ゲスト
(ka0000)
村おこし! の、その前に
マスター:芹沢かずい

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2016/02/01 09:00
- 完成日
- 2016/02/08 09:38
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「はあああ……まったく……何なのよこの荷物の多さは……?」
飽きること無く文句を言い続けながら作業すること数時間。相変わらず体力だけはある姉のリタに比べ、妹のエマは文句を言う気力も枯渇してしまったようだ。
「それにしても」
小さな荷台から溢れ出て来る荷物と格闘しながら、リタ。
「折角故郷の村に帰って来たってのに、引っ越しの手伝いどころかお出迎えもないわけ?」
疲れと苛立ちがないまぜになり、少々言葉がキツくなる。
姉妹は、老夫婦の依頼を(半ば強引に)受け、自由都市同盟領からここ、グラズヘイム王国領のとある田舎へと引っ越して来たのだ。その勢いで、芸術的に積み上げられた荷物を非芸術的な姿に整理するところまで付き合っているわけなのだが。
「ううむ……言われてみればそうじゃのぅ。空き家も目立つ」
改めて周囲を見渡し、暢気に言う老人。
「本当にここがお爺さんの故郷なんですか?」
少々不躾な質問がエマの口から出るが、そのくらい、この村は寂れている。——と。
「ガーゴ? ガーゴじゃねえかぃ?」
「ん? ……おお、お前はリブか! 懐かしいのぅ!」
不意に現れたのは、老人と年格好の近い男。……ここに来てようやく、老人の名前を知る姉妹。因みに老婆の名はイルという。
再会を喜び合う老人達。リブは荷物と一体化するように佇んでいたイルを一瞬にして発見していた。昔馴染みだそうだ。
●
「そうか……城が……」
「うぅむ。気付かんかったとは情けない話だがなぁ」
荷物の整理が一段落し、空き家(ガーゴの持ち家だった)の一室に集まった五人は、イルの手料理を味わいながら村の現状をリブに聞いていた。
「ふーん……こんな田舎に千年も前からお城があったなんて、信じられないわね」
「お姉ちゃん、色々失礼だよ」
「ふぉっふぉっ……千年前には立派なモンだったらしいぞ。戦線から取り残されて上手い具合に保存されてな」
「そこに何かが住み着いたっていうのね?」
リタの言葉を、少々苦い顔で肯定するリブ。
この村のはずれに、こんもりとした丘がある。本来はそれほど高くないその丘は、今は不気味な程に黒い影が取り囲んでいる。古城を取り囲む雑木林が長い間放置されていた結果だそうだ。現在、古城と一体化したその影が黒々と、月明かりを背に佇んでいる。
「戦を逃れてきた亜人にとっては、城が絶好の隠れ家になったわけじゃな……」
変わり果てた故郷を憂うガーゴ。……彼が思い出せるのは数十年前の姿だろうが。
リブが城と村の変化に気付いたのは半年近く前。管理する者がいないはずの城に、何かがいる気配があった。ヒトではなかった。ヒトよりも小さく、発する言語は理解不能。単なる鳴き声かもしれない。
「亜人……ですか」
話を聞きながら、エマが呟く。
「恐らくはの。ワシらには対抗手段がなかったからなぁ、家に閉じこもってやり過ごすしかなかったんじゃ」
村に残っている者なら或いは、その姿を視認しているかもしれないが……リブはそう付け足し、話を続ける。
幼い子供を抱える家族をはじめとし、村人は自分の家を捨てて近隣の町へ移り住んだ。
住み慣れた村を離れた寂しさと慣れない町での暮らしを思うと、危険とは分かっていてもリブは村を離れられない。村に残っているのはリブと同じ思いを抱えている者ばかりだという。もっとも、移り住んだ家族も村への思いは同じだが、家族の安全の為の苦渋の選択だった。
「そうやって空き家が増えて、この有様じゃ。危険が無くなれば話は別じゃが、亜人に乗っ取られるのも時間の問題かのぅ……」
「ちょっとリブ爺ちゃん! 諦めちゃうの? 自分が生まれ育った村なんでしょっ?」
「そうは言ってもな、リタさんや。ワシらには対抗できんよ。相手は亜人……随分古いとはいえ、住み着いておるのはあの城じゃし……」
「お城って厄介ですね。ちらっと見えただけだけど、かなりの大きさだったよね。周りの雑木林は荒れ放題だし」
「ふむ……その通りじゃ。早くに戦線から離れてしまったんじゃが、幸か不幸か、兵舎や武器庫はほぼそのまま保存されとるしな」
エマの言葉に返すのは、難しい顔のリブ。
「千年も前のをですか? それじゃあ、あっても使い物にならないんじゃ?」
「いや、実はこの数十年の間には何度か、城を観光名所にしようと色々と手入れはしてあったんじゃ。……この場合は不幸にも、と言った方が良いようじゃが……」
「観光名所として賑わってた時代が懐かしいねぇ」
どこか遠くを見るような表情で、イル。
「観光名所?」
「そうそう、古城を一般人に開放してなぁ」
リタの疑問符に、目を細めたガーゴが答える。その昔、イルは一般開放されていた古城のキッチンで、その腕を振るっていたらしい。
「あ、ねえ! 一般開放されてたってことは、お城の見取り図とか案内図みたいのがあるんじゃないの?」
「お、お姉ちゃん……まさか……乗り込む気じゃないよね……?」
身を乗り出したリタを見るエマの顔色が、物凄い勢いで悪くなった。清々しい程に輝く笑顔で振り返った姉を見て、体中の血がどこかへ抜け出る感覚がエマを襲う。
「まさかってことはないと思うわ! こんな話を聞いちゃったんだもの、黙って見過ごすなんてできないわよ!」
「お城に乗り込んで亜人を退治する気なのね……」
呆然としつつもどこか諦めたように、エマは溜め息と共に言葉を吐き出した。
「それに、あたし決めたのよ」
「?」
「お城を取り戻したら、そこに住むわよ!」
『はいっ?』
リタの言葉に全員がハモった。
「…………冗談よ……」
「…………冗談に聞こえないのよ、お姉ちゃんの発言……」
「ま、まあ住むかどうかは別として、よ! お城って観光名所だったんでしょ? それをウリに村おこしをしたらどうかしら?」
「村おこし……?」
「亜人を追い払ったとしても、管理する人がいないワケでしょ? そんなんだったらまた同じことを繰り返すと思うのよ。だったらいっそのこと、観光地として開いておくの。そしたら亜人も近寄ってこないわ。そうでしょ?」
リタ力説。……彼女曰く、引っ越しを含めた今回の冒険を、ハンターとしての責任ある行動としたいらしい。
少女の言葉に、老人達も考え込む。
「確かに……その通りじゃな」
「出て行った村人も帰って来るしのぅ。せっかく帰って来たのに廃村の憂き目に遭うのは御免じゃし」
リブとガーゴの言葉に、イルはどこか嬉しそうに頷いている。
「決まりね!」
……かくして、名前すら忘れ去られた田舎における村おこし企画が始まった。
「はあああ……まったく……何なのよこの荷物の多さは……?」
飽きること無く文句を言い続けながら作業すること数時間。相変わらず体力だけはある姉のリタに比べ、妹のエマは文句を言う気力も枯渇してしまったようだ。
「それにしても」
小さな荷台から溢れ出て来る荷物と格闘しながら、リタ。
「折角故郷の村に帰って来たってのに、引っ越しの手伝いどころかお出迎えもないわけ?」
疲れと苛立ちがないまぜになり、少々言葉がキツくなる。
姉妹は、老夫婦の依頼を(半ば強引に)受け、自由都市同盟領からここ、グラズヘイム王国領のとある田舎へと引っ越して来たのだ。その勢いで、芸術的に積み上げられた荷物を非芸術的な姿に整理するところまで付き合っているわけなのだが。
「ううむ……言われてみればそうじゃのぅ。空き家も目立つ」
改めて周囲を見渡し、暢気に言う老人。
「本当にここがお爺さんの故郷なんですか?」
少々不躾な質問がエマの口から出るが、そのくらい、この村は寂れている。——と。
「ガーゴ? ガーゴじゃねえかぃ?」
「ん? ……おお、お前はリブか! 懐かしいのぅ!」
不意に現れたのは、老人と年格好の近い男。……ここに来てようやく、老人の名前を知る姉妹。因みに老婆の名はイルという。
再会を喜び合う老人達。リブは荷物と一体化するように佇んでいたイルを一瞬にして発見していた。昔馴染みだそうだ。
●
「そうか……城が……」
「うぅむ。気付かんかったとは情けない話だがなぁ」
荷物の整理が一段落し、空き家(ガーゴの持ち家だった)の一室に集まった五人は、イルの手料理を味わいながら村の現状をリブに聞いていた。
「ふーん……こんな田舎に千年も前からお城があったなんて、信じられないわね」
「お姉ちゃん、色々失礼だよ」
「ふぉっふぉっ……千年前には立派なモンだったらしいぞ。戦線から取り残されて上手い具合に保存されてな」
「そこに何かが住み着いたっていうのね?」
リタの言葉を、少々苦い顔で肯定するリブ。
この村のはずれに、こんもりとした丘がある。本来はそれほど高くないその丘は、今は不気味な程に黒い影が取り囲んでいる。古城を取り囲む雑木林が長い間放置されていた結果だそうだ。現在、古城と一体化したその影が黒々と、月明かりを背に佇んでいる。
「戦を逃れてきた亜人にとっては、城が絶好の隠れ家になったわけじゃな……」
変わり果てた故郷を憂うガーゴ。……彼が思い出せるのは数十年前の姿だろうが。
リブが城と村の変化に気付いたのは半年近く前。管理する者がいないはずの城に、何かがいる気配があった。ヒトではなかった。ヒトよりも小さく、発する言語は理解不能。単なる鳴き声かもしれない。
「亜人……ですか」
話を聞きながら、エマが呟く。
「恐らくはの。ワシらには対抗手段がなかったからなぁ、家に閉じこもってやり過ごすしかなかったんじゃ」
村に残っている者なら或いは、その姿を視認しているかもしれないが……リブはそう付け足し、話を続ける。
幼い子供を抱える家族をはじめとし、村人は自分の家を捨てて近隣の町へ移り住んだ。
住み慣れた村を離れた寂しさと慣れない町での暮らしを思うと、危険とは分かっていてもリブは村を離れられない。村に残っているのはリブと同じ思いを抱えている者ばかりだという。もっとも、移り住んだ家族も村への思いは同じだが、家族の安全の為の苦渋の選択だった。
「そうやって空き家が増えて、この有様じゃ。危険が無くなれば話は別じゃが、亜人に乗っ取られるのも時間の問題かのぅ……」
「ちょっとリブ爺ちゃん! 諦めちゃうの? 自分が生まれ育った村なんでしょっ?」
「そうは言ってもな、リタさんや。ワシらには対抗できんよ。相手は亜人……随分古いとはいえ、住み着いておるのはあの城じゃし……」
「お城って厄介ですね。ちらっと見えただけだけど、かなりの大きさだったよね。周りの雑木林は荒れ放題だし」
「ふむ……その通りじゃ。早くに戦線から離れてしまったんじゃが、幸か不幸か、兵舎や武器庫はほぼそのまま保存されとるしな」
エマの言葉に返すのは、難しい顔のリブ。
「千年も前のをですか? それじゃあ、あっても使い物にならないんじゃ?」
「いや、実はこの数十年の間には何度か、城を観光名所にしようと色々と手入れはしてあったんじゃ。……この場合は不幸にも、と言った方が良いようじゃが……」
「観光名所として賑わってた時代が懐かしいねぇ」
どこか遠くを見るような表情で、イル。
「観光名所?」
「そうそう、古城を一般人に開放してなぁ」
リタの疑問符に、目を細めたガーゴが答える。その昔、イルは一般開放されていた古城のキッチンで、その腕を振るっていたらしい。
「あ、ねえ! 一般開放されてたってことは、お城の見取り図とか案内図みたいのがあるんじゃないの?」
「お、お姉ちゃん……まさか……乗り込む気じゃないよね……?」
身を乗り出したリタを見るエマの顔色が、物凄い勢いで悪くなった。清々しい程に輝く笑顔で振り返った姉を見て、体中の血がどこかへ抜け出る感覚がエマを襲う。
「まさかってことはないと思うわ! こんな話を聞いちゃったんだもの、黙って見過ごすなんてできないわよ!」
「お城に乗り込んで亜人を退治する気なのね……」
呆然としつつもどこか諦めたように、エマは溜め息と共に言葉を吐き出した。
「それに、あたし決めたのよ」
「?」
「お城を取り戻したら、そこに住むわよ!」
『はいっ?』
リタの言葉に全員がハモった。
「…………冗談よ……」
「…………冗談に聞こえないのよ、お姉ちゃんの発言……」
「ま、まあ住むかどうかは別として、よ! お城って観光名所だったんでしょ? それをウリに村おこしをしたらどうかしら?」
「村おこし……?」
「亜人を追い払ったとしても、管理する人がいないワケでしょ? そんなんだったらまた同じことを繰り返すと思うのよ。だったらいっそのこと、観光地として開いておくの。そしたら亜人も近寄ってこないわ。そうでしょ?」
リタ力説。……彼女曰く、引っ越しを含めた今回の冒険を、ハンターとしての責任ある行動としたいらしい。
少女の言葉に、老人達も考え込む。
「確かに……その通りじゃな」
「出て行った村人も帰って来るしのぅ。せっかく帰って来たのに廃村の憂き目に遭うのは御免じゃし」
リブとガーゴの言葉に、イルはどこか嬉しそうに頷いている。
「決まりね!」
……かくして、名前すら忘れ去られた田舎における村おこし企画が始まった。
リプレイ本文
●情報収集・昼の部
「村おこし、ねェ……故郷が大事なのは分かるケドよォ」
言って万歳丸(ka5665)は姉妹に目をやる。
「てめェらにとっちゃァそうじゃねェだろ?」
『え……』
目を合わせて何か言おうとした姉妹を遮るように手をあげ、
「いや、なに……そういうのは嫌いじゃねェってだけだ!」
豪快に笑い飛ばす。
「私は残っている村人から話を聞いてみるよ」
鞍馬 真(ka5819)はそう言うと、民家が建ち並ぶ方へと歩き出す。
「私も行きます。村の人達に何か気付いたこととかくまなく聞いておきたいの」
と、獅臣 琉那(ka6082)。
ガーゴに向き直り、柊 真司(ka0705)が問いかける。
「城の見取り図をお貸し頂けますか?」
「勿論じゃ。集めた情報も書き込んで使うと良いじゃろ」
「それと聞いておきてェんだが、城ん中で貴重な物ってのはあンのか? 壊しちゃならねェもんとか」
「うむ……」
万歳丸の問いかけに、ガーゴが重々しく頷く。……その場にいた者は、彼から『重要な物』の存在を聞かされた。通称『アレ』。
「城の裏庭には池があったかのぅ」
リブの言葉に、ウィーダ・セリューザ(ka6076)は見取り図にそれを書き込んだ。
今いるガーゴの家は、村の端に位置している。
残っている村人は少ないが、話を聞いて回る。
「鳴き声とかシルエット、どんな些細なことでもいいんだが」
問われた村人は、自身の記憶を探りつつ、答える。
「影しか見てないよ。何か犬っぽいのが後ろをついてたよ。物置から手当たり次第に持って行っちまった。飼ってた鶏もやられたんだ」
「そうか、ありがとう」
憔悴しきった様子の村人に礼を言い、再び情報収集に戻る。
亜人は、先端に何かがついた棒を振り回したり、錆び付いた剣を携えていたという。
荒れた畑に残された足跡、乱暴に壊された物置小屋等、気付いたことは詳細にメモに記していく真。琉那は村と城との位置関係をスケッチしているのは琉那だ。
ウィーダとユキトラ(ka5846)は姉妹を引き連れて城を取り囲む雑木林に向かう。木々の隙間から双眼鏡や望遠鏡で城と周辺を観察する。
「あっ、今ちらっと見えたぜ?」
望遠鏡で城を見ていたユキトラが敵を発見した。
途中雑木林の隙間から見えたのは、前庭だろうか。手前には無惨な城門の残骸があった。雑草が伸び放題だが、かなりの広さがあるようだ。中央に小さな池が造られているが、水は無い。その奥に、正面のドアが見えた。
「不用心だね」
双眼鏡を覗き込みながら、ウィーダ。
東西南北に背の高い塔があり、城の正面は南東を向いている。
頑丈な石造りの壁は所々崩れ落ちているが、均等に並んだ窓が見える。通り過ぎる亜人の姿が時折目についた。
「下っ端だろうね。随分と年季が入っている……武器としては使い物にならなそうだけど」
前庭周辺も雑木林と大差なく、雑草が高く伸び放題。隠れるのに最適だろう。
一方で、情報収集を終えた万歳丸と真司、真と琉那は姉妹と合流し、城の裏手に回る。
こちらも荒れ放題の雑木林が続き、何とか観察が出来る距離を保ちつつ進む。
先頭を進む万歳丸の背中が、突然止まった。
「どうした?」
後ろを行く真司が問う。
「?」
「池っていうより湖みてェだな……」
「……確かに。想像より遥かに大きいな」
彼らは手入れされていない巨大な池のほとりにいた。丁度ここから城の裏側が見える。
双眼鏡で覗くと、城から裏庭(池?)に降りるための幅広の階段が見えた。
「こっちからじゃ潜入できないか……」
観察しながら真が言う。
「いや待て、あそこ、城壁の一部が壊れてやがる。あそこから入れるんじゃねェか?」
「成る程」
●
城の周辺を観察していたハンターたちは、湖(池と呼ぶにはあまりに広い)の北側で合流した。そこで、琉那が描いたスケッチと、貰った見取り図を元に情報を整理していく。
そこに、万歳丸がイルから預かっていたという風呂敷包みを開ける。中には……
「おお! 旨そうじゃねェか!」
「さすがイル婆ちゃん! バラエティーランチ!」
周囲の安全を確保した上での、ランチタイムだ。
「うふふ、こんな妹はんが二人おったらええやろな〜」
琉奈は姉妹を見て優しく微笑む。
「そうだ、リタにはこれを渡しておく」
「何これ? あ! トランシーバーってやつね? 初めて見たわ!」
「…………使い方、教えておくな……」
「お願いします」
答えたのはリタではなくエマだったが、使い方は大丈夫そうだ。
●夜の部作戦
すっかり夜の帳が落ちた。
「よし来た! 鬼が出るか蛇が出るか、気合い入れていくぜー!」
ユキトラは、自身の白髪が目立たぬ様に頭にバンダナを装着。
「探険みたいやな。ワクワクしてきよったわ。行くえ♪」
装備やライトの調子を確かめ、いざ、亜人の巣窟(?)への潜入作戦の始まりだ。
●裏庭から
真司、琉那、リタの三人は外側から壊れた城壁を辿り、裏庭に続くドアに向かう。が、ドアは開かない。何をどう試そうと開かなかったのだ。ここで時間を費やす訳にも行かず、道を戻り、正面に向かう。
「リタ、そっちは反対だ」
「うっ……」
真司の指摘に回れ右。
「手、つないでこか?」
「……うん」
顔を赤くして、それでも素直に琉那の手を取るリタ。
●正面玄関
正面の入り口は中途半端に開いていた。真とユキトラはその隙間から滑り込むように、暗闇の中に身を躍らせる。……ここからはさらに音と光りに配慮せねばなるまい。
じっと息を殺して動かず、気配だけで辺りを伺う。やがて暗闇に目が慣れ、彼らがいる場所が視認できた。……かなり広い。
玄関ホールというよりは、そのままロビーとして多目的に使っていたようだ。幾つもの巨大な柱が二階の回廊を支え、天井が一部吹き抜けになっている。奥には、ゆったりと弧を描く螺旋階段。
「こっちが兵舎になってるって言ってたよな」
首肯する真。二人背中合わせになるようにして警戒を強めながら、ドアに向かう。ドアノブを回す前に、壁に耳を当てて中の様子を探ってみる。
「寝息だな……イビキのようだが、数は十以上、か」
「直接ここに入るってのは得策じゃないよな?」
「爆睡してるのは間違いないようだけどな」
二人は見取り図を見直してみる。この兵舎は南側の塔に内部で繋がっている。塔へは外側からしか入れないらしいので、二人は一度外に出ることにした。
●東側の壊れた壁
万歳丸を先頭に、ウィーダ、エマは壊れていた東側の壁からの侵入を試みていた。
「ここは……食堂か」
「奥は厨房のようだね。何がいるか分からない。慎重に行こう」
ウィーダの言葉に、万歳丸は重々しく、エマは恐怖一歩手前の表情で頷く。
灯りで遠くを照らすワケにもいかず、近くだけをライトで照らしつつ調査を進めるうち、だんだんと自分たちの目も暗がりに慣れてくる。
「食堂は結構綺麗になってるね。テーブルが五つにそれぞれ椅子が五脚ずつ。普段使ってるみたいだね」
「あ、あの……っ!」
「あン? どうした?」
エマが一点を凝視して指差す方向には、何やら蠢くものが。幸い、こちらには気付いていないようだ。
「後ろに」
言ってウィーダはエマを背に庇う。代わりに万歳丸が素早く相手に接近。自分よりも遥かに小柄な相手にも、的確に関節をキめ、ねじ伏せる。そのままそれは床に崩れ落ち、動かなくなった。
「何だァコイツは? つまみ食いでもしてたのか?」
他に敵はいない。見張りをしていた雰囲気でもなく、厨房内にはそれらしき見張りの姿はない。食料らしいものは殆ど残っていないようだ。
「ひょっとするとここのヤツら、食うモンに困ってんじゃねェのか?」
「そうかもしれないね」
言いながら、手元の灯りを調節してメモしているのはウィーダ。
●再び正面玄関から
「一匹……見張りだな」
言ってすぐさま動いたのは真司。暗闇に紛れて素早く相手の死角に回り込むと、所持していた武器を巧みに操り、一瞬にして昏倒させる。それを階段の影にもたれかけさせるように寝かせた。仲間が来ても居眠りのように見せられるだろう。
見張りのいなくなった螺旋階段を慎重に上る。途中の壁には不自然なドア。
「開けて良いっ?」
リタが(小声で)生き生きと聞きながらドアノブに手をかける。
「あ、鍵かかってるわ……」
「それなら、俺が」
真司は道具を取り出すと、己の直感を頼りに鍵を調査、解錠を試みる。
僅かの間。
かちゃり。
想像よりも軽い音で、鍵が開いた。
「やっ……むぐっ!」
「大きな声出さないの」
琉那がリタの口を押さえて静かに宥める。
「むぐぅ」
琉那に口を押さえられたまま、器用にドアを開けるリタ。あったのは、狭い廊下。少し進んだ先にもドアと鍵。同じ様に解錠すると、それは最初に開けようとした裏庭へ続くドアだった。
「これが秘密の通路ってやつやな。他にもあるかも知れんね?」
●兵舎に続く塔
塔の前には見張りが一人。
「クラマの兄さん、あれ」
ユキトラが指差す先。遠目に見ても子供程の身長でがっしりとした体型。
「ゴブリンで間違いないだろう」
一瞬考えたものの、見張りは一体。あれを何とかすれば、活路が開くことは間違いない。
互いに一つ頷くと、ユキトラは素早くゴブリンの背後に回り込んで相手の口を塞ぐ。間髪入れず、真がその脳天に刀を振り下ろした! 低い音が辺りに響く。……二人はそのままの姿勢で息を殺して待つ。
「……どうやら、気付かれなかったみたいだね」
周囲の気配が変わらないことに少し安心し、ユキトラ。
「ああ、運が良かったな」
見張りゴブリンを物陰に隠し、二人は塔内部への侵入を試みる。
内部は広く、中央を螺旋階段が占拠し、各階にドアがある。
「よし、行ってみようぜ? クラマの兄さん」
「ああ」
二階のドアを開ける。その先は板を格子状に組み合わせた造りで、四角く空いた穴から下の様子が見える。
どうやら、兵舎で間違いないようだ。ベッドが7つずつ4列並んでいる。その内4つのベッドは空っぽだ。
細心の注意を払いながら、這うように進むと、下の部屋の奥に鉄格子の扉が見えた。ここから中を確認することは出来ないが、見取り図の通りならば、そこが武器庫だ。
二人は武器庫の上までやってくると、音を立てず、保管されている武器の状態を観察する。
殆どがボロボロで錆だらけの年代物。それでも、種類や数をメモしていく。
「ん? クラマの兄さん、何してんの?」
ユキトラが問うと、真は少しだけ顔を上げて答える。
「こんなものを見つけたからね。ちょっと小細工を」
真は束ねられたロープ(……網?)を隙間から降ろし、下に並べられている武器の上に器用にまとわりつかせていた。これならば、すぐに取り出すことは難しいだろう。
天井を進むと、またドアが見えてきた。恐らくは、西の塔に繋がるドアだろう。
●チーム合流・二階の探索
トランシーバーで連絡を取り合っていたそれぞれのチームが、一階ロビーの奥にある螺旋階段前で合流した。幸い、迷子者はいない模様。足音を立てないように進む中、ウィーダの足袋『猿飛』が最も性能を発揮した。
階段を上りきる頃、正面に一際豪奢な造りの両開きのドアが見えた。領主の間だ。2階はほぼ居住スペースらしい。
領主の間の前に佇む影は踞り、時々不自然に揺れ動く。
「……居眠りしてやがるな、ありゃア」
音を立てずに近付き、有無を言わさず技を決める万歳丸。そのまま床に転がすと、今度は真司と真が近付き、中の様子をドア越しに伺う。しばらく集中すると、二人同時に頷く。
「中には一体しかいないようだ」
「呼吸のリズムからして、寝ているようだな……」
『……入るか?』
二人が同時に問う。
「勿論! 『アレ』を探さなきゃ!」
『あ、アレって?』
話を聞いていなかった者たちの声がハモる。
「後で説明してやらァ」
「それじゃ、開けるぞ」
万歳丸の言葉に微妙な表情を浮かべるメンバー。真がノブに手をかける。
極力音を立てないよう、慎重に、ゆっくりと。かろうじて中が覗き見える程度に開く。
室内は別世界のように豪華だった。
……果たして、そこにはあった。『アレ』が。
「な、なんて贅沢なの……っ、あのボスゴブリン!」
「今回は場所だけ確認できたから良しとしよう」
わなわなと拳を震わせるリタを宥めつつ、真司。こっそりとドアを閉め、部屋から離れる。
「他の部屋も見た方が良いかな?」
真が提案する。
二階部分には、幾つものドアが並んでいた。
「あたしも行くわ!」
やたらと元気のいいリタに、琉那が待ったをかける。
「はい」
一言と共に差し出される手。
「……はい」
しっかりと手を握り返し、エマもそれに続いて領主の間から時計回りに調べて回る。
「鍵はかかってへんなぁ。埃も凄いし。あんまり使われておらんようやね」
ぐるり回って全ての部屋を慎重に調べていくが、どの部屋も似たようなものだった。
違うのは、東の塔へ続く部屋と西の端にある衣装部屋。
東側の部屋は老朽化の為か、床が抜け落ちていた。故に、その下にある食堂の天井が無い状態だ。
西側の端に位置する衣装部屋の奥には、隠し扉があった。こちらも、見事な腕前で真司が鍵を開ける。
開けた先は塔の内部のようだ。一通り二階の部屋を確認した一行は、ここから降りることにした。
●地下へ
「随分長いようだけど地下に潜っているようだな」
螺旋階段や周辺をくまなく調べながら、真。
彼が言うように、階段は長く、カビ臭い。加えて、水が流れる音が聞こえる。
「水?」
「あぁ、村人からの情報だが、この城の地下を通って裏の池に川が流れ込んでいるらしいんだ」
琉那の問いかけには真が答える。
石造りのじめじめとした空間は、人が4人横に並んで歩ける程の広さがある。しばらく行くと、城の地下を悠々と流れる地下水となった川の流れを目にすることができた。
その奥、暗くて良く見えないが、鉄格子が見えた気がする。
そこから見えたモノは、ゴブリンよりも小柄で、ひょろ長い手足を格子の隙間から出したり、格子を掴んで揺すったりしている。
「ゴブリンが飼い馴らしてるコボルドってとこだろう。まるで奴隷だな。数は……7匹か」
呆れとも蔑みともつかない声色で、真。
この場ではどうすることもできず、今はこのままにしておく。
●潜入捜査・終了……?
川の上流へ進むように歩いていくと、東側の塔に辿り着いた。地下まで続くように建てられた塔を通り過ぎると、突如地下道が終わりを迎えた。出口だ。
老朽化しているが、未だ立派な縄梯子を上りきった先は、城を取り巻く城壁の外だった。
一行はガーゴの家へと戻る道を辿る。
「さあ、今度は『おびき出し討伐作戦』を立てるわ! 準備が整い次第、決行よっ!」
ガーゴの家へと戻る途中、リタの元気な声が聞こえてきた。……トランシーバーから。
「村おこし、ねェ……故郷が大事なのは分かるケドよォ」
言って万歳丸(ka5665)は姉妹に目をやる。
「てめェらにとっちゃァそうじゃねェだろ?」
『え……』
目を合わせて何か言おうとした姉妹を遮るように手をあげ、
「いや、なに……そういうのは嫌いじゃねェってだけだ!」
豪快に笑い飛ばす。
「私は残っている村人から話を聞いてみるよ」
鞍馬 真(ka5819)はそう言うと、民家が建ち並ぶ方へと歩き出す。
「私も行きます。村の人達に何か気付いたこととかくまなく聞いておきたいの」
と、獅臣 琉那(ka6082)。
ガーゴに向き直り、柊 真司(ka0705)が問いかける。
「城の見取り図をお貸し頂けますか?」
「勿論じゃ。集めた情報も書き込んで使うと良いじゃろ」
「それと聞いておきてェんだが、城ん中で貴重な物ってのはあンのか? 壊しちゃならねェもんとか」
「うむ……」
万歳丸の問いかけに、ガーゴが重々しく頷く。……その場にいた者は、彼から『重要な物』の存在を聞かされた。通称『アレ』。
「城の裏庭には池があったかのぅ」
リブの言葉に、ウィーダ・セリューザ(ka6076)は見取り図にそれを書き込んだ。
今いるガーゴの家は、村の端に位置している。
残っている村人は少ないが、話を聞いて回る。
「鳴き声とかシルエット、どんな些細なことでもいいんだが」
問われた村人は、自身の記憶を探りつつ、答える。
「影しか見てないよ。何か犬っぽいのが後ろをついてたよ。物置から手当たり次第に持って行っちまった。飼ってた鶏もやられたんだ」
「そうか、ありがとう」
憔悴しきった様子の村人に礼を言い、再び情報収集に戻る。
亜人は、先端に何かがついた棒を振り回したり、錆び付いた剣を携えていたという。
荒れた畑に残された足跡、乱暴に壊された物置小屋等、気付いたことは詳細にメモに記していく真。琉那は村と城との位置関係をスケッチしているのは琉那だ。
ウィーダとユキトラ(ka5846)は姉妹を引き連れて城を取り囲む雑木林に向かう。木々の隙間から双眼鏡や望遠鏡で城と周辺を観察する。
「あっ、今ちらっと見えたぜ?」
望遠鏡で城を見ていたユキトラが敵を発見した。
途中雑木林の隙間から見えたのは、前庭だろうか。手前には無惨な城門の残骸があった。雑草が伸び放題だが、かなりの広さがあるようだ。中央に小さな池が造られているが、水は無い。その奥に、正面のドアが見えた。
「不用心だね」
双眼鏡を覗き込みながら、ウィーダ。
東西南北に背の高い塔があり、城の正面は南東を向いている。
頑丈な石造りの壁は所々崩れ落ちているが、均等に並んだ窓が見える。通り過ぎる亜人の姿が時折目についた。
「下っ端だろうね。随分と年季が入っている……武器としては使い物にならなそうだけど」
前庭周辺も雑木林と大差なく、雑草が高く伸び放題。隠れるのに最適だろう。
一方で、情報収集を終えた万歳丸と真司、真と琉那は姉妹と合流し、城の裏手に回る。
こちらも荒れ放題の雑木林が続き、何とか観察が出来る距離を保ちつつ進む。
先頭を進む万歳丸の背中が、突然止まった。
「どうした?」
後ろを行く真司が問う。
「?」
「池っていうより湖みてェだな……」
「……確かに。想像より遥かに大きいな」
彼らは手入れされていない巨大な池のほとりにいた。丁度ここから城の裏側が見える。
双眼鏡で覗くと、城から裏庭(池?)に降りるための幅広の階段が見えた。
「こっちからじゃ潜入できないか……」
観察しながら真が言う。
「いや待て、あそこ、城壁の一部が壊れてやがる。あそこから入れるんじゃねェか?」
「成る程」
●
城の周辺を観察していたハンターたちは、湖(池と呼ぶにはあまりに広い)の北側で合流した。そこで、琉那が描いたスケッチと、貰った見取り図を元に情報を整理していく。
そこに、万歳丸がイルから預かっていたという風呂敷包みを開ける。中には……
「おお! 旨そうじゃねェか!」
「さすがイル婆ちゃん! バラエティーランチ!」
周囲の安全を確保した上での、ランチタイムだ。
「うふふ、こんな妹はんが二人おったらええやろな〜」
琉奈は姉妹を見て優しく微笑む。
「そうだ、リタにはこれを渡しておく」
「何これ? あ! トランシーバーってやつね? 初めて見たわ!」
「…………使い方、教えておくな……」
「お願いします」
答えたのはリタではなくエマだったが、使い方は大丈夫そうだ。
●夜の部作戦
すっかり夜の帳が落ちた。
「よし来た! 鬼が出るか蛇が出るか、気合い入れていくぜー!」
ユキトラは、自身の白髪が目立たぬ様に頭にバンダナを装着。
「探険みたいやな。ワクワクしてきよったわ。行くえ♪」
装備やライトの調子を確かめ、いざ、亜人の巣窟(?)への潜入作戦の始まりだ。
●裏庭から
真司、琉那、リタの三人は外側から壊れた城壁を辿り、裏庭に続くドアに向かう。が、ドアは開かない。何をどう試そうと開かなかったのだ。ここで時間を費やす訳にも行かず、道を戻り、正面に向かう。
「リタ、そっちは反対だ」
「うっ……」
真司の指摘に回れ右。
「手、つないでこか?」
「……うん」
顔を赤くして、それでも素直に琉那の手を取るリタ。
●正面玄関
正面の入り口は中途半端に開いていた。真とユキトラはその隙間から滑り込むように、暗闇の中に身を躍らせる。……ここからはさらに音と光りに配慮せねばなるまい。
じっと息を殺して動かず、気配だけで辺りを伺う。やがて暗闇に目が慣れ、彼らがいる場所が視認できた。……かなり広い。
玄関ホールというよりは、そのままロビーとして多目的に使っていたようだ。幾つもの巨大な柱が二階の回廊を支え、天井が一部吹き抜けになっている。奥には、ゆったりと弧を描く螺旋階段。
「こっちが兵舎になってるって言ってたよな」
首肯する真。二人背中合わせになるようにして警戒を強めながら、ドアに向かう。ドアノブを回す前に、壁に耳を当てて中の様子を探ってみる。
「寝息だな……イビキのようだが、数は十以上、か」
「直接ここに入るってのは得策じゃないよな?」
「爆睡してるのは間違いないようだけどな」
二人は見取り図を見直してみる。この兵舎は南側の塔に内部で繋がっている。塔へは外側からしか入れないらしいので、二人は一度外に出ることにした。
●東側の壊れた壁
万歳丸を先頭に、ウィーダ、エマは壊れていた東側の壁からの侵入を試みていた。
「ここは……食堂か」
「奥は厨房のようだね。何がいるか分からない。慎重に行こう」
ウィーダの言葉に、万歳丸は重々しく、エマは恐怖一歩手前の表情で頷く。
灯りで遠くを照らすワケにもいかず、近くだけをライトで照らしつつ調査を進めるうち、だんだんと自分たちの目も暗がりに慣れてくる。
「食堂は結構綺麗になってるね。テーブルが五つにそれぞれ椅子が五脚ずつ。普段使ってるみたいだね」
「あ、あの……っ!」
「あン? どうした?」
エマが一点を凝視して指差す方向には、何やら蠢くものが。幸い、こちらには気付いていないようだ。
「後ろに」
言ってウィーダはエマを背に庇う。代わりに万歳丸が素早く相手に接近。自分よりも遥かに小柄な相手にも、的確に関節をキめ、ねじ伏せる。そのままそれは床に崩れ落ち、動かなくなった。
「何だァコイツは? つまみ食いでもしてたのか?」
他に敵はいない。見張りをしていた雰囲気でもなく、厨房内にはそれらしき見張りの姿はない。食料らしいものは殆ど残っていないようだ。
「ひょっとするとここのヤツら、食うモンに困ってんじゃねェのか?」
「そうかもしれないね」
言いながら、手元の灯りを調節してメモしているのはウィーダ。
●再び正面玄関から
「一匹……見張りだな」
言ってすぐさま動いたのは真司。暗闇に紛れて素早く相手の死角に回り込むと、所持していた武器を巧みに操り、一瞬にして昏倒させる。それを階段の影にもたれかけさせるように寝かせた。仲間が来ても居眠りのように見せられるだろう。
見張りのいなくなった螺旋階段を慎重に上る。途中の壁には不自然なドア。
「開けて良いっ?」
リタが(小声で)生き生きと聞きながらドアノブに手をかける。
「あ、鍵かかってるわ……」
「それなら、俺が」
真司は道具を取り出すと、己の直感を頼りに鍵を調査、解錠を試みる。
僅かの間。
かちゃり。
想像よりも軽い音で、鍵が開いた。
「やっ……むぐっ!」
「大きな声出さないの」
琉那がリタの口を押さえて静かに宥める。
「むぐぅ」
琉那に口を押さえられたまま、器用にドアを開けるリタ。あったのは、狭い廊下。少し進んだ先にもドアと鍵。同じ様に解錠すると、それは最初に開けようとした裏庭へ続くドアだった。
「これが秘密の通路ってやつやな。他にもあるかも知れんね?」
●兵舎に続く塔
塔の前には見張りが一人。
「クラマの兄さん、あれ」
ユキトラが指差す先。遠目に見ても子供程の身長でがっしりとした体型。
「ゴブリンで間違いないだろう」
一瞬考えたものの、見張りは一体。あれを何とかすれば、活路が開くことは間違いない。
互いに一つ頷くと、ユキトラは素早くゴブリンの背後に回り込んで相手の口を塞ぐ。間髪入れず、真がその脳天に刀を振り下ろした! 低い音が辺りに響く。……二人はそのままの姿勢で息を殺して待つ。
「……どうやら、気付かれなかったみたいだね」
周囲の気配が変わらないことに少し安心し、ユキトラ。
「ああ、運が良かったな」
見張りゴブリンを物陰に隠し、二人は塔内部への侵入を試みる。
内部は広く、中央を螺旋階段が占拠し、各階にドアがある。
「よし、行ってみようぜ? クラマの兄さん」
「ああ」
二階のドアを開ける。その先は板を格子状に組み合わせた造りで、四角く空いた穴から下の様子が見える。
どうやら、兵舎で間違いないようだ。ベッドが7つずつ4列並んでいる。その内4つのベッドは空っぽだ。
細心の注意を払いながら、這うように進むと、下の部屋の奥に鉄格子の扉が見えた。ここから中を確認することは出来ないが、見取り図の通りならば、そこが武器庫だ。
二人は武器庫の上までやってくると、音を立てず、保管されている武器の状態を観察する。
殆どがボロボロで錆だらけの年代物。それでも、種類や数をメモしていく。
「ん? クラマの兄さん、何してんの?」
ユキトラが問うと、真は少しだけ顔を上げて答える。
「こんなものを見つけたからね。ちょっと小細工を」
真は束ねられたロープ(……網?)を隙間から降ろし、下に並べられている武器の上に器用にまとわりつかせていた。これならば、すぐに取り出すことは難しいだろう。
天井を進むと、またドアが見えてきた。恐らくは、西の塔に繋がるドアだろう。
●チーム合流・二階の探索
トランシーバーで連絡を取り合っていたそれぞれのチームが、一階ロビーの奥にある螺旋階段前で合流した。幸い、迷子者はいない模様。足音を立てないように進む中、ウィーダの足袋『猿飛』が最も性能を発揮した。
階段を上りきる頃、正面に一際豪奢な造りの両開きのドアが見えた。領主の間だ。2階はほぼ居住スペースらしい。
領主の間の前に佇む影は踞り、時々不自然に揺れ動く。
「……居眠りしてやがるな、ありゃア」
音を立てずに近付き、有無を言わさず技を決める万歳丸。そのまま床に転がすと、今度は真司と真が近付き、中の様子をドア越しに伺う。しばらく集中すると、二人同時に頷く。
「中には一体しかいないようだ」
「呼吸のリズムからして、寝ているようだな……」
『……入るか?』
二人が同時に問う。
「勿論! 『アレ』を探さなきゃ!」
『あ、アレって?』
話を聞いていなかった者たちの声がハモる。
「後で説明してやらァ」
「それじゃ、開けるぞ」
万歳丸の言葉に微妙な表情を浮かべるメンバー。真がノブに手をかける。
極力音を立てないよう、慎重に、ゆっくりと。かろうじて中が覗き見える程度に開く。
室内は別世界のように豪華だった。
……果たして、そこにはあった。『アレ』が。
「な、なんて贅沢なの……っ、あのボスゴブリン!」
「今回は場所だけ確認できたから良しとしよう」
わなわなと拳を震わせるリタを宥めつつ、真司。こっそりとドアを閉め、部屋から離れる。
「他の部屋も見た方が良いかな?」
真が提案する。
二階部分には、幾つものドアが並んでいた。
「あたしも行くわ!」
やたらと元気のいいリタに、琉那が待ったをかける。
「はい」
一言と共に差し出される手。
「……はい」
しっかりと手を握り返し、エマもそれに続いて領主の間から時計回りに調べて回る。
「鍵はかかってへんなぁ。埃も凄いし。あんまり使われておらんようやね」
ぐるり回って全ての部屋を慎重に調べていくが、どの部屋も似たようなものだった。
違うのは、東の塔へ続く部屋と西の端にある衣装部屋。
東側の部屋は老朽化の為か、床が抜け落ちていた。故に、その下にある食堂の天井が無い状態だ。
西側の端に位置する衣装部屋の奥には、隠し扉があった。こちらも、見事な腕前で真司が鍵を開ける。
開けた先は塔の内部のようだ。一通り二階の部屋を確認した一行は、ここから降りることにした。
●地下へ
「随分長いようだけど地下に潜っているようだな」
螺旋階段や周辺をくまなく調べながら、真。
彼が言うように、階段は長く、カビ臭い。加えて、水が流れる音が聞こえる。
「水?」
「あぁ、村人からの情報だが、この城の地下を通って裏の池に川が流れ込んでいるらしいんだ」
琉那の問いかけには真が答える。
石造りのじめじめとした空間は、人が4人横に並んで歩ける程の広さがある。しばらく行くと、城の地下を悠々と流れる地下水となった川の流れを目にすることができた。
その奥、暗くて良く見えないが、鉄格子が見えた気がする。
そこから見えたモノは、ゴブリンよりも小柄で、ひょろ長い手足を格子の隙間から出したり、格子を掴んで揺すったりしている。
「ゴブリンが飼い馴らしてるコボルドってとこだろう。まるで奴隷だな。数は……7匹か」
呆れとも蔑みともつかない声色で、真。
この場ではどうすることもできず、今はこのままにしておく。
●潜入捜査・終了……?
川の上流へ進むように歩いていくと、東側の塔に辿り着いた。地下まで続くように建てられた塔を通り過ぎると、突如地下道が終わりを迎えた。出口だ。
老朽化しているが、未だ立派な縄梯子を上りきった先は、城を取り巻く城壁の外だった。
一行はガーゴの家へと戻る道を辿る。
「さあ、今度は『おびき出し討伐作戦』を立てるわ! 準備が整い次第、決行よっ!」
ガーゴの家へと戻る途中、リタの元気な声が聞こえてきた。……トランシーバーから。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/01/30 01:23:24 |
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みっそん いんぱっしぼ 万歳丸(ka5665) 鬼|17才|男性|格闘士(マスターアームズ) |
最終発言 2016/01/31 21:17:30 |