【空の研究】レイニィ・ララバイ

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/12/16 07:30
完成日
2015/12/20 09:36

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ウォリスにとって最大の敵は、いつだって「睡眠」だった。人ならざる者ですら寝静まる夜更けになっても寝ることができず、ようやくうとうとできたかと思うと、もう夜明け。そんな日を幾日か過ごし、ある日、体に限界が来てぱったりと倒れる。……そんなことを、幼いころから繰り返していた。何人もの医者にかかったが、原因はわからなかった。
 そんなウォリスが、唯一、深い眠りにつけるときがあった。
 それは、雨の日である。
 軒先の石畳にぽたぽた落ちる雨音を聞いていると、自然と眠くなった。ウォリスの神経をゆっくりとほどいてゆくような、静かな音の連なりは、どんな薬よりも、どんな子守唄よりも効果があった。まさに、恵みの雨である。
 少年から青年へ成長してゆく間に、ウォリスは考えるようになった。この、雨の旋律を皆と共有できないものか……、すなわち、雨の子守唄の楽譜を作れないものか……、と。
 ウォリスは音楽の勉強をした。そして、たくさんの曲を作った。けれど、自分に眠りを与えてくれる雨のメロディを再現することは、できずにいた。
 何年も何年も、もどかしい思いで、それでも音楽の勉強を続けていた、そんなウォリスのもとに、ある日、不思議な人物が現れた。
「ウォリスさんに、これを復元していただきたいんですねーえ」
 フードを目深にかぶったその人物は、男か女かもわからない上、妙なイントネーションで喋り、見るからに風変わりであった。ウォリスは少なからず、警戒していた。
「な、なんでしょうか」
「ふるーい、ふるーい、楽譜なのですがねーえ。どうやら、魔法の子守唄の楽譜らしいんですねーえ。……曲名は『レイニィ・ララバイ』というそうで」
「!! 雨の、子守唄……!!」
 ウォリスの警戒は、吹き飛んだ。フードの人物が差し出した紙の束を受け取って、一枚一枚確かめてみる。用紙は茶色く変色し、ところどころ破れたり掠れたりして読めなくなっていた。
「王国の、とある場所から発見されたのですがねーえ、私は音楽に関してはさっぱりでして。あなたは長年、雨の音楽を研究していると聞きましたので、もしかしたら、復元してくださるのではないかと思ったんですよぉ」
「是非ともやらせていただきたく思います! ですが、私には魔法の知識がありませんが……」
「ああ」
 フードの下から、わずかにみえている口元が、にぃ、と笑った。
「もし困ったことがあったら、ハンターに依頼してはどうですかねーえ。資金は、私が置いていきますから」
「はあ……」
「では、よろしくお願いしますねーえ」
 裾の長いフードコートを翻して、その人物はさっさと、ウォリスの前から立ち去ったのだった。



 それから、一年の時が流れた。
 ウォリスは、試行錯誤を重ね、ついに楽譜を完成させた。調べに調べ、考察を重ね、これがピアノ、バイオリン、フルートでの三重奏の譜面であることを突き止め、抜けた音符を補って新たな用紙に書き起こした。
「ようし。音楽仲間に声をかけて、演奏会に協力してもらおう。……だが、やはり、魔法の子守唄であるというのが気がかりだなあ」
 ウォリスは、少しだけ迷ったが、フードの人物のアドバイスに従って、ハンターに依頼をすることにした。魔法に関するアドバイスをしてもらうか、それが無理でも演奏会を見届けてもらおうと思ったのである。
 演奏会には、当然、雨の予報の日を選んだ。楽器だけでは、この音楽は成り立たないのだ。雨の音が、必要不可欠。眠れる雨の演奏会。それは珍しくも優しい催しとなりそうであった。
 ところが。
 演奏会の、前日。
 ハンターへの依頼も済ませ、演奏会の段取りをほぼ完了させたウォリスは、演奏を手伝ってくれる友人たちやハンターたちと共に、演奏会会場での準備を終えて自宅へ帰ろうとしていた。
「ダメダメ! ここから先は通れないよ!」
 演奏会場から、自宅までの街道が、封鎖されていたのである。
「何か、あったんですか?」
 ウォリスが、街道の警備員に尋ねると。
「雑魔が出たらしいんだよ。それも、複数。これからハンターに依頼するところさ。三日くらいは通れないよ」
「そんな……! 楽譜が、家に置いたままなのに……! 演奏会は、明日だ……!」
「よくわかんないけど、とにかく、無理だよ」
 にべもなく追い返され、ウォリスは途方に暮れた。
「そうだ、子守唄は完成している! あれを使えば雑魔を眠らせることができるのでは!? いや、しかしその子守唄の楽譜がないのだった……、どうしたら……」
 呆然と立ち尽くしたウォリスの頬に、ぽつり、と。雨の雫が落ち始めた。
 ウォリスはハッと気が付く。そうだ、ハンターなら、ここに。
「お願いです! 最初の依頼内容と違うことはわかっていますが! どうか! 私に楽譜を取りに行かせてください!」

リプレイ本文

 ぽつぽつ、と降り出した雨は、まだ大人しすぎるほどのかすかなものでしかなかった。
「降ってきた……」
 空を見上げて、ウォリスが嬉しさ半分、不安半分といったように呟いた。演奏会に雨は不可欠。それと同じくらい、楽譜も不可欠だ。
「街道の警備員に話をつけてきたよ。ソウルウルフのフィオレッティを預けて、一緒に人が来ないように見張っててもらうね」
 マチルダ・スカルラッティ(ka4172)がそう言って微笑んだ。ウォリスの願いを聞き入れ、楽譜を取りに行くと決めた八人は、手際よく出発の態勢を整えていた。
「一度失われ、また蘇った歌を聴ける珍しい機会だと思って来たんだが、まさかこんな事態に巻き込まれるとは思わなかったね」
 シュクトゥ(ka5118)が苦笑した。
「正直なところ面倒ごとが増えた感は否めないのだが、多少の困難があった方がご褒美の喜びも増すというものだ」
 ライラ = リューンベリ(ka5507)は、丁寧な口調でウォリスに問いかける。
「ウォリス様は、いかがいたしますか? 共に楽譜を取りに行かれるのならば、護衛させていただきますが……」
「おじさんも傘の中に入れてあげる! 鳥に突っつかれたら痛いもの」
 ライラの後ろから、雨音に微睡む玻璃草(ka4538)がにっこりと言うと、ウォリスは困ったように顔を曇らせた。
「ありがとう、是非その傘に入れてもらいたいけれど……、それは君たちが戻って来てくれてからにしましょう。さっきは威勢よく、取りに行かせてほしい、と言ったけれど、私は足手まといにしかならないと思うのです……」
 ウォリスはそこで、ふわあ、とあくびをした。そうか、と理由に思い至ってさらりと頷いたのはカフカ・ブラックウェル(ka0794)だ。
「子守唄がなくても、雨の音で眠くなるんだったね」
「ええ……。このくらいの雨ならば、眠りに落ちてしまうことはないでしょうが……」
「それならやっぱりウォリスさんが取りに行くのは危ないから、私たちがなんとかするよ」
 申し訳なさそうにするウォリスを安心させようと、マチルダが明るい声を出した。
「よろしくお願いします。街道を抜けたすぐ先の、緑色の屋根の家です。楽譜はそこのピアノ室に置いてあります」
 ウォリスが深々と頭を下げた。



 出発してすぐ、エルティア・ホープナー(ka0727)がペットのフクロウ、フォグを飛び立たせた。空から周囲を警戒し、敵を発見した際には報告をさせるのである。
「雨の中ごめんなさい? でも、お願い」
 きりりとした青い瞳で空を見上げ、フォグが飛んでゆくのを見送る。同じように、かすかな雨が落ちてくる空を見上げているのは、外待雨 時雨(ka0227)だ。その表情はなんとも穏やかであり、嬉しそうである。
「……雨を愛して頂けるなら……友として、それほど嬉しいことはなく……」
 雨が主役になるという演奏会が開催される、ということは時雨にとって非常に喜ばしいことだった。もちろん、そう思っているのは彼女だけではない。
「雨音を利用した古い音楽ですか。どんな音楽なのかな?」
 音楽に囲まれて育ったルナ・レンフィールド(ka1565)が期待に満ちた声を出す。カフカも同じく期待の表情で頷いた。
「何とも興味をそそられるね、ワクワクしてしまうよ」
「そうですね! ともあれ、まずは雑魔を倒して楽譜を取ってこないとねっ」
 それには誰もが頷いた。マチルダが、これからの行動について提案をする。
「楽譜を取りに行く人と、雑魔の相手をする人を分けた方がいいよね。素早く動ける人に取りに行ってもらえれば……」
「それならば、私が参ります」
 そう申し出たのは、ライラ。傍らに馬を歩ませている。馬で駆けて取りに行くつもりなのだ。それを聞いて、エルティアも名乗りを上げる。
「私も行くわ。私が弓で牽制していれば、あなたは馬を操ることだけに集中できるでしょう?」
「ありがとうございます、エルティア様」
「警備員さんの話では、雑魔は三体ということだよね。では、私とカフカさんとマチルダさんは連携して……」
 ルナがそう話し始めたとき。
「あら」
 突然、フィリアが何かに気が付いたような声を出し、街道の脇の樹に向かって風のように駆け出した。
「一体どうしたのだ……、ああ、そうか」
 シュクトゥは呼び止めようとしたが、彼女もすぐ気が付いたようであった。エルティアのフォグがやってきて、一度だけ鋭く鳴く。上空に、雑魔の影が見えた。大きく翼を広げた鳥型のものが、二体。
「……来た……」
 時雨の静かな声が、ひたひたと雨のように響く。ライラが素早く馬に跨る。
「エルティア様、馬上へ! 後ろをお願い致します」
「ええ。では、私たちは行くわね」
 エルティアがひらりとライラの馬に乗り、早くも矢をつがえた恰好で空を睨み上げた。
「いけない、馬を追おうとしてるよ!」
 雑魔の動きを見て、マチルダが叫ぶ。すると、街道脇の樹の枝がガサガサと大きく揺れた。樹から、傘の先が見える。フィリアの傘だ。その行動は、雑魔たちの気を引いて、馬から注意をそらすことに成功した。
「こっちへ来たな、よし、まずは僕がスリープクラウドを試そう」
 カフカがスリープクラウドを放つのに合わせて、シュクトゥが矢をつがえ、連携攻撃の準備をした。が、しかし。
 二体はさっと高度を上げてそれを避けたかと思うと、素早い羽ばたきと滑空で風を起こしてシュクトゥの矢の軌道を逸らしてしまったのである。
「想像以上に素早いな、そして賢い」
 シュクトゥが視線を険しくした。続けて放たれたルナのスリープクラウドも、巧みに避けられ、霧散させられてしまう。うーん、と唸ってルナが言った。
「一羽ずつ標的を絞った方がいいかも」
「では私が囮になろう。一体を引きつけているうちに、もう一体の動きを封じてみてくれないか」
 シュクトゥがそう申し出て、すぐに動き出した。フィリアが軽やかに樹を移りながら雑魔を追いこんでいる動きに合わせて、二体を分離させにかかる。その後ろで、時雨がシュクトゥに対し、プロテクトをかけた。
「……囮、危ない……から……、私が守る……」
 荒事の得意でない時雨だが、それでも自分の力をどう役立てられるかはよくわかっていた。
「これで随分やりやすくなるな。もう一度僕がスリープクラウドを使おう」
 カフカが宣言すると、すかさずルナが申し出た。
「同時に私もファイアボールを試させて、カフカさん! 爆風で動きを止められるかもしれないよね」
 ふたりは頷き合い、ルナが先にファイアボールを上空へ打ち上げ、爆風が巻き起こる瞬間を見計らってカフカがスリープクラウドを再度放った。爆風で羽ばたきを乱されたらしい雑魔は、今度こそ、スリープクラウドによって眠りを誘われ、ふらふらと飛行……、いや、落下を始めた。
「ようし!」
 マチルダは、そこを逃さなかった。落ちてくる雑魔に向かって正確にマジックアローを放ち……、それは見事に命中して一体の雑魔を消し去った。
「やったぁ!」
「まだもう一体いる。手間はかかるけど、この調子でもう一体も……」
 三人は、シュクトゥが引きつけてくれている雑魔の方へ視線を移した。精度の高い狙いで雨の間を突きぬけてゆくシュクトゥの矢は、雑魔の翼ギリギリのところをかすめている。その腕をもってしても命中には至らないのを見て、改めて今回の雑魔の厄介さを実感した。
「……まだもう一体、じゃない……、もう二体……」
 そう呟きながら、時雨が街道の先を指差した。その方向を見ながら、マチルダは、時雨の傘に落ちる雫の音が大きくなってきていることに気が付いた。雨脚が徐々に強まっているのだ。
 そして、時雨が指差した方向からは。
「皆様!」
 楽譜を抱えて馬を操るライラと、その後ろで鋭い矢を放っているエルティアが戻ってきた。しっかりと楽譜を抱えて守るライラの表情からは、楽譜に決して傷をつけさせまいという強い意志がありありと見えた。エルティアが矢を放っている先には、もちろん……、もう一体の雑魔。見事に狙われ、楽譜と共に連れてきてしまったのだ。だが、これで雑魔を一体も逃さず殲滅できる。
「新しい知識と魔術をこの目に刻むためだもの、邪魔はさせないわ」
 そう言って繰り出されるエルティアの攻撃は、雑魔のあの素早さでも避けきれぬものがあったらしい、かすり傷を負わせている。だが、致命傷には程遠く、やはり魔法で動きを鈍くさせる必要がありそうだった。
「さっきと同じように一体ずつやるしかないか?」
 そう言ってカフカが雑魔の動きを見定めつつスリープクラウドの詠唱に入ろうとした。それを、ライラが押しとどめる。
「待ってください。楽譜が手に入りましたし、この子守唄を使えば二体同時に動きを止められるのではないでしょうか。音楽を戦いの道具にするのは嫌ですけれど、今回は許してくださいね」
「そうだね。試してみてもいいかも。雨も強くなってきたし」
 マチルダが頷いた。
「是非、お願いします!」
 突然、ハンターたちの後ろで、ウォリスの声がした。驚いて振り向くと、いつの間にやらひとり行動を別にしていたらしいフィリアが、ウォリスに傘を差しかけていた。どうやら、彼女が連れてきたようである。
「あのね、傘を差すの。だって雨に濡れちゃうでしょう?」
「約束通り、傘に入れていただきました」
 眠そうに目をこすりながら、ウォリスが微笑んで、すぐに表情を引き締めた。
「子守唄は完成しています。本来は三重奏ですが、これだけ雨が降っていますし、フルートだけでも効果はあると思います。それに、私も今ここにバイオリンを持っています。どうか、お願いできないでしょうか」
「わかりました、やりましょう。フルートは、私が」
「僕も。ルナのバイオリンはこの場にはないから、リズムを管理してくれないかな、なんせ初見で演奏するわけだしね」
「任されました!」
 エルティアとカフカが名乗りを上げ、ルナも協力に賛成する。楽譜が濡れないようにと時雨が自分の傘の中を示し、三人はそこで急いで楽譜を確認した。ライラが布を小さく割いたものを皆に配る。自分たちが眠ってしまっては元も子もない。
 そしてマチルダ、シュクトゥ、ライラは雑魔の動きを牽制しつつ、演奏者をガードすることとした。ウォリスのカバーにはフィリアが寄り添っているので心配はなさそうだ。
 かくして。
 フルートと、バイオリン……、そして雨の音が、子守唄を紡ぎ始めた。
 それは、ゆったりとしていながらトリッキーな跳躍を見せる不思議な旋律であった。フルートのレガートが先導し、バイオリンのスタッカートが雨音とシンクロしている。耳栓をしているがゆえに良く聞こえないのが残念だと、誰もが思った。
 唯一、良く聞くことのできているはずの雑魔たちは。
「……雨の、眠りに、落ちかけている……」
 時雨が言った通り、雑魔二体の動きは目に見えて鈍くなっていた。まるで酔っているように、ぐらんぐらんと大きく体を揺らしながら、木葉がゆっくり落下するのに似た動きで高度を下げてきた。
「眠ってしまえばこちらのものですね」
 ライラが満足げに頷いた。ウォリスが眠そうな目を潤ませて、子守唄の効果を喜んでいるのが見える。マチルダとシュクトゥが頷き合って、マジックアローと矢の攻撃を、それぞれに浴びせた。子守唄に気持ち良く酔っている雑魔は、自分が倒されたという自覚がないままに、消え失せた。



 予定通り、演奏会が開催されることになり、誰もが本当に喜んでいた。雨の音が聞こえやすいようにとテントを張る形で作られた会場は、誰もがリラックスした表情で座り、すでに寝そべっている客もいて、通常の演奏会ではちょっと見られない光景になっていた。
 会場入りしている客ひとりひとりに、ライラとマチルダがクッションやブランケットを配っている。シュクトゥはテントの点検をしつつ、会場の警備にあたっていた。
 ステージ裏に簡易的に作られた楽屋では、演奏者たちが最後の準備をしている。ウォリスの友人たちに加え、カフカ、ルナ、エルティア、時雨が演奏に参加することになっていた。時雨は雑魔を退治した後、ウォリスの家のピアノ室を借りて練習をしたのだ。
 フルートを調整しつつ、カフカは呟いた。
「あんなに見事に効果が出るなんてね。昔、父さんと母さんに聞いたことはあった『魔術のような効果を持つ曲』……やっぱり実際にあったんだ」
「楽譜をじっくり見たけれど……、魔術的な響きがどこなのか断言できないなあ。うーん、雨音っていう不規則だけれど規則的な不思議なリズムが重要なのかなぁ」
 ルナも曲についていろいろと考察をしていたらしく、丁寧な見解を述べる。かなり筋が通っているように思われた。
「なんにせよ、決して悪意で作られた物では無いと願うわ」
 宝物のフルートを優しく撫でて、エルティアはそう言った。演奏会のスタートは、目前だ。
「……大丈夫……きっと、成功しますよ。あなたの声は……誰よりも、優しいのですから……」
 時雨が、友に、本日の主役に、微笑みかけた。



 曲名は『レイニィ・ララバイ』。その名の通り、雨の子守唄だ。
 それは、ゆったりとしていながらトリッキーな跳躍を見せる不思議な旋律。フルートのレガートが先導し、バイオリンのスタッカートが雨音とシンクロし……、ピアノがドルチェで奥深さを加える。演奏は丁寧で、感情が乗っていて、素晴らしいものだった。
 誰もがうっとりと、とろーりと、心地よい眠気に身を任せていた。
 囁くようなフィリアの歌が、そこに決して邪魔にならないぴったりの色を添える。
「『朝霧の帳』が兎の尻尾に降るように
『九つ眠る柊の葉』は塒を求めて影渡り
『稲妻尻尾の大蜥蜴』が花弁を食むから、洋服箪笥はもう満杯」
 眠りに誘われる頭で、マチルダは楽譜をウォリスにくれたという人物について考えていた。戦闘プランだけでなく、彼女の思考の視野は広い。
(どうして、突然家に来たのかな。一年も前ってことは、フードの人はそんな前から何も知らない人を使ってあれこれ試してるのか)
 もしかしたら、会場に来るかもしれないと思って注意しているが、今のところ姿はない。そしてその注意力も、だんだんと薄まって、いる。
(何のためにこんなことしてるんだろう?)
 ぼんやりした思考と、視界の端に。
(あ)
 すっぽりとフードをかぶった人物が、見えたような気がした。
「パンケーキには黄金色の蜂蜜とバタをたっぷりのせて
暖かいミルクには春風のジャムを一匙」
 ふわふわテントをさまよいながら歌うフィリアが、その人物の正面に立った。口元と、フードの脇からこぼれる金髪しか、見ることはできない。フィリアは歌う。
「二つの帳が落ちてきて
話の続きは、」
 フードの人物の人差し指が、口元に添えられた。秘密、と言う代わりに、その人物は言った。
「また明日」

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MVP一覧

  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールドka1565
  • 【魔装】猫香の侍女
    ライラ = リューンベリka5507

重体一覧

参加者一覧

  • 雨降り婦人の夢物語
    外待雨 時雨(ka0227
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 物語の終章も、隣に
    エルティア・ホープナー(ka0727
    エルフ|21才|女性|闘狩人
  • 月氷のトルバドゥール
    カフカ・ブラックウェル(ka0794
    人間(紅)|17才|男性|魔術師
  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 黎明の星明かり
    マチルダ・スカルラッティ(ka4172
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 囁くは雨音、紡ぐは物語
    雨音に微睡む玻璃草(ka4538
    人間(紅)|12才|女性|疾影士

  • シュクトゥ(ka5118
    人間(紅)|19才|女性|霊闘士
  • 【魔装】猫香の侍女
    ライラ = リューンベリ(ka5507
    人間(紅)|15才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 打ち合わせ
ルナ・レンフィールド(ka1565
人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/12/16 06:48:03
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/12/14 22:54:37