ゲスト
(ka0000)
この日何の日?
マスター:石田まきば

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/08/16 15:00
- 完成日
- 2014/08/19 20:46
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●珍しく二人
「フクカン君、ちょっといいかい?」
場所はいつものAPVの一角、シャイネ・エルフハイム(kz0010)はフクカン(kz0035)を手招きして、人気が少ないところに呼び込もうとしていた。
ここのところ同盟領の方で歪虚達が暴れているし、そのための討伐作戦やら輸送の手伝いやらで、多くのハンター達が出払っている。人気はいつもより少ない方だというのに、念を入れているところがなんだか不自然だ。
だからうーんと首をかしげて、とりあえず聞いてみることにする。
「どうしたんですか? 珍しいですね」
「ちょっと、ここでは話しづらいというか……まだ決まっていないことだからね」
シャイネは基本オープンな生き方をしていると思っているフクカンである。首をかしげはするものの、答えが出てくるはずもない。結局、素直についていった。
「……ここで大丈夫かな」
周囲を警戒し、小さく頷いて。納得した様子のシャイネが振り返ってフクカンに視線を合わせた。
「手伝ってほしいことがあるんだ」
場所を確保してほしいんだ、と微笑む。
ここまでして手伝わせたいことって何だろう? 再び首をかしげるフクカンに、シャイネは言葉を続けた。
「8月16日に、APVの一室を貸し切れないかな? ……君の権限で、秘密裏に」
「どうしてですか?」
秘密裏に、という言葉に先に反応して、咄嗟に尋ねる。
(……あ、でもその日って)
しかし、すぐに理由に思い至った。その大事な日を忘れるなんてことは、フクカンにとって有り得ないことなのだから。
(タングラム様の誕生日!)
その日はタングラム(kz0016)に無理やりにでも休みを取ってもらって、自分も休みを取って、いつも以上に至れり尽くせりお世話をしようと毎年趣向を凝らして準備をしているのだが……気が付くととったはずの休みは『自分だけ』なかったことにされている。
それはそれでクールなタングラム様もかっこいいけれど……じゃなかった。
「シャイネさん、タングラム様と二人きりになるつもりですかっ!?」
くわっ! と食って掛かろうとするけれど、あっさりと避けられる。
「ふふ、まだ何も言ってないよ? ……ともかく落ち着いて、フクカン君」
ほんの少しだけ有利なリーチを生かして、フクカンの肩を抑えるシャイネ。
「APVなら、勤務中の君も参加できるだろう?」
誰も二人きりなんて言ってないよとの言葉で、フクカンも正気に戻る。
「シャイネさん、私のことも考えてくれてるんですね……!」
きらきら。きらきら。
「うん、そうだね」
そういう事にしておこうか。なんて余計なことは口には出さないシャイネである。
●作戦会議
「でも、どうしてまた? ……まさかシャイネさんもタングラム様をっ!?」
「それはないね♪」
にこにこ笑顔が逆に怖い。
「……すみません」
「わかってくれたならよかった♪ この前、誕生日を祝ってもらったからね、お返しをしようと思って♪」
【AN】作戦の代理で二回も担ぎ出された件である。特に一度目は、不快感がひどくて随分と辛かったとシャイネは記憶している。
「二回も祝ってもらえて羨ましいです」
フクカンだったら喜びそうではあるけれど。
ちなみにフクカンは、その二回ともがタングラムの『善意』だと信じている。シャイネの持ち込んだこの話も『善意』だと思っているはずだ。
「そうだね、二回も祝われたんじゃ、お返しをしないわけにはいかないだろう? せっかくなら特別な感じにしたいじゃないか」
「わかります!」
「そこで、君やハンターに手伝ってもらおうかと思ってね。君と僕だけより、盛大にできるって思わないかい?」
「はいっ、素敵です!」
きらきら、きらきら。
「だから、部屋の確保と、参加してくれそうなハンターに募集をかけるのを手伝ってほしいんだ」
断られることはないだろうけれど。フクカンの言葉を挟ませずにシャイネは言い切った。
「タングラム君にばれないように準備をするために、君の力が必要なんだ」
「わかりました、お任せください!」
●表向きの依頼『歌を愛する友の会』と、裏の真実
「どんな募集にしますか?」
「とりあえず、僕を依頼人にしておいてもらえれば……詳しい話は、僕が直接伝えられるだろうし」
「詳細についてはAPV所属のシャイネ・エルフハイムまで……っと。これでいいですね」
書類にサラサラと書きつけていくフクカン。
「そうだ、お茶菓子を用意するためという理由で、キッチンも借りられるように手配もよろしくね♪」
「もちろんです、腕によりをかけてケーキを作りますね!」
「それはいい考えだね♪」
にこにこと話すエルフ二人。どちらも、タングラムの反応を楽しみにしているのであった。
「君も参加希望? ……ふふ、それじゃあ、ここから先は秘密の話だよ?
今度、APVでタングラム君の誕生日を祝おうと思うんだけど、是非、君にも案を出してほしいんだ。
タングラム君の誕生日に、彼女の驚いた顔を見てみたくないかい?
ちょっとくらいなら強引な手口でも構わないよ。借り切った部屋の中で済むことならね♪」
「フクカン君、ちょっといいかい?」
場所はいつものAPVの一角、シャイネ・エルフハイム(kz0010)はフクカン(kz0035)を手招きして、人気が少ないところに呼び込もうとしていた。
ここのところ同盟領の方で歪虚達が暴れているし、そのための討伐作戦やら輸送の手伝いやらで、多くのハンター達が出払っている。人気はいつもより少ない方だというのに、念を入れているところがなんだか不自然だ。
だからうーんと首をかしげて、とりあえず聞いてみることにする。
「どうしたんですか? 珍しいですね」
「ちょっと、ここでは話しづらいというか……まだ決まっていないことだからね」
シャイネは基本オープンな生き方をしていると思っているフクカンである。首をかしげはするものの、答えが出てくるはずもない。結局、素直についていった。
「……ここで大丈夫かな」
周囲を警戒し、小さく頷いて。納得した様子のシャイネが振り返ってフクカンに視線を合わせた。
「手伝ってほしいことがあるんだ」
場所を確保してほしいんだ、と微笑む。
ここまでして手伝わせたいことって何だろう? 再び首をかしげるフクカンに、シャイネは言葉を続けた。
「8月16日に、APVの一室を貸し切れないかな? ……君の権限で、秘密裏に」
「どうしてですか?」
秘密裏に、という言葉に先に反応して、咄嗟に尋ねる。
(……あ、でもその日って)
しかし、すぐに理由に思い至った。その大事な日を忘れるなんてことは、フクカンにとって有り得ないことなのだから。
(タングラム様の誕生日!)
その日はタングラム(kz0016)に無理やりにでも休みを取ってもらって、自分も休みを取って、いつも以上に至れり尽くせりお世話をしようと毎年趣向を凝らして準備をしているのだが……気が付くととったはずの休みは『自分だけ』なかったことにされている。
それはそれでクールなタングラム様もかっこいいけれど……じゃなかった。
「シャイネさん、タングラム様と二人きりになるつもりですかっ!?」
くわっ! と食って掛かろうとするけれど、あっさりと避けられる。
「ふふ、まだ何も言ってないよ? ……ともかく落ち着いて、フクカン君」
ほんの少しだけ有利なリーチを生かして、フクカンの肩を抑えるシャイネ。
「APVなら、勤務中の君も参加できるだろう?」
誰も二人きりなんて言ってないよとの言葉で、フクカンも正気に戻る。
「シャイネさん、私のことも考えてくれてるんですね……!」
きらきら。きらきら。
「うん、そうだね」
そういう事にしておこうか。なんて余計なことは口には出さないシャイネである。
●作戦会議
「でも、どうしてまた? ……まさかシャイネさんもタングラム様をっ!?」
「それはないね♪」
にこにこ笑顔が逆に怖い。
「……すみません」
「わかってくれたならよかった♪ この前、誕生日を祝ってもらったからね、お返しをしようと思って♪」
【AN】作戦の代理で二回も担ぎ出された件である。特に一度目は、不快感がひどくて随分と辛かったとシャイネは記憶している。
「二回も祝ってもらえて羨ましいです」
フクカンだったら喜びそうではあるけれど。
ちなみにフクカンは、その二回ともがタングラムの『善意』だと信じている。シャイネの持ち込んだこの話も『善意』だと思っているはずだ。
「そうだね、二回も祝われたんじゃ、お返しをしないわけにはいかないだろう? せっかくなら特別な感じにしたいじゃないか」
「わかります!」
「そこで、君やハンターに手伝ってもらおうかと思ってね。君と僕だけより、盛大にできるって思わないかい?」
「はいっ、素敵です!」
きらきら、きらきら。
「だから、部屋の確保と、参加してくれそうなハンターに募集をかけるのを手伝ってほしいんだ」
断られることはないだろうけれど。フクカンの言葉を挟ませずにシャイネは言い切った。
「タングラム君にばれないように準備をするために、君の力が必要なんだ」
「わかりました、お任せください!」
●表向きの依頼『歌を愛する友の会』と、裏の真実
「どんな募集にしますか?」
「とりあえず、僕を依頼人にしておいてもらえれば……詳しい話は、僕が直接伝えられるだろうし」
「詳細についてはAPV所属のシャイネ・エルフハイムまで……っと。これでいいですね」
書類にサラサラと書きつけていくフクカン。
「そうだ、お茶菓子を用意するためという理由で、キッチンも借りられるように手配もよろしくね♪」
「もちろんです、腕によりをかけてケーキを作りますね!」
「それはいい考えだね♪」
にこにこと話すエルフ二人。どちらも、タングラムの反応を楽しみにしているのであった。
「君も参加希望? ……ふふ、それじゃあ、ここから先は秘密の話だよ?
今度、APVでタングラム君の誕生日を祝おうと思うんだけど、是非、君にも案を出してほしいんだ。
タングラム君の誕生日に、彼女の驚いた顔を見てみたくないかい?
ちょっとくらいなら強引な手口でも構わないよ。借り切った部屋の中で済むことならね♪」
リプレイ本文
●お祝いしよう♪
事前にAPVに顔を出していた鳴神 真吾(ka2626)は、色紙とカメラを手にこの日を迎えた。
(ヒーローを演じる俺が、誰かを不快にさせるなんて駄目だよな)
依頼人であるシャイネ・エルフハイム(kz0010)も満足させつつ、タングラム(kz0016)の姉ちゃんの照れ顔が取れたら最高だ。
(誰だあれ? ……ま、関係ねぇか)
フクカン(kz0035)とシャイネを見てもピンと来ないマルク・D・デメテール(ka0219)だが、タングラムとは面識がある。実力を認めているから純粋に祝福目当てでもあるが、あの仮面の下が崩れるというなら面白い。
「一年に一回の祝い事なんだ。せいぜい楽しませてやろうじゃねぇか、お忙しいユニオンリーダー様によ」
「普段は使ってないのかな、埃っぽいや」
部屋を見渡し息をつく。食べたり飲んだりもするから少しでも綺麗な方がいい。用具入れにあった道具で、クロード・インベルク(ka1506)は簡単に片付けることにした。
「えっ、お誕生日会?! ハンターっていろんなお仕事があるんだね! うん、タングラムさんに喜んでもらえるように、あたしも頑張るっ!」
シアーシャ(ka2507)はシャイネの善意を信じていた。
(シャイネさんって、優しい人なんだなぁ……。ハンターを雇ってまでお祝いしようだなんて。歪虚討伐での疲れを気遣って……?)
シャイネをちらりと盗み見る。一度そう思ったら、シャイネの言動全てがいい人に見えてくるから不思議だ。
「どうかしたのかい?」
目が合って、ニコッと微笑まれた。
「ハッ!」
途端に閃く。
(もしや、シャイネさんはタングラムさんのことを……?)
先輩ハンターでもあるタングラムさんをさりげなく気遣ったりとか、前もお仕事を手伝ったって聞いているし。そうだよね、そうに違いないよね!
(キャーッ、やだー、そういうことだったのー!!)
シアーシャの中に一つの答えが浮かび上がった。
「あたし、応援しますからっ、任せてくださいね!」
「えっ? ありがとう……?」
恋の話に盛り上がる乙女はもう一人。
(チャンス到来なのです♪)
誕生日会と聞いたときに立花 沙希(ka0168)に浮かんだのはこの一言。タングラムと言えばAPVの顔役として知られているが、フクカンの想い人でもあるからだ。
(いい雰囲気になれば、二人の関係もぐっと近づくはずですよね♪)
●仕上げは?
ガラクタを片付けながら、クロードは誕生日に思いを馳せる。
(誕生日かぁ……喜んで貰いたいよね)
年を取る日というと、女性としては複雑なのかもしれないけれど。やっぱり生まれた日というのは年に一回、特別なお祝いの日だと思う。
(良い日になるよう、精一杯頑張ろう)
人数が増えるという話もあるから、まずはこの部屋を広く使えるようにしなくては。
「それにしても、変わった物ばかりだな」
頼んで用意してもらった空き箱に、壊さないように注意しながらも詰めていく。
「沙希さん、この箱はどこにする?」
箱も飾りの台になるからと、置く位置も相談して決めるのだ。
(目立たないように置くんじゃなくて、飾りに使うのは思いつかなかったや)
リアルブルーの知識なのかなとぼんやりと思った。
『お誕生日おめでとう』の文字を大きく書いた垂れ幕は、勿論部屋に入ってすぐ目に付く場所に飾るに限る。うん、と一つ頷いて、垂れ幕の位置をチェックし終えた沙希は次の作業に取り掛かった。
(お花は定番ですから外せませんね♪)
テーブルに白い布を被せれば、目新しさが増して部屋の雰囲気も一新される。クロードが端に寄せたガラクタにも同じように白い布を被せて、その上には花瓶に生けた花。白い塊にしか見えなかった場所も、華やかに見える。テーブルとしては使えなくても、飾り付けにはもってこいだ。
飾るのは得意じゃないからと、マルクは人手を集めにユニオン回りに専念していた。
「ちと、お前さん達の耳に入れておきたい事があってな……?」
気づかれない様慎重に、けれど話は大胆に。注意は払いすぎなくらいで丁度だ、なんといっても相手はあのタングラムだから。
人は多い方がいい。騒ぐだけでも弄るだけでも、顔を出すだけでも構わないからと主賓を祝う意思のある協力者を募る。勿論参加者だけではない。都合がつかない場合でも、料理などの準備や運び込む際の口裏合わせ、もし聞かれても気付かないふり等根まわしておきたいことは多い。
「誕生日……生まれた日の事……?」
自分の生まれた日を知らない、だから誕生日もよくわからない。仕事の話を聞いたときそう話したnil(ka2654)に、シャイネは小さく微笑んで答えていた。
「なら、是非参加するといいよ。自分の誕生日ではなくても、皆で楽しめるのが誕生日のお祝いだからね♪」
だからnilは勧められるままAPVにやってきた。
(皆でお祝いするもの……なのね……)
何をすればいいのか迷う様子に気づいたシアーシャの誘いに乗って、クッキーをつくる手伝いをしたり、部屋を飾る手伝いをしたりと過ごす。
見様見真似でもできることはある。いくつもの材料を組み合わせて、新しい何かができる。初めての事ならなおさら興味深くうつるものだ。
「タングラムが、喜べば良いのかな……?」
また一つクッキーの形を仕上げて、ぽつりと問うてみる。
「そう思ってれば、きっと喜んでもらえるよ!」
その上で、自分も楽しめればもっといいよね!
「皆さん遅くなってすみませんでした!」
フクカンが部屋に飛び込んでくる。部屋を見回すフクカンの視界に、ちょいちょいっと手招きする沙希。
「これは私からですよ♪」
「え、えっ? なんですかっ?」
くるくると体に巻き付けられて慌てるフクカンだが、沙希の動きは止まらない。仕上がりを確認して満足の笑みを浮かべてから、フクカンにそっと耳打ちした。
「……ってやるのです♪」
「是非やりましょう!」
それまでの戸惑いはすっかり消えて、フクカンはやる気いっぱいの目をきらきらさせた。
「はじめまして! 実はあたし、タングラムさんに憧れてて……。タングラムさんみたくカッコよくなりたくて。ちょっと相談に乗ってもらえませんかっ?」
元気よく、そして勢いもよく話しかけてくるシアーシャにタングラムが一瞬のまれる。その隙を狙っていたかのようにシアーシャがタングラムの手を引き会場へと誘っていく。それは計算のないまっすぐすぎる行動ゆえで、タングラムにも読めなかったようである。
「こっちです!」
「そこはシャイネが怪しい集まりをしてる部屋じゃねーですか」
「さあっ、先に入ってください!」
タングラムの抗議も気にせず、背をぐいぐい押して扉の前に向かわせる。
「しょーがないですね」
ガチャッ
「って真っ暗じゃね-ですか!」
パァーン!
クラッカーとくす玉の音と共に、消えていた部屋の明かりが灯された。
「「「お誕生日おめでとう!」」」
「お、おぅ……で、ソレは一体なんなんですか」
「誕生日のプレゼントはフクカンさんです♪」
タングラムの言及に、沙希が待ってましたとばかりにフクカンの背を押した。
「タングラム様ぁー!」
「わ、わわっ!?」
リボンで可愛らしくラッピングされたフクカンが、バランスを崩した勢いそのままにタングラムに迫る!
タングラムは回避した!
フクカンはすっころんだ!
「あれっ、おかしいですね?」
予想と違う反応に首をかしげつつも、沙希はフクカンを助け起こすのに手を貸した。
●どんな顔かな?
並んだ料理を見回していたタングラムが一点に目を留めた。
「面白い形なのですね……ってしょっぱぁ!?」
「nilさんとあたしで作ったんです、うまくできたと思うんですけどどうですか?」
「……タングラム、嬉しい?」
まっすぐ見つめて尋ねてくるnilと、にこにこと尋ねるシアーシャの作った『タングラムの仮面型クッキー』は砂糖ではなく塩が使われているトラップ食品。作ったのがフクカンならビンタものだが彼女たちに悪意はないわけで。裏表もないからこそ、タングラムが折れた。
「よっ……よく似せてると思うのですよ」
「お酒もあるじゃねーですか」
並べられた酒瓶の数々に、タングラムの目が輝く。その卓に近寄ったマルクは、持参の瓶を差し出した。
「安酒で悪いが、受け取ってくれや。まぁ前回の礼ってやつも兼ねてな」
「値段の問題ではないですよ。お酒の価値は飲み方で決まるともいうのです」
マルクさえよければ皆で楽しく飲む分として使うとの言葉に鼻をならして答えた。
「ふん、それはもうタングラム嬢のもんだ。受け取ったあんたが好きに使えばいい」
沙希も用意していたプレゼントのぬいぐるみを手渡す。招き猫を可愛らしくデフォルメした逸品だ。なんとなく幸運グッズっぽかった。
「あ、あのっタングラム様! ケーキを作ったので是非食べてくださ……って、えぇー!?」
フクカンお手製のケーキの上には、でかでかと『シャイネ (はぁと) タングラム』の相合傘。チョコレートソースで直接なので剥がすこともできない。
「シャイネさん!? 違うって言っていたじゃないですかあ!? 僕のケーキに……ケーキに……っ!」
「シャイネさん、今ですっ。さあ、早く告白を……!」
書いた犯人、シアーシャがシャイネを急かす。その言葉で事情を察するシャイネ。
「おや? ……ふふ、それじゃあタングラム君に詩を捧げよう♪」
訂正しないほうが面白いと踏んだらしい。
たんたんたたーんタングラム♪
年に一度の誕生日♪
夏の暑さに負けないくらい♪
僕らの心を伝えよう♪
たんたんたたーんタングラム♪
仮面の下の照れた顔♪
僕らに見せてくれないか♪
皆の中心タングラム♪
ちょっと恥ずかしいリズムだが、真吾達有志が率先して声を合わせていく。人数が増え繰り返していくにつれ、妙に癖のあるリズムが面白いと思ってしまうような気がするが、多分パーティという環境のせいだ。
けれど勢いには効果があった。ほんの少しタングラムが場に飲まれた瞬間を、真吾がカメラに収める。大音量のおかげでシャッター音も紛れた。
そのまま余興の時間になって、即席のスペースで芸を披露する者が現れ始める。
「ほら、カードが移動してるでしょう?」
楽しませるためでもあり、気を引くためでもあり。そのうちの一人として手品を披露するクロードの視界の隅に、タングラムへのプレゼントを支度しようと動き出す者が見えはじめた。
(僕のプレゼントは、この手品かな)
少しでも多く、ひとりでも多く楽しい気分になってもらえたら。タングラムの誕生日だけれど、参加した人も皆楽しめたらいいと思うのだ。
「タングラムさん、少しお時間いいですか?」
余興の合間に沙希がタングラムを誘い出す。戻ってきたタングラムは一変していた。
「皆さんどうですか♪ リアルブルーに伝わる夏の衣装、浴衣です♪」
白地に色とりどりの水風船が描かれた浴衣に、紺の帯。何時もはおろしている髪も高い位置になるように沙希が結い上げた。
おぉー、馬子にも衣裳!
「私は可愛い乙女ですよ?」
「タングラム様のうなじがっ! ハァハァ……」
フクカン、まさに大喜びである。
「タングラムさんもてもて~♪」
シアーシャもはやし立てた。
クロードの仕掛けたくす玉には造花やリボンも使われていた。今、その時のリボンがタングラムの髪を飾っている。
(うん、女の子……だよね)
エルフの年齢はわかりづらいというけれど、少なくとも外見はクロードより年下だ。
一番の仕込みともいえるだろう、真吾の用意したプレゼントは色紙。
APVに所属するハンター達に募って仕上げた寄せ書きである。袋に入れて、リボンもかけたそれをタングラムに差し出す。
『おめでとう。……何歳になったの?』
『死なれたら色々面倒そうだから長生きしなよ』
『この一年もまた、よろしく頼む』
『ダイエットが上手く行くことを願っています』
『ゼナイドさんとも仲良くなれるよう祈ってます』
『これからもがんばれよ』
「何ですかこの下げて下げて上げるみたいな並びはァ!?」
祝っているのか弄っているのか。タングラムに向けての率直な言葉が並んでいる。正面から見直したくない言葉と、嬉しい言葉が並んでいる寄せ書き。もてあましたいけれど、自分に贈られたものだからどうにもできないあきらめに似た何か。
「みな遠慮がないっていうか慕われてんな」
タングラムの様子に柔らかく笑って、いいことじゃないか、と真吾は思う。
「そんなあんたに何かありゃ皆も心配するだろうし、身体は大事にしてくれよ?」
「年寄り扱いとか失礼なのですね! まあ、飾らなくてもいいってんならもらっておいてあげるのですよ」
捨てずに持っていてくれるということだ。
「お、その表情いただき!」
タングラムの頬に朱が走ったのを見て、すかさずカメラのシャッターを切る真吾。
「なんですかそれは!?」
「照れ顔確保だな、これでいいだろう、シャイネ?」
隣に来ていたシャイネに確認をとる。
「うん、十分面白いものが見れたよね♪」
「タングラム様の照れ顔ですって!?」
すかさず食いつくフクカン。
「おめーは黙っ……」
「勿論、全部フクカン君のためだよ♪」
タングラムを遮ってフクカンとの関係修復に最大限利用するシャイネに、心の中で呆れた者もいたようである。
(ほんと、慕われてるのな)
ツッコミやら照れるやらで忙しくしているタングラムを眺める。普段はだらけているとも聞いているが、今日この場においてはそんな様子は見られない。服装や、パーティという状況が見せているのかもしれないが。
(面白いねえ)
「ところでタングラム嬢? お前さん、今回で何歳になったんだ?」
「これはてめーですかマルク!?」
「俺は書いてない。ってことはだ、みーんな気になってるんだろうよ」
してやったりの顔で見返せば、ギリリと悔しげな顔が見れた気がした。
「……何だかフクカンが喜ぶのがメインな気がするのは気の所為……?」
小さく首をかしげるnil。けれど周りの皆も笑っている様子に、違うのかもしれないと考えを改めようとしてみる。
(……フクカンの方が、嬉しそうで楽しそう)
結果として一番いい思いをしたのがフクカンなのは間違いない。けれど周りの空気は明るいことに気づく。
(……でも、皆も楽しそう)
「君も楽しめているかい?」
「シャイネ……これが、誕生日、なのね……」
空気がきらきらしてるのはわかる気がするとの答えに頷いて。シャイネは詩を書き留めるのだった。
この日のタングラムの写真はしばらくAPVに飾られた後、照れ顔の一枚はフクカン、歌に飲まれかけた顔の一枚はシャイネの所有物になったようである。
邪魔をしたいはずのタングラムが大人しかった理由は、シャイネとの間にあった『貸し』が働いたからのようだ。
事前にAPVに顔を出していた鳴神 真吾(ka2626)は、色紙とカメラを手にこの日を迎えた。
(ヒーローを演じる俺が、誰かを不快にさせるなんて駄目だよな)
依頼人であるシャイネ・エルフハイム(kz0010)も満足させつつ、タングラム(kz0016)の姉ちゃんの照れ顔が取れたら最高だ。
(誰だあれ? ……ま、関係ねぇか)
フクカン(kz0035)とシャイネを見てもピンと来ないマルク・D・デメテール(ka0219)だが、タングラムとは面識がある。実力を認めているから純粋に祝福目当てでもあるが、あの仮面の下が崩れるというなら面白い。
「一年に一回の祝い事なんだ。せいぜい楽しませてやろうじゃねぇか、お忙しいユニオンリーダー様によ」
「普段は使ってないのかな、埃っぽいや」
部屋を見渡し息をつく。食べたり飲んだりもするから少しでも綺麗な方がいい。用具入れにあった道具で、クロード・インベルク(ka1506)は簡単に片付けることにした。
「えっ、お誕生日会?! ハンターっていろんなお仕事があるんだね! うん、タングラムさんに喜んでもらえるように、あたしも頑張るっ!」
シアーシャ(ka2507)はシャイネの善意を信じていた。
(シャイネさんって、優しい人なんだなぁ……。ハンターを雇ってまでお祝いしようだなんて。歪虚討伐での疲れを気遣って……?)
シャイネをちらりと盗み見る。一度そう思ったら、シャイネの言動全てがいい人に見えてくるから不思議だ。
「どうかしたのかい?」
目が合って、ニコッと微笑まれた。
「ハッ!」
途端に閃く。
(もしや、シャイネさんはタングラムさんのことを……?)
先輩ハンターでもあるタングラムさんをさりげなく気遣ったりとか、前もお仕事を手伝ったって聞いているし。そうだよね、そうに違いないよね!
(キャーッ、やだー、そういうことだったのー!!)
シアーシャの中に一つの答えが浮かび上がった。
「あたし、応援しますからっ、任せてくださいね!」
「えっ? ありがとう……?」
恋の話に盛り上がる乙女はもう一人。
(チャンス到来なのです♪)
誕生日会と聞いたときに立花 沙希(ka0168)に浮かんだのはこの一言。タングラムと言えばAPVの顔役として知られているが、フクカンの想い人でもあるからだ。
(いい雰囲気になれば、二人の関係もぐっと近づくはずですよね♪)
●仕上げは?
ガラクタを片付けながら、クロードは誕生日に思いを馳せる。
(誕生日かぁ……喜んで貰いたいよね)
年を取る日というと、女性としては複雑なのかもしれないけれど。やっぱり生まれた日というのは年に一回、特別なお祝いの日だと思う。
(良い日になるよう、精一杯頑張ろう)
人数が増えるという話もあるから、まずはこの部屋を広く使えるようにしなくては。
「それにしても、変わった物ばかりだな」
頼んで用意してもらった空き箱に、壊さないように注意しながらも詰めていく。
「沙希さん、この箱はどこにする?」
箱も飾りの台になるからと、置く位置も相談して決めるのだ。
(目立たないように置くんじゃなくて、飾りに使うのは思いつかなかったや)
リアルブルーの知識なのかなとぼんやりと思った。
『お誕生日おめでとう』の文字を大きく書いた垂れ幕は、勿論部屋に入ってすぐ目に付く場所に飾るに限る。うん、と一つ頷いて、垂れ幕の位置をチェックし終えた沙希は次の作業に取り掛かった。
(お花は定番ですから外せませんね♪)
テーブルに白い布を被せれば、目新しさが増して部屋の雰囲気も一新される。クロードが端に寄せたガラクタにも同じように白い布を被せて、その上には花瓶に生けた花。白い塊にしか見えなかった場所も、華やかに見える。テーブルとしては使えなくても、飾り付けにはもってこいだ。
飾るのは得意じゃないからと、マルクは人手を集めにユニオン回りに専念していた。
「ちと、お前さん達の耳に入れておきたい事があってな……?」
気づかれない様慎重に、けれど話は大胆に。注意は払いすぎなくらいで丁度だ、なんといっても相手はあのタングラムだから。
人は多い方がいい。騒ぐだけでも弄るだけでも、顔を出すだけでも構わないからと主賓を祝う意思のある協力者を募る。勿論参加者だけではない。都合がつかない場合でも、料理などの準備や運び込む際の口裏合わせ、もし聞かれても気付かないふり等根まわしておきたいことは多い。
「誕生日……生まれた日の事……?」
自分の生まれた日を知らない、だから誕生日もよくわからない。仕事の話を聞いたときそう話したnil(ka2654)に、シャイネは小さく微笑んで答えていた。
「なら、是非参加するといいよ。自分の誕生日ではなくても、皆で楽しめるのが誕生日のお祝いだからね♪」
だからnilは勧められるままAPVにやってきた。
(皆でお祝いするもの……なのね……)
何をすればいいのか迷う様子に気づいたシアーシャの誘いに乗って、クッキーをつくる手伝いをしたり、部屋を飾る手伝いをしたりと過ごす。
見様見真似でもできることはある。いくつもの材料を組み合わせて、新しい何かができる。初めての事ならなおさら興味深くうつるものだ。
「タングラムが、喜べば良いのかな……?」
また一つクッキーの形を仕上げて、ぽつりと問うてみる。
「そう思ってれば、きっと喜んでもらえるよ!」
その上で、自分も楽しめればもっといいよね!
「皆さん遅くなってすみませんでした!」
フクカンが部屋に飛び込んでくる。部屋を見回すフクカンの視界に、ちょいちょいっと手招きする沙希。
「これは私からですよ♪」
「え、えっ? なんですかっ?」
くるくると体に巻き付けられて慌てるフクカンだが、沙希の動きは止まらない。仕上がりを確認して満足の笑みを浮かべてから、フクカンにそっと耳打ちした。
「……ってやるのです♪」
「是非やりましょう!」
それまでの戸惑いはすっかり消えて、フクカンはやる気いっぱいの目をきらきらさせた。
「はじめまして! 実はあたし、タングラムさんに憧れてて……。タングラムさんみたくカッコよくなりたくて。ちょっと相談に乗ってもらえませんかっ?」
元気よく、そして勢いもよく話しかけてくるシアーシャにタングラムが一瞬のまれる。その隙を狙っていたかのようにシアーシャがタングラムの手を引き会場へと誘っていく。それは計算のないまっすぐすぎる行動ゆえで、タングラムにも読めなかったようである。
「こっちです!」
「そこはシャイネが怪しい集まりをしてる部屋じゃねーですか」
「さあっ、先に入ってください!」
タングラムの抗議も気にせず、背をぐいぐい押して扉の前に向かわせる。
「しょーがないですね」
ガチャッ
「って真っ暗じゃね-ですか!」
パァーン!
クラッカーとくす玉の音と共に、消えていた部屋の明かりが灯された。
「「「お誕生日おめでとう!」」」
「お、おぅ……で、ソレは一体なんなんですか」
「誕生日のプレゼントはフクカンさんです♪」
タングラムの言及に、沙希が待ってましたとばかりにフクカンの背を押した。
「タングラム様ぁー!」
「わ、わわっ!?」
リボンで可愛らしくラッピングされたフクカンが、バランスを崩した勢いそのままにタングラムに迫る!
タングラムは回避した!
フクカンはすっころんだ!
「あれっ、おかしいですね?」
予想と違う反応に首をかしげつつも、沙希はフクカンを助け起こすのに手を貸した。
●どんな顔かな?
並んだ料理を見回していたタングラムが一点に目を留めた。
「面白い形なのですね……ってしょっぱぁ!?」
「nilさんとあたしで作ったんです、うまくできたと思うんですけどどうですか?」
「……タングラム、嬉しい?」
まっすぐ見つめて尋ねてくるnilと、にこにこと尋ねるシアーシャの作った『タングラムの仮面型クッキー』は砂糖ではなく塩が使われているトラップ食品。作ったのがフクカンならビンタものだが彼女たちに悪意はないわけで。裏表もないからこそ、タングラムが折れた。
「よっ……よく似せてると思うのですよ」
「お酒もあるじゃねーですか」
並べられた酒瓶の数々に、タングラムの目が輝く。その卓に近寄ったマルクは、持参の瓶を差し出した。
「安酒で悪いが、受け取ってくれや。まぁ前回の礼ってやつも兼ねてな」
「値段の問題ではないですよ。お酒の価値は飲み方で決まるともいうのです」
マルクさえよければ皆で楽しく飲む分として使うとの言葉に鼻をならして答えた。
「ふん、それはもうタングラム嬢のもんだ。受け取ったあんたが好きに使えばいい」
沙希も用意していたプレゼントのぬいぐるみを手渡す。招き猫を可愛らしくデフォルメした逸品だ。なんとなく幸運グッズっぽかった。
「あ、あのっタングラム様! ケーキを作ったので是非食べてくださ……って、えぇー!?」
フクカンお手製のケーキの上には、でかでかと『シャイネ (はぁと) タングラム』の相合傘。チョコレートソースで直接なので剥がすこともできない。
「シャイネさん!? 違うって言っていたじゃないですかあ!? 僕のケーキに……ケーキに……っ!」
「シャイネさん、今ですっ。さあ、早く告白を……!」
書いた犯人、シアーシャがシャイネを急かす。その言葉で事情を察するシャイネ。
「おや? ……ふふ、それじゃあタングラム君に詩を捧げよう♪」
訂正しないほうが面白いと踏んだらしい。
たんたんたたーんタングラム♪
年に一度の誕生日♪
夏の暑さに負けないくらい♪
僕らの心を伝えよう♪
たんたんたたーんタングラム♪
仮面の下の照れた顔♪
僕らに見せてくれないか♪
皆の中心タングラム♪
ちょっと恥ずかしいリズムだが、真吾達有志が率先して声を合わせていく。人数が増え繰り返していくにつれ、妙に癖のあるリズムが面白いと思ってしまうような気がするが、多分パーティという環境のせいだ。
けれど勢いには効果があった。ほんの少しタングラムが場に飲まれた瞬間を、真吾がカメラに収める。大音量のおかげでシャッター音も紛れた。
そのまま余興の時間になって、即席のスペースで芸を披露する者が現れ始める。
「ほら、カードが移動してるでしょう?」
楽しませるためでもあり、気を引くためでもあり。そのうちの一人として手品を披露するクロードの視界の隅に、タングラムへのプレゼントを支度しようと動き出す者が見えはじめた。
(僕のプレゼントは、この手品かな)
少しでも多く、ひとりでも多く楽しい気分になってもらえたら。タングラムの誕生日だけれど、参加した人も皆楽しめたらいいと思うのだ。
「タングラムさん、少しお時間いいですか?」
余興の合間に沙希がタングラムを誘い出す。戻ってきたタングラムは一変していた。
「皆さんどうですか♪ リアルブルーに伝わる夏の衣装、浴衣です♪」
白地に色とりどりの水風船が描かれた浴衣に、紺の帯。何時もはおろしている髪も高い位置になるように沙希が結い上げた。
おぉー、馬子にも衣裳!
「私は可愛い乙女ですよ?」
「タングラム様のうなじがっ! ハァハァ……」
フクカン、まさに大喜びである。
「タングラムさんもてもて~♪」
シアーシャもはやし立てた。
クロードの仕掛けたくす玉には造花やリボンも使われていた。今、その時のリボンがタングラムの髪を飾っている。
(うん、女の子……だよね)
エルフの年齢はわかりづらいというけれど、少なくとも外見はクロードより年下だ。
一番の仕込みともいえるだろう、真吾の用意したプレゼントは色紙。
APVに所属するハンター達に募って仕上げた寄せ書きである。袋に入れて、リボンもかけたそれをタングラムに差し出す。
『おめでとう。……何歳になったの?』
『死なれたら色々面倒そうだから長生きしなよ』
『この一年もまた、よろしく頼む』
『ダイエットが上手く行くことを願っています』
『ゼナイドさんとも仲良くなれるよう祈ってます』
『これからもがんばれよ』
「何ですかこの下げて下げて上げるみたいな並びはァ!?」
祝っているのか弄っているのか。タングラムに向けての率直な言葉が並んでいる。正面から見直したくない言葉と、嬉しい言葉が並んでいる寄せ書き。もてあましたいけれど、自分に贈られたものだからどうにもできないあきらめに似た何か。
「みな遠慮がないっていうか慕われてんな」
タングラムの様子に柔らかく笑って、いいことじゃないか、と真吾は思う。
「そんなあんたに何かありゃ皆も心配するだろうし、身体は大事にしてくれよ?」
「年寄り扱いとか失礼なのですね! まあ、飾らなくてもいいってんならもらっておいてあげるのですよ」
捨てずに持っていてくれるということだ。
「お、その表情いただき!」
タングラムの頬に朱が走ったのを見て、すかさずカメラのシャッターを切る真吾。
「なんですかそれは!?」
「照れ顔確保だな、これでいいだろう、シャイネ?」
隣に来ていたシャイネに確認をとる。
「うん、十分面白いものが見れたよね♪」
「タングラム様の照れ顔ですって!?」
すかさず食いつくフクカン。
「おめーは黙っ……」
「勿論、全部フクカン君のためだよ♪」
タングラムを遮ってフクカンとの関係修復に最大限利用するシャイネに、心の中で呆れた者もいたようである。
(ほんと、慕われてるのな)
ツッコミやら照れるやらで忙しくしているタングラムを眺める。普段はだらけているとも聞いているが、今日この場においてはそんな様子は見られない。服装や、パーティという状況が見せているのかもしれないが。
(面白いねえ)
「ところでタングラム嬢? お前さん、今回で何歳になったんだ?」
「これはてめーですかマルク!?」
「俺は書いてない。ってことはだ、みーんな気になってるんだろうよ」
してやったりの顔で見返せば、ギリリと悔しげな顔が見れた気がした。
「……何だかフクカンが喜ぶのがメインな気がするのは気の所為……?」
小さく首をかしげるnil。けれど周りの皆も笑っている様子に、違うのかもしれないと考えを改めようとしてみる。
(……フクカンの方が、嬉しそうで楽しそう)
結果として一番いい思いをしたのがフクカンなのは間違いない。けれど周りの空気は明るいことに気づく。
(……でも、皆も楽しそう)
「君も楽しめているかい?」
「シャイネ……これが、誕生日、なのね……」
空気がきらきらしてるのはわかる気がするとの答えに頷いて。シャイネは詩を書き留めるのだった。
この日のタングラムの写真はしばらくAPVに飾られた後、照れ顔の一枚はフクカン、歌に飲まれかけた顔の一枚はシャイネの所有物になったようである。
邪魔をしたいはずのタングラムが大人しかった理由は、シャイネとの間にあった『貸し』が働いたからのようだ。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談所 鳴神 真吾(ka2626) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/08/15 04:37:09 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/08/15 00:14:25 |