ゲスト
(ka0000)
魂の残滓
マスター:鷹羽柊架

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2016/01/28 22:00
- 完成日
- 2016/02/01 10:06
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
部族なき部族の者たちをスコール族の者たちに任せて、ファリフはハンター達を見送った。
夜はとうに更けており、見上げれば凛と澄んだ冬の空に半月が地上を照らしている。
ハンターの優しい想いにファリフは心より嬉しく思っていた。
しかし、彼女の心の中にまだ残っていることがある。
「テトというやつのことか……?」
ファリフの傍らにいたフェンリルがファリフを見つめて問う。
「うん」
あの時、見たテトはとても憔悴していた。
「テト」
静かに自身の名を呼ぶファリフの声にテトは怯えるように肩を震わせても俯くばかり。
「部族なき部族が襲われたのは、過去だよ」
ファリフの顔はテトに対し、失望も怒りもない。
静かに俯くテトを見つめる。
「部族なき部族のメンバーは確かに殺された人がいる。現実に生きている人もいることを忘れないでほしい」
しっかりとしたファリフの言葉にテトは身を固くして聞いている。
「今を生きている人たちと今後、どうしていくか考えて、行動へと移して生き抜いていくしかないんだ」
ファリフの言葉は稚拙だが、その声には赤き大地の戦士の素質……それだけではない、帝国や王国の首脳にも劣らない気高さを感じ、テトは顔を上げたが、すぐに俯いてしまった。
今のテトにとって、ファリフの瞳はあまりに眩しいから。
夜の静寂の中、ファリフが口を開く。
「テトは、ボクが落ち込んでいた時に励ましてくれたんだ」
シバに投げられた言葉とそれを結びつけてしまった己の未熟さに自信を失ったファリフに声をかけたのはテトだ。
彼女の言葉は自分が立ち上がるきっかけだった。
「……慰めあいとかじゃなくて、一緒に戦って行きたいと思ってる。いつか、立ち直ってくれる事をボクは前に進みながらテトを待つよ」
ファリフの言葉に揺らぎはなく、とても真摯だ。フェンリルは穏やかに瞳を伏せる。
「お嬢ちゃんがそう言うなら、仕方ない。テトが男でなくてよかったよ」
「全く、フェンリルは軽口ばかりだね」
フェンリルの軽口に腹を立てるファリフであったが、それで落ちていた気持ちが掬われて上がったたこともしばしばあることをきちんと気づいている。
あの時、ハンターとファリフに託された袋を開けると、中に入っていたのは折りたたまれた紙切れ。
中を覗けば、辺境出身者の者達が顔を見合わせた。
「これ……」
ハンター達が顔を見合わせており、ファリフは部族なき部族たちをスコール族へ搬送を優先した。
「とりあえずは、一度日を改めよう」
ファリフの言葉で一度解散した。
再びファリフはホープに戻り、そこで保護を受けている部族なき部族のメンバー達に事情を話した。
仲間の無事を喜ぶメンバー達を見て、ファリフはほっとするも、表情が浮かない。
「テトの事が心配か」
部族なき部族のメンバーの一人である山羊がファリフに声をかける。
「……大丈夫と思ってるけど、ちょっとね」
バレていたのかといわんばかりにファリフは照れたように笑う。
「テトは道を選んだ」
前を見据える山羊の言葉にファリフはきゅっと、口をきつく結ぶ。
「……負けてられないな」
ぽつりとファリフは呟いた。
夜はとうに更けており、見上げれば凛と澄んだ冬の空に半月が地上を照らしている。
ハンターの優しい想いにファリフは心より嬉しく思っていた。
しかし、彼女の心の中にまだ残っていることがある。
「テトというやつのことか……?」
ファリフの傍らにいたフェンリルがファリフを見つめて問う。
「うん」
あの時、見たテトはとても憔悴していた。
「テト」
静かに自身の名を呼ぶファリフの声にテトは怯えるように肩を震わせても俯くばかり。
「部族なき部族が襲われたのは、過去だよ」
ファリフの顔はテトに対し、失望も怒りもない。
静かに俯くテトを見つめる。
「部族なき部族のメンバーは確かに殺された人がいる。現実に生きている人もいることを忘れないでほしい」
しっかりとしたファリフの言葉にテトは身を固くして聞いている。
「今を生きている人たちと今後、どうしていくか考えて、行動へと移して生き抜いていくしかないんだ」
ファリフの言葉は稚拙だが、その声には赤き大地の戦士の素質……それだけではない、帝国や王国の首脳にも劣らない気高さを感じ、テトは顔を上げたが、すぐに俯いてしまった。
今のテトにとって、ファリフの瞳はあまりに眩しいから。
夜の静寂の中、ファリフが口を開く。
「テトは、ボクが落ち込んでいた時に励ましてくれたんだ」
シバに投げられた言葉とそれを結びつけてしまった己の未熟さに自信を失ったファリフに声をかけたのはテトだ。
彼女の言葉は自分が立ち上がるきっかけだった。
「……慰めあいとかじゃなくて、一緒に戦って行きたいと思ってる。いつか、立ち直ってくれる事をボクは前に進みながらテトを待つよ」
ファリフの言葉に揺らぎはなく、とても真摯だ。フェンリルは穏やかに瞳を伏せる。
「お嬢ちゃんがそう言うなら、仕方ない。テトが男でなくてよかったよ」
「全く、フェンリルは軽口ばかりだね」
フェンリルの軽口に腹を立てるファリフであったが、それで落ちていた気持ちが掬われて上がったたこともしばしばあることをきちんと気づいている。
あの時、ハンターとファリフに託された袋を開けると、中に入っていたのは折りたたまれた紙切れ。
中を覗けば、辺境出身者の者達が顔を見合わせた。
「これ……」
ハンター達が顔を見合わせており、ファリフは部族なき部族たちをスコール族へ搬送を優先した。
「とりあえずは、一度日を改めよう」
ファリフの言葉で一度解散した。
再びファリフはホープに戻り、そこで保護を受けている部族なき部族のメンバー達に事情を話した。
仲間の無事を喜ぶメンバー達を見て、ファリフはほっとするも、表情が浮かない。
「テトの事が心配か」
部族なき部族のメンバーの一人である山羊がファリフに声をかける。
「……大丈夫と思ってるけど、ちょっとね」
バレていたのかといわんばかりにファリフは照れたように笑う。
「テトは道を選んだ」
前を見据える山羊の言葉にファリフはきゅっと、口をきつく結ぶ。
「……負けてられないな」
ぽつりとファリフは呟いた。
リプレイ本文
再びホープに集まってくれたハンターの皆にファリフが出迎えた。
初めて会う須磨井 礼二(ka4575)はファリフに向かい会う。
「託されて君の手助けに来た」
礼二が託された人物の名を聞いたファリフは納得して頷く。
「そうだったんだね。来てくれて嬉しいよ」
会えないのは残念であるが、駆けつけてきてくれた礼二にもファリフは感謝する。
「僕も、ファリフちゃんのお手伝いに来ました!」
「ありがとう、またよろしくね」
元気よく告げる叢雲 伊織(ka5091)にファリフも心強く感じる。
「しかし、じっちゃんのメモって場所は分るけどさ」
考え込むオウガ(ka2124)は記憶を辿り、セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)もメモを見て場所を推察できたようだ。
シバが遺したメモは辺境に住まう者であればわかるように地図が記されている。
「実はそのメモ、焙り出しになっているとかないですよね?」
キラキラ輝く瞳で疑問をぶつける伊織に全員が考え込む。
自身の死後、開けるようにあったそれに何があるのかは分らない。
もしかしたら、何か重要なことが隠されているのかもしれない。
「やってみよう!」
伊織の提案に食いついたファリフがメモに焼き色がつかないように慎重に炙る。
揺らめく炎に晒されてもメモは特に何も浮かばなかった。
「結果は残念ですが、メモの通り、向かいましょう」
しょんぼりするファリフや伊織に穏やかに諭すのはセツナ。
「おじいちゃんが遺したものがなんなのか見極めたい」
テトが自分たちに渡されたそれを自分たちが確かめるしかない。アイラ(ka3941)が真摯なまなざしでファリフ達を見つめる。
「私もそうだよ」
同意の声を上げるルシオ・セレステ(ka0673)の言葉にファリフ達も同じ思いでアイラを見つめる。
向かうは、蛇の窟へ。
●
「行く前に提案」
皆へ告げたのはオウガだった。
「じっちゃんは歪虚に狙われていたんだ。それでじっちゃんが死んだ後、歪虚はじっちゃんの仲間を……家族を襲ったんだ」
更にアイラが言葉を引き継ぐ。
「あいつらは私達が助けに来るときもずっと彼らと交戦していたの」
「これから向かう場所は、人があまり入ったことがない場所だと思う。出来るだけ、シバの名前も控えたほうがいいと俺は思う」
「尾行の可能性か」
礼二が言えば、アイラとオウガは頷く。
「わかりました。速やかに行きましょう」
この状況下で何が起こるのかは分らない。リスクは低い方を選ぶのがいいと判断した。
寒気はないかわりに風があり、オウガは天候の変わり目を心配してしまう。
しかし、ルシオは少し考えこんだ様子で歩いていた。
「ルシオさん?」
ファリフに名前を呼ばれてルシオは長い耳を揺らして少し驚いたようだった。
「すまない、考え事をしてて」
「何か心配事?」
ルシオを見上げて首を傾げるファリフは真直ぐ見つめており、ルシオは「違うんだ」と返す。
「ファリフ、彼の最期は聞いたかい?」
「アイラさんとオウガさんに教えてもらったんだ」
ルシオがファリフに問うと、彼女はあどけない表情で答えると、一転して真剣な……戦士の表情へと変わる。
「壮絶な最期だったって」
「そう」
ファリフの言葉を聞き、ルシオは空を見上げる。
「複数のハンターを前にして一歩も引くことはなかった……圧倒すらしていたあの気迫と力は滅多に見れるものではない」
シバが最期の戦いの時は脳裏だけではない、力をぶつけ合った身体自体が衝撃を、鼓動を今でも覚えている。
周囲を警戒していたオウガであったが、ルシオの話を聞いて、感覚が甦りそうな気がしてしまい、自身の手をぎゅっと握り、拳に視線を落とした。
「最期まで言葉ではなく行動で私たちに語り問いかけていたよ」
シバより溢れ出た大量のマテリアルと共に繰り出された技……あれが何であるかは判明できていない。
「凄い人だったんですね……」
話だけを聞いても、シバがどれほどの戦士だったかその場にいない者ですら感じ取ってしまう。
シバと力をぶつけながら問われ、応えたアイラはその先へ進むべきと感じ取っているようであったが、今は手がかりがテトに渡されたメモだけだ。
「ちゃんと掴まないとね」
ぽつりと呟いたアイラの華奢な手の中にはシバのメモがあり、端が風で揺らめいている。
●
特に雑魔や歪虚に遭遇する事もなく、オウガやアイラの超聴覚を使っても尾行されているような気配は見当たらなかった。
難なく地図の場所に到着する。
入り口は雪に吹かれて半分以上閉ざされていた。
「……雪、掻き分けて入るか」
スコップなどを持ってきていないので、少し辟易しつつ、礼二が呟く。
「仕方ないね、諦めよう」
ファリフが先頭となって入ろうとすると、フェンリルが先頭になって雪を被りつつ掻き分けてくれた。
「お嬢ちゃんが少しでも濡れないようにな」
大きなフェンリルの身体はあっさりと雪を掻き分けて蛇の窟の中へと入っていく。
オウガと礼二は殿を守りつつ、背後に気をつけて中へと入っていった。
「以外に広いんですね」
洞窟ともあり、声は響くものだと伊織は思う。
まずは、ハンディライトを持つセツナが前を歩く。中衛の伊織が更に照らし出しており、前方は明るい。
たいまつを持っている面々は非常用でとっておくことにした。
道は少し傾斜……登り道となっている。
セツナと並んで先頭を歩くアイラと殿のオウガは超聴覚を使用しつつ、壁を伝いながら歩いている。
今の所、特には異変を感じられない。
オウガの手がついていた壁がいきなり空洞になってしまい、オウガは一瞬体勢を崩しそうになってしまう。
「……っ」
バランスを整えようとしたオウガだが、空洞の中にあった異物に手の甲が触れてしまう。
びくりと、身体を硬直させてしまうオウガが周囲へ見回し、アイラと共に音に気づく。
ゴゥン
「……うっ」
ぐらりと頭を揺らしたのは礼二だった。
その足元に落ちたのを伊織がライトで照らしたのは……
「タライ……?」
金属で出来たタライ。礼二の頭にぶつかる前からいびつな形に曲がっている。
「何で?」
「私もオウガ君と同じ壁を触ってたのに、空洞を感じなかったよ?」
驚くアイラにルシオは礼二のダメージを確認しつつ、シャインの光で壁を照らす。
「身長差だね」
アイラとオウガの背丈は十センチ以上差がある為であり、壁の空洞はオウガくらいの身長を想定して掘られたものなのだろうとルシオが推察する。
「敵への迎撃なのかな……」
多分、この蛇の窟はシバのみが使っていた場所なのだろうとアイラが推察する。
敵を追い払う為の罠があるのかもしれない。
「罠を回避しながら行かなきゃ……」
ファリフが急ぎつつ一歩を踏み出すと、突起していた地面ががくりと、凹んだ。
「え!」
体勢を崩すファリフであったが、咄嗟に伊織がファリフの腕を掴む。
「だ、大丈夫ですか!」
「う、うん……」
こくりと頷くファリフは伊織に礼を告げる。
通路の向こうで何かが動き出す音が聞こえた事にアイラとオウガが気付く。
「何か音がする」
しかも、パシュッと、発火音が聞こえ、燃える音が聞こえる。
瞬間、大きな花火音が床穴の両脇から大きく音を出してただでさえよく響く洞窟内中に音が弾けとんでいく。
堪えきれないとハンター達が耳を塞ぐと、フェンリルが「おい! 前から来るぞ!」と叫び出した。
「まじ」
誰かの呟きかは分らない。
何故か大岩が転がってきた。
「どういうことーーーー!?」
「あ、少し先に両脇に道が!」
「二手に!」
セツナが叫ぶと、あえて前へ走って二手に分かれて両脇の道へと入って間一髪で非難する。
大岩は誰も踏み潰すことなく、入り口の雪の吹き溜まりに飛び込んで止まってくれた。
「……そういや、シバさん、こういうことするって忘れてた」
フェンリルにぐったりと凭れるファリフがぽつりと呟く。
人を驚かせたり、面白がらせ……まるで子供のような悪戯を仕掛けたりして、人の反応を見て喜んだりしていたじいさんであった事をファリフが思い出す。
ファリフの呟きにアイラはふと、視界に入ったオウガを見て何かに気付く。
「オウガ君の背丈って、テトと同じだよね」
「ん、ああ」
オウガはドワーフの為、人間より背は低いが、子供のテトとあまり変わらない。
「最初はテトがこの洞窟に入る予定だったのであれば……」
礼二の言葉からシバの思惑に気付いたルシオはくすくす笑ってしまう。
「テトを、元気付けたかったのだろうね」
シバはテトを親として師として育ててきた。
きっと、テトは落ち込んでしまうのだろう。シバなりにテトを思っているからこその罠だろう。
「テトはこんな風な悪戯の罠でシバさんに修行を積んでもらってたんだって」
会った事のない伊織や礼二ですら、テトがにゃーにゃー叫びながら逃げ回る姿は容易に想像できてしまうし、ちょっと同情する。
「じいさんらしいや」
ファリフの言葉にオウガが笑う。
「テトに早く教えてあげたい」
ひとしきり笑ったアイラに思いつめた緊張はほぐされて、可愛い笑顔が戻っている。
「でも、おじいちゃんの事だから、これだけじゃないんだろうね」
「他にも用意している可能性ですね」
アイラが提示した言葉にセツナが応える。
「もしかしたら他にもあると思う。暗号とかあれば、確認したいな」
「シバ様は月と蛇でしたね」
思案するセツナが脇道の壁に寄り掛かると、壁が崩れてしまい、壁に重心を持って行ったセツナは宙に浮いたようになってしまう。
「あぶない!」
アイラがセツナの手を引くも、二人揃って崩れた壁の向こうへ落ちてしまう。
「アイラ、セツナ……っ」
オウガが穴を覗き込むと、言葉を失った。
蛇だ。
狭い空間に大量の蛇がうねり、アイラとセツナの足元を昇り遊んでいる。
ここで暴れるのは得策ではないので、二人は息を殺して黙ってやり過ごしていく。
オウガがゆっくりとロープを垂らして一人ずつ登らせようとしていた。
向こうの通路にいた礼二や伊織も参加し、ロープをしっかり持って支えている。
大声を上げないようにゆっくりロープを引き揚げていき、穴のすぐ傍でルシオとファリフが待機して上がって来たアイラ達の手助けに入った。
二人が戻り、肩で息をしている。
蛇ぐらいでオタオタする二人ではなかったが、毒はない蛇とすぐに理解したとはいえ、あの大量の蛇は勘弁してほしかったようだ。
「おじいちゃん……やりすぎ……」
流石に顔色が悪くなったアイラはもしかしたら、引っ掛かっていただろうテトに同情してしまう。
休憩を挟み、再び奥へと進んでいく。
「……先ほど落ちてきた金盥だが……」
「それは悪かった……」
ぽつりと礼二が話を蒸し返すと、オウガは素直に謝った。
「責めている話ではなく。こちらでもあのような金属は普及していたかという話だ」
オウガを咎める気はないと否定した上で礼二が言ったのはリアルブルーとクリムゾンウェストの文化について。
「ドワーフの金属加工であれば、あってもおかしくはないけど……」
うーんとアイラが首を傾げる。
「リアルブルーではあったのかい?」
ルシオが礼二の方を見つつ尋ねると、「昔はよくあったと聞く」と返した。
今では他の素材や品物が普及しあまり見るものではないと付け加えて。
「……シバはリアルブルーについても興味を示していたね」
ふむとルシオが記憶を引っ張り出すと、セツナが柳眉を顰める。
「あのタライはリアルブルーから漂着した品物の可能性……?」
「何か、部屋に通じているようですよ」
伊織がライトで照らし出した先には通路とは違った壁があった。
●
中に入ると、とても広い部屋であり、ライトが照らし出したのは紙の山。
「書物?」
首を傾げるセツナは一冊手に取る。片手でぱらぱらとページを捲ると、クリムゾンウェストでは使われていない文字が書かれてあった。
「リアルブルーのものか」
礼二が読み上げていった内容は近世ヨーロッパの歴史についての本だった。
他にも医療に関する本、政治の本が確認されていく。
「これ、地図じゃない?」
アイラが一枚の紙を広げると、辺境の地図とすぐにわかる。
辺境に住んでいない者でも場所が把握できる詳細が書き込まれている地図であった。
「凄いな、こんな地図が存在するなんて……」
オウガが地図を眺めてごくりと生唾を飲み込む。
アイラが広げた地図を照らしていた伊織はファリフの様子に気づいた。
皆が照らす微かな光りの中、彼女は微動だにせずに何かに視線を落としている。
「ファリフさん?」
一拍置いてファリフは伊織の声に気付く。
「ごめん、この資料、気になって……」
ファリフは何かの手記に夢中になっていた。
「どうかしたのか」
オウガと礼二がファリフの傍らに向かえば、彼女が持っている手記は昔の事を記したもの。
「昔、聞いたことがあるんだ。赤き大地には霊闘士が更なる力を得る為の何かがあるって……」
「それは……!」
ルシオ、アイラ、オウガが一斉に声を上げる。
三人の中で思い出させるのはシバの最期に見せたあの大量のマテリアル。
シバはそれを手にしていたのではないかという事が推察される。
もし、その推察が『それ』であれば……。
「おじいちゃん……ずっと一人でここで集めて、守っていたんだ……」
アイラが呆然と周囲を見回すと、ファリフへと向き直る。
「ファリフ君、部族なき部族の皆の下へ持って行く?」
その問いにファリフは首を横に振る。
「ボクは持ち出したくない。これはテトの……部族なき部族の皆のものだと思う。今は整理させてほしい事をお願いしに行こうと考えてる」
しっかり前を見据えたファリフの言葉にアイラは同意したように頷く。
「テト君にも伝えたいね。一人じゃないこと」
「いつか会えるよ」
力強く言ったファリフは清清しい笑顔だ。
「じっちゃんの弟子だから、強くなって戻ってくる。俺達にも顔を見せてくれるよ」
オウガが元気付けるように言えば、伊織も「待ちましょう」と返す。
彼女らの言葉を聞いていたセツナはポツリと呟く。
「シバ様は『覚悟』のお方とお見受けしております。バタルトゥ様は『信念』、ファリフ様は『勇気』……覚悟は信念に未来を託し、その信念は勇気に支えられて先へと進むと私は思います」
「その先の未来が……」
セツナの言葉を聞いたルシオがシャインの光で壁を照らしつつ、言葉を紡ぐと途中で言葉を途切れてしまった。
「ルシオ様……?」
様子に気づいたセツナも同じ方向を照らすと、言葉を失った。
他のメンバーも二人の様子に気づき、壁の方を向くと、全員が『それ』に釘付けになる。なるしかない。
シバの文字が壁に書き込まれていた。
『赤き大地を継ぐ者にこの力を託す』
初めて会う須磨井 礼二(ka4575)はファリフに向かい会う。
「託されて君の手助けに来た」
礼二が託された人物の名を聞いたファリフは納得して頷く。
「そうだったんだね。来てくれて嬉しいよ」
会えないのは残念であるが、駆けつけてきてくれた礼二にもファリフは感謝する。
「僕も、ファリフちゃんのお手伝いに来ました!」
「ありがとう、またよろしくね」
元気よく告げる叢雲 伊織(ka5091)にファリフも心強く感じる。
「しかし、じっちゃんのメモって場所は分るけどさ」
考え込むオウガ(ka2124)は記憶を辿り、セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)もメモを見て場所を推察できたようだ。
シバが遺したメモは辺境に住まう者であればわかるように地図が記されている。
「実はそのメモ、焙り出しになっているとかないですよね?」
キラキラ輝く瞳で疑問をぶつける伊織に全員が考え込む。
自身の死後、開けるようにあったそれに何があるのかは分らない。
もしかしたら、何か重要なことが隠されているのかもしれない。
「やってみよう!」
伊織の提案に食いついたファリフがメモに焼き色がつかないように慎重に炙る。
揺らめく炎に晒されてもメモは特に何も浮かばなかった。
「結果は残念ですが、メモの通り、向かいましょう」
しょんぼりするファリフや伊織に穏やかに諭すのはセツナ。
「おじいちゃんが遺したものがなんなのか見極めたい」
テトが自分たちに渡されたそれを自分たちが確かめるしかない。アイラ(ka3941)が真摯なまなざしでファリフ達を見つめる。
「私もそうだよ」
同意の声を上げるルシオ・セレステ(ka0673)の言葉にファリフ達も同じ思いでアイラを見つめる。
向かうは、蛇の窟へ。
●
「行く前に提案」
皆へ告げたのはオウガだった。
「じっちゃんは歪虚に狙われていたんだ。それでじっちゃんが死んだ後、歪虚はじっちゃんの仲間を……家族を襲ったんだ」
更にアイラが言葉を引き継ぐ。
「あいつらは私達が助けに来るときもずっと彼らと交戦していたの」
「これから向かう場所は、人があまり入ったことがない場所だと思う。出来るだけ、シバの名前も控えたほうがいいと俺は思う」
「尾行の可能性か」
礼二が言えば、アイラとオウガは頷く。
「わかりました。速やかに行きましょう」
この状況下で何が起こるのかは分らない。リスクは低い方を選ぶのがいいと判断した。
寒気はないかわりに風があり、オウガは天候の変わり目を心配してしまう。
しかし、ルシオは少し考えこんだ様子で歩いていた。
「ルシオさん?」
ファリフに名前を呼ばれてルシオは長い耳を揺らして少し驚いたようだった。
「すまない、考え事をしてて」
「何か心配事?」
ルシオを見上げて首を傾げるファリフは真直ぐ見つめており、ルシオは「違うんだ」と返す。
「ファリフ、彼の最期は聞いたかい?」
「アイラさんとオウガさんに教えてもらったんだ」
ルシオがファリフに問うと、彼女はあどけない表情で答えると、一転して真剣な……戦士の表情へと変わる。
「壮絶な最期だったって」
「そう」
ファリフの言葉を聞き、ルシオは空を見上げる。
「複数のハンターを前にして一歩も引くことはなかった……圧倒すらしていたあの気迫と力は滅多に見れるものではない」
シバが最期の戦いの時は脳裏だけではない、力をぶつけ合った身体自体が衝撃を、鼓動を今でも覚えている。
周囲を警戒していたオウガであったが、ルシオの話を聞いて、感覚が甦りそうな気がしてしまい、自身の手をぎゅっと握り、拳に視線を落とした。
「最期まで言葉ではなく行動で私たちに語り問いかけていたよ」
シバより溢れ出た大量のマテリアルと共に繰り出された技……あれが何であるかは判明できていない。
「凄い人だったんですね……」
話だけを聞いても、シバがどれほどの戦士だったかその場にいない者ですら感じ取ってしまう。
シバと力をぶつけながら問われ、応えたアイラはその先へ進むべきと感じ取っているようであったが、今は手がかりがテトに渡されたメモだけだ。
「ちゃんと掴まないとね」
ぽつりと呟いたアイラの華奢な手の中にはシバのメモがあり、端が風で揺らめいている。
●
特に雑魔や歪虚に遭遇する事もなく、オウガやアイラの超聴覚を使っても尾行されているような気配は見当たらなかった。
難なく地図の場所に到着する。
入り口は雪に吹かれて半分以上閉ざされていた。
「……雪、掻き分けて入るか」
スコップなどを持ってきていないので、少し辟易しつつ、礼二が呟く。
「仕方ないね、諦めよう」
ファリフが先頭となって入ろうとすると、フェンリルが先頭になって雪を被りつつ掻き分けてくれた。
「お嬢ちゃんが少しでも濡れないようにな」
大きなフェンリルの身体はあっさりと雪を掻き分けて蛇の窟の中へと入っていく。
オウガと礼二は殿を守りつつ、背後に気をつけて中へと入っていった。
「以外に広いんですね」
洞窟ともあり、声は響くものだと伊織は思う。
まずは、ハンディライトを持つセツナが前を歩く。中衛の伊織が更に照らし出しており、前方は明るい。
たいまつを持っている面々は非常用でとっておくことにした。
道は少し傾斜……登り道となっている。
セツナと並んで先頭を歩くアイラと殿のオウガは超聴覚を使用しつつ、壁を伝いながら歩いている。
今の所、特には異変を感じられない。
オウガの手がついていた壁がいきなり空洞になってしまい、オウガは一瞬体勢を崩しそうになってしまう。
「……っ」
バランスを整えようとしたオウガだが、空洞の中にあった異物に手の甲が触れてしまう。
びくりと、身体を硬直させてしまうオウガが周囲へ見回し、アイラと共に音に気づく。
ゴゥン
「……うっ」
ぐらりと頭を揺らしたのは礼二だった。
その足元に落ちたのを伊織がライトで照らしたのは……
「タライ……?」
金属で出来たタライ。礼二の頭にぶつかる前からいびつな形に曲がっている。
「何で?」
「私もオウガ君と同じ壁を触ってたのに、空洞を感じなかったよ?」
驚くアイラにルシオは礼二のダメージを確認しつつ、シャインの光で壁を照らす。
「身長差だね」
アイラとオウガの背丈は十センチ以上差がある為であり、壁の空洞はオウガくらいの身長を想定して掘られたものなのだろうとルシオが推察する。
「敵への迎撃なのかな……」
多分、この蛇の窟はシバのみが使っていた場所なのだろうとアイラが推察する。
敵を追い払う為の罠があるのかもしれない。
「罠を回避しながら行かなきゃ……」
ファリフが急ぎつつ一歩を踏み出すと、突起していた地面ががくりと、凹んだ。
「え!」
体勢を崩すファリフであったが、咄嗟に伊織がファリフの腕を掴む。
「だ、大丈夫ですか!」
「う、うん……」
こくりと頷くファリフは伊織に礼を告げる。
通路の向こうで何かが動き出す音が聞こえた事にアイラとオウガが気付く。
「何か音がする」
しかも、パシュッと、発火音が聞こえ、燃える音が聞こえる。
瞬間、大きな花火音が床穴の両脇から大きく音を出してただでさえよく響く洞窟内中に音が弾けとんでいく。
堪えきれないとハンター達が耳を塞ぐと、フェンリルが「おい! 前から来るぞ!」と叫び出した。
「まじ」
誰かの呟きかは分らない。
何故か大岩が転がってきた。
「どういうことーーーー!?」
「あ、少し先に両脇に道が!」
「二手に!」
セツナが叫ぶと、あえて前へ走って二手に分かれて両脇の道へと入って間一髪で非難する。
大岩は誰も踏み潰すことなく、入り口の雪の吹き溜まりに飛び込んで止まってくれた。
「……そういや、シバさん、こういうことするって忘れてた」
フェンリルにぐったりと凭れるファリフがぽつりと呟く。
人を驚かせたり、面白がらせ……まるで子供のような悪戯を仕掛けたりして、人の反応を見て喜んだりしていたじいさんであった事をファリフが思い出す。
ファリフの呟きにアイラはふと、視界に入ったオウガを見て何かに気付く。
「オウガ君の背丈って、テトと同じだよね」
「ん、ああ」
オウガはドワーフの為、人間より背は低いが、子供のテトとあまり変わらない。
「最初はテトがこの洞窟に入る予定だったのであれば……」
礼二の言葉からシバの思惑に気付いたルシオはくすくす笑ってしまう。
「テトを、元気付けたかったのだろうね」
シバはテトを親として師として育ててきた。
きっと、テトは落ち込んでしまうのだろう。シバなりにテトを思っているからこその罠だろう。
「テトはこんな風な悪戯の罠でシバさんに修行を積んでもらってたんだって」
会った事のない伊織や礼二ですら、テトがにゃーにゃー叫びながら逃げ回る姿は容易に想像できてしまうし、ちょっと同情する。
「じいさんらしいや」
ファリフの言葉にオウガが笑う。
「テトに早く教えてあげたい」
ひとしきり笑ったアイラに思いつめた緊張はほぐされて、可愛い笑顔が戻っている。
「でも、おじいちゃんの事だから、これだけじゃないんだろうね」
「他にも用意している可能性ですね」
アイラが提示した言葉にセツナが応える。
「もしかしたら他にもあると思う。暗号とかあれば、確認したいな」
「シバ様は月と蛇でしたね」
思案するセツナが脇道の壁に寄り掛かると、壁が崩れてしまい、壁に重心を持って行ったセツナは宙に浮いたようになってしまう。
「あぶない!」
アイラがセツナの手を引くも、二人揃って崩れた壁の向こうへ落ちてしまう。
「アイラ、セツナ……っ」
オウガが穴を覗き込むと、言葉を失った。
蛇だ。
狭い空間に大量の蛇がうねり、アイラとセツナの足元を昇り遊んでいる。
ここで暴れるのは得策ではないので、二人は息を殺して黙ってやり過ごしていく。
オウガがゆっくりとロープを垂らして一人ずつ登らせようとしていた。
向こうの通路にいた礼二や伊織も参加し、ロープをしっかり持って支えている。
大声を上げないようにゆっくりロープを引き揚げていき、穴のすぐ傍でルシオとファリフが待機して上がって来たアイラ達の手助けに入った。
二人が戻り、肩で息をしている。
蛇ぐらいでオタオタする二人ではなかったが、毒はない蛇とすぐに理解したとはいえ、あの大量の蛇は勘弁してほしかったようだ。
「おじいちゃん……やりすぎ……」
流石に顔色が悪くなったアイラはもしかしたら、引っ掛かっていただろうテトに同情してしまう。
休憩を挟み、再び奥へと進んでいく。
「……先ほど落ちてきた金盥だが……」
「それは悪かった……」
ぽつりと礼二が話を蒸し返すと、オウガは素直に謝った。
「責めている話ではなく。こちらでもあのような金属は普及していたかという話だ」
オウガを咎める気はないと否定した上で礼二が言ったのはリアルブルーとクリムゾンウェストの文化について。
「ドワーフの金属加工であれば、あってもおかしくはないけど……」
うーんとアイラが首を傾げる。
「リアルブルーではあったのかい?」
ルシオが礼二の方を見つつ尋ねると、「昔はよくあったと聞く」と返した。
今では他の素材や品物が普及しあまり見るものではないと付け加えて。
「……シバはリアルブルーについても興味を示していたね」
ふむとルシオが記憶を引っ張り出すと、セツナが柳眉を顰める。
「あのタライはリアルブルーから漂着した品物の可能性……?」
「何か、部屋に通じているようですよ」
伊織がライトで照らし出した先には通路とは違った壁があった。
●
中に入ると、とても広い部屋であり、ライトが照らし出したのは紙の山。
「書物?」
首を傾げるセツナは一冊手に取る。片手でぱらぱらとページを捲ると、クリムゾンウェストでは使われていない文字が書かれてあった。
「リアルブルーのものか」
礼二が読み上げていった内容は近世ヨーロッパの歴史についての本だった。
他にも医療に関する本、政治の本が確認されていく。
「これ、地図じゃない?」
アイラが一枚の紙を広げると、辺境の地図とすぐにわかる。
辺境に住んでいない者でも場所が把握できる詳細が書き込まれている地図であった。
「凄いな、こんな地図が存在するなんて……」
オウガが地図を眺めてごくりと生唾を飲み込む。
アイラが広げた地図を照らしていた伊織はファリフの様子に気づいた。
皆が照らす微かな光りの中、彼女は微動だにせずに何かに視線を落としている。
「ファリフさん?」
一拍置いてファリフは伊織の声に気付く。
「ごめん、この資料、気になって……」
ファリフは何かの手記に夢中になっていた。
「どうかしたのか」
オウガと礼二がファリフの傍らに向かえば、彼女が持っている手記は昔の事を記したもの。
「昔、聞いたことがあるんだ。赤き大地には霊闘士が更なる力を得る為の何かがあるって……」
「それは……!」
ルシオ、アイラ、オウガが一斉に声を上げる。
三人の中で思い出させるのはシバの最期に見せたあの大量のマテリアル。
シバはそれを手にしていたのではないかという事が推察される。
もし、その推察が『それ』であれば……。
「おじいちゃん……ずっと一人でここで集めて、守っていたんだ……」
アイラが呆然と周囲を見回すと、ファリフへと向き直る。
「ファリフ君、部族なき部族の皆の下へ持って行く?」
その問いにファリフは首を横に振る。
「ボクは持ち出したくない。これはテトの……部族なき部族の皆のものだと思う。今は整理させてほしい事をお願いしに行こうと考えてる」
しっかり前を見据えたファリフの言葉にアイラは同意したように頷く。
「テト君にも伝えたいね。一人じゃないこと」
「いつか会えるよ」
力強く言ったファリフは清清しい笑顔だ。
「じっちゃんの弟子だから、強くなって戻ってくる。俺達にも顔を見せてくれるよ」
オウガが元気付けるように言えば、伊織も「待ちましょう」と返す。
彼女らの言葉を聞いていたセツナはポツリと呟く。
「シバ様は『覚悟』のお方とお見受けしております。バタルトゥ様は『信念』、ファリフ様は『勇気』……覚悟は信念に未来を託し、その信念は勇気に支えられて先へと進むと私は思います」
「その先の未来が……」
セツナの言葉を聞いたルシオがシャインの光で壁を照らしつつ、言葉を紡ぐと途中で言葉を途切れてしまった。
「ルシオ様……?」
様子に気づいたセツナも同じ方向を照らすと、言葉を失った。
他のメンバーも二人の様子に気づき、壁の方を向くと、全員が『それ』に釘付けになる。なるしかない。
シバの文字が壁に書き込まれていた。
『赤き大地を継ぐ者にこの力を託す』
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/28 12:54:39 |
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相談・雑談の卓 ルシオ・セレステ(ka0673) エルフ|21才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/01/28 12:56:23 |