ゲスト
(ka0000)
【刻令】大砲運用特化ゴーレムのご意見募集
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 3日
- 締切
- 2016/01/25 19:00
- 完成日
- 2016/02/01 14:22
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
卒業生、ジョアン・ロール・パラディール。ハルトフォート砦司令部要員、特種兵站幕僚に任命する──
「……は?」
グラズヘイム王立学校において優秀な成績を修めた若きエリートは。学長より受け取った皮羊紙に記された配属先を目にした瞬間、その身を岩にした。
ハルトフォート砦── 歪虚本拠地イスルダ島と海を隔てた西部リベルタース地方、その防衛を一手に担う王国の要衝。最重要拠点である。
その司令官はラーズスヴァン。王国では珍しいドワーフの武人で、勇猛かつ優秀な指揮官として名を馳せる一方、銃や大砲をこよなく愛する『変人』としても知られている。
「王国騎士団の兵站部門を希望していたのになぁ…… よりにもよって最前線。しかも、『変人』の幕僚ときた。好い事と言えば実家が近くなったことくらい? やったね! 比較的帰省は楽だよ! ははははは、はは、は……」
一週間後── 砦へ続く大河ティベリス沿いの街道をガタゴト馬車に揺られながら、ジョアンは一人だけ乗った幌の荷台で誰にとも無く呟いた。卒業生を配属先へと送る馬車には最初、数人が乗っていたが、目的地に到着、或いは乗り換えの為に一人、また一人と降りていき…… ついさっき、こちらをじっと睨みつけていた娘を降ろしたのを最後にジョアン一人となっていた。
「共に配属される同期はなし、か…… それに特種兵站幕僚? なんだよ、特種って」
ぼやきに答える者もなく、やがて馬車が砦に入る。
ジョアンは長旅を最後まで共にした御者に礼を言い、握手をして別れると、砦司令に着任の挨拶をすべく、城内の兵に尋ねながら執務室へと向かった。
入り口の前で身だしなみを整え、木の扉をノックする。
入れ、という声がして、失礼します、と中に入った。
正面の執務机に、小柄な、だが、頑強な身体つきの男が座っていた。
息を呑む。
異種族ながら僅か5年で王国の要衝の司令官に上り詰め、歪虚の浸透を阻み続けている英傑──! ドワーフを見たのも初めてだったが、それ以上に『英雄』というものをここまで身近にした事に身が震える。
固まったまま一言も声を発せずにいるジョアンを訝しげに見返して…… ラーズスヴァンが最初の一声をジョアンに掛けた。──ジョアンが生涯に亘って忘れ得ぬ事になる一言を。
「……なぜ子供がこんな所におる?」
「子供じゃないです! もう19です! ……そうは見えないかもしれませんがっ。……ジョアン・パラディール、王女殿下よりハルトフォート砦司令部・特種兵站幕僚を拝命し、着任しました」
子供と呼ばれて激昂し。慌てて咳払いで着任の挨拶をする。……童顔で背が小さいことはジョアンのコンプレックスだった。それが理由で憧れの騎士の道を閉ざされたとあっては尚更だ。
ラーズスヴァンは特に気にした様子も見せず、うさんくさげな表情でジョアンを見る。
「着任? 司令たるわしはまだ認めておらんが?」
「ええっ!?」
え? まさかそんな展開があり得るのか? 何? 見た目で嫌われた? その場合これからどーすんの? 王都に帰って次の任地が決まるまで一目見るなり着任を拒否された男として後ろ指さされるの?
目をぐるぐる回しながら悪い想像を廻らせるジョアンをよそに、ラーズスヴァンはついて来るよう言って執務室の外に出た。返事すら忘れ反射的に後に続き、砦の城門すら潜り越え…… 何かを造成中と思しき広い空間に出た所で、『それ』を目の当たりにしたジョアンは、その日一番の驚愕を上司(になるかもしれない男)の前で晒す事となった。
「大砲だ!」
叫び、英雄もほったらかしてそちらへと走り寄り。最初は遠めに、だが、次第に大胆に。ぺたぺたと砲に触れ、這いつくばるように覗き込む。
「魔導砲──! 12ポンド(と単位は訳された)野戦砲ですね! 凄い、実物は初めて見た…… 鋳造、前装式、滑腔砲…… 帝国製ですか、それとも同盟製?」
「この砦の工房で作ったものだ。習作としての」
「ええっ!?」
ジョアンは驚きの声を上げた。王国の大砲技術は…… いや、大砲に限らず魔導機械の分野全般において、王国は他国に遅れをとっていたからだ。
「こんなもの、ちっとも凄くはないわい。砲に車輪を付けただけで、仰角すらつけられぬ。弾着距離の修正は砲手が砲に注ぐマテリアル量の匙加減次第──数を揃えたとて砲撃を集中する事もままならん」
そう言って、ラーズスヴァンは書類の束を──羊皮紙ではなく紙の資料を──ドンとジョアンの胸に押し付けた。後装式、ライフリング、長砲身、駐退機…… そこには、どこから伝え聞いたものか、リアルブルーの大砲技術の概念が書き記されていた。
「これらの理屈は理解できた。設計図を引けと言われれば多分、できる」
「!?」
「だが、それを製造できるだけの施設と技術が未だこの国にはない。……わしはな、坊主。『究極の砲』が造りたいのだ。じゃがな、その為には金が掛かる」
ジョアンは表情を引き締めた。ラーズスヴァンが本題に入ったと気づいたからだ。なぜ、自分が『特種』などというかぎかっこ付きの兵站幕僚として呼ばれたのか…… その理由も恐らくそこにある。
「詳しい事は知らんが…… 王国は、CAMや魔導アーマーに類するものとして、刻令術とやらで動く人型のゴーレムなるものを研究しているらしいのぉ。聞けば、動かせはしたものの、とても実用に耐える物ではなかったとか。耐久性こそ高いものの、今のレベルでは動きが遅すぎてまともに格闘戦もできなかったと……」
話が飛んだ。焦らされた気もしたが、多分、そういう事ではない。
「……ゴーレムの研究者も恐らく思っておるだろうの。研究を進めさえすれば…… もっと時と『予算さえつけば』、きっと実用に耐え得るものを世に送り出して見せるのに、と」
ところで坊主、とラーズスヴァンはジョアンを振り返り、続けた。──そんな糞重い、手足の生えた岩塊であっても、うちの大砲──そうじゃな、とりあえず40ポンド砲辺り──を持たせてやれば、現状でもある程度使えるものに仕上がると思わんか?
「……ゴーレムに砲の自走と発射の衝撃の吸収役を担わせようというのですね」
ラーズスヴァンが言わんとしていることを、ジョアンは理解した。
「つまり、将来の研究予算を分捕る為に、現状の技術で『使えそうなもの』をでっちあげる必要がある、と」
「人聞きの悪いことを言うな。何事も習作を繰り返して技術は発達するものだ。勿論、時間と金がかかるのは事実だが」
悪びれもせずにラーズスヴァンが言う。これはわしの大砲と、ゴーレム、王国の将来にとって大事な二つの研究にとってとても重要なことなのだ。
「というわけで、ジョアン・R・パラディール。お前には関係各所への手配やら折衝やら諸々と…… 使い手となるハンターたちから様々な意見を聴取してもらいたい」
「……は?」
グラズヘイム王立学校において優秀な成績を修めた若きエリートは。学長より受け取った皮羊紙に記された配属先を目にした瞬間、その身を岩にした。
ハルトフォート砦── 歪虚本拠地イスルダ島と海を隔てた西部リベルタース地方、その防衛を一手に担う王国の要衝。最重要拠点である。
その司令官はラーズスヴァン。王国では珍しいドワーフの武人で、勇猛かつ優秀な指揮官として名を馳せる一方、銃や大砲をこよなく愛する『変人』としても知られている。
「王国騎士団の兵站部門を希望していたのになぁ…… よりにもよって最前線。しかも、『変人』の幕僚ときた。好い事と言えば実家が近くなったことくらい? やったね! 比較的帰省は楽だよ! ははははは、はは、は……」
一週間後── 砦へ続く大河ティベリス沿いの街道をガタゴト馬車に揺られながら、ジョアンは一人だけ乗った幌の荷台で誰にとも無く呟いた。卒業生を配属先へと送る馬車には最初、数人が乗っていたが、目的地に到着、或いは乗り換えの為に一人、また一人と降りていき…… ついさっき、こちらをじっと睨みつけていた娘を降ろしたのを最後にジョアン一人となっていた。
「共に配属される同期はなし、か…… それに特種兵站幕僚? なんだよ、特種って」
ぼやきに答える者もなく、やがて馬車が砦に入る。
ジョアンは長旅を最後まで共にした御者に礼を言い、握手をして別れると、砦司令に着任の挨拶をすべく、城内の兵に尋ねながら執務室へと向かった。
入り口の前で身だしなみを整え、木の扉をノックする。
入れ、という声がして、失礼します、と中に入った。
正面の執務机に、小柄な、だが、頑強な身体つきの男が座っていた。
息を呑む。
異種族ながら僅か5年で王国の要衝の司令官に上り詰め、歪虚の浸透を阻み続けている英傑──! ドワーフを見たのも初めてだったが、それ以上に『英雄』というものをここまで身近にした事に身が震える。
固まったまま一言も声を発せずにいるジョアンを訝しげに見返して…… ラーズスヴァンが最初の一声をジョアンに掛けた。──ジョアンが生涯に亘って忘れ得ぬ事になる一言を。
「……なぜ子供がこんな所におる?」
「子供じゃないです! もう19です! ……そうは見えないかもしれませんがっ。……ジョアン・パラディール、王女殿下よりハルトフォート砦司令部・特種兵站幕僚を拝命し、着任しました」
子供と呼ばれて激昂し。慌てて咳払いで着任の挨拶をする。……童顔で背が小さいことはジョアンのコンプレックスだった。それが理由で憧れの騎士の道を閉ざされたとあっては尚更だ。
ラーズスヴァンは特に気にした様子も見せず、うさんくさげな表情でジョアンを見る。
「着任? 司令たるわしはまだ認めておらんが?」
「ええっ!?」
え? まさかそんな展開があり得るのか? 何? 見た目で嫌われた? その場合これからどーすんの? 王都に帰って次の任地が決まるまで一目見るなり着任を拒否された男として後ろ指さされるの?
目をぐるぐる回しながら悪い想像を廻らせるジョアンをよそに、ラーズスヴァンはついて来るよう言って執務室の外に出た。返事すら忘れ反射的に後に続き、砦の城門すら潜り越え…… 何かを造成中と思しき広い空間に出た所で、『それ』を目の当たりにしたジョアンは、その日一番の驚愕を上司(になるかもしれない男)の前で晒す事となった。
「大砲だ!」
叫び、英雄もほったらかしてそちらへと走り寄り。最初は遠めに、だが、次第に大胆に。ぺたぺたと砲に触れ、這いつくばるように覗き込む。
「魔導砲──! 12ポンド(と単位は訳された)野戦砲ですね! 凄い、実物は初めて見た…… 鋳造、前装式、滑腔砲…… 帝国製ですか、それとも同盟製?」
「この砦の工房で作ったものだ。習作としての」
「ええっ!?」
ジョアンは驚きの声を上げた。王国の大砲技術は…… いや、大砲に限らず魔導機械の分野全般において、王国は他国に遅れをとっていたからだ。
「こんなもの、ちっとも凄くはないわい。砲に車輪を付けただけで、仰角すらつけられぬ。弾着距離の修正は砲手が砲に注ぐマテリアル量の匙加減次第──数を揃えたとて砲撃を集中する事もままならん」
そう言って、ラーズスヴァンは書類の束を──羊皮紙ではなく紙の資料を──ドンとジョアンの胸に押し付けた。後装式、ライフリング、長砲身、駐退機…… そこには、どこから伝え聞いたものか、リアルブルーの大砲技術の概念が書き記されていた。
「これらの理屈は理解できた。設計図を引けと言われれば多分、できる」
「!?」
「だが、それを製造できるだけの施設と技術が未だこの国にはない。……わしはな、坊主。『究極の砲』が造りたいのだ。じゃがな、その為には金が掛かる」
ジョアンは表情を引き締めた。ラーズスヴァンが本題に入ったと気づいたからだ。なぜ、自分が『特種』などというかぎかっこ付きの兵站幕僚として呼ばれたのか…… その理由も恐らくそこにある。
「詳しい事は知らんが…… 王国は、CAMや魔導アーマーに類するものとして、刻令術とやらで動く人型のゴーレムなるものを研究しているらしいのぉ。聞けば、動かせはしたものの、とても実用に耐える物ではなかったとか。耐久性こそ高いものの、今のレベルでは動きが遅すぎてまともに格闘戦もできなかったと……」
話が飛んだ。焦らされた気もしたが、多分、そういう事ではない。
「……ゴーレムの研究者も恐らく思っておるだろうの。研究を進めさえすれば…… もっと時と『予算さえつけば』、きっと実用に耐え得るものを世に送り出して見せるのに、と」
ところで坊主、とラーズスヴァンはジョアンを振り返り、続けた。──そんな糞重い、手足の生えた岩塊であっても、うちの大砲──そうじゃな、とりあえず40ポンド砲辺り──を持たせてやれば、現状でもある程度使えるものに仕上がると思わんか?
「……ゴーレムに砲の自走と発射の衝撃の吸収役を担わせようというのですね」
ラーズスヴァンが言わんとしていることを、ジョアンは理解した。
「つまり、将来の研究予算を分捕る為に、現状の技術で『使えそうなもの』をでっちあげる必要がある、と」
「人聞きの悪いことを言うな。何事も習作を繰り返して技術は発達するものだ。勿論、時間と金がかかるのは事実だが」
悪びれもせずにラーズスヴァンが言う。これはわしの大砲と、ゴーレム、王国の将来にとって大事な二つの研究にとってとても重要なことなのだ。
「というわけで、ジョアン・R・パラディール。お前には関係各所への手配やら折衝やら諸々と…… 使い手となるハンターたちから様々な意見を聴取してもらいたい」
リプレイ本文
王国が開発予定の砲撃用ゴーレムについて意見を伺うべくハンターたちを集めたジョアンは、砦内に用意した一室に入るや否や、想像もしていなかった歓迎(?)を受け、慄いた。
「王国産のゴーレム! ふあぁぁぁ……! 燃えますですね! 王国の技術ここにあり! を示せたら嬉しいですね!」
エルフらしからぬ(←偏見)ハイテンションで拳を上下にぶんぶん振りながら。なぜか椅子の上に正座したカリン(ka5456)が、ジョアンの席と思しき空いた椅子をばんばんと平手で叩いた。
「とは言え、私は技術のことはまだまだ勉強中なのですね。お役に立てるか分かりませんが、お茶とお菓子でもいただきながらお話できたらと思いますですっ!」
勧められた菓子を謝絶しつつ、勧められた椅子に座り。ジョアンは集まったハンターたちに改めてゴーレムの詳細について説明する。
「大砲運用特化ゴーレム……ですか。面白そうですね。中期的な将来案としては……ですけれど」
「失敗すれば高価な粗大ゴミ扱いになるかもしれませんが。うまくいけばこれからの戦いの役に立てるかもしれませんね」
「え?」
「いえ、何も。初めまして、エルバッハ・リオンです。よろしければエルって呼んでください。よろしくお願いします」
白いコートをまるで白衣の様に緩く着こなし、その理知的な瞳で示された開発の概略を精査する天央 観智(ka0896)。その横ではエルバッハ・リオン(ka2434)がいかにも王国貴族然とした佇まいでさらりと小声で毒を吐き。聞き咎めたジョアンに対して笑顔でにっこりと貴族の礼をする。慌てて礼を返すジョアン。王立学校を出たばかりのぼんぼんには、エルバッハが何重にも被った猫の厚さは見破れない。
「砲の運搬、装填、発射がこれ1機で、半自動で…… 凄いよなぁ! こういうの欲しかったんだ!」
一方、向かいの席に座った藤堂研司(ka0569)はその瞳を子供の様に輝かせつつ、身を乗り出すようしてそう言った。人の良さが滲み出ているような青年だった。……だが、筋肉質にも関わらず、どこか貧弱そうに見えるのはなぜだろう?
「これ、無人でも稼動できるのか?」
「いえ、現状では多分、有線式か何かのコントローラーで操作する形になると思いますが……」
「コントローラー! いいなぁ。でも、ある程度は決められた動きがインプットされるんだろ? 操作系の負担は最小限の方がいい。例えばリモコンなら、移動用、砲撃用の十字(っぽい)キー二つ、弾種ごとの装填、発射ボタンくらいの単純操作で!」
ピンと来ないジョアンをよそに、リアルブルー出身者たちが「あー……」と研司のその説明に納得する。
木島 順平(ka2738)もその一人。優しげな微笑が印象的な青少年で、どこからどう見ても普通の少年に見える。……端的に言えば、え? 本当にハンターさんなんですよネ?
「分かりますよ~。『射撃体勢を取れ』のコマンド一つで勝手に武器を構えてくれれば楽ですものね~。細かい操作は照準くらい? 上下左右に動く腕と腰を任意の場所で『停止』、ボタン一つで発砲、装填。移動は前進と旋回だけでも今は十分、かな?」
そのまま会話に花を咲かせる研司と順平。その内容についていけないジョアンに、斜め前方に座ったメル・アイザックス(ka0520)が、内容を分かり易く纏めたメモをそっと差し出した。
「あの…… 良ければ私が要点をメモするよ?」
感動と情けなさでちょっぴり半泣きになりながら頭を下げるジョアン。メルは気にしないでと手を振り、メモを纏める作業に戻る。
(……学校でもこんなレポートを書かされたっけ。……懐かしいな)
窓から差し込んで来る、珍しく暖かな冬の日差しに温みながら…… 転移前の日々を思い返して、メルはちょっぴり涙を拭った。
「では、まず最初に魔導砲についてですが…… 強力な敵に直撃させて大ダメージ! というのは、様々な技術的制約からまず無理と考えてよろしいですね?」
会議の冒頭── まず最初に、挙手をし、優雅に立ち上がったエルバッハが、現在の技術レベルでは精密な照準は出来ないという大砲の問題点を指摘した。
その通りです、とのジョアンの返事に人知れず溜め息を吐き。それを踏まえた上で、とエルバッハは話を続ける。
「過去に経験した歪虚との大規模戦闘では、数が多い雑魚敵は厄介でした。たとえ戦闘力は低くても相応の消耗は強いられますからね…… なので、そういった雑魚敵を纏めて攻撃できるような砲弾が欲しいです」
「点じゃなく面で狙うイメージだな。いいんじゃないか?」
エルバッハの意見を聞いて、研司も大きく頷いた。
「元々、精密射撃が無理な事は分かっているんだし。効果範囲の広い…… そうだな、例えば榴弾とかを撃てれば、大雑把にしか狙えない砲にも意味を持たせられると思う」
「私は敵軍の上空で破裂して広範囲に油を撒き散らすようなものを考えていました。そのまま着火する仕掛けも欲しい所ですが、技術的に無理であれば弓兵が火矢を撃ち込む等の方法でも代用できますし…… 何より、この砲撃自体で敵を斃しきれなくても、燃え盛る炎の壁が敵の進行ルートに対して一定の制限を課すことができるのではないかと考えます」
エルから出されたその案に、キヅカ・リク(ka0038)もまた頷いた。順平とはまた違った意味でごく普通の青少年に見える。先のコントローラーに関しても研司と順平に交じって盛り上がっていたが…… ふとした瞬間、妙に大人びて見える時がある。
「砲弾に独自性を持たせて有用性をアピールする方向はありだと思う。さっきの上空で炸裂するタイプの他にも…… 撃ち込んだ内部から正のマテリアルを炸裂させる特種弾とか」
「火薬で撃ち出すんじゃないんだし、いっそ爆弾をそのまま撃っちゃってもいいかな? 榴弾にも破片、焼夷と種類があるんだし、用途別に撃ち分けできそうだ」
「なら、なら、捕獲用のネット弾なんかもあると幅が広がりそうですよねっ!」
リクの話を口火に盛り上がる研司とカリン。メルから次々と差し出されるメモを一生懸命頭に入れるジョアンの袖を、佐藤 絢音(ka0552)がくいくいと引っ張った。──見た目、10歳にも満たない可憐な少女である。多分、ハンターの誰かが連れて来た妹か誰かだとジョアンは思っていたのだが……
「……現状の砲なら、有効な砲弾はキャニスター弾なの」
「きゃに…… え……?」
「キャニスター弾。簡単に壊れる缶の容器に小さな弾を沢山込めて発射すると、広範囲を殲滅する威力になるの。最悪、大砲に釘とか鉄片を詰め込んでぶっ放すとかでもいいの」
最後にグッと親指を立てて見せ── 絢音はてとてとと自分の席に戻ると椅子の上へとよじ登る。
困惑するジョアンをよそに会議は進む。多種多様な砲弾を運用できる、という仕様に関しては、ハンターたちの間で意見の一致を見たようだった。
「うん。低命中を補う高火力と、付加効果付きの砲弾を駆使することができれば、独自性と売りを作れるし」
順平もまたそう言って、思いついた特種砲弾の案を上げた。
威力重視の通常弾。範囲攻撃の散弾。行動を阻害する煙幕弾。格闘士の『鎧徹し』の如く、敵の防御効果を無視する徹甲弾……
「徹甲弾?」
「円弾と違って先の尖った…… こう、硬くて重い弾なんだよ~」
「どんぐりの様な形状の砲弾を想像してみてください。ライフリングによって回転運動を与えられたそれが目標の装甲を貫通する…… その様な砲弾です」
順平の言葉を継いで、観智がそう説明した。
さらに「中期的な将来の展望として」と前置きをした上で、己の私案──技術の進化を見据えた構想を披露する。
「砲はいずれ後装式にするとして…… 砲を据えつけるなら砲身命数は長い方が良いですし、ライフリングせず、安定翼付きの砲弾を滑空させる方向性で。弾単体のコストは跳ね上がりますが、噴進弾仕様が良いですね」
また聞きなれない単語に目をグルグル回しながら、メモの説明書を手にジョアンはどうにかついていく。
「噴進弾…… 弾自体に推力を持たせるのですか!?」
「ええ。曲射は出来なくなりますが、ほぼ直進軌道で飛翔する為、狙いはつけ易くなり、命中精度も高くなります。後は、方式は何でも構いませんが、弾に込めた余剰マテリアルを炸裂させられるようにできれば……」
そこまで滔々と語った観智は…… いよいよ頭から知恵熱の湯気を発し始めたジョアンに気づいて、一旦、自案の披露を止めた。
「……まぁ、何にせよ、これは更なる技術的革新を必要とする話です。将来を見据えた中長期的ビジョンとして、頭の隅にでも留めておいてください」
やがて、会議の内容は砲を運用するゴーレム自体の話に移った。
「この前の作業用ゴーレムとは別の、本格的な戦闘用、か…… 機動力がない、ってことだけど、移動力だけでもどうにかしたいな」
実際にゴーレムを動かしてみた実験時の数値を見やって、リクが難しい表情で言った。
「技術的に可能なら、キャタピラ型の脚部に変更できないかな? 様々な環境での使用を想定した場合、二足歩行より走破性に優れている場合がある」
きゃた…… とまた小首を傾げるジョアンに、リクはさらさらと絵を描きながらその理屈と概念を説明する。
「あやねもごーれむさんが人型である必要性はないと思うの」
「だよな」
「ぶっちゃけ、車輪でも問題ないと思うの。今回の運用で言えば、砲台に脚を生やすだけでもいいの」
「ええっ!? いや、砲撃の際の安定性を考えると無限軌道の方が……」
盛り上がる(?)リクと絢音をよそに、ジョアンは一人、考え込んだ。
「パーツが細かい…… どうしても生産性と価格の問題が出てきてしまいますよ?」
「作業用ゴーレムとの兼ね合いもある。こちらは高価格帯でもいい。その代わり、特徴は最大限伸ばした方がいい」
「ええっ!?」
驚いたのは順平だった。
「そこは低価格だと嬉しいなぁ…… まず何より使ってもらわなければ始まらないし、って言うか、高いと僕が買えなくて困るんだよ~」
「しかし……」
喧々諤々と始まる議論。まさかの『この会議一番の盛り上がり』にジョアンが目を丸くする。
「あのー……」
意見が散々出た後で、最後にカリンがおずおずといった感じで手を上げた。
「……ゴーレム本体の方は、一番作り易い形でいいと思うのです。……この間の大規模作戦では砲戦型CAMを借りて砲撃戦をやってみたですが、あんまりうまくいかなかったのですね。一番の原因は数を揃えられなかったことだと思うのです」
「つまり?」
「お値段! これは凄く大事です! 魔導アーマーの100万を下回るくらいが嬉しいです!」
拳をギュッとして力説するカリン。再びジョアンの袖を絢音が引っ張る。
「あやね、常々思ってたの」
「……何を?」
「高価なCAM1機より、安価な砲10門の方が何倍も強いの。将来的にはMLRSみたいなのにすれば、歪虚王もイチコロなの」
「えむえる…… え?」
「イチコロなの」(グッと親指)
最後に、それまでメモを取ることに徹していたメルが挙手をした。皆の意見を聞き、自分なりに案を纏めてみたらしい。
「ゴーレム本体の打たれ強さと、大口径だけど低精度な大砲に注目して…… リアルブルーの戦史も参考に『突撃砲』タイプのゴーレムを提案します」
突撃砲──前線の部隊と行動し、歩兵を直接支援する砲兵器。用途は強固な陣地の突破や拠点の防衛──よって機動性は切り捨てられる。
「役割が絞られれば、構造も簡易にできる。装甲配置を前面に割り振る事で重量とコストを削減できれば、結果、量産が期待でき、より多くの一般部隊の被害を減らせる事に繋がる……」
「前面を盾で守りながら、歩兵部隊の前に展開。前進し、砲弾を発射後に、歩兵が進行して制圧する…… うん、歪虚王みたいな、雑魚が沢山いるのに有効な戦術になるの」
「そう! キャッチコピーは『CAMより身近で、魔導アーマーよりも安全安価』! ゆくゆくは『王国歩兵の頼れる相棒』に、ですよ!」
絢音の言葉に頷くメル。いつの間にか、彼女が記すメモは文字からイラストに変わっていた。構想を口ずさみつつ、走り出したペンは止まらない。
「基本形態は二足の人型──これは現状の技術でもっとも簡易に達成可能であるからです。肩に砲用のアタッチメント、背中には弾薬ラック。ゴーレム自体は重量を削減して少しでも機動力を確保して、代わりに盾型装甲を……」
「砲は備砲がいいと思います! 持ち替え前提だとコストが嵩みそうです!」
「右腕をそのまま砲にしちゃうのもありかな? 装填だけなら左腕だけでも事足りそうだし…… 弾は…… うん、やっぱり背中に収納だろうなぁ。どっちにしろこいつが背後を取られる=負けだろうし、そこは割り切ろう」
カリンと研司が横から加わり、更にメルのペンが加速する。
「射撃は三脚の方が重心的に安定するんだけど…… 安定脚としての尻尾でも生やすか?」
「片膝立ちの砲撃姿勢でどうでしょう? 片腕で砲の照準操作をさせつつ、もう片方の腕で装填作業。その際、無防備になる前面を盾型装甲でカバー。歩兵直協という役割を踏まえて、弾種は小型目標を薙ぎ払う榴弾と、強固な塁壁や中型個体を相手にする徹甲弾と……」
●
「ゴーレムは砲を据えつける感じの運用で、砲座、砲弾の運搬、弾込め役、ついでに歩兵の盾役も兼ねる、と…… 現状ですぐに出来そうな直近案は出揃ったみたいですね」
大方の意見が出揃ったのを見て、観智がそう会議を締めくくった。
他にも、土や岩といった『現地でも簡単に入手できる』素材で出来たゴーレムの特性を活かした簡易修復案や、遠隔操作性を活かす為、ゴーレムに状況確認用のカメラやセンサーをつける案などが出され、ジョアンが意見として記録する。
「刻令術は『命令した動作を正確に実行する』──つまり、操縦者の技量によらずに安定して動かせると言う利点もあるね。方向と距離を指定するだけで最適の砲撃態勢が取れる形に発展させれば、砲撃の精度と即応性が増すはずだよ。後は命令の細分化と砲の改良だね」
「戦闘中に操作の余裕がある保証はないし、装填・発射を自動と手動に切り替え可能だといいかもな。手動はボタンを押して発射、自動は同じ場所に弾を打ち続ける、みたいに」
解散後、順平と研司の二人がそのような事を挨拶がてらに伝えて去っていった。
最後に部屋に残ったリクが、他機種でも使用可能な手持ち式の砲について要望を述べた後、言った。
「将来的には…… 多国間の共同開発ができるといいですね」
「王国産のゴーレム! ふあぁぁぁ……! 燃えますですね! 王国の技術ここにあり! を示せたら嬉しいですね!」
エルフらしからぬ(←偏見)ハイテンションで拳を上下にぶんぶん振りながら。なぜか椅子の上に正座したカリン(ka5456)が、ジョアンの席と思しき空いた椅子をばんばんと平手で叩いた。
「とは言え、私は技術のことはまだまだ勉強中なのですね。お役に立てるか分かりませんが、お茶とお菓子でもいただきながらお話できたらと思いますですっ!」
勧められた菓子を謝絶しつつ、勧められた椅子に座り。ジョアンは集まったハンターたちに改めてゴーレムの詳細について説明する。
「大砲運用特化ゴーレム……ですか。面白そうですね。中期的な将来案としては……ですけれど」
「失敗すれば高価な粗大ゴミ扱いになるかもしれませんが。うまくいけばこれからの戦いの役に立てるかもしれませんね」
「え?」
「いえ、何も。初めまして、エルバッハ・リオンです。よろしければエルって呼んでください。よろしくお願いします」
白いコートをまるで白衣の様に緩く着こなし、その理知的な瞳で示された開発の概略を精査する天央 観智(ka0896)。その横ではエルバッハ・リオン(ka2434)がいかにも王国貴族然とした佇まいでさらりと小声で毒を吐き。聞き咎めたジョアンに対して笑顔でにっこりと貴族の礼をする。慌てて礼を返すジョアン。王立学校を出たばかりのぼんぼんには、エルバッハが何重にも被った猫の厚さは見破れない。
「砲の運搬、装填、発射がこれ1機で、半自動で…… 凄いよなぁ! こういうの欲しかったんだ!」
一方、向かいの席に座った藤堂研司(ka0569)はその瞳を子供の様に輝かせつつ、身を乗り出すようしてそう言った。人の良さが滲み出ているような青年だった。……だが、筋肉質にも関わらず、どこか貧弱そうに見えるのはなぜだろう?
「これ、無人でも稼動できるのか?」
「いえ、現状では多分、有線式か何かのコントローラーで操作する形になると思いますが……」
「コントローラー! いいなぁ。でも、ある程度は決められた動きがインプットされるんだろ? 操作系の負担は最小限の方がいい。例えばリモコンなら、移動用、砲撃用の十字(っぽい)キー二つ、弾種ごとの装填、発射ボタンくらいの単純操作で!」
ピンと来ないジョアンをよそに、リアルブルー出身者たちが「あー……」と研司のその説明に納得する。
木島 順平(ka2738)もその一人。優しげな微笑が印象的な青少年で、どこからどう見ても普通の少年に見える。……端的に言えば、え? 本当にハンターさんなんですよネ?
「分かりますよ~。『射撃体勢を取れ』のコマンド一つで勝手に武器を構えてくれれば楽ですものね~。細かい操作は照準くらい? 上下左右に動く腕と腰を任意の場所で『停止』、ボタン一つで発砲、装填。移動は前進と旋回だけでも今は十分、かな?」
そのまま会話に花を咲かせる研司と順平。その内容についていけないジョアンに、斜め前方に座ったメル・アイザックス(ka0520)が、内容を分かり易く纏めたメモをそっと差し出した。
「あの…… 良ければ私が要点をメモするよ?」
感動と情けなさでちょっぴり半泣きになりながら頭を下げるジョアン。メルは気にしないでと手を振り、メモを纏める作業に戻る。
(……学校でもこんなレポートを書かされたっけ。……懐かしいな)
窓から差し込んで来る、珍しく暖かな冬の日差しに温みながら…… 転移前の日々を思い返して、メルはちょっぴり涙を拭った。
「では、まず最初に魔導砲についてですが…… 強力な敵に直撃させて大ダメージ! というのは、様々な技術的制約からまず無理と考えてよろしいですね?」
会議の冒頭── まず最初に、挙手をし、優雅に立ち上がったエルバッハが、現在の技術レベルでは精密な照準は出来ないという大砲の問題点を指摘した。
その通りです、とのジョアンの返事に人知れず溜め息を吐き。それを踏まえた上で、とエルバッハは話を続ける。
「過去に経験した歪虚との大規模戦闘では、数が多い雑魚敵は厄介でした。たとえ戦闘力は低くても相応の消耗は強いられますからね…… なので、そういった雑魚敵を纏めて攻撃できるような砲弾が欲しいです」
「点じゃなく面で狙うイメージだな。いいんじゃないか?」
エルバッハの意見を聞いて、研司も大きく頷いた。
「元々、精密射撃が無理な事は分かっているんだし。効果範囲の広い…… そうだな、例えば榴弾とかを撃てれば、大雑把にしか狙えない砲にも意味を持たせられると思う」
「私は敵軍の上空で破裂して広範囲に油を撒き散らすようなものを考えていました。そのまま着火する仕掛けも欲しい所ですが、技術的に無理であれば弓兵が火矢を撃ち込む等の方法でも代用できますし…… 何より、この砲撃自体で敵を斃しきれなくても、燃え盛る炎の壁が敵の進行ルートに対して一定の制限を課すことができるのではないかと考えます」
エルから出されたその案に、キヅカ・リク(ka0038)もまた頷いた。順平とはまた違った意味でごく普通の青少年に見える。先のコントローラーに関しても研司と順平に交じって盛り上がっていたが…… ふとした瞬間、妙に大人びて見える時がある。
「砲弾に独自性を持たせて有用性をアピールする方向はありだと思う。さっきの上空で炸裂するタイプの他にも…… 撃ち込んだ内部から正のマテリアルを炸裂させる特種弾とか」
「火薬で撃ち出すんじゃないんだし、いっそ爆弾をそのまま撃っちゃってもいいかな? 榴弾にも破片、焼夷と種類があるんだし、用途別に撃ち分けできそうだ」
「なら、なら、捕獲用のネット弾なんかもあると幅が広がりそうですよねっ!」
リクの話を口火に盛り上がる研司とカリン。メルから次々と差し出されるメモを一生懸命頭に入れるジョアンの袖を、佐藤 絢音(ka0552)がくいくいと引っ張った。──見た目、10歳にも満たない可憐な少女である。多分、ハンターの誰かが連れて来た妹か誰かだとジョアンは思っていたのだが……
「……現状の砲なら、有効な砲弾はキャニスター弾なの」
「きゃに…… え……?」
「キャニスター弾。簡単に壊れる缶の容器に小さな弾を沢山込めて発射すると、広範囲を殲滅する威力になるの。最悪、大砲に釘とか鉄片を詰め込んでぶっ放すとかでもいいの」
最後にグッと親指を立てて見せ── 絢音はてとてとと自分の席に戻ると椅子の上へとよじ登る。
困惑するジョアンをよそに会議は進む。多種多様な砲弾を運用できる、という仕様に関しては、ハンターたちの間で意見の一致を見たようだった。
「うん。低命中を補う高火力と、付加効果付きの砲弾を駆使することができれば、独自性と売りを作れるし」
順平もまたそう言って、思いついた特種砲弾の案を上げた。
威力重視の通常弾。範囲攻撃の散弾。行動を阻害する煙幕弾。格闘士の『鎧徹し』の如く、敵の防御効果を無視する徹甲弾……
「徹甲弾?」
「円弾と違って先の尖った…… こう、硬くて重い弾なんだよ~」
「どんぐりの様な形状の砲弾を想像してみてください。ライフリングによって回転運動を与えられたそれが目標の装甲を貫通する…… その様な砲弾です」
順平の言葉を継いで、観智がそう説明した。
さらに「中期的な将来の展望として」と前置きをした上で、己の私案──技術の進化を見据えた構想を披露する。
「砲はいずれ後装式にするとして…… 砲を据えつけるなら砲身命数は長い方が良いですし、ライフリングせず、安定翼付きの砲弾を滑空させる方向性で。弾単体のコストは跳ね上がりますが、噴進弾仕様が良いですね」
また聞きなれない単語に目をグルグル回しながら、メモの説明書を手にジョアンはどうにかついていく。
「噴進弾…… 弾自体に推力を持たせるのですか!?」
「ええ。曲射は出来なくなりますが、ほぼ直進軌道で飛翔する為、狙いはつけ易くなり、命中精度も高くなります。後は、方式は何でも構いませんが、弾に込めた余剰マテリアルを炸裂させられるようにできれば……」
そこまで滔々と語った観智は…… いよいよ頭から知恵熱の湯気を発し始めたジョアンに気づいて、一旦、自案の披露を止めた。
「……まぁ、何にせよ、これは更なる技術的革新を必要とする話です。将来を見据えた中長期的ビジョンとして、頭の隅にでも留めておいてください」
やがて、会議の内容は砲を運用するゴーレム自体の話に移った。
「この前の作業用ゴーレムとは別の、本格的な戦闘用、か…… 機動力がない、ってことだけど、移動力だけでもどうにかしたいな」
実際にゴーレムを動かしてみた実験時の数値を見やって、リクが難しい表情で言った。
「技術的に可能なら、キャタピラ型の脚部に変更できないかな? 様々な環境での使用を想定した場合、二足歩行より走破性に優れている場合がある」
きゃた…… とまた小首を傾げるジョアンに、リクはさらさらと絵を描きながらその理屈と概念を説明する。
「あやねもごーれむさんが人型である必要性はないと思うの」
「だよな」
「ぶっちゃけ、車輪でも問題ないと思うの。今回の運用で言えば、砲台に脚を生やすだけでもいいの」
「ええっ!? いや、砲撃の際の安定性を考えると無限軌道の方が……」
盛り上がる(?)リクと絢音をよそに、ジョアンは一人、考え込んだ。
「パーツが細かい…… どうしても生産性と価格の問題が出てきてしまいますよ?」
「作業用ゴーレムとの兼ね合いもある。こちらは高価格帯でもいい。その代わり、特徴は最大限伸ばした方がいい」
「ええっ!?」
驚いたのは順平だった。
「そこは低価格だと嬉しいなぁ…… まず何より使ってもらわなければ始まらないし、って言うか、高いと僕が買えなくて困るんだよ~」
「しかし……」
喧々諤々と始まる議論。まさかの『この会議一番の盛り上がり』にジョアンが目を丸くする。
「あのー……」
意見が散々出た後で、最後にカリンがおずおずといった感じで手を上げた。
「……ゴーレム本体の方は、一番作り易い形でいいと思うのです。……この間の大規模作戦では砲戦型CAMを借りて砲撃戦をやってみたですが、あんまりうまくいかなかったのですね。一番の原因は数を揃えられなかったことだと思うのです」
「つまり?」
「お値段! これは凄く大事です! 魔導アーマーの100万を下回るくらいが嬉しいです!」
拳をギュッとして力説するカリン。再びジョアンの袖を絢音が引っ張る。
「あやね、常々思ってたの」
「……何を?」
「高価なCAM1機より、安価な砲10門の方が何倍も強いの。将来的にはMLRSみたいなのにすれば、歪虚王もイチコロなの」
「えむえる…… え?」
「イチコロなの」(グッと親指)
最後に、それまでメモを取ることに徹していたメルが挙手をした。皆の意見を聞き、自分なりに案を纏めてみたらしい。
「ゴーレム本体の打たれ強さと、大口径だけど低精度な大砲に注目して…… リアルブルーの戦史も参考に『突撃砲』タイプのゴーレムを提案します」
突撃砲──前線の部隊と行動し、歩兵を直接支援する砲兵器。用途は強固な陣地の突破や拠点の防衛──よって機動性は切り捨てられる。
「役割が絞られれば、構造も簡易にできる。装甲配置を前面に割り振る事で重量とコストを削減できれば、結果、量産が期待でき、より多くの一般部隊の被害を減らせる事に繋がる……」
「前面を盾で守りながら、歩兵部隊の前に展開。前進し、砲弾を発射後に、歩兵が進行して制圧する…… うん、歪虚王みたいな、雑魚が沢山いるのに有効な戦術になるの」
「そう! キャッチコピーは『CAMより身近で、魔導アーマーよりも安全安価』! ゆくゆくは『王国歩兵の頼れる相棒』に、ですよ!」
絢音の言葉に頷くメル。いつの間にか、彼女が記すメモは文字からイラストに変わっていた。構想を口ずさみつつ、走り出したペンは止まらない。
「基本形態は二足の人型──これは現状の技術でもっとも簡易に達成可能であるからです。肩に砲用のアタッチメント、背中には弾薬ラック。ゴーレム自体は重量を削減して少しでも機動力を確保して、代わりに盾型装甲を……」
「砲は備砲がいいと思います! 持ち替え前提だとコストが嵩みそうです!」
「右腕をそのまま砲にしちゃうのもありかな? 装填だけなら左腕だけでも事足りそうだし…… 弾は…… うん、やっぱり背中に収納だろうなぁ。どっちにしろこいつが背後を取られる=負けだろうし、そこは割り切ろう」
カリンと研司が横から加わり、更にメルのペンが加速する。
「射撃は三脚の方が重心的に安定するんだけど…… 安定脚としての尻尾でも生やすか?」
「片膝立ちの砲撃姿勢でどうでしょう? 片腕で砲の照準操作をさせつつ、もう片方の腕で装填作業。その際、無防備になる前面を盾型装甲でカバー。歩兵直協という役割を踏まえて、弾種は小型目標を薙ぎ払う榴弾と、強固な塁壁や中型個体を相手にする徹甲弾と……」
●
「ゴーレムは砲を据えつける感じの運用で、砲座、砲弾の運搬、弾込め役、ついでに歩兵の盾役も兼ねる、と…… 現状ですぐに出来そうな直近案は出揃ったみたいですね」
大方の意見が出揃ったのを見て、観智がそう会議を締めくくった。
他にも、土や岩といった『現地でも簡単に入手できる』素材で出来たゴーレムの特性を活かした簡易修復案や、遠隔操作性を活かす為、ゴーレムに状況確認用のカメラやセンサーをつける案などが出され、ジョアンが意見として記録する。
「刻令術は『命令した動作を正確に実行する』──つまり、操縦者の技量によらずに安定して動かせると言う利点もあるね。方向と距離を指定するだけで最適の砲撃態勢が取れる形に発展させれば、砲撃の精度と即応性が増すはずだよ。後は命令の細分化と砲の改良だね」
「戦闘中に操作の余裕がある保証はないし、装填・発射を自動と手動に切り替え可能だといいかもな。手動はボタンを押して発射、自動は同じ場所に弾を打ち続ける、みたいに」
解散後、順平と研司の二人がそのような事を挨拶がてらに伝えて去っていった。
最後に部屋に残ったリクが、他機種でも使用可能な手持ち式の砲について要望を述べた後、言った。
「将来的には…… 多国間の共同開発ができるといいですね」
依頼結果
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面白かった! | 6人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/25 11:40:11 |