ゲスト
(ka0000)
【初夢】時代劇「天狗の神かくし」
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/01/03 07:30
- 完成日
- 2016/01/10 16:22
みんなの思い出
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オープニング
●
時は化政時代。
十返舎一九が筆を走らし、『東海道中膝栗毛』なる書が余を賑わす頃。
華やかな江戸の街を離れた、ここ在岡藩では一つの噂が広まっていた。
簡素な立て札に書かれた文字は、「天狗の神かくし」。
赤い肌に高い鼻、一本足の下駄を履き、法術を操る山怪。
それが、天狗だ。
「……これは」
在岡藩の村の一つを訪れた、師走吉三郎は嘆息ともしれぬ、言葉を吐いた。
旅装束に身を包む吉三郎は、看板をじっと眺めていた。
情報は、近隣の村で天狗が子供を一人攫ったというものだ。
よくよく読めば、この村を含めて五人は攫われているという。
「あんた……旅の人か?」
「はい。師走吉三郎ともうします。旅一座の世話役でして、宿を探しております」
「宿ね。小さい子はおるか」
「どうでしたか。旅の仲間もコロコロと変わりますので」
頼りねぇ世話役だな、と零されたのは気にしないことにした。
「子がいるんなら、悪いことはいわねぇ。すぐにこの辺りから逃げな。天狗が出る」
「天狗……これですか」
「あぁ。ほれ、あの山が見えるじゃろ」
村人が指差す先に、緑の生い茂る山があった。
中には樹齢何百年と思しき大木の姿もある。
「在岡藩の神域と呼ばれる山じゃ。あそこから天狗が来ては、子供をさらう」
「神域?」
「あぁ、何でも選ばれた家のものしか入れないらしい」
故にまともな調査もされていない。
さらに、天狗というのも本当に天狗そのままの姿で子供の前に現れる。
親が食い止めようとするのをあざ笑うかのように風を起こして消えるのだという。
親が子を殺した言い訳にしているのではないか、と心ないものはいう始末だ。
「だが、あれは本当に天狗だよ。わしも見たからな」
「……ご老人。この村に宿はありますかな」
「宿はないが、廃寺なら村はずれに一つある。勝手に使ってくれてかまわん」
自分が村長だと名乗ると、男は去っていった。
食事は旅の一座とやらの芸次第だと、付け加えられたが。
「さて……」
吉三郎は神域と呼ばれた山を見上げ、気を込める。
吉三郎の正体は、稲荷山の御使い。
全国の妖怪絡みの事件を解決する百狐一座の座長である。
●
「カカカ、三夜代様。これほどうまくいくとは思いませんでした」
「吉兆寺殿の力添えがあったからこそで、ございます」
神域と呼ばれる山の億。
紅に彩られた社の中で、怪しく嗤う2つの影。
一人は山の管理者、吉兆寺清太郎。
もう一人の名は、三夜代。山法師の恰好をした、妖術使いだ。
「あとは、子供たちを売っぱらい」
「えぇえぇ、天狗を吉兆寺様が退治したことにすればよろしい」
「カカカ、明日には城下町から人買いが来るでな」
「ほほほ、では、もう二、三人」
「カカカ、そうだな。そうしようではないか」
「では、準備に参ります」
上機嫌の吉兆寺を残し、三夜代は部屋を出る。
社の外、神社の境内にも似た場所で足を止めた。
「ほほほ、皆様方準備はよろしいか?」
呼びかけに気配で応じたのは天狗の面をつけた、奇妙な人影。
その数、四。
厳密には人でなく、三夜代の式神である。
「嫌な気配が近づいておる。警戒が必要じゃ」
だが、三夜代に焦りの色はない。
自身の法術に絶対の自身があるからだろうか。
悠然と風を巻き起こして姿を消す。
●
神かくしの天狗が村を舞う。
暗躍するは神域の管理者、吉兆寺清太郎。
そして法術使い、三夜代。
対するは、妖怪退治の専門の「百狐一座」。
吹き渡る風に嗤うは悪か正義か。
百狐一座のあやかし退治――いざ、開幕。
時は化政時代。
十返舎一九が筆を走らし、『東海道中膝栗毛』なる書が余を賑わす頃。
華やかな江戸の街を離れた、ここ在岡藩では一つの噂が広まっていた。
簡素な立て札に書かれた文字は、「天狗の神かくし」。
赤い肌に高い鼻、一本足の下駄を履き、法術を操る山怪。
それが、天狗だ。
「……これは」
在岡藩の村の一つを訪れた、師走吉三郎は嘆息ともしれぬ、言葉を吐いた。
旅装束に身を包む吉三郎は、看板をじっと眺めていた。
情報は、近隣の村で天狗が子供を一人攫ったというものだ。
よくよく読めば、この村を含めて五人は攫われているという。
「あんた……旅の人か?」
「はい。師走吉三郎ともうします。旅一座の世話役でして、宿を探しております」
「宿ね。小さい子はおるか」
「どうでしたか。旅の仲間もコロコロと変わりますので」
頼りねぇ世話役だな、と零されたのは気にしないことにした。
「子がいるんなら、悪いことはいわねぇ。すぐにこの辺りから逃げな。天狗が出る」
「天狗……これですか」
「あぁ。ほれ、あの山が見えるじゃろ」
村人が指差す先に、緑の生い茂る山があった。
中には樹齢何百年と思しき大木の姿もある。
「在岡藩の神域と呼ばれる山じゃ。あそこから天狗が来ては、子供をさらう」
「神域?」
「あぁ、何でも選ばれた家のものしか入れないらしい」
故にまともな調査もされていない。
さらに、天狗というのも本当に天狗そのままの姿で子供の前に現れる。
親が食い止めようとするのをあざ笑うかのように風を起こして消えるのだという。
親が子を殺した言い訳にしているのではないか、と心ないものはいう始末だ。
「だが、あれは本当に天狗だよ。わしも見たからな」
「……ご老人。この村に宿はありますかな」
「宿はないが、廃寺なら村はずれに一つある。勝手に使ってくれてかまわん」
自分が村長だと名乗ると、男は去っていった。
食事は旅の一座とやらの芸次第だと、付け加えられたが。
「さて……」
吉三郎は神域と呼ばれた山を見上げ、気を込める。
吉三郎の正体は、稲荷山の御使い。
全国の妖怪絡みの事件を解決する百狐一座の座長である。
●
「カカカ、三夜代様。これほどうまくいくとは思いませんでした」
「吉兆寺殿の力添えがあったからこそで、ございます」
神域と呼ばれる山の億。
紅に彩られた社の中で、怪しく嗤う2つの影。
一人は山の管理者、吉兆寺清太郎。
もう一人の名は、三夜代。山法師の恰好をした、妖術使いだ。
「あとは、子供たちを売っぱらい」
「えぇえぇ、天狗を吉兆寺様が退治したことにすればよろしい」
「カカカ、明日には城下町から人買いが来るでな」
「ほほほ、では、もう二、三人」
「カカカ、そうだな。そうしようではないか」
「では、準備に参ります」
上機嫌の吉兆寺を残し、三夜代は部屋を出る。
社の外、神社の境内にも似た場所で足を止めた。
「ほほほ、皆様方準備はよろしいか?」
呼びかけに気配で応じたのは天狗の面をつけた、奇妙な人影。
その数、四。
厳密には人でなく、三夜代の式神である。
「嫌な気配が近づいておる。警戒が必要じゃ」
だが、三夜代に焦りの色はない。
自身の法術に絶対の自身があるからだろうか。
悠然と風を巻き起こして姿を消す。
●
神かくしの天狗が村を舞う。
暗躍するは神域の管理者、吉兆寺清太郎。
そして法術使い、三夜代。
対するは、妖怪退治の専門の「百狐一座」。
吹き渡る風に嗤うは悪か正義か。
百狐一座のあやかし退治――いざ、開幕。
リプレイ本文
●
風吹けば桶屋が儲かるとは江戸のことわざ。
風の裏で笑うものを捉えるべく、妖かし一座が今日も行く。
城下町を雨もないのに唐傘を手に歩く女性がいた。彼女の名は、外待雨 時雨(ka0227)。少しはかなげな雰囲気の彼女は、妖術の使い手についての情報を求めていた。
「……子を浚う、ですか……。……あまり……他のことは、いえませんね……」
情報収集に出る前、座長の吉三郎へ時雨は告げていた。時雨は雨女という妖怪であり、雨女もまた子浚いを成す。
だが、それは雨女の性質だ。この一件、人為的なにおいを時雨は感じていた。
「……やはり、宿……でしょうか」
余所者が余所者について聞くのなら、宿回りだろう。
そう思って目指していると、派手な音が聞こえてきた。
どうやら、喧嘩が一つ終わったらしい。
数人を相手取り、立ちまわっていたのは黒子(クリスティン・ガフ(ka1090)。彼女もまた一座の仲間である。
「さて、この腕っ節を活かしたいだけなんだ。渡りをつけてくれるな?」
楊枝を咥えた口でにやりと笑う。笠と羽織を身につけた自称元女渡世人は、刀の腕なら一座でも一二を争う実力者だ。
荒くれ者どもがヨロケながら立ち上がり、ついて来いと告げる。さり際に黒子は時雨に気づいた。目配せで懐に潜り込む算段を伝える。
「……無茶、しますね」
呆れ顔でつぶやくと、お天気雨が落ちてきた。
小雨にも満たない雨の中、時雨は城下町に姿を消すのだった。
●
「雨、というほどでもないか」
村々をつなぐ茶屋の一つで、南星静十郎(Gacrux(ka2726)は空を仰ぐ。
漆黒の着流しに藍の帯、浪人笠。主君仇討のため列島行き交う旅烏である。
「それにしても、先の噂だ」
天狗の噂はこの旅烏の耳にも届いていた。主君形見の刀が、鳴動するほど天狗の噂には感じるものがあった。茶屋の主人に取りまとめの村を聞き、村長に会う。宿代わりに廃寺を紹介してもらうまでは、よかった。
「滅多なことをいうもんじゃねぇ! くわばらくわばら……」
天狗退治の話を切り出した途端、村長は声を荒げて肩を震わせた。怯えながらに手を合わすところをみると、天狗退治は禁句であるらしい。
仮にも神域の御山に住まうとされているからだろうか。
「神域の山はどちらでしょうか」
踏み入れるわけではなく、単なる興味と切り直して尋ね直す。
何とか山の位置と、村人が近づける範囲を聞き出せた。山は子浚いに会う村々の中央付近に位置していた。
「住まうのは神か、蛇か……はてさて」
村長に聞こえぬ声量でつぶやくと、静十郎は村長の元を出た。
そうして廃寺へ向かう途中、別の村の一角で舞踏に出くわした。
●
舞手は二人。まるで陰陽を表すような者たちであった。
一人は暗闇を纏っているかのような、黒い衣で艶やかに踊る。もう一人は巫女装束に身を包み、神事のような清さをもたせていた。
黒き者の名は、黒揚羽(揚羽・ノワール(ka3235)。
巫女の少女は愛梨(ka5827)という。
二極の舞は、相反するようで妙な調和を有していた。動と静を交互に入れ替え、ときに袖を擦れ合わせ、ときには視線を交わす。少しずつ早さを増して、ぶつかるかと思う瞬間を見せて、終わりに持って行く。
観衆は拍手で二人の舞踏を締めくくった。お代を断ろうとした黒揚羽を遮り、愛梨は出された銭を受け取った。
「いやいや、お代はもらっておくよ。地代を出さなきゃいけないしね」
「地代ね……。この辺りは、誰が仕切っているのかしら?」
取り仕切るとなれば、吉兆寺様だと誰がいった。
「吉兆寺様ですね。どちらにいらっしゃるのでしょう」
「うん。上納と挨拶にいかないとね」
二人の問いかけに村人は顔を見合わせる。どうやら、あまり村に顔を出す人物ではないらしい。おずおずと村の代表らしき翁が進み出た。
翁によれば、今は神域にこもる時期なのだという。この期間は各村長が代理を受け持つらしい。地代を預かるという村長に、黒揚羽は問いなおす。
「舞も上納したく思いますが、お会いはできませんの?」
無理だと答えが返ってきた。村長や城主でさえ、神域への侵入は許されていないという。ある種の特権だ。
人物像について問えば、苦笑と濁した言葉が返ってくる。それだけで、器が知れた。
「あの山といえば……天狗の」
天狗の名を出した途端、翁の顔が凍りついた。村民もバツが悪そうに互いに視線を交わす。神域と天狗を結びつけるのを怖がっているようだった、
「神域に天狗を諌めに行くといった浪人が無残な姿で発見された」
やっとのことで引き出せたのは、この一言であった。
●
村々から少し離れた場所に廃寺はあった。
しばらく内部を探っていた静十郎は、人の気配を感じお堂へ戻る。
「先客がいましたか」
吉三郎をはじめとする一座の面々が、そこにいた。
互いに一瞬身構えるも、敵意がないことを確認すると挨拶を交わす。
「私は愛梨、よろしくね」
愛梨を筆頭に自己紹介を済ませ、一座について軽く説いた。
今、村々で起こっている天狗の事件を解決する気だとも告げる。
「丁度、天狗退治に俺も名乗りをあげようとしていたところです。その妖奇譚、俺も一枚噛ませてもらいましょう」
静十郎は、天狗事件が村で禁句扱いされていることを確認する。そして、時雨や黒揚羽らの集めた情報を整理していった。
「さて、そろそろ……」
日が暮れてきたところで、吉三郎が戸を開けた。一陣の風が吹き込んだかと思えば、さらに人影が増えていた。
「驚かせて悪いわね。あたしは花焔、忍びの者よ」
「わたしのことは篝とお呼びくださいませ」
花焔(ドロテア・フレーベ(ka4126)と八原 篝(ka3104)は、今しがた神域から戻ってきたのだという。
その報告は、
「中々厄介ですよ、吉三郎さま」
という篝の言葉から始まった。
神域は鬱蒼と生い茂る木々に守られつつ、道をしっかり残していた。
古ぼけた石畳が奥の殿へと続いているのだ。
「あまりいい感じがしないわね……っと」
ピリッとした感触に、花焔は嫌なものを感じた。それは神聖なものより、妖かしの結界術に触れた感触に近い。
忍びらしく身を隠せば、明らかな人外のにおいがした。影は人に近いが、体毛がなくぬぺっとした人形を思わせる。
「……使い魔よね」
一座に入る前、元主人の敵を討つときに見たことがある。陰陽師系の使い魔の一種だ。だとすれば、天狗の正体とは陰陽師の一人か。
尾行すれば奥の殿にたどり着いた。式神は光の漏れる殿中へと消えていく。
近づいて耳を立てれば、怪しい会話が漏れていた。引き渡しについて詳細を知る。
踵を返し、花焔が篝に合流した時、その傍らに先ほど見た木偶が転がっていた。
「このようなお人形さんで天狗を騙るなんて、お仕置きが必要ですね?」
「倒したら、あたしらの存在がばれるわよ」
「見つかった時点でばれてるわ。情報を与えるくらいなら、ね」
ため息を吐いて、花焔は篝とその場を離れる。
殿の会話を聞く限りだと、これしきの妨害で立ち止まるような賢しさは感じられない。決行は明日は間違いない。
「決行は明日、子どもの引き渡しに重ねて行います」
黒揚羽が吉三郎の了解を得て、皆に告げる。
静十郎を含めた全員が、うんと頷くのだった。
●
神域の空気は、清らかというより静かであった。
だが、その静寂を野盗の悲鳴が破った。
「斬魔剛剣術体操・龍天墜だ。私の体に変な手を近づけるなって言っただろう?」
黒子に股間を蹴り上げられ、悶えたのだ。黒子は逃げるように顔立ちの良い男の後ろに隠れて、鼻で笑う。寄り添った男は、この野盗の副長を努めていた。
「バカなことしてねぇで、行くぞ」
筋肉隆々の頭目ががなり、野盗は神域を行く。
黒子は無事に人買いの懐へ潜り込んでいた。
神域の奥にたどり着いた野盗を、三夜代と吉兆寺が迎え入れる。
彼らの傍らには、三体の人形。そして子どもたちが置かれていた。
「さて、手早く終えるか」
吉兆寺は要件だけを済ませたいようであった。
さっさと金の受け渡しを終え、子どもを引き渡す。子どもたちが泣き叫ばないのは、その口に札が貼られているからだ。これも三夜代の術である。
「……杞憂だったか」
取引が終わり、野盗の帰り際に吉兆寺が漏らす。式神の一体がやられたと聞いて、身構えていたのだ。気をゆるめかけた吉兆寺に、三夜代が首を振る。
「いや、来なすった」
昼も過ぎてないというのに、突然夜霧が立ち込めた。
それを吸った野盗の一部が、睡魔に襲われる。三夜代は素早く印を切ると、強く息を吐き夜霧を晴らす。それでも耐え切れない二三人が、倒れるのが見えた。
「おい、どうした!?」
野盗側が混乱をきたす中、黒子はふらりとよろけた。
「大丈夫か」
慌てて助け起こそうとした副長へ向かって、巧みな重心移動から刀の柄を打ち込む。鈍い音がして、呻きながら副長が倒れた。
「やっぱりそういう腹か。てめぇらは周囲を警戒しろ!」
頭目が一人黒子に立ち向かう。この混乱を合図に、一座の面々は飛び出していた。
●
「一筋縄ではいかないようね」
三夜代の力量を見誤っていたと、黒揚羽は嘆息する。
結構な距離を置いていたにも関わらず、天狗もどきに夜霧を祓われた。
おかげで火矢を飛ばしながら、迎え撃たなければならない。
「お集まり頂きました皆々様。今宵我ら百狐一座が演じまするは、とっておきの大活劇に大立ち回りでございます。とくとお楽しみくださいませ」
黒揚羽に続けて篝が境内へと躍り出る。戦輪を打ち鳴らしながら、野盗を見やるや、戦輪を続けざまに投げる。
動きが止まっところで蠱惑的な光を戦輪に込めた妖気で呼び覚まし、注意を引いた。
「吉三郎さま、子どもは頼みましたよ?」
そう頼むやいなや、跳躍。青い冷気を纏わせて、野盗の表情を文字通り凍てつかせた。
「ほんとはばれちゃまずい気がするけど、仕方ないわよね!」
吉三郎の護りを担う愛梨の瞳が金色に変わる。符を取り出し、蝶に似た光弾で敵の矢を打ち落とす。黒揚羽や篝に合わせて、焔も用いて倒していった。
一方で慌てふためく吉兆寺を後ろに、三夜代は術式を展開させた。
「……風の流れが……みなさん。気をつけてください」
いち早く術に気づいたのは、時雨だった。前を行く静十郎と花焔に護りを授ける。
花焔は鞭を振りかざし、式神の一体に迫る。
「他の誰が見逃しても、狐の目は誤魔化せないわよ。神妙にお縄につきなさいな!」
「急くのはいいが、相手の動きには気をつけてください」
静十郎の声に花焔が頷く。放たれた風刃と式神の連携攻撃を、何とか躱し鞭を振り下ろす。式神は人ならざる動きで、花焔の鞭から逃れた。
まるで天狗だ、と静十郎は思う。切っ先を式神に向けつつ、視界の隅で次なる術を用いようとする三夜代の姿が見えた。
「させません」
静十郎は即座に刀を三夜代へ向かって振り下ろす。
巨大な髑髏を思わせる衝撃波が地面を食い散らかすようにして進む。三夜代は既でそれを避けるも、術符が食いちぎられた。
「くっ」と歯噛みしている間に、さらなる追撃を受ける。
「人は飛べないと思ってるの? あたしは跳ぶのよ」
動きで圧倒していたはずの式神が、木々を縦横無尽に跳ぶ花焔に遅れを取ったのだ。絡め取られた式神は、そのまま絞め落とされる。
「むっ」と眉間にしわを寄せている間に、破壊音が響いた。
めまぐるしく視線を向かわせれば、式神の一体が腹部を穿たれていた。明星に似た光が静十郎の切っ先から消え、彼の者の仕業と知れる。
いきり立つ間を一座と一名は与えてくれない。
残っていた式神もまた、静十郎に刃を振るうもかすり傷しか与えられない。おまけに暗がりから、影の塊が飛来して頭を揺らした。
その隙を見逃す彼らではない。花焔が刹那のうちに縛り上げ、静十郎が一刀両断に伏す。三夜代の手駒は、圧殺されたも同然だった。
足掻くように滅多打ちに風刃を放ち、竜巻を起こす。時雨が人買い側にも警戒を飛ばし、愛梨が応じて符を撒いた。
「無茶苦茶しますねぇ」
「……追いつめられて……壊れました?」
三夜代の足下では吉兆寺が泣きっ面で、伏せていた。そんな吉兆寺を意に介さず、三夜代は攻撃を続ける。駆けながら避けているだけでは、決定打が打てない。
さて、どうしたものかと静十郎が思案した。
――そのとき、
「秘儀・絡新婦の術っ!」
花焔の鞭がうなり、三夜代の動きを留めた。静十郎が一気に距離を詰め、刀の背でぶっ叩いた。みねうちだが、骨の二三本は折れたことだろう。
悶絶し三夜代が倒れ、吉兆寺は慌てて逃げようとする。
「……逃しません……」
回りこんだ時雨が、吉兆寺の前に影の弾丸を打ち込むのだった。
●
「逃しはしないって!」
退散を決めた頭目の前方で、木が弾けた。黒子が斬魔剛剣術・圧停剣を放ったのだ。元より業を用いていれば、圧倒できた。
力量差を前に、人買い野盗も崩れ落ちるしかなかったのである。
「天狗を語るなんて、不届き千万ね。どうしてやろうかしら」
「どうしましょう、吉三郎さま?」
判断を委ねられた吉三郎は、さて、と腕を組む。
「服ひん剥いて神域の外に出しちゃえ」と花焔がさくっと言った。
その前に、と黒揚羽が妖しく迫る。
「他にも色々やっているのでしょう。素直に教えてくれたら、いいことしてあげる」
もちろん、するわけがない。
野盗や三夜代はわかっていて口をつむぐ。だが、阿呆がいた――吉兆寺だ。
見逃がしてくれるのか、と騒ぎたて、黒揚羽が頷くと洗いざらい喋ったのだ。
「これだけ余罪があれば、死罪は免れないでしょうね。書いて貼っときましょう」
静十郎の言葉が耳に届いたが最後、吉兆寺の意識は夜霧に消えていくのだった。
残るは子どもたちだ。呆然と尽くす子どもたちへ、時雨が優しく微笑みかける。
「……私は雨女……。雨を連れ……子をかどわかす化生の類……」
いきなり切りだされ、瞬きする子どもたちの前で唐傘を開く。途端に雨がふりだした。
「……本物の妖と語れば……信じては、くださいますか……?」
「尤も今は悪党から子を浚い、親元に返すのだがな」
吉三郎が補足を入れると、子どもたちの瞼が下がった。黒揚羽が夜霧を用いたのだ。
「全ては夢、そういうことにしておきましょう」
くすくすと笑みを浮かべ、慈しむように子どもたちを見やる。
在りし日の自分と重ねているようだった。
「へっへ、見物料をもらってきたよ」
村へ寄ったついでに居合で稼いだ黒子が一座に合流。
逆に静十郎は、
「俺は再び度に出ます。達者で」と去っていく。
一座もまた、旅という日常へ帰っていくのだった。
――天狗の子浚いは、吉兆寺の悪事と知れ渡り神域は解体された。
そして、雨女を祀る祠が建てられた。
在岡藩にまつわる話を、一座は遠くで風に聞くのだった。
風吹けば桶屋が儲かるとは江戸のことわざ。
風の裏で笑うものを捉えるべく、妖かし一座が今日も行く。
城下町を雨もないのに唐傘を手に歩く女性がいた。彼女の名は、外待雨 時雨(ka0227)。少しはかなげな雰囲気の彼女は、妖術の使い手についての情報を求めていた。
「……子を浚う、ですか……。……あまり……他のことは、いえませんね……」
情報収集に出る前、座長の吉三郎へ時雨は告げていた。時雨は雨女という妖怪であり、雨女もまた子浚いを成す。
だが、それは雨女の性質だ。この一件、人為的なにおいを時雨は感じていた。
「……やはり、宿……でしょうか」
余所者が余所者について聞くのなら、宿回りだろう。
そう思って目指していると、派手な音が聞こえてきた。
どうやら、喧嘩が一つ終わったらしい。
数人を相手取り、立ちまわっていたのは黒子(クリスティン・ガフ(ka1090)。彼女もまた一座の仲間である。
「さて、この腕っ節を活かしたいだけなんだ。渡りをつけてくれるな?」
楊枝を咥えた口でにやりと笑う。笠と羽織を身につけた自称元女渡世人は、刀の腕なら一座でも一二を争う実力者だ。
荒くれ者どもがヨロケながら立ち上がり、ついて来いと告げる。さり際に黒子は時雨に気づいた。目配せで懐に潜り込む算段を伝える。
「……無茶、しますね」
呆れ顔でつぶやくと、お天気雨が落ちてきた。
小雨にも満たない雨の中、時雨は城下町に姿を消すのだった。
●
「雨、というほどでもないか」
村々をつなぐ茶屋の一つで、南星静十郎(Gacrux(ka2726)は空を仰ぐ。
漆黒の着流しに藍の帯、浪人笠。主君仇討のため列島行き交う旅烏である。
「それにしても、先の噂だ」
天狗の噂はこの旅烏の耳にも届いていた。主君形見の刀が、鳴動するほど天狗の噂には感じるものがあった。茶屋の主人に取りまとめの村を聞き、村長に会う。宿代わりに廃寺を紹介してもらうまでは、よかった。
「滅多なことをいうもんじゃねぇ! くわばらくわばら……」
天狗退治の話を切り出した途端、村長は声を荒げて肩を震わせた。怯えながらに手を合わすところをみると、天狗退治は禁句であるらしい。
仮にも神域の御山に住まうとされているからだろうか。
「神域の山はどちらでしょうか」
踏み入れるわけではなく、単なる興味と切り直して尋ね直す。
何とか山の位置と、村人が近づける範囲を聞き出せた。山は子浚いに会う村々の中央付近に位置していた。
「住まうのは神か、蛇か……はてさて」
村長に聞こえぬ声量でつぶやくと、静十郎は村長の元を出た。
そうして廃寺へ向かう途中、別の村の一角で舞踏に出くわした。
●
舞手は二人。まるで陰陽を表すような者たちであった。
一人は暗闇を纏っているかのような、黒い衣で艶やかに踊る。もう一人は巫女装束に身を包み、神事のような清さをもたせていた。
黒き者の名は、黒揚羽(揚羽・ノワール(ka3235)。
巫女の少女は愛梨(ka5827)という。
二極の舞は、相反するようで妙な調和を有していた。動と静を交互に入れ替え、ときに袖を擦れ合わせ、ときには視線を交わす。少しずつ早さを増して、ぶつかるかと思う瞬間を見せて、終わりに持って行く。
観衆は拍手で二人の舞踏を締めくくった。お代を断ろうとした黒揚羽を遮り、愛梨は出された銭を受け取った。
「いやいや、お代はもらっておくよ。地代を出さなきゃいけないしね」
「地代ね……。この辺りは、誰が仕切っているのかしら?」
取り仕切るとなれば、吉兆寺様だと誰がいった。
「吉兆寺様ですね。どちらにいらっしゃるのでしょう」
「うん。上納と挨拶にいかないとね」
二人の問いかけに村人は顔を見合わせる。どうやら、あまり村に顔を出す人物ではないらしい。おずおずと村の代表らしき翁が進み出た。
翁によれば、今は神域にこもる時期なのだという。この期間は各村長が代理を受け持つらしい。地代を預かるという村長に、黒揚羽は問いなおす。
「舞も上納したく思いますが、お会いはできませんの?」
無理だと答えが返ってきた。村長や城主でさえ、神域への侵入は許されていないという。ある種の特権だ。
人物像について問えば、苦笑と濁した言葉が返ってくる。それだけで、器が知れた。
「あの山といえば……天狗の」
天狗の名を出した途端、翁の顔が凍りついた。村民もバツが悪そうに互いに視線を交わす。神域と天狗を結びつけるのを怖がっているようだった、
「神域に天狗を諌めに行くといった浪人が無残な姿で発見された」
やっとのことで引き出せたのは、この一言であった。
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村々から少し離れた場所に廃寺はあった。
しばらく内部を探っていた静十郎は、人の気配を感じお堂へ戻る。
「先客がいましたか」
吉三郎をはじめとする一座の面々が、そこにいた。
互いに一瞬身構えるも、敵意がないことを確認すると挨拶を交わす。
「私は愛梨、よろしくね」
愛梨を筆頭に自己紹介を済ませ、一座について軽く説いた。
今、村々で起こっている天狗の事件を解決する気だとも告げる。
「丁度、天狗退治に俺も名乗りをあげようとしていたところです。その妖奇譚、俺も一枚噛ませてもらいましょう」
静十郎は、天狗事件が村で禁句扱いされていることを確認する。そして、時雨や黒揚羽らの集めた情報を整理していった。
「さて、そろそろ……」
日が暮れてきたところで、吉三郎が戸を開けた。一陣の風が吹き込んだかと思えば、さらに人影が増えていた。
「驚かせて悪いわね。あたしは花焔、忍びの者よ」
「わたしのことは篝とお呼びくださいませ」
花焔(ドロテア・フレーベ(ka4126)と八原 篝(ka3104)は、今しがた神域から戻ってきたのだという。
その報告は、
「中々厄介ですよ、吉三郎さま」
という篝の言葉から始まった。
神域は鬱蒼と生い茂る木々に守られつつ、道をしっかり残していた。
古ぼけた石畳が奥の殿へと続いているのだ。
「あまりいい感じがしないわね……っと」
ピリッとした感触に、花焔は嫌なものを感じた。それは神聖なものより、妖かしの結界術に触れた感触に近い。
忍びらしく身を隠せば、明らかな人外のにおいがした。影は人に近いが、体毛がなくぬぺっとした人形を思わせる。
「……使い魔よね」
一座に入る前、元主人の敵を討つときに見たことがある。陰陽師系の使い魔の一種だ。だとすれば、天狗の正体とは陰陽師の一人か。
尾行すれば奥の殿にたどり着いた。式神は光の漏れる殿中へと消えていく。
近づいて耳を立てれば、怪しい会話が漏れていた。引き渡しについて詳細を知る。
踵を返し、花焔が篝に合流した時、その傍らに先ほど見た木偶が転がっていた。
「このようなお人形さんで天狗を騙るなんて、お仕置きが必要ですね?」
「倒したら、あたしらの存在がばれるわよ」
「見つかった時点でばれてるわ。情報を与えるくらいなら、ね」
ため息を吐いて、花焔は篝とその場を離れる。
殿の会話を聞く限りだと、これしきの妨害で立ち止まるような賢しさは感じられない。決行は明日は間違いない。
「決行は明日、子どもの引き渡しに重ねて行います」
黒揚羽が吉三郎の了解を得て、皆に告げる。
静十郎を含めた全員が、うんと頷くのだった。
●
神域の空気は、清らかというより静かであった。
だが、その静寂を野盗の悲鳴が破った。
「斬魔剛剣術体操・龍天墜だ。私の体に変な手を近づけるなって言っただろう?」
黒子に股間を蹴り上げられ、悶えたのだ。黒子は逃げるように顔立ちの良い男の後ろに隠れて、鼻で笑う。寄り添った男は、この野盗の副長を努めていた。
「バカなことしてねぇで、行くぞ」
筋肉隆々の頭目ががなり、野盗は神域を行く。
黒子は無事に人買いの懐へ潜り込んでいた。
神域の奥にたどり着いた野盗を、三夜代と吉兆寺が迎え入れる。
彼らの傍らには、三体の人形。そして子どもたちが置かれていた。
「さて、手早く終えるか」
吉兆寺は要件だけを済ませたいようであった。
さっさと金の受け渡しを終え、子どもを引き渡す。子どもたちが泣き叫ばないのは、その口に札が貼られているからだ。これも三夜代の術である。
「……杞憂だったか」
取引が終わり、野盗の帰り際に吉兆寺が漏らす。式神の一体がやられたと聞いて、身構えていたのだ。気をゆるめかけた吉兆寺に、三夜代が首を振る。
「いや、来なすった」
昼も過ぎてないというのに、突然夜霧が立ち込めた。
それを吸った野盗の一部が、睡魔に襲われる。三夜代は素早く印を切ると、強く息を吐き夜霧を晴らす。それでも耐え切れない二三人が、倒れるのが見えた。
「おい、どうした!?」
野盗側が混乱をきたす中、黒子はふらりとよろけた。
「大丈夫か」
慌てて助け起こそうとした副長へ向かって、巧みな重心移動から刀の柄を打ち込む。鈍い音がして、呻きながら副長が倒れた。
「やっぱりそういう腹か。てめぇらは周囲を警戒しろ!」
頭目が一人黒子に立ち向かう。この混乱を合図に、一座の面々は飛び出していた。
●
「一筋縄ではいかないようね」
三夜代の力量を見誤っていたと、黒揚羽は嘆息する。
結構な距離を置いていたにも関わらず、天狗もどきに夜霧を祓われた。
おかげで火矢を飛ばしながら、迎え撃たなければならない。
「お集まり頂きました皆々様。今宵我ら百狐一座が演じまするは、とっておきの大活劇に大立ち回りでございます。とくとお楽しみくださいませ」
黒揚羽に続けて篝が境内へと躍り出る。戦輪を打ち鳴らしながら、野盗を見やるや、戦輪を続けざまに投げる。
動きが止まっところで蠱惑的な光を戦輪に込めた妖気で呼び覚まし、注意を引いた。
「吉三郎さま、子どもは頼みましたよ?」
そう頼むやいなや、跳躍。青い冷気を纏わせて、野盗の表情を文字通り凍てつかせた。
「ほんとはばれちゃまずい気がするけど、仕方ないわよね!」
吉三郎の護りを担う愛梨の瞳が金色に変わる。符を取り出し、蝶に似た光弾で敵の矢を打ち落とす。黒揚羽や篝に合わせて、焔も用いて倒していった。
一方で慌てふためく吉兆寺を後ろに、三夜代は術式を展開させた。
「……風の流れが……みなさん。気をつけてください」
いち早く術に気づいたのは、時雨だった。前を行く静十郎と花焔に護りを授ける。
花焔は鞭を振りかざし、式神の一体に迫る。
「他の誰が見逃しても、狐の目は誤魔化せないわよ。神妙にお縄につきなさいな!」
「急くのはいいが、相手の動きには気をつけてください」
静十郎の声に花焔が頷く。放たれた風刃と式神の連携攻撃を、何とか躱し鞭を振り下ろす。式神は人ならざる動きで、花焔の鞭から逃れた。
まるで天狗だ、と静十郎は思う。切っ先を式神に向けつつ、視界の隅で次なる術を用いようとする三夜代の姿が見えた。
「させません」
静十郎は即座に刀を三夜代へ向かって振り下ろす。
巨大な髑髏を思わせる衝撃波が地面を食い散らかすようにして進む。三夜代は既でそれを避けるも、術符が食いちぎられた。
「くっ」と歯噛みしている間に、さらなる追撃を受ける。
「人は飛べないと思ってるの? あたしは跳ぶのよ」
動きで圧倒していたはずの式神が、木々を縦横無尽に跳ぶ花焔に遅れを取ったのだ。絡め取られた式神は、そのまま絞め落とされる。
「むっ」と眉間にしわを寄せている間に、破壊音が響いた。
めまぐるしく視線を向かわせれば、式神の一体が腹部を穿たれていた。明星に似た光が静十郎の切っ先から消え、彼の者の仕業と知れる。
いきり立つ間を一座と一名は与えてくれない。
残っていた式神もまた、静十郎に刃を振るうもかすり傷しか与えられない。おまけに暗がりから、影の塊が飛来して頭を揺らした。
その隙を見逃す彼らではない。花焔が刹那のうちに縛り上げ、静十郎が一刀両断に伏す。三夜代の手駒は、圧殺されたも同然だった。
足掻くように滅多打ちに風刃を放ち、竜巻を起こす。時雨が人買い側にも警戒を飛ばし、愛梨が応じて符を撒いた。
「無茶苦茶しますねぇ」
「……追いつめられて……壊れました?」
三夜代の足下では吉兆寺が泣きっ面で、伏せていた。そんな吉兆寺を意に介さず、三夜代は攻撃を続ける。駆けながら避けているだけでは、決定打が打てない。
さて、どうしたものかと静十郎が思案した。
――そのとき、
「秘儀・絡新婦の術っ!」
花焔の鞭がうなり、三夜代の動きを留めた。静十郎が一気に距離を詰め、刀の背でぶっ叩いた。みねうちだが、骨の二三本は折れたことだろう。
悶絶し三夜代が倒れ、吉兆寺は慌てて逃げようとする。
「……逃しません……」
回りこんだ時雨が、吉兆寺の前に影の弾丸を打ち込むのだった。
●
「逃しはしないって!」
退散を決めた頭目の前方で、木が弾けた。黒子が斬魔剛剣術・圧停剣を放ったのだ。元より業を用いていれば、圧倒できた。
力量差を前に、人買い野盗も崩れ落ちるしかなかったのである。
「天狗を語るなんて、不届き千万ね。どうしてやろうかしら」
「どうしましょう、吉三郎さま?」
判断を委ねられた吉三郎は、さて、と腕を組む。
「服ひん剥いて神域の外に出しちゃえ」と花焔がさくっと言った。
その前に、と黒揚羽が妖しく迫る。
「他にも色々やっているのでしょう。素直に教えてくれたら、いいことしてあげる」
もちろん、するわけがない。
野盗や三夜代はわかっていて口をつむぐ。だが、阿呆がいた――吉兆寺だ。
見逃がしてくれるのか、と騒ぎたて、黒揚羽が頷くと洗いざらい喋ったのだ。
「これだけ余罪があれば、死罪は免れないでしょうね。書いて貼っときましょう」
静十郎の言葉が耳に届いたが最後、吉兆寺の意識は夜霧に消えていくのだった。
残るは子どもたちだ。呆然と尽くす子どもたちへ、時雨が優しく微笑みかける。
「……私は雨女……。雨を連れ……子をかどわかす化生の類……」
いきなり切りだされ、瞬きする子どもたちの前で唐傘を開く。途端に雨がふりだした。
「……本物の妖と語れば……信じては、くださいますか……?」
「尤も今は悪党から子を浚い、親元に返すのだがな」
吉三郎が補足を入れると、子どもたちの瞼が下がった。黒揚羽が夜霧を用いたのだ。
「全ては夢、そういうことにしておきましょう」
くすくすと笑みを浮かべ、慈しむように子どもたちを見やる。
在りし日の自分と重ねているようだった。
「へっへ、見物料をもらってきたよ」
村へ寄ったついでに居合で稼いだ黒子が一座に合流。
逆に静十郎は、
「俺は再び度に出ます。達者で」と去っていく。
一座もまた、旅という日常へ帰っていくのだった。
――天狗の子浚いは、吉兆寺の悪事と知れ渡り神域は解体された。
そして、雨女を祀る祠が建てられた。
在岡藩にまつわる話を、一座は遠くで風に聞くのだった。
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相談卓 クリスティン・ガフ(ka1090) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/01/03 03:30:00 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/30 14:29:10 |