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マスター:楠々蛙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/01/17 22:00
完成日
2016/01/22 02:52

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「何で俺が荷物持ちを……」
 交易が盛んな町の市で、ぼやく男が一人。誰あろう、キャロル=クルックシャンクである。彼の左腕は食品の入った紙袋を抱えていた。
「仕方ないでしょ。バリーはいつも通り職探しに行っちゃったし。それともなに、まさか女の子に荷物を持たせる気?」
 その隣で店先に陳列された商品を物色する少女は、ラウラ=フアネーレだ。
「ん? 何の騒ぎかしら?」
 市場のメインストリートから外れた路地から聞こえた騒々しい音へ、ラウラは視線を向ける。
 聞こえたのは、男の怒声と動物の威嚇音──
「ねこ?」
「おい、何処に──」
 ラウラは首を傾げながら、路地の方へと寄って行く。物陰から路地を覗き見ると、そこには二人組の男と、それに毛を逆立てて威嚇の声を上げる一匹の黒猫が居た。
「この糞猫が、いい加減にしやがれよ」
 男の一人が懐から一本の短剣を取り出す。
「待て、ラウラ──」
 それを見たラウラは、キャロルの制止の声を振り払って物陰から飛び出していた。
「ちょっと待ちなさい!」
 短剣を構える男に一声浴びせると同時に、猫を掬い上げる。
「ねこを相手にそんなもの振り回して、恥ずかしくないの?」
「あ? なんつった?」
 突如現れた少女に罵られた男は、苛立ちを募らせてラウラを睨む。その怒気──最早日課となっているキャロルとの口論で彼から浴びせられるものとは別種のそれを受けて、ラウラは肩を震わせた。
「──き、聞こえなかったの? 性根だけじゃなくて耳まで腐ってるのね」
 しかし、猫を抱く腕に力を籠めて震えを抑えた彼女は、果敢に食って掛かる。
「この、クソガキがっ!」
 その嘲りで沸点に達した男が、感情に身を任せて短剣を突き出した。
 刃が少女を襲おうとしたその時、
「──ったく、手間こさえやがって!」
 割って入ったブーツのつま先が、短剣を弾き飛ばした。続けて、翻った蹴撃が男の腹を突く。
「……っ、何しやがるてめえ!」
 突き飛ばされた男が腹を押さえながら吼える。ブーツの主──キャロルは今しがた蹴りを放ったその足を下ろすと、聞き慣れた挨拶に応じる様な調子で応えた。
「落ち着けよ、お互い無駄弾は放りたくないだろ?」
 キャロルは暗に男の膨らんだ左胸の中身の正体を指摘した。男だけでなく、もう一人の連れを含めて動揺を露にする。
 男達の視線が地面の短剣とキャロルとの間を行き交う。今すぐその短剣を拾うべきか、それとも左胸の中身──その銃把を握るべきか、そんな迷いを籠めた視線を。
「──抜くのか? だったら覚悟しろ」
 一目瞭然の迷いを読み取ったキャロルの右手が、彼らの機先を制してリボルバーの銃把に掛かる。
「今の俺は虫の居所が悪いからな、ちっとばかし引鉄が軽いぜ」
 腰のホルスターに納まったまま、それも撃鉄は起きていない。キャロルの銃は、手を上げろ(Hold up)には二手足りない。
「くそが……!」
「もう止せ、行くぞ」
 それでも尚、その二手を埋める事は決して叶わないと悟ったのか、それとも単に市場の傍で銃声を鳴らすのを避けたかったのか、男達は踵を返して路地から走り去って行く。
「覚えてやがれ!」
「月並みな捨て台詞だな」
 鼻で笑って彼らを見送ったキャロルが、ラウラの方へと振り返る。
「──お前は何を考えてんだ! 刃物構えた相手の前に飛び出して、挙句の果てには煽り文句までくれやがって、そんなに死にてえのか!」
 いきなり怒声を浴びせられたラウラが、身を竦める。
「あ、えと……」
 二の句を告げないで居る彼女の頭に手を載せながら、キャロルは呟いた。
「……勘弁しろ、寿命が縮む」
「ご、ごめんなさい」
 ラウラの口が、謝罪の言葉を衝く。震えるそれを聞いたキャロルは溜息一つを零すと、
「まあ良い……、それで、そいつは何だ?」
 彼女が胸に抱えているものに視線を落した。
「……ねこ」
「それは見りゃわかる。……黒猫か、疫病神め。お前のせいでロクな目に遭わない」
「酷い言い草、この子は悪くないでしょ。って、きゃっ、ちょっと」
 段々本来の調子を取り戻すラウラの腕の中で、黒猫が暴れ始めた。どうやら、さっきの男達が去った方角へ行こうとしているらしいと覚ったラウラは、逃がさない様に抱き締める。
「駄目よ! 今度は本当に殺されちゃうわ」
 それでも頻りに黒猫はもがいたが、やがて恩人の懸命さが伝わったのか大人しくなった。
「で、結局何なんだこの黒猫は。随分と連中に御執心みてえだが。連中も連中で、堅気じゃねえな」
「わかんない。この子、野良猫かしら。首輪をしてないみたいだけど。でも毛並みは良いみたい」
 その紫を帯びた毛並みには艶があった。蒼い瞳からも野良猫の強かさではなく、気品の良さが窺える。
「そうか? さっき連中に突っかかってた時はドラ猫って感じ──」
 キャロルが猫の頭に手を伸ばすと、猫の手がそれを払い除ける。その様子を見たラウラが笑い、
「嫌われちゃったわね」
「……ほっとけ」
 キャロルが憮然とした顔で答える。
「こんな所で何してるんだ?」
 そんな二人に声を掛ける者が一人。
「あ、バリー」
 市場の方から路地に入って来たバリー=ランズダウンである。
「ん、どうしたんだ、その黒猫は」

「成程、そういう事があったわけか」
 一通り事情を聞き終えたバリーが、ラウラを一瞥する。彼女の委縮する様子から反省しているらしいと見たバリーは、肩を竦めて跪くと、
「そこの毛並みの美しいお嬢さん、触らせて貰っても?」
 恭しい仕草でラウラに抱かれた黒猫へ手を差し出した。
「へー、この子女の子なの……え? 何で一目でそれがわかったの?」
「一目瞭然だろう。っと」
 黒猫がラウラの腕からすり抜けて、バリーの懐に飛び込んだ。彼女は甘い猫撫で声を上げて、顔を擦り付ける。
「……何だか、裏切られた気分だわ」
「この猫、やっぱり噂で聞いた猫かもしれん」
 黒猫の顎をくすぐってやりながら、バリーが思案顔を浮かべる。
「噂? 何のだよ」
「この街一番の富豪が強盗に遭ったって話だよ。三日前の朝、雇われの使用人が富豪の家に入ると、金目の物がなくなっていて彼の遺体が転がっていたらしい。家族はただ一匹の黒猫だったそうだ。その猫の特徴と、この猫は一致する」
「でもこの子、首輪をしていないわ」
「銀細工の首輪をしてたそうだからな、それも強盗に奪われたんだろう。ところで、さっき話に出てた連中の風貌は覚えているか?」
「まあ、一応な。……あいつらが、その強盗ってわけか?」
「憶測だがな、調べてみる価値はあるさ。軍に先んじて捕らえれば、それなりの報酬が望めるかもしれん。ついでにこのお嬢さんの首輪も盗品の中から取り返してやれる」
 バリーが背を撫でると、黒猫が嬉しそうな鳴声を一つ上げた。
「場合によっては手勢を集める必要があるな。猫に手を貸してやれる暇な人間が居れば良いんだが」

リプレイ本文

 盗賊の塒に程近い広場に、ハンター一行は集まった。
「よ。また会ったねえ、お姫様」
「あらニンジャさん。あなたとは随分と縁があるわね」
 カッツ・ランツクネヒト(ka5177)が、ラウラに声を掛ける。
「それで、そちらのレディーが今回の依頼人ってわけかい?」
「ねこだけどね」
 そして、彼女の傍らで顔を洗っている黒猫に目を向けた。
「にゃんこー、にゃんこ、お猫様!」
「お猫さま、可愛いの、素敵な毛並みなの……」
 その黒猫ににじり寄る少女が二人。ソフィア・フォーサイス(ka5463)とディーナ・フェルミ(ka5843)だ。
「お猫様って、何だか宗教染みてやしないか」
 その様子に、カッツが苦笑を浮かべる。
「触って良いですか? 撫でても良いですか!?」
 ソフィアの許可申請に黒猫が一鳴きして応じた。
 早速ソフィアは、黒猫の耳の裏や顎の下を撫で始める。最初は慎重な手付きだったが、柔らかい感触に猫愛を抑えられなくなった彼女は、黒猫に跳び付いた。
「もう辛抱堪りません! モフモフさせてー!」
 しかし、ソフィアの抱擁を黒猫はするりと躱す。
「この子、あんまり構われるのは嫌いみたい。よっぽど気に入った相手になら、自分から飛び込むみたいだけど」
「そんな……、いや、ツンデレ上等、望むところです!」
 一度落としかけた気を持ち直し気炎を上げるソフィアに、黒猫は警戒の視線を向ける。
「あの……ブラッシングなら構わないですかっなの!」
 恐る恐るその様子を見ていたディーナが、意気込み高く黒猫に詰め寄る。その気合いの入り様は、彼女の頭を飾る猫耳カチューシャからも明らかだ。
 黒猫はディーナの手に納まったブラシを一瞥すると、一声鳴いて腹這いになった。それを受け容れ体勢と察したディーナは意気揚々と、黒猫の背にブラシを掛ける。
「うわ、ビロードみたいなの、幸せなのー」
「うぅ、生殺しですよーこんなの。せ、せめて肉球を」
 恍惚とするディーナの隣で、猫成分の貧窮に喘ぐソフィアに慈悲の手が差し伸べられる。
「ああ、ありがとうございますお猫様!」
 肉球を上に向けた黒猫の前足に貧者が跳び付いた。
「こ、これはこれで、しあわせっ!」
 少女二人にちやほやされる黒猫を見て、カッツが呟いた。
「成程、猫になりたいってのはこういう気持ちの事を言うのかね、お姫様」
「……多分違うと思うわよ」

「それで、あんたの情報は何処まで頼りになるんだい?」
 フォークス(ka0570)が煙草を吹かしながらバリーに問う。彼はしわくちゃの煙草を咥えながら、
「十中八九。まあ、確証はないな。後は中に潜って調べるしかない」
「外れだったら、今回の埋め合わせはあんたらの財布から出して貰うよ」
「勘弁してくれ、ミス・フォークス。こちとら最近、シケモクで凌いでるんだが?」
「なら、当たる事を祈るんだね。神様にでもさ」
「奴は気分屋で、しかも皮肉好きのサイコ野郎だって聞いてる。当てにはならんさ」
「ま、それは同感だ。いつの世も、頼りになるのは銃と金、それだけだ」

「よう兄ちゃん。シングルアクションたぁ、渋い趣味してるねぇ」
 エリミネーター(ka5158)が、キャロルの腰に差してある拳銃に関心を示した。
「ん、これか?」
 キャロルは、ガンスピンを披露しながら、ホルスターからリボルバーを抜き出す。
「こいつは復刻版なんかじゃない。西部開拓時代のフロンティアスピリットが籠ったモノホンさ」
「そりゃマジか」
「さあな、こいつを俺に譲った奴の受け売りだ。ま、由縁はともかく使い勝手は本物だ。引鉄が軽い分初弾は誰よりも早く、そして外さない」
「大したもんだな」
「あんたのそれも、言わばアンクル・サムの象徴だろ?」
 キャロルはエリミネーターの得物──大口径の自動拳銃を指差した。
「まあな、こいつとも長い付き合いに──」
「お父様、その辺にして下さいな」
 愛銃について語ろうとしたエリミネーターの袖を引っ張ったのは、彼の娘──ではなくステラ・レッドキャップ(ka5434)だ。彼女も銃談義に混ざりたいのは山々だったが、そうすれば折角被ったお淑やかな仮面が剥げる事は明白なので控えていたのである。
「おっと、すまねぇな、愛しき我が娘(Lovely my daughter)」
 エリミネーターは彼女の方へと振り返り、普段の冗談めいた口調で応じる。
「あんたら、本当に親子を演じるつもりか?」
「ええ、勿論。何でしたら、キャロルさんの事もお兄様とお呼びしましょうか?」
「遠慮願いたいね──それより、おっさん。さっきから後ろで犬ころが機嫌損ねてるが良いのか?」
 キャロルが一匹のシェパード犬を指差した。
「ああ、さっき報酬の前払いって事で黒猫ちゃんを撫でさせて貰ったら、マックスの奴拗ねちまってな──いい加減機嫌直せよ、御馳走たらふく喰わせてやるって言ってんだろ?」



 いよいよ一行は盗賊──現状は被疑者の段階だが──の塒へと乗り込んだ。
 彼らの作戦はこうだ。
 表口では父娘を演じるエリミネーターとステラが、裏口では迷子に扮したソフィアが中の人間を引き付け、その隙に乗じてカッツが二階から元宿屋に潜入し彼らが黒であるという確信を得次第、一気に突入しようという腹積もりである。

「何だ、あんたら」
 表口に立って居る二人の男が、近付いて来た偽父娘に警戒の視線を向ける。
「いやなに、私らはこの宿に泊まりに来た者なんだが、おたくらはここの従業員かな? いやそれにしては随分と立派な体格をしてなさる。ははあ、とすると用心棒かね。この辺りは、そんなに物騒なのか? いやはや怖い怖い、物盗りなどには気を付けんといけないなあ」
 エリミネーターの鎌掛けに男達が剣呑な雰囲気を纏い始める。
「す、すいません、父は歯に衣着せない言い方ばかりで。別に皆さんが頼りないと思っているわけではないのです」
 ステラが時折堰込みながら病弱で気弱な娘を装ってフォローを入れる。
「親子か? 全然似てないな」
「HAHA、良く言われるよ。幸い娘は母親似でね、だが残念ながら病弱な所まで似てしまって──」


「おい止まれ。何の用だ、小娘」
 裏口に近付いて来たソフィアを、二人組の男が高圧的に止める。
「ええと、お父さんとはぐれてしまって。ここは宿屋ですよね? ここに泊まる予定だったので」
「迷子? ならその刀は何だ?」
「これはお父さんの刀で──」


 カッツは二階に迫り出したバルコニーへと登る。疾影士にしてニンジャ足る彼からすれば、この程度は造作もなかった。
 問題はこれから。
 壁際に身を寄せ、割れた窓の中から聞こえる物音に意識を集中する。
 足音。数は──一つ。
 足音が離れて行くタイミングを見計らって廊下に忍び込む。と同時に賊の背に忍び寄り、
「他のお客様のご迷惑になりますので、お静かに」
 その喉元に短剣を沿える。
「聞きたい事が幾つかある。静かに正直に答えてくれよ」
 男が頻りに頷く。
「素直なのは良い事だ。嘘吐きは泥棒の始まりって言うからな」
 男の肩が一瞬震えた。あからさまな反応。
「もう聞くまでもないんだが、一応聞くぜ? おたくらが最近この街一番の金持ちの家襲ったって言う強盗か?」
「な、何でそれを……」
「おいおい、立場が逆だろ? あんたの命と質問する権利を握ってんのは、俺。OK?」
「あ、ああ。ああそうだ」
「そんで、あんたらの宝物庫は何処だ?」
「に、二階と、一階にそれぞれ一つずつある。二階の方は、ほ、ほらそこの部屋だ。な、なあ正直に話したんだ、命だけは──」
「良い眠りを」
 カッツは命乞いをする男の首に躊躇なく鎧通しを突き入れた。
 派手に血飛沫が飛び散らない様に刃を刺したまま骸を静かに横たえる。短剣を抜き取ると、床に血溜まりが広がっていくのを他所に、通信機を通して仲間に呼び掛けた。

『連中、真っ黒だ。そんじゃ皆さん、パーティー開始と行こうか。クラッカーの準備は万端かい?』


 カッツの通信を聞いて真っ先に動いたのはステラ。
 盗賊達の警戒から外れていた彼女は、スカートの内側に隠しておいたリボルバーを抜くと同時に、
「御免あそばせ──チンピラ」
 盗賊の片割れの膝裏に銃口を向けて銃爪を絞った。
 悲鳴を上げて倒れ込む盗賊。もう一人が短剣を引き抜いてステラに刃先を向けるが、
「おいおい、俺様の娘を傷物にする気か、ボーイ?」
 エリミネーターが賊の襟を掴んで地面に叩き伏せた。
「良かったな、ボーイ。ここがアメリカなら、尻にショットガン突き込まれたって文句は言えなかったぜ?」


 表口から響いた銃声、それに気を取られた二人組の盗賊。
 その隙を突いて抜刀するのは容易かった。鞘鳴りの音を聞いてようやく男達がソフィアの方へと視線を向ける。
 その顎へ抜き放った刀の柄頭を叩き込む。気絶した相方の隣で、もう一人の賊が短剣を手に取った。
「くそっ、ハンターだったのか」
「ええ、そうですよ。迷子の迷子の子猫ちゃんが、犬のお巡りさんの元まで送ってあげますから、大人しくして貰えませんか?」
 総身を包む漆黒のオーラを迸らせながら、刀の切先を賊に向ける。
「糞喰らえだ!」
 勧告に悪態を返して賊は短剣を突き出した。その腕を鞘で払い除け、刀身を返して峰で賊の腹を薙ぎ払う。古びた扉を破壊しながら賊を建物の中へと叩き込んだソフィアは、高らかに宣戦布告をしながら敷居を跨いだ。
「お邪魔します、死にたい人から掛かって来て下さいね☆」
 優しく半殺しにしてあげますから。


「ぎゃあぎゃあ喚くなよ、男だろ?」
「死んじゃわない様に、止血だけはしてあげるから我慢するの」
 ステラが賊達を用意した縄で手荒に縛り上げ、ディーナが必要最低限の治癒魔法を施してから、表玄関組が突入の準備を整える
「お猫さまとラウラちゃんが待ってるから、さっさと行こうなの、さっさと」
「ミス・フェルミ、まさかとは思うが目的を見失ってないか?」
「そ、そんな事ないの。ほら、昔この宿に食品を卸してたお店の人に話を聞いて大まかな見取り図だって用意したの」
「さっさとおっ始めようぜ。お嬢様の振りして肩凝っちまった」
「そんじゃやるか、カウボーイ」
「おうよ、保安官。騎兵隊の出番は今回はなしだ」
 エリミネーターとキャロルが、両開きの玄関を左右から蹴り開ける。
「「大人しくしやがれ、アウトロー! この銃が見えねえか!」」
 四五口径とシングルアクションリボルバー──合衆国を代表する二挺の名銃が火を噴いた。
 突如叩き込まれた牽制射撃に、銃口を玄関に向けていた賊達は堪らず遮蔽物に身を隠す。
「GO、GO、マックス!」
 主の命令に従って、シェパードが柱に隠れた賊に喰らい付いた。仲間を襲う黒犬に別の賊二人が銃口を向けるが、ステラの構える二挺拳銃から放たれた銃弾が彼らのリボルバーを弾き飛ばして撃発を阻止した。衝撃で指を折られた賊達が戦意を喪失して蹲る。
「やってみりゃ、案外できるもんだな──とこれで終わりか?」
 上々の結果に満足気な笑みを浮かべたステラの眼前に、突然人影が降って来る。
「うおっ、何だ!?」
 風体から判断するに、今しがた彼らが無力化した賊達の仲間だろう。
「おっと悪いな、あー、ステラ……ちゃんで良いのかねえ?」
 吹き抜けになったロビーの二階から顔を突き出したのはカッツ。落ちてきた賊の、鼻が潰れた顔面に刻印されている靴跡は彼がこさえたものだろう。
 そして今度は裏口へと続く扉を突き破って、気絶した賊が転がり込んで来た。
「あれ? 皆さんお集まりですね。これでお終いですか?」
 続いてロビーに入って来たソフィアが首を傾げた。


 顔に傷痕のある男が残りの手勢に持てるだけの盗品を持たせて、裏口へと向かっていた。その言動から察するに彼が盗賊団の頭領なのだろう。
 床で伸びている仲間を見捨てて、破壊された扉から外に出た彼らを、
「ちわーっす、ピザの配達に来ました。血印(ハンコ)頂けますか?」
 魔導リボルバーの凶弾が見舞った。
 裏口前で待ち伏せしていたフォークスが放つ冷気を籠めた弾丸が、賊達を襲い氷漬けにする。
「Fuck!  What the fuck!」
 部下を盾にして銃火から逃れた傷男が、氷像と化した部下を押し退け撃ち返して来た。フォークスは辺りに生えた木の陰に隠れ射線をやり過ごす。
「どうもこうもないさ、傷顔(Scar face)。お終いさあんたらは」
「馬鹿抜かせ。俺は生きてる、手前も生きてる。だったら何も終いにゃならねえ。知らねえのか、人間死ななきゃ終わりなんて来ねえのさ」
「知ってるさ──」
 皮肉な笑みを漏らして木に立て掛けて置いた得物を手に取ると、銃撃が止むのを見計らって木陰から飛び出す。
「Hey, scar face. kiss my ass!」
 とびっきりの冗句を籠めて、フォークスは軽機関銃の銃口を傷男に向けた。
「Mother fucker……!」
 鉄と火薬の怪物が金切り声を上げて、品のない遺言を残した傷男を挽肉にした。
「ミートソースは自前でどうぞ」
 硝煙たなびく軽機関銃を置いたフォークスは、紙包装の煙草入れを取り出し、紙巻煙草を一本咥えて火を点ける。
 空に向けて紫煙を吐いて、一言呟いた。
「──やっぱり、仕事上がりの一服は格別だ」

「あ、おかえりなさい──良かった、皆無事みたいね」
 盗賊を軍に引き渡して戻った一行を、ラウラと黒猫が迎える。黒猫は真っ先にカッツの元に走り寄り鼻をひくつかせたかと思うと、彼を見上げて一声鳴声を上げた。
「もうお気付きかい、レディ。ほら、お目当ての首飾りだ」
 跪いたカッツは盗品からくすねて来た銀細工が施された紅革の首輪を、黒猫の首に嵌める。銀細工の表面に刻まれた文字を読み上げた。
「ルーナ。これがレディのお名前かな? お似合いの綺麗な名前だ」
 黒猫──ルーナの顎を撫でてやると、彼女はその手に頬を擦り付けて来た。
「ず、ずるいですカッツさん、私だって!」
 嫉妬したソフィアがルーナに抱き着こうとするが、またも躱される。
「どう、ラウラちゃん? お猫さま用買い物リスト、書けたの?」
「うん書いたけど、今から買いに行くの、ディーナ?」
「勿論なの。一緒に行くの!」
「うぅ、私も連れてってください」
 肩を落とすソフィアの頭の上で、ルーナが満足そうに鳴声を上げた。

「それ重くないの、ソフィア?」
「だ、大丈夫です。これも幸せの重みだと思えば」
「次はかつおぶしなの、東方のお店はあっちの方だって聞いたの!」
 市場を歩くのはかしまし娘たち。ルーナはそこを定位置と定めたらしく、ソフィアの頭上で丸まっている。彼女の首にはラウラのポンチョと同色のリボンが揺れていた。
「また荷物持ちかよ……」
 そしてその後ろに荷物を抱えたキャロルが付き従う。
「つーか、何で俺らがあの猫飼う事になってんだ?」
 深く考えるな、感じるんだ!

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重体一覧

参加者一覧

  • SUPERBIA
    フォークス(ka0570
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • クールガイ
    エリミネーター(ka5158
    人間(蒼)|35才|男性|猟撃士
  • この手で救えるものの為に
    カッツ・ランツクネヒト(ka5177
    人間(紅)|17才|男性|疾影士
  • Rot Jaeger
    ステラ・レッドキャップ(ka5434
    人間(紅)|14才|男性|猟撃士
  • 無垢なる黒焔
    ソフィア・フォーサイス(ka5463
    人間(蒼)|15才|女性|舞刀士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ステラ・レッドキャップ(ka5434
人間(クリムゾンウェスト)|14才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2016/01/17 20:16:02
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/01/16 01:04:27