【初夢】ムダヅモばかりの新年

マスター:のどか

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2016/01/08 22:00
完成日
2016/01/17 04:12

みんなの思い出

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オープニング

 それは遥か遥かずっと遠い、どこか別の世界で起こったかもしれない夢の話。
 例年よりも少ない寒空の下、今年も新年がやって来た。
 新しい年のお迎えに、人々は初詣に向かい、もちを搗き、そして暖かい家の中で一家団欒を楽しんでいた。
 そんな街の様子とはうって変わって、大通りから一本入った路地にある古びたビルの2階。
 鉄で出来た階段をカツリカツリと上った先にあるアルミの扉を開いたそのお店。
 雀荘「夢幻城」にも、新たな年は訪れていた。
 エアコンが弱いのか、ガーとうるさい音を立てながらも部屋の四隅には円柱状の灯油ストーブが煌々と赤く燃え上がり、上に置かれたヤカンからは白い湯気が立ち上る。
 うちの1つには足の付いた網が敷かれ、その上に置かれた真っ白な切り餅を、黒衣の男がくるりとひっくり返していた。
「ジャンヌ様、お餅が焼けましたよ」
 客の居ない店内に、男が声を掛ける。
 皆家族や仲間と過ごすのか、新年早々雀荘に来るものもそうおらず、今日はずっとこんな感じ。
 その一声で久しぶりに空気が動いたかのように震えた店内からは、返事の変わりに静かな寝息がこだました。
「ジャンヌ様、お餅、焦げますよ」
「――んー?」
 続けざまの言葉に、カウンターの奥から響いた気の抜けた声。
 シンクにつっぷして寝息を立てていたこの雀荘の店主――ジャンヌは、その長い髪をさらりと重力に任せてゆっくりと重い上半身を擡げていた。
「あれ……ここはどこ。私のお城……どうなったのかしら」
「新年早々、何を寝ぼけていらっしゃいますか」
 目を擦りながらわけも分からぬ夢の話を口にするジャンヌに黒衣の男――ウェイターのカッツォはため息混じりに答えてみせる。
「ほら、お餅焼けましたよ」
 白い皿の上に乗ったこんがり丸く膨らんだ切り餅を見て、僅かに顔を綻ばせるジャンヌ。
「磯辺にして」
「自分でやってください」
「いやよ、面倒だもの……」
 ひとしきり慣れた会話を交わして、最終的には再度のため息混じりに小皿の醤油へ餅を浸し始めるカッツォ。
 そうして程よく色のついたものを同じく網の上でパリッと焼いた海苔で包んで、彼女の前へと差し出すのであった。
「うん……いい感じね」
 出来上がったそれをジャンヌはひょいと摘み上げると、濡れた唇を光らせてあーんと啄ばむように口へと運ぶ。
 噛み口からにゅーっと伸びた白い餅肌を引っ張りながらちぎると、ゆっくりと、味わうように咀嚼する。
 そうしてゴクリと飲み込むと、傍らのコップに注がれたお湯割りの焼酎でコクリと後味を流し込むのである。
「……ヒマね」
「それ、今日何度目ですか」
 窓の外を眺めながらポツリと呟いたジャンヌへと、ぴしゃりと言い放ったカッツォ。
「お正月ですから、こんなものですよ。去年だって、その前だって、そうだったじゃないですか」
「そうだったかしら……覚えて無いわ」
 良いながら焼酎をもうひと啜り。
 外の賑わいとは切り離されたかのような店の中の様子は、正月と言いながらもどこか物悲しくもあった。
 そんな時、カラリと入り口のベルが鳴った。
「おや、これはこれは皆さん、正月早々いらっしゃいませ」
 出迎えるカッツォの前にぞろりと現れたのは、この店常連の6人。
 生粋の麻雀馬鹿にして、強い雀力を秘めた雀士達だ。
「あら、揃いも揃って……皆ヒマなのね」
 ジャンヌの物言いも慣れたもの、6人は苦笑しながらも着ていたコートの雪を払い、ストーブで一時の暖を取る。
「卓を立てるにも2名ほど足りないですね。では、我々が入りましょう」
 自動卓の電源を入れて回るカッツォがそう口にすると、ジャンヌは明らかに嫌そうな視線を向けながらもしぶしぶ頷く。
 彼女達にとってこれは商売なのだ。
 夢の世界のお姫様とは、生まれも育ちも違うのだから、働かなければ食べてはいけない。
「お正月ですし、そうですね……ここは1つ、お年玉でも付けましょうか」
 仮面の奥でケタケタと笑うカッツォがそう言い出したのは、とりあえず卓を囲み終わった頃。
「各卓1着の人が、他の人に何でも1つささやかな命令をできるというのはどうでしょう。勿論、倫理に反しない程度の事ですが」
「なにそれ……面倒そうね」
 ため息をつくジャンヌに、カッツォは宥めるように餅を差し出す。
 ジャンヌはそれを口に運ぶと、それ以上何も言わなくなった。
「ちょっとしたエンターテイメントですよ。新年の運試し、腕試しと言う事で。それじゃあ、早速始めましょうか」
 良いながら、ダイスポットへと手を伸ばすカッツォ。
 この時の彼等は知りはしなかった。
 この「ささやかな命令」のために、壮絶な戦いが繰り広げられる事になろうとは――

リプレイ本文

●闘牌
「――久しぶりだからな。腕が鳴るというものだ」
 仮面の奥で独りごち、小さく鼻を鳴らしたカッツォ。
 手元に並んだ牌が鍵盤を奏でるが如く撫でつけられ、はらりと開いて行く。
「お見事。ノっていますね」
 ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)はため息のようにも見える吐息を一つ吐くと、自身の手を川ごと崩し、自動卓の牌渦の中へとそれを落として行く。
 開始2局。
 面子がゆっくりと手を作る気配を感じ取ったカッツォは、速めの打ち回しで小銭を稼いでいた。
「ククク。客から掠め取る気満々じゃあないか」
「こちらもお年玉が掛かっておりますのでね。一本場、入ります」
 乾いた笑みを浮かべて見せる久延毘 大二郎(ka1771)にカッツォは屈託のない返事を返して見せる。
 流れはカッツォに向かいつつあるが、だからと言って打ち方を変えるほど2人も躍起になってはいない。
 逆に追いすがれるとすれば、普段から『そういう打ち方』に慣れている者だろう。
「まぁまぁ、一人勝ちと言うもの面白くないものです。楽しんでいきましょう」
 とんと手元に添え置いた牌と共に、自摸を宣言するマシロビ(ka5721)。
 ダマの自摸ドラ――2000点。
 流れを切る目的なら十分な一矢だ。
 3局目、親は大二郎。
 手作りに励む者たちもそろそろ焼鳥は脱したいが、それでもカッツォの動きがなお早い。
「リーチです」
 その言葉に、これ以上の邁進は防ぎたい一心から場は「流す」選択へ切り替える。
「抜きん出れば警戒される……セオリーの筋書きと言えばその通りだな」
 ツモるラス牌、カッツォはその中身を確認もせずに、スナップを利かせた手首でもって自らの手元に打ち付ける。
「だからこそこの展開にも行き着く――海底摸月。今宵の月はなんと美しいものでしょう」
 門断自摸、海底を加えての4翻――この日初の満貫手が卓を震撼してゆくのであった。

「はぁ……私の代わりに打ってくれないかしら」
 ジャンヌは億劫そうに隣の卓でのカッツォの快進撃を眺めると、まだるっこしい瞳で磯部のお餅をあーんと頬張る。
「よそ見をしていて大丈夫かな。勝負は一瞬だよ?」
 手から河へと牌を強打しながら、弓月 幸子(ka1749)は嗜めるようにそう注意を促していた。
「えっと……この役を目指すならこれは要らないからーっと」
 そんな様子を気にも留めず、手に持った「役一覧表」に意識を集中して、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)は自分の手と見比べ見比べ、牌を河へと流していた。
「あの、大丈夫かな? 麻雀のルール、ちゃんと理解してる?」
 その見るからに初心者然としたルンルンの態度に幸子も対戦相手として流石に冷や汗ものである。
「大丈夫です、麻雀なら1対1の真剣勝負を何度も潜り抜けてますから!」
「へ、1対1?」
「脱ぐのは恥ずかしいけど……昔、ロボット揃えて300点だったんだからっ!」
 彼女の言うそれが100円を入れて戦う筐体型(しかも脱衣)であり、しかも別のゲームと混濁しているとは思いもせず、幸子の不安は募るばかり。
 そんなルンルンであるが、しっかり手作りをする場の空気に助けられてここまで振り込むことも無く……というか、場は全くと言っていいほど動いては居なかった。
 高めを狙っている張り詰めた空気は肌で感じているのか、誰かがツモ切る素振りを見せれば慎重に捨て牌を選ぶ流れが続く。
 場が動き始めるのは直後の4局目――東ラス。
 和泉 澪(ka4070)の何気ないリーチからの事である。
「ロンっ。東ドラドラ――お先に焼鳥から抜けさせて頂きますね」
 ポニーテールを揺らして指折り翻を数えた澪は、にっこり微笑んでジャンヌへと点をせがむ。
「ああ……私の点棒」
 持っていかれた3900点を名残惜し気に見送って、ジャンヌはがっくりと卓に倒れ込んだ。
「ようやく、風が吹き始めて来ましたね」
 背もたれに身体を預けて深く息を吐いた澪であったが、ここから大きく場が荒れ始める事は、彼女に限らず、おそらく誰も予想だにしていなかった事だろう。

●盗牌
「ロン、です」
 東ラス――好調のカッツォから放たれたその言葉に卓からは哀愁の念が漂っていた。
 立直一通、例の如く決して点は高くはないがそれでも確実に点差を広げる。
「いやいやお強い。まったく、敵う気配がありません――っと、おや?」
 振り込んだマシロビが点棒を取り出そうとケースに手を掛けたその瞬間、あからさまな疑問符を頭上に浮かべて見せた。
「おやおや。この四萬、つい4巡ほど前にも捨てておりますよ?」
「何!?」
 その言葉に、思わず飛びつくようにマシロビの河へと視線で食らいつくカッツォ。
 確かに4巡前の彼女の河には、同様の牌が流れていた。
「馬鹿な……あの時は確か、四索――」
「チョンボはチョンボ。4000・2000払って頂きましょう」
 にこやかに宣言するマシロビの前で、カッツォは腑に落ちない様子で卓に罰符をばらまく。
(いや、あれは確かにあの時四索だったハズ……この女、一体何を)
 理の外をゆくその事象――マシロビの力『流転偽書理』は、ほんのわずかな間だけ牌の中身を書き換える偽りの秘術。
 次の者か牌をツモるまでの僅か数秒。
 それさえ持てば、彼女の理を破る手段はそうは無い。
「だが、みすみす良手を逃すほど卑屈な男ではない」
 南入一局、鳴りを潜めていた大二郎がここで動く。
 高めで跳ねの見えるリャンメン待ち。
 一度平らにならされた場に置いては、一気に群を抜く良手であった。
「本来なら逃げたい所ですが……こちらも最良手。ここは踏み込ませて頂きましょう」
 口にして、安牌切りと共に追いかけのリーチを掛けるユーリ。
 やや分の悪い状況に、大二郎の表情も思わず曇る。
「いや、ここでツモが入れば――」
 ――が、ダメ。
 そもそも、自分が「そういう男」で無い事は彼自身も重々承知である。
 大二郎が空振ったのを後目に、ユーリはその指先で静かに山のツモ牌へと触れていた。
「魅せましょう。蒼雷一刀――雷を切り裂く、その一手を」
 一発――ツモり引き寄せる牌に、紫電が走る。
 一発自摸が乗って文句なしの跳ねの手。
「居合い抜くその速度は私の方に分があるようですね」
「なに……先に花を持たせたにすぎんよ」
 雷切――光よりも速き引きを前に、大二郎の喉元にじっとりとした汗が滲んでいた。
 
「ロンですっ! 風に混一、ドラも乗って中々の役ですよ」
 高らかに宣言した澪のコールに卓の緊張が解きほぐされる。
 風神――風を司るその名の如く、彼女の元へはありとあらゆる風が吹く。
「あら……あなた、ずいぶん前にそれ切っちゃってない?」
 不意に、気だるげに声を上げたジャンヌの言葉に澪ははっとして自分の河を見張る。
 最序盤3巡目、確かに手から吹き漏れた南の風が1枚、河へと零れ落ちていた。
「まさか! 私が風を零すなんて――」
 言いよどんで掘り返す記憶の中、何度思い返しても牌を切った覚えはない。
 否――そもそも、この局序盤の記憶自体が無い?
「嫌な感じなんだよ……」
 気づいた時には場に蔓延っていたその瘴気に幸子は苦い顔を浮かべる。
 瘴気の主・ジャンヌは、変わらずアンニュイな表情を走らせていた。
「それでも……勝利とは誰の手にも依らずに自分の手でつかみ取るものだよ!」
 チョンボではあれ言え澪に向かいつつあった流れを断ち切った好機を攻める幸子。
 いくら無意識に牌を切ってしまっていても、自摸であれば関係は無い。
「ツモ――七対ドラドラッ!」
 万全の自信をもってオープンした自らの手。
 瞬間、ジャンヌのそれとは違う明確な殺気が背筋を走る。
「あれれ……役揃ってないみたいですよ?」
 ガイドブック片手にえへへと爛漫な笑みを浮かべたルンルンに、幸子は悪寒の正体を知る。
 開け放った自分の手。
 七対子だったそれは今や、どういうわけか六対子一搭子。
「……ふふ。どうやら、面白くなってきたみたいだよ」
 頬を伝う汗の滴にルンルンの笑顔がねっとりと映り込む。
 怠惰に潜んで盛られた劇薬――魔女娘忍法花忍迷彩間抜時空は、鈍い光の刃を参加者の喉元へと突きつけていた。
 そんなルンルンの親で、卓は加速の徒を見せる。
「立直一発自摸クリティカルヒット……首を刎ねた!」
 ギラリと光った眼光で、空を切り裂く手裏剣の如く卓に突き刺さるツモ牌。
 三色にドラが乗ってのオヤッパネが卓の点棒を狙い撃っていた。

●討牌
 ユーリの一発から南入一局。
 より慎重になった場は早々に流れ、場は二局目へ。
「ポン」
 カッツォは自らの親のこの場で初めての鳴きを宣言。
 鳴きによってズレたツモ順は、巡り巡って最後の牌へと。
「この局も良い舞台でしたよ」
 それを掴んだカッツォが高らかにツモを宣言。
 南三色海底ドラ――チョンボ分を取り返す満貫が卓を折檻。
「これ以上、好きにはさせません……!」
 水面に浮かぶ月を断つには、光そのものを切り裂く他無い。
 卓に舞うリー棒と共に、ユーリは必殺の一刀へと手を伸ばす。
「現物が無いので……これでしょうか?」
 心底困った様子で差し出したマシロビの捨て牌。
「ロンッ! 立直一発三暗刻ドラドラドラ、です!」
 仕留めた――そう思った瞬間、彼女は自らの抜き放った刃が手の中で砕け散るのを確かに感じていた。
「おや、おかしいですね。コレではアがれないのでは?」
 笑みを浮かべるマシロビの河。
 断ち切ったハズの牌はそこには無く、先に目にしたのとは全く異なる牌がそこにあり――
「入れ替えてなんかいませんよ?」
 ――変わらぬ彼女の笑顔もまたそこにあった。
「そう怖い顔をなさらずに、楽しく行きましょう」
 あっけらかんとしてカッツォが語る南三局。
 この局は、カッツォが海底を握る位置。
「分かっているでしょうが――リーチです」
 開始数巡、余裕の態度で放ったリー棒が卓を転がる。
 下家、やや凹み気味の大二郎は苦しい趣きで山の牌に手を付ける。
 が、その手にした牌を見て不意に、タガが外れたような笑い声を挙げていた。
「見えるぞ! 私がこの手に何を掴むのかが……!」
 放ったリー棒に卓はどよめいた。
 二家のリーチに残る2人は流石にオリる他無く、実質のカッツォとの一騎刺し。
「雷切の一閃には後れを取るだろう……海底を掴むというのも奇々怪々だ。だがしかしだな――」
 次巡、ツモった「発」を槓で弾き飛ばす大二郎。
 掘り起こされたドラ牌――「中」。
「発見の質なら、なお私に分があるのだよ」
 握りしめた嶺上牌を手元に寄せて、ゆっくりと手配をはらう。
「御照覧あれ――ドラを乗せて3倍萬。これこそが私自身の手で成し得た『歴史的な発見』だッ!」
 時に役萬よりも価値があると言われるその一手を誇らしげに掲げ、大二郎の『発掘』はついに形を成したのであった。

「――ロン! 七対ドラドラッ!」
 ルンルンの一発で一気に場面の動いた南場。
 他者を突き放して独走状態の彼女を、幸子は必死に追いかけていた。
「これも一種の七対子だよね……ツモ、二盃口!!」
 ここまで2局を立て続けにものにしてその点差を縮めるも、今一歩が及ばない。
(エクシード・フィールドの効果がやっとボクの手に噛み合って来たみたいだね)
 開く次局の配牌。
 卓に対子場を発生させる彼女の力によって既に揃った六対子に、幸子は表情にこそ出さないものの胸の奥で不敵に笑みを浮かべた。
「あらぁ……もう捨てちゃってたわ、これ」
 ため息と共にツモった牌をそのまま河に流すジャンヌ。
 自らの力に支配され、無意識に捨ててしまった有効牌が幸子の力でさらに被る。
 一度嵌ると抜けきれぬ連鎖に、ジャンヌの手は目に見えて停滞していた。
「――ポンッ!」
 そんな零れ弾を拾ったのが澪である。
 ジャンヌの放った南を拾い、手元に抱え込む。
「この局面で早アガり……?」
 南のみ程度で返せる点差で無い事は確かであり、幸子の考える事も最も。
 しかしそれと同時に生ぬるい、彼女的に言えば「嫌な感じ」の風がその喉元を撫でくすぐったのを幸子は感じ取っていた。
「んふふ、これでダメ押しのリーチです! 高めですよ~♪」
 一歩先に仕掛けたルンルンが満面のスマイルでリー棒を放つ。
「ポンッ!」
 が、引かずに攻める澪。
 報られた客風牌:西を引き寄せ、白を放る。
「あー、私の一発を!」
 プリプリ怒って見せるルンルン。
 しかし、その表情の裏で幸子が感じていた悪寒の正体を彼女もまた感じ取っていた。
「あら……また被った」
「「あっ、それはっ――」」
 やはり無意識か、ジャンヌの手から落ちたそれを幸子とルンルンの2人は思わず声を被せてしまう。
「――ロンッ!」
 零れた東を貫いて、澪の声が木霊した。
「対子場はどうやら、私の風をお通ししてくれたようです」
 東南西北――4つの風を支配する役:大四喜。
 今、卓に吹いた役萬という強い風が、ジャンヌのハコを根こそぎ掻っ攫ってなお強く吹き抜けていた。

●倒牌
「――できましたっ! みなさん、良いお顔ですよ~♪」
 真剣な顔で手にした筆を走らせていた澪は一転、ふうと大きく息を吐くと、完成した『作品』を見て満足げに微笑んだ。
 笑顔で眺めるその先には、羽子板さながらに墨で顔中に落書きをされた6人の敗者達の姿である。
「一生の不覚です……」
「そうですかぁ? 可愛いと思いません?」
 鞄から取り出した手鏡を見つめながら羞恥に暮れて歯がゆそうにするユーリの横からルンルンが鏡の中に割って入り、自分の顔面アートをキャッキャと眺める。
「帰るまで落としちゃ駄目ですよ?」
 追い打つように言い放った澪の言葉に、ユーリの顔はさっと青ざめていた。
「久延毘さんにはあのまま逃げ切られてしまいましたね……それで、願い事はどうなさるのです?」
「私はだな――」
 仮面を真っ黒に染めたカッツォに問われた大二郎は眼鏡を怪しく光らせる。
「皆に新たな知の世界――考古学への扉を開け放って貰おうじゃないか! なに、一から十まで丁寧に解説するので心配しないでくれたまえ」
 どこからともなく取り出したホワイトボードと共に、大二郎は両手を広げて意気揚々と言い放つ。
「せっかくのお正月から勉強とか無いよ~!」
 素っ頓狂な声を上げた幸子の姿を大二郎の眼光が射抜き、彼女はすごすごと椅子に腰かける。
「……だそうで、みんな頑張ってねぇ」
 ひらりと手を振ってカウンターの奥へと引っ込もうとしたジャンヌであったが、その肩をガシリと掴まれたのは言うまでもない。
「諦めましょう。それに面白そうですよ」
 困ったような笑みでジャンヌをなだめるマシロビであったが、当の本人はやはりどこか煮え切らない様子で椅子に腰を下ろして上半身を卓に投げ出していた。

 なお、この講義は語るにつれテンションが上がっていく大二郎により、日付が変わって店が閉まるその時まで、延々続いたという。

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参加者一覧

  • 龍奏の蒼姫
    ユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239
    エルフ|15才|女性|闘狩人
  • デュエリスト
    弓月 幸子(ka1749
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 飽くなき探求者
    久延毘 大二郎(ka1771
    人間(蒼)|22才|男性|魔術師
  • Centuria
    和泉 澪(ka4070
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • 即疾隊一番隊士
    マシロビ(ka5721
    鬼|15才|女性|符術師
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/01/03 19:47:25
アイコン 相談卓
和泉 澪(ka4070
人間(リアルブルー)|19才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/01/05 20:51:34