ゲスト
(ka0000)
【初夢】夢でレボリューション
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 7日
- 締切
- 2016/01/03 22:00
- 完成日
- 2016/01/10 23:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
1×××年。クリムゾンウェスト
大陸全土に資本主義が行き渡ってより、一世紀。
機械産業の発達により性や年齢、種族の違いは、微々たる問題に過ぎなくなった。かつて敵対的亜人と呼ばれていたゴブリンやコボルドも、市場経済を維持する部品として、否応無く人間社会に組み込まれている。
誰もが同じ言葉を話し、誰もが同じものを食べ、誰もが同じ生活様式で暮らす――事実上労働者たちは一つの階級となった。
労働から労働へ追い回される彼らは、やがてこう考えるようになる。
自分たちがよい暮らしをするためには、社会の仕組みそのものを、根こそぎ変えてしまわなければならないのだ、と……。
●
工業都市は争乱に包まれていた。何千という群衆が紅の旗を振り回し、大通りを埋めつくしている。
広場では急ごしらえの壇上で、1匹の小柄なコボルドが、マイク片手に吠えている。
「賃金労働は資本という財産を作り出す。資本は賃金労働を搾取するものである。何故ならそれは新しい賃金労働を生産し、それを再び搾取するという条件なしに、自ら増えることがないからである!」
わーっと群衆から拍手が上がった。
ドウン、と爆発音。
だが誰も場を立ち去ろうとしない。機関銃を担いだ兵士たちが、様子を見に行っただけで。
「新しい社会には金持ちも貧乏人もいてはならない。誰もが働かなければならない。一握りの金持ちではなくて、働くものみんなが、共同労働の成果を受け取るようにしなければならない。機械の導入やその他の改良は、みんなの労働を楽にするためのものでなくてはならない!」
機銃掃射の音が聞こえた。耳を壟するばかりの激しさだ。
群衆はますます熱狂し、拍手喝采する。
「それらの実現のために我が党は、聖なる10原則を掲げる!
1、土地所有を収奪し、地代を国家支出に振り向ける!
2、強度の累進税!
3、相続権の廃止!
4、すべての亡命者及び反逆者の財産没収!
5、国家資本および排他的独占権をもつ国立銀行によって、信用を国家の手に集中する!
6、すべての運輸機関を国家の手に集中する!
7、国有工場、生産用具の増加、共同計画による土地の耕地化と改良!
8、すべての人々に対する平等な労働強制、産業軍の編制、特に農業のために!
9、農業と工業の経営を結合し、都市と農村との対立を除くことを目指す!
10、すべての児童の公共的無償教育、児童の工業労働の撤廃、教育と物質生産との結合!」
先程よりも激しい爆発音が響いた。
振動によってコボルドは壇から転がり落ちる。付き人が急いで助け起こし、再び壇上に立たせた。そこへ、先程の兵士たちが戻ってきた。
「コボ同士、第4地区のバリケードを撃破いたしました! 5、6地区も直に掃討し終わります!」
コボルドはそれを受け、群衆に呼びかけた。
「聞いたか同士たち! 資本家とその飼い犬どもは支配権を失った! 万国万種の労働者よ、団結せよ! 団結せよ!」
●
強固な高層建築に立てこもっている資本家たちは、落ちつかなげに立ったり座ったりを繰り返す。
激しい銃声や砲撃音が壁を伝って響いてくるたび、彼らの脳裏には、紅の旗をかざす群衆の姿がちらついた。
「くそっ、あのドブネズミどもめ……何が革命だ」
「ふん。この騒動もじきにやむ。ここには入れやしないさ。治安警備隊に守らせているんだから。いざとなったらシェルターもあるし」
「直に中央から軍が来るよ。それまで持ちこたえればいい……」
会話を断ち切るように壁の電話が鳴った。
最も近くにいた男が、急いで取り上げる。
二言三言の応答の後彼は受話器を置き、顔色も悪く仲間に告げた。
「悪い知らせだ……中央でも一斉蜂起が起きているらしい……軍は首都の守りだけで手一杯だと……」
すぐ近くで大爆発が起き、ガラスの割れる音がした。
パッと部屋の扉が開き、警備隊員カチャ・タホが駆け込んでくる。
「皆さん、シェルターに入ってください! 暴徒が敷地内になだれ込んできました!」
外から不吉な大合唱が聞こえる。
「「人民の敵を裁判に! 反動どもを裁判にかけろ! 吊るせ! 撃ち殺せ!」」
リプレイ本文
空中戦艦ポチョムキンの艦長オンサ・ラ・マーニョ(ka2329)は軍本部からの緊急指令を聞いていた。
「工業都市にて赤化暴動発生 貴艦、至急鎮圧に向かわれたし」
彼女の頬にはたとえようも無い歓喜が浮かんでいる。
「時が来た……我が部族が受けた屈辱を晴らすときが……豚どもに報いを受けさせる時が……」
●
大通りは群集で埋め尽くされていた。
列の先頭ではメリエ・フリョーシカ(ka1991)が拳を振り上げ叫んでいる。
「続け同志達よ。我々の血と汗と骸の上に胡坐を掻いて、甘い汁を吸って肥え太った豚共を、粛清する! 資本に染まった、豚共を抹殺せよ!我に続け!」
超級まりお(ka0824)ことおそマリ、とどマリ、からマリ、いちマリ、ちょろマリ、じゅうしマリのそっくり6姉妹がシュプレヒコールをしている。
「金持ちに極刑を~!」
「「「もっと賃金上げろ~!!」」」
「資本主義に鉄槌を~!」
「「「もっと賃金上げろ~!!」」」
天竜寺 詩(ka0396)は非常な興奮を覚えた。
新聞記者としてこれはもう、記事にするっきゃ無い。
「目指せニュース速報報道賞!」
ひとまず誰にインタビューしようかと周囲を見回し、路傍に天央 観智(ka0896)が佇んでいるのを見つける。
「観智さん、観智さん!」
「……ああ、詩さん。何ですか?」
「この革命騒ぎについてよかったらコメントもらえないかな?」
それを聞いて観智は、遠い目をする。
「社会周期理論ではないですけれど……中々、困った事ですよね。人が私欲に奔る限り……真に平穏な社会は、来ないのでしょうね」
「……えーと、全体的に観智さんは革命に反対の立場?」
「いえ……僕は中立です。革命という夢が「変」となるか「乱」で終わるかには、多大な興味がありますが……」
●
高級住宅街でも騒ぎが始まっていた。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)と、彼女の家へ遊びに来ていたナーディル・K(ka5486)は、窓からその様子を見下ろしている。
ケーキで口周りを汚したルンルンは、ぷりぷり怒っていた。
「折角のお茶の時間が台無しなんだからっ! あんなに忙しそうにしてるから、余裕無くて暴力に走るに違いないの……パンを食べる時間がなければ、カロリーブロックを食べればいいのに」
竪琴を持ったナーディルの横顔は、痛ましげだ。
「町は民衆の悲しみや怒りで溢れていますが、どうして破壊行動の道を歩んでしまうのでしょうか……みんな幸せを願っているのに……」
壁にかけてある大型テレビの中では電波ジャックの競り合いが起きている。
『市民の皆さん、こちらは白十字放送です! ただいま共産主義者による暴動がおきております! 大変危険です! もし隣人の不審な行動を見かけたら直ちに白十字本部に通報』
『こちら革命本部! 万国万種の労働者よ! 今から話すことは真実である!』
『彼らは卑劣なテロリストだ!』
『資本家は労働階級を奴隷化し、ありとあらゆる搾取を加えている!』
『彼らの言うことはみなデマです、信じてはいけません!』
『見よこの映像を。富豪のどら息子どもは貧民街の子供たちを撃ち殺した。やつらはゲームと称してこの蛮行を行ったのだ!』
『善良なる市民、デマを信じてはいけません!』
『資本家はありとあらゆる策略を用いる! 奴らはつける限り何度でも嘘をつく!』
ナーディルは席を立つ。
「ルンルンさん、私帰りますわ。使用人さんたちが心配ですから……」
●
『反革命白色十字軍』。それはここ数年伸張著しい保守系右翼団体である。
構成員は貴族、軍人、都市商人、聖職者、反亜人主義者といった面々。優れた組織力と情報収集力を武器に資本家、政治家、高級将校の身辺警護を請け負うと共に、潤沢な資金や物資を提供してもらっている。
その若きリーダーであるアウレール・V・ブラオラント(ka2531)は、部下からの報告に喜色満面だった。
「そうか……ついにゴキブリどもの本拠地を突き止めたか。早速行動を開始しろ!」
白十字の腕章をつけた親衛隊と共に彼は、黒塗りの車へ乗り込んだ。レーザーガンを手に。
「運転手、途中寄り道してくれるか。ゴキブリの前にハエを一匹潰さなければならんからな」
●
資本家たちの本拠地、大陸貿易商会のビルディング高層階。
ルヌーン・キグリル(ka5477)、クリスティン・ガフ(ka1090)はモニタ越しに、資本家たちの指示を仰ぐ。
「あー、ルヌーンくん、君は部隊を連れてエアポートまで先に行き、脱出用ジェットの準備をしておいてくれ。もしそこにも暴徒どもが入り込んでいるようなら、遠慮はいらん、蹴散らせ」
「脱出ですか? 今し方軍から、空中戦艦をここに遣すとの通信があったのでは……」
「転ばぬ先の杖だよ。とにかく早く行った行った。ボーナスは出すから」
釈然としない思いを抱きながら場を辞するルヌーン。
残ったクリスティンは何か言われる前に、自分から口火を切った。画面の一番奥にいる、工業用魔導アーマー会社の社長に向けて。
「社長、試作装着型警備魔導アーマー『防人』使用の許可をいただきたいのですが」
「『防人』? あれは……まだテストが済んでなかったんじゃないのか?」
「シュミレーション上では何の問題もありませんでした」
「……そうか。ならば許可する」
●
傭兵のエヴァンス・カルヴィ(ka0639)、星輝 Amhran(ka0724)、ゴッドフリート・ヴィルヘルム(ka2617)は、迷路のような商会ビルの階段を駆け下りていた。
外からは、やむことの無い怒号が聞こえてくる。
「殺せ!」「殺せ!」「資本家をぶっ殺せ!」
殺気立った言葉の数々は、エヴァンスをひどく愉快にさせた。
「笑顔の絶えないやりがいのある職場で嬉しいぜ!」
彼にとっては暴動の理由などどうでもいい。鉄塊のごとき大剣に血を吸わせることさえ出来れば満足なのだ。
星輝もその点似たようなもの。どっちの側に正義があるかなどどうでもいい。報酬を多く毟れそうな側の味方をするだけだ。
「超絶合法幼兵KILALAちゃんのお手並み、見せてくれようぞ」
ゴッドフリートは彼らと違い、意識して反革命の立場を選んでいる。
革命側の言うことはどうにも性にあわない。
(『労働の強制』という部分が特に気に入らねぇ)
一階ロビーに出た。
数え切れないほどの群集が我先に入り込んでくる。先に現場へ向かっていた警備隊員との間に、はや銃撃戦が始まっている。
ゴッドフリートはマシンガンを乱射しながら、場に踊りこんだ。
「俺は人呼んで辺境の勇者ゴッドフリート! 労働の強制だと? この俺に命令できるのは俺だけだ!」
●
ジョージ・ユニクス(ka0442)は唖然としていた。
「何が起きている……?」
騒ぎを聞きつけ見回りに来てみれば、目抜き通りは惨憺たる有様。どの商店も窓ガラスが割られ、壁に穴があけられ、シャッターがひん曲げられ、白昼堂々略奪が行われている。
狼藉を止めなければ。そう思って彼は、声を張り上げた。
「止めろ!」
略奪を行っていた面々は彼の身なりを見るなり、敵意をむき出した。
「このガキブルジョアだ!」
「やっちまえ!」
身構えるジョージ。
そこへ柊 真司(ka0705)が現地治安警備隊を引き連れ、バイクで乗り込んでくる。
「全員今すぐ盗品を下に置け! 逮捕するぞ!」
「るせー! 帰れポリ公!」
「犬!」
説得できないと瞬時に判断した真司は、目だって暴れているものに向け、デルタレイとファイアスローワーを行使した。
続けて他の部隊員が催涙弾を雨あられと浴びせる。
巻き込まれまいと脇道へ逃げたジョージは、壊されたATMから札束を盗む神楽(ka2032)に行き当たる。
「ヒャッハー! 大金持ちっす~!」
「お前、何をしている!」
咎めるジョージに神楽は、悪びれもせず言った。
「ああ、これは労働の再分配っす。革命さまさまっすよね」
「革命、何をバカなことを……! ただの窃盗じゃないか!」
「……口の利き方知らないっすね。おーい反革命摘発委員ー! 階級の敵発見すよー!」
神楽の呼びかけに応じ、そこかしこから仲間が集まってきた。彼らはジョージを押さえつけ、羽交い絞めにする。
「何をする、放せー!」
「じゃあお達者でー」
連行されていくジョージにへらへら手を振る神楽。
そこへ、ひょいと詩がやってきた。
「すいませーん。クリムゾン・クロニクルなんですがー、ちょっと取材よろしいですかー?」
「ええっ取材! いやー、俺も出世したもんすよねー。何を聞きたいすか?」
「とりあえず革命に参加した動機などを」
「金持ちが女を独占する不平等な世界を破壊するっす! そうすれば俺にも可愛くて年下でちょいエロで俺にベタ惚れな彼女が出来る筈っす!」
●
女医エイル・メヌエット(ka2807)は、労働者街にいた。
往診中である彼女の存在を聞きつけた人々が、次から次へと怪我人を運び込んできている。医は仁術と心得て、運ばれてくるものの素性を一切問わず治療に専念しているのだが、とても追いつかない。
直接戦い傷ついた人よりも、とばっちりの流れ弾や暴行を受け負傷した人間のほうが、数としてはるかに多い。
(暴力革命の首謀者は誰?)
もし自分が治療したことのある誰かなら頬の一つも張りたい。
そう思っていた矢先、夜桜 奏音(ka5754)が悪い報告をしてきた。
「先生、もう包帯もガーゼも薬もありません」
「……仕方ないわね。医院のストックを取りに戻らないと」
それを聞いて普段彼女の世話になっている労働者たちが、同行を申し出てきた。
「先生、一人では危険ですよ。お供します」
奏音も言う。
「私も一緒に行きますよ」
一行は妙な尋問などに捕まらないよう、注意しながら道を急いだ。
しかし戻ってみれば、医院もまた略奪にあっていた。薬や包帯といっためぼしい物は、ほとんどなくなっている。
エイルは声を荒げる。
「一体何なの! 革命なんて何の役にも立ってないじゃないの!」
奏音が静かに一人ごちた。
「諸悪の根源は資産家たちです」
●
徴発部隊隊長セリス・アルマーズ(ka1079)は部下たちを率い、まだ陥落していない地区に足を踏み入れた。
バリケードの上に、何台も機関銃が据付けてある。白十字の腕章をつけた兵士が吼える。
「死ね、くそコミー!」
セリスの身に着けている鎧は一斉掃射を跳ね返した。部下が撃ち倒されていくのも意に介さず彼女は、巨大な紅旗で『敵』を殴殺していく。
その瞳には光が無かった。唇はひっきりなし呟き続けている。
「……すべて等しく平等であれ……今は持つ者から全てを奪う……残ったものからも全てを奪おう……全て等しく平等に……」
壊されていく体から吹き出す血は、紅の旗をより鮮やかな真紅に染め上げていく。
トランシーバーにより緊急支援要請を受けた真司が、別の通りから駆けつけてきた。
流れ弾を盾で防ぎつつ、武器をライフルに持ち替える。セリスに照準を合わせる。
(そうだ、来い、来い、もっと近く――)
直後彼の頭部を、銃弾が突き抜けた。
「――あ?」
状況を把握する暇も無いまま倒れ、それきり。
彼を撃ったのは、付近の建物に潜んでいたレーヴェ・W・マルバス(ka0276)だ。
彼女は息を殺し移動する。次の狙撃ポイントに向かうために。
狙撃手は位置を誰にも悟られないようにしてこそ、生き残ることが出来る。
(共産主義は人間には作り出せぬ。それは解っておる……だが、戦争は人間の進化の歴史……じゃからして、革命そのものは肯定するぞ、私はな……)
●
庭に車が走りこんでくる音が聞こえた。
エリス・ブーリャ(ka3419)はビザを配り終えた人々を、本棚の後ろにある隠し扉から送り出す。
「さあ早く行った行った。地下道使って港まで出れば、どうにかなるからね」
全員行かせ改めて椅子に戻ったところで、折りよく扉が開く。
アウレールが入ってくきた。
「あれー、アウレールちゃん、怖い顔して何か用?」
「善良な市民が教えてくれたよ。君、議員の立場を利用して敗北主義者やアカのシンパの国外逃亡に手を貸しているんだって?」
「……エリスちゃんさぁ、マテリアル汚染で名高い重工業会社のCEOでしょう? 今更ながらちょっとくらいの罪滅ぼしをしたくなったっていうか。戦わない一般人のためにもビザを発行しようかなってさ。どうせならエヴァン君やミリアっち、星輝の姐御とかぐにゃんにもビザを送りたかったなあ」
「言い残すことはそれだけ?」
「まぁ、こんな時代になっちゃったのも誰も悪くは無い。言わばこれが自然の摂理だ。一つの時代が終わり、新たな時代が始まるだけ……でもさ、これだけは言わせて?――てめえらやってることが、アカと瓜二つだよ」
レーザーガンの引き金が引かれた。エリスの体は腰から下を残し弾け飛ぶ。
●
家に戻ってみれば使用人たち――ほとんどコボルドなのだが――が、家の中の家具や備品をせっせと持ち出しているのだ。
怒るより先にびっくりしてしまったナーディルだが、気を取り直して注意する。
「何をしているんです」
コボルドは、きっと彼女の目を見据えてきた。
「これみんなのもの。みんなでわける」
「分けるって……駄目ですよ。家のものを勝手にとっては。泥棒になってしまいますよ」
そう言った途端彼らは、一斉に反発した。
「泥棒はお嬢さんたち!」
「お嬢さんたち働かない、なのにいい暮らし!」
「僕たちずっと働く、なのに悪い暮らし!」
呆然とするナーディルの肩に、手が置かれた。
はっと振り返ってみると、帽子を目深にかぶった男が鋭い目を向けている。
「お嬢さんはブルジョアだな? ちょっと革命委員会まで一緒に来てもらおう」
●
おそマリたちは高級住宅街に仲間たちと雪崩れ込む。
「特権階級の富を奪え~!」
「「「奪え~!」」」
「やつらの富を我々の手に取り戻せ~!」
「「「取り戻せ~」」」」
台所に乱入しスイーツを食い漁るそこへ、家の主であるルンルンがやってきた。
「こんのばっちいボルシェヴィキども……もう許さない……機械の力は労働力確保の為だけじゃ無いんだからっ……」
天井がかたんと開き紐が降りてくる。
ルンルンはそれを思い切り引っ張った。
「さぁ、目覚めなさい資本主義要塞研究所と、グレートゼニンガー!」
愉快な効果音が響き豪邸が二つに割れた。
巨大な鉄人が出現する。
「ゼニンガー乙! 暴徒を薙ぎ払っちゃってください!」
危うし革命戦士たち。
そのとき天の一角から、輝くキノコが飛んできた。
「今だ、六身合体っ!!」
「「「えっ、何それっ!?」」」
6姉妹の体が光に包まれひとつに溶け合い、巨大化する。
「労働合体ゴットまりおぉ~!!」
●
「ガハハーグッドだー! 俺を楽しませる為にどんどん戦火を広げやがれお前らぁ!」
エヴァンの足元には骨と肉を引き裂かれ弾けた死体が、山盛り転がっていた。
しかし革命勢力が尽きることはない。次から次へ、死に物狂いで向かってくる。
飛び交う火炎瓶、手榴弾。
星輝はそれらを手裏剣ではじき落とす。
「仕事は仕事じゃしっ♪ 恨みはないが皆、死にたもれ?」
大雑把な相棒の攻撃の隙を補い、剃刀のような刃を走らせ、喉を切る。
「えばんすお主、契約以上にヤリ過ぎじゃ。見い、暴徒以外にも一緒くたに殺ってしもうとるではないか。追加報酬を毟る交渉は全部ワシがするのじゃぞ?」
「うるせえなあ、勝ちゃいいんだよ! 頭を使うことは全部お前の仕事なんだから、報酬が減らないよう考えろロリ娘!」
「ほう、さよか。それならおぬしの取り分から減額な」
ぐだぐだしていたエヴァンスの顔が急に引き締まった。セリスが現れたのだ。血を吸いすぎた旗は真紅を通り越し黒くなっている。
「……へぇ、ちったあ骨がありそうだ、なっ」
エヴァンスはセリスの旗を右の剣で受け、左の義手を鎧の胸に押し当てた。
義手には、炸裂弾が仕込まれていた。
衝撃で吹き飛ばされたセリスは壁にめり込む。そこへウォッカが投げつけられる。火がつく。
「プレゼントしてやるよ! 飲みかけだけどな!」
エヴァンスは油断した。もう立ち上がってこられないだろうと。
だがそれは甘かった。鎧が帯びている癒しの力と彼女の心に巣食っている狂信は、肉体のダメージを補って余りあるものだった。
直ちに起き上がり、体当たりしてくる。折れた紅旗の先端を向けて。
星輝が兜の隙間に刃を突き立てるも遅かった。それは、エヴァンスの腹を貫通していた。
●
階段の上から殺到してくるコボルドの一群。
ゴッドフリートは撃ちまくった。
「俺に命令しようってぇコボルドどもは、この俺が蹴散らしてやるぜっ!」
コボルド兵は軒並みなぎ倒される。
ゴッドフリートは何故いきなり敵が上からわいて出たのか確かめるために、階段を駆け上がろうとし――足を止めた。
メリエが現れたのだ。
法悦に満ちた表情で彼女は、血まみれの大刀を抜く。
「お前で28人目。恐れるな。死ぬ時間が来ただけだ」
台詞が終わるのを待たずゴッドフリートは、マシンガンを乱射する。
「これでも喰らいなっ!」
体に風穴が開く苦痛もメリエにとって、何ほどのこともない。
「万歳、万歳、我等の思想に栄光あれ」
赤いオーラに身を包み、敵の首から胸にかけ、袈裟懸けに斬る。
馬鹿のように血が吹き出す。ゴッドフリートは階下へ向かって、仰向けに落ちていく。
だがメリエが勝利を祝うことは出来なかった。次の瞬間跡形も無く吹き飛んだからである。後方に現れたクリスティンが放った、魔導砲によって。
●
ジョージはナーディルと共に、革命本部へ連れてこられていた。
だだっ広い部屋は法廷のような作りだ。
傍聴席にわんさといる群衆は、ずっと騒ぎ続けている。
「「革命万歳」」「「共産主義万歳」」「「進歩万歳」」
「くそっ! ええい! 其の煩わしい勝鬨を止めろ……!」
ジョージの声は黙殺された。
被告席には真っ青な顔色の神楽がいる。
進行役らしい男が、書類片手にわめき立てる。
「同志諸君! 神楽同志はプチブル的浅ましい根性により、公平に分配されるべき富を隠匿した! 打倒すべきブルジョア階級の娘に対し卑しい取引を持ちかけた! 我々はこの男をどうするべきか!」
群集の判断は早かった。
「「粛清!!」」
「ちょっと魔が差しただけっす! ヘルプっす!」
神楽は外へ引きずり出されていった。
続けて、重い刃が垂直に落ちる音が聞こえた。
あまりの展開の速さに、ジョージもナーディルもついていけない。
「何だこれは……」
「人民裁判です」
即座の返答に振り向けば、アルマ・アニムス(ka4901)がいた。その横には、ミリア・コーネリウス(ka1287)。
「革命戦士には人一倍の規律意識が求められるのです。皆が平等に同じ物を使い、生を共にする。貧富の差も、差別もなく……世界は優しくなる。当然個性は認められて然るべきですが……きっと皆幸せになれる」
強烈な地響きがした。天井にひびが入り粉塵が落ちてくる。
ミリアは頭に積もったそれを掻き払い、アルマに言った。
「お出ましみたいだね」
「そのようですね――皆さん非常口から一時退避してください」
群集は言われた通り出て行く。
残ったのはジョージ、ナーディル、アルマ、ミリアの四名だけ。
扉を蹴破って、アウレールとその一党が現れた。
●
暴徒たちは確実にシェルターの位置とそこへの道筋を察知している。こうまで深部に侵入されているというのは、そういうことだ。
カチャが半泣きになって叫ぶ。
「誰か内通者がいるんじゃないですか!?」
そうかもしれない。だがクリスティンにとって、それはもうどうでもよかった。絶え間なく体を襲う激痛と一緒で。
社長を助けたい。あるのはその一念のみだ。
「あなたたちは退去してください。もうここは持たないから」
「クリスティンさん? どうする気です、クリスティンさん……!」
すがる声を残し、1人引き返す。
シェルターについてみればただ、社長だけが残っていた。
「社長、早く逃げてください」
「……ああ。クリスティン、お前もついてきなさい。必要な人材だから」
その言葉に彼女は微笑んだ。
喉に血がせりあがってくるのを感じながら、深く、深く頭を下げる。
「社長、有難うございました。ドブネズミは引き際ですので時間稼ぎにドブに飛び込みます。社長はどうかお元気で」
クリスティン、という声を背に彼女は、押し寄せてくる群衆に突進していく。
感覚を失い強張った手が、アーマー内部の自爆スイッチを押した。
「さようなら。お父さん」
●
ルヌーンは仲間と共に、エアポートへ押し寄せる群集たちを押し返している。
「あいつら逃げるぞ!」
「捕まえろ!」「裁判にかけろ!」
「死ね反動!」
「くたばれブルジョア!」
革命をしたい気持ちはわからないでもないが暴徒は許さない。とはいえ支配階級が市政の任務をほっぽりだし我先に専用ジェット機に乗り込む様を見ると、うんざりした気分にさせられるのも事実。
要となる人間がいなくなっては、混乱がこの先どこまで広がるか分からない。
脳裏をふと、姉の顔がよぎる。
もしや革命勢力に捕まったりなんかしていないだろうか。そうだとしたら、命が危ない。
「お姉ちゃん……無事でいて!」
●
詩は、警備隊から盾で押し返されながらも、資本家たちへのインタビューを果敢に試みていた。
「すいませーん! クリムゾンクロニクルなんですけどー! 今まさに財産どころか命さえ潰えんとするそのお気持ちをお聞かせ願えませんかー! 人は死に臨んで何を思うのかー! 聞こえてますかそこのハゲー! デブー! この間私のお尻触ったあなたーっ! せめて辞世の句でも一言ーっ!」
「ええいやかましいわ失せろ! 貴様らこのままで済むと思うなよ、治安回復した暁にはどいつもこいつも首吊り台送りにしてやるからな!」
空気が震えた。
離れた高台から事態の様子見をしている観智は、顔を上げた。
空の彼方から空中戦艦が急速前進してくる。
群集はどよめく。資本家は勢いを取り戻す。
「ふははは、終わりだなドブネズミども! 貴様ら全員国家反逆ざ」
次の瞬間戦艦のビーム砲が、飛び立ったジェット機に向け放たれた。
撃たせたオンサは感無量だ。
「豚共の血を浴びるのは心地よいな……」
彼女はマイクのスイッチを入れ、地上へ向けてのアナウンスを行う。
『我はポチョムキン号艦長オンサ・ラ・マーニュ。ただいまより連邦軍を離脱し赤軍戦線に参加する。我は共産主義者なり!』
群衆の中にたち混じっていた奏音は、ひっそり場を立ち去る。ことここまで来たならば、終わりが見えたも同然だ。
「黒幕は人知れず消えましょうか……次はどこでしましょうか」
●
アルマは芝居がかった様子で両手を広げる。
「あぁ、よくぞここまで……皆様が来る事は解っていました。お疲れでしょう? 途中トラップが多くて」
対しアウレールは、凄惨な笑みを浮かべた。
「余裕ぶるのもそこまでにしておくんだな。アジトの周囲は隙間なく戦車隊が取り囲んでいる。あの世以外出口はどこにもないぞ。もっともそこにもすぐには行かせないがな」
ミリアはまあまあ、と脇から口を挟む。
「せっかく来てくれたんだから、こっちも、相応の歓迎をさせてもらう……」
彼女はさっと手を上げた。
重い響きを上げ両脇の壁がせりあがる。数知れぬ伏兵と銃列が現れる。
「豪勢だろう? 君たちの好きなモノだ」
●
労働者街に戻ったエイルは、街頭テレビへ釘付けになっていた。
(なぜこんな時に特撮ものを放送しているのかしら……)
ビルの谷間で労働合体ゴットまりおとゼニンガーが戦っている。
「団体交渉アターック!」
『ゴヨウクミアイガード!』
「賃上げアッパー!」
『ゲンブツシキュウブローック!』
力は拮抗しているようだが、そうなると生身の方が分が悪い。
ゼニンガーの目が輝いた。口から黄金色の熱戦が飛び出す。
『グローバルマネーロンダリングー!』
あやうしまりお。ここで終わってしまうのか。
いや終わらない。彼女は果敢に立ち向かう。尻で。
「必殺まりおフラ~ッシュ!!」
●
「こ、のっ、くそコミー、がっ……」
体のあちこちを赤く染め憎悪の眼差しを向けてくるアウレール。
アルマは取り上げたレーザーガンを向ける。
「……残念ですが、彼は『手遅れ』です」
アウレールの上半身が吹き飛んだ。エリスと同じように。
「命すら平等……殺しに来るから殺される。さて、どうします?」
顔を向けてきたアルマにジョージは、感情を押し殺した声で問い返した。
「どうするって、何をです」
「我々の同志になりませんか?」
数秒考えてジョージは言った。
「お断りします。あなたがたの作る社会が幸せなものになる気が全然しませんので」
アルマは残念そうに首を振る。
赤軍兵士が両脇を抱えジョージを連れて行く。
「……僕は……!!」
次はナーディルへ質問。
「ナーディルさんはどうします?」
「……私もジョージさんと同意見です」
彼女もまた連れて行かれた。
ミリアは肩をすくめる。
「さ、行こう。同志たちがアルマの無事な姿を確かめたくてうずうずしてるよ」
彼らは揃って部屋を後にした。
光のあふれる外へ出てみれば、周囲を埋め尽くす人、人、人。オンサの派遣してきたユニットCAM集団によって鉄くずとなった戦車群。
『偉大な同志アルマ万歳!』
『ミリア同志万歳!』
アルマとミリアは手を振り、彼らに応える。
「皆さん、今日革命の一歩がなりました! しかし我々はここで歩みを止めてはいけません」
「自由のためにボクらは戦う、圧政者の手からすべてを取り戻すまでな」
次の瞬間彼らは撃ち倒された。正確無比なスナイプによって。
●
レーヴェは集会場を見下ろす屋根裏部屋から撤退していく。
最初からこうするつもりだった。資本側指導者と同様、革命側指導者もまた消えなければならないのだ。双方で話し合うために、カリスマは必要ない。
(私は影から戦い行く末を見守るだけさ……)
扉を開け出て行こうとしたところで彼女は、おかしな声を聞いた。
「必殺まりおフラ~ッシュ!!」
振り向いてみれば窓の外、避けようもない速度でぶつかってくる巨大な鉄人の影……。
●目覚め
まりおは飛び起きた。
気づけば体中が汗だくである。
彼女は、むむうと考え込んだ。
「勝った………のかな?」
エイルは身を起こして呟いた。
「……夢、か」
あまりいい夢ではなかった。
「歪虚と何が違うのかしらと、オルクスあたりに歎息されそうね」
観智は寝ぼけ顔で大あくび。
「夢……でしたか。まぁ……夢で良かったのでしょうね」
アルマは、思わずあたりを見回した。
「……!?旗は?平等は!?」
そんなものはどこにもない。ミリアが横でぐうぐう寝ているだけである。
「……夢?……良かったぁ夢で良かった!」
彼は再びばたんと倒れ寝始めた。そこでミリアが起きて来た。
「ん……夢?」
不機嫌そうに呟いた後、彼女もまた寝なおす。アルマにぎゅっと抱きついて。
起きた後もアウレールは、なかなか息を整えられなかった。
「革命……! 恐ろしい夢を見たものだ……こうした思想を通じて付け込む歪虚がいるかも知れない……」
取り越し苦労で終わればいいが。
クリスティンは枕に顔を押し付ける。とうさん、と口の中で呟く。幾度も。
「何て夢。会えない。分かっている。筈なのに」
ゴッドフリートは初日の出に手を打ち、今年の、後ろ向きな抱負を述べる。
「無理やり働かされる世界……そんな世界にしないために、俺は戦う!」
ルヌーンは起きるや否や手鏡を除いた。
いつも通り頭に花が生えている。
「夢……そうよね」
今度姉さんの顔を見に行こうかな、と思う。同時刻目覚めたナーディルが、「もっと人を大切にしよう」と改めて思ったりしていることなど、露知らず。
「何だ今の……産業革命のネガキャンもいいとこだよ……もう一度寝よっと」
エリスは二度寝を始める。今度こそいい夢をと神様に願いつつ。
「えーっと……なんだ、夢だったのか? 変な夢だったな」
ぶつぶつ言いながら真司は洗面台へ立った。
と、すごい声が聞こえてきた。
「ぎゃ~!?」
どうやら近所に住んでいる神楽の声らしい。
「って、良かった夢っすか。そうすよね、いきなりギロチンなんかあるわけないすよね!」
悪夢の余韻を打ち消そうと神棚に向かって手を合わせる。かなり真剣に。
「今年こそは可愛くて年下でちょいエロで俺にベタ惚れな彼女ができますように!」
窓の外、カロリーブロックを咥えたルンルンが通り過ぎていく。
「寝坊です! 依頼の出発時間が……ちこくちこくう~」
「ッアワア!!?」
ベッドから転がり落ちたジョージは、まず自分の首に手を当てた。
「……夢? 嫌な夢……」
安堵の息を漏らした後、本日依頼が入っていたことを思い出す。
「あ、そうだ、大丈夫かな?……時間」
ハンターオフィスの前で、オンサがメリエに聞いている。
「メリエ殿いかがなされた。首がえらく傾いておるが」
「……なんか寝違えた。超首痛い……オンサさんもなんだかお尻腫れてません?」
「……恥ずかしながら寝小便が姉上にばれ、たっぷり尻を叩かれたのじゃ……」
奏音は彼女らを横目に、昨晩の夢をうっすらと思い返す。
「うーん、これが胡蝶の夢というものでしょうか」
おーい、と声が聞こえた。ルンルンとジョージが走ってくる。
セリスは鼻歌を歌いつつ、目覚めの紅茶。
「快適な朝ねー」
彼女は夢について何も覚えていない。今日一日の計画を練る。
「さ、今年も新年の開運護符を売りに行かないと。最初はレーヴェ君の家から回ってー、次に詩君、エヴァンス君、星輝君――」
「工業都市にて赤化暴動発生 貴艦、至急鎮圧に向かわれたし」
彼女の頬にはたとえようも無い歓喜が浮かんでいる。
「時が来た……我が部族が受けた屈辱を晴らすときが……豚どもに報いを受けさせる時が……」
●
大通りは群集で埋め尽くされていた。
列の先頭ではメリエ・フリョーシカ(ka1991)が拳を振り上げ叫んでいる。
「続け同志達よ。我々の血と汗と骸の上に胡坐を掻いて、甘い汁を吸って肥え太った豚共を、粛清する! 資本に染まった、豚共を抹殺せよ!我に続け!」
超級まりお(ka0824)ことおそマリ、とどマリ、からマリ、いちマリ、ちょろマリ、じゅうしマリのそっくり6姉妹がシュプレヒコールをしている。
「金持ちに極刑を~!」
「「「もっと賃金上げろ~!!」」」
「資本主義に鉄槌を~!」
「「「もっと賃金上げろ~!!」」」
天竜寺 詩(ka0396)は非常な興奮を覚えた。
新聞記者としてこれはもう、記事にするっきゃ無い。
「目指せニュース速報報道賞!」
ひとまず誰にインタビューしようかと周囲を見回し、路傍に天央 観智(ka0896)が佇んでいるのを見つける。
「観智さん、観智さん!」
「……ああ、詩さん。何ですか?」
「この革命騒ぎについてよかったらコメントもらえないかな?」
それを聞いて観智は、遠い目をする。
「社会周期理論ではないですけれど……中々、困った事ですよね。人が私欲に奔る限り……真に平穏な社会は、来ないのでしょうね」
「……えーと、全体的に観智さんは革命に反対の立場?」
「いえ……僕は中立です。革命という夢が「変」となるか「乱」で終わるかには、多大な興味がありますが……」
●
高級住宅街でも騒ぎが始まっていた。
ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)と、彼女の家へ遊びに来ていたナーディル・K(ka5486)は、窓からその様子を見下ろしている。
ケーキで口周りを汚したルンルンは、ぷりぷり怒っていた。
「折角のお茶の時間が台無しなんだからっ! あんなに忙しそうにしてるから、余裕無くて暴力に走るに違いないの……パンを食べる時間がなければ、カロリーブロックを食べればいいのに」
竪琴を持ったナーディルの横顔は、痛ましげだ。
「町は民衆の悲しみや怒りで溢れていますが、どうして破壊行動の道を歩んでしまうのでしょうか……みんな幸せを願っているのに……」
壁にかけてある大型テレビの中では電波ジャックの競り合いが起きている。
『市民の皆さん、こちらは白十字放送です! ただいま共産主義者による暴動がおきております! 大変危険です! もし隣人の不審な行動を見かけたら直ちに白十字本部に通報』
『こちら革命本部! 万国万種の労働者よ! 今から話すことは真実である!』
『彼らは卑劣なテロリストだ!』
『資本家は労働階級を奴隷化し、ありとあらゆる搾取を加えている!』
『彼らの言うことはみなデマです、信じてはいけません!』
『見よこの映像を。富豪のどら息子どもは貧民街の子供たちを撃ち殺した。やつらはゲームと称してこの蛮行を行ったのだ!』
『善良なる市民、デマを信じてはいけません!』
『資本家はありとあらゆる策略を用いる! 奴らはつける限り何度でも嘘をつく!』
ナーディルは席を立つ。
「ルンルンさん、私帰りますわ。使用人さんたちが心配ですから……」
●
『反革命白色十字軍』。それはここ数年伸張著しい保守系右翼団体である。
構成員は貴族、軍人、都市商人、聖職者、反亜人主義者といった面々。優れた組織力と情報収集力を武器に資本家、政治家、高級将校の身辺警護を請け負うと共に、潤沢な資金や物資を提供してもらっている。
その若きリーダーであるアウレール・V・ブラオラント(ka2531)は、部下からの報告に喜色満面だった。
「そうか……ついにゴキブリどもの本拠地を突き止めたか。早速行動を開始しろ!」
白十字の腕章をつけた親衛隊と共に彼は、黒塗りの車へ乗り込んだ。レーザーガンを手に。
「運転手、途中寄り道してくれるか。ゴキブリの前にハエを一匹潰さなければならんからな」
●
資本家たちの本拠地、大陸貿易商会のビルディング高層階。
ルヌーン・キグリル(ka5477)、クリスティン・ガフ(ka1090)はモニタ越しに、資本家たちの指示を仰ぐ。
「あー、ルヌーンくん、君は部隊を連れてエアポートまで先に行き、脱出用ジェットの準備をしておいてくれ。もしそこにも暴徒どもが入り込んでいるようなら、遠慮はいらん、蹴散らせ」
「脱出ですか? 今し方軍から、空中戦艦をここに遣すとの通信があったのでは……」
「転ばぬ先の杖だよ。とにかく早く行った行った。ボーナスは出すから」
釈然としない思いを抱きながら場を辞するルヌーン。
残ったクリスティンは何か言われる前に、自分から口火を切った。画面の一番奥にいる、工業用魔導アーマー会社の社長に向けて。
「社長、試作装着型警備魔導アーマー『防人』使用の許可をいただきたいのですが」
「『防人』? あれは……まだテストが済んでなかったんじゃないのか?」
「シュミレーション上では何の問題もありませんでした」
「……そうか。ならば許可する」
●
傭兵のエヴァンス・カルヴィ(ka0639)、星輝 Amhran(ka0724)、ゴッドフリート・ヴィルヘルム(ka2617)は、迷路のような商会ビルの階段を駆け下りていた。
外からは、やむことの無い怒号が聞こえてくる。
「殺せ!」「殺せ!」「資本家をぶっ殺せ!」
殺気立った言葉の数々は、エヴァンスをひどく愉快にさせた。
「笑顔の絶えないやりがいのある職場で嬉しいぜ!」
彼にとっては暴動の理由などどうでもいい。鉄塊のごとき大剣に血を吸わせることさえ出来れば満足なのだ。
星輝もその点似たようなもの。どっちの側に正義があるかなどどうでもいい。報酬を多く毟れそうな側の味方をするだけだ。
「超絶合法幼兵KILALAちゃんのお手並み、見せてくれようぞ」
ゴッドフリートは彼らと違い、意識して反革命の立場を選んでいる。
革命側の言うことはどうにも性にあわない。
(『労働の強制』という部分が特に気に入らねぇ)
一階ロビーに出た。
数え切れないほどの群集が我先に入り込んでくる。先に現場へ向かっていた警備隊員との間に、はや銃撃戦が始まっている。
ゴッドフリートはマシンガンを乱射しながら、場に踊りこんだ。
「俺は人呼んで辺境の勇者ゴッドフリート! 労働の強制だと? この俺に命令できるのは俺だけだ!」
●
ジョージ・ユニクス(ka0442)は唖然としていた。
「何が起きている……?」
騒ぎを聞きつけ見回りに来てみれば、目抜き通りは惨憺たる有様。どの商店も窓ガラスが割られ、壁に穴があけられ、シャッターがひん曲げられ、白昼堂々略奪が行われている。
狼藉を止めなければ。そう思って彼は、声を張り上げた。
「止めろ!」
略奪を行っていた面々は彼の身なりを見るなり、敵意をむき出した。
「このガキブルジョアだ!」
「やっちまえ!」
身構えるジョージ。
そこへ柊 真司(ka0705)が現地治安警備隊を引き連れ、バイクで乗り込んでくる。
「全員今すぐ盗品を下に置け! 逮捕するぞ!」
「るせー! 帰れポリ公!」
「犬!」
説得できないと瞬時に判断した真司は、目だって暴れているものに向け、デルタレイとファイアスローワーを行使した。
続けて他の部隊員が催涙弾を雨あられと浴びせる。
巻き込まれまいと脇道へ逃げたジョージは、壊されたATMから札束を盗む神楽(ka2032)に行き当たる。
「ヒャッハー! 大金持ちっす~!」
「お前、何をしている!」
咎めるジョージに神楽は、悪びれもせず言った。
「ああ、これは労働の再分配っす。革命さまさまっすよね」
「革命、何をバカなことを……! ただの窃盗じゃないか!」
「……口の利き方知らないっすね。おーい反革命摘発委員ー! 階級の敵発見すよー!」
神楽の呼びかけに応じ、そこかしこから仲間が集まってきた。彼らはジョージを押さえつけ、羽交い絞めにする。
「何をする、放せー!」
「じゃあお達者でー」
連行されていくジョージにへらへら手を振る神楽。
そこへ、ひょいと詩がやってきた。
「すいませーん。クリムゾン・クロニクルなんですがー、ちょっと取材よろしいですかー?」
「ええっ取材! いやー、俺も出世したもんすよねー。何を聞きたいすか?」
「とりあえず革命に参加した動機などを」
「金持ちが女を独占する不平等な世界を破壊するっす! そうすれば俺にも可愛くて年下でちょいエロで俺にベタ惚れな彼女が出来る筈っす!」
●
女医エイル・メヌエット(ka2807)は、労働者街にいた。
往診中である彼女の存在を聞きつけた人々が、次から次へと怪我人を運び込んできている。医は仁術と心得て、運ばれてくるものの素性を一切問わず治療に専念しているのだが、とても追いつかない。
直接戦い傷ついた人よりも、とばっちりの流れ弾や暴行を受け負傷した人間のほうが、数としてはるかに多い。
(暴力革命の首謀者は誰?)
もし自分が治療したことのある誰かなら頬の一つも張りたい。
そう思っていた矢先、夜桜 奏音(ka5754)が悪い報告をしてきた。
「先生、もう包帯もガーゼも薬もありません」
「……仕方ないわね。医院のストックを取りに戻らないと」
それを聞いて普段彼女の世話になっている労働者たちが、同行を申し出てきた。
「先生、一人では危険ですよ。お供します」
奏音も言う。
「私も一緒に行きますよ」
一行は妙な尋問などに捕まらないよう、注意しながら道を急いだ。
しかし戻ってみれば、医院もまた略奪にあっていた。薬や包帯といっためぼしい物は、ほとんどなくなっている。
エイルは声を荒げる。
「一体何なの! 革命なんて何の役にも立ってないじゃないの!」
奏音が静かに一人ごちた。
「諸悪の根源は資産家たちです」
●
徴発部隊隊長セリス・アルマーズ(ka1079)は部下たちを率い、まだ陥落していない地区に足を踏み入れた。
バリケードの上に、何台も機関銃が据付けてある。白十字の腕章をつけた兵士が吼える。
「死ね、くそコミー!」
セリスの身に着けている鎧は一斉掃射を跳ね返した。部下が撃ち倒されていくのも意に介さず彼女は、巨大な紅旗で『敵』を殴殺していく。
その瞳には光が無かった。唇はひっきりなし呟き続けている。
「……すべて等しく平等であれ……今は持つ者から全てを奪う……残ったものからも全てを奪おう……全て等しく平等に……」
壊されていく体から吹き出す血は、紅の旗をより鮮やかな真紅に染め上げていく。
トランシーバーにより緊急支援要請を受けた真司が、別の通りから駆けつけてきた。
流れ弾を盾で防ぎつつ、武器をライフルに持ち替える。セリスに照準を合わせる。
(そうだ、来い、来い、もっと近く――)
直後彼の頭部を、銃弾が突き抜けた。
「――あ?」
状況を把握する暇も無いまま倒れ、それきり。
彼を撃ったのは、付近の建物に潜んでいたレーヴェ・W・マルバス(ka0276)だ。
彼女は息を殺し移動する。次の狙撃ポイントに向かうために。
狙撃手は位置を誰にも悟られないようにしてこそ、生き残ることが出来る。
(共産主義は人間には作り出せぬ。それは解っておる……だが、戦争は人間の進化の歴史……じゃからして、革命そのものは肯定するぞ、私はな……)
●
庭に車が走りこんでくる音が聞こえた。
エリス・ブーリャ(ka3419)はビザを配り終えた人々を、本棚の後ろにある隠し扉から送り出す。
「さあ早く行った行った。地下道使って港まで出れば、どうにかなるからね」
全員行かせ改めて椅子に戻ったところで、折りよく扉が開く。
アウレールが入ってくきた。
「あれー、アウレールちゃん、怖い顔して何か用?」
「善良な市民が教えてくれたよ。君、議員の立場を利用して敗北主義者やアカのシンパの国外逃亡に手を貸しているんだって?」
「……エリスちゃんさぁ、マテリアル汚染で名高い重工業会社のCEOでしょう? 今更ながらちょっとくらいの罪滅ぼしをしたくなったっていうか。戦わない一般人のためにもビザを発行しようかなってさ。どうせならエヴァン君やミリアっち、星輝の姐御とかぐにゃんにもビザを送りたかったなあ」
「言い残すことはそれだけ?」
「まぁ、こんな時代になっちゃったのも誰も悪くは無い。言わばこれが自然の摂理だ。一つの時代が終わり、新たな時代が始まるだけ……でもさ、これだけは言わせて?――てめえらやってることが、アカと瓜二つだよ」
レーザーガンの引き金が引かれた。エリスの体は腰から下を残し弾け飛ぶ。
●
家に戻ってみれば使用人たち――ほとんどコボルドなのだが――が、家の中の家具や備品をせっせと持ち出しているのだ。
怒るより先にびっくりしてしまったナーディルだが、気を取り直して注意する。
「何をしているんです」
コボルドは、きっと彼女の目を見据えてきた。
「これみんなのもの。みんなでわける」
「分けるって……駄目ですよ。家のものを勝手にとっては。泥棒になってしまいますよ」
そう言った途端彼らは、一斉に反発した。
「泥棒はお嬢さんたち!」
「お嬢さんたち働かない、なのにいい暮らし!」
「僕たちずっと働く、なのに悪い暮らし!」
呆然とするナーディルの肩に、手が置かれた。
はっと振り返ってみると、帽子を目深にかぶった男が鋭い目を向けている。
「お嬢さんはブルジョアだな? ちょっと革命委員会まで一緒に来てもらおう」
●
おそマリたちは高級住宅街に仲間たちと雪崩れ込む。
「特権階級の富を奪え~!」
「「「奪え~!」」」
「やつらの富を我々の手に取り戻せ~!」
「「「取り戻せ~」」」」
台所に乱入しスイーツを食い漁るそこへ、家の主であるルンルンがやってきた。
「こんのばっちいボルシェヴィキども……もう許さない……機械の力は労働力確保の為だけじゃ無いんだからっ……」
天井がかたんと開き紐が降りてくる。
ルンルンはそれを思い切り引っ張った。
「さぁ、目覚めなさい資本主義要塞研究所と、グレートゼニンガー!」
愉快な効果音が響き豪邸が二つに割れた。
巨大な鉄人が出現する。
「ゼニンガー乙! 暴徒を薙ぎ払っちゃってください!」
危うし革命戦士たち。
そのとき天の一角から、輝くキノコが飛んできた。
「今だ、六身合体っ!!」
「「「えっ、何それっ!?」」」
6姉妹の体が光に包まれひとつに溶け合い、巨大化する。
「労働合体ゴットまりおぉ~!!」
●
「ガハハーグッドだー! 俺を楽しませる為にどんどん戦火を広げやがれお前らぁ!」
エヴァンの足元には骨と肉を引き裂かれ弾けた死体が、山盛り転がっていた。
しかし革命勢力が尽きることはない。次から次へ、死に物狂いで向かってくる。
飛び交う火炎瓶、手榴弾。
星輝はそれらを手裏剣ではじき落とす。
「仕事は仕事じゃしっ♪ 恨みはないが皆、死にたもれ?」
大雑把な相棒の攻撃の隙を補い、剃刀のような刃を走らせ、喉を切る。
「えばんすお主、契約以上にヤリ過ぎじゃ。見い、暴徒以外にも一緒くたに殺ってしもうとるではないか。追加報酬を毟る交渉は全部ワシがするのじゃぞ?」
「うるせえなあ、勝ちゃいいんだよ! 頭を使うことは全部お前の仕事なんだから、報酬が減らないよう考えろロリ娘!」
「ほう、さよか。それならおぬしの取り分から減額な」
ぐだぐだしていたエヴァンスの顔が急に引き締まった。セリスが現れたのだ。血を吸いすぎた旗は真紅を通り越し黒くなっている。
「……へぇ、ちったあ骨がありそうだ、なっ」
エヴァンスはセリスの旗を右の剣で受け、左の義手を鎧の胸に押し当てた。
義手には、炸裂弾が仕込まれていた。
衝撃で吹き飛ばされたセリスは壁にめり込む。そこへウォッカが投げつけられる。火がつく。
「プレゼントしてやるよ! 飲みかけだけどな!」
エヴァンスは油断した。もう立ち上がってこられないだろうと。
だがそれは甘かった。鎧が帯びている癒しの力と彼女の心に巣食っている狂信は、肉体のダメージを補って余りあるものだった。
直ちに起き上がり、体当たりしてくる。折れた紅旗の先端を向けて。
星輝が兜の隙間に刃を突き立てるも遅かった。それは、エヴァンスの腹を貫通していた。
●
階段の上から殺到してくるコボルドの一群。
ゴッドフリートは撃ちまくった。
「俺に命令しようってぇコボルドどもは、この俺が蹴散らしてやるぜっ!」
コボルド兵は軒並みなぎ倒される。
ゴッドフリートは何故いきなり敵が上からわいて出たのか確かめるために、階段を駆け上がろうとし――足を止めた。
メリエが現れたのだ。
法悦に満ちた表情で彼女は、血まみれの大刀を抜く。
「お前で28人目。恐れるな。死ぬ時間が来ただけだ」
台詞が終わるのを待たずゴッドフリートは、マシンガンを乱射する。
「これでも喰らいなっ!」
体に風穴が開く苦痛もメリエにとって、何ほどのこともない。
「万歳、万歳、我等の思想に栄光あれ」
赤いオーラに身を包み、敵の首から胸にかけ、袈裟懸けに斬る。
馬鹿のように血が吹き出す。ゴッドフリートは階下へ向かって、仰向けに落ちていく。
だがメリエが勝利を祝うことは出来なかった。次の瞬間跡形も無く吹き飛んだからである。後方に現れたクリスティンが放った、魔導砲によって。
●
ジョージはナーディルと共に、革命本部へ連れてこられていた。
だだっ広い部屋は法廷のような作りだ。
傍聴席にわんさといる群衆は、ずっと騒ぎ続けている。
「「革命万歳」」「「共産主義万歳」」「「進歩万歳」」
「くそっ! ええい! 其の煩わしい勝鬨を止めろ……!」
ジョージの声は黙殺された。
被告席には真っ青な顔色の神楽がいる。
進行役らしい男が、書類片手にわめき立てる。
「同志諸君! 神楽同志はプチブル的浅ましい根性により、公平に分配されるべき富を隠匿した! 打倒すべきブルジョア階級の娘に対し卑しい取引を持ちかけた! 我々はこの男をどうするべきか!」
群集の判断は早かった。
「「粛清!!」」
「ちょっと魔が差しただけっす! ヘルプっす!」
神楽は外へ引きずり出されていった。
続けて、重い刃が垂直に落ちる音が聞こえた。
あまりの展開の速さに、ジョージもナーディルもついていけない。
「何だこれは……」
「人民裁判です」
即座の返答に振り向けば、アルマ・アニムス(ka4901)がいた。その横には、ミリア・コーネリウス(ka1287)。
「革命戦士には人一倍の規律意識が求められるのです。皆が平等に同じ物を使い、生を共にする。貧富の差も、差別もなく……世界は優しくなる。当然個性は認められて然るべきですが……きっと皆幸せになれる」
強烈な地響きがした。天井にひびが入り粉塵が落ちてくる。
ミリアは頭に積もったそれを掻き払い、アルマに言った。
「お出ましみたいだね」
「そのようですね――皆さん非常口から一時退避してください」
群集は言われた通り出て行く。
残ったのはジョージ、ナーディル、アルマ、ミリアの四名だけ。
扉を蹴破って、アウレールとその一党が現れた。
●
暴徒たちは確実にシェルターの位置とそこへの道筋を察知している。こうまで深部に侵入されているというのは、そういうことだ。
カチャが半泣きになって叫ぶ。
「誰か内通者がいるんじゃないですか!?」
そうかもしれない。だがクリスティンにとって、それはもうどうでもよかった。絶え間なく体を襲う激痛と一緒で。
社長を助けたい。あるのはその一念のみだ。
「あなたたちは退去してください。もうここは持たないから」
「クリスティンさん? どうする気です、クリスティンさん……!」
すがる声を残し、1人引き返す。
シェルターについてみればただ、社長だけが残っていた。
「社長、早く逃げてください」
「……ああ。クリスティン、お前もついてきなさい。必要な人材だから」
その言葉に彼女は微笑んだ。
喉に血がせりあがってくるのを感じながら、深く、深く頭を下げる。
「社長、有難うございました。ドブネズミは引き際ですので時間稼ぎにドブに飛び込みます。社長はどうかお元気で」
クリスティン、という声を背に彼女は、押し寄せてくる群衆に突進していく。
感覚を失い強張った手が、アーマー内部の自爆スイッチを押した。
「さようなら。お父さん」
●
ルヌーンは仲間と共に、エアポートへ押し寄せる群集たちを押し返している。
「あいつら逃げるぞ!」
「捕まえろ!」「裁判にかけろ!」
「死ね反動!」
「くたばれブルジョア!」
革命をしたい気持ちはわからないでもないが暴徒は許さない。とはいえ支配階級が市政の任務をほっぽりだし我先に専用ジェット機に乗り込む様を見ると、うんざりした気分にさせられるのも事実。
要となる人間がいなくなっては、混乱がこの先どこまで広がるか分からない。
脳裏をふと、姉の顔がよぎる。
もしや革命勢力に捕まったりなんかしていないだろうか。そうだとしたら、命が危ない。
「お姉ちゃん……無事でいて!」
●
詩は、警備隊から盾で押し返されながらも、資本家たちへのインタビューを果敢に試みていた。
「すいませーん! クリムゾンクロニクルなんですけどー! 今まさに財産どころか命さえ潰えんとするそのお気持ちをお聞かせ願えませんかー! 人は死に臨んで何を思うのかー! 聞こえてますかそこのハゲー! デブー! この間私のお尻触ったあなたーっ! せめて辞世の句でも一言ーっ!」
「ええいやかましいわ失せろ! 貴様らこのままで済むと思うなよ、治安回復した暁にはどいつもこいつも首吊り台送りにしてやるからな!」
空気が震えた。
離れた高台から事態の様子見をしている観智は、顔を上げた。
空の彼方から空中戦艦が急速前進してくる。
群集はどよめく。資本家は勢いを取り戻す。
「ふははは、終わりだなドブネズミども! 貴様ら全員国家反逆ざ」
次の瞬間戦艦のビーム砲が、飛び立ったジェット機に向け放たれた。
撃たせたオンサは感無量だ。
「豚共の血を浴びるのは心地よいな……」
彼女はマイクのスイッチを入れ、地上へ向けてのアナウンスを行う。
『我はポチョムキン号艦長オンサ・ラ・マーニュ。ただいまより連邦軍を離脱し赤軍戦線に参加する。我は共産主義者なり!』
群衆の中にたち混じっていた奏音は、ひっそり場を立ち去る。ことここまで来たならば、終わりが見えたも同然だ。
「黒幕は人知れず消えましょうか……次はどこでしましょうか」
●
アルマは芝居がかった様子で両手を広げる。
「あぁ、よくぞここまで……皆様が来る事は解っていました。お疲れでしょう? 途中トラップが多くて」
対しアウレールは、凄惨な笑みを浮かべた。
「余裕ぶるのもそこまでにしておくんだな。アジトの周囲は隙間なく戦車隊が取り囲んでいる。あの世以外出口はどこにもないぞ。もっともそこにもすぐには行かせないがな」
ミリアはまあまあ、と脇から口を挟む。
「せっかく来てくれたんだから、こっちも、相応の歓迎をさせてもらう……」
彼女はさっと手を上げた。
重い響きを上げ両脇の壁がせりあがる。数知れぬ伏兵と銃列が現れる。
「豪勢だろう? 君たちの好きなモノだ」
●
労働者街に戻ったエイルは、街頭テレビへ釘付けになっていた。
(なぜこんな時に特撮ものを放送しているのかしら……)
ビルの谷間で労働合体ゴットまりおとゼニンガーが戦っている。
「団体交渉アターック!」
『ゴヨウクミアイガード!』
「賃上げアッパー!」
『ゲンブツシキュウブローック!』
力は拮抗しているようだが、そうなると生身の方が分が悪い。
ゼニンガーの目が輝いた。口から黄金色の熱戦が飛び出す。
『グローバルマネーロンダリングー!』
あやうしまりお。ここで終わってしまうのか。
いや終わらない。彼女は果敢に立ち向かう。尻で。
「必殺まりおフラ~ッシュ!!」
●
「こ、のっ、くそコミー、がっ……」
体のあちこちを赤く染め憎悪の眼差しを向けてくるアウレール。
アルマは取り上げたレーザーガンを向ける。
「……残念ですが、彼は『手遅れ』です」
アウレールの上半身が吹き飛んだ。エリスと同じように。
「命すら平等……殺しに来るから殺される。さて、どうします?」
顔を向けてきたアルマにジョージは、感情を押し殺した声で問い返した。
「どうするって、何をです」
「我々の同志になりませんか?」
数秒考えてジョージは言った。
「お断りします。あなたがたの作る社会が幸せなものになる気が全然しませんので」
アルマは残念そうに首を振る。
赤軍兵士が両脇を抱えジョージを連れて行く。
「……僕は……!!」
次はナーディルへ質問。
「ナーディルさんはどうします?」
「……私もジョージさんと同意見です」
彼女もまた連れて行かれた。
ミリアは肩をすくめる。
「さ、行こう。同志たちがアルマの無事な姿を確かめたくてうずうずしてるよ」
彼らは揃って部屋を後にした。
光のあふれる外へ出てみれば、周囲を埋め尽くす人、人、人。オンサの派遣してきたユニットCAM集団によって鉄くずとなった戦車群。
『偉大な同志アルマ万歳!』
『ミリア同志万歳!』
アルマとミリアは手を振り、彼らに応える。
「皆さん、今日革命の一歩がなりました! しかし我々はここで歩みを止めてはいけません」
「自由のためにボクらは戦う、圧政者の手からすべてを取り戻すまでな」
次の瞬間彼らは撃ち倒された。正確無比なスナイプによって。
●
レーヴェは集会場を見下ろす屋根裏部屋から撤退していく。
最初からこうするつもりだった。資本側指導者と同様、革命側指導者もまた消えなければならないのだ。双方で話し合うために、カリスマは必要ない。
(私は影から戦い行く末を見守るだけさ……)
扉を開け出て行こうとしたところで彼女は、おかしな声を聞いた。
「必殺まりおフラ~ッシュ!!」
振り向いてみれば窓の外、避けようもない速度でぶつかってくる巨大な鉄人の影……。
●目覚め
まりおは飛び起きた。
気づけば体中が汗だくである。
彼女は、むむうと考え込んだ。
「勝った………のかな?」
エイルは身を起こして呟いた。
「……夢、か」
あまりいい夢ではなかった。
「歪虚と何が違うのかしらと、オルクスあたりに歎息されそうね」
観智は寝ぼけ顔で大あくび。
「夢……でしたか。まぁ……夢で良かったのでしょうね」
アルマは、思わずあたりを見回した。
「……!?旗は?平等は!?」
そんなものはどこにもない。ミリアが横でぐうぐう寝ているだけである。
「……夢?……良かったぁ夢で良かった!」
彼は再びばたんと倒れ寝始めた。そこでミリアが起きて来た。
「ん……夢?」
不機嫌そうに呟いた後、彼女もまた寝なおす。アルマにぎゅっと抱きついて。
起きた後もアウレールは、なかなか息を整えられなかった。
「革命……! 恐ろしい夢を見たものだ……こうした思想を通じて付け込む歪虚がいるかも知れない……」
取り越し苦労で終わればいいが。
クリスティンは枕に顔を押し付ける。とうさん、と口の中で呟く。幾度も。
「何て夢。会えない。分かっている。筈なのに」
ゴッドフリートは初日の出に手を打ち、今年の、後ろ向きな抱負を述べる。
「無理やり働かされる世界……そんな世界にしないために、俺は戦う!」
ルヌーンは起きるや否や手鏡を除いた。
いつも通り頭に花が生えている。
「夢……そうよね」
今度姉さんの顔を見に行こうかな、と思う。同時刻目覚めたナーディルが、「もっと人を大切にしよう」と改めて思ったりしていることなど、露知らず。
「何だ今の……産業革命のネガキャンもいいとこだよ……もう一度寝よっと」
エリスは二度寝を始める。今度こそいい夢をと神様に願いつつ。
「えーっと……なんだ、夢だったのか? 変な夢だったな」
ぶつぶつ言いながら真司は洗面台へ立った。
と、すごい声が聞こえてきた。
「ぎゃ~!?」
どうやら近所に住んでいる神楽の声らしい。
「って、良かった夢っすか。そうすよね、いきなりギロチンなんかあるわけないすよね!」
悪夢の余韻を打ち消そうと神棚に向かって手を合わせる。かなり真剣に。
「今年こそは可愛くて年下でちょいエロで俺にベタ惚れな彼女ができますように!」
窓の外、カロリーブロックを咥えたルンルンが通り過ぎていく。
「寝坊です! 依頼の出発時間が……ちこくちこくう~」
「ッアワア!!?」
ベッドから転がり落ちたジョージは、まず自分の首に手を当てた。
「……夢? 嫌な夢……」
安堵の息を漏らした後、本日依頼が入っていたことを思い出す。
「あ、そうだ、大丈夫かな?……時間」
ハンターオフィスの前で、オンサがメリエに聞いている。
「メリエ殿いかがなされた。首がえらく傾いておるが」
「……なんか寝違えた。超首痛い……オンサさんもなんだかお尻腫れてません?」
「……恥ずかしながら寝小便が姉上にばれ、たっぷり尻を叩かれたのじゃ……」
奏音は彼女らを横目に、昨晩の夢をうっすらと思い返す。
「うーん、これが胡蝶の夢というものでしょうか」
おーい、と声が聞こえた。ルンルンとジョージが走ってくる。
セリスは鼻歌を歌いつつ、目覚めの紅茶。
「快適な朝ねー」
彼女は夢について何も覚えていない。今日一日の計画を練る。
「さ、今年も新年の開運護符を売りに行かないと。最初はレーヴェ君の家から回ってー、次に詩君、エヴァンス君、星輝君――」
依頼結果
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革命卓 クリスティン・ガフ(ka1090) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2016/01/03 21:42:02 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/03 12:19:51 |