ゲスト
(ka0000)
登山ダイエットにご協力くださいっ
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/15 09:00
- 完成日
- 2014/08/19 03:47
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
その男は、デ……ふくよかであった。
名前は、フルフル・クリカエース。この辺りを治めるクリカエース一族で、最もふくよかだといわれている。
よく震えるお腹を弄びながら、フルフルは執事長にふと漏らした。
「痩せたい」
「ほぅ……御主人様もそのようなことをおっしゃるのですね」
少し嫌味を含めつつ、執事長は主人の言葉に耳を傾ける。
「それは、もう。親戚の家に行くたびに、どこか視線が気になるからな」
嘆息しながら、フルフルは自分の腹をぐにぐにと摘んでみる。はしたないですよと執事長に窘められ、手を離して再度嘆息した。
「はぁ。そうだなぁ。近くの山にでも登って、鍛えるとするかな」
突飛な提案に、執事長は目を丸くする。
「いきなり、山というのはいささか厳しくありませんか?」
「いや、どうせなら少し上を目指そうではないか!」
執事長に婉曲的な無理宣言をされたと思ったのか、フルフルは意を決したように立ち上がった。床がにわかに振動したような気がしたが、気のせいだろう。
「早速、ノボレン山にハイキングと洒落込もうではないか」
思うが吉日、やるが吉日。
そんな行動力を持つフルフルは、執事長に早速ハイキングの手配をするように言いつける。こうなっては、梃子でも動かない。いや、もとより物理的に動かないのはいうまでもない。
執事長は、フルフルを自室へ送り届けると、すぐに使いの者を出した。
まずは、ノボレン山についての最新情報を集めなければならないからだ。
ノボレン山。
名前からして険しそうな山だが、実際はそうでもない。穏やかな斜面であるし、山頂までの道がある程度確保されている。
なぜなら、山の上にはクリカエース一族の一人が作った社があるためだ。その社は、クリカエースの者が何か決心をすると訪れることで知られていた。
ただし、道中が必ずしも安全とは限らない。
人里離れた山を日頃から警らする必要はないからだ。
野生動物しかり、野盗しかり、落石や落木がないとも限らない。
そこで、使いの者を出したわけである。
「どうだった?」
帰ってきたものに尋ねると、やはりその辺りの危険は拭えないのだという。
かといって、フルフルの気が変わるのを待つ訳にはいかない。執事長としては、こういうアグレッシブに動いてくれる時に動いてほしいからだ。
かといって、使用人がついていくわけにもいかない。それぞれが、それぞれの仕事をこなさなければならないからだ。執事ならば、同行できるものの襲われては勝てると思えない。
「仕方がない。外部の者を雇うとするかな」
使いの者は返ってくると同時に、使いに出されるのだった。
その男は、デ……ふくよかであった。
名前は、フルフル・クリカエース。この辺りを治めるクリカエース一族で、最もふくよかだといわれている。
よく震えるお腹を弄びながら、フルフルは執事長にふと漏らした。
「痩せたい」
「ほぅ……御主人様もそのようなことをおっしゃるのですね」
少し嫌味を含めつつ、執事長は主人の言葉に耳を傾ける。
「それは、もう。親戚の家に行くたびに、どこか視線が気になるからな」
嘆息しながら、フルフルは自分の腹をぐにぐにと摘んでみる。はしたないですよと執事長に窘められ、手を離して再度嘆息した。
「はぁ。そうだなぁ。近くの山にでも登って、鍛えるとするかな」
突飛な提案に、執事長は目を丸くする。
「いきなり、山というのはいささか厳しくありませんか?」
「いや、どうせなら少し上を目指そうではないか!」
執事長に婉曲的な無理宣言をされたと思ったのか、フルフルは意を決したように立ち上がった。床がにわかに振動したような気がしたが、気のせいだろう。
「早速、ノボレン山にハイキングと洒落込もうではないか」
思うが吉日、やるが吉日。
そんな行動力を持つフルフルは、執事長に早速ハイキングの手配をするように言いつける。こうなっては、梃子でも動かない。いや、もとより物理的に動かないのはいうまでもない。
執事長は、フルフルを自室へ送り届けると、すぐに使いの者を出した。
まずは、ノボレン山についての最新情報を集めなければならないからだ。
ノボレン山。
名前からして険しそうな山だが、実際はそうでもない。穏やかな斜面であるし、山頂までの道がある程度確保されている。
なぜなら、山の上にはクリカエース一族の一人が作った社があるためだ。その社は、クリカエースの者が何か決心をすると訪れることで知られていた。
ただし、道中が必ずしも安全とは限らない。
人里離れた山を日頃から警らする必要はないからだ。
野生動物しかり、野盗しかり、落石や落木がないとも限らない。
そこで、使いの者を出したわけである。
「どうだった?」
帰ってきたものに尋ねると、やはりその辺りの危険は拭えないのだという。
かといって、フルフルの気が変わるのを待つ訳にはいかない。執事長としては、こういうアグレッシブに動いてくれる時に動いてほしいからだ。
かといって、使用人がついていくわけにもいかない。それぞれが、それぞれの仕事をこなさなければならないからだ。執事ならば、同行できるものの襲われては勝てると思えない。
「仕方がない。外部の者を雇うとするかな」
使いの者は返ってくると同時に、使いに出されるのだった。
リプレイ本文
●
「ふむ。これはいいものが、ありますね」
ノボレン山の麓、登山道の入口でジョン・フラム(ka0786)がしゃがみこんでいた。
インバネスコートを羽織り、革靴を履いていた。暑苦しい足元にある野草を摘み取っているようだ。
「趣味の薬草採集です。この山はよさそうなものがありそうですね」
執事の何をしているのかという問いかけにジョンはそう答えていた。
「これがノボレン山」
トレイシー・ヴィッカー(ka1208)は目の前にそびえる山を見上げていた。
「私も最近ちょっと二の腕が気になってたから丁度いい……いえ、何でも無いです、ふふっ」
ひとりごとをかき消し、視線を送ってきたフルフルと執事に笑いかける。執事にフルフルについて、聞こうとトレイシーは近づいていく。そのとき、フルフルのところへフィリテ・ノート(ka0810)とメリエ・フリョーシカ(ka1991)が挨拶にきた。
「今回は、よろしくお願いするわね」
「本日はご依頼頂きありがとうございます! 宜しくお願いしますねフルフル様!」
笑顔で挨拶する彼女たちにフルフルは頷いて答える。
その表情は、登山への不安がありありと伺えた。
「あたしも山を登るの初めてだから、大丈夫よ。のんびりいきましょ♪」
フィリテは楽しげに告げる。フルフルは緊張した面持ちで、ゆっくりと頷いた。
そこへルキハ・ラスティネイル(ka2633)がやってくる。
「フルフルちゃんに先に確認しておきたいことがわるわ」
「な、何だ」
「あなた、痩せてどうなりたいのかしら」
単刀直入な質問にフルフルは言葉を詰まらせる。
「痩せたらイイ男になるかもしれないし、それを目標にしてもいいかもねぇ」
さりげなく持ち上げてみると、フルフルはわかりやすく表情を明るくした。
「うむ。イイ男……よい響きだ。して、主は何をしておる?」
周囲を歩きまわるマキリ・エラ(ka2809)に、問いかける。
「んー、ちょっと触っちゃダメか?」
どうやらマキリは、フルフルの震えるお腹に興味津々のようだ。
いきなりの物言いに、抑えようとした者を制してフルフルは許可を出してあげた。マキリはことさら楽しげに、震えるお腹に飛びついていく。触ると同時に、感嘆の声を上げた。
「すげーな、ブルブルしてんな!」
マキリは、見るからに嬉しそうだった。
「このブルブルをなくすべく、今日は頑張るのだ」
「よし、男が一旦口に出したからには、途中でやめたりすんじゃねーぞ?」
決意を新たにするフルフルの肩を、ボルディア・コンフラムス(ka0796)が叩く。
「さぁ! 社目指してレッツゴーですよフルフル様!」
決意が変わらないうちに、メリエがはっぱをかける。拳を突き上げ、気合を入れたところで山登りが始まった。
●
「おいら道わっかんねーしな! フルフルが先に行ってくれた方が助かるな!」
そういうマキリの前をフルフルと執事が歩いていた。
執事の反対側には、フィリテが歩調を合わして世間話をしていた。
「フルフルさんも領主として大変なのね」
領主としての愚痴を聞いたり、好きな食べ物について延々と聞かされる。
時折、危険な情報をいわれそうになったときは、
「それより、フルフルさん。お肉の焼き加減は何が好きなの?」
とやんわり方向を変えてみる。事前調査通り、食べ物の話なら気にせず食いつくのだ。
そのとき、ボルディアは周囲を見渡していた。
「こういう山歩いてると、結構野生動物に遭うことは少なくねぇんだよな」
フルフルには聞こえないよう、マキリの隣まで下がりながらいう。
不意に、草むらが擦れるような音が耳に入ってきた。
「そうそう、こういう風にガサガサーって音がして振り返るとそこには……」
熊がいた。
途端に、声にならない悲鳴をフルフルがあげてしまう。
「おいてめぇフルフル、叫んで注意ひいてんじゃねえ! こっち来んだろうが!」
時すでに遅し、二体の熊が相次いで草むらから姿を現した。
「でっけー声だな! おいらも気合入れるぜー!」
マキリがのんきに声を上げながら、牽制の魔法を放つ。
「いくぜー! おー、りゃー!」
なおも叫びを上げ続けるフルフルを、トレイシーが庇い立てつつ頂上方面へ押しやる。
「雄叫びをあげて熊の注意をそらすとは、やはり民の上に立つお方は違う」
近づいてきたジョンがさりげなく、フルフルを持ち上げておく。
「さすがはクリカエース一族の方ですね」
トレイシーがのっかって褒めていると、叫び声がおさまってきた。
注意がそれていた熊へ、
「どうしたクマ! こっち見ろクマ!」
ハリセン片手にメリエが突貫する。痛い音が鳴り響く。
「頑張れよクマ! やれるやれる気持ちの問題だクマ!」
シッチャカメッチャカハリセンを叩き込む。
「早く帰らねーとクマ鍋にして食っちゃうぜ! そりゃそりゃー!」
グレイブに持ち替えたマキリとボルディアも熊を追い返すように、近接戦闘を仕掛けていく。
「大丈夫だクマ! お前はやれば出来るクマ!」
訳の分からない情熱をひたすら熊にぶつけていたメリエへ、
「その辺にしておきなさぁい」
とルキハの注意が飛ぶ。
三人が武器を収めると、ほうぼうの体で熊は退散していった。
もとより、殺すような相手ではないのだ。
「この辺はあぶねーからさっさと登っちゃおうぜ!」
マキリの言葉に、真っ先に登り始めたのはフルフルであった。
●
「雄叫びをあげて熊の注意をそらすとは、やはり民の上に立つお方は違う」
ジョンに持ち上げられ、何とか気を持ち直したフルフルであった。
しかし、次の難所が近づいていた。
切り立った場所に差し掛かると、それとなくフィリテは崖側へ移動していた。
「ああ、こっからはガケなのか」
簡素な木の柵から、ボルディアは身を乗り出して下を見る。
木々がところどころに生えているが、おおよそ真っ逆さまのようだ。
「気をつけろよ。足踏み外したら落ちて、痩せるどころか太ることすらでき……」
注意を促そうとしたボルディアの目の前で、フルフルがよろめいた。
バキッと軽快な音を鳴らして、姿が消えかかる。
「……ってだからホントに落ちてんじゃねえよクソが!」
慌てて、駆け寄るとその腕をつかむ。
「ファイトオオオオオオォォォ!」
「フルフルさん、ここを超えればご飯だよ」
近くにいたフィリテが、ボルディアに手を貸す。
「そうだ、がんばれー!」
その後ろでは、マキリが声援を送っていた。
「ちょっとは自分の力で登れぇええ!」
ボルディアの鋭い鼓舞に、大慌てでフルフルは近場の石をつかむ。
それを支えとして、マキリも手を貸し一気に引き上げた。
「危なかったけどよく頑張ったなー!」
マキリの言葉に、ぜぇぜぇという声だけで答える。
気が萎えそうになっているように見え、すかさずジョンがフォローに入る。
「我々を案じて、率先して滑りやすい場所を歩いてくださったんですね」
引くに引けない性格がわざわいし、フルフルはもちろんだと答えてしまう。
「お? なんかちょっとだけヤセてきたかもしんないぞ! アゴのあたりとか!」
そんなわけないのだが、マキリの言葉に気力が少し戻ったようだった。
ボルディアに支えられつつ、やっと中間地点まで辿り着くことができた。
●
どうしてからあげを持ってくる人間がこんなにいるのだろう。
執事がそう思う中、弁当の中身交換が行われていたりしていた。トレイシーとフィリテの弁当は、リアルブルーは日本という地域の伝統的なお弁当だ。
二人のそばで、ひたすら蒸し芋を食べるマキリの姿があった。
豪快な食べっぷりに見とれていると、
「お、食うか?」
と芋を差し出してきた。おずおずと近づいて、フィリテはおかずを一つ差し出す。
「それなら、交換しましょ♪ どうぞ、あんまり上手に作れてないと思うけど」
「うまいぜ」
美味しそうに食べるマキリに、ボルディアも肉を差し出す。
「芋ばかりじゃなく、肉食わないとだな」
そんなボルディアの弁当に、菜食弁当のフルフルが羨望の眼差しを送る。
「いんだよ、俺はトレーニングしてっからこれぐらい食っても」
「少しは野菜も食べなきゃだめよ。それと、水分ね」
ルキハがそっと注意し、水を受け渡す。
わかっているよと肩をすくめて、わずかばかりの野菜をつまむ。
少し落ち着いてきた頃合いで、
「……もう帰りたい」
フルフルが疲れた表情でいっていた。なお、ご飯はしっかり食べていた。
執事が慌ててフォローせよとの指令を送る。
「ねぇ、最初にも聞いたけれど、フルフルちゃんはどうして山を登ろうと……痩せようと決意したのかしら?」
ルキハの問いかけに、フルフルは親戚の集まりのことを語る。自分でも太りすぎだと気づいているのだと、淡々と述べていく。
それが、性格や仕事にも影響を与えているのだと何となく感じるのだという。
ありのままを語るフルフルを、ルキハはまっすぐと見据えて聞いていた。
「自分を変えるのは自分自身しかないの。自分で決めた事、何か一つくらいやり遂げてみなさいよ。そうしたら、性格や仕事も今まで以上にできるはずよ」
本当かと視線で問いかけるフルフルに、ルキハは大きく頷いてみせた。
「それに……山頂からの景色、きっと綺麗よ?」
ルキハの励ましに気力が戻っていく。
「これを服用して運動すれば、一気に体が引き締まること請け合いです。もう少しだけがんばりましょう」
ジョンがすっと取り出した生薬を飲み、俄然やる気を出す。執事が効果の程を聞いたところ、調合もせずに効果はあまりないとそっと教えてくれた。要は気の持ちようなのだという。
「さて、それじゃあ、残りの山道も気合入れていきましょう!」
メリエが号令をかけ、山登りが再開されるのだった。
●
「へい、有り金全部置いていきな!」
「ほい、有り金全部捨てていきな!」
出鼻をくじくかのように、空気の読めない盗賊たちがそこにいた。
再び悲鳴を上げるフルフルが逃げないように、トレイシーが手を取り、ボルディアとジョンが立ち位置を変える。
ジョンは動物霊の力を借りて、素早くフルフルが変な方向へ向かわないよう立ちまわっていた。
「おいおい、抵抗……」
盗賊が何か言おうとしたそのとき、スパーンっという素晴らしい快音が鳴り響いた。
メリエがグッと踏み込んでからの、ハリセンを見舞ったのだ。顎を振りぬかれ、一瞬動きを止めた盗賊にメリエは向き直る。
「ドーモ、野盗=サン。メリエです」
お辞儀からの挨拶。
「慈悲はない。命だけは助けてやるからお前ら潰れろ」
すっと言ってのけるメリエの言葉が聞こえないよう、スススっとフルフルを頂上方向へ押しやっていく。
頂上側へ移動できたところで、ジョンがトレイシーに目配せした。
「さあ、こちらへ」
掴んだ手を引っ張り、トレイシーはフルフルを連れて駆け出す。
盗賊が弓に手をかけたのを見て、盾を構える。
「あなたの事は私たちが必ず守ります」
ぜいぜいひいひいと声が聞こえる。
「社に決意を報告するのでしょう? しっかりして下さい」
メリエの激励に、フルフルはなんとかかんとか足を踏み出していった。
執事がそれに続いたのを確認し、ボルディアとフィリテが道を塞ぐ。複数人の盗賊が弓を持ち、残りは短刀を手に切りかかってくる。
「選べ。牢屋で強制労働して生きるか、クマの餌になるか」
末恐ろしい話であるが、メリエは皮鎧を纏った盗賊に構わずハリセンで勝負を挑んでいた。グッと踏み込んでからの快音に、盗賊は打ち倒される。
道を超えそうになる矢はボルディアがはたき落とし、その側でマキリとフィリテが光の矢を放っていた。数でわずかに勝る程度では、盗賊に勝ち目はない。ルキハとジョンが倒れた盗賊を次から次へと縛り上げていく。
瞬く間に、盗賊団は狩られつくされていた。
メリエは、戦いが終わると頂上を望んでグッとガッツポーズを決める。
「フルフル様、がんば!」
●
「もうすぐ頂上ですよ」
トレイシーに連れられ頂上を目指すフルフルのもとへ、盗賊団を倒したハンターが追いつく。
「ほら、追いついた。支えてやるから、頑張りな」
「やりきった後のご飯は、美味しいよ」
ボルディアに尻を叩かれ、フィリテに励まされながら一歩一歩進んでいく。
ぐっと坂道から平坦な場所へ踏み出したところで、社が目の前に現れた。
「おつかれさまだなー!」
マキリが笑顔でバンザイをする。フルフルは乱れた息をボルディアたちに整えさせられると、社に向き合った。
何事かを報告し、祈りを捧げると山からの眺望に見惚れる。
登り切ったものだけが見れる景色に、フィリテやトレイシーも心を動かされていた。
「よく食ってよく運動すれば、ヤセるのなんてあっという間だな!」
うんうんと頷くマキリの発言に、フルフルがえぇと答えた。
そこには、最初の姿とは違うフルフルがいた。
「さて、降りるとするか」
「あ」
ボルディアの発言に、思わず声を漏らす。同じ道を下るのだと思うと、また最初の感じに戻りそうになっていた。
「ここまで来られたのです。大丈夫ですよ」
「降りたら夕食時よ。美味しいご飯が待ってるよ」
トレイシーとフィリテの発言に支えられ、物理的にはボルティアやマキリにも助けられ下山していく。
降りた先では、盗賊団を引き渡すべく先に下山したジョンとメリエ、そしてルキハが待っていた。
「その顔、やりきれたみたいねぇ」
「フルフル様、頑張りましたね!」
ルキハはフルフルの表情に、違いを見て取った。メリエも追随して、笑顔で答える。
「盗賊団は、自警団に引き渡しました。しばらくは、大丈夫でしょう」
ジョンが報告を果たす。
フルフルは領主の顔になって、ハンターたちに感謝の礼を述べる。ぷるぷると震えるお腹は、まだまだ健在だ。だが、多くの支えによって彼のダイエットはきっと成功する……だろう。おそらく、たぶん、きっと。
夕暮れ時の空の下、切に思う一同であった。
「ふむ。これはいいものが、ありますね」
ノボレン山の麓、登山道の入口でジョン・フラム(ka0786)がしゃがみこんでいた。
インバネスコートを羽織り、革靴を履いていた。暑苦しい足元にある野草を摘み取っているようだ。
「趣味の薬草採集です。この山はよさそうなものがありそうですね」
執事の何をしているのかという問いかけにジョンはそう答えていた。
「これがノボレン山」
トレイシー・ヴィッカー(ka1208)は目の前にそびえる山を見上げていた。
「私も最近ちょっと二の腕が気になってたから丁度いい……いえ、何でも無いです、ふふっ」
ひとりごとをかき消し、視線を送ってきたフルフルと執事に笑いかける。執事にフルフルについて、聞こうとトレイシーは近づいていく。そのとき、フルフルのところへフィリテ・ノート(ka0810)とメリエ・フリョーシカ(ka1991)が挨拶にきた。
「今回は、よろしくお願いするわね」
「本日はご依頼頂きありがとうございます! 宜しくお願いしますねフルフル様!」
笑顔で挨拶する彼女たちにフルフルは頷いて答える。
その表情は、登山への不安がありありと伺えた。
「あたしも山を登るの初めてだから、大丈夫よ。のんびりいきましょ♪」
フィリテは楽しげに告げる。フルフルは緊張した面持ちで、ゆっくりと頷いた。
そこへルキハ・ラスティネイル(ka2633)がやってくる。
「フルフルちゃんに先に確認しておきたいことがわるわ」
「な、何だ」
「あなた、痩せてどうなりたいのかしら」
単刀直入な質問にフルフルは言葉を詰まらせる。
「痩せたらイイ男になるかもしれないし、それを目標にしてもいいかもねぇ」
さりげなく持ち上げてみると、フルフルはわかりやすく表情を明るくした。
「うむ。イイ男……よい響きだ。して、主は何をしておる?」
周囲を歩きまわるマキリ・エラ(ka2809)に、問いかける。
「んー、ちょっと触っちゃダメか?」
どうやらマキリは、フルフルの震えるお腹に興味津々のようだ。
いきなりの物言いに、抑えようとした者を制してフルフルは許可を出してあげた。マキリはことさら楽しげに、震えるお腹に飛びついていく。触ると同時に、感嘆の声を上げた。
「すげーな、ブルブルしてんな!」
マキリは、見るからに嬉しそうだった。
「このブルブルをなくすべく、今日は頑張るのだ」
「よし、男が一旦口に出したからには、途中でやめたりすんじゃねーぞ?」
決意を新たにするフルフルの肩を、ボルディア・コンフラムス(ka0796)が叩く。
「さぁ! 社目指してレッツゴーですよフルフル様!」
決意が変わらないうちに、メリエがはっぱをかける。拳を突き上げ、気合を入れたところで山登りが始まった。
●
「おいら道わっかんねーしな! フルフルが先に行ってくれた方が助かるな!」
そういうマキリの前をフルフルと執事が歩いていた。
執事の反対側には、フィリテが歩調を合わして世間話をしていた。
「フルフルさんも領主として大変なのね」
領主としての愚痴を聞いたり、好きな食べ物について延々と聞かされる。
時折、危険な情報をいわれそうになったときは、
「それより、フルフルさん。お肉の焼き加減は何が好きなの?」
とやんわり方向を変えてみる。事前調査通り、食べ物の話なら気にせず食いつくのだ。
そのとき、ボルディアは周囲を見渡していた。
「こういう山歩いてると、結構野生動物に遭うことは少なくねぇんだよな」
フルフルには聞こえないよう、マキリの隣まで下がりながらいう。
不意に、草むらが擦れるような音が耳に入ってきた。
「そうそう、こういう風にガサガサーって音がして振り返るとそこには……」
熊がいた。
途端に、声にならない悲鳴をフルフルがあげてしまう。
「おいてめぇフルフル、叫んで注意ひいてんじゃねえ! こっち来んだろうが!」
時すでに遅し、二体の熊が相次いで草むらから姿を現した。
「でっけー声だな! おいらも気合入れるぜー!」
マキリがのんきに声を上げながら、牽制の魔法を放つ。
「いくぜー! おー、りゃー!」
なおも叫びを上げ続けるフルフルを、トレイシーが庇い立てつつ頂上方面へ押しやる。
「雄叫びをあげて熊の注意をそらすとは、やはり民の上に立つお方は違う」
近づいてきたジョンがさりげなく、フルフルを持ち上げておく。
「さすがはクリカエース一族の方ですね」
トレイシーがのっかって褒めていると、叫び声がおさまってきた。
注意がそれていた熊へ、
「どうしたクマ! こっち見ろクマ!」
ハリセン片手にメリエが突貫する。痛い音が鳴り響く。
「頑張れよクマ! やれるやれる気持ちの問題だクマ!」
シッチャカメッチャカハリセンを叩き込む。
「早く帰らねーとクマ鍋にして食っちゃうぜ! そりゃそりゃー!」
グレイブに持ち替えたマキリとボルディアも熊を追い返すように、近接戦闘を仕掛けていく。
「大丈夫だクマ! お前はやれば出来るクマ!」
訳の分からない情熱をひたすら熊にぶつけていたメリエへ、
「その辺にしておきなさぁい」
とルキハの注意が飛ぶ。
三人が武器を収めると、ほうぼうの体で熊は退散していった。
もとより、殺すような相手ではないのだ。
「この辺はあぶねーからさっさと登っちゃおうぜ!」
マキリの言葉に、真っ先に登り始めたのはフルフルであった。
●
「雄叫びをあげて熊の注意をそらすとは、やはり民の上に立つお方は違う」
ジョンに持ち上げられ、何とか気を持ち直したフルフルであった。
しかし、次の難所が近づいていた。
切り立った場所に差し掛かると、それとなくフィリテは崖側へ移動していた。
「ああ、こっからはガケなのか」
簡素な木の柵から、ボルディアは身を乗り出して下を見る。
木々がところどころに生えているが、おおよそ真っ逆さまのようだ。
「気をつけろよ。足踏み外したら落ちて、痩せるどころか太ることすらでき……」
注意を促そうとしたボルディアの目の前で、フルフルがよろめいた。
バキッと軽快な音を鳴らして、姿が消えかかる。
「……ってだからホントに落ちてんじゃねえよクソが!」
慌てて、駆け寄るとその腕をつかむ。
「ファイトオオオオオオォォォ!」
「フルフルさん、ここを超えればご飯だよ」
近くにいたフィリテが、ボルディアに手を貸す。
「そうだ、がんばれー!」
その後ろでは、マキリが声援を送っていた。
「ちょっとは自分の力で登れぇええ!」
ボルディアの鋭い鼓舞に、大慌てでフルフルは近場の石をつかむ。
それを支えとして、マキリも手を貸し一気に引き上げた。
「危なかったけどよく頑張ったなー!」
マキリの言葉に、ぜぇぜぇという声だけで答える。
気が萎えそうになっているように見え、すかさずジョンがフォローに入る。
「我々を案じて、率先して滑りやすい場所を歩いてくださったんですね」
引くに引けない性格がわざわいし、フルフルはもちろんだと答えてしまう。
「お? なんかちょっとだけヤセてきたかもしんないぞ! アゴのあたりとか!」
そんなわけないのだが、マキリの言葉に気力が少し戻ったようだった。
ボルディアに支えられつつ、やっと中間地点まで辿り着くことができた。
●
どうしてからあげを持ってくる人間がこんなにいるのだろう。
執事がそう思う中、弁当の中身交換が行われていたりしていた。トレイシーとフィリテの弁当は、リアルブルーは日本という地域の伝統的なお弁当だ。
二人のそばで、ひたすら蒸し芋を食べるマキリの姿があった。
豪快な食べっぷりに見とれていると、
「お、食うか?」
と芋を差し出してきた。おずおずと近づいて、フィリテはおかずを一つ差し出す。
「それなら、交換しましょ♪ どうぞ、あんまり上手に作れてないと思うけど」
「うまいぜ」
美味しそうに食べるマキリに、ボルディアも肉を差し出す。
「芋ばかりじゃなく、肉食わないとだな」
そんなボルディアの弁当に、菜食弁当のフルフルが羨望の眼差しを送る。
「いんだよ、俺はトレーニングしてっからこれぐらい食っても」
「少しは野菜も食べなきゃだめよ。それと、水分ね」
ルキハがそっと注意し、水を受け渡す。
わかっているよと肩をすくめて、わずかばかりの野菜をつまむ。
少し落ち着いてきた頃合いで、
「……もう帰りたい」
フルフルが疲れた表情でいっていた。なお、ご飯はしっかり食べていた。
執事が慌ててフォローせよとの指令を送る。
「ねぇ、最初にも聞いたけれど、フルフルちゃんはどうして山を登ろうと……痩せようと決意したのかしら?」
ルキハの問いかけに、フルフルは親戚の集まりのことを語る。自分でも太りすぎだと気づいているのだと、淡々と述べていく。
それが、性格や仕事にも影響を与えているのだと何となく感じるのだという。
ありのままを語るフルフルを、ルキハはまっすぐと見据えて聞いていた。
「自分を変えるのは自分自身しかないの。自分で決めた事、何か一つくらいやり遂げてみなさいよ。そうしたら、性格や仕事も今まで以上にできるはずよ」
本当かと視線で問いかけるフルフルに、ルキハは大きく頷いてみせた。
「それに……山頂からの景色、きっと綺麗よ?」
ルキハの励ましに気力が戻っていく。
「これを服用して運動すれば、一気に体が引き締まること請け合いです。もう少しだけがんばりましょう」
ジョンがすっと取り出した生薬を飲み、俄然やる気を出す。執事が効果の程を聞いたところ、調合もせずに効果はあまりないとそっと教えてくれた。要は気の持ちようなのだという。
「さて、それじゃあ、残りの山道も気合入れていきましょう!」
メリエが号令をかけ、山登りが再開されるのだった。
●
「へい、有り金全部置いていきな!」
「ほい、有り金全部捨てていきな!」
出鼻をくじくかのように、空気の読めない盗賊たちがそこにいた。
再び悲鳴を上げるフルフルが逃げないように、トレイシーが手を取り、ボルディアとジョンが立ち位置を変える。
ジョンは動物霊の力を借りて、素早くフルフルが変な方向へ向かわないよう立ちまわっていた。
「おいおい、抵抗……」
盗賊が何か言おうとしたそのとき、スパーンっという素晴らしい快音が鳴り響いた。
メリエがグッと踏み込んでからの、ハリセンを見舞ったのだ。顎を振りぬかれ、一瞬動きを止めた盗賊にメリエは向き直る。
「ドーモ、野盗=サン。メリエです」
お辞儀からの挨拶。
「慈悲はない。命だけは助けてやるからお前ら潰れろ」
すっと言ってのけるメリエの言葉が聞こえないよう、スススっとフルフルを頂上方向へ押しやっていく。
頂上側へ移動できたところで、ジョンがトレイシーに目配せした。
「さあ、こちらへ」
掴んだ手を引っ張り、トレイシーはフルフルを連れて駆け出す。
盗賊が弓に手をかけたのを見て、盾を構える。
「あなたの事は私たちが必ず守ります」
ぜいぜいひいひいと声が聞こえる。
「社に決意を報告するのでしょう? しっかりして下さい」
メリエの激励に、フルフルはなんとかかんとか足を踏み出していった。
執事がそれに続いたのを確認し、ボルディアとフィリテが道を塞ぐ。複数人の盗賊が弓を持ち、残りは短刀を手に切りかかってくる。
「選べ。牢屋で強制労働して生きるか、クマの餌になるか」
末恐ろしい話であるが、メリエは皮鎧を纏った盗賊に構わずハリセンで勝負を挑んでいた。グッと踏み込んでからの快音に、盗賊は打ち倒される。
道を超えそうになる矢はボルディアがはたき落とし、その側でマキリとフィリテが光の矢を放っていた。数でわずかに勝る程度では、盗賊に勝ち目はない。ルキハとジョンが倒れた盗賊を次から次へと縛り上げていく。
瞬く間に、盗賊団は狩られつくされていた。
メリエは、戦いが終わると頂上を望んでグッとガッツポーズを決める。
「フルフル様、がんば!」
●
「もうすぐ頂上ですよ」
トレイシーに連れられ頂上を目指すフルフルのもとへ、盗賊団を倒したハンターが追いつく。
「ほら、追いついた。支えてやるから、頑張りな」
「やりきった後のご飯は、美味しいよ」
ボルディアに尻を叩かれ、フィリテに励まされながら一歩一歩進んでいく。
ぐっと坂道から平坦な場所へ踏み出したところで、社が目の前に現れた。
「おつかれさまだなー!」
マキリが笑顔でバンザイをする。フルフルは乱れた息をボルディアたちに整えさせられると、社に向き合った。
何事かを報告し、祈りを捧げると山からの眺望に見惚れる。
登り切ったものだけが見れる景色に、フィリテやトレイシーも心を動かされていた。
「よく食ってよく運動すれば、ヤセるのなんてあっという間だな!」
うんうんと頷くマキリの発言に、フルフルがえぇと答えた。
そこには、最初の姿とは違うフルフルがいた。
「さて、降りるとするか」
「あ」
ボルディアの発言に、思わず声を漏らす。同じ道を下るのだと思うと、また最初の感じに戻りそうになっていた。
「ここまで来られたのです。大丈夫ですよ」
「降りたら夕食時よ。美味しいご飯が待ってるよ」
トレイシーとフィリテの発言に支えられ、物理的にはボルティアやマキリにも助けられ下山していく。
降りた先では、盗賊団を引き渡すべく先に下山したジョンとメリエ、そしてルキハが待っていた。
「その顔、やりきれたみたいねぇ」
「フルフル様、頑張りましたね!」
ルキハはフルフルの表情に、違いを見て取った。メリエも追随して、笑顔で答える。
「盗賊団は、自警団に引き渡しました。しばらくは、大丈夫でしょう」
ジョンが報告を果たす。
フルフルは領主の顔になって、ハンターたちに感謝の礼を述べる。ぷるぷると震えるお腹は、まだまだ健在だ。だが、多くの支えによって彼のダイエットはきっと成功する……だろう。おそらく、たぶん、きっと。
夕暮れ時の空の下、切に思う一同であった。
依頼結果
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サポート一覧
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ノボレン山にノボルンです ジョン・フラム(ka0786) 人間(クリムゾンウェスト)|28才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2014/08/14 19:41:36 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/11 10:20:49 |