。
となると――?
カインとシオンも巨木の前に到着するのを横目に、エリスは巨木の裏に回りこんだ。
「どうだ?」
後ろから声をかけてくるシオンに、エリスは自らが見つけたものを指し示す。
洞の底にあった扉が開いており、そこから更に下へ、手作りの木製のハシゴが続いていた。
背丈的に入れそうなのが自分だけだったこともあり、カインがハシゴを伝って下へと降りていく。
降り立った先は少し広い空間になっており、その隅には予想通りの二つの影があった。
「よかった、無事だったか」
「あ……」
ぶっきらぼうながらどこか安堵した様子のカインの言葉に、地べたに座り込んで肩を震わせていた少女が顔を上げ。
続いて、少女の背中を擦っていた少年――クレールも、カインの顔を見つめた。
カインが二人を連れて地上へ戻った時には、北西へ向かっていた三人も合流していた。
「大丈夫なの、落ち着いて。良く頑張ったね……蜂蜜舐める? 元気が出るの」
ルネと呼ばれる少女は未だに恐怖心が抜けきっていないようだった。ディーナが彼女に寄り添いながら、蜂蜜を差し出す。
「本当は、皆が教会に集まるまでに戻るつもりだったみたいなんだ」
ルネがおずおずと蜂蜜を舐める様子を目にしながら、クレールは言う。
「でも、あいつが思い切り木を倒す音が聞こえてきたら、怖くなって動けなくなっちゃったんだって。下に連れて行ったのは、ぼくだけど」
「勇気だけは褒めてやるが、力もないくせに無茶をするのは感心せんぞ」
シオンが窘めると、クレールも無鉄砲に飛び出した自覚はあるのか「ごめんなさい」と肩を縮めた。
「さて、と。一先ずクレールさんもルネさんも見つかったことですし」
「雑魔討伐と、いくか」
シャルアと紀子が口々に言った矢先、また遠くで木々を叩く音が響く。
北西から此方に向かってきているようだ。クレールとルネはびくりと肩を震わせたけれども、
「安心してください。お二人には指一本を触れさせないように退治を致しますから」
エリスはそう言いながら、ライフルを構えた。
「後は任せろ」
再び馬に騎乗したカインが、真っ先に森へと疾走りだす。
雑魔を最初に視界に捉えたのも、そのカインだった。長い腕をぶらぶらと引き摺りながら、ゆったりとした所作で此方へと近づいてくる。
接近速度はカインの方が遥かに速い。片手で手綱を握ったまま、もう片手でホルスターから拳銃を引き抜き、構え。
射程内に入るなり、速攻で引き金を絞った。
高温の弾丸が雑魔の腹部を穿つ。鮮血は舞ったけれど、敵の身体をよろめかせるところには至らない。
カインが雑魔を迂回するように馬を走らせる一方で、紀子は真正面から雑魔に向かっていった。続いてそのすぐ後方を、牽制射撃を放ちながらシオンが続く。
紀子の姿を捉えたらしい雑魔が長い腕を振り上げる。横に振り回すだけで周辺を薙ぎ払う程の射程がある以上、上から振り下ろす威力は大きいはずだった。
けれど、その巨大な力が彼女に叩きつけられることはなかった。
銃撃音。
次の瞬間、振り上げられた雑魔の腕を何かが貫き、そこを中心として冷気が顕現した。
「好き勝手に暴れ回るのも、お終いでございます」
エリスの放った弾丸によるものである。それに伴って、雑魔の腕は力なく振り下ろされるに留まった。
その合間にも接近を続けていた紀子が、ついに雑魔に肉薄する。
渾身の強打が、雑魔の腹部に打ち込まれる。
手応えはいいとは言えなかった。けれども、雑魔が歩みを止め、一、二歩後退った。
更にシオンがマテリアルを込めた振動刀を、冷気により動かせずに居る腕に向かって振り上げる。
これまでで一番深くダメージが入ったのは、雑魔の流した血の量で分かる。
けれどもそれは雑魔をより本気にさせた。
雑魔はそれまでずっと下ろしていたもう片方の腕を、勢い良く振り回す。目の前にいた紀子とシオンが横から叩きつけられる勢いのままふっ飛ばされ、ついでにぎりぎりながら射程内に入っていたカインをも馬ごと叩く。
雑魔の頭部に冷たく蒼い色をした焔の矢が打ち込まれたのは、その直後だった。
側頭部を向けていたことも大きかったのだろう。シャルアの放った魔法の矢は、衝撃に逆らえずに片足を大きく浮き上がらせるほど、雑魔に深い傷を与えた。
「大丈夫!?」
その間に、ガードも取れずにモロに攻撃を受けた二人に、ディーナが回復のマテリアルを注ぎこむ。シオンは自前でも回復が出来たこともあり、ほぼ無傷に近い状態になった。
その頃には雑魔も浮いた片足を力強く地面に踏みつけたけれど、
「腕力も攻撃範囲もゴブリンより上か、全くやり辛いな、だが問題ない、行かせない」
幸いふっ飛ばされるところまではいかなかったカインが、背後からのすれ違いざまにアンサラーの一閃を敵の頭部に叩き込みながら、転がり落ちるように馬から降りる。
いよいよストレスが溜まったのか、雑魔は長い腕で手近な木を薙ぎ倒した。
そしてそのまま倒した木を抱え上げると、目の前に立ちふさがる格好になったカインと、その奥にいるエリスやシャルア、ディーナめがけて木の幹を放り投げる。
けれども。
「行かせるわけ、ないだろ……ッ!」
すかさず立ちふさがった紀子が、勢いを相殺するように両手をクロスさせつつ木を受ける。
流石に紀子一人では木の勢いは止まらなかったけれど、後衛には全く届く気配もなく木は地面に落ちた。
それとすれ違うように放たれた、エリスの弾丸とシャルアの氷の矢が立て続けに雑魔の動きを奪い、穿ち。
「聞かせてもらうぞ、貴様の断末魔の叫びをな!」
シャルアの矢を受け再び大きく仰け反った雑魔の首筋を断ち切るように、シオンが刀を振り下ろした。
●家族の在り方
「さぁ……帰りましょうか。お姉さん、心配してるのですよ?」
シャルアが子供たちに声をかける。
ルネは恐怖と、それから解放された安堵から来る脱力感で歩くこともままならず。
クレールもクレールでやはり疲労が溜まっていたので、仲良くシャルアが連れてきた馬に乗って帰途につくことになった。
「いいか、これは遊びではないんだ。我々が来るのが遅れていたらお前もルネも死んでいたところだ、わかるな?」
道中、再びクレールに対するシオンの説教タイムが始まった。
問いかけに、クレールは肩を縮めて肯くしかない。
「どんな危機の下でも何かできることがある。大人になれば、いずれ分かるようになるだろう」
「……うん」
もちろんシオンの言っていることはある程度は通じているのだろうけれども、それでもちょっとばかりクレールはしょんぼりしている。
それくらいにしておいてあげてください、とエリスがシオンに言う横で、ディーナは鞍上のクレールに声をかける。
「偉かったね、クレールくん。お姉ちゃんが凄く心配してたから、安心させてあげて」
「……さっきも思ったんだけど、姉さんが?」
「うん。私たちに向かって『早く行ってよ』って叫んだくらい」
「幼いながら、あれはちょっと鬼気迫るものがあったな……」
ディーナと紀子が口々にそう言うと、よほど意外だったのか、クレールは口を半開きにしてきょとんとしていた。
「絶対、嫌われてるんだと思ってた……」
「好きとか嫌いとか、そういう問題ではないんですよ、きっと」
エリスが若干寂しげに笑う。
「失いたくない、と思いやれるというのは、素敵なことだと思います。
そう思えるのが、家族なのではないかと」
特に何事もなく村に到着し、教会の扉を開ける。
シオンやカインが任務の完了を村人たちに報告する横で、ディーナはリヌに声をかけた。
「私たちを信じて、待っててくれてありがとうね」
「クレールたちは……?」
出発する前に比べると大分落ち着いているものの、それでもほんの少し不安げな表情を浮かべるリヌ。
だからディーナは、穏やかに笑ってみせた。
「外で馬から降りてる。行ってあげて」
言うが早いか駆け出すその背中を、ディーナは目を細めながら見つめていた。
「もうっ、バカ! そういうのやめてよ……!」
クレールの姿を見つけたリヌは彼に抱きつくと、その背中を何度も叩いた。
「ごめん、ごめんってば……」
まるで助けを求めるように彷徨ったクレールの視線が、不意にシャルアのそれと合う。
「ごめん、以外にも、何かあるのなら素直に言った方がいいと思いますよ?」
シャルアの助言を受け、嗚咽混じりに何度も自らの背を叩く『姉』に、クレールは告げた。
「……ありがとう」
「な……何も礼を言われるようなことはしてないわよ……」
「いいんだって」
思わぬ発言に吃驚するリヌに、クレールは苦笑する。
その姉弟の様を見て、
(血の繋がっていない者でも家族になっております。なら、半分も同じ血が流れているのなら、私達も家族になれるはずです……)
エリスは自らと血の繋がっている者たちとの在り様に、そう思いを馳せた。
正直なところ、カイン・マッコール(ka5336)は敵がゴブリンでないと知った時点でキャンセルして帰ろうかとも考えていた。
けれども、ひとまず他のハンターと一緒に教会に入ったことから、彼の中でも事情が変わる。
唐突な少女の叫びに、ハンターたちは流石に最初は面食らった。
けれども、周りの村人に聞いて簡潔ながら事情を把握すると――、
「金が必要になったので、仕事はします」
口からはそんな言葉が出たけれど、本心では別の感情もある。家族を喪う辛さは、彼もよく知っていた。
一方でディーナ・フェルミ(ka5843)は一歩前に出、未だ昂ぶった感情を露わにしたままのリヌと目を合わせる。
そして彼女の頭を、そっと撫でた。
「うん、大丈夫だよ?
必ずルネちゃんとクレール君を無事に連れ帰るから……二人が居そうな場所、教えて貰える?」
「……わかんない」
リヌは目の端に雫を浮かべたままだったけれど、穏やかな声のおかげで少しだけ落ち着きを取り戻したらしい。消え入りそうな声でそう呟いた。
すると、
「たぶんデカい木のところか小屋だと思う!」
周りで話を聞いていた人々の中から幼い声が上がった。大人たちの間をすり抜けて、一人の少年がハンターたちの前に現れる。
「皆であのどっちかでよく遊んでたから……」
その話を聞いたハンターたちは、視線を交錯させる。二手に別れる必要がありそうだ。
ディーナの声は、優しいながらも教会の中でよく響いていた。だからこそ、リヌも村人たちも最初よりは落ち着いていたし、少年の情報も得られたと言える。
彼女は出掛けに、リヌを優しくハグする。
「じゃ行ってくるね? お姉ちゃんはしっかりここで待っててね?
……大丈夫だよ」
そのまま背中をポンポンと叩くと、リヌも「……うん、待ってる」と漸く落ち着いたようだった。
「世話の焼ける小僧だな……二人とも助けてやるから安心しろ」
人々に背を向けながら不動シオン(ka5395)が言い、ハンターたちは教会を後にした。
●疾駆
「家族を助けて、ですか……あんなに思って貰える家族が居て羨ましいですね」
教会を出て簡単に行動を打ち合わせながら、エリス・カルディコット(ka2572)は呟く。
「大切な家族を失ってしまう悲しみは、凄く分かるのですよ。
リヌさん、とても心配なのでしょうね……」
続いて放たれたシャルア・レイセンファード(ka4359)の言葉に、彼は「そうですね」と肯いた。
見目麗しいエリスだけれども、本当はれっきとした男性である。
それでも彼が少女の姿を装っているのは、まさにその『家族』に命を狙われているからで。
同じ『家族』でもこうも違うのかと思うと、リヌの思いやりを愛しく感じた。
リヌの為にも、何としてもクレールたちを雑魔より先に見つける必要がある。
北東にある巨木と、北西にある小屋。二手に別れて雑魔とクレールたちを探すことにした。
北西へ向かうのは、シャルア、ディーナと町田紀子(ka5895)の三人。
紀子はバイクに跨っていたけれども、
「くそ……! なかなか進めない……!」
林道から外れた凸凹した道を疾走するのはストレスが溜まるものだった。
加えて、「守るべきものは守らないといけない」という彼女自身の根本と呼ぶべき信条もあり、かなり我武者羅になっている。後ろから追いかけてくるシャルアとディーナとの距離もそれほど離れておらず、このままバイクに頼るよりも走った方が早いと紀子は途中でバイクを乗り捨てた。
その後方にいる二人のうち、シャルアは馬と柴犬を連れていた。
木々の匂いが強く、人の嗅覚では追い切れない気配も、柴犬の嗅覚なら――といったところである。
そしてその狙いは当たったけれど、ある意味当たりで、別の意味では外れといった結果だった。
柴犬が、警戒心の強い唸り声を上げる。
身体を低くして威嚇するようなポーズを取った柴犬を見、戻ってきた紀子を含めたハンター三人は顔を見合わせた。
「いますね……」
シャルアが呟いた途端、何かが叩きつけられる鈍い音と、葉が不自然にざわめく音が立て続けに響いた。
「一旦退こう?」
ディーナの提案に、二人も肯く。
倒すべき相手のいる場所がそれほど遠くないのは分かったけれども、今はそれより優先したいことがあった。
北東。
エリスもまた魔導バイクに跨がり、森の中の道なき道を疾走る。
此方は北西に比べると木々の間もならされており、彼自身の運転技術もあってすいすいと進んでいく。
目指すは巨木である。やや後方には馬に跨ったカインと、疾走するシオンが追ってきていた。バイクよりも小回りが利く為、カインもそれほど苦労はしていない。
あっという間に、巨木へと辿り着く。
バイクを降りたエリスは、まずは周りをきょろきょろと見回した。
今のところ、追走してくる二人以外に人の姿は見えない。
となると――?
カインとシオンも巨木の前に到着するのを横目に、エリスは巨木の裏に回りこんだ。
「どうだ?」
後ろから声をかけてくるシオンに、エリスは自らが見つけたものを指し示す。
洞の底にあった扉が開いており、そこから更に下へ、手作りの木製のハシゴが続いていた。
背丈的に入れそうなのが自分だけだったこともあり、カインがハシゴを伝って下へと降りていく。
降り立った先は少し広い空間になっており、その隅には予想通りの二つの影があった。
「よかった、無事だったか」
「あ……」
ぶっきらぼうながらどこか安堵した様子のカインの言葉に、地べたに座り込んで肩を震わせていた少女が顔を上げ。
続いて、少女の背中を擦っていた少年――クレールも、カインの顔を見つめた。
カインが二人を連れて地上へ戻った時には、北西へ向かっていた三人も合流していた。
「大丈夫なの、落ち着いて。良く頑張ったね……蜂蜜舐める? 元気が出るの」
ルネと呼ばれる少女は未だに恐怖心が抜けきっていないようだった。ディーナが彼女に寄り添いながら、蜂蜜を差し出す。
「本当は、皆が教会に集まるまでに戻るつもりだったみたいなんだ」
ルネがおずおずと蜂蜜を舐める様子を目にしながら、クレールは言う。
「でも、あいつが思い切り木を倒す音が聞こえてきたら、怖くなって動けなくなっちゃったんだって。下に連れて行ったのは、ぼくだけど」
「勇気だけは褒めてやるが、力もないくせに無茶をするのは感心せんぞ」
シオンが窘めると、クレールも無鉄砲に飛び出した自覚はあるのか「ごめんなさい」と肩を縮めた。
「さて、と。一先ずクレールさんもルネさんも見つかったことですし」
「雑魔討伐と、いくか」
シャルアと紀子が口々に言った矢先、また遠くで木々を叩く音が響く。
北西から此方に向かってきているようだ。クレールとルネはびくりと肩を震わせたけれども、
「安心してください。お二人には指一本を触れさせないように退治を致しますから」
エリスはそう言いながら、ライフルを構えた。
「後は任せろ」
再び馬に騎乗したカインが、真っ先に森へと疾走りだす。
雑魔を最初に視界に捉えたのも、そのカインだった。長い腕をぶらぶらと引き摺りながら、ゆったりとした所作で此方へと近づいてくる。
接近速度はカインの方が遥かに速い。片手で手綱を握ったまま、もう片手でホルスターから拳銃を引き抜き、構え。
射程内に入るなり、速攻で引き金を絞った。
高温の弾丸が雑魔の腹部を穿つ。鮮血は舞ったけれど、敵の身体をよろめかせるところには至らない。
カインが雑魔を迂回するように馬を走らせる一方で、紀子は真正面から雑魔に向かっていった。続いてそのすぐ後方を、牽制射撃を放ちながらシオンが続く。
紀子の姿を捉えたらしい雑魔が長い腕を振り上げる。横に振り回すだけで周辺を薙ぎ払う程の射程がある以上、上から振り下ろす威力は大きいはずだった。
けれど、その巨大な力が彼女に叩きつけられることはなかった。
銃撃音。
次の瞬間、振り上げられた雑魔の腕を何かが貫き、そこを中心として冷気が顕現した。
「好き勝手に暴れ回るのも、お終いでございます」
エリスの放った弾丸によるものである。それに伴って、雑魔の腕は力なく振り下ろされるに留まった。
その合間にも接近を続けていた紀子が、ついに雑魔に肉薄する。
渾身の強打が、雑魔の腹部に打ち込まれる。
手応えはいいとは言えなかった。けれども、雑魔が歩みを止め、一、二歩後退った。
更にシオンがマテリアルを込めた振動刀を、冷気により動かせずに居る腕に向かって振り上げる。
これまでで一番深くダメージが入ったのは、雑魔の流した血の量で分かる。
けれどもそれは雑魔をより本気にさせた。
雑魔はそれまでずっと下ろしていたもう片方の腕を、勢い良く振り回す。目の前にいた紀子とシオンが横から叩きつけられる勢いのままふっ飛ばされ、ついでにぎりぎりながら射程内に入っていたカインをも馬ごと叩く。
雑魔の頭部に冷たく蒼い色をした焔の矢が打ち込まれたのは、その直後だった。
側頭部を向けていたことも大きかったのだろう。シャルアの放った魔法の矢は、衝撃に逆らえずに片足を大きく浮き上がらせるほど、雑魔に深い傷を与えた。
「大丈夫!?」
その間に、ガードも取れずにモロに攻撃を受けた二人に、ディーナが回復のマテリアルを注ぎこむ。シオンは自前でも回復が出来たこともあり、ほぼ無傷に近い状態になった。
その頃には雑魔も浮いた片足を力強く地面に踏みつけたけれど、
「腕力も攻撃範囲もゴブリンより上か、全くやり辛いな、だが問題ない、行かせない」
幸いふっ飛ばされるところまではいかなかったカインが、背後からのすれ違いざまにアンサラーの一閃を敵の頭部に叩き込みながら、転がり落ちるように馬から降りる。
いよいよストレスが溜まったのか、雑魔は長い腕で手近な木を薙ぎ倒した。
そしてそのまま倒した木を抱え上げると、目の前に立ちふさがる格好になったカインと、その奥にいるエリスやシャルア、ディーナめがけて木の幹を放り投げる。
けれども。
「行かせるわけ、ないだろ……ッ!」
すかさず立ちふさがった紀子が、勢いを相殺するように両手をクロスさせつつ木を受ける。
流石に紀子一人では木の勢いは止まらなかったけれど、後衛には全く届く気配もなく木は地面に落ちた。
それとすれ違うように放たれた、エリスの弾丸とシャルアの氷の矢が立て続けに雑魔の動きを奪い、穿ち。
「聞かせてもらうぞ、貴様の断末魔の叫びをな!」
シャルアの矢を受け再び大きく仰け反った雑魔の首筋を断ち切るように、シオンが刀を振り下ろした。
●家族の在り方
「さぁ……帰りましょうか。お姉さん、心配してるのですよ?」
シャルアが子供たちに声をかける。
ルネは恐怖と、それから解放された安堵から来る脱力感で歩くこともままならず。
クレールもクレールでやはり疲労が溜まっていたので、仲良くシャルアが連れてきた馬に乗って帰途につくことになった。
「いいか、これは遊びではないんだ。我々が来るのが遅れていたらお前もルネも死んでいたところだ、わかるな?」
道中、再びクレールに対するシオンの説教タイムが始まった。
問いかけに、クレールは肩を縮めて肯くしかない。
「どんな危機の下でも何かできることがある。大人になれば、いずれ分かるようになるだろう」
「……うん」
もちろんシオンの言っていることはある程度は通じているのだろうけれども、それでもちょっとばかりクレールはしょんぼりしている。
それくらいにしておいてあげてください、とエリスがシオンに言う横で、ディーナは鞍上のクレールに声をかける。
「偉かったね、クレールくん。お姉ちゃんが凄く心配してたから、安心させてあげて」
「……さっきも思ったんだけど、姉さんが?」
「うん。私たちに向かって『早く行ってよ』って叫んだくらい」
「幼いながら、あれはちょっと鬼気迫るものがあったな……」
ディーナと紀子が口々にそう言うと、よほど意外だったのか、クレールは口を半開きにしてきょとんとしていた。
「絶対、嫌われてるんだと思ってた……」
「好きとか嫌いとか、そういう問題ではないんですよ、きっと」
エリスが若干寂しげに笑う。
「失いたくない、と思いやれるというのは、素敵なことだと思います。
そう思えるのが、家族なのではないかと」
特に何事もなく村に到着し、教会の扉を開ける。
シオンやカインが任務の完了を村人たちに報告する横で、ディーナはリヌに声をかけた。
「私たちを信じて、待っててくれてありがとうね」
「クレールたちは……?」
出発する前に比べると大分落ち着いているものの、それでもほんの少し不安げな表情を浮かべるリヌ。
だからディーナは、穏やかに笑ってみせた。
「外で馬から降りてる。行ってあげて」
言うが早いか駆け出すその背中を、ディーナは目を細めながら見つめていた。
「もうっ、バカ! そういうのやめてよ……!」
クレールの姿を見つけたリヌは彼に抱きつくと、その背中を何度も叩いた。
「ごめん、ごめんってば……」
まるで助けを求めるように彷徨ったクレールの視線が、不意にシャルアのそれと合う。
「ごめん、以外にも、何かあるのなら素直に言った方がいいと思いますよ?」
シャルアの助言を受け、嗚咽混じりに何度も自らの背を叩く『姉』に、クレールは告げた。
「……ありがとう」
「な……何も礼を言われるようなことはしてないわよ……」
「いいんだって」
思わぬ発言に吃驚するリヌに、クレールは苦笑する。
その姉弟の様を見て、
(血の繋がっていない者でも家族になっております。なら、半分も同じ血が流れているのなら、私達も家族になれるはずです……)
エリスは自らと血の繋がっている者たちとの在り様に、そう思いを馳せた。
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相談卓 シャルア・レイセンファード(ka4359) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/12/09 23:14:38 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/07 00:43:20 |