ゲスト
(ka0000)
【初夢】ヴォイドがいない世界で……
マスター:星群彩佳

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 8日
- 締切
- 2016/01/14 19:00
- 完成日
- 2016/01/27 16:15
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
○【ヴォイド】という存在が無い世界
――『夢』とは睡眠時に生じる幻覚体験の意味がある――
ふと気付けば、いつものクリムゾンウェストの世界で見慣れた場所にいた。
(ああ……)と、思い出す。
この世界には【ヴォイド】という存在が無い。
だがリアルブルーという存在はあって、そこからの転移者は多い。
転移者はクリムゾンウェストでもちゃんと生き続けており、中には結婚をして子までいる者もいる。
【ヴォイド】という存在は無いものの、それでも種族の戦いは大なり小なり起きていた。
それでも今、目の前にある世界は平和と言える。
(もしかしたら……)と、ふと思い付く。
この世界は夢なのではないか?――と。
【ヴォイド】によっていろいろなモノを失った者達が作り出した幻覚体験なのではないか、と。
何故ならこの世界では『ハンター』という職業は、いわゆる『よろず屋』だからだ。
【ヴォイド】という最大の敵が存在しないこの世界では、ハンターは戦闘員の意味を大きく失う。
平和とは言い辛いものの、それでもこの世界の脅威はそれほど大きくはない。
(それならば)と、いっそのことこの時を体験し続けようと思った。
そして考える。
【ヴォイド】がいないクリムゾンウェストの世界で、ハンター達は何をしているんだろう?――と。
――『夢』とは睡眠時に生じる幻覚体験の意味がある――
ふと気付けば、いつものクリムゾンウェストの世界で見慣れた場所にいた。
(ああ……)と、思い出す。
この世界には【ヴォイド】という存在が無い。
だがリアルブルーという存在はあって、そこからの転移者は多い。
転移者はクリムゾンウェストでもちゃんと生き続けており、中には結婚をして子までいる者もいる。
【ヴォイド】という存在は無いものの、それでも種族の戦いは大なり小なり起きていた。
それでも今、目の前にある世界は平和と言える。
(もしかしたら……)と、ふと思い付く。
この世界は夢なのではないか?――と。
【ヴォイド】によっていろいろなモノを失った者達が作り出した幻覚体験なのではないか、と。
何故ならこの世界では『ハンター』という職業は、いわゆる『よろず屋』だからだ。
【ヴォイド】という最大の敵が存在しないこの世界では、ハンターは戦闘員の意味を大きく失う。
平和とは言い辛いものの、それでもこの世界の脅威はそれほど大きくはない。
(それならば)と、いっそのことこの時を体験し続けようと思った。
そして考える。
【ヴォイド】がいないクリムゾンウェストの世界で、ハンター達は何をしているんだろう?――と。
リプレイ本文
○クリムゾンウェスト・IFの世界
☆リンカ・エルネージュ(ka1840)の場合
<ジリリリリッ!>という騒がしい目覚まし時計の音で、リンカは飛び起きる。
「ふわっ!? ……あー、ビックリしたよぉ」
バチンッと目覚まし時計を止めると、大きな欠伸をしながらカーテンを開けた。
「う~ん……、何で目覚まし時計をかけていたんだっけ?」
不思議に思いながら部屋の中を見回すと、壁掛けカレンダーに今日の日付のところに赤丸がしてあり、『今日から新学期♪』とリンカ自身の文字で書かれてあることに気付く。
「あっ! 今日は始業式だったよ!」
リンカは慌てて、学校へ行く準備をはじめた。
「あぁーん! すっかり冬休み&正月ボケだよぉ!」
半泣き状態になりながらも白いブラウスに青いリボン、茶色のニットカーディガンに紺色のブレザーを羽織り、プリーツスカートに黒のスクールソックスを穿く。
朝食はテーブルの上に用意されていたホットコーヒーを二口ほど飲んで、焼き立てのトーストを齧りながらコートを羽織って、スクールバッグを持って家を出る。
「行ってきまーす!」
雪深い地域に住んでいるので、通っている学校へ行く時は滑り止めつきのブーツで歩く。
「ううっ……! 何で冬の季節って、寝坊しやすいのかな? いつも眠くなるし、体が動きにくくなるから、もう遅刻の常習犯だよ」
それでも走ると危険なので、一生懸命に足早で進む。
「私が通っているのは魔術師養成学校だから、時間にとっても厳しいんだよね。実習は楽しいから良いんだけど、勉強はちょっと苦手だなぁ」
大きなため息を吐くリンカの耳に学校の鐘の音が届き、新学期早々遅刻が決定した――。
「はあ~。新学期早々先生に怒られちゃったけど、始業式だけで学校が終わって良かったよ。冬休みの間、借りていた本を図書館に返して、新しい本を早く借りたかったしね♪」
魔術を専門としている学校の図書館は、校舎の隣に建てられている。魔術に関する本がたくさん置いてあり、在籍中に全て読み終えることが難しそうなほど数があった。
「やっぱりこの学校を選んで良かったよ♪ 街の図書館よりも、魔術の専門書が多くてステキだもの」
リンカはこの学校の図書館を気に入っており、ほぼ毎日のように通っているのだ。
「……とは言え、今日は返して借りるだけにしとかなきゃ。午後からはアルバイトの予定を入れてあるし」
学校はアルバイトを許可しているので、リンカは黒い魔女風の制服を着られるカフェでホールスタッフとして働いていた。
「あそこのカフェは制服が私好みだし、スイーツも最高に美味しいんだよね♪」
最初は客として訪れた店だったがすっかり気に入ってしまい、アルバイト募集の張り紙を見てすぐに応募したのだ。
「部活は入っていないけれど、とりあえず魔術の勉強とアルバイトで充分幸せだよ。友達とは美味しいお菓子の話とか、好きな人の話とかで盛り上がっているし。……ああ、そう言えばもうすぐバレンタインね。恋とアルバイトを両立させるのって、結構疲れるのよ」
カフェは若い女性客をターゲットにしており、メニューもスイーツ系が多い。その為、バレンタインに向けてチョコ菓子を売り出すのと同時に、カップル向けの新作メニューも出される。真冬でも繁忙期となるので、リンカがアルバイトに出る時間も増えてしまうのだ。
「手作りチョコにすべきか、それともアルバイト先のチョコを買って渡すべきか……迷うわ。ウチのチョコレート、かなり美味しいって評判だし」
今年のバレンタイン用のチョコ菓子の試作品を食べたリンカはあまりの美味しさに、とりあえず自分が食べる分の予約を入れてしまった。
「今は『手作りこそ心がこもっている!』と言う時代でもないのが、ややっこしいのよ。それに美味しいチョコレートが数多く販売されるのは、悪いとは言えないし……。私も美味しい思いを、しているからね」
複雑な乙女心を抱えながら、リンカはアルバイト先のカフェに入る。
アルバイトを終えると真っ直ぐ家に帰り、就寝前には魔術に関する本を読むのがリンカの日課だ。
「そういえば、もうそろそろ進路相談が行われるんだっけ。ウチは一族全員魔術師だし、私もそうなるのに不満はないけれど……」
ランプの光で本を読んでいたリンカは、ふと遠い目をする。
「……何だろうな。『何か』が、物足りない気がするんだよね」
平和で安全で幸せな日々を過ごしているせいか、『何か』が欠けている気になっていた。
「まっ、きっと気のせいね。さて、明日は寝坊しないように、早めに寝ようっと」
そしてリンカはランプの光を消す――。
☆マーオ(ka5475)の場合
「う~、ブルブルッ。この季節の厨房の中は、極寒ですね」
身を震わせながら、マーオは経営しているスイーツショップの厨房へ入った。
朝早くからスイーツの仕込みをする為に決まった時間に一人で出勤しているのだが、暖房がつけられない厨房の中は外の気温とあまり変わらず寒い。
それでもパティシエの服に着替えると、菓子職人としての気分が盛り上がる。
「さて、もうすぐ聖堂教会で礼拝が行われますし、来てくださった方にお渡しするお菓子も作らなければなりませんね」
厨房の壁にかけてあるカレンダーには、スイーツショップの予定の他にも、聖導士でもあるマーオの予定も書きこまれていた。
この店の近くに聖堂があるので、マーオはしょっちゅう顔を出しに行っている。その時に聖堂に訪れた人々へ、手作りのお菓子を配っているのだ。
「本当はケーキやプリンを差し上げたいんですけど……、流石にこの寒い季節では氷菓子になってしまいます。やはりクッキーにしときますか」
聖堂は冬の間は薪ストーブを使用しているので、スイーツが熱で悪くならないように別室に置いているのだが、そうすると寒さでお菓子の中の水分が氷と化してしまう。すると水分が多いお菓子は人々に渡す頃には氷菓子になってしまっているので、冬の間はケーキやプリンは止めておいた方が良い。
マーオは人々の笑顔が見たくてお菓子を差し入れていたのだが、氷菓子になってしまったケーキとプリンを食べて複雑な表情をさせてしまったことが一度あったので、それ以来気を付けているのだ。
「クッキーも本当は焼き立てをお渡ししたいのですが、礼拝の後だとどうしても冷めてしまうんですよね。でもその分、美味しく作ればいいんですよ!」
メラメラとパティシエ魂を燃やしながらマーオはクッキー生地を大量に作り、地下室の暗く寒い所でいったん寝かせる。
「クッキー生地を寝かせている間に、お店の商品を作りますか。太陽があまり出ない冬こそ、お客様には栄養のあるケーキを食べさせてあげたいです。……となると、やっぱりフルーツを使ったスイーツが良いですね」
フルーツをいくつか手に取りながら、マーオはいろいろなスイーツを思い浮かべた。
「イチゴとミカンなどの柑橘類が旬なので、ロールケーキやタルトにして、手軽にたくさんのフルーツを食べてもらいますか」
そして作るものが決まると、素早く包丁を動かし始める。
「フルーツも大切ですけど、来月にはスイーツショップにとって重大イベントであるバレンタインデーがありますね。この前作ったバレンタイン用のスイーツはスタッフの人達に試食してもらったところ、好評だったのは良かったんですけど……」
商品として、自分が作ったスイーツが喜ばれるのは素直に嬉しい。
だがマーオの頭の中には、一人の女性の姿が浮かんでいた。
「……本当は彼女に、僕の作ったお菓子を食べてもらいたいです。あっ、もちろんお客様の為にお菓子を作ることは、僕にとって幸せなことですけどね! 何と言いますか……、ハッキリしない自分がちょっとカッコ悪い気がします」
思わず作業する手が止まり、重いため息を吐いてしまう。
マーオには歌が上手な美しい恋人がいるのだが、お互い忙しくてなかなか会えないのだ。
特にマーオの方がスイーツショップのパティシエ兼店長であり、聖導士でもある為に、恋人に寂しい思いをさせているような気がしている。
「バレンタインデーは本来、女性が思いを寄せる男性へチョコレートを渡すイベントですが……、ここはやはり僕が彼女の為にチョコレートを作って渡してみましょう! ……何せバレンタイン当日は多忙で会えないと思いますし」
バレンタインデーにはチョコ菓子を大量に売り出す為に、とてもじゃないがパティシエのマーオが店を抜け出せる時間はないだろう。
それどころかバレンタインの数日前から店に泊まり込むことになるだろうから、できるだけ早めに彼女と会って渡すしかない。
「下手をすると、節分にチョコを渡すようになりそうですが……。それでもいつまでも引っ込んでいて、いつかは彼女に見放されるかもしれません! ここは一つ、彼女の為だけに立派なチョコ菓子を作りましょう! チョコを渡すのと同時に、僕の彼女への熱い気持ちを伝えなければっ……!」
そう決めたマーオは、改めてフルーツを切り出す。
しかし頭の中では、彼女へ送るチョコ菓子をいくつも思い浮かべて考えていた。
☆マリア・ベルンシュタイン(ka0482)の場合
「う、ん……。……ああ、もう朝ですか。この季節は朝でも暗いので、時間が分かりづらいですね」
メイドに声をかけられて、マリアはベッドからゆっくり起き上がる。
いつものように若いメイド達の手によって、マリアはベルンシュタイン家の若く美しいお嬢様へとなっていく。
食堂へ行けば、父と母がすでに自分を待っていた。
「おはようございます。お父様、お母様」
そして親子三人で朝食を終えると、マリアは令嬢としての勉強をはじめる。
通いの家庭教師達から礼儀作法に針仕事、刺繍、ダンスにピアノを習い、花嫁修業をするのだ。
全てはベルンシュタイン家の令嬢として、どこへ嫁いでも恥ずかしくないように――。
そう両親や周りの者に言われて育てられたマリアは、今の生活を不満に思うことはない。
しかし休憩時間に一人で自室で過ごしていると、ぼんやり思うことはある。
「今の私は傍から見れば、恵まれている人生を送っているのでしょうね。厳しい貴族の家では十三歳から修道院に送られる令嬢もいる中で、ずっと両親の元で愛されて大事にされているのですから……」
湯気が立つミルクティーを冷ましながら、自分の人生を振り返ってみた。
ベルンシュタイン家の一人娘として、両親には期待もされている。
普通の令嬢であれば、十六歳で社交界デビュー、そして十八歳になれば親が決めた男性と結婚することは当たり前とされていた。
しかしマリアの両親は一人娘を溺愛している為、教育は屋敷の中だけにしており、まだ特定の相手も決めてはいない。
それでも母はマリアがいつか嫁ぐ時の為に、毎日せっせと嫁入り道具の一つである刺繍物を作っている。そして完成すれば、嬉しそうにマリアに見せるのだ。
また父も結婚については何も言ってはこないが、最近では貴族の子息が集まるパーティーに共に来るように言われることが増えた。
貴族の友達は次々と結婚式を挙げており、いつかはマリアも……と言われている。
「貴族の娘として生まれたからは良き令嬢となって、両親が選んだ男性のもとへ嫁ぐ――ことは、当たり前なのですが……」
自分以外誰もいない所で呟くクセは、子供の頃からだ。
大事にされているということは、裏を返せば誰もマリアと深く関わろうとしないという意味にもなる。
孤独と思ってはいけない。最初から運命が決まっているだけなのだと、マリアは自分に言い聞かせていたが……。
「平和なこの世で、ただ嫁ぐ日を夢見ることは……幸せでもあり、どこか空虚な気がします」
マリアンは心の中で、この生活から抜け出したいと思っている気持ちがあることを自覚していた。
べルンシュタインの名を捨て、ただのマリアとして生きる自由を選び取ってみたいと考える時があるのだ。
だが、今までこの屋敷の中だけが、マリアの世界の全てだった。
時には屋敷を出ることはあっても、外の世界を詳しくは知らない。「知る必要など無い」と、両親に子供の頃から言われ続けていたせいもある。
外の汚れも穢れも闇も知らず、天使のように純粋で無垢で無知な女性として生きることを強制されていることに、マリアはいつの頃か息苦しさを感じるようになっていた。
だからと言って、この屋敷を飛び出してもどうにもならないことを、マリア自身が分かっている。
世間知らずのお嬢様が一人で生きていけるほど、この世界は甘くないことを理解しているのだ。
「……何故、私はこんな考え方をするのでしょう? 誰かに何かを言われたわけではないのに……」
普通の令嬢であれば、『今の生活を捨てて自由に生きたい』などとは、思い付きもしないだろう。
けれどマリアには、あるのだ。そう思ってしまう、『何か』が。
「ふう……。少し疲れているんでしょうか? 年末年始は流石に忙しかったですし、肉体的にも精神的にも疲れが出ているのかもしれません」
いくら箱入りのお嬢様とはいえ、年末年始は習い事以外にもやることが多く、その為に外出することも多かった。
その時、様々な人々と出会うことができたのだが、それが今の考えを思い浮かばせているのかもしれない。
「別に体調は悪くはないと思いますが、父と母に言って少し休ませてもらいましょう。……あっ、雪が降ってきました」
窓の外では、白い雪が降り始めている。
マリアは立ち上がり、窓の近くまで行く。雪と自分の距離はこんなに近いのに、まるで別世界の出来事のように思えてならなかった。
☆天央 観智(ka0896)の場合
ハンターオフィス内にある資料室で、観智は大きな欠伸を一つする。
「あふぅ……、研究に少々没頭しすぎたようですね」
机の上にはマテリアル関連の資料が山積みになっており、今にも崩れそうになっていた。
観智はメガネを外して、熱くなったまぶたを冷たい指で押さえて冷やす。
「眼が疲れています……。資料を片付けてから、休憩することにしますか」
メガネをかけ直すと大量の資料を棚へ戻した後、喫茶室へ行き、スタッフにカフェオレを頼んで窓際のソファーイスに座った。
「……おや、外は雪が降っていますね。薄暗いと思いましたら、結構な時間になっていましたか」
壁掛け時計を見ると、既に夕方と言える時間になっていた。
天気は朝から薄暗く、今も大して変わらないところを見ると、冬という季節がどれだけ時間を感じさせないものなのかが分かる。
「今日は仕事の予定が入っていなかったので、研究に集中できると思って朝からこちらに来ていましたが、下手をすると泊まり込みになりそうですね」
夜の雪道を歩くことは、危険であった。ハンターと言えども『もしも』の時があるので、ハンターオフィス内にある仮眠室で泊まるというのもアリだ。
やがて運ばれてきたカフェオレを、冷ましながらゆっくりと飲む。
「はあ……、あたたかくて美味しいです。イクシードになってから、その原因とも言えるマテリアルの研究をする為にハンターになったまでは良かったんですけど……。思いのほか、夢中になっている自分に驚きます」
元々研究者気質であった観智は、リアルブルーから訪れた者だ。
こちらの世界に来てからはイクシードとしてハンター登録をして、働きながらもマテリアルの研究をしている。
「リアルブルーでは科学を、こちらのクリムゾンウェストでは魔法を研究していますが、どちらも僕が飽きない世界なのが嬉しいですね。ハンターとして働きながらも、研究に没頭できる環境は本当に素晴らしいです……」
半ばウトウトしながら、深く息を吐く。
思い起こせば、観智の生活は割と満ち足りていた。
マテリアルの研究をしているが、やはり実際に使ってみなければ本当の意味で理解しているとは言えない。なのでハンターという職業は、とても役に立っている。
イクシードになってからは、一般人よりも身体能力や感覚が上昇した上に、スキルと呼ばれる超常的な力を使うことができるようになった。観智にとってハンターとして活動することは、研究の一環でもあるのだ。
「リアルブルーで科学の研究のみをしているよりも、こちらの世界で頭も体も動かすマテリアルの研究をしていた方が、案外僕には合っているかもしれません。……ですが少々物足りなく思うのは、何故でしょう……?」
日々は充実している。マテリアルの研究をするのにハンターオフィスはとても良い環境を与えてくれるし、研究を応用してハンターとして活躍できていた。
ただこの世界には、どこか緊張感が足りない。いや、正確に言えば、観智が真剣になるようなことがないのだ。
この世界のどこかでは、今も戦いが起きているだろう。だがそこに観智という存在が、絶対に必要になる場合は少ない。それは決して悪いことではないのだが……。
「どうやら僕は研究バカになりつつありそうですね……。マテリアルに夢中になるばかりに、実験場所を求めすぎているのかもしれません。研究者としては少々危険な兆候……ですね」
観智は真剣な顔付きになり、スッと眼を細める。
研究者の中には自分の考えが正しいことを証明したいと強く願うばかりに、犯罪者になる者が時には現れた。
実際に観智はリアルブルーにいた頃、そういう危険な科学者が何人か現れたことを知っている。
だから『そっち側へは決して行くべきではない』と、観智は強く念じていた。
「いくら生まれ育った場所ではないとは言え、こちらの世界に迷惑をかけるつもりはありませんし。……何よりそんなことになったら、知り合いのハンターに僕が狩られちゃいます」
ハンターになってから、仲間が増えた。こちらの世界の住人達はリアルブルー出身の観智にとても親切で、穏やかに過ごせる日々は彼らのおかげだと思っている。
「恩を仇で返すほど、僕は愚かではありませんしね。マッドサイエンティストなんて冗談でも呼ばれたくはありませんし、あくまでも人助けの為の研究を続けましょう」
ぬるくなったカフェオレを飲み干すと観智は立ち上がり、再び資料室へ向けて歩き出す。
「……それでもいつか、この世界を脅かす敵が現れるかもしれません。その時の為の研究はしておいて、損はありませんよね」
そう言った観智の口元は、笑みを形作っていた。
☆ユキヤ・S・ディールス(ka0382)の場合
「……ああ、今日は良い天気ですね。最近は雪が降ったり曇ったりしていたので、青空を見るのは久し振りです。空は美しいんですけど、足元はちょっと……と言いますか、かなり凄いですね」
ユキヤは視線を空から地面へ移すと、ガックリと肩を落とす。
夜通し降り続けた雪はブーツや長靴を履かなければ歩けないほどになり、そのせいでハンター本部からユキヤは緊急の呼び出しを受けたほどだ。
リアルブルーからの転移者であるユキヤはハンターとして働いているので、今日は恐らく雪かきが仕事になるだろう。
「まあ雪かきのお仕事はそれなりに良いお給料が出ますし、修行にもなりますから頑張りましょう」
そしてハンター本部へ行くと、予想通り雪かきが今日の仕事になった。
防寒着に着替えたユキヤはスノースコップを持ちながら、ハンター仲間と共に依頼人の所へ行き、雪かきをしていく。依頼人は複数いるので、いろいろな場所へ行かなければならない。民家の他にも店や道路などの雪かきも依頼に入っているので、仲間と分担作業になる。
「太陽が出ている分、雪解けしているのはありがたいんですけど……、どう見ても夜には凍りそうです」
今はビチャビチャになっている雪は、夜が近付くにつれて凍っていくだろう。凍った道を歩くことは、降り積もった雪の中を歩くのとはまた別の恐怖感がある。
それでも子供達が楽しそうにカマクラや雪だるまを作っている姿を見ていると、雪も悪くはないと思えた。
「故郷のリアルブルーにも大雪が降ったことはありましたし、『空』という存在はどの世界でも与える影響は同じなのかもしれませんね」
クスッと笑いながら、ユキヤは雪かきを続ける。
今日一日、たくさんの家を回っては雪かきをしたユキヤは、夕方になってようやく仕事を終えた。仲間達と頑張ったおかげで大分雪を取り除くことができたので、帰り道は歩きやすい。
「ふう……。寒さを感じられなくなるぐらい、動き回りましたね。今日はゆっくりお風呂に浸かりましょう。じゃないと、明日は筋肉痛で動けなくなりそうです」
体がグッタリと重くなっているのを感じると、雪かきは思っていた以上に体力を使うことをしみじみ実感する。
「……おや、今日の夕焼けは綺麗ですね。明日も晴れるんでしょうか?」
分厚い雲を照らしながらも、オレンジ色の太陽は溶けるように山の向こうへ消えていく。
その光景を目を細めながら見ていたユキヤの頭の中にふと、リアルブルーの冬の夕暮れ時の空が思い浮かぶ。
「あちらの世界も良かったですけど、こちらの世界も悪くはないですね。空は美しいですし、ハンターという仕事もなかなか楽しいものです。人々との触れあいは、人生にとってなくてはならないものですから」
困った人達の役に立つ仕事は、やりがいを感じられる。特に今日みたいな依頼は、強く感謝されるのだ。
ハンターでなくても雪かきは誰にでもやれることだが、こうして頼られることは素直に嬉しいと思える。
「争いや戦いに関わらないことは、僕にとっては良いことです。まあハンター仲間の中には、退屈を感じる人がいますけど……」
ハンターの仕事内容は主に、困った人々を助けること。時には争いや戦いの中に身を投じることはあるが、それもその地域にいるハンター達だけで大抵はおさまる。
わざわざ遠くにいるハンターが呼ばれるようなことは、自然災害以外はほとんど無いと言っていい。
「本当に良い世界です。まるで夢のよう……な……?」
呟きかけたユキヤは、視界がぐらりっ……と揺れるのを感じた。
けれどそれも一瞬の出来事で、すぐに元に戻る。
「……ああ、正確に言えば、『今の世界』は夢のような出来事なんですよね。本当の僕はここにいることすら、本来ならありえないことなんですから……」
異世界から訪れたユキヤは、この世界が本当の自分が生きている世界とは言い辛い。
いつかは、あるいはもしかしたら、あちらの世界に嫌でも戻る日が来るかもしれないのだ。
「けれど『いつか』の時を恐れていては、ダメですよね。どの世界でも空の美しさは変わらないんですし、僕も僕らしく変わらずありたいです」
弱々しく微笑むユキヤの眼に、美しい星空が映る。
「僕にとっての『本当』とは、僕自身が決めればいいだけです。……例え一夜の夢物語でも幸せを感じたのならば、それで良いんですよ。まっ、今のところ僕の本当の願いは、あの太陽のように隠れていますけどね」
太陽は完全に姿を消して、深い夜が訪れた――。
☆紫吹(ka5868)の場合
火鉢の中の炭が、バチッと音を立てる。その音で紫吹は眼を覚ます。
「うう……ん。おや……、アタシったらすっかり眠っちまっていたようだね」
コタツの中に足を入れて座椅子に座っていた紫吹は、顔を上げると愛おしい男の笑顔を見て表情を和らげた。
「『何の夢を見ていたか』って? ……そうさねぇ。ぼんやりとしか思い出せないけれど、何だか悲しくてやりきれなくて……でも大切だと思える夢だったよ。……おや、そんな悲しそうな顔をしなくても大丈夫。紫吹姐さんはそんなにヤワじゃあないよ」
心配そうに自分を見る男に、紫吹は安心させるように笑って見せる。
「うん? 別に遊郭にいた頃を懐かしんだわけじゃないよ。アンタに身請けしてもらって、これから二人で生きていくんじゃないか。何度も話し合って、二人で決めたことなんだからさ」
紫吹は身請けしてもらった後、男の家で一緒に暮らしていた。
男の家は普通の民家で、遊郭のように豪華で立派ではない。
紫吹が着ている物も煌びやかで豪華な着物ではなく、普通の女性が着る質素な着物だ。
それでも今の紫吹は、とても幸せそうな顔をしている。
「おっ、そろそろ熱燗ができる頃だねぇ。今みたいな寒い季節は、酒をあたためるに限るよ」
火鉢には水を入れた鉄のやかんをかけており、中には酒入りの銚子を入れている。火鉢の熱によって鉄やかんの水がお湯となり、銚子があたためられると酒が熱燗になるのだ。
紫吹は手ぬぐいで銚子を持ち上げると、自分と男のお猪口に熱燗を注ぐ。
「遊郭で飲んでいた酒より安物だけど、何でアンタと飲むと美味く感じられるんだろうねぇ? ……ふふっ、でもよくアタシを身請けする金と決心があったね。話を聞いた時、いろんな意味で夢見心地になったもんさ」
信じたい・信じられないという相反する気持ちが紫吹の中でグルグルと駆け巡り、実際に身請けされるまでなかなか現実感を抱けなかった。
「でも本音としては嬉しかったよ。だってアタシが愛して・愛された男に、遊郭から連れ出されたんだからね。互いに惚れ合った二人が、これからは普通の人として生きていくなんて……何だか信じられないよ」
遊郭という名の籠の中で、紫吹は幾度も儚い夢を見てきたのだ。どれだけ男に愛を囁き・囁かれても、あくまでも一夜の夢幻に過ぎない。太陽が空にのぼってしまえば消えてしまう――そんな夢をずっと見続けてきた。
これまで二人の将来を語った男はたくさんいたものの、それを真に受ける女は愚かだと周囲の者達から嘲笑われる。結局、男も女も現実味の無い夢を語っているだけなのだ。期待をするほど、無意味なことはない。
今までの経験から充分に身に染みていた紫吹は、男の身請け話を最初はいつもの事だと思うことにしていた。
それでも男は本当に身請け金を用意して、楼主と話を付けてしまったのだ。あれよあれよと言う間に話は進み、今ではこうして男の側にいる。
熱燗を飲みながら、紫吹は正面にいる男を見つめた。優しい眼差しで、自分を見つめてくる男の顔が好きだった。遊女として弄ぶことも蔑むこともなく、出会った時から一人の女として扱ってくれた男は、目の前にいる彼だけだ。
「けれど実はね、少し不安なんだよ。今が幸せ過ぎて、夢を見ている気分なのさ」
ぼんやり呟くと、男がふと手を差し伸べてきた。
「『実際に触れてみれば分かるだろう』って? おかしなことを言うねぇ、アンタは」
クスクスと笑う紫吹だが、男が笑みを浮かべながらも真剣な眼差しをしているのを見て、息が詰まる。
「そう……だね。触れてみれば、分かる……よね」
戸惑いつつも、紫吹はおずおずと男の手を握った。
(ああ……、やはり……)
紫吹は今、確かに男の手を握っている。
――しかし握っている男の手の体温は、一切感じられない。
(……飲んだ熱燗の味がしないことから、こうなることは分かっていたはずなんだけどねぇ……)
今この時が、本当の現実ではないことを思い知らされる。
そう――本当の紫吹は遊女ではなくなったものの、男と夫婦になることはなかった。
何故なら男は、紫吹を身請けした直後に……。
「……えっ? アタシが泣いているって? おや、本当だ。『今』が幸せ過ぎて、泣けてきちまったよ」
いつの間にか、頬を伝い落ちる涙。だが皮肉なことに、涙の感触だけは『本物』だった。
しかし『今』の紫吹の眼に映るのは、懐かしい男の笑顔。眼に焼き付けるように、紫吹はずっと見つめ続けていた。
☆リンカ・エルネージュ(ka1840)の場合
<ジリリリリッ!>という騒がしい目覚まし時計の音で、リンカは飛び起きる。
「ふわっ!? ……あー、ビックリしたよぉ」
バチンッと目覚まし時計を止めると、大きな欠伸をしながらカーテンを開けた。
「う~ん……、何で目覚まし時計をかけていたんだっけ?」
不思議に思いながら部屋の中を見回すと、壁掛けカレンダーに今日の日付のところに赤丸がしてあり、『今日から新学期♪』とリンカ自身の文字で書かれてあることに気付く。
「あっ! 今日は始業式だったよ!」
リンカは慌てて、学校へ行く準備をはじめた。
「あぁーん! すっかり冬休み&正月ボケだよぉ!」
半泣き状態になりながらも白いブラウスに青いリボン、茶色のニットカーディガンに紺色のブレザーを羽織り、プリーツスカートに黒のスクールソックスを穿く。
朝食はテーブルの上に用意されていたホットコーヒーを二口ほど飲んで、焼き立てのトーストを齧りながらコートを羽織って、スクールバッグを持って家を出る。
「行ってきまーす!」
雪深い地域に住んでいるので、通っている学校へ行く時は滑り止めつきのブーツで歩く。
「ううっ……! 何で冬の季節って、寝坊しやすいのかな? いつも眠くなるし、体が動きにくくなるから、もう遅刻の常習犯だよ」
それでも走ると危険なので、一生懸命に足早で進む。
「私が通っているのは魔術師養成学校だから、時間にとっても厳しいんだよね。実習は楽しいから良いんだけど、勉強はちょっと苦手だなぁ」
大きなため息を吐くリンカの耳に学校の鐘の音が届き、新学期早々遅刻が決定した――。
「はあ~。新学期早々先生に怒られちゃったけど、始業式だけで学校が終わって良かったよ。冬休みの間、借りていた本を図書館に返して、新しい本を早く借りたかったしね♪」
魔術を専門としている学校の図書館は、校舎の隣に建てられている。魔術に関する本がたくさん置いてあり、在籍中に全て読み終えることが難しそうなほど数があった。
「やっぱりこの学校を選んで良かったよ♪ 街の図書館よりも、魔術の専門書が多くてステキだもの」
リンカはこの学校の図書館を気に入っており、ほぼ毎日のように通っているのだ。
「……とは言え、今日は返して借りるだけにしとかなきゃ。午後からはアルバイトの予定を入れてあるし」
学校はアルバイトを許可しているので、リンカは黒い魔女風の制服を着られるカフェでホールスタッフとして働いていた。
「あそこのカフェは制服が私好みだし、スイーツも最高に美味しいんだよね♪」
最初は客として訪れた店だったがすっかり気に入ってしまい、アルバイト募集の張り紙を見てすぐに応募したのだ。
「部活は入っていないけれど、とりあえず魔術の勉強とアルバイトで充分幸せだよ。友達とは美味しいお菓子の話とか、好きな人の話とかで盛り上がっているし。……ああ、そう言えばもうすぐバレンタインね。恋とアルバイトを両立させるのって、結構疲れるのよ」
カフェは若い女性客をターゲットにしており、メニューもスイーツ系が多い。その為、バレンタインに向けてチョコ菓子を売り出すのと同時に、カップル向けの新作メニューも出される。真冬でも繁忙期となるので、リンカがアルバイトに出る時間も増えてしまうのだ。
「手作りチョコにすべきか、それともアルバイト先のチョコを買って渡すべきか……迷うわ。ウチのチョコレート、かなり美味しいって評判だし」
今年のバレンタイン用のチョコ菓子の試作品を食べたリンカはあまりの美味しさに、とりあえず自分が食べる分の予約を入れてしまった。
「今は『手作りこそ心がこもっている!』と言う時代でもないのが、ややっこしいのよ。それに美味しいチョコレートが数多く販売されるのは、悪いとは言えないし……。私も美味しい思いを、しているからね」
複雑な乙女心を抱えながら、リンカはアルバイト先のカフェに入る。
アルバイトを終えると真っ直ぐ家に帰り、就寝前には魔術に関する本を読むのがリンカの日課だ。
「そういえば、もうそろそろ進路相談が行われるんだっけ。ウチは一族全員魔術師だし、私もそうなるのに不満はないけれど……」
ランプの光で本を読んでいたリンカは、ふと遠い目をする。
「……何だろうな。『何か』が、物足りない気がするんだよね」
平和で安全で幸せな日々を過ごしているせいか、『何か』が欠けている気になっていた。
「まっ、きっと気のせいね。さて、明日は寝坊しないように、早めに寝ようっと」
そしてリンカはランプの光を消す――。
☆マーオ(ka5475)の場合
「う~、ブルブルッ。この季節の厨房の中は、極寒ですね」
身を震わせながら、マーオは経営しているスイーツショップの厨房へ入った。
朝早くからスイーツの仕込みをする為に決まった時間に一人で出勤しているのだが、暖房がつけられない厨房の中は外の気温とあまり変わらず寒い。
それでもパティシエの服に着替えると、菓子職人としての気分が盛り上がる。
「さて、もうすぐ聖堂教会で礼拝が行われますし、来てくださった方にお渡しするお菓子も作らなければなりませんね」
厨房の壁にかけてあるカレンダーには、スイーツショップの予定の他にも、聖導士でもあるマーオの予定も書きこまれていた。
この店の近くに聖堂があるので、マーオはしょっちゅう顔を出しに行っている。その時に聖堂に訪れた人々へ、手作りのお菓子を配っているのだ。
「本当はケーキやプリンを差し上げたいんですけど……、流石にこの寒い季節では氷菓子になってしまいます。やはりクッキーにしときますか」
聖堂は冬の間は薪ストーブを使用しているので、スイーツが熱で悪くならないように別室に置いているのだが、そうすると寒さでお菓子の中の水分が氷と化してしまう。すると水分が多いお菓子は人々に渡す頃には氷菓子になってしまっているので、冬の間はケーキやプリンは止めておいた方が良い。
マーオは人々の笑顔が見たくてお菓子を差し入れていたのだが、氷菓子になってしまったケーキとプリンを食べて複雑な表情をさせてしまったことが一度あったので、それ以来気を付けているのだ。
「クッキーも本当は焼き立てをお渡ししたいのですが、礼拝の後だとどうしても冷めてしまうんですよね。でもその分、美味しく作ればいいんですよ!」
メラメラとパティシエ魂を燃やしながらマーオはクッキー生地を大量に作り、地下室の暗く寒い所でいったん寝かせる。
「クッキー生地を寝かせている間に、お店の商品を作りますか。太陽があまり出ない冬こそ、お客様には栄養のあるケーキを食べさせてあげたいです。……となると、やっぱりフルーツを使ったスイーツが良いですね」
フルーツをいくつか手に取りながら、マーオはいろいろなスイーツを思い浮かべた。
「イチゴとミカンなどの柑橘類が旬なので、ロールケーキやタルトにして、手軽にたくさんのフルーツを食べてもらいますか」
そして作るものが決まると、素早く包丁を動かし始める。
「フルーツも大切ですけど、来月にはスイーツショップにとって重大イベントであるバレンタインデーがありますね。この前作ったバレンタイン用のスイーツはスタッフの人達に試食してもらったところ、好評だったのは良かったんですけど……」
商品として、自分が作ったスイーツが喜ばれるのは素直に嬉しい。
だがマーオの頭の中には、一人の女性の姿が浮かんでいた。
「……本当は彼女に、僕の作ったお菓子を食べてもらいたいです。あっ、もちろんお客様の為にお菓子を作ることは、僕にとって幸せなことですけどね! 何と言いますか……、ハッキリしない自分がちょっとカッコ悪い気がします」
思わず作業する手が止まり、重いため息を吐いてしまう。
マーオには歌が上手な美しい恋人がいるのだが、お互い忙しくてなかなか会えないのだ。
特にマーオの方がスイーツショップのパティシエ兼店長であり、聖導士でもある為に、恋人に寂しい思いをさせているような気がしている。
「バレンタインデーは本来、女性が思いを寄せる男性へチョコレートを渡すイベントですが……、ここはやはり僕が彼女の為にチョコレートを作って渡してみましょう! ……何せバレンタイン当日は多忙で会えないと思いますし」
バレンタインデーにはチョコ菓子を大量に売り出す為に、とてもじゃないがパティシエのマーオが店を抜け出せる時間はないだろう。
それどころかバレンタインの数日前から店に泊まり込むことになるだろうから、できるだけ早めに彼女と会って渡すしかない。
「下手をすると、節分にチョコを渡すようになりそうですが……。それでもいつまでも引っ込んでいて、いつかは彼女に見放されるかもしれません! ここは一つ、彼女の為だけに立派なチョコ菓子を作りましょう! チョコを渡すのと同時に、僕の彼女への熱い気持ちを伝えなければっ……!」
そう決めたマーオは、改めてフルーツを切り出す。
しかし頭の中では、彼女へ送るチョコ菓子をいくつも思い浮かべて考えていた。
☆マリア・ベルンシュタイン(ka0482)の場合
「う、ん……。……ああ、もう朝ですか。この季節は朝でも暗いので、時間が分かりづらいですね」
メイドに声をかけられて、マリアはベッドからゆっくり起き上がる。
いつものように若いメイド達の手によって、マリアはベルンシュタイン家の若く美しいお嬢様へとなっていく。
食堂へ行けば、父と母がすでに自分を待っていた。
「おはようございます。お父様、お母様」
そして親子三人で朝食を終えると、マリアは令嬢としての勉強をはじめる。
通いの家庭教師達から礼儀作法に針仕事、刺繍、ダンスにピアノを習い、花嫁修業をするのだ。
全てはベルンシュタイン家の令嬢として、どこへ嫁いでも恥ずかしくないように――。
そう両親や周りの者に言われて育てられたマリアは、今の生活を不満に思うことはない。
しかし休憩時間に一人で自室で過ごしていると、ぼんやり思うことはある。
「今の私は傍から見れば、恵まれている人生を送っているのでしょうね。厳しい貴族の家では十三歳から修道院に送られる令嬢もいる中で、ずっと両親の元で愛されて大事にされているのですから……」
湯気が立つミルクティーを冷ましながら、自分の人生を振り返ってみた。
ベルンシュタイン家の一人娘として、両親には期待もされている。
普通の令嬢であれば、十六歳で社交界デビュー、そして十八歳になれば親が決めた男性と結婚することは当たり前とされていた。
しかしマリアの両親は一人娘を溺愛している為、教育は屋敷の中だけにしており、まだ特定の相手も決めてはいない。
それでも母はマリアがいつか嫁ぐ時の為に、毎日せっせと嫁入り道具の一つである刺繍物を作っている。そして完成すれば、嬉しそうにマリアに見せるのだ。
また父も結婚については何も言ってはこないが、最近では貴族の子息が集まるパーティーに共に来るように言われることが増えた。
貴族の友達は次々と結婚式を挙げており、いつかはマリアも……と言われている。
「貴族の娘として生まれたからは良き令嬢となって、両親が選んだ男性のもとへ嫁ぐ――ことは、当たり前なのですが……」
自分以外誰もいない所で呟くクセは、子供の頃からだ。
大事にされているということは、裏を返せば誰もマリアと深く関わろうとしないという意味にもなる。
孤独と思ってはいけない。最初から運命が決まっているだけなのだと、マリアは自分に言い聞かせていたが……。
「平和なこの世で、ただ嫁ぐ日を夢見ることは……幸せでもあり、どこか空虚な気がします」
マリアンは心の中で、この生活から抜け出したいと思っている気持ちがあることを自覚していた。
べルンシュタインの名を捨て、ただのマリアとして生きる自由を選び取ってみたいと考える時があるのだ。
だが、今までこの屋敷の中だけが、マリアの世界の全てだった。
時には屋敷を出ることはあっても、外の世界を詳しくは知らない。「知る必要など無い」と、両親に子供の頃から言われ続けていたせいもある。
外の汚れも穢れも闇も知らず、天使のように純粋で無垢で無知な女性として生きることを強制されていることに、マリアはいつの頃か息苦しさを感じるようになっていた。
だからと言って、この屋敷を飛び出してもどうにもならないことを、マリア自身が分かっている。
世間知らずのお嬢様が一人で生きていけるほど、この世界は甘くないことを理解しているのだ。
「……何故、私はこんな考え方をするのでしょう? 誰かに何かを言われたわけではないのに……」
普通の令嬢であれば、『今の生活を捨てて自由に生きたい』などとは、思い付きもしないだろう。
けれどマリアには、あるのだ。そう思ってしまう、『何か』が。
「ふう……。少し疲れているんでしょうか? 年末年始は流石に忙しかったですし、肉体的にも精神的にも疲れが出ているのかもしれません」
いくら箱入りのお嬢様とはいえ、年末年始は習い事以外にもやることが多く、その為に外出することも多かった。
その時、様々な人々と出会うことができたのだが、それが今の考えを思い浮かばせているのかもしれない。
「別に体調は悪くはないと思いますが、父と母に言って少し休ませてもらいましょう。……あっ、雪が降ってきました」
窓の外では、白い雪が降り始めている。
マリアは立ち上がり、窓の近くまで行く。雪と自分の距離はこんなに近いのに、まるで別世界の出来事のように思えてならなかった。
☆天央 観智(ka0896)の場合
ハンターオフィス内にある資料室で、観智は大きな欠伸を一つする。
「あふぅ……、研究に少々没頭しすぎたようですね」
机の上にはマテリアル関連の資料が山積みになっており、今にも崩れそうになっていた。
観智はメガネを外して、熱くなったまぶたを冷たい指で押さえて冷やす。
「眼が疲れています……。資料を片付けてから、休憩することにしますか」
メガネをかけ直すと大量の資料を棚へ戻した後、喫茶室へ行き、スタッフにカフェオレを頼んで窓際のソファーイスに座った。
「……おや、外は雪が降っていますね。薄暗いと思いましたら、結構な時間になっていましたか」
壁掛け時計を見ると、既に夕方と言える時間になっていた。
天気は朝から薄暗く、今も大して変わらないところを見ると、冬という季節がどれだけ時間を感じさせないものなのかが分かる。
「今日は仕事の予定が入っていなかったので、研究に集中できると思って朝からこちらに来ていましたが、下手をすると泊まり込みになりそうですね」
夜の雪道を歩くことは、危険であった。ハンターと言えども『もしも』の時があるので、ハンターオフィス内にある仮眠室で泊まるというのもアリだ。
やがて運ばれてきたカフェオレを、冷ましながらゆっくりと飲む。
「はあ……、あたたかくて美味しいです。イクシードになってから、その原因とも言えるマテリアルの研究をする為にハンターになったまでは良かったんですけど……。思いのほか、夢中になっている自分に驚きます」
元々研究者気質であった観智は、リアルブルーから訪れた者だ。
こちらの世界に来てからはイクシードとしてハンター登録をして、働きながらもマテリアルの研究をしている。
「リアルブルーでは科学を、こちらのクリムゾンウェストでは魔法を研究していますが、どちらも僕が飽きない世界なのが嬉しいですね。ハンターとして働きながらも、研究に没頭できる環境は本当に素晴らしいです……」
半ばウトウトしながら、深く息を吐く。
思い起こせば、観智の生活は割と満ち足りていた。
マテリアルの研究をしているが、やはり実際に使ってみなければ本当の意味で理解しているとは言えない。なのでハンターという職業は、とても役に立っている。
イクシードになってからは、一般人よりも身体能力や感覚が上昇した上に、スキルと呼ばれる超常的な力を使うことができるようになった。観智にとってハンターとして活動することは、研究の一環でもあるのだ。
「リアルブルーで科学の研究のみをしているよりも、こちらの世界で頭も体も動かすマテリアルの研究をしていた方が、案外僕には合っているかもしれません。……ですが少々物足りなく思うのは、何故でしょう……?」
日々は充実している。マテリアルの研究をするのにハンターオフィスはとても良い環境を与えてくれるし、研究を応用してハンターとして活躍できていた。
ただこの世界には、どこか緊張感が足りない。いや、正確に言えば、観智が真剣になるようなことがないのだ。
この世界のどこかでは、今も戦いが起きているだろう。だがそこに観智という存在が、絶対に必要になる場合は少ない。それは決して悪いことではないのだが……。
「どうやら僕は研究バカになりつつありそうですね……。マテリアルに夢中になるばかりに、実験場所を求めすぎているのかもしれません。研究者としては少々危険な兆候……ですね」
観智は真剣な顔付きになり、スッと眼を細める。
研究者の中には自分の考えが正しいことを証明したいと強く願うばかりに、犯罪者になる者が時には現れた。
実際に観智はリアルブルーにいた頃、そういう危険な科学者が何人か現れたことを知っている。
だから『そっち側へは決して行くべきではない』と、観智は強く念じていた。
「いくら生まれ育った場所ではないとは言え、こちらの世界に迷惑をかけるつもりはありませんし。……何よりそんなことになったら、知り合いのハンターに僕が狩られちゃいます」
ハンターになってから、仲間が増えた。こちらの世界の住人達はリアルブルー出身の観智にとても親切で、穏やかに過ごせる日々は彼らのおかげだと思っている。
「恩を仇で返すほど、僕は愚かではありませんしね。マッドサイエンティストなんて冗談でも呼ばれたくはありませんし、あくまでも人助けの為の研究を続けましょう」
ぬるくなったカフェオレを飲み干すと観智は立ち上がり、再び資料室へ向けて歩き出す。
「……それでもいつか、この世界を脅かす敵が現れるかもしれません。その時の為の研究はしておいて、損はありませんよね」
そう言った観智の口元は、笑みを形作っていた。
☆ユキヤ・S・ディールス(ka0382)の場合
「……ああ、今日は良い天気ですね。最近は雪が降ったり曇ったりしていたので、青空を見るのは久し振りです。空は美しいんですけど、足元はちょっと……と言いますか、かなり凄いですね」
ユキヤは視線を空から地面へ移すと、ガックリと肩を落とす。
夜通し降り続けた雪はブーツや長靴を履かなければ歩けないほどになり、そのせいでハンター本部からユキヤは緊急の呼び出しを受けたほどだ。
リアルブルーからの転移者であるユキヤはハンターとして働いているので、今日は恐らく雪かきが仕事になるだろう。
「まあ雪かきのお仕事はそれなりに良いお給料が出ますし、修行にもなりますから頑張りましょう」
そしてハンター本部へ行くと、予想通り雪かきが今日の仕事になった。
防寒着に着替えたユキヤはスノースコップを持ちながら、ハンター仲間と共に依頼人の所へ行き、雪かきをしていく。依頼人は複数いるので、いろいろな場所へ行かなければならない。民家の他にも店や道路などの雪かきも依頼に入っているので、仲間と分担作業になる。
「太陽が出ている分、雪解けしているのはありがたいんですけど……、どう見ても夜には凍りそうです」
今はビチャビチャになっている雪は、夜が近付くにつれて凍っていくだろう。凍った道を歩くことは、降り積もった雪の中を歩くのとはまた別の恐怖感がある。
それでも子供達が楽しそうにカマクラや雪だるまを作っている姿を見ていると、雪も悪くはないと思えた。
「故郷のリアルブルーにも大雪が降ったことはありましたし、『空』という存在はどの世界でも与える影響は同じなのかもしれませんね」
クスッと笑いながら、ユキヤは雪かきを続ける。
今日一日、たくさんの家を回っては雪かきをしたユキヤは、夕方になってようやく仕事を終えた。仲間達と頑張ったおかげで大分雪を取り除くことができたので、帰り道は歩きやすい。
「ふう……。寒さを感じられなくなるぐらい、動き回りましたね。今日はゆっくりお風呂に浸かりましょう。じゃないと、明日は筋肉痛で動けなくなりそうです」
体がグッタリと重くなっているのを感じると、雪かきは思っていた以上に体力を使うことをしみじみ実感する。
「……おや、今日の夕焼けは綺麗ですね。明日も晴れるんでしょうか?」
分厚い雲を照らしながらも、オレンジ色の太陽は溶けるように山の向こうへ消えていく。
その光景を目を細めながら見ていたユキヤの頭の中にふと、リアルブルーの冬の夕暮れ時の空が思い浮かぶ。
「あちらの世界も良かったですけど、こちらの世界も悪くはないですね。空は美しいですし、ハンターという仕事もなかなか楽しいものです。人々との触れあいは、人生にとってなくてはならないものですから」
困った人達の役に立つ仕事は、やりがいを感じられる。特に今日みたいな依頼は、強く感謝されるのだ。
ハンターでなくても雪かきは誰にでもやれることだが、こうして頼られることは素直に嬉しいと思える。
「争いや戦いに関わらないことは、僕にとっては良いことです。まあハンター仲間の中には、退屈を感じる人がいますけど……」
ハンターの仕事内容は主に、困った人々を助けること。時には争いや戦いの中に身を投じることはあるが、それもその地域にいるハンター達だけで大抵はおさまる。
わざわざ遠くにいるハンターが呼ばれるようなことは、自然災害以外はほとんど無いと言っていい。
「本当に良い世界です。まるで夢のよう……な……?」
呟きかけたユキヤは、視界がぐらりっ……と揺れるのを感じた。
けれどそれも一瞬の出来事で、すぐに元に戻る。
「……ああ、正確に言えば、『今の世界』は夢のような出来事なんですよね。本当の僕はここにいることすら、本来ならありえないことなんですから……」
異世界から訪れたユキヤは、この世界が本当の自分が生きている世界とは言い辛い。
いつかは、あるいはもしかしたら、あちらの世界に嫌でも戻る日が来るかもしれないのだ。
「けれど『いつか』の時を恐れていては、ダメですよね。どの世界でも空の美しさは変わらないんですし、僕も僕らしく変わらずありたいです」
弱々しく微笑むユキヤの眼に、美しい星空が映る。
「僕にとっての『本当』とは、僕自身が決めればいいだけです。……例え一夜の夢物語でも幸せを感じたのならば、それで良いんですよ。まっ、今のところ僕の本当の願いは、あの太陽のように隠れていますけどね」
太陽は完全に姿を消して、深い夜が訪れた――。
☆紫吹(ka5868)の場合
火鉢の中の炭が、バチッと音を立てる。その音で紫吹は眼を覚ます。
「うう……ん。おや……、アタシったらすっかり眠っちまっていたようだね」
コタツの中に足を入れて座椅子に座っていた紫吹は、顔を上げると愛おしい男の笑顔を見て表情を和らげた。
「『何の夢を見ていたか』って? ……そうさねぇ。ぼんやりとしか思い出せないけれど、何だか悲しくてやりきれなくて……でも大切だと思える夢だったよ。……おや、そんな悲しそうな顔をしなくても大丈夫。紫吹姐さんはそんなにヤワじゃあないよ」
心配そうに自分を見る男に、紫吹は安心させるように笑って見せる。
「うん? 別に遊郭にいた頃を懐かしんだわけじゃないよ。アンタに身請けしてもらって、これから二人で生きていくんじゃないか。何度も話し合って、二人で決めたことなんだからさ」
紫吹は身請けしてもらった後、男の家で一緒に暮らしていた。
男の家は普通の民家で、遊郭のように豪華で立派ではない。
紫吹が着ている物も煌びやかで豪華な着物ではなく、普通の女性が着る質素な着物だ。
それでも今の紫吹は、とても幸せそうな顔をしている。
「おっ、そろそろ熱燗ができる頃だねぇ。今みたいな寒い季節は、酒をあたためるに限るよ」
火鉢には水を入れた鉄のやかんをかけており、中には酒入りの銚子を入れている。火鉢の熱によって鉄やかんの水がお湯となり、銚子があたためられると酒が熱燗になるのだ。
紫吹は手ぬぐいで銚子を持ち上げると、自分と男のお猪口に熱燗を注ぐ。
「遊郭で飲んでいた酒より安物だけど、何でアンタと飲むと美味く感じられるんだろうねぇ? ……ふふっ、でもよくアタシを身請けする金と決心があったね。話を聞いた時、いろんな意味で夢見心地になったもんさ」
信じたい・信じられないという相反する気持ちが紫吹の中でグルグルと駆け巡り、実際に身請けされるまでなかなか現実感を抱けなかった。
「でも本音としては嬉しかったよ。だってアタシが愛して・愛された男に、遊郭から連れ出されたんだからね。互いに惚れ合った二人が、これからは普通の人として生きていくなんて……何だか信じられないよ」
遊郭という名の籠の中で、紫吹は幾度も儚い夢を見てきたのだ。どれだけ男に愛を囁き・囁かれても、あくまでも一夜の夢幻に過ぎない。太陽が空にのぼってしまえば消えてしまう――そんな夢をずっと見続けてきた。
これまで二人の将来を語った男はたくさんいたものの、それを真に受ける女は愚かだと周囲の者達から嘲笑われる。結局、男も女も現実味の無い夢を語っているだけなのだ。期待をするほど、無意味なことはない。
今までの経験から充分に身に染みていた紫吹は、男の身請け話を最初はいつもの事だと思うことにしていた。
それでも男は本当に身請け金を用意して、楼主と話を付けてしまったのだ。あれよあれよと言う間に話は進み、今ではこうして男の側にいる。
熱燗を飲みながら、紫吹は正面にいる男を見つめた。優しい眼差しで、自分を見つめてくる男の顔が好きだった。遊女として弄ぶことも蔑むこともなく、出会った時から一人の女として扱ってくれた男は、目の前にいる彼だけだ。
「けれど実はね、少し不安なんだよ。今が幸せ過ぎて、夢を見ている気分なのさ」
ぼんやり呟くと、男がふと手を差し伸べてきた。
「『実際に触れてみれば分かるだろう』って? おかしなことを言うねぇ、アンタは」
クスクスと笑う紫吹だが、男が笑みを浮かべながらも真剣な眼差しをしているのを見て、息が詰まる。
「そう……だね。触れてみれば、分かる……よね」
戸惑いつつも、紫吹はおずおずと男の手を握った。
(ああ……、やはり……)
紫吹は今、確かに男の手を握っている。
――しかし握っている男の手の体温は、一切感じられない。
(……飲んだ熱燗の味がしないことから、こうなることは分かっていたはずなんだけどねぇ……)
今この時が、本当の現実ではないことを思い知らされる。
そう――本当の紫吹は遊女ではなくなったものの、男と夫婦になることはなかった。
何故なら男は、紫吹を身請けした直後に……。
「……えっ? アタシが泣いているって? おや、本当だ。『今』が幸せ過ぎて、泣けてきちまったよ」
いつの間にか、頬を伝い落ちる涙。だが皮肉なことに、涙の感触だけは『本物』だった。
しかし『今』の紫吹の眼に映るのは、懐かしい男の笑顔。眼に焼き付けるように、紫吹はずっと見つめ続けていた。
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