ゲスト
(ka0000)
ホワイト・アウト
マスター:水

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/03 19:00
- 完成日
- 2016/02/09 00:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●貧乏暇なし
「酷い雪ですね、雪かきしてもキリがない」
港湾周辺倉庫に積もった雪を海へ向かって降ろす作業を始めて半日、休憩を挟んで六人でローテーションで交代はしているものの、彼らの苦労は新しく降り積もる雪によって次々と埋められていき、いたちごっこの様相を呈していた。
「悪人に休息無しなんて言葉がある。このまま悪天候が続けば、危険を回避する為にこの港はマヒするはずだ。そして倉庫には宝がぎっしり詰まっている」
疲れた顔をして作業に当たる下っ端とは打って変わって、下っ端を纏める男はどんどん悪くなる天候に対してビッグビジネスの予感を感じたのか不敵に笑いだした。
彼らは遊牧民のように他の町から財産を漁り、気づけば港町で裏稼業商人から倉庫を借りる事が出来るほどの富を築いていた。とは言っても、泥棒のはした金程度では狭い倉庫しか間借りできず、またいくら耐久性に優れているといっても雪の重みはそれの遥か上を行く破壊力を秘めているのだ。大規模な降雪時における地味な雪下ろし作業は、食事や呼吸等と同じぐらい重要な生命維持活動でもある。
「吹雪いちゃったら俺たち仕事出来るんすかね?」
「出来なきゃ餓死しか無いだろう。それに凍えそうだったら、俺らの仲間が温めてくれるさ。それよりもお前の鍵開け、頼りにしてるからな」
「うぃっす」
下っ端は目上の人に対していい加減な態度の返事を返すと、そのまま作業を再開させた。
屋根の雪は地面を経て殆ど海へと投げられたが、また数時間後に屋根から地面、そして海へ降ろさなければならない事を考えると、下っ端はどうしても憂鬱な気分になってしまう。
「この雪ぐらいに積もった金貨、拝んでみたいもんだなぁ……」
●厳戒態勢
雪化粧によって白く彩られたポルトワール、この悪天候のおかげで本来荷を積んで出港する予定だった商船は足止めを喰らう羽目になってしまった。
夜も深くなると降雪だけでなく強い暴風が吹き荒れるようになり、多くの民家が雪が入らないように窓を閉めて、身を寄せ合い暖を取り合っていた。
だがこの瞬間を狙うというのが悪人というもの。こんな悪天候の中を泥棒に入る奴は居ないと決めつけてしまうようであれば、商人失格である。
こういう時だからこそ泥棒が入るわけであり、このような事態だからこそ大金を出してでも万全な対策を練るのが新たなビジネスを得るきっかけとなるのだ。
「悪いね、こんな夜中に、しかも体の芯から冷えそうな天気の中で呼んでしまって」
ハンター達を集めた男性は、できるだけ彼らを暖炉の傍へ寄せつつ、これからの事を切り出した。
「こんな天気だ、商船はまともに動けない、積まれ損なった金目の物でいっぱいな倉庫に泥棒が入ってくる。これだけだったら君達の力は正直過剰なんだけどね。取り越し苦労だったとしても君達に報酬はしっかり払うよ、約束する」
だから巡回している警備と一緒に倉庫の警備に当たってほしい、彼はそう告げると、彼自身も武装してハンター達と共に部屋を後にした。
「酷い雪ですね、雪かきしてもキリがない」
港湾周辺倉庫に積もった雪を海へ向かって降ろす作業を始めて半日、休憩を挟んで六人でローテーションで交代はしているものの、彼らの苦労は新しく降り積もる雪によって次々と埋められていき、いたちごっこの様相を呈していた。
「悪人に休息無しなんて言葉がある。このまま悪天候が続けば、危険を回避する為にこの港はマヒするはずだ。そして倉庫には宝がぎっしり詰まっている」
疲れた顔をして作業に当たる下っ端とは打って変わって、下っ端を纏める男はどんどん悪くなる天候に対してビッグビジネスの予感を感じたのか不敵に笑いだした。
彼らは遊牧民のように他の町から財産を漁り、気づけば港町で裏稼業商人から倉庫を借りる事が出来るほどの富を築いていた。とは言っても、泥棒のはした金程度では狭い倉庫しか間借りできず、またいくら耐久性に優れているといっても雪の重みはそれの遥か上を行く破壊力を秘めているのだ。大規模な降雪時における地味な雪下ろし作業は、食事や呼吸等と同じぐらい重要な生命維持活動でもある。
「吹雪いちゃったら俺たち仕事出来るんすかね?」
「出来なきゃ餓死しか無いだろう。それに凍えそうだったら、俺らの仲間が温めてくれるさ。それよりもお前の鍵開け、頼りにしてるからな」
「うぃっす」
下っ端は目上の人に対していい加減な態度の返事を返すと、そのまま作業を再開させた。
屋根の雪は地面を経て殆ど海へと投げられたが、また数時間後に屋根から地面、そして海へ降ろさなければならない事を考えると、下っ端はどうしても憂鬱な気分になってしまう。
「この雪ぐらいに積もった金貨、拝んでみたいもんだなぁ……」
●厳戒態勢
雪化粧によって白く彩られたポルトワール、この悪天候のおかげで本来荷を積んで出港する予定だった商船は足止めを喰らう羽目になってしまった。
夜も深くなると降雪だけでなく強い暴風が吹き荒れるようになり、多くの民家が雪が入らないように窓を閉めて、身を寄せ合い暖を取り合っていた。
だがこの瞬間を狙うというのが悪人というもの。こんな悪天候の中を泥棒に入る奴は居ないと決めつけてしまうようであれば、商人失格である。
こういう時だからこそ泥棒が入るわけであり、このような事態だからこそ大金を出してでも万全な対策を練るのが新たなビジネスを得るきっかけとなるのだ。
「悪いね、こんな夜中に、しかも体の芯から冷えそうな天気の中で呼んでしまって」
ハンター達を集めた男性は、できるだけ彼らを暖炉の傍へ寄せつつ、これからの事を切り出した。
「こんな天気だ、商船はまともに動けない、積まれ損なった金目の物でいっぱいな倉庫に泥棒が入ってくる。これだけだったら君達の力は正直過剰なんだけどね。取り越し苦労だったとしても君達に報酬はしっかり払うよ、約束する」
だから巡回している警備と一緒に倉庫の警備に当たってほしい、彼はそう告げると、彼自身も武装してハンター達と共に部屋を後にした。
リプレイ本文
●暴風雪
温かな暖炉との別れを惜しみつつ、六人は件の金目の物が詰まった倉庫へと向かう為に詰所の扉を開けようとしたが、思いの外扉が重く感じる程の強風が吹き荒れていた。
「かーっ、視界が悪すぎる。蛍光色の布を頼んだは良かったが、ゴーグルぐらいつけときゃよかった」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は外に出た途端、殴って来る様な雪の痛みに耐えながら、他のメンバーに巻かれた蛍光色の布を確認する。
一名ほど蛍光色の布が必要なさそうなほどの巨人が居たが、敢て彼の腕にも着けてもらっている。万歳丸(ka5665)だ。
「おう、これであんたらを見失う事は無いぜ。尤も、見失うってのは雪山で遭難するようなもんだけどな!」
案外洒落にならない冗談を豪快に笑いながら飛ばしつつ、皆を先導する万歳丸。
「あの……、ザレムさん、万歳丸さん、今回もよろしくお願いしますっ」
挨拶のタイミングを見つけたアシェ-ル(ka2983)は、ここぞとばかりにザレム・アズール(ka0878)と万歳丸へ声を掛け、此方こそと返事の挨拶を貰った直後、アシェ-ルは急に両腕を摩り出し歩くペースを上げる。
「挨拶は済ませました……寒い……この寒さは耐えられません……早くかまくらへ……」
他の皆や共に行動する警備が各々の方法で視界を確保しながら歩く中、アシェ-ルはこの極限な環境に耐えられないのか、少し速足で昼間の内に作られたカマクラへと急ぐ。
万歳丸も含めてほぼ全員が入る為のカマクラをこの吹雪の中で作るのには無理がある。そう踏んだメンバーは急ピッチで頑丈なカマクラを作ったのだ。いくら覚醒者でも寒いのは寒いのである。
また、この間に監視役を買って出たザレムはシャッター操作者が入る入り口へと罠を仕掛けつつ、その倉庫の屋根を監視場所として陣取る為のスペースを作っており、ステラ・レッドキャップ(ka5434)は目利きを利用して商品を品定めし、警備と相談しながら保管されている品物を奥へ移動させるといった対策を取っていた。
護衛対象である倉庫のすぐ隣、そこに彼らの快適警備空間(カマクラ)がある。その大きなシルエットが見えてくると、皆一目散に入っていく中、ネーヴェ=T.K.(ka5479)は突然立ち止まり倉庫を見渡す。
「倉庫の入り口は二つで隣同士っぽいが、泥棒は大体、新しい入り口を作りそうだな……」
彼はもしかすると、この二つの入り口以外にも新しく破壊して入り口を作るのではないかと警戒して周囲を確認しているのだ。共に働く警備に何かあったのか尋ねられた際にその事を伝えた直後、特徴的な大声が猛吹雪を物ともせず彼の耳を通り抜ける。
「おーい、そんな所で突っ立ってたんじゃこっちまで寒くなっちまう! あんたも早く来いや!」
万歳丸に呼ばれたネーヴェは、この吹雪では自分の声がかき消されてしまうと思ってか、急いで万歳丸の元へ駆け寄り、一言謝ってからカマクラへと入っていった。
●警戒
カマクラで暖を取り、ブランデーやソフトドリンク等で改めての挨拶代わりに仲間と一杯交わした後、先にザレム、ステラ、ネーヴェの三人が警備に入る為に外へ出る。
「んじゃ、俺は屋根へ行くから」
「ああ、倉庫周辺の警備は任せろ」
「んじゃ俺は入り口周辺を見張るよ……」
ステラとネーヴェはそれぞれの持ち場へ向かって行く中、ザレムは一人ジェットブーツを用いて屋根を目指して飛んでいく。
横殴りの風が吹く中できちんと着地する様を見た警備は、そんなザレムを称賛するように拍手し、手を振った。
「ありがとう、それと警備お疲れ様」
聞こえているかどうか怪しい所だったが、彼もまたこの寒い中警備する彼らに敬意を払うように手を振る。
改めて昼に作っておいた雪洞の中へ入り、そこから全体の様子を伺うと、サイコロの五の目のような陣形で警備が配置されており、正面をしっかりと抑えようとしているのがわかる。
また、偶に別の二人がそれぞれ倉庫の側面へと回り込み、壁に異常が無いか目視も行っている。ネーヴェが作戦会議中に言っていた新しい入り口を作る事に対する警戒なのだろう。
自身の体温で雪洞が温まり始め、気持ち良くなりそうな時の事だった。
突然四つの白い影が剣を抜いて警備を襲い始めたのだ。もちろん警戒していただけあってその一太刀を抜いた剣で受け止めるが、そのまま押し切られてしまうのは時間の問題だった。
ザレムはすぐに加勢する為、手にしていたトランシーバーでカマクラに居る万歳丸へ緊急の連絡を飛ばした。
「泥棒が来たぞ万歳丸、鍋の続きは後回しだ」
彼は一方的に言った後、雪洞から飛び出すように再びジェットブーツを用いて今度は警備と挟み撃ち出来る位置へと着地する。
突然の出来事に数人の泥棒がザレルの方へと振り向くと、そこには夜の闇よりも深い黒翼が揺らいでいた。
「素敵なタイミングだな! 頼りにしてるぜ、ザレムさん!」
その登場を賛辞すると同時に、ステラは愛銃Mk1の引き金を引き、鍔競り合いになっていた警備と泥棒の間をシャープシューティングで狙い、命中させた。
「注意一秒怪我一生。一つの事に気を取られすぎると大変な事になるぞ」
更にザレムの登場で一瞬だけ目を逸らしていた泥棒の肩にも、そんなネーヴェの独り言をつぶやきながら投げたバタフライナイフが刺さる。
怒号と痛みの悲鳴が吹雪と混じって響く中、倉庫を巡った攻防が幕を開けた。
●総出撃
一方、交代要員としてレイオス、万歳丸、アシェ-ルの三人は外で頑張っている三人の為にたいまつで火を起し、持ち込んだ雉鍋に火を通す。
この場にザレムが居ない事を残念がる中、アシェ-ルは一人焚火で手を温めつつ緊張を解そうと必死になっていた。
「色々なイケメンに囲まれて、私、なんだか、場違いみたいです……」
彼女は今回の依頼における紅一点、もしかしたら別の女性が居ればまた気分は違ったのではないかと考え、何とか気を紛らわせようとする。
「おおっ、いい感じに雉鍋が煮えてきたじゃねえか!」
目の前にはぐつぐつと良い感じに煮えてきた雉鍋が美味しそうな湯気と匂いを漂わせて胃を刺激する。こんな時につい腹を鳴らしてしまうのが生物としての性なのだが、案外悪者というのは意図しなくとも相手のご飯をお預けしてしまうのかもしれない。
「くそっ! 折角最高の一杯を引っ掛けられそうだったのによ! ザレムの奴から連絡があった。すぐ向かうぞ!」
「ああっ、ちょっと待てって! 鍋をひっくり返す気か!」
ザレムから連絡を受けた万歳丸はすぐさま立ち上がり、煮えたばかりの鍋をひっくり返すような勢いでカマクラから出ていくと、鍋の具合を見ていたレイオスが慌てて退かし事なきを得る。
「しょうがねえ、火にかけっ放しってのも危ないだろうから別の場所に置いて、追いかけるぞ! アシェ-ル!」
「は、はい!」
レイオスは鍋を地面に降ろすと、アシェ-ルを立たせつつ先に飛び出していった万歳丸の後を追いかける。
二人は再び叩きつけるような吹雪に晒され、満足に視界も確保できない中、腕をゴーグル代わりにしながら暴風の中から聞こえてくる騒ぎ声を目指し駆け抜けた。
「悪ィゴはいねェがァ……ってなァ!」
二人が到着する頃には、万歳丸が投極《天地開闢》を用いて剣を振ってきた相手をいなしながら投げ飛ばしていく。
「呵呵ッ! てめェの天地は俺が決める! 吹ッ飛びなァ!」
投げ飛ばされた泥棒は空中でぐるぐると回りながらアシェ-ルの付近へと墜落する。
「うっつつ……」
頭から着地したにもかかわらず、雪が柔らかかったせいか少し意識を残しつつ起き上がろうとするも、平衡感覚を完全に失っていた泥棒はどこに力を入れれば起き上がれるかが完全に解らなくなってきた。
「とりあえず、丁度良いので寝ていただきますね」
アシェ-ルは目の前で呻いている泥棒がもう立てないと判断すると、大人しくなってもらう為にスリープクラウドを唱え、完全に意識を奪った。
呻き声から幸せそうないびきに変わったは良いが、このままでは凍死してしまうかもしれない。そう考えていたとき、警備の悲鳴が彼女の耳を通り抜けていく。
なんと泥棒がその体格を生かして警備を持ち上げ、一番脅威でないと判断したであろうアシェ-ルに向かって投げ飛ばそうとしていたのだ。
下手に攻撃を加えると警備も巻き込んでしまう、悩んでいた彼女だったが、その悩みは直ぐに別の方法で解決される事となった。
「胴ががら空きだぜ!」
泥棒の真後ろから、レイオスがチャージングを絡めた刺突一閃による攻撃を試みる。
その一瞬の気配を察したのか、泥棒は咄嗟に抱えていた警備を投げ捨て、回避行動を取りつつ、受け身を取り再び剣を構えなおす。
「強がっちゃってまぁ、早いとこ白旗をあげるのをお勧めするぜ。この寒さは傷に浸みるからな」
「関係ないね、そのセリフそのまま返してやるよ!」
吹雪の中でもそこそこ聞こえるほどの声量で威嚇してきた直後、泥棒は構えなおした剣を振り下ろす。
しかし、レイオスは回避行動を取るといった様子が見受けられず、泥棒は勝利を確信し、アシェ-ルはそんな彼をサポートする為にアイスボルトの準備を整える。
「そうかい、じゃあ傷の痛みと共に後悔しな!」
刃が身に入るかの一番危険な瞬間、彼は剣を振り上げたカウンターアタックを用いて反撃し、命中させる。
だが、その一撃で血が滴る事は無く、代わりにレイオスの武器から放たれた電流が彼を痺れさせ、そのまま前のめりに倒れた。
「峰打ちって奴よ。それよりもアシェ-ル、ケガは無いか?」
「はい、大丈夫です」
攻撃の準備を止めたアシェ-ルは、レイオスに助けられたお礼を言った後、再び泥棒掃除に奔走するために投げられそうになった警備を立たせ戦場を駆け抜けていった。
その直後、エレクトリックショックで麻痺し、行動が取れなくなった泥棒を後目に、罠のある入り口付近へとジェットブーツで飛んでいくザレムの姿は、吹雪の中で上空を見上げる者が居ないのもあって誰も気づかなかった。
●罠
「予定外の連中もいる。早く開けろ。捕まった奴は後で脱獄させるさ」
肉体派の泥棒が警備を引き付けている間に、さっさと鍵を開けて中へ入ってしまう作戦は、六人の覚醒者によって崩される寸前であったが、それでも二人の泥棒は諦めず倉庫の鍵を開けようと道具を取り出した時の事だった。
鍵を開ける事に注意が行き過ぎて、真上から白い浴衣が降ってきた事に気づかなかったのだ。突然視界を布で覆われた二人はパニックに陥り転倒し、更に上から網状に編まれたロープが二人を絡める。
罠に呆気なく引っかかった二人の泥棒は、そのロープからの抜け出し方を考えるほどの余裕を失っていた。戦う術を別の部下に任せきりにしてほぼ丸腰でいたのが仇になり、あえなく御用となった。
「まさかこんなに上手くいくとは思わなかった。他も終わったみたいだし、念の為倉庫を確認しよう」
「警備さん、ロープで縛っておいたから、牢屋へ送っておいて」
ネーヴェが用意したロープで泥棒達を捕縛し、警備によって連行されているのを後目に、ザレムは気がかりになっていた事を確認するために警備を一人呼び倉庫を案内させた。
「一応ヤバそうな奴は奥に引っ込めたが、何かあんのか?」
ステラはマッチを擦り、悴んだ右手を温めつつパイプをふかしながらザレムに尋ねる。
「警備の連中が何でこの天候での行動パターンを理解しているのが気になってね。まあ勘ぐり過ぎってのもあるんだろうけど」
「オレとしちゃ、早くカマクラに戻って鍋の続きをしたいが、そういう事情じゃ引き下がれないな」
レイオスも、ザレムの一言に納得したのか、それとなく倉庫を見渡すが、盗品らしきものは見当たらない。そんな時、彼らの欲していた回答が警備から零れる。
「ああ、単純だよ。こういう商売長くやってると嫌でもパターンが見えてくるんだ。向こうは趣向を凝らしているつもりなんだろうけど、こっちとしては正直飽きてるぐらいだ」
警備は苦笑いしながら、彼らが納得いくまで品物をチェックしている最中の事、突然シャッターを叩く音が倉庫内に響くと、特徴的な大声が外から聞こえてくる。
「大丈夫か? 何かないか返事ぐらいしてくれ。この扉小さすぎて入れないんだ!」
外では万歳丸が倉庫に居る皆を心配してか声を掛けてくれていた、彼の体格ではドアからは入れず、シャッターから入る必要があるが、シャッターは雪の重みや凍結で開ける事が出来ない状態だった。
「悪い万歳丸。直ぐに出るよ、そしたらカマクラへ戻ろう!」
提言したザレムは異常の有無を目利きの出来るステラを中心に行っているのを引き上げ、早々に万歳丸と合流する。
「こんな寒い日は引き籠っているのが一番です!」
その直後、アシェ-ルは脱兎の如くカマクラヘ向かって駆け出す。引き籠りの彼女には過酷すぎる環境だったのだろう。
「ザレム、ステラ、それにネーヴェ。交代だ、カマクラへ戻って床に降ろしちまった鍋を暖めなおしてくれ」
「おう、此処は俺たちが見張ってる、ゆっくり休んで英気を養っておけ!」
レイオスと万歳丸は三人を優先させてカマクラヘ向かわせた後、再び鍵を閉めた警備と共に周辺の警戒を再開させる。
朝が来る頃には風が穏やかになり、ただの降雪へと天気が変わるが、捕まえた以外の泥棒が倉庫にやって来る事は無かった。
温かな暖炉との別れを惜しみつつ、六人は件の金目の物が詰まった倉庫へと向かう為に詰所の扉を開けようとしたが、思いの外扉が重く感じる程の強風が吹き荒れていた。
「かーっ、視界が悪すぎる。蛍光色の布を頼んだは良かったが、ゴーグルぐらいつけときゃよかった」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)は外に出た途端、殴って来る様な雪の痛みに耐えながら、他のメンバーに巻かれた蛍光色の布を確認する。
一名ほど蛍光色の布が必要なさそうなほどの巨人が居たが、敢て彼の腕にも着けてもらっている。万歳丸(ka5665)だ。
「おう、これであんたらを見失う事は無いぜ。尤も、見失うってのは雪山で遭難するようなもんだけどな!」
案外洒落にならない冗談を豪快に笑いながら飛ばしつつ、皆を先導する万歳丸。
「あの……、ザレムさん、万歳丸さん、今回もよろしくお願いしますっ」
挨拶のタイミングを見つけたアシェ-ル(ka2983)は、ここぞとばかりにザレム・アズール(ka0878)と万歳丸へ声を掛け、此方こそと返事の挨拶を貰った直後、アシェ-ルは急に両腕を摩り出し歩くペースを上げる。
「挨拶は済ませました……寒い……この寒さは耐えられません……早くかまくらへ……」
他の皆や共に行動する警備が各々の方法で視界を確保しながら歩く中、アシェ-ルはこの極限な環境に耐えられないのか、少し速足で昼間の内に作られたカマクラへと急ぐ。
万歳丸も含めてほぼ全員が入る為のカマクラをこの吹雪の中で作るのには無理がある。そう踏んだメンバーは急ピッチで頑丈なカマクラを作ったのだ。いくら覚醒者でも寒いのは寒いのである。
また、この間に監視役を買って出たザレムはシャッター操作者が入る入り口へと罠を仕掛けつつ、その倉庫の屋根を監視場所として陣取る為のスペースを作っており、ステラ・レッドキャップ(ka5434)は目利きを利用して商品を品定めし、警備と相談しながら保管されている品物を奥へ移動させるといった対策を取っていた。
護衛対象である倉庫のすぐ隣、そこに彼らの快適警備空間(カマクラ)がある。その大きなシルエットが見えてくると、皆一目散に入っていく中、ネーヴェ=T.K.(ka5479)は突然立ち止まり倉庫を見渡す。
「倉庫の入り口は二つで隣同士っぽいが、泥棒は大体、新しい入り口を作りそうだな……」
彼はもしかすると、この二つの入り口以外にも新しく破壊して入り口を作るのではないかと警戒して周囲を確認しているのだ。共に働く警備に何かあったのか尋ねられた際にその事を伝えた直後、特徴的な大声が猛吹雪を物ともせず彼の耳を通り抜ける。
「おーい、そんな所で突っ立ってたんじゃこっちまで寒くなっちまう! あんたも早く来いや!」
万歳丸に呼ばれたネーヴェは、この吹雪では自分の声がかき消されてしまうと思ってか、急いで万歳丸の元へ駆け寄り、一言謝ってからカマクラへと入っていった。
●警戒
カマクラで暖を取り、ブランデーやソフトドリンク等で改めての挨拶代わりに仲間と一杯交わした後、先にザレム、ステラ、ネーヴェの三人が警備に入る為に外へ出る。
「んじゃ、俺は屋根へ行くから」
「ああ、倉庫周辺の警備は任せろ」
「んじゃ俺は入り口周辺を見張るよ……」
ステラとネーヴェはそれぞれの持ち場へ向かって行く中、ザレムは一人ジェットブーツを用いて屋根を目指して飛んでいく。
横殴りの風が吹く中できちんと着地する様を見た警備は、そんなザレムを称賛するように拍手し、手を振った。
「ありがとう、それと警備お疲れ様」
聞こえているかどうか怪しい所だったが、彼もまたこの寒い中警備する彼らに敬意を払うように手を振る。
改めて昼に作っておいた雪洞の中へ入り、そこから全体の様子を伺うと、サイコロの五の目のような陣形で警備が配置されており、正面をしっかりと抑えようとしているのがわかる。
また、偶に別の二人がそれぞれ倉庫の側面へと回り込み、壁に異常が無いか目視も行っている。ネーヴェが作戦会議中に言っていた新しい入り口を作る事に対する警戒なのだろう。
自身の体温で雪洞が温まり始め、気持ち良くなりそうな時の事だった。
突然四つの白い影が剣を抜いて警備を襲い始めたのだ。もちろん警戒していただけあってその一太刀を抜いた剣で受け止めるが、そのまま押し切られてしまうのは時間の問題だった。
ザレムはすぐに加勢する為、手にしていたトランシーバーでカマクラに居る万歳丸へ緊急の連絡を飛ばした。
「泥棒が来たぞ万歳丸、鍋の続きは後回しだ」
彼は一方的に言った後、雪洞から飛び出すように再びジェットブーツを用いて今度は警備と挟み撃ち出来る位置へと着地する。
突然の出来事に数人の泥棒がザレルの方へと振り向くと、そこには夜の闇よりも深い黒翼が揺らいでいた。
「素敵なタイミングだな! 頼りにしてるぜ、ザレムさん!」
その登場を賛辞すると同時に、ステラは愛銃Mk1の引き金を引き、鍔競り合いになっていた警備と泥棒の間をシャープシューティングで狙い、命中させた。
「注意一秒怪我一生。一つの事に気を取られすぎると大変な事になるぞ」
更にザレムの登場で一瞬だけ目を逸らしていた泥棒の肩にも、そんなネーヴェの独り言をつぶやきながら投げたバタフライナイフが刺さる。
怒号と痛みの悲鳴が吹雪と混じって響く中、倉庫を巡った攻防が幕を開けた。
●総出撃
一方、交代要員としてレイオス、万歳丸、アシェ-ルの三人は外で頑張っている三人の為にたいまつで火を起し、持ち込んだ雉鍋に火を通す。
この場にザレムが居ない事を残念がる中、アシェ-ルは一人焚火で手を温めつつ緊張を解そうと必死になっていた。
「色々なイケメンに囲まれて、私、なんだか、場違いみたいです……」
彼女は今回の依頼における紅一点、もしかしたら別の女性が居ればまた気分は違ったのではないかと考え、何とか気を紛らわせようとする。
「おおっ、いい感じに雉鍋が煮えてきたじゃねえか!」
目の前にはぐつぐつと良い感じに煮えてきた雉鍋が美味しそうな湯気と匂いを漂わせて胃を刺激する。こんな時につい腹を鳴らしてしまうのが生物としての性なのだが、案外悪者というのは意図しなくとも相手のご飯をお預けしてしまうのかもしれない。
「くそっ! 折角最高の一杯を引っ掛けられそうだったのによ! ザレムの奴から連絡があった。すぐ向かうぞ!」
「ああっ、ちょっと待てって! 鍋をひっくり返す気か!」
ザレムから連絡を受けた万歳丸はすぐさま立ち上がり、煮えたばかりの鍋をひっくり返すような勢いでカマクラから出ていくと、鍋の具合を見ていたレイオスが慌てて退かし事なきを得る。
「しょうがねえ、火にかけっ放しってのも危ないだろうから別の場所に置いて、追いかけるぞ! アシェ-ル!」
「は、はい!」
レイオスは鍋を地面に降ろすと、アシェ-ルを立たせつつ先に飛び出していった万歳丸の後を追いかける。
二人は再び叩きつけるような吹雪に晒され、満足に視界も確保できない中、腕をゴーグル代わりにしながら暴風の中から聞こえてくる騒ぎ声を目指し駆け抜けた。
「悪ィゴはいねェがァ……ってなァ!」
二人が到着する頃には、万歳丸が投極《天地開闢》を用いて剣を振ってきた相手をいなしながら投げ飛ばしていく。
「呵呵ッ! てめェの天地は俺が決める! 吹ッ飛びなァ!」
投げ飛ばされた泥棒は空中でぐるぐると回りながらアシェ-ルの付近へと墜落する。
「うっつつ……」
頭から着地したにもかかわらず、雪が柔らかかったせいか少し意識を残しつつ起き上がろうとするも、平衡感覚を完全に失っていた泥棒はどこに力を入れれば起き上がれるかが完全に解らなくなってきた。
「とりあえず、丁度良いので寝ていただきますね」
アシェ-ルは目の前で呻いている泥棒がもう立てないと判断すると、大人しくなってもらう為にスリープクラウドを唱え、完全に意識を奪った。
呻き声から幸せそうないびきに変わったは良いが、このままでは凍死してしまうかもしれない。そう考えていたとき、警備の悲鳴が彼女の耳を通り抜けていく。
なんと泥棒がその体格を生かして警備を持ち上げ、一番脅威でないと判断したであろうアシェ-ルに向かって投げ飛ばそうとしていたのだ。
下手に攻撃を加えると警備も巻き込んでしまう、悩んでいた彼女だったが、その悩みは直ぐに別の方法で解決される事となった。
「胴ががら空きだぜ!」
泥棒の真後ろから、レイオスがチャージングを絡めた刺突一閃による攻撃を試みる。
その一瞬の気配を察したのか、泥棒は咄嗟に抱えていた警備を投げ捨て、回避行動を取りつつ、受け身を取り再び剣を構えなおす。
「強がっちゃってまぁ、早いとこ白旗をあげるのをお勧めするぜ。この寒さは傷に浸みるからな」
「関係ないね、そのセリフそのまま返してやるよ!」
吹雪の中でもそこそこ聞こえるほどの声量で威嚇してきた直後、泥棒は構えなおした剣を振り下ろす。
しかし、レイオスは回避行動を取るといった様子が見受けられず、泥棒は勝利を確信し、アシェ-ルはそんな彼をサポートする為にアイスボルトの準備を整える。
「そうかい、じゃあ傷の痛みと共に後悔しな!」
刃が身に入るかの一番危険な瞬間、彼は剣を振り上げたカウンターアタックを用いて反撃し、命中させる。
だが、その一撃で血が滴る事は無く、代わりにレイオスの武器から放たれた電流が彼を痺れさせ、そのまま前のめりに倒れた。
「峰打ちって奴よ。それよりもアシェ-ル、ケガは無いか?」
「はい、大丈夫です」
攻撃の準備を止めたアシェ-ルは、レイオスに助けられたお礼を言った後、再び泥棒掃除に奔走するために投げられそうになった警備を立たせ戦場を駆け抜けていった。
その直後、エレクトリックショックで麻痺し、行動が取れなくなった泥棒を後目に、罠のある入り口付近へとジェットブーツで飛んでいくザレムの姿は、吹雪の中で上空を見上げる者が居ないのもあって誰も気づかなかった。
●罠
「予定外の連中もいる。早く開けろ。捕まった奴は後で脱獄させるさ」
肉体派の泥棒が警備を引き付けている間に、さっさと鍵を開けて中へ入ってしまう作戦は、六人の覚醒者によって崩される寸前であったが、それでも二人の泥棒は諦めず倉庫の鍵を開けようと道具を取り出した時の事だった。
鍵を開ける事に注意が行き過ぎて、真上から白い浴衣が降ってきた事に気づかなかったのだ。突然視界を布で覆われた二人はパニックに陥り転倒し、更に上から網状に編まれたロープが二人を絡める。
罠に呆気なく引っかかった二人の泥棒は、そのロープからの抜け出し方を考えるほどの余裕を失っていた。戦う術を別の部下に任せきりにしてほぼ丸腰でいたのが仇になり、あえなく御用となった。
「まさかこんなに上手くいくとは思わなかった。他も終わったみたいだし、念の為倉庫を確認しよう」
「警備さん、ロープで縛っておいたから、牢屋へ送っておいて」
ネーヴェが用意したロープで泥棒達を捕縛し、警備によって連行されているのを後目に、ザレムは気がかりになっていた事を確認するために警備を一人呼び倉庫を案内させた。
「一応ヤバそうな奴は奥に引っ込めたが、何かあんのか?」
ステラはマッチを擦り、悴んだ右手を温めつつパイプをふかしながらザレムに尋ねる。
「警備の連中が何でこの天候での行動パターンを理解しているのが気になってね。まあ勘ぐり過ぎってのもあるんだろうけど」
「オレとしちゃ、早くカマクラに戻って鍋の続きをしたいが、そういう事情じゃ引き下がれないな」
レイオスも、ザレムの一言に納得したのか、それとなく倉庫を見渡すが、盗品らしきものは見当たらない。そんな時、彼らの欲していた回答が警備から零れる。
「ああ、単純だよ。こういう商売長くやってると嫌でもパターンが見えてくるんだ。向こうは趣向を凝らしているつもりなんだろうけど、こっちとしては正直飽きてるぐらいだ」
警備は苦笑いしながら、彼らが納得いくまで品物をチェックしている最中の事、突然シャッターを叩く音が倉庫内に響くと、特徴的な大声が外から聞こえてくる。
「大丈夫か? 何かないか返事ぐらいしてくれ。この扉小さすぎて入れないんだ!」
外では万歳丸が倉庫に居る皆を心配してか声を掛けてくれていた、彼の体格ではドアからは入れず、シャッターから入る必要があるが、シャッターは雪の重みや凍結で開ける事が出来ない状態だった。
「悪い万歳丸。直ぐに出るよ、そしたらカマクラへ戻ろう!」
提言したザレムは異常の有無を目利きの出来るステラを中心に行っているのを引き上げ、早々に万歳丸と合流する。
「こんな寒い日は引き籠っているのが一番です!」
その直後、アシェ-ルは脱兎の如くカマクラヘ向かって駆け出す。引き籠りの彼女には過酷すぎる環境だったのだろう。
「ザレム、ステラ、それにネーヴェ。交代だ、カマクラへ戻って床に降ろしちまった鍋を暖めなおしてくれ」
「おう、此処は俺たちが見張ってる、ゆっくり休んで英気を養っておけ!」
レイオスと万歳丸は三人を優先させてカマクラヘ向かわせた後、再び鍵を閉めた警備と共に周辺の警戒を再開させる。
朝が来る頃には風が穏やかになり、ただの降雪へと天気が変わるが、捕まえた以外の泥棒が倉庫にやって来る事は無かった。
依頼結果
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相談卓 ステラ・レッドキャップ(ka5434) 人間(クリムゾンウェスト)|14才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2016/02/03 18:48:59 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/02 04:00:27 |