ゲスト
(ka0000)
【初夢】巨大ケーキ大作戦
マスター:尾仲ヒエル

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/01/11 22:00
- 完成日
- 2016/01/18 22:29
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
目が覚めると、あなたは見知らぬ場所にいました。
あなたの視界は、何か白くてもこもこしたもので覆われています。
「目が覚めたチュ?」
見上げると、きらきらした赤い宝石のような目があなたを見つめていました。
「僕はこの家のねずみ、『おもち』でチュ」
喋っているのは、むっちりした巨大な白ねずみでした。
白ねずみは、あなたと同じくらいの大きさで、なぜか頭の上にはみかんの飾りを載せています。
「君は……ずいぶん変わってるでチュね。でも耳もしっぽもあるから、きっとねずみでチュね」
いやいや、まさか、と笑って否定しようとしたあなたは、頭の上にがさっとした感触を感じて顔を引きつらせました。
体をひねって確認すると、お尻には細長いしっぽまで生えています。
「いいでチュ、いいデチュ。大きいのとか小さいのとか、砂漠に暮らす同族もいると聞いたことがありまチュ。少々違ってても気にすることないでチュよ」
慌てるあなたをよそに、おもちは納得した様子でうんうん頷いています。
見れば、あなたの周りでは、同じように目を覚ました数人が、びっくりしたように自分の耳としっぽを触っていました。
「ちょうどよかったでチュ。今日はスペシャルなんでチュよ。向こうの部屋に、お……っきなケーキ! があるでチュよ。僕だけじゃ食べきれないから、どうしようかと思ってたでチュ。みんなで一緒に食べるでチュ!」
おもちは短い腕を広げ、ぴょんぴょん飛び跳ねながら説明します。
「でもでも、それには障害があるでチュ。この部屋を出ると廊下があるでチュが、そこにはアレがいるでチュ。……『犬』でチュ。アレに捕まると、恐ろしいことが起こるでチュ」
おもちはそう言うと、何かを思い出したように、ぶるるっと体を震わせました。
「アレはねずみが大好きでチュ。この前、捕まった時には、5時間ぶっつづけで舐め回されたでチュ。もう、ふっらふらのべっとべとでチュ。だからアレには気をつけるでチュよ」
てくてくてく、と、歩き出したおもちは、離れた場所に見えている巨大な扉を指さしました。
「さあ。この部屋を出て、ケーキのある部屋まで行くでチュ! 生クリームと苺たっぷりでチュ!」
あなたの視界は、何か白くてもこもこしたもので覆われています。
「目が覚めたチュ?」
見上げると、きらきらした赤い宝石のような目があなたを見つめていました。
「僕はこの家のねずみ、『おもち』でチュ」
喋っているのは、むっちりした巨大な白ねずみでした。
白ねずみは、あなたと同じくらいの大きさで、なぜか頭の上にはみかんの飾りを載せています。
「君は……ずいぶん変わってるでチュね。でも耳もしっぽもあるから、きっとねずみでチュね」
いやいや、まさか、と笑って否定しようとしたあなたは、頭の上にがさっとした感触を感じて顔を引きつらせました。
体をひねって確認すると、お尻には細長いしっぽまで生えています。
「いいでチュ、いいデチュ。大きいのとか小さいのとか、砂漠に暮らす同族もいると聞いたことがありまチュ。少々違ってても気にすることないでチュよ」
慌てるあなたをよそに、おもちは納得した様子でうんうん頷いています。
見れば、あなたの周りでは、同じように目を覚ました数人が、びっくりしたように自分の耳としっぽを触っていました。
「ちょうどよかったでチュ。今日はスペシャルなんでチュよ。向こうの部屋に、お……っきなケーキ! があるでチュよ。僕だけじゃ食べきれないから、どうしようかと思ってたでチュ。みんなで一緒に食べるでチュ!」
おもちは短い腕を広げ、ぴょんぴょん飛び跳ねながら説明します。
「でもでも、それには障害があるでチュ。この部屋を出ると廊下があるでチュが、そこにはアレがいるでチュ。……『犬』でチュ。アレに捕まると、恐ろしいことが起こるでチュ」
おもちはそう言うと、何かを思い出したように、ぶるるっと体を震わせました。
「アレはねずみが大好きでチュ。この前、捕まった時には、5時間ぶっつづけで舐め回されたでチュ。もう、ふっらふらのべっとべとでチュ。だからアレには気をつけるでチュよ」
てくてくてく、と、歩き出したおもちは、離れた場所に見えている巨大な扉を指さしました。
「さあ。この部屋を出て、ケーキのある部屋まで行くでチュ! 生クリームと苺たっぷりでチュ!」
リプレイ本文
「子供部屋ってとこか。向こうにミニカーとおもちゃの汽車が転がってるな……でちゅ」
ぴんとねずみ耳を立てたヴァイス(ka0364)が、机の上から部屋を見渡す。
「ミニカーか。犬の気をそらチュのに使えないかな?」
「ん。良いかもね。一緒に運ぶよ」
しっぽをてしてしと床に打ちつけながらユリアン(ka1664)が提案すると、すぐにカフカ・ブラックウェル(ka0794)が同意した。こんな姿を妹に見られたら喜んで遊ばれそうだ、そう内心思うカフカは、ケーキの件を片付けたら元に戻る方法を探すつもりだった。
机の上に並んだぬいぐるみの横では、ジュード・エアハート(ka0410)が鼻歌を歌いながらしっぽにリボンを結んでいる。リボンは白い耳としっぽによく映える青色だ。
「うん。いい感じ」
と、ジュードの隣のぬいぐるみがぐらりと揺れた。その後ろから黒いねずみ耳のついたザレム・アズール(ka0878)の頭が、ひょいと覗く。
「失礼。これも使えないかと思ったんだが、少し重いな」
「あ。手伝いまち……手伝います」
両手で頬を押さえながら、レオン(ka5108)がぬいぐるみに近付く。先ほどから、レオンは語尾に『ちゅ』がついてしまいそうになる謎の衝動との闘いを続けていた。
「助かるよ。よいしょっと」
2人で押すと、ぬいぐるみは大きくぐらりと揺れて机の下に落ちていった。
「僕たちも降りるでチュ!」
そう言って、おもちは慣れた様子でカーテンにしがみつくと、つつつ、と滑るように伝い降りていく。ハンターたちも危なげなく後に続いた。
続いて降りようとしたザレムは、何か思いついた様子で机の上にあった鉛筆と消しゴムを手に取った。
「万一の時に使えるかもしれないからな」
全員が床の上に到着すると、おもちが開いた扉を示した。
「犬が来ないか見てくるでチュ」
「俺も行くよ……うわ。すごいね。草原にでもいるみたい」
絨毯の長い毛をかき分けながら進んだ2人は、そっと廊下を覗いた。
「犬は近くにいないみないでちゅよー」
ジュードが部屋の内側へ手を振りながら報告すると、ミニカーの傍に立ったヴァイスが手を振り返した。
「了解だ」
その横では、ひっくり返った汽車を覗き込みながら、ユリアンが思案気な表情を浮かべている。
「汽車はちょっと大きチュぎるかな」
玩具とはいえ、ねずみサイズの彼らにとっては汽車もミニカーも相当な大きさだ。
「どんな仕組みで動くんだろう……これかな?」
青いミニカーの後ろに回ったユリアンが、車の後ろから突き出したゼンマイを見つける。
ゼンマイを回したユリアンが手を放すと、ミニカーは、チキチキ、と音を立てて絨毯の上を進み、緑の絨毯の手前で止まった。
近付いたカフカが、そのミニカーを抱える。
「持ち上がるかな。おっと」
「てチュだうよ」
バランスを崩しかけたカフカをユリアンが支え、2人は毛足の長い絨毯の中に入っていく。
「ありがとう。あ、そっちもあとで手伝……」
ヴァイスに声をかけようとしたカフカが言葉を切る。
「軽い! 鍛え抜かれたこの大胸筋には軽すぎる! ……でちゅ!」
ユリアンとカフカの目に映ったのは、赤いミニカーを頭上に掲げ、毛足の長い絨毯の間を突き進むヴァイスの姿だった。
「手伝いはいらないみたいだね」
「だね」
カフカとユリアンは顔を見合わせ、ふふっと笑みを浮かべる。
「よいちょ、よいちょ」
部屋の向かい側からは、ザレムとレオンの2人が大きなぬいぐるみを一緒に運んできていた。
「ちゅう……これにロープをつけて、どこか上のほう……あの扉の蝶番を通して動かしたら、犬の気を引けないかな」
絨毯の上で一度ぬいぐるみを下ろすと、ザレムが開いた扉を見上げる。
「いいですね。一緒に試してみるっちゅ……あ」
気を付けていたはずなのに、思わず出てしまったねずみ言葉に、頬を染めたレオンが口元をおさえる。
その様子に、近くにいた全員が心の中で『可愛い』と呟いた時、ジュードの声が響いた。
「犬が来たみたい! 隠れて!」
絨毯の上でハンターたちが一斉に体を伏せる。
しばらくすると、何か大きな生き物の気配が近付いてきた。
足音は開いた扉の前でぴたりと止まり、ぬっと現れた茶色の鼻面が、フンフン、と部屋の空気を嗅いだ。
しんと静まり返った部屋を覗いた犬の目に映ったのは、絨毯の上に転がるミニカーとぬいぐるみ。
いつもと変わらぬ光景に、犬はまた顔をひっこめて立ち去った。
「ちゅうう。バレたかと思った」
犬が遠ざかったのを確認して、ユリアンが絨毯の間から立ち上がる。
「こっちでチュ」
小さな影が廊下を次々と横切り、先頭の影が壁に開けられたねずみ穴を示した。
「ここを抜ければもうケーキでチュ。念のため先に行って様子を見てくるでチュ」
「僕が行くよ」
おもちの息が切れていることに気が付いたカフカが、代わりに穴の中に消える。しばらくして穴からアッシュブロンドの頭が覗いた。
「大丈夫だ。誰もいないよ」
「殿は俺がつとめよう」
ヴァイスの言葉に、まずはおもちが穴にもぐりこむ。
「よいしょ。あれ?」
途中まで進んだおもちの動きが止まり、後ろ足が慌てたようにバタバタと動いた。
「もしかして詰まってる?」
「うええん! 今朝は通れたんでチュー」
おもちが泣き声を上げ、しっぽを左右に振り回す。
「ちょ! 危ない落ち着いて!」
おもちを落ち着かせた一行は、全員で押してみることに決める。カフカも頭側からおもちを引っ張った。
「行くぞ。せーの!」
何度か試しても抜ける気配はなく、おもちの目がじわりとうるんだ。
「犬が来ちゃうでチュ。5時間コースは嫌でチュー」
泣き声を上げるおもちをカフカが励ます。
「大丈夫。みんなが守ってくれるよ」
廊下では他のハンターたちが作戦を練っていた。
「ぬいぐるみを動かして気を引こう」
そう言いながら、ザレムが手持ちのロープをつないで長いロープを作る。
「蝶番に引っかければいいんですよね」
扉に近づいたレオンが完成したロープを投げるが、高い所にある蝶番を狙うのは難しく、なかなか引っかからない。
「俺が跳んでみるよ」
ロープを受け取ったザレムが、靴の後ろからマテリアルを噴射しながら高く跳びあがった。蝶番に引っかけると、そのままレオンに向かってロープを投げる。
しっかりとロープを受け止めたレオンが、ぴくりと青いねずみ耳を揺らした。
「犬が来まちゅ」
廊下の向こうから足音が聞こえてきた。
こちらを認めた犬は、嬉しそうにしっぽを振ると、壁から突き出した真っ白なおしりめがけて駆け寄ってきた。
「いやああ!」
気配を感じたおもちが、足をじたばたさせる。
「任せろ!」
剣を構え、おもちをかばうように立ち塞がったヴァイスの全身から、紅蓮のオーラが立ち上った。
べろん。
巨大な桃色の舌がヴァイスを襲う。
「……く」
濡れた舌をギリギリで避けながら、ヴァイスが叫んだ。
「俺に構わず先へ行くんだ! ……でちゅう!」
1人が捕まれば、他の皆は助かる。そんな判断だったが、すぐに声が返ってくる。
「いいえ。必ず全員でケーキを食べるんでチュ!」
そう叫んだザレムが、犬めがけて消しゴムを投げつけた。
後ろ足に何かが当たった感触に、犬が振り返る。
「チュウ! みんなでケーキを食べるんだ!」
ユリアンの手を離れたミニカーが、犬の後ろ足をかすり、廊下の奥に向かって走る。つられた犬が廊下の奥へと向かった。
「……そうだな。まずは、おもちの体が抜けるまでの時間をかせぐか」
ふっと口元を緩めたヴァイスは剣を仕舞い、ミニカーのゼンマイを力強く巻き始めた。
「さあ、お次はこっちだ」
ヴァイスの放ったミニカーは、犬がいる場所とは逆側、廊下の端に向かって力強く走り出した。
新しいおもちゃに喜んだ犬が、しっぽを振りながら追いかける。
犬がミニカーをかじりそうになるたび、新緑色の光を纏ったユリアンが近くを風のように駆け回り、巧みに犬の気を逸らす。
「今朝までは通れたんでチュー」
「変だね。何か引っかかってるのかな」
穴に詰まったまま、ふえ、と情けない声を上げるおもちの体をぺたぺたと触っていたカフカの手に、何か固い物が触れた。
「ん? ほっぺの辺りに何かあるね」
「ああ。忘れてたでチュ。それはでチュね。頬袋への憧れを元に、頬袋ダイエットというのを考えたんでチュよ。ほっぺの両側にビー玉を入れて……」
「それって、いつ入れたの?」
「君たちに会う前ぐらいでチュ」
「……それだね」
「……」
ぺっと吐き出されたビー玉がコロコロと床を転がる。
改めて引っ張ると、おもちの体はスポンと抜けた。
ごめんでチューという声を背中に聞きながら、カフカは空いた穴を通って廊下に合流する。
「おもちが抜けたよ!」
「良かった。これから犬を子供部屋に誘導しまちゅ」
ロープを握ったレオンが、ぐっと腕に力を込める。
廊下の端から戻って来た犬の気を惹くように、くいくいと強弱をつけながらぬいぐるみを引っ張る。
左右に動くぬいぐるみにつられて、犬は夢中になってぬいぐるみを追いかけた。
「なんという絶妙な動き……」
「犬は好きなんです。自分より小さければ、ですけど」
穴から顔だけ出したおもちの言葉に、レオンが照れたように呟く。
やがて扉の近くまで近付いた犬は、ぬいぐるみに噛りつこうと口を開いた。
その瞬間、パン、と小さな乾いた音が響き、驚いた犬の動きが止まる。
「ちっちゃくても俺は猟撃士なんでちゅよー」
ふふんと笑って見せたジュードが、銃を銀のハンドベルに持ち替える。
ベルを振ると、どこか神聖さを感じさせる不思議な音色が響き、犬の耳がぴくりと動く。
「犬さんこちら。鈴鳴る方へ!」
ジュードがくるりと回るたび、ドレスの裾がふわりと広がり、足首につけられたベルが鳴る。
2つのベルの音を響かせながら、ジュードは犬を子供部屋に誘導した。
「チュードちゃん、綺麗でチュー」
おもちが夢中になって声援を送る。
犬が子供部屋に足を踏み入れた瞬間、ジュードが大きく後ろに飛び退いた。
空いた空間に人影が飛び出す。絨毯の長い毛の中に潜んでいたカフカだ。
至近距離で放たれたスリープクラウドは犬の鼻先を直撃し、犬は絨毯の上にぱたんと倒れると、すぴすぴと寝息をたてはじめた。
「ごめんなさいでチュ。迷惑かけちゃったでチュ」
ケーキのある部屋に到着した一行の前で、おもちがぺこりと頭を下げた。その声にはいつもの元気はなく、耳もしゅんと垂れ下がっている。
「気にしなくていいでちゅよ」
「そうそう。そんなことより、皆で揃ってケーキダイブだ」
ねずみ言葉が板についてきたレオンがなぐさめたおもちの肩を、ヴァイスが掴み、くいっと後ろを向かせる。
全員の目線の先には、畳んだテーブルクロスの上に置かれた皿、そしてその上にそびえ立つ巨大なケーキの姿があった。
「よち、食べるぞっ!」
真っ先にケーキに向かってダイブしたユリアンが、ぽふん、とクリームの中に顔をうずめた。
「おっきなイチゴー!」
「頂きまチュー!」
続いて、目をきらきら輝かせたジュードとザレムがケーキにダイブする。
ジュードは一抱えほどもある苺に抱きつくと、ドレスが汚れるのも構わず、幸せそうな顔でかじりついた。
「酸味もある苺の甘さ……スポンジの柔らかさ……クリームのなめらかさ……」
ザレムは苺とケーキを交互に頬張りながら、うっとりとした表情を浮かべている。
「あー心がふわふわするっチュー!」
その様子を見たヴァイスが、おもちを背後からがしっと抱きかかえた。
「俺たちも行くぞ!」
「チュ!? チュウウ!」
2人分の重みでずぼっとクリームの中に埋まった2人は、クリームだらけの雪だるまのような姿で笑い声を上げる。
「みんなクリームまみれですね」
ケーキの欠片を手に、くすくすと笑うレオンの頬にも真っ白なクリームがついている。
一方、ユリアンは全身がクリームだらけになるのも気にせず、夢中でスポンジを掘り進めていた。
「あ、中に他のフルーチュも入ってた」
「チュ?」
不思議そうに首を傾げたおもちをユリアンが手招きする。
「一緒に食べよう。キウイっていうんだ。甘酸っぱくて美味しいよ」
「チュ!」
黄緑色のフルーツの大きな一切れに両端からかじりつく2人の姿を眺めながら、ジュードは新作のケーキについて考えをめぐらせていた。
「ねずみ型のケーキ……いや、ケーキの上におもちの人形を飾るのも可愛いかも?」
「こんな機会は滅多になさそうだからね」
苺の上に腰かけてケーキを味わっていたカフカは、ふと手元の大きなケーキの欠片を見つめた。
「……あ、妹にお土産で少し持って帰れないかな」
その言葉に、キウイを食べ終わったおもちが振り向く。
「妹さんがいるんでチュか? 可愛い系? それとも綺麗系でチュ?」
「ん? 気になる? 気になるかんじ?」
「ひゃああ。やめるでチュー」
大切な妹に興味を示したおもちのほっぺを、凄みのある笑顔を浮かべたカフカがむにむにとこねくりまわす。
「ふう。食べた食べた」
やがて、ほとんど空になった皿を前に、ハンターたちはぱんぱんになったお腹を撫でた。皿の上には少しばかりの欠片が残るばかりだ。
「美味しかったな。土産に持って帰りたいね」
ウサギ型に切り取ったスポンジにクリームをつけ、クリーム雪ウサギを作るユリアンの隣で、ザレムが尋ねた。
「おもち有難う。けどこれ、一体何のためのケーキなんだ?」
「妖精さんのためのケーキでチュよ」
おもちの説明を聞いたザレムは、背中に挿していた鉛筆を取り出すと、テーブルクロスの上に『ご馳走様でした 白い妖精より』と書きつけた。
「チュ?」
「妖精のためなんだろ? だったらこうしておけば、きっとまた……さ」
ザレムが文字の意味を説明すると、おもちは嬉しそうにぴょんと飛び跳ねた。
「わあ。ありがとでチュ!」
そのままおもちは後ろを向いた。どうやら照れているらしく、しっぽの先が床の上でもじもじとのの字を描いている。
「本当にありがとでチュ。みんながいなかったら、きっと穴に挟まったまま動けなくなってたでチュ。ケーキを一緒に食べられて楽しかったでチュよ。だからその、よかったら僕とここで一緒に……あれ?」
振り返ったおもちが、キョロキョロと辺りを見渡す。
さっきまでそこにいたはずの6人は忽然と姿を消していた。
と、部屋の扉がガチャリと音を立てた。
ケーキの欠片を拾い上げたおもちが家具の下に走り込むのと同時に、扉が開く。
「あ、ケーキがない! 妖精さん来たのかな」
幼い声が呟き、しゃがむ気配がした。
「何か書いてある。白い……妖精より……? おかーさーん!」
声が遠ざかる中、おもちは手にしたウサギ型の欠片をぎゅっと抱きしめた。
「……もしかして、本物の妖精さんだったのでチュかね?」
ぴんとねずみ耳を立てたヴァイス(ka0364)が、机の上から部屋を見渡す。
「ミニカーか。犬の気をそらチュのに使えないかな?」
「ん。良いかもね。一緒に運ぶよ」
しっぽをてしてしと床に打ちつけながらユリアン(ka1664)が提案すると、すぐにカフカ・ブラックウェル(ka0794)が同意した。こんな姿を妹に見られたら喜んで遊ばれそうだ、そう内心思うカフカは、ケーキの件を片付けたら元に戻る方法を探すつもりだった。
机の上に並んだぬいぐるみの横では、ジュード・エアハート(ka0410)が鼻歌を歌いながらしっぽにリボンを結んでいる。リボンは白い耳としっぽによく映える青色だ。
「うん。いい感じ」
と、ジュードの隣のぬいぐるみがぐらりと揺れた。その後ろから黒いねずみ耳のついたザレム・アズール(ka0878)の頭が、ひょいと覗く。
「失礼。これも使えないかと思ったんだが、少し重いな」
「あ。手伝いまち……手伝います」
両手で頬を押さえながら、レオン(ka5108)がぬいぐるみに近付く。先ほどから、レオンは語尾に『ちゅ』がついてしまいそうになる謎の衝動との闘いを続けていた。
「助かるよ。よいしょっと」
2人で押すと、ぬいぐるみは大きくぐらりと揺れて机の下に落ちていった。
「僕たちも降りるでチュ!」
そう言って、おもちは慣れた様子でカーテンにしがみつくと、つつつ、と滑るように伝い降りていく。ハンターたちも危なげなく後に続いた。
続いて降りようとしたザレムは、何か思いついた様子で机の上にあった鉛筆と消しゴムを手に取った。
「万一の時に使えるかもしれないからな」
全員が床の上に到着すると、おもちが開いた扉を示した。
「犬が来ないか見てくるでチュ」
「俺も行くよ……うわ。すごいね。草原にでもいるみたい」
絨毯の長い毛をかき分けながら進んだ2人は、そっと廊下を覗いた。
「犬は近くにいないみないでちゅよー」
ジュードが部屋の内側へ手を振りながら報告すると、ミニカーの傍に立ったヴァイスが手を振り返した。
「了解だ」
その横では、ひっくり返った汽車を覗き込みながら、ユリアンが思案気な表情を浮かべている。
「汽車はちょっと大きチュぎるかな」
玩具とはいえ、ねずみサイズの彼らにとっては汽車もミニカーも相当な大きさだ。
「どんな仕組みで動くんだろう……これかな?」
青いミニカーの後ろに回ったユリアンが、車の後ろから突き出したゼンマイを見つける。
ゼンマイを回したユリアンが手を放すと、ミニカーは、チキチキ、と音を立てて絨毯の上を進み、緑の絨毯の手前で止まった。
近付いたカフカが、そのミニカーを抱える。
「持ち上がるかな。おっと」
「てチュだうよ」
バランスを崩しかけたカフカをユリアンが支え、2人は毛足の長い絨毯の中に入っていく。
「ありがとう。あ、そっちもあとで手伝……」
ヴァイスに声をかけようとしたカフカが言葉を切る。
「軽い! 鍛え抜かれたこの大胸筋には軽すぎる! ……でちゅ!」
ユリアンとカフカの目に映ったのは、赤いミニカーを頭上に掲げ、毛足の長い絨毯の間を突き進むヴァイスの姿だった。
「手伝いはいらないみたいだね」
「だね」
カフカとユリアンは顔を見合わせ、ふふっと笑みを浮かべる。
「よいちょ、よいちょ」
部屋の向かい側からは、ザレムとレオンの2人が大きなぬいぐるみを一緒に運んできていた。
「ちゅう……これにロープをつけて、どこか上のほう……あの扉の蝶番を通して動かしたら、犬の気を引けないかな」
絨毯の上で一度ぬいぐるみを下ろすと、ザレムが開いた扉を見上げる。
「いいですね。一緒に試してみるっちゅ……あ」
気を付けていたはずなのに、思わず出てしまったねずみ言葉に、頬を染めたレオンが口元をおさえる。
その様子に、近くにいた全員が心の中で『可愛い』と呟いた時、ジュードの声が響いた。
「犬が来たみたい! 隠れて!」
絨毯の上でハンターたちが一斉に体を伏せる。
しばらくすると、何か大きな生き物の気配が近付いてきた。
足音は開いた扉の前でぴたりと止まり、ぬっと現れた茶色の鼻面が、フンフン、と部屋の空気を嗅いだ。
しんと静まり返った部屋を覗いた犬の目に映ったのは、絨毯の上に転がるミニカーとぬいぐるみ。
いつもと変わらぬ光景に、犬はまた顔をひっこめて立ち去った。
「ちゅうう。バレたかと思った」
犬が遠ざかったのを確認して、ユリアンが絨毯の間から立ち上がる。
「こっちでチュ」
小さな影が廊下を次々と横切り、先頭の影が壁に開けられたねずみ穴を示した。
「ここを抜ければもうケーキでチュ。念のため先に行って様子を見てくるでチュ」
「僕が行くよ」
おもちの息が切れていることに気が付いたカフカが、代わりに穴の中に消える。しばらくして穴からアッシュブロンドの頭が覗いた。
「大丈夫だ。誰もいないよ」
「殿は俺がつとめよう」
ヴァイスの言葉に、まずはおもちが穴にもぐりこむ。
「よいしょ。あれ?」
途中まで進んだおもちの動きが止まり、後ろ足が慌てたようにバタバタと動いた。
「もしかして詰まってる?」
「うええん! 今朝は通れたんでチュー」
おもちが泣き声を上げ、しっぽを左右に振り回す。
「ちょ! 危ない落ち着いて!」
おもちを落ち着かせた一行は、全員で押してみることに決める。カフカも頭側からおもちを引っ張った。
「行くぞ。せーの!」
何度か試しても抜ける気配はなく、おもちの目がじわりとうるんだ。
「犬が来ちゃうでチュ。5時間コースは嫌でチュー」
泣き声を上げるおもちをカフカが励ます。
「大丈夫。みんなが守ってくれるよ」
廊下では他のハンターたちが作戦を練っていた。
「ぬいぐるみを動かして気を引こう」
そう言いながら、ザレムが手持ちのロープをつないで長いロープを作る。
「蝶番に引っかければいいんですよね」
扉に近づいたレオンが完成したロープを投げるが、高い所にある蝶番を狙うのは難しく、なかなか引っかからない。
「俺が跳んでみるよ」
ロープを受け取ったザレムが、靴の後ろからマテリアルを噴射しながら高く跳びあがった。蝶番に引っかけると、そのままレオンに向かってロープを投げる。
しっかりとロープを受け止めたレオンが、ぴくりと青いねずみ耳を揺らした。
「犬が来まちゅ」
廊下の向こうから足音が聞こえてきた。
こちらを認めた犬は、嬉しそうにしっぽを振ると、壁から突き出した真っ白なおしりめがけて駆け寄ってきた。
「いやああ!」
気配を感じたおもちが、足をじたばたさせる。
「任せろ!」
剣を構え、おもちをかばうように立ち塞がったヴァイスの全身から、紅蓮のオーラが立ち上った。
べろん。
巨大な桃色の舌がヴァイスを襲う。
「……く」
濡れた舌をギリギリで避けながら、ヴァイスが叫んだ。
「俺に構わず先へ行くんだ! ……でちゅう!」
1人が捕まれば、他の皆は助かる。そんな判断だったが、すぐに声が返ってくる。
「いいえ。必ず全員でケーキを食べるんでチュ!」
そう叫んだザレムが、犬めがけて消しゴムを投げつけた。
後ろ足に何かが当たった感触に、犬が振り返る。
「チュウ! みんなでケーキを食べるんだ!」
ユリアンの手を離れたミニカーが、犬の後ろ足をかすり、廊下の奥に向かって走る。つられた犬が廊下の奥へと向かった。
「……そうだな。まずは、おもちの体が抜けるまでの時間をかせぐか」
ふっと口元を緩めたヴァイスは剣を仕舞い、ミニカーのゼンマイを力強く巻き始めた。
「さあ、お次はこっちだ」
ヴァイスの放ったミニカーは、犬がいる場所とは逆側、廊下の端に向かって力強く走り出した。
新しいおもちゃに喜んだ犬が、しっぽを振りながら追いかける。
犬がミニカーをかじりそうになるたび、新緑色の光を纏ったユリアンが近くを風のように駆け回り、巧みに犬の気を逸らす。
「今朝までは通れたんでチュー」
「変だね。何か引っかかってるのかな」
穴に詰まったまま、ふえ、と情けない声を上げるおもちの体をぺたぺたと触っていたカフカの手に、何か固い物が触れた。
「ん? ほっぺの辺りに何かあるね」
「ああ。忘れてたでチュ。それはでチュね。頬袋への憧れを元に、頬袋ダイエットというのを考えたんでチュよ。ほっぺの両側にビー玉を入れて……」
「それって、いつ入れたの?」
「君たちに会う前ぐらいでチュ」
「……それだね」
「……」
ぺっと吐き出されたビー玉がコロコロと床を転がる。
改めて引っ張ると、おもちの体はスポンと抜けた。
ごめんでチューという声を背中に聞きながら、カフカは空いた穴を通って廊下に合流する。
「おもちが抜けたよ!」
「良かった。これから犬を子供部屋に誘導しまちゅ」
ロープを握ったレオンが、ぐっと腕に力を込める。
廊下の端から戻って来た犬の気を惹くように、くいくいと強弱をつけながらぬいぐるみを引っ張る。
左右に動くぬいぐるみにつられて、犬は夢中になってぬいぐるみを追いかけた。
「なんという絶妙な動き……」
「犬は好きなんです。自分より小さければ、ですけど」
穴から顔だけ出したおもちの言葉に、レオンが照れたように呟く。
やがて扉の近くまで近付いた犬は、ぬいぐるみに噛りつこうと口を開いた。
その瞬間、パン、と小さな乾いた音が響き、驚いた犬の動きが止まる。
「ちっちゃくても俺は猟撃士なんでちゅよー」
ふふんと笑って見せたジュードが、銃を銀のハンドベルに持ち替える。
ベルを振ると、どこか神聖さを感じさせる不思議な音色が響き、犬の耳がぴくりと動く。
「犬さんこちら。鈴鳴る方へ!」
ジュードがくるりと回るたび、ドレスの裾がふわりと広がり、足首につけられたベルが鳴る。
2つのベルの音を響かせながら、ジュードは犬を子供部屋に誘導した。
「チュードちゃん、綺麗でチュー」
おもちが夢中になって声援を送る。
犬が子供部屋に足を踏み入れた瞬間、ジュードが大きく後ろに飛び退いた。
空いた空間に人影が飛び出す。絨毯の長い毛の中に潜んでいたカフカだ。
至近距離で放たれたスリープクラウドは犬の鼻先を直撃し、犬は絨毯の上にぱたんと倒れると、すぴすぴと寝息をたてはじめた。
「ごめんなさいでチュ。迷惑かけちゃったでチュ」
ケーキのある部屋に到着した一行の前で、おもちがぺこりと頭を下げた。その声にはいつもの元気はなく、耳もしゅんと垂れ下がっている。
「気にしなくていいでちゅよ」
「そうそう。そんなことより、皆で揃ってケーキダイブだ」
ねずみ言葉が板についてきたレオンがなぐさめたおもちの肩を、ヴァイスが掴み、くいっと後ろを向かせる。
全員の目線の先には、畳んだテーブルクロスの上に置かれた皿、そしてその上にそびえ立つ巨大なケーキの姿があった。
「よち、食べるぞっ!」
真っ先にケーキに向かってダイブしたユリアンが、ぽふん、とクリームの中に顔をうずめた。
「おっきなイチゴー!」
「頂きまチュー!」
続いて、目をきらきら輝かせたジュードとザレムがケーキにダイブする。
ジュードは一抱えほどもある苺に抱きつくと、ドレスが汚れるのも構わず、幸せそうな顔でかじりついた。
「酸味もある苺の甘さ……スポンジの柔らかさ……クリームのなめらかさ……」
ザレムは苺とケーキを交互に頬張りながら、うっとりとした表情を浮かべている。
「あー心がふわふわするっチュー!」
その様子を見たヴァイスが、おもちを背後からがしっと抱きかかえた。
「俺たちも行くぞ!」
「チュ!? チュウウ!」
2人分の重みでずぼっとクリームの中に埋まった2人は、クリームだらけの雪だるまのような姿で笑い声を上げる。
「みんなクリームまみれですね」
ケーキの欠片を手に、くすくすと笑うレオンの頬にも真っ白なクリームがついている。
一方、ユリアンは全身がクリームだらけになるのも気にせず、夢中でスポンジを掘り進めていた。
「あ、中に他のフルーチュも入ってた」
「チュ?」
不思議そうに首を傾げたおもちをユリアンが手招きする。
「一緒に食べよう。キウイっていうんだ。甘酸っぱくて美味しいよ」
「チュ!」
黄緑色のフルーツの大きな一切れに両端からかじりつく2人の姿を眺めながら、ジュードは新作のケーキについて考えをめぐらせていた。
「ねずみ型のケーキ……いや、ケーキの上におもちの人形を飾るのも可愛いかも?」
「こんな機会は滅多になさそうだからね」
苺の上に腰かけてケーキを味わっていたカフカは、ふと手元の大きなケーキの欠片を見つめた。
「……あ、妹にお土産で少し持って帰れないかな」
その言葉に、キウイを食べ終わったおもちが振り向く。
「妹さんがいるんでチュか? 可愛い系? それとも綺麗系でチュ?」
「ん? 気になる? 気になるかんじ?」
「ひゃああ。やめるでチュー」
大切な妹に興味を示したおもちのほっぺを、凄みのある笑顔を浮かべたカフカがむにむにとこねくりまわす。
「ふう。食べた食べた」
やがて、ほとんど空になった皿を前に、ハンターたちはぱんぱんになったお腹を撫でた。皿の上には少しばかりの欠片が残るばかりだ。
「美味しかったな。土産に持って帰りたいね」
ウサギ型に切り取ったスポンジにクリームをつけ、クリーム雪ウサギを作るユリアンの隣で、ザレムが尋ねた。
「おもち有難う。けどこれ、一体何のためのケーキなんだ?」
「妖精さんのためのケーキでチュよ」
おもちの説明を聞いたザレムは、背中に挿していた鉛筆を取り出すと、テーブルクロスの上に『ご馳走様でした 白い妖精より』と書きつけた。
「チュ?」
「妖精のためなんだろ? だったらこうしておけば、きっとまた……さ」
ザレムが文字の意味を説明すると、おもちは嬉しそうにぴょんと飛び跳ねた。
「わあ。ありがとでチュ!」
そのままおもちは後ろを向いた。どうやら照れているらしく、しっぽの先が床の上でもじもじとのの字を描いている。
「本当にありがとでチュ。みんながいなかったら、きっと穴に挟まったまま動けなくなってたでチュ。ケーキを一緒に食べられて楽しかったでチュよ。だからその、よかったら僕とここで一緒に……あれ?」
振り返ったおもちが、キョロキョロと辺りを見渡す。
さっきまでそこにいたはずの6人は忽然と姿を消していた。
と、部屋の扉がガチャリと音を立てた。
ケーキの欠片を拾い上げたおもちが家具の下に走り込むのと同時に、扉が開く。
「あ、ケーキがない! 妖精さん来たのかな」
幼い声が呟き、しゃがむ気配がした。
「何か書いてある。白い……妖精より……? おかーさーん!」
声が遠ざかる中、おもちは手にしたウサギ型の欠片をぎゅっと抱きしめた。
「……もしかして、本物の妖精さんだったのでチュかね?」
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ケーキを食べる相談チュー ジュード・エアハート(ka0410) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/01/11 21:01:48 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/11 08:50:20 |