ゲスト
(ka0000)
【深棲】迫る狂気
マスター:狭霧

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/14 12:00
- 完成日
- 2014/09/11 19:04
このシナリオは4日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
漁に出ようと思った。
そう、漁に出ようと思ったんだ。
同盟のあちこちで歪虚の活動が活発化していることは知っている。
だけど漁に出なければ家族に食べさせることができないじゃない。
ここはリゼリオからある程度離れているし、付近に狂気の歪虚が出たという話も聞かない。
だからきっと大丈夫。
そう思い、船置き小屋に向かった。
●
視界いっぱいに広がる丸太ほどもある太さの触手。
いや、これはタコの腕だ。灰色をした巨大なタコ。本来頭があるべき場所には人間の上半身に似ているナニカ。
それだけでも異常なのに、タコ腕の表面についた幾つもの口が異常さを際立たせる。
口、口、口、口、口。
幸い奴に目は無かったから、音を立てないように逃げれば助かる……そう希望を抱いた数秒前の自分を嗤う。
奴は目どころか耳も見当たらないのに、俺の居場所を正確に捉えてその剛腕で薙ぎ払ってくる。
痛い。骨が砕けた。痛い。
もう駄目だ走れない。動けない。逃げれない。いや違う、最初から逃げることなんてできなかった。あいつの姿を見た瞬間、ナニカに惹きつけられて目を離せなくなった時からこうなることは決まっていた。
怖い、怖い怖い。今すぐここから逃げ出したいのに身体がいうことを聞いてくれない。
あいつの腕が近づいてくる。――足は動かない。
無数の口が涎を垂らして我先にと俺の身体に噛り付く。――目を逸らせない。
バリボリと骨が噛み砕かれ、ぐちゃぐちゃと肉が咀嚼される音が鳴っては消える。――耳は鮮明に音を拾う。
身体がどんどん消えていくのに痛みはない。そんなものとっくに麻痺してしまったのだろうか。
ああ、俺はもう助からない。助からないが……せめて家族たちは。村のみんなは無事であってほしい。
この化け物が村に向かわないように……ハンターたちが間に合うように祈
●
リゼリオにあるハンターオフィスは“狂気”にかかわる依頼の対応で多忙を極めていた。
加え、ラッツィオ島での討伐作戦にも無関係ではいられない。
ハンターが担う役割も決して小さくないものになると確信するからこそ、可能な限りのバックアップをしなければならない。
そんな中、次から次へと厄介ごとを持ちこんでくれる狂気の眷属は――ラッツィオ島の個体が無関係ではないとはいえ――今一番頭の痛い問題だった。
「てなわけで、そんなクソヤローをぶっ潰してくるのが今回の依頼です」
かなり不機嫌な様子で空中ディスプレイを開く職員。
そのままハンターたちの前にも同様の画面を表示する。
画面にはとある漁村を蹂躙した後、ここリゼリオに向かっているらしい歪虚の情報が羅列されていた。
「そのタコ助の目的地がここリゼリオなのかは判りません。しかし事実として、そいつの進行方向にリゼリオがある以上、このまま放置しておくわけにはいかない。
何より、その漁村から逃げ延びて来た人たちから依頼されたんです。
ここで動かなければハンターである意味がない。――でしょう?」
そう、力強く笑って。
「敵はかなり強力な歪虚です。くれぐれも油断しないでください。ご武運を!」
絶対の信頼とともにハンターたちを送り出した。
そう、漁に出ようと思ったんだ。
同盟のあちこちで歪虚の活動が活発化していることは知っている。
だけど漁に出なければ家族に食べさせることができないじゃない。
ここはリゼリオからある程度離れているし、付近に狂気の歪虚が出たという話も聞かない。
だからきっと大丈夫。
そう思い、船置き小屋に向かった。
●
視界いっぱいに広がる丸太ほどもある太さの触手。
いや、これはタコの腕だ。灰色をした巨大なタコ。本来頭があるべき場所には人間の上半身に似ているナニカ。
それだけでも異常なのに、タコ腕の表面についた幾つもの口が異常さを際立たせる。
口、口、口、口、口。
幸い奴に目は無かったから、音を立てないように逃げれば助かる……そう希望を抱いた数秒前の自分を嗤う。
奴は目どころか耳も見当たらないのに、俺の居場所を正確に捉えてその剛腕で薙ぎ払ってくる。
痛い。骨が砕けた。痛い。
もう駄目だ走れない。動けない。逃げれない。いや違う、最初から逃げることなんてできなかった。あいつの姿を見た瞬間、ナニカに惹きつけられて目を離せなくなった時からこうなることは決まっていた。
怖い、怖い怖い。今すぐここから逃げ出したいのに身体がいうことを聞いてくれない。
あいつの腕が近づいてくる。――足は動かない。
無数の口が涎を垂らして我先にと俺の身体に噛り付く。――目を逸らせない。
バリボリと骨が噛み砕かれ、ぐちゃぐちゃと肉が咀嚼される音が鳴っては消える。――耳は鮮明に音を拾う。
身体がどんどん消えていくのに痛みはない。そんなものとっくに麻痺してしまったのだろうか。
ああ、俺はもう助からない。助からないが……せめて家族たちは。村のみんなは無事であってほしい。
この化け物が村に向かわないように……ハンターたちが間に合うように祈
●
リゼリオにあるハンターオフィスは“狂気”にかかわる依頼の対応で多忙を極めていた。
加え、ラッツィオ島での討伐作戦にも無関係ではいられない。
ハンターが担う役割も決して小さくないものになると確信するからこそ、可能な限りのバックアップをしなければならない。
そんな中、次から次へと厄介ごとを持ちこんでくれる狂気の眷属は――ラッツィオ島の個体が無関係ではないとはいえ――今一番頭の痛い問題だった。
「てなわけで、そんなクソヤローをぶっ潰してくるのが今回の依頼です」
かなり不機嫌な様子で空中ディスプレイを開く職員。
そのままハンターたちの前にも同様の画面を表示する。
画面にはとある漁村を蹂躙した後、ここリゼリオに向かっているらしい歪虚の情報が羅列されていた。
「そのタコ助の目的地がここリゼリオなのかは判りません。しかし事実として、そいつの進行方向にリゼリオがある以上、このまま放置しておくわけにはいかない。
何より、その漁村から逃げ延びて来た人たちから依頼されたんです。
ここで動かなければハンターである意味がない。――でしょう?」
そう、力強く笑って。
「敵はかなり強力な歪虚です。くれぐれも油断しないでください。ご武運を!」
絶対の信頼とともにハンターたちを送り出した。
リプレイ本文
ハンター達が待ち受ける海岸沿い。
海からの生暖かい湿った風が、薄墨色にくすんだ平地を撫でて行く。
──ぬちゃり──
粘液質の音を纏わり付かせ、歪虚が海から陸へ身体を這い進める。
餌。食事。エネルギー補給。それとも、ただ殺戮の為?
理由は解らないが、ともかく歪虚は腹が減っていた。
……この先に、彼奴等が居る。弱くて、食いやすく、腹にたまる奴等が。
歪虚はズルズルと滑らせる様に臭いの元へと向かう──
●
「なんて禍々しい姿……」
ハンター達が遠目に歪虚を確認した時、夕影 風音(ka0275)がポツリと口にする。
昨今目撃されている歪虚の大半が此の様な異形の姿。
ある程度耐性のあるハンターでも、見るだけで生理的嫌悪を隠せないのだから、此の様な物が都市部へ侵入すればパニックどころでは無い。
──絶対にここで食い止めないと──
そう心に強く思い、歪虚との距離を測る。
久延毘 大二郎(ka1771)は深く息を吐きながら、歪虚を眺めて一人ごちる。
「最近噂に聞く狂気の歪虚を一目見んが為にこの依頼を受けたが…私が思っていた以上に事態は深刻だったようだ」
その目には恐れより、闘争心より。好奇心が覗いている様に見える。
「いいだろう、狂口蛸君には我々のテリトリーを侵した報いをちゃんと受けて貰おうじゃないか」
呟くと、久延毘は口元に薄い笑みを浮かべた。
夫々の思いの中、君島 防人(ka0181)は『人命が奪われた以上、これ以上の犠牲は許容出来ん。リゼリオに到達する前に、此処でケリを付ける』と密かに闘志を燃やしていた。
●
軈て歪虚の蠢く粘液質な音がハンターの耳に届く様になり、敵の全容がはっきりと解る様になる。
そして歪虚もハンター達を視界に捉えたのか、動きを止めた。
「うわ……こ、こうやってみると予想以上にキモいっ」
ソフィア =リリィホルム(ka2383)は内心と若干剥離した感想を口にし、結城綾斗(ka2092)は戦闘姿勢を整える。
「これが…狂気。小賢しい、俺たちはもっと強大な敵から大切なものを守らなきゃいけないんだ。こんなところで、貴様なんかに足を取られてたまるか!」
戦闘の始まりを告げるかの様に、歪虚が吠えた。
『────ッッ!!!!』
それは今まで聞いた事が無い、云うなれば地獄の底からの亡者の絶叫を彷彿させる、迚も暗く闇を感じる咆哮であった。
ビリビリと空間ごと反響する様な咆哮は振動の為か砂煙を起こし、ハンター達の身体をも振るわせる。
そして長い咆哮が過ぎ去った後、ハンター達は互いにアイコンタクトで安否を確認し、歪虚への反撃を開始した。
「ま、撃つもん撃って、殺れるもん殺れりゃ満足だ。気色悪りぃタコ助ともよろしくやってやるさ。」
ルイーナ・アンナトラ(ka2669)は銃に弾を込めながら不適な笑みを浮かべ、リボルバーのシリンダーを振り入れ軽く回す。
「行くぜ鹿東! 援護してやる! 突っ込め!!」
その言葉を聞くか聞かないかのタイミングで鹿東 悠(ka0725)が歪虚の足へと向かい突進する。
ルイーナが放つ、リボルバー独特の激発音を背に頼もしく感じながら、鞭の様に撓り来る蛸足へ鹿東のクレイモアが食い込んだ。
食い込みはしたが、切り払うまでには至らず、歪虚の体液を全身に浴びながら言葉を漏らす。
「全く汚いことこの上ない…すぐに掃除してやるよ…」
食い込んだクレイモアを一旦引き、足から抜けた所を抜いた反動で身体を回し、もう一撃。
それでも切り落とすには至らなかったが、ダメージは与えられている事を確信し、一度距離を取る。
その時。息をつく鹿東の足下に蛸足が迫るが、息をついた鹿東は気付いていなかった。
「足下がお留守だぜ、悠!! 一つ貸しだ!!」
別の足と切り結んでいたシャルラッハ・グルート(ka0508)が足に迫っていた蛸足をツヴァイハンダーで串刺しにし、鹿東と背中合わせに構える。
「君島、バックアップ頼むぜ!!」
「牽制弾準備良し、支援射撃を行う」
シャルラッハの声にハンドサインで応え、自身の装備を確認するかの様に武器を構え直した君島がボソリと呟いた。
●
「くそっ──予想以上に足が固い……」
日本刀で鞭の様な足の攻撃を受けながら、結城が苛立ちの声を上げる。斬撃が通り難い上に、ウネウネと動き回る為狙い自体が付け辛いのもある。
その時、更に襲いかかる蛸足へしがみ付き、口と思われる箇所へオートマチックピストルの射撃を見舞う。
乾いた激発音の後、歪虚はダメージが有ったのだろう一瞬動きを止めて、その原因である結城に足を絡め締め上げ始める。
抱きついていた事により逃げ道のなかった結城は締め上げられながらも足に付いた口で噛み付かれるという状況に陥る事になった。
「──良い一撃だったよ、結城君。そして良いヒントだ」
久延毘は薄く笑みを浮かべ、ウィンドスラッシュを結城が捕まっている足へと放ち、更に流れる様にソフィアへとストーンアーマーをかけ直す。
切り落とされた足と共に結城が落下し、そして──
「リリィホルム君、口周りだ!」
「がってん承知っ!!」
有効部を探して拡散していたターゲットを一つに絞り、ソフィアのシルバーバレットが火を噴き、反動で彼女の銀色の髪が靡く。
「夕影さん、結城さんをお願い!」
「解りました!!」
夕影と立ち位置を入れ替え、前に出たソフィアが結城を力一杯後の夕影の方向へと滑らせる。
夕影は結城の身体を優しく抱き上げ、ヒールの優しい光が結城の全身を包んだ。
薄く目を開けた結城は、ハッと目を見開き身じろいだ。しかし、身体が思う様に動かない。
「う、しろ……!」
唯一動く口で、迫る危険を叫ぶ。
一瞬身体を固くし、迫り来る蛸足の叩き付けを背に受けるが、夕影の優しい笑みは変わらず、結城に語りかける。
「大丈夫。このくらいへっちゃらよ。 結城君、しっかりして!」
心配をかけない様に。強がりでも良い。──守る事が私の仕事だもの。そんな意思を感じさせる姿で治癒を続け、結城の傷は癒えていった。
●
──歪虚は考える。
──今、目の前に居るコイツ等は、強い。
──差し出されるがまま貪ってきた、アレではない。
──殺されるのは、嫌だ……もっと、もっと……
『────ッッ!!!!』
歪虚は全ての攻撃から一気に足を戻し、素早く後退する。
そして、全ての口をハンター達へと向けて今までにない大きさの一際甲高い咆哮を上げた。長い、そして本能的に恐怖を感じる様な咆哮だった。
ハンター達は耳に不快な耳鳴りが響いたかと思った瞬間。周囲への変化を感じる。
遮蔽物の無い平地への音波攻撃。傍らに転がっていた小石が音も無く砂に変わり、崩れ落ちた。
「超音波……ッ!! みんな下がって!!」
いち早く起こっている出来事の本質を理解した夕影が盾を構え、殿を勤めて効果範囲から抜け出す。
「さっきやって上手くいったんだけどさ。足は前衛、銃は口周り、魔法は臨機応変ってことでどうかな?」
超音波の範囲外へと抜け出した全員にソフィアが提案する。先程の噛み合った攻撃が有効だと判断したからだ。
「了解した。これより胴体部への攻撃を開始する」
力強く頷くと、君島は自身の火器の有効射程ギリギリへと移動し、射撃体勢を取る。
「──マテリアル弾、装填完了。射出する」
自身の装備を確認し、君島の銃が放った激発音を合図に、全員が歪虚へと突進し、戦闘が再開された。
「綾斗、せっかく傷が治ったんだ。挽回と行こうぜ!」
ポンと肩を叩き、シャルラッハを始め、鹿東と結城が各々の剣を構えて足を押さえに走る。
「背中は任せときな!! なあ、君島の旦那ァ!!」
「……………」
「全く、つれねぇな、旦那は……」
ルイーナは苦笑を浮かべて、リボルバーの狙いをつける。引き金を引き絞り跳ねる様に動くハンマーが弾丸の尻を叩き付けた反動を腕に感じる。
「──ッ! 動くなツってんだよ。弾が外れるだろうが!!」
動きは速くないものの、ぬらりと動く軟体性物は動きの予測がし辛く狙い難い。足を押さえに走っている前衛のお陰で幾分は狙いやすくなったのだが──
「足を切ってしまえば、動きも鈍くなって当たりやすくもなろう」
久延毘が足に向かってウィンドスラッシュを放ち足を切り落とし、落ちた足は暫くのたうった後に黒い塵へと帰った。
「ナイス久延毘さんっ!!」
ソフィアが十字放火の位置取りに走りながら言葉を投げる。射撃位置にたどり着いたソフィアは、砂煙を立てながらも低姿勢からの銃撃を放つ。シルバーバレットからの弾丸は歪虚の眉間部を抉り、確実にダメージを蓄積させていく。
●
「ハッハー! 良いチームじゃねえの? もうちょいだ! なあ、悠!!」
シャルラッハが迫り来る足を切り伏せながら、鹿東に同意を求める……が、鹿東はするりとシャルラッハの背に周り、彼女が気付いていなかった足を切り捨てた。
「──背中がお留守だぜ?」
前に助けられたお返しとばかりに、ニヤリと笑みを浮かべながら皮肉を返す。
「嫌いじゃないぜ、食えない野郎はよ!」
互いに大剣を獲物にする二人は、互いに背中を預ける様に立ち回る。
夕影は盾を構えて前進、ホーリーライトを本体へと撃ち込むが、足の数が減ったとはいえ、ダメージは蓄積されていき、夕影の横腹を薙ぎ払う様に足が襲う。
ぐっと目を瞑り吹き飛ばされる事も覚悟したその瞬間────衝撃が、来ない。
そこには、日本刀で迫る足を切り飛ばし、残心する結城の姿があった。
「さっきは助けられたからな。今度は俺が守るさ」
やっと状況が飲み込めた夕影は、すぐに体制を立て直して応える。
「はい!」
前へ出る結城が足を相手にし、夕影のホーリーライトが歪虚の本体へと飛んだ。
「そろそろ足は前衛に任せても大丈夫の様だね。私は後ろにまわろうか。リリィホルム君の位置は──」
久延毘はソフィアの位置を確認し、十字放火の位置を割り出して魔法をアースバレットに切り替え、本体へと飛ばす。
石つぶてが本体へ嫌な音を立ててめり込み、動きが鈍り始めた事が目に見える様に解ってきた。
「久延毘さん、左から足!!」
ソフィアの声が飛び、久延毘は身体を捻って何とか躱す。そしてソフィアがその足に向かい、シルバーバレットの集中砲火を浴びせ、弾け飛ばした。
その時、君島の鋭い声が飛ぶ。
「来るぞ、注意しろ!」
足が減り、攻撃手段が減った歪虚が取った攻撃方法は半ば予想通り。しかしおぞましい姿であった。
クリオネを模した様な本体部が大きく裂け、その部分から触腕が勢いよく飛び出したのだ。
「うっわ……今更だけど、グロいっ」
素直な感想を口にしつつもソフィアの放つ弾丸は大きく裂けた本体の中心部へと撃ち込まれる。
『────ッッ!!!!』
三度目の咆哮。歪虚の闘争本能を形にした様な、凶暴な叫び声。
今度は本体の大きく避けた口と思わしき場所から。それはリアルブルーの怪獣映画で聞く様な、不協和音であった。
足よりも細く素早い触腕を振り回し、ハンター達に襲いかかるその姿は、もう蛸の形を留めていない。正にクリーチャーといった容貌だった。
「細い方が切りやすいってもんよ!! 飛び道具は口の中にお見舞いしてやんな!!」
シャルラッハがツヴァイハンダーを振り抜き、触腕を数本纏めて切り払うと、鹿東と結城も互いの背中を守る様に切り払い、飛び道具の射線を確保する。
「どんなキワモノだろうが、風穴開けりゃ死ぬんだよ!! 畳み掛けろ!!」
ルイーナのマグナムが火を噴き、歪虚の口の中へと吸い込まれる様に入っていく。
銃弾の一発一発が命中する度に身を捩る様な触腕の攻撃が襲いかかるのだが、前衛の三人、そして夕影の盾による防御で後衛に届く事は無い。
君島の正確な掩護射撃を切っ掛けに、久延毘のアースバレットが飛び、ソフィアの弾丸が本体を貫く。
その時、歪虚の大きな身体が伸び上がる様に震え、硬直する。
「これで、終わりです!!」
その隙を見逃さず、夕影のはなったホーリーライトが歪虚中央に炸裂すると、その光に飲み込まれる様に身体を塵へと返したのだった。
●
「っふーッ! 終わったかぁ!!」
ツヴァイハンダーを地に突き立て、煙草に火を点けたシャルラッハが紫煙を胸一杯に吸い入れて溜息と共に吐き出した。
シャルラッハからの煙草の香りに眉をぴくりと動かしたソフィアだが、気を切り替えるかの様に大きく伸びをして仲間を振り返る。
「キモいグロいってのはあったけど、結構良いチームだったんじゃない?」
「皮肉屋と無愛想も味ってもんだよな。なあ? 旦那?」
結城と君島の背中をバンバンと叩きながら、ルイーナが笑う。
結城はポケットから取り出したウイスキーを口に含んでいた為、噎せ返っていたが。
ともあれ。苦戦を強いられた戦いではあったが、化学反応の様に噛み合ったチームの力で歪虚を撃退する事は出来た。依頼は成功になるだろう。
「あーあ! 疲れちゃった。温泉に入りたいなぁ……あ、でもヒールまだ使えるから、怪我してる人は治しちゃいますね」
戦闘後も忙しそうに動き回る夕影の治療を受け、全員が一息を付いた所で久延毘が声をかける。
「さて、諸君。帰るとしようか──」
(代筆:小宮山)
海からの生暖かい湿った風が、薄墨色にくすんだ平地を撫でて行く。
──ぬちゃり──
粘液質の音を纏わり付かせ、歪虚が海から陸へ身体を這い進める。
餌。食事。エネルギー補給。それとも、ただ殺戮の為?
理由は解らないが、ともかく歪虚は腹が減っていた。
……この先に、彼奴等が居る。弱くて、食いやすく、腹にたまる奴等が。
歪虚はズルズルと滑らせる様に臭いの元へと向かう──
●
「なんて禍々しい姿……」
ハンター達が遠目に歪虚を確認した時、夕影 風音(ka0275)がポツリと口にする。
昨今目撃されている歪虚の大半が此の様な異形の姿。
ある程度耐性のあるハンターでも、見るだけで生理的嫌悪を隠せないのだから、此の様な物が都市部へ侵入すればパニックどころでは無い。
──絶対にここで食い止めないと──
そう心に強く思い、歪虚との距離を測る。
久延毘 大二郎(ka1771)は深く息を吐きながら、歪虚を眺めて一人ごちる。
「最近噂に聞く狂気の歪虚を一目見んが為にこの依頼を受けたが…私が思っていた以上に事態は深刻だったようだ」
その目には恐れより、闘争心より。好奇心が覗いている様に見える。
「いいだろう、狂口蛸君には我々のテリトリーを侵した報いをちゃんと受けて貰おうじゃないか」
呟くと、久延毘は口元に薄い笑みを浮かべた。
夫々の思いの中、君島 防人(ka0181)は『人命が奪われた以上、これ以上の犠牲は許容出来ん。リゼリオに到達する前に、此処でケリを付ける』と密かに闘志を燃やしていた。
●
軈て歪虚の蠢く粘液質な音がハンターの耳に届く様になり、敵の全容がはっきりと解る様になる。
そして歪虚もハンター達を視界に捉えたのか、動きを止めた。
「うわ……こ、こうやってみると予想以上にキモいっ」
ソフィア =リリィホルム(ka2383)は内心と若干剥離した感想を口にし、結城綾斗(ka2092)は戦闘姿勢を整える。
「これが…狂気。小賢しい、俺たちはもっと強大な敵から大切なものを守らなきゃいけないんだ。こんなところで、貴様なんかに足を取られてたまるか!」
戦闘の始まりを告げるかの様に、歪虚が吠えた。
『────ッッ!!!!』
それは今まで聞いた事が無い、云うなれば地獄の底からの亡者の絶叫を彷彿させる、迚も暗く闇を感じる咆哮であった。
ビリビリと空間ごと反響する様な咆哮は振動の為か砂煙を起こし、ハンター達の身体をも振るわせる。
そして長い咆哮が過ぎ去った後、ハンター達は互いにアイコンタクトで安否を確認し、歪虚への反撃を開始した。
「ま、撃つもん撃って、殺れるもん殺れりゃ満足だ。気色悪りぃタコ助ともよろしくやってやるさ。」
ルイーナ・アンナトラ(ka2669)は銃に弾を込めながら不適な笑みを浮かべ、リボルバーのシリンダーを振り入れ軽く回す。
「行くぜ鹿東! 援護してやる! 突っ込め!!」
その言葉を聞くか聞かないかのタイミングで鹿東 悠(ka0725)が歪虚の足へと向かい突進する。
ルイーナが放つ、リボルバー独特の激発音を背に頼もしく感じながら、鞭の様に撓り来る蛸足へ鹿東のクレイモアが食い込んだ。
食い込みはしたが、切り払うまでには至らず、歪虚の体液を全身に浴びながら言葉を漏らす。
「全く汚いことこの上ない…すぐに掃除してやるよ…」
食い込んだクレイモアを一旦引き、足から抜けた所を抜いた反動で身体を回し、もう一撃。
それでも切り落とすには至らなかったが、ダメージは与えられている事を確信し、一度距離を取る。
その時。息をつく鹿東の足下に蛸足が迫るが、息をついた鹿東は気付いていなかった。
「足下がお留守だぜ、悠!! 一つ貸しだ!!」
別の足と切り結んでいたシャルラッハ・グルート(ka0508)が足に迫っていた蛸足をツヴァイハンダーで串刺しにし、鹿東と背中合わせに構える。
「君島、バックアップ頼むぜ!!」
「牽制弾準備良し、支援射撃を行う」
シャルラッハの声にハンドサインで応え、自身の装備を確認するかの様に武器を構え直した君島がボソリと呟いた。
●
「くそっ──予想以上に足が固い……」
日本刀で鞭の様な足の攻撃を受けながら、結城が苛立ちの声を上げる。斬撃が通り難い上に、ウネウネと動き回る為狙い自体が付け辛いのもある。
その時、更に襲いかかる蛸足へしがみ付き、口と思われる箇所へオートマチックピストルの射撃を見舞う。
乾いた激発音の後、歪虚はダメージが有ったのだろう一瞬動きを止めて、その原因である結城に足を絡め締め上げ始める。
抱きついていた事により逃げ道のなかった結城は締め上げられながらも足に付いた口で噛み付かれるという状況に陥る事になった。
「──良い一撃だったよ、結城君。そして良いヒントだ」
久延毘は薄く笑みを浮かべ、ウィンドスラッシュを結城が捕まっている足へと放ち、更に流れる様にソフィアへとストーンアーマーをかけ直す。
切り落とされた足と共に結城が落下し、そして──
「リリィホルム君、口周りだ!」
「がってん承知っ!!」
有効部を探して拡散していたターゲットを一つに絞り、ソフィアのシルバーバレットが火を噴き、反動で彼女の銀色の髪が靡く。
「夕影さん、結城さんをお願い!」
「解りました!!」
夕影と立ち位置を入れ替え、前に出たソフィアが結城を力一杯後の夕影の方向へと滑らせる。
夕影は結城の身体を優しく抱き上げ、ヒールの優しい光が結城の全身を包んだ。
薄く目を開けた結城は、ハッと目を見開き身じろいだ。しかし、身体が思う様に動かない。
「う、しろ……!」
唯一動く口で、迫る危険を叫ぶ。
一瞬身体を固くし、迫り来る蛸足の叩き付けを背に受けるが、夕影の優しい笑みは変わらず、結城に語りかける。
「大丈夫。このくらいへっちゃらよ。 結城君、しっかりして!」
心配をかけない様に。強がりでも良い。──守る事が私の仕事だもの。そんな意思を感じさせる姿で治癒を続け、結城の傷は癒えていった。
●
──歪虚は考える。
──今、目の前に居るコイツ等は、強い。
──差し出されるがまま貪ってきた、アレではない。
──殺されるのは、嫌だ……もっと、もっと……
『────ッッ!!!!』
歪虚は全ての攻撃から一気に足を戻し、素早く後退する。
そして、全ての口をハンター達へと向けて今までにない大きさの一際甲高い咆哮を上げた。長い、そして本能的に恐怖を感じる様な咆哮だった。
ハンター達は耳に不快な耳鳴りが響いたかと思った瞬間。周囲への変化を感じる。
遮蔽物の無い平地への音波攻撃。傍らに転がっていた小石が音も無く砂に変わり、崩れ落ちた。
「超音波……ッ!! みんな下がって!!」
いち早く起こっている出来事の本質を理解した夕影が盾を構え、殿を勤めて効果範囲から抜け出す。
「さっきやって上手くいったんだけどさ。足は前衛、銃は口周り、魔法は臨機応変ってことでどうかな?」
超音波の範囲外へと抜け出した全員にソフィアが提案する。先程の噛み合った攻撃が有効だと判断したからだ。
「了解した。これより胴体部への攻撃を開始する」
力強く頷くと、君島は自身の火器の有効射程ギリギリへと移動し、射撃体勢を取る。
「──マテリアル弾、装填完了。射出する」
自身の装備を確認し、君島の銃が放った激発音を合図に、全員が歪虚へと突進し、戦闘が再開された。
「綾斗、せっかく傷が治ったんだ。挽回と行こうぜ!」
ポンと肩を叩き、シャルラッハを始め、鹿東と結城が各々の剣を構えて足を押さえに走る。
「背中は任せときな!! なあ、君島の旦那ァ!!」
「……………」
「全く、つれねぇな、旦那は……」
ルイーナは苦笑を浮かべて、リボルバーの狙いをつける。引き金を引き絞り跳ねる様に動くハンマーが弾丸の尻を叩き付けた反動を腕に感じる。
「──ッ! 動くなツってんだよ。弾が外れるだろうが!!」
動きは速くないものの、ぬらりと動く軟体性物は動きの予測がし辛く狙い難い。足を押さえに走っている前衛のお陰で幾分は狙いやすくなったのだが──
「足を切ってしまえば、動きも鈍くなって当たりやすくもなろう」
久延毘が足に向かってウィンドスラッシュを放ち足を切り落とし、落ちた足は暫くのたうった後に黒い塵へと帰った。
「ナイス久延毘さんっ!!」
ソフィアが十字放火の位置取りに走りながら言葉を投げる。射撃位置にたどり着いたソフィアは、砂煙を立てながらも低姿勢からの銃撃を放つ。シルバーバレットからの弾丸は歪虚の眉間部を抉り、確実にダメージを蓄積させていく。
●
「ハッハー! 良いチームじゃねえの? もうちょいだ! なあ、悠!!」
シャルラッハが迫り来る足を切り伏せながら、鹿東に同意を求める……が、鹿東はするりとシャルラッハの背に周り、彼女が気付いていなかった足を切り捨てた。
「──背中がお留守だぜ?」
前に助けられたお返しとばかりに、ニヤリと笑みを浮かべながら皮肉を返す。
「嫌いじゃないぜ、食えない野郎はよ!」
互いに大剣を獲物にする二人は、互いに背中を預ける様に立ち回る。
夕影は盾を構えて前進、ホーリーライトを本体へと撃ち込むが、足の数が減ったとはいえ、ダメージは蓄積されていき、夕影の横腹を薙ぎ払う様に足が襲う。
ぐっと目を瞑り吹き飛ばされる事も覚悟したその瞬間────衝撃が、来ない。
そこには、日本刀で迫る足を切り飛ばし、残心する結城の姿があった。
「さっきは助けられたからな。今度は俺が守るさ」
やっと状況が飲み込めた夕影は、すぐに体制を立て直して応える。
「はい!」
前へ出る結城が足を相手にし、夕影のホーリーライトが歪虚の本体へと飛んだ。
「そろそろ足は前衛に任せても大丈夫の様だね。私は後ろにまわろうか。リリィホルム君の位置は──」
久延毘はソフィアの位置を確認し、十字放火の位置を割り出して魔法をアースバレットに切り替え、本体へと飛ばす。
石つぶてが本体へ嫌な音を立ててめり込み、動きが鈍り始めた事が目に見える様に解ってきた。
「久延毘さん、左から足!!」
ソフィアの声が飛び、久延毘は身体を捻って何とか躱す。そしてソフィアがその足に向かい、シルバーバレットの集中砲火を浴びせ、弾け飛ばした。
その時、君島の鋭い声が飛ぶ。
「来るぞ、注意しろ!」
足が減り、攻撃手段が減った歪虚が取った攻撃方法は半ば予想通り。しかしおぞましい姿であった。
クリオネを模した様な本体部が大きく裂け、その部分から触腕が勢いよく飛び出したのだ。
「うっわ……今更だけど、グロいっ」
素直な感想を口にしつつもソフィアの放つ弾丸は大きく裂けた本体の中心部へと撃ち込まれる。
『────ッッ!!!!』
三度目の咆哮。歪虚の闘争本能を形にした様な、凶暴な叫び声。
今度は本体の大きく避けた口と思わしき場所から。それはリアルブルーの怪獣映画で聞く様な、不協和音であった。
足よりも細く素早い触腕を振り回し、ハンター達に襲いかかるその姿は、もう蛸の形を留めていない。正にクリーチャーといった容貌だった。
「細い方が切りやすいってもんよ!! 飛び道具は口の中にお見舞いしてやんな!!」
シャルラッハがツヴァイハンダーを振り抜き、触腕を数本纏めて切り払うと、鹿東と結城も互いの背中を守る様に切り払い、飛び道具の射線を確保する。
「どんなキワモノだろうが、風穴開けりゃ死ぬんだよ!! 畳み掛けろ!!」
ルイーナのマグナムが火を噴き、歪虚の口の中へと吸い込まれる様に入っていく。
銃弾の一発一発が命中する度に身を捩る様な触腕の攻撃が襲いかかるのだが、前衛の三人、そして夕影の盾による防御で後衛に届く事は無い。
君島の正確な掩護射撃を切っ掛けに、久延毘のアースバレットが飛び、ソフィアの弾丸が本体を貫く。
その時、歪虚の大きな身体が伸び上がる様に震え、硬直する。
「これで、終わりです!!」
その隙を見逃さず、夕影のはなったホーリーライトが歪虚中央に炸裂すると、その光に飲み込まれる様に身体を塵へと返したのだった。
●
「っふーッ! 終わったかぁ!!」
ツヴァイハンダーを地に突き立て、煙草に火を点けたシャルラッハが紫煙を胸一杯に吸い入れて溜息と共に吐き出した。
シャルラッハからの煙草の香りに眉をぴくりと動かしたソフィアだが、気を切り替えるかの様に大きく伸びをして仲間を振り返る。
「キモいグロいってのはあったけど、結構良いチームだったんじゃない?」
「皮肉屋と無愛想も味ってもんだよな。なあ? 旦那?」
結城と君島の背中をバンバンと叩きながら、ルイーナが笑う。
結城はポケットから取り出したウイスキーを口に含んでいた為、噎せ返っていたが。
ともあれ。苦戦を強いられた戦いではあったが、化学反応の様に噛み合ったチームの力で歪虚を撃退する事は出来た。依頼は成功になるだろう。
「あーあ! 疲れちゃった。温泉に入りたいなぁ……あ、でもヒールまだ使えるから、怪我してる人は治しちゃいますね」
戦闘後も忙しそうに動き回る夕影の治療を受け、全員が一息を付いた所で久延毘が声をかける。
「さて、諸君。帰るとしようか──」
(代筆:小宮山)
依頼結果
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- 心強き癒し手
夕影 風音(ka0275)
重体一覧
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作戦相談スレッド 結城綾斗(ka2092) 人間(リアルブルー)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/08/14 10:49:27 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/09 19:08:18 |