ゲスト
(ka0000)
年末は爆発オチで!
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/23 09:00
- 完成日
- 2015/12/31 16:02
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
王国南部に位置するとある街、その一角に今回の依頼者はいた。
「フヒッ」と不気味な笑みを零し、小汚い白衣を着回す男。
その名も、コイツ=アカンだ。
世が世なら、天才科学者として名を馳せたやも知れぬ、機導術師である。
だが、そんな自称天才にも悩みがあった。
ご近所付き合いの面で、かなりきつい忠告を受けたのだ。
「掃除をしなければ、街から追放する!」
コイツ博士には寝耳に水の出来事だが、街の重役たちは怒り心頭だった。
コイツの自宅前には、屋敷から溢れたよくわからない物体が散らばっていた。屋敷からは異臭もすると騒ぎになったことがある。
何を置いても、研究のコイツ博士にとって掃除は二の次の次の次の次だった。
「フヒヒ、仕方がない。あれを開発する時がきたようだ」
アレ、とは兼ねてからコイツ博士が作ろうとしていた魔導機械のことだ。
その名も「清掃機」。
サイクロンの力を内側に秘め、すべてを引き込むことで塵芥から何から何まで吸い込むという機械だ。これがあれば、ゴミはすぐに片付くはず。
なお、本人に片付けをするという思考はない。
「いかんな……これはいかんぞ。部品が足りぬではないか」
設計図に描かれた中に、重要な部品が一つあった。
それを作るのは造作も無いことだが、材料がない。
なければ採ってくるしか無い。
「フヒヒ、我輩はこれを作らねばならぬから……ハンターに任せるとしよう」
●
以下、ハンターオフィスでの会話を記録したものである。
目指す場所は、すでに誰の手にもつかなくなった坑道。
そこにあるという乳白色の鉱石が必要なのだという。
「大きさは拳ほど、この瓶に油漬けにして持って返ってくるのだ」
曰く、油にひたして置かなければ変質するという。
無論、実際はどうかはコイツ博士もあずかり知らない。
「あと、あの坑道には厄介なモノが住み着いているらしいが……まぁ、何とかなろうて」
曰く、近くのカエルが歪虚化して住み着いているらしい。
実質被害はないので、捨ておいているという。
「そのカエルだが、自身に強いらしいから注意じゃな。あと、鉱石は坑道の奥にある湖の中洲にある。ボートは併設してあったはずじゃ。安心せい」
カエルが出るのでは?
「フヒヒ。なんとかなるじゃろう」
取り付く島もないらしい。
ちなみにコイツ博士の設計図だが、どうあがいても爆発する仕様となっている。
依頼を果たした暁には、博士はこの機械を完成させ、あなたたちの目の前で爆発させることだろう。なお、人体に被害はないはずだ。
健闘を祈る――ハンターオフィス・スタッフより。
王国南部に位置するとある街、その一角に今回の依頼者はいた。
「フヒッ」と不気味な笑みを零し、小汚い白衣を着回す男。
その名も、コイツ=アカンだ。
世が世なら、天才科学者として名を馳せたやも知れぬ、機導術師である。
だが、そんな自称天才にも悩みがあった。
ご近所付き合いの面で、かなりきつい忠告を受けたのだ。
「掃除をしなければ、街から追放する!」
コイツ博士には寝耳に水の出来事だが、街の重役たちは怒り心頭だった。
コイツの自宅前には、屋敷から溢れたよくわからない物体が散らばっていた。屋敷からは異臭もすると騒ぎになったことがある。
何を置いても、研究のコイツ博士にとって掃除は二の次の次の次の次だった。
「フヒヒ、仕方がない。あれを開発する時がきたようだ」
アレ、とは兼ねてからコイツ博士が作ろうとしていた魔導機械のことだ。
その名も「清掃機」。
サイクロンの力を内側に秘め、すべてを引き込むことで塵芥から何から何まで吸い込むという機械だ。これがあれば、ゴミはすぐに片付くはず。
なお、本人に片付けをするという思考はない。
「いかんな……これはいかんぞ。部品が足りぬではないか」
設計図に描かれた中に、重要な部品が一つあった。
それを作るのは造作も無いことだが、材料がない。
なければ採ってくるしか無い。
「フヒヒ、我輩はこれを作らねばならぬから……ハンターに任せるとしよう」
●
以下、ハンターオフィスでの会話を記録したものである。
目指す場所は、すでに誰の手にもつかなくなった坑道。
そこにあるという乳白色の鉱石が必要なのだという。
「大きさは拳ほど、この瓶に油漬けにして持って返ってくるのだ」
曰く、油にひたして置かなければ変質するという。
無論、実際はどうかはコイツ博士もあずかり知らない。
「あと、あの坑道には厄介なモノが住み着いているらしいが……まぁ、何とかなろうて」
曰く、近くのカエルが歪虚化して住み着いているらしい。
実質被害はないので、捨ておいているという。
「そのカエルだが、自身に強いらしいから注意じゃな。あと、鉱石は坑道の奥にある湖の中洲にある。ボートは併設してあったはずじゃ。安心せい」
カエルが出るのでは?
「フヒヒ。なんとかなるじゃろう」
取り付く島もないらしい。
ちなみにコイツ博士の設計図だが、どうあがいても爆発する仕様となっている。
依頼を果たした暁には、博士はこの機械を完成させ、あなたたちの目の前で爆発させることだろう。なお、人体に被害はないはずだ。
健闘を祈る――ハンターオフィス・スタッフより。
リプレイ本文
●
暗く狭い坑道内を一筋の光と、ぼんやりとした明かりが照らす。
鼻孔をくすぐる水の臭いが、この先に湖のあることを示唆していた。
「この先で採掘するんだねー」
転がる石に躓かぬよう注意しながら、オシェル・ツェーント(ka5906)はおっとりした口調でいう。
「段差があるから気をつけて……採掘もそうですが、カエルにも気をつけないとなりません」
足下にライトの光を落とし、九竜 諒斗(ka1290)が告げる。
カエルとは、洞窟内の湖に発生した雑魔のことだ。
「カエル退治って何かドキドキするね」
墨城 緋景(ka5753)がランタンの光を揺らす。ぼんやりとした明かりの中に、緋景はまさしくカエルな知り合いを思い浮かべていた。
依頼内容に退治は含まれていない。それでも、邪魔をするのであれば排除するしかない。
「うん、採掘の前にカエルを倒しちゃわなきゃね」
オシェルはぽやっと、カエルの雑魔に思いを馳せる。
かわいらしい姿ならいいな、と思うのだった。
「そういえば、今回の依頼者ってまともな人なのよね?」
薄暗い洞窟では、色々と考えてしまう。
ティス・フュラー(ka3006)は、依頼者であるコイツ博士のことが気にかかっていた。
「確か、博士っていってたけど何作ってる人なんだろう」
「聞いたところによると、発明品はすべて爆発するらしいですわ」
しれっとステラ・レッドキャップ(ka5434)がオシェルの問いに答えた。
「すごい家だったよね」と話題を継ぐのは、緋景だ。
鉱石を油をもらうために緋景たちは、一度博士のもとを訪れていた。
百聞は一見にしかず、とはよくいったもので、あの屋敷を見たのである。
「……なんかもう嫌な予感しかしないわ」
ティスは屋敷の常態とかけ離れた姿に、思わず声を漏らしていた。
幸い、博士の耳は都合の悪いことを聞こ漏らすらしい。
「なんでも、すごい発明をするらしいですわね?」
「ふひひ。当然、天才じゃからな」
そういっている側から、手にした機械が小さく炎を上げて自己解体した。
天才じゃなく、天災ではないかとティスは思う。
「いっそ手榴弾を開発してくれた方が助かるのに、勿体ねぇな」
ステラが思わず漏らす、発明品すべてが爆発する博士への皮肉も、当然聞こえはしない。
そこら中に作りかけの何かが散乱する中から、博士は油を取り出して渡す。
作業に集中するから、という理由で「ふひひ」という笑い声一つで外に出されたのだった。
「あからさまなアウトロー……のあからさまな犯罪の手助けってわけじゃないし。きちんと仕事しないとね」
ティスが博士を評するのに、迷いをもつのも仕方ないことだった。
「墨城さん、行きますわよ?」
「塵も積もればっていうしね……っと待ってよー」
光沢のある小粒を拾っていた緋景が慌てて追いかける。
すぐ追いつき、そして、ティスの背中にぶつかりそうになった。
緋景の鼻は、強い水の臭いを感じていた。
●
洞窟内の湖は、ひどく濁っていた。
流れがそれほどないためだろうか。湖底ははかり知れず、水面は穏やかなのが逆に薄気味悪さを誘う。
「さて、ゆっくりいこっかぁ」
あいも変わらずのんびりした口調で、オシェルは告げた。
幸いにも中洲に行くためのボートは、難なく見つかった。
「問題は……ないですね」
先に乗り込んだ諒斗が手を伸ばし、緋景やオシェルを招き入れる。
微かにボートは揺らぐが、すぐに収まった。
「ティスさんも」と手を伸ばした諒斗に、ティスは首を振った。
「私は、大丈夫よ」
ふぅっと息を吸って、水の精霊力を身体にまとう。
と、暗い湖面の上に足を踏み出した。ティスの足は、地面と同じように水を踏みしめていた。違うのは歩くところから、小さな波紋が広がることか。
「さぁ、行きましょう」
ボートの横に並び、平然とティスは歩き出す。
その瞳が、赤に変わっていた。
「ゆっくりとは、行かないようですわ」
桟橋からボートが離れる際に、ステラがそう告げた。
一人桟橋に残る彼女は、水面に浮かぶ水泡を確認していた。
「気をつけて、いってらっしゃい」
いうと同時に、ステラはマテリアルを潤滑させる。視力と感覚を増幅させ、水泡をきっと睨んだ。
オシェルが気配に気づいて結界を作った。それが合図となった。
「……しっ!」
ぶよっとしたカエルの頭が顔を出し、ステラの矢が放たれる。
初めから頭部を狙うと決めていた一撃は、奇しくもカエルの腹部をうがった。水面に出たかと思えば、跳躍していたのだ。
ステラの一撃は、カエルを再び水面に突き落とす。その両目が、ぐるりと回ってステラを敵と見とめていた。
ティスはステラと別の方角で、水泡が弾けるのを見た。
そのことを告げると、オシェルは嘆息混じりにライトを借りた。
「ゆっくりできっこないなぁ……危ないものは除去しなきゃあ」
二体目の登場である。ランタンの光は船内を照らし、ライトの光は湖面を走る。
光がヌメッとした身体を照らした。即座にカエルは、光源へと進み始める。
「邪魔は、させないわ」
進路を阻むように、ティスがすかさず石の弾丸を放つ。
石の弾丸と交差するようにして、カエルもまた水弾を放っていた。
「おっと!」
力強くひと漕ぎ入れ、緋景はティスへと符を投げた。
符は光り輝く鳥へと姿を変え、水弾を霧散させた。それでも届いた破片が、ティスに幽かな傷を生む。それでも、直撃よりはマシだった。
ティスが振り返れば、
「大丈夫?」と中腰のたいそうバランスの悪い状態で、緋景が問うた。
「えぇ。まだ、よろしくね」
もちろん、と警戒状態のままで緋景は船を漕ぎだす。
「筋トレが生きたね」
多少バランスを崩しても、すぐに持ち直すことができる。
緋景は鍛錬の成果に笑みを浮かべて、オールを回すのだった。
●
ステラは一瞬だけボートに目をやると、すぐさまカエルに向き直った。
最初に彼女が狙った、カエルである。
彼女の纏う革鎧が濡れていた。二撃目をかわされ、カウンター気味に水弾を受けたためだ。
今放った狙いすました一撃も、水中へと潜られれば届かない。
「また、小賢しいっ」
苛立ちを零しながら、視線を動かす。水面が暗いため、どこから現れるのか検討がつかない。ふと、足下を見れば、泡が浮いていた。
「……っ!」
早い、と思った時にはもう遅い。
気持ちの悪い、赤い舌が水面から槍のように突き出てきた。
射撃に特化した構えを取る今、避けることができない。
鎧を捧げるようにして、攻撃を受け止める。地属性の力を持つ鎧に、カエルの攻撃は決定打にならないのだ。
ステラは舌を掴むと、力を込めて引いた。堪らずカエルが、水上へと姿を晒す。
「てめぇ、ちょこまかと逃げてくれたな」
間抜け面のカエルは、唸るように声を上げた。
声もまた、間抜けだった。
「あ゛――捌かれてぇか?」
ステラの苛立ちは最高潮に達していた。
●
「まずは、前へ」
諒斗と緋景が漕ぎ急ぐ。
ボートの周囲でうねりが起こり、カエルへと波紋となって届く。
こちらのカエルも間抜け面をさげて、ボートへと向かっていた。
「厄介ですわ」
石が水を打つ音が聞こえ、ティスは呟く。こちらのカエルもまた、水を駆け巡るのに長けていた。いや、カエルなのだから水が得意なのは当たり前だ。
「えい」とボートの縁から、オシェルが符に念じる。蝶に似た光弾が現出し、カエルのやや前方へ落ちる。
無駄撃ちのような行為にティスが疑問符を浮かべかけた。
そのとき――カエルが光弾の消えた地点で跳ねた。
わずかに残された動物の本能ゆえか、カエルが光弾の疑似餌に引っかかったのである。その隙を逃しはしない。
ティスの石つぶてが、無様に開かれたカエルの腹を打つ。
目を剥くカエルの悪あがきに放たれた水撃は、光る鳥の前に砕かれた。
カエルは水面に背を打ち付けて、ぴくりとも動かない。
「ふぅ」と一息つき、ティスはボートに手をつこうとした。
だが、安堵の表情が一変する。ボートが大きく揺れたのだ。
「避けて避けて!」
「わかってます、よ!」
緋景が符を構えつつ、諒斗とともに大きく舵を切る。
水弾が飛来したのか、その身が濡れていた。
「本当、ゆっくりさせてはくれないなぁ」
呆れを含めた声色で、オシェルも符を構える。
ボートの斜め前にさらに二体、間抜け面を水面へと出していた。
「まったく、夢に出てきそうよ」
睨みつけながら、ティスも手早く石の弾丸を食らわせる。
胡蝶符の光が、石の弾丸が迫り来る中、一体が加速した。
「来るっ! 悪いけど、この舟は満員だよ!」
「墨城さんは漕ぎ続けてください。俺が、行きます」
立ち上がろうとした緋景を押さえ、諒斗が動く。
一体が跳躍、ボートへ取り付かんとするのを諒斗が盾で押し留めた。
そうして突き落とすと同時に、電撃を放つ。
奇しくも、電撃は粘液を掠る程度であったが、カエルに大きな隙が生じた。
「この距離なら、避けられないわよね?」
肉薄したティスが抉るようにして石の弾丸を撃ち込んだ。空中で半回転しているところに、すかさずオシェルも光の蝶を飛ばす。トドメとしては十分であった。
残る一体は水弾を飛ばすばかり。緋景と諒斗はボートを漕ぐことに力を注ぐ。
迫り来る水弾を鳥の護りとティスの反撃によって、捌く。
「着いたわ」
ティスの足が水面から地面へと移る。
迂回した分、やや時間を食ったがボートも無事に中洲へとたどり着いた。
●
ボートから緋景らが降りている頃、ステラの戦いも一つの目処がつこうとしていた。
執拗にステラへと攻撃を仕掛けていたカエルが、前の右脚を切り落とされた。
水上でのバランスを崩し、慌てて桟橋に食らいつく。
「てめぇは、ここでご退場だ」
ステラは銃口を不気味に光る目玉へ突き付け、引き金を引いた。
乾いた銃声とともに、カエルの身体がだらしなくずり落ちていった。
「おっと、加勢しねぇとな」
動かないのを確認してすぐ、ステラは意識を切り替える。
大弓を再び手に取り、中洲を望む。
オシェルが結界を張るところへ、カエルが身を乗り出そうとしていた。
ステラの矢がカエルの背中を穿つ。
それを合図にして、ティスが淡い銀色の水球を放ち、オシェルが光の蝶を飛ばす。
二人の攻撃はともにカエルに直撃し、一気にその生命力を奪う。ぐらついた身体へとどめを刺すべく、諒斗が一条の光――機導砲を放った。
多勢に無勢の中、カエルは水弾をティスに食らわせることで一矢報いる。
「……結局、ずぶぬれね。こっちは終わったわ」
嘆息しつつ振り返り、緋景に声をかける。
「こっちも終わったよ」
油の詰まったビンに、乳白色の鉱石が浮かぶ。
何の変哲もない鉱石に、
「ただの石ころっぽく見えるけど……どうなんだろう」と興味深げににおいを嗅ぐ。
もう一つ手にしていた方を舐めようとして、ティスの視線に気づいた。
「冗談だよ、冗談」
「でも、本当に普通の石みたいだよね」
オシェルも小首を傾げて、鉱石を見つめる。
「戻ってみれば、わかりますよ」
ボートの準備を終えた諒斗が、皆を呼ぶ。
こうして、一同は帰還の途についた。
●
だが、話はここで終わらない。
コイツ博士の屋敷に戻った一同は、その発明が出来上がるのを待っていた。
「この規模のゴミをまとめて片付ける掃除機とは……一体どんな作りなのでしょうか?」
諒斗が好奇心に駆られ、設計図を覗きこむ。
ガラクタが散乱し、ところでは堆く積まれた部屋だ。これを綺麗にしきるのは並大抵のものではない。オシェルが興味深げにそのガラクタの一端に触れ、小さな破裂音が響く。
「わわっ」と思わずオシェルは声を上げた。
「下手に触らないほうがよさそうね……」
ティスが呆れ顔でつぶやき、ガラクタの山から距離を取る。
「おいおい、本当に爆発するんだな」
ステラは険しい表情で漏らす。口調が素に戻っているのは、脳裏によぎる嫌な予感のためだった。
それがどんな予感か気づく前に、博士が「ふひっひひひ」と気味の悪い笑い声を上げた。
「完成じゃ!」とドラム缶からホースが伸びる奇妙な魔導機械を持ち上げる。さっそく使う気なのか、ホースの先端。少し広がった口をガラクタの近くに持っていく。
「……あの、コイツ博士」とここで諒斗が顔を上げた。
「これ、このままだとちょっと危ないですよ?」
「ふーっひっひ、世紀の発明品をとくと見るがよい!」
「あ、聞いてないですね」
馬の耳に念仏とコイツ博士に忠告は同じ意味を持つと、諒斗は悟った。
「あれがセーソーキ? ほんとに綺麗になるのかなぁ」
「下がったほうがいいですよ」
のんきに近づこうとする緋景を諒斗が止めて下がらせる。
剣呑な雰囲気にオシェルやティス、ステラも少し後退した……そのとき。
「スイッチオン!」
楽しげな声を上げて、博士がスイッチを入れる。空気を吸い込む音が聞こえ、次第に激しくなる。あまりに急激な変化に、嫌な予感が走りに走る。
「ふーっひっひ」という博士の笑い声は轟音の中に掻き消え、清掃機のドラム缶部分が白く発光を始める。まずい、と誰かが呟いた。
フィーーーッと甲高い音が響き、白い光が視界を満たした。目がくらんだ後に黒い煙が立ち込めた。
「けほっ」
爆発の衝撃で崩れたガラクタの上、ステラは煤けた顔を拭いながら咳込んだ。
「ふざけんなよ」
思った以上の衝撃に、ガラクタの山へ投げ出されたのだ。
本気で爆弾でも作ったほうが似合うんじゃないかと、博士を睨む。
「……余計散らかったわね」
ティスはため息混じりに呟き、オシェルはのんびりと咳きをする。
「けほけほ。びっくりしたよ」
「えっと……報酬はもらえるんだよね?」
おずおずと顔を拭いながら、アフロった緋景が燻った博士を見る。
その後ろでステラが当たり前だと睨みを利かす。
「ふひひ。報酬ね、報酬……金庫すらこの何処かだねぇ」
博士が見渡すのは、散々になったガラクタども。どちらがもとの入り口かわからないほどの、散らかりっぷりだった。
「片付け……ますか」
諦めたように諒斗が立ち上がる。
「そうね」
ティスやオシェルも続き、片付けを始める。
ステラも重たい腰をあげ、ガラクタの一つを手にとった。瞬間、小さな爆発が起きる。
「……」と怒りぎりぎりのところで押しとどまったステラに、諒斗がいう。
「あからさまなゴミ以外は放置しましょう」
まるで地雷原だというステラの比喩どおり、慎重な駆除作業が始まった。
金庫が発掘され、報酬が支払われたのは数時間後であったという。
暗く狭い坑道内を一筋の光と、ぼんやりとした明かりが照らす。
鼻孔をくすぐる水の臭いが、この先に湖のあることを示唆していた。
「この先で採掘するんだねー」
転がる石に躓かぬよう注意しながら、オシェル・ツェーント(ka5906)はおっとりした口調でいう。
「段差があるから気をつけて……採掘もそうですが、カエルにも気をつけないとなりません」
足下にライトの光を落とし、九竜 諒斗(ka1290)が告げる。
カエルとは、洞窟内の湖に発生した雑魔のことだ。
「カエル退治って何かドキドキするね」
墨城 緋景(ka5753)がランタンの光を揺らす。ぼんやりとした明かりの中に、緋景はまさしくカエルな知り合いを思い浮かべていた。
依頼内容に退治は含まれていない。それでも、邪魔をするのであれば排除するしかない。
「うん、採掘の前にカエルを倒しちゃわなきゃね」
オシェルはぽやっと、カエルの雑魔に思いを馳せる。
かわいらしい姿ならいいな、と思うのだった。
「そういえば、今回の依頼者ってまともな人なのよね?」
薄暗い洞窟では、色々と考えてしまう。
ティス・フュラー(ka3006)は、依頼者であるコイツ博士のことが気にかかっていた。
「確か、博士っていってたけど何作ってる人なんだろう」
「聞いたところによると、発明品はすべて爆発するらしいですわ」
しれっとステラ・レッドキャップ(ka5434)がオシェルの問いに答えた。
「すごい家だったよね」と話題を継ぐのは、緋景だ。
鉱石を油をもらうために緋景たちは、一度博士のもとを訪れていた。
百聞は一見にしかず、とはよくいったもので、あの屋敷を見たのである。
「……なんかもう嫌な予感しかしないわ」
ティスは屋敷の常態とかけ離れた姿に、思わず声を漏らしていた。
幸い、博士の耳は都合の悪いことを聞こ漏らすらしい。
「なんでも、すごい発明をするらしいですわね?」
「ふひひ。当然、天才じゃからな」
そういっている側から、手にした機械が小さく炎を上げて自己解体した。
天才じゃなく、天災ではないかとティスは思う。
「いっそ手榴弾を開発してくれた方が助かるのに、勿体ねぇな」
ステラが思わず漏らす、発明品すべてが爆発する博士への皮肉も、当然聞こえはしない。
そこら中に作りかけの何かが散乱する中から、博士は油を取り出して渡す。
作業に集中するから、という理由で「ふひひ」という笑い声一つで外に出されたのだった。
「あからさまなアウトロー……のあからさまな犯罪の手助けってわけじゃないし。きちんと仕事しないとね」
ティスが博士を評するのに、迷いをもつのも仕方ないことだった。
「墨城さん、行きますわよ?」
「塵も積もればっていうしね……っと待ってよー」
光沢のある小粒を拾っていた緋景が慌てて追いかける。
すぐ追いつき、そして、ティスの背中にぶつかりそうになった。
緋景の鼻は、強い水の臭いを感じていた。
●
洞窟内の湖は、ひどく濁っていた。
流れがそれほどないためだろうか。湖底ははかり知れず、水面は穏やかなのが逆に薄気味悪さを誘う。
「さて、ゆっくりいこっかぁ」
あいも変わらずのんびりした口調で、オシェルは告げた。
幸いにも中洲に行くためのボートは、難なく見つかった。
「問題は……ないですね」
先に乗り込んだ諒斗が手を伸ばし、緋景やオシェルを招き入れる。
微かにボートは揺らぐが、すぐに収まった。
「ティスさんも」と手を伸ばした諒斗に、ティスは首を振った。
「私は、大丈夫よ」
ふぅっと息を吸って、水の精霊力を身体にまとう。
と、暗い湖面の上に足を踏み出した。ティスの足は、地面と同じように水を踏みしめていた。違うのは歩くところから、小さな波紋が広がることか。
「さぁ、行きましょう」
ボートの横に並び、平然とティスは歩き出す。
その瞳が、赤に変わっていた。
「ゆっくりとは、行かないようですわ」
桟橋からボートが離れる際に、ステラがそう告げた。
一人桟橋に残る彼女は、水面に浮かぶ水泡を確認していた。
「気をつけて、いってらっしゃい」
いうと同時に、ステラはマテリアルを潤滑させる。視力と感覚を増幅させ、水泡をきっと睨んだ。
オシェルが気配に気づいて結界を作った。それが合図となった。
「……しっ!」
ぶよっとしたカエルの頭が顔を出し、ステラの矢が放たれる。
初めから頭部を狙うと決めていた一撃は、奇しくもカエルの腹部をうがった。水面に出たかと思えば、跳躍していたのだ。
ステラの一撃は、カエルを再び水面に突き落とす。その両目が、ぐるりと回ってステラを敵と見とめていた。
ティスはステラと別の方角で、水泡が弾けるのを見た。
そのことを告げると、オシェルは嘆息混じりにライトを借りた。
「ゆっくりできっこないなぁ……危ないものは除去しなきゃあ」
二体目の登場である。ランタンの光は船内を照らし、ライトの光は湖面を走る。
光がヌメッとした身体を照らした。即座にカエルは、光源へと進み始める。
「邪魔は、させないわ」
進路を阻むように、ティスがすかさず石の弾丸を放つ。
石の弾丸と交差するようにして、カエルもまた水弾を放っていた。
「おっと!」
力強くひと漕ぎ入れ、緋景はティスへと符を投げた。
符は光り輝く鳥へと姿を変え、水弾を霧散させた。それでも届いた破片が、ティスに幽かな傷を生む。それでも、直撃よりはマシだった。
ティスが振り返れば、
「大丈夫?」と中腰のたいそうバランスの悪い状態で、緋景が問うた。
「えぇ。まだ、よろしくね」
もちろん、と警戒状態のままで緋景は船を漕ぎだす。
「筋トレが生きたね」
多少バランスを崩しても、すぐに持ち直すことができる。
緋景は鍛錬の成果に笑みを浮かべて、オールを回すのだった。
●
ステラは一瞬だけボートに目をやると、すぐさまカエルに向き直った。
最初に彼女が狙った、カエルである。
彼女の纏う革鎧が濡れていた。二撃目をかわされ、カウンター気味に水弾を受けたためだ。
今放った狙いすました一撃も、水中へと潜られれば届かない。
「また、小賢しいっ」
苛立ちを零しながら、視線を動かす。水面が暗いため、どこから現れるのか検討がつかない。ふと、足下を見れば、泡が浮いていた。
「……っ!」
早い、と思った時にはもう遅い。
気持ちの悪い、赤い舌が水面から槍のように突き出てきた。
射撃に特化した構えを取る今、避けることができない。
鎧を捧げるようにして、攻撃を受け止める。地属性の力を持つ鎧に、カエルの攻撃は決定打にならないのだ。
ステラは舌を掴むと、力を込めて引いた。堪らずカエルが、水上へと姿を晒す。
「てめぇ、ちょこまかと逃げてくれたな」
間抜け面のカエルは、唸るように声を上げた。
声もまた、間抜けだった。
「あ゛――捌かれてぇか?」
ステラの苛立ちは最高潮に達していた。
●
「まずは、前へ」
諒斗と緋景が漕ぎ急ぐ。
ボートの周囲でうねりが起こり、カエルへと波紋となって届く。
こちらのカエルも間抜け面をさげて、ボートへと向かっていた。
「厄介ですわ」
石が水を打つ音が聞こえ、ティスは呟く。こちらのカエルもまた、水を駆け巡るのに長けていた。いや、カエルなのだから水が得意なのは当たり前だ。
「えい」とボートの縁から、オシェルが符に念じる。蝶に似た光弾が現出し、カエルのやや前方へ落ちる。
無駄撃ちのような行為にティスが疑問符を浮かべかけた。
そのとき――カエルが光弾の消えた地点で跳ねた。
わずかに残された動物の本能ゆえか、カエルが光弾の疑似餌に引っかかったのである。その隙を逃しはしない。
ティスの石つぶてが、無様に開かれたカエルの腹を打つ。
目を剥くカエルの悪あがきに放たれた水撃は、光る鳥の前に砕かれた。
カエルは水面に背を打ち付けて、ぴくりとも動かない。
「ふぅ」と一息つき、ティスはボートに手をつこうとした。
だが、安堵の表情が一変する。ボートが大きく揺れたのだ。
「避けて避けて!」
「わかってます、よ!」
緋景が符を構えつつ、諒斗とともに大きく舵を切る。
水弾が飛来したのか、その身が濡れていた。
「本当、ゆっくりさせてはくれないなぁ」
呆れを含めた声色で、オシェルも符を構える。
ボートの斜め前にさらに二体、間抜け面を水面へと出していた。
「まったく、夢に出てきそうよ」
睨みつけながら、ティスも手早く石の弾丸を食らわせる。
胡蝶符の光が、石の弾丸が迫り来る中、一体が加速した。
「来るっ! 悪いけど、この舟は満員だよ!」
「墨城さんは漕ぎ続けてください。俺が、行きます」
立ち上がろうとした緋景を押さえ、諒斗が動く。
一体が跳躍、ボートへ取り付かんとするのを諒斗が盾で押し留めた。
そうして突き落とすと同時に、電撃を放つ。
奇しくも、電撃は粘液を掠る程度であったが、カエルに大きな隙が生じた。
「この距離なら、避けられないわよね?」
肉薄したティスが抉るようにして石の弾丸を撃ち込んだ。空中で半回転しているところに、すかさずオシェルも光の蝶を飛ばす。トドメとしては十分であった。
残る一体は水弾を飛ばすばかり。緋景と諒斗はボートを漕ぐことに力を注ぐ。
迫り来る水弾を鳥の護りとティスの反撃によって、捌く。
「着いたわ」
ティスの足が水面から地面へと移る。
迂回した分、やや時間を食ったがボートも無事に中洲へとたどり着いた。
●
ボートから緋景らが降りている頃、ステラの戦いも一つの目処がつこうとしていた。
執拗にステラへと攻撃を仕掛けていたカエルが、前の右脚を切り落とされた。
水上でのバランスを崩し、慌てて桟橋に食らいつく。
「てめぇは、ここでご退場だ」
ステラは銃口を不気味に光る目玉へ突き付け、引き金を引いた。
乾いた銃声とともに、カエルの身体がだらしなくずり落ちていった。
「おっと、加勢しねぇとな」
動かないのを確認してすぐ、ステラは意識を切り替える。
大弓を再び手に取り、中洲を望む。
オシェルが結界を張るところへ、カエルが身を乗り出そうとしていた。
ステラの矢がカエルの背中を穿つ。
それを合図にして、ティスが淡い銀色の水球を放ち、オシェルが光の蝶を飛ばす。
二人の攻撃はともにカエルに直撃し、一気にその生命力を奪う。ぐらついた身体へとどめを刺すべく、諒斗が一条の光――機導砲を放った。
多勢に無勢の中、カエルは水弾をティスに食らわせることで一矢報いる。
「……結局、ずぶぬれね。こっちは終わったわ」
嘆息しつつ振り返り、緋景に声をかける。
「こっちも終わったよ」
油の詰まったビンに、乳白色の鉱石が浮かぶ。
何の変哲もない鉱石に、
「ただの石ころっぽく見えるけど……どうなんだろう」と興味深げににおいを嗅ぐ。
もう一つ手にしていた方を舐めようとして、ティスの視線に気づいた。
「冗談だよ、冗談」
「でも、本当に普通の石みたいだよね」
オシェルも小首を傾げて、鉱石を見つめる。
「戻ってみれば、わかりますよ」
ボートの準備を終えた諒斗が、皆を呼ぶ。
こうして、一同は帰還の途についた。
●
だが、話はここで終わらない。
コイツ博士の屋敷に戻った一同は、その発明が出来上がるのを待っていた。
「この規模のゴミをまとめて片付ける掃除機とは……一体どんな作りなのでしょうか?」
諒斗が好奇心に駆られ、設計図を覗きこむ。
ガラクタが散乱し、ところでは堆く積まれた部屋だ。これを綺麗にしきるのは並大抵のものではない。オシェルが興味深げにそのガラクタの一端に触れ、小さな破裂音が響く。
「わわっ」と思わずオシェルは声を上げた。
「下手に触らないほうがよさそうね……」
ティスが呆れ顔でつぶやき、ガラクタの山から距離を取る。
「おいおい、本当に爆発するんだな」
ステラは険しい表情で漏らす。口調が素に戻っているのは、脳裏によぎる嫌な予感のためだった。
それがどんな予感か気づく前に、博士が「ふひっひひひ」と気味の悪い笑い声を上げた。
「完成じゃ!」とドラム缶からホースが伸びる奇妙な魔導機械を持ち上げる。さっそく使う気なのか、ホースの先端。少し広がった口をガラクタの近くに持っていく。
「……あの、コイツ博士」とここで諒斗が顔を上げた。
「これ、このままだとちょっと危ないですよ?」
「ふーっひっひ、世紀の発明品をとくと見るがよい!」
「あ、聞いてないですね」
馬の耳に念仏とコイツ博士に忠告は同じ意味を持つと、諒斗は悟った。
「あれがセーソーキ? ほんとに綺麗になるのかなぁ」
「下がったほうがいいですよ」
のんきに近づこうとする緋景を諒斗が止めて下がらせる。
剣呑な雰囲気にオシェルやティス、ステラも少し後退した……そのとき。
「スイッチオン!」
楽しげな声を上げて、博士がスイッチを入れる。空気を吸い込む音が聞こえ、次第に激しくなる。あまりに急激な変化に、嫌な予感が走りに走る。
「ふーっひっひ」という博士の笑い声は轟音の中に掻き消え、清掃機のドラム缶部分が白く発光を始める。まずい、と誰かが呟いた。
フィーーーッと甲高い音が響き、白い光が視界を満たした。目がくらんだ後に黒い煙が立ち込めた。
「けほっ」
爆発の衝撃で崩れたガラクタの上、ステラは煤けた顔を拭いながら咳込んだ。
「ふざけんなよ」
思った以上の衝撃に、ガラクタの山へ投げ出されたのだ。
本気で爆弾でも作ったほうが似合うんじゃないかと、博士を睨む。
「……余計散らかったわね」
ティスはため息混じりに呟き、オシェルはのんびりと咳きをする。
「けほけほ。びっくりしたよ」
「えっと……報酬はもらえるんだよね?」
おずおずと顔を拭いながら、アフロった緋景が燻った博士を見る。
その後ろでステラが当たり前だと睨みを利かす。
「ふひひ。報酬ね、報酬……金庫すらこの何処かだねぇ」
博士が見渡すのは、散々になったガラクタども。どちらがもとの入り口かわからないほどの、散らかりっぷりだった。
「片付け……ますか」
諦めたように諒斗が立ち上がる。
「そうね」
ティスやオシェルも続き、片付けを始める。
ステラも重たい腰をあげ、ガラクタの一つを手にとった。瞬間、小さな爆発が起きる。
「……」と怒りぎりぎりのところで押しとどまったステラに、諒斗がいう。
「あからさまなゴミ以外は放置しましょう」
まるで地雷原だというステラの比喩どおり、慎重な駆除作業が始まった。
金庫が発掘され、報酬が支払われたのは数時間後であったという。
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爆発オチはロマン?【相談卓】 ステラ・レッドキャップ(ka5434) 人間(クリムゾンウェスト)|14才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/12/23 01:52:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/23 00:36:32 |