ゲスト
(ka0000)
【闇光】ニンアナンナ マリオネッタ
マスター:のどか

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/01/18 12:00
- 完成日
- 2016/01/28 18:30
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
極寒の北狄に2筋の地吹雪が巻き上がっていた。
真横から打ち付けるような豪雪の中、大きな翼を広げて雪原を駆ける黒い影。
前方の地吹雪の主、両の手でジャンヌ・ポワソン(kz0154)の巨体を抱えるアイゼンハンダー(kz0109)は、時折後背の地吹雪の行方に目をくべながら小さく一つ、舌打ちを立てていた。
「革命軍め……しつこいぞ!」
吐き捨てるように口にしながら必死の形相で眼前に広がる雪原へと目を見張る。
夢幻城を放棄してしばらく。
新たに手に入れた翼であったが、慣れぬ力をそう酷使はできず地面を飛び跳ねるような所作でもって、追撃の革命軍――ハンター達相手にギリギリの距離を保ち続けることしかできていなかった。
「この景色、そろそろ飽きてきたわ……あなたの腕も堅いし、冷たいし」
「も、申し訳ありません! しかし今しばらくの辛抱を」
腕の中で、いわゆるお姫様抱っこの状態で担がれたジャンヌがどこを見るでもない視線で大きなあくびを放っていた。
アイゼンハンダーは多少慌てた様子で頭を下げるも、翔ける速度は緩めない。
今一度その温もりを確かめるように彼女の身体を抱きかかえると、彼女の表情に過った焦りや不安は自然と消え去っていた。
「あらあらあら、少し距離が縮まって来ているみたい?」
「あらあらあら、このままだと追いつかれてしまうみたい?」
脚から放つ仕込み針で後続のハンター達をけん制しながら追従する従者のフランカ、そして彼女の手に掴まれた上半身のみとなったルチアは、相変わらずの危機感のないトーンで告げる。
「振り切れさえすればと思っていたが、本当にしつこい……何か、手は」
彼女を護る。
アイゼンハンダーは、その一点において曇りなき眼で試案する。
武装は最低限のものしかない。
そもそも、それを使う腕ももう塞がれている。
何かないか。
何か――
「――フランカ、私をあそこに連れて行ってくれないかしら?」
不意にルチアがそう口にして、フランカだけでなく、アイゼンハンダーもまたつられて振り返っていた。
先の戦いで砕け散り今や隻眼となったその瞳で見据えるのは、進行方向にぽつんと聳えた巨大な山――否、ニンゲンの操りし機械人形『魔導型デュミナス』。
先の戦いで破砕し放棄していったのであろう、今のルチアと同じようにボロボロとなったその機体を前にして、彼女は何をするつもりか。
「素敵ね、確かに“アレ”なら何とかなるかもしれないわ。でもルチア。アレから戻るのはとってもとっても大変なのよ?」
「大丈夫よフランカ。時間はいくらでも――虚無に還るその日までは、悠久にあるのだもの」
理解は得ずとも諫め合うその姿から不穏な空気を感じ取っていたアイゼンハンダーであったが、うつろな目で肩を抱くジャンヌの表情に視線を落とし、そして心を固めて言い放つ。
「ルチア殿、今は是が非でも時間が欲しい。お願いできますか?」
その言葉にルチアはクスリとした笑みで答えると、一同眼前のCAMの残骸へと急いだ。
眼前に膝を付くCAMは、巨人の痛烈な攻撃を受けたのか肩から斜めに引き裂かれるかのような太刀傷を受けていた。
ひしゃげたハッチをアイゼンハンダーがその鉄腕で破砕すると、中で凍り付いた軍人の死体を放り出し代わりにルチアの半身を添える。
「これで良いですか?」
「ありがとう、助かったわ」
「それでは、ご武運を……!」
それだけ言い残し、翼を広げて飛び立つアイゼンハンダー。
「それじゃあルチア、先に待ってるわ」
フランカもまた彼女が戻らぬ事など微塵も考えぬ口調でそう言い残し、ひらりと立ち去ってゆく。
オープンになった狭いコックピットから覗く視界の先には雄大な北狄の大地。
囲いの中に入ったせいか、心なしか吹き荒れる風の音はどこかよそ事のように耳に響いていた。
そして目と鼻の先へと迫るハンター達の一団を前に、ルチアはもう一度、クスリと笑みを浮かべていた。
「さぁ、始めましょ。楽しい楽しいマリオネッタを――」
直後、彼女の身体から突き出した数多の棘が、コックピットの中から機体の装甲を貫いていた。
●
「――なんだ、あれは?」
追撃の依頼を受けたハンターは、目の前で起こった出来事に文字通り目を丸くした。
進行方向に佇んでいた壊れたCAM。
そこから不意に、数多の棘が生えたのだ。
歪虚の仕業かと身構え、脚を止めるハンター達。
棘の生えたデュミナスは、関節が凍り付いているのかギシギシと嫌な金属音を響かせながらハンターたちの目の前でゆっくりとその身体を擡げる。
「CAMが……動いて……?」
呆然とするハンターたちの前で、機体を貫く棘がさらに大きく飛び出した。
それは全身を余すところなく突き刺すように内部から、いくつもいくつも増えてゆく。
そうしてイガグリのようになって一息置くと、今度は一斉に胸部へ向かって引っ込んで見せた。
警戒し、静観する視線の中、デュミナスの外装がまるで血管のようにドクリと波打つ。
次の瞬間、今度は全身から突き出した数多の針が、機体の装甲を覆うように展開。
そして、その形を別の何かへと組み替えてゆくのだ。
破損個所を修復し、新たな装甲を生成し、細身のボディはより細くしなやかに、女性的に。
つられてぼこりと周囲の積雪が盛りあがり、大きなものが浮かび上がる。
打ち捨てられた6枚のCAMシールドと2本のCAMナイフ――飛来するそれらが腰部にマウントされると、同じように変異を遂げまるでスカートのように翻る。
そして両の手でそれぞれナイフの柄を握りしめると、唖然とするハンターたちへ向かってその切っ先を突きつける。
『遊びましょ、踊りましょ。眠りにつくその時まで――ただし眠っても起こしてあげるわ』
そう変異CAMは言葉を紡ぐと、大地を蹴って部隊へ迫る。
同時に、6枚の変異シールドが再び戦場へと飛散するのであった。
●
「え、えっと、緊急の依頼です。ってこれ、内容間違ってないよね?」
オフィスにて、慌てた様子の受付嬢ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)が、明らかに混乱した様子で1件の緊急依頼を読み上げていた。
「先の夢幻城攻略後、逃亡した十三魔ジャンヌ・ポワソンを追撃していたハンター達が重症を負って帰還しました。敵は戦地に捨てられていた破損CAMを奪って、修復し、使用? っていうか、もはや別物の機甲兵器に変容させてゆく手に立ちはだかっている? なにこれ、どういうこと?」
彼女はただ目の前の依頼書を一字一句漏らさず読み上げているだけなのだが、その事の異常さに自らも混乱しているようだった。
「敵機は部隊を撃退後、その後を追って人類圏へと進撃中。これを食い止め撃破してくださいっ!」
そう言い切って、慌ただしくカウンターの奥へと戻ってゆくルミ。
残された依頼書へと目を落とすハンター達に、決断が迫られていた――
極寒の北狄に2筋の地吹雪が巻き上がっていた。
真横から打ち付けるような豪雪の中、大きな翼を広げて雪原を駆ける黒い影。
前方の地吹雪の主、両の手でジャンヌ・ポワソン(kz0154)の巨体を抱えるアイゼンハンダー(kz0109)は、時折後背の地吹雪の行方に目をくべながら小さく一つ、舌打ちを立てていた。
「革命軍め……しつこいぞ!」
吐き捨てるように口にしながら必死の形相で眼前に広がる雪原へと目を見張る。
夢幻城を放棄してしばらく。
新たに手に入れた翼であったが、慣れぬ力をそう酷使はできず地面を飛び跳ねるような所作でもって、追撃の革命軍――ハンター達相手にギリギリの距離を保ち続けることしかできていなかった。
「この景色、そろそろ飽きてきたわ……あなたの腕も堅いし、冷たいし」
「も、申し訳ありません! しかし今しばらくの辛抱を」
腕の中で、いわゆるお姫様抱っこの状態で担がれたジャンヌがどこを見るでもない視線で大きなあくびを放っていた。
アイゼンハンダーは多少慌てた様子で頭を下げるも、翔ける速度は緩めない。
今一度その温もりを確かめるように彼女の身体を抱きかかえると、彼女の表情に過った焦りや不安は自然と消え去っていた。
「あらあらあら、少し距離が縮まって来ているみたい?」
「あらあらあら、このままだと追いつかれてしまうみたい?」
脚から放つ仕込み針で後続のハンター達をけん制しながら追従する従者のフランカ、そして彼女の手に掴まれた上半身のみとなったルチアは、相変わらずの危機感のないトーンで告げる。
「振り切れさえすればと思っていたが、本当にしつこい……何か、手は」
彼女を護る。
アイゼンハンダーは、その一点において曇りなき眼で試案する。
武装は最低限のものしかない。
そもそも、それを使う腕ももう塞がれている。
何かないか。
何か――
「――フランカ、私をあそこに連れて行ってくれないかしら?」
不意にルチアがそう口にして、フランカだけでなく、アイゼンハンダーもまたつられて振り返っていた。
先の戦いで砕け散り今や隻眼となったその瞳で見据えるのは、進行方向にぽつんと聳えた巨大な山――否、ニンゲンの操りし機械人形『魔導型デュミナス』。
先の戦いで破砕し放棄していったのであろう、今のルチアと同じようにボロボロとなったその機体を前にして、彼女は何をするつもりか。
「素敵ね、確かに“アレ”なら何とかなるかもしれないわ。でもルチア。アレから戻るのはとってもとっても大変なのよ?」
「大丈夫よフランカ。時間はいくらでも――虚無に還るその日までは、悠久にあるのだもの」
理解は得ずとも諫め合うその姿から不穏な空気を感じ取っていたアイゼンハンダーであったが、うつろな目で肩を抱くジャンヌの表情に視線を落とし、そして心を固めて言い放つ。
「ルチア殿、今は是が非でも時間が欲しい。お願いできますか?」
その言葉にルチアはクスリとした笑みで答えると、一同眼前のCAMの残骸へと急いだ。
眼前に膝を付くCAMは、巨人の痛烈な攻撃を受けたのか肩から斜めに引き裂かれるかのような太刀傷を受けていた。
ひしゃげたハッチをアイゼンハンダーがその鉄腕で破砕すると、中で凍り付いた軍人の死体を放り出し代わりにルチアの半身を添える。
「これで良いですか?」
「ありがとう、助かったわ」
「それでは、ご武運を……!」
それだけ言い残し、翼を広げて飛び立つアイゼンハンダー。
「それじゃあルチア、先に待ってるわ」
フランカもまた彼女が戻らぬ事など微塵も考えぬ口調でそう言い残し、ひらりと立ち去ってゆく。
オープンになった狭いコックピットから覗く視界の先には雄大な北狄の大地。
囲いの中に入ったせいか、心なしか吹き荒れる風の音はどこかよそ事のように耳に響いていた。
そして目と鼻の先へと迫るハンター達の一団を前に、ルチアはもう一度、クスリと笑みを浮かべていた。
「さぁ、始めましょ。楽しい楽しいマリオネッタを――」
直後、彼女の身体から突き出した数多の棘が、コックピットの中から機体の装甲を貫いていた。
●
「――なんだ、あれは?」
追撃の依頼を受けたハンターは、目の前で起こった出来事に文字通り目を丸くした。
進行方向に佇んでいた壊れたCAM。
そこから不意に、数多の棘が生えたのだ。
歪虚の仕業かと身構え、脚を止めるハンター達。
棘の生えたデュミナスは、関節が凍り付いているのかギシギシと嫌な金属音を響かせながらハンターたちの目の前でゆっくりとその身体を擡げる。
「CAMが……動いて……?」
呆然とするハンターたちの前で、機体を貫く棘がさらに大きく飛び出した。
それは全身を余すところなく突き刺すように内部から、いくつもいくつも増えてゆく。
そうしてイガグリのようになって一息置くと、今度は一斉に胸部へ向かって引っ込んで見せた。
警戒し、静観する視線の中、デュミナスの外装がまるで血管のようにドクリと波打つ。
次の瞬間、今度は全身から突き出した数多の針が、機体の装甲を覆うように展開。
そして、その形を別の何かへと組み替えてゆくのだ。
破損個所を修復し、新たな装甲を生成し、細身のボディはより細くしなやかに、女性的に。
つられてぼこりと周囲の積雪が盛りあがり、大きなものが浮かび上がる。
打ち捨てられた6枚のCAMシールドと2本のCAMナイフ――飛来するそれらが腰部にマウントされると、同じように変異を遂げまるでスカートのように翻る。
そして両の手でそれぞれナイフの柄を握りしめると、唖然とするハンターたちへ向かってその切っ先を突きつける。
『遊びましょ、踊りましょ。眠りにつくその時まで――ただし眠っても起こしてあげるわ』
そう変異CAMは言葉を紡ぐと、大地を蹴って部隊へ迫る。
同時に、6枚の変異シールドが再び戦場へと飛散するのであった。
●
「え、えっと、緊急の依頼です。ってこれ、内容間違ってないよね?」
オフィスにて、慌てた様子の受付嬢ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)が、明らかに混乱した様子で1件の緊急依頼を読み上げていた。
「先の夢幻城攻略後、逃亡した十三魔ジャンヌ・ポワソンを追撃していたハンター達が重症を負って帰還しました。敵は戦地に捨てられていた破損CAMを奪って、修復し、使用? っていうか、もはや別物の機甲兵器に変容させてゆく手に立ちはだかっている? なにこれ、どういうこと?」
彼女はただ目の前の依頼書を一字一句漏らさず読み上げているだけなのだが、その事の異常さに自らも混乱しているようだった。
「敵機は部隊を撃退後、その後を追って人類圏へと進撃中。これを食い止め撃破してくださいっ!」
そう言い切って、慌ただしくカウンターの奥へと戻ってゆくルミ。
残された依頼書へと目を落とすハンター達に、決断が迫られていた――
リプレイ本文
●独りっきりのマリオネッタ
降り注ぐ白色のカーテンの中、弾けるような金属音が雪原にこだましていた。
霞を裂いて現れた魔導型デュミナスの刃が降雪を振り切って、眼前の機体へと迫る。
スラスターを吹かして迫るその一撃を前に道化は怪しくその眼を光らせると、不意に視界の外から1枚の盾が割って入った。
CAMは勢いのまま壁へと体当たる。
「なんて出鱈目な相手……」
衝撃に揺れるコックピットの中で、セレスティア(ka2691)は誰に言うでも無く口走っていた。
視線の先、飛び去った盾の影から現れた道化が右手に握り締めたナイフを突き込んで来る。
咄嗟に盾で受け流すと、そのまま敵の勢いに乗るように後退。
道化はそれを追うでもなく、両の細い手の中で2本のナイフを弄んで見せた。
『クラーレ様が奪おうとしたのもよく分かるわ――だってこの玩具、とっても楽しいんだもの!』
外部音声――いや、道化は確かにそう“口にする”と慣れた手つきで腕を撓らせ、2本のナイフをそれぞれ投げ放った。
降雪を斬って飛翔する刃がそれぞれルーファス(ka5250)機、アーサー・ホーガン(ka0471)機へと迫る。
「この程度で父さんの整備したCAMは……」
ナイフを盾で弾き飛ばすと腰のハンガーから小銃を抜き放ち、手ぶらになった敵機へと銃弾を集中する。
耳を劈く銃声が鳴る中でカーテンのように集まった浮遊盾がその弾丸を防ぐ。
『やはり真っ向勝負じゃ無理がある! 早いとこ囲い込むぞ!』
スピーカー越しに響くアーサーの声に、ハンター達の機体はすぐに位置取りを改めに雪原を走る。
が、筒抜けのその提案を前に、道化――ルチアもまた、すぐにその包囲の一角へと走るのだ。
『そう簡単に包囲なんてさせないわ』
CAMが走るよりも尚疾く迫る敵を前に、天央 観智(ka0896)は咄嗟にライフルから小銃へと持ち変えると、迫る機体へと銃声を轟かせる。
ルチアはスラスターと脚のバネを使って無理やり飛び跳ねて弾幕の直撃を避けると、そのまま振り抜いた踵で観智機の肩を蹴り飛ばしていた。
「随分と面白い動きをするものですね……」
空中の敵機の胴をカグラ・シュヴァルツ(ka0105)機のライフルの銃弾が掠めると、ルチアはすぐに反転するように距離を取って見せた。
「おい、大丈夫かよ!」
衝撃で尻餅を付いた観智機へとボルディア・コンフラムス(ka0796)が叫ぶ。
『大丈夫です……流石に頑丈、ですね。機体もそう大きな損傷ではありません』
外部音声でそう語る観智と共に、彼の機体もムクリとその身を起こす。
「変異型……と言うよりも、一種の完成形に近いのかもしれませんね」
位置取りを変えながら放ったカグラ機の2射目。
その一撃は盾に阻まれこそしたものの、大きな銃痕をその表面へと残していた。
包囲戦を仕掛けるハンター達であったが、たった1つのミス――通信規格の整合を取って居なかったために現場単位での情報交換が敵に筒抜けになってしまっていた。
結果として、望んでいた包囲網を上手い事構築することが出来て居なかったのだ。
「それでも結局、生身で戦う時と変わらないって事でしょうが!」
カグラ機と挟んで反対側へと回り込み、小銃のトリガーを絞るレベッカ・アマデーオ(ka1963)。
銃弾は相変わらず盾に阻まれるも、蜂の巣のように残った弾痕を目にして奥歯を噛みしめるような笑みを浮かべる。
「耐久性自体が上がっているわけではないって事か……最悪、全部叩き割るのも1つの手だろうね」
銃を小脇に抱え、敵に応対される前に位置取りを変える。
今は盾に全てを阻まれたとしても、包囲網を完成させるのが先決だ。
数多の発砲炎の輝きが、積雪に照り返した。
『流石に面倒かしら?』
銃弾の雨に晒される中、ルチアは舞台の上で踊るようにヒラリと身を翻す。
次の瞬間、勢いを付けた6枚の盾がそれぞれ周囲を取り囲む6機のCAMへと飛散した。
「何でもアリかよ……ッ! CAMの面影すら窺えねぇな!」
突っ込んできた盾を己のそれで受け止めたアーサー。
嫌な予感はしていたとは言え、事実目の当たりにすると釈然とはしない。
衝撃で軋み、悲鳴を上げるCAMの駆動系。
その大きな足元を、2匹の幻獣が駆けた。
「分厚い装甲が相手だろうと、私達のやる事は変わらない……!」
相棒のリーリー「ミストラル」の背で吼えるイーディス・ノースハイド(ka2106)は、左手に手綱を握り、右手に腋でしっかりと固定した槍を構え、がら空きとなったルチアの巨体へと一目、駆け出して行く。
気性の大人しい種族とは思えない獰猛な声でひと鳴きしたミストラル。
その勢いのままに突き込んだ切っ先が、膝関節の装甲に一文字の亀裂を描く。
『怠惰の皆はこういう気分で戦っているのかしら。ねぇ、小人さん?』
先ほど投げて転がったナイフを吸引するように手元へと引き寄せると、大きく身を撓らせて、刃を足元のイーディスへと振るう。
イーディスは率先してその刃へ盾を構えるが、直後にその質量からなる痛烈な一撃が全身を駆け巡った。
「アレかねぇ、歪虚もロボット乗りてぇって感情はあンのか?」
白雪を巻き上げながら雪原を滑るように反転し、そのまま大きく開いたルチアの背へと飛び掛るイェジド――ヴァン。
その背に跨るボルディアの指示で、イーディスの付けた亀裂へと喰らい付く。
噛み切るように傷口を抉るヴァンの牙。
が、その亀裂の中に光る切っ先を見た時、咄嗟にボルディアは叫んでいた。
「退けッ! ヴァン!」
飛び退くヴァンと同時に、亀裂から突き出した巨大な針。
避けきれない――そう判断すると同時に突き出した斧槍の穂先で、僅かにでもその軌道をずらす。
針の切っ先はそのまま斧を構える腕を掠めるように切り裂いて、真っ白な虚空へと飛び去っていった。
「やっぱり仕込んでやがったか……」
警戒しておく事に越した事は無い。
おかげで命を救われた――が、それは敵の死角の無さを改めて確認したものでもあり。
この極寒の地でありながらも、ボルディアの頬には一筋の汗が滴っていた。
●眠れ眠れ
ルーファス機の小銃が火を噴く。
収束した弾丸は本体を守るように射線を遮った盾に叩き込まれ、衝撃に耐え切れない盾が雪原に砕け散った。
「盾の防御パターンは完璧だけど……その数が減ったら、どうなるかな」
次いで飛来したそれを自らの盾で弾き落とし、そのまま踏みつけるようにしながら抜き放った刀でかち割って見せる。
「やるねぇ!」
ルーファスの空けた盾の穴にレベッカ機が滑り込む。
射出した鈎を跳躍でヒラリとかわすルチアだが、その回避先へとアーサー機が立ちふさがる。
振り抜かれた刀を自らの手にしたナイフで押さえると、そのままぐるりとすり抜けるようにして側面を取り、もう一方のナイフを振るうルチア。
一閃に、機体の装甲が大きく切り裂かれていた。
「ちぃ……!」
アーサーは舌打ち交じりに距離を取り、観智機の射撃がそれを支援する。
「流石にそろそろ、一度に対処は出来ないんじゃないですか……?」
小銃の弾幕へと切り替え権勢を続ける観智。
絶えず狙い続ける銃撃に、ルチアは盾の1枚を割いて防戦。
その一方でナイフを足元のリーリーへと投げ放っていた。
リーリー――ミストラルはその一撃を大きく迂回するようにして回避すると、そのまま主を背に再び鉄巨人の足元へと潜りこむ。
イーディスの切っ先が、先ほどの傷をもう一度大きく抉った。
蹴り飛ばすように応対したルチアであるが、ミストラルはもう一度その一撃をヒラリとかわして見せると再度勢いを乗せて突貫する。
「いい子だね……何度でも行こう!」
彼女の槍は、何度でもその装甲を穿つ。
『小さな敵を相手にするって言うのも、意外と面倒なものね』
呟きながら浮遊盾をイーディスへと仕向けるも、その一撃を放たれた銃弾が貫いた。
砕け散ったその先に、カグラ機の銃口が光る。
「大分見えてきましたね……盾の動き」
再び構えたその射線を別の盾が遮った。
「させません……!」
刹那、セレスティア機が突貫。
ブースターを吹かした勢いのままに遮る浮遊盾を自らのそれで抑え込む。
『それくらいで――』
すぐさま新たな盾を展開するも、気を取られた僅かな隙にレベッカ機がその懐へと潜り込んでいた。
「今度は外さないよ……!」
再び射出した鈎がルチアの肩へと迫る。
先ほどと同じように屈伸をつけた跳躍でそれを回避しようとしたルチア――が、身を屈めた瞬間に、ガクリと機体が大きく傾いた。
『脚……損傷!?』
イーディスが延々狙い続けた膝の関節が負担に耐え切れず悲鳴を上げていた。
直後に肩へと絡みついた鈎。
伸びた紐をぐいと引っ張って、レベッカ機がルチアを無理やりに引き寄せる。
「バケモノ相手にどこまで効くか分からないけどさ――」
唸りを上げた拳がルチアの腹部に叩き込まれていた。
ルチア・CAM双方のパーツが戦場に弾け飛ぶ。
『悪く無い余興だけど、このままじゃ私は踊れないわ』
無理やり鈎を振りほどこうとしたのか、スラスターを吹かして離脱を試見たルチア。
しかし、その光を遠目に射抜く視線があった。
物言わず引き絞った引き金。
カグラ機のライフルが唸りを上げ、銃弾が盾の合間を縫って背部のスラスターを吹き飛ばす。
爆砕――もうもうと煙を巻き上げて推進力を失った機体が雪原へ滑り落ちる。
『くっ……!』
ルチアは咄嗟に態勢を立て直してナイフをカグラへと放つ。
大きく弧を描くように飛翔したナイフは機体そのものではなく、抱えたライフルのバレルを切り裂いて地面へと突き刺さる。
「お見事……でも、自慢の機動力はもう失われましたよ」
口走ったカグラの視線の先で、レベッカの機体が再びルチアへと迫った。
2者の間へ滑り込むように浮遊盾が視界を遮る。
「その程度で止められると思ってるんなら、大きな勘違いだよ!」
眼前のシールドにレベッカ機はスラスターを吹かすと、ぶち当たった勢いのままルチア機へと体当たった。
そうして盾越しにパイルを構えて、炸裂。
射出された杭が盾を穿ち、貫いた衝撃がルチアの機腕を吹き飛ばす。
『離れて……!』
覆いかぶさるレベッカ機を下半身の勢いだけで蹴り付け、弾き飛ばすルチア。
そのまま足先から放った針が、お返しとでも言うようにレベッカ機の左肩に深く突き刺さり、その可動部を破壊する。
立ち上がり、態勢の崩れたレベッカ機へと追い討ちに放った脚針。
コックピットを確かに狙ったそれであったが、ルーファスの銃弾がそれを弾き落としていた。
「大体のパターンはもう、機体に教え込んであるよ」
戦闘開始から蓄積したデータは既に十分揃っている。
包囲の遅れは多少の損害を生みはしたが、代わりにじっくりデータを集めるだけの時間も、ハンター達に与えていたのだ。
「そういうこった。観念するんだな」
盾で身構えながら駆けこむように距離を詰めるアーサー機。
応戦、雪の上に転がったまま大きく腰を捻り、足先から飛び出した刃で迎え撃つルチアであったが、アーサー機は真横に推進弁を切って急回避。
入れ違いに、アーサー機の背に隠れて既に射撃体勢に入っていた観智機のライフルが唸りを上げた。
砲撃と言っても謙遜無い強弾が、その足先ごと刃を撃ち砕く。
『あらあらあら……流石にちょっと、苦しいみたい?』
「まだ、口から余裕を吐いてられるってか。だが、見せ場はもう終わりだぜ……!」
不揃いな両足で立ち上がったルチアへと、アーサー機の振るう刃が再度迫った。
ルチアは腕から突き出した両刃の刃でそれを受け止めて、開いた懐へと膝の装甲を割って突き出した刃を閃かせるが――不意に敵機の肩口から飛び出した小さな影が視界いっぱいに迫っていた。
「しぶといのは今までの戦いで織り込み済み……なら、徹底的にやるだけだ!」
CAMの背を段代わりに飛び上がったイェジドとボルディア。
斧槍の一振りがその圧で降雪をも吹き飛ばしながら、機械の巨体の横っ面へと叩き込まれていた。
不意に視界を闇に覆われ、ルチアは突き出した膝を振り上げずに、突き飛ばすようにアーサー機から距離を取る。
『センサー――サブに切り替えて……!」
システムを掌握し、意識的にできるのか、咄嗟に呟きながらやがて回復させる視界。
数瞬ぶりの雪景色の中、眼前に迫っていた1枚の壁をその視界に捉えていた。
セレスティア機がその盾ごとルチアの真正面からぶち当たっていたのだ。
わずか一本の手でそれを受け止めきれるわけもなく、もつれ込むように再び雪原へと押し倒されていた。
『離れてって……言っているのに!』
ルチアの装甲が弾ける――いや、自らパージするように吹き飛ばす。
その下に隠れていた数多の刃が一斉に目の前のCAMへと放たれるも、串刺された盾を置き土産にセレスティアは一歩背面へと飛び退いていた。
「取り逃がした事に忸怩たる思いを抱く者のためにも――」
抜き放ち閃くCAM刀。
逆手に振り上げて当たりを決めたその切っ先が、微塵に切り刻まれた盾の上から深々と敵機へと突き込まれていた。
『あはは……ごめんねフランカ。今度こそ、お休みの時間みたい――』
妖しく光る機体のマテリアル光が次第に鈍く、輝きを失ってゆく。
やがてその光が完全に潰えた時――敵機は完全に沈黙していた。
●希望のカタチ
「――終わりましたか」
霧散してゆく機体。
ゆっくりと引き抜く刃。
貫いたその先に、コックピットと一体化しながらも眠るように意識を失った人形の姿が目に止まる。
「アイゼンハンダー達の移動痕は……」
周囲の足元をカメラアイで拡大しながらその痕跡を探すルーファスであったが、延々と降り積もる雪のせいでそれもとうに消えてしまっていた。
「虚霧姫の事は気になってはいたのですけれどね……功を焦り、必要の無い藪までつついてはいないものかと」
広がる真っ白な視界の先、いずこへと逃げ去った夢幻城の主へと観智は想いを馳せる。
『あれが高位の《嫉妬》の能力ってことなのか……?』
「こういう相手は増えそうだね……まったく、厄介な事だよ」
アーサー、イーディスの懸念はもっともである。
ただでさえ昨年、歪虚に奪われた機体があるのだ。
人間が機動兵器を使い始めるようになった今、歪虚もそれを腐らせるとは到底思えはしない。
『それでも倒すだけだよ。その為の力も、今はこうしてあるんだからさ――』
それらの疑問に、片腕となった機体で積雪に埋もれる機動兵器の残骸達を掘り起こすレベッカはただ当たり前のように答えていた。
そのための力――機甲兵器や幻獣の存在は歪虚に新たな力を与えてしまう懸念もある一方で、人類にとっての新たな希望の形であることもまた確かなものであった。
降り注ぐ白色のカーテンの中、弾けるような金属音が雪原にこだましていた。
霞を裂いて現れた魔導型デュミナスの刃が降雪を振り切って、眼前の機体へと迫る。
スラスターを吹かして迫るその一撃を前に道化は怪しくその眼を光らせると、不意に視界の外から1枚の盾が割って入った。
CAMは勢いのまま壁へと体当たる。
「なんて出鱈目な相手……」
衝撃に揺れるコックピットの中で、セレスティア(ka2691)は誰に言うでも無く口走っていた。
視線の先、飛び去った盾の影から現れた道化が右手に握り締めたナイフを突き込んで来る。
咄嗟に盾で受け流すと、そのまま敵の勢いに乗るように後退。
道化はそれを追うでもなく、両の細い手の中で2本のナイフを弄んで見せた。
『クラーレ様が奪おうとしたのもよく分かるわ――だってこの玩具、とっても楽しいんだもの!』
外部音声――いや、道化は確かにそう“口にする”と慣れた手つきで腕を撓らせ、2本のナイフをそれぞれ投げ放った。
降雪を斬って飛翔する刃がそれぞれルーファス(ka5250)機、アーサー・ホーガン(ka0471)機へと迫る。
「この程度で父さんの整備したCAMは……」
ナイフを盾で弾き飛ばすと腰のハンガーから小銃を抜き放ち、手ぶらになった敵機へと銃弾を集中する。
耳を劈く銃声が鳴る中でカーテンのように集まった浮遊盾がその弾丸を防ぐ。
『やはり真っ向勝負じゃ無理がある! 早いとこ囲い込むぞ!』
スピーカー越しに響くアーサーの声に、ハンター達の機体はすぐに位置取りを改めに雪原を走る。
が、筒抜けのその提案を前に、道化――ルチアもまた、すぐにその包囲の一角へと走るのだ。
『そう簡単に包囲なんてさせないわ』
CAMが走るよりも尚疾く迫る敵を前に、天央 観智(ka0896)は咄嗟にライフルから小銃へと持ち変えると、迫る機体へと銃声を轟かせる。
ルチアはスラスターと脚のバネを使って無理やり飛び跳ねて弾幕の直撃を避けると、そのまま振り抜いた踵で観智機の肩を蹴り飛ばしていた。
「随分と面白い動きをするものですね……」
空中の敵機の胴をカグラ・シュヴァルツ(ka0105)機のライフルの銃弾が掠めると、ルチアはすぐに反転するように距離を取って見せた。
「おい、大丈夫かよ!」
衝撃で尻餅を付いた観智機へとボルディア・コンフラムス(ka0796)が叫ぶ。
『大丈夫です……流石に頑丈、ですね。機体もそう大きな損傷ではありません』
外部音声でそう語る観智と共に、彼の機体もムクリとその身を起こす。
「変異型……と言うよりも、一種の完成形に近いのかもしれませんね」
位置取りを変えながら放ったカグラ機の2射目。
その一撃は盾に阻まれこそしたものの、大きな銃痕をその表面へと残していた。
包囲戦を仕掛けるハンター達であったが、たった1つのミス――通信規格の整合を取って居なかったために現場単位での情報交換が敵に筒抜けになってしまっていた。
結果として、望んでいた包囲網を上手い事構築することが出来て居なかったのだ。
「それでも結局、生身で戦う時と変わらないって事でしょうが!」
カグラ機と挟んで反対側へと回り込み、小銃のトリガーを絞るレベッカ・アマデーオ(ka1963)。
銃弾は相変わらず盾に阻まれるも、蜂の巣のように残った弾痕を目にして奥歯を噛みしめるような笑みを浮かべる。
「耐久性自体が上がっているわけではないって事か……最悪、全部叩き割るのも1つの手だろうね」
銃を小脇に抱え、敵に応対される前に位置取りを変える。
今は盾に全てを阻まれたとしても、包囲網を完成させるのが先決だ。
数多の発砲炎の輝きが、積雪に照り返した。
『流石に面倒かしら?』
銃弾の雨に晒される中、ルチアは舞台の上で踊るようにヒラリと身を翻す。
次の瞬間、勢いを付けた6枚の盾がそれぞれ周囲を取り囲む6機のCAMへと飛散した。
「何でもアリかよ……ッ! CAMの面影すら窺えねぇな!」
突っ込んできた盾を己のそれで受け止めたアーサー。
嫌な予感はしていたとは言え、事実目の当たりにすると釈然とはしない。
衝撃で軋み、悲鳴を上げるCAMの駆動系。
その大きな足元を、2匹の幻獣が駆けた。
「分厚い装甲が相手だろうと、私達のやる事は変わらない……!」
相棒のリーリー「ミストラル」の背で吼えるイーディス・ノースハイド(ka2106)は、左手に手綱を握り、右手に腋でしっかりと固定した槍を構え、がら空きとなったルチアの巨体へと一目、駆け出して行く。
気性の大人しい種族とは思えない獰猛な声でひと鳴きしたミストラル。
その勢いのままに突き込んだ切っ先が、膝関節の装甲に一文字の亀裂を描く。
『怠惰の皆はこういう気分で戦っているのかしら。ねぇ、小人さん?』
先ほど投げて転がったナイフを吸引するように手元へと引き寄せると、大きく身を撓らせて、刃を足元のイーディスへと振るう。
イーディスは率先してその刃へ盾を構えるが、直後にその質量からなる痛烈な一撃が全身を駆け巡った。
「アレかねぇ、歪虚もロボット乗りてぇって感情はあンのか?」
白雪を巻き上げながら雪原を滑るように反転し、そのまま大きく開いたルチアの背へと飛び掛るイェジド――ヴァン。
その背に跨るボルディアの指示で、イーディスの付けた亀裂へと喰らい付く。
噛み切るように傷口を抉るヴァンの牙。
が、その亀裂の中に光る切っ先を見た時、咄嗟にボルディアは叫んでいた。
「退けッ! ヴァン!」
飛び退くヴァンと同時に、亀裂から突き出した巨大な針。
避けきれない――そう判断すると同時に突き出した斧槍の穂先で、僅かにでもその軌道をずらす。
針の切っ先はそのまま斧を構える腕を掠めるように切り裂いて、真っ白な虚空へと飛び去っていった。
「やっぱり仕込んでやがったか……」
警戒しておく事に越した事は無い。
おかげで命を救われた――が、それは敵の死角の無さを改めて確認したものでもあり。
この極寒の地でありながらも、ボルディアの頬には一筋の汗が滴っていた。
●眠れ眠れ
ルーファス機の小銃が火を噴く。
収束した弾丸は本体を守るように射線を遮った盾に叩き込まれ、衝撃に耐え切れない盾が雪原に砕け散った。
「盾の防御パターンは完璧だけど……その数が減ったら、どうなるかな」
次いで飛来したそれを自らの盾で弾き落とし、そのまま踏みつけるようにしながら抜き放った刀でかち割って見せる。
「やるねぇ!」
ルーファスの空けた盾の穴にレベッカ機が滑り込む。
射出した鈎を跳躍でヒラリとかわすルチアだが、その回避先へとアーサー機が立ちふさがる。
振り抜かれた刀を自らの手にしたナイフで押さえると、そのままぐるりとすり抜けるようにして側面を取り、もう一方のナイフを振るうルチア。
一閃に、機体の装甲が大きく切り裂かれていた。
「ちぃ……!」
アーサーは舌打ち交じりに距離を取り、観智機の射撃がそれを支援する。
「流石にそろそろ、一度に対処は出来ないんじゃないですか……?」
小銃の弾幕へと切り替え権勢を続ける観智。
絶えず狙い続ける銃撃に、ルチアは盾の1枚を割いて防戦。
その一方でナイフを足元のリーリーへと投げ放っていた。
リーリー――ミストラルはその一撃を大きく迂回するようにして回避すると、そのまま主を背に再び鉄巨人の足元へと潜りこむ。
イーディスの切っ先が、先ほどの傷をもう一度大きく抉った。
蹴り飛ばすように応対したルチアであるが、ミストラルはもう一度その一撃をヒラリとかわして見せると再度勢いを乗せて突貫する。
「いい子だね……何度でも行こう!」
彼女の槍は、何度でもその装甲を穿つ。
『小さな敵を相手にするって言うのも、意外と面倒なものね』
呟きながら浮遊盾をイーディスへと仕向けるも、その一撃を放たれた銃弾が貫いた。
砕け散ったその先に、カグラ機の銃口が光る。
「大分見えてきましたね……盾の動き」
再び構えたその射線を別の盾が遮った。
「させません……!」
刹那、セレスティア機が突貫。
ブースターを吹かした勢いのままに遮る浮遊盾を自らのそれで抑え込む。
『それくらいで――』
すぐさま新たな盾を展開するも、気を取られた僅かな隙にレベッカ機がその懐へと潜り込んでいた。
「今度は外さないよ……!」
再び射出した鈎がルチアの肩へと迫る。
先ほどと同じように屈伸をつけた跳躍でそれを回避しようとしたルチア――が、身を屈めた瞬間に、ガクリと機体が大きく傾いた。
『脚……損傷!?』
イーディスが延々狙い続けた膝の関節が負担に耐え切れず悲鳴を上げていた。
直後に肩へと絡みついた鈎。
伸びた紐をぐいと引っ張って、レベッカ機がルチアを無理やりに引き寄せる。
「バケモノ相手にどこまで効くか分からないけどさ――」
唸りを上げた拳がルチアの腹部に叩き込まれていた。
ルチア・CAM双方のパーツが戦場に弾け飛ぶ。
『悪く無い余興だけど、このままじゃ私は踊れないわ』
無理やり鈎を振りほどこうとしたのか、スラスターを吹かして離脱を試見たルチア。
しかし、その光を遠目に射抜く視線があった。
物言わず引き絞った引き金。
カグラ機のライフルが唸りを上げ、銃弾が盾の合間を縫って背部のスラスターを吹き飛ばす。
爆砕――もうもうと煙を巻き上げて推進力を失った機体が雪原へ滑り落ちる。
『くっ……!』
ルチアは咄嗟に態勢を立て直してナイフをカグラへと放つ。
大きく弧を描くように飛翔したナイフは機体そのものではなく、抱えたライフルのバレルを切り裂いて地面へと突き刺さる。
「お見事……でも、自慢の機動力はもう失われましたよ」
口走ったカグラの視線の先で、レベッカの機体が再びルチアへと迫った。
2者の間へ滑り込むように浮遊盾が視界を遮る。
「その程度で止められると思ってるんなら、大きな勘違いだよ!」
眼前のシールドにレベッカ機はスラスターを吹かすと、ぶち当たった勢いのままルチア機へと体当たった。
そうして盾越しにパイルを構えて、炸裂。
射出された杭が盾を穿ち、貫いた衝撃がルチアの機腕を吹き飛ばす。
『離れて……!』
覆いかぶさるレベッカ機を下半身の勢いだけで蹴り付け、弾き飛ばすルチア。
そのまま足先から放った針が、お返しとでも言うようにレベッカ機の左肩に深く突き刺さり、その可動部を破壊する。
立ち上がり、態勢の崩れたレベッカ機へと追い討ちに放った脚針。
コックピットを確かに狙ったそれであったが、ルーファスの銃弾がそれを弾き落としていた。
「大体のパターンはもう、機体に教え込んであるよ」
戦闘開始から蓄積したデータは既に十分揃っている。
包囲の遅れは多少の損害を生みはしたが、代わりにじっくりデータを集めるだけの時間も、ハンター達に与えていたのだ。
「そういうこった。観念するんだな」
盾で身構えながら駆けこむように距離を詰めるアーサー機。
応戦、雪の上に転がったまま大きく腰を捻り、足先から飛び出した刃で迎え撃つルチアであったが、アーサー機は真横に推進弁を切って急回避。
入れ違いに、アーサー機の背に隠れて既に射撃体勢に入っていた観智機のライフルが唸りを上げた。
砲撃と言っても謙遜無い強弾が、その足先ごと刃を撃ち砕く。
『あらあらあら……流石にちょっと、苦しいみたい?』
「まだ、口から余裕を吐いてられるってか。だが、見せ場はもう終わりだぜ……!」
不揃いな両足で立ち上がったルチアへと、アーサー機の振るう刃が再度迫った。
ルチアは腕から突き出した両刃の刃でそれを受け止めて、開いた懐へと膝の装甲を割って突き出した刃を閃かせるが――不意に敵機の肩口から飛び出した小さな影が視界いっぱいに迫っていた。
「しぶといのは今までの戦いで織り込み済み……なら、徹底的にやるだけだ!」
CAMの背を段代わりに飛び上がったイェジドとボルディア。
斧槍の一振りがその圧で降雪をも吹き飛ばしながら、機械の巨体の横っ面へと叩き込まれていた。
不意に視界を闇に覆われ、ルチアは突き出した膝を振り上げずに、突き飛ばすようにアーサー機から距離を取る。
『センサー――サブに切り替えて……!」
システムを掌握し、意識的にできるのか、咄嗟に呟きながらやがて回復させる視界。
数瞬ぶりの雪景色の中、眼前に迫っていた1枚の壁をその視界に捉えていた。
セレスティア機がその盾ごとルチアの真正面からぶち当たっていたのだ。
わずか一本の手でそれを受け止めきれるわけもなく、もつれ込むように再び雪原へと押し倒されていた。
『離れてって……言っているのに!』
ルチアの装甲が弾ける――いや、自らパージするように吹き飛ばす。
その下に隠れていた数多の刃が一斉に目の前のCAMへと放たれるも、串刺された盾を置き土産にセレスティアは一歩背面へと飛び退いていた。
「取り逃がした事に忸怩たる思いを抱く者のためにも――」
抜き放ち閃くCAM刀。
逆手に振り上げて当たりを決めたその切っ先が、微塵に切り刻まれた盾の上から深々と敵機へと突き込まれていた。
『あはは……ごめんねフランカ。今度こそ、お休みの時間みたい――』
妖しく光る機体のマテリアル光が次第に鈍く、輝きを失ってゆく。
やがてその光が完全に潰えた時――敵機は完全に沈黙していた。
●希望のカタチ
「――終わりましたか」
霧散してゆく機体。
ゆっくりと引き抜く刃。
貫いたその先に、コックピットと一体化しながらも眠るように意識を失った人形の姿が目に止まる。
「アイゼンハンダー達の移動痕は……」
周囲の足元をカメラアイで拡大しながらその痕跡を探すルーファスであったが、延々と降り積もる雪のせいでそれもとうに消えてしまっていた。
「虚霧姫の事は気になってはいたのですけれどね……功を焦り、必要の無い藪までつついてはいないものかと」
広がる真っ白な視界の先、いずこへと逃げ去った夢幻城の主へと観智は想いを馳せる。
『あれが高位の《嫉妬》の能力ってことなのか……?』
「こういう相手は増えそうだね……まったく、厄介な事だよ」
アーサー、イーディスの懸念はもっともである。
ただでさえ昨年、歪虚に奪われた機体があるのだ。
人間が機動兵器を使い始めるようになった今、歪虚もそれを腐らせるとは到底思えはしない。
『それでも倒すだけだよ。その為の力も、今はこうしてあるんだからさ――』
それらの疑問に、片腕となった機体で積雪に埋もれる機動兵器の残骸達を掘り起こすレベッカはただ当たり前のように答えていた。
そのための力――機甲兵器や幻獣の存在は歪虚に新たな力を与えてしまう懸念もある一方で、人類にとっての新たな希望の形であることもまた確かなものであった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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ルミちゃんに質問 ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/01/16 12:13:50 |
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『UNKNOWN』を撃破せよ! ボルディア・コンフラムス(ka0796) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/01/16 16:27:54 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/15 06:16:17 |