ゲスト
(ka0000)
希望の地に彩りを
マスター:蒼かなた
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/14 22:00
- 完成日
- 2015/12/21 14:16
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●クリスマス中止の危機
季節は巡り1年最後の季節とも言える冬が訪れた。
クリムゾンウェストでも一番北部に位置する辺境では、既に冷たい風だけではなく一部では雪も降り始めている。
そんな中で辺境の中心地になりつつある開拓地『ホープ』では1つの問題が浮上していた。
「えっ、クリスマス中止になっちゃうんですか?」
ホープに設置されたハンターオフィスにて、カウンターの中で事務作業をしていたオフィス職員の女性が驚きの声を上げた。
「そりゃあ、北伐での被害に加えてその撤退を支援する為に例のリアルブルーの戦艦まで投入した防衛戦まで始まったからな」
「確かにすぐ目と鼻の先で戦争状態になっちゃってるんですから、お祭りしている場合じゃないかもしれませんけど」
先輩である男性職員の言葉に、女性職員のほうは仕方ないとは思いつつもやはり残念という気持ちが大きいのか諦めきれていない様子だ。
「人手がないっていうのもあるしな。もう12月だっていうのに、準備なんて全くしてないからな」
男性職員の言う通り、2~3ヵ月前にこのホープのハンターオフィスだけでもクリスマスを味わえるように飾り付けようと話していたのに、多忙だったせいもあり一切飾り付けなどされていなかった。
「うぅー、折角のクリスマスなのになぁ」
「ねえ、ちょっといいかい?」
そんな考えにふけっていた所為か、女性職員は声を掛けられるまでカウンターの前に人が来ていることに気づかなかった。
「あっ! 申し訳ありません。ハンターズソサエティへようこそ!」
「ははっ。気にしなくてもいいよ」
しゃんと背筋を伸ばした女性職員に、カウンターを訪れた長い黒髪のドワーフの女性――ヴァルカン族の族長ラナ・ブリギットは気さくな笑みを浮かべた。
「ブリギット様、本日はどのようなご用件で?」
「ああ、いつも通り材料の調達の依頼をと思ってたんだけど……」
依頼の申請書をカウンターの上に置きながら、ラナはぐいっとカウンターの上に身を乗り出して女性職員へと顔を近づける。
「何か困りごとみたいだね。クリスマスって何だい?」
どうやら一部始終を聞いていたらしいラナは『クリスマス』という聞き慣れない単語に興味を持ったらしい。
女性職員のほうもどう話せばいいのかと少しばかり困惑したが、ラナに押し切られる形で12月にはクリスマスというイベントがあることと、それが今年は実施できそうにないことを話した。
「なるほどね。年末年始のその前に最後に一騒ぎしようってイベントなわけだね」
「えっと、正確にはそうじゃないんですけど……間違ってはないです」
ラナの理解に対して、女性職員も敢えて訂正はしなかった。彼女自身も大体ラナと同じような考え方でクリスマスを捉えていたからである。
「まったく、それなら早く言ってくれればいいのにさ。水臭い奴らだね」
「えっ、それじゃあ……もしかして?」
ラナはニィっと笑みを浮かべるとマントを翻してオフィスの外へと歩きだす。
「ちょっと待ってな。話をつけてくるからね」
女性職員は数時間後に別の依頼申請書を持って笑顔で戻ってくるラナを迎えることになった。
●とある格納庫にて
「へぇ、もうそんな時期だったね」
整えきれていない髪を撫でつけながらトーマス・W・ヴィンチは、回ってきた回覧板を読みつつそう独り言を呟いた。
「ちょっとリーダー。サボってないで彼方も働きなさいよ」
そんなトーマスに対して皴1つない綺麗な白衣を着た女性が、大量の紙束の入った段ボールを抱えながら文句をつけてくる。
「そうは言っても。CAMと魔導アーマーだけでなく魔導トラックまでない状態じゃあねぇ」
北伐の遠征からその撤退戦、そして防衛戦へと転じた大規模な作戦の為にここホープでは機甲兵器は勿論運搬用のトラックも殆どが出払ってしまっていた。
恐らく暫くすれば戦闘で大破したり修理が必要になったモノが前線から戻ってきて整備士諸君は大忙しになるのだろうが、今はそれに備えての補修品のチェックをするくらいしかやることがないらしい。
そして整備士でもない開発班であるトーマスは完全に手持ち無沙汰になっていたようだ。
「だから今のうちに溜まってる書類仕事をしなさいって言ってるでしょ。地球連合向けの報告書とか」
いや、どうやらちゃんと仕事はあるようだがそれでもなおサボっていたらしい。
「それは任せた、助手2号。お前が書いたほうが二度手間にならなくて済む」
「もう、またそんな事言って!」
段ボールを傍の机に置き、腰に手を当てて本格的に説教モードに入ろうとした白衣の女性を見てトーマスは突然立ち上がってこう告げた。
「悪いな、助手2号。俺には使命があるのだ、許せ」
「……使命って何よ?」
「これだ」
そういってトーマスが白衣の女性に渡した回覧板には、『クリスマス開催のお知らせ』と書かれていた。
●謎の落とし物
北伐にて多くの人が動員されているとは言え、開拓地『ホープ』はそれなりに人で賑わっている。
そんな中で茜色の髪をした小柄の少女が大量に並ぶ仮設テントの間からひょっこりと顔を出した。
「……よし。行こう、セイン」
左右を確認して誰もいないことを確認すると謎の少女――シャルは白猫と共に人の多い区画へと向かって歩き出した。
そんな少女の傍を1台の馬車が通過する。馬車は少女を追い越して少し進んだところでがたんと大きく揺れ、その時その荷台から何かが跳ねて地面へぽとりと落ちた。
馬車はそれに気づかず行ってしまい、シャルは進路上に落ちてきたソレを何となしに拾ってみる。
「帽子?」
赤と白の生地で出来たその帽子は、先端に白いふわふわした毛玉がついていた。
俗にサンタ帽子と呼ばれるものだが、シャルはそれが何なのか知らずとりあえず帽子の落とし物だということだけは分かった。
「――ニィ」
「ん、そうだね。落とした人、探さないと」
とりあえず目立つようにその帽子を被り、シャルは先ほどの馬車が向かった方向にあるホープの中央広場へと足を向けた。
季節は巡り1年最後の季節とも言える冬が訪れた。
クリムゾンウェストでも一番北部に位置する辺境では、既に冷たい風だけではなく一部では雪も降り始めている。
そんな中で辺境の中心地になりつつある開拓地『ホープ』では1つの問題が浮上していた。
「えっ、クリスマス中止になっちゃうんですか?」
ホープに設置されたハンターオフィスにて、カウンターの中で事務作業をしていたオフィス職員の女性が驚きの声を上げた。
「そりゃあ、北伐での被害に加えてその撤退を支援する為に例のリアルブルーの戦艦まで投入した防衛戦まで始まったからな」
「確かにすぐ目と鼻の先で戦争状態になっちゃってるんですから、お祭りしている場合じゃないかもしれませんけど」
先輩である男性職員の言葉に、女性職員のほうは仕方ないとは思いつつもやはり残念という気持ちが大きいのか諦めきれていない様子だ。
「人手がないっていうのもあるしな。もう12月だっていうのに、準備なんて全くしてないからな」
男性職員の言う通り、2~3ヵ月前にこのホープのハンターオフィスだけでもクリスマスを味わえるように飾り付けようと話していたのに、多忙だったせいもあり一切飾り付けなどされていなかった。
「うぅー、折角のクリスマスなのになぁ」
「ねえ、ちょっといいかい?」
そんな考えにふけっていた所為か、女性職員は声を掛けられるまでカウンターの前に人が来ていることに気づかなかった。
「あっ! 申し訳ありません。ハンターズソサエティへようこそ!」
「ははっ。気にしなくてもいいよ」
しゃんと背筋を伸ばした女性職員に、カウンターを訪れた長い黒髪のドワーフの女性――ヴァルカン族の族長ラナ・ブリギットは気さくな笑みを浮かべた。
「ブリギット様、本日はどのようなご用件で?」
「ああ、いつも通り材料の調達の依頼をと思ってたんだけど……」
依頼の申請書をカウンターの上に置きながら、ラナはぐいっとカウンターの上に身を乗り出して女性職員へと顔を近づける。
「何か困りごとみたいだね。クリスマスって何だい?」
どうやら一部始終を聞いていたらしいラナは『クリスマス』という聞き慣れない単語に興味を持ったらしい。
女性職員のほうもどう話せばいいのかと少しばかり困惑したが、ラナに押し切られる形で12月にはクリスマスというイベントがあることと、それが今年は実施できそうにないことを話した。
「なるほどね。年末年始のその前に最後に一騒ぎしようってイベントなわけだね」
「えっと、正確にはそうじゃないんですけど……間違ってはないです」
ラナの理解に対して、女性職員も敢えて訂正はしなかった。彼女自身も大体ラナと同じような考え方でクリスマスを捉えていたからである。
「まったく、それなら早く言ってくれればいいのにさ。水臭い奴らだね」
「えっ、それじゃあ……もしかして?」
ラナはニィっと笑みを浮かべるとマントを翻してオフィスの外へと歩きだす。
「ちょっと待ってな。話をつけてくるからね」
女性職員は数時間後に別の依頼申請書を持って笑顔で戻ってくるラナを迎えることになった。
●とある格納庫にて
「へぇ、もうそんな時期だったね」
整えきれていない髪を撫でつけながらトーマス・W・ヴィンチは、回ってきた回覧板を読みつつそう独り言を呟いた。
「ちょっとリーダー。サボってないで彼方も働きなさいよ」
そんなトーマスに対して皴1つない綺麗な白衣を着た女性が、大量の紙束の入った段ボールを抱えながら文句をつけてくる。
「そうは言っても。CAMと魔導アーマーだけでなく魔導トラックまでない状態じゃあねぇ」
北伐の遠征からその撤退戦、そして防衛戦へと転じた大規模な作戦の為にここホープでは機甲兵器は勿論運搬用のトラックも殆どが出払ってしまっていた。
恐らく暫くすれば戦闘で大破したり修理が必要になったモノが前線から戻ってきて整備士諸君は大忙しになるのだろうが、今はそれに備えての補修品のチェックをするくらいしかやることがないらしい。
そして整備士でもない開発班であるトーマスは完全に手持ち無沙汰になっていたようだ。
「だから今のうちに溜まってる書類仕事をしなさいって言ってるでしょ。地球連合向けの報告書とか」
いや、どうやらちゃんと仕事はあるようだがそれでもなおサボっていたらしい。
「それは任せた、助手2号。お前が書いたほうが二度手間にならなくて済む」
「もう、またそんな事言って!」
段ボールを傍の机に置き、腰に手を当てて本格的に説教モードに入ろうとした白衣の女性を見てトーマスは突然立ち上がってこう告げた。
「悪いな、助手2号。俺には使命があるのだ、許せ」
「……使命って何よ?」
「これだ」
そういってトーマスが白衣の女性に渡した回覧板には、『クリスマス開催のお知らせ』と書かれていた。
●謎の落とし物
北伐にて多くの人が動員されているとは言え、開拓地『ホープ』はそれなりに人で賑わっている。
そんな中で茜色の髪をした小柄の少女が大量に並ぶ仮設テントの間からひょっこりと顔を出した。
「……よし。行こう、セイン」
左右を確認して誰もいないことを確認すると謎の少女――シャルは白猫と共に人の多い区画へと向かって歩き出した。
そんな少女の傍を1台の馬車が通過する。馬車は少女を追い越して少し進んだところでがたんと大きく揺れ、その時その荷台から何かが跳ねて地面へぽとりと落ちた。
馬車はそれに気づかず行ってしまい、シャルは進路上に落ちてきたソレを何となしに拾ってみる。
「帽子?」
赤と白の生地で出来たその帽子は、先端に白いふわふわした毛玉がついていた。
俗にサンタ帽子と呼ばれるものだが、シャルはそれが何なのか知らずとりあえず帽子の落とし物だということだけは分かった。
「――ニィ」
「ん、そうだね。落とした人、探さないと」
とりあえず目立つようにその帽子を被り、シャルは先ほどの馬車が向かった方向にあるホープの中央広場へと足を向けた。
リプレイ本文
●クリスマスとは?
「……クリスマスって、何……?」
nil(ka2654)はクリスマスというイベントについては何も知らないようであった。
「さあな? 族長が言うには今年最後の大騒ぎするイベントらしいぞ」
そんなnilの問いにヴァルカン族の年配の職人がナイフを片手に答えてくれた。
「大騒ぎ……皆楽しそうね……じゃあ、良い事……なの?」
「そりゃあそうに決まってるだろう。それより、お前さんも飾り作りを手伝いに来たんだろ? ほれ、そのへんの道具は好きに使っていいから手を動かしな」
職人が指さしたほうを見れば、1つのテーブルに工具の一式や木材に金属プレートなどの材料が積んであった。
「何を……どんなモノを作れば良いか分からない……」
「あん? なぁに、そいつは俺も同じだ。とりあえず適当に好きなものでも作りな」
そう言う職人の手元には翼を広げる鳥の彫刻が出来上がっていた。
nilもそれを見て理解したのか、工具の中から彫刻刀を取り出して見様見真似で木材を削り始める。
「クリスマス、木を飾るのは如何して……?」
「そりゃあれだ。クリスマスのシンボルって奴なんだろう。綺麗だったり派手だと人目を惹くしな」
職人も詳しくは知らないようだが、中らずとも遠からずといったところだろうか。
「それが、リアルブルーでは当たり前の事なの……?」
「そうらしいぞ? というかさっきから質問が多いな。って、おい。全然進んでねーじゃねぇか。それに削り方もなっちゃいねぇ。いいか? 木を削る時はまず当たりをつけてだな――」
やれやれといった様子の職人はそれでもnilに彫刻の何たるかを教えるべくあれこれと助言をし始めた。
nilも本来の目的の飾り作成をおろそかにしてはいけないと思い、その言葉に従いつつ木材を削り始めた。
「つまり大精霊様に感謝して、賑やかにするお祭りみたいなものかな?」
「まあそういうことだな。ブルーの精霊のサンタっていうのが子供にプレゼントを配ったりもするらしいぞ」
クリスマスについての知識があるジャンク(ka4072)はそのことについて軽く説明していく。
それを聞いていたネムリア・ガウラ(ka4615)は相づちを打ちながら物知りなジャンクに感心している様子だ。
「それじゃあわたしは、モミのリースを作ろうかな」
ネムリアは用意されていた針葉樹の枝と円を作る形で結んだ蔓を使ってリースを作り始めた。
今回は小さめのものを作るらしくリボンやベリーなどで装飾するのも含めて1つ作るのにはそんなに時間はかからなかった。
それでいくつか完成したところでふと隣を見てみると、ジャンクのほうは赤い生地を使って何やら服飾をしているように見えた。
「ジャンクは何を作ってるの?」
「これか? クリスマス用の衣装なんだが……どんなものかは出来てからのお楽しみだな」
ニヤリと笑って見せるジャンクにネムリアは一度小さく首を傾げたが、それなら言葉通り楽しみにするべきだと思い頷いて返した。
「そうだ。ちょっと飲み物とか持ってくるね。ずっと作業してたしジャンクも喉乾いたよね?」
「おお、気が利くな。折角なら美味い酒をと言いたいところだが、酔って作業するわけにもいかないし今回は温かけりゃ何でもいいぜ」
ジャンクの言葉にネムリアは小さくくすりと笑い、お茶を淹れてくるねと一言残して工房の作業場の外へと出ていった。
ホープの中央にある広場には今回特別にということで10m近くある立派な木が用意されていた。
そんなツリーを見上げているのは尖った耳が特徴的なエルフのリアリュール(ka2003)であった。
「やあ、君がイルミネーション作りを手伝ってくれるって人でいいのかな?」
そんなリアリュールに声を掛けたのは白衣の上にコートを着込んできたトーマス・W・ヴィンチであった。
「ヴィンチさんですよね? 初めまして。私はリアリュールと言います。私も綺麗なイルミを作れるように頑張ります」
「いや、本当に助かるよ。流石に俺一人じゃ手が足りないからね」
トーマスはへらりと笑ってみせると、リュミエールをイルミネーションが置いてある場所へと案内する。
そこには何箱かの木箱に詰められた沢山のイルミネーション用の電飾と、そして何故かその隣に飛行機を模したワイヤーのオブジェが鎮座していた。
「えっと……これは何ですか?」
「見ての通り、飛行機だよ。中々上手く出来ていると思わないかい?」
どうやら本人にとっては力作らしく、自信あり気に話すトーマス。ただリアリュールは『うーん』と少し考える仕草をとった。
「お見事だとは思うのですけど。やっぱりここはクリスマスの象徴的なものをメインに考えてみてはいかがです?」
「ああー、そう言われるとちょっと痛いな」
トーマスはリアリュールに言われてやっとそのことに気づいたようで、飛行機に乗ってやってくるサンタは流石にシュールかと考え直すことにしたようだ。
「サンタにトナカイとソリ。あとアーチ状のトンネルとかも作りたいですね」
「ははは、流石に全部を作る時間はなさそうだけど。まあできるところまでやってみようか」
そうして改めてイルミネーション作りが始まった。トーマスもセンスはないものの作るのは得意らしく、器用かつ丁寧にワイヤーを切って曲げてとさくさくとオブジェを作り上げていく。
そこにリアリュールが電飾を巻き付けてゆき、ただのツリーしかなかった中央広場に少しずつ彩りが見えてきた。
●多彩な装飾
「さて、それで手伝いにきてみたものの……10mって相当デカいな」
ホープの中央広場にやってきたデルフィーノ(ka1548)は一段と目立つツリーを見上げながらそんなことを呟いた。
「まっ、こんな時の為のJブーツだよな」
飾りの入った箱を抱えながらデルフィーノは軽くブーツで地面を蹴ると、その靴底からマテリアルをジェットのように噴射して一気に飛び上がった。
「っと。そんじゃ飾っていくとするか」
ホープにいる有志達やハンターの作った飾りを箱から取り出し、登ってくる前にあたりをつけていた場所へと飾っていく。
そうやってデルフィーノが上のほうの飾り付けをしている間に、下の方でもハンター達と手伝いにきてくれたホープの住人達が飾り付けを始めていた。
「それじゃちび達にはこの辺のをお願いするかな。間違ってもおっこちるなよ?」
カイ(ka3770)は物珍しさもあってか集まってきた子供達を相手に飾り付けをやってみないかと声をかけて一緒に作業をしていた。
「ちび達も楽しめて、手伝いも増える。おまけにこれを家族に伝えりゃクリスマスの宣伝にもなる。一挙三徳だな」
効率は大事だと自分の計画が上手くいっていることにご満悦なカイであったが、そんな彼のズボンの裾を引く者がいた。
「んっ? どうした坊主」
「なあ、兄ちゃん。ボクじゃ手が届かない」
「そうか。じゃあ肩車してやるから、落ちないようにちゃんと掴まれよ?」
ニィと笑みを浮かべたカイはそのまま少年を肩に乗せる。そんなカイに後ろから声がかかった。
「子供が相手なら随分と優しいんだな」
燃えるような赤い長髪の女性、ヘルヴェル(ka4784)は珍しいと言わんばかりの口ぶりでそう言った。
「ヘル、やっと来たのか。遅刻だぜ?」
カイのほうはそう言われるのを予測していたのか動じることもなく、寧ろやっと現れた幼馴染に対して悪態を吐いて返した。
「いや、すまなかったな。ちょっと衣装の準備に手間取ったんだ」
そう言ってヘルヴェルは意味ありげに小さく笑う。
「衣装? まあ、それはいいからヘルもちび達のこと手伝ってくれ」
「了解だ。さて、お嬢ちゃん。届かないならあたしが抱えてあげますよ」
こうしてツリーの飾り付けも進んでいき、この調子なら当日までにはちゃんと飾り付けも終わりそうだ。
●宣伝は派手に
「クリスマス、か……このような時でも、このような時だからこそ、明るい話は必要だ」
そういった思いから今回の依頼に参加したルシール・フルフラット(ka4000)は当日までのクリスマスの宣伝をすることにした。
「それでこれがクリスマスの衣装なのか」
「そうです。あたしの分もあるのでお揃いですよ」
今回衣装を用意したのは彼女の旧友であるヘルヴェルであった。そして用意した衣装とは女性用のサンタのコスチュームである。
「そうか。わざわざありがとう……しかしだ……その、み、短くは、ないだろうか?」
その衣装を手に取ってみてルシールが一番初めに気になったのはスカートの丈の長さであった。俗にいうマイクロミニというスカートはどう見ても短い。
これでは脚、いや角度によってはその上の方まで見えてしまうのではないか。それはルシールとしても流石に恥ずかしい。
「ダメです? でもレオンはきっと喜ぶと思いますよ」
「いや、何故そこでレオンの名が……と、ともあれ、折角の衣装だ。どのようなものでもしっかり着こなしてみせよう。うむ」
そんな会話があってから1時間後、ホープの居住区のある一角でレオン(ka5108)は一緒に宣伝をすると約束した師匠であるルシールを待っていた。
「流石に寒くなってきたな」
レオンはそう呟きながらロングコートのポケットに手を入れた。このホープもそのうちに雪が降り、あたり一面が白銀の世界になることだろう。
そんな考えに至ったところでこちらへと歩いてくる人影が見えた。見間違えるはずのないその鮮やかな翠の瞳を見てレオンは声を掛けようと思ったところで、何故か口が開かなかった。
暫しの間、その間に相手のほうがこちらを見つけたらしく微かに口元に笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。
「ここにいたか、レオン……どうした?」
ルシールは反応のないレオンに不思議そうに声を掛ける。
「ヘルが用意した服。か」
それはまさかという驚きとやっぱりという呆れ、それを別々の相手に向けた台詞であった。
「むっ、れ、レオン。あまりじろじろと見るな!?」
その反応がどういったものであるのか悟ったルシール。それはいつもは崩さない丁寧な口調を崩すほどには恥ずかしかったようだ。
「すみません。ただそれでは寒いと思うのでこれをどうぞ」
レオンはそう言って自分のコートを脱いでルシールの肩にかけた。
「これは……だがそれだとレオン。君が」
「大丈夫ですよ。それより、そろそろお仕事をしないと」
手伝いとはいえハンターとして正式に受けた依頼だ。金のハープを手にしたレオンに、それも尤もだとルシールも気持ちを切り替えてクリスマスの宣伝を始めることにした。
「ふふっ、我ながらいい仕事をしたわ」
「ルシールさんにミニとは判ってるなヘル」
そしてそんな師弟をカイとヘルヴェルが少し離れたところから出歯亀していた。
「あたしも脚には自信があるけど、ルシールさんもなかなか似合ってるな」
「ああ、良い脚だ。ルシールさんは兎も角ヘルの脚とは思えん」
褒めてはいる。だが一言余計なカイの言葉へのヘルヴェルの返事は強烈なボディブローであった。
「さて、それじゃああたし達も宣伝しないとな。大人用はカイの方に任せるぞ」
子供達向けにサンタについての紙芝居を用意していたヘルヴェルはそれを手に広場の方へと向かっていった。
「ぐふっ……おう。主に女性達への宣伝は任せておけ」
カイは咳き込みながらもそう返し、ヘルヴェルの後を追うように広場へと向かった。
「さあどうぞ。これを広場にあるツリーに飾ってくれ」
また別の場所ではサンタに扮した青霧 ノゾミ(ka4377)が小さめのクリスマスツリー用の飾りを道行く人に配っていた。
クリスマスを知らない人々はそれを不思議そうにしながらも受け取り、その内の何割かは興味を持ったのかその足で広場のほうへと向かっていった。
それを見送ったところで、ノゾミの元へ宣伝の応援が駆け付けた。
「ノゾミ、お疲れさまだね!」
上機嫌なネムリアはいつもの帽子とコート姿ではなく、クリスマスらしいサンタ衣装に着替えていた。
「やあ、ネムリアさん。また可愛らしいサンタ姿だな」
「えへへ、うん。これジャンクが作ってくれたんだ!」
「よう、2人共。俺の作ったサンタ衣装は気に入ったみたいだな」
そしてそこに衣装を提供したジャンクも合流した。
それから3人でツリー飾りを配り、音楽を奏で、そうやって宣伝をしていた3人の前に見知った顔の少女が目に入った。
「おや。彼女は確か、シャルちゃんでしたか」
「おー、本当だな。こんな街中で出会うなんて本当に珍しいな」
「シャル―。こっちこっち!」
ネムリアの呼ぶ声が届いたのか、サンタ帽子を被ったシャルも3人に気づいて近寄ってきた。その足元にはいつも通りに白猫のセインも一緒だ。
「あは、シャルも、クリスマスのお祭りの宣伝、してるの?」
「宣伝? 知らない。そのクリスマスも、知らない」
シャルはそう言って首を横に振った。
「ってなると、そのお洒落な帽子はどうしたんだ?」
「拾った……落とし物」
ジャンクの問いにシャルは簡潔に答えた。そして落とし主を探しているということも一緒に伝える。
「落とし物か。それなら――」
「そいつは大変だな。それじゃあ俺らが一緒に落とし主を探してやるぜ」
ノゾミが何かを口にする前にジャンクが台詞を被せて大声でそう言い切った。ノゾミも不思議に思いつつもジャンクの顔を見る。
「じゃあ、とりあえずあっちのツリーのあるほうにでも行くか。その後は腹ごなしついでに屋台の方に行くのもいいな」
そしてジャンクはそう言いながらニィと笑ってみせる。そこでノゾミもジャンクの意図に気づいた。
「そうだね。シャルちゃんもそれでいいかな?」
「……構わない」
少し考えた上でシャルは頷いて返した。
「あっ、そうだ。シャル、あのね、これ。わたしが作ったの。広場のツリーに飾ってくれる?」
「……? ……時間が掛からないなら、構わない」
シャルはネムリアから受け取ったツリー飾りに首を傾げながら、3人と共にツリーのある広場へと向かっていく。
「んっ? おう。前にあったお嬢ちゃんじゃねーか」
そこで飾り付けをしていたデルフィーノも見覚えのあるシャルの顔を見て声をかけてきた。
だが、その足元にいる白猫を見た途端に浮かべていた笑顔が引き攣るのがはた目から見ても分かった。
「ま、まあ……ゆっくりしていけよ」
「……?」
結局木の上から降りてこないデルフィーノを不思議に思いつつ、シャルはネムリアから受け取ったツリー飾りを枝に括り付ける。
「あら、シャル。貴女もお手伝いに来てくれたのね」
そんなところに声を掛けてきたのはリアリュールだった。彼女もまたシャルとはとある依頼で出会った顔見知りだ。
「……不思議」
「不思議?」
「今日は知ってる人と沢山会う」
かくりと首を傾げるシャルにリアリュールはくすりと笑い、手にしていた籠から何かを取り出した。
「これもどうぞ。偶にはこうして立ち止まって楽しんでリフレッシュしてね♪」
そう言ってリアリュールは木の実などで作った人形をシャルに渡す。
「やれやれ、お前さんも大した人気者だな」
「……?」
ジャンクの言葉の意味が分からないとシャルは首を傾げるだけであった。
そんなワイワイと賑やかツリーから少し離れた場所でnilはツリーを眺めていた。
「ただ、木を飾っただけなのに……」
それだけなのにどうしてこうも特別に見えてしまうのか不思議であった。
「――ニィ」
そんなnilの足元で白猫、セインが小さく鳴いた。
「猫……前に見た事のある白猫……元気そうで、良かった」
そんな白猫を見てnilはまたふと思う。
「クリスマスは、猫にとっても楽しい事なのかな」
それはきっと、誰にも分からない永遠の謎だろう。
●聖なる夜を目前に
「お疲れ様です。師匠」
宣伝の仕事も一段落したところでレオンはそう一言ルシールに言葉をかけた。
「ああ、君もな。しかし今日は歌いすぎた。明日は声が枯れてしまうかもしれないな」
「はい。俺も明日は指が筋肉痛になっているかもしれません」
勿論2人とも冗談である。互いに一度くすりと笑ったところでカインがじっとルシールの姿を見つめる。
「むっ。だからあまりじろじろと見るんじゃない」
多少は慣れたが意識するとやはりまだ恥ずかしい。
「師匠」
「ん、どうした?」
そこで僅かに声色を変えたカインにルシールが小さく首を傾げる。
「いえ、ルシールさん。当日もお誘いしていいかな? 良ければ、ドレスで」
それはつまりデートのお誘い。普段は呼ばない名前を口にした、真剣な申し出だ。
それにルシールは、最初僅かに眉を顰めた。
「……少し、冷えたな、レオン」
「はい」
「まだ、君からの好意をどうしたものか、戸惑っている私がいる」
そして、おもむろにレオンのことを正面から抱きしめた。
「ただ……君は私にとって大切な子だ。弟子である以上に……それだけは決して変わらない」
「……」
それはつまりお誘いに対しては了解を貰えたのか、それとも断られたのだろうか。
何とも判断しがたい状況だが、直に感じる誰よりも大事な人の体温に、レオンは今はこれでいいかと瞳を閉じた。
クリスマス、聖なる夜、聖輝節、恋人たちの夜、子供達の夜。
人によって呼び方も意味も違ってくるその特別な日がもうすぐやってくる。
「……クリスマスって、何……?」
nil(ka2654)はクリスマスというイベントについては何も知らないようであった。
「さあな? 族長が言うには今年最後の大騒ぎするイベントらしいぞ」
そんなnilの問いにヴァルカン族の年配の職人がナイフを片手に答えてくれた。
「大騒ぎ……皆楽しそうね……じゃあ、良い事……なの?」
「そりゃあそうに決まってるだろう。それより、お前さんも飾り作りを手伝いに来たんだろ? ほれ、そのへんの道具は好きに使っていいから手を動かしな」
職人が指さしたほうを見れば、1つのテーブルに工具の一式や木材に金属プレートなどの材料が積んであった。
「何を……どんなモノを作れば良いか分からない……」
「あん? なぁに、そいつは俺も同じだ。とりあえず適当に好きなものでも作りな」
そう言う職人の手元には翼を広げる鳥の彫刻が出来上がっていた。
nilもそれを見て理解したのか、工具の中から彫刻刀を取り出して見様見真似で木材を削り始める。
「クリスマス、木を飾るのは如何して……?」
「そりゃあれだ。クリスマスのシンボルって奴なんだろう。綺麗だったり派手だと人目を惹くしな」
職人も詳しくは知らないようだが、中らずとも遠からずといったところだろうか。
「それが、リアルブルーでは当たり前の事なの……?」
「そうらしいぞ? というかさっきから質問が多いな。って、おい。全然進んでねーじゃねぇか。それに削り方もなっちゃいねぇ。いいか? 木を削る時はまず当たりをつけてだな――」
やれやれといった様子の職人はそれでもnilに彫刻の何たるかを教えるべくあれこれと助言をし始めた。
nilも本来の目的の飾り作成をおろそかにしてはいけないと思い、その言葉に従いつつ木材を削り始めた。
「つまり大精霊様に感謝して、賑やかにするお祭りみたいなものかな?」
「まあそういうことだな。ブルーの精霊のサンタっていうのが子供にプレゼントを配ったりもするらしいぞ」
クリスマスについての知識があるジャンク(ka4072)はそのことについて軽く説明していく。
それを聞いていたネムリア・ガウラ(ka4615)は相づちを打ちながら物知りなジャンクに感心している様子だ。
「それじゃあわたしは、モミのリースを作ろうかな」
ネムリアは用意されていた針葉樹の枝と円を作る形で結んだ蔓を使ってリースを作り始めた。
今回は小さめのものを作るらしくリボンやベリーなどで装飾するのも含めて1つ作るのにはそんなに時間はかからなかった。
それでいくつか完成したところでふと隣を見てみると、ジャンクのほうは赤い生地を使って何やら服飾をしているように見えた。
「ジャンクは何を作ってるの?」
「これか? クリスマス用の衣装なんだが……どんなものかは出来てからのお楽しみだな」
ニヤリと笑って見せるジャンクにネムリアは一度小さく首を傾げたが、それなら言葉通り楽しみにするべきだと思い頷いて返した。
「そうだ。ちょっと飲み物とか持ってくるね。ずっと作業してたしジャンクも喉乾いたよね?」
「おお、気が利くな。折角なら美味い酒をと言いたいところだが、酔って作業するわけにもいかないし今回は温かけりゃ何でもいいぜ」
ジャンクの言葉にネムリアは小さくくすりと笑い、お茶を淹れてくるねと一言残して工房の作業場の外へと出ていった。
ホープの中央にある広場には今回特別にということで10m近くある立派な木が用意されていた。
そんなツリーを見上げているのは尖った耳が特徴的なエルフのリアリュール(ka2003)であった。
「やあ、君がイルミネーション作りを手伝ってくれるって人でいいのかな?」
そんなリアリュールに声を掛けたのは白衣の上にコートを着込んできたトーマス・W・ヴィンチであった。
「ヴィンチさんですよね? 初めまして。私はリアリュールと言います。私も綺麗なイルミを作れるように頑張ります」
「いや、本当に助かるよ。流石に俺一人じゃ手が足りないからね」
トーマスはへらりと笑ってみせると、リュミエールをイルミネーションが置いてある場所へと案内する。
そこには何箱かの木箱に詰められた沢山のイルミネーション用の電飾と、そして何故かその隣に飛行機を模したワイヤーのオブジェが鎮座していた。
「えっと……これは何ですか?」
「見ての通り、飛行機だよ。中々上手く出来ていると思わないかい?」
どうやら本人にとっては力作らしく、自信あり気に話すトーマス。ただリアリュールは『うーん』と少し考える仕草をとった。
「お見事だとは思うのですけど。やっぱりここはクリスマスの象徴的なものをメインに考えてみてはいかがです?」
「ああー、そう言われるとちょっと痛いな」
トーマスはリアリュールに言われてやっとそのことに気づいたようで、飛行機に乗ってやってくるサンタは流石にシュールかと考え直すことにしたようだ。
「サンタにトナカイとソリ。あとアーチ状のトンネルとかも作りたいですね」
「ははは、流石に全部を作る時間はなさそうだけど。まあできるところまでやってみようか」
そうして改めてイルミネーション作りが始まった。トーマスもセンスはないものの作るのは得意らしく、器用かつ丁寧にワイヤーを切って曲げてとさくさくとオブジェを作り上げていく。
そこにリアリュールが電飾を巻き付けてゆき、ただのツリーしかなかった中央広場に少しずつ彩りが見えてきた。
●多彩な装飾
「さて、それで手伝いにきてみたものの……10mって相当デカいな」
ホープの中央広場にやってきたデルフィーノ(ka1548)は一段と目立つツリーを見上げながらそんなことを呟いた。
「まっ、こんな時の為のJブーツだよな」
飾りの入った箱を抱えながらデルフィーノは軽くブーツで地面を蹴ると、その靴底からマテリアルをジェットのように噴射して一気に飛び上がった。
「っと。そんじゃ飾っていくとするか」
ホープにいる有志達やハンターの作った飾りを箱から取り出し、登ってくる前にあたりをつけていた場所へと飾っていく。
そうやってデルフィーノが上のほうの飾り付けをしている間に、下の方でもハンター達と手伝いにきてくれたホープの住人達が飾り付けを始めていた。
「それじゃちび達にはこの辺のをお願いするかな。間違ってもおっこちるなよ?」
カイ(ka3770)は物珍しさもあってか集まってきた子供達を相手に飾り付けをやってみないかと声をかけて一緒に作業をしていた。
「ちび達も楽しめて、手伝いも増える。おまけにこれを家族に伝えりゃクリスマスの宣伝にもなる。一挙三徳だな」
効率は大事だと自分の計画が上手くいっていることにご満悦なカイであったが、そんな彼のズボンの裾を引く者がいた。
「んっ? どうした坊主」
「なあ、兄ちゃん。ボクじゃ手が届かない」
「そうか。じゃあ肩車してやるから、落ちないようにちゃんと掴まれよ?」
ニィと笑みを浮かべたカイはそのまま少年を肩に乗せる。そんなカイに後ろから声がかかった。
「子供が相手なら随分と優しいんだな」
燃えるような赤い長髪の女性、ヘルヴェル(ka4784)は珍しいと言わんばかりの口ぶりでそう言った。
「ヘル、やっと来たのか。遅刻だぜ?」
カイのほうはそう言われるのを予測していたのか動じることもなく、寧ろやっと現れた幼馴染に対して悪態を吐いて返した。
「いや、すまなかったな。ちょっと衣装の準備に手間取ったんだ」
そう言ってヘルヴェルは意味ありげに小さく笑う。
「衣装? まあ、それはいいからヘルもちび達のこと手伝ってくれ」
「了解だ。さて、お嬢ちゃん。届かないならあたしが抱えてあげますよ」
こうしてツリーの飾り付けも進んでいき、この調子なら当日までにはちゃんと飾り付けも終わりそうだ。
●宣伝は派手に
「クリスマス、か……このような時でも、このような時だからこそ、明るい話は必要だ」
そういった思いから今回の依頼に参加したルシール・フルフラット(ka4000)は当日までのクリスマスの宣伝をすることにした。
「それでこれがクリスマスの衣装なのか」
「そうです。あたしの分もあるのでお揃いですよ」
今回衣装を用意したのは彼女の旧友であるヘルヴェルであった。そして用意した衣装とは女性用のサンタのコスチュームである。
「そうか。わざわざありがとう……しかしだ……その、み、短くは、ないだろうか?」
その衣装を手に取ってみてルシールが一番初めに気になったのはスカートの丈の長さであった。俗にいうマイクロミニというスカートはどう見ても短い。
これでは脚、いや角度によってはその上の方まで見えてしまうのではないか。それはルシールとしても流石に恥ずかしい。
「ダメです? でもレオンはきっと喜ぶと思いますよ」
「いや、何故そこでレオンの名が……と、ともあれ、折角の衣装だ。どのようなものでもしっかり着こなしてみせよう。うむ」
そんな会話があってから1時間後、ホープの居住区のある一角でレオン(ka5108)は一緒に宣伝をすると約束した師匠であるルシールを待っていた。
「流石に寒くなってきたな」
レオンはそう呟きながらロングコートのポケットに手を入れた。このホープもそのうちに雪が降り、あたり一面が白銀の世界になることだろう。
そんな考えに至ったところでこちらへと歩いてくる人影が見えた。見間違えるはずのないその鮮やかな翠の瞳を見てレオンは声を掛けようと思ったところで、何故か口が開かなかった。
暫しの間、その間に相手のほうがこちらを見つけたらしく微かに口元に笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。
「ここにいたか、レオン……どうした?」
ルシールは反応のないレオンに不思議そうに声を掛ける。
「ヘルが用意した服。か」
それはまさかという驚きとやっぱりという呆れ、それを別々の相手に向けた台詞であった。
「むっ、れ、レオン。あまりじろじろと見るな!?」
その反応がどういったものであるのか悟ったルシール。それはいつもは崩さない丁寧な口調を崩すほどには恥ずかしかったようだ。
「すみません。ただそれでは寒いと思うのでこれをどうぞ」
レオンはそう言って自分のコートを脱いでルシールの肩にかけた。
「これは……だがそれだとレオン。君が」
「大丈夫ですよ。それより、そろそろお仕事をしないと」
手伝いとはいえハンターとして正式に受けた依頼だ。金のハープを手にしたレオンに、それも尤もだとルシールも気持ちを切り替えてクリスマスの宣伝を始めることにした。
「ふふっ、我ながらいい仕事をしたわ」
「ルシールさんにミニとは判ってるなヘル」
そしてそんな師弟をカイとヘルヴェルが少し離れたところから出歯亀していた。
「あたしも脚には自信があるけど、ルシールさんもなかなか似合ってるな」
「ああ、良い脚だ。ルシールさんは兎も角ヘルの脚とは思えん」
褒めてはいる。だが一言余計なカイの言葉へのヘルヴェルの返事は強烈なボディブローであった。
「さて、それじゃああたし達も宣伝しないとな。大人用はカイの方に任せるぞ」
子供達向けにサンタについての紙芝居を用意していたヘルヴェルはそれを手に広場の方へと向かっていった。
「ぐふっ……おう。主に女性達への宣伝は任せておけ」
カイは咳き込みながらもそう返し、ヘルヴェルの後を追うように広場へと向かった。
「さあどうぞ。これを広場にあるツリーに飾ってくれ」
また別の場所ではサンタに扮した青霧 ノゾミ(ka4377)が小さめのクリスマスツリー用の飾りを道行く人に配っていた。
クリスマスを知らない人々はそれを不思議そうにしながらも受け取り、その内の何割かは興味を持ったのかその足で広場のほうへと向かっていった。
それを見送ったところで、ノゾミの元へ宣伝の応援が駆け付けた。
「ノゾミ、お疲れさまだね!」
上機嫌なネムリアはいつもの帽子とコート姿ではなく、クリスマスらしいサンタ衣装に着替えていた。
「やあ、ネムリアさん。また可愛らしいサンタ姿だな」
「えへへ、うん。これジャンクが作ってくれたんだ!」
「よう、2人共。俺の作ったサンタ衣装は気に入ったみたいだな」
そしてそこに衣装を提供したジャンクも合流した。
それから3人でツリー飾りを配り、音楽を奏で、そうやって宣伝をしていた3人の前に見知った顔の少女が目に入った。
「おや。彼女は確か、シャルちゃんでしたか」
「おー、本当だな。こんな街中で出会うなんて本当に珍しいな」
「シャル―。こっちこっち!」
ネムリアの呼ぶ声が届いたのか、サンタ帽子を被ったシャルも3人に気づいて近寄ってきた。その足元にはいつも通りに白猫のセインも一緒だ。
「あは、シャルも、クリスマスのお祭りの宣伝、してるの?」
「宣伝? 知らない。そのクリスマスも、知らない」
シャルはそう言って首を横に振った。
「ってなると、そのお洒落な帽子はどうしたんだ?」
「拾った……落とし物」
ジャンクの問いにシャルは簡潔に答えた。そして落とし主を探しているということも一緒に伝える。
「落とし物か。それなら――」
「そいつは大変だな。それじゃあ俺らが一緒に落とし主を探してやるぜ」
ノゾミが何かを口にする前にジャンクが台詞を被せて大声でそう言い切った。ノゾミも不思議に思いつつもジャンクの顔を見る。
「じゃあ、とりあえずあっちのツリーのあるほうにでも行くか。その後は腹ごなしついでに屋台の方に行くのもいいな」
そしてジャンクはそう言いながらニィと笑ってみせる。そこでノゾミもジャンクの意図に気づいた。
「そうだね。シャルちゃんもそれでいいかな?」
「……構わない」
少し考えた上でシャルは頷いて返した。
「あっ、そうだ。シャル、あのね、これ。わたしが作ったの。広場のツリーに飾ってくれる?」
「……? ……時間が掛からないなら、構わない」
シャルはネムリアから受け取ったツリー飾りに首を傾げながら、3人と共にツリーのある広場へと向かっていく。
「んっ? おう。前にあったお嬢ちゃんじゃねーか」
そこで飾り付けをしていたデルフィーノも見覚えのあるシャルの顔を見て声をかけてきた。
だが、その足元にいる白猫を見た途端に浮かべていた笑顔が引き攣るのがはた目から見ても分かった。
「ま、まあ……ゆっくりしていけよ」
「……?」
結局木の上から降りてこないデルフィーノを不思議に思いつつ、シャルはネムリアから受け取ったツリー飾りを枝に括り付ける。
「あら、シャル。貴女もお手伝いに来てくれたのね」
そんなところに声を掛けてきたのはリアリュールだった。彼女もまたシャルとはとある依頼で出会った顔見知りだ。
「……不思議」
「不思議?」
「今日は知ってる人と沢山会う」
かくりと首を傾げるシャルにリアリュールはくすりと笑い、手にしていた籠から何かを取り出した。
「これもどうぞ。偶にはこうして立ち止まって楽しんでリフレッシュしてね♪」
そう言ってリアリュールは木の実などで作った人形をシャルに渡す。
「やれやれ、お前さんも大した人気者だな」
「……?」
ジャンクの言葉の意味が分からないとシャルは首を傾げるだけであった。
そんなワイワイと賑やかツリーから少し離れた場所でnilはツリーを眺めていた。
「ただ、木を飾っただけなのに……」
それだけなのにどうしてこうも特別に見えてしまうのか不思議であった。
「――ニィ」
そんなnilの足元で白猫、セインが小さく鳴いた。
「猫……前に見た事のある白猫……元気そうで、良かった」
そんな白猫を見てnilはまたふと思う。
「クリスマスは、猫にとっても楽しい事なのかな」
それはきっと、誰にも分からない永遠の謎だろう。
●聖なる夜を目前に
「お疲れ様です。師匠」
宣伝の仕事も一段落したところでレオンはそう一言ルシールに言葉をかけた。
「ああ、君もな。しかし今日は歌いすぎた。明日は声が枯れてしまうかもしれないな」
「はい。俺も明日は指が筋肉痛になっているかもしれません」
勿論2人とも冗談である。互いに一度くすりと笑ったところでカインがじっとルシールの姿を見つめる。
「むっ。だからあまりじろじろと見るんじゃない」
多少は慣れたが意識するとやはりまだ恥ずかしい。
「師匠」
「ん、どうした?」
そこで僅かに声色を変えたカインにルシールが小さく首を傾げる。
「いえ、ルシールさん。当日もお誘いしていいかな? 良ければ、ドレスで」
それはつまりデートのお誘い。普段は呼ばない名前を口にした、真剣な申し出だ。
それにルシールは、最初僅かに眉を顰めた。
「……少し、冷えたな、レオン」
「はい」
「まだ、君からの好意をどうしたものか、戸惑っている私がいる」
そして、おもむろにレオンのことを正面から抱きしめた。
「ただ……君は私にとって大切な子だ。弟子である以上に……それだけは決して変わらない」
「……」
それはつまりお誘いに対しては了解を貰えたのか、それとも断られたのだろうか。
何とも判断しがたい状況だが、直に感じる誰よりも大事な人の体温に、レオンは今はこれでいいかと瞳を閉じた。
クリスマス、聖なる夜、聖輝節、恋人たちの夜、子供達の夜。
人によって呼び方も意味も違ってくるその特別な日がもうすぐやってくる。
依頼結果
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皆で聖夜の準備を レオン(ka5108) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/12/13 23:02:32 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/11 21:44:29 |