ゲスト
(ka0000)
【闇光】見えない戦い
マスター:猫又ものと

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/23 09:00
- 完成日
- 2016/01/10 09:06
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●巨人の弓撃
ノアーラ・クンタウに衝撃が広がる。十三魔ハイルタイが率いる巨人部隊の弓撃はが次々に長城へと突き刺さった。
「ヴェルナー様、正門が破られました! 敵が侵入してきます!」
巨人の槌で半分破壊された正門からどっとスケルトンが雪崩れ込んでくる。
城内では既に白兵戦が始まっているが、敵の戦力は圧倒的に多く、ノアーラ・クンタウの陥落はこのままでは時間の問題だった。
突如巻き起こった衝撃波は要塞全域に響き渡る程で、要塞内を走っていたイズン・コスロヴァ(kz0144)も思わずよろめく。
「何事ですか……!?」
「暴食王の攻撃です! ハイルタイの狙撃も相まってこのままでは……ぐわっ!」
背後からスケルトンに斬りつけられた部下が倒れると、イズンは拳銃を抜いて素早く敵の頭蓋骨を撃ち抜く。
「おぉ~い、お嬢ちゃん! 要塞の一部が完全に貫通された! 敵が押し寄せてくるぞお! 俺らはこれから穴を塞ぎに行く! お嬢ちゃんはどうする!?」
「第六師団もお手伝いします! 道具をお借りしても!?」
「ヴェドルのドワーフはこういう作業が大得意だからな。キュジィ、道具と煉瓦ありったけ持ってこぉい!」
ヨアキム(kz0011)の声に応えるようにバタバタと走り出すドワーフと第六師団の者達。
――辺境領と帝国領を隔てる長城ノアーラ・クンタウで、激しい攻防戦が始まろうとしていた。
●見えない戦い
ノアーラ・クンタウの一室。時々ぐらぐらと揺れて、壁が軋む。
「……とうとう始まりやがったか」
バタバタと走り回る兵士達の足音が聞こえる中、スメラギ(kz0158)は天を仰ぐ。
スメラギは歪虚王2体が突如襲って来たことによって起こった決死撤退戦の時には、後方で浄化キャンプを作成していたので、比較的早い段階で撤収を開始していた。
歪虚に追われるように南に逃れた結果、ノアーラ・クンタウで保護された。
そのまま逗留し、怪我人の治療などを手伝っていたのだが、まさかここが戦場になるとは……。
ノアーラ・クンタウの陥落は時間の問題と言われている。
ハンターは眉間に皺を寄せているスメラギの顔をそっと覗き込む。
「……なあ、スメラギ。あの東方で使ってた結界術は使えないのか? あれがあれば、ノアーラ・クンタウも守れるんじゃ……」
「……無理だ。歪虚の侵入を拒む結界を張るのには龍脈と、黒龍の力が必要だ。……黒龍の力がありゃ、ここを守るのもなんてことなかったのに……! くそったれ!!」
ガンッ! と勢い良く壁に拳を叩きつけるスメラギ。
――東方の国で、『御柱』としての役割を果たしていた頃は、本当に様々なことが出来た。
歪虚の進入を防ぐのも朝飯前だったし、結界に触れた歪虚の強さなども、ある程度測ることができた。
だが、あれは黒龍の力があってこそのものだ。
黒龍を喪った今の自分は、引きこもっていたが故に実践経験の足りない、ただの符術師だ。
ヨアキムも、帝国の軍人達も、自分なりの戦い方でこの砦を守ろうとしている。
そして、辺境の戦士であるバタルトゥも、オイマト族の戦士を連れて救援に来ていて――。
幻獣の森の戦いで怪我を負ったらしいが……あの仏頂面のことだ。怪我が完治していなくても涼しい顔で戦い続けるのだろう。
――この状況で、俺様は何が出来る?
――スメラギ様。戦いというのは、武力を行使することだけではありません。
人命を守る為に何が出来るのか。それを考えることが出来てこそ、一人前の王というものですよ……。
脳裏を過ぎる、立花院紫草の言葉。父であり、兄でもあるあの男は、いつだって正しい。
――そうだ。今、俺様が出来る最大限を考えるんだ……!
「……こっちだって長年無駄に引きこもってた訳じゃねえ。これでも回復スキルは得意なんだっつーのよ」
「……スメラギ?」
「前線に出て戦いたいてぇのは山々だが、この状況で足手まといじゃ笑えねえ。俺様は引き続き怪我人の救護に回る。ここが戦場になるってこた、これからじゃんじゃん怪我人増えっからな! 人手が足りねえ! おめえらも手伝え!」
「怪我人だ! 歪虚に背中を切られて意識がない! 優先度赤! 受け入れを頼む!」
「……! 早速来たわね。勿論手伝うわ。あなた達、包帯をありったけ借りるわよ! あとガーゼも!」
「お湯もじゃんじゃん沸かせ! 回復スキル持ってる奴も呼んで来い!」
時折感じる衝撃。ミシミシと揺れる壁。
緊迫した情勢の中で、スメラギとハンター達の見えない戦いが始まる。
ノアーラ・クンタウに衝撃が広がる。十三魔ハイルタイが率いる巨人部隊の弓撃はが次々に長城へと突き刺さった。
「ヴェルナー様、正門が破られました! 敵が侵入してきます!」
巨人の槌で半分破壊された正門からどっとスケルトンが雪崩れ込んでくる。
城内では既に白兵戦が始まっているが、敵の戦力は圧倒的に多く、ノアーラ・クンタウの陥落はこのままでは時間の問題だった。
突如巻き起こった衝撃波は要塞全域に響き渡る程で、要塞内を走っていたイズン・コスロヴァ(kz0144)も思わずよろめく。
「何事ですか……!?」
「暴食王の攻撃です! ハイルタイの狙撃も相まってこのままでは……ぐわっ!」
背後からスケルトンに斬りつけられた部下が倒れると、イズンは拳銃を抜いて素早く敵の頭蓋骨を撃ち抜く。
「おぉ~い、お嬢ちゃん! 要塞の一部が完全に貫通された! 敵が押し寄せてくるぞお! 俺らはこれから穴を塞ぎに行く! お嬢ちゃんはどうする!?」
「第六師団もお手伝いします! 道具をお借りしても!?」
「ヴェドルのドワーフはこういう作業が大得意だからな。キュジィ、道具と煉瓦ありったけ持ってこぉい!」
ヨアキム(kz0011)の声に応えるようにバタバタと走り出すドワーフと第六師団の者達。
――辺境領と帝国領を隔てる長城ノアーラ・クンタウで、激しい攻防戦が始まろうとしていた。
●見えない戦い
ノアーラ・クンタウの一室。時々ぐらぐらと揺れて、壁が軋む。
「……とうとう始まりやがったか」
バタバタと走り回る兵士達の足音が聞こえる中、スメラギ(kz0158)は天を仰ぐ。
スメラギは歪虚王2体が突如襲って来たことによって起こった決死撤退戦の時には、後方で浄化キャンプを作成していたので、比較的早い段階で撤収を開始していた。
歪虚に追われるように南に逃れた結果、ノアーラ・クンタウで保護された。
そのまま逗留し、怪我人の治療などを手伝っていたのだが、まさかここが戦場になるとは……。
ノアーラ・クンタウの陥落は時間の問題と言われている。
ハンターは眉間に皺を寄せているスメラギの顔をそっと覗き込む。
「……なあ、スメラギ。あの東方で使ってた結界術は使えないのか? あれがあれば、ノアーラ・クンタウも守れるんじゃ……」
「……無理だ。歪虚の侵入を拒む結界を張るのには龍脈と、黒龍の力が必要だ。……黒龍の力がありゃ、ここを守るのもなんてことなかったのに……! くそったれ!!」
ガンッ! と勢い良く壁に拳を叩きつけるスメラギ。
――東方の国で、『御柱』としての役割を果たしていた頃は、本当に様々なことが出来た。
歪虚の進入を防ぐのも朝飯前だったし、結界に触れた歪虚の強さなども、ある程度測ることができた。
だが、あれは黒龍の力があってこそのものだ。
黒龍を喪った今の自分は、引きこもっていたが故に実践経験の足りない、ただの符術師だ。
ヨアキムも、帝国の軍人達も、自分なりの戦い方でこの砦を守ろうとしている。
そして、辺境の戦士であるバタルトゥも、オイマト族の戦士を連れて救援に来ていて――。
幻獣の森の戦いで怪我を負ったらしいが……あの仏頂面のことだ。怪我が完治していなくても涼しい顔で戦い続けるのだろう。
――この状況で、俺様は何が出来る?
――スメラギ様。戦いというのは、武力を行使することだけではありません。
人命を守る為に何が出来るのか。それを考えることが出来てこそ、一人前の王というものですよ……。
脳裏を過ぎる、立花院紫草の言葉。父であり、兄でもあるあの男は、いつだって正しい。
――そうだ。今、俺様が出来る最大限を考えるんだ……!
「……こっちだって長年無駄に引きこもってた訳じゃねえ。これでも回復スキルは得意なんだっつーのよ」
「……スメラギ?」
「前線に出て戦いたいてぇのは山々だが、この状況で足手まといじゃ笑えねえ。俺様は引き続き怪我人の救護に回る。ここが戦場になるってこた、これからじゃんじゃん怪我人増えっからな! 人手が足りねえ! おめえらも手伝え!」
「怪我人だ! 歪虚に背中を切られて意識がない! 優先度赤! 受け入れを頼む!」
「……! 早速来たわね。勿論手伝うわ。あなた達、包帯をありったけ借りるわよ! あとガーゼも!」
「お湯もじゃんじゃん沸かせ! 回復スキル持ってる奴も呼んで来い!」
時折感じる衝撃。ミシミシと揺れる壁。
緊迫した情勢の中で、スメラギとハンター達の見えない戦いが始まる。
リプレイ本文
「あの人が東方帝……。……なんか、想像と違う……」
「そう? スーちゃんはいっつもあんな感じなのな」
落ち着かないのか、準備運動と称して身体を動かしているスメラギ(kz0158)を呆然と見つめるアシェ-ル(ka2983)に、にこにこと受け応える黒の夢(ka0187)。
帝というから、もっと大人な男性を想像していたのに。
「これじゃまるで、少年を助けるお姉さん達って感じです」
「それもいいじゃないですか! 皆で一緒に頑張りましょ!」
アシェールの呟きににこやかな笑みを返すリラ(ka5679)。
そうしている間も、時折感じる壁の軋み。今確かに、戦闘は続いていて……。
「……ったく、呑気に一服してる暇もねえってか。どこもかしこも戦場たあ落ち着かなくていけねえや」
――一昔前なら最前線に突っ走って行って、骸骨の鼻っ面をぶん殴ってるところだが……帝サマを見習って、己のできる事をするとしようかねぇ。
ため息をつき、腰を上げる文挟 ニレ(ka5696)は部屋の中の備品のチェックを始める。
アーシェルは並ぶ寝台を素早く整えると、仲間達を振り返る。
「他にも救護室があるんですよね。そちらとも連携を取りましょう!」
「分かりました! 向こうに申し入れをしてきますね!」
「頼んだよ。……この酒も使えそうだねぇ。皆も使えそうなものがあったら出しておくれ」
「はいっ!」
元気に飛び出して行くリラの背を見送り、己の荷物から手当てに使えそうなものを取り出していく時雨 凪枯(ka3786)。
それに緊張した面持ちで頷き、エステル(ka5826)も己の鞄を探る。
仲間達が鞄の中から資材を出し切った頃に、リラが怪我人に肩を貸しながら戻ってきた。
「怪我人です! 足に攻撃を受けています」
「早速来たか……! 見てろよ、俺様の実力を!!」
腕を振り回すスメラギ。早速回復スキルを使おうとした彼を、エステルが慌てて制止する。
「お待ち下さいスメラギ様! 怪我の程度も確認せずにスキルを使用するのは尚早かと思います」
「あ? 何だよ。こっちの方が手っ取り早いだろーが」
スメラギの声にもう一度ため息をつくニレ。己より大分小さい帝を見る。
「帝サマならわざわざ進言せずとも分かってるたぁ思うが……。あのな、どんな有能なハンターだって、スキルの使用には限界ってモンがあんのよ」
「ニレ様の仰る通りです。初めから全開で使ってしまっては、後々足りなくなる可能性があります。今重要なのは的確な判断の元、適切な治療を施す事だと思われます」
「そーゆーこった。使うなとは言わねえが、使いどころは弁えとくれよ」
「お気を悪くされたら申し訳ございません。焦るのは禁物です。どうか冷静なご判断を……」
言い募るニレとエステルに、スメラギは頭を掻いて俯く。
「……悪ィ。何か、九尾の時の事思い出しちまってさ」
ため息をつく彼。
――大事な故郷。守るべき場所が戦地となり、自分自身も深い傷を負った。
己が傷つく事は構わない。だけど、何の罪もない民が傷つくのはどうしても許せなくて……。
己の未熟を感じるからこそ、それが焦りとなって滲み出る。
「焦るのは分かるけどね、心ん中だけにしときな。焦りは周りに伝染する」
「うんうん。兎に角、どーんと構えてなさいな。好き嫌い無くてもソレでは身長伸びないぞ?」
「う、うっせ! 身長の事は関係ねえだろ!! つーかくっつくんじゃねぇよ!!」
穏やかな紫の瞳を向けてくる凪枯。黒の夢にむぎゅーと引き寄せられて、スメラギはじたばたと暴れる。
「さて、待たせて悪かったね。手当させて貰うよ。傷見せてくれるかい?」
「すみません。お名前と所属をお伺いしても良いですか?」
兵を座らせ、傷を見るニレ。その横で、アーシェルがカルテに記入していく。
怪我は幸い軽症のようだ。これなら消毒をして、しっかり包帯をして固定しておけば大丈夫だろう。
「さて、消毒すっからね。ちょっとじっとしておいで」
「すぐ済みますから! 頑張ってください!」
「いだああああ!!」
ニレが手早く消毒を施すと同時にあがる悲鳴。リラは兵士を宥めながら包帯を彼女に手渡す。
「お。気が利くね」
「えへへ。お任せください!」
「ほら、こんなに可愛い子が励ましてくれてんだから男を見せな!」
兵士を叱咤激励するニレに笑みを返すリラ。
――自分は駆け出しだけれど、何か出来る事はあるはず。
何も出来ない、なんて落ち込んでる暇なんてない。
ニレの言う通り、自分の笑顔で、兵士達の気分が少しでも楽になるなら嬉しい……。
そんな事を考えていた彼女に、アシェールが声をかける。
「すみません、リラさん。お湯を沸かすのでそれが終わったらお水を持ってきてもらえますか?」
「分かりました!」
次の瞬間、大きく揺れる部屋に息を飲む2人。
――砦が揺れたという事は、歪虚側の大規模な攻撃があったのだろうか……。
きっと今ので怪我を負った人もいるはず。受け入れ準備を進めておかなくちゃ……!
アシェールが手にした鍋をぎゅっと握り締めると、廊下からバタバタという足音が聞こえてきた。
「こいつを頼む! 腕をやられてる!」
「こっちもだ! 背中を斬られて意識がない! 優先度上げてくれ!」
「……! こちらに寝かせてください! 凪枯さん手当てお願いします!」
「あいよ。ご指名だね。……スメラギちゃん。ヒーリングスフィアが充分張れそうな場所は分かるかい?」
アシェールの声に凪枯が腕まくりしながら兵士に歩み寄り……続いた彼女の声に、スメラギは首を傾げる。
「なんだよ。スキル乱発すんなって言ってたじゃねーか」
「今使う訳じゃないよ。効率よく使える場所を確認したいだけさ」
「あー。辺境は精霊の力が活発だ。この部屋のどこで使ったって大丈夫だ」
「そうかい。ありがとさん。……焦らずしっかり仕事おしよ」
「わーってるっつーの!」
凪枯におでこを小突かれて、吼えるスメラギ。黒の夢も彼の頭をぽふぽふと撫でる。
「ふふ、頼りにしてるのな。さぁ、エステルちゃん、我輩達も手伝うのな!」
「は、はい……!」
「……大丈夫? 怖いのな?」
「え……? いえ。そんな事は……」
顔を覗き込んで来る彼女に、言い淀むエステル。
――スメラギにはあんな事を言ったけれど。正直に言ってしまえば、怖いし足が竦む。
貴族の娘として家族に守られ、優しい時間だけを過ごし、荒事とは無縁の生活を送ってきた。
そんな自分が、この状況で、苦しむ人達を前に何が出来るのか……。
判らないけれど。でも――。
「……出来る事をやればいいのな。一人じゃない、皆一緒なのな」
見透かすような黒の夢の金色の双眸。暖かな瞳は優しくて……。
それにエステルは、こくりと頷く。
――そうだ。ここを私の戦場としたのだから。
一人でも多くを助けてみせる……!
「腕を切られた子はあたしが診るよ。黒の夢ちゃん達は背中を怪我してる子を頼めるかい?」
「分かったのな。スーちゃんも手伝うのな!」
「おうよ! 任せとけ!」
「わたくしもお手伝いします!」
「うんうん。二人とも、無理はしないのな。困ったらすぐ我輩に言うのな!」
凪枯の声に頷く黒の夢。えっへんと豊かな胸を張った彼女に、スメラギとエステルは素直に頷いた。
腕を斬られたという兵士は、傷自体は大きくなかったが、深く刺されたようで出血が酷かった。
このまま血が流れ続けては命に関わる……。
凪枯はアシェールがカルテを用意してる間に、リラに向き直る。
「リラちゃん、布持ってきてくれるかい? 圧迫止血を試みるよ」
「分かりました! ところで圧迫止血ってどうやるんですか?」
「清潔な布を直接傷口に当てて、強く押さえるのさ。縛ったりする方法もあるけど……それは最終手段だから使わないで済むに越した事はないね。教えてやるから見てておいで」
「はい! ありがとうございます!」
「アシェールちゃんも覚えておきな。これが手当ての基本になるから。あたし達の手が回らない時は、二人にもやってもらうからね」
「分かりました……!」
強く頷くアシェール。凪枯は、2人の目線を感じつつ止血にかかる。
「これはスキル使わないとダメ……かなぁ」
「そうですね……」
意識のない兵士を診ながら考え込む黒の夢。エステルもまた難しい顔をしている。
彼の背中はぱっくりと割れて、血が止め処なく溢れ……出血によるショック状態になりつつあった。
もう少し軽ければ、傷を縫って止血を試みる手もあったが、この場合は傷を縫っている間に死に至るだろう。
噎せ返るような血の匂いにスメラギは眉間に皺を寄せて、2人を見る。
「どうする? 俺様がやるか?」
「いいえ。対象がお一人ですから、わたくしがやります。スメラギ様は広範囲の治療が可能なんですよね? どうか、温存なさってください」
「……分かった。頼む」
スメラギの囁くような声に、頷き返すエステル。
……スメラギのスキルを使わなければならぬような事態など、来ない方がいいのだ。
「この子は傷が塞がっても安静が必要なのな。念のため、スリープクラウド使っておくのな」
確認するように言う黒の夢に、お願いします、と短く答えたエステル。
黒の夢の指先から青白い雲が出たのを確認すると、彼女も精霊に祈りを捧げ――。
この3人を皮切りに、運び込まれてくる怪我人はどんどん増えて行った。
アシェールとリラが他の救護所の空き状況等を連絡し合うも、どこも手一杯という状況。
治療が完了し、安静な必要な兵は順次別室に移されてはいたが、それでも新たな人が切れ目なくやってきて……部屋の中は人でいっぱいだった。
剣を背中に突き刺したままの兵。
足の骨が折れた兵。
歪虚の武器にやられたのか、肉がごっそり削がれてしまっている兵など、目を覆いたくなるような怪我を負っている者が沢山やってきた。
部屋にあった物資はあっという間に底をつき、ハンター達が持ち込んだ布や水、鉄パイプなども惜しみなく救護に使われた。
「もー、やる事いっぱいで目が回ります……!」
「本当ですね。でもこういう時こそ、元気出していきましょう! ……という訳で、厨房の人たちにお願いしてこれを用意してもらいました!」
肩で息をするリラを励ますアシェール。彼女がじゃじゃーん! と言いながら出してきたのは沢山のサンドウィッチで……。
部屋で治療を受けていた兵達からうおおおお! という声が上がり、ニレが苦笑する。
「全く。食い気があるなら心配ないね。軽傷の連中は手当てが終わったら手伝っとくれ。湯を沸かす火の番くらいはできるだろう?」
「俺、戦線に復帰しようと思ってんスけど……」
「ああ、それでもいい。止める気は無いさ。ただ……間違っても命は粗末にするんじゃないよ」
「了解です! ……で、サンドウィッチは戴いても……?」
「そう聞かれてるけどどうだい? アシェール」
「勿論いいですよ! 今お配りしますね!」
「私もお手伝いします!」
にこにこ笑顔でサンドウィッチを配り始めるアシェールとリラ。
二人の笑顔で、何だか部屋自体が明るくなったような気がする。
わたくしも頑張らなくては……。
エステルがそんな事を考えていたら、黒の夢にむにーっと頬を引っ張られて目を瞬かせる。
「……あの、何でしょう?」
「エステルちゃんもちょっと休憩するのな。スーちゃんも! 二人ともすっごく疲れた顔してるのな」
「今休んでるような状況じゃねえだろ。こんな山程怪我人がいるってのによ……!」
「そうです。わたくしもまだ頑張れます!」
苦い顔をするスメラギに頷くエステル。
その様子をじっと見つめていた黒の夢は、二人を纏めて引き寄せる。
「きゃっ!?」
「ちょっ、おまっ。何すんだよ!!」
「今出来る事を全てやってやろうって、思わなくていいのな。疲れたら休む、これ大事なのな」
慌てる二人をもちもちの腕で押さえ込む黒の夢。
全てを包むようなその暖かさに、スメラギは観念したのか大人しくなる。
「お前、ホント良くわかんねーやつだな……」
「ん? 何で? スーちゃん好きなだけなのなー。今なら大サービスで膝枕してあげるのな!」
「だからそういう事気安く言うなっつってんの!!」
叫ぶスメラギが耳まで赤くなっているのを見て、くすりと笑うエステル。
――まだこの先も『戦い』は続く。しっかりしなきゃ……。
「……重傷者だ! 手伝っておくれ!」
そこに聞こえてきた、凪枯の緊迫した声。
それにすぐさま応え仲間達が駆けつける。
「どうしたのな!?」
「……腕が泣き別れちまってる」
患者を覗き込み、珍しく目つきが鋭くなる黒の夢。
凪枯の呟きに、エステルが息を飲む。
「今ならくっつくかもしれない。最終手段の圧迫止血を使う時が来ちまったよ。しょーがないね。腕、縛っておくれ」
「この辺りでいいですか?」
「ああ。あまり長時間やるんじゃないよ。緩める時は少しづつだ」
「分かりました!」
指示の通りに動くアシェールとリラ。縛られた事で痛みが一時的に増したのか、患者が突然暴れ始める。
「暴れんなよ……!」
「……大丈夫、必ず治してあげるのな」
慌てて取り押さえるニレ。黒の夢が再びスリープクラウドを唱えると、途端に大人しくなる。
「スメラギちゃんとエステルちゃんは、ヒール手伝っておくれな。皆の力も追加すりゃくっつくだろ」
「おうよ。任せとけ」
「分かりました」
両方の患部を水とアルコールで洗い、角度に気を付けて圧着する凪枯。
頷くスメラギとエステルに、彼女も頷き返す。
……正直、重ねてかけたところでどれだけ効果があるのか分からない。
でも、それでこの者が助かるなら……!
――巧くくっ付いておくれよ……! 欠損する事が名誉であって堪るか!
そんな思いで精霊に祈る凪枯。2人の祈りも続き、部屋中が癒しの光に満たされる。
見ると、兵の腕は無事についたようで……ハンター達はほっと胸を撫で下ろした。
「治療して戴いてありがとう。それじゃ、行って来ます」
「……ご武運をお祈りしています」
部屋と後にする兵達に、頭を下げたエステル。自分は、上手く笑えているだろうか……?
兵達も微笑むと、振り返らずに戦場へ向かって行く。
「やれやれ、また死地に送り出さなきゃなんないとはねぇ」
「変わってやりたい気もすっけど、そういう訳にもいかないしねぇ」
肩を竦める凪枯にため息をつくニレ。黒の夢がのほほんと続ける。
「また怪我したら治してあげるのな」
「何だかキリがないですけど……私達が出来る事を続けましょう!」
「そうですね。それがきっと、勝利に繋がるはずです!」
リラとアーシェルの言葉に頷いて、仲間達はまた、己の戦場へ戻っていく。
ノアーラ・クンタウの防衛は成功し、ハイルタイ達は撤退して行った。
それは、見えない戦いを続け、戦場を支えたハンター達の力もあってこそであった。
「そう? スーちゃんはいっつもあんな感じなのな」
落ち着かないのか、準備運動と称して身体を動かしているスメラギ(kz0158)を呆然と見つめるアシェ-ル(ka2983)に、にこにこと受け応える黒の夢(ka0187)。
帝というから、もっと大人な男性を想像していたのに。
「これじゃまるで、少年を助けるお姉さん達って感じです」
「それもいいじゃないですか! 皆で一緒に頑張りましょ!」
アシェールの呟きににこやかな笑みを返すリラ(ka5679)。
そうしている間も、時折感じる壁の軋み。今確かに、戦闘は続いていて……。
「……ったく、呑気に一服してる暇もねえってか。どこもかしこも戦場たあ落ち着かなくていけねえや」
――一昔前なら最前線に突っ走って行って、骸骨の鼻っ面をぶん殴ってるところだが……帝サマを見習って、己のできる事をするとしようかねぇ。
ため息をつき、腰を上げる文挟 ニレ(ka5696)は部屋の中の備品のチェックを始める。
アーシェルは並ぶ寝台を素早く整えると、仲間達を振り返る。
「他にも救護室があるんですよね。そちらとも連携を取りましょう!」
「分かりました! 向こうに申し入れをしてきますね!」
「頼んだよ。……この酒も使えそうだねぇ。皆も使えそうなものがあったら出しておくれ」
「はいっ!」
元気に飛び出して行くリラの背を見送り、己の荷物から手当てに使えそうなものを取り出していく時雨 凪枯(ka3786)。
それに緊張した面持ちで頷き、エステル(ka5826)も己の鞄を探る。
仲間達が鞄の中から資材を出し切った頃に、リラが怪我人に肩を貸しながら戻ってきた。
「怪我人です! 足に攻撃を受けています」
「早速来たか……! 見てろよ、俺様の実力を!!」
腕を振り回すスメラギ。早速回復スキルを使おうとした彼を、エステルが慌てて制止する。
「お待ち下さいスメラギ様! 怪我の程度も確認せずにスキルを使用するのは尚早かと思います」
「あ? 何だよ。こっちの方が手っ取り早いだろーが」
スメラギの声にもう一度ため息をつくニレ。己より大分小さい帝を見る。
「帝サマならわざわざ進言せずとも分かってるたぁ思うが……。あのな、どんな有能なハンターだって、スキルの使用には限界ってモンがあんのよ」
「ニレ様の仰る通りです。初めから全開で使ってしまっては、後々足りなくなる可能性があります。今重要なのは的確な判断の元、適切な治療を施す事だと思われます」
「そーゆーこった。使うなとは言わねえが、使いどころは弁えとくれよ」
「お気を悪くされたら申し訳ございません。焦るのは禁物です。どうか冷静なご判断を……」
言い募るニレとエステルに、スメラギは頭を掻いて俯く。
「……悪ィ。何か、九尾の時の事思い出しちまってさ」
ため息をつく彼。
――大事な故郷。守るべき場所が戦地となり、自分自身も深い傷を負った。
己が傷つく事は構わない。だけど、何の罪もない民が傷つくのはどうしても許せなくて……。
己の未熟を感じるからこそ、それが焦りとなって滲み出る。
「焦るのは分かるけどね、心ん中だけにしときな。焦りは周りに伝染する」
「うんうん。兎に角、どーんと構えてなさいな。好き嫌い無くてもソレでは身長伸びないぞ?」
「う、うっせ! 身長の事は関係ねえだろ!! つーかくっつくんじゃねぇよ!!」
穏やかな紫の瞳を向けてくる凪枯。黒の夢にむぎゅーと引き寄せられて、スメラギはじたばたと暴れる。
「さて、待たせて悪かったね。手当させて貰うよ。傷見せてくれるかい?」
「すみません。お名前と所属をお伺いしても良いですか?」
兵を座らせ、傷を見るニレ。その横で、アーシェルがカルテに記入していく。
怪我は幸い軽症のようだ。これなら消毒をして、しっかり包帯をして固定しておけば大丈夫だろう。
「さて、消毒すっからね。ちょっとじっとしておいで」
「すぐ済みますから! 頑張ってください!」
「いだああああ!!」
ニレが手早く消毒を施すと同時にあがる悲鳴。リラは兵士を宥めながら包帯を彼女に手渡す。
「お。気が利くね」
「えへへ。お任せください!」
「ほら、こんなに可愛い子が励ましてくれてんだから男を見せな!」
兵士を叱咤激励するニレに笑みを返すリラ。
――自分は駆け出しだけれど、何か出来る事はあるはず。
何も出来ない、なんて落ち込んでる暇なんてない。
ニレの言う通り、自分の笑顔で、兵士達の気分が少しでも楽になるなら嬉しい……。
そんな事を考えていた彼女に、アシェールが声をかける。
「すみません、リラさん。お湯を沸かすのでそれが終わったらお水を持ってきてもらえますか?」
「分かりました!」
次の瞬間、大きく揺れる部屋に息を飲む2人。
――砦が揺れたという事は、歪虚側の大規模な攻撃があったのだろうか……。
きっと今ので怪我を負った人もいるはず。受け入れ準備を進めておかなくちゃ……!
アシェールが手にした鍋をぎゅっと握り締めると、廊下からバタバタという足音が聞こえてきた。
「こいつを頼む! 腕をやられてる!」
「こっちもだ! 背中を斬られて意識がない! 優先度上げてくれ!」
「……! こちらに寝かせてください! 凪枯さん手当てお願いします!」
「あいよ。ご指名だね。……スメラギちゃん。ヒーリングスフィアが充分張れそうな場所は分かるかい?」
アシェールの声に凪枯が腕まくりしながら兵士に歩み寄り……続いた彼女の声に、スメラギは首を傾げる。
「なんだよ。スキル乱発すんなって言ってたじゃねーか」
「今使う訳じゃないよ。効率よく使える場所を確認したいだけさ」
「あー。辺境は精霊の力が活発だ。この部屋のどこで使ったって大丈夫だ」
「そうかい。ありがとさん。……焦らずしっかり仕事おしよ」
「わーってるっつーの!」
凪枯におでこを小突かれて、吼えるスメラギ。黒の夢も彼の頭をぽふぽふと撫でる。
「ふふ、頼りにしてるのな。さぁ、エステルちゃん、我輩達も手伝うのな!」
「は、はい……!」
「……大丈夫? 怖いのな?」
「え……? いえ。そんな事は……」
顔を覗き込んで来る彼女に、言い淀むエステル。
――スメラギにはあんな事を言ったけれど。正直に言ってしまえば、怖いし足が竦む。
貴族の娘として家族に守られ、優しい時間だけを過ごし、荒事とは無縁の生活を送ってきた。
そんな自分が、この状況で、苦しむ人達を前に何が出来るのか……。
判らないけれど。でも――。
「……出来る事をやればいいのな。一人じゃない、皆一緒なのな」
見透かすような黒の夢の金色の双眸。暖かな瞳は優しくて……。
それにエステルは、こくりと頷く。
――そうだ。ここを私の戦場としたのだから。
一人でも多くを助けてみせる……!
「腕を切られた子はあたしが診るよ。黒の夢ちゃん達は背中を怪我してる子を頼めるかい?」
「分かったのな。スーちゃんも手伝うのな!」
「おうよ! 任せとけ!」
「わたくしもお手伝いします!」
「うんうん。二人とも、無理はしないのな。困ったらすぐ我輩に言うのな!」
凪枯の声に頷く黒の夢。えっへんと豊かな胸を張った彼女に、スメラギとエステルは素直に頷いた。
腕を斬られたという兵士は、傷自体は大きくなかったが、深く刺されたようで出血が酷かった。
このまま血が流れ続けては命に関わる……。
凪枯はアシェールがカルテを用意してる間に、リラに向き直る。
「リラちゃん、布持ってきてくれるかい? 圧迫止血を試みるよ」
「分かりました! ところで圧迫止血ってどうやるんですか?」
「清潔な布を直接傷口に当てて、強く押さえるのさ。縛ったりする方法もあるけど……それは最終手段だから使わないで済むに越した事はないね。教えてやるから見てておいで」
「はい! ありがとうございます!」
「アシェールちゃんも覚えておきな。これが手当ての基本になるから。あたし達の手が回らない時は、二人にもやってもらうからね」
「分かりました……!」
強く頷くアシェール。凪枯は、2人の目線を感じつつ止血にかかる。
「これはスキル使わないとダメ……かなぁ」
「そうですね……」
意識のない兵士を診ながら考え込む黒の夢。エステルもまた難しい顔をしている。
彼の背中はぱっくりと割れて、血が止め処なく溢れ……出血によるショック状態になりつつあった。
もう少し軽ければ、傷を縫って止血を試みる手もあったが、この場合は傷を縫っている間に死に至るだろう。
噎せ返るような血の匂いにスメラギは眉間に皺を寄せて、2人を見る。
「どうする? 俺様がやるか?」
「いいえ。対象がお一人ですから、わたくしがやります。スメラギ様は広範囲の治療が可能なんですよね? どうか、温存なさってください」
「……分かった。頼む」
スメラギの囁くような声に、頷き返すエステル。
……スメラギのスキルを使わなければならぬような事態など、来ない方がいいのだ。
「この子は傷が塞がっても安静が必要なのな。念のため、スリープクラウド使っておくのな」
確認するように言う黒の夢に、お願いします、と短く答えたエステル。
黒の夢の指先から青白い雲が出たのを確認すると、彼女も精霊に祈りを捧げ――。
この3人を皮切りに、運び込まれてくる怪我人はどんどん増えて行った。
アシェールとリラが他の救護所の空き状況等を連絡し合うも、どこも手一杯という状況。
治療が完了し、安静な必要な兵は順次別室に移されてはいたが、それでも新たな人が切れ目なくやってきて……部屋の中は人でいっぱいだった。
剣を背中に突き刺したままの兵。
足の骨が折れた兵。
歪虚の武器にやられたのか、肉がごっそり削がれてしまっている兵など、目を覆いたくなるような怪我を負っている者が沢山やってきた。
部屋にあった物資はあっという間に底をつき、ハンター達が持ち込んだ布や水、鉄パイプなども惜しみなく救護に使われた。
「もー、やる事いっぱいで目が回ります……!」
「本当ですね。でもこういう時こそ、元気出していきましょう! ……という訳で、厨房の人たちにお願いしてこれを用意してもらいました!」
肩で息をするリラを励ますアシェール。彼女がじゃじゃーん! と言いながら出してきたのは沢山のサンドウィッチで……。
部屋で治療を受けていた兵達からうおおおお! という声が上がり、ニレが苦笑する。
「全く。食い気があるなら心配ないね。軽傷の連中は手当てが終わったら手伝っとくれ。湯を沸かす火の番くらいはできるだろう?」
「俺、戦線に復帰しようと思ってんスけど……」
「ああ、それでもいい。止める気は無いさ。ただ……間違っても命は粗末にするんじゃないよ」
「了解です! ……で、サンドウィッチは戴いても……?」
「そう聞かれてるけどどうだい? アシェール」
「勿論いいですよ! 今お配りしますね!」
「私もお手伝いします!」
にこにこ笑顔でサンドウィッチを配り始めるアシェールとリラ。
二人の笑顔で、何だか部屋自体が明るくなったような気がする。
わたくしも頑張らなくては……。
エステルがそんな事を考えていたら、黒の夢にむにーっと頬を引っ張られて目を瞬かせる。
「……あの、何でしょう?」
「エステルちゃんもちょっと休憩するのな。スーちゃんも! 二人ともすっごく疲れた顔してるのな」
「今休んでるような状況じゃねえだろ。こんな山程怪我人がいるってのによ……!」
「そうです。わたくしもまだ頑張れます!」
苦い顔をするスメラギに頷くエステル。
その様子をじっと見つめていた黒の夢は、二人を纏めて引き寄せる。
「きゃっ!?」
「ちょっ、おまっ。何すんだよ!!」
「今出来る事を全てやってやろうって、思わなくていいのな。疲れたら休む、これ大事なのな」
慌てる二人をもちもちの腕で押さえ込む黒の夢。
全てを包むようなその暖かさに、スメラギは観念したのか大人しくなる。
「お前、ホント良くわかんねーやつだな……」
「ん? 何で? スーちゃん好きなだけなのなー。今なら大サービスで膝枕してあげるのな!」
「だからそういう事気安く言うなっつってんの!!」
叫ぶスメラギが耳まで赤くなっているのを見て、くすりと笑うエステル。
――まだこの先も『戦い』は続く。しっかりしなきゃ……。
「……重傷者だ! 手伝っておくれ!」
そこに聞こえてきた、凪枯の緊迫した声。
それにすぐさま応え仲間達が駆けつける。
「どうしたのな!?」
「……腕が泣き別れちまってる」
患者を覗き込み、珍しく目つきが鋭くなる黒の夢。
凪枯の呟きに、エステルが息を飲む。
「今ならくっつくかもしれない。最終手段の圧迫止血を使う時が来ちまったよ。しょーがないね。腕、縛っておくれ」
「この辺りでいいですか?」
「ああ。あまり長時間やるんじゃないよ。緩める時は少しづつだ」
「分かりました!」
指示の通りに動くアシェールとリラ。縛られた事で痛みが一時的に増したのか、患者が突然暴れ始める。
「暴れんなよ……!」
「……大丈夫、必ず治してあげるのな」
慌てて取り押さえるニレ。黒の夢が再びスリープクラウドを唱えると、途端に大人しくなる。
「スメラギちゃんとエステルちゃんは、ヒール手伝っておくれな。皆の力も追加すりゃくっつくだろ」
「おうよ。任せとけ」
「分かりました」
両方の患部を水とアルコールで洗い、角度に気を付けて圧着する凪枯。
頷くスメラギとエステルに、彼女も頷き返す。
……正直、重ねてかけたところでどれだけ効果があるのか分からない。
でも、それでこの者が助かるなら……!
――巧くくっ付いておくれよ……! 欠損する事が名誉であって堪るか!
そんな思いで精霊に祈る凪枯。2人の祈りも続き、部屋中が癒しの光に満たされる。
見ると、兵の腕は無事についたようで……ハンター達はほっと胸を撫で下ろした。
「治療して戴いてありがとう。それじゃ、行って来ます」
「……ご武運をお祈りしています」
部屋と後にする兵達に、頭を下げたエステル。自分は、上手く笑えているだろうか……?
兵達も微笑むと、振り返らずに戦場へ向かって行く。
「やれやれ、また死地に送り出さなきゃなんないとはねぇ」
「変わってやりたい気もすっけど、そういう訳にもいかないしねぇ」
肩を竦める凪枯にため息をつくニレ。黒の夢がのほほんと続ける。
「また怪我したら治してあげるのな」
「何だかキリがないですけど……私達が出来る事を続けましょう!」
「そうですね。それがきっと、勝利に繋がるはずです!」
リラとアーシェルの言葉に頷いて、仲間達はまた、己の戦場へ戻っていく。
ノアーラ・クンタウの防衛は成功し、ハイルタイ達は撤退して行った。
それは、見えない戦いを続け、戦場を支えたハンター達の力もあってこそであった。
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質問卓 黒の夢(ka0187) エルフ|26才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/12/21 20:51:00 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/19 02:42:51 |
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相談卓 文挟 ニレ(ka5696) 鬼|23才|女性|符術師(カードマスター) |
最終発言 2015/12/23 08:07:10 |