DEAD or DIE

マスター:楠々蛙

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/12/21 22:00
完成日
2015/12/29 01:49

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

『DEAD or DIE』
 とある酒場の壁に貼り付けられた手配書には、そんな文言が赤文字で記されていた。
「おい親父、何だこいつは?」
 キャロル=クルックシャンク(kz0160)がラム酒を注いだ杯を呷りながら、その手配書を指差して酒場の店主に問う。赤文字の下には、首なし馬が牽く馬車に乗った首なし騎士が描かれていた。
「そいつは、近頃夜になると街道に姿を現すっていう亡霊馬車だよ」
「亡霊? へえ、面白そうな話ね」
 レモネードをストローで啜っていたラウラ=フアネーレ(kz0162)が、店主の答えに興味を惹かれてカウンターに身を乗り出した。
「確か二週間前からだな、噂が広まり出したのは。
 夜に街道を馬車で走ると、通り過ぎた道からやけにけたたましく蹄鉄と轍の音が聞こえてくる。そこで後ろを振り返ると、暗闇の中に蒼白い光が浮かびあがり、そいつがどんどんこっちに近付いて来てだ、とうとうすぐそこまで迫った時に見えるのが、その絵みたいな亡霊馬車なんだとさ。
 目撃証言も何件かあってだな。追っかけられるだけじゃなくて、襲われたって話も聞くぜ。特に商人達の被害が多くてな、その手配書もここらの商人達が出したもんさ」
「その人達はどうやって逃げたの?」
「ああ、何でも橋を渡って川を越えれば、馬車は何処へともなく去るんだと。川沿いの街道だからな。途中に幾つか橋があるんだよ」
「ちゃんと攻略法があるあたり、本当に怪談みたいね」
「馬鹿々々しい。亡霊なんぞ居やしねえ」
 店主の話をラウラが興味深々に聞くが、キャロルは鼻で哂って杯を干す。
「なに、怖いの?」
「……馬鹿言え。亡霊の影に怯えて、ガンマンが務まるかよ。弾が当たらねえもんを信じる気にならないだけだ」
「ふぅん。あ、そう言えば、バリーが今夜この町を発つって言ってたけど」
「そいつは止めておいた方が賢明かもな。軍は歪虚の仕業だろうと考えて、調査している様だから」
「そうした方が良さそうね。──ここにお化けが怖いっていう泣き虫さんも居るみたいだし」
 ラウラのからかいに、隣の馬鹿が過敏に反応した。
「面白れぇじゃねえか。幽霊の正体みたり、ってな。そいつの首を持って帰って、懸賞金は頂きだ!」
 カウンターに空いた杯を叩き付けるキャロルの隣で、ラウラは呟いた。
「無いものをどうやって持ち帰るのよ……」



「──ホントに出た」
 窓から身を乗り出し、闇夜の中に蒼白い火を灯したランタンを吊り下げる馬車を見たラウラは、驚きを隠せずに呟きを漏らした。
「あれが、お前達の言ってた亡霊馬車ってやつか?」
 御者台に座るバリーも驚愕を籠めて、後方に視線を送る。
 手配書の絵の通り、馬車を牽いているのはカタクラフトで全身を覆った首なし馬。御者台に腰掛けるのも漆黒の鎧を身に着けた首なし騎士だ。
「上等だ。来いよ、枯れ尾花。脳天ぶち抜いて、ワンキルショットだ!」
 ラウラと同じく窓から亡霊を覗くキャロルが、普段以上に威勢よく気炎を吐く。
「だから、無いものをどうやって撃つのよ……、え? 待って、もしかして本当に怖いの?」
 良く良く思えば、いつもは屋根の上に陣取る彼が馬車の中に居たままという時点でおかしい。
「だから違えって──っ!」
 言い返そうとしたキャロルが、首なし騎士の右腕が閃くのを視認した。ガントレットの指先が握るのは、古めかしい火器──フリントロック・ピストルに酷似した形状の拳銃。
 その銃口が確かにこちらを捉えた。それを見咎めると同時に、キャロルはラウラを抱き寄せて、窓の傍から全力で飛び退いた。
 直後──、衝撃が馬車を揺るがした。とても銃弾によるものとは思えない。破城鎚でも打ち込まれたかの様な振動。
 火薬の破裂音はしなかった。となるとあれは、魔導銃の類か。
「何よアレ。ホントに亡霊なの……?」
 怪談よりも切実に迫った危険に、ラウラが怯えを含んだ声を上げる。
「亡霊が弾(bulled)撃ち込んで来てたまるか」
 キャロルはそんな彼女を隅に置くとホルスターから愛銃を引き抜いて、窓から身を乗り出す。
 その時、木板が剥がれ内に仕込んだ鉄板を露出した外壁が、ぬらりと濡れている事に気付いた。
「これは、血か?」
 怪訝に呟いたキャロルは、首なし騎士が身に着ける甲冑の隙間から、赤黒いものが溢れ出るのを見た。蠢く血液が右腕に握る魔導銃の銃口へと潜り込んで行く。
「野郎、手前の血(blood)を弾丸にしてんのか!?」
 鉄血の弾丸を再装填する首なし騎士に、させじとリボルバーの鉛玉を浴びせるが、火花を散らす甲冑は怯む事なく無骨な魔導銃の照準をこちらに定める。殺意を秘めた魔眼に捉えられたのを見るや、即座にキャロルは乗り出した身体を引っ込める。
 直後──また馬車を衝撃が襲った。
「デュラハンはタライに満たした血をぶっ掛けて回るってのは聞いた事があるが、ちっとばかり派手過ぎるんじゃないか!?」
 バリーは、横殴りされた馬車を立て直しながら叫ぶ。
「畜生が、ちゃちな鉛玉じゃ埒が明かねえ」
 キャロルは手持ちのリボルバーと壁に掛けた銃を入れ替る。両手に握ったのは、二挺の水平二連式散弾銃──銃身と銃床を切り詰めた、ソードオフ・ショットガンだ。
「早くどうにかしないと、スレイプニルとブケパロスが音を上げそうだ! おい、あれをどうにかする方法は何かないのか!?」
 バリーが二頭の馬車馬の名を告げながら、声を張り上げて問う。
「は、橋だわ! 酒場のマスターが、橋を渡れば亡霊馬車は追っ駆けて来なくなるって!」
 ラウラの返答にバリーは頷いた。
「それに賭けるしかないか。それまでどうにか奴を押し留めておけよ、キャロル!」
「無茶苦茶言ってくれるぜ!」
 注文に文句を垂れて、キャロルは再び銃把を握りながら窓から身を乗り出した。
 銃口の先には、新たな得物を手に取った首なし騎士。左腕が握り締めたのは剣の柄。しかし、肝心要の刀身がなかった。とは言え、それをガラクタと哂う余裕がある筈もない。
「刃まで自前か」
 予見した通りに柄から紅い刀身が伸びる。
「車輪を壊す気だな、させっかよ!」 
 馬車を幅寄せして来た首なし騎士の狙いを覚って、阻止せんと散弾の雨を降らせる。散弾のストッピングパワーにはさしもの首なし騎士もこたえると見え、一時その動きを止める事には成功する。が、早くも散弾は四発で尽きた。
「バリー! 来るぞ、躱せ!」
 銃身を折り、空薬莢を排莢して新たな弾を薬室に叩き込みながら、キャロルは叫ぶ。
 鉄血剣が振り下ろされる直前、馬車が脇道に逸れて剣撃を躱した。
 そのまま馬車は進み石橋に到達して、石畳の上を激しく揺れながら渡り切る。
「奴は!?」
「──消えた」
 叫ぶバリーに、馬車を見失ったキャロルが答える。そして、歯噛みしながら呟いた。
「絶対にこのままじゃ済まさねえ」

 翌日、商人連盟が亡霊改め、歪虚馬車討伐の為にハンター達を招集した。

リプレイ本文

 真夜中の街道を馬車が通る。
「I don’t believe in ghost!」
 キャロルが普段通り屋根に上り気勢を上げているが、その内容は「おばけなんてないさ」なのだから、どうにも格好が付かない。
「彼はいつもああなのかしら?」
 八原 篝(ka3104)が馬車の天井を仰ぐ。
「命綱を付けろって言っても聞かないし、困った人ね」
「あれは放って置いてもいいわ。戦ってる時に落っこちた事はないもの」
 溜息を吐く八原にラウラが応じる。八原は木箱に腰掛ける少女を困惑の表情で見た。
「本当に付いて来るの? さっきも言ったけど、危険よ。やっぱり今からでも一旦引き返して、町で待っていた方がいいと思うわ」
「それは俺も賛成だ」
 ステラ・レッドキャップ(ka5434)が八原に同意する。ラウラを諭す口調は粗い。
「昨夜も怖い思いをしたんだろ? 今夜はもっと酷くなるかもしんないぜ」
 しかしながら、その内容は彼女なりの優しさが窺えた。それをラウラも感じ取ったのだろう。素直に「ごめんなさい」と謝罪を口にする。
「けど、心配だったか……え、えっと違うの、ほら、あの二人が怪我して旅ができなくなったら、わたしが困るもの」
 あたふたと言い繕うラウラを前にして、八原はまた溜息を零すと、表情を微笑に変えた。
「OK、わかった。私の負けよ」
「い、良いの?」
「しゃあないな。けど、大人しく後ろに下がっていてくれよ? それと火傷するから薬莢には触るな」
 喜色を浮かべるラウラに、ステラが肩を竦めて応じる。
「いえっさー♪」
 満面の笑みを浮かべて敬礼の真似事をするラウラ。
「ラウラさん可愛過ぎですぅ、萌え萌えキュンキュンですよぅ♪」
 そんな彼女に星野 ハナ(ka5852)が抱き着いた。
「な、なに、なんなの!? は、放して!」
「そんな事言わないでもっとハグらせて下さいよぅ。キャロルさんもバリーさんも避けちゃうんですからぁ。うわぁ、頬っぺたぷにぷにですぅ♪」
 抵抗するラウラを逃さずに、星野は思う存分抱き締めて頬を擦り合わせる。
「本当ね、ぷにぷにだわ」
「突いてないで、助けて!」
「我儘聞いてあげるんだから、これくらい良いでしょ」
 ラウラの悲鳴を軽くいなして、八原は指で彼女の頬を満喫する。
 ステラは姦しい輪から外れて、そもそも何故ラウラがキャロルとバリーの旅に同行しているのかを考えていた。
「まさかあのガンマン二人組、ロリコンじゃねえだろうな」

「今回のデュラハンは何か目的があるのかな」
 馬上で揺れながらアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が疑問を口にした。
「目的、か。確かにデュラハン──暴食の歪虚が人里も襲わず、馬車を追って一心不乱に駆け回るってのは普通じゃないな」
 同じく騎馬に跨った龍崎・カズマ(ka0178)がそれに応じる。
「それも今夜わかると良いな」
「そうだね、何なら引き摺り下ろして聞いてみるとしようか」
 思い付いた事をそのまま口にするアルトに、龍崎は苦笑を浮かべた。
「首から上のない奴の口を割らすのは骨が折れそうだ」

「何か考え事か?」
 御者台に腰掛けたバリーが、馬上で何やら思案している様子のマッシュ・アクラシス(ka0771)に問い掛ける。
「いえ、首なしの手合いを見る度に思うのですが。何故連中は首がないのに物を考える頭を備えているのでしょうね」
「まあ確かに。だが、ああいう化物を相手に理屈を求めても仕方ないだろ。俺は馬車の修理代さえ稼げれば文句はないさ」
「それは私も同感です。貰えるものさえ貰えるのなら、それで結構。それ以上は求めませんよ」



 川岸の街道に差し掛かり一行が戦闘体勢に入ると、それは聞こえた。
 遥か遠方から響く、しかし彼らの騎馬や馬車のそれよりも大きく鼓膜を振るわす蹄鉄と轍の音が。
 音源を求めて今しがた通り過ぎた街道を振り返れば、そこに浮かぶのは蒼白い光点。それが次第に接近して来る。
「来たぜバリー、速度を上げろ!」
「ああ、悪いが少し飛ばしてくれよ」
 バリーが馬車馬に鞭を打つと、装甲馬車が次第に速度を上げる。
 やがて後方の光点が大きくなり、その中に首なし馬が牽く馬車の輪郭が浮かび上がって来た。御者台に座すのは、首なしの甲冑騎士。
 龍崎は装甲馬車から離れ、歪虚馬車に並走する。接敵して来た彼に騎士は一瞥もくれる事なく──そもそも不可能な話ではあるが──、ただ一心に馬車を駆る。
「完全無視と来たか。まあ良い、それより馬車だ」
 龍崎は馬車の中を覗き見ようと試みるが、扉に嵌め込んである覗き窓は暗幕で覆われていた。中身の視認は不可能と見て、目的を切り替えた。
 扉に斬龍刀の柄頭を叩き付けて変形させ、開閉を困難にする。これで中に何者かが潜んでいたとしても、外に出たくとも容易には出られない筈だ。
 工作を終えた時には、歪虚馬車は既に八原の射程圏内に入っていた。
「いらっしゃい、首を長くして待ってたわ」
 馬車後方扉を開け放ち、突撃銃の銃身を突き出して銃爪を絞る。マテリアルによって加速した銃弾が、首なし馬のカタクラフトを穿った。
 数拍遅れて、ステラの銃撃が歪虚馬車を襲う。
 突撃銃に宿る光の恩得が首なしの怪物に通ずるのではと画策していた様だが、的外れ。たとえ彼が闇に属する者であったとしても、眼球を首ごと失った怪物はもう光を眩しがる事はない。
 更に遅れてマッシュが突撃銃を構える。
「余り汚れるのもなんですので、ねえ……」
 彼は本来前衛職だが、序盤は見に徹する腹積もりである。味方の銃撃の間隙を埋める様に、牽制目的で銃爪を絞る。
 三つの銃口が放つ弾幕を潜り抜けて、歪虚馬車が装甲馬車の真後ろへと追い縋った。
「来ましたよぅ。ようやく私達の出番ですねぇ、キャロルさん♪」
「わかったから一々寄んな、やかまし娘」
 馬車の屋根に命綱を付けて登った星野が、符術の射程に入った歪虚馬車に歓声を上げてキャロルの袖を引く。邪険にキャロルがそれを振り払った。
「もうつれないですねぇ。良いですよぅ、その分バトルで発散しちゃいますからぁ」
 無下に扱われた星野は唇を尖らせるが、歪虚馬車へ視線を向けると一転して喜色満面の笑みを浮かべ、符を構えた。
「妖精だか歪虚だか知りませんが、大盤振る舞いでブッコロですぅ!」
 舞吹雪くは、紙吹雪。
 ひらりひらりと舞う紙片が、光り輝く鱗粉を纏う蝶の群れへと変じた。儚く美しい光の幻想──しかし、その蝶が好むのは花の蜜ではない 主が敵と見做した者の生き血を求めて、蝶の群れが首なし馬へ殺到する。
「テキーラはイケる口か?」
 星野の攻撃と同時に、キャロルがショットガンを叩き付けた。
 カタクラフトが砕け滂沱と血を流しながらも、首なし馬は主を乗せた馬車を標的の目前へ運んだ。
 それを見計らって、アルトは予めロープの先端に重し代わりの石を括って準備しておいたボーラ擬きを歪虚馬車の車輪目掛けて放った。ステラも同様に、反対側の車輪に絡まる様にロープを投げる。
 首のない怪馬の馬力で回る車輪は、絡まるロープを容易く引き裂いた。
「無駄だったか、それならそれで構わんさ。ここからは小細工抜きだ」
 アルトは腰に佩いた機械刀を抜き放つ。柄に護拳を取り付け鍔や鞘まで変えられたそれに、かつて倭刀だった頃の面影はない。いや、変化は外見だけに非ず。
 持ち主の身体、技術に合わせて偏執的な調整を加えられたその刀は、この世に二つとない業物だ。
「我が愛刀とその技を以って──御相手仕ろう」
 手綱を操って馬を歪虚馬車の右につける。
「これで思う様に身動き取れないだろ?」
 そして更に左側へ龍崎が馬を寄せて、挟み討ち。
 首なし騎士はそれでも尚、己の標的だけを見詰めていた。
 ガントレットが握るは先込め単発式の魔導銃──胡桃材を使ったフレームは美しく蠱惑的な曲線を描き、その表面は気品溢るる光沢を放つ。殺傷を目的として作られたとは思えないアンティーク。
 だがその銃口から放たれたのは、紛れもない殺意──標的を喰らう前から既に血臭を纏った鉄血弾。
 星野が放った呪符が光鳥に変じて、鉄血弾の弾道を防ぐ。式神の犠牲で僅かながら弾速が減じたものの、魔導銃の照準に捉えられた装甲馬車──その後部扉を開いて陣取る八原の盾に着弾した鉄血弾は、人一人を木端に変えるに十分な威力を秘めていた。
「──ッ」
 砲撃に等しい衝撃が盾を構える腕に伝わる。だが、後ろにラウラが控える以上ここを通すわけには──
「──いかないっ!」
 己を鼓舞して鉄血弾を凌ぎ切る。
「だ、大丈夫!? カガリ」
 ラウラがその身を案じて、障壁代わりに積み上げた木箱から身を乗り出す。
「……大丈夫。だからほら、ちゃんと言い付けは守って、ね?」
 八原はラウラを安心させようと、痛む身体を押して微笑みを浮かべた。
 お互いを気遣う少女達に動かされる心の持ち合わせのない首なし騎士が、鉄血弾を再装填した魔導銃の死線を向けようとするが、
「好き勝手暴れてくれるじゃないか」
「見下げ果てた騎士道だな」
 機械刀と斬龍刀が左右から騎士を襲い、それを阻止する。さしもの騎士も二振りの刃を無視する事はできず、無刃の騎士剣に血刃を生やして迎え討つ。
 首と共に視覚、聴覚、嗅覚、味覚と、五感の内の四つを失った首なし騎士が如何にして外界を知覚しているか。言うなれば第六感、気配や生気、そして何より森羅万象に宿るマテリアルの流れを頼りにしていると見るべきだ。となれば、通常の牽制は通用しない。
 しかし、アルトと龍崎が持つ特殊な技術は、首なし騎士を錯覚させる事に成功した。
 強烈極まりない殺気が眼眩ましとなり、その陰に荒れ狂う龍の如き連撃が潜む。陰陽の連携が騎士から攻めに転ずる暇を奪い、更に鎧身に裂傷を刻んで行く。
 その裂傷から滲み出た流血が不気味に蠢き、幾条もの鞭となって周囲を薙ぎ払った。思わぬ反撃に、二人は盾を掲げる。流血の量が少なかった事が幸いしたのか大した威力はないが、二人の攻め手が止まる。
 自由を取り戻した騎士が向ける魔導銃の照準から、アルトは馬脚を下げて逃れる。照準が百八十度反転して龍崎へと向かうが、彼もまたアルトと同じ様に手綱を操った。
 邪魔者を退けた銃口が真の標的を追う。が、自動拳銃とリボルバー──二挺拳銃のクイックドローがそれに先んじた。
「ゲテモノはさっさと仕舞え。これからモノホンの銃──鉄と火薬の醍醐味ってやつを教えてやっからよぉ!」
 降り頻るは、弾時雨。
 鉄(Hard ball)と火薬(Magnum)がもたらす破壊の嵐が、首なし馬の脚をへし折った。
 馬が倒れれば、当然牽引していた馬車も巻き添えを食らう。首なし騎士を乗せたまま馬車が横転した。
「掴まってろ!」
 バリーは馬車馬の手綱を操って、派手に転がって来る馬車を回避。
 二転三転と転がり、ようやく歪虚馬車が止まる。それに合わせて、一行も馬脚を止めた。
 クラッシュした馬車は原型を留めているものの、走行は確実に不可能だろう。
「や、やった──」
 の? と続けようとしたラウラの唇をステラが人差し指で抑える。
「それは死亡フラグだ」
 ステラが静かに告げた直後、首なし騎士が馬車の残骸から身を起こした。
 龍崎、マッシュ、アルトが馬上から降りて、騎士と装甲馬車との間に立つ。
 ────!
 無音の咆哮。
 その余韻が消えぬ内に、騎士の総身に刻まれた傷から流血が迸り、赤黒い蛇の群れとなって前衛の三人を襲った。
 マッシュは薙ぎ払う鞭打を掻い潜る。
「殺す為にあってこそ武器、その在り様は共感できない事もないですね。まあ、歪虚と通わせる心の持ち合わせはありませんが」
 騎士の接近戦への対処を観察して血の操作が攻撃にのみ用いられている事を把握した彼は、突撃銃を騎兵刀に持ち替えて、その黒刃を騎士の左胸に突き立てた。
 確かに、心臓を貫いた手応え──致命の一刺。
 ──の筈だった。
「な、に──?」
 心臓を刺した刃が押し戻される。切先が騎士の体外へ強制排出させられた直後、刺突痕から膨大な量の血液が溢れ出て、マッシュに痛烈な打撃を見舞った。
「心臓が核ではないのか」
 弾き飛ばされたマッシュを受け止めたアルトが呟く。
「その、様ですねぇ」
 腹部を打たれた衝撃に顔をしかめながら、マッシュが応える。
「まさか、核がない?」
 騎士の核の在処を探っていたアルトは、一度も騎士が身体を庇う所作を見せなかった事実から結論を導き出す。
「ないものねだりしても始まらねえさ。何にしても、奴はもう死に体だ」
 龍崎の言葉通り、騎士の出血量は尋常ではない。
「そうだな。さっくり殺るとしよう」
 アルトは刀身を鞘に納めた次の瞬間──消えた。否、目にも止まらぬ、否々、目にも映らぬ身のこなしで動いたのである。
 縮地。武道歩法の極み足る業を以って、騎士の眼前へと身を運んだアルトが繰り出したのは、神速の抜刀術。鞘から抜き放たれた刀身が騎士の胴を薙いだ。
「さあ、鉄血の騎士殿。我が刃金を以ってその血刃、断ち斬ってご覧に入れようか」
 更に血を零しつつも騎士は鉄血剣を振るって龍崎を迎撃した。脳天直下の斬撃を斬龍刀が断ち、翻った刀身が柄を握る腕を斬り飛ばす。
 幾つもの致命傷を負った騎士の足下に溜まった血の池が蠢き、大蛇程の太さもある鞭と化して前衛の二人を弾き飛ばす。障害を排除した騎士は、装甲馬車を目掛けて鎧袖を鳴らしながら疾駆した。残った腕に握るは魔導銃。その薬室に有らん限りの血液を込めて銃口を前へと向ける。
「往生際が悪いですよぅ。──ほら、貴方の命運もここで尽き果てた様ですしぃ」
 タロットから一枚のカードを引き当てた星野は、それをキャロルの前に放る。
「お願いしますね、キャロルさん」
「イカした真似もできんじゃねえかよ」
 一枚のアルカナ──『DEATH』と記されたそれを見て、キャロルは御機嫌な笑みを浮かべると死神の絵柄を狙って銃爪を絞った。
「私達の占いは──」
「──百発百中!」
 カードをぶち抜いた散弾が、鎧姿に着弾。直後、生じた炎が騎士をその内側から焦がした。全身の傷という傷から、沸騰した血液が溢れ出す。
 そして、アルカナの導き通りに首なし騎士が倒れ伏す。亡骸が融けて血となり、土に染み込む。魔導銃もまた同じ、跡に残るものは馬も主も失くした馬車のみ。

 依頼を終えて、依頼主の商人と軍に報告した一行は解散した。
 別れ際、ステラはラウラに声を掛ける。
「ラウラ、何か困った事があれば何時でも相談に乗るからな」
「うん、ありがと。お友達ができたみたいで嬉しいわ」
「みたいじゃなくて良いんだぜ」
「ホント? ふふ、よろしくね、ステラ」

「後味の悪い依頼だったわね」
 八原は帰路を行きながら、結局もぬけの空だった馬車、その内装に書かれた血文字を思い出していた。

『Get me back, my head!』
 私の首を返せ!

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 5
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 無明に咲きし熾火
    マッシュ・アクラシス(ka0771
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • Rot Jaeger
    ステラ・レッドキャップ(ka5434
    人間(紅)|14才|男性|猟撃士
  • 命無き者塵に還るべし
    星野 ハナ(ka5852
    人間(蒼)|24才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/12/16 03:02:47
アイコン 相談卓
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/12/21 21:46:27