ゲスト
(ka0000)
【初夢】少年、アイドル目指す?
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/01/05 09:00
- 完成日
- 2016/01/08 19:30
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●はじめに
「くりむぞんうぇすと」と言う世界がありました。
多く住む人間、エルフやドワーフ、鬼……しゃべる猫ゆぐでぃらや謎の存在で住人・歪虚もおりました。
「クリムゾンウェスト」とは異なり、ユグディラは人語をしゃべり、歪虚はただの住人です。
平和な世界の片隅で小さな事件が起こりました。「ぐらずへいむ王国」の王都に近い町に本社を構える芸能プロダクション「ヴォイド」。敏腕社長のレチタティーヴォが所属するプエル(kz0127)を部屋に呼び出したことから始まりました。
●社長室
「昨今、子役もいいがアイドルの方が人目を引き、かつ、幅広い活躍ができる」
社長用の机にいたレチタティーヴォはプエルの前まで踊るように出てきて視線を合わせた。
視線を合わせられ、呼び出されたプエルの緊張は大きくなり余計に震えるが、内容が良くわからないと小首をかしげる。
「アイドルってすごいですよね!」
「そう素晴らしい! 君だって歌える、踊ろうと思えば踊れる。演技もできるっ! 歌がうまかったからこそスカウトしたんだ!」
「おかげでいろんなところで歌わせてもらったり……」
「といってもモブだ。その他大勢だっ!」
「う、はい……」
嘆かわしいという仕草でプエルを見下ろし、再び身をかがめるとにやりという風に笑う。
「頑張って、主演を張れるアイドルを目指してみるかね?」
レチタティーヴォはプエルの肩をポンとたたき抑える。
「……はひっ!?」
プエルは素っ頓狂な声を上げる。内容を理解したくなかった。
「もっといい返事がいいのだが?」
「え、あ……えええ?」
「……」
「うっ」
「……」
期待の眼差しで見つめられ、プエルは嬉しいが冷や汗があふれてくる。
「あの……レチタティーヴォさん……僕が歌って踊れないのは知っていますよね?」
レチタティーヴォは凍りついた。
「大丈夫だ! 『想像力を持って信念のまま動けば、君に奇跡は起こるっ!』」
「……うわっ」
本来はいい言葉かもしれないが、実力を考えるとプエルは小刻みに首を横に振る。レチタティーヴォから逃げるようようとするが、肩におかれている手で動けない。
レチタティーヴォはにこやかだが、視線を逸らしている。
(僕が歌って踊れないというのを覚えている、絶対覚えている!)
何故だか知らないが、歌って踊り始めると何かが起こる。
この事務所にいるには首を縦に振らないといけないと世間知らずなプエルだって分かる。
(うううう、レチタティーヴォさんのためにっ!)
プエルは心で泣きながら、引きつった笑顔で元気よく「はいっ」と返事をした。
レチタティーヴォは満足な笑顔でプエルの脇に手をいれるとひょいと抱き上げる。
レチタティーヴォの笑顔を見ていると、プエルはつい嬉しくて本気の笑顔になってしまう。悩んでいることは吹き飛んでしまった。
それを見たレチタティーヴォは優しい笑顔でプエルを抱きしめた。
●練習室
「――で? デビュー用の楽譜と振付ですよ?」
マネージャー兼付き人というか保護者代わりと言うか、事務所に籍を置く青年エクエスがプエルに紙を渡した。非常にあきれた顔をしている。
「うん」
「で?」
「頑張るだけ頑張るよ?」
プエルが途方に暮れている声を出している時点で、エクエスは頭痛がした。
「社長のどこがいいんだか……」
「かっこいいじゃないか! 服装もおしゃれだし、活動的だし! 僕、本当憧れちゃう」
「……」
プエルの反論にエクエスは嘘だろという表情を作りかけて、困ったような笑顔でうなずいて置いた。
さて、音楽とダンスの先生による特訓開始。
まずは歌。
声楽と発声は違うため、地声に近いモノで出すよう訓練する。これは歌大好きの力ですんなりと切り替えができるようになった。
次に踊り。
初心者ならこの程度で可愛くかっこよく見えるよ、という物であるため、何とかすぐに形になった。
「では、ためしに両方をやってみましょう」
先生に言われ、鳴りだした音楽にプエルは動く。
ビタン。
プエルは盛大に転んだ、歌おうとした瞬間。音楽は明るく流れる中、先生もエクエスも呆然としている。
「ちょ、顔大丈夫!?」
先生はあわてて近寄る。
「ふえっ……膝付いて、手でガードしたからそこは……」
「うんちめ」
「……」
エクエスの一言が聞こえ、プエルは近くにあった靴を投げつける。
「口汚いですよ」
先生は怒ってエクエスを睨み付ける。
「……いえ、運動音痴の略です」
エクエスは淡々と言い直す。
「でも、プエル君、踊れるし、転ぶときちゃんと受け身取っているから運動神経ないわけではないのよ? そもそも、歌うことも運動神経が関わるのですから」
先生は首をひねる。
もう一度最初からということで練習を再開した。
似たり寄ったりのところで転ぶ、よろける……。
一時間後、プエルと先生が疲労で突っ伏した。
●カフェ
「……あの糞ガキ」
数日間の練習でプエルが音を上げた。エクエスが見つけたのは「探さないでください」といきれいな文字の置手紙。
「本当に探さないわけにはいかない」
無理難題を押し付けてはいるが社長はプエルを可愛がっている。ここでエクエスが何もしなければ、彼の首をみずからはねに来かねない。
「……まあ、街から出てないだろう」
プエルを探しにエクエスは行きそうなところを探しまわることになった。
一方、プエルは溜息と自分の情けなさで半泣きで歩いていた。おしゃれなカフェを見つけて足を止める。庭が広く折々の花が咲きそうな、大きな木の下は夏によさそうと想像が付く楽しいところ。木の下にはハンモックもついている。
大きめの屋根が付いている建物。屋根の下には屋外で飲食できるようにテーブルもあり、客が談笑しているのが見えた。屋内もゆったりしているように、プエルがいるところからは見える。
ゆぐでぃらカフェ。
看板があった。プエルは子どもの自分が独りで入るには場違いかもしれないと思いながら、恐る恐る入る。
「いらっしゃい」
カウンターには黒い毛並みのゆぐでぃらが立っている。カウンターは人間が座っても問題ないサイズなため、カウンターの後ろは台がありそこに乗ってこちらを見ているに違いない。
「おひとりですかにゃ?」
首にリボン、腰にエプロンをつけた茶トラのゆぐでぃらが寄ってくる。
二足歩行をしている猫がプエルを見上げる。
ゆぐでぃらという種族がいるのは知っていたが、こうして間近に見るのは初めてだった。
歪虚の中にも動物に似た形の物もいて、時々プエルが可愛いと思うのもいるが、結構獰猛で牙をむいてくることもある。
このゆぐでぃらを見ていると温かい雰囲気だった。陽だまりの温かさを感じ、プエルはじわっと涙が浮かぶ。
「にゃああ! 坊ちゃん、お疲れにゃ? カウンター席にどうぞ」
「……ふえ」
座ったプエルは人前であるが泣いていた、ゆぐでぃら店長クローディル・ゴーティを抱きしめて。
「くりむぞんうぇすと」と言う世界がありました。
多く住む人間、エルフやドワーフ、鬼……しゃべる猫ゆぐでぃらや謎の存在で住人・歪虚もおりました。
「クリムゾンウェスト」とは異なり、ユグディラは人語をしゃべり、歪虚はただの住人です。
平和な世界の片隅で小さな事件が起こりました。「ぐらずへいむ王国」の王都に近い町に本社を構える芸能プロダクション「ヴォイド」。敏腕社長のレチタティーヴォが所属するプエル(kz0127)を部屋に呼び出したことから始まりました。
●社長室
「昨今、子役もいいがアイドルの方が人目を引き、かつ、幅広い活躍ができる」
社長用の机にいたレチタティーヴォはプエルの前まで踊るように出てきて視線を合わせた。
視線を合わせられ、呼び出されたプエルの緊張は大きくなり余計に震えるが、内容が良くわからないと小首をかしげる。
「アイドルってすごいですよね!」
「そう素晴らしい! 君だって歌える、踊ろうと思えば踊れる。演技もできるっ! 歌がうまかったからこそスカウトしたんだ!」
「おかげでいろんなところで歌わせてもらったり……」
「といってもモブだ。その他大勢だっ!」
「う、はい……」
嘆かわしいという仕草でプエルを見下ろし、再び身をかがめるとにやりという風に笑う。
「頑張って、主演を張れるアイドルを目指してみるかね?」
レチタティーヴォはプエルの肩をポンとたたき抑える。
「……はひっ!?」
プエルは素っ頓狂な声を上げる。内容を理解したくなかった。
「もっといい返事がいいのだが?」
「え、あ……えええ?」
「……」
「うっ」
「……」
期待の眼差しで見つめられ、プエルは嬉しいが冷や汗があふれてくる。
「あの……レチタティーヴォさん……僕が歌って踊れないのは知っていますよね?」
レチタティーヴォは凍りついた。
「大丈夫だ! 『想像力を持って信念のまま動けば、君に奇跡は起こるっ!』」
「……うわっ」
本来はいい言葉かもしれないが、実力を考えるとプエルは小刻みに首を横に振る。レチタティーヴォから逃げるようようとするが、肩におかれている手で動けない。
レチタティーヴォはにこやかだが、視線を逸らしている。
(僕が歌って踊れないというのを覚えている、絶対覚えている!)
何故だか知らないが、歌って踊り始めると何かが起こる。
この事務所にいるには首を縦に振らないといけないと世間知らずなプエルだって分かる。
(うううう、レチタティーヴォさんのためにっ!)
プエルは心で泣きながら、引きつった笑顔で元気よく「はいっ」と返事をした。
レチタティーヴォは満足な笑顔でプエルの脇に手をいれるとひょいと抱き上げる。
レチタティーヴォの笑顔を見ていると、プエルはつい嬉しくて本気の笑顔になってしまう。悩んでいることは吹き飛んでしまった。
それを見たレチタティーヴォは優しい笑顔でプエルを抱きしめた。
●練習室
「――で? デビュー用の楽譜と振付ですよ?」
マネージャー兼付き人というか保護者代わりと言うか、事務所に籍を置く青年エクエスがプエルに紙を渡した。非常にあきれた顔をしている。
「うん」
「で?」
「頑張るだけ頑張るよ?」
プエルが途方に暮れている声を出している時点で、エクエスは頭痛がした。
「社長のどこがいいんだか……」
「かっこいいじゃないか! 服装もおしゃれだし、活動的だし! 僕、本当憧れちゃう」
「……」
プエルの反論にエクエスは嘘だろという表情を作りかけて、困ったような笑顔でうなずいて置いた。
さて、音楽とダンスの先生による特訓開始。
まずは歌。
声楽と発声は違うため、地声に近いモノで出すよう訓練する。これは歌大好きの力ですんなりと切り替えができるようになった。
次に踊り。
初心者ならこの程度で可愛くかっこよく見えるよ、という物であるため、何とかすぐに形になった。
「では、ためしに両方をやってみましょう」
先生に言われ、鳴りだした音楽にプエルは動く。
ビタン。
プエルは盛大に転んだ、歌おうとした瞬間。音楽は明るく流れる中、先生もエクエスも呆然としている。
「ちょ、顔大丈夫!?」
先生はあわてて近寄る。
「ふえっ……膝付いて、手でガードしたからそこは……」
「うんちめ」
「……」
エクエスの一言が聞こえ、プエルは近くにあった靴を投げつける。
「口汚いですよ」
先生は怒ってエクエスを睨み付ける。
「……いえ、運動音痴の略です」
エクエスは淡々と言い直す。
「でも、プエル君、踊れるし、転ぶときちゃんと受け身取っているから運動神経ないわけではないのよ? そもそも、歌うことも運動神経が関わるのですから」
先生は首をひねる。
もう一度最初からということで練習を再開した。
似たり寄ったりのところで転ぶ、よろける……。
一時間後、プエルと先生が疲労で突っ伏した。
●カフェ
「……あの糞ガキ」
数日間の練習でプエルが音を上げた。エクエスが見つけたのは「探さないでください」といきれいな文字の置手紙。
「本当に探さないわけにはいかない」
無理難題を押し付けてはいるが社長はプエルを可愛がっている。ここでエクエスが何もしなければ、彼の首をみずからはねに来かねない。
「……まあ、街から出てないだろう」
プエルを探しにエクエスは行きそうなところを探しまわることになった。
一方、プエルは溜息と自分の情けなさで半泣きで歩いていた。おしゃれなカフェを見つけて足を止める。庭が広く折々の花が咲きそうな、大きな木の下は夏によさそうと想像が付く楽しいところ。木の下にはハンモックもついている。
大きめの屋根が付いている建物。屋根の下には屋外で飲食できるようにテーブルもあり、客が談笑しているのが見えた。屋内もゆったりしているように、プエルがいるところからは見える。
ゆぐでぃらカフェ。
看板があった。プエルは子どもの自分が独りで入るには場違いかもしれないと思いながら、恐る恐る入る。
「いらっしゃい」
カウンターには黒い毛並みのゆぐでぃらが立っている。カウンターは人間が座っても問題ないサイズなため、カウンターの後ろは台がありそこに乗ってこちらを見ているに違いない。
「おひとりですかにゃ?」
首にリボン、腰にエプロンをつけた茶トラのゆぐでぃらが寄ってくる。
二足歩行をしている猫がプエルを見上げる。
ゆぐでぃらという種族がいるのは知っていたが、こうして間近に見るのは初めてだった。
歪虚の中にも動物に似た形の物もいて、時々プエルが可愛いと思うのもいるが、結構獰猛で牙をむいてくることもある。
このゆぐでぃらを見ていると温かい雰囲気だった。陽だまりの温かさを感じ、プエルはじわっと涙が浮かぶ。
「にゃああ! 坊ちゃん、お疲れにゃ? カウンター席にどうぞ」
「……ふえ」
座ったプエルは人前であるが泣いていた、ゆぐでぃら店長クローディル・ゴーティを抱きしめて。
リプレイ本文
●猫と少年
アルマ・アニムス(ka4901)は行きつけのカフェでひっそりのんびりとしていたところ、カウンターで泣いている少年に気付いた。
「あれはうちの事務所の後輩のプエル君?」
プエルと同じ事務所に所属し、穏やかな人柄で世の中の女性に和まれる一方、エルフでドワーフは「もふもふ」で好きということを公言するアイドルだ。
「店長、泣かせちゃだめじゃないですか!」
アルマは近寄ってクローディルに怒るが、クローディルが首を激しく横に振る。
近所の酒場で歌い、客から「歌姫」と呼ばれるケイ・R・シュトルツェ(ka0242)は、日課の仕事上がりのブランチに訪れた。プエルの横の席に座って微笑む。
「あら? 可愛い坊やじゃない? こんなに泣いちゃってクローディルにいじめられたの?」
「我は客を泣かさない!」
「ふふっ、あわてなくていいわよ」
冗談よ、と怒るクローディルにウインクを投げる。
アルマに涙を拭かれつつ、クローディルを離したプエルはむっとしていた。
「ち、違う、余は可愛い坊やじゃない! 余は……ちーん」
鼻を拭かれて素直に鼻をかむ。
「ふええ」
プエルは営業用の威厳を保とうとしたが格好がつかずに萎れ、アルマに慰められ余計に萎れる。
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は変装のサングラスの下から、この様子をうかがう。仕事の合間のエネルギー補給も兼ねたメニュー制覇中だった。
(んー、あれは『ヴォイド』の社長が入れ込んでいるという新人なのか?)
『ヴォイド』とはライバルの大手会社『イクシード』でアイドルをやっているレイオスは、アルマを見て判断した。アルマが弟分のように面倒見ていると言うのは推測として正しかろう。
「おお? 何かあったのか店長?」
ヴァイス(ka0364)はカフェに癒しを求めてやってきたところ、見慣れたカウンターで子供をあやす大人二人にいつもの無表情に見えるゆぐでぃらの姿を認める。
「ん? 『ヴォイド』のところの新人?」
彼もアイドルであり、所属する事務所と『ヴォイド』の社長がライバルながら懇意らしく、新人の噂は耳にしていた。それに、以前イベントについてきていたプエルを見かけたことがある。
店のウエートレスであるアシェ-ル(ka2983)は目を白黒させて状況をみる。メイドっぽいコスチュームの裾をなびかせ、困惑と戦い気を引き締める。
「今日はなんだかわけありのお客様が多いのかもしれないです」
時々事件が舞い込むのがこの店でもある。
「いらっしゃいませ……え?」
笑顔で応対したアシェ-ルはとげとげしい空気を一瞬感じた。
愛らしい少女なりの、妙に目立つ帽子と眼鏡を掛けたステラ・レッドキャップ(ka5434)が笑顔で会釈して入って来たのだった。
ステラは一直線にプエルの所に向かう。
「レッスンをさぼってカフェでティータイムですかぁ? いい根性していますね♪」
プエルは見た、ステラのこめかみに十字の怒りマークがあるのを。それも一つどころか三つあるのを。
知っている、この人物が先輩だと言うことを。年齢は同じとも違うとも言われるが外見上は同じだということを。
●歌うとは
ケイが頼んでくれたカフェオレやアルマが何でも頼みなさいと言ったりしている間、小さくなるプエル。
その横で休日が後輩捜索という事態で削れたステラが豪奢なパフェをほおばり様子をうかがっている。別に探してあげる必要もなかったが、気になったので協力したのだった。
「ふええ」
「……で、泣いたって解決しないですよ? アイドルになるなら社交性も重要です。 まあ、私は強要されてアイドルやっているわけではないのでアドバイスなんてできませんが。ほら、慣れない事やって疲れているなら甘い物でも食べて頭に栄養をやるべきです」
別途頼んだパフェをステラは置く。同じ事務所に籍を置くため、プエルのレッスンが難航しているのは耳にしていた。
「食べないと、アイスが溶けますよ?」
アルマにやんわり指摘され、プエルはスプーンを手にしてもそもそと食べる。
「おいしい」
プエルは笑みを見せる。
ケイとアルマはほっと息をつき、ステラは溜息を洩らした。
「おしぼりどう……きゃあああ」
「なんで投げるんだ! っと……」
遠くでアシェ-ルの声とこける音がし、レイオスの困惑と何か飛ぶ音が続く。アシェ-ルは転ぶ寸前でレイオスに支えられていた。
「あっ」
ステラが声を上げたときには、プエルの後頭部におしぼりは命中し、首筋にひやりと張り付く。
「ふえええ」
全員の視線が原因たるアシェ-ルに向かう。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」
アシェ-ルが慌てて駆け寄り、頭を下げるが、振りかえったプエルの脇腹に頭を命中させた。
「……ぐっ」
プエルが呻き、カウンターに突っ伏した。
「大丈夫?」
ケイがそっと肩にふれると、プエルはうなずく。
「わっ、あ、申し訳ありません」
「申し訳ありませにゃ」
クローディルとチャイローもあわてて頭を下げた。二分くらい一人と二匹による謝罪が行われ、プエルが必死に問題ないと告げる。
そして、プエルは疲労し、パフェを飲むように食べて一息ついた。
「……プエル君、よければおしゃべりしませんか?」
アルマが促したところ、プエルは語った、ここに至る原因を百字以内で。
「アナタは歌が好き?」
「好きだよ?」
目がキラキラしたため質問したケイはそれが本当だと分かる。
「あたしもよ? 歌うだけじゃなくて聞くのも、ね。聞くと、自然と体が動く……分からないかしら?」
「……あっ……」
合唱隊や鼓笛隊を聞いたときのわくわく感からプエルは気付く。
「それは歌っている時も同じ。自然と『身体も歌う』のよ」
「うん」
「決まりきったダンスじゃなくて、まずはその歌を大好きになったら、自然に身体が歌う……動くようになるかもしれないわよ?」
プエルは神妙な顔でうなずいたが、まだなお険しい顔をしている。カフェオレをストローで飲む。
「それより、頭の上に乗ったままのおしぼり、誰もとってやらないのか?」
近くの席で様子を見ていたヴァイスがプエルの頭の上のおしぼりを取った。
その直後、不吉な声が響いた。
「お客様、お水のお替りはっあああ」
アシェ-ルは手にしていた水差しを盛大に放り投げた。
「よっと……あっ」
「うわあああああ」
ヴァイスは水差しを受けとめ、プエルは中身を全身で受け止めた。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」
「大変だ、服はっ!」
「この服しかありません!」
「……この際仕方があるまい。お客様、店員が粗相して申し訳ありません。クリーニング代は持ちますが……ひとまず着替えを」
プエルは促されるままクローディルに連れられて店の奥に行った。
「あたしの見間違いじゃなければ、この服って指さなかったかしら?」
「指したと思うぞ?」
ケイはアシェ-ルの服を指して言い、ヴァイスは肯定した。
●アイドルとは
「うわあああ、僕、男なのに、男なのにっ!」
戻ってきたプエルは突っ伏して泣いた。
見事にフリルあるメイド風服。膝丈なのはまだいい方だと考えるとしても、プエルにとっての特は一つも見当たらなかった。
「ご、ごめんなさい。でも、似合ってます、プエルちゃん!」
アシェ-ルは謝りつつ、まじめにうなずき、仕事に戻った。
「……ああ、似合ってますよ」
「ああ、似合ってる」
ステラは自分の地位を脅かすかもしれない後輩に少し苛立ちを覚え、ヴァイスはアイドルとして当たり前だとうなずく。
「……だって、僕男だよ?」
「だからなんだ!」
「だって」
「男だろうが何だろうが、アイドルの衣装と言うのはフリルたっぷり、スカートだろうが!」
「え?」
プエルが凍りつく。記憶の糸を手繰り寄せ、彼が何者かを探す。
ヴァイスのアイドル活動を知っている者はすぐに「ああ」とうなずいた。
ヴァイスは強面、筋肉質な外見に漢らしい言動、「兄貴」と呼ばれ人気を博する一方、アイドル活動ではフリルたっぷりひらひらコスチュームである。このギャップは当人の生来のまじめさや、社長の勢いもあり誰も触れることがない。
「アイドルとは、見る人聞く人を楽しませるのが仕事だ。でもな、だからこそ俺達自信も楽しまなくちゃいけない。自分たちが楽しくないもの見せて、人を楽しませることなんて絶対にできない。そして、楽しいからこそ打ちこめるんだ。プエル、お前はどうしたいんだ?」
「レチタティーヴォさんのために頑張りたい……けど、う、うう」
プエルは目をうるうるさせる。
「アルマさん、これ社長の期待と言う名の圧力?」
「ですかねぇ。敏腕プロデューサーでもミスもありますが……」
「名プロデューサーならいいけれど迷プロデューサーだったりするかもしれませんよ?」
ぼそぼそと話し、ステラとアルマが溜息をもらす。
「ちょっと待った、芸能に関わる人間として言わせてもらうが、そんなんで生き抜けるほど芸能界は甘くないぜ、プエル」
レイオスは近づくとサングラスをさっととり、プエルを見下ろす。格好つけたポーズだが、嫌味もなく様になる。
「レチタティーヴォさんのために……」
「それは置いて置け。こいつも言っていたように、お前はどうなんだ? 人を楽しませる前に自分はどうなんだ?」
「ふええ」
「他人を喜ばせる為にできるかのか、これが前提だ。やる気があるなら一つずつ段階を踏んでいくしかないだろう? 才能でなんでも乗り切れるとは大間違いだ! 努力もしろ! 歌って踊れないなら、まずは歌いながら歩く、次は走りながら、そして準備体操しながら……」
「う、うう」
レイオスは反応の鈍いプエルに苛立ちを覚える。
「楽器ができるなら弾き語り、しゃべりながら踊ってみるとか、鼻歌をしつつ踊るとかはいかがでしょうか?」
アルマがレイオスに追加で提案する。
「僕、なぜか鼻歌できないんだ」
「……え?」
沈黙が下りる。
ケイが簡単な鼻歌を披露する。そして次はどうぞとプエルがまねる。
「んーんーんー」
プエルは息継ぎできず、窒息寸前になっていた。
(この坊ちゃんの指導した人間の苦労が分かった……壊滅的に不器用)
レイオスは冷や汗を流した。
「あっ、ごめんなさい」
つまずいたアシェ-ルのお盆がレイオスのこめかみをえぐった。
●夢と道と
「総合すると、プエルにやる気はある」
「けど社長のため」
レイオスとステラが溜息をついた。
「歌はとても大好きだとわかったわ」
「それ以外と一緒にできない」
ケイとアルマが困惑を見せるが、少しずつやればどうにかなるのではという期待もある。
「あ、あの……少しいいですか?」
アシェ-ルが近付いてきたことで、プエルが全身で緊張を表した。
「な、何もしませんよ! 話すだけです、えと……先ほどから本当にご迷惑をおかけして、ごめんなさい。私、皿を割ったり、注文を間違ったりいつも失敗ばかりで怒られています。でも、私このお仕事好きなんです……」
アシェ-ル失敗の事を話し、笑顔で告げる。
店長に客に温かい視線が向く。この店の温かさがあるから、アシェ-ルのドジも許される。そして、客も穏やかであるため、最悪なことが発生しない限り、怒っても許してくれる。
彼女が仕事を一生懸命やっているのが分かるから、もちろん、ドジが減ると良いのだが。
「だから、プエルちゃんもやる気があるなら頑張って」
「う、うん」
「可愛いんですもん」
「う、うん、ううん?」
アシェ-ルは笑顔で仕事に戻っていき、皿が割れる音がした。
「そうだなあ、ここはひとつ、歌姫と我らアイドルが即席コンサートをして、プエルに見せつけると言うのはどうだ?」
「事務所を通してください」
ステラがバッサリと切り捨てたが、笑っている。
「あたしはいいわよ? クローディルがいいっていうなら。応援したいもの、今までの……そして、未来のアイドル・プエルを」
ケイはにこりとプエルの顔を見て、頭をひとなでした。
店長がこくこくとうなずいている。
屋外で即席のコンサートが始まる。
響く個性ある歌。
アシェ-ルが音楽に乗ってつい皿を積み過ぎてふらついているのもパフォーマンスの一つ。
プエルは柔らかい表情にキラキラした目で先輩たちを見つめた。
「プエル君、落ち着きました?」
「はい……すみませんでした」
アルマにプエルは頭を下げた。
「プエル君は可愛いですし、キャラ付として高貴さをつけるのもいいですが……プエル君にもあるでしょう、個性を表に出せば!」
プエルのこめかみがピクリと動いた、険しい表情になり、怒りが湧きあがっているのに誰もが気付けなかった。
「個性?」
「そうです。僕はドワーフの好きも売りにしています! もふもふは最高です! プエル君もなにかっ!」
プエルは顔を伏せて震える。
「……う……余に個性がないと皆言う……」
ブツブツ言う声は音楽にかき消されている。
「そんなことないですよ? 一杯ありますよ?」
プエルを慰めるようにアルマは言う。
「あ、来た、付き人が。店長、プエルに関しての飲食代はエクエス付けでお願いします」
ケーキの最後のひとかけらを食べたステラは笑顔で給仕をしているチャイローに告げる。
プエルの付き人は渋い顔で一同を見渡し、プエルの格好を二度見してから、誰かが声をかける前に一旦場を離れた。
「失礼しました」
すっきりした顔でエクエスは戻ってきたが、頬が緩んでいるので笑いまくっていたのは隠しきれていない。
「まさかオレが子守りをするハメになるとは、隠れて終わるの見てたんじゃないだろうな」
レイオスの問いかけにエクエスの目が細くなる。
「ああ……終わりのようですねぇ。あなたは私が『子守り』と気付いていらっしゃる」
「なんだって、そりゃ、お前は……」
「ここではあくまで付き人であり、あなたと面識はありません」
全員の声が驚愕と違和感の声を上げる。
「プエル様の禁句をおっしゃいました?」
エクエスはにやにや笑う。
一同はプエルを見る。メイド風服の愛らしい恰好のままだが、怒りのために、全身から負のマテリアルが噴き上げているようだった。
「余は、だから人間が大嫌いなのだっ!」
漆黒の闇がプエルを中心に圧力となって吹き出し、一同を巻き込んでいった。
――悲鳴と共に、夜明けを告げる鳥が鳴く。
はっと目を覚ますハンターたち。
記憶には残っていないが、歌って踊り、いろんな人と一緒で、平和で楽しい夢だったはずだ。
人の夢は儚い。
平和を勝ち取るための戦いの合間に見られた夢は――希望だったのかもしれない。
●少年が見た夢
少年は目を覚ますと不思議な気分になった。夢は覚えていないが楽しく、非常にさびしい物だったような気がした。
「なんだろうね? 僕の……個性……かぁ」
少年は自分の手を眺め、次に窓の外の景色に目を向ける。
クスリ、と笑うとこれも夢のような気がして、今一度ベッドに埋もれた。
アルマ・アニムス(ka4901)は行きつけのカフェでひっそりのんびりとしていたところ、カウンターで泣いている少年に気付いた。
「あれはうちの事務所の後輩のプエル君?」
プエルと同じ事務所に所属し、穏やかな人柄で世の中の女性に和まれる一方、エルフでドワーフは「もふもふ」で好きということを公言するアイドルだ。
「店長、泣かせちゃだめじゃないですか!」
アルマは近寄ってクローディルに怒るが、クローディルが首を激しく横に振る。
近所の酒場で歌い、客から「歌姫」と呼ばれるケイ・R・シュトルツェ(ka0242)は、日課の仕事上がりのブランチに訪れた。プエルの横の席に座って微笑む。
「あら? 可愛い坊やじゃない? こんなに泣いちゃってクローディルにいじめられたの?」
「我は客を泣かさない!」
「ふふっ、あわてなくていいわよ」
冗談よ、と怒るクローディルにウインクを投げる。
アルマに涙を拭かれつつ、クローディルを離したプエルはむっとしていた。
「ち、違う、余は可愛い坊やじゃない! 余は……ちーん」
鼻を拭かれて素直に鼻をかむ。
「ふええ」
プエルは営業用の威厳を保とうとしたが格好がつかずに萎れ、アルマに慰められ余計に萎れる。
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は変装のサングラスの下から、この様子をうかがう。仕事の合間のエネルギー補給も兼ねたメニュー制覇中だった。
(んー、あれは『ヴォイド』の社長が入れ込んでいるという新人なのか?)
『ヴォイド』とはライバルの大手会社『イクシード』でアイドルをやっているレイオスは、アルマを見て判断した。アルマが弟分のように面倒見ていると言うのは推測として正しかろう。
「おお? 何かあったのか店長?」
ヴァイス(ka0364)はカフェに癒しを求めてやってきたところ、見慣れたカウンターで子供をあやす大人二人にいつもの無表情に見えるゆぐでぃらの姿を認める。
「ん? 『ヴォイド』のところの新人?」
彼もアイドルであり、所属する事務所と『ヴォイド』の社長がライバルながら懇意らしく、新人の噂は耳にしていた。それに、以前イベントについてきていたプエルを見かけたことがある。
店のウエートレスであるアシェ-ル(ka2983)は目を白黒させて状況をみる。メイドっぽいコスチュームの裾をなびかせ、困惑と戦い気を引き締める。
「今日はなんだかわけありのお客様が多いのかもしれないです」
時々事件が舞い込むのがこの店でもある。
「いらっしゃいませ……え?」
笑顔で応対したアシェ-ルはとげとげしい空気を一瞬感じた。
愛らしい少女なりの、妙に目立つ帽子と眼鏡を掛けたステラ・レッドキャップ(ka5434)が笑顔で会釈して入って来たのだった。
ステラは一直線にプエルの所に向かう。
「レッスンをさぼってカフェでティータイムですかぁ? いい根性していますね♪」
プエルは見た、ステラのこめかみに十字の怒りマークがあるのを。それも一つどころか三つあるのを。
知っている、この人物が先輩だと言うことを。年齢は同じとも違うとも言われるが外見上は同じだということを。
●歌うとは
ケイが頼んでくれたカフェオレやアルマが何でも頼みなさいと言ったりしている間、小さくなるプエル。
その横で休日が後輩捜索という事態で削れたステラが豪奢なパフェをほおばり様子をうかがっている。別に探してあげる必要もなかったが、気になったので協力したのだった。
「ふええ」
「……で、泣いたって解決しないですよ? アイドルになるなら社交性も重要です。 まあ、私は強要されてアイドルやっているわけではないのでアドバイスなんてできませんが。ほら、慣れない事やって疲れているなら甘い物でも食べて頭に栄養をやるべきです」
別途頼んだパフェをステラは置く。同じ事務所に籍を置くため、プエルのレッスンが難航しているのは耳にしていた。
「食べないと、アイスが溶けますよ?」
アルマにやんわり指摘され、プエルはスプーンを手にしてもそもそと食べる。
「おいしい」
プエルは笑みを見せる。
ケイとアルマはほっと息をつき、ステラは溜息を洩らした。
「おしぼりどう……きゃあああ」
「なんで投げるんだ! っと……」
遠くでアシェ-ルの声とこける音がし、レイオスの困惑と何か飛ぶ音が続く。アシェ-ルは転ぶ寸前でレイオスに支えられていた。
「あっ」
ステラが声を上げたときには、プエルの後頭部におしぼりは命中し、首筋にひやりと張り付く。
「ふえええ」
全員の視線が原因たるアシェ-ルに向かう。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」
アシェ-ルが慌てて駆け寄り、頭を下げるが、振りかえったプエルの脇腹に頭を命中させた。
「……ぐっ」
プエルが呻き、カウンターに突っ伏した。
「大丈夫?」
ケイがそっと肩にふれると、プエルはうなずく。
「わっ、あ、申し訳ありません」
「申し訳ありませにゃ」
クローディルとチャイローもあわてて頭を下げた。二分くらい一人と二匹による謝罪が行われ、プエルが必死に問題ないと告げる。
そして、プエルは疲労し、パフェを飲むように食べて一息ついた。
「……プエル君、よければおしゃべりしませんか?」
アルマが促したところ、プエルは語った、ここに至る原因を百字以内で。
「アナタは歌が好き?」
「好きだよ?」
目がキラキラしたため質問したケイはそれが本当だと分かる。
「あたしもよ? 歌うだけじゃなくて聞くのも、ね。聞くと、自然と体が動く……分からないかしら?」
「……あっ……」
合唱隊や鼓笛隊を聞いたときのわくわく感からプエルは気付く。
「それは歌っている時も同じ。自然と『身体も歌う』のよ」
「うん」
「決まりきったダンスじゃなくて、まずはその歌を大好きになったら、自然に身体が歌う……動くようになるかもしれないわよ?」
プエルは神妙な顔でうなずいたが、まだなお険しい顔をしている。カフェオレをストローで飲む。
「それより、頭の上に乗ったままのおしぼり、誰もとってやらないのか?」
近くの席で様子を見ていたヴァイスがプエルの頭の上のおしぼりを取った。
その直後、不吉な声が響いた。
「お客様、お水のお替りはっあああ」
アシェ-ルは手にしていた水差しを盛大に放り投げた。
「よっと……あっ」
「うわあああああ」
ヴァイスは水差しを受けとめ、プエルは中身を全身で受け止めた。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」
「大変だ、服はっ!」
「この服しかありません!」
「……この際仕方があるまい。お客様、店員が粗相して申し訳ありません。クリーニング代は持ちますが……ひとまず着替えを」
プエルは促されるままクローディルに連れられて店の奥に行った。
「あたしの見間違いじゃなければ、この服って指さなかったかしら?」
「指したと思うぞ?」
ケイはアシェ-ルの服を指して言い、ヴァイスは肯定した。
●アイドルとは
「うわあああ、僕、男なのに、男なのにっ!」
戻ってきたプエルは突っ伏して泣いた。
見事にフリルあるメイド風服。膝丈なのはまだいい方だと考えるとしても、プエルにとっての特は一つも見当たらなかった。
「ご、ごめんなさい。でも、似合ってます、プエルちゃん!」
アシェ-ルは謝りつつ、まじめにうなずき、仕事に戻った。
「……ああ、似合ってますよ」
「ああ、似合ってる」
ステラは自分の地位を脅かすかもしれない後輩に少し苛立ちを覚え、ヴァイスはアイドルとして当たり前だとうなずく。
「……だって、僕男だよ?」
「だからなんだ!」
「だって」
「男だろうが何だろうが、アイドルの衣装と言うのはフリルたっぷり、スカートだろうが!」
「え?」
プエルが凍りつく。記憶の糸を手繰り寄せ、彼が何者かを探す。
ヴァイスのアイドル活動を知っている者はすぐに「ああ」とうなずいた。
ヴァイスは強面、筋肉質な外見に漢らしい言動、「兄貴」と呼ばれ人気を博する一方、アイドル活動ではフリルたっぷりひらひらコスチュームである。このギャップは当人の生来のまじめさや、社長の勢いもあり誰も触れることがない。
「アイドルとは、見る人聞く人を楽しませるのが仕事だ。でもな、だからこそ俺達自信も楽しまなくちゃいけない。自分たちが楽しくないもの見せて、人を楽しませることなんて絶対にできない。そして、楽しいからこそ打ちこめるんだ。プエル、お前はどうしたいんだ?」
「レチタティーヴォさんのために頑張りたい……けど、う、うう」
プエルは目をうるうるさせる。
「アルマさん、これ社長の期待と言う名の圧力?」
「ですかねぇ。敏腕プロデューサーでもミスもありますが……」
「名プロデューサーならいいけれど迷プロデューサーだったりするかもしれませんよ?」
ぼそぼそと話し、ステラとアルマが溜息をもらす。
「ちょっと待った、芸能に関わる人間として言わせてもらうが、そんなんで生き抜けるほど芸能界は甘くないぜ、プエル」
レイオスは近づくとサングラスをさっととり、プエルを見下ろす。格好つけたポーズだが、嫌味もなく様になる。
「レチタティーヴォさんのために……」
「それは置いて置け。こいつも言っていたように、お前はどうなんだ? 人を楽しませる前に自分はどうなんだ?」
「ふええ」
「他人を喜ばせる為にできるかのか、これが前提だ。やる気があるなら一つずつ段階を踏んでいくしかないだろう? 才能でなんでも乗り切れるとは大間違いだ! 努力もしろ! 歌って踊れないなら、まずは歌いながら歩く、次は走りながら、そして準備体操しながら……」
「う、うう」
レイオスは反応の鈍いプエルに苛立ちを覚える。
「楽器ができるなら弾き語り、しゃべりながら踊ってみるとか、鼻歌をしつつ踊るとかはいかがでしょうか?」
アルマがレイオスに追加で提案する。
「僕、なぜか鼻歌できないんだ」
「……え?」
沈黙が下りる。
ケイが簡単な鼻歌を披露する。そして次はどうぞとプエルがまねる。
「んーんーんー」
プエルは息継ぎできず、窒息寸前になっていた。
(この坊ちゃんの指導した人間の苦労が分かった……壊滅的に不器用)
レイオスは冷や汗を流した。
「あっ、ごめんなさい」
つまずいたアシェ-ルのお盆がレイオスのこめかみをえぐった。
●夢と道と
「総合すると、プエルにやる気はある」
「けど社長のため」
レイオスとステラが溜息をついた。
「歌はとても大好きだとわかったわ」
「それ以外と一緒にできない」
ケイとアルマが困惑を見せるが、少しずつやればどうにかなるのではという期待もある。
「あ、あの……少しいいですか?」
アシェ-ルが近付いてきたことで、プエルが全身で緊張を表した。
「な、何もしませんよ! 話すだけです、えと……先ほどから本当にご迷惑をおかけして、ごめんなさい。私、皿を割ったり、注文を間違ったりいつも失敗ばかりで怒られています。でも、私このお仕事好きなんです……」
アシェ-ル失敗の事を話し、笑顔で告げる。
店長に客に温かい視線が向く。この店の温かさがあるから、アシェ-ルのドジも許される。そして、客も穏やかであるため、最悪なことが発生しない限り、怒っても許してくれる。
彼女が仕事を一生懸命やっているのが分かるから、もちろん、ドジが減ると良いのだが。
「だから、プエルちゃんもやる気があるなら頑張って」
「う、うん」
「可愛いんですもん」
「う、うん、ううん?」
アシェ-ルは笑顔で仕事に戻っていき、皿が割れる音がした。
「そうだなあ、ここはひとつ、歌姫と我らアイドルが即席コンサートをして、プエルに見せつけると言うのはどうだ?」
「事務所を通してください」
ステラがバッサリと切り捨てたが、笑っている。
「あたしはいいわよ? クローディルがいいっていうなら。応援したいもの、今までの……そして、未来のアイドル・プエルを」
ケイはにこりとプエルの顔を見て、頭をひとなでした。
店長がこくこくとうなずいている。
屋外で即席のコンサートが始まる。
響く個性ある歌。
アシェ-ルが音楽に乗ってつい皿を積み過ぎてふらついているのもパフォーマンスの一つ。
プエルは柔らかい表情にキラキラした目で先輩たちを見つめた。
「プエル君、落ち着きました?」
「はい……すみませんでした」
アルマにプエルは頭を下げた。
「プエル君は可愛いですし、キャラ付として高貴さをつけるのもいいですが……プエル君にもあるでしょう、個性を表に出せば!」
プエルのこめかみがピクリと動いた、険しい表情になり、怒りが湧きあがっているのに誰もが気付けなかった。
「個性?」
「そうです。僕はドワーフの好きも売りにしています! もふもふは最高です! プエル君もなにかっ!」
プエルは顔を伏せて震える。
「……う……余に個性がないと皆言う……」
ブツブツ言う声は音楽にかき消されている。
「そんなことないですよ? 一杯ありますよ?」
プエルを慰めるようにアルマは言う。
「あ、来た、付き人が。店長、プエルに関しての飲食代はエクエス付けでお願いします」
ケーキの最後のひとかけらを食べたステラは笑顔で給仕をしているチャイローに告げる。
プエルの付き人は渋い顔で一同を見渡し、プエルの格好を二度見してから、誰かが声をかける前に一旦場を離れた。
「失礼しました」
すっきりした顔でエクエスは戻ってきたが、頬が緩んでいるので笑いまくっていたのは隠しきれていない。
「まさかオレが子守りをするハメになるとは、隠れて終わるの見てたんじゃないだろうな」
レイオスの問いかけにエクエスの目が細くなる。
「ああ……終わりのようですねぇ。あなたは私が『子守り』と気付いていらっしゃる」
「なんだって、そりゃ、お前は……」
「ここではあくまで付き人であり、あなたと面識はありません」
全員の声が驚愕と違和感の声を上げる。
「プエル様の禁句をおっしゃいました?」
エクエスはにやにや笑う。
一同はプエルを見る。メイド風服の愛らしい恰好のままだが、怒りのために、全身から負のマテリアルが噴き上げているようだった。
「余は、だから人間が大嫌いなのだっ!」
漆黒の闇がプエルを中心に圧力となって吹き出し、一同を巻き込んでいった。
――悲鳴と共に、夜明けを告げる鳥が鳴く。
はっと目を覚ますハンターたち。
記憶には残っていないが、歌って踊り、いろんな人と一緒で、平和で楽しい夢だったはずだ。
人の夢は儚い。
平和を勝ち取るための戦いの合間に見られた夢は――希望だったのかもしれない。
●少年が見た夢
少年は目を覚ますと不思議な気分になった。夢は覚えていないが楽しく、非常にさびしい物だったような気がした。
「なんだろうね? 僕の……個性……かぁ」
少年は自分の手を眺め、次に窓の外の景色に目を向ける。
クスリ、と笑うとこれも夢のような気がして、今一度ベッドに埋もれた。
依頼結果
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【初夢】相談卓 ステラ・レッドキャップ(ka5434) 人間(クリムゾンウェスト)|14才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/01/05 01:17:02 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/04 13:06:59 |