ゲスト
(ka0000)
【節V】遅すぎたモチ、早すぎるチョコ
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/01/28 19:00
- 完成日
- 2016/02/04 18:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
王国首都近郊。
薄っすらと雪の残る丘の上、数多ひしめくパティシエの姿があった。
彼らの目的はただ一つ、丘を下ったところにある平原。そこにひしめく茶色の物体だ。中には白くて丸い物体も混ざっている。
茶色い物体からは、甘く芳醇な香りが漂っていた。風に乗った香りが、パティシエたちの鼻孔をくすぐる。紛れも無く、チョコの香りだった。
「見るんだ。あれぞ、チョコを求めてきたパティシエの……群れだ」
「せんせぇ……みんな……怖いです」
噂を聞きつけ集まった中に、スライというパティシエの姿があった。
その傍らに弟子のムームーが控えている。ムームーは蠢く物体より、血走った眼を物体に注ぐパティシエたちに怯えていた。
「あー、皆の衆」
スライはパティシエの中をかき分け、先頭に立つ。
王国ではそれなりに名の通ったパティシエであるスライを、邪険に扱うものはいない。スライは真っ直ぐに物体を見据え、笑い声を上げた。
「ムームーくん、あれは……スライムだ」
スライの言葉にパティシエたちのテンションが見るからに落ちていった。
気持ちはスライにもよくわかる。
現在、チョコレートの原材料であるカカオが非常に高騰しているのだ。
その中で王国付近にチョコレートが湧きでたと聞けば、菓子職人が大挙して押し寄せるのも仕方がない。
一方で、スライは心躍るものを感じていた。
彼はパティシエの他に、スライム博士(※自称)という肩書を持っていた。見れば、茶色いスライムとは別に白いスライムも存在する。
「ふむ……」
「どうかされましたか、せんせい」
「白いのはモチのようだ。質量が重そうだぞ」
「モチ?」
「もち米と呼ばれる米をこねて作る保存食だ。新年に食べるものだから、捨てられたり食べ残したのが歪虚にでもなったのかねぇ」
スライは視線をめぐらし、茶色いスライムを見やる。
「そして、あっちはチョコに近いぞ。この甘い匂い……眠気がくるの」
「……すぅ……」
「寝るんじゃないぞ?」
スライに背を叩かれて、ムームーはバッと肩を震わせた。
ため息をついてスライはムームーに尋ねる。
「チョコレートを固くするには、どうするべきかわかるかい?」
「冷やす……ですか」
「そうだ。スライムは普通物理が効きにくいが、あのスライムはもしかしたら冷やして固めることができるやもしれん」
「楽しそうですね、せんせい」
「はっは。新たなスライムを見るのは楽しいからねぇ。ちなみにモチは、灼けば表面が硬くなるぞ」
「……なるほど」と律儀にムームーはメモをする。
そんなムームーを連れて、スライは丘を降りる。
王都へ戻り、しかるべき者に託すより他にない。相手は歪虚、スライムなのだ。
スライとしては、面白いスライムが見れただけで御の字であった。
「さて、モチくらいなら用意できるかねぇ」
王国首都近郊。
薄っすらと雪の残る丘の上、数多ひしめくパティシエの姿があった。
彼らの目的はただ一つ、丘を下ったところにある平原。そこにひしめく茶色の物体だ。中には白くて丸い物体も混ざっている。
茶色い物体からは、甘く芳醇な香りが漂っていた。風に乗った香りが、パティシエたちの鼻孔をくすぐる。紛れも無く、チョコの香りだった。
「見るんだ。あれぞ、チョコを求めてきたパティシエの……群れだ」
「せんせぇ……みんな……怖いです」
噂を聞きつけ集まった中に、スライというパティシエの姿があった。
その傍らに弟子のムームーが控えている。ムームーは蠢く物体より、血走った眼を物体に注ぐパティシエたちに怯えていた。
「あー、皆の衆」
スライはパティシエの中をかき分け、先頭に立つ。
王国ではそれなりに名の通ったパティシエであるスライを、邪険に扱うものはいない。スライは真っ直ぐに物体を見据え、笑い声を上げた。
「ムームーくん、あれは……スライムだ」
スライの言葉にパティシエたちのテンションが見るからに落ちていった。
気持ちはスライにもよくわかる。
現在、チョコレートの原材料であるカカオが非常に高騰しているのだ。
その中で王国付近にチョコレートが湧きでたと聞けば、菓子職人が大挙して押し寄せるのも仕方がない。
一方で、スライは心躍るものを感じていた。
彼はパティシエの他に、スライム博士(※自称)という肩書を持っていた。見れば、茶色いスライムとは別に白いスライムも存在する。
「ふむ……」
「どうかされましたか、せんせい」
「白いのはモチのようだ。質量が重そうだぞ」
「モチ?」
「もち米と呼ばれる米をこねて作る保存食だ。新年に食べるものだから、捨てられたり食べ残したのが歪虚にでもなったのかねぇ」
スライは視線をめぐらし、茶色いスライムを見やる。
「そして、あっちはチョコに近いぞ。この甘い匂い……眠気がくるの」
「……すぅ……」
「寝るんじゃないぞ?」
スライに背を叩かれて、ムームーはバッと肩を震わせた。
ため息をついてスライはムームーに尋ねる。
「チョコレートを固くするには、どうするべきかわかるかい?」
「冷やす……ですか」
「そうだ。スライムは普通物理が効きにくいが、あのスライムはもしかしたら冷やして固めることができるやもしれん」
「楽しそうですね、せんせい」
「はっは。新たなスライムを見るのは楽しいからねぇ。ちなみにモチは、灼けば表面が硬くなるぞ」
「……なるほど」と律儀にムームーはメモをする。
そんなムームーを連れて、スライは丘を降りる。
王都へ戻り、しかるべき者に託すより他にない。相手は歪虚、スライムなのだ。
スライとしては、面白いスライムが見れただけで御の字であった。
「さて、モチくらいなら用意できるかねぇ」
リプレイ本文
●
王国首都近くの丘の上、熱狂していたパティシエは諦めが悪いのかまだ残っていた。
そして丘の下、パティシエが恨みの視線を向けるチョコスライムがいる。その傍らにはモチスライム。互いにテリトリーがあるのか、茶と白二色に分かれてぶよぶよしていた。
「え、えーっと……チョコに、お餅に……何なんでしょうか、この状況は」
エリス・カルディコット(ka2572)は、あまりの珍百景に少し引き気味にいう。
今にも飛び出しそうなパティシエを後ろで見やり、十野間 忍(ka6018)は肩をすくめた。
「チョコ不足と言ってる最中に、チョコ風のスライムだなんて……人によっては怒りそうなシチュエーションですよね」
「私も料理人の端くれ……といっても趣味だけど。料理人と菓子職人は何か違う気もするけど、パティシエの皆さんががっかりするのもわかるわ」
ティス・フュラー(ka3006)がチョコスライムを観察しながら、気持ちを述べる。もっとも、スライムが何かをしたわけではない。タイミングが悪かったとしかいいようがない。
「食えるものなら食いたい……」
チョコスライムに熱い視線を送り、食い気を表明しているのはアーネット・フィーリス(ka0190)だ。
その隣では、ミノア・エデン(ka1540)がモチスライムを見ながらよだれを垂らしていた。
「久しぶりに、お餅が食べれる!」
「けど、あれは同時に倒す敵で……くっ!!」
「おのれぇ!」
狙いは違えど思いは同じ二人が、妙な共鳴をしていた。
憎らしげにスライムを見下ろすアーネットたちの隣で、鞍馬 真(ka5819)がうんと唸る。
「餅は、シンプルに焼くのが美味いな」
「お餅……焼く……」
ミノアがきゅるるとお腹が鳴いた。ハンターたちは、この戦いの後でお餅が食べれると聞いている。気合を入れて、アックスブレードを斧形態に切り替えた。
一方で万歳丸(ka5665)は、甘い匂いを敏感に嗅ぎとってつぶやく。
「なにやら彼方此方が騒がしいと思っちゃァいたが。成る程な、これが『ちょこ』……か!」
「チョコ……」
「まさか妖怪――歪虚の類だとは思ってなかったぜ!」
「あ、それは……」
間違いを正そうと苦笑を浮かべるアーネットをよそに、万歳丸は拳を握る。
「イイぜ、怪力無双、万歳丸が相手してやるァ! 掛かってきなァ!!」
「気合十分ですね。ボクも頑張ろう」
ウィーダ・セリューザ(ka6076)はこれが初めての依頼である。不安がないといえば嘘になるが、万歳丸やエリスたちといった先輩方のフォローに期待する。
チョコがどうとか、モチがどうとかは興味が無い。
「ボクは……依頼を受けて、それをこなす。それだけさ」
不安を噛み殺して、冷気を纏ったレガースをはめる。いつかは、自分が先輩の立場となって後輩を導くのだと立ち上がった。
ウィーダの動きに合わせて、他のハンターも丘を降りる。パティシエが突貫してこないよう注意していたティスが、最後尾につく。
ティスとモチスライムを目指す、忍が声をかけた。
「なんにせよ。食べ物を冒涜しているような敵は、サクサク倒してしまいたいものですね」
「スライムは何もしてないと言っても、存在自体がね……」
白と茶色の塊は、降りてくるハンターたちに気づき、身を揺らしていた。
●
「……僅かに香りが漂って来ておりますね。ですが、ここなら……」
背中から受ける風に髪をなびかせ、エリスはチョコスライムを見定める。チョコの風上に立つことで香りをかがないように注意していた。
同じく風上から、アーネットが接近しつつ弾丸を撃ちこむ。モチの戦場と引き離す意味を込めての攻撃だ。茶色いやわらかな身体が弾丸を包み込んで、放り出す。
「むぅ。やはり、固めないとダメそうだ」
不満気な顔の上で、覚醒状態になり元気づいたアホ毛が吠えていた。
その隣を冷気を纏った弾丸が通り過ぎていく。エリスの放ったレイターコールドショットである。真っ直ぐな軌道を描き、チョコスライムの一体が穿たれる。
撃たれたチョコスライムは、なめらかだった動きがぎこちなくなり、表面が硬質化していた。
「冷やして固めて……なんだかスライムという存在が良くわからなくなってきますね」
スライムという哲学に囚われそうになりつつ、スコープを覗く。接近戦を仕掛けるべく、万歳丸とウィーダが全力で駆けていた。
二人のうち、先に仕掛けたのは万歳丸だ。一定の距離まで近づいた彼は足を止めた。駆け寄りながらみていたところ、軟体な身体が厄介そうである。
「なるほどなァ、素早いみてェだが……これならどうだ!」
だが、強力な一撃を叩き込めばよい戦法に変わりはない。
踏み込むと同時に、腕が煌々と黄金の輝きを増す。
「吹き飛びなァッ!」
荒ぶる声を上げながら、ハンマーを振り払う。ハンマーから放たれた気は、蒼い燐光をひく麒麟となって、チョコスライムの元を駆け抜ける。
直線上にいた三匹のうち、二匹はするりと麒麟の燐光から逃れた。だが、一匹は青い光に飲み込まれ冷えていく。ゆるい身体が、微妙に硬さを得る。
直線から逃れていた一体をウィーダが押さえにかかる。
「ふわっ」
近づくと同時に鼻孔全体を甘い香りが包み込む。脳幹を穏やかに落としにかかる香りだ。くらっと膝をつきそうになりつつ、ウィーダは耐えた。
「さて、固めてやろう」
飛んできた強酸ならぬチョコ酸を避け、蹴りを放つ。くにょっとした感触が脚に伝わる。蹴りきれば、レガースの冷気に当てられた部分が光沢を持った表面に変わっていた。他の部分と比べても、あきらかに固まっているのがわかる。
もう一度蹴りを放とうと構えた瞬間、意識が朦朧となった。心地よい眠りに誘われていく。意識が途切れる間際に見たのは、再び蒼い麒麟が駆け走る姿だった。
●
チョコスライムが冷気の弾丸に穿たれている頃、モチスライムは焼かれようとしていた。
派手に焔をぶちあげたのは、ティスだ。真とミノアが駆け出すと同時に、炎弾を持ちスライムの群れへ放つ。炎弾はモチスライムたちの中心で弾けた。
「こんがり香ばしく……ってね」
ぷすぷすとモチスライムは煙をあげていた。前衛が接近を果たす前に、モチスライムは体の一部を弾丸のように飛ばしてきた。白い弾丸が吹雪のように真たちへと襲いかかる。
「むっ……きついな」
「痛っ!? そして、もったいない!」
腕や脚に弾丸を受けつつも二人の脚は止まらない。接近を果たそうかという間際で、忍が二人の武器に焔の力を纏わせる。
強く踏み込み、ミノアは叩きこむように斧を振り下ろした。
白かったスライムの表面は薄焦げていた。本来柔らかいはずの体は、薄い陶器のようにアックスブレードの刃を受けてひび割れた。
「いい感じに、パリパリね」
そして、忍に与えられた焔の力。刃が纏う赤い光が、内側にも焼きを入れる。ジュッと小気味よい音とともに、香ばしい匂いが漂った。
「……これ倒したら食べれないかなぁ」
本物の餅を思わせる匂いを受けて、どうしようもなくよだれが出る。ぐっと気持ちを抑えつつ、斧を構え直す。
視線を送れば、真も接敵を果たしていた。
真の目の前で、モチスライムは香ばしさのステータスをあげていた。ティスの放った燃え盛る焔の矢が、モチスライムをさらに焼き上げたのだ。
攻撃に神経を集中させ、真はモチスライムに対峙する。わずかな体捌きで辛くもモチスライムの一撃をかわし、蛇のように畝る刃を振り上げる。
大上段に構えた剣が、一閃。唐竹割りのごとく、モチスライムに振り下ろされた。パリッと焼けた表面に赤々とした刃が食い込み、モチスライムの体がガラスのように砕けた。
「珍しい特性を持っているな……戦いやすいけど」
普通のスライムならば、こうも簡単にはいかない。あたりに漂う匂いからして、明らかに餅を思わせる。質量のある体から繰り出される攻撃よりも、この匂いのほうが効く。
「腹が減るな……」
ぽつりと呟き、軸をずらす。横並びになった瞬間を狙って、大きく踏み出すと同時に刺突を放つ。刃が赤い軌跡を描いて、二体のモチスライムを突き通す。
刃を引いた瞬間、白い体が餅のように伸びた。足下に一撃を食らいつつ、距離を取り構え直す。
見上げれば、表面積が小さくなったモチスライムの一体が、焔の矢に包まれて焼き消えた。ワンドを構えた忍は、ぽつりとつぶやく、
「まず一体、ですね」
●
「起っきろォォォー! あーさーだぞー!」
アーネットの声が草原に木霊する。彼女の傍らには、眠りに落ちたウィーダの姿があった。ハリセンが白く輝き、味方を起こせと轟き叫ぶ。ウィーダにスパーンっと小気味よい音を打ち鳴らした。
「おはよう」
「おう、朝だぞ!」
起き上がったウィーダの挨拶に、アーネットはさわやかな笑顔を返した。ちなみに今は、日は高く真っ昼間である。いまだに甘い香りは漂っていたが、慣れてもきた。
「おっと!」
アーネットは慌てて振り返り銃口をチョコスライムへ向ける。眠りに落ちたウィーダを追い落とすべく、チョコスライムが集まっていた。
集まっているならば、まとめて穿てばいい。チョコスライムたちは、エリスのレイターコールドショットによってすっかり冷えていた。
「バニラアイスの上にチョコソースがかかったデザートというべきでしょうか」
冷やしきった後は、撃ち壊すだけだ。
「では、トッピングと参りましょう」
マテリアルを込めて連続射撃を行う。弾雨がチョコスライムの集まりに降り注ぎ、冷えた身体を削っていく。
加えて、横並びになったところを万歳丸の蒼麒麟が突き貫く。
トドメとばかりにアーネットが弾丸にマテリアルを込め、チョコスライムを穿つ。
「その眉間に弾丸ぶち込んでやるぞ……ってね!」
固まったチョコスライムは、アーネットの弾丸でひび割れ崩壊した。
続けざまにエリスが高加速度の弾丸を放ち、二体目を打ち壊す。戦線に復帰したウィーダも距離をとって、五芒星型の投擲武器を放つ。マテリアルを込めた投擲武器は、確実にチョコスライムの身を削る。
「ンじゃァ、オレもさっさと叩き壊してやるァ……!」
まずは一発、拳を螺旋に回して叩き込む。チョコスライムの中で螺旋の気が爆ぜ、内部から崩壊を誘う。もろくなったチョコスライムを打ち崩すように、続けざまに突きを捻り込む。
「甘い香りはいいがァ、脆いなァ!!」
一気呵成、壊れ始めたところから一気に叩き崩す。
残るは一体、チョコスライム側の勝ち筋は火を見るより明らかであった。
●
モチスライムとの戦場でミノアの体は暖かな光に包まれていた。光が傷を癒やし終えたところで、再びアックスブレードを構えてモチスライムに駆けて行く。
こんがりしているとはいえ、モチスライムの伸びのある攻撃は手痛い。
攻撃はなるべく回避したいと考えていた真も、攻めの姿勢のために少なからず白い殴打を受けていた。だが、モチスライムとて虫の息だ。
「そろそろ炭化してきそうよね」
幾度と無く焔の矢を浴びせ、ティスはふと声に漏らす。見やれば、モチスライムの一部が焼き焦げて黒と化していた。焼き餅としても失敗作の領域である。
「さすがに炭は食べられ……焦げを取ればいけるかなぁ」
充満する餅の焼けるような匂いに、ミノアの思考は食に支配されつつあった。それでもきっちりとおさめるところは、おさめる。踏み込みから振り払った刃が、炭化したモチスライムに食い込む。
黒い表面が一気に剥がれ落ち、内側も抉る。半分に分かれたモチスライムは、分裂すらせずにもろもろと崩れ落ちていった。
残るは二体。そのうち一体を引き受けていた真は、剣を上段に構えて機を伺っていた。忍が焔の矢を放ち、モチスライムは避けきれず身を捩った。
すかさず振り下ろされた刃が、モチスライムを縦に分断する。プチッと音を立ててちぎれたモチスライムは、だらしなく溶け消えてしまうのであった。
「さて、残り一体だな」
振り返れば、ミノアが先行して仕掛けていた。ミノアのクリーンヒットした一撃を受けて、モチが弾ける。またもや分断された……かと思いきやそれぞれで動き始めた。分裂である。
「増えたところで、焼いてしまえばいいのよね」
ティスが冷静に言い放ち、モチスライムを火矢で炙る。分裂で質量を減じていたモチスライムが耐えられるはずもない。焼かれ叩かれちぎられて、あっけなく終わりを迎えさせられるのだった。
「あっちも終わったみたいだな」
真が見やれば、チョコスライムが冷え固まった体に、万歳丸の螺旋状に抉る一撃を受けて砕け散っていた。風にのってパティシエのため息が聞こえたような気がしたのは、気のせいだと思いたい。
●
「えーーっ!? チョコレートがないなんて……」
スライ博士の店で、アーネットは思い切り叫びを上げた。
「チョコの無念を餅で晴らしたかったのに……モチ オブ チョコーレートフォンデュ!」
残念ながら、叫んだところでチョコレートは出てこない。品不足の影響は、スライ博士の店にもあったのだ。何とかココアパウダーが供出されたので、餅と絡めて食べてみる。
「おぉ、ほのかなチョコ味と餅の食感が合わさって新世界過ぎてナニコレハマりそう! チョコレートが手に入ったら、絶対食べさせてよね!」
きっと、もっと、美味しいはずだ。
チョコフォンデュへの期待を高めるミノアの隣で、ウィーダは磯辺巻きを食していた。
「チョコはやっぱりないんだね」
「チョコ不足ですから、仕方ありませんよ」
忍も慎ましやかに餅を賞味する。やはり本物の餅の匂いの方が、モチスライムの焼ける匂いより落ち着く。
「うん。美味しい」
モチスライムとの戦いを思いつつ、真も舌を満足させていた。
「すごい量ね。私だったら、胸焼けしそう」
「次食べれるのがいつかわからないからね! 食べておかないと」
素焼きした餅を食すティスの隣で、山盛りにした餅をミノアががっついていた。お雑煮、おしるこ、焼き餅と考えられる限りの方法で、餅を食べていく。
どうやって食べるのかを考えることも、楽しみの一つである。
「……これは、バニラアイス?」
「チョコは御座いませんが、あの雪を見ていたらつい……バニラとお餅も案外会うのかもしれません」
用意したエリスが、ミノアの疑問に応える。何でも試してみようとミノアが率先してバニラ餅を試してみる。これはこれでいけるらしい。
「……って、餅じゃねェか! 当たり前か、ちょこは希少だもんな!」
何かを勘違いしている万歳丸もミノアに負けじ劣らずがっついていた。
醤油と砂糖を所望し、伝統ある食べ方……らしいつけダレを作って食べていく。戦いですいた腹が満たされていくのだった。
店の外を歩いていた人々が、漂ってきた餅の匂いにあてられた。
王都では、何故か餅が再度売れたというが、それはまた別のお話。
王国首都近くの丘の上、熱狂していたパティシエは諦めが悪いのかまだ残っていた。
そして丘の下、パティシエが恨みの視線を向けるチョコスライムがいる。その傍らにはモチスライム。互いにテリトリーがあるのか、茶と白二色に分かれてぶよぶよしていた。
「え、えーっと……チョコに、お餅に……何なんでしょうか、この状況は」
エリス・カルディコット(ka2572)は、あまりの珍百景に少し引き気味にいう。
今にも飛び出しそうなパティシエを後ろで見やり、十野間 忍(ka6018)は肩をすくめた。
「チョコ不足と言ってる最中に、チョコ風のスライムだなんて……人によっては怒りそうなシチュエーションですよね」
「私も料理人の端くれ……といっても趣味だけど。料理人と菓子職人は何か違う気もするけど、パティシエの皆さんががっかりするのもわかるわ」
ティス・フュラー(ka3006)がチョコスライムを観察しながら、気持ちを述べる。もっとも、スライムが何かをしたわけではない。タイミングが悪かったとしかいいようがない。
「食えるものなら食いたい……」
チョコスライムに熱い視線を送り、食い気を表明しているのはアーネット・フィーリス(ka0190)だ。
その隣では、ミノア・エデン(ka1540)がモチスライムを見ながらよだれを垂らしていた。
「久しぶりに、お餅が食べれる!」
「けど、あれは同時に倒す敵で……くっ!!」
「おのれぇ!」
狙いは違えど思いは同じ二人が、妙な共鳴をしていた。
憎らしげにスライムを見下ろすアーネットたちの隣で、鞍馬 真(ka5819)がうんと唸る。
「餅は、シンプルに焼くのが美味いな」
「お餅……焼く……」
ミノアがきゅるるとお腹が鳴いた。ハンターたちは、この戦いの後でお餅が食べれると聞いている。気合を入れて、アックスブレードを斧形態に切り替えた。
一方で万歳丸(ka5665)は、甘い匂いを敏感に嗅ぎとってつぶやく。
「なにやら彼方此方が騒がしいと思っちゃァいたが。成る程な、これが『ちょこ』……か!」
「チョコ……」
「まさか妖怪――歪虚の類だとは思ってなかったぜ!」
「あ、それは……」
間違いを正そうと苦笑を浮かべるアーネットをよそに、万歳丸は拳を握る。
「イイぜ、怪力無双、万歳丸が相手してやるァ! 掛かってきなァ!!」
「気合十分ですね。ボクも頑張ろう」
ウィーダ・セリューザ(ka6076)はこれが初めての依頼である。不安がないといえば嘘になるが、万歳丸やエリスたちといった先輩方のフォローに期待する。
チョコがどうとか、モチがどうとかは興味が無い。
「ボクは……依頼を受けて、それをこなす。それだけさ」
不安を噛み殺して、冷気を纏ったレガースをはめる。いつかは、自分が先輩の立場となって後輩を導くのだと立ち上がった。
ウィーダの動きに合わせて、他のハンターも丘を降りる。パティシエが突貫してこないよう注意していたティスが、最後尾につく。
ティスとモチスライムを目指す、忍が声をかけた。
「なんにせよ。食べ物を冒涜しているような敵は、サクサク倒してしまいたいものですね」
「スライムは何もしてないと言っても、存在自体がね……」
白と茶色の塊は、降りてくるハンターたちに気づき、身を揺らしていた。
●
「……僅かに香りが漂って来ておりますね。ですが、ここなら……」
背中から受ける風に髪をなびかせ、エリスはチョコスライムを見定める。チョコの風上に立つことで香りをかがないように注意していた。
同じく風上から、アーネットが接近しつつ弾丸を撃ちこむ。モチの戦場と引き離す意味を込めての攻撃だ。茶色いやわらかな身体が弾丸を包み込んで、放り出す。
「むぅ。やはり、固めないとダメそうだ」
不満気な顔の上で、覚醒状態になり元気づいたアホ毛が吠えていた。
その隣を冷気を纏った弾丸が通り過ぎていく。エリスの放ったレイターコールドショットである。真っ直ぐな軌道を描き、チョコスライムの一体が穿たれる。
撃たれたチョコスライムは、なめらかだった動きがぎこちなくなり、表面が硬質化していた。
「冷やして固めて……なんだかスライムという存在が良くわからなくなってきますね」
スライムという哲学に囚われそうになりつつ、スコープを覗く。接近戦を仕掛けるべく、万歳丸とウィーダが全力で駆けていた。
二人のうち、先に仕掛けたのは万歳丸だ。一定の距離まで近づいた彼は足を止めた。駆け寄りながらみていたところ、軟体な身体が厄介そうである。
「なるほどなァ、素早いみてェだが……これならどうだ!」
だが、強力な一撃を叩き込めばよい戦法に変わりはない。
踏み込むと同時に、腕が煌々と黄金の輝きを増す。
「吹き飛びなァッ!」
荒ぶる声を上げながら、ハンマーを振り払う。ハンマーから放たれた気は、蒼い燐光をひく麒麟となって、チョコスライムの元を駆け抜ける。
直線上にいた三匹のうち、二匹はするりと麒麟の燐光から逃れた。だが、一匹は青い光に飲み込まれ冷えていく。ゆるい身体が、微妙に硬さを得る。
直線から逃れていた一体をウィーダが押さえにかかる。
「ふわっ」
近づくと同時に鼻孔全体を甘い香りが包み込む。脳幹を穏やかに落としにかかる香りだ。くらっと膝をつきそうになりつつ、ウィーダは耐えた。
「さて、固めてやろう」
飛んできた強酸ならぬチョコ酸を避け、蹴りを放つ。くにょっとした感触が脚に伝わる。蹴りきれば、レガースの冷気に当てられた部分が光沢を持った表面に変わっていた。他の部分と比べても、あきらかに固まっているのがわかる。
もう一度蹴りを放とうと構えた瞬間、意識が朦朧となった。心地よい眠りに誘われていく。意識が途切れる間際に見たのは、再び蒼い麒麟が駆け走る姿だった。
●
チョコスライムが冷気の弾丸に穿たれている頃、モチスライムは焼かれようとしていた。
派手に焔をぶちあげたのは、ティスだ。真とミノアが駆け出すと同時に、炎弾を持ちスライムの群れへ放つ。炎弾はモチスライムたちの中心で弾けた。
「こんがり香ばしく……ってね」
ぷすぷすとモチスライムは煙をあげていた。前衛が接近を果たす前に、モチスライムは体の一部を弾丸のように飛ばしてきた。白い弾丸が吹雪のように真たちへと襲いかかる。
「むっ……きついな」
「痛っ!? そして、もったいない!」
腕や脚に弾丸を受けつつも二人の脚は止まらない。接近を果たそうかという間際で、忍が二人の武器に焔の力を纏わせる。
強く踏み込み、ミノアは叩きこむように斧を振り下ろした。
白かったスライムの表面は薄焦げていた。本来柔らかいはずの体は、薄い陶器のようにアックスブレードの刃を受けてひび割れた。
「いい感じに、パリパリね」
そして、忍に与えられた焔の力。刃が纏う赤い光が、内側にも焼きを入れる。ジュッと小気味よい音とともに、香ばしい匂いが漂った。
「……これ倒したら食べれないかなぁ」
本物の餅を思わせる匂いを受けて、どうしようもなくよだれが出る。ぐっと気持ちを抑えつつ、斧を構え直す。
視線を送れば、真も接敵を果たしていた。
真の目の前で、モチスライムは香ばしさのステータスをあげていた。ティスの放った燃え盛る焔の矢が、モチスライムをさらに焼き上げたのだ。
攻撃に神経を集中させ、真はモチスライムに対峙する。わずかな体捌きで辛くもモチスライムの一撃をかわし、蛇のように畝る刃を振り上げる。
大上段に構えた剣が、一閃。唐竹割りのごとく、モチスライムに振り下ろされた。パリッと焼けた表面に赤々とした刃が食い込み、モチスライムの体がガラスのように砕けた。
「珍しい特性を持っているな……戦いやすいけど」
普通のスライムならば、こうも簡単にはいかない。あたりに漂う匂いからして、明らかに餅を思わせる。質量のある体から繰り出される攻撃よりも、この匂いのほうが効く。
「腹が減るな……」
ぽつりと呟き、軸をずらす。横並びになった瞬間を狙って、大きく踏み出すと同時に刺突を放つ。刃が赤い軌跡を描いて、二体のモチスライムを突き通す。
刃を引いた瞬間、白い体が餅のように伸びた。足下に一撃を食らいつつ、距離を取り構え直す。
見上げれば、表面積が小さくなったモチスライムの一体が、焔の矢に包まれて焼き消えた。ワンドを構えた忍は、ぽつりとつぶやく、
「まず一体、ですね」
●
「起っきろォォォー! あーさーだぞー!」
アーネットの声が草原に木霊する。彼女の傍らには、眠りに落ちたウィーダの姿があった。ハリセンが白く輝き、味方を起こせと轟き叫ぶ。ウィーダにスパーンっと小気味よい音を打ち鳴らした。
「おはよう」
「おう、朝だぞ!」
起き上がったウィーダの挨拶に、アーネットはさわやかな笑顔を返した。ちなみに今は、日は高く真っ昼間である。いまだに甘い香りは漂っていたが、慣れてもきた。
「おっと!」
アーネットは慌てて振り返り銃口をチョコスライムへ向ける。眠りに落ちたウィーダを追い落とすべく、チョコスライムが集まっていた。
集まっているならば、まとめて穿てばいい。チョコスライムたちは、エリスのレイターコールドショットによってすっかり冷えていた。
「バニラアイスの上にチョコソースがかかったデザートというべきでしょうか」
冷やしきった後は、撃ち壊すだけだ。
「では、トッピングと参りましょう」
マテリアルを込めて連続射撃を行う。弾雨がチョコスライムの集まりに降り注ぎ、冷えた身体を削っていく。
加えて、横並びになったところを万歳丸の蒼麒麟が突き貫く。
トドメとばかりにアーネットが弾丸にマテリアルを込め、チョコスライムを穿つ。
「その眉間に弾丸ぶち込んでやるぞ……ってね!」
固まったチョコスライムは、アーネットの弾丸でひび割れ崩壊した。
続けざまにエリスが高加速度の弾丸を放ち、二体目を打ち壊す。戦線に復帰したウィーダも距離をとって、五芒星型の投擲武器を放つ。マテリアルを込めた投擲武器は、確実にチョコスライムの身を削る。
「ンじゃァ、オレもさっさと叩き壊してやるァ……!」
まずは一発、拳を螺旋に回して叩き込む。チョコスライムの中で螺旋の気が爆ぜ、内部から崩壊を誘う。もろくなったチョコスライムを打ち崩すように、続けざまに突きを捻り込む。
「甘い香りはいいがァ、脆いなァ!!」
一気呵成、壊れ始めたところから一気に叩き崩す。
残るは一体、チョコスライム側の勝ち筋は火を見るより明らかであった。
●
モチスライムとの戦場でミノアの体は暖かな光に包まれていた。光が傷を癒やし終えたところで、再びアックスブレードを構えてモチスライムに駆けて行く。
こんがりしているとはいえ、モチスライムの伸びのある攻撃は手痛い。
攻撃はなるべく回避したいと考えていた真も、攻めの姿勢のために少なからず白い殴打を受けていた。だが、モチスライムとて虫の息だ。
「そろそろ炭化してきそうよね」
幾度と無く焔の矢を浴びせ、ティスはふと声に漏らす。見やれば、モチスライムの一部が焼き焦げて黒と化していた。焼き餅としても失敗作の領域である。
「さすがに炭は食べられ……焦げを取ればいけるかなぁ」
充満する餅の焼けるような匂いに、ミノアの思考は食に支配されつつあった。それでもきっちりとおさめるところは、おさめる。踏み込みから振り払った刃が、炭化したモチスライムに食い込む。
黒い表面が一気に剥がれ落ち、内側も抉る。半分に分かれたモチスライムは、分裂すらせずにもろもろと崩れ落ちていった。
残るは二体。そのうち一体を引き受けていた真は、剣を上段に構えて機を伺っていた。忍が焔の矢を放ち、モチスライムは避けきれず身を捩った。
すかさず振り下ろされた刃が、モチスライムを縦に分断する。プチッと音を立ててちぎれたモチスライムは、だらしなく溶け消えてしまうのであった。
「さて、残り一体だな」
振り返れば、ミノアが先行して仕掛けていた。ミノアのクリーンヒットした一撃を受けて、モチが弾ける。またもや分断された……かと思いきやそれぞれで動き始めた。分裂である。
「増えたところで、焼いてしまえばいいのよね」
ティスが冷静に言い放ち、モチスライムを火矢で炙る。分裂で質量を減じていたモチスライムが耐えられるはずもない。焼かれ叩かれちぎられて、あっけなく終わりを迎えさせられるのだった。
「あっちも終わったみたいだな」
真が見やれば、チョコスライムが冷え固まった体に、万歳丸の螺旋状に抉る一撃を受けて砕け散っていた。風にのってパティシエのため息が聞こえたような気がしたのは、気のせいだと思いたい。
●
「えーーっ!? チョコレートがないなんて……」
スライ博士の店で、アーネットは思い切り叫びを上げた。
「チョコの無念を餅で晴らしたかったのに……モチ オブ チョコーレートフォンデュ!」
残念ながら、叫んだところでチョコレートは出てこない。品不足の影響は、スライ博士の店にもあったのだ。何とかココアパウダーが供出されたので、餅と絡めて食べてみる。
「おぉ、ほのかなチョコ味と餅の食感が合わさって新世界過ぎてナニコレハマりそう! チョコレートが手に入ったら、絶対食べさせてよね!」
きっと、もっと、美味しいはずだ。
チョコフォンデュへの期待を高めるミノアの隣で、ウィーダは磯辺巻きを食していた。
「チョコはやっぱりないんだね」
「チョコ不足ですから、仕方ありませんよ」
忍も慎ましやかに餅を賞味する。やはり本物の餅の匂いの方が、モチスライムの焼ける匂いより落ち着く。
「うん。美味しい」
モチスライムとの戦いを思いつつ、真も舌を満足させていた。
「すごい量ね。私だったら、胸焼けしそう」
「次食べれるのがいつかわからないからね! 食べておかないと」
素焼きした餅を食すティスの隣で、山盛りにした餅をミノアががっついていた。お雑煮、おしるこ、焼き餅と考えられる限りの方法で、餅を食べていく。
どうやって食べるのかを考えることも、楽しみの一つである。
「……これは、バニラアイス?」
「チョコは御座いませんが、あの雪を見ていたらつい……バニラとお餅も案外会うのかもしれません」
用意したエリスが、ミノアの疑問に応える。何でも試してみようとミノアが率先してバニラ餅を試してみる。これはこれでいけるらしい。
「……って、餅じゃねェか! 当たり前か、ちょこは希少だもんな!」
何かを勘違いしている万歳丸もミノアに負けじ劣らずがっついていた。
醤油と砂糖を所望し、伝統ある食べ方……らしいつけダレを作って食べていく。戦いですいた腹が満たされていくのだった。
店の外を歩いていた人々が、漂ってきた餅の匂いにあてられた。
王都では、何故か餅が再度売れたというが、それはまた別のお話。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談 十野間 忍(ka6018) 人間(リアルブルー)|21才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2016/01/28 10:53:11 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/27 12:04:26 |