雪に閉ざされた村から託された想い

マスター:真太郎

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2015/12/26 12:00
完成日
2016/01/03 02:19

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 延々と雪が降り続いていた。
「今年は雪が多いな」
 村人達も最初はその程度に思っていた。
 しかし雪のやまない日が1週間、10日、2週間、1ヶ月と長く続いてゆくにつれ、村人達の胸に不安が宿ってくる。
「この雪は何時やむのか……?」
 だが不安に苛まれても大自然を前に人は成す術もなく、ただ見守るしかない。
 しかし見守っているだけでは腹は膨れないし暖もとれない。
 日に日に備蓄の食料は減ってゆき、倉庫に保管してあった薪も暖炉の中で灰になってゆく。
 この村の住人は大半が老人であるため、雪の中で狩りや採集や薪割りのできる者は少ない。
 このまま雪が降り止まなければどうなるか?
 食料が尽きれば餓死。
 薪が尽きれば凍死が待っている。
 どちらも歓迎されない未来だ。
「早く雪がやんで欲しい……」
 それが村人達の切なる願いだったが、雪は2ヶ月経ってもやまなかった。

「俺が食料と薪を買ってくるよ!」
 村人の不安が高まる中、そう声を上げる者がいた。
 村で唯一の若者であるオビである。
 だが、オビはまだ13歳だ。
 深い雪に覆われているだろう山道へ送り出すのは不安があった。
 しかし村にはオビの他に雪深い山道を進めそうな者はいない。
 心配ではあったが、オビに託すしかなかった。
「任せてよ、じっちゃん、ばっちゃん」
 オビは村人の期待と不安と心配を一身に背負い、得意満面の笑みで出発した。

 外は一面の銀世界。
 普段使う道は雪で完全に埋もれてしまっている。
 オビは道の雪を掻き分け、踏み固め、普段の何倍もの時間をかけ、それでも着実に前に進んで行った。
 何時間進んだだろうか。
 時間の感覚が曖昧になってきた頃、オビの耳に川の水の流れる音が聞こえてきた。
 川に出れたということは、進む方向は間違っていなかったという事だ。
 自然とオビの顔に笑みが浮かぶ。
 やがて深い谷に出た。
 谷の底では川が流れている。
 本当は橋に着く予定だったのだが、道がずれてしまっていたらしい。
 オビは川沿いに歩いて橋を探した。
 しかしいくら歩いても橋が見えてこない。
 その原因はすぐに分かった。
 谷の対岸に吊り橋がだらんと垂れ下っているのが見えたからだ。
 理由は分からないが、橋が落ちてしまっている。
「そんな……」
 オビはその場にガックリ跪いた。
 この谷に架かっている橋は他にないのだ。
 谷を降りて川を渡るか?
 極寒の中、流れの速い川に入るなど自殺行為でしかない。
 川を渡る術がない以上、町へ行く事はできない。
 オビは絶望感を胸に抱いたまま村に引き返すしかなかった。

 村に戻ったオビは村人達に橋が落ちていた事を告げた。
 オビも感じた絶望が村人達の顔にも浮かび上がる。
 暗澹たる空気の中、オビには「よくやった」という慰めの言葉がかけられたが、なんの慰めにもならなかった。
 自分は何の役にも立たなかったという情けない思いしか感じられない。
「やはり雪がやむのを待つしかない」
 それが村人達の出した結論だった。
 そう結論づける他なかったのだ。
 しかし雪はやまない。
 今日も、明日も、明後日も、飽きる事なく降り続いている。

 そして3ヶ月が過ぎた。
 3ヶ月間1度も雪が降り止まないなど今まで経験した事のない出来事であったが、今の問題はそこではない。
 食料の備蓄は3か月分しか行っていないのだ。
 このままでは餓死者が出るのは時間の問題だろう。
「じっちゃん! 本当に雪がやむのを待つしか手はねーのかよっ!!」
 オビが詰め寄ると、村長は視線を反らした。
「何かあるんだな……。言えよじっちゃん! このままじゃみんな死んじまうぞ!」
 オビの必死の剣幕に押され、村長が重い口を開く。
 村長が語った方法とは、山奥の川の源流まで登って川を渡り、そこから町へ向かうルートを行く事だった。
「なんだよ……ちゃんと道があるんじゃねーか! なんでもっと早く言わねーんだよ!」
「このルートは道などと呼べるものではない。道なき道を進んで山を登る過酷なルートじゃ。子供の足では1日2日で町に至れる距離ではないし、山には狼も出れば熊も出る。お前には無理じゃ」
「でも他に手はねーんだろ。だったら行くよ」
「オビ……」
「止めても無駄だぜ。捨て子だった俺をここまで育ててくれた恩、今こそじっちゃんやばっちゃんに返すぜ!」
 大人びた表情で告げるオビを村長は止める事などできなかった。 

 オビは村人全員からありったけの金と食料を持たされた。
 そしてある者は硬く手を握り、ある者は涙ながらに抱きしめ、オビを送り出したのだった。

 
 村長がしたためた地図一枚を頼りに進むオビの道程は過酷を極めた。
 降りしきる雪が視界を塞ぐ。
 深い雪が足を捕らえる。
 どれだけ進んでいるのか?
 道はあっているのか?
 獣に襲われたりしないか?
 あらゆる不安が心を苛む。
 そのため1日歩いただけで心が折れそうになった。
 しかし食事をしていると萎えていた心に力が漲ってくる。
 この食料はただでさえ少ないなか村のみんなが自分のために割いてくれたものなのだ。
 一口一口噛み締めるたびに村のみんなの顔が脳裏に浮かび、オビの心を支えてくれた。

 そして2日目、金の入った皮袋の中にオビ宛ての手紙を見つけた。
『オビ、私達はもう助からんだろう。だが後悔はない。私達はお前という息子を立派に育て上げる事ができたのだからな。だからオビ、お前はこの金を使って町で暮らせ。それが私達の願いだ。オビ、幸せにおなり』
 涙が溢れた。
 そして絶対にみんなを救うと思いが確固たるものになった。
 もうオビの心が折れる事はなかった。
 みんなの想いがオビを支え、前に進ませた。

 そして4日目。
 オビは遂に町に到達した。
 だが疲労困憊でフラフラだ。
 道に倒れず立っていられるのが不思議なくらいである。
 今から食料と薪を買って村にとって返すことなどできそうにない。
 休んでから行くか?
 いや、そうしている間にも村の誰かが死ぬかもしれない。
 一刻も早く村に食料と薪を届けなければならない。
 誰よりも優しい自分の家族を救わなければならない。
 オビは疲れきった頭で考えた。
 どうすれば……どうすれば……。
 そんなオビの目にハンターオフィスの看板が留まる。
「あれだ!」
 オビはフラフラの体で駆け、オフィスの戸を潜ると、残りわずかな体力と気力を振り絞った。
「助けてくださーーーいっ!!」



 オビはハンターオフィスのマスターに事情を話し、金を渡すと気を失った。
 金を受け取ったマスターは思案顔になる。
 この金額では食料と薪を買った時点でなくなってしまうだろう。
 これではハンターを雇えない。
 しかしオビも、彼の家族である村人も放ってはおけない。
 見捨てるという選択肢はマスターにはない。
 だからマスターは無償でも引き受けてくれそうなハンターに声をかけたのだった。

リプレイ本文

●1日目

 依頼者オビの村への食料と薪の配達に志願した6人のハンターが支給された防寒服に身を包み、食料と薪を背負った。
 しかしシア(ka3197)には重すぎて持ち上げる事ができなかった。
「う~ん……うーん!」
 どんなに力を込めても立つ事すらできず、焦りが募ってゆく。
(どうしよう……)
 だが、不意に荷物が軽くなった。
「え?」
 不思議に思って振り返ると、明王院 雫(ka5738)がシアの荷物から薪を抜いていた。
「あの……」
「私はまだ荷物を持てる余力がありますから」
「でも……」
「これでどうですか?」
 薪を3分の1ほど減らすと、シアでも持ち上がるようになった。
「大丈夫です。あの……私、足手まといですよね……ごめんなさい」
 シアが落ち込んだ様子で頭を下げる。
「そんな事はありませんよ。私は、まだ幼い子供が村の人達を救いたいと命を掛け……命掛けで自分達を救おうとしてくれる子さえ生き延びてくれればと送り出す事しか出来なかった村人達を見て見ぬ振りなどできず、依頼を受けました。シアさんはどうですか?」
「私もオピさんと村のみなさんの力になりたいと思って……」
「その気持ちと行動はとても尊いものですよ。卑下する事はありません」
「その通りです。子供が命を掛けて救援を求めて来たのに、その切なる願いに応えずにいられましょうか。その願いに応えるため、今は私達に出来る最善を尽くしましょう」
 ミノル・ユスティース(ka5633)がシアの肩をポンと叩く。
「はい。ありがとうございます」
 シアの曇っていた表情に笑顔が浮かんだ。
(誰かのために命を懸けるというのはどんなものなのか?)
 そんな興味本位で依頼を受けた保・はじめ(ka5800)は3人の会話を聞き、改めて疑問に思う。
(結果を見届ければ分かるのかな?)

 そうしてハンター達が準備を整えていると、昏倒していたオビが目を覚ました。
「ここは……あっ! 村は!? みんなは!? 食料はどうなって?」
 オビは慌てて立ち上がると、目の前にいたグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)に物凄い剣幕で詰め寄った。
「おいおい、落ち着けって」
 グリムバルドはオビの肩を掴んで座り直させると、自分も膝を折ってオビと目線を合わせた。
「食料なら俺達が届けてやるから安心しな」
「え?」
「吹雪の山を越えてきたんだって。頑張ったな。世話になった人のためとはいえ、なかなか出来る事じゃないと思うぜ。後は俺達に任せて、そこで待ってな。大丈夫、きっと何とかしてみせる」
 グリムバルドはオビを安心させるように不敵な笑みを浮かべて見せた。
「あ……ありがとうございます! ありがとうございます!!」
 オビはグリムバルトの手を握ると、涙を流して感謝を述べ続けた。
「さて、オビ君。山の地形とかルートとか、知っている事を教えてもらえるかな」
 オビが落ち着いたのを見計らってクオン・サガラ(ka0018)が声をかける。
「はい! 何でも聞いてください」
 クオンはオビの持っていた地図を参照しながら話を聞き、別の地図に書き込んでゆく。
 オビの話では村の食糧事情は一刻の猶予もないらしいが、考えなしに最短ルートを行って遭難しては元も子もない。
 山の地形や川の位置を考慮しつつ安全かつ最短となるルートを探す。
(どうしてこうなった? というのが正直な感想ですけど……)
 そんな事を胸の内で思いながらもルートを決定した。
「では皆さん。雪山で遭難せずに辿り着くのは大変なので、油断と絶望はせずに行きましょう」
 そして6人は期待に満ちた目のオビに見送られながら雪山へと歩み出した。



 町を出た時は曇り空だったが、すぐに雪が降り出してきた。
 しかも進めば進むほど雪の勢いは強くなり、山に入る頃には積もった雪が深すぎて道の上を歩けているのかすら分からなくなっていた。
 深い雪に足をとられるため、先頭を歩くクオンの労力は相当なものだった。
「クオンさん。そろそろ先頭変わるよ」
 出発から4時間後、グリムバルドが前を歩くクオンに声をかけた。
 雪中での先導者はハンターとしての経験が豊富で体力もあるクオンとグリムバルドが交代で務める事になっているからだ。
 そこから更に2時間進んだところで1時間休憩し、体力を取り戻したクオンを先頭にして再出発。
 しかし行けども行けども雪雪雪。
 景色がほとんど代わり映えしなくなってきた。
「辺り一面銀世界。と言うと聞こえは良いですが、ただしんどいだけですね。少しくらいは風情があっても良さそうなものですけど……」
 最初は豪雪を珍しそうに見ていた保だが、代わり映えのしない景色にもう飽きていた。
「そうですね……。雪兎とか出てきてくれたら嬉しいんですけどね」
 慣れない雪道と重い荷物に苦労しているシアも同意する。
「止まってください!」
 不意にクオンが険しい声を出す。
「どうしたんですか?」
「何か動いた気がしたんです」
「どこですか?」
「あの辺りです」
 全員でクオンが指差す先を観察すると、木々の間で何かが通りすぎた。
「あ!」
「何か動物がいますね」
「兎でしょうか?」
「いや、そんな可愛いものじゃなさそうだ」
 グリムバルドがリボルバー「ガンスリンガー」を抜く。
「狼ですね。しかも1匹じゃないようです」
 クオンも魔導拳銃「イグナイテッド」を抜いた。
 しかし武器らしい武器を持っているのはこの2人だけだ。
「できれば戦闘は避けたいですね」
「息を潜めてスルーしましょう」
 全員で身を低くし、木々の間に隠れた。
 しかし狼が近づいてくる気配が感じられる。
「匂いで気づかれたんでしょうか?」
「ともかく戦闘は避けられそうにないですね」
 明王院がシャベルを構える。
 武器になりそうな物がシャベルくらいしかないのだ。
 ミノルと保は牽制用の雪玉を丸め始める。
 やがて5匹の狼が現れ、こちらに向かって駆けて来た。
「銃声にビビッて引いてくれりゃいいんだが」
 グリムバルドのリボルバーが轟音と共に火を噴き、狼の頭を撃ち貫いた。
 しかし狼達の勢いは止まらない。
「ダメか」
「この雪で獲物が取れなくて腹を空かしているのかもしれませんね」
 クオンも魔導銃で1匹倒したが、残りは真っ直ぐシアを目指してくる。
 小柄なシアが一番狩りやすいと思ったのだろう。
 しかしその判断は誤りだ。
「マジックアロー!」
 シアの放った魔法の矢を喰らって1匹絶命する。
 もう1匹はシアとの間に割って入った明王院がシャベルで殴打して吹き飛ばし、雪に落ちたところをクオンが撃ってトドメを刺した。
 最後の1匹はミノルと保が雪玉を投げまくって動きが鈍らせたところをグリムバルドが狙撃して倒す。
「あなた方も生きるのに必死だっただけなのでしょうけど……こちらも多くの村人の命を預かってるんです。食べられてあげるわけにはいきません」
 明王院は憐れみの目で倒れた狼を見下ろした。

 それから何事もなく過ぎて日が落ち、夜になった時点で2時間の休憩をとる。
 長めの休憩なので火を焚き、温かい飲み物と食事を作った。
 道中は冷たい簡易食しか食べられないので、その暖かさと匂いで食欲が掻き立てられる。
「美味い!」
「ほんと、有り合わせを煮ただけなのに凄く美味しい」
「寒いところで食べる熱い料理は最高ですね」
「温まりすぎて眠くなっちゃいそうですけど」
「ふふっ、本当にそうですね」
 自然と皆に笑顔が浮かび、会話も弾んだ。
 そして食後は地図を広げ、皆で状況把握を行う。
「たぶん私達は今この辺りまで来てると思います」
 ミノルが地図の1点を指差す。既に行程の半分を過ぎている位置だ。
 ミノルは隊列の2番手という周囲に目をやる余裕のある立場を活かし、スキルの『方向感覚』も駆使して現在地の把握に努めていたのだ。
「結構進めてるんですね」
「はい。でももう少し進んでおきませんか? 今日は天候が荒れませんでしたけど、明日もそうとは限りませんから」
「そうですね。できれば明日には村に着きたいですし」
「よし、今のうちに距離を稼いでおこうぜ」
「賛成です」
「行きましょう」
 全員が賛同したため、夜も『ハンディLEDライト』を使って進む事になった。

 ライトの光では視界範囲が日中より極端に下がるため、位置の把握がしづらくなる。
 そのため方角と歩幅に気を使う必要があり、体力と精神の消耗が格段に上がる。
 まっすぐ進めているか?
 道に迷っていないか?
 6人全員でチェックし、神経を磨り減らしながら進んでゆく。
 1度休憩を挟み、4時間程歩いたところで初日を終える事になった。




●2日目

 この日もクオンを先頭に進み、4時間でグリムバルドと交代する予定で進んでいた。
 しかし3時間経ったくらいから雪が激しくなり始める。
「これは吹雪くかもしれませんね……」
 『天候予測』のスキルを持つクオンの予想通り、そこから1時間もしない内に猛吹雪となった。
「酷ぇ天気だ……」
「まったく前が見えません……」
「仕方ありません。2時間ほど様子を見ましょう」
 反対する者などいるはずはなく、風上に壁ができるように雪を掘り、そこに6人で身を潜めてじっと待つ。
 だが2時間経っても吹雪は止まなかった。
「どうします? 止むまでまだ待ちますか?」
「でもこの吹雪、止むのかしら?」
 明王院が眉をひそめながら疑問を口にする。
「どうしてそう思うんですか?」
「オビさんの村は3ヶ月以上も雪が止んでいないそうですから、もしかしたら1日中吹雪が止まないなんて日もあるかもしれません」
「……」
 そう言われると誰も反論できなかった。
「そうですね……。危険ですが、出発しましょう」
 皆覚悟を決めて立ち上がり、吹雪の中に足を踏み出した。

 顔に当たる雪が痛く、目を開けるのも辛い。
 向かい風がまるで壁のようで、前に進むのを拒んでくる。
 背中の荷物がズッシリと体に圧し掛かる上に、深い雪に足をとられ、1歩1歩がどんどん重くなってゆく。
 視界は極端に悪いため、道に迷わず進むには方位磁石と歩幅を一定にして進む事だけが頼りになり、精神的疲労は跳ね上げる。
 しかもそれで道に迷っていないという保障はどこにもなく、精神的不安は拭えない。
 そんな過酷な道程をもう2時間以上歩いていた。
『本当に道は合っているのか?』
『道に迷っていたりしないか?』
『吹雪の中を進んで本当に村に着けるのか?』
『このまま吹雪が止まなかったらどうなるのか?』
 そんな不安をみんな抱いていた。
 しかし口には出さず黙々と進む。
『早く吹雪が止んで欲しい』
 それが皆に共通した願いだった。
 皆の願いが天に通じたのか、1時間後には吹雪が止み始めた。
「止みそうですね」
「よかったぁ……」
 疲労の滲んでいた皆の顔に安堵が浮かぶ。
「グリムバルドさん、先頭変わってくれませんか? 流石に疲れました」
「あぁ、吹雪の中ありがとうな。後は任せてくれ!」
 しかし1時間後に再び天候が悪化し始める。
「どうなってんだ今日の天気はっ!?」
「仕方ありません。吹雪の中を歩いてみんな疲れてるでしょうし、休憩にしましょう」
 そして1時間休憩している内に吹雪は止んでくれた。
「本当に今日の天気はどうなってるんでしょうね」
「とにかく晴れている内に進みましょう」
 しかし1時間も歩かない内に日が暮れ始める。
「どうします? 休憩しますか?」
「いえ、今日は休んでばかりでしたから、もう少し進んでからにしましょう」
 だが、またすぐに天候が荒れたため、強制的に休憩させられる事になった。
 しかも吹雪の中では火を焚けないので、今日の食事は冷たい簡易食である。
 わびしい食事を終え、体も心も十分には休まない中、地図を中心に皆が集まる。
「たぶん、今この辺りですね」
 ミノルが指差す位置を見て、皆の表情が曇る。
「今日中に村に着くのは無理ですね」
「吹雪で散々足止めを食いましたから……」
「今の吹雪も止むかどうか……」
「ともかく止んだら少しでも進みます。それまで体を休めておきましょう」
 幸い2時間の休憩の間に吹雪は止んだため、一同は夜道を歩き出した。
 
 夜は神経を使うため自然と口数が減り、黙々と歩く時間が長くなる。
「あ! 止まってください!」
 不意に保が皆を制止した。
「どうしたんですか?」
「これを見てください」
 保が自分達が歩いてきた方にライトを照らすと、遠くまで点々と残る足跡は微妙に左カーブを描いていた。
「利き足だけ多く進みすぎてるようですね」
「すみません。気をつけているつもりでしたが、やっぱり疲れてるんでしょうか。このままだと進路が反れたままでした。ありがとうございます、保さん」
「いえ、早めに気づけてよかったです」
 そこから道を修正して進みだしたのだが、すぐにまた吹雪いてきたため、この日の進行はここで打ち切るしかなかった。





●3日目

 朝起きた時に吹雪は止んでいるか?
 それが最大の懸案だったが、幸い止んでいてくれた。
「また吹雪前に進みましょう」
 一行は早々に準備を終えると出発した。
 山歩きも3日目になると疲労が蓄積しているが、体は雪道に慣れてきている。
 6人は黙々と、だが着実に雪山を踏破していった。
 そして2時間後。
「あ! 今、水の音がしませんでしたか?」
「え?」
「本当に?」
 シアの言葉に皆足を止めて耳を澄ませる。
「本当だ!」
「あっちです!」
 皆の足並みが自然と軽くなり、進むにつれて水音が確かなものになってくる。
 やがて遠くで光を反射して煌めく川が見え始めてきた。
「川だ!」
「やった!」
「川を超えれば村まで後数時間の距離のはずです」
 勢いづいた一行は川を遡って源流に到り、川を越えた。
「後は村に着くだけですね」
「いえ、まだ村を見過ごして通過してしまう危険があります。煙1本でもいいですから村の痕跡を見逃さないよう注意してください」
 ミノルの言葉で皆が気を引き締め直し、村に向かって歩を進めた。





 その頃、村は死の縁に立っていた。
 食料はオビを送り出した翌日にはもう尽きていたからだ。
(オビは町に着けただろうか?)
 村長はオビの事が気がかりだったが、静かに目を閉じ、死を受け入れようとした。
「村長ー!」
 そんな時、家に村人が飛び込んできた。
「オビが! オビがっ! 食料と薪を送ってきてくれたー!!」
「なんだとー!」
 死ぬ間際だった村長が寝床から飛び起きる。
「来てくれ」
 村人が村長に肩を貸して外に連れ出す。
 そこには積み上がった薪と食料の前で、6人のハンターが粥を作って配給している光景があった。
「熱いですよ。慌てずゆっくり食べてください」
「はい。ありがたやありがたや……」
 老婆が拝むように明王院から粥を受け取る。
「おぉ……おぉ……」
 村長の瞳から滂沱の涙が零れた。
「オビ、お前は最高の息子じゃーー!!」


 こうして1人の少年の勇気と6人のハンターの功績により、1つの村が救われたのだった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • 冬の使者
    シア(ka3197
    エルフ|16才|女性|魔術師
  • 友と、龍と、翔る
    グリムバルド・グリーンウッド(ka4409
    人間(蒼)|24才|男性|機導師
  • ゲルタの彼氏?
    ミノル・ユスティース(ka5633
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • 撫子の花
    明王院 雫(ka5738
    人間(蒼)|34才|女性|闘狩人
  • ユグディラの準王者の従者
    保・はじめ(ka5800
    鬼|23才|男性|符術師

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ミノル・ユスティース(ka5633
人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/12/25 23:12:00
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/12/23 18:42:39