ゲスト
(ka0000)
【深棲】水辺で遊びたい!
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2014/08/10 09:00
- 完成日
- 2014/08/16 00:24
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
リゼリオの街が最近すこしばかり慌ただしい。
水辺には近づくな、と言われる。
理由は歪虚の動きが活発だから、なのだが――子どもはそんなことはわかっていても冒険心を止めることができない。そういう生き物なのだから。
●
「最近物騒だけどさ、遊びたいよなあ」
リゼリオの子どもたちの中にももちろんやんちゃな輩はいるわけで、彼らとしては夏の遊び場を奪われたような気がして仕方がない。
「水辺で遊びたい!」
少年の一人がうんざりしたように叫ぶと、周りの少年少女も同調した。
「……あ、でももしものことがあったらたいへんだよ?」
歪虚や雑魔の出現が増えているのは事実で、それを知っている少女が不安そうに声を出す。……彼女の父親は、先日雑魔に襲われかけて、ほうほうの体で戻ってきたのだとか。
「うん、父ちゃんも気をつけろって何度も言ってた」
「うちの母ちゃんも」
子どもたちはみな親にそんな注意を何度も何度もされている。子どものことを心配しない親などいないから、当然といえば当然だ。
「あ、それならさ」
少年の一人がいいことを思いついたというようにポンと手を叩いた。
「ハンターに頼んで見張っててもらえばいいんだ! ハンターって、強いんだから!」
この少年、先日ハンターの活躍を見てすっかり虜なのだ。だけど、と別の少年が不安そうに首を傾げる。
「僕たちでやとえるかなぁ」
少年の一人はこうも提案した。
「お母さんたちにも頼もうよ」
そう、子どもたちが安心して遊べるようにというためなら、親もきっと手助けしてくれる。そう信じて、子ども達はハンターズソサエティの扉を開けた――
「あの、僕たちが安心して遊べるように、手伝ってください!」
その眼差しは、とても真摯なものだった。
リゼリオの街が最近すこしばかり慌ただしい。
水辺には近づくな、と言われる。
理由は歪虚の動きが活発だから、なのだが――子どもはそんなことはわかっていても冒険心を止めることができない。そういう生き物なのだから。
●
「最近物騒だけどさ、遊びたいよなあ」
リゼリオの子どもたちの中にももちろんやんちゃな輩はいるわけで、彼らとしては夏の遊び場を奪われたような気がして仕方がない。
「水辺で遊びたい!」
少年の一人がうんざりしたように叫ぶと、周りの少年少女も同調した。
「……あ、でももしものことがあったらたいへんだよ?」
歪虚や雑魔の出現が増えているのは事実で、それを知っている少女が不安そうに声を出す。……彼女の父親は、先日雑魔に襲われかけて、ほうほうの体で戻ってきたのだとか。
「うん、父ちゃんも気をつけろって何度も言ってた」
「うちの母ちゃんも」
子どもたちはみな親にそんな注意を何度も何度もされている。子どものことを心配しない親などいないから、当然といえば当然だ。
「あ、それならさ」
少年の一人がいいことを思いついたというようにポンと手を叩いた。
「ハンターに頼んで見張っててもらえばいいんだ! ハンターって、強いんだから!」
この少年、先日ハンターの活躍を見てすっかり虜なのだ。だけど、と別の少年が不安そうに首を傾げる。
「僕たちでやとえるかなぁ」
少年の一人はこうも提案した。
「お母さんたちにも頼もうよ」
そう、子どもたちが安心して遊べるようにというためなら、親もきっと手助けしてくれる。そう信じて、子ども達はハンターズソサエティの扉を開けた――
「あの、僕たちが安心して遊べるように、手伝ってください!」
その眼差しは、とても真摯なものだった。
リプレイ本文
●
よく晴れた日の朝――。
いま、七人の子どもたち――彼らが今回の依頼人、というわけだが――は、瞳をキラキラと輝かせてハンターたちを見つめている。
歪虚の出没が懸念される水辺で自分たちが遊びたいからという実にシンプルな動機でハンターズソサエティに半ば無理を承知でお願いをしたところ、彼らは快くハンターを手配してくれることを約束してくれたのだ。
それも、自分たちの想像を超える人数を。種族も何もかも様々で、自分たちと同じくらいの年頃のハンターもいれば、父親よりも年上に見えるかもしれないハンターもいる。
「きょうはよろしくおねがいします!」
少年少女は、元気いっぱいの声でそう挨拶をした。
――とはいえ、海での遊びに胸を高鳴らせているのは子どもたちばかりではない。ハンターたちも、警護はもちろんのことながら水遊びも出来る環境での依頼ということで、水着をしっかりと用意している。万が一子どもたちに危険が迫っても大丈夫なように――というのがたてまえだが、暑い夏の盛りに海に行くなんて、まったくもってレジャーもいいところだ。子どもたちと一緒に楽しむことができるようにとバーベキューの準備も万端万全。
冒険都市リゼリオは海に囲まれている環境ではあるが、子供が安心して遊べる海岸となるとある程度限られてくる。その中で子どもたちが選んだのは、白い砂が美しい、静かな浜辺だった。見ているだけで心がどこか弾んでくる。
「……海遊び、ね。今思えば、んなことした覚えがねぇな……」
そうつぶやいたのはマルク・D・デメテール(ka0219)。どこか斜に構えたようなその言動は、子どもからすれば少し怖いものかもしれない。けれどその胸のうちでは誰よりも子どもたちを気遣っていた。
マルク自身は幼少時、家庭の事情などもあってそんなふうに無邪気に遊んだという記憶が無い。
(俺がこいつらぐらいの時は何してたんだかな……)
と、後ろから見慣れた顔がヒョイッと現れた。彼が育った孤児院の仲間のひとり、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)だ。言葉を発することのできないために手にはいつも単語カードやスケッチブックを持っている彼女なのだが、今はそれを手放している。濡れてしまうと使うことができないからだ。それでもエヴァはくったくのない笑顔を彼に向け、そして手をひらひらと振った。ふいっとその周囲を見てみれば、金髪碧眼の女性が子どものように目を輝かせていた。リアルブルー出身の記憶喪失者、響ヶ谷 玲奈(ka0028)である。
「これが海……感激でどうにかなってしまいそうだ」
浜辺にはすでに水着姿のものもけっこう多い。彼女も同様で、事前に買い求めていた水着をその身につけていた。たしかに先にも記したとおり、リゼリオは海に近い都市ではあるが、水遊びに適した場所となると限られてくる。ハンターとしての生活に忙殺されて、こんな場所に来ることなんてなかなかなかったものは多いのだ。
「ねえ、これ似合ってるかな」
クリムゾンブラッドで出来た初めての友人に玲奈が尋ねると、エヴァが顔を真っ赤にして何度も何度も頷く。
(レナ! レナ、可愛い!!)
その喜びが玲奈にも伝わったのだろう、照れくさそうに彼女も微笑んだ。そして玲奈の方も負けじとエヴァの水着姿を褒めちぎる。
「エヴァもいつにも増してなんて美しいんだ。妖精と見間違えてしまいそうだよ!」
少女二人のはしゃぎようと言ったら言葉にし尽くせない。その横でトライフ・A・アルヴァイン(ka0657)は細身の体にパーカーをしっかり羽織ったまま苦笑する。準備のための買い物に付き合った――というより付き合わされたトライフ、魅力的な水着姿を見るくらいの役得は必要だ。
「水着、よく似合ってるよ。とても魅力的だ。陳腐な表現だけど、玲奈、君は人魚のように美しいね」
そう言いながら視線をチラチラと玲奈の肢体に送る。眼福というのはまさにこのことを指すのだろう、トライフはどこか嬉しそう。その横で少しぶすくれているエヴァにはぞんざいな褒め言葉を述べたら、彼女に蹴飛ばされた上に水に沈められた。……ハンターは男性だから女性だからと言っての膂力の大きな差は発生しないので、こんなこともまあありうる。
「こらこら、いくらその男が俗物だからって窒息する前に止めてあげ給えよ?」
玲奈も止める言葉を口にしつつ、その内容は刺激的にも思えるものだ。まあ、少女という生き物はそんなもの。
一瞬子どもたちはぽかんと見ていたが、すぐにクスクスと明るく笑った。
無論、海辺でハイテンションになっているのは彼らだけではない。
「わぁ~い、海だぁ♪」
無邪気にそうはしゃぐのはビキニ水着に身を包んだメガネっ娘、松岡 奈加(ka0988)も同様だ。そのまま海に突撃しようとしていたのを、たまたま近くにいた天川 麗美(ka1355)が慌てて止める。
「子どもたちのお手本にもならなきゃいけなんだから、まずは準備体操もしなくちゃですよぉ?」
そして子どもたちにそのまま向き直ると、ニッコリと笑って自己紹介。
「良い子のみんなー、レミちゃんせんせーですよぉ。今日はよろしくねぇ」
彼らの仕事は子どもたちの警護だけではない。最終的に子どもたちに楽しい思い出を作ってもらうこと、それがなによりも大事なのだ。だからこそ、麗美も先生役をかって出て、思い出づくりのお手伝いをする。
「そうだな、命だけ守ればいいってものじゃないか……よし、みんなと遊ぶか!」
中性的な顔立ちをした好青年ユリアン(ka1664)が、念の為の事態でも対処できるようにと水着姿の腿にナイフを括りつけた状態でにっかりと歯を見せて笑う。その横ではやや胡散臭い雰囲気がどことなく漂う黒髪碧眼のエルフ青年アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)も、ニンマリ。
「今回は依頼アリガトウ。僕、喜ンデ子どもたちト遊び……見守るカラネ☆」
子どもたちの親にもきちんと挨拶を済ませてきたとは言うが、その胡散臭い雰囲気はどうにも拭えない。しかしその喜びはたしかに本物だ。なぜならば彼自身が幼少期に軟禁に近い生活を送っていたから。複雑な幼少時代ゆえに、なおのこと海が目新しく感じるのだ。新鮮な驚きを目に宿し、アルヴィンはいそいそと支度をする。
そんな姿を苦笑交じりながらも微笑ましく見つめているのはアルヴィンの悪友エアルドフリス(ka1856)。子どもたちのささやかな願いを叶えてやりたいというエアルドフリスだが、今回は世間知らずな面もあるアルヴィンが何をするかわからないということで興味半分警戒半分というのがその実情だ。発動体の指輪をつけ、水着にローブをまとうという怪しさ抜群の姿だが、その胸にあるのは皆と同じ、子どもたちの幸せ。
「向こうに見える浮きよりも沖へは行かんように。急に深くなっている場所があるからな」
こどもたちやアルヴィンも含めた仲間たちにそう忠告し、万が一の事故が発生しないようにと心配りを忘れない。
なにしろ、他にも海初心者といえる人は数多い。普段の生活にかまけて周囲に気を配る余裕も少ないという良い証拠なのだろうが、しかし共通して言えることはそんな面々の誰もが、海を楽しみにしているということだった。その多くが、アルメイダ(ka2440)のように、その広大さの虜になっている者たちだ。想像以上の広さに、口をぽかんと開けてしまう。
またその一方で、その美しい青に心惹かれるものも多い。
(あの青は……如何して青何だろ……空も青い、から……?)
天涯孤独の少女nil(ka2654)が、ぼんやりとそう考える。それまで名前に込められた意味と同様に「ないもの」として扱われていた少女が自由を得て感じる思いはまだまだどこか希薄なものであるが、そんな彼女でも思うことがある。
それは、綺麗なものを綺麗だと素直に感じる心だ。
(綺麗なものは、青いのかな……だけれど、緑の木々も綺麗と思う……不思議、ね)
そんなことを思いながら、打ち寄せる波を静かに見つめていた。
「ねえねえ、おねえちゃんたちはあそばないの?」
首を傾げながら、無邪気な声でハンターに問いかける子どもたち。
「一応警護だからね。でも、楽しんでもらえるようにするつもりだよ」
デリンジャーを腰に下げたまま、そんなことを言うのは白銀の髪も美しい細身の少女――もとい女装少年のエリス・カルディコット(ka2572)。家庭の事情もあって普段から女性として生活をしているエリスだが、さすがに水着になってしまうと男性だということが一目瞭然。パーカーとショートパンツという中性的なファッションで、今回の依頼を完遂するつもりだ。さっと波打ち際に駆け寄り、ぱしゃっと水をはねさせる。
「準備体操が終わったらいらっしゃい。水が冷たくて気持ちいいですよ?」
「うんっ!」
子どもたちも嬉しそうに頷いた。
「こっちでは大きな西瓜を用意してあるぞ! 冷やして、あとで食べるのだ♪」
そんなことを嬉しそうに言うのは今回の参加者の中でもまだ幼いオンサ・ラ・マーニョ(ka2329)。同世代の依頼人たちに親近感を抱いているのか、さっそくナナとルーチェに水着を持ってきているか尋ねる。女の子にとっては水辺のおしゃれも重要だ。オンサの水着は白いビキニ、ナナとルーチェは揃いのフリル付きワンピースだ。
「おお、可愛いな。色違いなのか」
ナナは少し大人びた雰囲気のする青で、ルーチェは可愛らしいピンク色。さて着替えようかと準備をしていたところ、オンサの持っていた荷物の中から白い何かが転がりだし、彼女は慌ててそれを拾い上げる。
「それ……おむつ?」
年少の少女に問われて顔を赤くするが、気を取り直して頷く。むしろ打ち明けてしまったほうが仲良くなれるかもしれないと判断したのだ。
「いやな、我はまだ寝小便が治らんでな……恥ずかしい話だが」
「ううん、ハンターさんでもまだそういう人がいるなら、それはそれでちょっと嬉しいなっ」
明るい声でナナが言う。そしてこっそり、ナナはハンターになりたいということも打ち明けた。
「そうか。難しいかもしれぬが、我は応援しているぞ♪」
幼いハンター志願者と、握手をかわすオンサであった。
●
「にしても、海か。俺の故郷にゃなかったがね」
感慨深げに海を眺めて葉巻を燻らせているナハティガル・ハーレイ(ka0023)が、そんなことをポツリと呟く。
故郷――それはもはや彼の記憶の中にしか存在しない。既に、喪われた場所だ。そんな感傷にわずかに浸るが直ぐに気を取り直した。
「バーベキューをするんだったな。それなら魚の調達でも……と思ったが、持ち込みオンリーじゃ仕方ねぇな」
そしてまた、自嘲気味に笑う。狩猟本能は磨きを増すばかりで、そんな自分に思わず苦笑してしまうのだ。
はじめての海に興奮しないわけではない。だが、無邪気な子ども達の遊ぶ姿を見ていると、どうにも胸の奥がちりちりとする。
(……俺もガキの頃は、あいつ等みてぇに仲間と遊んでたっけか)
海というのは感傷も引き出すのだろうか、そんな思いが頭をよぎった。
今日ばかりは歪虚のことも忘れて遊ぶのもいいだろう――そんな言葉と一緒に。
さてそんな中、『お嬢様』のメイドであるアミグダ・ロサ(ka0144)はなにをしているかというと――リサーチだった。目的は、『次のサーカステント設営地の下見』。海岸付近の治安や施設・商店の実態を事細かにメモしていく。彼女にとってこれは職務。依頼内容と同じくらい大事なことなのだ。
とは言っても、この海岸はリゼリオの外れにある風光明媚な場所。周囲に店舗も少なく、穏やかな時間の過ぎていく静かな浜辺だ。
「こういう場所も、リゼリオのごく近くにあるものなのですね」
思わずそんな言葉が漏れてしまうほどに、そこは穏やかで。思わず目を細め、アミグダは口の端をきゅっとつり上げた。
「……さ、そろそろ海にも行ってみましょうか」
無論ここでも調査は続けるけれど、『やさしいおねえさん』はそんな形で手に入れた情報を悪いことに使うつもりはない。子どもたちの無邪気な笑顔に、アミグダは手を振った。
蒼いワンピース水着を見につけ、護身用のバタフライナイフを小脇に忍ばせている天竜寺 舞(ka0377)は、まるで子どもが遊んでいるかのように砂で城を作っている。無論、クオリティはずいぶんと高いが。
「お姉ちゃんよりもすごいもの、みんなに作れるかな?」
そう挑発めいた言葉を口にすれば、負けず嫌いそうな少年たちが対抗心をむき出しにして、せっせと砂のオブジェクト作りに挑戦。そんな様子を見て、
(リアルブルーもクリムゾンウェストも、子どもたちって変わらないなあ)
そんなことをぼんやりと思う。心がどこかやわらかく暖かく、そんな心持になる。とくに舞も妹を持つ身として、ポールとルーチェのきょうだいにエールを送りたくなるのだった。
その脇ではまた別の少女、明るさがとりえの超級まりお(ka0824)も砂の城づくりに挑戦している。
「わー、この城もすごいな」
少年たちが目を丸くさせているのを見て、まりおはどことなく嬉しそう。
「ここには亀の魔王に捕らえられたお姫様がいるんだよ♪」
そんなことを説明するが、少年たちはピンと来ないようだ。同じリアルブルー出身の舞はまりおの作っている城がリアルブルーで一世を風靡したゲームの設定だということに気づき、クスクスと笑う。
「おや、ずいぶん立派ですね」
そこへ話しかけてきたのはユキヤ・S・ディールス(ka0382)。柔和な微笑みを浮かべた、どこか儚げな少年とも青年とも付かない頃合いの人物だ。ひざ上までたくし上げたズボン姿で、どうやらあちこちの見回りをしているらしい。
「うん。子どもたちに負けられないからね」
「そうそう、それに砂の城にはロマンがある」
舞とまりおは口々に言って笑う。ユキヤはそれを聞いてまたふわりと微笑むと、なるほどとばかりに頷いた。そして、ぼんやりと虚空に視線を彷徨わせる。
「なにをみているの?」
最年少のヒイロが首を傾げると、
「海の向こう、空の向こうを見ているんだよ」
なぞめいた口ぶりで、ユキヤは囁く。水平線のその向こう、遥か彼方を指さしながら。
「海の向こうや空の向こう……一体、何があるんだろうね」
質問ともなんともつかない、その言葉。まだ見ぬ何かを想像するのはちょっと楽しいよ、とそう微笑してみれば、そのそばにふと現れたニルが
「……うん、それも不思議、ね……」
そう頷いて。それにつられたのか、ジョーも真似をして遠くをぼんやりと見つめた。
「まあ、子どもは戦いとかそういう難しいことを気にせずに、遊ぶときはしっかり遊ばないとね。そうしないと、将来ひねくれた性格になっちゃうものよ」
そう明るく笑ったのは謎多き『Bee一族』を名乗る少女、その名もJyu=Bee(ka1681)。長い金髪をポニーテールにした美少女――なのだが、その実態は中二病である。
彼女が実はすでにひねくれているのではないかとか、そんなことは口にしてはいけない。
そんなジュウベエだが、子どもたちに明るい声で呼びかけた。
「はーい、良い子のみんなー! 水泳教室、はっじまるわよー!」
その声に、子どもたちはもちろんだがハンターたちも目をきょとんとさせる。ハンターの中には泳ぐことのできないものももちろんいるわけで、そんな人々は主に耳をそばだてたようだ。さらにもう一人、ホルターネックの水着に身を包んだ麗美も、
「はーい、レミちゃんせんせーもいますよぉー。一緒に楽しみましょうねぇ」
そんなことを、持参したバナナボートを準備しながら朗らかに言う。
(お仕事のついでに水遊びもできるなんて、ラッキーってカンジぃ?)
普段は修道服に身を包んでいる彼女だが、遊べる時はしっかり遊ぶのもやはり大事。それに『優しいシスター』たる彼女としては、子どもたちの幸せを望んでいるのだ。
「ええっ、泳ぐのー?」
子どものひとり、ジョーがちょっと疲れた声でつぶやく。ひょろりとした彼は、どうやら運動全般が得意でないらしい。けれどそれよりも楽しみにしていたハンターも少なくなくて、海に慣れていないアルヴィンや、まだ幼いオンサのようなものは諸手を上げて喜んだ。無邪気な笑顔が、眩しいくらいに。
●
いっぽう、一部のハンターたちは休憩の際に食べられるようにとバーベキューの支度をしていた。
銀 桃花(ka1507)は材料としてソーセージや野菜類を食べやすく切ってあるものを持参していた。
(切ってある状態なら、砂浜で必要以上にゴミを出したりもしないもんね)
海水溜まりにはデザートに持ってきた果物も冷やしている。スイカ割りも楽しいだろうが、冷やして食べるだけでも十分美味しいだろう。
どこか上品な雰囲気ただよう青年ユリアンは、汗をかいているであろうみんなのために飲み物を準備する。紅茶と緑茶の水出しは、どちらも乾いた喉を潤すにはちょうどよい。必要な器具も借り受けてあるから、バーベキューの支度も滞り無く進んでいく。
「ここって、こんな感じでいいかなー?」
アリア(ka2394)が声を上げて仲間たちに尋ねる。
「ああ、いいんじゃないか」
かまどの準備をしていたエアルドフリスがコクリと頷いてみせた。が、ふと海の方を見て大声を上げた。
「アルヴィン! あんた、そんなんじゃあどっちが子どもなんだかわからんじゃないか!」
――アルヴィンはウサギさんの浮き輪に乗っかって、はしゃいでいた。慌てて捕まえて、かまどの準備を手伝わせる。
「モー、後でゼッタイ遊ブんダカラ!」
ぷうっと膨れるアルヴィンだが、ふと思いついていもとバターを使ったホイル焼きをいそいそと準備し始めた。
調理の下ごしらえは他にも何人かが名乗りを上げている。かまどの方を見てみれば、簡単にできるチーズフォンデュの支度までされていて、食べ物は万全という感じだ。
「そろそろ皆を呼ぼうか。唇が紫になっちゃうだろうし」
そんな声がでて、バーベキュータイムと相成った。
「おいしーい!」
「うん、すっごーくおいしい!」
子どもたちは手放しに喜んで、バーベキューに舌鼓をうつ。
「デザートもたっぷりあるから、お腹いっぱい食べ過ぎないようにね」
ユリアンがそう言って微笑めば、
「……夏場はよく焼かないと」
その一方でウェルダンを通り越しかけた肉をまだ焼いているのは静架(ka0387)。休憩用のテントの設営もしてくれた青年だが、サバイバル知識を叩きこまれた幼少期を過ごしていたせいか、肉も野菜も日を十分通した――いや通しすぎた状態でないと口にしない。言葉遣いは丁寧を心がけてるが、もともと感情を表現するのが苦手なこともあってどうにも不器用な青年だ。
「そうそう、こんなものを持ってきたんですよ」
見れば手回しのかき氷器がそこにある。氷も保冷庫に入れて準備してあるようだ。
「これはなに?」
「リアルブルーで夏の定番になっている氷菓です。細かく削った氷にシロップを掛けて食べるんですよ」
氷菓子まであるなんて、と子どもたちは嬉しそう。暑い季節に食べる氷菓なんて、嬉しいに決まっている。
「でも、遊ぶために護衛を雇うなんて、よく考えましたね」
熱中症の予防にミネラルウォーターを配りながら、フィル・サリヴァン(ka1155)が関心したように微笑むと、少年たちはニンマリと笑った。
「だって、遊べる時に遊ばないのって損だし。それに、ハンターってかっこいいもんっ」
子どもたちは嬉しい事を言ってくれる。お世辞を言うということも知らないだろから、それは掛け値なしの本心だろう。ハンターたちはさすがに照れくさいが、そう言ってくれる子どもたちの存在は、やはり彼らのやる気の源になってくれるのだ。
「マシュマロを焼いてビスケットに挟むのも美味しいよ」
ユリアンもそんなデザートを提供すれば、いっぽうで
「あー、こんな時はビールでも持ってくればよかった」
といって苦笑するアルメイダのようなものもいて。そんなやりとりを聞いて、ハンターたちもまた笑った。
●
休憩も終われば、また水際ではしゃぐ少年少女たち。
「水、掛けあったりするの?」
子どもたちにニルはそんなことを問いかけて。子どもたちは頷くと、ニルにもパシャリと水をかけてやる。一瞬彼女はぽかんとしたけれど、納得したらしい。
「……お返し」
そんなふうに言いながら、水を掛けかえす。
(……ちょっと、面白い)
海の楽しさが全部わかったわけじゃないけれど。
ニルにはその気持だけで、十分だった。
「あ、ナナちゃん、ルーチェちゃん」
少女二人に声をかけるのは銀花。手にした小瓶を小さく振って、集めているものを見せてやる。
「ほら、見て。こんな風にきれいな貝殻を集めて、後でネックレスにするの」
綺麗で可愛い物はどこの世界でも女の子の目には魅力的に映るもの。奈加もやってきて、
「ほらっ、これも綺麗だよ♪ うんっ、髪飾りにしてもきっと似合うね~♪」
そう言いながら、器用に少女たちの髪に飾り付けてやる。
「わあっ、かわいいっ」
「これ、あたしももってかえりたい~」
少女たちもすっかり心を奪われたようだ。
「こっちの方に、綺麗な貝は他にもあるよ」
泳ぐよりもこちらのほうが楽しいらしい。目を輝かせながら貝殻を拾い集めるその姿は、やんちゃな子どもというよりもおしゃれ好きな女の子という雰囲気でたっぷりだった。
子どもたちがそうやってハンターとはしゃいでいる姿を見て、縞パン風の水着とセーラー襟のパーカーを身につけた長髪の少年――時音 ざくろ(ka1250)が、ギルド【冒険拠点『蒼海の理想郷』】の仲間であるアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)を伴って歩いている。もともと着痩せするタイプのアデリシアは本人の体格と比べるとやや小さめの白い、所謂スクール水着を身につけていて、ざくろの目にはそれが眩しい。ちなみにざくろの水着は実は男物ではないのだが、本人は幸か不幸か気づいていない。
「せっかく来たんだし、一緒に……」
見た目はどんなに中性的でもざくろは男の子。こんな時こそエスコートしたいといきがってみたものの、ずいぶんとガチガチだ。
「ざくろさん、無理しないでいいんですよ」
「ううん、だいじょうぶだよ。だってざくろ、男だもんっ」
穏やかな笑みを浮かべたままアデリシアがそう言ってはみるものの、ざくろとしてはそういうわけにいかないと思ってしまう。普段から中性的に見られがちな彼にとって、こういうところでかっこいいところを見せたいという気持ちもわからなくはない。が、
「あっ」
砂に足を取られ、ざくろは滑ってしまった。思わずアデリシアの腕を強く掴み、そのままもつれ込むようにして転んでしまった。――気がつけば、ざくろの目の前にはアデリシアの女性的な発育の良い肢体。アデリシアの方はくすりと微笑むが、ざくろは顔を真っ赤にするばかりで、まさにざくろの実のような色になって慌ててそっぽを向く。
「ざくろさん、大丈夫ですか」
アデリシアの問いかけに、ざくろは赤面するばかりだった。
●
そんなこんなをしているうちに、あっという間に太陽は赤みを増していく。
「きょうはありがとうございました」
子どもたちを代表して、アンディがペコリと挨拶をする。
「ううん、楽しかったからいいんだよ」
ハンターたちがそう言って笑うが、子どもたちは自分たちのために一緒に遊んでくれたハンターたちにひどく感謝をしているようだった。
「報酬なんてもらえないくらい、こちらも楽しませてもらったのよ♪ だから、気にしないで」
奈加が言うのももっともではあるが、そこはそれ。報酬こそ僅かではあるが、これはあくまでも『依頼』なのだから。
「それよりもおにいちゃんたち、おねがいがあるの」
ウォルターがあどけない口ぶりで、ハンターたちに言う。
「らいねんもそのつぎのとしも、ずーっとずーっとあそべるように、歪虚や雑魔をやっつけちゃってね、やくそくだよ」
それは未来のための約束。無論まだ、どうなるかはわからないが……その約束を果たしたいと思うハンターがほとんどだろう。だから、彼らは頷いた。
「みんながもっと平和に暮らせるように、俺達が頑張るからな」
そう言いながら握手を交わす。
その約束が叶いますようにと、そう祈りながら――。
よく晴れた日の朝――。
いま、七人の子どもたち――彼らが今回の依頼人、というわけだが――は、瞳をキラキラと輝かせてハンターたちを見つめている。
歪虚の出没が懸念される水辺で自分たちが遊びたいからという実にシンプルな動機でハンターズソサエティに半ば無理を承知でお願いをしたところ、彼らは快くハンターを手配してくれることを約束してくれたのだ。
それも、自分たちの想像を超える人数を。種族も何もかも様々で、自分たちと同じくらいの年頃のハンターもいれば、父親よりも年上に見えるかもしれないハンターもいる。
「きょうはよろしくおねがいします!」
少年少女は、元気いっぱいの声でそう挨拶をした。
――とはいえ、海での遊びに胸を高鳴らせているのは子どもたちばかりではない。ハンターたちも、警護はもちろんのことながら水遊びも出来る環境での依頼ということで、水着をしっかりと用意している。万が一子どもたちに危険が迫っても大丈夫なように――というのがたてまえだが、暑い夏の盛りに海に行くなんて、まったくもってレジャーもいいところだ。子どもたちと一緒に楽しむことができるようにとバーベキューの準備も万端万全。
冒険都市リゼリオは海に囲まれている環境ではあるが、子供が安心して遊べる海岸となるとある程度限られてくる。その中で子どもたちが選んだのは、白い砂が美しい、静かな浜辺だった。見ているだけで心がどこか弾んでくる。
「……海遊び、ね。今思えば、んなことした覚えがねぇな……」
そうつぶやいたのはマルク・D・デメテール(ka0219)。どこか斜に構えたようなその言動は、子どもからすれば少し怖いものかもしれない。けれどその胸のうちでは誰よりも子どもたちを気遣っていた。
マルク自身は幼少時、家庭の事情などもあってそんなふうに無邪気に遊んだという記憶が無い。
(俺がこいつらぐらいの時は何してたんだかな……)
と、後ろから見慣れた顔がヒョイッと現れた。彼が育った孤児院の仲間のひとり、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)だ。言葉を発することのできないために手にはいつも単語カードやスケッチブックを持っている彼女なのだが、今はそれを手放している。濡れてしまうと使うことができないからだ。それでもエヴァはくったくのない笑顔を彼に向け、そして手をひらひらと振った。ふいっとその周囲を見てみれば、金髪碧眼の女性が子どものように目を輝かせていた。リアルブルー出身の記憶喪失者、響ヶ谷 玲奈(ka0028)である。
「これが海……感激でどうにかなってしまいそうだ」
浜辺にはすでに水着姿のものもけっこう多い。彼女も同様で、事前に買い求めていた水着をその身につけていた。たしかに先にも記したとおり、リゼリオは海に近い都市ではあるが、水遊びに適した場所となると限られてくる。ハンターとしての生活に忙殺されて、こんな場所に来ることなんてなかなかなかったものは多いのだ。
「ねえ、これ似合ってるかな」
クリムゾンブラッドで出来た初めての友人に玲奈が尋ねると、エヴァが顔を真っ赤にして何度も何度も頷く。
(レナ! レナ、可愛い!!)
その喜びが玲奈にも伝わったのだろう、照れくさそうに彼女も微笑んだ。そして玲奈の方も負けじとエヴァの水着姿を褒めちぎる。
「エヴァもいつにも増してなんて美しいんだ。妖精と見間違えてしまいそうだよ!」
少女二人のはしゃぎようと言ったら言葉にし尽くせない。その横でトライフ・A・アルヴァイン(ka0657)は細身の体にパーカーをしっかり羽織ったまま苦笑する。準備のための買い物に付き合った――というより付き合わされたトライフ、魅力的な水着姿を見るくらいの役得は必要だ。
「水着、よく似合ってるよ。とても魅力的だ。陳腐な表現だけど、玲奈、君は人魚のように美しいね」
そう言いながら視線をチラチラと玲奈の肢体に送る。眼福というのはまさにこのことを指すのだろう、トライフはどこか嬉しそう。その横で少しぶすくれているエヴァにはぞんざいな褒め言葉を述べたら、彼女に蹴飛ばされた上に水に沈められた。……ハンターは男性だから女性だからと言っての膂力の大きな差は発生しないので、こんなこともまあありうる。
「こらこら、いくらその男が俗物だからって窒息する前に止めてあげ給えよ?」
玲奈も止める言葉を口にしつつ、その内容は刺激的にも思えるものだ。まあ、少女という生き物はそんなもの。
一瞬子どもたちはぽかんと見ていたが、すぐにクスクスと明るく笑った。
無論、海辺でハイテンションになっているのは彼らだけではない。
「わぁ~い、海だぁ♪」
無邪気にそうはしゃぐのはビキニ水着に身を包んだメガネっ娘、松岡 奈加(ka0988)も同様だ。そのまま海に突撃しようとしていたのを、たまたま近くにいた天川 麗美(ka1355)が慌てて止める。
「子どもたちのお手本にもならなきゃいけなんだから、まずは準備体操もしなくちゃですよぉ?」
そして子どもたちにそのまま向き直ると、ニッコリと笑って自己紹介。
「良い子のみんなー、レミちゃんせんせーですよぉ。今日はよろしくねぇ」
彼らの仕事は子どもたちの警護だけではない。最終的に子どもたちに楽しい思い出を作ってもらうこと、それがなによりも大事なのだ。だからこそ、麗美も先生役をかって出て、思い出づくりのお手伝いをする。
「そうだな、命だけ守ればいいってものじゃないか……よし、みんなと遊ぶか!」
中性的な顔立ちをした好青年ユリアン(ka1664)が、念の為の事態でも対処できるようにと水着姿の腿にナイフを括りつけた状態でにっかりと歯を見せて笑う。その横ではやや胡散臭い雰囲気がどことなく漂う黒髪碧眼のエルフ青年アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)も、ニンマリ。
「今回は依頼アリガトウ。僕、喜ンデ子どもたちト遊び……見守るカラネ☆」
子どもたちの親にもきちんと挨拶を済ませてきたとは言うが、その胡散臭い雰囲気はどうにも拭えない。しかしその喜びはたしかに本物だ。なぜならば彼自身が幼少期に軟禁に近い生活を送っていたから。複雑な幼少時代ゆえに、なおのこと海が目新しく感じるのだ。新鮮な驚きを目に宿し、アルヴィンはいそいそと支度をする。
そんな姿を苦笑交じりながらも微笑ましく見つめているのはアルヴィンの悪友エアルドフリス(ka1856)。子どもたちのささやかな願いを叶えてやりたいというエアルドフリスだが、今回は世間知らずな面もあるアルヴィンが何をするかわからないということで興味半分警戒半分というのがその実情だ。発動体の指輪をつけ、水着にローブをまとうという怪しさ抜群の姿だが、その胸にあるのは皆と同じ、子どもたちの幸せ。
「向こうに見える浮きよりも沖へは行かんように。急に深くなっている場所があるからな」
こどもたちやアルヴィンも含めた仲間たちにそう忠告し、万が一の事故が発生しないようにと心配りを忘れない。
なにしろ、他にも海初心者といえる人は数多い。普段の生活にかまけて周囲に気を配る余裕も少ないという良い証拠なのだろうが、しかし共通して言えることはそんな面々の誰もが、海を楽しみにしているということだった。その多くが、アルメイダ(ka2440)のように、その広大さの虜になっている者たちだ。想像以上の広さに、口をぽかんと開けてしまう。
またその一方で、その美しい青に心惹かれるものも多い。
(あの青は……如何して青何だろ……空も青い、から……?)
天涯孤独の少女nil(ka2654)が、ぼんやりとそう考える。それまで名前に込められた意味と同様に「ないもの」として扱われていた少女が自由を得て感じる思いはまだまだどこか希薄なものであるが、そんな彼女でも思うことがある。
それは、綺麗なものを綺麗だと素直に感じる心だ。
(綺麗なものは、青いのかな……だけれど、緑の木々も綺麗と思う……不思議、ね)
そんなことを思いながら、打ち寄せる波を静かに見つめていた。
「ねえねえ、おねえちゃんたちはあそばないの?」
首を傾げながら、無邪気な声でハンターに問いかける子どもたち。
「一応警護だからね。でも、楽しんでもらえるようにするつもりだよ」
デリンジャーを腰に下げたまま、そんなことを言うのは白銀の髪も美しい細身の少女――もとい女装少年のエリス・カルディコット(ka2572)。家庭の事情もあって普段から女性として生活をしているエリスだが、さすがに水着になってしまうと男性だということが一目瞭然。パーカーとショートパンツという中性的なファッションで、今回の依頼を完遂するつもりだ。さっと波打ち際に駆け寄り、ぱしゃっと水をはねさせる。
「準備体操が終わったらいらっしゃい。水が冷たくて気持ちいいですよ?」
「うんっ!」
子どもたちも嬉しそうに頷いた。
「こっちでは大きな西瓜を用意してあるぞ! 冷やして、あとで食べるのだ♪」
そんなことを嬉しそうに言うのは今回の参加者の中でもまだ幼いオンサ・ラ・マーニョ(ka2329)。同世代の依頼人たちに親近感を抱いているのか、さっそくナナとルーチェに水着を持ってきているか尋ねる。女の子にとっては水辺のおしゃれも重要だ。オンサの水着は白いビキニ、ナナとルーチェは揃いのフリル付きワンピースだ。
「おお、可愛いな。色違いなのか」
ナナは少し大人びた雰囲気のする青で、ルーチェは可愛らしいピンク色。さて着替えようかと準備をしていたところ、オンサの持っていた荷物の中から白い何かが転がりだし、彼女は慌ててそれを拾い上げる。
「それ……おむつ?」
年少の少女に問われて顔を赤くするが、気を取り直して頷く。むしろ打ち明けてしまったほうが仲良くなれるかもしれないと判断したのだ。
「いやな、我はまだ寝小便が治らんでな……恥ずかしい話だが」
「ううん、ハンターさんでもまだそういう人がいるなら、それはそれでちょっと嬉しいなっ」
明るい声でナナが言う。そしてこっそり、ナナはハンターになりたいということも打ち明けた。
「そうか。難しいかもしれぬが、我は応援しているぞ♪」
幼いハンター志願者と、握手をかわすオンサであった。
●
「にしても、海か。俺の故郷にゃなかったがね」
感慨深げに海を眺めて葉巻を燻らせているナハティガル・ハーレイ(ka0023)が、そんなことをポツリと呟く。
故郷――それはもはや彼の記憶の中にしか存在しない。既に、喪われた場所だ。そんな感傷にわずかに浸るが直ぐに気を取り直した。
「バーベキューをするんだったな。それなら魚の調達でも……と思ったが、持ち込みオンリーじゃ仕方ねぇな」
そしてまた、自嘲気味に笑う。狩猟本能は磨きを増すばかりで、そんな自分に思わず苦笑してしまうのだ。
はじめての海に興奮しないわけではない。だが、無邪気な子ども達の遊ぶ姿を見ていると、どうにも胸の奥がちりちりとする。
(……俺もガキの頃は、あいつ等みてぇに仲間と遊んでたっけか)
海というのは感傷も引き出すのだろうか、そんな思いが頭をよぎった。
今日ばかりは歪虚のことも忘れて遊ぶのもいいだろう――そんな言葉と一緒に。
さてそんな中、『お嬢様』のメイドであるアミグダ・ロサ(ka0144)はなにをしているかというと――リサーチだった。目的は、『次のサーカステント設営地の下見』。海岸付近の治安や施設・商店の実態を事細かにメモしていく。彼女にとってこれは職務。依頼内容と同じくらい大事なことなのだ。
とは言っても、この海岸はリゼリオの外れにある風光明媚な場所。周囲に店舗も少なく、穏やかな時間の過ぎていく静かな浜辺だ。
「こういう場所も、リゼリオのごく近くにあるものなのですね」
思わずそんな言葉が漏れてしまうほどに、そこは穏やかで。思わず目を細め、アミグダは口の端をきゅっとつり上げた。
「……さ、そろそろ海にも行ってみましょうか」
無論ここでも調査は続けるけれど、『やさしいおねえさん』はそんな形で手に入れた情報を悪いことに使うつもりはない。子どもたちの無邪気な笑顔に、アミグダは手を振った。
蒼いワンピース水着を見につけ、護身用のバタフライナイフを小脇に忍ばせている天竜寺 舞(ka0377)は、まるで子どもが遊んでいるかのように砂で城を作っている。無論、クオリティはずいぶんと高いが。
「お姉ちゃんよりもすごいもの、みんなに作れるかな?」
そう挑発めいた言葉を口にすれば、負けず嫌いそうな少年たちが対抗心をむき出しにして、せっせと砂のオブジェクト作りに挑戦。そんな様子を見て、
(リアルブルーもクリムゾンウェストも、子どもたちって変わらないなあ)
そんなことをぼんやりと思う。心がどこかやわらかく暖かく、そんな心持になる。とくに舞も妹を持つ身として、ポールとルーチェのきょうだいにエールを送りたくなるのだった。
その脇ではまた別の少女、明るさがとりえの超級まりお(ka0824)も砂の城づくりに挑戦している。
「わー、この城もすごいな」
少年たちが目を丸くさせているのを見て、まりおはどことなく嬉しそう。
「ここには亀の魔王に捕らえられたお姫様がいるんだよ♪」
そんなことを説明するが、少年たちはピンと来ないようだ。同じリアルブルー出身の舞はまりおの作っている城がリアルブルーで一世を風靡したゲームの設定だということに気づき、クスクスと笑う。
「おや、ずいぶん立派ですね」
そこへ話しかけてきたのはユキヤ・S・ディールス(ka0382)。柔和な微笑みを浮かべた、どこか儚げな少年とも青年とも付かない頃合いの人物だ。ひざ上までたくし上げたズボン姿で、どうやらあちこちの見回りをしているらしい。
「うん。子どもたちに負けられないからね」
「そうそう、それに砂の城にはロマンがある」
舞とまりおは口々に言って笑う。ユキヤはそれを聞いてまたふわりと微笑むと、なるほどとばかりに頷いた。そして、ぼんやりと虚空に視線を彷徨わせる。
「なにをみているの?」
最年少のヒイロが首を傾げると、
「海の向こう、空の向こうを見ているんだよ」
なぞめいた口ぶりで、ユキヤは囁く。水平線のその向こう、遥か彼方を指さしながら。
「海の向こうや空の向こう……一体、何があるんだろうね」
質問ともなんともつかない、その言葉。まだ見ぬ何かを想像するのはちょっと楽しいよ、とそう微笑してみれば、そのそばにふと現れたニルが
「……うん、それも不思議、ね……」
そう頷いて。それにつられたのか、ジョーも真似をして遠くをぼんやりと見つめた。
「まあ、子どもは戦いとかそういう難しいことを気にせずに、遊ぶときはしっかり遊ばないとね。そうしないと、将来ひねくれた性格になっちゃうものよ」
そう明るく笑ったのは謎多き『Bee一族』を名乗る少女、その名もJyu=Bee(ka1681)。長い金髪をポニーテールにした美少女――なのだが、その実態は中二病である。
彼女が実はすでにひねくれているのではないかとか、そんなことは口にしてはいけない。
そんなジュウベエだが、子どもたちに明るい声で呼びかけた。
「はーい、良い子のみんなー! 水泳教室、はっじまるわよー!」
その声に、子どもたちはもちろんだがハンターたちも目をきょとんとさせる。ハンターの中には泳ぐことのできないものももちろんいるわけで、そんな人々は主に耳をそばだてたようだ。さらにもう一人、ホルターネックの水着に身を包んだ麗美も、
「はーい、レミちゃんせんせーもいますよぉー。一緒に楽しみましょうねぇ」
そんなことを、持参したバナナボートを準備しながら朗らかに言う。
(お仕事のついでに水遊びもできるなんて、ラッキーってカンジぃ?)
普段は修道服に身を包んでいる彼女だが、遊べる時はしっかり遊ぶのもやはり大事。それに『優しいシスター』たる彼女としては、子どもたちの幸せを望んでいるのだ。
「ええっ、泳ぐのー?」
子どものひとり、ジョーがちょっと疲れた声でつぶやく。ひょろりとした彼は、どうやら運動全般が得意でないらしい。けれどそれよりも楽しみにしていたハンターも少なくなくて、海に慣れていないアルヴィンや、まだ幼いオンサのようなものは諸手を上げて喜んだ。無邪気な笑顔が、眩しいくらいに。
●
いっぽう、一部のハンターたちは休憩の際に食べられるようにとバーベキューの支度をしていた。
銀 桃花(ka1507)は材料としてソーセージや野菜類を食べやすく切ってあるものを持参していた。
(切ってある状態なら、砂浜で必要以上にゴミを出したりもしないもんね)
海水溜まりにはデザートに持ってきた果物も冷やしている。スイカ割りも楽しいだろうが、冷やして食べるだけでも十分美味しいだろう。
どこか上品な雰囲気ただよう青年ユリアンは、汗をかいているであろうみんなのために飲み物を準備する。紅茶と緑茶の水出しは、どちらも乾いた喉を潤すにはちょうどよい。必要な器具も借り受けてあるから、バーベキューの支度も滞り無く進んでいく。
「ここって、こんな感じでいいかなー?」
アリア(ka2394)が声を上げて仲間たちに尋ねる。
「ああ、いいんじゃないか」
かまどの準備をしていたエアルドフリスがコクリと頷いてみせた。が、ふと海の方を見て大声を上げた。
「アルヴィン! あんた、そんなんじゃあどっちが子どもなんだかわからんじゃないか!」
――アルヴィンはウサギさんの浮き輪に乗っかって、はしゃいでいた。慌てて捕まえて、かまどの準備を手伝わせる。
「モー、後でゼッタイ遊ブんダカラ!」
ぷうっと膨れるアルヴィンだが、ふと思いついていもとバターを使ったホイル焼きをいそいそと準備し始めた。
調理の下ごしらえは他にも何人かが名乗りを上げている。かまどの方を見てみれば、簡単にできるチーズフォンデュの支度までされていて、食べ物は万全という感じだ。
「そろそろ皆を呼ぼうか。唇が紫になっちゃうだろうし」
そんな声がでて、バーベキュータイムと相成った。
「おいしーい!」
「うん、すっごーくおいしい!」
子どもたちは手放しに喜んで、バーベキューに舌鼓をうつ。
「デザートもたっぷりあるから、お腹いっぱい食べ過ぎないようにね」
ユリアンがそう言って微笑めば、
「……夏場はよく焼かないと」
その一方でウェルダンを通り越しかけた肉をまだ焼いているのは静架(ka0387)。休憩用のテントの設営もしてくれた青年だが、サバイバル知識を叩きこまれた幼少期を過ごしていたせいか、肉も野菜も日を十分通した――いや通しすぎた状態でないと口にしない。言葉遣いは丁寧を心がけてるが、もともと感情を表現するのが苦手なこともあってどうにも不器用な青年だ。
「そうそう、こんなものを持ってきたんですよ」
見れば手回しのかき氷器がそこにある。氷も保冷庫に入れて準備してあるようだ。
「これはなに?」
「リアルブルーで夏の定番になっている氷菓です。細かく削った氷にシロップを掛けて食べるんですよ」
氷菓子まであるなんて、と子どもたちは嬉しそう。暑い季節に食べる氷菓なんて、嬉しいに決まっている。
「でも、遊ぶために護衛を雇うなんて、よく考えましたね」
熱中症の予防にミネラルウォーターを配りながら、フィル・サリヴァン(ka1155)が関心したように微笑むと、少年たちはニンマリと笑った。
「だって、遊べる時に遊ばないのって損だし。それに、ハンターってかっこいいもんっ」
子どもたちは嬉しい事を言ってくれる。お世辞を言うということも知らないだろから、それは掛け値なしの本心だろう。ハンターたちはさすがに照れくさいが、そう言ってくれる子どもたちの存在は、やはり彼らのやる気の源になってくれるのだ。
「マシュマロを焼いてビスケットに挟むのも美味しいよ」
ユリアンもそんなデザートを提供すれば、いっぽうで
「あー、こんな時はビールでも持ってくればよかった」
といって苦笑するアルメイダのようなものもいて。そんなやりとりを聞いて、ハンターたちもまた笑った。
●
休憩も終われば、また水際ではしゃぐ少年少女たち。
「水、掛けあったりするの?」
子どもたちにニルはそんなことを問いかけて。子どもたちは頷くと、ニルにもパシャリと水をかけてやる。一瞬彼女はぽかんとしたけれど、納得したらしい。
「……お返し」
そんなふうに言いながら、水を掛けかえす。
(……ちょっと、面白い)
海の楽しさが全部わかったわけじゃないけれど。
ニルにはその気持だけで、十分だった。
「あ、ナナちゃん、ルーチェちゃん」
少女二人に声をかけるのは銀花。手にした小瓶を小さく振って、集めているものを見せてやる。
「ほら、見て。こんな風にきれいな貝殻を集めて、後でネックレスにするの」
綺麗で可愛い物はどこの世界でも女の子の目には魅力的に映るもの。奈加もやってきて、
「ほらっ、これも綺麗だよ♪ うんっ、髪飾りにしてもきっと似合うね~♪」
そう言いながら、器用に少女たちの髪に飾り付けてやる。
「わあっ、かわいいっ」
「これ、あたしももってかえりたい~」
少女たちもすっかり心を奪われたようだ。
「こっちの方に、綺麗な貝は他にもあるよ」
泳ぐよりもこちらのほうが楽しいらしい。目を輝かせながら貝殻を拾い集めるその姿は、やんちゃな子どもというよりもおしゃれ好きな女の子という雰囲気でたっぷりだった。
子どもたちがそうやってハンターとはしゃいでいる姿を見て、縞パン風の水着とセーラー襟のパーカーを身につけた長髪の少年――時音 ざくろ(ka1250)が、ギルド【冒険拠点『蒼海の理想郷』】の仲間であるアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)を伴って歩いている。もともと着痩せするタイプのアデリシアは本人の体格と比べるとやや小さめの白い、所謂スクール水着を身につけていて、ざくろの目にはそれが眩しい。ちなみにざくろの水着は実は男物ではないのだが、本人は幸か不幸か気づいていない。
「せっかく来たんだし、一緒に……」
見た目はどんなに中性的でもざくろは男の子。こんな時こそエスコートしたいといきがってみたものの、ずいぶんとガチガチだ。
「ざくろさん、無理しないでいいんですよ」
「ううん、だいじょうぶだよ。だってざくろ、男だもんっ」
穏やかな笑みを浮かべたままアデリシアがそう言ってはみるものの、ざくろとしてはそういうわけにいかないと思ってしまう。普段から中性的に見られがちな彼にとって、こういうところでかっこいいところを見せたいという気持ちもわからなくはない。が、
「あっ」
砂に足を取られ、ざくろは滑ってしまった。思わずアデリシアの腕を強く掴み、そのままもつれ込むようにして転んでしまった。――気がつけば、ざくろの目の前にはアデリシアの女性的な発育の良い肢体。アデリシアの方はくすりと微笑むが、ざくろは顔を真っ赤にするばかりで、まさにざくろの実のような色になって慌ててそっぽを向く。
「ざくろさん、大丈夫ですか」
アデリシアの問いかけに、ざくろは赤面するばかりだった。
●
そんなこんなをしているうちに、あっという間に太陽は赤みを増していく。
「きょうはありがとうございました」
子どもたちを代表して、アンディがペコリと挨拶をする。
「ううん、楽しかったからいいんだよ」
ハンターたちがそう言って笑うが、子どもたちは自分たちのために一緒に遊んでくれたハンターたちにひどく感謝をしているようだった。
「報酬なんてもらえないくらい、こちらも楽しませてもらったのよ♪ だから、気にしないで」
奈加が言うのももっともではあるが、そこはそれ。報酬こそ僅かではあるが、これはあくまでも『依頼』なのだから。
「それよりもおにいちゃんたち、おねがいがあるの」
ウォルターがあどけない口ぶりで、ハンターたちに言う。
「らいねんもそのつぎのとしも、ずーっとずーっとあそべるように、歪虚や雑魔をやっつけちゃってね、やくそくだよ」
それは未来のための約束。無論まだ、どうなるかはわからないが……その約束を果たしたいと思うハンターがほとんどだろう。だから、彼らは頷いた。
「みんながもっと平和に暮らせるように、俺達が頑張るからな」
そう言いながら握手を交わす。
その約束が叶いますようにと、そう祈りながら――。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 12人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/09 23:39:58 |
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相談? 雑談? アルヴィン = オールドリッチ(ka2378) エルフ|26才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/08/10 00:27:23 |