ゲスト
(ka0000)
少年に、ぬくもりを
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/01/19 19:00
- 完成日
- 2016/01/28 06:30
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ブックカフェ『シエル』。
クリムゾンウェストのみならずリアルブルーの書籍を読むことができ、更に飲んだり食べたりもできるこの場所は、密かな穴場スポットとしてリゼリオの市民達に愛されている。
ところが、一人の少年がやってきて――
●
「ここ、どこなの?」
泣きじゃくりながら尋ねてくるのはまだ十歳くらいの少年だ。
リアルブルーの出身らしく、腕にはなかなかしっかりした腕時計をはめている。リアルブルーでも比較的裕福な地域の出身のようだ。
だが、つまりそれはそれなりに甘やかされて育ってきたと言うことの裏返しなのかも知れない。
少年は転移してそれほど間がたってないと言うこともあって、すっかりホームシックに陥ってしまったらしい――と言うのが彼を連れてきたハンターオフィスの職員の言葉だった。
幸か不幸か、ハンターとしての資質は備えている。
しかしまだどう見ても幼い顔立ちの少年に、ハンターになれとは流石に言いづらいのが現実だ。
……で、困った結果、ハンターオフィス職員達はリアルブルー出身者の店主が経営しているこのブックカフェに、彼をいっとき預かってもらうように頼んだのである。
「何か、マンガのなかにきたみたいだけど、これ夢じゃないんでしょ? 僕どうなっちゃうの? ママにまた会える?」
不安と困惑の入り交じった涙声で、少年は店主のエリスに問いかける。
「うーん。たしかにそれはむずかしいかも知れないけれど……住めば都なんて言葉もあるのよ? とりあえず、なにかあたたかいものでも飲んで、気持ちを落ち着けましょう?」
エリスがそう言うと、少年はもごもごとなにか口にした。
「……がいい」
「え?」
エリスの聞いたことのないドリンクのようだ。
「ママと一緒に飲んだ、アレが飲みたい! あったかくて、ふんわりして、美味しかったアレ! ……ママぁ……」
またしくしくと泣き出す少年。エリスはため息をひとつついて、そしてそれなら、とひとつ提案した。
「君のほしい飲み物を、ハンターさんたちに当ててもらいましょうか。私も分からないから、クイズみたいなものね。まずは君、ちゃんと名乗ってくれないかな?」
「……クイズ……? よくわかんないけど……」
でも、名前を名乗ることはできる。
「僕は、翼。天野翼」
翼少年はよく分からないながらも、立ちあがる第一歩を踏み出しはじめたようだ。
ブックカフェ『シエル』。
クリムゾンウェストのみならずリアルブルーの書籍を読むことができ、更に飲んだり食べたりもできるこの場所は、密かな穴場スポットとしてリゼリオの市民達に愛されている。
ところが、一人の少年がやってきて――
●
「ここ、どこなの?」
泣きじゃくりながら尋ねてくるのはまだ十歳くらいの少年だ。
リアルブルーの出身らしく、腕にはなかなかしっかりした腕時計をはめている。リアルブルーでも比較的裕福な地域の出身のようだ。
だが、つまりそれはそれなりに甘やかされて育ってきたと言うことの裏返しなのかも知れない。
少年は転移してそれほど間がたってないと言うこともあって、すっかりホームシックに陥ってしまったらしい――と言うのが彼を連れてきたハンターオフィスの職員の言葉だった。
幸か不幸か、ハンターとしての資質は備えている。
しかしまだどう見ても幼い顔立ちの少年に、ハンターになれとは流石に言いづらいのが現実だ。
……で、困った結果、ハンターオフィス職員達はリアルブルー出身者の店主が経営しているこのブックカフェに、彼をいっとき預かってもらうように頼んだのである。
「何か、マンガのなかにきたみたいだけど、これ夢じゃないんでしょ? 僕どうなっちゃうの? ママにまた会える?」
不安と困惑の入り交じった涙声で、少年は店主のエリスに問いかける。
「うーん。たしかにそれはむずかしいかも知れないけれど……住めば都なんて言葉もあるのよ? とりあえず、なにかあたたかいものでも飲んで、気持ちを落ち着けましょう?」
エリスがそう言うと、少年はもごもごとなにか口にした。
「……がいい」
「え?」
エリスの聞いたことのないドリンクのようだ。
「ママと一緒に飲んだ、アレが飲みたい! あったかくて、ふんわりして、美味しかったアレ! ……ママぁ……」
またしくしくと泣き出す少年。エリスはため息をひとつついて、そしてそれなら、とひとつ提案した。
「君のほしい飲み物を、ハンターさんたちに当ててもらいましょうか。私も分からないから、クイズみたいなものね。まずは君、ちゃんと名乗ってくれないかな?」
「……クイズ……? よくわかんないけど……」
でも、名前を名乗ることはできる。
「僕は、翼。天野翼」
翼少年はよく分からないながらも、立ちあがる第一歩を踏み出しはじめたようだ。
リプレイ本文
●
(……望郷、か)
故郷を【奪われる】のと、故郷と【切り離される】のは似て非なるもの。しかし、故郷を懐かしみ、両親に会いたいと思うその感情はおそらく近しい。
ヴァイス(ka0364)はそんなことを思いながら、ブックカフェ『シエル』に足を運んでいた。
今回の依頼内容は、リアルブルーからやってきて間もない、ホームシック気味の少年に元気を取り戻させること。
具体的には少年が飲みたいと思っている懐かしい味を再現することでそれが少しは叶うのではないか、と言うことだが――簡単なのか難しいのか、分かりかねる部分はある。
何しろリアルブルーの少年だ。文化も何も違うとあれば、それを探り当てるのもおそらく困難である。
他のハンターたちもいろいろなアイデアを持っているらしいが、さて。
「……でも、あったかくて、ふんわりして、美味しい、飲み物……か。なんだろう、楽しみだね」
やはり依頼を受けているナタナエル(ka3884)が、小さく微笑んだ。
●
「ああ、いらっしゃいませ」
ブックカフェ『シエル』の女主人・エリスはハンターたちの到着に、笑顔を見せる。
その後ろのほうにいる不安そうな顔の少年――これがおそらく今回の対象・翼少年だろう。
(転移したばかりって、困ったものだよね……右も左も分からないし、ひとりぼっちだし)
同じくリアルブルーの出身者である霧雨 悠月(ka4130)が、わずかに眉を下げ、そして少し笑って挨拶をした。
「こんにちは。君が翼くん、だよね」
言われた少年はびくうっとして、それからこくり、と頷く。中性的な雰囲気の悠月は、しかし翼とも年齢の近そうな雰囲気を醸し出していて、少し安心したのかも知れない。年齢の近い人物がいればいるほど、子どもというのは連帯感と安心感を持つ者なのだ。
「ごきげんよう、ボクはシャルル、だヨ。キミと同じで、向こうの世界から来たンだ」
そう挨拶をしたのはシャルル=L=カリラ(ka4262)。見た目は貴公子然とした青年だが、どこか残念臭がただようのは気のせいか。
「あちらの世界……今はどうなっていルのか分からないけれど、ボクの家族もキミの家族も、無事で元気だと、イイよネ! そして、出来るコトなら家族に「元気でいる」と伝えたい」
シャルルはそこで一旦言葉を切った。
「でも、今は翼が、家族を想ってしょんぼりしてル。そんな翼を見たら家族が放っておくワケないよね? 心配するよネ? ダカラ、まずは元気を取り戻して、キミらしく生きて、家族の元に帰れる日が来るように努力することを提案するヨ」
なるほど、もっともな話である。
「そうそう、折角飲み物を飲むならと思って、ちょっとしたスイーツを用意したの」
そう言いながらクッキーやカップケーキをそっと差し出したのはマーオ(ka5475)。たしかに飲み物ばかりではつまらない。口直しのちょっとした甘味が、あるいは彼の望むものへのヒントに繋がるかも知れないし。それに、不安をやわらげるのにはやはり空腹よりも少しでも腹に何か収めた方がいいというのも納得のいく話だ。
「じゃあ、準備の合間にでもトランプでもしようか。……あ、エリスさんもどうです?」
そう言ってゲーム用のカードをチラリと見せるのはやはりリアルブルー出身の龍堂 神火(ka5693)だ。八人が全員厨房に立つのもむずかしいので、何人かがかんたんなトランプゲームに興じる。
「……ボクも、キミと同じ。ボクには記憶が無いけど……向こうに残した家族もいたろうし、多分夢も果たせていない。忘れているからこちらの生活も受け入れやすかったのかも知れないけれど、覚えていたらきっとボクだってもっと不安だったと思う」
翼はその話をじっと聞いて、そして小さく唇を噛む。転移の際に記憶を失った人がいるのは聞いていたが、その場合もそれなり以上の苦労があったのだろう、と気づいたからだ。
「天野くんは今幾つ?」
「十歳」
「そっかぁ。じゃあ、勉強とか大変だった?」
「受験、しようと考えてたし……それなりに」
年代が近いというのは本当に有難い。翼も、おそるおそるではあるが、たしかにコミュニケーションが成立していた。
「お菓子の味はどう?」
「うん……美味しい。でも、もっと素朴でもいいかな」
マーオの問いかけに、小さな駄菓子屋にありそうな、そんなものが好きだった、と彼は告げる。合成甘味料や着色料がたっぷりの、安っぽい菓子が案外好きだったようだ。下校途中にこっそり買い食いしたりしていたのだろう。
●
その頃、厨房では。
「にしても、ハンターってのはこんなメンドーなこともしなきゃなんねーのかよ……ッたく」
悪態をつきながらも準備に手を動かしているのは大伴 鈴太郎(ka6016)と言う、こちらもまた新人ハンターだ。こんな名前だがれっきとした女性である。ただ、その名前の影響もあってか気づけば女性らしい振る舞いに羞恥を抱く、いわゆるヤンキー系になってしまったのだが。ただ、そう言う性分のせいか、逆に責任感の強い隠れ熱血漢である。むろん、女性らしい面もあるにはあるが、基本的には隠し通しているあたりは自分の立場を承知しているのだろう。
「あ、大伴さん! お待たせしました!」
そう言ってやってきたのは神火である。不器用な鈴太郎の手伝いをするために厨房にやってきたのだ。
「そろそろそれぞれのドリンクもできる頃合いだし、こちらの手伝いもしないと……何から手伝いましょうか?」
そして翼から聞いた情報を厨房にいたメンバーに教えていく。
「ふむふむ」
これが正しいかどうかは分からない。しかし、彼ら同士では納得したらしい。
「いずれにしろ、翼くんにこれを味わってもらおう。美味いと言ってもらいたいな」
にっこりと笑顔を浮かべたヴァイスは、まるで悪戯っぽい少年のようだった。
●
「改めて自己紹介だな。さっき来たときにも名乗りはしたが……俺はヴァイス」
ヴァイスはそう言ってから、いろいろとリアルブルー時代のことを丁寧に聞き出す。無理のないレベルで。
「ところでさっき聞いたんだが、駄菓子ってのは菓子とは少し違うのか?」
その問いに答えたのは鈴太郎だ。
「駄菓子はなんつーか……安っぽいけど、そこがいい感じの菓子だな。子どもが駄賃の釣り銭で買える程度の値段で、結構腹もふくれる」
「なるほど」
翼少年は思っていたよりもアクティブだったようだ。しかし、思い出してしまったのだろう、目尻がわずかに潤んでいる。その頭を優しく撫でると、ヴァイスはすっとマグカップを差し出す。
「マシュマロミルクだ。ふわふわして手軽な菓子でできるから、こんなものだったんじゃないか、と思ってな」
マグカップは丁寧なことに全員ぶん用意されている。一口すすると、ふわっとした甘みが口に広がった。
「……美味しい」
その応えは驚きを隠せない、と言う風に聞こえて。
しかし同時に、暗にこれではない、と言っているようだった。
「ミルクを使う飲み物とも違ったと思うんだ。実際の作り方は詳しく知らないけど」
ふむ。そうなると何人かのアイデアはこの時点で除外される。
じっさい、ミルク系のドリンクと思って作った人は少なくなかったのである。子どもの飲むものだから、そうなるのだろう。
ナタナエル(ka3884)もそんなひとりである。もともとこの依頼に入るきっかけは翼少年の気持ちが分からなくもないから――と言うものだったが、ナタナエルと翼の場合はずいぶん状況が異なる。エルフのナタナエルは、人買いに攫われて泣くことも逃げることも許されなかった。
(だからこそ、君の選ぶ道が優しい光に満ち溢れているよう、願うよ)
そんなナタナエルの用意したのはミルクセーキだった。
「すごく悩んだんだよ」
曰く、パンプキンスープとハチミツミルク、そしてこのミルクセーキで悩んだらしい。『ふんわり感』が決め手だったらしいが。
「あれ、僕の考えと同じだったんだ」
マーオが驚いたように言う。どうやら彼も蜂蜜入りのホットミルクは考えていたらしい。まあ、あえてお互い内緒での作戦だったので、こういうアイデアかぶりは出てしまうものなのだろうが。
「僕の知る限り、リアルブルーから来た人で帰ることができた、と言う人は残念ながら知らないけれど、だから諦めると言うよりも『切り替える』とか『開き直る』ほうが大事じゃないかな? 自分のなかにスイッチを作ってみたりしてね。……いつか、この世界も好きになってくれると嬉しいな」
それはきっとこの依頼の参加者全員の意見。
「でも、これも美味しいです」
口当たりまろやかなミルクセーキを気に入ったらしい。エリスも、是非レシピを知りたいと微笑んだ。
「でもミルクを使ってないなら、これも違うのかナ?」
シャルルが用意したのはエッグノック。卵黄と牛乳、それに砂糖とシナモンを使ったドリンクだ。こちらも代わりに作ったエリスに好評なあたり、そのうちこのシエルの新メニューとして登場しそうだ。
「ちょっと、これ、スパイシー……」
シナモン特有の香りは、少し翼にはきつかったのだろうか。
「なるほどね。デモ、当たるも当たらないもボクには関係ないんダ。翼さえ喜んでくれれば、ネ」
シャルルがそう言うと、翼は急いで飲み干し、そして笑って見せた。空気を読める少年である。人当たりの優しさは、きっと生まれつきなのだろう。笑顔も、柔らかかった。
「でも、子どもでも飲みやすい量に調節はされてるな。これ、気に入ったかも」
そう言う声もあって、シャルルはそれはそれで嬉しそうだった。
「そういえば、スゥは昔に飲んだ甘いのに、白いの……さっきのましまろ? をいれるのが好きだよ」
そう微笑んだのは小柄な少女のスゥ(ka4682)だった。野良猫のような生き様だった彼女はやせっぽちだったが、白い髪に銀の瞳がひどく印象的だ。
「これね。マシュマロ入りココア」
エリスが運んできたものを、みんなで飲む。
「……違ったかな?」
「違うけど、美味しい」
マーオの用意したクッキーをかじりながら、翼が笑う。スゥもつられて笑った。
はじめはまだこわばり気味だった翼も、だんだんあたたかい飲み物や優しいハンターたちのおかげで笑顔を確実に取り戻している。それがハンターたちにも嬉しかった。
「えっとね、」
スゥは緊張しつつ、でもにっこりと笑う。
「君はすごいよね。スゥはむずかしいの苦手だよ。知ってるのは昼寝に適した場所くらい……スゥには家族がないから。でも家族みたいな友達はいるよ。君にとって家族はどんなの?」
「んー……とても大切。でも、……みんなが言うように開き直った方がいいのかも知れないなぁ」
スゥの言葉に、翼は少し考えて、そしてそう言った。諦めとは違う、前向きな光が瞳に宿りだしている。僅かではあるが、確実に。
●
「じゃあ、こんなのはどうだ? 小坊のくせに受験ベンキョーとかしてたんなら、こういうのカも知れねーな、って思ったんだけどさ」
鈴太郎が持ってきたのは、かき玉汁。まさかのチョイスに、他の仲間たちが目を丸くする。後ろから神火が
「僕も手伝ったんですよ」
なんてぴょこんと顔を出したりもするものだから、なかなかかわいらしいコンビである。
「受験なら眠くなんねーようにコーヒーとかも考えたんだけどさ、コーヒー類ならこの店にもあるかも知れねーし。こういう店にはなさそうで、寒い夜の小腹の足しになりそうなモンってところで、こいつにしてみた」
ふわっとしただしの香りが、鼻をくすぐる。なるほど、たしかにそう言う考え方はあまりなかった。
「……あったかい」
少年をはじめとするハンターたちも喜んで口に運ぶ。
「うん、好きだったのは和風のものなんだよ……のど元まで名前、出かけてるんだけど、ええと」
若干惜しいところを掠めたらしい。
「無理に思い出さなくてもいいぜ。焦ることじゃないだろうしな」
「……うん」
――それにいつか、いやがおうにもそれらは『記憶』ではなく『思い出』に昇華されていく。下手に思い出すよりも、曖昧な思い出に浸る方が、あるいはいいのかも知れない。
誰かが、そんなことをぼんやりと考えた。
「あ、そうか。ここ喫茶店でもあるんでしたっけ」
ちなみにマスターであるエリスの特技はラテアートである。
それをどうやら少しばかり失念していたらしい。悠月はカプチーノなども考えていたらしいが、それならここでも準備でいるはずなので、逆に違うと気づいたのだろう。
「でも、こうやってあったかいお茶会、できるだけでも楽しいよね。リアルブルーの話題もできるし、同年代の子も多いし……そうだ、好きな歌とかあるかな? 僕も歌は好きで、覚えたのがあるから」
悠月がそう提案すると、リアルブルーの小学生が学校で学ぶような懐かしい唱歌のタイトルを言う。そして翼は、わずかに震える声ではあったけれど、それを歌い出した。
きれいな歌声。
誰もが聞き惚れてしまいそうな程に。
●
――結局、彼のほしいモノは分からなかった。
ただ、少年はふっと言葉にする。
「そういえば、初詣のときに、神社で振る舞われてた」
――子どもでも飲める、初詣の飲み物――おそらくそれは甘酒か、あるいはお汁粉だ。
なるほど、すぐに引っかかるようで引っかからない飲み物だ。
「でも、これからどうするの? ハンター資質はあるって話は聞いてるけど」
悠月がきくと、ヴァイスも頷く。
「たしかに、まだ混乱はしているだろうが、俺たちは困った人を助けるのが役目みたいなものだしな」
「……」
翼はしばし考え込んでいた。
まだ慣れない世界で、どう過ごせばいいのか、悩んでいるという風で。と、ぽんと手を叩いたのはエリスだった。
「それなら、もうしばらくは学校に通ってこの世界についてもう少し学んだらどうかしら。幸い、リアルブルー式の教育も行なっている学校は、リゼリオにもあるから」
なるほど、それなら理解しやすかろう。
「もちろん、困ったときや不安だったりしたときは、相談に乗るからね」
「そうそう。このセカイもすきになって欲しいし」
そんなことを何人かが言うと、少年はふっと眦から滴を落とした。
「ありがとう……ぜったいに、僕、強くなる。心も、身体も」
そして自分のような立場の人が現れたときに助けたい――と。
少年は、涙をぬぐった。
その表情は、どこか晴れやかだった。きっと、ハンターたちの優しさに触れて、そして決めたのだろう。
この世界で、もっともがいて生きていくと言うことを。
(……望郷、か)
故郷を【奪われる】のと、故郷と【切り離される】のは似て非なるもの。しかし、故郷を懐かしみ、両親に会いたいと思うその感情はおそらく近しい。
ヴァイス(ka0364)はそんなことを思いながら、ブックカフェ『シエル』に足を運んでいた。
今回の依頼内容は、リアルブルーからやってきて間もない、ホームシック気味の少年に元気を取り戻させること。
具体的には少年が飲みたいと思っている懐かしい味を再現することでそれが少しは叶うのではないか、と言うことだが――簡単なのか難しいのか、分かりかねる部分はある。
何しろリアルブルーの少年だ。文化も何も違うとあれば、それを探り当てるのもおそらく困難である。
他のハンターたちもいろいろなアイデアを持っているらしいが、さて。
「……でも、あったかくて、ふんわりして、美味しい、飲み物……か。なんだろう、楽しみだね」
やはり依頼を受けているナタナエル(ka3884)が、小さく微笑んだ。
●
「ああ、いらっしゃいませ」
ブックカフェ『シエル』の女主人・エリスはハンターたちの到着に、笑顔を見せる。
その後ろのほうにいる不安そうな顔の少年――これがおそらく今回の対象・翼少年だろう。
(転移したばかりって、困ったものだよね……右も左も分からないし、ひとりぼっちだし)
同じくリアルブルーの出身者である霧雨 悠月(ka4130)が、わずかに眉を下げ、そして少し笑って挨拶をした。
「こんにちは。君が翼くん、だよね」
言われた少年はびくうっとして、それからこくり、と頷く。中性的な雰囲気の悠月は、しかし翼とも年齢の近そうな雰囲気を醸し出していて、少し安心したのかも知れない。年齢の近い人物がいればいるほど、子どもというのは連帯感と安心感を持つ者なのだ。
「ごきげんよう、ボクはシャルル、だヨ。キミと同じで、向こうの世界から来たンだ」
そう挨拶をしたのはシャルル=L=カリラ(ka4262)。見た目は貴公子然とした青年だが、どこか残念臭がただようのは気のせいか。
「あちらの世界……今はどうなっていルのか分からないけれど、ボクの家族もキミの家族も、無事で元気だと、イイよネ! そして、出来るコトなら家族に「元気でいる」と伝えたい」
シャルルはそこで一旦言葉を切った。
「でも、今は翼が、家族を想ってしょんぼりしてル。そんな翼を見たら家族が放っておくワケないよね? 心配するよネ? ダカラ、まずは元気を取り戻して、キミらしく生きて、家族の元に帰れる日が来るように努力することを提案するヨ」
なるほど、もっともな話である。
「そうそう、折角飲み物を飲むならと思って、ちょっとしたスイーツを用意したの」
そう言いながらクッキーやカップケーキをそっと差し出したのはマーオ(ka5475)。たしかに飲み物ばかりではつまらない。口直しのちょっとした甘味が、あるいは彼の望むものへのヒントに繋がるかも知れないし。それに、不安をやわらげるのにはやはり空腹よりも少しでも腹に何か収めた方がいいというのも納得のいく話だ。
「じゃあ、準備の合間にでもトランプでもしようか。……あ、エリスさんもどうです?」
そう言ってゲーム用のカードをチラリと見せるのはやはりリアルブルー出身の龍堂 神火(ka5693)だ。八人が全員厨房に立つのもむずかしいので、何人かがかんたんなトランプゲームに興じる。
「……ボクも、キミと同じ。ボクには記憶が無いけど……向こうに残した家族もいたろうし、多分夢も果たせていない。忘れているからこちらの生活も受け入れやすかったのかも知れないけれど、覚えていたらきっとボクだってもっと不安だったと思う」
翼はその話をじっと聞いて、そして小さく唇を噛む。転移の際に記憶を失った人がいるのは聞いていたが、その場合もそれなり以上の苦労があったのだろう、と気づいたからだ。
「天野くんは今幾つ?」
「十歳」
「そっかぁ。じゃあ、勉強とか大変だった?」
「受験、しようと考えてたし……それなりに」
年代が近いというのは本当に有難い。翼も、おそるおそるではあるが、たしかにコミュニケーションが成立していた。
「お菓子の味はどう?」
「うん……美味しい。でも、もっと素朴でもいいかな」
マーオの問いかけに、小さな駄菓子屋にありそうな、そんなものが好きだった、と彼は告げる。合成甘味料や着色料がたっぷりの、安っぽい菓子が案外好きだったようだ。下校途中にこっそり買い食いしたりしていたのだろう。
●
その頃、厨房では。
「にしても、ハンターってのはこんなメンドーなこともしなきゃなんねーのかよ……ッたく」
悪態をつきながらも準備に手を動かしているのは大伴 鈴太郎(ka6016)と言う、こちらもまた新人ハンターだ。こんな名前だがれっきとした女性である。ただ、その名前の影響もあってか気づけば女性らしい振る舞いに羞恥を抱く、いわゆるヤンキー系になってしまったのだが。ただ、そう言う性分のせいか、逆に責任感の強い隠れ熱血漢である。むろん、女性らしい面もあるにはあるが、基本的には隠し通しているあたりは自分の立場を承知しているのだろう。
「あ、大伴さん! お待たせしました!」
そう言ってやってきたのは神火である。不器用な鈴太郎の手伝いをするために厨房にやってきたのだ。
「そろそろそれぞれのドリンクもできる頃合いだし、こちらの手伝いもしないと……何から手伝いましょうか?」
そして翼から聞いた情報を厨房にいたメンバーに教えていく。
「ふむふむ」
これが正しいかどうかは分からない。しかし、彼ら同士では納得したらしい。
「いずれにしろ、翼くんにこれを味わってもらおう。美味いと言ってもらいたいな」
にっこりと笑顔を浮かべたヴァイスは、まるで悪戯っぽい少年のようだった。
●
「改めて自己紹介だな。さっき来たときにも名乗りはしたが……俺はヴァイス」
ヴァイスはそう言ってから、いろいろとリアルブルー時代のことを丁寧に聞き出す。無理のないレベルで。
「ところでさっき聞いたんだが、駄菓子ってのは菓子とは少し違うのか?」
その問いに答えたのは鈴太郎だ。
「駄菓子はなんつーか……安っぽいけど、そこがいい感じの菓子だな。子どもが駄賃の釣り銭で買える程度の値段で、結構腹もふくれる」
「なるほど」
翼少年は思っていたよりもアクティブだったようだ。しかし、思い出してしまったのだろう、目尻がわずかに潤んでいる。その頭を優しく撫でると、ヴァイスはすっとマグカップを差し出す。
「マシュマロミルクだ。ふわふわして手軽な菓子でできるから、こんなものだったんじゃないか、と思ってな」
マグカップは丁寧なことに全員ぶん用意されている。一口すすると、ふわっとした甘みが口に広がった。
「……美味しい」
その応えは驚きを隠せない、と言う風に聞こえて。
しかし同時に、暗にこれではない、と言っているようだった。
「ミルクを使う飲み物とも違ったと思うんだ。実際の作り方は詳しく知らないけど」
ふむ。そうなると何人かのアイデアはこの時点で除外される。
じっさい、ミルク系のドリンクと思って作った人は少なくなかったのである。子どもの飲むものだから、そうなるのだろう。
ナタナエル(ka3884)もそんなひとりである。もともとこの依頼に入るきっかけは翼少年の気持ちが分からなくもないから――と言うものだったが、ナタナエルと翼の場合はずいぶん状況が異なる。エルフのナタナエルは、人買いに攫われて泣くことも逃げることも許されなかった。
(だからこそ、君の選ぶ道が優しい光に満ち溢れているよう、願うよ)
そんなナタナエルの用意したのはミルクセーキだった。
「すごく悩んだんだよ」
曰く、パンプキンスープとハチミツミルク、そしてこのミルクセーキで悩んだらしい。『ふんわり感』が決め手だったらしいが。
「あれ、僕の考えと同じだったんだ」
マーオが驚いたように言う。どうやら彼も蜂蜜入りのホットミルクは考えていたらしい。まあ、あえてお互い内緒での作戦だったので、こういうアイデアかぶりは出てしまうものなのだろうが。
「僕の知る限り、リアルブルーから来た人で帰ることができた、と言う人は残念ながら知らないけれど、だから諦めると言うよりも『切り替える』とか『開き直る』ほうが大事じゃないかな? 自分のなかにスイッチを作ってみたりしてね。……いつか、この世界も好きになってくれると嬉しいな」
それはきっとこの依頼の参加者全員の意見。
「でも、これも美味しいです」
口当たりまろやかなミルクセーキを気に入ったらしい。エリスも、是非レシピを知りたいと微笑んだ。
「でもミルクを使ってないなら、これも違うのかナ?」
シャルルが用意したのはエッグノック。卵黄と牛乳、それに砂糖とシナモンを使ったドリンクだ。こちらも代わりに作ったエリスに好評なあたり、そのうちこのシエルの新メニューとして登場しそうだ。
「ちょっと、これ、スパイシー……」
シナモン特有の香りは、少し翼にはきつかったのだろうか。
「なるほどね。デモ、当たるも当たらないもボクには関係ないんダ。翼さえ喜んでくれれば、ネ」
シャルルがそう言うと、翼は急いで飲み干し、そして笑って見せた。空気を読める少年である。人当たりの優しさは、きっと生まれつきなのだろう。笑顔も、柔らかかった。
「でも、子どもでも飲みやすい量に調節はされてるな。これ、気に入ったかも」
そう言う声もあって、シャルルはそれはそれで嬉しそうだった。
「そういえば、スゥは昔に飲んだ甘いのに、白いの……さっきのましまろ? をいれるのが好きだよ」
そう微笑んだのは小柄な少女のスゥ(ka4682)だった。野良猫のような生き様だった彼女はやせっぽちだったが、白い髪に銀の瞳がひどく印象的だ。
「これね。マシュマロ入りココア」
エリスが運んできたものを、みんなで飲む。
「……違ったかな?」
「違うけど、美味しい」
マーオの用意したクッキーをかじりながら、翼が笑う。スゥもつられて笑った。
はじめはまだこわばり気味だった翼も、だんだんあたたかい飲み物や優しいハンターたちのおかげで笑顔を確実に取り戻している。それがハンターたちにも嬉しかった。
「えっとね、」
スゥは緊張しつつ、でもにっこりと笑う。
「君はすごいよね。スゥはむずかしいの苦手だよ。知ってるのは昼寝に適した場所くらい……スゥには家族がないから。でも家族みたいな友達はいるよ。君にとって家族はどんなの?」
「んー……とても大切。でも、……みんなが言うように開き直った方がいいのかも知れないなぁ」
スゥの言葉に、翼は少し考えて、そしてそう言った。諦めとは違う、前向きな光が瞳に宿りだしている。僅かではあるが、確実に。
●
「じゃあ、こんなのはどうだ? 小坊のくせに受験ベンキョーとかしてたんなら、こういうのカも知れねーな、って思ったんだけどさ」
鈴太郎が持ってきたのは、かき玉汁。まさかのチョイスに、他の仲間たちが目を丸くする。後ろから神火が
「僕も手伝ったんですよ」
なんてぴょこんと顔を出したりもするものだから、なかなかかわいらしいコンビである。
「受験なら眠くなんねーようにコーヒーとかも考えたんだけどさ、コーヒー類ならこの店にもあるかも知れねーし。こういう店にはなさそうで、寒い夜の小腹の足しになりそうなモンってところで、こいつにしてみた」
ふわっとしただしの香りが、鼻をくすぐる。なるほど、たしかにそう言う考え方はあまりなかった。
「……あったかい」
少年をはじめとするハンターたちも喜んで口に運ぶ。
「うん、好きだったのは和風のものなんだよ……のど元まで名前、出かけてるんだけど、ええと」
若干惜しいところを掠めたらしい。
「無理に思い出さなくてもいいぜ。焦ることじゃないだろうしな」
「……うん」
――それにいつか、いやがおうにもそれらは『記憶』ではなく『思い出』に昇華されていく。下手に思い出すよりも、曖昧な思い出に浸る方が、あるいはいいのかも知れない。
誰かが、そんなことをぼんやりと考えた。
「あ、そうか。ここ喫茶店でもあるんでしたっけ」
ちなみにマスターであるエリスの特技はラテアートである。
それをどうやら少しばかり失念していたらしい。悠月はカプチーノなども考えていたらしいが、それならここでも準備でいるはずなので、逆に違うと気づいたのだろう。
「でも、こうやってあったかいお茶会、できるだけでも楽しいよね。リアルブルーの話題もできるし、同年代の子も多いし……そうだ、好きな歌とかあるかな? 僕も歌は好きで、覚えたのがあるから」
悠月がそう提案すると、リアルブルーの小学生が学校で学ぶような懐かしい唱歌のタイトルを言う。そして翼は、わずかに震える声ではあったけれど、それを歌い出した。
きれいな歌声。
誰もが聞き惚れてしまいそうな程に。
●
――結局、彼のほしいモノは分からなかった。
ただ、少年はふっと言葉にする。
「そういえば、初詣のときに、神社で振る舞われてた」
――子どもでも飲める、初詣の飲み物――おそらくそれは甘酒か、あるいはお汁粉だ。
なるほど、すぐに引っかかるようで引っかからない飲み物だ。
「でも、これからどうするの? ハンター資質はあるって話は聞いてるけど」
悠月がきくと、ヴァイスも頷く。
「たしかに、まだ混乱はしているだろうが、俺たちは困った人を助けるのが役目みたいなものだしな」
「……」
翼はしばし考え込んでいた。
まだ慣れない世界で、どう過ごせばいいのか、悩んでいるという風で。と、ぽんと手を叩いたのはエリスだった。
「それなら、もうしばらくは学校に通ってこの世界についてもう少し学んだらどうかしら。幸い、リアルブルー式の教育も行なっている学校は、リゼリオにもあるから」
なるほど、それなら理解しやすかろう。
「もちろん、困ったときや不安だったりしたときは、相談に乗るからね」
「そうそう。このセカイもすきになって欲しいし」
そんなことを何人かが言うと、少年はふっと眦から滴を落とした。
「ありがとう……ぜったいに、僕、強くなる。心も、身体も」
そして自分のような立場の人が現れたときに助けたい――と。
少年は、涙をぬぐった。
その表情は、どこか晴れやかだった。きっと、ハンターたちの優しさに触れて、そして決めたのだろう。
この世界で、もっともがいて生きていくと言うことを。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
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面白かった! | 7人 |
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/18 12:01:45 |
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相談卓 大伴 鈴太郎(ka6016) 人間(リアルブルー)|22才|女性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/01/19 08:34:07 |