ゲスト
(ka0000)
人面犬が見てる
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/01/24 22:00
- 完成日
- 2016/01/30 04:22
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
子供は怪談話が好きだ。リアルブルーにおいてもクリムゾンウェストにおいても。
今回の依頼は、まさにその延長線上で起きたものである。
●
通学路に面したアパートの二階右端にある窓は、子供たちにとって不安と不審の種だった。
いつもそこからじいっと、外を覗いているのだ――ゴブリンがかわいく思えるほどの醜悪な顔をした人面犬が。
うっかり目があおうものなら、地獄の使者みたいな声で、こう言ってくる。
『ミテンジャネエヨ……ミテンジャネエヨオオオオオ……』
まことに具合が悪いことに、そいつは子供にしか見えない。
だから大人に何度言っても信じてもらえない。対処してもらえない。
しかし学校へ行くために、あの道はどうしても通らなければならない。遠回りしたら20分も余計にかかってしまう。
なんとかしよう。
というわけで彼らはハンターオフィスへ依頼を出すことに決めた。皆でお小遣いを集めて。
●
カチャは件の窓をためつすがめつ見上げる。
……どんなに目をこらしても、どよんと垂れ下がったカーテンしか見えない。
「……なにもいないみたいですけど」
今は隠れている時間帯なのだろうか。などと考えつつアパート管理人の部屋へ向かう。仲間たちが来る前に、部屋の鍵を借りておこうと。
カチャから事情を聞いた管理人は不服そうに、丸い頬を膨らませた。
「本当ですかねそれは……子供が言っていることなんでしょ? 依頼を受けられたなら仕方ないですけど、あまりバタバタ目立つことしないでくださいよ。妙な評判立てられると困るんです。ほかの部屋に住んでおられる方だって不安になりますし」
「分かってます、もちろん分かっています。極力静かにやりますので」
「この3年借り手がいないですから、私も時々空気の入れ替えをするため入っていますけど……変わったことなどありゃしませんよ」
「あのー、あの部屋……ほかの部屋と間取りは一緒なんでしょう?」
「ええ。全部同じ2LDK」
「痛みが激しいわけでもないですよね」
「ええ」
「日当たりも良さそうですし」
「そうですね。南向きですから」
「……それでどうして3年も借り手が現れないんですか?」
管理人は額にしわを寄せた。自分のせいではないのに責められるのは理不尽だといった表情である。
「私が聞きたいですよそんなことは。借りようとしてくださった方も何人かいらっしたんですけど、最終的にいつも話が流れてしまうんです。まあその意味では呪われてるって言えるかも知れませんけどね」
「3年前にはどういう方が借りていたんですか?」
「どういうって……男の方が1人で住んでましたよ。いつも黒いローブを来て、人付き合いの悪い方でした。何も言わず急に出て行かれて。まあ家賃は一括で前払いしてくれてましたから、別にいいんですけどね」
「へえ……」
リプレイ本文
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)はスキップしながら、鼻歌交じりに先を急ぐ。緊張感はあまり感じられない。
「人面ワ~ン、人面ワ~ン~、どんなメン~♪」
彼女の後ろを行くのは、武牙毘(ka6004)、ザレム・アズール(ka0878)、星野 ハナ(ka5852)。
「見間違いや狂言、という可能性はあまりないように思うな」
「ああ。何しろ小遣いはたいて依頼してきてるからな。狂言だったらそこまでしないだろう」
「遅刻しないために自分たちで依頼したのはすっごくえらいと思いますぅ。終わったらお姉ちゃんがご褒美にお茶を奢ってあげますよぅ」
久延毘 大二郎(ka1771)、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)。
「人の顔を持った犬が『見るんじゃない』と言葉を発している……成程、リアルブルーの我が国に存在する都市伝説そっくりだな」
「アパートに巣くう怪異の正体を暴き出し、お祓いしちゃいます! 恐らくこの一件……相当な高確率で東方かぶれな落ち騎士の霊が関与しています」
「ほう、その根拠は?」
「昔特番で見たのです。『竹やぶに巣くう人面犬! その正体は関が原の落ち武者だった!』っていう追跡リポートを。今回出現したのは、きっとその仲間に違いありません……!」
カール・フォルシアン(ka3702)とスゥ(ka4682)はこの場にいない。両者、先んじて現場へ向かったのである。
「直に見たことはないんですが、昔……母から聞いたことがあるような。なんでもニホン産の歪虚らしいですね。中年男性の顔をした犬で、人語を話すが口は悪い。脚がものすごく速い、でしたか」
カールの説明に耳を傾けたスゥは、頭の中に思い描く。人面犬の姿を。
「何だか楽しそうな生き物だね。早く見てみたい気がするな」
「実験生物説や、人間霊が犬に憑依した説、魔法生物の一種説。僕としても気になりますね。生物学的に」
あれこれ話しながら歩いているうち、件のアパートにたどり着く。
新築なのかリフォームなのか、外装は小ぎれい。日当たりも良好。怪奇現象など起きそうもない雰囲気だ。
「あっ、カールさんスゥさん、こっちですよこっちー!」
依頼人たちを引き連れ駆け寄ってきたカチャが、困りはてた調子で言う。
「あのですね、あの二階の右端の窓に、何か見えます? この子たちは見えるって言うんですけど……私にはさっぱり分からないんです」
スゥは件の窓を見上げた。
「……うん、見えるよ。カーテンの隙間から目だけ出してるよね」
彼女に続きカールも断言した。
「僕にもそう見えます」
「何だか口汚く罵ってきてるよね」
「はい――皆さん、それで間違いないですか?」
問われた子供たちは勢い込んで頷いた。やっと自分たち以外にも見える人が出てきたので、ほっとしたもようだ。
「ほらね、やっぱりいるんだよ!」
「ハンターが言うなら間違いないよね!」
そこに残りのメンバーがやってきた。
ルンルンは頼もしげな笑顔を浮かべ、子供たち相手に胸を張る。
「依頼をくれたのはあなたたち? 安心して、怪物は私達がやっつけてくるから。で、怪物は……ええと、どの窓にいるの?」
「あそこだよ」
「あの二階の右端」
「今もこっち見てるでしょ」
ルンルンは窓を見上げた。ザレムも大二郎も武牙毘もパトリシアも。しかし――何もいない。日に焼け色あせたカーテンがだらりと下がっているだけ。
念のためにとハナは、通行人に呼びかける。
「すみませーん、貴方はあの窓に何か見えますかぁ?」
その袖を子供の1人が引っ張った。
「おばちゃん、そんなことしてもむだだよ。おとなにはみえないんだから」
一瞬ハナは相手が依頼主であることを忘れる。きりきり眉が吊り上がった。
「……オバチャンじゃなくお姉さんとお言いですぅ!」
彼女の怒りはさておき――スゥとカールは仲間たちに、『自分たちには見えている』ということを告げる。
(やはり何かがいるのだ)
その確信を抱いた武牙毘は、魔術に詳しいザレムに話しかける。
「子供にだけ見えるというのは、不自然だ。何がしかの封印が部屋に施されていると言う可能性は、あるか?」
「まあ、大いにあるだろう。外に出てこないのも、多分そのせいじゃないかな」
それらの見立てが正しいかどうかは、これからの調べによる。
だがその前に、準備というものが入り用だ。
●
「――というわけでだ、その封印がぱっと見で分かるところにあればいいのだが、どうもそうではないらしい。出入りしている当のあなたが気づかないのだからな。だから、少し家具を移動させたり、怪しいところの板や壁を剥がすくらいは許可していただきたいのだが……」
「か、壁を剥がすですって! そりゃ無茶ってもんですよ! 後で元通りにするのに、一体幾らかかると……」
アパート管理人は大二郎の説得になかなか応じようとしない。
ので、ハナが助太刀に出た。
「貴方が感じ取れないだけでぇ、多分この部屋何かいますぅ。ありそうなのは雑魔じゃないかと思いますぅ。放っておけば絶対借り手はつきませんしぃ、今後人死にの可能性も出てくると思いますぅ」
人死に、の言葉に動揺する管理人。そこをまた押す。
「ちょっとこの部屋での家探しと戦闘の許可を下さいぃ。そして見つけた子どもたちを褒めてあげて下さいねぇ」
連れてきたペットも目的のため利用する。
「ケンちゃんも福ちゃんも入るのいやがりますかぁ……あー、きっとやっぱり何かいますねぇ」
そうやって彼らが管理人への説得工作を続けている間、ザレムはご近所へ『修繕工事のお知らせ』と銘打ったチラシを配る。
それを終え戻ってきてから、子供たちにトランシーバーを渡す。
「これで連絡するからな。外から見ておかしい事が起きたら教えてくれ。頼んだぞ」
普段ほとんど手にすることのないアイテムを触らせてもらえた子供たちは、はしゃぎ回る。
「わっ、知ってるこれ知ってる! ハンターが持ってる奴!」
「ここのボタン押してさ、そしたら遠くにいる人と話が出来るんだよ!」
そんな彼らの背を、パトリシアとカチャが押して行く。
「危ないですカラ、管理人サンのトコで待っててくださいネー」
「どうしても見たいなら外からねー」
これで準備完了、一同部屋に乗り込む。
とその前に。念には念を入れて事前偵察。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法分身の術!」
手持ちの護符をかざし呪文を唱えるとあら不思議、ルンルンがもう1人。
「さあ行くのですルンルン2号!」
式は命令に従い、部屋に入って行った。
それが見たものは、使役者であるルンルンの目にも入ってくる。
「そんな!……この部屋には東方かぶれの落ち騎士の霊が憑いて……いると思ったのに、物の見事に空っぽです」
時々管理人が掃除しているだけのことはあって、室内はきれいに片付いている。怪しげなものは何もない。カーテンごしにだが、たっぷり日も差している。
……なのに色濃い陰鬱な空気。
「確かにとっても嫌な感じがするの……これ感じないなんて、大家さんおかしいのです」
一通り見回り、前住民の目ぼしい痕跡が残ってないことを確認してから、改めて皆で乗り込む。
例の窓のあるリビングに、人面犬が陣取っている。
スゥはある意味の感銘を受けた。これだけいいところがない顔も珍しい、と。
「うん、ぶさ……うん……うーん、表現し難い顔だね……スゥは人面犬はもう少し……普通の人の顔していると思ってたよ」
人面犬が黄色い歯を剥き出す。
『……ナニミテンダヨ……ミテンジャネエヨ!』
すごんだ揚げ句飛びかかってくる人面犬は、見えぬ壁にはじき返され床に落ちる。
痛かったのか一層怒り、口から火を吹く。それもまた見えぬ壁に弾かれ届かない。
『ムガアアアアア!!』
カールは試しに自分から人面犬に近づき手を伸ばしてみた――これだけくっきり見えているのに触れない。蜃気楼ででもあるかのように。
そこまで確かめた彼は、その旨を仲間に伝える。
ザレムは、ふむ、と顎に手を当てた。
「相当強力な結界らしいな。とくると、仕掛けもかなり大掛かりにしてあるはずだ。あやしそうなところはどんどん探ってみようぜ」
スゥが手を挙げ提案した。
「据え付けの家具は、先に出しておいた方がいいと思う。戦闘の邪魔になるし」
なるほどそれは一理ある。
●
「うーん……」
大二郎は唸った。
ルンルンによって豪快に剥がされた壁紙の下、武牙毘が捲った床板、ザレムが見つけた板壁の継ぎ直し箇所、ハナが脚立に上って調べた天井板――とにかく四方八方に、目玉の描かれた黒い護符が隙間なくびっしり貼ってある。
「これだけ仕込まれてたら、そりゃ入った人間は気分が悪くなるよネ……人面犬は、今ドコ?」
パトリシアの問いにカールは、窓際を指さした。
「あそこです」
「どんな感ジ?」
「……とにかく怒り狂っていますね」
となれば、結界を解いた途端戦闘状態に入るのは必至。もしかしたら逃げようともするかも。
一般市民に被害が及んでは大変だ。
「じゃあパティは、もしもに備えてカチャと外で待機しておくヨ。子供たちもいることダシ」
ルンルンも『もしも』に備え、部屋の周囲や窓の外に地縛符を貼っておく。
火の気が回ったら危なそうなダイニング前にはスゥが位置。
玄関先には武牙毘が控える。
窓の前には、ハナ。これでフォーメーション完成だ。
ザレムが言った。
「剥がすか」
護符が次々引っ剥がされる。
部屋の中にばちばちと、青い火花が走りだす。人面犬の姿が徐々に見えてきた。声も聞こえ始める。
『ミテンジャネエヨ……ブッコロスゾテメエ……コロス……!』
怨嗟の声を上げる相手に、大二郎は話しかけた。いつでも攻撃に移れるようワンドを掲げて。
「……見たところ、随分とお怒りの様に思えるが。何かあったのか?」
人面犬は目を血走らせツバを吐き散らす。
『キヤスクハナシカケンジャneeeeeee』
「黒い外套を着た男に見覚えは無いか? ここに住んでいたらしいのだが……行方を知っているかね?」
その話題によって怒りが増幅したらしい。全身の毛を逆立てる。
『アノヤロウコロス! オマエラモコロス! ドイツモコイツモブッコルス!』
興奮のあまりか台詞を噛む人面犬。
ザレムは火に油の挑発を投げかけた。
「醜悪な姿だな」
人面犬の口から、結界内にいたときとは比較にならない炎が噴き出す。
「うおっ!?」
盾を構えそれを防ぐザレム。大二郎は、すぐさまウォーターシュートを発動させる。
濡れ鼠になりいきりたつ人面犬は、大二郎に食いつこうとしたが、ザレムが前に回り阻止。電撃で行動を制しつつ、壁際に追い詰めようと試みる。
彼の意図を察した人面犬は全身をバネのように縮め跳躍し、盾を飛び越えた。
そのままむちゃくちゃに室内を駆け回り、辺りかまわず炎を噴く。
ハナは瑞鳥符を連発し、自分の側にそれがかかってくるのを防ぐ。
「あっつ! もうあっついですぅ!」
隙を見て玄関に走り込もうとする人面犬。
武牙毘がボディアッパーを食らわし、部屋の中へ押し戻す。スゥはカライドアックルを用い、ダイニングへの侵入を断固として阻止する。近づくことも許さない。
人面犬は切りつけられないように距離を保ちつつ、彼女の足元目がけ炎を噴いた。
床板についた火をあわてて踏み消す様を見て、大笑いする。
『ウヒャヒャヒャヒャヒャ』
それに味を占めたか、人より建物目がけ攻撃し始める。この歪虚顔も悪いが性格も悪い。
調子に乗っているそこへ、ハナの胡蝶符が炸裂した。
光に目が眩んだ弾みで、地縛符に足を突っ込む人面犬。
『ウオッ』
ルンルンは術を発動させた。
「期待してたのに……きしょい。子供達にそんな顔見せてたなんて、子供が可哀想です、私絶対許せません! ジュゲームリリカル…ルンルン忍法五星花!」
ハナも続けて同じ技を仕掛けた。
「逃がしませんよぉ、歪虚!」
二重の強烈な光に焼かれ、人面犬の体毛と髪の毛がボロボロ抜け落ちる。
ハナは耐え切れず吹き出した。
「ブッ」
人面犬は頭に来た。
『キタネエカオデニヤツクンジャネーヨイロボケBBA!』
暴言に窓の外から抗議が飛ぶ。
「ふわっ。世の中には言っていいーことと悪いことがあるヨー!」
カールが機導剣で人面犬の足を払い、裸の尻へ、思いきり雷鎚を打ち込む。
『アビャビャビャビャ!』
「その顔部分の皮膚を剥いだら骨格ってどうなってるんでしょうね」
怒りの火焔が吹き上がりリビングをなめ尽くす。
熱気の激しさで窓が割れた。
パトリシアは結界を張り、降ってくるガラスを弾く。
そこへ続けて、人面犬の頭部が落ちてきた。
ザレムが首を撥ねたのである。
『……ミテンジャネーヨ……』
最後までお定まりの台詞を吐きながら、人面犬は消滅した。
後に残るはあちこち焦げ跡が付き、ガラス窓が割れた部屋。
大二郎とザレムは、ぐるりと周囲を見回した。
「少々痛んだかな」
「掃除は……大家さんに頼むかな、これ」
そこに慌ただしい足音。
噂をすればというべきか管理人が入ってきた。
入ってくるなり彼は、頭を抱えた。
スゥは自信満々に言う。
「家具は全部無事だよ」
武牙毘は慰めをかけた。
「掃除や修理は手伝おう……」
ハナはベランダに出て、窓の下にいる子供たちへ呼びかける。
「人面犬は退治したよぉー。依頼してくれてありがとぉ。みんなでおやつ食べに行きましょぉ」
ルンルンもその話に乗った。
「お菓子食べに行きましょう☆」
もちろんおごりで――。
●
冬にうれしい肉まんアンマン、鯛焼きタコ焼き、おでん、フランクフルトにフライドポテト。人波でごったがえす屋台通りで、子供たちとハンターは買い食いを満喫している。
スゥは焼き立てのタイヤキを、はふはふ。
「あたたかいの美味しいね」
カールはふかふかのアンマンに舌鼓。
パトリシア、カチャ、ハナは子供たちと一緒に、あつあつのタコ焼きを頬張る。
「誰も怪我をしないうちに、解決できたのはみんなが教えてくれたおかげ。この街を救った『英雄』デス!」
「えへへ、ぼくたちえーゆーだって!」
「かっけー!」
「ハナさん、パティさん、ワサビマヨかけますぅ?」
「あ、ください」
「パティもっ。ふふふ、カチャとパティは、もう大人デスカラっ」
ところでそのタコヤキ代金を払っているのは、ザレムと大二郎だ。
「……子供たちはともかく、なんで他の分も俺たちが払ってんだ?」
「まあ、面白いものが見れた礼と思おうじゃないか」
心もとなそうに財布をのぞき込む2名。そんな彼らの袖を、ルンルンが引っ張った。
「次はあそこのパイ専門店に行きましょう! それからクレープとー、ワッフルとー、あ、チョコバナナもいいですねー」
財布は空になりそうだ。
思いながら武牙毘は、お腹を膨らませ舟をこぎ始めるスゥをおんぶしてやる。カップおでんの汁を味わいながら。
「人面ワ~ン、人面ワ~ン~、どんなメン~♪」
彼女の後ろを行くのは、武牙毘(ka6004)、ザレム・アズール(ka0878)、星野 ハナ(ka5852)。
「見間違いや狂言、という可能性はあまりないように思うな」
「ああ。何しろ小遣いはたいて依頼してきてるからな。狂言だったらそこまでしないだろう」
「遅刻しないために自分たちで依頼したのはすっごくえらいと思いますぅ。終わったらお姉ちゃんがご褒美にお茶を奢ってあげますよぅ」
久延毘 大二郎(ka1771)、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)。
「人の顔を持った犬が『見るんじゃない』と言葉を発している……成程、リアルブルーの我が国に存在する都市伝説そっくりだな」
「アパートに巣くう怪異の正体を暴き出し、お祓いしちゃいます! 恐らくこの一件……相当な高確率で東方かぶれな落ち騎士の霊が関与しています」
「ほう、その根拠は?」
「昔特番で見たのです。『竹やぶに巣くう人面犬! その正体は関が原の落ち武者だった!』っていう追跡リポートを。今回出現したのは、きっとその仲間に違いありません……!」
カール・フォルシアン(ka3702)とスゥ(ka4682)はこの場にいない。両者、先んじて現場へ向かったのである。
「直に見たことはないんですが、昔……母から聞いたことがあるような。なんでもニホン産の歪虚らしいですね。中年男性の顔をした犬で、人語を話すが口は悪い。脚がものすごく速い、でしたか」
カールの説明に耳を傾けたスゥは、頭の中に思い描く。人面犬の姿を。
「何だか楽しそうな生き物だね。早く見てみたい気がするな」
「実験生物説や、人間霊が犬に憑依した説、魔法生物の一種説。僕としても気になりますね。生物学的に」
あれこれ話しながら歩いているうち、件のアパートにたどり着く。
新築なのかリフォームなのか、外装は小ぎれい。日当たりも良好。怪奇現象など起きそうもない雰囲気だ。
「あっ、カールさんスゥさん、こっちですよこっちー!」
依頼人たちを引き連れ駆け寄ってきたカチャが、困りはてた調子で言う。
「あのですね、あの二階の右端の窓に、何か見えます? この子たちは見えるって言うんですけど……私にはさっぱり分からないんです」
スゥは件の窓を見上げた。
「……うん、見えるよ。カーテンの隙間から目だけ出してるよね」
彼女に続きカールも断言した。
「僕にもそう見えます」
「何だか口汚く罵ってきてるよね」
「はい――皆さん、それで間違いないですか?」
問われた子供たちは勢い込んで頷いた。やっと自分たち以外にも見える人が出てきたので、ほっとしたもようだ。
「ほらね、やっぱりいるんだよ!」
「ハンターが言うなら間違いないよね!」
そこに残りのメンバーがやってきた。
ルンルンは頼もしげな笑顔を浮かべ、子供たち相手に胸を張る。
「依頼をくれたのはあなたたち? 安心して、怪物は私達がやっつけてくるから。で、怪物は……ええと、どの窓にいるの?」
「あそこだよ」
「あの二階の右端」
「今もこっち見てるでしょ」
ルンルンは窓を見上げた。ザレムも大二郎も武牙毘もパトリシアも。しかし――何もいない。日に焼け色あせたカーテンがだらりと下がっているだけ。
念のためにとハナは、通行人に呼びかける。
「すみませーん、貴方はあの窓に何か見えますかぁ?」
その袖を子供の1人が引っ張った。
「おばちゃん、そんなことしてもむだだよ。おとなにはみえないんだから」
一瞬ハナは相手が依頼主であることを忘れる。きりきり眉が吊り上がった。
「……オバチャンじゃなくお姉さんとお言いですぅ!」
彼女の怒りはさておき――スゥとカールは仲間たちに、『自分たちには見えている』ということを告げる。
(やはり何かがいるのだ)
その確信を抱いた武牙毘は、魔術に詳しいザレムに話しかける。
「子供にだけ見えるというのは、不自然だ。何がしかの封印が部屋に施されていると言う可能性は、あるか?」
「まあ、大いにあるだろう。外に出てこないのも、多分そのせいじゃないかな」
それらの見立てが正しいかどうかは、これからの調べによる。
だがその前に、準備というものが入り用だ。
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「――というわけでだ、その封印がぱっと見で分かるところにあればいいのだが、どうもそうではないらしい。出入りしている当のあなたが気づかないのだからな。だから、少し家具を移動させたり、怪しいところの板や壁を剥がすくらいは許可していただきたいのだが……」
「か、壁を剥がすですって! そりゃ無茶ってもんですよ! 後で元通りにするのに、一体幾らかかると……」
アパート管理人は大二郎の説得になかなか応じようとしない。
ので、ハナが助太刀に出た。
「貴方が感じ取れないだけでぇ、多分この部屋何かいますぅ。ありそうなのは雑魔じゃないかと思いますぅ。放っておけば絶対借り手はつきませんしぃ、今後人死にの可能性も出てくると思いますぅ」
人死に、の言葉に動揺する管理人。そこをまた押す。
「ちょっとこの部屋での家探しと戦闘の許可を下さいぃ。そして見つけた子どもたちを褒めてあげて下さいねぇ」
連れてきたペットも目的のため利用する。
「ケンちゃんも福ちゃんも入るのいやがりますかぁ……あー、きっとやっぱり何かいますねぇ」
そうやって彼らが管理人への説得工作を続けている間、ザレムはご近所へ『修繕工事のお知らせ』と銘打ったチラシを配る。
それを終え戻ってきてから、子供たちにトランシーバーを渡す。
「これで連絡するからな。外から見ておかしい事が起きたら教えてくれ。頼んだぞ」
普段ほとんど手にすることのないアイテムを触らせてもらえた子供たちは、はしゃぎ回る。
「わっ、知ってるこれ知ってる! ハンターが持ってる奴!」
「ここのボタン押してさ、そしたら遠くにいる人と話が出来るんだよ!」
そんな彼らの背を、パトリシアとカチャが押して行く。
「危ないですカラ、管理人サンのトコで待っててくださいネー」
「どうしても見たいなら外からねー」
これで準備完了、一同部屋に乗り込む。
とその前に。念には念を入れて事前偵察。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法分身の術!」
手持ちの護符をかざし呪文を唱えるとあら不思議、ルンルンがもう1人。
「さあ行くのですルンルン2号!」
式は命令に従い、部屋に入って行った。
それが見たものは、使役者であるルンルンの目にも入ってくる。
「そんな!……この部屋には東方かぶれの落ち騎士の霊が憑いて……いると思ったのに、物の見事に空っぽです」
時々管理人が掃除しているだけのことはあって、室内はきれいに片付いている。怪しげなものは何もない。カーテンごしにだが、たっぷり日も差している。
……なのに色濃い陰鬱な空気。
「確かにとっても嫌な感じがするの……これ感じないなんて、大家さんおかしいのです」
一通り見回り、前住民の目ぼしい痕跡が残ってないことを確認してから、改めて皆で乗り込む。
例の窓のあるリビングに、人面犬が陣取っている。
スゥはある意味の感銘を受けた。これだけいいところがない顔も珍しい、と。
「うん、ぶさ……うん……うーん、表現し難い顔だね……スゥは人面犬はもう少し……普通の人の顔していると思ってたよ」
人面犬が黄色い歯を剥き出す。
『……ナニミテンダヨ……ミテンジャネエヨ!』
すごんだ揚げ句飛びかかってくる人面犬は、見えぬ壁にはじき返され床に落ちる。
痛かったのか一層怒り、口から火を吹く。それもまた見えぬ壁に弾かれ届かない。
『ムガアアアアア!!』
カールは試しに自分から人面犬に近づき手を伸ばしてみた――これだけくっきり見えているのに触れない。蜃気楼ででもあるかのように。
そこまで確かめた彼は、その旨を仲間に伝える。
ザレムは、ふむ、と顎に手を当てた。
「相当強力な結界らしいな。とくると、仕掛けもかなり大掛かりにしてあるはずだ。あやしそうなところはどんどん探ってみようぜ」
スゥが手を挙げ提案した。
「据え付けの家具は、先に出しておいた方がいいと思う。戦闘の邪魔になるし」
なるほどそれは一理ある。
●
「うーん……」
大二郎は唸った。
ルンルンによって豪快に剥がされた壁紙の下、武牙毘が捲った床板、ザレムが見つけた板壁の継ぎ直し箇所、ハナが脚立に上って調べた天井板――とにかく四方八方に、目玉の描かれた黒い護符が隙間なくびっしり貼ってある。
「これだけ仕込まれてたら、そりゃ入った人間は気分が悪くなるよネ……人面犬は、今ドコ?」
パトリシアの問いにカールは、窓際を指さした。
「あそこです」
「どんな感ジ?」
「……とにかく怒り狂っていますね」
となれば、結界を解いた途端戦闘状態に入るのは必至。もしかしたら逃げようともするかも。
一般市民に被害が及んでは大変だ。
「じゃあパティは、もしもに備えてカチャと外で待機しておくヨ。子供たちもいることダシ」
ルンルンも『もしも』に備え、部屋の周囲や窓の外に地縛符を貼っておく。
火の気が回ったら危なそうなダイニング前にはスゥが位置。
玄関先には武牙毘が控える。
窓の前には、ハナ。これでフォーメーション完成だ。
ザレムが言った。
「剥がすか」
護符が次々引っ剥がされる。
部屋の中にばちばちと、青い火花が走りだす。人面犬の姿が徐々に見えてきた。声も聞こえ始める。
『ミテンジャネエヨ……ブッコロスゾテメエ……コロス……!』
怨嗟の声を上げる相手に、大二郎は話しかけた。いつでも攻撃に移れるようワンドを掲げて。
「……見たところ、随分とお怒りの様に思えるが。何かあったのか?」
人面犬は目を血走らせツバを吐き散らす。
『キヤスクハナシカケンジャneeeeeee』
「黒い外套を着た男に見覚えは無いか? ここに住んでいたらしいのだが……行方を知っているかね?」
その話題によって怒りが増幅したらしい。全身の毛を逆立てる。
『アノヤロウコロス! オマエラモコロス! ドイツモコイツモブッコルス!』
興奮のあまりか台詞を噛む人面犬。
ザレムは火に油の挑発を投げかけた。
「醜悪な姿だな」
人面犬の口から、結界内にいたときとは比較にならない炎が噴き出す。
「うおっ!?」
盾を構えそれを防ぐザレム。大二郎は、すぐさまウォーターシュートを発動させる。
濡れ鼠になりいきりたつ人面犬は、大二郎に食いつこうとしたが、ザレムが前に回り阻止。電撃で行動を制しつつ、壁際に追い詰めようと試みる。
彼の意図を察した人面犬は全身をバネのように縮め跳躍し、盾を飛び越えた。
そのままむちゃくちゃに室内を駆け回り、辺りかまわず炎を噴く。
ハナは瑞鳥符を連発し、自分の側にそれがかかってくるのを防ぐ。
「あっつ! もうあっついですぅ!」
隙を見て玄関に走り込もうとする人面犬。
武牙毘がボディアッパーを食らわし、部屋の中へ押し戻す。スゥはカライドアックルを用い、ダイニングへの侵入を断固として阻止する。近づくことも許さない。
人面犬は切りつけられないように距離を保ちつつ、彼女の足元目がけ炎を噴いた。
床板についた火をあわてて踏み消す様を見て、大笑いする。
『ウヒャヒャヒャヒャヒャ』
それに味を占めたか、人より建物目がけ攻撃し始める。この歪虚顔も悪いが性格も悪い。
調子に乗っているそこへ、ハナの胡蝶符が炸裂した。
光に目が眩んだ弾みで、地縛符に足を突っ込む人面犬。
『ウオッ』
ルンルンは術を発動させた。
「期待してたのに……きしょい。子供達にそんな顔見せてたなんて、子供が可哀想です、私絶対許せません! ジュゲームリリカル…ルンルン忍法五星花!」
ハナも続けて同じ技を仕掛けた。
「逃がしませんよぉ、歪虚!」
二重の強烈な光に焼かれ、人面犬の体毛と髪の毛がボロボロ抜け落ちる。
ハナは耐え切れず吹き出した。
「ブッ」
人面犬は頭に来た。
『キタネエカオデニヤツクンジャネーヨイロボケBBA!』
暴言に窓の外から抗議が飛ぶ。
「ふわっ。世の中には言っていいーことと悪いことがあるヨー!」
カールが機導剣で人面犬の足を払い、裸の尻へ、思いきり雷鎚を打ち込む。
『アビャビャビャビャ!』
「その顔部分の皮膚を剥いだら骨格ってどうなってるんでしょうね」
怒りの火焔が吹き上がりリビングをなめ尽くす。
熱気の激しさで窓が割れた。
パトリシアは結界を張り、降ってくるガラスを弾く。
そこへ続けて、人面犬の頭部が落ちてきた。
ザレムが首を撥ねたのである。
『……ミテンジャネーヨ……』
最後までお定まりの台詞を吐きながら、人面犬は消滅した。
後に残るはあちこち焦げ跡が付き、ガラス窓が割れた部屋。
大二郎とザレムは、ぐるりと周囲を見回した。
「少々痛んだかな」
「掃除は……大家さんに頼むかな、これ」
そこに慌ただしい足音。
噂をすればというべきか管理人が入ってきた。
入ってくるなり彼は、頭を抱えた。
スゥは自信満々に言う。
「家具は全部無事だよ」
武牙毘は慰めをかけた。
「掃除や修理は手伝おう……」
ハナはベランダに出て、窓の下にいる子供たちへ呼びかける。
「人面犬は退治したよぉー。依頼してくれてありがとぉ。みんなでおやつ食べに行きましょぉ」
ルンルンもその話に乗った。
「お菓子食べに行きましょう☆」
もちろんおごりで――。
●
冬にうれしい肉まんアンマン、鯛焼きタコ焼き、おでん、フランクフルトにフライドポテト。人波でごったがえす屋台通りで、子供たちとハンターは買い食いを満喫している。
スゥは焼き立てのタイヤキを、はふはふ。
「あたたかいの美味しいね」
カールはふかふかのアンマンに舌鼓。
パトリシア、カチャ、ハナは子供たちと一緒に、あつあつのタコ焼きを頬張る。
「誰も怪我をしないうちに、解決できたのはみんなが教えてくれたおかげ。この街を救った『英雄』デス!」
「えへへ、ぼくたちえーゆーだって!」
「かっけー!」
「ハナさん、パティさん、ワサビマヨかけますぅ?」
「あ、ください」
「パティもっ。ふふふ、カチャとパティは、もう大人デスカラっ」
ところでそのタコヤキ代金を払っているのは、ザレムと大二郎だ。
「……子供たちはともかく、なんで他の分も俺たちが払ってんだ?」
「まあ、面白いものが見れた礼と思おうじゃないか」
心もとなそうに財布をのぞき込む2名。そんな彼らの袖を、ルンルンが引っ張った。
「次はあそこのパイ専門店に行きましょう! それからクレープとー、ワッフルとー、あ、チョコバナナもいいですねー」
財布は空になりそうだ。
思いながら武牙毘は、お腹を膨らませ舟をこぎ始めるスゥをおんぶしてやる。カップおでんの汁を味わいながら。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/22 17:06:02 |
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緊急特番・人面犬はそこにいた! 武牙毘(ka6004) 鬼|26才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/01/24 20:51:33 |