路地裏工房コンフォートのクリスマス

マスター:佐倉眸

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/12/29 15:00
完成日
2016/01/05 02:38

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 工房の大きな窓は南向き。光が一杯差し込んで、昼間は部屋よりも暖かいくらい。
 極彩色の街ヴァリウス、広い通りを曲がった路地裏に佇む宝飾工房コンフォートで手伝いをしている少女モニカは、毛布に包まって眠る弟を負んぶ紐で背中に括り、今日も作業に勤しんでいる。
 過日、今のこの工房の持ち主であるエーレンフリートより託されたデザイン画とトパーズのルースと睨めっこだ。
「これは、絶対可愛く作ってあげないとねー。ね、ピノ?」
 背中をそっとあやしながら白手袋の指で摘まむ石を見詰めた。エーレンフリートとその妻と、彼女の父親であり、この工房の主人だった人の思い出の石だから。

 からんと来客を告げるベルが鳴った。
 工房は、今は閉めている店とドア1つで続いている。
 モニカが店に顔を出すと、杖を手にした中年の女性が怪訝な顔で入ってきた。
「お嬢ちゃん、1人?」
「ええ、まあ……」
 部屋にはエーレンフリートもいたが、彼は冬の入りに風邪を引いて以来、調子の悪い日は店には出ていない。
 元より、彼は主人を失ったこの工房を片付けているだけで、本来はフマーレで喫茶店を営んでいる。
 女性は深く溜息を吐いた。
「昔、若い頃にね、ここで買ったブローチが壊れてしまって……修理を、ね、お願いしたいのよ……」
 女性が鞄の中からハンカチを取りだして、モニカの前に開いて見せた。

 緑の石が1つころんと転がって、ひしゃげた台座に、砕けた透かし彫りの蝶。
 モニカは天鵞絨を貼ったトレイを差し出し、白手袋の指で石を摘まむ。
「翡翠、丈夫な石ですね。台座は何とかなりそうですが、こっちはパズルみたいですね」
 羽に花を彫った蝶、大きな羽が1枚と、3つに割れた小さな羽。元の形を想像しながら並べ直して見ても、どうしても前羽1枚分の欠片が足りない。
「思い出の品ですか?」
 パズルのように一つ一つ並べながらモニカが尋ねると、女性は首を横に振った。
 思い出があって求めた物では無い。
 若い頃に気に入って、それ以来ずっと身に着けてきた物だと。
「気に入っていたから、もし、直るならと思って持ってきたけど……邪魔しちゃったわね、ごめんなさい」
 女性の杖がことんと鳴った。
 パズルに集中していたモニカが顔を上げると、少し前に怪我をしたという。その時にブローチも割れてしまったと。

 完全に直すことは出来ないとモニカが言う。壊れて、パーツも欠けてしまった物だから。
「でも、ばらばらになった羽の欠片を無くさないように繋いでおくくらいなら出来ますよ。後は、少し整えれば、普段使いに出来るくらいには。石が綺麗に残っているので、それだけをペンダントにしてもきっと素敵です」
 女性は静かに目を閉じた。
 まだ若い頃、初めて覗いた宝石の店。綺麗、と、不透明な深緑の翡翠に映り込んだ己の姿は、すっかりその石に魅了されていた。
 その時は買えず、主人に頼み込んで長い間取り置きにしてもらって、初めて胸に飾ったのも、丁度こんな寒い日だった。
「お願いしようかしら。どんな風にしてもらえるの?」
 モニカが描いたデザイン画に、女性は満足そうに微笑んだ。


 仕上がりの予定日はカレンダーの日付を数えながら、数日後。
 丁度その日はリアルブルーの友人がクリスマスのパーティーを開くから、と。
「夕方に取りにきたらいいかしら?……もしお休みなら、あなたにもパーティーに出て欲しいわ。リアルブルーの色んな地域の伝統料理を振る舞ってくれるそうなの」
 お友達も歓迎よ。
 いつでも休みだとモニカは笑った。

 形の残っている羽を溶接し、台座に磨き上げた石を留め直す。輪郭だけを再現した羽はそれ以上の手を付けず、その空間にチェーンを掛けてペンダントに。
 トルソーに飾ると白い胸に傾いだ蝶が煌めいた。
 
「ピノ、どうかな? 気に入ってくれるかな?――さ、続き、続き―っと」
 モニカの背で小さな弟がふにゃふにゃと笑う。
 最近言葉を話し始めたが、まだ名前を呼ぶのが精一杯で、機嫌の良い時は大抵手足を揺らしながら、こうして笑っているばかりだ。
 モニカがトパーズを眺めながら、指先でニードルを回す。
 不意にノックの音が響いた。
「モニカ君、いいかな?――今、ブローチのお客さんが見えて、これを……おや、綺麗になっているじゃないか」
 工房に来たエーレンフリートはモニカに走り書きの地図を差し出した。
 トルソーの蝶を見詰めたエーレンフリートの目は優しげに笑む。
「当日、昼に用事が出来てしまったようでね、こっちに寄る時間が取れないから、パーティーへの出席ついでに届けて欲しいそうだよ。無理なら、翌日に取りに来ると言っていたけれど……ああ、完成していたなら、少し引き留めれば良かったかな」
「いいえ。直接渡してきます。私も、パーティー楽しみなんで!」
 ご飯が美味しそうなんです。


 当日。
 モニカは困っていた。
 昼頃、ペンダントに仕立て直したブローチにラッピングを施して、モニカとピノもいつもよりも少しだけおめかしを。小さな蝶ネクタイを飾るとピノはそれが気に入ったのか腕をばたばたと振り回していた。
 地図を眺めてここならそう遠く無いから、壁の時計を眺めながらそわそわとお茶を飲んで、そろそろ出発と、ピノを抱き上げた頃、店のベルが鳴るのを聞いた。
「お客さんかな-、どうしたんだろうねー?」
 ピノをエーレンフリートに預けて店を覗くと慌てた顔の青年がドアを叩いていた。
「急に済まない、これ、直らないだろうか?」
 差し出されたのは、彼の指には小さな指輪とその指輪に付いていたであろう透明な石。モニカがルーペを覗き込む。
「ダイヤモンドですか? 爪が割れちゃいましたかねー。ちょっと失礼します」
 リングを摘まんで石止めの爪をじっと見詰める。爪は欠けており、石を留め直すには足りない。
「修理がいりますね。お渡しは、明日か、」
「すぐには、無理だろうか。妻の物なんだが、パーティーに呼ばれていて……」
「……石がくっついてるだけで良ければ1時間、もうちょっと整えるなら2時間って、とこですね」
 待つと言った青年とその妻を店内へ招く。
 ペンダント、どうしよう。
 間に合わないなと溜息を吐いた。

「あ! あのー! すみません、これ、お願いします!」
 通りすがりのハンターへ。
 ペンダントの配達が依頼された。

リプレイ本文


 通りの店の軒に吊られたオーナメント、ドアに掛かったリース、窓に映るツリーの影。
 リアルブルーからの家だろうか、賑やかな装飾が傾き掛けて赤みを増した日に照らされている。
「今年もクリスマスの季節がやって来ましたね……」
 オーレリア・ギャラハー(ka5893)が街を眺めながら誰にと無く呟いた。
 道を行く人々は冬の装いで、道を急いでいる。
 路地裏の工房のドアを開けたモニカが、取りすがりのハンター達に急いた言伝と共に包みを差し出した。
「そういう事でしたら微力ですがお手伝いいたしますよ」
 モニカの話しを聞いた夕凪 沙良(ka5139)が両手を差し出してそっと受け取った包みを確りと抱えた。
「帰って一緒にケーキ食べたかったけど、後にしようか」
 大切な人の仕草に仁川 リア(ka3483)も微笑む。ケーキ、と示された包みに目を留めて夕凪は頷く。
 同じく居合わせた外待雨 時雨(ka0227)がモニカに向けた穏やかな目をゆっくりと伏せて、小さく肩を竦ませた。
「……勝手が……」
 パーティーは初めてだと不安の色を浮かべながらぽつりと零した。
「事情は分かったわ! 後でちゃんと報告しに行くから」
「……でもいきなり知らない顔が入っても大丈夫なんでしょうか?」
 ノイシュ・シャノーディン(ka4419)と夕凪は届け先と相手の容姿、伝える言葉を確認する。
 夕凪の質問に、友人の友人も歓迎だという言葉で自分も誘われたのだから大丈夫とモニカが答える。その小さな肩にぽんと温かな手が乗せられた。
「小せぇのに仕事優先するたぁ健気じゃないの」
 おっさんも頑張ろうかと思ったけど、とノイシュに向けて目を細めたスフェン・エストレア(ka5876)がからりと笑う。
「その姿勢、私も嫌いじゃないよ」
 お客さんを大事にしていることは、きっと伝わっているはず。モニカの目をじっと見詰めたノイシュも透き通った紫の双眸をなつっこく細めて見せた。

 行くとするか、とスフェンがコートを翻す。
 ノイシュも続き、夕凪は包みを抱え直してから、仁川がその側に寄り沿う様に続く。
 外待雨は暮れていく空を見上げ、オーレリアの後を静かに歩いた。遠く茜の光りに目が眩むが、雲に伝っていくグラデーションは優しい。上り始めた月はまだ薄ら白く、雲間に溶ける様に浮かんでいる。
 目的の家は塀や道まで溢れた装飾が周りのどの家よりも賑やかで、赤い衣装の人形がハンター達を迎えるように笑っていた。


 門扉は開け放たれており、コートを着込んだドアマンがクリスマスの挨拶をしながらハンター達をホールへ通すと、振り返った主催らしいロングドレスの女性が見知らぬ客人に首を傾げて、ようこそと微笑んだ。
 ペンダントの依頼人を探していた夕凪とノイシュが深い辞儀で応じて、静かに傍へと歩いて行く。
「突然お邪魔して申し訳ありません、お届け物と伝言がございます」
 夕凪の言葉と抱えられて包みに、どなた宛てかと主催が尋ねる隣、ノイシュが視線を合わせた中年女性がぱちくりと瞬いた。
 ノイシュの細い指が夕凪の肩をつついた。
「そちらの方でしょうか……?」
 名前と容姿はモニカから聞いた物と同じだった。そういえば、と依頼人が呟いて、モニカの所在を尋ねた。
「行けなくなってごめんなさい。気に入って貰えたら嬉しいって言ってたわ」
 夕凪の手許の包みを示してノイシュが告げる。依頼人がそれを受け取ると、夕凪は主催の女性の方へと向き直る。
「それでは失礼いたしました」
 そう言って下がろうとする夕凪を引き留めて、パーティーにも是非皆さんで、と女性はハンター達を見渡した。
 それなら、と夕凪は仁川に目配せを。
「……もしよろしければ、これを皆さんでどうぞ」
 包みと一緒に抱えてきたのは、仁川と選んだ小さなホールケーキ。
 テーブルの上に取り出すと、白いクリームの上に飾られたカラフルなフルーツに、女性の顔が綻び、すぐにペティナイフとプレートが用意された。
 包みのリボンを解きながら、依頼人がハンターへモニカに何かあったのかと問う。肩を跳ねさせた夕凪を遮り、仁川がゆるりと首を横に揺らした。
「たまたま通りがかった所で頼まれたから詳しくは分からないかな」
 プレートに取り分けた一切れにフォークを添えて、どうぞ、と差し出す。
「……聖なる夜に、女性に……急な用事が入るとあらば……」
 外待雨が声を潜めて依頼人に囁いた。
「……それ以上の詮索は、無粋でしょう?」
 しぃ、と指を唇の前に立てて目を細めると、依頼人は、そうねと笑いながら答えた。
 オーレリアが会場を見渡した。
 折角参加するのだから、料理を味わうだけで無く、手品とギターが得意なオーレリアなりのやり方で盛り上げてみせようと。

 外待雨が依頼人の手許を見詰める。解かれた包みの中から取り出された銀色のペンダント、会場の明かりにかつて刻まれた花も、新しく作られた羽の曲線も艶やかに煌めいている。
「それ、大事な物なんだって聞いたよ。良かったらこれを買ったときの思い出とか聞いてみたいなぁ」
 仁川がケーキを一皿夕凪に差し出しながら尋ねると、依頼人は首を横に揺らして、困ったように笑う。
 首に掛けようとして爪が金具を弾いた依頼人に代わって、項にそれを留めながら、外待雨が静かな声で尋ねた。
「……思い出のために、求められたものではないと……」
 依頼人は頷く。誕生日でも、何かの記念日でも、いい人からの贈り物でもなくて。ただ、偶然見かけて気に入ったと。
「……でしたら……それと共に歩んだ日々の、思い出をお聞かせ願いたく……」
 そうね、と磨き直された翡翠を撫でて、ゆっくりと息を吐いた。あの日からの誕生日もどんな記念日にも身に着けていたと。
「こんな、パーティーの日にも?」
 仁川のはしゃいだ明るい声に、依頼人は夕凪を見て目を細めた。初恋の人にエスコートされたパーティーにも、とその日を思い出すように答えた。
 依頼人が、懐かしいと厳しい面差しを緩めながら、若いハンター達へ思い出話を紡ぐ。その話しが落ち付く頃、仁川のケーキを夕凪がプレートへ、取り分けて差し出した。
 ぱくりと一口食んで、満面の笑みを浮かべると、夕凪も吊られて相好を崩した。
 テーブルには他にも様々な料理が並んでいる。
「あれもこれも美味しそう! ここって天国かな!」
 溌剌と楽しげな声で喋りながら、夕凪の手を腕に。夕凪の顔を見上げてにこりと笑むと、夕凪が頷いて身体を寄せる。少し屈んで頬が頭に触れると、仁川の腕に添える手でそっと袖を摘まんだ。
「まぁ、こういうのも悪くはないですね」
 エスコートの話しを聞いたのだろう。何が食べたいと夕凪を見上げながら尋ねてくる、きらきらした青い瞳が微笑ましくて。
 愛しい。

 ウェルカムドリンクを早々に乾して、ワインに切り替えたスフェンがローストビーフに舌鼓を打ちながらノイシュに向けてグラスを掲げた。
 ドレスを翻し、らしからぬ大股でヒールを鳴らして近づいたノイシュはスフェンの衿を握って引っ張る。
「スー君!」
 ぎゅっと前に引っ張ってから片方ずつ丁寧に整え、釦を留めると、仕上がりを確かめてから手を伸ばして、ぱんと肩を払う。
「またそんな格好してー! もう……折角カッコいいのに、勿体無いわ」
 コートを整えるだけでは足りないと言う様に眺めて、形の良い丸い頭がスフェンの顔を仰ぐ。
「服なんざ着られりゃいーんだよ」
 整ったコートの摘まんでは頭を掻いて溜息を吐く。
 酒と飯を食いに来たのだから、色気はいらないと、ローストビーフを食べながら。
「ほら、ノイシュしっかり食え」
 心配になる程ほっそりとした弟子にグレービーソースのたっぷり掛かった肉を差し出し、旨いぞと笑う。
 そして、ワインをもう一杯。

 聞き慣れないピアノ曲が流れ始めた。
 和音がリズミカルに重なるアップテンポな曲に、澄み切ったフルートの音色が加わった。
 賑やかに歓談していた客達が楽器の方へ視線を向けて静まった。
 
 ピアノの横で外待雨がフルートを奏でている。
 僅かに傾いでフリルを揺らし、歌口に唇を寄せながら、キィに指を弾ませる。
 曲が盛り上がると青い髪をさらりと流して、フルートが緩やかな銀の流線を描いて揺れる。
 曲の終盤に大きく傾けて高い音を長く響かせると、ホール一杯の拍手が響いた。
 次の曲へとピアノは音を繋いでいく。
 主旋律の無い音の中、外待雨が楽器を降ろして辞儀をすると惜しむように2度目の拍手が響いた。
「僕も演奏していいかな? これでもオカリナ吹くの上手いんだよ?」
 仁川がオカリナを取り出してピアノに合わせると、夕凪が頷いて肩を撫でた。
「私も聞きたいです。……ここで、リアさんのこと見ていますね」
 ピアノに合わせて音を奏でながら譜面台の前へ、オカリナの伸びやかな音色で一節、ピアノの音を追いながら合わせていく。
 柔らかく温かな音が広がっていく。
 両手で包む様にオカリナを持って撫でる様に指を運ぶ仁川を見詰めながら、夕凪が触れた自身の頬は火照ったように少し熱い。

 フルートに、オカリナにと流れる中、ノイシュとスフェンはそれに聞き入る依頼人を見付けた。
 1つ伝え損ねたことがある、と話し掛けると依頼人はワインを置いて2人を見た。
「手直しはするから、何かあったら店に来てって言っていたの。何も無くても、良かったらまたお店に立ち寄ってあげて下さい」
 直接渡せないことを心苦しそうにしていたから、とノイシュがペンダントを見詰めた。
「……あの子も来たがってたんだ。貴女にも会いたがってた」
 料理も食いたがっていた、と言い足してスフェンが肩を竦める。ただ、なぁ。と溜息交じりに一言置くと、
「こういう時、俺達みたいのは仕ご、もご……っ」
「スー君!」
 仕事と言い掛けたスフェンの口を塞ぐと、ノイシュは大粒の紫で睨む様に見詰めて咎める。
「なんでもないの。ペンダント、直してまで使って貰えるなんて、貴方の所に来て幸せね」
 2人を眺めて首を傾げた依頼人にノイシュが微笑むと、スフェンも短く息を吐いてからペンダントを指した。
「また会ってやってくれ。ペンダントの感想を知ったら、きっと喜ぶはずだ」


 オーレリアがギターを手に仁川へ声を掛けた。
「セッション、しませんか?」
 仁川が勿論と頷くと、楽譜を置き直してピアノを振り返る。同じように頷いたピアノが伴奏を弾き始めると、椅子に掛けてボディを抱える。
 艶やかに磨かれたソリッドを撫でて、ギターケースに足を掛ける。ネックを腕に乗せてコードを抑え、ボディを叩いて拍子を刻む。
 その手を弦へ。爪で撫でる様に弾いて、ガットの醸す独特な柔らかい音を響かせる。
 ピアノとオカリナに溶け込むように、クラシックギターの旋律が流れた。
 ギターの音色を聞きながら外待雨はフルートを片付けて、主催の女性へ軽く会釈を向ける。
「……友が、余韻まで濡らしては……申し訳ありませんので……」
 雨と共にある身、一足先にお暇しましょう。外へ出て見上げる空には、明るい月を囲むように星が瞬いて、冷え切った風が髪を梳くように吹き抜ける。
「素敵な夜……」
 賑やかな広間を、談笑の声、奏でた楽器の音を思いながらはあっと、吐息で指先を温めた。

 ノイシュが広間を見回している。
 スフェンがその様子を眺めながら、どうしたと尋ねると、答える前に主催の女性を見付け、スフェンの腕を掴むと走って行く。
「お料理、お友達の為に少しだけお持ち帰りしていいですか?」
 お肉も、グラタンも美味しかったの、とはしゃぐ傍ら、スフェンも指に付いたソースを舐めている。
 女性は構わないと頷いて、好きなようにと空のランチボックスを渡しながら、ペンダントの子かと尋ねた。
「頑張ったモニカに、ご褒美はあって当然よね」
 ボックスを受け取ったノイシュが頷くと、お勧めは甘い南瓜とささみのキッシュだと、殆ど空いた大皿を指す。
 そのテーブルへ向かう足は、ギターの音色に合わせて踊るように軽やかに。
「お前もお人好しだなぁ……」
 溜息交じりにそう言いながら、スフェンもその後に続く。キッシュとグラタンを詰めるノイシュに頻りに肉を勧めながら、冷え込みそうな表を窓越しに眺めた。
 ランチボックスの仕上がりにノイシュが満足げに頷くと、スフェンの腕を取って依頼人に、主催の女性にと手を振った。
 コンフォートまで、スフェンの酔いを醒ましながら。
 その後も、もう少し歩くのもいいだろう。
「いい子にできたら、帰りにクリスマスプレゼント買ってやるよ」
「スー君がプレゼントくれるの? やったあ!」
 スフェンの腕を抱えてはしゃぐ声、欲しかった服があるの、と笑顔で見上げると、温かな金の目を細めて眦を垂れた。
 デートしてあげるね。なんでお前と。楽しげに揶揄し合う声は、明かりを落とした路地裏の工房に着くまで続いていた。

 最後の曲を終えた仁川が夕凪の傍に戻って来る。両腕を広げてくるりと踊るように抱き付くと、どうだった、と青い目を見開いて夕凪を見詰める。
「聞き惚れてしまいました。皆さんにも、喜んで貰えた様で何よりですね」
 夕凪の感想に頬を緩めると、あ、と思い出した様に声を上げ、その手を弾いて窓辺へ。窓硝子に頬を寄せる様に空を見上げると。
「――行こうか」
 囁いて掌を重ねて繋ぎ直す。
 暗くなった冬空には星がきらきらと瞬いている。
 どこか見晴らしの良い場所へ、2人きりで星を眺めに。

 最後まで引き留めてしまったわね、と広間の殆どの客が捌けた頃、若い頃はギターを弾いていたという客の1人がオーレリアを解放した。
 ワインと熱気に頬を赤らめながら、素敵な演奏だったわ、と言い残してその客が去ると、オーレリアもほっと息を吐いた。
 随分話し込んでしまったと、閑散とした広間を見回して呟くと、壁に凭れてグラスを傾けた。

 思わずノイシュとスフェンから届けられた料理に、飛び上がって喜んだ翌朝。
 工房のポストに届けられた数枚のスケッチ。
 パーティーの料理と記されたそれはどれも、単色にも関わらずその場の空気が伝わるようで。
「むぁー」
「そうだねー、これはグラタンだね」
 美味しかったね、とピノを撫でた。
 今日も良い天気だ。昨日のハンターさん達にも、いい一日が訪れますように。

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重体一覧

参加者一覧

  • 雨降り婦人の夢物語
    外待雨 時雨(ka0227
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 大地の救済者
    仁川 リア(ka3483
    人間(紅)|16才|男性|疾影士
  • オキュロフィリア
    ノイシュ・シャノーディン(ka4419
    人間(蒼)|17才|男性|猟撃士
  • 紅瞳の狙撃手
    夕凪 沙良(ka5139
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士

  • スフェン・エストレア(ka5876
    人間(紅)|34才|男性|猟撃士

  • オーレリア・ギャラハー(ka5893
    人間(蒼)|20才|女性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/12/26 00:57:39
アイコン 相談卓
仁川 リア(ka3483
人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/12/29 01:28:15