ゲスト
(ka0000)
ワルサー総帥、新たな決意、初詣
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/01/17 15:00
- 完成日
- 2016/01/23 14:58
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
王国北部ルサスール領……の少し西。
ウェルダン伯爵が治める領に、1人の少女がもふもっふになっていた。
羊毛で作られたセーターやらコートやらを多重に着こみ、もこもこしている少女の名はサチコ・W・ルサスール。ルサスール家の息女である。
彼女は新年を迎えて、一つの決意を固めていた。
「旅に出ますわ!」
ゴブリンとの戦いを終えた彼女の目に見えていたのは、王国内のことを知らないという事実であった。そして、カフェはサチコが止められないことを悟りつつあった。
だが、過保護だった。
「まずは旅の安全を年始に祈願してきなさい。あぁ、今は冬だから防寒をしっかりしないとな……タロ、ジロ! これとこれとこれとこれを……」
マフラーに手袋、多重のダウンコート……今回着なかったものを含めてカフェは大量の防寒着を寄越した。タロとジロが呆れる中、続けざまにカフェは手紙を取り出した。
「ウェルダン伯爵領に旅の安全を見守る精霊がいたはずだ。すぐ隣だし、ちょうどよかろう」
こうして、サチコはもふもふの状態でウェルダン領に来たのだった。
●
手紙を受け取ったウェルダン伯爵は、サチコを満面の笑みで迎え入れた。
「ようこそ! 先の戦いでのご活躍は、聞いております。なんでも超大型ゴブリン相手に一歩も劣らず、力勝負をしたとか」
「いえ、確かに倒しましたが……それは私だけの力ではありませんし力勝負は私じゃないです」
伯爵の笑みに嫌な予感がひしひしと沸き立ち、早口でサチコは否定する。
だが、伯爵は気にもせずに話を続けた。
「実は折り入って頼みたいことがございましてね」
「いや、その、私たちは精霊を参りに……」
「その祠への参道についてなのですよ、いやぁ、僥倖とはまさにこのこと!」
調子づく語りを打ち崩すだけの会話術を、サチコはまだ持ちあわせてはいない。
勢いづく伯爵の頼みを愛想笑いを浮かべて、受け入れるしかなかったのである。
●
伯爵の依頼はシンプルだった。
祠のある山道に大型の猿……おそらくは雑魔が出現したのだという。力が強いうえに投石が銃弾のような威力を有する。数がそれなりにいるため、自警団では太刀打ち出来なかった。
どうしようかと思っていたところに、サチコがのこの……偶然にも遣って来たのだった。
もちろん、無償というわけではない。ハンターを読んだ場合の報酬も何とか捻出させた。それでも、ため息は出る。
「まぁ、仕方……ありませんわね」
名声の高まりは、厄介事を舞い込ませると誰かの格言にあっただろうか。
思考を切り替え、きりっとした表情で空を見上げる。ちらほら雪が見える中、サチコは思いっきり高笑いを上げた。
「はーはっはっは! ここから、ワルサー総帥の伝説が始まるのだぜ!」
そう、思うことにした。
王国北部ルサスール領……の少し西。
ウェルダン伯爵が治める領に、1人の少女がもふもっふになっていた。
羊毛で作られたセーターやらコートやらを多重に着こみ、もこもこしている少女の名はサチコ・W・ルサスール。ルサスール家の息女である。
彼女は新年を迎えて、一つの決意を固めていた。
「旅に出ますわ!」
ゴブリンとの戦いを終えた彼女の目に見えていたのは、王国内のことを知らないという事実であった。そして、カフェはサチコが止められないことを悟りつつあった。
だが、過保護だった。
「まずは旅の安全を年始に祈願してきなさい。あぁ、今は冬だから防寒をしっかりしないとな……タロ、ジロ! これとこれとこれとこれを……」
マフラーに手袋、多重のダウンコート……今回着なかったものを含めてカフェは大量の防寒着を寄越した。タロとジロが呆れる中、続けざまにカフェは手紙を取り出した。
「ウェルダン伯爵領に旅の安全を見守る精霊がいたはずだ。すぐ隣だし、ちょうどよかろう」
こうして、サチコはもふもふの状態でウェルダン領に来たのだった。
●
手紙を受け取ったウェルダン伯爵は、サチコを満面の笑みで迎え入れた。
「ようこそ! 先の戦いでのご活躍は、聞いております。なんでも超大型ゴブリン相手に一歩も劣らず、力勝負をしたとか」
「いえ、確かに倒しましたが……それは私だけの力ではありませんし力勝負は私じゃないです」
伯爵の笑みに嫌な予感がひしひしと沸き立ち、早口でサチコは否定する。
だが、伯爵は気にもせずに話を続けた。
「実は折り入って頼みたいことがございましてね」
「いや、その、私たちは精霊を参りに……」
「その祠への参道についてなのですよ、いやぁ、僥倖とはまさにこのこと!」
調子づく語りを打ち崩すだけの会話術を、サチコはまだ持ちあわせてはいない。
勢いづく伯爵の頼みを愛想笑いを浮かべて、受け入れるしかなかったのである。
●
伯爵の依頼はシンプルだった。
祠のある山道に大型の猿……おそらくは雑魔が出現したのだという。力が強いうえに投石が銃弾のような威力を有する。数がそれなりにいるため、自警団では太刀打ち出来なかった。
どうしようかと思っていたところに、サチコがのこの……偶然にも遣って来たのだった。
もちろん、無償というわけではない。ハンターを読んだ場合の報酬も何とか捻出させた。それでも、ため息は出る。
「まぁ、仕方……ありませんわね」
名声の高まりは、厄介事を舞い込ませると誰かの格言にあっただろうか。
思考を切り替え、きりっとした表情で空を見上げる。ちらほら雪が見える中、サチコは思いっきり高笑いを上げた。
「はーはっはっは! ここから、ワルサー総帥の伝説が始まるのだぜ!」
そう、思うことにした。
リプレイ本文
●
王国北部のとある山をもこもこした物体を中心にして、一団は歩いていた。
「サチコさん、あけましておめでとう」
天竜寺 詩(ka0396)はもこもこに、そう挨拶をした。もこもこも軽く一礼をしてをして、
「おめでとうですわ」と返す。そう、もこもここそ、サチコであった。
「お姉ちゃんは別の依頼に行ってるんだけど、サチコさんが心配だから見てきてって頼まれんたんだよ。今日はよろしくね」
詩はそういいながら、預かり物として猿の描かれた年賀状を手渡す。
サチコの表情が晴れやかになったかと思えば、猿の絵に少し気落ちする。
「お参りに来ただけなのに討伐を頼まれちゃったんですってね。いやー、名前が売れると大変ですね!」
「サチコさんの名声が高まったということなのでしょうが、それのによる負の面も出てきましたね」
ナナセ・ウルヴァナ(ka5497) とエルバッハ・リオン(ka2434)が、流れのままに討伐依頼を受けたサチコの気持ちを代弁する。
ナナセは、にひひと笑顔を浮かべていた。
「もう、冗談じゃありませんわ」とサチコは頬を膨らませる。
「まあ、ちゃっちゃと退治して用事を済ませちゃいましょう」
「えぇ、今回もよろしくお願いします」
宥めるナナセたちの後方から、
「単なる野生動物じゃなくて、歪虚化してるんですよね」
確認するようにコロラ・トゥーラ(ka5954)が尋ねた。
「えぇ、ゴブリンの次は雑魔でございますね」
昨年のゴブリンによる侵攻を思い出しながら、エリス・カルディコット(ka2572)が答える。
「本当……暇がございませんね」
ハンターとして仕事にあぶれないのは、食うに困らずよいのである。しかし、情勢としてはあまりよろしくないのも事実。複雑な心境が声色に漏れる。
「猿ならおとなしく温泉にでも浸かってりゃいいのになあ」
ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)がぼやく通り、今回の敵は猿だ。それも、こんな冬山である。温泉のほうがやりがいも出そうだ。
「うー、寒っ」
わるわるさーと元気に挨拶していた姿はどこへやら、体を震わす。
「なんですの?」
「いやぁ、なんでもないですよ」
視線に気づいたサチコが振り向く。ヴォーイの顔がにやけていた。
同じくナナセも頬が緩みっぱなしだ。
「それにしても、確かに冷えますけど……びっくりするくらいもっこもこですね」
「だから、なんですの!?」
「いや、かわいいですよ」
サチコが怪訝そうな表情を見せる中、
「もふもふ総帥だな……。親父さんか」
ぼそりと先頭を行くヴァイス(ka0364)が呟く。
あまりのもふもふぶりに、
「寒いので、もふもふサチコさんで暖を取って、もふもふしても良いですか?」
ぬっと近づいて、最上 風(ka0891)も抱きつくほどである。
あまりに暖かそうなので、エリスは「私も……」と羨ましく思う。
けれど、風に抱きつかれてサチコは転びそうだった。慌てて後ろからヴォーイが支えに入る。
「……いえ、動けなくなってしまいますね。諦めましょう」
次第に木々が増えてくる。
「……今のところは、何もありませんでしょうか」とエリスが呟く。
先頭を歩くヴァイスは、もしもの奇襲に気を張り始めていた。
「サチコさん、猿と目を合わせてはダメですよ。絶対ダメですよ、決してダメだすよ?」
高まる緊張とは裏腹に風は、サチコにそんな念押しをしていた。
サチコはもふられながら、ぎこちなく頷く。
自警団は奇襲を受けたとヴァイスは聞いていたが、道中にそのような事態は起こらなかった。警戒を怠らなかったためか、運が良かったのはわからない。しかし、おびき出す場所は四方を木々に覆われた小さな広場だ。どこから猿が出てきてもおかしくはない。
「猿の食性は……植物食傾向の強い雑食だったかしら」
コロラは植物の葉、草花、昆虫……等と指折り数える。
ハンターたちが持ってきた中から、使えそうなものでおびき出す。ナッツ等は火に炙って匂いを放つことにした。
「……っと」
コロラは袋にはちみつナッツを詰めて、矢で打ち込む。木の高い位置に置くことで、より強く誘引させるためだ。肉系も雑魔なら食べるかもしれないと用意はしているが……その一部を風は食べていた。
「誘き寄せようのエサが余ったので、食べますか?」
「今はいいですわ」
「そうですか。風は小腹がすいたので食べますがー」
もっちと食べながら風は告げる。
「冬山だと、木の実とか、山菜とかがないので、モチベーションが下がります」
「ところで、あのバナナボートは……?」
誘き寄せようの食べ物がバナナボートの側に置かれていた。冬山には浮く存在にサチコが首を傾げる。
「騙されるかもと思って」というのは詩だ。
そんなもので、とサチコは思う。だが、ヴォーイの愛犬が何かに気づいた。
「来たみたいだぞ」
目を細めて、ヴォーイが見やる。その先で枝葉が揺れ、わずかに猿の鳴き声がした。
何が効いたのかは不明だが、ともかくおびき出せたようだ。
「とりあえず、精一杯やらせてもらいましょうか」
コロラが弓を構え、ナナセが騎乗する。
気がついた時には、敵影が見えていた。
●
木々を跳び回りながら現れた猿どもは、出会い頭に石つぶてを投擲してきた。
最前列にいたヴァイスの前を、石の弾丸が抉る。
「早速か!」
ヴァイスは軽快なステップで弾丸を避け、前進を試みる。
詩がすかさずヴァイスへとプロテクションの光を纏わせていた。
「サチコさま、木の陰へ!」
傍らの木へサチコを誘導しつつ、ヴォーイは戦場を見渡す。
ヴァイスの向かった先とは別に、迫り来る影があった。すかさず連れて来ていたイヌワシに魔力を纏わせ、突撃させる。
猿は、迫り来るイヌワシから逃れ、木々を移動する。途中、コロラも瞳にマテリアルを込めて狙いをつけたが、すらりと躱された。
だが、ナナセが進路上を狙っていた。
矢から腕にかけ鳥を象ったオーラを浮かばせ、
「ちょっと派手めにいきますよー!」
声を上げて弓をひく。放たれた矢が弾雨となって、猿へ降り注いだ。
軽い悲鳴を上げ、ナナセへ向かって石を放つ。馬上で、一寸のところで避けてみせる。猿が憤りの声をさらにあげていた。
「落ちましたっ!」
「こちらも、落ちましたよ。狙いどきです」
エリスとエルが同時に告げる。エリスは弾幕を張り巡らし、猿を撃墜。エルはスリープクラウドを猿の跳躍した軌道上に飛ばし、眠り落としたのだ。
すかさず動こうとした面々に、エリスは前言を撤回する。
「……後方から葉が擦れる音……来ます」
「ビリーもご機嫌斜めみたいだぜ」
後方の木々から光る眼が複数、同時に石の弾丸が降り注ぐ。軽い傷を追いながらも、全員が持つべき相手を見やる。
そんな中、木から落ちた猿二匹が早くも目覚めようとしていた。
「落下の衝撃でしょうか。使いドコロは考えないといけませんね」
エルはひとりごち眉間にしわを寄せる。眠りから覚めた猿は地を駆け、向かってきた。そこへヴァイスが割って入る。
「おっと、ここは通行止めだ!」
上段から烈火の如く振り下ろされる渾身の一撃。頭部をかち割られた猿は、猛り狂って拳を放った。だが、ヴァイスの骨身には響かない。
胸部装甲でしっかりと受け止め、返す刃で切り伏せる。耳をつんざく叫びを上げて、猿の体が崩れ落ちる。
動かなくなったのを確認し、振り返る。
二匹の猿が、後方からサチコたちへと迫っていた。
●
エリスは他の動向を確認しつつ、最初に狙っていた猿を見据える。起き上がった瞬間を狙って、引き金を引く。冷気を纏った弾丸が、猿の中心部を抉る。
「動きがわかれば、容易いものですね」
「んんー……」
その近くでナナセが唸る。彼女のはなった矢は、金属が打ち合うような独特の音を上げつつ木を穿った。思ったより木の上にいる猿は機敏だ。
ナナセの攻撃を避けた猿をコロラが撃ち落とす。腕に矢を受けた猿は、枝を掴み損ない、地に落ちた。
起き上がりざまに更に一発、コロラの放った矢を避けて猿が跳ぶ。着地した地点で双頭の蛇が両の腕を食い破っていった。
「んんー、狙いばっちり!」
ナナセが倒れた猿を見定め、声を上げる。蛇の正体は、ナナセのマテリアルを込め放った矢であった。今度は仕留めたナナセは、にっと笑う。
そこへ飛来した石が肩を掠めた。
「まだ、油断できませんね」
残るは五匹。そのうち2匹は木々を渡り、サチコの隠れた木まで辿り着いていた。
「破ーーっ!」
すかさずヴォーイが大声を張り上げ、猿どもの視線を浴びる。かかってこいという仕草を示し、猿を誘う。降りてきたところを鋼製ヨーヨーを叩きつけ、サチコから引き離す。
猿の狙いがヴォーイに向く。すかさず詩がプロテクションでヴォーイを包み込む。
「サチコさん、猿と目を合わせないようにしてください。ついでに、風の帽子の目とも目を合わせちゃいけませんよー」
風の愛用する帽子の目玉付近が不意に光る。光の波動が、拡散し猿たちに襲いかかる。一体が波動に飲まれ、うめき声を上げた。
そこへ衝撃波が放たれる――ヴァイスだ。
「まったく、忙しない連中だ」
猿に睨みをきかせ、ヴァイスはサチコたちの元へ走る。
周囲に残る猿のうち二体を巻き込み、エルが爆炎を放つ。焔は猿だけを焦がし、すぐに立ち消える。叫びを上げて、反撃の石つぶてを放つ。連続する弾丸の一つがエルの腕をかすめた。
「一度、回復を」と詩がヒーリングスフィアを発動する。じわじわと削られていた体力が戻っていくのを感じる。詩に感謝しつつ。エルは猿に視線を戻した。
再度、エルは炎弾を撃ちこみ、猿とのにらみ合いが続く。
派手な戦闘の反対側では、コロラとナナセが一体の猿を追い込んでいた。
コロラが牽制するように矢を放ち、猿の動きを制する。続けざまに、ナナセが双頭の蛇矢を飛ばし脚を撃ちぬく。
「これで終わりにさせますっ!」
エリスがマテリアルを込め、高加速度射撃を行う。銃声が猿に聞こえるより前に、弾丸がその見を貫く。
同時に、エルの風刃が猿の一体を屠ってみせた。
残るは三体。うち一体は、エルへと怒り狂った瞳を向ける。石の弾丸がエルの頬をかすめたが、猿は全身を穿たれ前のめりに倒れた。
「言ったでしょう。終わりだって……」
エリスが呟き、視線を巡らす。残る二体も終わりが近づいていた。
サチコへ向かっていた猿は、逃げる姿勢を見せた。
すかさず光の波動が襲いかかる。無論、光は風の帽子にある目から放たれていた。
「逃しませんよ」
「その通り、逃しは……しないぜ」
距離を取ろうとした猿へ、ヴァイスが強く踏み出す。刺突した槍から真紅の光が放たれる。猿は腹部を突きぬかれ、慟哭しながら潰えた。
もう一体の背中へヴォーイが叫ぶ。
「頼むぜ、ビリー!」
地をかけ出した猿を、愛犬ビリーが魔力を帯びながら追いかける。脚を狙われ、猿はその場で転倒した。すぐにヴォーイ自身が追いつき、とどめを刺すした。
「はーい、終わったのでなるべく固まってくださいね―」
風が支持を出して詩とともに各々を回復させていく。戦いが終わった安堵感に、サチコがもこもこのままへたりこむのであった。
●
「そうだ。サチコさんにお正月の歌を教えてあげるよ」
猿との戰場から祠へ向かう道中、詩はサチコに提案した。
『年の初めの 例とて~ 終わり無き世の 目出度さを~』
教えてもらった歌を早速歌いながら、歩いて行く。やがて、目の前に古びた祠が姿を現した。
詩とともに二拝二拍手一拝で参拝をする。
「こうですね」とエリスやコロラも倣う。
「みなさんは、何を願われたのですか?」と顔を上げたエリスが問う。
サチコはルサスール領の繁栄と自身の旅の安全だという。
「私もサチコの旅の安全を祈ったよ」とナナセが告げる。
どこか申し訳無さそうな顔をするサチコに、ナナセは付け加える。
「もちろん、自分の一年がとびっきり楽しい物になるように、とも祈ったよ」
「それが一番ですわ」
サチコも大いに頷く。
ヴァイスは、「自分を含めた人々の息災と幸せ」だと臆面もなく告げた。サチコも見習わなければ、と決意を新たにする。
一方で風は、「一攫千金」や「不労所得」といつもの調子でいう。それもまた人の一面とサチコは思うのだった。
「タロさん&ジロさんは、どんな願をかけたのですか?」
風は戦いが終わってから駆けつけたサチコの従者へ声をかけた。タロとジロは無論、サチコ様の幸せだと述べた。
「そういえば、サチコは旅に出るんだったか? 実りあるいい旅になるといいな」
「えぇ、でも……」
「今回の退治で、さらにサチコさんの噂に尾ひれが付きそうですね―」
風の言葉にサチコは苦笑する。
そこへエルが進み出た。
「今年もよろしくお願いします」
「えぇ、よろしくですわ」
「差し出がましいかと思いましたが、これからのことについて進言してもいいでしょうか?」
エルの問いかけにサチコは頷いて答えた。
「これからの旅ですが、おそらく似たようなことが起きる可能性は高いと思われます」
ヴァイスもそうだろうな、とエルの側で頷く。
「ならば、無理に断ろうとするのではなく、名声を高めたり、人脈を築く手段として、逆に利用されてはいかがでしょうか」
「え、でも」
「なぁに、何かあれば俺らが駆けつけるぜ?」
サチコにヴォーイが快活な笑みを浮かべる。サチコも不承不承、そうしますわ、と答えた。実はサチコの交渉能力を懸念してのエルの進言だったが、そこは伏せたままにする。
一度参拝が終わると、ヴォーイはそのまま祠の掃除を始めた。何をしているのか尋ねるサチコに、
「後からくる住民とか精霊のために、掃除しておこうと思ってな。サチコさまもやるかい?」
「えぇ、せっかくですし」ともこもこの身体を動かし掃除をする。
今回の戦いで役立てなかった分、ここで働こうと張り切っていた。
「初夢にサチコさまたちが出てきたし、初詣も皆で来れた。いい年になりそうじゃねーか!」
ヴォーイはうんと頷き空を見上げる。
詩が持ってきたというおせちを突き、サチコたちは新年を改めて祝う。
今年はどのような年になるのか。
せめて平安であることを祈るばかりであった。
王国北部のとある山をもこもこした物体を中心にして、一団は歩いていた。
「サチコさん、あけましておめでとう」
天竜寺 詩(ka0396)はもこもこに、そう挨拶をした。もこもこも軽く一礼をしてをして、
「おめでとうですわ」と返す。そう、もこもここそ、サチコであった。
「お姉ちゃんは別の依頼に行ってるんだけど、サチコさんが心配だから見てきてって頼まれんたんだよ。今日はよろしくね」
詩はそういいながら、預かり物として猿の描かれた年賀状を手渡す。
サチコの表情が晴れやかになったかと思えば、猿の絵に少し気落ちする。
「お参りに来ただけなのに討伐を頼まれちゃったんですってね。いやー、名前が売れると大変ですね!」
「サチコさんの名声が高まったということなのでしょうが、それのによる負の面も出てきましたね」
ナナセ・ウルヴァナ(ka5497) とエルバッハ・リオン(ka2434)が、流れのままに討伐依頼を受けたサチコの気持ちを代弁する。
ナナセは、にひひと笑顔を浮かべていた。
「もう、冗談じゃありませんわ」とサチコは頬を膨らませる。
「まあ、ちゃっちゃと退治して用事を済ませちゃいましょう」
「えぇ、今回もよろしくお願いします」
宥めるナナセたちの後方から、
「単なる野生動物じゃなくて、歪虚化してるんですよね」
確認するようにコロラ・トゥーラ(ka5954)が尋ねた。
「えぇ、ゴブリンの次は雑魔でございますね」
昨年のゴブリンによる侵攻を思い出しながら、エリス・カルディコット(ka2572)が答える。
「本当……暇がございませんね」
ハンターとして仕事にあぶれないのは、食うに困らずよいのである。しかし、情勢としてはあまりよろしくないのも事実。複雑な心境が声色に漏れる。
「猿ならおとなしく温泉にでも浸かってりゃいいのになあ」
ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)がぼやく通り、今回の敵は猿だ。それも、こんな冬山である。温泉のほうがやりがいも出そうだ。
「うー、寒っ」
わるわるさーと元気に挨拶していた姿はどこへやら、体を震わす。
「なんですの?」
「いやぁ、なんでもないですよ」
視線に気づいたサチコが振り向く。ヴォーイの顔がにやけていた。
同じくナナセも頬が緩みっぱなしだ。
「それにしても、確かに冷えますけど……びっくりするくらいもっこもこですね」
「だから、なんですの!?」
「いや、かわいいですよ」
サチコが怪訝そうな表情を見せる中、
「もふもふ総帥だな……。親父さんか」
ぼそりと先頭を行くヴァイス(ka0364)が呟く。
あまりのもふもふぶりに、
「寒いので、もふもふサチコさんで暖を取って、もふもふしても良いですか?」
ぬっと近づいて、最上 風(ka0891)も抱きつくほどである。
あまりに暖かそうなので、エリスは「私も……」と羨ましく思う。
けれど、風に抱きつかれてサチコは転びそうだった。慌てて後ろからヴォーイが支えに入る。
「……いえ、動けなくなってしまいますね。諦めましょう」
次第に木々が増えてくる。
「……今のところは、何もありませんでしょうか」とエリスが呟く。
先頭を歩くヴァイスは、もしもの奇襲に気を張り始めていた。
「サチコさん、猿と目を合わせてはダメですよ。絶対ダメですよ、決してダメだすよ?」
高まる緊張とは裏腹に風は、サチコにそんな念押しをしていた。
サチコはもふられながら、ぎこちなく頷く。
自警団は奇襲を受けたとヴァイスは聞いていたが、道中にそのような事態は起こらなかった。警戒を怠らなかったためか、運が良かったのはわからない。しかし、おびき出す場所は四方を木々に覆われた小さな広場だ。どこから猿が出てきてもおかしくはない。
「猿の食性は……植物食傾向の強い雑食だったかしら」
コロラは植物の葉、草花、昆虫……等と指折り数える。
ハンターたちが持ってきた中から、使えそうなものでおびき出す。ナッツ等は火に炙って匂いを放つことにした。
「……っと」
コロラは袋にはちみつナッツを詰めて、矢で打ち込む。木の高い位置に置くことで、より強く誘引させるためだ。肉系も雑魔なら食べるかもしれないと用意はしているが……その一部を風は食べていた。
「誘き寄せようのエサが余ったので、食べますか?」
「今はいいですわ」
「そうですか。風は小腹がすいたので食べますがー」
もっちと食べながら風は告げる。
「冬山だと、木の実とか、山菜とかがないので、モチベーションが下がります」
「ところで、あのバナナボートは……?」
誘き寄せようの食べ物がバナナボートの側に置かれていた。冬山には浮く存在にサチコが首を傾げる。
「騙されるかもと思って」というのは詩だ。
そんなもので、とサチコは思う。だが、ヴォーイの愛犬が何かに気づいた。
「来たみたいだぞ」
目を細めて、ヴォーイが見やる。その先で枝葉が揺れ、わずかに猿の鳴き声がした。
何が効いたのかは不明だが、ともかくおびき出せたようだ。
「とりあえず、精一杯やらせてもらいましょうか」
コロラが弓を構え、ナナセが騎乗する。
気がついた時には、敵影が見えていた。
●
木々を跳び回りながら現れた猿どもは、出会い頭に石つぶてを投擲してきた。
最前列にいたヴァイスの前を、石の弾丸が抉る。
「早速か!」
ヴァイスは軽快なステップで弾丸を避け、前進を試みる。
詩がすかさずヴァイスへとプロテクションの光を纏わせていた。
「サチコさま、木の陰へ!」
傍らの木へサチコを誘導しつつ、ヴォーイは戦場を見渡す。
ヴァイスの向かった先とは別に、迫り来る影があった。すかさず連れて来ていたイヌワシに魔力を纏わせ、突撃させる。
猿は、迫り来るイヌワシから逃れ、木々を移動する。途中、コロラも瞳にマテリアルを込めて狙いをつけたが、すらりと躱された。
だが、ナナセが進路上を狙っていた。
矢から腕にかけ鳥を象ったオーラを浮かばせ、
「ちょっと派手めにいきますよー!」
声を上げて弓をひく。放たれた矢が弾雨となって、猿へ降り注いだ。
軽い悲鳴を上げ、ナナセへ向かって石を放つ。馬上で、一寸のところで避けてみせる。猿が憤りの声をさらにあげていた。
「落ちましたっ!」
「こちらも、落ちましたよ。狙いどきです」
エリスとエルが同時に告げる。エリスは弾幕を張り巡らし、猿を撃墜。エルはスリープクラウドを猿の跳躍した軌道上に飛ばし、眠り落としたのだ。
すかさず動こうとした面々に、エリスは前言を撤回する。
「……後方から葉が擦れる音……来ます」
「ビリーもご機嫌斜めみたいだぜ」
後方の木々から光る眼が複数、同時に石の弾丸が降り注ぐ。軽い傷を追いながらも、全員が持つべき相手を見やる。
そんな中、木から落ちた猿二匹が早くも目覚めようとしていた。
「落下の衝撃でしょうか。使いドコロは考えないといけませんね」
エルはひとりごち眉間にしわを寄せる。眠りから覚めた猿は地を駆け、向かってきた。そこへヴァイスが割って入る。
「おっと、ここは通行止めだ!」
上段から烈火の如く振り下ろされる渾身の一撃。頭部をかち割られた猿は、猛り狂って拳を放った。だが、ヴァイスの骨身には響かない。
胸部装甲でしっかりと受け止め、返す刃で切り伏せる。耳をつんざく叫びを上げて、猿の体が崩れ落ちる。
動かなくなったのを確認し、振り返る。
二匹の猿が、後方からサチコたちへと迫っていた。
●
エリスは他の動向を確認しつつ、最初に狙っていた猿を見据える。起き上がった瞬間を狙って、引き金を引く。冷気を纏った弾丸が、猿の中心部を抉る。
「動きがわかれば、容易いものですね」
「んんー……」
その近くでナナセが唸る。彼女のはなった矢は、金属が打ち合うような独特の音を上げつつ木を穿った。思ったより木の上にいる猿は機敏だ。
ナナセの攻撃を避けた猿をコロラが撃ち落とす。腕に矢を受けた猿は、枝を掴み損ない、地に落ちた。
起き上がりざまに更に一発、コロラの放った矢を避けて猿が跳ぶ。着地した地点で双頭の蛇が両の腕を食い破っていった。
「んんー、狙いばっちり!」
ナナセが倒れた猿を見定め、声を上げる。蛇の正体は、ナナセのマテリアルを込め放った矢であった。今度は仕留めたナナセは、にっと笑う。
そこへ飛来した石が肩を掠めた。
「まだ、油断できませんね」
残るは五匹。そのうち2匹は木々を渡り、サチコの隠れた木まで辿り着いていた。
「破ーーっ!」
すかさずヴォーイが大声を張り上げ、猿どもの視線を浴びる。かかってこいという仕草を示し、猿を誘う。降りてきたところを鋼製ヨーヨーを叩きつけ、サチコから引き離す。
猿の狙いがヴォーイに向く。すかさず詩がプロテクションでヴォーイを包み込む。
「サチコさん、猿と目を合わせないようにしてください。ついでに、風の帽子の目とも目を合わせちゃいけませんよー」
風の愛用する帽子の目玉付近が不意に光る。光の波動が、拡散し猿たちに襲いかかる。一体が波動に飲まれ、うめき声を上げた。
そこへ衝撃波が放たれる――ヴァイスだ。
「まったく、忙しない連中だ」
猿に睨みをきかせ、ヴァイスはサチコたちの元へ走る。
周囲に残る猿のうち二体を巻き込み、エルが爆炎を放つ。焔は猿だけを焦がし、すぐに立ち消える。叫びを上げて、反撃の石つぶてを放つ。連続する弾丸の一つがエルの腕をかすめた。
「一度、回復を」と詩がヒーリングスフィアを発動する。じわじわと削られていた体力が戻っていくのを感じる。詩に感謝しつつ。エルは猿に視線を戻した。
再度、エルは炎弾を撃ちこみ、猿とのにらみ合いが続く。
派手な戦闘の反対側では、コロラとナナセが一体の猿を追い込んでいた。
コロラが牽制するように矢を放ち、猿の動きを制する。続けざまに、ナナセが双頭の蛇矢を飛ばし脚を撃ちぬく。
「これで終わりにさせますっ!」
エリスがマテリアルを込め、高加速度射撃を行う。銃声が猿に聞こえるより前に、弾丸がその見を貫く。
同時に、エルの風刃が猿の一体を屠ってみせた。
残るは三体。うち一体は、エルへと怒り狂った瞳を向ける。石の弾丸がエルの頬をかすめたが、猿は全身を穿たれ前のめりに倒れた。
「言ったでしょう。終わりだって……」
エリスが呟き、視線を巡らす。残る二体も終わりが近づいていた。
サチコへ向かっていた猿は、逃げる姿勢を見せた。
すかさず光の波動が襲いかかる。無論、光は風の帽子にある目から放たれていた。
「逃しませんよ」
「その通り、逃しは……しないぜ」
距離を取ろうとした猿へ、ヴァイスが強く踏み出す。刺突した槍から真紅の光が放たれる。猿は腹部を突きぬかれ、慟哭しながら潰えた。
もう一体の背中へヴォーイが叫ぶ。
「頼むぜ、ビリー!」
地をかけ出した猿を、愛犬ビリーが魔力を帯びながら追いかける。脚を狙われ、猿はその場で転倒した。すぐにヴォーイ自身が追いつき、とどめを刺すした。
「はーい、終わったのでなるべく固まってくださいね―」
風が支持を出して詩とともに各々を回復させていく。戦いが終わった安堵感に、サチコがもこもこのままへたりこむのであった。
●
「そうだ。サチコさんにお正月の歌を教えてあげるよ」
猿との戰場から祠へ向かう道中、詩はサチコに提案した。
『年の初めの 例とて~ 終わり無き世の 目出度さを~』
教えてもらった歌を早速歌いながら、歩いて行く。やがて、目の前に古びた祠が姿を現した。
詩とともに二拝二拍手一拝で参拝をする。
「こうですね」とエリスやコロラも倣う。
「みなさんは、何を願われたのですか?」と顔を上げたエリスが問う。
サチコはルサスール領の繁栄と自身の旅の安全だという。
「私もサチコの旅の安全を祈ったよ」とナナセが告げる。
どこか申し訳無さそうな顔をするサチコに、ナナセは付け加える。
「もちろん、自分の一年がとびっきり楽しい物になるように、とも祈ったよ」
「それが一番ですわ」
サチコも大いに頷く。
ヴァイスは、「自分を含めた人々の息災と幸せ」だと臆面もなく告げた。サチコも見習わなければ、と決意を新たにする。
一方で風は、「一攫千金」や「不労所得」といつもの調子でいう。それもまた人の一面とサチコは思うのだった。
「タロさん&ジロさんは、どんな願をかけたのですか?」
風は戦いが終わってから駆けつけたサチコの従者へ声をかけた。タロとジロは無論、サチコ様の幸せだと述べた。
「そういえば、サチコは旅に出るんだったか? 実りあるいい旅になるといいな」
「えぇ、でも……」
「今回の退治で、さらにサチコさんの噂に尾ひれが付きそうですね―」
風の言葉にサチコは苦笑する。
そこへエルが進み出た。
「今年もよろしくお願いします」
「えぇ、よろしくですわ」
「差し出がましいかと思いましたが、これからのことについて進言してもいいでしょうか?」
エルの問いかけにサチコは頷いて答えた。
「これからの旅ですが、おそらく似たようなことが起きる可能性は高いと思われます」
ヴァイスもそうだろうな、とエルの側で頷く。
「ならば、無理に断ろうとするのではなく、名声を高めたり、人脈を築く手段として、逆に利用されてはいかがでしょうか」
「え、でも」
「なぁに、何かあれば俺らが駆けつけるぜ?」
サチコにヴォーイが快活な笑みを浮かべる。サチコも不承不承、そうしますわ、と答えた。実はサチコの交渉能力を懸念してのエルの進言だったが、そこは伏せたままにする。
一度参拝が終わると、ヴォーイはそのまま祠の掃除を始めた。何をしているのか尋ねるサチコに、
「後からくる住民とか精霊のために、掃除しておこうと思ってな。サチコさまもやるかい?」
「えぇ、せっかくですし」ともこもこの身体を動かし掃除をする。
今回の戦いで役立てなかった分、ここで働こうと張り切っていた。
「初夢にサチコさまたちが出てきたし、初詣も皆で来れた。いい年になりそうじゃねーか!」
ヴォーイはうんと頷き空を見上げる。
詩が持ってきたというおせちを突き、サチコたちは新年を改めて祝う。
今年はどのような年になるのか。
せめて平安であることを祈るばかりであった。
依頼結果
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相談卓 ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613) 人間(クリムゾンウェスト)|27才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/01/17 13:52:04 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/14 17:55:22 |