ゲスト
(ka0000)
草とハーブとゴロゴロシューズ
マスター:練子やきも

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/01/11 19:00
- 完成日
- 2016/01/19 22:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
とある街にほど近い、家族がピクニックにでも訪れるような草原で、黄色いポニーテールをピョンピョンと揺らしながら、何やら謎の草を摘み集める少女が居た。
鼻歌などを歌いつつ、バスケット一杯に集めた謎の草の爽やかな甘い香りを嗅いで、気分良さそうに青空を仰ぐ少女の名前はエルミィ。
酒造り以外はやらせてはいけない、と評判の、怪しげな薬品造りを趣味とする新米ハンターだった。
いつもながらの、錬金術と称した造酒の途中、気晴らしに出かけた草原で『錬金術』の香り付けに使うハーブを摘んでいたエルミィは、前方からカサカサと転がって来る草の塊を発見した。
「……? ……えいっ!」
妙にまっすぐこちらへ転がって来る草の塊をキョトンと眺めていたエルミィだったが、その草が足元に来た所で無造作にポンと蹴りとばす。
「なんだろ? これ?」
何かわからない、怪しい、動く物体。
よく動く足と全く働かない危機管理脳を持ち合わせた……転がって来る塊のドリブルがだんだん楽しくなって来ていた彼女が、何度目かの蹴りを草の塊に伸ばした時……。
「ふぎゃ〜〜!」
草原に少女の悲鳴としては若干品のない叫び声が響いた。
「お姉さんお姉さんお姉さんお姉さん大変なたいへんです!」
「冷やかしなら帰って下さい」
「靴泥棒の草があらわれたんですよ!」
駆け込んだハンターオフィスで、カウンターに爽やかな香りのするバスケットを置いたエルミィが、ペシンペシンとカウンターを叩きながら言い募る。その様子に、今夜はシードルワインにしよう、などと考えつつ、少しだけ聞く耳を持って片眉を上げる受付嬢。
「靴泥棒……?」
「はい! 転がって来た草を蹴ってたら靴がたべられました!」
「それはあんまり泥棒とは言いませんけど、詳しく聞かせて貰え……とりあえず先に場所と時間……場所から教えて下さい」
エルミィの雑な説明から、靴泥棒より厄介な物の可能性に思い至った受付嬢は、周囲に聞こえる声でエルミィの拙い説明をまとめる作業を開始した。
「つまり、転がって来た草の塊のような物を何となく蹴っていたら、その草の塊が開いて靴を噛まれた、それで慌てて逃げて来た、という事ですね?」
溜息混じりにオフィスの皆へと説明しながら手早く書類を作成し始める受付嬢。
(……ひょっとしなくてもそれって雑魔じゃね?)
という思いが聴衆の頭にも浮かぶ。
「はい! 覚醒して全速力で走ってきました! あと、片方だけだとバランスが悪いのでもう片方の靴も投げ付けて来ました!」
要らない説明も付いて来たが、確かに今のエルミィは両足共に靴を履いていなかった。
「貴女は家に帰ってお酒でも作ってて下さい。希望としてはシードルワインが良いです」
エルミィがどこの酒場に酒を納品しているかチェック済みの受付嬢が、澄ました表情でトレイに載せて高く掲げている依頼書を取ろうと、そのポニーテールと共にピョンピョン跳ねているエルミィの横から依頼書を受け取ったハンター達は、それぞれの準備を開始した。
鼻歌などを歌いつつ、バスケット一杯に集めた謎の草の爽やかな甘い香りを嗅いで、気分良さそうに青空を仰ぐ少女の名前はエルミィ。
酒造り以外はやらせてはいけない、と評判の、怪しげな薬品造りを趣味とする新米ハンターだった。
いつもながらの、錬金術と称した造酒の途中、気晴らしに出かけた草原で『錬金術』の香り付けに使うハーブを摘んでいたエルミィは、前方からカサカサと転がって来る草の塊を発見した。
「……? ……えいっ!」
妙にまっすぐこちらへ転がって来る草の塊をキョトンと眺めていたエルミィだったが、その草が足元に来た所で無造作にポンと蹴りとばす。
「なんだろ? これ?」
何かわからない、怪しい、動く物体。
よく動く足と全く働かない危機管理脳を持ち合わせた……転がって来る塊のドリブルがだんだん楽しくなって来ていた彼女が、何度目かの蹴りを草の塊に伸ばした時……。
「ふぎゃ〜〜!」
草原に少女の悲鳴としては若干品のない叫び声が響いた。
「お姉さんお姉さんお姉さんお姉さん大変なたいへんです!」
「冷やかしなら帰って下さい」
「靴泥棒の草があらわれたんですよ!」
駆け込んだハンターオフィスで、カウンターに爽やかな香りのするバスケットを置いたエルミィが、ペシンペシンとカウンターを叩きながら言い募る。その様子に、今夜はシードルワインにしよう、などと考えつつ、少しだけ聞く耳を持って片眉を上げる受付嬢。
「靴泥棒……?」
「はい! 転がって来た草を蹴ってたら靴がたべられました!」
「それはあんまり泥棒とは言いませんけど、詳しく聞かせて貰え……とりあえず先に場所と時間……場所から教えて下さい」
エルミィの雑な説明から、靴泥棒より厄介な物の可能性に思い至った受付嬢は、周囲に聞こえる声でエルミィの拙い説明をまとめる作業を開始した。
「つまり、転がって来た草の塊のような物を何となく蹴っていたら、その草の塊が開いて靴を噛まれた、それで慌てて逃げて来た、という事ですね?」
溜息混じりにオフィスの皆へと説明しながら手早く書類を作成し始める受付嬢。
(……ひょっとしなくてもそれって雑魔じゃね?)
という思いが聴衆の頭にも浮かぶ。
「はい! 覚醒して全速力で走ってきました! あと、片方だけだとバランスが悪いのでもう片方の靴も投げ付けて来ました!」
要らない説明も付いて来たが、確かに今のエルミィは両足共に靴を履いていなかった。
「貴女は家に帰ってお酒でも作ってて下さい。希望としてはシードルワインが良いです」
エルミィがどこの酒場に酒を納品しているかチェック済みの受付嬢が、澄ました表情でトレイに載せて高く掲げている依頼書を取ろうと、そのポニーテールと共にピョンピョン跳ねているエルミィの横から依頼書を受け取ったハンター達は、それぞれの準備を開始した。
リプレイ本文
俄に騒がしくなったハンターオフィスの中、依頼のサインを済ませた黒髪の少女……ではなく少年、時音 ざくろ(ka1250)がエルミィに声を掛けた。依頼を受けた他のハンター達の視線が自然とそちらに向かう。
「怪我がなくて良かったよ……で、相手はどんな奴だったの?」
「草のかたまりで、ゴロゴロ~って転がって来るんです! この辺でみつけて、こっちに回り込んで逃げて……ここで靴を投げ付けました! あと、この辺でついて来ないのに気がつきました!」
パントマイムを交えつつ地図をペシペシと指差しながら、役に立つのか立たないのか微妙な情報を提供するエルミィ。どうやら彼女は彼女で、襲われた場所から直接街に走ってきた訳ではなく、ちゃんと敵?(恐らくは雑魔)を撒いてきたようではあった。
「あ、あの! わたしもついていってもいいですか?」
準備を済ませるハンター達に、真面目な表情で尋ねるエルミィ。
「まるで意味わかんねっす」
それを見て不機嫌そうに首を振るイヌイ(ka5913)。覚醒を使い切って役に立たないのについて来たがる、理由がイヌイには理解出来なかった。……理解したいとも思わないが。
「聞いておきたいんですけどぉ、貴女はどうして一緒に行きたいんですぅ?」
「えっと……」
「靴を取られて悔しいならぁ、私たちが依頼のついでに取り返しますよぉ?」
ニッコリと笑いながら問い掛ける星野 ハナ(ka5852)に一瞬言いよどむエルミィに、畳み掛けるように尋ねるハナの両手がガシッ! ガシッ! とエルミィの両肩を掴む。
「……怖いこと、怖いままにしとくの、嫌なんです。みんながいれば、怖くないから……」
正面から正直な心境を尋ねられたエルミィの言葉は、意外に真面目な理由だった。普段から良く行く場所に噛み付く生物? が居るのが怖いのだろう。……雑魔だとは未だ認識できていないあたりがやはり彼女らしいのだが。……チラッとメンバーの方を振り返るハナに、
「最悪、守りきれない可能性がある。街に残っていてくれた方が俺達としては安心できるな」
首を横に振るロニ・カルディス(ka0551)
「そうね、エルミィさんは手負いだから。……主に靴的な部分が」
ティス・フュラー(ka3006)も、説得に参加する。
「そうだな。覚醒を使い切ったエルミィを連れて行っても役に立たないし危険だ。素直に俺達に任せて欲しい」
そして、ストレートに『邪魔』である事を伝える柊 真司(ka0705)。ある意味優しさではあった。
その少し離れた所でシュッシュッと何やらパンチの素振りをしているメイム(ka2290)
「私達にはハンターとしてのプライドというものもありますしぃ、同行したいんだったらぁ、依頼人になる事も考えるべきでしたねぇ~」
告げられた断りの言葉に、なんだか靴を取られる以上に危険らしい? という事を納得したらしいエルミィは、街に残る事を了承したようだ。
「……わかりました……でも、私も何かしたいんです!」
「あ~、じゃあシードル期待してる~」
素振りしていたパンチをピタッと止めてすかさず希望を告げるメイム。
「……しーどる? あ!」
メイムの言葉を繰り返して、一瞬混乱して首をカクンと曲げるエルミィだったが、すぐに何やら理解したようだ。
「でしたら、知らずに襲われる人が出ないように、注意喚起をお願いします」
「ちゅういかんき!」
優しく微笑んだ天央 観智(ka0896)が、エルミィでも役に立ちそうな行動を教えると、嬉しそうな表情を見せるエルミィ。
「あと……そろそろ靴をどうにかしよう」
「くつ! そうでした~!」
……この様子なら、無理について来る事もないだろう。ざくろのツッコミで靴屋に走り出したエルミィが、通りすがりの通行人に草原が危険である事を触れ回って行く声を聞きながら、一行は草原へと出発した。
●ありあまるゴロゴロ
街からすぐそこの草原、普通に歩いて10分程度の距離に、エルミィが『草』を撒いたと言っていた場所はあった。
「焼き畑と思って焼き払う手もあるが……流石に今回は拙そうだな。先ずは散らばって索敵しよう」
草原は街にも近く、周囲には自生している薬草やハーブ類も多い。顎に手を当てて逡巡したが、すぐに方針を提案したロニの言葉に頷いた一行は、散開しての行動を開始した。
「ふむ、見た目は草そのものだが、さて……」
探索していた自分の足元へ向かって、動くのが当然とばかりに転がってきた草塊を、拾った木の棒でツンツンつついているロニ。草塊はカプカプとくち? を開け閉めして棒に噛み付こうとしている。
「なんだかいまいち緊張感が持てないけど、油断は禁物よね……居た!」
鋭敏な視力で周囲を観察していたティスが、緑色の草原のあちこちに生えた草の合間を転がる緑の物体を別の場所でそれぞれ発見する。
「わかった、ざくろもそっちに……って、こっちにも居るよ! みんな気を付けて、1体じゃない!」
ティスの声と、その手に構えた黄金色の杖から放たれた風の刃が草塊を切り裂く音に、応じて動こうとしたざくろの視界にも転がり来る草塊。
(エルミィの靴がはいってませんように……)
ざくろが祈りつつ放った炎のマテリアルの放射が、目の前の草塊を薙ぎ払う。
「あれか……」
ティスとざくろの声に目をこらす真司の目にも映った転がる物体。即座に抜きはなった試作光斬刀のレーザー光を閃かせ、叢ごと切り払った真司の視界に映る、緑色の塵風と、その向こうに更に現れる草塊。……どうやらやはり、草刈りの作業はすんなりとは行かなそうだった。
一方、その大きな耳をピコピコと動かしながら聴覚に神経を集中させていたメイムの耳は、カサカサという音の混じった軽い足音、人の物ではない靴音を捉えていた。
「ふりぃぃず!」
ゆっくりと近付いたメイムの、威嚇の声とともに放たれたスキルが足音の主ーーその足元に茶色い女物の靴を履いた草の塊を捕える。
「……ちゃんと効いてる?」
恐怖の感情があるのかどうかはともかくとして、片足立ちでピタッと止まった直後にコロンと転がった、靴を履いた草は、だるまさんがころんだに失敗した子供のようにも見えた。
ーーその『だるまさんがころんだ』の別の方向ではーー
「ほらほら、こっちですよぉ~」
ハナの飛ばした、ヒラヒラと飛ぶヒトガタに折られた『式神』の後ろを、パクンパクンと、くち? を開け閉めしながら追いかける数体? 数匹? の草塊達。なにやらユーモラスにも見えるその追いかけっこを、仲間の位置関係を確認して放たれた観智のファイアーボールが終わらせる。その爆発が雑魔と共に緑の草を散らし、
「逃がさねーっすよ!」
草に紛れて飛び散った草塊の中でカタチを保っている物を見付けて素早く走り込んだイヌイの振り抜いた一文字の刃の閃きが草塊を貫き、緑色の塵へと還す。
手応えはただの草の塊、動きもただ転がり、ゆっくりとした動きで噛み付くだけ。その異様は確かに雑魔な筈ではあるものの、ただの雑魚としか見えないソレらは、斬られ、散らされる度に緑色の塵となり消える。
油断なく、ひとつひとつの草塊を倒していくハンター達が周囲のソレを殲滅し終えた時、それは起こった。
●あふれかえるゴロゴロ
それは、刈られた芝生が風に流されるように始まった。 集まっていく緑色の塵が、徐々に緑色の塊を形作っていき……ハンター達も自然、その場所に集合していく。
「あれ? 草たちの様子が……って、合体した!? 大きくなった!」
ざくろの言葉に反応するかのように、その緑色の塊は大きな草の塊、というか大量の草の茎と、ついでに茶色い女物の靴が刺さった巨大マリモのような姿となった。……残念ながら、靴は既に救出(?)できる状態ではなく、雑魔に取り込まれているようだ。
「雑草はまとめて焼き尽くすに限るぜ、ってな」
くち? を大きく開いてハンター達を威嚇する巨大な草塊を、即座に反応した真司の放った炎型のマテリアルが薙ぎ払い、ハンター達と草塊達との第2ラウンドが幕を開けた。
「……前方に高さ2の『即座障壁』となる物質を構築」
真司の攻撃へのお返しとばかりに周囲へと飛ばされた大量の『茎』を観智が早口に唱えた『即座障壁』により生成された壁が防ぎ止め、役目を果たした障壁が砂のようにサラサラと崩れ去る。
そして崩れ去る壁の背後から
「成すことはなす気持ち、成せる心あれば……成せる!」
「草原に草の塊の雑魔など、放置できる物ではないしな」
「そろそろ、ぶっ潰れちゃってくれると嬉しいんですけどぉ、いいですかぁ?」
父の、『イヌイ』の、残した言葉をつぶやいて、スッと呼気を整え大草塊の懐に飛び込み、そのまま斬り抜けたイヌイの剣閃、その背を追うように拡がったロニのセイクリッドフラッシュの白い光が大草塊を飲み込み、更にその背後から頭上高く投げ上げられたハナの風雷符が、稲妻の軌跡を残し大草塊を貫いた。
ハンター達の攻撃にその身を激しく削られながら、尚も身をよじらせ反撃しようとする大草塊の動きに合わせ
「ふりぃぃず!」
攻撃したばかりのハンター達の隙を狙った大草塊に、すかさず放ったティスの威嚇に反応した大草塊が、靴を下にして『だるまさんがころんだ』のように停止する。
「これが私の、奥の手です!」
ティスの放った淡い銀色に光る六発の『聖銀の水弾』が、螺旋を描きながら一塊となり、動きの止まった大草塊の『足?』を貫き、その動きを更に制する。
そこを狙って飛び上がったざくろの靴から放たれたマテリアルの噴射が煌めく光の帯を放ち……。
「エルミィの靴の仇だよ、超・重・斬!」
瞬間、巨大な壁の如く。振り下ろされた古き巨人の剣が、緑色の巨大な塊を両断した。
●シードルの香りと
「靴、残念でしたね」
「雑魔に取り込まれたとあっては仕方あるまい」
戦闘が終わり、仲間の傷を癒すロニの詠唱するヒーリングスフィアの光が輝く。
雑魔が現れた理由を探った観智だったが、何処かから転がって来た、以上の情報が手に入らない以上手の打ちようがなく、断念せざるを得なかった。そして
「さあ、シードルが待ってるよ~」
上機嫌で歩くメイムを先頭にして帰還したハンター達を迎えたのは、街に残って食事の準備を整えて待っていたエルミィだった。
明らかに作り過ぎている料理と、シードルや謎の酒、ジュースを振る舞われた手作りの宴の夜は更け、一人また一人、ハンター達はそれぞれの帰路に付く。
「おいらはハンターっす。お前は、ちゃんと自分がハンターだって言えるっすか?」
宴の後片付けをするエルミィの頭を、イヌイの言葉がよぎる。
……頭から煙を噴きはじめたエルミィが『ハンター』になるのは、どうやらまだまだ先のようだ。
「怪我がなくて良かったよ……で、相手はどんな奴だったの?」
「草のかたまりで、ゴロゴロ~って転がって来るんです! この辺でみつけて、こっちに回り込んで逃げて……ここで靴を投げ付けました! あと、この辺でついて来ないのに気がつきました!」
パントマイムを交えつつ地図をペシペシと指差しながら、役に立つのか立たないのか微妙な情報を提供するエルミィ。どうやら彼女は彼女で、襲われた場所から直接街に走ってきた訳ではなく、ちゃんと敵?(恐らくは雑魔)を撒いてきたようではあった。
「あ、あの! わたしもついていってもいいですか?」
準備を済ませるハンター達に、真面目な表情で尋ねるエルミィ。
「まるで意味わかんねっす」
それを見て不機嫌そうに首を振るイヌイ(ka5913)。覚醒を使い切って役に立たないのについて来たがる、理由がイヌイには理解出来なかった。……理解したいとも思わないが。
「聞いておきたいんですけどぉ、貴女はどうして一緒に行きたいんですぅ?」
「えっと……」
「靴を取られて悔しいならぁ、私たちが依頼のついでに取り返しますよぉ?」
ニッコリと笑いながら問い掛ける星野 ハナ(ka5852)に一瞬言いよどむエルミィに、畳み掛けるように尋ねるハナの両手がガシッ! ガシッ! とエルミィの両肩を掴む。
「……怖いこと、怖いままにしとくの、嫌なんです。みんながいれば、怖くないから……」
正面から正直な心境を尋ねられたエルミィの言葉は、意外に真面目な理由だった。普段から良く行く場所に噛み付く生物? が居るのが怖いのだろう。……雑魔だとは未だ認識できていないあたりがやはり彼女らしいのだが。……チラッとメンバーの方を振り返るハナに、
「最悪、守りきれない可能性がある。街に残っていてくれた方が俺達としては安心できるな」
首を横に振るロニ・カルディス(ka0551)
「そうね、エルミィさんは手負いだから。……主に靴的な部分が」
ティス・フュラー(ka3006)も、説得に参加する。
「そうだな。覚醒を使い切ったエルミィを連れて行っても役に立たないし危険だ。素直に俺達に任せて欲しい」
そして、ストレートに『邪魔』である事を伝える柊 真司(ka0705)。ある意味優しさではあった。
その少し離れた所でシュッシュッと何やらパンチの素振りをしているメイム(ka2290)
「私達にはハンターとしてのプライドというものもありますしぃ、同行したいんだったらぁ、依頼人になる事も考えるべきでしたねぇ~」
告げられた断りの言葉に、なんだか靴を取られる以上に危険らしい? という事を納得したらしいエルミィは、街に残る事を了承したようだ。
「……わかりました……でも、私も何かしたいんです!」
「あ~、じゃあシードル期待してる~」
素振りしていたパンチをピタッと止めてすかさず希望を告げるメイム。
「……しーどる? あ!」
メイムの言葉を繰り返して、一瞬混乱して首をカクンと曲げるエルミィだったが、すぐに何やら理解したようだ。
「でしたら、知らずに襲われる人が出ないように、注意喚起をお願いします」
「ちゅういかんき!」
優しく微笑んだ天央 観智(ka0896)が、エルミィでも役に立ちそうな行動を教えると、嬉しそうな表情を見せるエルミィ。
「あと……そろそろ靴をどうにかしよう」
「くつ! そうでした~!」
……この様子なら、無理について来る事もないだろう。ざくろのツッコミで靴屋に走り出したエルミィが、通りすがりの通行人に草原が危険である事を触れ回って行く声を聞きながら、一行は草原へと出発した。
●ありあまるゴロゴロ
街からすぐそこの草原、普通に歩いて10分程度の距離に、エルミィが『草』を撒いたと言っていた場所はあった。
「焼き畑と思って焼き払う手もあるが……流石に今回は拙そうだな。先ずは散らばって索敵しよう」
草原は街にも近く、周囲には自生している薬草やハーブ類も多い。顎に手を当てて逡巡したが、すぐに方針を提案したロニの言葉に頷いた一行は、散開しての行動を開始した。
「ふむ、見た目は草そのものだが、さて……」
探索していた自分の足元へ向かって、動くのが当然とばかりに転がってきた草塊を、拾った木の棒でツンツンつついているロニ。草塊はカプカプとくち? を開け閉めして棒に噛み付こうとしている。
「なんだかいまいち緊張感が持てないけど、油断は禁物よね……居た!」
鋭敏な視力で周囲を観察していたティスが、緑色の草原のあちこちに生えた草の合間を転がる緑の物体を別の場所でそれぞれ発見する。
「わかった、ざくろもそっちに……って、こっちにも居るよ! みんな気を付けて、1体じゃない!」
ティスの声と、その手に構えた黄金色の杖から放たれた風の刃が草塊を切り裂く音に、応じて動こうとしたざくろの視界にも転がり来る草塊。
(エルミィの靴がはいってませんように……)
ざくろが祈りつつ放った炎のマテリアルの放射が、目の前の草塊を薙ぎ払う。
「あれか……」
ティスとざくろの声に目をこらす真司の目にも映った転がる物体。即座に抜きはなった試作光斬刀のレーザー光を閃かせ、叢ごと切り払った真司の視界に映る、緑色の塵風と、その向こうに更に現れる草塊。……どうやらやはり、草刈りの作業はすんなりとは行かなそうだった。
一方、その大きな耳をピコピコと動かしながら聴覚に神経を集中させていたメイムの耳は、カサカサという音の混じった軽い足音、人の物ではない靴音を捉えていた。
「ふりぃぃず!」
ゆっくりと近付いたメイムの、威嚇の声とともに放たれたスキルが足音の主ーーその足元に茶色い女物の靴を履いた草の塊を捕える。
「……ちゃんと効いてる?」
恐怖の感情があるのかどうかはともかくとして、片足立ちでピタッと止まった直後にコロンと転がった、靴を履いた草は、だるまさんがころんだに失敗した子供のようにも見えた。
ーーその『だるまさんがころんだ』の別の方向ではーー
「ほらほら、こっちですよぉ~」
ハナの飛ばした、ヒラヒラと飛ぶヒトガタに折られた『式神』の後ろを、パクンパクンと、くち? を開け閉めしながら追いかける数体? 数匹? の草塊達。なにやらユーモラスにも見えるその追いかけっこを、仲間の位置関係を確認して放たれた観智のファイアーボールが終わらせる。その爆発が雑魔と共に緑の草を散らし、
「逃がさねーっすよ!」
草に紛れて飛び散った草塊の中でカタチを保っている物を見付けて素早く走り込んだイヌイの振り抜いた一文字の刃の閃きが草塊を貫き、緑色の塵へと還す。
手応えはただの草の塊、動きもただ転がり、ゆっくりとした動きで噛み付くだけ。その異様は確かに雑魔な筈ではあるものの、ただの雑魚としか見えないソレらは、斬られ、散らされる度に緑色の塵となり消える。
油断なく、ひとつひとつの草塊を倒していくハンター達が周囲のソレを殲滅し終えた時、それは起こった。
●あふれかえるゴロゴロ
それは、刈られた芝生が風に流されるように始まった。 集まっていく緑色の塵が、徐々に緑色の塊を形作っていき……ハンター達も自然、その場所に集合していく。
「あれ? 草たちの様子が……って、合体した!? 大きくなった!」
ざくろの言葉に反応するかのように、その緑色の塊は大きな草の塊、というか大量の草の茎と、ついでに茶色い女物の靴が刺さった巨大マリモのような姿となった。……残念ながら、靴は既に救出(?)できる状態ではなく、雑魔に取り込まれているようだ。
「雑草はまとめて焼き尽くすに限るぜ、ってな」
くち? を大きく開いてハンター達を威嚇する巨大な草塊を、即座に反応した真司の放った炎型のマテリアルが薙ぎ払い、ハンター達と草塊達との第2ラウンドが幕を開けた。
「……前方に高さ2の『即座障壁』となる物質を構築」
真司の攻撃へのお返しとばかりに周囲へと飛ばされた大量の『茎』を観智が早口に唱えた『即座障壁』により生成された壁が防ぎ止め、役目を果たした障壁が砂のようにサラサラと崩れ去る。
そして崩れ去る壁の背後から
「成すことはなす気持ち、成せる心あれば……成せる!」
「草原に草の塊の雑魔など、放置できる物ではないしな」
「そろそろ、ぶっ潰れちゃってくれると嬉しいんですけどぉ、いいですかぁ?」
父の、『イヌイ』の、残した言葉をつぶやいて、スッと呼気を整え大草塊の懐に飛び込み、そのまま斬り抜けたイヌイの剣閃、その背を追うように拡がったロニのセイクリッドフラッシュの白い光が大草塊を飲み込み、更にその背後から頭上高く投げ上げられたハナの風雷符が、稲妻の軌跡を残し大草塊を貫いた。
ハンター達の攻撃にその身を激しく削られながら、尚も身をよじらせ反撃しようとする大草塊の動きに合わせ
「ふりぃぃず!」
攻撃したばかりのハンター達の隙を狙った大草塊に、すかさず放ったティスの威嚇に反応した大草塊が、靴を下にして『だるまさんがころんだ』のように停止する。
「これが私の、奥の手です!」
ティスの放った淡い銀色に光る六発の『聖銀の水弾』が、螺旋を描きながら一塊となり、動きの止まった大草塊の『足?』を貫き、その動きを更に制する。
そこを狙って飛び上がったざくろの靴から放たれたマテリアルの噴射が煌めく光の帯を放ち……。
「エルミィの靴の仇だよ、超・重・斬!」
瞬間、巨大な壁の如く。振り下ろされた古き巨人の剣が、緑色の巨大な塊を両断した。
●シードルの香りと
「靴、残念でしたね」
「雑魔に取り込まれたとあっては仕方あるまい」
戦闘が終わり、仲間の傷を癒すロニの詠唱するヒーリングスフィアの光が輝く。
雑魔が現れた理由を探った観智だったが、何処かから転がって来た、以上の情報が手に入らない以上手の打ちようがなく、断念せざるを得なかった。そして
「さあ、シードルが待ってるよ~」
上機嫌で歩くメイムを先頭にして帰還したハンター達を迎えたのは、街に残って食事の準備を整えて待っていたエルミィだった。
明らかに作り過ぎている料理と、シードルや謎の酒、ジュースを振る舞われた手作りの宴の夜は更け、一人また一人、ハンター達はそれぞれの帰路に付く。
「おいらはハンターっす。お前は、ちゃんと自分がハンターだって言えるっすか?」
宴の後片付けをするエルミィの頭を、イヌイの言葉がよぎる。
……頭から煙を噴きはじめたエルミィが『ハンター』になるのは、どうやらまだまだ先のようだ。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ティス・フュラー(ka3006) エルフ|13才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/01/11 17:14:11 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/09 11:55:26 |