Star Dust Memory

マスター:楠々蛙

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
3日
締切
2016/01/30 22:00
完成日
2016/02/05 01:04

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 夜が白み始めた頃、街道を行く馬車が一台。
「ん、どうしたラウラ?」
 御者台に座すバリー=ランズダウンが、車内から出て来たラウラ=フアネーレに声を掛ける。
「えと、ちょっと目が覚めちゃって。バリーは夜通し座ってて大丈夫なの」
「夜はキャロルと交代でやってるからな。それにルーナも一緒だ」
 バリーは膝上で丸くなっているルーナを示した。先日一行の旅路に連れ添う事になった黒猫である。どうも彼女は、バリーを慕っているらしい。
「それより、外は寒いだろ。良ければ入るか?」
「うん、お邪魔します」
 ラウラはバリーの隣に腰掛けると、彼の身を覆う毛布に入り込んだ。
「ねえルーナ、こっち来てくれると嬉しいなー」
 猫撫で声で催促するラウラを、ルーナが片目を開けて一瞥する。すると黒猫は渋々ながら腰を上げて彼女の膝に移った。一行の胃袋を握るラウラは、猫目線の序列では頂点に居るのだろう。高貴なこの黒猫も、彼女には逆らえないのである。
「ありがと──あったかい」
「それで、どうしたんだ?」
 頬を緩めるラウラに、バリーは再度問い掛けた。
「……お礼、まだ言ってなかったなと思って」
「お礼?」
「わたしをこの馬車に乗せてくれた、お礼」
「ああ、その事か。礼なんて要らないさ。寧ろ感謝するのはこっちの方だ。いつも美味い飯が食えるってのはそれだけで幸せなもんだ。なあ、ルーナ?」
 バリーの言葉に黒猫が一鳴きして応じる。そのやり取りを聞いたラウラは「ありがと」と微笑んだ。しかし明るい表情が、一転して思い詰めた物に変わる
「あのね、バリー。わたしここに居てもいいのかな?」
「どうして、そんな事を?」
「……最近ね、父さんと母さんの夢を見なくなったの」
 不安そうにラウラは呟きを漏らした。右手で首から提げた細鎖に通してある二つの指輪──両親が彼女に残した結婚指輪を弄る。
「森の家──父さんと母さんと一緒に暮らしていた、父さんと母さんとの想い出の詰まった家。あの家で暮らしていた頃は毎晩視ていた夢を──父さんと母さんが生きていた頃の夢を、もうずっと視てない」
 左手でルーナの背を撫でながら、ラウラは続ける。
「それはとても寂しい事なのに、でもね、ほっとしているわたしが居る。
 だって夢の中のわたしは小さい頃のまま。父さんと母さんに囲まれて無邪気に笑ってるわたしは、今のわたしじゃない。
 泣きじゃくるわたしを父さんと母さんが慰めてくれても、頭を撫でてくれる手は今のわたしの背よりもずっとずっと低い所にある。
 そして眼が覚めた時に思い知るの。想い出には触れないし、触ってはくれないんだって。
 そんな冷たい朝が嫌で嫌で仕方なかった──自分じゃ優しい夜を捨てられない癖にね」
 ルーナが長い尻尾でラウラの頬を撫で返す。さらさらとした肌触りに、ラウラは少しだけ笑みを零した。
「だから、俺達と一緒に旅を?」
「──ええ、あなた達と一緒に居ると、とっても楽しい。恐い思いもしたし、辛い事だってあるけど、わたし今しあわせよ」
「ならどうして、ここに居たらいけないなんて思ったんだ?」
 三度目の問いに、ラウラはまた心苦しそうな表情を浮かべて答える。
「村の人達に、酷い事してるから」
「村?」
「うん。森の傍にある村の人達とはね、わたしが作った薬と食べ物とかを交換してたの。良い人達ばっかりだったわ。わたしを家に迎えてくれようとした人も居た。強引にでも、あの家から連れ出そうとしてくれた人も居たわ。でもその時は、村長さんが間に入って止めてくれた」
 ラウラちゃんの心の整理が付いた時で良い、いつでもこの村に帰って来て良いからね。そう言ってくれた優しい老人の事を思い出す。今の自分はその優しさを裏切っている様なものだ。
 ラウラの口は「ごめん」と謝罪の言葉を衝いた。
「ごめんなさい。全部わたしの我儘ね。わたしの身勝手な我儘のせいで、皆に迷惑ばかり掛けてる。ごめんなさ──」
 顔を俯かせて謝罪を続けるラウラの頭を、バリーの手が優しく撫でる。
「迷惑なんてとんでもない。言ったろ、感謝してるって。それにだ、少しくらい我儘も言って貰わなけりゃ、俺の男としての格が疑われちまう」
「なにそれ。ていうか、子供扱いしてるでしょ」
「おや、子供扱いして欲しかったんじゃなかったのか? 淑女が男の布団に易々と入るのは頂けないと思うけどな」
「……じゃあ今は子供で良い」
「了解だ、セニョリータ」
「……バリーって、案外意地悪なのね」
 赤毛を梳く様に頭を撫で続けるバリーと、されるがままにするラウラ。二人の様子に妬いたのか、ルーナが不満気な鳴き声を上げた。



 日が頂点に達し始めた頃、彼らの馬車は川に辿り着いた。ラウラは川に架かった石橋を指してバリーに問う。
「あれ渡るの?」
「いや、今日はここで野宿だ。俺達はともかく、スレイプニルとブケパロスは歩き通しだしな」
「そっか。じゃあ今日の夕飯は何にしようかしら。根菜は一通り揃ってるけど、干し肉はどうだったかな。今日一晩三人分、いえ三人と一匹分くらいなら足りるかしら」
「どっちみち、食糧を補給しておいた方が良いかもな。なに、この川なら魚が獲れるし、野生動物も水場として利用してるだろうから、獲物には事欠かないさ」
「それもそうね。ん? ねえバリー、あれ何かしら?」
 ラウラが指差した先にあったのは、街道から外れて停めてある一台の馬車だ。その大きさ、形状から考えるに乗合馬車だろうか。どうも車輪が破損しているらしい。
 馬車の傍で頭を抱えていた男──おそらく御者だろう──は、バリー達に気付くと声を掛けて来た。
「おお、丁度良い所に。なあ、車輪の予備があったら売ってくれないか?」
「悪いな。今は持ち合わせがない」
「そうか。やっぱり馬に乗って、近くの街まで買いに行くしかないか」
「ここから往復するとなると、一晩は掛かるんじゃないか?」
「仕方ないさ、ここで手をこまねいているわけにもいかんからな。客だって、一晩待たせるだけでも不味いってのに。畜生、あの時に岩に乗り上げなけりゃ……」
「お客さんが居たの? 見当たらないみたいだけど」
 悪態を漏らす御者に、ラウラが質問する。
「ああ、彼らなら川の方へ行ったよ。全員ハンターらしい。一通り説明して、運賃は返すと言ったら取り敢えず納得して貰えたよ。全員依頼を済ませた帰りだったのが幸いしたな」
 御者の答えに、ラウラとバリーは顔を見合わせる。
「どうする?」
「とにかく川に行ってみよう。どうせなら協力した方が良いしな──それよりキャロルはまだ寝てるのか? 悪いがラウラ、起こしに行ってくれるか?」
「いえっさー」

リプレイ本文

「あーっ、ルーナさまなの! どうしてここに!?」
 川辺に向かった三人と一匹を真っ先に出迎えたのは、ディーナ・フェルミ(ka5843)だ。もっとも彼女の主な関心は、黒猫に向けられている様だが。
「しまったの。何か上納品をと思ったけど、今は干物くらいしかないの。う、受け取ってくれますか?」
 ディーナが恭しく差し出した干物をルーナは一瞥する。黒猫は少女を見上げて一声鳴くと、上納品を咥える。その仕草は、貢物を受け取る高級娼婦の様だ。
「て、天にも昇る心地なの!」
 ディーナの足に身を擦り寄せて礼を尽くす行為も堂に入っていた。

「よ、旦那方」
 続いて彼らに声を掛けたのはカッツ・ランツクネヒト(ka5177)。最早、顔馴染となった彼の挨拶にキャロルが応じる。
「いい加減に腐れ縁だな、お前とも」
「そう言うなよ、旦那。俺は旦那方と会えて嬉しいぜ?」
「ほんとかしら」
「ホントだって、お姫様。信用ねえなあ」
 ラウラから向けられた疑念の眼差しに、カッツは苦笑を浮かべた。

「随分と早い再会だったな。ま、よろしくしてくれや、マックス共々な」
「あら、おじさまも一緒だったのね。マックスも元気にしてた?」
 エリミネーター(ka5158)が伴うシェパードの頭をラウラが撫でる。嬉しそうに尻尾を振る愛犬の様子に、エリミネーターは肩を竦めた。
「おいおい、マックス。お前だって人の事言えねえじゃねえか。御主人様に撫でられるよりも喜びやがって」
 飼い主の言葉に、マックスは澄ました表情を向ける。
 ヤニ臭い中年より、良い匂いのする女の子の方が良いに決まってるだろ。その表情はそう告げている様だった。

「何処かで見た顔だと思えば、前に依頼で一緒になった御両人か」
 バリーはルーエル・ゼクシディア(ka2473)とレイン・レーネリル(ka2887)に声を掛ける。
「久し振りです。バリーさんだったね。何だか見知った人が多いみたい」
「今日は任せといて。私、家事も料理もできてしかも美人な、死角なしのパーフェクトエルフだから!」
 豊満な胸を張って高らかに宣言したレインに、バリーは虚を突かれた表情を見せる。
「あれ? 何その反応」
「いや失礼、ミス・レーネリル。ちょっとばかり偏見があった様だ。俺はてっきり──」
「本当にレインお姉さんは料理得意だよ。僕は料理得意じゃないから、家ではお姉さんに頼り切りなんだ」
「ほら、ルー君だってこう言ってるんだから、大船に乗った気で居てくれて良いよ」
「成程、これは失敬」
 謝罪を述べつつ、バリーはルーエルの言葉を反芻する。家ではレインに料理を任せ切りにしている、それはつまり二人は同棲しているという事だろうか。
「ミスじゃなく、ミセス・ゼクシディアと呼んだ方が良かったかな?」
「そ、それは、幾ら何でも気が早いんじゃないかな。ねえ、お姉さん?」
「そ、そうだよ。そんなの、ま、まだ心の準備が」
 面白い様に動揺する恋人達を見て、からかい甲斐のある二人だと笑みを浮かべるバリーだった。

「パトリシアといーマス、パティと呼んでくだサイ♪」
 人懐こい笑みで自己紹介を述べたのはパトリシア=K=ポラリス(ka5996)。
「よろしく、パティ。わたしはラウラよ。あっちの二人はキャロルとバリー。あとディーナと一緒に居る黒猫がルーナっていうの──ディーナは知っているのよね?」
「ハイ、最近お友達になったネ。ラウラとも仲良くなれたらうれしいデス♪」
 パトリアの爛漫な笑顔に釣られて、ラウラもまた満面の笑みで応えた。
「私もお友達が増えるのは大歓迎よ」



 エリミネーターの提案の下、まず一行は火を起こす為の薪木や枯葉拾いを始めた。
「マックスは良い子ね。ちゃんと手伝ってくれて」
 エリミネーターの傍らで薪を咥えたマックスに、ラウラが感心の声を上げる。
「ルーナなんか日向ぼっこしてるのに」
 続けて、岩の上で丸くなっている黒猫を見遣った。
「まあ、猫は気儘だからな。それにしてもラウラちゃんは動物好きなんだな」
「ええ、動物は好きよ。父さんと母さんもそうだったから、きっとその影響ね」
「ふーん、そうか」
(過去形、ね)
 ラウラの言葉に含まれたそれを、耳聡くエリミネーターは拾い取った。
「ラウラちゃんみたいな良い娘が育ったんだ。きっと良い親御さんだったんだな」
「ありがと、おじさま──ええ、わたしの自慢の二人よ」



 必要な火種を揃えた一行は、続いて食料調達に取り掛かった。
 ルーエル、レイン、エリミネーター、カッツは川で釣りをする事にしたらしい。馬車に積んであった釣り道具は、竿と糸と浮きと針という粗末な代物である。
「あのさ、これ餌はどうするの? 疑似餌とかじゃないの?」
「いやいや、そんなもんなくたって、ほれこの通り」
 レインが首を傾げると、エリミネーターは足下の小さな岩を返してみせる。露になった岩裏に居たのは、くねくねとのたうち回るミミズやゴカイ達。
「こんな簡単な道具と餌で釣れるのかな」
 ルーエルが一匹のミミズを手に取って針に通す。
「あとは釣り師の腕の見せ所さ。大体釣りなんざ、万全の用意したって釣れない時は釣れないもんだ」
「それもそうだね、それじゃ頑張って大物を狙おうかお姉さん……あれ?」
 ルーエルが振り返ると、そこには先程まで居た筈の恋人が消えていた。
「お連れさんなら物凄い速さで集合地点目掛けて駆けていったぜ」
 カッツの説明を聞いたルーエルは、針に刺したミミズを見てレインが逃亡した動機を察した。
「あーそうか、お姉さんこういうの苦手だったっけ。仕方ない。お姉さんの分も頑張って釣らなくちゃ」


 ラウラとパトリシアは、可食の野草を探しながら川辺を探索していた。
「それじゃあのガンマンコンビとは、最初依頼人とハンターな関係だったんだネ」
 パトリシアは、ラウラ達の出会いの話を興味津々といった様子で聞いている。
「この指輪はその時に依頼料として渡したんだけど、代わりに賞金首を捕まえたからって、キャロルが返してくれたの」
 ラウラは首から提げた細鎖に通してある二つの指輪を手に取る。
「ヘエ、キレイな指輪だネ。これは大切な物なんデスカ?」
 パトリシアが掌に乗った指輪を覗き見ながら問いを発する。
「ええ、これは父さんと母さんの形見だから」
「カタ……ミ?」
「そう、いざという時に使いなさいって二人が残してくれた大切な──」
 指輪を握り締めるラウラを、パトリシアは抱き締めていた。
「ちょっと、パティ!? いきなり、どうしたの?」
「パテイのパパとママも良くこうしてくれたネ。だからパティもラウラにしてあげマス」
「……また子供扱いされてる」
「もしかして、イヤだったデスカ?」
「──ううん、いやじゃないけど」
 腕の力を緩めようとするパトリシアに、ラウラは首を横に振ってみせる。
「良かっタ。寂しい時はいつでもハグしてあげるヨ?」
「わたしそんな子供じゃない──けど、うん。たまになら……」
「Oh, very cute」
 腕の中でそっぽを向いて呟くラウラに未熟な母性を掻き立てられて、パトリシアは更に強く少女を抱き締めた。

「掛からねえな」
 どれだけ時間が経っても、当たりの来ない現状にカッツが愚痴を零した。
「もう槍で突いた方が早い気がしてきたよ」
 ルーエルもまた、くたびれた調子でピクリともしない浮きを睨み続ける。
「だらしがねえな。釣りは根気あるのみだぜ」
「旦那は良いぜ。さっきからバンバン釣ってんだから」
 カッツはエリミネーターの足下に置かれたバケツを見遣る。その中には数匹の魚が窮屈そうに収まっていた。
「HAHA、まあ励めよボーイズ。それにこういう退屈な時間も偶にゃ良いもんだろ?」
「まあ、確かにそうだな」
「うん、こんなに時間をゆっくりに感じるのは久しぶりかも」
 しばし三人は、川のせせらぎに耳を傾けながら黙々と釣り竿を握った。
 しかし、甲高い悲鳴が穏やかな時間を引き裂く。
「今の、お姉さん? 僕ちょっと様子を見て来る」
 声に主を察したルーエルが、竿を置いて一目散に音源へと駆けて行った。
 残る二人は、彼の背中を見送りながら、糸を垂らし続ける。
「おー、勇ましいねぇ」
「俺は随分と前に失くしちまったもんだな。カッツちゃんもああいう風に、偶には青春に身を任せてみちゃどうだい?」
「柄じゃあねえさ」
 カッツは軽い笑みを浮かべながら、餌が掏られた針を引き上げた。

 レインが悲鳴を上げるより、少し前。
「まさか、地底からもエイリアンが攻めて来るなんて」
 怪奇生物群から逃亡したレインは、石を組み上げて即席の竈をこしらえていた。今は薪を削って燻製用のチップを用意しているところである。
「ふー、いっぱい獲れたの」
「おかえりー。何を獲って来たの?」
 背後から聞こえた足音とディーナの声に、レインは振り返る。
「ナ、ナニソレ」
 が、ディーナが抱えた籠の中で蠢くソレを見て、彼女は硬直した。
「見て見て、蟷螂に蜘蛛に飛蝗にカワゲラ、カブト虫の幼虫も居たの!」
 無邪気な笑顔を浮かべるディーナに、レインは辛うじて笑顔を作って質問した。
「ソ、ソレ──ドウスルノ?」
「うーん、やっぱり油で揚げるのがベストな食べ方かな?」
 瞬間、堰き止められていたモノが、悲鳴という形になって決壊した。

「どうした? そんなに慌てて」
 しばらくして駆け足で戻って来たルーエルにカッツが声を掛ける。
「もっと魚を獲らないと──」
 カッツへの返答もそこそこに、ルーエルは急いで竿を振った。
「お姉さんが死んじゃう」



 ルーエルが調達して来た丸太に腰掛けながら、九人と二匹は食卓を囲んだ。
 食卓を彩るのは、レイン手製魚や根菜の燻製。ガンマンコンビが獲りラウラが調理した兎の香草焼き。ディーナが兎肉、根菜、野草を煮込んだチーズコンソメスープに魚の塩焼き。ちなみに魚や兎を捌いたのは、ディーナだ。鮮やかな手並みだったと、ラウラは語る。
 文句無しの豪華な食卓。
 だがその中で異彩を放つのは、虫の姿揚げ。
「本当に虫だね」
「見えない。私には何も見えない」
「Oh、こいつは流石に、な」
 ディーナ以外は殆どの物が口へ運ぶのを躊躇する中、しかしキャロルとバリーは寧ろ作り手以上に虫料理を口にしていく。
「なあ旦那方、それ美味いのか?」
 傍らのカッツが問うと、二人はそれぞれ口を揃える様に、
「火が通っていれば」「炭になってさえなければ」「「大抵の物は食える」」
 言い切った。

「……形そのままね」
「……あまり見ないほうがイイネ」
 パトリシアとラウラが、勇敢にも虫の姿揚げと格闘していた。健気な友情の表れである。
「あの、二人とも無理しないでなの」
「いえ、大丈夫」
「それじゃあ、い、いただきマス」
 二人は一気に姿揚げを頬張る。
「お、美味しい?」
 恐る恐る問うディーナに、夜空を仰ぎ見ながら二人は答えた。
「「──ケ、ケッコウなお手前デ」」

 バウ──
 ニャア──
 人間達の喧噪を他所に、玉葱を抜いて犬猫用に塩加減を調整したコンソメスープに舌鼓を打つ暢気なマックスとルーナだった。



 エリミネーター持参のマシュマロを焼いてデザートを楽しみながら、一行は思い思いに過ごす。

「見てルー君、凄い綺麗」
「本当だね。こうしてると視界一面キラキラしてる」
 レインとルーエルは隣り合い寝転びながら星空を眺めていた。
「えー、ルー君違うでしょ。そこは『君の方が綺麗だよ』でしょ」
「え、そんな恥ずかしい事言えないよ。二人だけじゃないんだし……」
 悪戯っぽい笑顔でからかうレインに、ルーエルは恥じらいの為に語尾を小さくして応じた。その反応に、レインはますます笑顔に含まれた悪戯成分を強くする。
「仕方ないなあ。よっし、じゃあ今度暇になった時に夜空の下をツーリングしよう。二人っ切りなら良いんだよね?」
「う、うん。まあ二人だけなら」
「じゃあ、約束ね」
「うん、約束」

「ラウラちゃん、珈琲を淹れたんだが、皆に配るの手伝ってくれねえか?」
「ええ、わかったわ」
 エリミネーターは珈琲カップと砂糖入れを盆に乗せるラウラに質問を投げた。
「なあラウラちゃん。今幸せかい?」
 唐突な問いにラウラはしばし返答を詰まらせたが、
「──ええ。大変な事もたくさんあるけど、一人じゃないもの。たくさん素敵な人に会えて、しあわせ。勿論、おじさまもその一人よ?」
 満面の笑顔で答えた。
「それじゃ配ってくるわね。行きましょ、マックス」
 背に盆を乗せたマックスを伴って行くラウラを見送りながら、エリミネーターは笑みを漏らした。
「HAHA,確かに楽な事ばかりじゃねえが、この世界も悪かない」
 夜闇に溶ける様な珈琲を啜る。
「なるようになるさ」

「はい、ニンジャさん」
「お、サンキュな、お姫様」
 ラウラは最後の珈琲をカッツに手渡すと、隣に腰を下ろした。
「夜は冷えるだろう? 良かったらこれ使ってくれ」
「ありがと」
 カッツがラウラの肩に外套を掛ける。
「ねえ、一つ聞いても良い? あなたは、今しあわせ?」
「唐突だな──幸せね、これまで考えた事もねえ。昔も今もそんな暇なかったからな。けどまあ、こうして星空見上げて、美味い飯と安心できる寝床があって、楽しく話せる相手が居て。そうだな、こういうのを幸せって言うのかもしんねえな──って、どうしたよお姫様」
 思考に耽っていたカッツは、ラウラの含み笑いを見て我に返った。
「別に、明日は槍が降るなと思って」
「何の事だ?」
「やっぱりあなたはそういう顔の方が素敵よ、カッツ」
 そう言い残して、ラウラはディーナ達の方へと向かって行く。その背を見送ったカッツは、珈琲を啜って苦い笑みを浮かべた。
「敵わねえな、女の子ってやつには」

「ふわわっ……、しあわせなの~」
 ルーナの背にブラッシングを掛けながら恍惚となっているディーナの傍らで、パトリシアとラウラは星空を眺めていた。
「ポラリスとゆーのは、星の名前なのデスヨ」
「へえ、どの星なの?」
「この世界の夜空にはないのデスヨ。本当だったら、んーと、あの辺りにある筈なんだけどネ──」
 北の星空を指差している内に郷愁の念に駆られ、パトリシアは懐に収めたお守りを握りしめた。大丈夫、今は見付けられなくとも──
「大丈夫だよ」
「ラウラ?」
 いつの間にか、ラウラの手がパトリシアの柔らかい金髪を撫でていた
「わたしが居るし、ディーナも居るから。ね、ディーナ」
「ん? 良くわからないけど、私も居るの、一緒なの!」
「ふふ、ほらね。だから寂しくないよ?」
 優しい笑みと元気な笑顔を浮かべるラウラとディーナに、パトリシアもまた爛漫の笑顔を返した。
「ハイ、パティは独りじゃないネ」


 翌朝、車輪を携えた御者をカッツが出迎えた。
「お客さん、一晩大変だったろう?」
「いや楽しかったぜ。あんがとよ、旦那」
 礼と共にミネラルウオーターを受けた御者は、終始疑問符を浮かべたままだった。

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参加者一覧

  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師
  • クールガイ
    エリミネーター(ka5158
    人間(蒼)|35才|男性|猟撃士
  • この手で救えるものの為に
    カッツ・ランツクネヒト(ka5177
    人間(紅)|17才|男性|疾影士
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士
  • 金色のもふもふ
    パトリシア=K=ポラリス(ka5996
    人間(蒼)|19才|女性|符術師

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/01/28 21:47:29
アイコン 今頃だけど何となく相談場所
ディーナ・フェルミ(ka5843
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/01/30 17:54:22