ゲスト
(ka0000)
『E』〜星槌
マスター:有坂参八

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/15 19:00
- 完成日
- 2015/12/31 14:58
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
たった一瞬の出来事だった。
暮れなずむ空に光の尾を引きながら、まっすぐ進むそれは、最初は流れ星の様に見えた。
だが、その星は意思を持っていた。そうとしか、思えなかった。
星は、落ちた。
過たず、人の営みを目掛けて。
……。
「あ、ああ……」
赤々と燃え上がる炎を見つめながら、テト(kz107)はその場に崩折れて、その身をガタガタと震わせた。
赤き大地にあっても、知る者の殆ど無い隠れ谷……そこに、彼女達の砦はあった。
『部族なき部族』と呼ばれる、赤き大地の諜報組織の、拠点となる砦。
その砦が今、鉄と炎に飲まれて灰燼へと帰りつつあった。
歪虚の落とした、禍つ星槌によって。
「どうして……どうして、こんにゃ……」
それは最初、流れ星の様に見えた。
その流星は、砦の上空までまっすぐに進むと方向を変え、殆ど垂直に降り立って砦へと直撃した。
次いで、巨大な光と炎、音、衝撃。
テトが気づいた時には、『部族なき部族』の砦は、微塵となって辺りに炎を撒き散らしていた。
年端もいかぬ斥候の少女は、おぞましさに身を震わせる。
このような所業は、歪虚のそれに違いない。
だが……それでも、余りにも、あっけなさ過ぎる。
彼女の師、シバ(kz0058)が数十年の歳月をかけて作り上げた組織と、その寄る辺。
それは、シバの養子であるテトにとって、世界のすべてだった。
少女に、家族と、誇りと、生きる意味、そのすべてを与えた場所……それがただ一撃、一瞬にして打ち壊されたのだ。
「テト……」
燃え盛る瓦礫の間からテトを呼んだのは、『部族無き部族』の仲間。彼女が姉の様に慕った、栗毛の女性だった。
テトは駆け寄り、横たわって動けない彼女に顔を寄せた。
「ふ、『梟』の姉様! いま……いま、お、お助けしますにゃ!」
「駄目よ。行きなさい、テト。準備は、してたでしょう? シバの遺言を忘れないで」
テトの表情が凍りつく。
シバは今頃、ハンターと『決着』をつけた頃だろう。
そのシバが、最期に自分たちに託した指示。
テトは周囲を見渡した。『梟』だけではない。その時砦にいた仲間達が皆、重傷を追うか……既に動かなくなっていた。
動けるのは、そう、テトだけだ。
「でもっ、皆が……」
「甘ったれんなッ! ……く、ふっ」
『梟』が声を荒げ、そして血を吐いた。
「……お願い。あんたが希みよ、テト」
その時、遠くから銃声が響く。視線を向けると、黒い人影が列をなしてこちらに近づいてくるのが見えた。
長銃を携え、不気味な黒い鎧を身につける集団。
およそ味方には、見えなかった。
「行け! テト!」
「……っ」
ぼろぼろと落ちる涙を堪えもせずに、テトは走りだした。
その背を見送った『梟』は……体から血の抜け落ちる感覚に耐えながら、目線だけを、迫る人影に向けた。
見たことのない黒い鎧だった。全身を覆う機械的な意匠のそれは、滑らかな流線型の装甲の間から、所々細い管や角の様なものを生やしている。
そしてその手に持つ長銃には、複雑な形の部品がいくつも取り付けられていた。
兜……いや、ヘルメットからしゅー、しゅー、という呼吸音。それが、ふと、止まる。
『ハロー、シチズン。速やかに投降してください。私はエンドレスです』
そう言うと人影は、『梟』の顔面に銃口を向け、躊躇いもなく発砲した。
●
『……聞こえるか、猫助』
ハンターズソサエティへと走るテトの、腰に下げたトランシーバーが声を伝えた。
声の主は八重樫敦(kz0056)。義勇軍・山岳猟団の団長とは、シバのいいつけで予め無線の周波数を合わせてあった。
「……っ! ……!!」
乱れた呼吸の中で、テトは必死に、言葉にならない吐息で応えた。
『通話ができるという事は、通信妨害は無いな。走りながら聞け、重要な事だけを話す』
無線の向うの八重樫は、淡々とテトに語り始める。
『お前達については概ねシバから聞いた。先ほどお前達を襲った兵器も、こちらから視認している。
あれは拠点攻撃用巡航ミサイル……自律して目標に向かい飛んで行く爆弾の様なものだ。
そしてそれは、俺がかつて乗っていた連合宙軍の船・ヴァルハラに搭載されていたものにまず間違いない。
エンドレス、と名乗る歪虚共が、どのような性質を持つものか、現時点ではわからん。
だが、敵が宙間揚陸打撃部隊の基本戦術に則っているとするならば、遠隔攻撃で相手防衛力を無力化した後、白兵戦で制圧を試みるだろう。
黒い鎧と大型の銃で武装した歩兵部隊が現れたら中身は歪虚だ、迷わず殺せ。
強力な装甲と重火力で武装しているが、大気圏内なら装甲重量に足を引っ張られて動きは鈍る。
お前の仲間に生き残りが居るなら、一人でも多く救出しろ。
生憎こちらでもエンドレスを名乗る敵に襲われて援軍は出せん。ハンターと凌げ』
スピーカーから響く八重樫の声を、テトは一言一句逃さぬよう記憶した。
山道を疾風の如く駆け抜けて、ハンターの元へ急ぐ。
まだ、間に合う。
まだ、きっと。
ぜったいに……
何度も自分に言い聞かせても、涙は止めどなく溢れ落ちた。
愛する師父は今や去った。
そして、今また、仲間さえも、手の届かぬ場所へ消えようとしている。
凍てつく吹雪の様な恐怖は、少女の精一杯の勇気を、冷酷に押しつぶそうとしていた。
たった一瞬の出来事だった。
暮れなずむ空に光の尾を引きながら、まっすぐ進むそれは、最初は流れ星の様に見えた。
だが、その星は意思を持っていた。そうとしか、思えなかった。
星は、落ちた。
過たず、人の営みを目掛けて。
……。
「あ、ああ……」
赤々と燃え上がる炎を見つめながら、テト(kz107)はその場に崩折れて、その身をガタガタと震わせた。
赤き大地にあっても、知る者の殆ど無い隠れ谷……そこに、彼女達の砦はあった。
『部族なき部族』と呼ばれる、赤き大地の諜報組織の、拠点となる砦。
その砦が今、鉄と炎に飲まれて灰燼へと帰りつつあった。
歪虚の落とした、禍つ星槌によって。
「どうして……どうして、こんにゃ……」
それは最初、流れ星の様に見えた。
その流星は、砦の上空までまっすぐに進むと方向を変え、殆ど垂直に降り立って砦へと直撃した。
次いで、巨大な光と炎、音、衝撃。
テトが気づいた時には、『部族なき部族』の砦は、微塵となって辺りに炎を撒き散らしていた。
年端もいかぬ斥候の少女は、おぞましさに身を震わせる。
このような所業は、歪虚のそれに違いない。
だが……それでも、余りにも、あっけなさ過ぎる。
彼女の師、シバ(kz0058)が数十年の歳月をかけて作り上げた組織と、その寄る辺。
それは、シバの養子であるテトにとって、世界のすべてだった。
少女に、家族と、誇りと、生きる意味、そのすべてを与えた場所……それがただ一撃、一瞬にして打ち壊されたのだ。
「テト……」
燃え盛る瓦礫の間からテトを呼んだのは、『部族無き部族』の仲間。彼女が姉の様に慕った、栗毛の女性だった。
テトは駆け寄り、横たわって動けない彼女に顔を寄せた。
「ふ、『梟』の姉様! いま……いま、お、お助けしますにゃ!」
「駄目よ。行きなさい、テト。準備は、してたでしょう? シバの遺言を忘れないで」
テトの表情が凍りつく。
シバは今頃、ハンターと『決着』をつけた頃だろう。
そのシバが、最期に自分たちに託した指示。
テトは周囲を見渡した。『梟』だけではない。その時砦にいた仲間達が皆、重傷を追うか……既に動かなくなっていた。
動けるのは、そう、テトだけだ。
「でもっ、皆が……」
「甘ったれんなッ! ……く、ふっ」
『梟』が声を荒げ、そして血を吐いた。
「……お願い。あんたが希みよ、テト」
その時、遠くから銃声が響く。視線を向けると、黒い人影が列をなしてこちらに近づいてくるのが見えた。
長銃を携え、不気味な黒い鎧を身につける集団。
およそ味方には、見えなかった。
「行け! テト!」
「……っ」
ぼろぼろと落ちる涙を堪えもせずに、テトは走りだした。
その背を見送った『梟』は……体から血の抜け落ちる感覚に耐えながら、目線だけを、迫る人影に向けた。
見たことのない黒い鎧だった。全身を覆う機械的な意匠のそれは、滑らかな流線型の装甲の間から、所々細い管や角の様なものを生やしている。
そしてその手に持つ長銃には、複雑な形の部品がいくつも取り付けられていた。
兜……いや、ヘルメットからしゅー、しゅー、という呼吸音。それが、ふと、止まる。
『ハロー、シチズン。速やかに投降してください。私はエンドレスです』
そう言うと人影は、『梟』の顔面に銃口を向け、躊躇いもなく発砲した。
●
『……聞こえるか、猫助』
ハンターズソサエティへと走るテトの、腰に下げたトランシーバーが声を伝えた。
声の主は八重樫敦(kz0056)。義勇軍・山岳猟団の団長とは、シバのいいつけで予め無線の周波数を合わせてあった。
「……っ! ……!!」
乱れた呼吸の中で、テトは必死に、言葉にならない吐息で応えた。
『通話ができるという事は、通信妨害は無いな。走りながら聞け、重要な事だけを話す』
無線の向うの八重樫は、淡々とテトに語り始める。
『お前達については概ねシバから聞いた。先ほどお前達を襲った兵器も、こちらから視認している。
あれは拠点攻撃用巡航ミサイル……自律して目標に向かい飛んで行く爆弾の様なものだ。
そしてそれは、俺がかつて乗っていた連合宙軍の船・ヴァルハラに搭載されていたものにまず間違いない。
エンドレス、と名乗る歪虚共が、どのような性質を持つものか、現時点ではわからん。
だが、敵が宙間揚陸打撃部隊の基本戦術に則っているとするならば、遠隔攻撃で相手防衛力を無力化した後、白兵戦で制圧を試みるだろう。
黒い鎧と大型の銃で武装した歩兵部隊が現れたら中身は歪虚だ、迷わず殺せ。
強力な装甲と重火力で武装しているが、大気圏内なら装甲重量に足を引っ張られて動きは鈍る。
お前の仲間に生き残りが居るなら、一人でも多く救出しろ。
生憎こちらでもエンドレスを名乗る敵に襲われて援軍は出せん。ハンターと凌げ』
スピーカーから響く八重樫の声を、テトは一言一句逃さぬよう記憶した。
山道を疾風の如く駆け抜けて、ハンターの元へ急ぐ。
まだ、間に合う。
まだ、きっと。
ぜったいに……
何度も自分に言い聞かせても、涙は止めどなく溢れ落ちた。
愛する師父は今や去った。
そして、今また、仲間さえも、手の届かぬ場所へ消えようとしている。
凍てつく吹雪の様な恐怖は、少女の精一杯の勇気を、冷酷に押しつぶそうとしていた。
リプレイ本文
●
パァン!
……乾いた音が、夕暮れの空に反響した。
テトは何が起こったか判らない表情で、腫れた自らの頬を抑えている。
「あんたの師匠は仲間が死ぬのが怖くなかったと思う? 皆の前でいつまでも泣いていた?」
平手を飛ばしたのは、霧崎 灯華(ka5945)。
事情の説明が終わっても涙を止めないテトに対して……強烈な一打を見舞った。
「深呼吸して、何がやれるか、ただそれだけを考えなさい」
テトの背中を、腕組みしながら見つめていたボルディア・コンフラムス(ka0796)は小さく嘆息してから、言葉を付け加えた。
「猫助、一つだけ言っておくぞ。悲しむのも戸惑うのも全部後にしろ。テメェが1秒迷った分、仲間が死に近づいてると思っとけ」
歴戦の戦士としては当然の、前を見つめた言葉。
だが……独り立ちすらしていない未熟な子供に、果たして戦士の正論が、届いたかどうか。
「――申し訳ねぇ顔してねぇで、俺等をアゴで使ってでも全員助け出すって気概、見せてみろよ」
結論だけ言えば……テトは、涙を止めなかった。
砦への道を、ハンターに案内しながら……彼女は何度も、ごめんなさいと繰り返した。
●
燃え盛る瓦礫の山を見て、ルシオ・セレステ(ka0673)は思わず固唾を呑んだ。
(シバ、敵は貴方が逝くのを見ていたのだろうか……)
見送ったばかりの盟友の姿が、脳裏を過る。
指導者を失った組織を一撃で破壊に追いやるその所業……
「ここまで正確に……以前の無人機で、完全に把握されていたって事でしょうか。近代兵器が相手なら、分が悪いですね」
アメリア・フォーサイス(ka4111)は、喋りながらも周囲を見渡す。既に薄暮だが、地形を把握する時間はある。
「おい、あっちだ!」
瓦礫の向こうに赤光を瞬かせる黒い人影を、エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が指差す。
即座、ハンター達は皆、各々が決めていた行動へと移った。
駆け出したエヴァンスに続くのは、ボルディア、アメリア、灯華、そしてアクセル・ランパード(ka0448)。
アクセルはテトとのすれ違いざま、彼女の暗い表情を覗いた。
かつて共に冒険した時には……これ程の重荷を、想像さえもさせかったのに。
「テトさん、出来る限り皆を救ってみせます……今、ここで『部族なき部族』を滅ぼされる訳にはいきません」
アクセルの言葉に、ふと、テトは顔を上げる。
その背中を、ルシオが優しく、押した。
「君の力が必要なんだ……話した通りに、できそうかい?」
少女は、すん、と鼻を啜り……小さく頷いた。
「私はあっちに気を割くから、あなたはあっちを」
テトと共に超聴覚を発現したアイラ(ka3941)は、彼女と僅かに距離をあけ、それぞれの死角をカバーし合う位置で戦場を探る。
聞こえてくる、少女の粗い吐息。
炎の爆ぜる音。
風のうなり。
複数の重い足音。
刃の風切り。
銃声。
それから、人の呻き。
「……いた。ルシオ!」
周囲に不穏な気配がないかを確かめてから、アイラは続くルシオを、眼前の瓦礫に呼び寄せた。
そこには、血まみれになって瓦礫に身を隠す、部族の戦士。
「ハンターか……テトが呼んだな」
「動かないで。今、治療する」
ルシオがヒールを施すと、戦士はよろよろと、立ち上がる。
「私達に構わず逃げろ。仲間と肩を貸し合い、背負ってでもこの場を去れ。その命を繋いで、何時か必ず……」
ルシオの言葉を、戦士は手で制した。
「この恩は返す」とだけ述べ、その場を遠ざかっていく。
「行こう。まだ、たくさん……助けなきゃいけない人がいる」
アイラの、重々しい呟き。
消えかけた命の呻きが……彼女の耳には、痛い程に聞こえていた。
●
一方、黒歩兵に近づくハンター達は、程無く交戦距離に入る。
「見えてるのは三体……それから、何人が倒れている人達が!」
アクセルが、声を張り上げる。
「敵の頭は俺たちが抑える! 援護してくれ!」
エヴァンスが交戦の角笛を吹くと先陣を切って歪虚に接近、ボルディアとアクセルが後に続く。
その間に、灯華とアメリアは散開し、瓦礫の影へと入った。
アメリアは位置につくと淀みない動作でライフルを構え、制圧射撃を実行する。
「硬い……」
黒歩兵は一瞬、その動きを止めたが……よろけさえも、しなかった。
弾丸は、確かに命中したのに、だ。
『シチズン、停止して下さい。貴方達の行動は、適法ではありません』
「歪虚に言われたかぁ……」
振り向いた黒歩兵の脇を、燃え盛る焔が通り抜ける。
ボルディア。轟炎を発現した体は、眩く輝きながら斧槍を槌のごとく振り下ろす。
「ねぇなッ!」
銃を狙った攻撃は僅かに逸れ、鎧の右肩を直撃。
手応えはあった、だが、
『対象を脅威と認定』
「ぐおぉっ……!?」
反撃の発砲音。ボルディアの恵まれた体躯が、大きく仰け反る。
「今の、散弾……?」
「持ってる銃は一種類じゃないのね。役割分担してる」
後方から観ていたアメリアが微かに嘆息し、灯華がもう二体の黒歩兵を観る。
丁度、二体の間に割り込んだエヴァンスが、近い方の歪虚へと斬りかかっていた。
(目的も手段も判らんとは、長い戦いになりそうだな……なぁ、爺さん!)
すり抜けざま、グレートソードを膝を薙ぐ様に振るう。
強烈な衝撃に黒歩兵が転倒するも、隣の個体がかばう様に機銃を射つ。
エヴァンスは防御姿勢を取りつつ、一度手近の瓦礫へと身を隠した。
二人が黒歩兵の注意を引きつける間、アクセルは負傷している戦士達を探し、周辺を駆け回っていた。
「俺達は援軍です、助けに来ました!」
物陰でうずくまっていた栗毛の女性に、アクセルはヒールを施す。
彼女は息絶え絶えに、アクセルへ敵の事を語った。
「気をつけて。アイツら、動ける人間から殺してる。怪我人は後でもやれるって、判ってるのよ」
「殺す……捕虜を取らずに?」
「迷わず、ね。徹底した各個撃破よ」
栗毛の女性が頷くと、アクセルは声を張り上げ、戦っている者達にそれを伝えようとする。
だが、その行為は……ドン、という破裂音に妨げられた。
●
斥候としてならば別格だと……ルシオはテトの後ろ姿に、率直な感想を抱く。
テトは泣き顔のまま、しかし索敵と負傷者の捜索を的確にこなした。
無数の死体に混じる生存者を助けながら、ルシオとアイラ、テトは戦場の外周を回りこむ様に移動する。
「……にゃ」
テトが立ち止まり、表情をこわばらせる。
続くルシオが瓦礫の向こう側を覗くと、一体の黒歩兵と、その周囲に倒れる生存者が、三名。
銃口は既に生存者へ向いているーー
割って入らなければ間に合わない。友の加護を借りた、咄嗟の判断。
「アイラッ!」
ルシオは叫んで仲間の名を呼ぶと同時に、迷わず駆けた。
菱盾を翳して黒歩兵に体当たりし、注意を引く。
直後、その盾が一筋の光に引き裂かれ、ルシオの体から炎が上がった。彼女を守るマテリアルが、霧散する。
「…………ッ!」
「ルシオ、敵の後ろにもう一体いる!」
駆けつけたアイラが、矢を放ち、敵を牽制。
ルシオは傷口を抑えながら後ろに下がり、代わりにアイラが、黒歩兵の前に立ちふさがった。
「みんなと逃げて」アイラが叫ぶ。
「でも」
「信じて。死なないし、誰も通さない」
黒歩兵二体の注意はハンターに向いている。
生存者のうち、一名はテトが引きずって救助した。
ここから一人でも多く生還するには……アイラが、引きつける他に無い。
アイラの青い瞳を見つめたルシオは、頷き、テトと共に後退を始めた。
●
「予想はしていましたが……燻り出しに掛かられていますね」
服に刺さった鉄片を鬱陶しそうに払いつつ、アメリアはぼやく。
銃にアタッチメントがついているのなら、擲弾による爆発攻撃があったとしてもおかしくはない。
後衛の支援を妨害するために放たれたそれを、アメリアと灯華は移動を繰り返す事でどうにか凌いだ。
アメリアは瞬時に遮蔽から目標を見定めると、二体の黒歩兵に同時に速射を浴びせる。
夥しい弾丸が一瞬にして前衛の黒歩兵に着弾するが、直ぐ様グレネードが戦場の後方から飛来、再び移動を強いられる。
「妙ね、あいつら息合いすぎじゃない?」
胡蝶符を化現させながら、灯華は一つの疑問を仲間に投げかけた。
彼女の観る限り、現場に指揮官級の個体は存在していない。
それでいて、彼らの動きは完全とも言える連携を持って、ハンターの攻撃を分散し、自分達の攻撃を集中する。
今でも、前衛の黒歩兵がハンターと対峙する間に、物陰から無数の支援射撃が飛んで来るのだ。
その中には、先程ルシオを襲ったのと同じ、『熱を持つ光』も。
「癒やしの光よ……!」
救助から戦列に戻ったアクセルは盾でその攻撃を防ぎつつ、ヒーリングスフィアを唱えて仲間の傷を癒やす。
交戦している黒歩兵は五体。
敵の注意をハンターに惹きつける事には成功しているが、それゆえに彼らが受ける傷は深刻な領域に達しつつある。
「こいつらの武器、普通の銃じゃないな……!」
知識と着意を持って敵を観察するエヴァンスにも、『光』の正体は判らない。
だが、例えばアメリアが使うような『それ』と別物である事は、間違いない。
そしてその被害を最も受けているのは、ボルディア。
轟炎を纏いながら敵の注意を引きつける彼女は、敵の後衛から正確な十字砲火にを受けている。
「……まだまだぁッ!」
光線と弾丸の嵐を受けながら、炎癒の焔がボルディアの傷を癒やす。
そのまま彼女はラウンドスウィングで黒歩兵二体を同時、いずれも膝部を、力任せに薙いだ。
斧槍の鉤爪が装甲の隙間に入り込み、黒歩兵の一体を転倒させる。
「獲ったぜ……!」
動きの止まった黒歩兵の首元を、真一文字に振り下ろした斧が叩き折る。
確かな手応えの後……敵の動きが、停止した。
『ミョルニル19、シグナルロスト。対処を継続』
ボルディアが黒歩兵を仕留めるのと同時に、歪虚の火線が彼女に集中する。
「チッ……」
「下がりな、ボルディア!」
炎癒の尽きた仲間をかばうようにエヴァンスが割って入ると、剣で瓦礫を吹き飛ばして敵の視界を塞ぐ。
「こいつら、死んだら自爆とかしねぇよな」
「さあね……元が連合宙軍の人間なら、大丈夫じゃない?」
ぼやいたボルディアに灯華が肩を竦め、すばやく黒歩兵の死体の傍にかがみこんだ。
大胆にもその首元を漁り、目当ての物を見つける。
「証拠物件、てね。『切り札』を引きずり出す理由には十分だわ」
連合宙軍のドッグタグを、灯華は迷わず引きちぎり、また遮蔽の影へと戻る。
前衛の防御すら簡単に貫く攻撃を、まともに受ければ一溜まりもない。
「裁きの光よ!」
灯華をカバーするかの様に、アクセルのセイクリッドフラッシュ。
明滅する光輝は、前に出てきた黒歩兵二体を焼く。
敵の怯んだ隙をつき、エヴァンスが側面を取り、怒れる雄牛の如く勢いを載せたチャージングを見舞う。
「そこだァァッ!」
黒歩兵の鎧、胴体部の微かな隙間に、大剣の切っ先が突き立つ。
押し込み、貫き、串刺してから、蹴り倒す。
『ミョルニル14、シグナルロスト。脅威度レベル、E(エコー)を承認』
瞬間、遥か後方の物陰から放たれた三つの光線が、黒歩兵の死体ごとエヴァンスを貫いた。
「くそっ……」
直撃。その場に片膝をつくエヴァンス。
悪いことに、通りの角から新たな黒歩兵が二体……ルシオやアイラ達に相対していた個体が、合流してきたのだ。
「まずいですね。あの光線銃持ちに固まられたら……」
アクセルは唸りながらも、冷静に彼我の状況を把握する。
(「俺が助けたのは四人。救助班が助けた部族が、伝短で聞いた限りでは一〇人……」)
テトは二〇人程と生存者の数を伝えていたから、全員を助けた訳ではない。
だが、残った黒歩兵は六体全てが合流したのに対し、ハンター側の戦列は崩壊しつつある。
前衛による突撃は大きな時間を稼いだぶん、代償として手痛いダメージを受けたのだ。
『こっちは、助けた全員の安全を確保したよ』
アクセルの魔導短伝話が、少し離れた場所にいるアイラの声を伝えた。
『ルシオもテトも無事。そっちも頃合いを見て脱出……できそう?』
不安げなアイラの声。
果たして、その予感は的中してしまうこととなる。
……撤退の条件が明確化されておらず、その判断が遅れたことは大きな時間的損失を産んだ。
「殿は俺がやる。先にいけ!」
あらゆる回復手段が尽きた時、エヴァンスと灯華が殿となってハンター達は撤退を決めた。
だが既に日も落ちた宵闇から飛来する射撃は正確にして激しく、二人を戦闘不能にまで追い込んでしまう。
「別に、死ななければかすり傷も致命傷も一緒じゃない……!」
灯華は息も切れ切れにエヴァンスを引きずって、どうにか瓦礫の陰に入り込んだ。
暗視が可能なのか、敵の攻撃の手は緩まない。
後方のアメリアが制圧射撃で退路確保に努めていなければ、二人の内のどちらかは死んでいただろう。
だがそれでも、直接救出するには、殿と本隊の距離が開きすぎてしまった。
「このままだと、あの二人が逃げきれないですね……」
アメリアがリロードを行いつつ嘆息する。
何度か会心の手応えを感じては居るが、仕留めたかを確認する余裕さえ、もう無い。
すると……部族なき部族の戦士の内の四人が顔を見合わせ、徐ろに遮蔽物から躍り出た。
「おいっ、何する気だよ!」
ボルディアが叫ぶと、栗毛の女戦士が、諦め顔で笑った。
「助けに来て貰って、死なせる訳にもいかないの。仲間を宜しくね」
そういうと、四人は囮として、エヴァンスや灯華より更に前へと駆けていく……それっきり、彼らは戻らなかった。
それから僅かな時間、敵の射撃がハンターから逸れる。
その間にアクセルとボルディアが、エヴァンスと灯華を回収し、ハンター達は黒歩兵を引き離す事に成功した。
●
ハンターは部族なき部族と共にホープまで撤退、治療と状況整理を行った。
「テトを含めれば、生き残りは十一人。これで全員ではないらしいけど……痛手には、間違いないだろうね」
ルシオが、テトの背を見つめながら呟く。
隣にはアイラが寄り添っているが、彼女は背を丸め呆然としていた。
「発信機の類はねーな。闘ってる間も、通信妨害とかは無かったし……」
ボルディアは自分と仲間の体をもぞもぞと弄ったが、異常は見受けられない。
「ということは……今回の目的は、あくまで直接攻撃だったと」
と、アメリア。
山岳猟団には彼女が報告を入れたが、八重樫は、不自然に口を噤んだ。
ミサイルの発射位置も、蒼の世界の船についても。
「……あとは、情報を武器にできる連中の仕事、ね」
最後に灯華が、手に入れたタグを、テトの前へと差し出す。
部族なき部族の数少ない生き残りとなった少女は……そのタグを、灯華の手ごと、弱々しく握りしめた。
パァン!
……乾いた音が、夕暮れの空に反響した。
テトは何が起こったか判らない表情で、腫れた自らの頬を抑えている。
「あんたの師匠は仲間が死ぬのが怖くなかったと思う? 皆の前でいつまでも泣いていた?」
平手を飛ばしたのは、霧崎 灯華(ka5945)。
事情の説明が終わっても涙を止めないテトに対して……強烈な一打を見舞った。
「深呼吸して、何がやれるか、ただそれだけを考えなさい」
テトの背中を、腕組みしながら見つめていたボルディア・コンフラムス(ka0796)は小さく嘆息してから、言葉を付け加えた。
「猫助、一つだけ言っておくぞ。悲しむのも戸惑うのも全部後にしろ。テメェが1秒迷った分、仲間が死に近づいてると思っとけ」
歴戦の戦士としては当然の、前を見つめた言葉。
だが……独り立ちすらしていない未熟な子供に、果たして戦士の正論が、届いたかどうか。
「――申し訳ねぇ顔してねぇで、俺等をアゴで使ってでも全員助け出すって気概、見せてみろよ」
結論だけ言えば……テトは、涙を止めなかった。
砦への道を、ハンターに案内しながら……彼女は何度も、ごめんなさいと繰り返した。
●
燃え盛る瓦礫の山を見て、ルシオ・セレステ(ka0673)は思わず固唾を呑んだ。
(シバ、敵は貴方が逝くのを見ていたのだろうか……)
見送ったばかりの盟友の姿が、脳裏を過る。
指導者を失った組織を一撃で破壊に追いやるその所業……
「ここまで正確に……以前の無人機で、完全に把握されていたって事でしょうか。近代兵器が相手なら、分が悪いですね」
アメリア・フォーサイス(ka4111)は、喋りながらも周囲を見渡す。既に薄暮だが、地形を把握する時間はある。
「おい、あっちだ!」
瓦礫の向こうに赤光を瞬かせる黒い人影を、エヴァンス・カルヴィ(ka0639)が指差す。
即座、ハンター達は皆、各々が決めていた行動へと移った。
駆け出したエヴァンスに続くのは、ボルディア、アメリア、灯華、そしてアクセル・ランパード(ka0448)。
アクセルはテトとのすれ違いざま、彼女の暗い表情を覗いた。
かつて共に冒険した時には……これ程の重荷を、想像さえもさせかったのに。
「テトさん、出来る限り皆を救ってみせます……今、ここで『部族なき部族』を滅ぼされる訳にはいきません」
アクセルの言葉に、ふと、テトは顔を上げる。
その背中を、ルシオが優しく、押した。
「君の力が必要なんだ……話した通りに、できそうかい?」
少女は、すん、と鼻を啜り……小さく頷いた。
「私はあっちに気を割くから、あなたはあっちを」
テトと共に超聴覚を発現したアイラ(ka3941)は、彼女と僅かに距離をあけ、それぞれの死角をカバーし合う位置で戦場を探る。
聞こえてくる、少女の粗い吐息。
炎の爆ぜる音。
風のうなり。
複数の重い足音。
刃の風切り。
銃声。
それから、人の呻き。
「……いた。ルシオ!」
周囲に不穏な気配がないかを確かめてから、アイラは続くルシオを、眼前の瓦礫に呼び寄せた。
そこには、血まみれになって瓦礫に身を隠す、部族の戦士。
「ハンターか……テトが呼んだな」
「動かないで。今、治療する」
ルシオがヒールを施すと、戦士はよろよろと、立ち上がる。
「私達に構わず逃げろ。仲間と肩を貸し合い、背負ってでもこの場を去れ。その命を繋いで、何時か必ず……」
ルシオの言葉を、戦士は手で制した。
「この恩は返す」とだけ述べ、その場を遠ざかっていく。
「行こう。まだ、たくさん……助けなきゃいけない人がいる」
アイラの、重々しい呟き。
消えかけた命の呻きが……彼女の耳には、痛い程に聞こえていた。
●
一方、黒歩兵に近づくハンター達は、程無く交戦距離に入る。
「見えてるのは三体……それから、何人が倒れている人達が!」
アクセルが、声を張り上げる。
「敵の頭は俺たちが抑える! 援護してくれ!」
エヴァンスが交戦の角笛を吹くと先陣を切って歪虚に接近、ボルディアとアクセルが後に続く。
その間に、灯華とアメリアは散開し、瓦礫の影へと入った。
アメリアは位置につくと淀みない動作でライフルを構え、制圧射撃を実行する。
「硬い……」
黒歩兵は一瞬、その動きを止めたが……よろけさえも、しなかった。
弾丸は、確かに命中したのに、だ。
『シチズン、停止して下さい。貴方達の行動は、適法ではありません』
「歪虚に言われたかぁ……」
振り向いた黒歩兵の脇を、燃え盛る焔が通り抜ける。
ボルディア。轟炎を発現した体は、眩く輝きながら斧槍を槌のごとく振り下ろす。
「ねぇなッ!」
銃を狙った攻撃は僅かに逸れ、鎧の右肩を直撃。
手応えはあった、だが、
『対象を脅威と認定』
「ぐおぉっ……!?」
反撃の発砲音。ボルディアの恵まれた体躯が、大きく仰け反る。
「今の、散弾……?」
「持ってる銃は一種類じゃないのね。役割分担してる」
後方から観ていたアメリアが微かに嘆息し、灯華がもう二体の黒歩兵を観る。
丁度、二体の間に割り込んだエヴァンスが、近い方の歪虚へと斬りかかっていた。
(目的も手段も判らんとは、長い戦いになりそうだな……なぁ、爺さん!)
すり抜けざま、グレートソードを膝を薙ぐ様に振るう。
強烈な衝撃に黒歩兵が転倒するも、隣の個体がかばう様に機銃を射つ。
エヴァンスは防御姿勢を取りつつ、一度手近の瓦礫へと身を隠した。
二人が黒歩兵の注意を引きつける間、アクセルは負傷している戦士達を探し、周辺を駆け回っていた。
「俺達は援軍です、助けに来ました!」
物陰でうずくまっていた栗毛の女性に、アクセルはヒールを施す。
彼女は息絶え絶えに、アクセルへ敵の事を語った。
「気をつけて。アイツら、動ける人間から殺してる。怪我人は後でもやれるって、判ってるのよ」
「殺す……捕虜を取らずに?」
「迷わず、ね。徹底した各個撃破よ」
栗毛の女性が頷くと、アクセルは声を張り上げ、戦っている者達にそれを伝えようとする。
だが、その行為は……ドン、という破裂音に妨げられた。
●
斥候としてならば別格だと……ルシオはテトの後ろ姿に、率直な感想を抱く。
テトは泣き顔のまま、しかし索敵と負傷者の捜索を的確にこなした。
無数の死体に混じる生存者を助けながら、ルシオとアイラ、テトは戦場の外周を回りこむ様に移動する。
「……にゃ」
テトが立ち止まり、表情をこわばらせる。
続くルシオが瓦礫の向こう側を覗くと、一体の黒歩兵と、その周囲に倒れる生存者が、三名。
銃口は既に生存者へ向いているーー
割って入らなければ間に合わない。友の加護を借りた、咄嗟の判断。
「アイラッ!」
ルシオは叫んで仲間の名を呼ぶと同時に、迷わず駆けた。
菱盾を翳して黒歩兵に体当たりし、注意を引く。
直後、その盾が一筋の光に引き裂かれ、ルシオの体から炎が上がった。彼女を守るマテリアルが、霧散する。
「…………ッ!」
「ルシオ、敵の後ろにもう一体いる!」
駆けつけたアイラが、矢を放ち、敵を牽制。
ルシオは傷口を抑えながら後ろに下がり、代わりにアイラが、黒歩兵の前に立ちふさがった。
「みんなと逃げて」アイラが叫ぶ。
「でも」
「信じて。死なないし、誰も通さない」
黒歩兵二体の注意はハンターに向いている。
生存者のうち、一名はテトが引きずって救助した。
ここから一人でも多く生還するには……アイラが、引きつける他に無い。
アイラの青い瞳を見つめたルシオは、頷き、テトと共に後退を始めた。
●
「予想はしていましたが……燻り出しに掛かられていますね」
服に刺さった鉄片を鬱陶しそうに払いつつ、アメリアはぼやく。
銃にアタッチメントがついているのなら、擲弾による爆発攻撃があったとしてもおかしくはない。
後衛の支援を妨害するために放たれたそれを、アメリアと灯華は移動を繰り返す事でどうにか凌いだ。
アメリアは瞬時に遮蔽から目標を見定めると、二体の黒歩兵に同時に速射を浴びせる。
夥しい弾丸が一瞬にして前衛の黒歩兵に着弾するが、直ぐ様グレネードが戦場の後方から飛来、再び移動を強いられる。
「妙ね、あいつら息合いすぎじゃない?」
胡蝶符を化現させながら、灯華は一つの疑問を仲間に投げかけた。
彼女の観る限り、現場に指揮官級の個体は存在していない。
それでいて、彼らの動きは完全とも言える連携を持って、ハンターの攻撃を分散し、自分達の攻撃を集中する。
今でも、前衛の黒歩兵がハンターと対峙する間に、物陰から無数の支援射撃が飛んで来るのだ。
その中には、先程ルシオを襲ったのと同じ、『熱を持つ光』も。
「癒やしの光よ……!」
救助から戦列に戻ったアクセルは盾でその攻撃を防ぎつつ、ヒーリングスフィアを唱えて仲間の傷を癒やす。
交戦している黒歩兵は五体。
敵の注意をハンターに惹きつける事には成功しているが、それゆえに彼らが受ける傷は深刻な領域に達しつつある。
「こいつらの武器、普通の銃じゃないな……!」
知識と着意を持って敵を観察するエヴァンスにも、『光』の正体は判らない。
だが、例えばアメリアが使うような『それ』と別物である事は、間違いない。
そしてその被害を最も受けているのは、ボルディア。
轟炎を纏いながら敵の注意を引きつける彼女は、敵の後衛から正確な十字砲火にを受けている。
「……まだまだぁッ!」
光線と弾丸の嵐を受けながら、炎癒の焔がボルディアの傷を癒やす。
そのまま彼女はラウンドスウィングで黒歩兵二体を同時、いずれも膝部を、力任せに薙いだ。
斧槍の鉤爪が装甲の隙間に入り込み、黒歩兵の一体を転倒させる。
「獲ったぜ……!」
動きの止まった黒歩兵の首元を、真一文字に振り下ろした斧が叩き折る。
確かな手応えの後……敵の動きが、停止した。
『ミョルニル19、シグナルロスト。対処を継続』
ボルディアが黒歩兵を仕留めるのと同時に、歪虚の火線が彼女に集中する。
「チッ……」
「下がりな、ボルディア!」
炎癒の尽きた仲間をかばうようにエヴァンスが割って入ると、剣で瓦礫を吹き飛ばして敵の視界を塞ぐ。
「こいつら、死んだら自爆とかしねぇよな」
「さあね……元が連合宙軍の人間なら、大丈夫じゃない?」
ぼやいたボルディアに灯華が肩を竦め、すばやく黒歩兵の死体の傍にかがみこんだ。
大胆にもその首元を漁り、目当ての物を見つける。
「証拠物件、てね。『切り札』を引きずり出す理由には十分だわ」
連合宙軍のドッグタグを、灯華は迷わず引きちぎり、また遮蔽の影へと戻る。
前衛の防御すら簡単に貫く攻撃を、まともに受ければ一溜まりもない。
「裁きの光よ!」
灯華をカバーするかの様に、アクセルのセイクリッドフラッシュ。
明滅する光輝は、前に出てきた黒歩兵二体を焼く。
敵の怯んだ隙をつき、エヴァンスが側面を取り、怒れる雄牛の如く勢いを載せたチャージングを見舞う。
「そこだァァッ!」
黒歩兵の鎧、胴体部の微かな隙間に、大剣の切っ先が突き立つ。
押し込み、貫き、串刺してから、蹴り倒す。
『ミョルニル14、シグナルロスト。脅威度レベル、E(エコー)を承認』
瞬間、遥か後方の物陰から放たれた三つの光線が、黒歩兵の死体ごとエヴァンスを貫いた。
「くそっ……」
直撃。その場に片膝をつくエヴァンス。
悪いことに、通りの角から新たな黒歩兵が二体……ルシオやアイラ達に相対していた個体が、合流してきたのだ。
「まずいですね。あの光線銃持ちに固まられたら……」
アクセルは唸りながらも、冷静に彼我の状況を把握する。
(「俺が助けたのは四人。救助班が助けた部族が、伝短で聞いた限りでは一〇人……」)
テトは二〇人程と生存者の数を伝えていたから、全員を助けた訳ではない。
だが、残った黒歩兵は六体全てが合流したのに対し、ハンター側の戦列は崩壊しつつある。
前衛による突撃は大きな時間を稼いだぶん、代償として手痛いダメージを受けたのだ。
『こっちは、助けた全員の安全を確保したよ』
アクセルの魔導短伝話が、少し離れた場所にいるアイラの声を伝えた。
『ルシオもテトも無事。そっちも頃合いを見て脱出……できそう?』
不安げなアイラの声。
果たして、その予感は的中してしまうこととなる。
……撤退の条件が明確化されておらず、その判断が遅れたことは大きな時間的損失を産んだ。
「殿は俺がやる。先にいけ!」
あらゆる回復手段が尽きた時、エヴァンスと灯華が殿となってハンター達は撤退を決めた。
だが既に日も落ちた宵闇から飛来する射撃は正確にして激しく、二人を戦闘不能にまで追い込んでしまう。
「別に、死ななければかすり傷も致命傷も一緒じゃない……!」
灯華は息も切れ切れにエヴァンスを引きずって、どうにか瓦礫の陰に入り込んだ。
暗視が可能なのか、敵の攻撃の手は緩まない。
後方のアメリアが制圧射撃で退路確保に努めていなければ、二人の内のどちらかは死んでいただろう。
だがそれでも、直接救出するには、殿と本隊の距離が開きすぎてしまった。
「このままだと、あの二人が逃げきれないですね……」
アメリアがリロードを行いつつ嘆息する。
何度か会心の手応えを感じては居るが、仕留めたかを確認する余裕さえ、もう無い。
すると……部族なき部族の戦士の内の四人が顔を見合わせ、徐ろに遮蔽物から躍り出た。
「おいっ、何する気だよ!」
ボルディアが叫ぶと、栗毛の女戦士が、諦め顔で笑った。
「助けに来て貰って、死なせる訳にもいかないの。仲間を宜しくね」
そういうと、四人は囮として、エヴァンスや灯華より更に前へと駆けていく……それっきり、彼らは戻らなかった。
それから僅かな時間、敵の射撃がハンターから逸れる。
その間にアクセルとボルディアが、エヴァンスと灯華を回収し、ハンター達は黒歩兵を引き離す事に成功した。
●
ハンターは部族なき部族と共にホープまで撤退、治療と状況整理を行った。
「テトを含めれば、生き残りは十一人。これで全員ではないらしいけど……痛手には、間違いないだろうね」
ルシオが、テトの背を見つめながら呟く。
隣にはアイラが寄り添っているが、彼女は背を丸め呆然としていた。
「発信機の類はねーな。闘ってる間も、通信妨害とかは無かったし……」
ボルディアは自分と仲間の体をもぞもぞと弄ったが、異常は見受けられない。
「ということは……今回の目的は、あくまで直接攻撃だったと」
と、アメリア。
山岳猟団には彼女が報告を入れたが、八重樫は、不自然に口を噤んだ。
ミサイルの発射位置も、蒼の世界の船についても。
「……あとは、情報を武器にできる連中の仕事、ね」
最後に灯華が、手に入れたタグを、テトの前へと差し出す。
部族なき部族の数少ない生き残りとなった少女は……そのタグを、灯華の手ごと、弱々しく握りしめた。
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猫助に質問 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/12/14 12:37:55 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/11 13:25:56 |
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最終発言 2015/12/15 18:55:00 |