ゲスト
(ka0000)
24
マスター:龍河流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 3日
- 締切
- 2015/12/12 22:00
- 完成日
- 2015/12/23 02:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
そろそろ冬も本番となり、風邪には気を付けようなんて挨拶が交わされる今日この頃。
ある地域で、伝染力の高い熱病が季節外れの猛威を振るっていた。
症状は、ただひたすらに高い熱が出る。これに尽きる。
普段なら暑い時期に流行が始まって、秋まで続く。冬に入るところには滅多に見なくなる病気だが、今年に限ってはこの時期に再流行となっていた。
「なんだろうなぁ」
「そういうこともあるだろうよ、年寄りと子供には気を付けさせなきゃ」
高熱が続くといっても、よく効く薬草も分かっている。
症状が出たら、その薬草を煎じた苦い薬を我慢して飲んで、よく寝ていれば、五日もするとけろりと治る。元気な若者なら、三日で起き上がってくる。
問題点は、この熱病は発症してから三日の間に手当てをしないと、例外なく重症化すること。まれに子供や高齢者が、手当てが遅れて亡くなることもある。
つまりは薬草の煎じ薬を三日の間に飲むこと、飲ませることが重要だ。
「しかし、こんな時期に流行ると薬草が足りるか心配だなぁ」
「大丈夫さ。うちの町には、薬草用の温室があるんだから」
「なんだ、株分けしてもらってないのかい。うちは家族の分を鉢で育ててるよ」
「それはいい。ちょっと行って、貰ってくるか」
季節外れの熱病を心配しつつも、それほど深刻な状況だと思っていなかった町の人々が蒼くなったのは、少し離れた隣町から早馬が到着してからだ。
その時刻は、深夜に近い午後十一時。
「うちの町で患者が急に増えて、薬草が足りなくなった」
「足りないのは、いつからだ?」
「昨日の……正午くらいだと思う」
この時点で、残り時間が約一日半。
緊急の依頼を受けたハンター達が、依頼主にして薬草の送り出しをする町に到着したのは、翌日の午前十一時だった。
ある地域で、伝染力の高い熱病が季節外れの猛威を振るっていた。
症状は、ただひたすらに高い熱が出る。これに尽きる。
普段なら暑い時期に流行が始まって、秋まで続く。冬に入るところには滅多に見なくなる病気だが、今年に限ってはこの時期に再流行となっていた。
「なんだろうなぁ」
「そういうこともあるだろうよ、年寄りと子供には気を付けさせなきゃ」
高熱が続くといっても、よく効く薬草も分かっている。
症状が出たら、その薬草を煎じた苦い薬を我慢して飲んで、よく寝ていれば、五日もするとけろりと治る。元気な若者なら、三日で起き上がってくる。
問題点は、この熱病は発症してから三日の間に手当てをしないと、例外なく重症化すること。まれに子供や高齢者が、手当てが遅れて亡くなることもある。
つまりは薬草の煎じ薬を三日の間に飲むこと、飲ませることが重要だ。
「しかし、こんな時期に流行ると薬草が足りるか心配だなぁ」
「大丈夫さ。うちの町には、薬草用の温室があるんだから」
「なんだ、株分けしてもらってないのかい。うちは家族の分を鉢で育ててるよ」
「それはいい。ちょっと行って、貰ってくるか」
季節外れの熱病を心配しつつも、それほど深刻な状況だと思っていなかった町の人々が蒼くなったのは、少し離れた隣町から早馬が到着してからだ。
その時刻は、深夜に近い午後十一時。
「うちの町で患者が急に増えて、薬草が足りなくなった」
「足りないのは、いつからだ?」
「昨日の……正午くらいだと思う」
この時点で、残り時間が約一日半。
緊急の依頼を受けたハンター達が、依頼主にして薬草の送り出しをする町に到着したのは、翌日の午前十一時だった。
リプレイ本文
●十一時十分
熱病患者達が薬草を求める町まで、二十四時間のうちに着かねばならない。
その輸送を託されたハンター達には、激励と共に、一刻も早く出発してくれと願う声も高かった。
「気が急くのは当然だが、時間短縮には情報が大切だ。道に詳しい者に話を聞きたい。心配するな、必ず間に合わせるから」
そうした声に押し出されることなく、マリィア・バルデス(ka5848)が指示に慣れた口調で、町の人々に語りかけた。マリィアの毅然とした態度に、早く早くと急き立てていた人々も言われたことをすんなりと飲み込んだようだ。
生憎とロニ・カルディス(ka0551)やテノール(ka5676)が求めた詳細な地図はなかったが、絵心がある住人が要所を押さえた図面を描いてくれる。
「悪路の有無と、高低差、他に……河などはありませんか?」
「風が強くなる場所も、あるなら描いておいてくれ」
アシェ-ル(ka2983)とエアルドフリス(ka1856)が気になる点を挙げ、何度も目的地まで行き来したことがある住人と、昨夜急を知らせて来た青年とが求められた情報を書き加える。
街道とはいえ、舗装はされていない。これまで魔導バイクなど走ったことはないし、馬も荷馬車を引いて通るのが主で、轍が深い場所も多いようだ。
また、街道の周辺が開けている場所が多く見通しは良いが、この周辺は冬期は風が強い。横からの強風にあおられる可能性があるとのことだった。
「そこまで分かっていれば、幾らでも走り様があるさ。崖の方向は、どう考えたって道が悪かろうしな」
見落としが良く、ここ何年も盗賊も雑魔も出たことがないとなれば、後は薬草を届けに走るだけ。あまりにあっさり口にしたもので、万歳丸(ka5665)を事態が分かっているのかと不安そうに見る者もいたが、当人はもちろん理解している。単に、心配する態度より生来の豪儀さが表面に出ているだけの事だった。
また、いきなり崖の方と言われて、困惑した住人もいる。そちらに穏やかな笑顔を向けたのは、ユキヤ・S・ディールス(ka0382)だった。
「ご事情を聞いて、皆で相談したのですが……」
時間が限られる中での、人命に関わる荷物輸送。単純に道を急げば間に合うなら、全員で最短時間を目指すだけだが、いささかの不安がある。
そして、もう一つ選べる経路があって、そこの難関を乗り越える力量もあるのだから、両方を選んでみよう。これがハンター達の判断だ。ユキヤにそう説明されても、実際の崖を知っている人々の不安はあまり解消されていなかったが、
「大丈夫! ざくろ、冒険家だからね!!」
皆の不安を吹き飛ばす勢いで、時音 ざくろ(ka1250)が胸を張った。今一つ信用されてない空気を察して、これがあると見せたのがショットアンカーだ。
しっかりと地面を噛んだ鉤爪を射出する魔導機械に、そんなものもあるなら何とかなるかもと、緊張に張り詰めていた町の雰囲気が随分と和らいだ。
そうして。
道中の食料も馬の分まで差し入れられ、水場の在りかが分かりやすく記された地図を携えた一行は、二手に分かれての移動を開始した。
●十二時十五分
走り始めて三十分。
魔導バイク二台と馬一頭の直線組には、ロニとざくろ、万歳丸の三人がいた。
「病気のびの字の感じねえ、長閑なもんだ」
唯一の騎乗である万歳丸が、一旦馬の足を止めさせて、双眼鏡で行く手の光景を確かめながら呟いた。薬草の箱は、梱包の上から更に毛布で包み、ざくろとロニが魔導バイクの荷台にしっかりと括りつけている。万歳丸が持たないのは、馬の消耗を防ぐためだ。ゴースロンには負担にならない程度の重さながら、疲労の蓄積は少しでも避けねばならない。
代わりに、多少の足場の悪さは自分の判断で乗り越えてくれる馬の特性を活かして、現在は路面状況の偵察に先行している。なにしろいきなり行く手が石だらけなど、町の住人も把握していない悪路は多い。
「どう? うわ、ここは駄目だね」
「迂回路はどうなっている?」
薬草は多少揺らしたところで問題ないと分かっていても、やはり道は選んで走る魔導バイクの二人が追い付いて、目の前に広がる石ころだらけの上り坂に渋い顔を見せた。
距離は直進が最も近いに決まっているが、移動速度がそれと同じとは限らない。あまりの悪路は避ける方針でいた三人は、ここで最初の迂回を強いられることになった。
地図から途中の水場を確かめて、そちらの方向に迂回を決める。
時折横から吹いてくる強風に足元をすくわれないよう、地面の様子に目を凝らしてそれぞれの相棒を走らせるのは、なかなか大変だ。集中が途切れないうちに、短時間の休憩を入れるべきかもと三人ともが考えている。
●十三時三十分
三日以内の煎じ薬を飲ませれば、熱病は悪化しない。対処も、薬もはっきりしている症例だが、残り時間を考えれば掛け値なしに火急の事態だ。
それに、抵抗力には個人差が大きい。誰一人、取りこぼすことなく助けるには、とにかく急ぐしかない。これは、街道を行く五人に共通した認識だった。
けれども、依頼してきた町を出発して二時間弱。彼らは最初の休憩に入った。
「天気は……このまま持ちそうです。風も強くなるかもしれません」
四方の空の様子を眺めやり、ユキヤが仲間達を振り返った。その頬は、大分と赤くなっている。移動中は、自分達が起こす風に吹かれ続けているのだから当たり前だ。
特にユキヤは、横から吹きよせる風から、薬草の箱を載せるテノールとエアルドフリスの馬を庇う位置取りを、アシェ-ルと務めていた。風の影響は、先頭の魔導バイクのマリィアと変わらずに大きい。
「次の出発は三十分後ね。日没までに、余裕で間の村に着ける速度だわ。そこで夜間移動の装備に切り替えるのに合わせて、少し長めに休むのでどうかしら」
街道沿いの水場で、手早く水を汲んで、湯を沸かす用意を整えたマリィアは、忙しく口も動かしている。ところどころ硬い言葉が混じるのは、軍人経験が顔を覗かせているからだろう。
休憩はおおよそ二時間ごと、時間は最低三十分。これには、もっと長く移動して、短い休憩で目的地を目指そうという意見もあった。
けれども、マリィアがリアルブルーの長距離馬術競技での人馬の健康と安全面から決められたルールを示したのと、家業で長距離移動も良くこなしたというテノールが、最終局面まで馬の体力を温存するのに賛成して、三十分となった。
ただし、のんびりする暇などない。
「さ、汗を拭きますよ。ちゃんとお水を飲んでくださいね。またすぐに出発ですから」
アシェ-ルがくるくると立ち働いて、馬に水を飲ませ、汗を拭っている。風に吹き晒されていても、二時間も動き続けた馬の体は汗を吹いていた。そのままでは体力を奪われると、小柄な身体を伸ばしたアシェ-ルが背中をごしごしと拭いてやる。
「手綱を持っていてください。蹄の具合を確かめます」
身長差ではなく、慣れだろう。そうした世話を手早く終えて、自分の馬の脚の具合を見たテノールが、皆の馬の脚を上げさせて覗き込む。足を痛めた馬がいれば、治療はユキヤに頼む手筈だが、今の段階ではいずれも少しの疲れが見えるだけだ。
馬の足元を見ているのがテノールなら、エアルドフリスは荷物を確かめている。彼とテノールの馬に積まれた薬草の箱は、中身をひっくり返さない限りは問題ないと聞かされている。三重にきつく梱包した上で、馬の背に十字に縄を掛けて括ったので、馬ごと転倒でもしない限りは無事のはずだ。
それでも確かめるのは、薬師としての性分だ。流石に口にはしないが、エアルドフリスには薬を届けるという使命感の他に、よく知らぬ熱病と薬草への興味もある。
「頼むぞ、グィー。お前さんの脚が頼りだ」
この先は横殴りの突風が発生しやすい場所だと、出発前に聞いている。ここまでの速度を保のは難しいだろうが、相棒を信頼しない事には始まらない。その想いを込めて首筋を撫でると、グィーは応えるようにいななきを寄越した。
体温を下げないように白湯を飲んで、五人はまたマリィアを先頭にでこぼこした道を走り出す。リアルブルーの自転車競技で多用される、風への対処法に倣った列は、徐々にその速度を上げていった。
●十五時四十五分
悪路は迂回しつつも速度は保ち、休憩は最低限で、万歳丸の馬の足取りが重くなった頃。
「なるほど、このルートが開拓されない訳だ」
「……この程度の困難、待っている人のためなら乗り越えて見せるよ!」
まだ日があるうちに問題の絶壁まで辿り着いた直線組の三人は、三者三様の表情で現れた難関を見上げていた。ロニが呟いたように、この切り立ち具合では道を刻もうと考える者も出るまい。
だが、幸いにしてここまでは、徒歩に切り替えずに来ている。おかげで夕暮れ時と見ていた崖との対面が、日没より一時間弱だが早くなった。この時間を有効に使ってと、すでに気合十分のざくろが分担して運んできたロープをバイクの荷台から下ろした時。
「よしっ、まずは腹ごしらえだ。食っとかねえと、体が冷えるぜ」
万歳丸は、ロープより先に町で貰った軽食を取り出していた。
●十六時四十分
日が暮れてしばらく後、街道組の五人が中間地点の村に辿り着いていた。こちらもかなり強烈な横風を食らいつつも、当初の見込み通りの道行きだ。ただし、風除けを担っていたアシェ-ルとユキヤの馬は、どちらも息が荒い。
村では突然のハンター来訪に驚いたが、隣町の様子はすでに聞き知っている。すぐさま事情を飲み込んで、馬の世話に慣れた人が集まってくれた。マリィアの魔導バイクだけは当人の整備だが、他の四人は少しばかり手が空いた格好だ。
「村長さんに、ここのお馬さんを借りられないか、お尋ねに行くのです!」
疲労した馬の代わりに村の馬を借りたいと勢い込んだアシェ-ルが、一休みしたらという村人の勧めに気付かず、村長を探そうと立ち上がった。その足もほぼ半日の騎乗でふらついているが、当人の気合は枯れていない。
とはいえ、馬を借りたとてすぐさま出発出来るわけでなし、エアルドフリスがまずは座って休めと促した。
「急がば回れ。この先の様子を聞く必要もあるし、焦らないことだ」
そう言う当人は、体は休めつつも村人にこの先の道の様子を訊いている。加えて、薬草の煎じ方も確かめているのは、現地ですぐに動けるようにだろう。
同様に座りながらも、物腰柔らかな態度は変わらずに、ユキヤが薬草の現物を見たいと頼んでいた。件の町では薬草を使い尽くしたのだろうから、この先は株分けした薬草の運搬もおそらく必要になると、時間が取れれば自分が運ぶつもりなのだ。費用が掛かるなら、報酬は返しても良いとまで考えている。ただし、これは本当にどうしようもなさそうなら言うつもりのこと。
すると。
「いただいても大丈夫ですか? それなら、間違いなくお届けします」
すぐには役に立たないにしても、あれば隣町も安心だろうからと、鉢植えの薬草を運んでもらえればと村長から頼まれた。もちろんユキヤはありがたく受け取った。移動に不要な荷物を預かってもらい、薬草を運ぶ余裕が出るように調整しようとアシェ-ルにも声を掛けようとしたら、彼女は座ったまま舟を漕いでいる。
その向こうでは、整備をしながらのマリィアと村の住人とで車座になったテノールが、地面に何か書きながら相談していた。道の様子を確かめているのだと、エアルドフリスとユキヤが近付くと。
「九時着を目指すとして、灯りを使っても……まず、常歩がせいぜいでしょう。慣れた道ならともかく、初めての坂道ですから」
「もう夜明けまでは歩きと仮定して、夜が明けるのが五時半ごろ? それなら、四時間は休めるわ」
こちらの二人は、休息を何時まで取れるかと真剣に計算していた。
●宵闇まだ深い頃
先行したマリィアが戻ってくる音が、ライトと共に存在を主張してしばらく。
「この先は牧草地のようね」
「雲の流れも緩くなっているのです。今なら、きっと馬で行けます」
アシェ-ルが自分達より先を行く者の足元へ、ハンディLEDライトの光を動かすのに合わせたように、更に三つのライトが進行方向の大分先を照らし出した。
それまで手綱を引いていた一行が、今までとは違う蹄の音をさせながら、先導する魔導バイクの後を追いかけ始めた。
「ファイトォーッ!」
「イッパーツ!!」
闇の中で、ライトだけを頼りに崖を登り続ける無謀に乗り出して数時間。ロニは何度目だか忘れたが、万歳丸とざくろの掛け声を耳にしていた。
●七時五十五分
街道をひたすらに歩き、夜明けとともに走り出していた街道組は、道の先に前屈みに立ち止まる人の姿を目にした。まさか、件の町の住民が助けを求めて出て来たかと、声を掛けつつ近付くと、
「あ~、追い付かれちゃったってことは、今まではざくろ達が早かったんだぁ」
蒼い顔で振り向いたざくろが、ふらつきながら、全面を擦りむいた掌で持っていた箱二つを皆の方に差し出した。受け取ったのはバイクから飛び降りたマリィアで、テノールに片方を投げ渡す。テノールは、それをすでに積んである箱の上に括りつけた。
その間に、馬から身を乗り出してざくろの手を見ようとしたエアルドフリスに、ユキヤが先に行けと手を振る。
「後から合流します。アシストがなくなりますから、風に用心してください」
薬草の箱を持ったのは、エアルドフリスとテノール、それに追加でマリィアだ。行ってもらわねば困ると、態度で示していた。
「向こうが落ち着いたら、迎えに来ます」
テノールがそう言いながら、荷物から食料や水をすべて渡していく。それから三人は、今までになく激しい音を立てて街道を町へと向かっていった。
すでにアシェ-ルは、ざくろが指した方向に、残り二人の姿を求めて馬を駆けさせている。
●八時十五分
崖を登り切る際に、疲れで足を滑らせたざくろを押し上げた代わりに、無理に踏ん張って傷めた足を引きずりながら歩いていたロニは、前方に大の字で倒れる万歳丸を見付けた。まず自分がざくろと荷物を担いで、行けるところまで走る。ざくろは無理にでも休んで、続きを走れと豪語しただけあって、ロニが驚いた距離を稼いでいた。
「これなら間に合うはずだな」
ロニがざくろを心配しながら、万歳丸になんとか持って来た水筒を差しだした時、馬の蹄の音が響いて来た。
そして、この時刻。
「ここまではハンターオフィスで請けた仕事。ここからは、本業の薬師の仕事だ。途中で休んで、体力は残っている。幾らでもこき使ってくれていい」
薬草を待ち焦がれていた町で、エアルドフリスが出迎えた人々に穏やかな笑顔で語りかけた。
昨夜、休息をと押し切られたおかげで、体は十分に動く。
「さ、患者は何方かな?」
熱病患者達が薬草を求める町まで、二十四時間のうちに着かねばならない。
その輸送を託されたハンター達には、激励と共に、一刻も早く出発してくれと願う声も高かった。
「気が急くのは当然だが、時間短縮には情報が大切だ。道に詳しい者に話を聞きたい。心配するな、必ず間に合わせるから」
そうした声に押し出されることなく、マリィア・バルデス(ka5848)が指示に慣れた口調で、町の人々に語りかけた。マリィアの毅然とした態度に、早く早くと急き立てていた人々も言われたことをすんなりと飲み込んだようだ。
生憎とロニ・カルディス(ka0551)やテノール(ka5676)が求めた詳細な地図はなかったが、絵心がある住人が要所を押さえた図面を描いてくれる。
「悪路の有無と、高低差、他に……河などはありませんか?」
「風が強くなる場所も、あるなら描いておいてくれ」
アシェ-ル(ka2983)とエアルドフリス(ka1856)が気になる点を挙げ、何度も目的地まで行き来したことがある住人と、昨夜急を知らせて来た青年とが求められた情報を書き加える。
街道とはいえ、舗装はされていない。これまで魔導バイクなど走ったことはないし、馬も荷馬車を引いて通るのが主で、轍が深い場所も多いようだ。
また、街道の周辺が開けている場所が多く見通しは良いが、この周辺は冬期は風が強い。横からの強風にあおられる可能性があるとのことだった。
「そこまで分かっていれば、幾らでも走り様があるさ。崖の方向は、どう考えたって道が悪かろうしな」
見落としが良く、ここ何年も盗賊も雑魔も出たことがないとなれば、後は薬草を届けに走るだけ。あまりにあっさり口にしたもので、万歳丸(ka5665)を事態が分かっているのかと不安そうに見る者もいたが、当人はもちろん理解している。単に、心配する態度より生来の豪儀さが表面に出ているだけの事だった。
また、いきなり崖の方と言われて、困惑した住人もいる。そちらに穏やかな笑顔を向けたのは、ユキヤ・S・ディールス(ka0382)だった。
「ご事情を聞いて、皆で相談したのですが……」
時間が限られる中での、人命に関わる荷物輸送。単純に道を急げば間に合うなら、全員で最短時間を目指すだけだが、いささかの不安がある。
そして、もう一つ選べる経路があって、そこの難関を乗り越える力量もあるのだから、両方を選んでみよう。これがハンター達の判断だ。ユキヤにそう説明されても、実際の崖を知っている人々の不安はあまり解消されていなかったが、
「大丈夫! ざくろ、冒険家だからね!!」
皆の不安を吹き飛ばす勢いで、時音 ざくろ(ka1250)が胸を張った。今一つ信用されてない空気を察して、これがあると見せたのがショットアンカーだ。
しっかりと地面を噛んだ鉤爪を射出する魔導機械に、そんなものもあるなら何とかなるかもと、緊張に張り詰めていた町の雰囲気が随分と和らいだ。
そうして。
道中の食料も馬の分まで差し入れられ、水場の在りかが分かりやすく記された地図を携えた一行は、二手に分かれての移動を開始した。
●十二時十五分
走り始めて三十分。
魔導バイク二台と馬一頭の直線組には、ロニとざくろ、万歳丸の三人がいた。
「病気のびの字の感じねえ、長閑なもんだ」
唯一の騎乗である万歳丸が、一旦馬の足を止めさせて、双眼鏡で行く手の光景を確かめながら呟いた。薬草の箱は、梱包の上から更に毛布で包み、ざくろとロニが魔導バイクの荷台にしっかりと括りつけている。万歳丸が持たないのは、馬の消耗を防ぐためだ。ゴースロンには負担にならない程度の重さながら、疲労の蓄積は少しでも避けねばならない。
代わりに、多少の足場の悪さは自分の判断で乗り越えてくれる馬の特性を活かして、現在は路面状況の偵察に先行している。なにしろいきなり行く手が石だらけなど、町の住人も把握していない悪路は多い。
「どう? うわ、ここは駄目だね」
「迂回路はどうなっている?」
薬草は多少揺らしたところで問題ないと分かっていても、やはり道は選んで走る魔導バイクの二人が追い付いて、目の前に広がる石ころだらけの上り坂に渋い顔を見せた。
距離は直進が最も近いに決まっているが、移動速度がそれと同じとは限らない。あまりの悪路は避ける方針でいた三人は、ここで最初の迂回を強いられることになった。
地図から途中の水場を確かめて、そちらの方向に迂回を決める。
時折横から吹いてくる強風に足元をすくわれないよう、地面の様子に目を凝らしてそれぞれの相棒を走らせるのは、なかなか大変だ。集中が途切れないうちに、短時間の休憩を入れるべきかもと三人ともが考えている。
●十三時三十分
三日以内の煎じ薬を飲ませれば、熱病は悪化しない。対処も、薬もはっきりしている症例だが、残り時間を考えれば掛け値なしに火急の事態だ。
それに、抵抗力には個人差が大きい。誰一人、取りこぼすことなく助けるには、とにかく急ぐしかない。これは、街道を行く五人に共通した認識だった。
けれども、依頼してきた町を出発して二時間弱。彼らは最初の休憩に入った。
「天気は……このまま持ちそうです。風も強くなるかもしれません」
四方の空の様子を眺めやり、ユキヤが仲間達を振り返った。その頬は、大分と赤くなっている。移動中は、自分達が起こす風に吹かれ続けているのだから当たり前だ。
特にユキヤは、横から吹きよせる風から、薬草の箱を載せるテノールとエアルドフリスの馬を庇う位置取りを、アシェ-ルと務めていた。風の影響は、先頭の魔導バイクのマリィアと変わらずに大きい。
「次の出発は三十分後ね。日没までに、余裕で間の村に着ける速度だわ。そこで夜間移動の装備に切り替えるのに合わせて、少し長めに休むのでどうかしら」
街道沿いの水場で、手早く水を汲んで、湯を沸かす用意を整えたマリィアは、忙しく口も動かしている。ところどころ硬い言葉が混じるのは、軍人経験が顔を覗かせているからだろう。
休憩はおおよそ二時間ごと、時間は最低三十分。これには、もっと長く移動して、短い休憩で目的地を目指そうという意見もあった。
けれども、マリィアがリアルブルーの長距離馬術競技での人馬の健康と安全面から決められたルールを示したのと、家業で長距離移動も良くこなしたというテノールが、最終局面まで馬の体力を温存するのに賛成して、三十分となった。
ただし、のんびりする暇などない。
「さ、汗を拭きますよ。ちゃんとお水を飲んでくださいね。またすぐに出発ですから」
アシェ-ルがくるくると立ち働いて、馬に水を飲ませ、汗を拭っている。風に吹き晒されていても、二時間も動き続けた馬の体は汗を吹いていた。そのままでは体力を奪われると、小柄な身体を伸ばしたアシェ-ルが背中をごしごしと拭いてやる。
「手綱を持っていてください。蹄の具合を確かめます」
身長差ではなく、慣れだろう。そうした世話を手早く終えて、自分の馬の脚の具合を見たテノールが、皆の馬の脚を上げさせて覗き込む。足を痛めた馬がいれば、治療はユキヤに頼む手筈だが、今の段階ではいずれも少しの疲れが見えるだけだ。
馬の足元を見ているのがテノールなら、エアルドフリスは荷物を確かめている。彼とテノールの馬に積まれた薬草の箱は、中身をひっくり返さない限りは問題ないと聞かされている。三重にきつく梱包した上で、馬の背に十字に縄を掛けて括ったので、馬ごと転倒でもしない限りは無事のはずだ。
それでも確かめるのは、薬師としての性分だ。流石に口にはしないが、エアルドフリスには薬を届けるという使命感の他に、よく知らぬ熱病と薬草への興味もある。
「頼むぞ、グィー。お前さんの脚が頼りだ」
この先は横殴りの突風が発生しやすい場所だと、出発前に聞いている。ここまでの速度を保のは難しいだろうが、相棒を信頼しない事には始まらない。その想いを込めて首筋を撫でると、グィーは応えるようにいななきを寄越した。
体温を下げないように白湯を飲んで、五人はまたマリィアを先頭にでこぼこした道を走り出す。リアルブルーの自転車競技で多用される、風への対処法に倣った列は、徐々にその速度を上げていった。
●十五時四十五分
悪路は迂回しつつも速度は保ち、休憩は最低限で、万歳丸の馬の足取りが重くなった頃。
「なるほど、このルートが開拓されない訳だ」
「……この程度の困難、待っている人のためなら乗り越えて見せるよ!」
まだ日があるうちに問題の絶壁まで辿り着いた直線組の三人は、三者三様の表情で現れた難関を見上げていた。ロニが呟いたように、この切り立ち具合では道を刻もうと考える者も出るまい。
だが、幸いにしてここまでは、徒歩に切り替えずに来ている。おかげで夕暮れ時と見ていた崖との対面が、日没より一時間弱だが早くなった。この時間を有効に使ってと、すでに気合十分のざくろが分担して運んできたロープをバイクの荷台から下ろした時。
「よしっ、まずは腹ごしらえだ。食っとかねえと、体が冷えるぜ」
万歳丸は、ロープより先に町で貰った軽食を取り出していた。
●十六時四十分
日が暮れてしばらく後、街道組の五人が中間地点の村に辿り着いていた。こちらもかなり強烈な横風を食らいつつも、当初の見込み通りの道行きだ。ただし、風除けを担っていたアシェ-ルとユキヤの馬は、どちらも息が荒い。
村では突然のハンター来訪に驚いたが、隣町の様子はすでに聞き知っている。すぐさま事情を飲み込んで、馬の世話に慣れた人が集まってくれた。マリィアの魔導バイクだけは当人の整備だが、他の四人は少しばかり手が空いた格好だ。
「村長さんに、ここのお馬さんを借りられないか、お尋ねに行くのです!」
疲労した馬の代わりに村の馬を借りたいと勢い込んだアシェ-ルが、一休みしたらという村人の勧めに気付かず、村長を探そうと立ち上がった。その足もほぼ半日の騎乗でふらついているが、当人の気合は枯れていない。
とはいえ、馬を借りたとてすぐさま出発出来るわけでなし、エアルドフリスがまずは座って休めと促した。
「急がば回れ。この先の様子を聞く必要もあるし、焦らないことだ」
そう言う当人は、体は休めつつも村人にこの先の道の様子を訊いている。加えて、薬草の煎じ方も確かめているのは、現地ですぐに動けるようにだろう。
同様に座りながらも、物腰柔らかな態度は変わらずに、ユキヤが薬草の現物を見たいと頼んでいた。件の町では薬草を使い尽くしたのだろうから、この先は株分けした薬草の運搬もおそらく必要になると、時間が取れれば自分が運ぶつもりなのだ。費用が掛かるなら、報酬は返しても良いとまで考えている。ただし、これは本当にどうしようもなさそうなら言うつもりのこと。
すると。
「いただいても大丈夫ですか? それなら、間違いなくお届けします」
すぐには役に立たないにしても、あれば隣町も安心だろうからと、鉢植えの薬草を運んでもらえればと村長から頼まれた。もちろんユキヤはありがたく受け取った。移動に不要な荷物を預かってもらい、薬草を運ぶ余裕が出るように調整しようとアシェ-ルにも声を掛けようとしたら、彼女は座ったまま舟を漕いでいる。
その向こうでは、整備をしながらのマリィアと村の住人とで車座になったテノールが、地面に何か書きながら相談していた。道の様子を確かめているのだと、エアルドフリスとユキヤが近付くと。
「九時着を目指すとして、灯りを使っても……まず、常歩がせいぜいでしょう。慣れた道ならともかく、初めての坂道ですから」
「もう夜明けまでは歩きと仮定して、夜が明けるのが五時半ごろ? それなら、四時間は休めるわ」
こちらの二人は、休息を何時まで取れるかと真剣に計算していた。
●宵闇まだ深い頃
先行したマリィアが戻ってくる音が、ライトと共に存在を主張してしばらく。
「この先は牧草地のようね」
「雲の流れも緩くなっているのです。今なら、きっと馬で行けます」
アシェ-ルが自分達より先を行く者の足元へ、ハンディLEDライトの光を動かすのに合わせたように、更に三つのライトが進行方向の大分先を照らし出した。
それまで手綱を引いていた一行が、今までとは違う蹄の音をさせながら、先導する魔導バイクの後を追いかけ始めた。
「ファイトォーッ!」
「イッパーツ!!」
闇の中で、ライトだけを頼りに崖を登り続ける無謀に乗り出して数時間。ロニは何度目だか忘れたが、万歳丸とざくろの掛け声を耳にしていた。
●七時五十五分
街道をひたすらに歩き、夜明けとともに走り出していた街道組は、道の先に前屈みに立ち止まる人の姿を目にした。まさか、件の町の住民が助けを求めて出て来たかと、声を掛けつつ近付くと、
「あ~、追い付かれちゃったってことは、今まではざくろ達が早かったんだぁ」
蒼い顔で振り向いたざくろが、ふらつきながら、全面を擦りむいた掌で持っていた箱二つを皆の方に差し出した。受け取ったのはバイクから飛び降りたマリィアで、テノールに片方を投げ渡す。テノールは、それをすでに積んである箱の上に括りつけた。
その間に、馬から身を乗り出してざくろの手を見ようとしたエアルドフリスに、ユキヤが先に行けと手を振る。
「後から合流します。アシストがなくなりますから、風に用心してください」
薬草の箱を持ったのは、エアルドフリスとテノール、それに追加でマリィアだ。行ってもらわねば困ると、態度で示していた。
「向こうが落ち着いたら、迎えに来ます」
テノールがそう言いながら、荷物から食料や水をすべて渡していく。それから三人は、今までになく激しい音を立てて街道を町へと向かっていった。
すでにアシェ-ルは、ざくろが指した方向に、残り二人の姿を求めて馬を駆けさせている。
●八時十五分
崖を登り切る際に、疲れで足を滑らせたざくろを押し上げた代わりに、無理に踏ん張って傷めた足を引きずりながら歩いていたロニは、前方に大の字で倒れる万歳丸を見付けた。まず自分がざくろと荷物を担いで、行けるところまで走る。ざくろは無理にでも休んで、続きを走れと豪語しただけあって、ロニが驚いた距離を稼いでいた。
「これなら間に合うはずだな」
ロニがざくろを心配しながら、万歳丸になんとか持って来た水筒を差しだした時、馬の蹄の音が響いて来た。
そして、この時刻。
「ここまではハンターオフィスで請けた仕事。ここからは、本業の薬師の仕事だ。途中で休んで、体力は残っている。幾らでもこき使ってくれていい」
薬草を待ち焦がれていた町で、エアルドフリスが出迎えた人々に穏やかな笑顔で語りかけた。
昨夜、休息をと押し切られたおかげで、体は十分に動く。
「さ、患者は何方かな?」
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相談卓 ~薬草を届けます~ アシェ-ル(ka2983) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/12/12 20:33:59 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/10 21:53:32 |