ゲスト
(ka0000)
忘れられた詩をもう一度
マスター:雨龍一

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/12 19:00
- 完成日
- 2014/09/13 20:27
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
美しい月を見て、泣くことはあるだろう
散り逝く花を見て、泣くことはあるだろう
だが、彼女は泣くことがない……
彼女の心は、止まったままだからだ――
「まだかい?」
男がカウンターに座ると、マスターがグラスを磨きながら聞いてきた。
ここは、王都の片隅にある憩いの場だ。主に旅の者を相手にする、少しだけ草臥れた感じのする場所だった。
手を止めるマスターに頷きながら、男はいつものを――と、注文をする。
すぐさま琥珀色の液体がグラスへと注がれた。
「――あいつの笑顔が見たい」
零れ落ちた言葉に、マスターは表情を歪める。
ふと、視界に店の一角が入った。
花、だ。
「あれは――」
細身からふっくらとしたドレスを思わせるフォームの花びらに視線が吸い込まれる。先端が星のように広がっている。
彼女が、好きだった花だ。
「あぁ、こないだ来た旅人が持っていてな」
あの花を抱えて、この店の片隅で見た姿がつぶさに思い出せる。
「だが、あの花はここら辺には……」
そう、あれはここでは売られていない花だ。見ることはほとんどない。
「旅人がな、見つけたっていってたんだよ。妖精の花畑を」
妖精の花畑――そこには様々な季節の花が咲き乱れるという。
その花に合わせた妖精たちが宴を開いているというのだ。そして、見つかった時には瞬時に無くなるともいう――不思議な、花畑だ。
「妖精――」
見れるものは今や少ないとも言われている。彼らは、その姿をめったに見せない。
「ば、場所は! いや、その前にその旅人は!!」
あの花さえあれば、再び戻ってくるかもしれない。ある時を境にふさぎ込んだ彼女の心が。
「ま、待て待て。お前のことだ、知りたいというと思って聞いてある」
懐から取り出した紙に書かれていたのは、ここから少し遠い場所だった。
そしてそこは――
「ただ、条件がある。ここには、お前は行くな」
「な、なぜだ!」
「――途中にある湖が危ないらしい」
平地の王都周辺では所々林がある。そして、この書き記されている場所もその一角だ。
その林の中に、どうやら湖があるらしい。
「……じゃあ、俺はどうしたらいいんだっ!」
振り落とされた拳で、グラスが揺れる。
「俺も手を貸そう――あの歌姫には戻ってきてほしい」
彼女の唄声が消えてからというもの、この店も人の出入りが少なくなっている。
自分の時を止めてしまった彼女を、起こす軌跡がほしい。
「そして、お前も詩を綴っておくれ」
男の詩を彼女が唄う。その姿が、もう一度見たいと。
散り逝く花を見て、泣くことはあるだろう
だが、彼女は泣くことがない……
彼女の心は、止まったままだからだ――
「まだかい?」
男がカウンターに座ると、マスターがグラスを磨きながら聞いてきた。
ここは、王都の片隅にある憩いの場だ。主に旅の者を相手にする、少しだけ草臥れた感じのする場所だった。
手を止めるマスターに頷きながら、男はいつものを――と、注文をする。
すぐさま琥珀色の液体がグラスへと注がれた。
「――あいつの笑顔が見たい」
零れ落ちた言葉に、マスターは表情を歪める。
ふと、視界に店の一角が入った。
花、だ。
「あれは――」
細身からふっくらとしたドレスを思わせるフォームの花びらに視線が吸い込まれる。先端が星のように広がっている。
彼女が、好きだった花だ。
「あぁ、こないだ来た旅人が持っていてな」
あの花を抱えて、この店の片隅で見た姿がつぶさに思い出せる。
「だが、あの花はここら辺には……」
そう、あれはここでは売られていない花だ。見ることはほとんどない。
「旅人がな、見つけたっていってたんだよ。妖精の花畑を」
妖精の花畑――そこには様々な季節の花が咲き乱れるという。
その花に合わせた妖精たちが宴を開いているというのだ。そして、見つかった時には瞬時に無くなるともいう――不思議な、花畑だ。
「妖精――」
見れるものは今や少ないとも言われている。彼らは、その姿をめったに見せない。
「ば、場所は! いや、その前にその旅人は!!」
あの花さえあれば、再び戻ってくるかもしれない。ある時を境にふさぎ込んだ彼女の心が。
「ま、待て待て。お前のことだ、知りたいというと思って聞いてある」
懐から取り出した紙に書かれていたのは、ここから少し遠い場所だった。
そしてそこは――
「ただ、条件がある。ここには、お前は行くな」
「な、なぜだ!」
「――途中にある湖が危ないらしい」
平地の王都周辺では所々林がある。そして、この書き記されている場所もその一角だ。
その林の中に、どうやら湖があるらしい。
「……じゃあ、俺はどうしたらいいんだっ!」
振り落とされた拳で、グラスが揺れる。
「俺も手を貸そう――あの歌姫には戻ってきてほしい」
彼女の唄声が消えてからというもの、この店も人の出入りが少なくなっている。
自分の時を止めてしまった彼女を、起こす軌跡がほしい。
「そして、お前も詩を綴っておくれ」
男の詩を彼女が唄う。その姿が、もう一度見たいと。
リプレイ本文
軽い金属音が響いた扉の中は静かな空間があった。
それほど広くもない空間は通りの喧騒を抑え、硝子越しに入ってくる光よりも天井から吊下げられている柔和な灯りに包まれている。
カウンター席の他は5つ程のテーブル席。今は朝早いためか人はいなく、マスターと思しき人物が店内の掃除を行っていた。
「悪いな、まだ開く時間じゃ……」
「依頼を、受けてきたのですが――」
リアリュール(ka2003)が静かに声をかける。
「あぁ! すまんな。空いている席に座ってくれ」
男は店の奥へと一旦入るも、すぐさま戻ってきた。腕の中には一輪の花が収まっている。
「君たちが行ってくれるのか。ありがたい」
「詳細について教えてくれますか?」
手元の花を見つつ、紺野 璃人(ka1825)は尋ねる。
「あぁ。この花なんだがな――」
見ると、筒状になった花弁が5つに裂け、星のように広がっていた。
マルカ・アニチキン(ka2542)はマスターに断りを入れると、荷物の中から道具を取り出す。スケッチブックに鉛筆だ。
簡単な特徴を捉えながらスケッチをしていく。絵具は無いので色は付けられないものの、描かれた花は見易く、判断材料の一つになることがわかる。
「……素敵ですね、マルカ様の手から生み出されるこの華、わたくしは……好きです」
ふわりと微笑みながらアティエイル(ka0002)は感想を述べる。そんなアティエイルをみてエヴェリーナ・C(ka0017)もまた静かにほほ笑んだ。
「マスター、お聞きしてもよろしいですか?」
花を見つめながらアティエイルは口を開く。
「妖精について、知っていることはありますか?」
採取場所が妖精の花畑と呼ばれるだけあり、そこには妖精が多数いるのだろう。その特徴を考慮して動かなければ、途端に妖精の機嫌を損ね、花畑は消えるという話だ。
「妖精を怒らせたくはありませんから」
不躾な行いで機嫌を損ねることがこの依頼の一番気を付けなければいけない点なのかもしれないと。
「そうですね……この花を持ってきてくれた旅人の話によりますと、とても荒々しいことは嫌いのようで――」
どうやら騒々しいことは好まなく、静かな時間を好むようだ。そのため、戦いの気配を感じると途端に隠れてしまうという。
ただ、妖精たちは楽しいことは好きらしく、良くお茶会を開いているみたいだともいった。
「妖精のお茶会に招かれると、とても素敵なものをプレゼントされるとも言いますから」
めったに食べれないお菓子や、花の蜜、花のお茶などが振舞われるという。
「まぁ、そのためか季節によって場所があちこちへと移りゆくと聞いておりますが……この度近くで開かれているのは長い時間ではないとも思われますし」
既に旅人が見つけてから数日たっている事が懸念事項らしい。
クロード・オールドマン(ka0365)は一人マスターから聞いた男を訪ねていた。
細い路地を抜けるとメモの書かれた家が見つかる。辺りからは音楽やら絵具の匂いが漂ってくることから、此処は芸術家が集まる場所なのかもしれない。
少し待つと、男は顔を出した。
言葉を交わすと、少し離れた場所にある川のほとりで話を聞いてくれるという。
男の印象は、無精髭が伸び草臥れた感じのする――だが、着ているものは簡素ではあるが清潔感があるものだった。
話を聞いていくと、男はマスターの店で演奏をして音楽を披露するだけではなく、人へ作った作品を提供をすることで生活を送っていることが分かった。
そして、例の彼女はいまの時間はどうやら医者の所へ行っているらしい。
「話しかけると、動いてはくれるんですがね……」
まるで人形のようなんですよと、ついぼやいてしまう。
「……で、お前さんはその娘に惚れていたりするのかい?」
話の流れではそのように感じた。しかし――
「……どうなんでしょうね。彼女の唄声が、好きなんですよ。こう、何かに訴えかけるものがあるというのか。それが聞けなくなったとわかったときには、目の前が暗闇に包まれたというのか……」
男は力なく笑う。
「花を見つけたと聞いた時、飛び出していこうとしたと聞いたが?」
「ええ、それでこちらを見てくれるようになるのではと――」
「……わかった。花は任せろ。ただ、お前だけがしてやれることも、考えておけ」
花だけではなく、彼女を蘇らせるものが、彼自身でできることがあるのではないのかと。
「ありがとうございます……」
男は、ただ静かに頭を下げた。
森に入ると、進む道は次第に険しい一本道……けもの道へと変わっていく。どうやら普通は人が訪れる場所ではないようだ。
進むと、少し冷やりとした空気を感じた。水の気配がする。
情報ではもう少し先に湖があり、そこには大きな蛇が住処にしているという。
「もうすこしね……」
周りに注意をしながら、草をかき分けて進む。
うっそうとした森は、大きく成長した気が多く、その葉によって日は遮られている。そのため、冷やりとした空気は涼しげというより、寒気を感じさせるものへとなっていた。
ゆらりと気配を感じたのは 璃人だった。
獣道と化している道に通常より大きな気配を感じる。
風が、生暖かくあたりを揺らした。手はいつしか武器のほうへと延びていく。
その様子にアティエイルもまた魔力を一か所へと集めだす。そんな彼女を庇うように、エヴェリーナは気配の方へと身を進めた。
璃人はそっと指を折って後ろに合図をする。2と。
つまり、彼が感知できている範囲内には2匹潜んでいるようだ。
かさりと草が揺れた。緊張が走る。
次の瞬間飛び出てきたものにリアリュールは弓を撓らせた。
同時に、鈍い音が聞こえる。
「……は? 何つまらない事してくれてる訳?」
璃人がメイスで大蛇の牙を防いだのだ。一つ遅れたところでまた鈍い音が聞こえる。
横から璃人を目がけてきたもう一匹の大蛇をエヴェリーナが盾で受け、足で避ける。
すかさずアティエイルが先ほどまで集中させていた魔力を打ち込む。マジックアローだ。
大蛇は体を揺らしつつも攻撃を食らうと大きく牙を剥いた。威嚇だ。エヴェリーナは冷たく前を見据えると、追撃を打ち込むために体制を低くしたのだった。
上から押し付けてくる重みと牙を掲げる形で受け止めながら、璃人は後ろの気配を探る。
そこへ、大蛇の目を狙った矢が飛んできた。リアリュールだ。
受け止められるということで動きを固定されていた大蛇の目にそれは突き刺さった。
瞬間、ふと軽くなる感覚に璃人はすかさず体勢を立て直す。が、受けた痛みを振りほどこうと大蛇は暴れる。
軌跡状にいる身にあたるかと思った時、腕が引かれた。すんでのところでクロードが引き寄せたのだ。
軽く礼を口ずさむと、口角だけを引き上げ、クロードはそのままの体制で機動剣で薙ぎ払う。
別の痛みを覚えた大蛇が、赤黒い液体を流し続けながらも攻撃目標を定めようと大きく口を開けて首を振り落した。
戦いは大蛇たちの体力を奪いつつ続いていた。
エヴェリーナが剣先で大蛇を牽制する間に、後ろからアティエイルとマルカが魔法で攻撃を加える。
威嚇はそのまま払いのけ、攻撃は盾で受け流す。
また、璃人とクロードが大蛇を切りつける中、リアリュールが色々な角度から弓矢で打ち抜くといった展開が繰り広げられていた。
掠り傷などといったものは近接で攻撃を仕掛けていたものには次第にできてくる。
それでも、致命傷のようなものはなく、毒を持っていそうな牙からは攻撃を避けていたのが幸いしていた。
「そろそろその無駄に大きな図体も見飽きてきたよ。死んで」
大きくメイスを持つ手が振り落された。
鈍い音ともに、赤黒い液に塗れた体が地面へと沈んだ。
もう一匹も、アティエイルが放ったウインドスラッシュが胴体を切断している。
数回痙攣すると、静寂が訪れた。聞こえるのは、自分たちの荒い息だけだ。
当たりの草はすっかり戦闘によって踏み鳴らされていた。大蛇の這った後に、静かに佇む湖が見えていた。
数刻休息を取った後、再び警戒をしながらの探索が始まった。
先ほどの大蛇は、光になって姿を消していた。それ以降妙な気配を感じることはなかった。
クロードの傍にいたパルムがトテトテと進みだす。既に危険はないと判断したのだろう、その様子は嬉しそうだ。パルムに釣られるようにして、草木の中を進んでいった。
湖からさらに奥まったところ、すでに時間が遅くなっていたものの、光が溢れる場所が見えた。
目の前には花々が広がっていた
ふわりふわりと浮かぶ花弁が散っていく儚い状態ではなく、生き生きとしている。パルムはつられるようにそちらへと歩みをさらに進めていく。
注意深く見ると、その花びら花びらに隠れるように小さな光が見える。どうやら妖精たちのようだ。
リアリュールは息を飲んだ。想像した世界が、片鱗とはいえそこに広がっている。
パルムとは違い、目視はできないのか……それとも花弁自体が彼らの化身なのかはわからないが、揺れはぴたりと止まり、こちらの様子をうかがっているように感じる。
「突然の訪問をお許しください。貴女方の大切な居場所を荒らすつもりは全くございません。ただ、少し探し物をさせていただけないでしょうか?」
エヴェリーナは恭しく礼を取ると彼らの境界に立ち入る前に手にしていた武器を置いた。
既にほかの者たちも手にしていた武器は納めていた。
そして、警戒をしないよう――彼らの宴が続くことを願ってリアリュールは持っていたオカリナを口元へと引き寄せた。
優しい、音が辺りへと広がっていく。
それに釣られるように、ゆらりゆらりと光が揺れ始めた。光が揺れると同時に、花びらもまた動き出す。
アティエイルが小さく口を開いた。
そして声を――いや、音を紡ぎだす。
たちまち声は辺りへと広がり……リアリュールのオカリナと一緒に響き渡る。
それとともに光と花びら――そしてパルムが舞い始める。どうやら気に入ってくれたらしい。
その様子にアティエイルは目を細める。
――昔も集落で長の家系の務めとして唄っていたけれど…久しく唄う唄は、とても楽しい……
小さな住人たちの歓迎を受け、この場にいることを許可されたらしい。
マルカが、小さく折りたたんでいた紙を広げ掲げる。それは目的の花をスケッチした紙であった。
「この花を、捜しているんです」
その言葉に、ふわりふわりと光がよってくる。まるで覗き込んでいるようだ。マルカのスケッチを取り囲んだと思うと、あっという間に光たちはそのスケッチを運んで行ってしまった。どうやら探してくれるらしい。
暫くするとより強い光が一か所で点滅し始めた。
エヴェリーナと璃人はそちらへと進んでいった。
点滅している場に、それはあった。
数々の色の中、エヴェリーナは優しく一つの花を手折る。
それは、鈴なりになった白い目的の花だった。
「ありがとう」
その言葉に応えるように、光はゆらゆらと揺れる。
クロードは静かに花畑を見つめていた。先程まで踊っていたパルムが、何かを持って戻ってきた。
その手にあったのは――なぜか懐かしい……リアルブルーでよく見た花だった。
そっと手を伸ばすと、それは光をもって舞い上がった。
――手の届かない、この世界から見た蒼の日々のように。
リアリュールが用意した水を染み込ませた布に優しく茎を包み込む。
「塵屑の癖に我侭言っちゃってごめん。どうしても自分の手で運びたくてさ……」
璃人が何をもってしそのように卑下しているのかはわからないが、すぐに手渡す。
「この花が、あの人達にとっての希望なんだよね。……凄く綺麗だな」
妖精たちの傍で咲いていたからなのだろうか、その花達は積んだのもかかわらず瑞々しさを失っていなかった。
小さな星が肩を寄せ合っているようにも見えるその花は、小さく輝いている。
なぜ男が白を選んだのかはわからない。ただ、暗闇を照らすには適した色に感じる。そして、それが答えなのかもしれないとリアリュールはそっと見つめた。
「貴方たちの慈悲に、感謝を」
去り際に、アティエイルはゆっくりと頭を下げた。そして見送るような光たちを背に、再び森の中へと足を踏み入れたのだった。
店の中にはマスターと一人の男が待っていた。
璃人はそっと包み込むように持っていた花を男に渡す。
クロードはじっとその姿を見つめる。その姿は、旅立つ前に見た時よりも小奇麗にしており――そして何か決意を秘めているように見える。
「見つかったか?」
持ち込まれた花にお礼を言うマスターたちをおいて、クロードは男に声をかけた。
目が合う。
静かに伏せられ、数拍ののちに小さく肯定の声が聞こえた。
その言葉に、肩の力が抜けるのを感じる。どうやら、知らず知らずのうちに緊張していたらしい。
彼女が何故塞いだのかはわからない。歌う心を亡くしたのかは。
ただ、この男は白い花に託して想いを繋げようとしている。
「貴方にとって言葉とは何ですか? “うた”とは何ですか?」
エヴェリーナは静かに聞いた。
「……心の叫び、かな」
呟くように言われた言葉に――そうですか。と返す。
「マスター、彼女たちは……幸せかしら」
アティエイルは静かに尋ねた。じっと成り行きを見守っていたマスターは少し時間を置くと、ゆっくりと首を振った。
「わかりません。――ただ、幸せの一つに向かう道を見出したのかもしれません」
クロードはふと、蒼の世界で似た花を思い出す。
花言葉なんか、そういえばあったよなと。
その後何があったかはわからない。
そこまでかかわるには、時間がなかったともいえよう。
しかし、街に一つ名物ができたと聞こえた。
一軒の酒場では常に歌が聞こえると。
歌い手の傍には常に白い花があるらしい。そして――その手には小さな光もまたあったのだった。
それほど広くもない空間は通りの喧騒を抑え、硝子越しに入ってくる光よりも天井から吊下げられている柔和な灯りに包まれている。
カウンター席の他は5つ程のテーブル席。今は朝早いためか人はいなく、マスターと思しき人物が店内の掃除を行っていた。
「悪いな、まだ開く時間じゃ……」
「依頼を、受けてきたのですが――」
リアリュール(ka2003)が静かに声をかける。
「あぁ! すまんな。空いている席に座ってくれ」
男は店の奥へと一旦入るも、すぐさま戻ってきた。腕の中には一輪の花が収まっている。
「君たちが行ってくれるのか。ありがたい」
「詳細について教えてくれますか?」
手元の花を見つつ、紺野 璃人(ka1825)は尋ねる。
「あぁ。この花なんだがな――」
見ると、筒状になった花弁が5つに裂け、星のように広がっていた。
マルカ・アニチキン(ka2542)はマスターに断りを入れると、荷物の中から道具を取り出す。スケッチブックに鉛筆だ。
簡単な特徴を捉えながらスケッチをしていく。絵具は無いので色は付けられないものの、描かれた花は見易く、判断材料の一つになることがわかる。
「……素敵ですね、マルカ様の手から生み出されるこの華、わたくしは……好きです」
ふわりと微笑みながらアティエイル(ka0002)は感想を述べる。そんなアティエイルをみてエヴェリーナ・C(ka0017)もまた静かにほほ笑んだ。
「マスター、お聞きしてもよろしいですか?」
花を見つめながらアティエイルは口を開く。
「妖精について、知っていることはありますか?」
採取場所が妖精の花畑と呼ばれるだけあり、そこには妖精が多数いるのだろう。その特徴を考慮して動かなければ、途端に妖精の機嫌を損ね、花畑は消えるという話だ。
「妖精を怒らせたくはありませんから」
不躾な行いで機嫌を損ねることがこの依頼の一番気を付けなければいけない点なのかもしれないと。
「そうですね……この花を持ってきてくれた旅人の話によりますと、とても荒々しいことは嫌いのようで――」
どうやら騒々しいことは好まなく、静かな時間を好むようだ。そのため、戦いの気配を感じると途端に隠れてしまうという。
ただ、妖精たちは楽しいことは好きらしく、良くお茶会を開いているみたいだともいった。
「妖精のお茶会に招かれると、とても素敵なものをプレゼントされるとも言いますから」
めったに食べれないお菓子や、花の蜜、花のお茶などが振舞われるという。
「まぁ、そのためか季節によって場所があちこちへと移りゆくと聞いておりますが……この度近くで開かれているのは長い時間ではないとも思われますし」
既に旅人が見つけてから数日たっている事が懸念事項らしい。
クロード・オールドマン(ka0365)は一人マスターから聞いた男を訪ねていた。
細い路地を抜けるとメモの書かれた家が見つかる。辺りからは音楽やら絵具の匂いが漂ってくることから、此処は芸術家が集まる場所なのかもしれない。
少し待つと、男は顔を出した。
言葉を交わすと、少し離れた場所にある川のほとりで話を聞いてくれるという。
男の印象は、無精髭が伸び草臥れた感じのする――だが、着ているものは簡素ではあるが清潔感があるものだった。
話を聞いていくと、男はマスターの店で演奏をして音楽を披露するだけではなく、人へ作った作品を提供をすることで生活を送っていることが分かった。
そして、例の彼女はいまの時間はどうやら医者の所へ行っているらしい。
「話しかけると、動いてはくれるんですがね……」
まるで人形のようなんですよと、ついぼやいてしまう。
「……で、お前さんはその娘に惚れていたりするのかい?」
話の流れではそのように感じた。しかし――
「……どうなんでしょうね。彼女の唄声が、好きなんですよ。こう、何かに訴えかけるものがあるというのか。それが聞けなくなったとわかったときには、目の前が暗闇に包まれたというのか……」
男は力なく笑う。
「花を見つけたと聞いた時、飛び出していこうとしたと聞いたが?」
「ええ、それでこちらを見てくれるようになるのではと――」
「……わかった。花は任せろ。ただ、お前だけがしてやれることも、考えておけ」
花だけではなく、彼女を蘇らせるものが、彼自身でできることがあるのではないのかと。
「ありがとうございます……」
男は、ただ静かに頭を下げた。
森に入ると、進む道は次第に険しい一本道……けもの道へと変わっていく。どうやら普通は人が訪れる場所ではないようだ。
進むと、少し冷やりとした空気を感じた。水の気配がする。
情報ではもう少し先に湖があり、そこには大きな蛇が住処にしているという。
「もうすこしね……」
周りに注意をしながら、草をかき分けて進む。
うっそうとした森は、大きく成長した気が多く、その葉によって日は遮られている。そのため、冷やりとした空気は涼しげというより、寒気を感じさせるものへとなっていた。
ゆらりと気配を感じたのは 璃人だった。
獣道と化している道に通常より大きな気配を感じる。
風が、生暖かくあたりを揺らした。手はいつしか武器のほうへと延びていく。
その様子にアティエイルもまた魔力を一か所へと集めだす。そんな彼女を庇うように、エヴェリーナは気配の方へと身を進めた。
璃人はそっと指を折って後ろに合図をする。2と。
つまり、彼が感知できている範囲内には2匹潜んでいるようだ。
かさりと草が揺れた。緊張が走る。
次の瞬間飛び出てきたものにリアリュールは弓を撓らせた。
同時に、鈍い音が聞こえる。
「……は? 何つまらない事してくれてる訳?」
璃人がメイスで大蛇の牙を防いだのだ。一つ遅れたところでまた鈍い音が聞こえる。
横から璃人を目がけてきたもう一匹の大蛇をエヴェリーナが盾で受け、足で避ける。
すかさずアティエイルが先ほどまで集中させていた魔力を打ち込む。マジックアローだ。
大蛇は体を揺らしつつも攻撃を食らうと大きく牙を剥いた。威嚇だ。エヴェリーナは冷たく前を見据えると、追撃を打ち込むために体制を低くしたのだった。
上から押し付けてくる重みと牙を掲げる形で受け止めながら、璃人は後ろの気配を探る。
そこへ、大蛇の目を狙った矢が飛んできた。リアリュールだ。
受け止められるということで動きを固定されていた大蛇の目にそれは突き刺さった。
瞬間、ふと軽くなる感覚に璃人はすかさず体勢を立て直す。が、受けた痛みを振りほどこうと大蛇は暴れる。
軌跡状にいる身にあたるかと思った時、腕が引かれた。すんでのところでクロードが引き寄せたのだ。
軽く礼を口ずさむと、口角だけを引き上げ、クロードはそのままの体制で機動剣で薙ぎ払う。
別の痛みを覚えた大蛇が、赤黒い液体を流し続けながらも攻撃目標を定めようと大きく口を開けて首を振り落した。
戦いは大蛇たちの体力を奪いつつ続いていた。
エヴェリーナが剣先で大蛇を牽制する間に、後ろからアティエイルとマルカが魔法で攻撃を加える。
威嚇はそのまま払いのけ、攻撃は盾で受け流す。
また、璃人とクロードが大蛇を切りつける中、リアリュールが色々な角度から弓矢で打ち抜くといった展開が繰り広げられていた。
掠り傷などといったものは近接で攻撃を仕掛けていたものには次第にできてくる。
それでも、致命傷のようなものはなく、毒を持っていそうな牙からは攻撃を避けていたのが幸いしていた。
「そろそろその無駄に大きな図体も見飽きてきたよ。死んで」
大きくメイスを持つ手が振り落された。
鈍い音ともに、赤黒い液に塗れた体が地面へと沈んだ。
もう一匹も、アティエイルが放ったウインドスラッシュが胴体を切断している。
数回痙攣すると、静寂が訪れた。聞こえるのは、自分たちの荒い息だけだ。
当たりの草はすっかり戦闘によって踏み鳴らされていた。大蛇の這った後に、静かに佇む湖が見えていた。
数刻休息を取った後、再び警戒をしながらの探索が始まった。
先ほどの大蛇は、光になって姿を消していた。それ以降妙な気配を感じることはなかった。
クロードの傍にいたパルムがトテトテと進みだす。既に危険はないと判断したのだろう、その様子は嬉しそうだ。パルムに釣られるようにして、草木の中を進んでいった。
湖からさらに奥まったところ、すでに時間が遅くなっていたものの、光が溢れる場所が見えた。
目の前には花々が広がっていた
ふわりふわりと浮かぶ花弁が散っていく儚い状態ではなく、生き生きとしている。パルムはつられるようにそちらへと歩みをさらに進めていく。
注意深く見ると、その花びら花びらに隠れるように小さな光が見える。どうやら妖精たちのようだ。
リアリュールは息を飲んだ。想像した世界が、片鱗とはいえそこに広がっている。
パルムとは違い、目視はできないのか……それとも花弁自体が彼らの化身なのかはわからないが、揺れはぴたりと止まり、こちらの様子をうかがっているように感じる。
「突然の訪問をお許しください。貴女方の大切な居場所を荒らすつもりは全くございません。ただ、少し探し物をさせていただけないでしょうか?」
エヴェリーナは恭しく礼を取ると彼らの境界に立ち入る前に手にしていた武器を置いた。
既にほかの者たちも手にしていた武器は納めていた。
そして、警戒をしないよう――彼らの宴が続くことを願ってリアリュールは持っていたオカリナを口元へと引き寄せた。
優しい、音が辺りへと広がっていく。
それに釣られるように、ゆらりゆらりと光が揺れ始めた。光が揺れると同時に、花びらもまた動き出す。
アティエイルが小さく口を開いた。
そして声を――いや、音を紡ぎだす。
たちまち声は辺りへと広がり……リアリュールのオカリナと一緒に響き渡る。
それとともに光と花びら――そしてパルムが舞い始める。どうやら気に入ってくれたらしい。
その様子にアティエイルは目を細める。
――昔も集落で長の家系の務めとして唄っていたけれど…久しく唄う唄は、とても楽しい……
小さな住人たちの歓迎を受け、この場にいることを許可されたらしい。
マルカが、小さく折りたたんでいた紙を広げ掲げる。それは目的の花をスケッチした紙であった。
「この花を、捜しているんです」
その言葉に、ふわりふわりと光がよってくる。まるで覗き込んでいるようだ。マルカのスケッチを取り囲んだと思うと、あっという間に光たちはそのスケッチを運んで行ってしまった。どうやら探してくれるらしい。
暫くするとより強い光が一か所で点滅し始めた。
エヴェリーナと璃人はそちらへと進んでいった。
点滅している場に、それはあった。
数々の色の中、エヴェリーナは優しく一つの花を手折る。
それは、鈴なりになった白い目的の花だった。
「ありがとう」
その言葉に応えるように、光はゆらゆらと揺れる。
クロードは静かに花畑を見つめていた。先程まで踊っていたパルムが、何かを持って戻ってきた。
その手にあったのは――なぜか懐かしい……リアルブルーでよく見た花だった。
そっと手を伸ばすと、それは光をもって舞い上がった。
――手の届かない、この世界から見た蒼の日々のように。
リアリュールが用意した水を染み込ませた布に優しく茎を包み込む。
「塵屑の癖に我侭言っちゃってごめん。どうしても自分の手で運びたくてさ……」
璃人が何をもってしそのように卑下しているのかはわからないが、すぐに手渡す。
「この花が、あの人達にとっての希望なんだよね。……凄く綺麗だな」
妖精たちの傍で咲いていたからなのだろうか、その花達は積んだのもかかわらず瑞々しさを失っていなかった。
小さな星が肩を寄せ合っているようにも見えるその花は、小さく輝いている。
なぜ男が白を選んだのかはわからない。ただ、暗闇を照らすには適した色に感じる。そして、それが答えなのかもしれないとリアリュールはそっと見つめた。
「貴方たちの慈悲に、感謝を」
去り際に、アティエイルはゆっくりと頭を下げた。そして見送るような光たちを背に、再び森の中へと足を踏み入れたのだった。
店の中にはマスターと一人の男が待っていた。
璃人はそっと包み込むように持っていた花を男に渡す。
クロードはじっとその姿を見つめる。その姿は、旅立つ前に見た時よりも小奇麗にしており――そして何か決意を秘めているように見える。
「見つかったか?」
持ち込まれた花にお礼を言うマスターたちをおいて、クロードは男に声をかけた。
目が合う。
静かに伏せられ、数拍ののちに小さく肯定の声が聞こえた。
その言葉に、肩の力が抜けるのを感じる。どうやら、知らず知らずのうちに緊張していたらしい。
彼女が何故塞いだのかはわからない。歌う心を亡くしたのかは。
ただ、この男は白い花に託して想いを繋げようとしている。
「貴方にとって言葉とは何ですか? “うた”とは何ですか?」
エヴェリーナは静かに聞いた。
「……心の叫び、かな」
呟くように言われた言葉に――そうですか。と返す。
「マスター、彼女たちは……幸せかしら」
アティエイルは静かに尋ねた。じっと成り行きを見守っていたマスターは少し時間を置くと、ゆっくりと首を振った。
「わかりません。――ただ、幸せの一つに向かう道を見出したのかもしれません」
クロードはふと、蒼の世界で似た花を思い出す。
花言葉なんか、そういえばあったよなと。
その後何があったかはわからない。
そこまでかかわるには、時間がなかったともいえよう。
しかし、街に一つ名物ができたと聞こえた。
一軒の酒場では常に歌が聞こえると。
歌い手の傍には常に白い花があるらしい。そして――その手には小さな光もまたあったのだった。
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相談場 クロード・オールドマン(ka0365) 人間(リアルブルー)|30才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/08/12 01:12:18 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/08 23:20:49 |