温泉饅頭とは何か?

マスター:江口梨奈

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/08/16 07:30
完成日
2014/08/23 19:21

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 △△村に1軒だけ、小豆農家があるらしい。

 ここは、温泉旅館『紅海月(べにくらげ)荘』。
 もとは、保養客用に作られた小さい宿泊施設だったが、リアルブルーの日本とかいうところから来た某人が、たまたま旅行ガイドブックを持っており、それを見た亭主が面白がってニホン・オンセン式の宿屋に改築したものである。従業員(といっても、家族だけだが)はキモノで出迎え、客室は床に直接布団を敷き、温泉は体を浸すものにし、その浴室は広く、岩で囲い、全身が入る深さにし、着衣無く浸かるスタイルにした。正しいか正しくないかはさておき、一風変わった形式の宿屋だと言うことで、そこそこ高評価をもらっている。
 ある日、また別の日本人が宿を利用した。その客は「懐かしいな」を連発し、何度も湯に浸かっていた。そして帰り際、こんな事を言い残したのだ。
「温泉卵や、温泉饅頭があればもっと面白いかもね」
 それはなんだ!? 亭主がすごい形相で食いついた。思いがけない反応に、客はたじろぐ。
「いや、温泉の湯気で蒸かした、卵とか饅頭とか……」
「卵は分かる。でもマンジュウとは?」
「えー、ほら、中にあんこの入ったお菓子で……」
「アンコ? なんだ、それは!!?」
 いや、自分も本職じゃないから詳しくは、と、客はしどろもどろになり、逃げるように宿を出て行った。残された亭主は謎を解明すべく、あらゆる情報を集めるのに奔走した。
 そこで分かったことは、アンコとは、アズキという豆を甘く煮てペーストにしたものらしい。しかし、アズキとは初めて聞く名前だ。調べて調べて、ようやく分かったのは、△△村の老農夫が、道楽で珍種を育成している、そのひとつにあるらしいということだった。

 亭主は、温泉饅頭へ辿り着くまでの障害の多さにいささか辟易していた。
 まず、それがどんなものか分からない。
 菓子であるらしいが、その製法はおろか、材料すら不確定だ。
 アズキなる豆が必要とのことだが、どうやらかなり希少なもののようだ。
 △△村で育てられているようだが、商品になるほどの量かどうか分からず、そもそも売ってもらえるかも分からない。
 そして……そんなワケの分からないものに労力を裂けるほど、今の旅館には人員の余裕はなかった。
「ソット! ソットはいるか?」
 亭主は、16歳になる末娘の姿を捜した。今、この家でいちばん自由に動けるのは、いちばん下っ端のこの娘である。
「父ちゃん、何?」
「おまえ、△△村に行って、アズキを育ててる家を探してこい」
「はぁ? 歩いて3日はかかるじゃん! その間の旅館の仕事はどうすんのよ?」
「馬車ぐらい出しちゃるし、手伝いも呼ぶわ。そんで、ハンターオフィスから何人か呼ぶから、みんなで、アズキって何か、アンコって何か調べてこいやー」
「給料、上乗せせぇやー」

 さて、その頃。
 ワッサンという老農夫が、ギックリ腰に呻き声を上げていた。
「くう~~……、こうしている間にも雑草が……、そろそろ色づく莢もあるというのに……」

リプレイ本文

●紅海月荘(1)
 家族だけで経営している小さな旅館だが、だからこそ人手は豊富ではない。亭主の珍妙なこだわりのせいで、その人手の一つが数日間無くなってしまう。それを埋めるのも、ハンター達に託された大事な任務である。
「ニホンの旅館の、マカナイってのは美味しいと聞いたんだけど……期待していいのかな?」
 慣れないキモノを着せられて、客室のあっちこっちを動き回るルリ・エンフィールド(ka1680)は、厨房に入っているセレナイト・アインツヴァイア(ka0900)の姿を思い浮かべて、にんまりした。彼は手伝いだから重要な料理はしていないだろうから、もしかしたらマカナイとやらを作るかもしれない。料理は得意だと言っていたから、楽しみだ。
 そのセレナイトは勉強熱心なもので、ここにくるまでにオンセンマンジュウについて色々と調べていた。もっとも、この世界で手にはいる情報は、ここの亭主が調べた内容とそう変わらず、まさに日本生まれの水雲 エルザ(ka1831)の助言が無ければ、姿形すら分からなかっただろう。
「まさか此方に渡って、その名前を聞くとは思いませんでしたねぇ」
 とエルザは言うが、彼女にとってもこの異世界で思い描いたとおりに作れるとは限らない。
「中のアズキペーストは、仲間連中が戻ってからとして……周りの、包む生地の方だな?」
「粉と砂糖とふくらし粉を混ぜて……このザルは、蒸し器に使えるかしら?」
 などと相談をしながら、厨房の隅っこを借りて試作品を作っていく。
 おそらく、これがルリ達の、今日のマカナイになるだろう。

●小豆農家(1)
「そもそも、マンジュウって何なの?」
 村へ向かう道中、話を聞く時間はたっぷりある。呑気な音を立てて進む馬車に揺られながら、マリーシュカ(ka2336)は足立 正太郎(ka2586)と坂斎 しずる(ka2868)に尋ねた。ありがたいことに、リアルブルーから来たハンターが何人も、今回の依頼に加わっている。パルムが集めきれない情報も、直接知っている人間から聞き込めばいいのだ。
「食べればその店の腕前が分かると言われるほど、難しいお菓子ですよ。ご主人は、豆のペーストなどと風情のないことを仰っていましたが、日本では餡子と言います」
 正太郎も、持っている全ての知識を披露する。簡単に作ろうと思えばいくらでも簡単にできるが、こだわろうと思えばどこまでもこだわれる、それが菓子というものだ。
「本来なら、ふくらし粉を使うのは邪道なのですが……紅海月荘の温泉が炭酸泉なら、それで生地を膨らませられますが……ソットさん、どうなんでしょう?」
「残念ながら、そうじゃないわ」
 尋ねられてソットは、残念そうに首を振る。もし炭酸泉なら、それを使うことがこだわりの一つに加えられたかもしれないのに。
「あとはご主人が、どこまでニホン式を目指すか、ですね」
 正太郎の手元には、交渉時に使うための亭主の描いた温泉饅頭の販売企画書……というには脆弱な、単なる想像図がある。手のひらに収まる小振りな丸い形のものが、旅館の名前の入った箱に4個、綺麗に並んだ絵だ。おおむね、日本で売られている温泉饅頭と似たようなものである。
「あ、村が見えたよ」
 ミノア・エデン(ka1540)が馬車から身を乗り出して指をさす。彼女がさした先には、いくつかの家と畑が点在する、小さな村があった。
 いちばん手前の、ナス畑にちょうど人がいたので、声をかけてみた。
「なんじゃ、こんな村に、大勢で」
「ミノアたち、人捜しをしてるんだよ」
 馬車を降り、帽子を脱いで挨拶をする。
「このあたりに、アズキを育てている家があるって聞いたんだけど、おじさんは知ってるかな?」
「アズキ?」
 農夫はしばし首をかしげたが、すぐに思い当たったのか、「ああ」と言った。
「アズキかどうか分からんが、あんたら、ワッサンを捜してんだろ? わしらの知らん、へんな作物ばっかり育ててる偏屈じいさんだ。この先だけど、気をつけろよ」
「何か危険でも?」
「腰を痛めて動けないってんで機嫌が悪くて、偏屈に輪がかかってる」
「それはいいことを聞きましたわ」
 マリーシュカは何やら意味ありげに微笑んだ。

 ナスやカボチャの畑をしばらく進むと、急に見慣れない葉の茂る畑が現れた。
「何かしら、この大きな葉っぱ」
「これ、ヘンな実が成ってるよ! ゴツゴツしてる」
「それにしても……雑草がひどいですね」
 ざっと、辺りを見回すと、あちらこちらに雑草が伸びてきている。どうやら畑の持ち主は、十分な手入れを出来ない状態であるようだ。
「なんじゃ、あんたらは!?」
 と、脇にある家から白髪の老人が、這うようにのっそりのっそり姿を見せた。いきなり人の畑をじろじろ見ているハンター達を、不審そうな目で見ている。彼が、ワッサンだろう。
「ああ、どうぞ、ご無理をなさらずに」
 正太郎が慌てて近づき、体を支えてやる。
「なんじゃ、あんたらは」
 もう一度聞く、それにソットは進み出て、まず名乗った。
「ソット・クーランと申します、人を捜しておりまして……」
 が、それをマリーシュカは制し、変わって前に出た。
「マリーシュカですわ。……この先のナス畑にいた方から伺ったのですが、腰を痛めていらっしゃるそうですね?」
「それがどうした」
「よろしければ、何かお手伝いさせていただけません? こちらの畑は珍しいものが植わっているのに、雑草が邪魔をして可哀想ですわ」
 マリーシュカの申し出に、ワッサンの顔から険しさがやや消えた。彼女が、この畑の価値を分かっていると察したのだ。
「そりゃ、ありがたいが……でも、そんな格好で?」
「ご心配なく、エプロンを持参していますので」
 正太郎が取り出したのは、家事をするときにいつも使っているビクトリア調のクラシカルメイド服。
「…………まあ、手袋と長靴ぐらいはあるから、納屋から適当に持って行きな」
 老人は、特にツッコミは入れなかった。

●紅海月荘(2)
 居残り組による饅頭試作は、順調に進んでいた。
「エンドウ豆があったから、煮てみたぜ!」
 ルリは、アズキが豆というヒントから、厨房に残っている豆を片っ端から砂糖で煮てみた。レンズ豆、ソラ豆、ヒヨコ豆……。普段、スープに入ってるようなものが甘く煮られてペーストになっているのは不思議だった。
「豆の皮って、意外と口に触るな」
「ですが、皮を残した方が風味が高いんですのよ」
 一長一短。アズキの皮はどの程度硬いものだろうか、と心配になる。
「生地はどうかな?」
「酒饅頭ってのがあるらしいから、ここの旅館で出してる酒を混ぜてみたぜ」
「さすがに、日本酒ではないのね。でも、ぶどうの紫色が、綺麗に出ましたわね」
 これもまた、生地にコクがでていいかもしれない。
「問題は、アズキが手に入らないか、入ったとしても思ったほどの味じゃなかった場合、だな」
 懸念することはいくらでもある。無事に分けてもらえても、商品として売るほどの量ではないかもしれないし、実はとんでもなく育てるのが難しい豆なら、とんでもない価格になるかもしれない。
「俺なりに調べてみたんだけどさ、温泉で売ってさえいれば、温泉饅頭を名乗れるそうだな?」
「褒められたものじゃありませんが、そんな商品も多いですわ」
 リアルブルーの実情を知るエルザは、頭を振る。
「否定的な話じゃないぜ。つまり、『この温泉旅館でしか売られていない』饅頭を作ればいいってことだろ、な?」
「言葉が足りないぜ。この旅館でしか手に入らない、『うまい』饅頭、だ!」
 ルリがぴしゃりと訂正した。そうこう言っている間に、次の饅頭が蒸かし上がる。セレナイト考案の、カラメルソース入りの饅頭だ。
「よおっし、お客さんにも味を見てもらおうぜ!」
 と、ルリは張り切って、キモノのたすきを締め直した。

●小豆農家(2) 
「おじいちゃん、この辺のこれは、抜いてもいいんだよね?」
 野宿生活で野山の草花のお世話になっているミノアにとっても、ここにあるものは見たことのない野菜ばかりなので、どれが作物でどれが雑草か分からない。ひとつひとつ、ワッサンに尋ねながらの作業となるが、ワッサンも自分が植えてあるものを自慢したいのか、聞く度に作物についての思い入れを語り出す。
「……えーと、こっちは終わり! おじいちゃん、他になにか出来ること、あるかな?」
「そうじゃのう。そこの豆、枯れてるヤツだけ選って、摘んでくれるか?」
 ワッサンが指さしたのは、腰丈ほどの豆の木だ。小さい莢が、青いのと熟したのと、半々ぐらいに実っている。
「これは、なに?」
「小豆じゃ。黄色い花が咲くぞ」
「ああ、そうそう」
 まるで今、思い出したかのように、マリーシュカはぽんと手を叩いた。
「あたし達、この小豆を分けて頂きたくて、お伺いしたのでしたわ」
 それを聞いて、これまでにこやかだった老人の口が、への字に結ばれた。ソットとハンター達の顔を順番に、じっとり見回す。
「……嬢ちゃん、腹黒いのぅ。始めっからそのつもりで、手伝いを言いだしたのか?」
「あら、そんなことはありませんわ。ギックリ腰のことを小耳に挟んで、無視出来なかっただけですわよ」
 しばし睨み合う、ワッサンとマリーシュカ。しかし、ワッサンは急に噴き出し、それからげらげら大笑いをした。
「まあええわ、こんだけ手伝われたら、駄賃ぐらいやらんとな」
 そう、ワッサンの決して狭くない畑は、最初にハンター達が来たときとは比べものにならないほど、綺麗に手入れがなされていた。
「えーと、種があったらええのか? それとも、何本か抜いて持って行くのか?」
「収穫した実を、できればたくさん」
「はあ?」
 驚いた顔をするワッサン。
「小豆っちゅうのは、渋くてたいして旨くないぞ。どうするんだ?」
「お菓子の材料にするんですよ」
「はああ?」
 どうやらワッサンもまた、小豆が餡子になることを知らないらしい。
「台所をお借りして、よろしいですか」
 正太郎が、豆の品質を確かめるのも兼ねて、実際に少し炊いてみる。砂糖を入れて、ことことと数時間。できあがった柔らかい餡子を、ワッサンはじめ、初めて餡子を見るクリムゾンウェストの人間も手を伸ばす。
「…………なんじゃ、これはーーーー!!???」

●温泉饅頭とは何か?
 小豆と、試作餡子が到着して、亭主は腰をぬかさんばかりに驚いた。なんだ、この美味は? 青臭い豆とは全然違う、やさしい香り。さらさらした口当たり。綺麗な赤い色。
「おい、セレナイトくん。すまんが、あの紫の饅頭生地は使えん。このアンコには、白い生地が欲しい!」
「ああ、俺も賛成だ! 旦那、もう一回厨房を借りるぞ!」
「いくらでも使ってくれ!!」
 興奮した様子の試作チーム。それほどまで、異国情緒ただようこの餡子は魅力的だった。
 これは間違いなく、この旅館の名物になるだろう。誰に恥じることのない、『紅海月温泉饅頭』が出来上がるかもしれない。
「無事に分けてもらえてよかったよ。ねえ、どんな話をしてきたんだい?」
 ルリが聞くと、ソットは恥ずかしそうに鼻を掻いた。
「……実はさ、あたしは何も言ってないんだよねー。甘い豆の菓子の話をしただけでさー。でもって、出来た饅頭を持ってこい、それが代金だ、って言われちゃった」
 ソットの手には、父親が描いた饅頭の想像図がある。あの、豆を甘く炊くことを知らなかった老人は、この拙い絵でも喜んでいた。珍しいからというだけで道楽で育てていた己の作物に、こんな可能性があったとは思わなかったからだ。

「個人的に温泉といえば、やはり卓球と、お風呂上りの牛乳は欠かせないかな、と思うんですが、ね~」
 エルザの言葉に、亭主の目が光り、ソットの顔が凍った。
 それはなんだ!? 亭主がすごい形相で食いついた。思いがけない反応に、エルザはたじろぐ。
「牛乳は分かる。でもタッキュウとは?」
「いえ、あの、テーブルテニスと言えば分かるかしら? 大きめの卓に向かい合って、スリッパで玉を打ち合うのですわ……」
「スリッパ!? なんだってそんなもので!!?」
「ああ違います、それは特殊なルールで……」
 余計なことを言ったかもしれない、エルザは後悔した。
「ソット! ソットはどこだ?」
 亭主は、末娘の姿を捜した。
 けれど、これ以上父親の思いつきに付き合っていられないと、ソットはとうに姿をくらましてしまっていた。

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重体一覧

参加者一覧

  • 遙けき蒼空に心乗せて
    ユキヤ・S・ディールス(ka0382
    人間(蒼)|16才|男性|聖導士
  • 森の守人
    セレナイト・アインツヴァイア(ka0900
    エルフ|25才|男性|猟撃士
  • サバイバー
    ミノア・エデン(ka1540
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 大食らいの巨剣
    ルリ・エンフィールド(ka1680
    ドワーフ|14才|女性|闘狩人

  • 水雲 エルザ(ka1831
    人間(蒼)|18才|女性|霊闘士

  • マリーシュカ(ka2336
    エルフ|13才|女性|霊闘士

  • 足立 正太郎(ka2586
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • シャープシューター
    坂斎 しずる(ka2868
    人間(蒼)|26才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談用
水雲 エルザ(ka1831
人間(リアルブルー)|18才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2014/08/15 22:39:17
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/08/13 23:52:33