ゲスト
(ka0000)
レベルアップだ、ミネアの馬車
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/01/17 19:00
- 完成日
- 2016/01/25 00:04
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
地名を示す標識の傍を馬車はゆっくり抜けていくと、レンガの赤が草原の中にぽつぽつ姿を現し、寒風にも負けない子供たちの賑やかな声も届くようになると、寒風で冷えた胸を温かくしてくれる。
「ミネアお姉ちゃんだ!」
ボール遊びしていた子供が馬蹄の音を聞くと振り返ったかと思えば、みんな揃ってミネアの馬車に駆け寄ってくる。そして馬の歩みと一緒になって進みながら、御者台に乗るミネアに話しかけたり、幌の奥を覗いたり。
「お芋、どうだった?」
「お姉ちゃんドーナツ作ってよ」
「オモチャ、オモチャ!」
子供たちがあれやこれやとミネアを取り囲んで話しかけて来て、ミネアは誰に返事したものか。とりあえずうんうん頷きながら微笑みだけを返しては広場を目指す。
広場に近づくにつれ、レンガ造りの家々から大人たちが扉から顔をだし「あら来たわ」「まあまあ、急がなきゃ」と声を掛け合って広場に集まってくるのが窺える。
「みんな、ただいまーっ!! あけましておめでとー!!!」
みんなが手を振って迎えてくれるのが嬉しくて。ミネアは御者台に立って両手を大きく振った。
「「おめでとーーーーーっ」」
村人それぞれが手を振ってこたえてくれた。
「みんなが作ってくれた新種の芋がね、来年できたら是非欲しいっていう人がたくさんできたの。名前も『たいよう』しようって決めてくれたんだよ」
わぁっと一斉に歓声が上がった。
「よくやってくれたね。本当にありがとう」
村にいるおばさんがミネアの手をしっかり握りしめて、微笑んでくれた。皮膚の固くなったその手がちくちくがミネアの胸に刺さる。
ミネアは少しだけ俯いた後、ぐっと歯を食いしばると、また何事もなかったかのように「ああ、そうだ」と話を切り替えると、馬車の御者台から重たい袋をおばさんに預けた。
「これ芋の代金」
「こんなに……? どうやって」
おばさんが驚いた顔を見てミネアは歯を見せて笑顔を見せた。
「うん、芋はそのままじゃ箱いくらで買われるのよね。でも、あたし元はリゼリオの料理人だし。ちょっと時間はかかったけど、色んなお料理にしたんだ」
村に相変わらず男性は少ない。
帝国は今、歪虚との戦いの正念場だ。兵士となって出て行った男性が帰って来る保証はどこにもない。
この村の人。いや、地方の人はそのまま耐え忍び続けている。
それに比べれば、料理の手間暇くらい惜しいとは思わない。
生まれも育ちも同盟の人間だけど、商人としてこうして縁が出た以上、無視することなんてできない。
「あんたって子はもう……」
おばさんはそれ以上何も言わずにミネアを抱きしめながら、そして握手した手を何度もさすった。
あ、しまった。おばさんの手のことばかり気にしていたけれど、自分の手もたいていひどくなっていたことをそれで思い出してしまった。
ついでに年末年始は随分無理していることも。
●
「こんなお金そのまま貰うわけ、いかないじゃないか」
ミネアが疲れてすやすやと眠る部屋の向こうで、おばさんは村の女衆や老人たちにそう言った。
「儲け過ぎたら、バチがあたる。この金の本来持つのはさ、料理の腕を振るったミネアちゃんなんだ」
その言葉にもちろん誰も文句は言わない。貧乏は苦しいこともあるが、誰も明日をも困るような生活をしているわけではないのだから。
「でも、そのまま返しても、何かの品物に変えたって受け取ってくれるかね? あの子はワシらより目利きはようしよる」
「難しいだろうね。だけど世の中にゃ金の定規ではかれないものもあるもんだよ」
老人の問いかけにおばさんはそう答えると、今日握手したミネアの手を思い出した。
「あの子、今は商人してるけど本当は料理したいんだと思うんだ……あの子の手は荷物の上げ下ろしする手じゃないもの」
「子供らが育てた芋も料理して振る舞ったと言っておったしの」
「だからさ商人しながら料理屋の夢も叶えられるように、ね」
おばさんはそう言うと、外に止めてあるミネアの馬車に視線を送った。
立派な馬車だし、馬の毛並みもそこらの荷馬よりずっと良い。普通の荷馬車より数段良いのは村から出たことのない人間でも想像がつく。商人になる時にもらい受けたと言っていた。
「あの馬車じゃできない彼女の夢、プレゼントしようじゃないか。大きな幸せもらったあたし達からのお年賀としてね」
ミネアは年末年始も働きづめだったのだからと、この村でしばらく静養、とは言っている。
期間はそれほどないがハンターにならきっとうまくやってくれるはず。
「ミネアお姉ちゃんだ!」
ボール遊びしていた子供が馬蹄の音を聞くと振り返ったかと思えば、みんな揃ってミネアの馬車に駆け寄ってくる。そして馬の歩みと一緒になって進みながら、御者台に乗るミネアに話しかけたり、幌の奥を覗いたり。
「お芋、どうだった?」
「お姉ちゃんドーナツ作ってよ」
「オモチャ、オモチャ!」
子供たちがあれやこれやとミネアを取り囲んで話しかけて来て、ミネアは誰に返事したものか。とりあえずうんうん頷きながら微笑みだけを返しては広場を目指す。
広場に近づくにつれ、レンガ造りの家々から大人たちが扉から顔をだし「あら来たわ」「まあまあ、急がなきゃ」と声を掛け合って広場に集まってくるのが窺える。
「みんな、ただいまーっ!! あけましておめでとー!!!」
みんなが手を振って迎えてくれるのが嬉しくて。ミネアは御者台に立って両手を大きく振った。
「「おめでとーーーーーっ」」
村人それぞれが手を振ってこたえてくれた。
「みんなが作ってくれた新種の芋がね、来年できたら是非欲しいっていう人がたくさんできたの。名前も『たいよう』しようって決めてくれたんだよ」
わぁっと一斉に歓声が上がった。
「よくやってくれたね。本当にありがとう」
村にいるおばさんがミネアの手をしっかり握りしめて、微笑んでくれた。皮膚の固くなったその手がちくちくがミネアの胸に刺さる。
ミネアは少しだけ俯いた後、ぐっと歯を食いしばると、また何事もなかったかのように「ああ、そうだ」と話を切り替えると、馬車の御者台から重たい袋をおばさんに預けた。
「これ芋の代金」
「こんなに……? どうやって」
おばさんが驚いた顔を見てミネアは歯を見せて笑顔を見せた。
「うん、芋はそのままじゃ箱いくらで買われるのよね。でも、あたし元はリゼリオの料理人だし。ちょっと時間はかかったけど、色んなお料理にしたんだ」
村に相変わらず男性は少ない。
帝国は今、歪虚との戦いの正念場だ。兵士となって出て行った男性が帰って来る保証はどこにもない。
この村の人。いや、地方の人はそのまま耐え忍び続けている。
それに比べれば、料理の手間暇くらい惜しいとは思わない。
生まれも育ちも同盟の人間だけど、商人としてこうして縁が出た以上、無視することなんてできない。
「あんたって子はもう……」
おばさんはそれ以上何も言わずにミネアを抱きしめながら、そして握手した手を何度もさすった。
あ、しまった。おばさんの手のことばかり気にしていたけれど、自分の手もたいていひどくなっていたことをそれで思い出してしまった。
ついでに年末年始は随分無理していることも。
●
「こんなお金そのまま貰うわけ、いかないじゃないか」
ミネアが疲れてすやすやと眠る部屋の向こうで、おばさんは村の女衆や老人たちにそう言った。
「儲け過ぎたら、バチがあたる。この金の本来持つのはさ、料理の腕を振るったミネアちゃんなんだ」
その言葉にもちろん誰も文句は言わない。貧乏は苦しいこともあるが、誰も明日をも困るような生活をしているわけではないのだから。
「でも、そのまま返しても、何かの品物に変えたって受け取ってくれるかね? あの子はワシらより目利きはようしよる」
「難しいだろうね。だけど世の中にゃ金の定規ではかれないものもあるもんだよ」
老人の問いかけにおばさんはそう答えると、今日握手したミネアの手を思い出した。
「あの子、今は商人してるけど本当は料理したいんだと思うんだ……あの子の手は荷物の上げ下ろしする手じゃないもの」
「子供らが育てた芋も料理して振る舞ったと言っておったしの」
「だからさ商人しながら料理屋の夢も叶えられるように、ね」
おばさんはそう言うと、外に止めてあるミネアの馬車に視線を送った。
立派な馬車だし、馬の毛並みもそこらの荷馬よりずっと良い。普通の荷馬車より数段良いのは村から出たことのない人間でも想像がつく。商人になる時にもらい受けたと言っていた。
「あの馬車じゃできない彼女の夢、プレゼントしようじゃないか。大きな幸せもらったあたし達からのお年賀としてね」
ミネアは年末年始も働きづめだったのだからと、この村でしばらく静養、とは言っている。
期間はそれほどないがハンターにならきっとうまくやってくれるはず。
リプレイ本文
●隠せ!
「みなさん、こんにちは!!」
依頼を受けて村に到着した皆を出迎えてくれたのはミネアだった為、全員手にした道具などを一斉に背中に隠した。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっと極秘の依頼を受けてな」
ロニ・カルディス(ka0551)は視線を泳がせながら説明したが、突然すぎて言葉に詰まり、ヒゲ、はもう生えなくなって久しいのでアゴを無意識にいじった。
「そうそう、移動救護車両を制作する為でな。帝国の極秘任務だ!」
すかさず明王院 蔵人(ka5737)がフォローの言葉を入れた。この絶妙な間合いでロニの背中にあった女性向けの折りたたみ椅子を勘繰られることは何とか回避でき、心底幸運にほっとしたのであった。
「極秘任務で移動救護車両を? この村だと部品とかの調達大変そうですけど……? あ、そういえば初めましての人もいますね。商人のミネアと言います。どうぞよろしくお願いしますね」
不思議そうに小首をかしげるミネアだったが、とりあえず意識は完全に削がれたようで皆に頭を下げて自己紹介をした。
「はじめまして! リラ(ka5679)と言います。宜しくお願いしますね」
つられてハンター達もそれぞれに挨拶をしたが、ここでも障害が。
「よろしく。私は迷路荘 家具……」
そこまで言いかけて迷路荘 家具屋(ka6007)はハッとした。
「家具?」
……隠し通したはずのそれぞれの背中にあるものに再び視線が戻る。
道具が見つかれば馬車改造は推測されてしまう。
「あー。元々家具職人なんだ。うん。私の住む地域では職業を名前に冠している者が多いぞ。スミスとかカーペンターとか」
「なるほどー」
迷路荘の見事な話術に、ミネアは見事納得した(というか言いくるめられた)ようで、手をポンと一つ叩いた。両親からは家具に関する知識がメインであったがちゃんと商人としての話術も仕込んでくれたのが幸いしたと心底思う迷路荘。
「近くで歪虚のせいで故障した救護車両の修繕がハンター依頼にあったんですよ」
その隙にエステル・クレティエ(ka3783)は手にした道具をシャーリーン・クリオール(ka0184)に押し付け、ミネアの視界を遮る程度に顔を近づけて指を一つ唇に当てて「内緒ですよ?」と付け加えた。
「そうなんだ。ハンターもお仕事たくさんだね。あ、あたし今自由だからお手伝いす」
「じゃあ。ご飯の準備もあるんで山菜採りに行きましょう! お花も摘みたいけれど、ミネアさんが好きなお花はありますか?」
「え。もうご飯の準備……? 花はええとスズランかな……?」
ハテナが浮かぶミネアの手を有無を言わせずエステルは引いて離れて行き、一瞬だけ振り返ると「後はよろしく」と言わんばかりの視線を投げてよこした。
「うう、なんと尊い犠牲をっ。エステルさん、あなたのことは忘れない!」
カリン(ka5456)はその身を呈して(バレる)危険を回避したエステルに思わず感動で胸をいっぱいにした。
「今の間に馬車の確認に行きましょう。村の偉い人のところで停めてあるって聞いてますので、そこにきっとあるはずです」
素早くリラがそう言うと駆け出し、続いてカリンも走り出した。既存馬車に連結具があるかないとか、どんな形なのかとか商人のお城、馬車の中はどんな風になっているのかなーとか。好奇心がうずいて仕方ないとか。とにかく一刻も早く覗いてみたい。
とと。
思い出したかのように、カリンはそのままバックして、ソウルウルフのブラッドさんを撫でた。
「ミネアさんが戻ってきたら吠えてくださいですよ!」
●覚醒者流組み立て!
明王院による鉄拳で派手な音一つ、新たな荷馬車ことおんぼろ大八車は分解して崩れ落ちた。
というのも、そのままではとても使えないと判断したためで、ビスを抜いたりした後の最後の分解作業のひと押しだ。
「時間も資金もギリギリだ。失敗はできんぞ。車体と窯が各2万、駆動系と幌と内装が各1万、調理台とシンクが3万だ」
ロニは迷路荘の設計図を元に作り上げた必要な資材の購入資金を計上したものに再び目を落とした。それでも足りないくらいだ。
「久しぶりの大工仕事だ。腕が鳴る」
ロニはそう言うと早速分解した大八車の底板を繋ぎ止める釘を次々抜き、颯爽とまとめてはカンナ掛けへとうつる。
そんな後ろ姿を迷路荘はじっと見据え、こいつはなかなか掘り出し物かもしれん。とか、家具屋の人材確保の選定眼が怪しく輝く。
一方、新たに側面を作り上げるのは明王院。まずは購入した鉄パイプの両端を持ち、大きく息を吸うと。
「ふんっ!」
一気に直角に押し曲げて完了。
「こんな製作作業は初めてですね」
そんな光景をみて機導士のルドルフ・デネボラ(ka3749)は苦笑い。しかし、覚醒者ならではのやり方も悪くない。と自分が手にしていた歯車に目を落とすと、やおら顔の前に防御障壁を張って魔導鋸を動かし始める。ただの歯車は綺麗に形を揃えてラチェット(不可逆回転式歯車)を完成させる。
「すごーい。これが機械の眼っていうんですね」
寸分の狂いもないラチェットがカリンの作っていた御者台に通されるのを見て、彼女は目を丸くした。森でも木工とかをする人はいたが、目分量でここまでやれる人はそういない。カリンは蒼く輝く瞳のルドルフに素直に手を叩いて感心した。
「カリンさん、これを操作するレバーを御者台に取り付けたいのですが、穴はまだですかね?」
「あ、今作りますねっ! すみません、ちょっと持っててもらってもいいですか」
カリンも負けていられない。ライフルを取り出すと、板に付けた目印に向けて……
ズドン。×6
「直径3cm。ジャスト!」
煙を吹くライフルをガシャリと上げてカリンはVサインをルドルフに送った。
防御障壁、準備してて良かった。とルドルフは密かに冷や汗をかいたが、そこは優しい彼のこと。笑顔でありがとうと答えるだけにとどまった。ルドルフくん、ジェントルマン!
「あ、ところで御者台に収納スペースを作ろうと思ったんですけど、蝶番はあるでしょうか。座面を上げ下ろしするのって力いると思うんです」
「ふむ、名案だが予算に計上してないし、リゼリオで買ってもないぞ。村の鍛冶屋に頼めばできそうだが……」
クロノスサイズで板をまとめて分断したロニはサングラスを額に押し上げて困った顔をのぞかせた。
「ま、そういうこともあると思ってね。あたしもミネア殿には世話になっているからね。これで足しにしたらどうかな」
シャーリーンはそう言うと、ずっしりとした金袋をカリンに投げてよこした。
「おおお、太っ腹!」
「実はこれも買ったんだ」
驚くカリンに、シャーリーンは軸受を披露した。確か設計図ではダンパー(衝撃緩和機構)はついていなかったはず。
「なぜそういう供出は早くしなかった。それなら車体補強ももうすこし充実できるぞ」
予算で泣く泣く削った横板の強化案や、停車時の車体の安定の為の脚を作ったり、窯などの火を扱う場所の耐火塗装も導入できる。
「よし、じゃあ、ついでに飲料樽に蛇口を付けてみる案も実装して……いかん、また予算がオーバーする」
「うむ。みんなにこれほどまで愛されるとはミネアの心根がよくわかる。よし不足分は俺も出そう」
「じゃあこっちのこれをこうしたら……」
「むしろ馬車なく独立で走るようにエンジンを載せたら……」
「車体重量がオーバーする!! 追加発注は重大な設計ミスを犯す元っ。供出はシャーリーンの2万までだ!」
降ってわいた突然の設計追加にみんな額を突き合わせていたが、迷路荘が上から雷を落としたところで落ち着きを見せた。
「でも予算が増えて鐘が手に入ったのは嬉しかったですね」
リラは早速リゼリオに戻って購入した手のひらほどの小型の鐘を少し鳴らして微笑んだ。この辺りだとカウベルのようなカラコロとした音くらいのものしかなかったが、購入したものは。高く澄んだ音を響かせる。静かな音色にクッションを作っていたエステルも目を閉じて聞き入る。
「すごくいい音ですね! 透き通るような、水がキラキラするような音です。どこで見つけたんですか?」
「リゼリオに楽器屋さんがあるんですよ」
「あ、大通りを一つ西に外れたところですか」
「そうそう、その奥に工房があるんですよ。そこでは職人さんがデザインしたオリジナルアイテムおいててですね」
「あ、知ってます知ってます」
思わぬ共通の話題を得たリラとエステルは会話に花を咲かせながら、刺繍でも花を咲かせていく。
「リラさん、リラさん、改修終わったので、今から色を塗るんですけど、どんな~」
とカリンがペンキを持ってぱたぱたと走りこんできた後、一瞬止まった。
カーテンを幌に転用したものはリラの刺繍に溢れなんとも可愛らしいし、エステルはクッションとマットを作っていたりして、外の野郎(サバサバした女性陣も一部含む)に溢れる作業場と違う空気感。
「うわわっ。すごーい。可愛い!!」
カリンは大声一つ上げてそのまま正座して滑り込んだ。
しかしそうはいかないのは世の常。家の外でブラッドさんが盛んに吼える。
「あ、いけない。ミネアさんが戻って来たんだ」
「隠して隠して!!」
慌てて片付け作業をする中、カリンは慌てて外に飛び出ると。
ミネアは毬を使って懐柔作戦に出ていた。いかん、ブラッドさんがグルルルと言いつつも尻尾を振り出している。
●ビフォーアフター!
「こっちこっち」
エステルがミネアを引っ張り、ハンター達が待つ広場にやってきた。そこには村人たちの姿もある。
そして二人に見えてくるのはみんなで作った荷馬車だ。
「ミネアさん、これはね。ミネアさんが調理できるようにってみんなで作った新しい荷馬車ですよ」
ぽんとする彼女にエステルは囁いたが、ミネアはそれをちゃんと聞いていたかどうか。
「救護移送車じゃなくて、ええ、えええええ!!?」
カリンが荷馬車? と首を傾げたおんぼろ大八車はちゃんと荷馬車らしい姿に変貌していた。底板は車輪より低くなり、補強されたフレームは遊び心も含めてくるりと巻いて蔦のよう。木の色そのままだったのも柿渋とニスを含めて落ち着いた茶色。
「調理の食材の上げ下ろしにはあまり底が高いと大変だと思ってな」
元が大八車とは思えない変貌ぶりに、おそるおそる触れるミネアも信じられないような顔であった。
「可愛い!」
「幌は村の皆さんでちょっとずつ布を集めて縫ったんです」
幌はつぎはぎをみせないようにリラの刺繍で作ったスズランが可愛く彩る。
「かわいい~。これ商用荷馬じゃないみたい」
もうそれだけで跳ねて喜ぶミネア。右に行ってみたり、左行ってみたりとぐるぐる回っては感嘆のため息を漏らし、荷馬に手をかけたところで次なる仕組みに気が付いたようだ。
「あ、すごい軽いのに、中が揺れない」
「あんまり振動したら食材が零れるだろう。車輪の抵抗を減らすために軸受を鋳造したもらった。グリスも詰めたしね。こういうのは妹の方が強いけど、なかなかだろう?」
「車体の補強は急務でな。実質作り直しとほぼ同じだったが、おかげで納得のいく仕事ができた」
ギリギリまで作業をしていたシャーリーンは顔を油で汚しながらもニコリと笑い、ロニも髪を汚したままだが、満足げにクルクルと金槌を回してみせた。ドワーフの面目躍如だ。
「さあ、どうぞ中へ」
シャララとなる涼やかな鐘の音に驚いた様子のミネアにリラはもう一度やったの顔。
「綺麗な音っ」
「リゼリオで探してきたんですよ」
リゼリオはミネアが親しんだ街でもある。リラの言葉にミネアは懐かしそうな顔をした。
車内で一番声もなく感激したのは調理台とシンクだった。ミネアの身長にあわせたそれは角を使い広く場所を確保しつつ幌の柱にはフックがならび収納もしっかり確保。飲料樽も細身のもので蛇口が底から伸びて使い勝手は抜群。
「ぱっと見てね。あ、私と同じくらいって思ったのですよ! 私も椅子とか机で悩んだのです」
「シンクは少ない水で済むように斜をつけてる。台の隙間に包丁の収納、足元に鍋類を立てて収納できるように。調味料入れも作った」
カリンがミネアの横に並んで笑いかけると、ミネアは涙ぐんだ顔で何度もこくこくと頷き返した。低身長の悩みをわかってくれる人の尊さ!
また迷路荘デザインの調理台は包丁をそのまま使っても大丈夫な木材選びから、デザイン、収納性を全て完璧に兼ね備えていた。まさしく職人のこだわり具合が窺える。
「さあ、次は前ですよ」
その場で崩れ落ちそうなくらいうれし泣きするミネアをひっぱりエステルは車体の前と案内する。
大八車にはなかった真新しい御者台。台座にはお日様を浴びたふかふかの藁を詰め込んだクッション。
「ううう、やわらがいのがうれじい……」
鼻をグスグズ鳴らしながら抱きしめるミネアが目を丸くする。視線の先は、蝶番だ。シャーリーンが車体の外から身を乗り出してウィンクをする。
「エンボス加工っていうの。鍛冶屋さんに教えてもらったんだ。下は収納スペース。女の子だしそれなりに荷物もあるだろう?」
蝶番にはスズランのデザインを浮き彫り加工している。その細かさにミネアは感動で口に手を当てるばかりだ。そして横にあるレバーの存在にも気づく。
「それからこっちはブレーキ……というか、坂道で転がり落ちないようにするため仕組みです」
ラチェットの仕組みを切り抜いた後の型で説明すると、ふぁぁと変な声を漏らした。
「便利すぎる……今まで歯止め用のレンガを横に置いていたんですよ。すごいアイデア。これあっちの馬車にも欲しい」
「いいですよ。簡単なのでよければ端材でも作れます」
ルドルフはミネアの申し出を快諾してにっこりとほほ笑んだ。
「しかもこの馬車は既存のものと併用することもできるし……」
ロニが車体を引いて、ミネアが持っていた馬車の元へと移動させ、連結する様子を披露し。
「単体でも走らせることができます! 幅と連結具は試行錯誤しましたけど、ね」
カリンが連結をさっと外して、今度は馬に付け替えるロニは笑った。
「まあこういう作業は十八番だからな。楽しくさせてもらった」
「みなさん…… 本当に、ありがとう。大事にするね。これでいっぱいの人に喜んでもらえる料理いっぱい作るね!」
改めて彼女がそう口にする時、胸が本当に詰まって仕方なかった様子だった。
「そうだね。それじゃ、最初のお料理やってみようか。本年初のメニューは野菜のごった煮スープなど、どうたろうか」
シャーリーンはそう言うと、馬車の上に掲げた看板を裏返した。村人の顔、ハンターの顔が描かれたそれにミネアは何度も頷いた。
「はい、よーっし、つくりましょーーー!!!!」
真新しいキッチンカーから温かい香りと、人の声が今日も耐えずのぼる。
「みなさん、こんにちは!!」
依頼を受けて村に到着した皆を出迎えてくれたのはミネアだった為、全員手にした道具などを一斉に背中に隠した。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっと極秘の依頼を受けてな」
ロニ・カルディス(ka0551)は視線を泳がせながら説明したが、突然すぎて言葉に詰まり、ヒゲ、はもう生えなくなって久しいのでアゴを無意識にいじった。
「そうそう、移動救護車両を制作する為でな。帝国の極秘任務だ!」
すかさず明王院 蔵人(ka5737)がフォローの言葉を入れた。この絶妙な間合いでロニの背中にあった女性向けの折りたたみ椅子を勘繰られることは何とか回避でき、心底幸運にほっとしたのであった。
「極秘任務で移動救護車両を? この村だと部品とかの調達大変そうですけど……? あ、そういえば初めましての人もいますね。商人のミネアと言います。どうぞよろしくお願いしますね」
不思議そうに小首をかしげるミネアだったが、とりあえず意識は完全に削がれたようで皆に頭を下げて自己紹介をした。
「はじめまして! リラ(ka5679)と言います。宜しくお願いしますね」
つられてハンター達もそれぞれに挨拶をしたが、ここでも障害が。
「よろしく。私は迷路荘 家具……」
そこまで言いかけて迷路荘 家具屋(ka6007)はハッとした。
「家具?」
……隠し通したはずのそれぞれの背中にあるものに再び視線が戻る。
道具が見つかれば馬車改造は推測されてしまう。
「あー。元々家具職人なんだ。うん。私の住む地域では職業を名前に冠している者が多いぞ。スミスとかカーペンターとか」
「なるほどー」
迷路荘の見事な話術に、ミネアは見事納得した(というか言いくるめられた)ようで、手をポンと一つ叩いた。両親からは家具に関する知識がメインであったがちゃんと商人としての話術も仕込んでくれたのが幸いしたと心底思う迷路荘。
「近くで歪虚のせいで故障した救護車両の修繕がハンター依頼にあったんですよ」
その隙にエステル・クレティエ(ka3783)は手にした道具をシャーリーン・クリオール(ka0184)に押し付け、ミネアの視界を遮る程度に顔を近づけて指を一つ唇に当てて「内緒ですよ?」と付け加えた。
「そうなんだ。ハンターもお仕事たくさんだね。あ、あたし今自由だからお手伝いす」
「じゃあ。ご飯の準備もあるんで山菜採りに行きましょう! お花も摘みたいけれど、ミネアさんが好きなお花はありますか?」
「え。もうご飯の準備……? 花はええとスズランかな……?」
ハテナが浮かぶミネアの手を有無を言わせずエステルは引いて離れて行き、一瞬だけ振り返ると「後はよろしく」と言わんばかりの視線を投げてよこした。
「うう、なんと尊い犠牲をっ。エステルさん、あなたのことは忘れない!」
カリン(ka5456)はその身を呈して(バレる)危険を回避したエステルに思わず感動で胸をいっぱいにした。
「今の間に馬車の確認に行きましょう。村の偉い人のところで停めてあるって聞いてますので、そこにきっとあるはずです」
素早くリラがそう言うと駆け出し、続いてカリンも走り出した。既存馬車に連結具があるかないとか、どんな形なのかとか商人のお城、馬車の中はどんな風になっているのかなーとか。好奇心がうずいて仕方ないとか。とにかく一刻も早く覗いてみたい。
とと。
思い出したかのように、カリンはそのままバックして、ソウルウルフのブラッドさんを撫でた。
「ミネアさんが戻ってきたら吠えてくださいですよ!」
●覚醒者流組み立て!
明王院による鉄拳で派手な音一つ、新たな荷馬車ことおんぼろ大八車は分解して崩れ落ちた。
というのも、そのままではとても使えないと判断したためで、ビスを抜いたりした後の最後の分解作業のひと押しだ。
「時間も資金もギリギリだ。失敗はできんぞ。車体と窯が各2万、駆動系と幌と内装が各1万、調理台とシンクが3万だ」
ロニは迷路荘の設計図を元に作り上げた必要な資材の購入資金を計上したものに再び目を落とした。それでも足りないくらいだ。
「久しぶりの大工仕事だ。腕が鳴る」
ロニはそう言うと早速分解した大八車の底板を繋ぎ止める釘を次々抜き、颯爽とまとめてはカンナ掛けへとうつる。
そんな後ろ姿を迷路荘はじっと見据え、こいつはなかなか掘り出し物かもしれん。とか、家具屋の人材確保の選定眼が怪しく輝く。
一方、新たに側面を作り上げるのは明王院。まずは購入した鉄パイプの両端を持ち、大きく息を吸うと。
「ふんっ!」
一気に直角に押し曲げて完了。
「こんな製作作業は初めてですね」
そんな光景をみて機導士のルドルフ・デネボラ(ka3749)は苦笑い。しかし、覚醒者ならではのやり方も悪くない。と自分が手にしていた歯車に目を落とすと、やおら顔の前に防御障壁を張って魔導鋸を動かし始める。ただの歯車は綺麗に形を揃えてラチェット(不可逆回転式歯車)を完成させる。
「すごーい。これが機械の眼っていうんですね」
寸分の狂いもないラチェットがカリンの作っていた御者台に通されるのを見て、彼女は目を丸くした。森でも木工とかをする人はいたが、目分量でここまでやれる人はそういない。カリンは蒼く輝く瞳のルドルフに素直に手を叩いて感心した。
「カリンさん、これを操作するレバーを御者台に取り付けたいのですが、穴はまだですかね?」
「あ、今作りますねっ! すみません、ちょっと持っててもらってもいいですか」
カリンも負けていられない。ライフルを取り出すと、板に付けた目印に向けて……
ズドン。×6
「直径3cm。ジャスト!」
煙を吹くライフルをガシャリと上げてカリンはVサインをルドルフに送った。
防御障壁、準備してて良かった。とルドルフは密かに冷や汗をかいたが、そこは優しい彼のこと。笑顔でありがとうと答えるだけにとどまった。ルドルフくん、ジェントルマン!
「あ、ところで御者台に収納スペースを作ろうと思ったんですけど、蝶番はあるでしょうか。座面を上げ下ろしするのって力いると思うんです」
「ふむ、名案だが予算に計上してないし、リゼリオで買ってもないぞ。村の鍛冶屋に頼めばできそうだが……」
クロノスサイズで板をまとめて分断したロニはサングラスを額に押し上げて困った顔をのぞかせた。
「ま、そういうこともあると思ってね。あたしもミネア殿には世話になっているからね。これで足しにしたらどうかな」
シャーリーンはそう言うと、ずっしりとした金袋をカリンに投げてよこした。
「おおお、太っ腹!」
「実はこれも買ったんだ」
驚くカリンに、シャーリーンは軸受を披露した。確か設計図ではダンパー(衝撃緩和機構)はついていなかったはず。
「なぜそういう供出は早くしなかった。それなら車体補強ももうすこし充実できるぞ」
予算で泣く泣く削った横板の強化案や、停車時の車体の安定の為の脚を作ったり、窯などの火を扱う場所の耐火塗装も導入できる。
「よし、じゃあ、ついでに飲料樽に蛇口を付けてみる案も実装して……いかん、また予算がオーバーする」
「うむ。みんなにこれほどまで愛されるとはミネアの心根がよくわかる。よし不足分は俺も出そう」
「じゃあこっちのこれをこうしたら……」
「むしろ馬車なく独立で走るようにエンジンを載せたら……」
「車体重量がオーバーする!! 追加発注は重大な設計ミスを犯す元っ。供出はシャーリーンの2万までだ!」
降ってわいた突然の設計追加にみんな額を突き合わせていたが、迷路荘が上から雷を落としたところで落ち着きを見せた。
「でも予算が増えて鐘が手に入ったのは嬉しかったですね」
リラは早速リゼリオに戻って購入した手のひらほどの小型の鐘を少し鳴らして微笑んだ。この辺りだとカウベルのようなカラコロとした音くらいのものしかなかったが、購入したものは。高く澄んだ音を響かせる。静かな音色にクッションを作っていたエステルも目を閉じて聞き入る。
「すごくいい音ですね! 透き通るような、水がキラキラするような音です。どこで見つけたんですか?」
「リゼリオに楽器屋さんがあるんですよ」
「あ、大通りを一つ西に外れたところですか」
「そうそう、その奥に工房があるんですよ。そこでは職人さんがデザインしたオリジナルアイテムおいててですね」
「あ、知ってます知ってます」
思わぬ共通の話題を得たリラとエステルは会話に花を咲かせながら、刺繍でも花を咲かせていく。
「リラさん、リラさん、改修終わったので、今から色を塗るんですけど、どんな~」
とカリンがペンキを持ってぱたぱたと走りこんできた後、一瞬止まった。
カーテンを幌に転用したものはリラの刺繍に溢れなんとも可愛らしいし、エステルはクッションとマットを作っていたりして、外の野郎(サバサバした女性陣も一部含む)に溢れる作業場と違う空気感。
「うわわっ。すごーい。可愛い!!」
カリンは大声一つ上げてそのまま正座して滑り込んだ。
しかしそうはいかないのは世の常。家の外でブラッドさんが盛んに吼える。
「あ、いけない。ミネアさんが戻って来たんだ」
「隠して隠して!!」
慌てて片付け作業をする中、カリンは慌てて外に飛び出ると。
ミネアは毬を使って懐柔作戦に出ていた。いかん、ブラッドさんがグルルルと言いつつも尻尾を振り出している。
●ビフォーアフター!
「こっちこっち」
エステルがミネアを引っ張り、ハンター達が待つ広場にやってきた。そこには村人たちの姿もある。
そして二人に見えてくるのはみんなで作った荷馬車だ。
「ミネアさん、これはね。ミネアさんが調理できるようにってみんなで作った新しい荷馬車ですよ」
ぽんとする彼女にエステルは囁いたが、ミネアはそれをちゃんと聞いていたかどうか。
「救護移送車じゃなくて、ええ、えええええ!!?」
カリンが荷馬車? と首を傾げたおんぼろ大八車はちゃんと荷馬車らしい姿に変貌していた。底板は車輪より低くなり、補強されたフレームは遊び心も含めてくるりと巻いて蔦のよう。木の色そのままだったのも柿渋とニスを含めて落ち着いた茶色。
「調理の食材の上げ下ろしにはあまり底が高いと大変だと思ってな」
元が大八車とは思えない変貌ぶりに、おそるおそる触れるミネアも信じられないような顔であった。
「可愛い!」
「幌は村の皆さんでちょっとずつ布を集めて縫ったんです」
幌はつぎはぎをみせないようにリラの刺繍で作ったスズランが可愛く彩る。
「かわいい~。これ商用荷馬じゃないみたい」
もうそれだけで跳ねて喜ぶミネア。右に行ってみたり、左行ってみたりとぐるぐる回っては感嘆のため息を漏らし、荷馬に手をかけたところで次なる仕組みに気が付いたようだ。
「あ、すごい軽いのに、中が揺れない」
「あんまり振動したら食材が零れるだろう。車輪の抵抗を減らすために軸受を鋳造したもらった。グリスも詰めたしね。こういうのは妹の方が強いけど、なかなかだろう?」
「車体の補強は急務でな。実質作り直しとほぼ同じだったが、おかげで納得のいく仕事ができた」
ギリギリまで作業をしていたシャーリーンは顔を油で汚しながらもニコリと笑い、ロニも髪を汚したままだが、満足げにクルクルと金槌を回してみせた。ドワーフの面目躍如だ。
「さあ、どうぞ中へ」
シャララとなる涼やかな鐘の音に驚いた様子のミネアにリラはもう一度やったの顔。
「綺麗な音っ」
「リゼリオで探してきたんですよ」
リゼリオはミネアが親しんだ街でもある。リラの言葉にミネアは懐かしそうな顔をした。
車内で一番声もなく感激したのは調理台とシンクだった。ミネアの身長にあわせたそれは角を使い広く場所を確保しつつ幌の柱にはフックがならび収納もしっかり確保。飲料樽も細身のもので蛇口が底から伸びて使い勝手は抜群。
「ぱっと見てね。あ、私と同じくらいって思ったのですよ! 私も椅子とか机で悩んだのです」
「シンクは少ない水で済むように斜をつけてる。台の隙間に包丁の収納、足元に鍋類を立てて収納できるように。調味料入れも作った」
カリンがミネアの横に並んで笑いかけると、ミネアは涙ぐんだ顔で何度もこくこくと頷き返した。低身長の悩みをわかってくれる人の尊さ!
また迷路荘デザインの調理台は包丁をそのまま使っても大丈夫な木材選びから、デザイン、収納性を全て完璧に兼ね備えていた。まさしく職人のこだわり具合が窺える。
「さあ、次は前ですよ」
その場で崩れ落ちそうなくらいうれし泣きするミネアをひっぱりエステルは車体の前と案内する。
大八車にはなかった真新しい御者台。台座にはお日様を浴びたふかふかの藁を詰め込んだクッション。
「ううう、やわらがいのがうれじい……」
鼻をグスグズ鳴らしながら抱きしめるミネアが目を丸くする。視線の先は、蝶番だ。シャーリーンが車体の外から身を乗り出してウィンクをする。
「エンボス加工っていうの。鍛冶屋さんに教えてもらったんだ。下は収納スペース。女の子だしそれなりに荷物もあるだろう?」
蝶番にはスズランのデザインを浮き彫り加工している。その細かさにミネアは感動で口に手を当てるばかりだ。そして横にあるレバーの存在にも気づく。
「それからこっちはブレーキ……というか、坂道で転がり落ちないようにするため仕組みです」
ラチェットの仕組みを切り抜いた後の型で説明すると、ふぁぁと変な声を漏らした。
「便利すぎる……今まで歯止め用のレンガを横に置いていたんですよ。すごいアイデア。これあっちの馬車にも欲しい」
「いいですよ。簡単なのでよければ端材でも作れます」
ルドルフはミネアの申し出を快諾してにっこりとほほ笑んだ。
「しかもこの馬車は既存のものと併用することもできるし……」
ロニが車体を引いて、ミネアが持っていた馬車の元へと移動させ、連結する様子を披露し。
「単体でも走らせることができます! 幅と連結具は試行錯誤しましたけど、ね」
カリンが連結をさっと外して、今度は馬に付け替えるロニは笑った。
「まあこういう作業は十八番だからな。楽しくさせてもらった」
「みなさん…… 本当に、ありがとう。大事にするね。これでいっぱいの人に喜んでもらえる料理いっぱい作るね!」
改めて彼女がそう口にする時、胸が本当に詰まって仕方なかった様子だった。
「そうだね。それじゃ、最初のお料理やってみようか。本年初のメニューは野菜のごった煮スープなど、どうたろうか」
シャーリーンはそう言うと、馬車の上に掲げた看板を裏返した。村人の顔、ハンターの顔が描かれたそれにミネアは何度も頷いた。
「はい、よーっし、つくりましょーーー!!!!」
真新しいキッチンカーから温かい香りと、人の声が今日も耐えずのぼる。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 6人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談しましょー! カリン(ka5456) エルフ|17才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2016/01/17 18:33:10 |
|
![]() |
ミネアさんと雑談(質問)卓 エステル・クレティエ(ka3783) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/01/17 21:21:36 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/13 19:39:22 |