ゲスト
(ka0000)
【初夢】あの湯気の向こうを目指して
マスター:鳴海惣流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/01/07 12:00
- 完成日
- 2016/01/11 19:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ふと気がつけば、ハンターたちはとある温泉宿の前に立っていた。
いつ、どうやってここへやってきたのか、誰もわからない。
なのに、中へ入らなければいけないような気がする。
誰からともなくドアを開け、やや古ぼけた温泉宿の中に入る。
「いらっしゃいませー」
正面にあるカウンター内に立つひとりの少女が、元気な声でハンターに挨拶してきた。
「私はミント・ユリガン。温泉宿の受付兼看板娘です!」
大きく上げた右手を振るミントのところに、ハンターたちは移動する。
怪しげな雰囲気はあるものの、どうしてか勝手に足が進む。
「温泉をご利用ですね。男湯はあちらになります。男女ともに露天風呂ですが、混浴ではありません。覗いたら駄目ですよ?」
意味ありげに笑ったミントが、男湯の場所だけを教える。
男湯と女湯には、かなりの距離があるらしい。
受付から大きめのタオルを借りた一行は、そのまま男湯の方へ向かう。
「おお。お主らも来たのか」
脱衣所のドアを開けるなり、筋肉質な老齢の男性がハンターに気づいた。
「私はゲオルグ・ミスカ・ラスリド。グラズヘイム王国ラスリド領の領主をしておる。隣にいるのは息子のレイルだ」
紹介されたレイルが、ハンターたちへ「よろしく」と頭を下げる。
ゲオルグもレイルも、すでに服を脱いでおり、下半身にタオルを巻いているだけの状態だ。
ハンターたちも温泉へ入るために、同様の格好となる。
装備もすべて脱衣所に置いていき、完全な丸腰だ。誰ひとりとして、武器を持っていこうとは考えなかった。
ゲオルグの先導で露天風呂へ移動したハンターたちは、早速温泉で温まろうとした。
「待てい! お主ら、本当にそれでいいのか!?」
いきなり怒鳴るように発したゲオルグの台詞に、ハンターたちは揃って怪訝そうな顔をする。
「見えぬのか! 遠くに立ち上るあの湯気が! あの向こうにこそ、我らが入るべき温泉が存在するのだ!」
人差し指でゲオルグが指し示す方向には、確かに青空高く昇っていく湯気があった。
ハンターの誰かが言った。あそこは女湯ではないのか、と。
ゲオルグは笑う。そのとおりだ、と。
「何のためにお主らはここに来た! 誰もが幸せになれる楽園を探し求めたからであろう! それこそが領民――いやさ! 全世界の民の願いだ!」
「さすがです、父上。私はついていきますよ!」
何故か嬉しそうに、実の父親を褒め称えるレイル。
普通ならこの状況をおかしく思うはずなのに、ハンターたちはどういう理由か状況に逆らえなかった。
まるで覗きをしに行くのが使命みたいに思えてくる。
「私は領主として、ひとりの男として! 民の願いを叶えねばならん! ラスリド小隊、出陣するぞ!」
いつからラスリド小隊に入れられたのだと疑問に思う暇もなく、ハンターたちはゲオルグとレイルに外へ連れ出されそうになる。
ゲオルグの話では露天風呂を囲む柵を上り、真っ直ぐに進んでいけば女性用の露天風呂があるらしかった。
いつの間にやら小隊長のゲオルグが柵を登ろうとした時、唐突に男湯にミントの声が響いた。
「言い忘れてましたが、入口以外から男湯を出ると、排除システムを作動します。でも、心配はいりません。覗きにいこうとしない限りは無害ですから」
まるで、こちらの行動を見透かしてるかのような忠告だった。
どうするのか目で問いかけるハンターに対し、ゲオルグは一切の躊躇なく柵を乗り越えていく。
ハンターたちもあとに続くと、ただっぴろい草原が目の前に広がった。
●
一方、その頃――。
露天風呂を楽しむ女性陣のもとへ、バスタオル姿のミントがやってきていた。
お風呂の加減はどうですかと尋ねられた女性ハンターたちは、笑顔で頷く。
そんな女性ハンターたちに、ミントは笑顔のまま言葉を続ける。
「もしかしたら、節操のないお猿さんか何かがやってくるかもしれませんけど、その場合は遠慮なく叩き潰して結構ですからね。私もそうしますし♪」
ごそごそと、どこからともなくミントが取り出したのはリモコンだった。
「ある時は温泉宿。しかしまたある時は、敵を撃退する温泉ロボ! これが噂のユニットシステムです!」
リモコンの準備を整えながら、ミントは不敵な笑みを浮かべる。
「外の様子はこのモニターでわかります。さらに、願えば何でも武器が出てきます。女湯の平和を乱そうとする者は排除するのみです!」
ミントがリモコンを操作し、宿屋ロボを起動させる。
「この宿屋ロボは移動こそできませんが、広範囲にダメージを与えるレーザーを発射できます。うっふっふ♪ さあ、駆逐開始です」
●
従来の出入口以外から男湯を出たゲオルグの背後で、宿屋が急速に変化する。
まるでロボの顔みたいになり、両目が光り出す。
「父上、あ、あれを! まさか、これが排除システムなのでは!」
狼狽するレイルを、ゲオルグが一喝する。
「狼狽えるな。どのような障害があろうとも、我等はただ真っ直ぐ進むのみ! うおお――っ!」
猛然とダッシュしていくゲオルグ。その目には狂気と欲望の光が宿っている。
「今、行くぞ! 魅惑の大地へと!」
真っ直ぐに女湯を目指すゲオルグを、レイルたちが追いかけようとする。
その瞬間だった。
ロボと化した宿屋からレーザーが発射され、まともに食らったゲオルグが香ばしいにおいとともにその場に倒れてしまった。
「父上――っ!」
急いで駆け寄ったレイルがしゃがんで、父親の上半身を助け起こす。
「レ、レイルよ……見果てぬ大地を……父の代わりに……つ、掴むのだ……そ、その手に……ぐふっ」
「な、なんということだ……父上が犠牲になるとは……! しかし私は諦めない! 断じて欲望のためではなく! 父上のために魅惑の秘境へ到達してみせましょう!」
力尽きたゲオルグの体を地面に横たえたあと、レイルはハンターたちを見た。
「誰であろうと構いません! 宿屋ロボの猛攻をかいくぐり、女湯への扉を開いてください!」
ふと気がつけば、ハンターたちはとある温泉宿の前に立っていた。
いつ、どうやってここへやってきたのか、誰もわからない。
なのに、中へ入らなければいけないような気がする。
誰からともなくドアを開け、やや古ぼけた温泉宿の中に入る。
「いらっしゃいませー」
正面にあるカウンター内に立つひとりの少女が、元気な声でハンターに挨拶してきた。
「私はミント・ユリガン。温泉宿の受付兼看板娘です!」
大きく上げた右手を振るミントのところに、ハンターたちは移動する。
怪しげな雰囲気はあるものの、どうしてか勝手に足が進む。
「温泉をご利用ですね。男湯はあちらになります。男女ともに露天風呂ですが、混浴ではありません。覗いたら駄目ですよ?」
意味ありげに笑ったミントが、男湯の場所だけを教える。
男湯と女湯には、かなりの距離があるらしい。
受付から大きめのタオルを借りた一行は、そのまま男湯の方へ向かう。
「おお。お主らも来たのか」
脱衣所のドアを開けるなり、筋肉質な老齢の男性がハンターに気づいた。
「私はゲオルグ・ミスカ・ラスリド。グラズヘイム王国ラスリド領の領主をしておる。隣にいるのは息子のレイルだ」
紹介されたレイルが、ハンターたちへ「よろしく」と頭を下げる。
ゲオルグもレイルも、すでに服を脱いでおり、下半身にタオルを巻いているだけの状態だ。
ハンターたちも温泉へ入るために、同様の格好となる。
装備もすべて脱衣所に置いていき、完全な丸腰だ。誰ひとりとして、武器を持っていこうとは考えなかった。
ゲオルグの先導で露天風呂へ移動したハンターたちは、早速温泉で温まろうとした。
「待てい! お主ら、本当にそれでいいのか!?」
いきなり怒鳴るように発したゲオルグの台詞に、ハンターたちは揃って怪訝そうな顔をする。
「見えぬのか! 遠くに立ち上るあの湯気が! あの向こうにこそ、我らが入るべき温泉が存在するのだ!」
人差し指でゲオルグが指し示す方向には、確かに青空高く昇っていく湯気があった。
ハンターの誰かが言った。あそこは女湯ではないのか、と。
ゲオルグは笑う。そのとおりだ、と。
「何のためにお主らはここに来た! 誰もが幸せになれる楽園を探し求めたからであろう! それこそが領民――いやさ! 全世界の民の願いだ!」
「さすがです、父上。私はついていきますよ!」
何故か嬉しそうに、実の父親を褒め称えるレイル。
普通ならこの状況をおかしく思うはずなのに、ハンターたちはどういう理由か状況に逆らえなかった。
まるで覗きをしに行くのが使命みたいに思えてくる。
「私は領主として、ひとりの男として! 民の願いを叶えねばならん! ラスリド小隊、出陣するぞ!」
いつからラスリド小隊に入れられたのだと疑問に思う暇もなく、ハンターたちはゲオルグとレイルに外へ連れ出されそうになる。
ゲオルグの話では露天風呂を囲む柵を上り、真っ直ぐに進んでいけば女性用の露天風呂があるらしかった。
いつの間にやら小隊長のゲオルグが柵を登ろうとした時、唐突に男湯にミントの声が響いた。
「言い忘れてましたが、入口以外から男湯を出ると、排除システムを作動します。でも、心配はいりません。覗きにいこうとしない限りは無害ですから」
まるで、こちらの行動を見透かしてるかのような忠告だった。
どうするのか目で問いかけるハンターに対し、ゲオルグは一切の躊躇なく柵を乗り越えていく。
ハンターたちもあとに続くと、ただっぴろい草原が目の前に広がった。
●
一方、その頃――。
露天風呂を楽しむ女性陣のもとへ、バスタオル姿のミントがやってきていた。
お風呂の加減はどうですかと尋ねられた女性ハンターたちは、笑顔で頷く。
そんな女性ハンターたちに、ミントは笑顔のまま言葉を続ける。
「もしかしたら、節操のないお猿さんか何かがやってくるかもしれませんけど、その場合は遠慮なく叩き潰して結構ですからね。私もそうしますし♪」
ごそごそと、どこからともなくミントが取り出したのはリモコンだった。
「ある時は温泉宿。しかしまたある時は、敵を撃退する温泉ロボ! これが噂のユニットシステムです!」
リモコンの準備を整えながら、ミントは不敵な笑みを浮かべる。
「外の様子はこのモニターでわかります。さらに、願えば何でも武器が出てきます。女湯の平和を乱そうとする者は排除するのみです!」
ミントがリモコンを操作し、宿屋ロボを起動させる。
「この宿屋ロボは移動こそできませんが、広範囲にダメージを与えるレーザーを発射できます。うっふっふ♪ さあ、駆逐開始です」
●
従来の出入口以外から男湯を出たゲオルグの背後で、宿屋が急速に変化する。
まるでロボの顔みたいになり、両目が光り出す。
「父上、あ、あれを! まさか、これが排除システムなのでは!」
狼狽するレイルを、ゲオルグが一喝する。
「狼狽えるな。どのような障害があろうとも、我等はただ真っ直ぐ進むのみ! うおお――っ!」
猛然とダッシュしていくゲオルグ。その目には狂気と欲望の光が宿っている。
「今、行くぞ! 魅惑の大地へと!」
真っ直ぐに女湯を目指すゲオルグを、レイルたちが追いかけようとする。
その瞬間だった。
ロボと化した宿屋からレーザーが発射され、まともに食らったゲオルグが香ばしいにおいとともにその場に倒れてしまった。
「父上――っ!」
急いで駆け寄ったレイルがしゃがんで、父親の上半身を助け起こす。
「レ、レイルよ……見果てぬ大地を……父の代わりに……つ、掴むのだ……そ、その手に……ぐふっ」
「な、なんということだ……父上が犠牲になるとは……! しかし私は諦めない! 断じて欲望のためではなく! 父上のために魅惑の秘境へ到達してみせましょう!」
力尽きたゲオルグの体を地面に横たえたあと、レイルはハンターたちを見た。
「誰であろうと構いません! 宿屋ロボの猛攻をかいくぐり、女湯への扉を開いてください!」
リプレイ本文
●
いまだ距離がある湯気の向こうへ繋がる第一歩を、最初に踏み出したのは神楽(ka2032)だった。
「俺はベットで寝てたはずなのに気付いたら知らない場所にいるとか、タオルひとつで外をうろついてるから通報されたら逮捕間違いなしとか、何で宿が変形してロボットになるのかとか、色々疑問に思うっすけど、どうでもいいっす!」
頭に浮かんだ疑問をすべてどうでもいいと言い切った神楽。瞳を輝かせ、握り締めた拳を高く突き上げる。
「女湯を、魅惑の裸体を覗く!! 今、俺が求めるのはそれだけっす~!」
歪んだ情熱を滾らせる神楽の側で、アルト・ハーニー(ka0113)が首を軽く回す。
「何やら変な展開になったが……ま、乗りかかった以上はやってやるさね」
成り行きで女湯を目指すことになったアルトだが、その割にはノリノリな雰囲気が漂う。
埴輪好きなので、当初アルトは覗くつもりはなかった。女湯にいるのが、埴輪だったらもっと良かったのになんて密かに思ってるほどだ。
しかし、どうにも設定に逆らえない。だったら、やるしかない。
「男には死んでも成し遂げなくてはいけない時がある。その想いを託された以上は、何としてもやり遂げなくては」
阿呆と呼ばれようが、最低な行為と自覚していようが、男の矜持がかかっている以上、全力で取り組まなければならない。
強い決意がヴァイス(ka0364)の表情にも表れている。
現在、女湯には宿屋ロボを稼働させるミントの他にレーヴェ・W・マルバス(ka0276)、エルバッハ・リオン(ka2434)、星野 ハナ(ka5852)、リン・フュラー(ka5869)の4名がいる。誰もが魅力的な女性だった。
「俺は人呼んで辺境の勇者ゴッドフリート! 勇者たるもの、男の理想郷目指して冒険だぜっ!」
自称勇者のゴッドフリート・ヴィルヘルム(ka2617)は、自身の欲望を満たすためだけに、女湯という理想郷を目指す。
「みんな、あの湯気の向こうを目指して突撃っす~~!! 恐れるなっす! 誰か1人でも女湯に辿り着けたら、他が全員やられても俺たちの勝ちっすよ!」
背後に炎が見えそうなくらい気合入りまくりの神楽に、アルトが不敵な笑みを浮かべて同調する。
「ふ、俺の心に宿る埴輪パワーで必ず、女湯へ辿り着いてやるんだぞ、と」
「女性陣には悪いと思うが、ゲオルグの男の矜持に感化された。全力で協力するぜ。最低な行為だと自覚していようとも!」
腕を組み、真剣な目つきで目的地となる神秘の秘境の位置をヴァイスが確認する。
「さーて、とりあえず武器と防具を準備してくか!」
「ゴッドフリート殿? どうして私の背後に移動したのですか? それに、倒れている父上を担いでどうするおつもりですか」
焦げかけていたゲオルグを担ぎ、隠れるようにレイルの背後へ移動したゴッドフリートは気にするなとだけ言った。
●
「はぅ~、極楽極楽ですぅ」
バスタオルを着用したまま、肩まで温泉に浸かっているハナが鼻歌まじりに言った。
温泉独特の香りをつまみに、これこそが醍醐味と言わんばかりにハナがぐびぐびと日本酒を飲む。
思い思いに女性陣が温泉を楽しむ中、宿屋ロボを操作中のミントが瞳をギラリと光らせる。
「どうやら、まだ懲りてないみたいですね。男の人たちが、女湯目指して突進してきます」
ミントの報告を受けたリンが、軽くため息をついた。
「女湯の平和を乱そうとする者、節操のないお猿さん……ですか。私はゆっくり温泉に浸かりたいだけなのだけど……」
リンに続いて、エルバッハが首を傾げながら呟く。
「前にも何処かで言ったような気がしますが、何で犯罪者になるリスクを冒してまで覗こうとするのでしょうか? お金を払って、そういったことが好きなだけできるお店に行けばいいと思うのですが」
「ほっほーう、そんな人たちが居るんですかぁ……それじゃ、一緒に天誅しちゃいましょぉ~」
飲んだ酒の影響か、やたらと楽しそうなハナがミントに近づく。
ハナの発言もあって、女性ハンターたちは侵入者撃退のために、ミントへの協力を決める。
「私自身はみられても気にはせんが、みてもいいというわけではないのでな。みられて困る乙女の為、何より聖域を前にして倒れる野郎共をみたいから妨害させてもらうわい」
若々しい外見ながら、年寄り風の口調で話すレーヴェが容赦なく銃器を持ちだす。
「レーザーで死なんのだから問題ないじゃろ」
誰しもがやる気になっている中、ゆっくり温泉を楽しみたいリンだけが武器を用意しなかった。
「故郷にいるお姉様達ならともかく、私を覗いても期待外れだと……期待外れでもよければ見てもいい、という訳でもないけど」
●
宿屋ロボに背後から狙われてるのも構わず、ひとり猛烈に大地を駆ける男がいた。神楽である。
「ケケケ、バストがヒップがフトモモが魅惑の裸が俺を呼んでるっす~! ゲヘヘ」
瞳の中にハートマークの輝きを宿し、舌を出して走る姿は欲望の化身そのものだ。
「宿屋ロボに狙われようとも、最短距離で女湯を目指すとはな。あんたこそ、本物の男だぜ」
どこか感動したような面持ちで、ヴァイスが先頭を走る神楽の背中を追いかける。
ヴァイスの隣で頷くレイルのすぐ後ろには、ゲオルグを肩に担いで走るゴッドフリートもいた。
一方でアルトは、欲望のままにダッシュしていった仲間を囮と割り切り、ひとり別行動を取る。
宿屋ロボの餌食にならないよう、こそこそと女湯へ向かう。
「何としても、参加した以上は女湯へ辿り着くために!」
先行組に立派な盾――囮として頑張ってくれと心で激励しながら、足音を立てないよう慎重にアルトは歩いていく。
ここまでは順調だが、そうはさせじとミントの操作する宿屋ロボが新たなレーザー発射の準備に入る。
いち早くその兆候に気づいたヴァイスは、瞬時に思考を働かせる。
最初に犠牲になったゲオルグを考えれば、宿屋ロボは動く者を最優先で標的にするのではないか。
そう推測したヴァイスは、大声で同行する仲間たちに己の考えを伝えたあと、その場に立ち止まって宿屋ロボに向き直った。
「俺が囮になる、ビームの発射直後を逃さず前に進むんだ!」
引き止める者は誰もいない。
誰しもがヴァイスの覚悟をわかっていた。
そして、誰かが犠牲にならなければ、目指す楽園へ辿り着けないことも。
さよならは言わないぜ。そんな目で見送る仲間たちに向かって、ヴァイスは口角をかすかに吊り上げてサムズアップする。
「皆! 俺の屍を越えてゆけ!」
叫んだヴァイスが、咆哮とともに宿屋ロボへ向かって全力で突進する。
あわよくば、ビームの余波でロボに隙がでないか狙うつもりだった。
●
宿屋ロボに突進するヴァイスの姿をモニターで確認したエルバッハは、反射的に「アホですね」と呟いていた。
ミントが女湯に用意したスピーカーで、男性陣の会話も女性陣には丸聞こえだった。
「どうしていい話みたいになってるのでしょう。そもそも覗きをしようと思わなければ、誰も犠牲にはならないでしょうに。私には理解できません」
呆れ気味のエルバッハが、男性陣の撃退へ向かおうとする。
「なぜでしょう? いつもならバスタオルを適当にはだけて、男性陣をお色気で挑発しているはずですが。何故か今回は禁じ手のような気がして、する気になりませんね」
自分のことながら、エルバッハは不思議そうに呟いた。
エルバッハの背中を見送ったあと、レーヴェは持っている銃を構えて男共に狙いを定める。
「特に狙うべき部位は股間から足にかけてじゃな。股間は痛いぞー。接近されても肉弾戦で押し返せばいいしな。ドワーフ嘗めんなし」
さらりとキツい発言をしたあと、レーヴェはミントに落ち着いて敵を狙うように告げる。
「敵の回避位置を予測すれば――いかんっ! ロボに向かってくる奴も含めて、正面突破を企む連中は囮じゃ!」
「――えっ!?」
ミントは驚くも、すでにヴァイスを狙ってレーザーを発射したあとだった。
広範囲に影響を及ぼすのがレーザーの特徴だが、他の仲間から離れたヴァイスひとりしか標的にできなかった。
向かってくるレーザーを前に、ヴァイスは悲鳴を上げるどころか、逆に笑みを浮かべた。
「俺の役目はここまでだ。あとは……自分たちの力でなんとかするんだぜ?」
爆音が響き、盛大にヴァイスが吹き飛ぶ。
立派な散り様を見せたヴァイスに、ひとり隅から移動中のアルトが無意識に敬礼する。
「お前の死は無駄にはしないぞ……多分」
敬礼を終えたあと、これまでと同じようにアルトは慎重に歩を進める。
「先行してる仲間に集中してる間に、急がないとな。読まれてる可能性も皆無ではないが、考えていても始まらないしな、と」
アルトがそう言って前を向いた瞬間だった。
女湯からレーヴェの放った制圧射撃により、移動を妨害されてしまった。
さらに今度は隠れてアルトの接近を待っていたエルバッハに、スリープクラウドを撃ち込まれれる。
「ち、見つかったようだな。ならば、俺の埴輪魂にかけて……他の者達を女湯へ送るしかないな。俺の埴輪魂はそうは簡単にくだけないんだぞ、と」
覚悟を決めたアルトがスリープクラウドに耐えるも、エルバッハはすぐに次の攻撃にとりかかる。
「おとなしく眠ってくださらないみたいですので、吹き飛ばさせていただきます」
単独で行動していたのが、アルトの仇になった。
味方を巻き込む恐れがないと判断したエルバッハが放ったのは、ファイアーボールだった。
さすがにこれは避けようがない。普段ならいざ知らず、今のアルトの装備は防御力皆無のタオルのみなのである。
「ふ、我が生涯に一片の悔いな……しなわけはないか、うむ。まだ見ぬ埴輪を探す旅はまだ途中なんだぞ、と」
どこか遠くを見つめながら、アルトもまた吹き飛ばされた。2人目の脱落者だった。
「うおお! ヴァイスさんとアルトさんの分まで俺は走って、そして見るっす~!」
大声でやられた仲間の名を叫ぶも、あっさりと神楽は見捨てて女湯を目指す。
その前に立ち塞がるのは、ほろ酔い加減のハナだった。
「んふっふ~、今日は大盤振る舞いしちゃいますよぉ……」
地縛符を放ち、神楽の動きを封じるなりミントに声をかける。
「ミントちゃん、動きを止めたので、敵をどんどん撃っちゃって下さい~」
「了解です」
ハナの指示を受けて、ミントが宿屋ロボからレーザーを放とうとする。
ロボに狙われた神楽は「負けてたまるか~っす!」と叫びながら、そこらにある適当な石を拾って素早く投げた。自分の代わりの囮にする狙いがあった。
石がなくなれば、自分のタオルを剥がして囮にしようとする。
「これが剥がれたら色々と不味い気もするっすけど、そんなの知るか~っす! って、あああ、外れないっす~!」
必死になってタオルを外そうとするも、何故かビクともしない。
その間に神楽は、宿屋ロボの放ったレーザーの餌食となってしまった。
「ぎゃぁああっす! グフ、無念。だが俺の屍を越えて走れっす! そして女湯に到達してくれっす、ゴフ」
できれば写真に残してなどとも言っていたが、最後まで言い終わることなく神楽はレーヴェにとどめを刺された。
「あとはおぬしたちだけじゃな。あと少しというところで、望みを絶たれる気分はどうじゃ?」
ニヤリと笑うレーヴェに、ゴッドフリートが同じく笑みを返す。
●
一方――。
その頃、リンは温泉を楽しんでいた。
お湯を肌に滑らせ、流れる感触と湯気の心地よさを堪能する。
「いいお湯です。本当は協力すべきなんだろうけど、やっぱり私はゆっくり温泉を楽しみたいので、他の皆さんには悪いですが、ただ単に温泉を堪能させてもらうことにします。バスタオルも巻いてあるし大丈夫、ですよね……?」
我関せずにゆっくり温泉に浸かるリン。
妙に静かな女湯の外では、壮絶な戦いが繰り広げられてるとも知らずに。
●
「一度見た攻撃は、勇者には通用しねえぜ! 必殺、レイルシールドッ!」
「うわああっ!?」
ハナから放たれた地縛符と、エルバッハのウインドスラッシュを、ゴッドフリートがレイルを盾にして防ぐ。
さらに宿屋ロボからビームが放たれれば、そちらへ向けてレイルを放り投げる。
あまりにも非人道的な行為に女性陣がポカンとする中、目を光らせたゴッドフリートが反撃を試みる。
「これが勇者の必殺技、ゲオルグシュートだっ!」
ここまで担いできたゲオルグを、ここぞとばかりに蹴り飛ばして遠距離攻撃代わりにする。
命中すれば儲けものだったが、レーヴェの銃によってゲオルグはあっさり空中で撃退される。
「おぬし! よくもそこまで非道な真似ができるものじゃな!」
そういうレーヴェも無慈悲にゲオルグを撃ち落としたのだが、そこにツッコミを入れる人間は誰もいない。
「勇者の道は苦難に満ちている……。理想郷に辿り着くためには、時には同志の屍も乗り越えなければならない……」
どこか芝居がかった口調で言ったあと、ゴッドフリートはカッと目を大きく見開いた。
「そんなわけでレイル……お前の犠牲は無駄にはしない! 死んでも役に立ってもらうぜ!」
もはや身動きできないレイルを、再び盾にしようとするゴッドフリート。
「では一斉攻撃をしましょう。盾でも防ぎきれないようにすればいいのです」
無慈悲な宣告をしてきたエルバッハに、ゴッドフリートはずるいと言う暇もなかった。
ミント、レーヴェ、エルバッハ、ハナが同時に攻撃すれば、さすがにレイルシールドだけではどうにもならない。
あともう一歩というところで、ゴッドフリートもまた女湯へ到達できずに散ったのだった。
●
「ロマンはわからんでもないが、リスクに見合わないと思うのじゃよ。若いコ、可愛いコがいるとは限らんしの」
勝利をおさめたあとで、レーヴェはハナの日本酒を拝借して温泉にゆっくり浸かろうとする。
そのハナはレーヴェに日本酒を渡したあと、ふらふらと倒れた男性陣のもとへ様子を見に行った。
「フッフッフ~、ミントちゃんと私が居るのに、女湯に到達させるわけないじゃないですか~」
得意げになっているところへ、ミントが大慌てで声をかける。
「あっ! 今、とどめを刺そうとしてるから、迂闊に近づいたりすると――」
「みぎゃ~~!?」
ミントの注意が終わる前に、ハナは腰に手を当て胸を反らせた勝利宣言ポーズのまま吹き飛ばされる。
「とりあえず、覗きに走った男性陣は、温泉に入ってテンションが振り切れたということにでもして、肉体労働とかの罰で済むようにお願いしましょうか」
「エルバッハさんは優しいんですね」
「いえ。せっかく温泉に来たのに、本格的な事件とか気分的に嫌ですし」
エルバッハとリンが会話をする中、頭上の空をまるで流れ星のようにハナが駆け抜けていくのだった。
いまだ距離がある湯気の向こうへ繋がる第一歩を、最初に踏み出したのは神楽(ka2032)だった。
「俺はベットで寝てたはずなのに気付いたら知らない場所にいるとか、タオルひとつで外をうろついてるから通報されたら逮捕間違いなしとか、何で宿が変形してロボットになるのかとか、色々疑問に思うっすけど、どうでもいいっす!」
頭に浮かんだ疑問をすべてどうでもいいと言い切った神楽。瞳を輝かせ、握り締めた拳を高く突き上げる。
「女湯を、魅惑の裸体を覗く!! 今、俺が求めるのはそれだけっす~!」
歪んだ情熱を滾らせる神楽の側で、アルト・ハーニー(ka0113)が首を軽く回す。
「何やら変な展開になったが……ま、乗りかかった以上はやってやるさね」
成り行きで女湯を目指すことになったアルトだが、その割にはノリノリな雰囲気が漂う。
埴輪好きなので、当初アルトは覗くつもりはなかった。女湯にいるのが、埴輪だったらもっと良かったのになんて密かに思ってるほどだ。
しかし、どうにも設定に逆らえない。だったら、やるしかない。
「男には死んでも成し遂げなくてはいけない時がある。その想いを託された以上は、何としてもやり遂げなくては」
阿呆と呼ばれようが、最低な行為と自覚していようが、男の矜持がかかっている以上、全力で取り組まなければならない。
強い決意がヴァイス(ka0364)の表情にも表れている。
現在、女湯には宿屋ロボを稼働させるミントの他にレーヴェ・W・マルバス(ka0276)、エルバッハ・リオン(ka2434)、星野 ハナ(ka5852)、リン・フュラー(ka5869)の4名がいる。誰もが魅力的な女性だった。
「俺は人呼んで辺境の勇者ゴッドフリート! 勇者たるもの、男の理想郷目指して冒険だぜっ!」
自称勇者のゴッドフリート・ヴィルヘルム(ka2617)は、自身の欲望を満たすためだけに、女湯という理想郷を目指す。
「みんな、あの湯気の向こうを目指して突撃っす~~!! 恐れるなっす! 誰か1人でも女湯に辿り着けたら、他が全員やられても俺たちの勝ちっすよ!」
背後に炎が見えそうなくらい気合入りまくりの神楽に、アルトが不敵な笑みを浮かべて同調する。
「ふ、俺の心に宿る埴輪パワーで必ず、女湯へ辿り着いてやるんだぞ、と」
「女性陣には悪いと思うが、ゲオルグの男の矜持に感化された。全力で協力するぜ。最低な行為だと自覚していようとも!」
腕を組み、真剣な目つきで目的地となる神秘の秘境の位置をヴァイスが確認する。
「さーて、とりあえず武器と防具を準備してくか!」
「ゴッドフリート殿? どうして私の背後に移動したのですか? それに、倒れている父上を担いでどうするおつもりですか」
焦げかけていたゲオルグを担ぎ、隠れるようにレイルの背後へ移動したゴッドフリートは気にするなとだけ言った。
●
「はぅ~、極楽極楽ですぅ」
バスタオルを着用したまま、肩まで温泉に浸かっているハナが鼻歌まじりに言った。
温泉独特の香りをつまみに、これこそが醍醐味と言わんばかりにハナがぐびぐびと日本酒を飲む。
思い思いに女性陣が温泉を楽しむ中、宿屋ロボを操作中のミントが瞳をギラリと光らせる。
「どうやら、まだ懲りてないみたいですね。男の人たちが、女湯目指して突進してきます」
ミントの報告を受けたリンが、軽くため息をついた。
「女湯の平和を乱そうとする者、節操のないお猿さん……ですか。私はゆっくり温泉に浸かりたいだけなのだけど……」
リンに続いて、エルバッハが首を傾げながら呟く。
「前にも何処かで言ったような気がしますが、何で犯罪者になるリスクを冒してまで覗こうとするのでしょうか? お金を払って、そういったことが好きなだけできるお店に行けばいいと思うのですが」
「ほっほーう、そんな人たちが居るんですかぁ……それじゃ、一緒に天誅しちゃいましょぉ~」
飲んだ酒の影響か、やたらと楽しそうなハナがミントに近づく。
ハナの発言もあって、女性ハンターたちは侵入者撃退のために、ミントへの協力を決める。
「私自身はみられても気にはせんが、みてもいいというわけではないのでな。みられて困る乙女の為、何より聖域を前にして倒れる野郎共をみたいから妨害させてもらうわい」
若々しい外見ながら、年寄り風の口調で話すレーヴェが容赦なく銃器を持ちだす。
「レーザーで死なんのだから問題ないじゃろ」
誰しもがやる気になっている中、ゆっくり温泉を楽しみたいリンだけが武器を用意しなかった。
「故郷にいるお姉様達ならともかく、私を覗いても期待外れだと……期待外れでもよければ見てもいい、という訳でもないけど」
●
宿屋ロボに背後から狙われてるのも構わず、ひとり猛烈に大地を駆ける男がいた。神楽である。
「ケケケ、バストがヒップがフトモモが魅惑の裸が俺を呼んでるっす~! ゲヘヘ」
瞳の中にハートマークの輝きを宿し、舌を出して走る姿は欲望の化身そのものだ。
「宿屋ロボに狙われようとも、最短距離で女湯を目指すとはな。あんたこそ、本物の男だぜ」
どこか感動したような面持ちで、ヴァイスが先頭を走る神楽の背中を追いかける。
ヴァイスの隣で頷くレイルのすぐ後ろには、ゲオルグを肩に担いで走るゴッドフリートもいた。
一方でアルトは、欲望のままにダッシュしていった仲間を囮と割り切り、ひとり別行動を取る。
宿屋ロボの餌食にならないよう、こそこそと女湯へ向かう。
「何としても、参加した以上は女湯へ辿り着くために!」
先行組に立派な盾――囮として頑張ってくれと心で激励しながら、足音を立てないよう慎重にアルトは歩いていく。
ここまでは順調だが、そうはさせじとミントの操作する宿屋ロボが新たなレーザー発射の準備に入る。
いち早くその兆候に気づいたヴァイスは、瞬時に思考を働かせる。
最初に犠牲になったゲオルグを考えれば、宿屋ロボは動く者を最優先で標的にするのではないか。
そう推測したヴァイスは、大声で同行する仲間たちに己の考えを伝えたあと、その場に立ち止まって宿屋ロボに向き直った。
「俺が囮になる、ビームの発射直後を逃さず前に進むんだ!」
引き止める者は誰もいない。
誰しもがヴァイスの覚悟をわかっていた。
そして、誰かが犠牲にならなければ、目指す楽園へ辿り着けないことも。
さよならは言わないぜ。そんな目で見送る仲間たちに向かって、ヴァイスは口角をかすかに吊り上げてサムズアップする。
「皆! 俺の屍を越えてゆけ!」
叫んだヴァイスが、咆哮とともに宿屋ロボへ向かって全力で突進する。
あわよくば、ビームの余波でロボに隙がでないか狙うつもりだった。
●
宿屋ロボに突進するヴァイスの姿をモニターで確認したエルバッハは、反射的に「アホですね」と呟いていた。
ミントが女湯に用意したスピーカーで、男性陣の会話も女性陣には丸聞こえだった。
「どうしていい話みたいになってるのでしょう。そもそも覗きをしようと思わなければ、誰も犠牲にはならないでしょうに。私には理解できません」
呆れ気味のエルバッハが、男性陣の撃退へ向かおうとする。
「なぜでしょう? いつもならバスタオルを適当にはだけて、男性陣をお色気で挑発しているはずですが。何故か今回は禁じ手のような気がして、する気になりませんね」
自分のことながら、エルバッハは不思議そうに呟いた。
エルバッハの背中を見送ったあと、レーヴェは持っている銃を構えて男共に狙いを定める。
「特に狙うべき部位は股間から足にかけてじゃな。股間は痛いぞー。接近されても肉弾戦で押し返せばいいしな。ドワーフ嘗めんなし」
さらりとキツい発言をしたあと、レーヴェはミントに落ち着いて敵を狙うように告げる。
「敵の回避位置を予測すれば――いかんっ! ロボに向かってくる奴も含めて、正面突破を企む連中は囮じゃ!」
「――えっ!?」
ミントは驚くも、すでにヴァイスを狙ってレーザーを発射したあとだった。
広範囲に影響を及ぼすのがレーザーの特徴だが、他の仲間から離れたヴァイスひとりしか標的にできなかった。
向かってくるレーザーを前に、ヴァイスは悲鳴を上げるどころか、逆に笑みを浮かべた。
「俺の役目はここまでだ。あとは……自分たちの力でなんとかするんだぜ?」
爆音が響き、盛大にヴァイスが吹き飛ぶ。
立派な散り様を見せたヴァイスに、ひとり隅から移動中のアルトが無意識に敬礼する。
「お前の死は無駄にはしないぞ……多分」
敬礼を終えたあと、これまでと同じようにアルトは慎重に歩を進める。
「先行してる仲間に集中してる間に、急がないとな。読まれてる可能性も皆無ではないが、考えていても始まらないしな、と」
アルトがそう言って前を向いた瞬間だった。
女湯からレーヴェの放った制圧射撃により、移動を妨害されてしまった。
さらに今度は隠れてアルトの接近を待っていたエルバッハに、スリープクラウドを撃ち込まれれる。
「ち、見つかったようだな。ならば、俺の埴輪魂にかけて……他の者達を女湯へ送るしかないな。俺の埴輪魂はそうは簡単にくだけないんだぞ、と」
覚悟を決めたアルトがスリープクラウドに耐えるも、エルバッハはすぐに次の攻撃にとりかかる。
「おとなしく眠ってくださらないみたいですので、吹き飛ばさせていただきます」
単独で行動していたのが、アルトの仇になった。
味方を巻き込む恐れがないと判断したエルバッハが放ったのは、ファイアーボールだった。
さすがにこれは避けようがない。普段ならいざ知らず、今のアルトの装備は防御力皆無のタオルのみなのである。
「ふ、我が生涯に一片の悔いな……しなわけはないか、うむ。まだ見ぬ埴輪を探す旅はまだ途中なんだぞ、と」
どこか遠くを見つめながら、アルトもまた吹き飛ばされた。2人目の脱落者だった。
「うおお! ヴァイスさんとアルトさんの分まで俺は走って、そして見るっす~!」
大声でやられた仲間の名を叫ぶも、あっさりと神楽は見捨てて女湯を目指す。
その前に立ち塞がるのは、ほろ酔い加減のハナだった。
「んふっふ~、今日は大盤振る舞いしちゃいますよぉ……」
地縛符を放ち、神楽の動きを封じるなりミントに声をかける。
「ミントちゃん、動きを止めたので、敵をどんどん撃っちゃって下さい~」
「了解です」
ハナの指示を受けて、ミントが宿屋ロボからレーザーを放とうとする。
ロボに狙われた神楽は「負けてたまるか~っす!」と叫びながら、そこらにある適当な石を拾って素早く投げた。自分の代わりの囮にする狙いがあった。
石がなくなれば、自分のタオルを剥がして囮にしようとする。
「これが剥がれたら色々と不味い気もするっすけど、そんなの知るか~っす! って、あああ、外れないっす~!」
必死になってタオルを外そうとするも、何故かビクともしない。
その間に神楽は、宿屋ロボの放ったレーザーの餌食となってしまった。
「ぎゃぁああっす! グフ、無念。だが俺の屍を越えて走れっす! そして女湯に到達してくれっす、ゴフ」
できれば写真に残してなどとも言っていたが、最後まで言い終わることなく神楽はレーヴェにとどめを刺された。
「あとはおぬしたちだけじゃな。あと少しというところで、望みを絶たれる気分はどうじゃ?」
ニヤリと笑うレーヴェに、ゴッドフリートが同じく笑みを返す。
●
一方――。
その頃、リンは温泉を楽しんでいた。
お湯を肌に滑らせ、流れる感触と湯気の心地よさを堪能する。
「いいお湯です。本当は協力すべきなんだろうけど、やっぱり私はゆっくり温泉を楽しみたいので、他の皆さんには悪いですが、ただ単に温泉を堪能させてもらうことにします。バスタオルも巻いてあるし大丈夫、ですよね……?」
我関せずにゆっくり温泉に浸かるリン。
妙に静かな女湯の外では、壮絶な戦いが繰り広げられてるとも知らずに。
●
「一度見た攻撃は、勇者には通用しねえぜ! 必殺、レイルシールドッ!」
「うわああっ!?」
ハナから放たれた地縛符と、エルバッハのウインドスラッシュを、ゴッドフリートがレイルを盾にして防ぐ。
さらに宿屋ロボからビームが放たれれば、そちらへ向けてレイルを放り投げる。
あまりにも非人道的な行為に女性陣がポカンとする中、目を光らせたゴッドフリートが反撃を試みる。
「これが勇者の必殺技、ゲオルグシュートだっ!」
ここまで担いできたゲオルグを、ここぞとばかりに蹴り飛ばして遠距離攻撃代わりにする。
命中すれば儲けものだったが、レーヴェの銃によってゲオルグはあっさり空中で撃退される。
「おぬし! よくもそこまで非道な真似ができるものじゃな!」
そういうレーヴェも無慈悲にゲオルグを撃ち落としたのだが、そこにツッコミを入れる人間は誰もいない。
「勇者の道は苦難に満ちている……。理想郷に辿り着くためには、時には同志の屍も乗り越えなければならない……」
どこか芝居がかった口調で言ったあと、ゴッドフリートはカッと目を大きく見開いた。
「そんなわけでレイル……お前の犠牲は無駄にはしない! 死んでも役に立ってもらうぜ!」
もはや身動きできないレイルを、再び盾にしようとするゴッドフリート。
「では一斉攻撃をしましょう。盾でも防ぎきれないようにすればいいのです」
無慈悲な宣告をしてきたエルバッハに、ゴッドフリートはずるいと言う暇もなかった。
ミント、レーヴェ、エルバッハ、ハナが同時に攻撃すれば、さすがにレイルシールドだけではどうにもならない。
あともう一歩というところで、ゴッドフリートもまた女湯へ到達できずに散ったのだった。
●
「ロマンはわからんでもないが、リスクに見合わないと思うのじゃよ。若いコ、可愛いコがいるとは限らんしの」
勝利をおさめたあとで、レーヴェはハナの日本酒を拝借して温泉にゆっくり浸かろうとする。
そのハナはレーヴェに日本酒を渡したあと、ふらふらと倒れた男性陣のもとへ様子を見に行った。
「フッフッフ~、ミントちゃんと私が居るのに、女湯に到達させるわけないじゃないですか~」
得意げになっているところへ、ミントが大慌てで声をかける。
「あっ! 今、とどめを刺そうとしてるから、迂闊に近づいたりすると――」
「みぎゃ~~!?」
ミントの注意が終わる前に、ハナは腰に手を当て胸を反らせた勝利宣言ポーズのまま吹き飛ばされる。
「とりあえず、覗きに走った男性陣は、温泉に入ってテンションが振り切れたということにでもして、肉体労働とかの罰で済むようにお願いしましょうか」
「エルバッハさんは優しいんですね」
「いえ。せっかく温泉に来たのに、本格的な事件とか気分的に嫌ですし」
エルバッハとリンが会話をする中、頭上の空をまるで流れ星のようにハナが駆け抜けていくのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/06 21:04:20 |
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相談卓 ゴッドフリート・ヴィルヘルム(ka2617) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/01/07 08:48:25 |