アイリス・レポート:共闘編

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/01/31 12:00
完成日
2016/02/09 04:38

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「懐かしいわねぇ……何年ぶりかしら? もう記憶にすらないけれど……」
 エルフハイムの中枢、オプストハイム。
 実質的な支配者である恭順派の中でも重要な役職に就く者達が暮らすその奥に、森の聖域がある。
 エルフハイムを覆う数多の木々に隠された巨大な神霊樹とそれを祭る神殿。ずっとずっと昔、この森がまだ小さな集落であった頃から存在する場所。
 足元に転がる執行者達の亡骸を興味もなく一瞥し聖域へ続く道を進めば、薄れていた過去の記憶が脳内に蘇る。
 精霊の代弁者と呼ばれた者が死に、そして四霊剣と呼ばれる怪物が生まれた場所。ぼんやりと進むその背中に、突如ナイフが突き刺さった。
「おうババア、これ以上は行かせるかよ! あーあーったく何死んでんだこいつら? 執行者の面汚しだぜ」
 深く溜息をこぼしたハジャに首だけで振り返り、オルクスは眉を顰める。
「またあなたぁ? というか、よく私がここにいるってわかったわねぇ?」
「お前自分の負のオーラ自覚してねぇの? ちょっと感覚が鋭けりゃわかるわ。第一ここは俺の庭だ」
 オルクスが指を弾くと地面から無数の血の槍がせり出すが、ハジャは身をかわしナイフを連続で投擲。血の壁に防がれるが、その死角に滑り込み拳を繰り出す。
「残念」
 しかしそれも血の盾に防がれる。背後へ大きく飛び、木を蹴って舞うその影を血の槍が追いかけるが、捉えきる事はできない。
「あなた相当殺ってるわね。他の執行者とは動きが違いすぎる……それに、その負の気配。あなたも歪虚になるつもり?」
「浄化は定期的に受けてるんでな。ナンパはお断りだぜ?」
「勘違いしないで。あなたみたいなの気持ち悪いし願い下げよ」
 ニンマリと笑うオルクス。次の瞬間、その頭上から小さな影が舞い降りた。
 オルクスの首筋に刃を繰り出すが、咄嗟に腕で受けられる。肩を掴んでガードの上から膝を打ち、ハジャの側へ跳んだ。
「あんた……アイリス!?」
「タングラムだっつってんだろゴラァ! ハンターの前でまたそれ言ったら殺すですよ……?」
 ハジャの胸ぐらを掴み上げるタングラムに続き、ハンター達が姿を見せる。
「おい……オプストまで部外者を招き入れた覚えはねぇぞ?」
「結界林も停止しているし硬いこと言うんじゃねーですよ。こいつの気配を感じてしまったのだから仕方ないでしょう。それとも一人で勝てるですか?」
 ぐぬぬと拳を震わせるハジャ。というかそれ以前に、タングラムがこの場に来た事が驚きだ。
 エルフハイムを捨てたとは言え、故郷を想う気持ちは変わらないのか。それともユニオンの一員、ハンターとしての行動か。
 いや、部外者が侵入できる程オプストの警備は甘くない。混乱中とは言えそれなりのリスクを犯した理由はなんだ?
「あなた……もしかして私の狙いが何かわかってるぅ?」
 ハジャの疑問に感化されたようにオルクスが首を傾げる。ハンターも意味がわからない様子でタングラムへ目を向けた。
「もう三十年以上前の事です。私はあの時もこの道を通って、反逆者を追っていた。けれど結局私はそれがなんだったのか理解する事はできなかった」
「当然よぉ。“代弁者の書”を読めるのは、代弁者……器としての素質を持つ子だけだもの」
「だから……アレと一緒に器の少女を拉致しようとした?」
 逸らかすように笑うオルクスを睨みつけるタングラム。その間に割って入り、ハジャは両腕を振るう。
「ハイハイ! ストップストーップ! 何の話かサッパリわかんねぇんだけど!? それってあんたと姉貴が喧嘩別れした原因の話?」
「本当に野暮な男ねぇ。はあ……本当はこういうのは好みじゃないんだけど、私もいい加減度重なる戦いで弱ってるの。悪いけど“吸血鬼らしく”やらせてもらうわぁ」
 オルクスの傷口から掌に渦巻いた血液は空に舞い上がり、転がった執行者たちの死体に吸い込まれる。すると死んだはずの執行者達が起き上がり武器を構えたではないか。
「死体を操作した……そんな能力まだあったのかよ!」
「いや、これは吸血鬼の応用能力であって私固有のじゃないけど……こういうのもあるわよ?」
 珍しく腰から下げていた剣を抜き、腕を切断するオルクス。そこから弾けた血液が形を変え、人型に変異する。
 黒衣を纏った女の影はオルクスの放った剣を手に取り、タングラムへと斬りかかった。
「うふふ……! お久しぶりですねぇ~、アイリス隊長~」
「フェ……フェノンノ!?」
「の~、血液模倣体ですよ~。本当の私はもう死んでるんですよねぇ、オルクス様?」
 ぐっと親指を立て、オルクスは翼を広げる。
「あなたと交換した血液全部出しちゃったから、それラストねぇ。時間稼ぎは任せたわよ♪」
「あぁん……いけずです~。相変わらず部下を使い捨ての生ゴミとしか思ってない視線、ゾクゾクします~」
 タングラムは問答無用で首を斬りつけるが、血液が瞬いただけで大きなダメージは感じられない。
「血の虚像相手に殺意丸出しは大人げないですよ、隊長。もう死んでるのが喋ってるだけじゃないですか~」
「血液による分体……人格は模倣ですか」
「なんでもいいじゃないですか。隊長ともう一度殺しあえるのなら……私にとっては些細な問題ですね~! アハハッ!!」
 次々と繰り出される刃と打ち合っている間にオルクスが見えなくなる。
「まずい……この先は書庫姫の聖域……! オルクスを追わなくては!」
「何を焦ってんだよ? この先に何があるのか知ってんのか?」
「話は後! こいつらを何とかするですよ!」
 敵はオルクスの追撃を拒み、ハンター達に立ちはだかる。その後方でライフルのスコープごしに状況を見守る影があった。
「う~ん……アイリスもハジャも苦戦してるなぁ。でも、“絶火隊”としては聖域に何があるのかも確認したいし……」
 仮面をつけた小さな影は腹ばいになったまま思い悩む。やがて狙撃姿勢を解除し、銃口を持ち上げた。
「いいや。アイリスとハジャに会うと多分バレるしなあ。ヴィルヘルミナもこういう時は自己判断って言ってたし」
 少年はライフルを担ぐと戦いを横目に走りだす。
「ゴメンねみんな。足止めご苦労様♪」
 投げキッスを一つ。少女のような恰好をした仮面の人影は、森の奥へと姿を消した。

 聖地は湖に沈んでいた。破棄された無数の古書を孕んだ本棚が浸るその泉に降り立ち、オルクスはその一つを手にとる。
 古の亜人の文字で記された本。そこにはエルフハイムが消し去りたい歴史が記されている。
 それを後世に伝えないため、彼らは意図的に古き言葉を失わせた。誰にも受け継がず、長い年月が風化させるように。
 一部の高位の権限を持つ図書館職員でなければ、この貴重な古書の意味のかけらも理解できないだろう。
「――久しぶりねぇ。今でもあなたは、ヒトを許さないのかしら?」
 巨大な神霊樹を前に腕を組むオルクス。樹は何も答えず、ただオルクスの前に佇んでいた。

リプレイ本文

「面倒事に長々と捕まるのは御免被る……先手必勝で行かせてもらうよ」
 瓶底眼鏡の奥の瞳を輝かせ、南條 真水(ka2377)が飛び出す。
 その靴はまるで羽を得たように淡い光を伴い彼女の身体を運ぶ。敵の頭上を飛び越え、空を舞う彼女の手から赤い閃光が溢れ、光の刃となって敵集団を襲った。
 範囲攻撃に堪らず広がる敵。その隙にオウカ・レンヴォルト(ka0301)とCharlotte・V・K(ka0468)は強く大地を蹴り、マテリアル噴射で一気に突破を試みる。
「すまない……先に、行く」
「時間は稼いでおく。そちらも武運を」
 真水とすれ違い走り去る二人を追撃しようとする執行者達だが、それをジェールトヴァ(ka3098)とリサ=メテオール(ka3520)のレクイエムが許さない。
「行かせないってーの!」
 そこへヴァイス(ka0364)が飛び出し、フェノンノへと素早く斬りかかる。
 刃は容易くその胴体を両断したが、液状化した身体に大きな損傷はない。
「やはり血液変化か……だが」
 魔剣による反撃をかわし、硬化した血液が剣山のように突き出すのを大剣にて防ぎきる。
「あらぁ~? 手の内が分かっているみたいですね~?」
「残念ながら、それなりに場数を踏んでいるんでな……。ハジャ、タングラム、こいつは俺が相手をする!」
「ハジャさん、血への対処法は分かっているかな? 結晶は砕き、魔法で焼き尽くす。細かい部位を削っていくのはハジャさん達が得意だね?」
「お前らヴァンパイアハンターかよ!? ま、ご期待に応えてみますかね!」
 ジェールトヴァの呼びかけに笑みを作るハジャ。タングラムと共に執行者達へと襲いかかる。
 執行者は六人。真水を狙って動くが、その背後からタングラムが多数の短剣を投擲し動きを止め、ハジャの拳が一人の胸を背後から貫く。
「枯れた花(クビ)はちゃあんと間引い(ハネ)てあげないとね――アイル・クロノ」
 まるで巨大な鋏のような形状をなした閃光が執行者達を斬りつける。それをハジャは悲鳴を上げながら大きくのけぞってかわした。
「無慈悲か!?」
「一応当たらないように注意したつもりだよ。グラたんとハジャさんなら大丈夫かと思ってね」
 身体を焼き切られた執行者達、しかしその動きが鈍ることはない。最初からその身は死んでおり、オルクスの血で操られているだけだからだ。
 素早く動き出し、ハジャを狙う執行者。その胸を光の杭が貫き、まるで空間に縫い止められたように動きが停止する。
「ハジャ!」
 リサの呼び声に反応し、素早く敵を蹴り飛ばす。更に執行者が群がるが、ジェールトヴァのレクイエムが奇襲を許さない。
「首や心臓を狙えば、血を一気に吹き出させることが出来るはずだよ。血さえ外に出せば、後は私達でなんとかするから」
「成程。ハジャ、やれるですね?」
 タングラムの声に頷くハジャ。一方、ヴァイスは一人でも完全にフェノンノを食い止めていた。
「こいつ~!?」
 魔剣に血を纏わせ力を高めた斬撃を大剣で弾くと、ヴァイスはそのまま身体を回転させなぎ払うように剣を振りぬく。
「硬化攻撃直後なら、液状化で回避はできまい!」
「カウンター……!?」
 魔剣を握っていた右腕が切断され空を舞う。ヴァイスはその魔剣を掴み、フェノンノの腹を蹴って距離を開いた。
「武器さえ奪ってしまえば……」
 しかし、魔剣を手にしたヴァイスの身体が停止する。よくよく目を凝らせばその身体を紫色の光が覆っている。
「魔剣は亡霊型の歪虚よ。手にした者の身体を操り、自由を奪う……ふふふ。それは選択ミスでしたね~、若い吸血鬼狩りさん?」
 血の槍を形成するフェノンノ。しかしそれが放たれるより早く、ヴァイスの手にした魔剣が突如として砕け散った。
 ヴァイスが支配に抵抗していたのもあるが、これは物理衝撃による破壊だ。どこからかの狙撃である。
 更に続け、フェノンノの胸を銃弾が貫いた。傷跡からは炎が燃え上がり、フェノンノが苦しみ出す。
「あらら~? これはどういう……?」
「リサ、あいつの動きを止めて!」
 森の中に響いた声。リサは咄嗟にジャッジメントを発動。フェノンノの動きが止まると、ジェールトヴァが距離を詰める。
 手にしていた杖を胸の穴に差し込むと、魔力を高めていく。光はフェノンノの内側から膨れ上がり、やがて四方へ血が爆散する。
「うわー、えげつなー……身体の内側からセイクリッドフラッシュか……」
 冷や汗を流すリサの目の前でフェノンノは身体を維持できず、悲鳴を上げながら不定形に悶え苦しむ。
「ふふふ……アハハハ~! まさかこんなに簡単に……強い子達を育てたんですねぇ……アイリス……隊……長……」
「死後にまで続く悪夢なんてないよ。君ももうお休み」
 真水のデルタレイの一条がフェノンノを貫くと、血液模倣体は完全に沈黙する。
「ハジャ、タングラム、手を貸すぞ!」
 執行者へと駆けより大剣で切り裂くヴァイス。二人より大柄の得物である分、肉体に損傷を与えるのには向いている。
「ここはもう大丈夫だから、先に行った二人を追いかけたら? 行きたいんでしょ、ハジャ」
「……そうだな。悪いなヴァイス、ここは任せるぜ。サンキューな、リサちゃん!」
 跳躍し敵を飛び越えると先を急ぐハジャ。ヴァイスとタングラムは執行者を切りつけ、吹き出した血を真水が焼き払う。
 敵の連携した動きはジェールトヴァやリサが妨害。タングラムとヴァイスはお互いの持つ全力を振るうことが出来る。
「どうやら私が見込んだ以上のハンターだったようですね」
「よし……さっさと片付けて先を急ぐぞ。こいつらだって、もう休ませてやらなきゃな……」
 ヴァイスの呟きに頷くタングラム。背中合わせに構えた二人は同時に駆け出した。


「よう、オルクス……久しぶりだ、な。探し物は見つかった、か?」
 聖域と呼ばれたその場所には巨大な神霊樹とその周辺に浅い泉が広がっている。
 無数の放棄された本棚、その一つの上に腰掛けるように浮いたオルクスが本を読んでいた。
「……随分と大きな樹だ、な……御神木、か?」
「この森を守る精霊の眠る場所よぉ。精霊に見放された帝国にありながら、何故エルフハイムの術者が浄化を使えるのか……つまりそういうコト」
 紙面から目線を上げたオルクスだが、オウカとCharlotteが襲ってこない事を確認すると再び視線を落とす。
「どういうつもりぃ?」
「残念だが二人で君をどうにかできるとまで思い上がるつもりはない。話がしたいんだ」
「ここに、何をしに……来たん、だ?」
 二人の言葉に応じず、オルクスは本を読み続ける。
「手際よく侵入したのは流石だが、解せないね。執着していた器くんでも、この封神領域だかの制圧が目的でもない……まさか故郷を懐かしんでセンチメンタルにでも浸りに来たのかい?」
 そう問いかけながらCharlotteの視線は泳いでいた。
 この場所はあまりにも異様だ。静かな……しかし明確な拒絶に満ちている。
 時が制止した世界。感じる膨大な力は負ではなく正……しかし、覚醒者に力を貸す精霊達とは全く異なる意志。
「オルクス、君は何かを知っているのか? この場所を。この場所にある本の中身を。まあ、エルフハイムが葬りたい過去だという事は私にも分かるが」
「そんな事を話すと思う? それよりあなた達……ここに入ったのは失敗だったわね」
 突然背後から妙な気配を感じた。二人は同時に障壁を作るが、それを貫通して二人を吹き飛ばすに余りある衝撃が襲う。
「ぐ……さすがに、無粋だ、ぞ」
 眉間に皺を寄せるオウカ。痛む脇腹を抑えながら水浸しになった前髪を上げるCharlotteが見たのは、執行者の外套を着込んだ小柄な人影だった。
「ここの主も……いいえ。ここの主こそ、“恭順派”なのよ」
 目の前の人影から膨れ上がった光が無数の蛇のように変形し、水飛沫を上げながら二人を襲った。
 触腕に捉えられた二人は高々と持ち上げられ、大地へ叩きつけられる。オルクスは水飛沫を鬱陶しそうに払うと、翼を広げて舞い上がった。
「そう……やはりそういう事」
「どういう事、だ……?」
「見ればわかるだろう。認めたくはないが……アレは……」
 口元の血を拭いライフルを構えるCharlotte。引き金を引くのは躊躇われる。だが、アレからは完全な殺意しか感じない。
「……んん!? どういう状況だ……っつーか、どうしてここに器ちゃんがいるんだ!?」
 駆けつけたハジャは意味がわからない様子でハンターと第三者を交互に見やる。
 そう。ソレは――浄化の器に良く似ていた。
 闖入者はハジャにも攻撃を加える。そして、オルクスにも。
 オルクスは血の盾で攻撃を防ぎつつハンターを囮にするように後ろに回りこんだ。
「もう知りたい事はわかったし、後はお任せするわぁ」
「何……!?」
 想定外の状況にCharlotteは思わず舌を打つ。再び襲いかかろうとする敵……しかし、その動きは制止される。
「そこまでだ。もう十分だよ」
 聖域に現れたのは長老であるヨハネだった。彼はハジャに目を向け、溜息を零す。
「ハジャ、何故ここに? 君まで無差別に攻撃するところだったよ」
「いやていうかどういう事なのヨハネ?」
「君には後で話す……それよりも、ここはエルフの神聖な場所。無断侵入はいただけないね?」
 ヨハネは鋭く二人のハンターとオルクスを睨む。その背後には次々と黒衣の執行者が姿を表した。
「長老会の掟でね。ここに立ち入った者を生かして帰す訳にはいかないんだよ」
「待てヨハネ! あいつらはそうとは知らなかったんだ。オルクスを追い払うのに協力してくれただけだ!」
「……? ハジャ、何故彼らの肩を持つ?」
「そ、それは……」
 困窮するハジャの気持ちも知らず、続々と足止めを突破したハンター達とタングラムが聖域に踏み入ってくる。
 執行者達は近づくハンターを威圧するように武器を構える。その異常事態には流石にハンター達も足を止めた。
「うわあ。だから言ったじゃないか、聖域なんて碌な物じゃないって……触らぬ神に祟りなしだよ、ほんと」
 がっくりと肩を落とす真水。その視線に器に酷似した少女が映る。
「……まさか本当に……新しい器だっていうのかい?」
 ヴァイスはオルクスの姿を視線で捉える。間に執行者を挟み、言葉を交わせる距離にはない。
 しかし彼は思い出していた。嘗てオルクスが言っていた言葉を。
「ここが……“愛情”の終わりと始まりの場所なのか?」
「君は……アイリス? よくもこんなところに顔を出せたものだね」
 ヨハネを睨み返すタングラム。と、そこへ突如放り込まれたのは煙幕弾である。
「こっちだ……早く!」
 何者かの声に導かれ駆け出すハンター達。そんな中、ハジャだけがその場に残る。
「ハジャ!」
「大丈夫だリサちゃん。俺は元々こっち側だ。俺がヨハネを説得する」
「またそういう事言って……あんたに庇われるのなんかもうゴメンなんだから! ハジャ……!!」
 タングラムに手を引かれ、仕方なく走るリサ。スモークの向こうへとハジャの姿は消えていった。


「はー、びっくりしたあ」
「……ってなんでオルクスまでついてきてるのさ?」
「いいじゃない、丁度良かったんだしぃ」
 肩で呼吸を整えながら溜息を零す真水。
「結局こんな事になるのなら、南条さんやっぱり北に行ったほうがよかったよ……」
 一方、ジェールトヴァは自分たちを誘導してくれた少年の前に立っていた。
 仮面をつけた少年は一息つくと、ハンター達を眺め。
「やあ、おじいさん。久しぶりだね」
「きみは……」
「まさか……キアラなの?」
 リサの声に仮面を外す少年。そこには一年ほど前、アネリブーベ送りになった元盗賊の姿があった。
「キアラ!? しかし、その装備は……」
「む……? タングラムの、知り合い……か?」
 オウカの問いに答えあぐねるタングラム。本来であれば、明かせる関係性ではない。
「ごめんアイリス。説明は後だ。リサとおじいさんが居なければ僕も姿を見せるつもりはなかったんだけど……」
「そっか……それがあんたの出した答えなのね?」
 頷き、仮面を付け直すキアラ。それからオルクスへ銃口を向ける。
「君にはヴィルヘルミナの戻し方を訊かなきゃね」
「何……? まさか同じ事を考えている者がいたとはな」
「君の事は彼女から聞いてる。シャルロッテ……君にも後で伝えないといけないね」
 首を傾げるCharlotte。ジェールトヴァはそっとキアラの銃に手を置き。
「オルクスさんは優しいんだね。ヒトを殺すのは過ちを犯させない為……けれど、ヒトを憎みきれずに迷う」
「私が……優しい?」
 意外な言葉に目を丸くするオルクス。
 かつてオルクスが言った言葉を覚えている。彼女の行動と照らし合わせれば、その矛盾の意味も見える気がした。
「君はまだ愛に縛られているんだね。裏切る方も裏切られる方も辛い……けれど、その愚かしさがヒトがヒトである所以。不完全だからこそ、愛したくなる……そうじゃないかな、オルクスさん」
 目を瞑り、オルクスは空に舞い上がる。否定も肯定も残さず、その影は遠くへ消えた。
「……ジェールトヴァの言葉の意味、俺には少しわかるかもしれん」
 アレは凶悪な敵だ。それに違いはない。だが、もしも愛と哀しみを理解する、かつて理解した存在なのだとしたら……。
「君たちは甘いね。でも僕も救われた身だ……今回は手を引こう。とにかく、今は早く森を出た方がいい」
 キアラはそう言って背を向ける。
「これから忙しくなるよ。僕達も、君たちもね。ヴィルヘルミナが倒れて闇の炎が動き出す。その火を消せるのは、きっと君たちだけだ」
 走り去るキアラ。タングラムはそれを見送ってから、別の方向へ走り出す。
 ハンターたちもその後に続いた。歪虚襲撃の混乱が完全に収まりきる前に森の外にでなければ、執行者の追撃があってもおかしくない。
 タイムリミットはもう過ぎてしまったのだと、誰もが理解していたのだ。

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    ジェールトヴァka3098
  • 運命の回答者
    リサ=メテオールka3520

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参加者一覧

  • 和なる剣舞
    オウカ・レンヴォルト(ka0301
    人間(蒼)|26才|男性|機導師

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 金色の影
    Charlotte・V・K(ka0468
    人間(蒼)|26才|女性|機導師
  • ヒースの黒猫
    南條 真水(ka2377
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 大いなる導き
    ジェールトヴァ(ka3098
    エルフ|70才|男性|聖導士
  • 運命の回答者
    リサ=メテオール(ka3520
    人間(紅)|16才|女性|聖導士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
ヴァイス・エリダヌス(ka0364
人間(クリムゾンウェスト)|31才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/01/27 01:45:16
アイコン 相談卓
ヴァイス・エリダヌス(ka0364
人間(クリムゾンウェスト)|31才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2016/01/30 19:37:09
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/01/26 21:25:08