ゲスト
(ka0000)
【闇光】因果の迎撃戦
マスター:T谷

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/12/28 19:00
- 完成日
- 2016/01/05 14:40
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
黒煙を上げて、サルヴァトーレ・ロッソが墜ちていく。アニタ・カーマイン(kz0005)は、遠くそれを眺めていた。
咄嗟に高度、速度を目測する。見たところ、エンジンが不調なようだ。そうすると、落下速度はどれくらいだろうか。
地図を広げ、距離を考え、落下地点の予測を立てる。
しばらく地図とにらめっこし、ある程度の当たりをつけると早速、彼女は行動に移っていた。
身を低く、飛ぶように地面を蹴って最寄りの転移門へと急ぐ。
あの艦はマテリアルの塊で、それが無防備に墜ちたとなればどれだけの歪虚が喜々として集るか知れたものではない。アリの巣にあめ玉を放るようなものだろう。
「……ま、あの艦には恩もあるしねぇ」
言い訳するようにぽつりと呟く。
義務ではなく義憤によって動くことに、軽く気恥ずかしさを覚えていた。
●
壮絶な光景だった。
大地は巨大なスプーンで掬ったように彼方まで抉れ、捲れ上がった地表は堆く、莫大な風圧は木々を薙ぎ倒し、巻き上がった噴煙は遠景を未だ薄く濁している。進路上に存在した村が何とか未だ存在しているのは、神の思し召しだろうか。
しかし辺りに響くのは、興奮冷めやらぬ猛り狂った羊の羊らしからぬ剣呑な鳴き声と、必死にそれを宥める村人の姿。それを見てしまえば――これが無事だったと、素直には言い難い。
「連合軍のアニタ・カーマインだ。状況は……ま、あんまり良くはないみたいだねえ」
「は、はい。負傷者の搬送は、区切りをつけたのですが……」
答えたのは、サルヴァトーレ・ロッソの乗組員の一人だ。
艦の落下地点から、最も近い村。そこに当たりをつけ、ハンター達と共に訪れたアニタの勘は正しかった。
大きく傾いた艦の中で、負傷者の万全な治療は難しい。そこで、特に容態の悪い患者を一度、安全な平地に移動することにした。それがこの村だ。
不運にも消滅しかけた村に更なる迷惑をかけるのは躊躇われたが、それでも人の命には代えられない。比較的無傷に近かった乗組員が平身低頭頼み込んで何とか小屋一棟の使用許可を得たらしいが……それが、また大きな災難を村に呼び込んでしまった。
この騒ぎを嗅ぎつけたのは、アニタ達だけではなかったらしい。
「全く、ハイエナかっての。いや、似たようなものか?」
村の周りに、どこから沸いて出たのか無数の歪虚が現れたのだ。
大きなマテリアルを感じたのか、人間の血の臭いを嗅いだのか。何にせよ、まともな戦力も持たない村が襲われれば、ただでは済まない。
「村人も負傷者も、全員を一つの建物に集めな。丁度良い、あの程度、殲滅しちまえば憂いもなくなるだろうよ」
艦の方は、何かあっても乗艦していた実力者達が何とかするだろう。それよりも、今そこにある危機が先決だ。
アニタは挑発的な笑みを浮かべ、ライフルの安全装置を外した。
咄嗟に高度、速度を目測する。見たところ、エンジンが不調なようだ。そうすると、落下速度はどれくらいだろうか。
地図を広げ、距離を考え、落下地点の予測を立てる。
しばらく地図とにらめっこし、ある程度の当たりをつけると早速、彼女は行動に移っていた。
身を低く、飛ぶように地面を蹴って最寄りの転移門へと急ぐ。
あの艦はマテリアルの塊で、それが無防備に墜ちたとなればどれだけの歪虚が喜々として集るか知れたものではない。アリの巣にあめ玉を放るようなものだろう。
「……ま、あの艦には恩もあるしねぇ」
言い訳するようにぽつりと呟く。
義務ではなく義憤によって動くことに、軽く気恥ずかしさを覚えていた。
●
壮絶な光景だった。
大地は巨大なスプーンで掬ったように彼方まで抉れ、捲れ上がった地表は堆く、莫大な風圧は木々を薙ぎ倒し、巻き上がった噴煙は遠景を未だ薄く濁している。進路上に存在した村が何とか未だ存在しているのは、神の思し召しだろうか。
しかし辺りに響くのは、興奮冷めやらぬ猛り狂った羊の羊らしからぬ剣呑な鳴き声と、必死にそれを宥める村人の姿。それを見てしまえば――これが無事だったと、素直には言い難い。
「連合軍のアニタ・カーマインだ。状況は……ま、あんまり良くはないみたいだねえ」
「は、はい。負傷者の搬送は、区切りをつけたのですが……」
答えたのは、サルヴァトーレ・ロッソの乗組員の一人だ。
艦の落下地点から、最も近い村。そこに当たりをつけ、ハンター達と共に訪れたアニタの勘は正しかった。
大きく傾いた艦の中で、負傷者の万全な治療は難しい。そこで、特に容態の悪い患者を一度、安全な平地に移動することにした。それがこの村だ。
不運にも消滅しかけた村に更なる迷惑をかけるのは躊躇われたが、それでも人の命には代えられない。比較的無傷に近かった乗組員が平身低頭頼み込んで何とか小屋一棟の使用許可を得たらしいが……それが、また大きな災難を村に呼び込んでしまった。
この騒ぎを嗅ぎつけたのは、アニタ達だけではなかったらしい。
「全く、ハイエナかっての。いや、似たようなものか?」
村の周りに、どこから沸いて出たのか無数の歪虚が現れたのだ。
大きなマテリアルを感じたのか、人間の血の臭いを嗅いだのか。何にせよ、まともな戦力も持たない村が襲われれば、ただでは済まない。
「村人も負傷者も、全員を一つの建物に集めな。丁度良い、あの程度、殲滅しちまえば憂いもなくなるだろうよ」
艦の方は、何かあっても乗艦していた実力者達が何とかするだろう。それよりも、今そこにある危機が先決だ。
アニタは挑発的な笑みを浮かべ、ライフルの安全装置を外した。
リプレイ本文
遠く村の正面から聞こえるのは、人ならざる唸り声。
溢れる粘液を呼気で泡立たせて放たれる音は、酷く不快に響き渡っていた。犬型のゾンビが一匹、うろうろと彷徨いながら此方の様子を伺っている。
ハンター達は人々の集う小屋を中心に、四つに分かれて迎撃を行うことにした。正面、左右、そして遊撃だ。
「まあなんだ、運が悪かったのさ。ロッソと言い、この村と言い――そして、集まった歪虚共と言い、な」
小屋の正面に仁王立ち、龍崎・カズマ(ka0178)は不敵に笑みを浮かべて見せた。
言葉は、背後の人々に向けている。出来るだけ自信満々に、堂々と。押し寄せる不安から彼らを守り疑心暗鬼の芽を摘み取るには、そういう姿を見せてこそだ。
「鳥型の歪虚は面倒そうですね……」
夜桜 奏音(ka5754)が、同じく小屋正面、カズマの少し後ろに陣取って上空を見上げる。死肉を狙うハゲタカのように、悠々と歪虚が翼をはためかせていた。
「アニタさんは鳥の対応で、鳥の中でも大型の鳥の方を優先的に攻撃してください」
「ああ、任せろ」
奏音の言葉に、アニタは快く頷く。
「死なれちゃ目覚めが悪いわよね、分かるわー……」
率先して艦の援護に向かったアニタの心情に、結城 藤乃(ka1904)は共感する。
「……今更純粋に人助けなんて、青臭いったらないけどねえ」
「あら、ここで動くことは、そんなに恥ずべき事かしら」
藤乃は己の心臓を親指で示し、ニッと笑ってみせた。
「ま、怠け者の戯れ言だから気にしないで、今回は宜しくねー」
そうして連れてきた軍馬に跨がり、藤乃は遊撃としていつでも動けるように待機する。
「敵の迂回行動に注意、小屋への敵到達阻止を最重視するべきですね」
J(ka3142)は小屋正面に帯同する形で、辺りの様子に気を配っていた。
藤乃と共に遊撃として、各員との連携を重視し打破を図る。後衛の射線を確保するための立ち回り、他前衛との防衛範囲の兼ね合い。いざという時は迅速に、それらを判断しなければならない。
「非戦闘員の方も、覚醒者……仲間の方も、誰一人欠けることなく大事に至らない様にしましょう」
「はい。村人が軍に不信感を抱く、なんてことは防がないといけませんね……確実に撃滅しましょう」
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)と花厳 刹那(ka3984)は、小屋の右側を防衛する。
「命からがら歪虚王から逃げ切ってこんな雑魚共で死ぬなんざ、悲劇を通り越して喜劇になっちゃうぜ?」
「人命が最優先だ。……まだまだ至らないが、確り守っていこう」
そしてボルディア・コンフラムス(ka0796)と仙堂 紫苑(ka5953)が、左側の配置につく。
前衛と後衛のバランスを鑑みた初期配置だが、臨機応変、場合によって細かく移動することを視野に入れた陣形だ。
そうして、ハンター達が各々定位置に付いた時だった。犬型のゾンビが、唐突に鼻を鳴らして踵を返し茂みの中に消えていく。
そして、また姿を現したかと思えば――その背後には、更に数体の犬を引き連れて、腐った目が此方を睨み付けていた。
●
群れの中で一回り大きな犬が、地面を砕く勢いで地面を蹴った。追うように、小型の犬も飛び出してくる。
「来たか」
「まずは、足を止めましょうか」
犬の白濁の目が、カズマと奏音を見る。そこに向け、奏音は符を投げ放った。空気を裂いて飛来した符が、敵の眼前でマテリアルを放ち、不可視の結界を作り出す。
ぞぶりと、そこに飛び込んだ大型犬と、数体の小型の四肢が地面に沈み、その移動を阻害する。
「小型が散開しています。……少しは、知能もあるのでしょうかね?」
先陣を切った仲間がのたうち回る箇所を避け、その影に隠れるように小型の犬が迂回するように走り出していた。
「鳥も来てるわね。こちらは、小さいのをけしかけるつもりかしら」
大型の鳥ゾンビは、空中で旋回しながらタイミングを図っているようだった。代わりに小型は、早くも功を焦るかのように旋回の半径を狭めている。
「西に移動お願い」
藤乃は牽制に銃弾をばらまきながら、腰に下げたトランシーバーに指示を出す。
その片割れは小屋の中。小屋内非戦闘員に敵の位置を知らせ、万が一の被害を少しでも抑える目的だ。
「左に四、右に二、大型は二体とも正面です」
Jが素早く全員に報せる。
「はいはーい、良く来たなワンコロ共ォ」
それを聞き、ボルディアは挑発的な笑みを浮かべた。同時にマテリアルを込めればその体から莫大な火柱が立ち上り、やがてボルディアの全身に吸い込まれるように消える。
「こっちは任せな!」
叫ぶと同時に、大きく一歩を踏み出した。
犬の動きは酷く俊敏で、瞬く間にこちらとの距離を詰めてくる。そして幾許もなく、四体の犬が同時にボルディアの眼前に身を躍らせた。
「そのままおすわりで、首刈られンのを待ってろや!」
しかしそこは、彼女の射程だ。
その瞬間に、体ごと回転させ全体重と遠心力を乗せた凶悪な一振りが、煌めく軌跡を残して一切合切を纏めて薙ぎ払う。
ごきりと重い手応え。喉を食い破ろうと息巻く牙を届かせることなく、きゃんと声を上げて犬達が大きく吹き飛んだ。
「ではこちらは……」
ユキヤは静かに旋律を紡ぐ。
歌い上げるは鎮魂歌。マテリアルを込めた調べを耳に、犬達は突然、苦しむように動きを止めた。
「さて、俺の年末の稼ぎにでもなってくれや」
「左は、近接のボルディア様で十分なようですね」
その好機に、カズマとJが武器を振るう。
軌道を制御された無数のカードと、三つの光条が殺到し犬達に突き刺さった。
鳥の動きは予測がし辛い。四方八方自由に移動できる関係上、セオリーというものはなさそうだ。
「小屋背面と、左側に集中してきてるわ」
「大型に動きはない。先ずは小型の殲滅を優先した方が良さそうだ」
だからこそ、藤乃と紫苑は広く目を配り、敵の動きを事細かく観察し皆に伝えた。
鳥は翼を広げ、鋭い嘴でもって小屋を食い破ろうと急降下。
「とにかく右は死守しますので、他をお願いします!」
刹那は最も近い敵に向け、狙い澄まして銃の引き金を引いた。弾丸が翼を撃ち、体勢を崩した鳥が錐揉み軌道を逸らす。
次いで左側、紫苑の放った光条が空を焼く。狙うのは、此方に回ったアニタの撃ち漏らした個体だ。
「ヒュウ、やるじゃないか」
翼を撃ち抜かれ、風に溶けながら一羽が落下する。
「よし、次に行きましょう」
とはいえ敵の数はまだ多く、大型の個体が動くまで減らすべきなのは変わらない。
紫苑は常に大型を視野に入れ、接近に注意しながら再び引き金を引いた。
●
正面の大型犬が、奏音の呪縛に抵抗し抜け出すことに成功する。
犬は怒りに震えて大きく唸り――
「少し遅かったな!」
既に眼前に迫っていたカズマを、きつく睨み付けた。
カズマが振るうのは長大な刀。小型が相手ならその耐久を測るためスキルなしで挑むつもりだったが、最前列が大型なら話は別だ。
出し惜しみなく、全力でマテリアルを込める。翻った刀は音を置き去りに、目に見えない程の速度でもって敵の体に無数の裂傷を刻み込んだ。
しかし割り込むように、横合いから小型犬が飛びかかってくる。
「下がってください!」
咄嗟に、カズマは後ろに跳んでいた。同時に、竜頭状のエネルギーが炸裂し犬を吹き飛ばす。カズマを狙っていた別の個体にも、同様に竜頭が叩き付けられる。
ダメージに反応し、爆音のような咆吼が上がった。
「今、援護します」
見れば、大型はまだまだ体力を残していた。人など丸呑みにされそうな大口が、牙を此方に向けて開かれている。
奏音の符が、その口を花吹雪で覆い隠した。瀑布のような桜の乱舞に、大型の視界は閉ざされ目標を見失う。ガチンと凶音を響かせる噛み付きは、カズマを掠って空を噛む。
「ボルディア様、ユキヤ様、もう一体の大型を」
「おうよ!」
「はい」
Jの声に、左側の犬を処理していたボルディアが飛び出す。狙うは左前方から小屋に突進する大型個体だ。
ユキヤは小屋よりも前に出て、二体の大型犬を射程に入れる。そして杖の先に光を生み出し、高速で撃ち出した。
凝縮したマテリアルの塊は白光を帯び、ボルディアを追い越して大型の鼻先にぶつかって炸裂する。
撒き散らされる光と衝撃に、大型が大きく仰け反った。
「消えろ、腐敗臭!」
追って次の瞬間に、ボルディアは思い切り跳び上がっていた。斧槍を大きく振りかぶり、遠心力に速力、高低差も利用して最大限の一撃を叩き下ろす。
衝撃で、一瞬にして犬の前足が折れ曲がり、顎を地面に強烈に打ち付ける。しかしゾンビの生命力は非常に強い。脳天を斧で叩き割られ、下顎が使い物にならなくなっても残った後ろ足から繰り出された体当たりは、斧槍ごとボルディアを弾き飛ばす。
「払え、極炎」
――射線は通っていて、誤射の心配もない。体当たりのインパクトに全力を尽くしたのか、敵の動きは今まさに止まった。
Jの杖先から迸った炎の渦が、辺り一帯を舐め尽くす。
絶叫が上がる。激しく燃えさかる炎の中で、犬は激しく暴れ回り……しかし徐々にその動きは弱まっていく。
そしてゆっくりと、炎に溶けるように消えていった。
●
ばたばたと暴れながら落下した鳥は、最後の力を振り絞って大きく鳴いた。
「鳥の大型接近! 援護お願いします!」
紫苑は叫んでいた。彼の視線の先、二体の大型が俄に軌道を変えていたのだ。その矛先は小屋に他ならず、残った小型と合わせて一斉に急降下を始めた。
「面倒な鳥は、地へと落ちなさい」
奏音の符は空中で、稲妻へと変わる。迸る雷光が、大型の鳥と取り巻きの小型を巻き込み大きな音を立てた。
追って、刹那と藤乃、紫苑、アニタが、合わせて大型へと集中的に銃撃を浴びせかける。
しかしスキルも交え、光条や冷気を纏った弾丸が飛び交うも、一体の大型を退かせるに留まった。
想像以上に、小型の鳥が邪魔になる。さらに、敵の動きが速く、思ったように攻撃が当たらないことも倒しきれない原因の一つだった。
「とにかく、他の人達が援護に来るまで堪えましょう」
倒しきれずとも、小屋を破壊されないことが第一条件だ。
藤乃は馬から降り、小屋の背面で迎撃を繰り返す。銃弾は鳥の翼を抉るも、それだけではなかなか致命傷には至らず歯痒い思いは募る。
ただ、冷気の攻撃は有効で、凍らせてしまえば翼はその役割を果たせなくなるようだ。
また一羽、藤乃の一撃で飛べなくなり地面に激突した小型の鳥に向け、刹那は刀を振るう。
落ちたとはいえ、完全な無力化ができた訳ではない。此方に向けナイフのような嘴を突き立てようとする鳥の首を、刹那は神速の居合いで以て確実に斬り飛ばす。
「短期決着は、難しいか……!」
小型の対処はそれなりに順調だ。しかし、大型の動きの機敏さ、想像以上のタフさが戦闘を長引かせる。
さらには、ゾンビということもあるのか、銃弾の効きが余り良くないらしい。
だからといって、効果がないわけではない。紫苑の攻撃に苛ついたのか、本能的に経験の少ない者を見抜いたのか、ぎらりと腐った目をこちらに向けた。
そして一直線に、大型が紫苑に向けて宙を滑る。
「大型接近! 左側です!」
報せると同時、紫苑は地面を蹴って思い切り回避する。背後で轟音が響き、地面が抉れ弾き飛ばされた土や石が体にぶつかり音を立てた。
「チャンス、一気に仕留めるわよ!」
藤乃が鳥の背後から駆け寄り、弾幕を張って動きを制限する。振り回された翼を身を反らして躱し、連続で飛んでくる嘴をナイフで弾く。
返す刀で至近距離から拳銃を撃てば、嘴から汚液を垂れ流しながら鳥は大きく咆吼を挙げた。
「ここまで近づけば……!」
マテリアルを足に込め、刹那は素早く鳥の背後に辿り着く。そしてトンと壁を蹴り、大きく跳び上がった。
翼の攻撃も、嘴も届かない高所から、体を捻って白刃が鳥の首を薙ぐ。
「そんな易々と通すわけねえだろ!」
首を半分ほど斬り裂かれ、しかし尚も倒れない。
だが、隙は十分だ。紫苑は盾を投げつけつつ、マテリアルを光の剣へと変換し、斬りつける。
「くっ、ここまで近づかれましたか」
正面から逃れた犬が、左側に迫っていた。奏音は符を放ち、犬と纏めて大型の鳥を雷火で焼く。
畳み掛ける。
斬りつけ、撃ち抜き、焼き払い。そうしてようやく鳥は沈黙する。そして同時に、正面では劫火に巻かれた大型の犬が、断末魔の絶叫を上げていた。
●
「あーもう、だからこういうチマチマした武器ってのは苦手なんだよ! こう、敵を倒す感触ってーの? そういうのがねーから勝手がわかりゃしねぇ」
残った大型の鳥は既に手負いで、対処にそう時間は掛からなかった。小型の犬と鳥も同様に、数が少なければ何の問題もない。
ボルディアは、余り命中しなかった拳銃を片手に大きくため息をついた。
「アンタはよく当たンな軍人サンよぉ」
「はっは。ガキの頃からぶっ放してんだ、多少は慣れてるってもんさ」
アニタはライフルを背負いながら、快活な笑みを浮かべる。
「……なんだろ、所謂……姐御みたいな?」
その横顔を眺めこっそりと、カッコいいなとドキドキする刹那。
「ふう、何とかなったな……」
紫苑は胸を撫で下ろし、初仕事が無事に終わったことに安堵する。
そしてふと辺りを見渡せば、そこにいるハンター達は、皆経験豊富な者達だ。そこで紫苑は、彼らの冒険譚を聞いて回ることにした。
小屋の損傷は軽微で、人的損害もなし。
村人の対軍感情も、良くなることはないにしろ、悪いものにもならなかった。
そして負傷者の治療も無事に行う事も出来たとなれば、これ以上の出来はないと言って良いかも知れない。
溢れる粘液を呼気で泡立たせて放たれる音は、酷く不快に響き渡っていた。犬型のゾンビが一匹、うろうろと彷徨いながら此方の様子を伺っている。
ハンター達は人々の集う小屋を中心に、四つに分かれて迎撃を行うことにした。正面、左右、そして遊撃だ。
「まあなんだ、運が悪かったのさ。ロッソと言い、この村と言い――そして、集まった歪虚共と言い、な」
小屋の正面に仁王立ち、龍崎・カズマ(ka0178)は不敵に笑みを浮かべて見せた。
言葉は、背後の人々に向けている。出来るだけ自信満々に、堂々と。押し寄せる不安から彼らを守り疑心暗鬼の芽を摘み取るには、そういう姿を見せてこそだ。
「鳥型の歪虚は面倒そうですね……」
夜桜 奏音(ka5754)が、同じく小屋正面、カズマの少し後ろに陣取って上空を見上げる。死肉を狙うハゲタカのように、悠々と歪虚が翼をはためかせていた。
「アニタさんは鳥の対応で、鳥の中でも大型の鳥の方を優先的に攻撃してください」
「ああ、任せろ」
奏音の言葉に、アニタは快く頷く。
「死なれちゃ目覚めが悪いわよね、分かるわー……」
率先して艦の援護に向かったアニタの心情に、結城 藤乃(ka1904)は共感する。
「……今更純粋に人助けなんて、青臭いったらないけどねえ」
「あら、ここで動くことは、そんなに恥ずべき事かしら」
藤乃は己の心臓を親指で示し、ニッと笑ってみせた。
「ま、怠け者の戯れ言だから気にしないで、今回は宜しくねー」
そうして連れてきた軍馬に跨がり、藤乃は遊撃としていつでも動けるように待機する。
「敵の迂回行動に注意、小屋への敵到達阻止を最重視するべきですね」
J(ka3142)は小屋正面に帯同する形で、辺りの様子に気を配っていた。
藤乃と共に遊撃として、各員との連携を重視し打破を図る。後衛の射線を確保するための立ち回り、他前衛との防衛範囲の兼ね合い。いざという時は迅速に、それらを判断しなければならない。
「非戦闘員の方も、覚醒者……仲間の方も、誰一人欠けることなく大事に至らない様にしましょう」
「はい。村人が軍に不信感を抱く、なんてことは防がないといけませんね……確実に撃滅しましょう」
ユキヤ・S・ディールス(ka0382)と花厳 刹那(ka3984)は、小屋の右側を防衛する。
「命からがら歪虚王から逃げ切ってこんな雑魚共で死ぬなんざ、悲劇を通り越して喜劇になっちゃうぜ?」
「人命が最優先だ。……まだまだ至らないが、確り守っていこう」
そしてボルディア・コンフラムス(ka0796)と仙堂 紫苑(ka5953)が、左側の配置につく。
前衛と後衛のバランスを鑑みた初期配置だが、臨機応変、場合によって細かく移動することを視野に入れた陣形だ。
そうして、ハンター達が各々定位置に付いた時だった。犬型のゾンビが、唐突に鼻を鳴らして踵を返し茂みの中に消えていく。
そして、また姿を現したかと思えば――その背後には、更に数体の犬を引き連れて、腐った目が此方を睨み付けていた。
●
群れの中で一回り大きな犬が、地面を砕く勢いで地面を蹴った。追うように、小型の犬も飛び出してくる。
「来たか」
「まずは、足を止めましょうか」
犬の白濁の目が、カズマと奏音を見る。そこに向け、奏音は符を投げ放った。空気を裂いて飛来した符が、敵の眼前でマテリアルを放ち、不可視の結界を作り出す。
ぞぶりと、そこに飛び込んだ大型犬と、数体の小型の四肢が地面に沈み、その移動を阻害する。
「小型が散開しています。……少しは、知能もあるのでしょうかね?」
先陣を切った仲間がのたうち回る箇所を避け、その影に隠れるように小型の犬が迂回するように走り出していた。
「鳥も来てるわね。こちらは、小さいのをけしかけるつもりかしら」
大型の鳥ゾンビは、空中で旋回しながらタイミングを図っているようだった。代わりに小型は、早くも功を焦るかのように旋回の半径を狭めている。
「西に移動お願い」
藤乃は牽制に銃弾をばらまきながら、腰に下げたトランシーバーに指示を出す。
その片割れは小屋の中。小屋内非戦闘員に敵の位置を知らせ、万が一の被害を少しでも抑える目的だ。
「左に四、右に二、大型は二体とも正面です」
Jが素早く全員に報せる。
「はいはーい、良く来たなワンコロ共ォ」
それを聞き、ボルディアは挑発的な笑みを浮かべた。同時にマテリアルを込めればその体から莫大な火柱が立ち上り、やがてボルディアの全身に吸い込まれるように消える。
「こっちは任せな!」
叫ぶと同時に、大きく一歩を踏み出した。
犬の動きは酷く俊敏で、瞬く間にこちらとの距離を詰めてくる。そして幾許もなく、四体の犬が同時にボルディアの眼前に身を躍らせた。
「そのままおすわりで、首刈られンのを待ってろや!」
しかしそこは、彼女の射程だ。
その瞬間に、体ごと回転させ全体重と遠心力を乗せた凶悪な一振りが、煌めく軌跡を残して一切合切を纏めて薙ぎ払う。
ごきりと重い手応え。喉を食い破ろうと息巻く牙を届かせることなく、きゃんと声を上げて犬達が大きく吹き飛んだ。
「ではこちらは……」
ユキヤは静かに旋律を紡ぐ。
歌い上げるは鎮魂歌。マテリアルを込めた調べを耳に、犬達は突然、苦しむように動きを止めた。
「さて、俺の年末の稼ぎにでもなってくれや」
「左は、近接のボルディア様で十分なようですね」
その好機に、カズマとJが武器を振るう。
軌道を制御された無数のカードと、三つの光条が殺到し犬達に突き刺さった。
鳥の動きは予測がし辛い。四方八方自由に移動できる関係上、セオリーというものはなさそうだ。
「小屋背面と、左側に集中してきてるわ」
「大型に動きはない。先ずは小型の殲滅を優先した方が良さそうだ」
だからこそ、藤乃と紫苑は広く目を配り、敵の動きを事細かく観察し皆に伝えた。
鳥は翼を広げ、鋭い嘴でもって小屋を食い破ろうと急降下。
「とにかく右は死守しますので、他をお願いします!」
刹那は最も近い敵に向け、狙い澄まして銃の引き金を引いた。弾丸が翼を撃ち、体勢を崩した鳥が錐揉み軌道を逸らす。
次いで左側、紫苑の放った光条が空を焼く。狙うのは、此方に回ったアニタの撃ち漏らした個体だ。
「ヒュウ、やるじゃないか」
翼を撃ち抜かれ、風に溶けながら一羽が落下する。
「よし、次に行きましょう」
とはいえ敵の数はまだ多く、大型の個体が動くまで減らすべきなのは変わらない。
紫苑は常に大型を視野に入れ、接近に注意しながら再び引き金を引いた。
●
正面の大型犬が、奏音の呪縛に抵抗し抜け出すことに成功する。
犬は怒りに震えて大きく唸り――
「少し遅かったな!」
既に眼前に迫っていたカズマを、きつく睨み付けた。
カズマが振るうのは長大な刀。小型が相手ならその耐久を測るためスキルなしで挑むつもりだったが、最前列が大型なら話は別だ。
出し惜しみなく、全力でマテリアルを込める。翻った刀は音を置き去りに、目に見えない程の速度でもって敵の体に無数の裂傷を刻み込んだ。
しかし割り込むように、横合いから小型犬が飛びかかってくる。
「下がってください!」
咄嗟に、カズマは後ろに跳んでいた。同時に、竜頭状のエネルギーが炸裂し犬を吹き飛ばす。カズマを狙っていた別の個体にも、同様に竜頭が叩き付けられる。
ダメージに反応し、爆音のような咆吼が上がった。
「今、援護します」
見れば、大型はまだまだ体力を残していた。人など丸呑みにされそうな大口が、牙を此方に向けて開かれている。
奏音の符が、その口を花吹雪で覆い隠した。瀑布のような桜の乱舞に、大型の視界は閉ざされ目標を見失う。ガチンと凶音を響かせる噛み付きは、カズマを掠って空を噛む。
「ボルディア様、ユキヤ様、もう一体の大型を」
「おうよ!」
「はい」
Jの声に、左側の犬を処理していたボルディアが飛び出す。狙うは左前方から小屋に突進する大型個体だ。
ユキヤは小屋よりも前に出て、二体の大型犬を射程に入れる。そして杖の先に光を生み出し、高速で撃ち出した。
凝縮したマテリアルの塊は白光を帯び、ボルディアを追い越して大型の鼻先にぶつかって炸裂する。
撒き散らされる光と衝撃に、大型が大きく仰け反った。
「消えろ、腐敗臭!」
追って次の瞬間に、ボルディアは思い切り跳び上がっていた。斧槍を大きく振りかぶり、遠心力に速力、高低差も利用して最大限の一撃を叩き下ろす。
衝撃で、一瞬にして犬の前足が折れ曲がり、顎を地面に強烈に打ち付ける。しかしゾンビの生命力は非常に強い。脳天を斧で叩き割られ、下顎が使い物にならなくなっても残った後ろ足から繰り出された体当たりは、斧槍ごとボルディアを弾き飛ばす。
「払え、極炎」
――射線は通っていて、誤射の心配もない。体当たりのインパクトに全力を尽くしたのか、敵の動きは今まさに止まった。
Jの杖先から迸った炎の渦が、辺り一帯を舐め尽くす。
絶叫が上がる。激しく燃えさかる炎の中で、犬は激しく暴れ回り……しかし徐々にその動きは弱まっていく。
そしてゆっくりと、炎に溶けるように消えていった。
●
ばたばたと暴れながら落下した鳥は、最後の力を振り絞って大きく鳴いた。
「鳥の大型接近! 援護お願いします!」
紫苑は叫んでいた。彼の視線の先、二体の大型が俄に軌道を変えていたのだ。その矛先は小屋に他ならず、残った小型と合わせて一斉に急降下を始めた。
「面倒な鳥は、地へと落ちなさい」
奏音の符は空中で、稲妻へと変わる。迸る雷光が、大型の鳥と取り巻きの小型を巻き込み大きな音を立てた。
追って、刹那と藤乃、紫苑、アニタが、合わせて大型へと集中的に銃撃を浴びせかける。
しかしスキルも交え、光条や冷気を纏った弾丸が飛び交うも、一体の大型を退かせるに留まった。
想像以上に、小型の鳥が邪魔になる。さらに、敵の動きが速く、思ったように攻撃が当たらないことも倒しきれない原因の一つだった。
「とにかく、他の人達が援護に来るまで堪えましょう」
倒しきれずとも、小屋を破壊されないことが第一条件だ。
藤乃は馬から降り、小屋の背面で迎撃を繰り返す。銃弾は鳥の翼を抉るも、それだけではなかなか致命傷には至らず歯痒い思いは募る。
ただ、冷気の攻撃は有効で、凍らせてしまえば翼はその役割を果たせなくなるようだ。
また一羽、藤乃の一撃で飛べなくなり地面に激突した小型の鳥に向け、刹那は刀を振るう。
落ちたとはいえ、完全な無力化ができた訳ではない。此方に向けナイフのような嘴を突き立てようとする鳥の首を、刹那は神速の居合いで以て確実に斬り飛ばす。
「短期決着は、難しいか……!」
小型の対処はそれなりに順調だ。しかし、大型の動きの機敏さ、想像以上のタフさが戦闘を長引かせる。
さらには、ゾンビということもあるのか、銃弾の効きが余り良くないらしい。
だからといって、効果がないわけではない。紫苑の攻撃に苛ついたのか、本能的に経験の少ない者を見抜いたのか、ぎらりと腐った目をこちらに向けた。
そして一直線に、大型が紫苑に向けて宙を滑る。
「大型接近! 左側です!」
報せると同時、紫苑は地面を蹴って思い切り回避する。背後で轟音が響き、地面が抉れ弾き飛ばされた土や石が体にぶつかり音を立てた。
「チャンス、一気に仕留めるわよ!」
藤乃が鳥の背後から駆け寄り、弾幕を張って動きを制限する。振り回された翼を身を反らして躱し、連続で飛んでくる嘴をナイフで弾く。
返す刀で至近距離から拳銃を撃てば、嘴から汚液を垂れ流しながら鳥は大きく咆吼を挙げた。
「ここまで近づけば……!」
マテリアルを足に込め、刹那は素早く鳥の背後に辿り着く。そしてトンと壁を蹴り、大きく跳び上がった。
翼の攻撃も、嘴も届かない高所から、体を捻って白刃が鳥の首を薙ぐ。
「そんな易々と通すわけねえだろ!」
首を半分ほど斬り裂かれ、しかし尚も倒れない。
だが、隙は十分だ。紫苑は盾を投げつけつつ、マテリアルを光の剣へと変換し、斬りつける。
「くっ、ここまで近づかれましたか」
正面から逃れた犬が、左側に迫っていた。奏音は符を放ち、犬と纏めて大型の鳥を雷火で焼く。
畳み掛ける。
斬りつけ、撃ち抜き、焼き払い。そうしてようやく鳥は沈黙する。そして同時に、正面では劫火に巻かれた大型の犬が、断末魔の絶叫を上げていた。
●
「あーもう、だからこういうチマチマした武器ってのは苦手なんだよ! こう、敵を倒す感触ってーの? そういうのがねーから勝手がわかりゃしねぇ」
残った大型の鳥は既に手負いで、対処にそう時間は掛からなかった。小型の犬と鳥も同様に、数が少なければ何の問題もない。
ボルディアは、余り命中しなかった拳銃を片手に大きくため息をついた。
「アンタはよく当たンな軍人サンよぉ」
「はっは。ガキの頃からぶっ放してんだ、多少は慣れてるってもんさ」
アニタはライフルを背負いながら、快活な笑みを浮かべる。
「……なんだろ、所謂……姐御みたいな?」
その横顔を眺めこっそりと、カッコいいなとドキドキする刹那。
「ふう、何とかなったな……」
紫苑は胸を撫で下ろし、初仕事が無事に終わったことに安堵する。
そしてふと辺りを見渡せば、そこにいるハンター達は、皆経験豊富な者達だ。そこで紫苑は、彼らの冒険譚を聞いて回ることにした。
小屋の損傷は軽微で、人的損害もなし。
村人の対軍感情も、良くなることはないにしろ、悪いものにもならなかった。
そして負傷者の治療も無事に行う事も出来たとなれば、これ以上の出来はないと言って良いかも知れない。
依頼結果
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相談卓 エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142) 人間(リアルブルー)|30才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/12/28 10:08:11 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/12/24 19:39:16 |