ゲスト
(ka0000)
この球を受けてみよ
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/01/14 19:00
- 完成日
- 2016/01/19 16:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
年が明けた。
なにはさておきめでたい。
この世界に存在している脅威について忘れたわけではないけれど、自然心がうきうきとしてくる。
各地各所で行われる新年イベントはどこも盛況。
このイベントもその一つ。
その名は『モチマキ』。
リアルブルー経由の行事をエンターテイメントとして昇華させたもの、だそうだ。主催者側によると。
●
新年早々「タダでモチがもらえるイベントがある」と聞き付け、受付会場に来たハンターたちは、イベント委員会のロゴ入りジャンパーを着た八橋杏子に出迎えられた。
聞けば、ここでお年始バイトをしているらしい。
「それでは皆さん、これを身につけてください」
彼女は参加者全員に、背負いカゴとヘルメットとキャッチャーミットを配った。
「ルールはとても簡単、『飛んできたものを取ってカゴに入れる』これだけです。あ、そうそう。参加される前に、こちらの契約書へサインお願い致します」
と言って彼女が渡してきた書類には、以下の一文が記してあった。
『私は、当該イベントに参加した結果がどうなろうとも、主催者側に一切の責任を求めないことをここに確約いたします』
集まっていた人の半数が直ちに去った。
もちろんハンターたちは、残った半数の中にいる。
文字通り危険と隣り合わせの職業に従事している彼らにとって、たかがイベントごとき恐れるいわれはない。
杏子は参加者全員から集めた契約書をまとめ、バインダーに綴じ込む。
それから、ためらいがちに言った。
「……私が言うのも何ですけど、相当に危ないですよ?」
そんな一言で意志を撤回するような軟弱ものは、いなかった。
●
一行は彼女に案内され、モチ撒き会場にやってきた。
遮蔽物の一切ない、100メートル四方の運動場。中央に布のかかったやぐらがあり、周囲は高いフェンスで囲まれている。
やぐらはモチ撒きの台に使うのだろうが、フェンスの存在意義がよく分からない。一体何故だろうか。
杏子に尋ねてみると、こういう答えだった。
「ああ、あれはモチがよそに飛んでいかないようにとの配慮なの。住宅街が近いし……」
職員たちが現れた。頭にハチマキを巻き、ハッピを着込み、御目出度そうな様子である。
彼らはやぐらに上り、さっと布を取り払った。その下から現れたのは、妙な装置。大きなタンクの下方に、砲身のようなものが生えている。
はてあれは何だろう。
「それでは、モチマキ開始です!」
杏子が右手を挙げると同時に、砲身からモチが発射されてきた。
その速度時速240キロ。リアルブルーのバッティングマシーンに匹敵する破壊力。
フェンスの向こう側には、物見高い見物人が集まってきていた。
「……すごい豪速球だな。俺、今全然見えなかったぞ」
「取るのは無理なんじゃないか……?」
なにはさておきめでたい。
この世界に存在している脅威について忘れたわけではないけれど、自然心がうきうきとしてくる。
各地各所で行われる新年イベントはどこも盛況。
このイベントもその一つ。
その名は『モチマキ』。
リアルブルー経由の行事をエンターテイメントとして昇華させたもの、だそうだ。主催者側によると。
●
新年早々「タダでモチがもらえるイベントがある」と聞き付け、受付会場に来たハンターたちは、イベント委員会のロゴ入りジャンパーを着た八橋杏子に出迎えられた。
聞けば、ここでお年始バイトをしているらしい。
「それでは皆さん、これを身につけてください」
彼女は参加者全員に、背負いカゴとヘルメットとキャッチャーミットを配った。
「ルールはとても簡単、『飛んできたものを取ってカゴに入れる』これだけです。あ、そうそう。参加される前に、こちらの契約書へサインお願い致します」
と言って彼女が渡してきた書類には、以下の一文が記してあった。
『私は、当該イベントに参加した結果がどうなろうとも、主催者側に一切の責任を求めないことをここに確約いたします』
集まっていた人の半数が直ちに去った。
もちろんハンターたちは、残った半数の中にいる。
文字通り危険と隣り合わせの職業に従事している彼らにとって、たかがイベントごとき恐れるいわれはない。
杏子は参加者全員から集めた契約書をまとめ、バインダーに綴じ込む。
それから、ためらいがちに言った。
「……私が言うのも何ですけど、相当に危ないですよ?」
そんな一言で意志を撤回するような軟弱ものは、いなかった。
●
一行は彼女に案内され、モチ撒き会場にやってきた。
遮蔽物の一切ない、100メートル四方の運動場。中央に布のかかったやぐらがあり、周囲は高いフェンスで囲まれている。
やぐらはモチ撒きの台に使うのだろうが、フェンスの存在意義がよく分からない。一体何故だろうか。
杏子に尋ねてみると、こういう答えだった。
「ああ、あれはモチがよそに飛んでいかないようにとの配慮なの。住宅街が近いし……」
職員たちが現れた。頭にハチマキを巻き、ハッピを着込み、御目出度そうな様子である。
彼らはやぐらに上り、さっと布を取り払った。その下から現れたのは、妙な装置。大きなタンクの下方に、砲身のようなものが生えている。
はてあれは何だろう。
「それでは、モチマキ開始です!」
杏子が右手を挙げると同時に、砲身からモチが発射されてきた。
その速度時速240キロ。リアルブルーのバッティングマシーンに匹敵する破壊力。
フェンスの向こう側には、物見高い見物人が集まってきていた。
「……すごい豪速球だな。俺、今全然見えなかったぞ」
「取るのは無理なんじゃないか……?」
リプレイ本文
冬ではあるが空はスキッと晴れていて、風もほとんどない。屋外イベントをするにはうってつけの日。
上杉浩一(ka0969)は、町角に張られたビラに釘付けとなった。
「『モチマキ大会』……?」
正月から手元不如意な状態を脱しようと依頼探しに出掛けた矢先見つけた、この打ってつけな催し。
(ココ最近客に出すお菓子もなくなってきたしな。揚げもちでもつくってもっておけば一石二鳥だ)
浮き浮きした気分で庚一は、会場に直行した。
ついてみれば、既に人で一杯だ。
先に来ていた藤堂研司(ka0569)が、声をかけてくる。
「やー、あけましておめでとうございます。上杉さんも参加されるんですか?」
「正月だ。たまには正月らしいことがしたいじゃないか」
そんな彼らから少し離れたところでは、オーレリア・ギャラハー(ka5893)が天竜寺 舞(ka0377)と話している。
「無料で餅を……もしかして日本での伝統行事、餅まきではありませんか? 上棟式などで災厄を祓う為の神事と聞きましたが……」
「んー、もともとは確かにそうだけど、最近は単なるお祝いイベントとして定着してるから、別にいいんじゃないかな? いやいや、まさかこっちの世界でお餅が食べられるとは思わなかったよ」
白神 霧華(ka0915)はモチマキ会場を、若干の不審さをもって見つめている。
真ん中の布がかかった櫓はモチ撒き台として使うのだろうからまあいいとして、会場自体がやけに広すぎやしないだろうか。
(それにこの四方を高く囲むフェンス……これはいったい何の行事なんでしょうか?)
と、ここまではリアルブルー出身者の反応だ。
そもそもモチマキの原型を知らないクリムゾンウェスト出身者ドゥアル(ka3746)、メリエ・フリョーシカ(ka1991)、エルディン(ka4144)にとっては、別段引っ掛かるところもない。
そこに、主催者からのアナウンス。
『皆様本日はお集まりいただきありがとうございまーす。これよりイベントについての最終説明を行いますので、参加希望者の方は、実行委員会のテントに集まってくださーい』
「……食べ物が……頂ける……雰囲気が」
器用に立ったまま眠るドゥアルは、周囲の流れに乗ってテントに入った。
そこでバイトの杏子から、背負いカゴとヘルメットとキャッチャーミットを渡される。
「はい、ではこれを……ちょっちょっちょ、違いますよこれは食べるものじゃありませんから! 装備品です装備品!」
確かに味がしないし固い。
残念に思いながら彼女は、ミットから口を離す。
「……これは…どうやって着ければ……?」
「ええとですね、利き手にはめてください。手袋の要領で。それでこのカゴをしょって、こちらのヘルメットを頭に被ると」
「ああ、それはいいです……寝苦しくなるのでいりませ……」
●プレイボール
舞は本能的に危険を察し身をよじる。
「うひょう!」
脇腹すれすれを時速240キロの凍ったモチが通り抜け地面に激突しめり込んだ。
間近にいたオーレリアは頬を引きつらせる。
「ちょっと、これはかなりアグレッシヴではありませんか!? しかも硬くて凍み餅どころではありません!」
メリアは生唾を飲み込んだ。
何というパワー。何というスピード。俄然闘志が湧いてくる。
「これがエクストリームモチマキ……っ!」
エルディンは、興奮交じりに眼を輝かせた。
「私、知ってます これはリアルブルーの「やきう」ですね! 打ち返したり受け止めたりしたら勝ちなのです……あれはきっと「ぴっちんぐましん」ですよ。なるほど、やきうとはモチを使うのですねー」
文化の伝達というのは伝言ゲームみたいなもので、改変が起きがちだ。ましてここは異世界。何事もオリジナル通りにはいくまい。
「まあ、餅を取れという事なので可能な限り頑張りますが」
盾を構える霧華を横目に浩一は、会場の隅に引っ込んでいき、紙巻きタバコを吸い始めた。呼ばれるまでは出るまいと心に決めて。
(これが俺の最後の一服になるかも知れんな……)
平静を装ってはいるものの、内心動揺しまくっているのだろう。何度も汗をふいている。
「こんなの捕れるか! 乙女の柔肌に当たったらどうすんの!」
やってられるか、とヘルメットを地面に叩きつける舞。
それをメリアが、ふふんと笑った。
「あの程度の質量と速度が怖くて戦場にゃあ立てませんよ。さ、ガンガン捕りましょうねぇ!」
ミットをはめた手にバンと拳を叩きつけ、砲台を挑発する。
「さぁ、バッチ来いでーすっ!」
ここで引いたら女がすたる。思って舞も腹を決めた。
「……お餅を食べるのに命がけになるとも思わなかったけど。でも日本人としては諦める訳にはいかないね!」
年下の少女2人がこのようにやる気満々とあっては、研司も男として、本家を知る日本人として、食べ物を大切にする料理人として退けぬ。
砲台の傍らにいる杏子が言ってきた。
「それじゃ皆さん、今から千本ノックいってよろしいですかー?」
それにエルディンが待ったをかける。
「あ、少々お待ちを」
彼はいそいそ地面にシートを敷く。先程のようにモチが落ちたとき、砂だらけにしないために。
「神は言いました。右頬をぶたれたら左頬をと」
覚醒し背に翼を出現させた姿は、まるで大天使。
ドゥアルは1人こっそり場を離れ砲台の後ろに回り込み、ヘルメットをすぽり、杏子の頭に被せる。
「な、なんです? こっちにいてもおモチはとれませんよ?」
「いえ……わたくし……非覚醒なので……」
曖昧な返事に首を傾げつつ、杏子は、再度言う。
「では始めまーす!」
●目指せ甲子園
モチが改めて撒かれ始めた。先程と同じ速度、しかも連続。
当然のことだが無防備な態勢をとっているエルディンが、一番に食らう。
「さあ、私にモチを投げなさい。神の愛を全身で受け止m」
大天使は無抵抗の構えを数秒で捨てた。
「やっぱり痛い!」
かざしたシールドにかかってくる衝撃に堪えつつ、モチ跡が付いた頬をさする。歯が折れてないのが何よりだが、口の中、血の味がする。
「神の愛は痛いのです。っていうか、これを神の愛とか言ってる私、なんかおかしくないですか!?」
あのエルディンさんがこうも短時間で素に戻るとは、相当の破壊力。これは身を引き締めて行かねばなるまいと己を戒める研司は、ミットを構えた。
「よーし、バッチコーぐはぁっ!!」
直後食らう脇腹へのデッドボール。
「……これ……絶対プロテクターいるだろ……」
だが動きを止めている暇など無い。なにしろモチは休みなく飛んでくるのだ。じっとしていたら取り損なうのみならず的になるばかり。
「うおぉぉぉ行くぞォォォ!」
気合で起き上がった彼は攻めに転じモチを追う。地を蹴り、転がり、砂にまみれつつ。
オーレリアもまた会場の端から端までせわしく駆ける。高校球児のように。
「確かにこれはこれで思い出深くもなりますが……」
彼女の目的は無料でモチをもらう+体を動かしての厄落とし。待ち受けるより取りに行く。むろん明らかにデッドボールになりそうなのは極力回避。
「……事が済んだら関係者に正しいもち撒きのやり方を教えないと……」
メリエは、モチを打ち出す直前砲身の動きが一瞬止まるのを見切った。
この弾は速い。ただ追うだけでは足りない。相手が動くのに先んじ射線に入らねば。
(発射された瞬間さえ見えてれば、到達点は分かる。後は勘と直感で勝負!)
手のひらに穴が空きそうなほどの衝撃が走った。指までびりびり痺れが来る。
が、しかし、メリエはモチを掴み落とさなかった。
仲間の動き、そしてモチの動きを読むことに専念していた舞が動く。
「よーし、バッチこーい! その球、いただきだ!」
モチが打ち出された。
彼女は軽快に体をひねって避ける。と同時にミットを下から叩きつけ、上に飛ばす。
垂直に飛んだモチが重力に引かれ落ちてきたのを受け止める。その動き、曲芸のごとし。
「お餅、ゲットだぜ♪ さあ、続けてバッチこーい!」
彼女らの成功を見て霧花は、防御の盾を降ろしにかかった。ミットだけでも取れるのだ、と思い返して。
大体この盾で受ける戦法、あまりに効率が悪い。モチが地面に跳ね返って埋まったり欠けたりするというだけならまだしも、そうやって落ちたものを、杏子を連れて会場を徘徊しているドゥアルが、先に回収――平たく言うと横取り――してしまうのである。
「ちょっと私バイトですよ! 何で一緒に出なくちゃならないんですか!」
「美味しそうな名前の……貴公な……きっと大丈夫……」
腰に結わえ付けられた紐を必死になってほどこうとしている杏子に、寝息を交えて答えるドゥアルは、自分でモチを受け止める気などさらさらなさそうだ。
モチが飛んでくるたび、半分寝ているとは思えない機敏さで杏子を前に出し、自身をガード。急所にいいのが入って倒れる杏子にめり込んだモチを回収する。
「わたくし聖導士なので……重傷ぐらい……直せま……」
なかなかに鬼である。
しかしエルディンは彼女の行いを、早速参考にするとした。
「すいませーん、私しばらく休憩タイム取りますんでー」
「なんですかエルディンさん!? なんで俺の後ろに!?」
「だって体格いいじゃないですかー、ほら、これあげるからー、ね?」
と言いつつ研司にプロテクションをかけ、その背中に引きこもる。
そうした上でモチ撒き砲台に言い放つ。
「こっち全然足りてませんよー! じゃんじゃんどうぞじゃんじゃん!」
狂ったように吐き出されるモチを全身で浴びる研司。ポンポンを振るエルディン。
「フレッ♪ フレッ♪ 研司さん♪」
無情な光景を横目にした霧花は、つくづく思った。このイベントの主催者はモチマキの趣旨ばかりか、力の入れどころも間違えていると。
「しかし、こんな装置作るなら、兵器用にすれば儲かると思うのですが」
呟いた直後いきなりモチが肘に当たり、ちょっと言葉が出なくなる。
「……おや……これは……骨にヒビが……入ってますね……多分……」
カゴをモチで満たしつつ、負傷者たちの治癒に当たるドゥアル。
会場にアナウンスが響いた。
『キャッチャー交替。2番上杉庚一』
残り少なくなっていたタバコを灰皿に押し付けた庚一は、配布されたヘルメットではなく、持参してきた作業用ヘルメットに被り直す。
(最低腰と顔以外ならどうとでもなる)
己に言い聞かせミットをはめ、マウンドに立つ。
「さあ、正々堂々かかってきな!」
要望に応じ、超高速で襲いかかってくるモチ。
それは運の悪いことに、普段から腰痛持ちな彼の腰を直撃した。
「」
うめき声も上げられぬまま沈んでいく庚一。
その前にメリエが、颯爽と立ちはだかる。どこからか持ってきたバットを手にして。
「ふふふ……お前の球は見切りましたですよ……さあ、ガンガン来いですよガンガンっ!」
「バッティングか!」
突っ込みを入れながら起き上がる研司は、いち早くセンターの位置までダッシュした。ピッチングマシーンから直に受けるより撃ち返された球を受ける方が簡単に違いない。そう信じて。
「一個たりとて無駄なモチは生まんぞ! フライなら任せろっ!」
その意気やよし。しかし打ち返されたメリエの球はフライでなく強烈なライナーだった。
「ゴハァ!」
砂煙を上げ倒れた研司の上を、ビュンビュン新手のモチが通り過ぎて行く。
「どうしたどうした、もうへたばるですかーっ!」
飛び交う真性の千本ノック。
舞の血は燃えた。弾丸ライナーをスライディングキャッチする。
「なんのこれきし! あたしは必ず妹を、こーしえんに連れて行くんだーっ!」
なんだかオーレリアも乗ってきた。フェンスに身を投げ打つようにして大暴投をキャッチする。
「地方リーグでは終われません! 絶対メジャー昇格しますっ!」
いっそ一番飛ばした人が優勝という遊びにした方がいいんじゃないだろうか。とか思う霧華。
デュアルは変わらず着実にモチを集めつつ、研司と浩一に治癒を施している。
「……お気を確かに……」
そのときメリエのバットが、繰り返される負荷に耐え切れず折れた。
二つの木片がクルクル宙を舞い、地面に突き刺さる。
静観を保っていたエルディンが、颯爽と出てくる。
「じゃんじゃかじゃん♪ じゃんじゃかじゃん♪ さあ、イケてる神父のエルディン、バッターボックスに入りました」
聖儀杖を高く掲げ、モチを迎え撃つ。
外角でも内角でもなくど真ん中に当たった。
なので飛んできた方向に真っすぐ戻って行く。
櫓の足が折れた。砲台が自身の重みで後方に向け倒れる。砲身が天井を向く。
モチは、そのまま高みへ打ち上げられていく。
会場を取り巻いていた観客がいっせいに逃げ出した。
石のように固いモチが雨あられと降り注ぐ。人、家、そして実行委員会のテントの上へ……。
● ゲームセット
長く苦しい戦いが終わった。
砲撃を浴びたかのようにつぶれ果てた実行委員テントの前では、横にしたフェンスの上で餅が焼かれていた。
オーレリアが膨らんできたものを、火箸でひっくりかえしている。
「小さくなったのは、、汁粉にはちょうどいいですね」
その隣には、ぐつぐつ小豆の煮える鍋。研司がそれを掻き混ぜている。
「そういや杏子さんは?」
チーズモチを頬張りつつ大根を降ろしていたドゥアルは、口をもごもごさせる。
「……近辺家屋……若干被害が出ましたので……主催者とともに……お詫び行脚に……」
「あらら、それは大変ですね」
オーレリアは小鉢に入れた醤油に砂糖を入れ、モチにつけた。
舞はかきモチを作っているが、揚がった端から醤油をかけ、もぐもぐ。
「まあ、あたしたちは単なる参加者だから関係ないけど」
浩一は、チーズ海苔モチを食するエルディンを盗み見る。
(無関係でもなかったはずだけどな……少なくともあのやぐらが倒れた原因については……)
だがそれを言い出すと自分たちにも飛び火しかねない。なので流すことにしよう、と腰を押さえる。治癒をかけてもらったし湿布も張っているので、だいぶ楽になった。
ところでさっきから霧花が何か探している。
「どうしたんだ。財布でも落としたのか」
「いえ、ちょっと本が行方不明で……暇なときに読もうと思って実行委員会のテントに預けておいたんですけどね」
一緒に探す気はないものの、聞くだけ聞いてみる浩一。
「へえ。なんて本だ?」
「『血塗れのバレンタイン』です」
「……ふうん……」
メリエが脇から茶を持ってきた。
「あ、緑茶持ってきたんだ。よかったらどうぞ」
ドゥアルもまたお茶を差し出す。大根おろしモチを食べながら。
「……これも……どうぞ……」
2人分の茶が全員に行き渡る。
エルディンが音頭を取った。
「それでは皆様、本年もどうぞよろしく」
ぶつかりあう湯飲みと湯飲み。
「「よろしくー」」
上杉浩一(ka0969)は、町角に張られたビラに釘付けとなった。
「『モチマキ大会』……?」
正月から手元不如意な状態を脱しようと依頼探しに出掛けた矢先見つけた、この打ってつけな催し。
(ココ最近客に出すお菓子もなくなってきたしな。揚げもちでもつくってもっておけば一石二鳥だ)
浮き浮きした気分で庚一は、会場に直行した。
ついてみれば、既に人で一杯だ。
先に来ていた藤堂研司(ka0569)が、声をかけてくる。
「やー、あけましておめでとうございます。上杉さんも参加されるんですか?」
「正月だ。たまには正月らしいことがしたいじゃないか」
そんな彼らから少し離れたところでは、オーレリア・ギャラハー(ka5893)が天竜寺 舞(ka0377)と話している。
「無料で餅を……もしかして日本での伝統行事、餅まきではありませんか? 上棟式などで災厄を祓う為の神事と聞きましたが……」
「んー、もともとは確かにそうだけど、最近は単なるお祝いイベントとして定着してるから、別にいいんじゃないかな? いやいや、まさかこっちの世界でお餅が食べられるとは思わなかったよ」
白神 霧華(ka0915)はモチマキ会場を、若干の不審さをもって見つめている。
真ん中の布がかかった櫓はモチ撒き台として使うのだろうからまあいいとして、会場自体がやけに広すぎやしないだろうか。
(それにこの四方を高く囲むフェンス……これはいったい何の行事なんでしょうか?)
と、ここまではリアルブルー出身者の反応だ。
そもそもモチマキの原型を知らないクリムゾンウェスト出身者ドゥアル(ka3746)、メリエ・フリョーシカ(ka1991)、エルディン(ka4144)にとっては、別段引っ掛かるところもない。
そこに、主催者からのアナウンス。
『皆様本日はお集まりいただきありがとうございまーす。これよりイベントについての最終説明を行いますので、参加希望者の方は、実行委員会のテントに集まってくださーい』
「……食べ物が……頂ける……雰囲気が」
器用に立ったまま眠るドゥアルは、周囲の流れに乗ってテントに入った。
そこでバイトの杏子から、背負いカゴとヘルメットとキャッチャーミットを渡される。
「はい、ではこれを……ちょっちょっちょ、違いますよこれは食べるものじゃありませんから! 装備品です装備品!」
確かに味がしないし固い。
残念に思いながら彼女は、ミットから口を離す。
「……これは…どうやって着ければ……?」
「ええとですね、利き手にはめてください。手袋の要領で。それでこのカゴをしょって、こちらのヘルメットを頭に被ると」
「ああ、それはいいです……寝苦しくなるのでいりませ……」
●プレイボール
舞は本能的に危険を察し身をよじる。
「うひょう!」
脇腹すれすれを時速240キロの凍ったモチが通り抜け地面に激突しめり込んだ。
間近にいたオーレリアは頬を引きつらせる。
「ちょっと、これはかなりアグレッシヴではありませんか!? しかも硬くて凍み餅どころではありません!」
メリアは生唾を飲み込んだ。
何というパワー。何というスピード。俄然闘志が湧いてくる。
「これがエクストリームモチマキ……っ!」
エルディンは、興奮交じりに眼を輝かせた。
「私、知ってます これはリアルブルーの「やきう」ですね! 打ち返したり受け止めたりしたら勝ちなのです……あれはきっと「ぴっちんぐましん」ですよ。なるほど、やきうとはモチを使うのですねー」
文化の伝達というのは伝言ゲームみたいなもので、改変が起きがちだ。ましてここは異世界。何事もオリジナル通りにはいくまい。
「まあ、餅を取れという事なので可能な限り頑張りますが」
盾を構える霧華を横目に浩一は、会場の隅に引っ込んでいき、紙巻きタバコを吸い始めた。呼ばれるまでは出るまいと心に決めて。
(これが俺の最後の一服になるかも知れんな……)
平静を装ってはいるものの、内心動揺しまくっているのだろう。何度も汗をふいている。
「こんなの捕れるか! 乙女の柔肌に当たったらどうすんの!」
やってられるか、とヘルメットを地面に叩きつける舞。
それをメリアが、ふふんと笑った。
「あの程度の質量と速度が怖くて戦場にゃあ立てませんよ。さ、ガンガン捕りましょうねぇ!」
ミットをはめた手にバンと拳を叩きつけ、砲台を挑発する。
「さぁ、バッチ来いでーすっ!」
ここで引いたら女がすたる。思って舞も腹を決めた。
「……お餅を食べるのに命がけになるとも思わなかったけど。でも日本人としては諦める訳にはいかないね!」
年下の少女2人がこのようにやる気満々とあっては、研司も男として、本家を知る日本人として、食べ物を大切にする料理人として退けぬ。
砲台の傍らにいる杏子が言ってきた。
「それじゃ皆さん、今から千本ノックいってよろしいですかー?」
それにエルディンが待ったをかける。
「あ、少々お待ちを」
彼はいそいそ地面にシートを敷く。先程のようにモチが落ちたとき、砂だらけにしないために。
「神は言いました。右頬をぶたれたら左頬をと」
覚醒し背に翼を出現させた姿は、まるで大天使。
ドゥアルは1人こっそり場を離れ砲台の後ろに回り込み、ヘルメットをすぽり、杏子の頭に被せる。
「な、なんです? こっちにいてもおモチはとれませんよ?」
「いえ……わたくし……非覚醒なので……」
曖昧な返事に首を傾げつつ、杏子は、再度言う。
「では始めまーす!」
●目指せ甲子園
モチが改めて撒かれ始めた。先程と同じ速度、しかも連続。
当然のことだが無防備な態勢をとっているエルディンが、一番に食らう。
「さあ、私にモチを投げなさい。神の愛を全身で受け止m」
大天使は無抵抗の構えを数秒で捨てた。
「やっぱり痛い!」
かざしたシールドにかかってくる衝撃に堪えつつ、モチ跡が付いた頬をさする。歯が折れてないのが何よりだが、口の中、血の味がする。
「神の愛は痛いのです。っていうか、これを神の愛とか言ってる私、なんかおかしくないですか!?」
あのエルディンさんがこうも短時間で素に戻るとは、相当の破壊力。これは身を引き締めて行かねばなるまいと己を戒める研司は、ミットを構えた。
「よーし、バッチコーぐはぁっ!!」
直後食らう脇腹へのデッドボール。
「……これ……絶対プロテクターいるだろ……」
だが動きを止めている暇など無い。なにしろモチは休みなく飛んでくるのだ。じっとしていたら取り損なうのみならず的になるばかり。
「うおぉぉぉ行くぞォォォ!」
気合で起き上がった彼は攻めに転じモチを追う。地を蹴り、転がり、砂にまみれつつ。
オーレリアもまた会場の端から端までせわしく駆ける。高校球児のように。
「確かにこれはこれで思い出深くもなりますが……」
彼女の目的は無料でモチをもらう+体を動かしての厄落とし。待ち受けるより取りに行く。むろん明らかにデッドボールになりそうなのは極力回避。
「……事が済んだら関係者に正しいもち撒きのやり方を教えないと……」
メリエは、モチを打ち出す直前砲身の動きが一瞬止まるのを見切った。
この弾は速い。ただ追うだけでは足りない。相手が動くのに先んじ射線に入らねば。
(発射された瞬間さえ見えてれば、到達点は分かる。後は勘と直感で勝負!)
手のひらに穴が空きそうなほどの衝撃が走った。指までびりびり痺れが来る。
が、しかし、メリエはモチを掴み落とさなかった。
仲間の動き、そしてモチの動きを読むことに専念していた舞が動く。
「よーし、バッチこーい! その球、いただきだ!」
モチが打ち出された。
彼女は軽快に体をひねって避ける。と同時にミットを下から叩きつけ、上に飛ばす。
垂直に飛んだモチが重力に引かれ落ちてきたのを受け止める。その動き、曲芸のごとし。
「お餅、ゲットだぜ♪ さあ、続けてバッチこーい!」
彼女らの成功を見て霧花は、防御の盾を降ろしにかかった。ミットだけでも取れるのだ、と思い返して。
大体この盾で受ける戦法、あまりに効率が悪い。モチが地面に跳ね返って埋まったり欠けたりするというだけならまだしも、そうやって落ちたものを、杏子を連れて会場を徘徊しているドゥアルが、先に回収――平たく言うと横取り――してしまうのである。
「ちょっと私バイトですよ! 何で一緒に出なくちゃならないんですか!」
「美味しそうな名前の……貴公な……きっと大丈夫……」
腰に結わえ付けられた紐を必死になってほどこうとしている杏子に、寝息を交えて答えるドゥアルは、自分でモチを受け止める気などさらさらなさそうだ。
モチが飛んでくるたび、半分寝ているとは思えない機敏さで杏子を前に出し、自身をガード。急所にいいのが入って倒れる杏子にめり込んだモチを回収する。
「わたくし聖導士なので……重傷ぐらい……直せま……」
なかなかに鬼である。
しかしエルディンは彼女の行いを、早速参考にするとした。
「すいませーん、私しばらく休憩タイム取りますんでー」
「なんですかエルディンさん!? なんで俺の後ろに!?」
「だって体格いいじゃないですかー、ほら、これあげるからー、ね?」
と言いつつ研司にプロテクションをかけ、その背中に引きこもる。
そうした上でモチ撒き砲台に言い放つ。
「こっち全然足りてませんよー! じゃんじゃんどうぞじゃんじゃん!」
狂ったように吐き出されるモチを全身で浴びる研司。ポンポンを振るエルディン。
「フレッ♪ フレッ♪ 研司さん♪」
無情な光景を横目にした霧花は、つくづく思った。このイベントの主催者はモチマキの趣旨ばかりか、力の入れどころも間違えていると。
「しかし、こんな装置作るなら、兵器用にすれば儲かると思うのですが」
呟いた直後いきなりモチが肘に当たり、ちょっと言葉が出なくなる。
「……おや……これは……骨にヒビが……入ってますね……多分……」
カゴをモチで満たしつつ、負傷者たちの治癒に当たるドゥアル。
会場にアナウンスが響いた。
『キャッチャー交替。2番上杉庚一』
残り少なくなっていたタバコを灰皿に押し付けた庚一は、配布されたヘルメットではなく、持参してきた作業用ヘルメットに被り直す。
(最低腰と顔以外ならどうとでもなる)
己に言い聞かせミットをはめ、マウンドに立つ。
「さあ、正々堂々かかってきな!」
要望に応じ、超高速で襲いかかってくるモチ。
それは運の悪いことに、普段から腰痛持ちな彼の腰を直撃した。
「」
うめき声も上げられぬまま沈んでいく庚一。
その前にメリエが、颯爽と立ちはだかる。どこからか持ってきたバットを手にして。
「ふふふ……お前の球は見切りましたですよ……さあ、ガンガン来いですよガンガンっ!」
「バッティングか!」
突っ込みを入れながら起き上がる研司は、いち早くセンターの位置までダッシュした。ピッチングマシーンから直に受けるより撃ち返された球を受ける方が簡単に違いない。そう信じて。
「一個たりとて無駄なモチは生まんぞ! フライなら任せろっ!」
その意気やよし。しかし打ち返されたメリエの球はフライでなく強烈なライナーだった。
「ゴハァ!」
砂煙を上げ倒れた研司の上を、ビュンビュン新手のモチが通り過ぎて行く。
「どうしたどうした、もうへたばるですかーっ!」
飛び交う真性の千本ノック。
舞の血は燃えた。弾丸ライナーをスライディングキャッチする。
「なんのこれきし! あたしは必ず妹を、こーしえんに連れて行くんだーっ!」
なんだかオーレリアも乗ってきた。フェンスに身を投げ打つようにして大暴投をキャッチする。
「地方リーグでは終われません! 絶対メジャー昇格しますっ!」
いっそ一番飛ばした人が優勝という遊びにした方がいいんじゃないだろうか。とか思う霧華。
デュアルは変わらず着実にモチを集めつつ、研司と浩一に治癒を施している。
「……お気を確かに……」
そのときメリエのバットが、繰り返される負荷に耐え切れず折れた。
二つの木片がクルクル宙を舞い、地面に突き刺さる。
静観を保っていたエルディンが、颯爽と出てくる。
「じゃんじゃかじゃん♪ じゃんじゃかじゃん♪ さあ、イケてる神父のエルディン、バッターボックスに入りました」
聖儀杖を高く掲げ、モチを迎え撃つ。
外角でも内角でもなくど真ん中に当たった。
なので飛んできた方向に真っすぐ戻って行く。
櫓の足が折れた。砲台が自身の重みで後方に向け倒れる。砲身が天井を向く。
モチは、そのまま高みへ打ち上げられていく。
会場を取り巻いていた観客がいっせいに逃げ出した。
石のように固いモチが雨あられと降り注ぐ。人、家、そして実行委員会のテントの上へ……。
● ゲームセット
長く苦しい戦いが終わった。
砲撃を浴びたかのようにつぶれ果てた実行委員テントの前では、横にしたフェンスの上で餅が焼かれていた。
オーレリアが膨らんできたものを、火箸でひっくりかえしている。
「小さくなったのは、、汁粉にはちょうどいいですね」
その隣には、ぐつぐつ小豆の煮える鍋。研司がそれを掻き混ぜている。
「そういや杏子さんは?」
チーズモチを頬張りつつ大根を降ろしていたドゥアルは、口をもごもごさせる。
「……近辺家屋……若干被害が出ましたので……主催者とともに……お詫び行脚に……」
「あらら、それは大変ですね」
オーレリアは小鉢に入れた醤油に砂糖を入れ、モチにつけた。
舞はかきモチを作っているが、揚がった端から醤油をかけ、もぐもぐ。
「まあ、あたしたちは単なる参加者だから関係ないけど」
浩一は、チーズ海苔モチを食するエルディンを盗み見る。
(無関係でもなかったはずだけどな……少なくともあのやぐらが倒れた原因については……)
だがそれを言い出すと自分たちにも飛び火しかねない。なので流すことにしよう、と腰を押さえる。治癒をかけてもらったし湿布も張っているので、だいぶ楽になった。
ところでさっきから霧花が何か探している。
「どうしたんだ。財布でも落としたのか」
「いえ、ちょっと本が行方不明で……暇なときに読もうと思って実行委員会のテントに預けておいたんですけどね」
一緒に探す気はないものの、聞くだけ聞いてみる浩一。
「へえ。なんて本だ?」
「『血塗れのバレンタイン』です」
「……ふうん……」
メリエが脇から茶を持ってきた。
「あ、緑茶持ってきたんだ。よかったらどうぞ」
ドゥアルもまたお茶を差し出す。大根おろしモチを食べながら。
「……これも……どうぞ……」
2人分の茶が全員に行き渡る。
エルディンが音頭を取った。
「それでは皆様、本年もどうぞよろしく」
ぶつかりあう湯飲みと湯飲み。
「「よろしくー」」
依頼結果
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レッツゴーモチマキ相談卓! 藤堂研司(ka0569) 人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/01/13 21:23:51 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/12 22:17:02 |