ゲスト
(ka0000)
【闇光】All you gotta do
マスター:墨上古流人

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~2人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/23 19:00
- 完成日
- 2016/01/16 04:10
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
◆
「おい、ユウ……っていねーか」
肩で息をしながら駆ける、第九師団副師団長のリベルト=アンスリウムが、
執務室をひょこ、と覗き、そのままどこかへ走っていく。
「おーい、リベルトー……って、ここじゃないか」
数分後、涼しい顔をしているものの、そんな顔が見えなくなるほどの書類の束を抱えた、
師団長のユウ=クヴァールが執務室を覗き込み、その後よたよたと廊下を歩いていく。
結局、お互いがお互いへの用事を押し付けあえたのは、日が暮れてからだった。
「しょうがないよね、まだ全然落ち着いてないし」
「読み物とかだと救援部隊ってのは颯爽と戦場に駆け付けて、敵をボコって味方を救って脱出……ってとこが華だけどよ、実際にはその後の負傷者の治療、経過観察、身元不明者の連絡、物資に人の確保、消費したものの確認……一番動いてるのはそこだよな……」
棒状の糧食を口にくわえながら、リベルトが書類にペンを走らせていく。
粘土の様なぐにっとした感触と、口を動かす割に無味なそれは、書類の束と相まってリベルトの表情をしかめさせてゆく。
「ロッソが落ちた帝国領辺りの支援、数字これでいいのか?」
「うん、村への被害らしいものはそこまでなかったみたいだから少しあとで。スゴ腕の艦長さんだねー」
「ノアーラ・クンタウ長城への救援要請は? あそこは暴食の野郎が連れてる巨人部隊に攻められてんだろ? 辺境と帝国の境がやられたらヤバいぜ」
「第一に第六と第二師団が駆け付けるらしいよ。そろそろ作業が軽くなってきた人達をピックアップして、大変だろうけど、そっちへの準備も進めておいて」
「おい、海にもクジラ型が出てるらしいぞ……」
「海はね、帝国でも随一の第四師団がいるし、同盟海軍への要請も駆けてるみたい。見捨てる訳じゃないけど、優先度的には今は後回しかな……」
各地からの報告に目を通しては、確認をしていく2人。
先の撤退戦にて戻ってきてから、各部署での対応に追われて居た為、
手を動かしながらの情報共有を進めていく。
「帝国ヤバいんじゃねーか……ピースホライズンもゾンビにやられてるらしいな」
「一般の人も多いし、手を割きたい所だけど……」
「そーいやユウ、さっき帝都から緊急の連絡来てたけどありゃなんだ?」
「うん……そろそろ出た方がいいかな、悪いけど“剣盟の間”の要請なんだよね」
はっ?!と大きな声を上げてリベルトが顔を上げる。
“剣盟の間”が使われる召集……重要度が非常に高い議題を騎士議会で扱う時に開かれる場所だ。
「おい、あの芋皇帝見つかったのか?!」
「うん、本人の印がある……確かにミナちゃんのだよ」
「帝国そこかしこで師団が奮戦してるって時に、師団長集めるとか何考えてんだ?!」
「しかも、特級議題だってさ。これは、僕がいかないとね」
「ふざけんな! んなもん蹴っちまえ! 今お前が動く事がどれだけ大変な事かわかってんのか?!」
今まで喋らなかった分を乗せるような声量で言葉を投げるリベルト。
ユウは全部を聞いてから、いつもの涼しい顔でペンを置いた。
「……わりぃ、お前に声を荒げてもしょうがねーよな。で、結局行くのか?」
「うん、行くよ。リベルトの言うとおり、明らかにおかしい、知らんぷりする事もできる。正直、撤退戦で助けたみんなの対応を全うするだけでも、僕ら充分やれてると思う。けど……」
ユウがオーダーメイドの特殊軍服の外套を羽織ると、
ごそ、と大きめの肩掛け鞄を手に取る。
向けた顔は、誰に向けたかわからない、優しい笑みだった。
「僕は第九師団の師団長だからね。第九師団は救援部隊、だから、助けにいかないと」
「……いつもより、はっきりした目ぇしてやがんな。それなら、溜息つかずに送り出せる。行って来い、後は任せろ」
全てを聞かずにユウの机に合った書類を抱えるリベルト。
結局、溜息は煙草に火をつけた辺りから紫煙と共に吐きだしてしまった。
―――
―――――
―――――――
「確かに僕らにとって、特級の議題だったね……あのミナちゃんは」
帝都バルトアンデルス、その街中を駆け、路地裏へと入り込んだユウ、
召集したヴィルヘルミナは、姿こそ見慣れたものであれ、明らかに人が違っていた。
オズワルド、ゼナイド、ユウ、騎士議会に顔を連ねる3人でさえも抑える事が出来なかったのに、
市街地での犠牲収拾の為、ユウはその場に背を向けてきた。
「師団長、報告を」
帝都に置いてある第九師団拠点の師団員が、ユウに粗雑な紙を手渡す。
「うん、ありがとう」
壁につけていた背をそのまま下に引きずり、ぺたん、と尻もちをついて紙にペンを走らせるユウ。
「議会に残された方々は無事でしょうか……」
「正直、師団長全員が揃っていたとしても、ちょっとわからないかもしれないね」
「お言葉ですが、街の方は我々に任せて、すぐにでも戻られた方が良いのでは……」
「いや、3人で無理だと思ったところで、僕を避難誘導に割いた判断は正しいと思う。この被害的に避難誘導自体大きな作戦になるから、初動で僕が動く事は大事だし、彼らが犠牲に、なんて言い方はしないけど、あそこで3人やられて市街もめちゃくちゃ、よりは、2人やられて一般市民を沢山救える方が良いと思うから」
最悪の場合だけどね? と付け加えてから、ユウは紙を懐へしまう。
「さて、とりあえず最初の動きは」
ユウが振り返ると、顔に暖かい感触を覚えた。
ぬるり、としたそれをふき取るのと、それが目の前にいた師団員の剣に貫かれた胸部から飛び出たものだということ、
そして、それが師団員の背後にいたスケルトン達の仕業だと判明したのは全て同時だった。
振り下ろされる剣の平面を手で逸らし、石畳を粉砕した瞬間に抉りこむように肩でタックルをかけるユウ。
吹き飛ばされた骨の隙を突き、鞄から金属の棒を数本取り出していく。
その無防備な背中へスケルトン達が迫るが、その動きは段々と鈍くなる。
ユウが次々繋いでいく金属の棒の音は、鎮魂の旋律として音程を取り、響いていた。
音が止んだ時、ユウは手斧の刃がそのまま太く伸びたような、身長程の大鎌型の法具を構えていた。
動けなくなったスケルトン達にひと振りし、骨の塵が舞う中、既に息をしていない師団員に近寄り、見開かれた目を手で閉じるユウ。
まだ温かい手を、力強く握りしめてから、その場に立つ。
「助けにきたよ。全部……ちゃんと、助けるからね。国も、人も、全部」
裏路地の塀から覗く議事堂を一瞥してから、大鎌を構え裏路地から飛び出していった。
「おい、ユウ……っていねーか」
肩で息をしながら駆ける、第九師団副師団長のリベルト=アンスリウムが、
執務室をひょこ、と覗き、そのままどこかへ走っていく。
「おーい、リベルトー……って、ここじゃないか」
数分後、涼しい顔をしているものの、そんな顔が見えなくなるほどの書類の束を抱えた、
師団長のユウ=クヴァールが執務室を覗き込み、その後よたよたと廊下を歩いていく。
結局、お互いがお互いへの用事を押し付けあえたのは、日が暮れてからだった。
「しょうがないよね、まだ全然落ち着いてないし」
「読み物とかだと救援部隊ってのは颯爽と戦場に駆け付けて、敵をボコって味方を救って脱出……ってとこが華だけどよ、実際にはその後の負傷者の治療、経過観察、身元不明者の連絡、物資に人の確保、消費したものの確認……一番動いてるのはそこだよな……」
棒状の糧食を口にくわえながら、リベルトが書類にペンを走らせていく。
粘土の様なぐにっとした感触と、口を動かす割に無味なそれは、書類の束と相まってリベルトの表情をしかめさせてゆく。
「ロッソが落ちた帝国領辺りの支援、数字これでいいのか?」
「うん、村への被害らしいものはそこまでなかったみたいだから少しあとで。スゴ腕の艦長さんだねー」
「ノアーラ・クンタウ長城への救援要請は? あそこは暴食の野郎が連れてる巨人部隊に攻められてんだろ? 辺境と帝国の境がやられたらヤバいぜ」
「第一に第六と第二師団が駆け付けるらしいよ。そろそろ作業が軽くなってきた人達をピックアップして、大変だろうけど、そっちへの準備も進めておいて」
「おい、海にもクジラ型が出てるらしいぞ……」
「海はね、帝国でも随一の第四師団がいるし、同盟海軍への要請も駆けてるみたい。見捨てる訳じゃないけど、優先度的には今は後回しかな……」
各地からの報告に目を通しては、確認をしていく2人。
先の撤退戦にて戻ってきてから、各部署での対応に追われて居た為、
手を動かしながらの情報共有を進めていく。
「帝国ヤバいんじゃねーか……ピースホライズンもゾンビにやられてるらしいな」
「一般の人も多いし、手を割きたい所だけど……」
「そーいやユウ、さっき帝都から緊急の連絡来てたけどありゃなんだ?」
「うん……そろそろ出た方がいいかな、悪いけど“剣盟の間”の要請なんだよね」
はっ?!と大きな声を上げてリベルトが顔を上げる。
“剣盟の間”が使われる召集……重要度が非常に高い議題を騎士議会で扱う時に開かれる場所だ。
「おい、あの芋皇帝見つかったのか?!」
「うん、本人の印がある……確かにミナちゃんのだよ」
「帝国そこかしこで師団が奮戦してるって時に、師団長集めるとか何考えてんだ?!」
「しかも、特級議題だってさ。これは、僕がいかないとね」
「ふざけんな! んなもん蹴っちまえ! 今お前が動く事がどれだけ大変な事かわかってんのか?!」
今まで喋らなかった分を乗せるような声量で言葉を投げるリベルト。
ユウは全部を聞いてから、いつもの涼しい顔でペンを置いた。
「……わりぃ、お前に声を荒げてもしょうがねーよな。で、結局行くのか?」
「うん、行くよ。リベルトの言うとおり、明らかにおかしい、知らんぷりする事もできる。正直、撤退戦で助けたみんなの対応を全うするだけでも、僕ら充分やれてると思う。けど……」
ユウがオーダーメイドの特殊軍服の外套を羽織ると、
ごそ、と大きめの肩掛け鞄を手に取る。
向けた顔は、誰に向けたかわからない、優しい笑みだった。
「僕は第九師団の師団長だからね。第九師団は救援部隊、だから、助けにいかないと」
「……いつもより、はっきりした目ぇしてやがんな。それなら、溜息つかずに送り出せる。行って来い、後は任せろ」
全てを聞かずにユウの机に合った書類を抱えるリベルト。
結局、溜息は煙草に火をつけた辺りから紫煙と共に吐きだしてしまった。
―――
―――――
―――――――
「確かに僕らにとって、特級の議題だったね……あのミナちゃんは」
帝都バルトアンデルス、その街中を駆け、路地裏へと入り込んだユウ、
召集したヴィルヘルミナは、姿こそ見慣れたものであれ、明らかに人が違っていた。
オズワルド、ゼナイド、ユウ、騎士議会に顔を連ねる3人でさえも抑える事が出来なかったのに、
市街地での犠牲収拾の為、ユウはその場に背を向けてきた。
「師団長、報告を」
帝都に置いてある第九師団拠点の師団員が、ユウに粗雑な紙を手渡す。
「うん、ありがとう」
壁につけていた背をそのまま下に引きずり、ぺたん、と尻もちをついて紙にペンを走らせるユウ。
「議会に残された方々は無事でしょうか……」
「正直、師団長全員が揃っていたとしても、ちょっとわからないかもしれないね」
「お言葉ですが、街の方は我々に任せて、すぐにでも戻られた方が良いのでは……」
「いや、3人で無理だと思ったところで、僕を避難誘導に割いた判断は正しいと思う。この被害的に避難誘導自体大きな作戦になるから、初動で僕が動く事は大事だし、彼らが犠牲に、なんて言い方はしないけど、あそこで3人やられて市街もめちゃくちゃ、よりは、2人やられて一般市民を沢山救える方が良いと思うから」
最悪の場合だけどね? と付け加えてから、ユウは紙を懐へしまう。
「さて、とりあえず最初の動きは」
ユウが振り返ると、顔に暖かい感触を覚えた。
ぬるり、としたそれをふき取るのと、それが目の前にいた師団員の剣に貫かれた胸部から飛び出たものだということ、
そして、それが師団員の背後にいたスケルトン達の仕業だと判明したのは全て同時だった。
振り下ろされる剣の平面を手で逸らし、石畳を粉砕した瞬間に抉りこむように肩でタックルをかけるユウ。
吹き飛ばされた骨の隙を突き、鞄から金属の棒を数本取り出していく。
その無防備な背中へスケルトン達が迫るが、その動きは段々と鈍くなる。
ユウが次々繋いでいく金属の棒の音は、鎮魂の旋律として音程を取り、響いていた。
音が止んだ時、ユウは手斧の刃がそのまま太く伸びたような、身長程の大鎌型の法具を構えていた。
動けなくなったスケルトン達にひと振りし、骨の塵が舞う中、既に息をしていない師団員に近寄り、見開かれた目を手で閉じるユウ。
まだ温かい手を、力強く握りしめてから、その場に立つ。
「助けにきたよ。全部……ちゃんと、助けるからね。国も、人も、全部」
裏路地の塀から覗く議事堂を一瞥してから、大鎌を構え裏路地から飛び出していった。
リプレイ本文
◆
「異常な状況……わたしがもっとも嫌悪する事態ですね」
街の彼方此方で立ち上る煙、凡そ賑わいとはかけ離れた喧噪の中、
雨月彩萌(ka3925)が零す。
普段より正常に執着とも言える拘りを見せる彼女だが、
この状況から望む正常は、誰もが願う事だろう。
「これ以上後手に回らぬよう、こちらから手を打たないといけませんね」
アニス・エリダヌス(ka2491)が意気込み歩を進めると、
「アニスはこっちだろ」
ひょいと首根っこを引っ張るようにエヴァンス・カルヴィ(ka0639)がアニスを自分の班に連れていく。
今回、ハンター達は複数拠点を確保するために、班を二つに分けての作戦を立てていた。
「俺らがばっちり先行して拠点確保を済ませてやるから、その後の守りは任せるぜ師団長!」
ゴースロンから背中を見せて、エヴァンス達2班は力強く駆けだしていった。
「と言う訳で、コチラも迅速に避難所確保ダヨ」
残ったもう片方の班、アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)が何かの旋律のように魔導バイクのエンジンを吹かしながら、
既に逆方向へ出発した仲間の背中を追いかけていった。
「しっかり捕まっとけよユウ! ただし、変なトコ触ったらすり潰すかンな!」」
一班として動いているボルディア・コンフラムス(ka0796)は、
勇ましく駆ける幻獣イェジドに、師団長のユウを相乗りさせていた。
「変なトコ? 例えば、こんなとこ?」
ボルディアの腰に回していた左手に力が籠る。
それが、右側面、建物の上から飛びかかってきたスケルトンを、
ユウが右手を振り回し、大鎌で粉々にした反動からだと言うのに気づいてなければ、
今頃肘鉄がユウに飛び込んでいたに違いない。
「掴めねぇ奴だな……」
「掴んでるの僕だしね」
「振り落とすぞ」
ユウのようなタイプはどうも苦手だと、軽い舌打ちの後、
頭を振ってペースを取り戻す。
彼女の気合に応えるかのように、イェジドのヴァーミリオンが速度を上げる。
倒壊し放置された馬車を飛び越え、逞しい前足と鋭い爪で着地と共にスケルトン達を巻き込んでいく。
飛びかかってきた獣型歪虚には、逆に横っ腹に牙を立てそのまま地面へと叩き付けた。
二人乗りのボルディア達をフォローするように、
カール・フォルシアン(ka3702)とブラウ(ka4809)が後ろから追いかけていく。
カールのワイヤーウィップの先端が伸びると、鋭くスケルトンの額を突き砕く。
ブラウも馬上から刀を下弦の形に振り下ろしていくが、どこか煮え切らない顔をしていた。
「骸骨って嫌いなのよね。血は流れないし匂いはないし」
不満気に軽くつきでる唇から、つい零れた言葉と共に、その不満をぶつけるかのように群がる骨達は軽率に振られた刃で打ち払われていく。
道中に骨や雑魔以外の目立った脅威はなく、
1班は迅速に病院に到着する事が出来た。
「外カラ見た感じでは、静かダネ……」
「戦える人がいないでしょうから、抵抗の跡も目立たないのでしょう。急がないと……」
カールの進路を、ぴた、と降りてきた斧が遮断する。
「気持ちはわかるけどよ……生き急ぐんじゃねーぞ?」
静かに、諭すように語りかけるボルディア。
だがカールも、ボルディアの刃に掌を乗せて言う。
「わかってます、けど、今は僕も形振り構っていられないんですよ」
焦りでは無く覚悟。力の籠ったカールの目と手を見て、ボルティアは軽く溜息を漏らして斧槍を降ろした。
靴から蒼い翼のマテリアルを凛と零しながら、ふわりと壁を昇っていくカール。
ベランダ等はなかった為、雨樋にワイヤーウィップを絡め、窓の隣に張り付いた。
ボルディアが無線で二班と状況を共有すると同時に、アルヴィンは銃を構え、
ブラウは刀を鞘に納める。冷気の様な靄が、今か今かと嗅ぎ応えのある獲物を待ち望むかのように、
鞘から溢れていた。
「全部、助けたいんですから……」
焦りも否めないかもしれない。そう見えても仕方がない。
だが、病院は設備が壊されれば、確保をしたとしても機能できない――
窓の向こうにスケルトンしかいない事を確認し、機杖の先から爆炎を放射した。
ガラスの割れる音と破壊エネルギーが生み出す轟音に注目が集まり、2階へと意識が持って行かれる。
ワンテンポを置いてから、1回よりロビーにハンター達が雪崩れこんできた。
ボルディアが斧槍を思いきり振りかぶり、骨の壁を打ち払っていく。
その刃の軌道を潜るようにブラウが地面を蹴り、スケルトンを根本から刈り取っていく。
2階に上ろうとしていた骨は、アルヴィンのレクイエムで動きを止められて、的確に一体ずつ頭を抜かれていった。
「1階はOK、早く2階に……」
ユウが確認した後、すん、とブラウの鼻が利く。
その匂いは、消毒液の匂いに隠れていたが、確かに焦がれた鉄っぽさと脂の匂いだった。
『契約者らしき敵を見つけました。相手は1人、容赦はしませんのでお早めにお願いします』
カールの無線を受けて、1階のメンバーは2階へと駆け出す。
「カルちゃん、意外と余裕そうなのかなー、それとも必死なのかな……」
「先走ってるだけじゃねぇといいけどな……」
やはり1人で2階から対応という点を懸念していたボルディア。
2階廊下部に出れば、幾つかの骨の崩れた後と、その中に1人の見知らぬ男、
そして肩で息をして対峙しているカールの姿が見えた。
禍々しい大蛇のように変形した黒い腕が、牙を向きカールへと喰らいかかる。
ワイヤーウィップを張って受け止めようとしたが、鞭は既に弛み気味だ。
だが、敵の腕は駆けつけたアルヴィンがシールドでいなすように床へと弾き、
その腕をボルディアの穂先が床に縫い付けるように貫く。
「ステキなプレゼントをもらっちまったからな、もれなく10倍でノシつけて返してやらねぇとなぁ?」
契約者は腕を動かそうとするも、ボルディアが斧に足を乗っけてその動きを封じる。
「……さぁ、嗅がせて頂戴? 貴方の香りを」
鍔を鳴らし、刀身の光が靄に霞んで乱反射する。
契約者は、寒気を覚えたその瞬間には、既に首から下の意識を無くしていた。
アルヴィンがカールの傷を癒している所で、2階を回っていたユウが戻り無線を入れる。
病院の確保はこれで完了したようだ。
◆
二班のメンバーも、道中最低限のスケルトンを屠る程度で、
既に倉庫前で突入の体制を整えていた。
「情報通り、天井まで吹き抜けています……2階からの攻撃にも気を付けないといけませんね」
エヴァンスと、彼の肩から覗き込むようにアニスの2人が、鉄柵のはめられた窓から中を窺う。
その後、アニスはドアの前で構え、エヴァンスと火椎 帝(ka5027)が両開きのドアを片方ずつ、一気に開けた。
開口一番、アニスのレクイエムが響き渡り、付近の骨の動きが止まる。
動けない物から、エヴァンスが160cmものグレートソードで薙ぎ払っていく。
だが、急ぎ鎬で顔を隠すように、エヴァンスが斜めに大剣を構える。
視界の端に映った異物はエヴァンスの頭部目がけて飛び込んできたが、剣に遮られ粉と砕けた。
レクイエムの範囲外、2階からは骸骨達がクロスボウのようなもので尖った骨を射出してきていた。
「余りこの飛び道具に晒されてたくないですね……」
エヴァンスの背後から、もしくは上からと襲い来るスケルトンに対し、
機材の隅に隠れながら光弾で牽制をかけるアニス。
運の悪い骨はそのまま光に弾かれ、運良く直撃を避けた骨も次のタイミングにはエヴァンスの剣圧に砕かれていく。
「危ないなぁもう……!」
彩萌に向かって飛んできた矢を、割って入って2,3本切り払う帝。
骨の動きは遅い為、次の矢が飛んでくるまで時間もかかるが、
先ほど避けた矢が固い地面に突き立っているのを見ると
数本当たっても平気、と言っていられるものではなさそうだ。
「梯子の上を一気に蹴散らします、2階に上がれますか?」
彩萌が突きだした機杖の前で光の三角形を浮かせて帝に言うと、
帝は同じことを考えてたのか、肩で息をしつつ良い笑顔を見せた。
「纏めて攻撃します。わたしの正常を証明する為に、消えてください」
彩萌のデルタレイ継式から放たれる数条の光を追いかけるように駆ける帝。
パキ、パキと光に砕かれた骨の音を頭上で聞きながら、ぐいっと梯子を引っ張るように上り、固い足場に力強く着地。
着地と共に抜いた刃が、纏めて数体の骸骨を砕き斬った。
そのまま骨の靄をくぐるように、奥の敵へ足を滑らせ切り上げる。
「逆サイド、来ます……!」
アニスの声に振り向けば、真反対の足場から、骨達がクロスボウを構えて帝へと向けていた。
帝は戻るでも伏せるでもなく、『それ』を目にすると手すりに足をかけ、そのまま跳躍―――
天井にぶら下がった機材運搬用のクレーンに手をひっかけ、振り子の要領でそのまま逆サイドへと飛び移った。
弩を構え直した数体は、アニスのライトと彩萌の魔導拳銃に動きを止められていく。
「道を、開けろッ!!」
着地点にいた骨はその勢いで砕き、振り向きざまに抜刀、返す刃で半月を描くように背中のスケルトンを両断した。
◆
倉庫を確保した二班は、来た道を戻り次の目標の宿兼酒場を目指した。
一度通ったことによりスムーズに移動が出来る、と踏んだからだ。
だが、一度通ったという事は、敵にその存在・痕跡を知らしめるという事でもあった。
警戒は続けていたつもりだったが、様子を見に来た2体の契約者に、二班のハンター達は見つかってしまった。
舌打ち混じりで、エヴァンスがゴースロンごと契約者の一人の男へ突っ込む。
奇襲によるアドバンテージを得ようとしたが、契約者を踏み砕かんと振り上げられたゴースロンの前足は、
男のそれぞれの手に受け止められてしまう。
宙でぶらつく鐙をしっかりと踏み込み、馬よりも高く跳躍。
グレートソードを勢いよく振り下ろせば、流石に契約者も両の手で受け止め苦悶の表情を浮かべる。
が、大剣を振り落してがら空きの胴に、契約者は刃の鞭のような鋭い回し蹴りを抉りこむ。
まともに受け止めて勢いのまま吹き飛ぶが、エヴァンスの口角は上がっていた。
「かかりましたね……!」
いなくなったエヴァンスの後ろから、鳩尾にとん、と伸びてくる杖。
その背に隠れていたアニスが、零距離で光弾を契約者へと浴びせた。
もう一発を浴びせようとしたところで、目の前に淀んだ障壁のようなものが現れ、
アニスの光弾は遮られ、無防備のアニスに闇の塊が飛び込んでくる。
咄嗟に引きずり倒すように、彼女の肩を掴んで前に出るエヴァンス。
闇の弾を剣で受け止めるが、漏れる魔力が体を掠め、エヴァンスの生気を蝕む。
追随して、エヴァンスに向かって男が宙から踵を打ち下ろして来た。
「あの異常は私が正します」
恐らく、戦場を見渡す奥の女がいる限り不利は続く。
そう判断した彩萌は、エヴァンスを前に出し、エヴァンスもその判断に乗った。
「好き勝手もここまでだぜ……!」
大剣を振り回し、気合を入れて大仰に女へと突撃するエヴァンス。
呆れるような笑みを浮かべた女が、杖を構えて闇を腕に纏う。
が、一連の流れに隠れて既に女へ接近していた帝。
上段の刀を、思い切り敵の肩目がけて振り下ろす。
が、女の腕に溜まっていた悍ましいマテリアルが触手のように伸び、帝の剣先を逸らす。
「終わりだ…!」
バンカーのように地面を思い切り抉る衝撃、
帝の剣先は埋もれず、土埃を振り払うように、震動する刀が女の膝へと喰らいつく。
魔力は既に消費してしまった為、苦し紛れに跳躍して回避する女。
「残念だったわね……!」
だが、二太刀目を交わされた帝の目は死んでいなかった。
「お前がな!」
声に振り向き、厚塗りの顔でもわかる蒼白加減を見せる女。
エヴァンスに気を取られ帝に気付かず、
更に帝に気を取られ対応できないまま、宙でエヴァンスの豪剣を、その柔肌で受け止める事となってしまった。
彩萌が防御障壁を展開、展開、展開と、残った契約者の攻撃を相手取っていく。
顔の横を掠める拳を機動剣で払い、前蹴りで吹き飛ばされては銃を抜いて応戦、
アニスも防御障壁の合間で拳を、蹴りをホーリーライトで弾いていくが、防戦一方だった。
アニスが最後のヒールを彩萌にかける。
口元を拭い向き直る彼女に対し、男は無慈悲に手刀を振り下ろす。
骨を折る軽快な音でも、頭を割る水音でもなく、
鈍い金属音が辺りに響く。
「悪ぃ、待たせたな……!」
そこには、イェジドに乗り斧で手刀を受け止めるボルディアの姿があった。
一班は、兵員が詰めていて交戦中だった為、制圧が容易だった兵舎の確保を済ませ、
契約者が2体出たという二班の方に駆けつけていた。
そのまま叩き付けられる斧槍を回避する契約者、
その避けた先に、ゴースロンから跳躍したブラウが迫る。
宙に放り出されたように体は横になるが、そのまま車輪のように回転して収めた刃を抜く。
眩い火花に目が眩むが、ブラウはすとん、と雪のように着地し、男の周りでワルツでも踊るかのように足を運び、
タンゴのようにシャープな斬りこみが男を襲う。
完全に翻弄され、苛ただしさが募る男は、両拳を組みハンマーのように振り下ろすが、
拳が頂点に達した所を、アルヴィンの銃弾に捕えられる。
「オ触リはだめダヨ?」
リアサイトの向こうでウィンクするアルヴィンの横から、カールが現れる。
「本当なら他の契約者や上位歪虚の居場所を聞いておきたいのですが……」
拳を解き、カールへ飛び掛かるが、すかさず展開したデルタレイの光線が、壁に縫い付けるように男を穿つ。
「後で治療してお話伺いますので、今はさっさと9割5分殺位で昏倒してもらっちゃいましょう」
追い詰められた契約者、ボルディアが斧槍を、エヴァンスが大剣を構えて両脇を固め、
正面からは帝とブラウ、牙のように刀が並ぶ。
だが敵ながら、契約者は決して諦めなかった。雄叫びと共に邪気を纏い、
エヴァンスに蹴りを繰り出し、反動で肘鉄をボルディアに放つが、
既に力を無くしたその攻撃は、児戯の如く斧槍の柄でぺしん、と払われてしまう。
「命は大事にしましょうね?」
エヴァンスとボルディアに押さえつけられ、剥き出しの頸椎に鞭が振り下ろされれば、
そのまま契約者の男は泡を吹いて動かなくなった。
◆
その後、ユウが男の護送を担当し
残る宿屋兼酒場へ8人で向かったが、あまり重要な場所と思われてなかったのか、
人が襲われた跡こそあったものの、スケルトンが数体残るだけで早くに確保が出来た。
多少の遅れが見られたものの、ハンター達は当初の予定通りの割り振られた拠点の確保を遂行する事が出来た。
「異常な状況……わたしがもっとも嫌悪する事態ですね」
街の彼方此方で立ち上る煙、凡そ賑わいとはかけ離れた喧噪の中、
雨月彩萌(ka3925)が零す。
普段より正常に執着とも言える拘りを見せる彼女だが、
この状況から望む正常は、誰もが願う事だろう。
「これ以上後手に回らぬよう、こちらから手を打たないといけませんね」
アニス・エリダヌス(ka2491)が意気込み歩を進めると、
「アニスはこっちだろ」
ひょいと首根っこを引っ張るようにエヴァンス・カルヴィ(ka0639)がアニスを自分の班に連れていく。
今回、ハンター達は複数拠点を確保するために、班を二つに分けての作戦を立てていた。
「俺らがばっちり先行して拠点確保を済ませてやるから、その後の守りは任せるぜ師団長!」
ゴースロンから背中を見せて、エヴァンス達2班は力強く駆けだしていった。
「と言う訳で、コチラも迅速に避難所確保ダヨ」
残ったもう片方の班、アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)が何かの旋律のように魔導バイクのエンジンを吹かしながら、
既に逆方向へ出発した仲間の背中を追いかけていった。
「しっかり捕まっとけよユウ! ただし、変なトコ触ったらすり潰すかンな!」」
一班として動いているボルディア・コンフラムス(ka0796)は、
勇ましく駆ける幻獣イェジドに、師団長のユウを相乗りさせていた。
「変なトコ? 例えば、こんなとこ?」
ボルディアの腰に回していた左手に力が籠る。
それが、右側面、建物の上から飛びかかってきたスケルトンを、
ユウが右手を振り回し、大鎌で粉々にした反動からだと言うのに気づいてなければ、
今頃肘鉄がユウに飛び込んでいたに違いない。
「掴めねぇ奴だな……」
「掴んでるの僕だしね」
「振り落とすぞ」
ユウのようなタイプはどうも苦手だと、軽い舌打ちの後、
頭を振ってペースを取り戻す。
彼女の気合に応えるかのように、イェジドのヴァーミリオンが速度を上げる。
倒壊し放置された馬車を飛び越え、逞しい前足と鋭い爪で着地と共にスケルトン達を巻き込んでいく。
飛びかかってきた獣型歪虚には、逆に横っ腹に牙を立てそのまま地面へと叩き付けた。
二人乗りのボルディア達をフォローするように、
カール・フォルシアン(ka3702)とブラウ(ka4809)が後ろから追いかけていく。
カールのワイヤーウィップの先端が伸びると、鋭くスケルトンの額を突き砕く。
ブラウも馬上から刀を下弦の形に振り下ろしていくが、どこか煮え切らない顔をしていた。
「骸骨って嫌いなのよね。血は流れないし匂いはないし」
不満気に軽くつきでる唇から、つい零れた言葉と共に、その不満をぶつけるかのように群がる骨達は軽率に振られた刃で打ち払われていく。
道中に骨や雑魔以外の目立った脅威はなく、
1班は迅速に病院に到着する事が出来た。
「外カラ見た感じでは、静かダネ……」
「戦える人がいないでしょうから、抵抗の跡も目立たないのでしょう。急がないと……」
カールの進路を、ぴた、と降りてきた斧が遮断する。
「気持ちはわかるけどよ……生き急ぐんじゃねーぞ?」
静かに、諭すように語りかけるボルディア。
だがカールも、ボルディアの刃に掌を乗せて言う。
「わかってます、けど、今は僕も形振り構っていられないんですよ」
焦りでは無く覚悟。力の籠ったカールの目と手を見て、ボルティアは軽く溜息を漏らして斧槍を降ろした。
靴から蒼い翼のマテリアルを凛と零しながら、ふわりと壁を昇っていくカール。
ベランダ等はなかった為、雨樋にワイヤーウィップを絡め、窓の隣に張り付いた。
ボルディアが無線で二班と状況を共有すると同時に、アルヴィンは銃を構え、
ブラウは刀を鞘に納める。冷気の様な靄が、今か今かと嗅ぎ応えのある獲物を待ち望むかのように、
鞘から溢れていた。
「全部、助けたいんですから……」
焦りも否めないかもしれない。そう見えても仕方がない。
だが、病院は設備が壊されれば、確保をしたとしても機能できない――
窓の向こうにスケルトンしかいない事を確認し、機杖の先から爆炎を放射した。
ガラスの割れる音と破壊エネルギーが生み出す轟音に注目が集まり、2階へと意識が持って行かれる。
ワンテンポを置いてから、1回よりロビーにハンター達が雪崩れこんできた。
ボルディアが斧槍を思いきり振りかぶり、骨の壁を打ち払っていく。
その刃の軌道を潜るようにブラウが地面を蹴り、スケルトンを根本から刈り取っていく。
2階に上ろうとしていた骨は、アルヴィンのレクイエムで動きを止められて、的確に一体ずつ頭を抜かれていった。
「1階はOK、早く2階に……」
ユウが確認した後、すん、とブラウの鼻が利く。
その匂いは、消毒液の匂いに隠れていたが、確かに焦がれた鉄っぽさと脂の匂いだった。
『契約者らしき敵を見つけました。相手は1人、容赦はしませんのでお早めにお願いします』
カールの無線を受けて、1階のメンバーは2階へと駆け出す。
「カルちゃん、意外と余裕そうなのかなー、それとも必死なのかな……」
「先走ってるだけじゃねぇといいけどな……」
やはり1人で2階から対応という点を懸念していたボルディア。
2階廊下部に出れば、幾つかの骨の崩れた後と、その中に1人の見知らぬ男、
そして肩で息をして対峙しているカールの姿が見えた。
禍々しい大蛇のように変形した黒い腕が、牙を向きカールへと喰らいかかる。
ワイヤーウィップを張って受け止めようとしたが、鞭は既に弛み気味だ。
だが、敵の腕は駆けつけたアルヴィンがシールドでいなすように床へと弾き、
その腕をボルディアの穂先が床に縫い付けるように貫く。
「ステキなプレゼントをもらっちまったからな、もれなく10倍でノシつけて返してやらねぇとなぁ?」
契約者は腕を動かそうとするも、ボルディアが斧に足を乗っけてその動きを封じる。
「……さぁ、嗅がせて頂戴? 貴方の香りを」
鍔を鳴らし、刀身の光が靄に霞んで乱反射する。
契約者は、寒気を覚えたその瞬間には、既に首から下の意識を無くしていた。
アルヴィンがカールの傷を癒している所で、2階を回っていたユウが戻り無線を入れる。
病院の確保はこれで完了したようだ。
◆
二班のメンバーも、道中最低限のスケルトンを屠る程度で、
既に倉庫前で突入の体制を整えていた。
「情報通り、天井まで吹き抜けています……2階からの攻撃にも気を付けないといけませんね」
エヴァンスと、彼の肩から覗き込むようにアニスの2人が、鉄柵のはめられた窓から中を窺う。
その後、アニスはドアの前で構え、エヴァンスと火椎 帝(ka5027)が両開きのドアを片方ずつ、一気に開けた。
開口一番、アニスのレクイエムが響き渡り、付近の骨の動きが止まる。
動けない物から、エヴァンスが160cmものグレートソードで薙ぎ払っていく。
だが、急ぎ鎬で顔を隠すように、エヴァンスが斜めに大剣を構える。
視界の端に映った異物はエヴァンスの頭部目がけて飛び込んできたが、剣に遮られ粉と砕けた。
レクイエムの範囲外、2階からは骸骨達がクロスボウのようなもので尖った骨を射出してきていた。
「余りこの飛び道具に晒されてたくないですね……」
エヴァンスの背後から、もしくは上からと襲い来るスケルトンに対し、
機材の隅に隠れながら光弾で牽制をかけるアニス。
運の悪い骨はそのまま光に弾かれ、運良く直撃を避けた骨も次のタイミングにはエヴァンスの剣圧に砕かれていく。
「危ないなぁもう……!」
彩萌に向かって飛んできた矢を、割って入って2,3本切り払う帝。
骨の動きは遅い為、次の矢が飛んでくるまで時間もかかるが、
先ほど避けた矢が固い地面に突き立っているのを見ると
数本当たっても平気、と言っていられるものではなさそうだ。
「梯子の上を一気に蹴散らします、2階に上がれますか?」
彩萌が突きだした機杖の前で光の三角形を浮かせて帝に言うと、
帝は同じことを考えてたのか、肩で息をしつつ良い笑顔を見せた。
「纏めて攻撃します。わたしの正常を証明する為に、消えてください」
彩萌のデルタレイ継式から放たれる数条の光を追いかけるように駆ける帝。
パキ、パキと光に砕かれた骨の音を頭上で聞きながら、ぐいっと梯子を引っ張るように上り、固い足場に力強く着地。
着地と共に抜いた刃が、纏めて数体の骸骨を砕き斬った。
そのまま骨の靄をくぐるように、奥の敵へ足を滑らせ切り上げる。
「逆サイド、来ます……!」
アニスの声に振り向けば、真反対の足場から、骨達がクロスボウを構えて帝へと向けていた。
帝は戻るでも伏せるでもなく、『それ』を目にすると手すりに足をかけ、そのまま跳躍―――
天井にぶら下がった機材運搬用のクレーンに手をひっかけ、振り子の要領でそのまま逆サイドへと飛び移った。
弩を構え直した数体は、アニスのライトと彩萌の魔導拳銃に動きを止められていく。
「道を、開けろッ!!」
着地点にいた骨はその勢いで砕き、振り向きざまに抜刀、返す刃で半月を描くように背中のスケルトンを両断した。
◆
倉庫を確保した二班は、来た道を戻り次の目標の宿兼酒場を目指した。
一度通ったことによりスムーズに移動が出来る、と踏んだからだ。
だが、一度通ったという事は、敵にその存在・痕跡を知らしめるという事でもあった。
警戒は続けていたつもりだったが、様子を見に来た2体の契約者に、二班のハンター達は見つかってしまった。
舌打ち混じりで、エヴァンスがゴースロンごと契約者の一人の男へ突っ込む。
奇襲によるアドバンテージを得ようとしたが、契約者を踏み砕かんと振り上げられたゴースロンの前足は、
男のそれぞれの手に受け止められてしまう。
宙でぶらつく鐙をしっかりと踏み込み、馬よりも高く跳躍。
グレートソードを勢いよく振り下ろせば、流石に契約者も両の手で受け止め苦悶の表情を浮かべる。
が、大剣を振り落してがら空きの胴に、契約者は刃の鞭のような鋭い回し蹴りを抉りこむ。
まともに受け止めて勢いのまま吹き飛ぶが、エヴァンスの口角は上がっていた。
「かかりましたね……!」
いなくなったエヴァンスの後ろから、鳩尾にとん、と伸びてくる杖。
その背に隠れていたアニスが、零距離で光弾を契約者へと浴びせた。
もう一発を浴びせようとしたところで、目の前に淀んだ障壁のようなものが現れ、
アニスの光弾は遮られ、無防備のアニスに闇の塊が飛び込んでくる。
咄嗟に引きずり倒すように、彼女の肩を掴んで前に出るエヴァンス。
闇の弾を剣で受け止めるが、漏れる魔力が体を掠め、エヴァンスの生気を蝕む。
追随して、エヴァンスに向かって男が宙から踵を打ち下ろして来た。
「あの異常は私が正します」
恐らく、戦場を見渡す奥の女がいる限り不利は続く。
そう判断した彩萌は、エヴァンスを前に出し、エヴァンスもその判断に乗った。
「好き勝手もここまでだぜ……!」
大剣を振り回し、気合を入れて大仰に女へと突撃するエヴァンス。
呆れるような笑みを浮かべた女が、杖を構えて闇を腕に纏う。
が、一連の流れに隠れて既に女へ接近していた帝。
上段の刀を、思い切り敵の肩目がけて振り下ろす。
が、女の腕に溜まっていた悍ましいマテリアルが触手のように伸び、帝の剣先を逸らす。
「終わりだ…!」
バンカーのように地面を思い切り抉る衝撃、
帝の剣先は埋もれず、土埃を振り払うように、震動する刀が女の膝へと喰らいつく。
魔力は既に消費してしまった為、苦し紛れに跳躍して回避する女。
「残念だったわね……!」
だが、二太刀目を交わされた帝の目は死んでいなかった。
「お前がな!」
声に振り向き、厚塗りの顔でもわかる蒼白加減を見せる女。
エヴァンスに気を取られ帝に気付かず、
更に帝に気を取られ対応できないまま、宙でエヴァンスの豪剣を、その柔肌で受け止める事となってしまった。
彩萌が防御障壁を展開、展開、展開と、残った契約者の攻撃を相手取っていく。
顔の横を掠める拳を機動剣で払い、前蹴りで吹き飛ばされては銃を抜いて応戦、
アニスも防御障壁の合間で拳を、蹴りをホーリーライトで弾いていくが、防戦一方だった。
アニスが最後のヒールを彩萌にかける。
口元を拭い向き直る彼女に対し、男は無慈悲に手刀を振り下ろす。
骨を折る軽快な音でも、頭を割る水音でもなく、
鈍い金属音が辺りに響く。
「悪ぃ、待たせたな……!」
そこには、イェジドに乗り斧で手刀を受け止めるボルディアの姿があった。
一班は、兵員が詰めていて交戦中だった為、制圧が容易だった兵舎の確保を済ませ、
契約者が2体出たという二班の方に駆けつけていた。
そのまま叩き付けられる斧槍を回避する契約者、
その避けた先に、ゴースロンから跳躍したブラウが迫る。
宙に放り出されたように体は横になるが、そのまま車輪のように回転して収めた刃を抜く。
眩い火花に目が眩むが、ブラウはすとん、と雪のように着地し、男の周りでワルツでも踊るかのように足を運び、
タンゴのようにシャープな斬りこみが男を襲う。
完全に翻弄され、苛ただしさが募る男は、両拳を組みハンマーのように振り下ろすが、
拳が頂点に達した所を、アルヴィンの銃弾に捕えられる。
「オ触リはだめダヨ?」
リアサイトの向こうでウィンクするアルヴィンの横から、カールが現れる。
「本当なら他の契約者や上位歪虚の居場所を聞いておきたいのですが……」
拳を解き、カールへ飛び掛かるが、すかさず展開したデルタレイの光線が、壁に縫い付けるように男を穿つ。
「後で治療してお話伺いますので、今はさっさと9割5分殺位で昏倒してもらっちゃいましょう」
追い詰められた契約者、ボルディアが斧槍を、エヴァンスが大剣を構えて両脇を固め、
正面からは帝とブラウ、牙のように刀が並ぶ。
だが敵ながら、契約者は決して諦めなかった。雄叫びと共に邪気を纏い、
エヴァンスに蹴りを繰り出し、反動で肘鉄をボルディアに放つが、
既に力を無くしたその攻撃は、児戯の如く斧槍の柄でぺしん、と払われてしまう。
「命は大事にしましょうね?」
エヴァンスとボルディアに押さえつけられ、剥き出しの頸椎に鞭が振り下ろされれば、
そのまま契約者の男は泡を吹いて動かなくなった。
◆
その後、ユウが男の護送を担当し
残る宿屋兼酒場へ8人で向かったが、あまり重要な場所と思われてなかったのか、
人が襲われた跡こそあったものの、スケルトンが数体残るだけで早くに確保が出来た。
多少の遅れが見られたものの、ハンター達は当初の予定通りの割り振られた拠点の確保を遂行する事が出来た。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 6人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 カール・フォルシアン(ka3702) 人間(リアルブルー)|13才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/12/23 19:29:59 |
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質問卓 カール・フォルシアン(ka3702) 人間(リアルブルー)|13才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/12/23 10:50:44 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/21 00:09:33 |