ゲスト
(ka0000)
【節V】豆のかわりに金平糖?
マスター:紺堂 カヤ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 5~13人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/01 19:00
- 完成日
- 2016/02/07 23:12
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
窓の外は北風が吹きすさぶ季節だが、大きな暖炉のある家の中は暖かだ。
「あーあ、退屈ねえ~」
その暖炉の近くでごろごろしながら呟いたのは、栗色の豊かな髪を持った少女だ。彼女は、近頃グラズヘイム王国で業績を伸ばし始めた宝石商、モンド家の一人娘・ダイヤである。今年十五歳になったばかりだ。
「お嬢様、お行儀が悪いですよ」
うんざりした口調でダイヤを見下ろしているのは、彼女の世話係として雇われている、クロスという青年だ。年齢はダイヤよりも少し上で、十七歳。
「だってつまらないんですもの~。何か面白いことがしたいわ」
「面白い顔でも踊りでもしたらいいじゃありませんか。鏡をお持ちしましょうか?」
「面白さを自給自足しろって!?」
ダイヤは寝転がったまま、この失礼な世話係を蹴飛ばした。とても使用人の言葉とは思えないのだが、ダイヤがいくら怒っても彼は一向に改める様子がない。
「だって仕方がないじゃありませんか。お嬢様にはお友だちいないんですから」
「うっ」
そうなのだ。ダイヤは今こそ元気いっぱいの少女であるが、小さな頃は体が弱く、外へ出ることが難しかった。勉強もすべて家庭教師をつけていたため、学校へも行かずじまい。友だちと呼べる相手はいなかった。
「う、うるさいわねぇえ!! あ、そうだわ、クロス! いいことを思いついた!」
ダイヤがぴょん、と飛び起きると、クロスは顔をしかめた。いいこと、に喜んでいるようにはとても思えないが、ダイヤは無視をする。
「豆まきをしましょう!」
「豆まき、ですか?」
「そうよ! 東方での風習らしいの。この時期に、鬼に豆をぶつけて、無病息災を願うのよ。あ、もちろん、本物の鬼じゃないわよ、人が模すのよ」
「ああ、聞いたことはございます。……それにしても無病息災なんて難しい言葉をよく御存じでしたね、お嬢様」
「一言余分よっ!!」
ダイヤは今度は立った状態で蹴りを繰り出す。が、クロスはそれをひらりと避けた。
「ったく。とにかく。その豆まきをしたいの。私、やったことなかったのよね! うーん、でも、豆じゃあ、なんか可愛くないわねえ。……そうだわ、コンペイトウにしましょ!」
「金平糖、でございますか?」
「そうよ。カラフルで可愛いでしょ? それに、近頃は豆が手に入りにくくて困ってるらしいじゃない? わざわざ手に入りにくいものを探さなくてもいいわ」
うんうん、と悦に入って頷くダイヤだが、クロスは首を傾げた。
「品薄になっているのはチョコレートの原料という話ですから、豆は豆でもカカオ豆なのでは?」
「どっちでもいいわよー、とにかく私はコンペイトウで豆まきするんだから!」
「はあ……。しかしお嬢様」
「何よ」
急に真面目な顔になったクロスに、ダイヤは身構えた。クロスは、真剣な面持ちのまま、こう言った。
「大切なことをお忘れです。豆まきは、一人ではできません。そして、お嬢様にはお友だちがおられません」
ダイヤの顔が、みるみる赤くなった。
「う、う、う、うるさーいっ!!!!! それをなんとかするのが世話役の仕事でしょ!!!!!」
「あーあ、退屈ねえ~」
その暖炉の近くでごろごろしながら呟いたのは、栗色の豊かな髪を持った少女だ。彼女は、近頃グラズヘイム王国で業績を伸ばし始めた宝石商、モンド家の一人娘・ダイヤである。今年十五歳になったばかりだ。
「お嬢様、お行儀が悪いですよ」
うんざりした口調でダイヤを見下ろしているのは、彼女の世話係として雇われている、クロスという青年だ。年齢はダイヤよりも少し上で、十七歳。
「だってつまらないんですもの~。何か面白いことがしたいわ」
「面白い顔でも踊りでもしたらいいじゃありませんか。鏡をお持ちしましょうか?」
「面白さを自給自足しろって!?」
ダイヤは寝転がったまま、この失礼な世話係を蹴飛ばした。とても使用人の言葉とは思えないのだが、ダイヤがいくら怒っても彼は一向に改める様子がない。
「だって仕方がないじゃありませんか。お嬢様にはお友だちいないんですから」
「うっ」
そうなのだ。ダイヤは今こそ元気いっぱいの少女であるが、小さな頃は体が弱く、外へ出ることが難しかった。勉強もすべて家庭教師をつけていたため、学校へも行かずじまい。友だちと呼べる相手はいなかった。
「う、うるさいわねぇえ!! あ、そうだわ、クロス! いいことを思いついた!」
ダイヤがぴょん、と飛び起きると、クロスは顔をしかめた。いいこと、に喜んでいるようにはとても思えないが、ダイヤは無視をする。
「豆まきをしましょう!」
「豆まき、ですか?」
「そうよ! 東方での風習らしいの。この時期に、鬼に豆をぶつけて、無病息災を願うのよ。あ、もちろん、本物の鬼じゃないわよ、人が模すのよ」
「ああ、聞いたことはございます。……それにしても無病息災なんて難しい言葉をよく御存じでしたね、お嬢様」
「一言余分よっ!!」
ダイヤは今度は立った状態で蹴りを繰り出す。が、クロスはそれをひらりと避けた。
「ったく。とにかく。その豆まきをしたいの。私、やったことなかったのよね! うーん、でも、豆じゃあ、なんか可愛くないわねえ。……そうだわ、コンペイトウにしましょ!」
「金平糖、でございますか?」
「そうよ。カラフルで可愛いでしょ? それに、近頃は豆が手に入りにくくて困ってるらしいじゃない? わざわざ手に入りにくいものを探さなくてもいいわ」
うんうん、と悦に入って頷くダイヤだが、クロスは首を傾げた。
「品薄になっているのはチョコレートの原料という話ですから、豆は豆でもカカオ豆なのでは?」
「どっちでもいいわよー、とにかく私はコンペイトウで豆まきするんだから!」
「はあ……。しかしお嬢様」
「何よ」
急に真面目な顔になったクロスに、ダイヤは身構えた。クロスは、真剣な面持ちのまま、こう言った。
「大切なことをお忘れです。豆まきは、一人ではできません。そして、お嬢様にはお友だちがおられません」
ダイヤの顔が、みるみる赤くなった。
「う、う、う、うるさーいっ!!!!! それをなんとかするのが世話役の仕事でしょ!!!!!」
リプレイ本文
豆まきならぬ、金平糖まき、で遊ぶという、一風変わった依頼を受けたハンターたちは、モンド邸の大きな門の内側に招き入れられた。入ってすぐに出迎えたのは黒髪の青年であった。
「皆様、本日はご足労いただきまして誠にありがとうございます。ダイヤお嬢様の世話役の、クロスと申します」
深々とお辞儀をしたクロスにステラ=ライムライト(ka5122)がぴょこんとお辞儀を返す。
「こちらこそ、お招きありがとうございます! とっても楽しみにしてきました!」
「それは有難いことでございます。屋敷内へご案内致します、どうぞ」
クロスが広々とした庭を真っ直ぐに突っ切っている道を先導する。
「ねえ、来ておいてから言うのもなんだけど、豆まきって身内でやるのが普通でしょ?」
クロスの背中にそう投げかけたのは岩波レイナ(ka3178)だ。クロスは歩みを止めることなく頷いた。
「左様でございますね。ですがダイヤお嬢様のご両親はいつもお仕事でお屋敷にいらっしゃいませんし、それに……、お友だちがおられませんから」
「友達がいないぃー!?」
「一人もいねーの? マジで?」
レイナの後ろから大伴 鈴太郎(ka6016)も驚きの呟きを漏らした。首をひねるのは朝霧 桜華(ka6050)だ。
「なんでいないんだろう……?」
よほどそのダイヤお嬢様という娘は性格が悪いのだろうか、などと考えてしまう。
「……あちらが迷路小屋、そちらが図書館、向こうが温水プールでございます」
クロスは、本邸と見られる屋敷の周りの別棟を示して説明をした。やや唐突にも思えるその発言の意図に気が付いたマリィア・バルデス(ka5848)やグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が、なるほど、と頷く。外待雨 時雨(ka0227)が首を傾げた。
「どういうことでしょう……」
「敷地内に必要な施設があり、外へ出なくても良かった。だから友だちがいないままだ、ってことだろ?」
クロスよりも先に、ザレム・アズール(ka0878)がそう言った。クロスはそれに頷く。
「敷地内の施設を味わい尽くしているうちに、お友だちを作る機会を逃してしまった、おバカな……いえ、失礼、哀れな方です」
「わあ!」
屋敷の広間に案内され、卯月 瑞花(ka6019)が思わず感嘆の声を上げた。
「こんな綺麗な広間で豆まきをして、本当にいいのかな」
ピオス・シルワ(ka0987)は言葉の内容の割には楽しげに言って天井をぐるりと見渡した。と、広間に人影があることに気が付く。もしや、と思ってよくよく見ようとするが、その人影は、クロスが広間に入って来たとみるとすぐに彼の後ろに隠れてしまった。クロスがわざとらしくため息をつく。
「お嬢様、可愛こぶってないできちんとご挨拶なさってください」
「可愛こぶってなんていないわよ、失礼ね!」
意外にもしっかりとした声が響いて、けれども、動作はいかにもおずおずとした様子で、その人物が姿を見せた。栗色の豊かな髪に、白い肌、大きな瞳。なかなかの美少女と言ってよい容姿をしていた。
「……ダイヤ・モンドでございます。本日はお集まりいただいてありがとうございます」
視線を泳がせながらの挨拶は人付き合いに慣れていないことが手に取るようにわかるものだった。その様子を好ましく思いつつ、瑞花が朗らかに挨拶を返した。
「今日はよろしくですっ! 楽しませてもらうねぇ♪」
それにダイヤはぎこちなく頷く。
「それでは……、豆まき、ではなく、お嬢様は金平糖まきをなさりたいということですので、そちらの、ルールを簡単に説明させていただきます」
クロスはできぱきと先へ説明を始めた。
まく側は金平糖をまいて鬼を右側の壁に退けることを目指す。ただし、制限時間後、手元に「ちょうど自分の年の数だけ」金平糖を残すこと。鬼は壁へ追いつめられることなく、制限時間まで踏みとどまることを目指す。最終的に、制限時間後に「金平糖を年の数だけ残せた人」と「踏みとどまった鬼」の数が多い方が勝ちとなる。
まずは鬼側とまく側に分かれなければならない、ということで、各々が希望を出した。
「俺は見ての通り鬼だ」
頭のてっぺんから足の先まで、見事に全身を鬼のコスチュームで包んだザレムがニパ、と笑う。金棒まで持って本格的だ。その完成度に、ダイヤが目を丸くしている。
「ダイヤお嬢、一つお手柔らかに。こんな美人だと知ってたら、ちゃんとした服で遠乗りに誘ったのに」
ダイヤは目を丸くしたまま、みるみる赤くなって顔を俯かせてしまった。すかさずツッコミを入れるのはクロスだ。
「何を一人前に照れてるんですか?」
「う、うるさいわねえ!」
「えー、チーム分けを整頓します」
ダイヤの声をさらっと無視してクロスが進める。一同はそれを苦笑しつつ眺めた。
「鬼側が、外待雨さま・アズールさま・シルワさま・岩波さま・バルデスさま・卯月さま。まく側が、グリーンウッドさま・ライムライトさま・大伴さま・朝霧さま……と、ホスト側なのにおもてなしなさらないダイヤお嬢様。これで、よろしいですね」
「なんか余計なセリフ入ったわよ!?」
「では、まく側の方々に金平糖を配ります。最初の持ち数は全員、100粒です」
「無視!?」
ハンターたちには恥ずかしそうにするくせに、ダイヤはクロスにはぎゃんぎゃんかみつく。
「面白い人だねえ、ダイヤちゃんもクロスさんも」
瑞花がくすくす笑いながら、仕込んできたらしいトラ柄のビキニ姿で臨戦態勢を整えた。
「負けねーからな、ミカ!!」
配られた金平糖の袋を握りしめて鈴太郎が啖呵を切る。その後ろで、ステラが何やらごそごそ作業をしていたかと思うと、満足そうに頷いて、ダイヤのもとへ駆けて行った。
「一緒に頑張ろうね、ダイヤさん!」
「え、ええ」
太陽のように明るいステラの微笑みに、ダイヤも表情を和らげた。ステラは一層にこにこしてルールを確認する。
「こっちが勝つには、鬼を退治するんじゃなくて最後ので決まるんだよね」
「歳の数だけ金平糖を手元に残すんだろう? 俺は今24歳だから、使えるのは76個か?」
グリムバルドが計算する。そこへ、クロスが声をかけた。
「この線を境にして、鬼はこちらへ、まく方はこちらへ並んでください」
皆、それに従ってわくわくと自分の陣地へ入った。顔色にははっきりとは出ないながらも、時雨も楽しみな様子で持参した青鬼の面をつける。
「二十三になって、こういったことに興じるとは……思っておりませんでしたが……。金剛石のお嬢様とご一緒に、楽しませて頂きましょう……」
「多少違うみたいだけど、厄払いのイベントなのよね? なら盛り上がるよう頑張らなくちゃね……寒いけど」
寒いけど? と、一同はマリィアのセリフに一瞬首を傾げる。が、その直後。マリィアはバサリ、とコートを脱いで、トラ柄のビキニを披露した。ビキニに、ミラーシェードを身に着け、パンプスで颯爽と立つ姿に、ダイヤが思わず呟いた。
「カッコいい……」
クロスでさえも一瞬目を奪われていたようだが、そこはさすが大きな屋敷の使用人というべきか、すぐに冷静になって仕切りを再開した。
「申し忘れておりました、制限時間は10分です。どちらも、頑張ってください。では、はじめ!!」
いちはやく動いたのは、ピオスだった。おもちゃ、なのであろうか、簡易な鬼の面と金棒を手にしている。連れてきたパルムが周囲をふよふよと漂って楽しそうにしていた。
「ふっふーん、簡単につかまると思ったら大間違いだよ!」
「んだと!」
わかりやすく挑発に乗った鈴太郎が、金平糖をひとつ投げた。が、ピオスは上手く口で受け止めてしまう。
「おいしい!」
そのピオスの笑顔が、鈴太郎に火をつけた。
「ッチ……こんなんチマチマ投げてても効きゃしねーじゃん」
ガツッと20粒ほどを握り、怪力無双を用いて全力投球したのだ。投げられた金平糖は散弾銃の弾のごとくバラバラと、凄い勢いで飛び散った。
「うわあ!」
「きゃー! ちょっとお!!」
逃げ惑うのはピオスだけではない。巻き添えをくった形のレイナが一気に壁近くまで逃げて行く。
「せ、戦略的退却よ!」
「負けないですよ、りんたろー!」
鬼側にも、火が付いたものがひとり。瑞花だ。マルチステップのスキルを使って華麗に鈴太郎の金平糖を避けてゆく。ふたりとも、とても遊びとは思えない本気っぷりだ。
「遊びとは全力で遊ぶからこそ! 楽しいのです!」
目の前に展開されているその本気の光景に、ダイヤは完全に飲まれてしまっていた。投げようと掴み出した金平糖を握りしめたまま、棒立ちだ。
「そっちの戦いは任せておいて、俺たちは連携してあのへんを追い詰めようぜ」
グリムバルドがダイヤに話しかけながら指で示したのは、マイペースな調子でふらふらと漂うように飛んでくる金平糖避けている時雨だ。その様子を見て、鬼の衣装のザレムとマリィアがダイヤの前へ立ちふさがるようにしてやってきた。
「勇者さんこちら、鬼を退治してみなさいよっ……と」
マリィアがそんなセリフで微笑んでみせる。ダイヤと桜華、ステラがむう、と頬を膨らませてその挑発に乗った。
「よし、じゃあ四人同時に投げよう、せーのっ!」
グリムバルドの掛け声で、一斉に放たれた金平糖は、ザレムとマリィアにまともに降り注いだばかりか、その後ろをふらふらしていた時雨にも跳ね返って当たっている。
「痛て痛て!」
たかが金平糖、されど金平糖。思っていた以上に痛みがあったらしく、ザレムはわざとと言うわけでもなさそうにそう言って顔をしかめた。が、痛そうにはしながらも楽しそうにしている。大きく後退したが、それでも踏みとどまって、背後で逃げ惑っているレイナに声をかけた。
「おーい、そのままじゃ早々に壁だぞー! 俺を盾にしていいからさ、一回前へ出ろよ!」
「わ、わかったわっ!」
レイナはザレムの申し出を受けて、彼の背中に一瞬身を隠した。ダイヤたちは一斉に投げたのを皮切りに調子が出て来たらしく、きゃあきゃあ笑いながらバラバラと金平糖をひっきりなしにまいていた。
「鬼は~外! の後に福は~内!」
桜華が身軽に飛び跳ねながらキラキラと金平糖を振りまく。
「甘い甘い、金平糖より甘いわね……っ」
マリィアはそう言いつつ魔導銃に布を巻いた即席の棍棒で金平糖を叩き落としてゆく。その前を、ひとり横切るようにしてやってきたのは、鈴太郎の攻撃から逃げてきたピオスだった。
「ガオー……て痛いっ! 金平糖が足の裏にっ! はう!」
そう、今や、鬼側の陣地はまかれた金平糖がそこかしこに散らばっていて、足の踏み場に困るほどになってきていた。
「危うく……、転びそうに……、おや」
のらりくらりと金平糖をかわし続けていた時雨の背中が、どん、と壁についた。漂っているうちに壁際まできてしまったものらしい。
「ようし、ひとり抜けたね! ダイヤさん、この調子だよ! えいっ、えいっ!」
ステラとダイヤが呼吸を合わせて投げ、その隙間を縫うようにして桜華とグリムバルドが投げていた。その様子を窺い、ザレムの後ろからレイナが姿を見せたとき。リズムなどお構いなしに全力投球を続ける鈴太郎と、華麗なステップでそれをかわし続ける瑞花が移動してきた。レイナは鈴太郎の剛速球ならぬ剛速金平糖をまともに食らいそうになった。
「きゃあああ! やっぱり逃げるっ……!!」
脱兎のごとく、レイナは今度こそ壁際にぺったり張り付いた。その様子を横目に、マリィアがそろそろか、と見当をつけた。ダイヤの持つ金平糖が、随分と減っていることに気が付いたのである。
「きゃぁぁ、やられた~~」
少々わざとらしいようにも聞こえる叫びで、マリィアは壁にさがった。ふう、と息をついて、先に壁際に下がっていた時雨と微笑み合う。時雨は、マリィアにコートを差し出した。
「やられ……ましたね……」
「そうね」
マリィアはコートを受け取ると、素早く袖を通し、ビキニ姿を隠した。
ゲームは終盤の局面を迎えていた。
「痛い!」
ずしゃ、という音がしたかと思うと、ピオスが金平糖で足を滑らせ、盛大に転んでいた。ザレムが助け起こそうとするが、彼の足元も金平糖だらけで、なかなか手を貸すことができないでいる。
「うう……どうしてこうなるの?」
その様子を見て、ダイヤが面白そうにくすくす笑っていた。
ダイヤの目の前で、ぜえはあと息を上げているのは、鈴太郎と瑞花。最後の一発だ、と鈴太郎が金平糖の袋へ手を入れる。が。その掴み出した最後の個数に、鈴太郎は真っ青になった。
そのとき。
「やめ!」
クロスの声が、制限時間の10分を告げた。
「鬼の方はそのままの立ち位置でお待ちください。まく側の方は、手元に残っている金平糖の数を数えてください」
「そ、そうだったわ、すっかり忘れてた……」
ダイヤは袋の中にひとつも金平糖を残していなかった。夢中になりすぎてまきすぎてしまったのである。クロスは何も言わないが、馬鹿にしているであろうことは憐憫に満ちたまなざしから明らかだ。
「ダイヤさんお疲れ様―っ! はいコレ、必要だよね?」
そう言ってDと書かれた小さな袋に入った金平糖を差し出したのは、ステラだ。スタート前にごそごそと何かやっていたのは、これを分けておいたものらしい。もちろん、自分の分もしっかり確保済みだ。
「え、よろしいんですか?」
「もちろん! だってチームだったんだし、友だち、でしょ!」
ステラがにっこり笑うとダイヤも笑い返して、ありがとう、と言った。
「しまった~……、俺も数個足らないや。あまりにも熱中しすぎて、金平糖を投げすぎちゃったなぁ~」
桜華がうーん、と唸っている。
「いくつ足らないのですか?」
ダイヤが尋ねると、2粒だと桜華が答える。ダイヤの顔が嬉しそうに輝いた。
「じゃあちょうどいいですわ、2粒お渡しします。ステラさんがくださった金平糖、17粒でしたの。私、15歳になったばかりだから、2粒多いわ」
黄色と緑の金平糖を桜華の掌にころり、と渡す。ポケットの中に入ってた! などと後から言うつもりでいた桜華だったが、それはやめにして、素直に金平糖を受け取った。微笑むダイヤの顔は、最初のぎこちなさが完全に消え去っていた。
「俺はちょうど、24個だな」
スタート前に数えていただけのことはあり、グリムバルドは抜かりなく手元に金平糖を残していた。あとは。呆然と掌の上の残り数を見つめて震えている、鈴太郎である。
「えーと、3粒?」
鬼側の陣地から首を伸ばしてザレムが言う。鈴太郎の顔がみるみる赤くなった。
「ホ、ホントは3歳だ、オルァ!」
ムキになってそう叫ぶが、さすがに無理があることは自分でもわかるのか、床に胡坐をかいて坐り、敗北を示した。
「では、鬼側で残っている方が、アズールさま・シルワさま・卯月さまの3名。まく側で年の数だけ金平糖を持っているのが、グリーンウッドさま・ライムライトさま・朝霧さま……と、自分ではひとつも残すことのできなかったダイヤお嬢様の4名ですね」
「だ、だから! 余計なセリフがあるってば!」
「というわけで、まく側の勝利でございますね」
「やっぱり無視!?」
クロスとダイヤのやりとりに、誰からともなく吹きだして、一同は大笑いになった。勝ったことよりも、負けたことよりも、全員で楽しむことができたことが、何よりも嬉しいようだった。
ばらまかれた金平糖を片付けたあとは、お茶会になった。
ザレムが持参の菓子をざらざらと出し、皆わいわいとそれを囲む。台所を借りにザレムと時雨が一旦席を外していると、その間に他のメンバーが机や椅子を整えた。もちろん、ダイヤもそれを手伝う。
「普段からご自分でやってくださればいいんですけどね」
という軽口は、もちろんクロスのものだ。
「紅茶、淹れて来たぞー!」
ザレムと時雨が台所から戻ってくると、周囲は一気にあたたかな雰囲気になった。紅茶からの湯気と、それに、時雨が持っているものからの湯気の所為だ。
「……金平糖を入れて……ホットケーキを作ってみました……」
「美味しそう!!」
ホットケーキを切り分け、菓子を分け、他愛もない話でわいわいと騒ぐ様子に、ダイヤはこの上なく幸せを感じていた。
「私、こんなこと、初めてだわ」
そう呟くダイヤに、レイナが切り分けたホットケーキの皿を渡す。
「ほ、ほら、あなたの分よっ」
「ありがとう……」
「別に、いいわよ、これくらい。と、友だちでしょ!」
そっぽを向きつつも友だちだ、と言ったレイナに、ダイヤは心から嬉しそうに頷いた。
帰り際、ピオスはダイヤにトランプをプレゼントしてくれた。
「次は、これで遊ぼう! パルムも差し上げようと思っていたんだけど……」
ピオスが連れてきていたパルムは、興味深そうにダイヤに近寄るものの、すぐにピオスの傍へ戻ってしまった。どうやら、ダイヤの手に渡る気はないようだ。
「いいの。また、連れて遊びに来て」
ダイヤが微笑んだ。
ハンターたちに手を振ったダイヤの口に、金平糖がぴょん、と放り込まれた。瑞花だ。にっこり笑って、彼女も手を振る。
「ダイヤちゃんナイスアイディアだったよー、また遊ぼうねっ! おつかれさまー!」
「はい! また!」
また、という言葉を、ダイヤは金平糖と共に、甘く噛みしめた。
「皆様、本日はご足労いただきまして誠にありがとうございます。ダイヤお嬢様の世話役の、クロスと申します」
深々とお辞儀をしたクロスにステラ=ライムライト(ka5122)がぴょこんとお辞儀を返す。
「こちらこそ、お招きありがとうございます! とっても楽しみにしてきました!」
「それは有難いことでございます。屋敷内へご案内致します、どうぞ」
クロスが広々とした庭を真っ直ぐに突っ切っている道を先導する。
「ねえ、来ておいてから言うのもなんだけど、豆まきって身内でやるのが普通でしょ?」
クロスの背中にそう投げかけたのは岩波レイナ(ka3178)だ。クロスは歩みを止めることなく頷いた。
「左様でございますね。ですがダイヤお嬢様のご両親はいつもお仕事でお屋敷にいらっしゃいませんし、それに……、お友だちがおられませんから」
「友達がいないぃー!?」
「一人もいねーの? マジで?」
レイナの後ろから大伴 鈴太郎(ka6016)も驚きの呟きを漏らした。首をひねるのは朝霧 桜華(ka6050)だ。
「なんでいないんだろう……?」
よほどそのダイヤお嬢様という娘は性格が悪いのだろうか、などと考えてしまう。
「……あちらが迷路小屋、そちらが図書館、向こうが温水プールでございます」
クロスは、本邸と見られる屋敷の周りの別棟を示して説明をした。やや唐突にも思えるその発言の意図に気が付いたマリィア・バルデス(ka5848)やグリムバルド・グリーンウッド(ka4409)が、なるほど、と頷く。外待雨 時雨(ka0227)が首を傾げた。
「どういうことでしょう……」
「敷地内に必要な施設があり、外へ出なくても良かった。だから友だちがいないままだ、ってことだろ?」
クロスよりも先に、ザレム・アズール(ka0878)がそう言った。クロスはそれに頷く。
「敷地内の施設を味わい尽くしているうちに、お友だちを作る機会を逃してしまった、おバカな……いえ、失礼、哀れな方です」
「わあ!」
屋敷の広間に案内され、卯月 瑞花(ka6019)が思わず感嘆の声を上げた。
「こんな綺麗な広間で豆まきをして、本当にいいのかな」
ピオス・シルワ(ka0987)は言葉の内容の割には楽しげに言って天井をぐるりと見渡した。と、広間に人影があることに気が付く。もしや、と思ってよくよく見ようとするが、その人影は、クロスが広間に入って来たとみるとすぐに彼の後ろに隠れてしまった。クロスがわざとらしくため息をつく。
「お嬢様、可愛こぶってないできちんとご挨拶なさってください」
「可愛こぶってなんていないわよ、失礼ね!」
意外にもしっかりとした声が響いて、けれども、動作はいかにもおずおずとした様子で、その人物が姿を見せた。栗色の豊かな髪に、白い肌、大きな瞳。なかなかの美少女と言ってよい容姿をしていた。
「……ダイヤ・モンドでございます。本日はお集まりいただいてありがとうございます」
視線を泳がせながらの挨拶は人付き合いに慣れていないことが手に取るようにわかるものだった。その様子を好ましく思いつつ、瑞花が朗らかに挨拶を返した。
「今日はよろしくですっ! 楽しませてもらうねぇ♪」
それにダイヤはぎこちなく頷く。
「それでは……、豆まき、ではなく、お嬢様は金平糖まきをなさりたいということですので、そちらの、ルールを簡単に説明させていただきます」
クロスはできぱきと先へ説明を始めた。
まく側は金平糖をまいて鬼を右側の壁に退けることを目指す。ただし、制限時間後、手元に「ちょうど自分の年の数だけ」金平糖を残すこと。鬼は壁へ追いつめられることなく、制限時間まで踏みとどまることを目指す。最終的に、制限時間後に「金平糖を年の数だけ残せた人」と「踏みとどまった鬼」の数が多い方が勝ちとなる。
まずは鬼側とまく側に分かれなければならない、ということで、各々が希望を出した。
「俺は見ての通り鬼だ」
頭のてっぺんから足の先まで、見事に全身を鬼のコスチュームで包んだザレムがニパ、と笑う。金棒まで持って本格的だ。その完成度に、ダイヤが目を丸くしている。
「ダイヤお嬢、一つお手柔らかに。こんな美人だと知ってたら、ちゃんとした服で遠乗りに誘ったのに」
ダイヤは目を丸くしたまま、みるみる赤くなって顔を俯かせてしまった。すかさずツッコミを入れるのはクロスだ。
「何を一人前に照れてるんですか?」
「う、うるさいわねえ!」
「えー、チーム分けを整頓します」
ダイヤの声をさらっと無視してクロスが進める。一同はそれを苦笑しつつ眺めた。
「鬼側が、外待雨さま・アズールさま・シルワさま・岩波さま・バルデスさま・卯月さま。まく側が、グリーンウッドさま・ライムライトさま・大伴さま・朝霧さま……と、ホスト側なのにおもてなしなさらないダイヤお嬢様。これで、よろしいですね」
「なんか余計なセリフ入ったわよ!?」
「では、まく側の方々に金平糖を配ります。最初の持ち数は全員、100粒です」
「無視!?」
ハンターたちには恥ずかしそうにするくせに、ダイヤはクロスにはぎゃんぎゃんかみつく。
「面白い人だねえ、ダイヤちゃんもクロスさんも」
瑞花がくすくす笑いながら、仕込んできたらしいトラ柄のビキニ姿で臨戦態勢を整えた。
「負けねーからな、ミカ!!」
配られた金平糖の袋を握りしめて鈴太郎が啖呵を切る。その後ろで、ステラが何やらごそごそ作業をしていたかと思うと、満足そうに頷いて、ダイヤのもとへ駆けて行った。
「一緒に頑張ろうね、ダイヤさん!」
「え、ええ」
太陽のように明るいステラの微笑みに、ダイヤも表情を和らげた。ステラは一層にこにこしてルールを確認する。
「こっちが勝つには、鬼を退治するんじゃなくて最後ので決まるんだよね」
「歳の数だけ金平糖を手元に残すんだろう? 俺は今24歳だから、使えるのは76個か?」
グリムバルドが計算する。そこへ、クロスが声をかけた。
「この線を境にして、鬼はこちらへ、まく方はこちらへ並んでください」
皆、それに従ってわくわくと自分の陣地へ入った。顔色にははっきりとは出ないながらも、時雨も楽しみな様子で持参した青鬼の面をつける。
「二十三になって、こういったことに興じるとは……思っておりませんでしたが……。金剛石のお嬢様とご一緒に、楽しませて頂きましょう……」
「多少違うみたいだけど、厄払いのイベントなのよね? なら盛り上がるよう頑張らなくちゃね……寒いけど」
寒いけど? と、一同はマリィアのセリフに一瞬首を傾げる。が、その直後。マリィアはバサリ、とコートを脱いで、トラ柄のビキニを披露した。ビキニに、ミラーシェードを身に着け、パンプスで颯爽と立つ姿に、ダイヤが思わず呟いた。
「カッコいい……」
クロスでさえも一瞬目を奪われていたようだが、そこはさすが大きな屋敷の使用人というべきか、すぐに冷静になって仕切りを再開した。
「申し忘れておりました、制限時間は10分です。どちらも、頑張ってください。では、はじめ!!」
いちはやく動いたのは、ピオスだった。おもちゃ、なのであろうか、簡易な鬼の面と金棒を手にしている。連れてきたパルムが周囲をふよふよと漂って楽しそうにしていた。
「ふっふーん、簡単につかまると思ったら大間違いだよ!」
「んだと!」
わかりやすく挑発に乗った鈴太郎が、金平糖をひとつ投げた。が、ピオスは上手く口で受け止めてしまう。
「おいしい!」
そのピオスの笑顔が、鈴太郎に火をつけた。
「ッチ……こんなんチマチマ投げてても効きゃしねーじゃん」
ガツッと20粒ほどを握り、怪力無双を用いて全力投球したのだ。投げられた金平糖は散弾銃の弾のごとくバラバラと、凄い勢いで飛び散った。
「うわあ!」
「きゃー! ちょっとお!!」
逃げ惑うのはピオスだけではない。巻き添えをくった形のレイナが一気に壁近くまで逃げて行く。
「せ、戦略的退却よ!」
「負けないですよ、りんたろー!」
鬼側にも、火が付いたものがひとり。瑞花だ。マルチステップのスキルを使って華麗に鈴太郎の金平糖を避けてゆく。ふたりとも、とても遊びとは思えない本気っぷりだ。
「遊びとは全力で遊ぶからこそ! 楽しいのです!」
目の前に展開されているその本気の光景に、ダイヤは完全に飲まれてしまっていた。投げようと掴み出した金平糖を握りしめたまま、棒立ちだ。
「そっちの戦いは任せておいて、俺たちは連携してあのへんを追い詰めようぜ」
グリムバルドがダイヤに話しかけながら指で示したのは、マイペースな調子でふらふらと漂うように飛んでくる金平糖避けている時雨だ。その様子を見て、鬼の衣装のザレムとマリィアがダイヤの前へ立ちふさがるようにしてやってきた。
「勇者さんこちら、鬼を退治してみなさいよっ……と」
マリィアがそんなセリフで微笑んでみせる。ダイヤと桜華、ステラがむう、と頬を膨らませてその挑発に乗った。
「よし、じゃあ四人同時に投げよう、せーのっ!」
グリムバルドの掛け声で、一斉に放たれた金平糖は、ザレムとマリィアにまともに降り注いだばかりか、その後ろをふらふらしていた時雨にも跳ね返って当たっている。
「痛て痛て!」
たかが金平糖、されど金平糖。思っていた以上に痛みがあったらしく、ザレムはわざとと言うわけでもなさそうにそう言って顔をしかめた。が、痛そうにはしながらも楽しそうにしている。大きく後退したが、それでも踏みとどまって、背後で逃げ惑っているレイナに声をかけた。
「おーい、そのままじゃ早々に壁だぞー! 俺を盾にしていいからさ、一回前へ出ろよ!」
「わ、わかったわっ!」
レイナはザレムの申し出を受けて、彼の背中に一瞬身を隠した。ダイヤたちは一斉に投げたのを皮切りに調子が出て来たらしく、きゃあきゃあ笑いながらバラバラと金平糖をひっきりなしにまいていた。
「鬼は~外! の後に福は~内!」
桜華が身軽に飛び跳ねながらキラキラと金平糖を振りまく。
「甘い甘い、金平糖より甘いわね……っ」
マリィアはそう言いつつ魔導銃に布を巻いた即席の棍棒で金平糖を叩き落としてゆく。その前を、ひとり横切るようにしてやってきたのは、鈴太郎の攻撃から逃げてきたピオスだった。
「ガオー……て痛いっ! 金平糖が足の裏にっ! はう!」
そう、今や、鬼側の陣地はまかれた金平糖がそこかしこに散らばっていて、足の踏み場に困るほどになってきていた。
「危うく……、転びそうに……、おや」
のらりくらりと金平糖をかわし続けていた時雨の背中が、どん、と壁についた。漂っているうちに壁際まできてしまったものらしい。
「ようし、ひとり抜けたね! ダイヤさん、この調子だよ! えいっ、えいっ!」
ステラとダイヤが呼吸を合わせて投げ、その隙間を縫うようにして桜華とグリムバルドが投げていた。その様子を窺い、ザレムの後ろからレイナが姿を見せたとき。リズムなどお構いなしに全力投球を続ける鈴太郎と、華麗なステップでそれをかわし続ける瑞花が移動してきた。レイナは鈴太郎の剛速球ならぬ剛速金平糖をまともに食らいそうになった。
「きゃあああ! やっぱり逃げるっ……!!」
脱兎のごとく、レイナは今度こそ壁際にぺったり張り付いた。その様子を横目に、マリィアがそろそろか、と見当をつけた。ダイヤの持つ金平糖が、随分と減っていることに気が付いたのである。
「きゃぁぁ、やられた~~」
少々わざとらしいようにも聞こえる叫びで、マリィアは壁にさがった。ふう、と息をついて、先に壁際に下がっていた時雨と微笑み合う。時雨は、マリィアにコートを差し出した。
「やられ……ましたね……」
「そうね」
マリィアはコートを受け取ると、素早く袖を通し、ビキニ姿を隠した。
ゲームは終盤の局面を迎えていた。
「痛い!」
ずしゃ、という音がしたかと思うと、ピオスが金平糖で足を滑らせ、盛大に転んでいた。ザレムが助け起こそうとするが、彼の足元も金平糖だらけで、なかなか手を貸すことができないでいる。
「うう……どうしてこうなるの?」
その様子を見て、ダイヤが面白そうにくすくす笑っていた。
ダイヤの目の前で、ぜえはあと息を上げているのは、鈴太郎と瑞花。最後の一発だ、と鈴太郎が金平糖の袋へ手を入れる。が。その掴み出した最後の個数に、鈴太郎は真っ青になった。
そのとき。
「やめ!」
クロスの声が、制限時間の10分を告げた。
「鬼の方はそのままの立ち位置でお待ちください。まく側の方は、手元に残っている金平糖の数を数えてください」
「そ、そうだったわ、すっかり忘れてた……」
ダイヤは袋の中にひとつも金平糖を残していなかった。夢中になりすぎてまきすぎてしまったのである。クロスは何も言わないが、馬鹿にしているであろうことは憐憫に満ちたまなざしから明らかだ。
「ダイヤさんお疲れ様―っ! はいコレ、必要だよね?」
そう言ってDと書かれた小さな袋に入った金平糖を差し出したのは、ステラだ。スタート前にごそごそと何かやっていたのは、これを分けておいたものらしい。もちろん、自分の分もしっかり確保済みだ。
「え、よろしいんですか?」
「もちろん! だってチームだったんだし、友だち、でしょ!」
ステラがにっこり笑うとダイヤも笑い返して、ありがとう、と言った。
「しまった~……、俺も数個足らないや。あまりにも熱中しすぎて、金平糖を投げすぎちゃったなぁ~」
桜華がうーん、と唸っている。
「いくつ足らないのですか?」
ダイヤが尋ねると、2粒だと桜華が答える。ダイヤの顔が嬉しそうに輝いた。
「じゃあちょうどいいですわ、2粒お渡しします。ステラさんがくださった金平糖、17粒でしたの。私、15歳になったばかりだから、2粒多いわ」
黄色と緑の金平糖を桜華の掌にころり、と渡す。ポケットの中に入ってた! などと後から言うつもりでいた桜華だったが、それはやめにして、素直に金平糖を受け取った。微笑むダイヤの顔は、最初のぎこちなさが完全に消え去っていた。
「俺はちょうど、24個だな」
スタート前に数えていただけのことはあり、グリムバルドは抜かりなく手元に金平糖を残していた。あとは。呆然と掌の上の残り数を見つめて震えている、鈴太郎である。
「えーと、3粒?」
鬼側の陣地から首を伸ばしてザレムが言う。鈴太郎の顔がみるみる赤くなった。
「ホ、ホントは3歳だ、オルァ!」
ムキになってそう叫ぶが、さすがに無理があることは自分でもわかるのか、床に胡坐をかいて坐り、敗北を示した。
「では、鬼側で残っている方が、アズールさま・シルワさま・卯月さまの3名。まく側で年の数だけ金平糖を持っているのが、グリーンウッドさま・ライムライトさま・朝霧さま……と、自分ではひとつも残すことのできなかったダイヤお嬢様の4名ですね」
「だ、だから! 余計なセリフがあるってば!」
「というわけで、まく側の勝利でございますね」
「やっぱり無視!?」
クロスとダイヤのやりとりに、誰からともなく吹きだして、一同は大笑いになった。勝ったことよりも、負けたことよりも、全員で楽しむことができたことが、何よりも嬉しいようだった。
ばらまかれた金平糖を片付けたあとは、お茶会になった。
ザレムが持参の菓子をざらざらと出し、皆わいわいとそれを囲む。台所を借りにザレムと時雨が一旦席を外していると、その間に他のメンバーが机や椅子を整えた。もちろん、ダイヤもそれを手伝う。
「普段からご自分でやってくださればいいんですけどね」
という軽口は、もちろんクロスのものだ。
「紅茶、淹れて来たぞー!」
ザレムと時雨が台所から戻ってくると、周囲は一気にあたたかな雰囲気になった。紅茶からの湯気と、それに、時雨が持っているものからの湯気の所為だ。
「……金平糖を入れて……ホットケーキを作ってみました……」
「美味しそう!!」
ホットケーキを切り分け、菓子を分け、他愛もない話でわいわいと騒ぐ様子に、ダイヤはこの上なく幸せを感じていた。
「私、こんなこと、初めてだわ」
そう呟くダイヤに、レイナが切り分けたホットケーキの皿を渡す。
「ほ、ほら、あなたの分よっ」
「ありがとう……」
「別に、いいわよ、これくらい。と、友だちでしょ!」
そっぽを向きつつも友だちだ、と言ったレイナに、ダイヤは心から嬉しそうに頷いた。
帰り際、ピオスはダイヤにトランプをプレゼントしてくれた。
「次は、これで遊ぼう! パルムも差し上げようと思っていたんだけど……」
ピオスが連れてきていたパルムは、興味深そうにダイヤに近寄るものの、すぐにピオスの傍へ戻ってしまった。どうやら、ダイヤの手に渡る気はないようだ。
「いいの。また、連れて遊びに来て」
ダイヤが微笑んだ。
ハンターたちに手を振ったダイヤの口に、金平糖がぴょん、と放り込まれた。瑞花だ。にっこり笑って、彼女も手を振る。
「ダイヤちゃんナイスアイディアだったよー、また遊ぼうねっ! おつかれさまー!」
「はい! また!」
また、という言葉を、ダイヤは金平糖と共に、甘く噛みしめた。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/01 14:40:17 |
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相談卓 外待雨 時雨(ka0227) 人間(リアルブルー)|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/02/01 14:45:20 |