ゲスト
(ka0000)
同盟海軍・寒中水練のお知らせ
マスター:樹シロカ
オープニング
●一時帰国
故国の冬空は暖かい。
同盟軍中尉メリンダ・ドナーティ(kz0041)は海岸に立ち、しみじみとそう思った。
空は青というよりは灰色だし、吹きつける風はそれなりに冷たいが、それでも雪国の冬とは全く違う。
少なくとも魔導トラックの車輪がはまるような雪道はないし、屋根の雪下ろしも必要ないのだ。
メリンダが連合軍司令官の依頼により、同盟軍の派遣部隊を率いて辺境に向かったのは秋の終り頃だった。
それからハンター達の助けを得てどうにか拠点を守り抜き、傷病兵を故郷へ帰す手続きをすませ、やっと今になって一時帰国する余裕ができた。
同盟軍の精鋭兵とはいえ、慣れない異国での長期駐留は精神的に厳しい。そろそろ入れ替えも必要だった。
「まあ、私は、そのままなんですけどねッ!!」
メリンダは海を見つめて拳を握る。宮仕えの身では仕方がない。
そうしてしばらく暖かいほどの海風に吹かれているうちに、メリンダはふとあることを思いついた。
「そうよ。同盟だっていつまでも安泰なんて保証はないのだもの、緊張感は大事よね。平時こそ鍛えておくことが必要だわ」
そうと決まれば即行動。
メリンダは猛然とデスクに戻り、企画書を書き上げたのだ。
●『寒中水練のお知らせ』
メリンダはニコニコ笑いながら、久しぶりの定例会見に臨んでいた。
「兵士が精神的にも肉体的にも強靭であるためには、普段からの訓練が欠かせません。
また、現在人類が抱えている諸問題を解決するには、ハンターの皆様のご協力が必要であることはご理解頂けるかと存じます。
そのためにも、この機会に交流を深め、互いの連携を深める行事を……」
軍の重鎮であるイザイア・バッシ名誉大将は、この提案に「なんか面白いから」と許可を与えてしまった。
こうして『同盟海軍 寒中水練大会』というイベントが開催されることになったのだ。
そして当日。
見事な逆三角形体型の同盟海軍のメンバーを従え、メリンダは風に髪をなびかせる。
「ふふふ……ぬくぬくと冬を過ごしてたら、身体がなまるわよね。大丈夫よ、ここには歪虚が出る訳じゃないんだから!」
……つまり動機は「すっげえ寒かったし大変だったんだよ! お前らもちょっとは味わえ!」なのだった。
問題は交流してくれるハンターがいるかどうか、なのではあるが……。
故国の冬空は暖かい。
同盟軍中尉メリンダ・ドナーティ(kz0041)は海岸に立ち、しみじみとそう思った。
空は青というよりは灰色だし、吹きつける風はそれなりに冷たいが、それでも雪国の冬とは全く違う。
少なくとも魔導トラックの車輪がはまるような雪道はないし、屋根の雪下ろしも必要ないのだ。
メリンダが連合軍司令官の依頼により、同盟軍の派遣部隊を率いて辺境に向かったのは秋の終り頃だった。
それからハンター達の助けを得てどうにか拠点を守り抜き、傷病兵を故郷へ帰す手続きをすませ、やっと今になって一時帰国する余裕ができた。
同盟軍の精鋭兵とはいえ、慣れない異国での長期駐留は精神的に厳しい。そろそろ入れ替えも必要だった。
「まあ、私は、そのままなんですけどねッ!!」
メリンダは海を見つめて拳を握る。宮仕えの身では仕方がない。
そうしてしばらく暖かいほどの海風に吹かれているうちに、メリンダはふとあることを思いついた。
「そうよ。同盟だっていつまでも安泰なんて保証はないのだもの、緊張感は大事よね。平時こそ鍛えておくことが必要だわ」
そうと決まれば即行動。
メリンダは猛然とデスクに戻り、企画書を書き上げたのだ。
●『寒中水練のお知らせ』
メリンダはニコニコ笑いながら、久しぶりの定例会見に臨んでいた。
「兵士が精神的にも肉体的にも強靭であるためには、普段からの訓練が欠かせません。
また、現在人類が抱えている諸問題を解決するには、ハンターの皆様のご協力が必要であることはご理解頂けるかと存じます。
そのためにも、この機会に交流を深め、互いの連携を深める行事を……」
軍の重鎮であるイザイア・バッシ名誉大将は、この提案に「なんか面白いから」と許可を与えてしまった。
こうして『同盟海軍 寒中水練大会』というイベントが開催されることになったのだ。
そして当日。
見事な逆三角形体型の同盟海軍のメンバーを従え、メリンダは風に髪をなびかせる。
「ふふふ……ぬくぬくと冬を過ごしてたら、身体がなまるわよね。大丈夫よ、ここには歪虚が出る訳じゃないんだから!」
……つまり動機は「すっげえ寒かったし大変だったんだよ! お前らもちょっとは味わえ!」なのだった。
問題は交流してくれるハンターがいるかどうか、なのではあるが……。
リプレイ本文
●
港には、多くの見物客が集まった。
メリンダ・ドナーティはハンター達に満面の笑みを向ける。
「皆様、今日は宜しくお願い致します。何か入用の物がありましたらお申し付けくださいね」
Gacrux(ka2726)が早速、テントを借りたいと申し出た。
「水錬に参加した方たちの救護用に、一角をお借りできればと思うのですがねえ」
「わかりました、手配しましょう」
「屋台一式を借りてぇんだが」
ジャック・J・グリーヴ(ka1305)が続いた。
「商工会のほうで用意しますね」
「頼むぜ。見物客だって寒いだろうしな、ほろ酔い気分になりてぇ奴も多いだろ。ホットワインでも出そうかと思ってな」
異名でもある「金の亡者」は褒め言葉、最初こそ同盟軍の士官ともあろう者がと眉をひそめていたが。
商人ジャックは密かにほくそ笑む。
(人が集まりゃ金も動く、俺様の腕の見せ所だぜ!)
早速商工会の担当者に掛けあい、屋台の一角を確保することに成功した。
そして今回の主役は、当然水錬参加者である。
「冬の海ってスッゴク寒いって聞くケレド、同盟海軍は精悍ダネ!」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は兎の耳の付いたパーカーをはおり、兎の浮き輪を抱え、実に楽しそうである。
泳げないわけではないが、遠泳で競争する自信はないとのことで、今回は救護に回ることにしたらしい。
「溺れたり足が攣ったり、何かアレバ浮き輪を渡しに行くヨー!」
そう言って自慢げに見せる兎耳の付いた兎柄の浮き輪は「ピーター七世」という。当人は大真面目だ。
「寒いのは嫌いだけど、ポルトワールっ子として海は別! 参加しないわけにはいかないよね。ねっ、エアさん!」
ジュード・エアハート(ka0410)が無邪気な笑顔で、エアルドフリス(ka1856)の袖をひっぱった。
「ああ。我々は即席チームとは違う。【神託】の面子に掛けて、負けるわけにはいかん」
エアルドフリスは大真面目に頷く。当初は寒中水泳など正気の沙汰ではないと渋っていたが、期待されて逃げるのは男がすたるというもの。
「わーい、『うさぎさんチーム』! 頑張るよー!」
「え? うさぎさん……えっ!?」
聞いてねえよ。
エアルドフリスはそう思ったが、アルヴィンとハイタッチするジュードの嬉しそうな顔には逆らえない。
ユリアン(ka1664)も笑いながら上着を脱ぐ。
「うさぎはアルヴィン隊長のお守りだからね。ジュードさん、師匠 完泳と優勝目指して、行こう!」
「勿論だ。俺は辺境出身だ、寒さには強いぞ」
エアルドフリスも羽織り物を脱ぐ。無駄にイイ身体を強調する、ブーメランスタイルの水着が眩しい。若干腕に鳥肌が立っているのはご愛敬か。
ルナ・レンフィールド(ka1565)は皆の脱いだ服などを預かり、少し心配顔だ。
「皆さん、頑張ってくださいっ! でも無理はしないでね?」
「大丈夫! しっかり準備運動もするからね!」
ジュードはコートとセーラー服とうさみみカチューシャをルナに預け、ワンピース型の水着姿になった。
牡丹(ka4816)は海風に髪をなびかせ、腕組みで仁王立ちしていた。
「地元で『真夏のシャチ』とも呼ばれたこのあたしのプライドに掛けて、同盟軍には負けられないわ……!」
寒い。すごく寒い。だが勝負事となれば、血が騒ぐのである。
「なんだかカッコいいですね。さぞかし高名な方なのでしょう。ちなみに僕は『真冬もシャツ』です」
はにかむような笑顔で訳のわからないことを言っているのは、シバ・ミラージュ(ka2094)だった。
根性を鍛えるために真冬も薄着と言いつつ、実は金欠ゆえ。涙ぐましい話である。
「シャチにシャツね。いいわ、頑張りましょう!」
牡丹が力強くシバと手を握り合う。
「あとは……」
チーム参加には最低3名。
目に入ったのは、結構泳げそうな雰囲気を漂わせた金髪の青年、ジャック・エルギン(ka1522)である。泳げそうではあるのだが。
「寒みぃぃぃぃぃぃ!!」
自分で自分を抱きしめるようにして、寒風に身を震わせていた。
海→水着→女の子とキャッキャウフフ!
そんな期待は、冬の海風が吹き飛ばして行った。どう見てもそれどころじゃないのだ。
「くっそー、こうなったらせめて優勝を目指すぜ!!」
「気に入ったわ。一緒に勝利を掴んでみないかしら?」
牡丹に誘われ、ジャック・エルギンがニヤリと笑う。
「負ける気がしねえな」
シャチ、シャツ、と紹介され、何故かシャケしか思いつかないジャックだったが、『真夏のシャチ』チームが結成された。
そのすぐ傍で、藤堂研司(ka0569)の高笑いが響き渡る。
「真夏のシャチもうさぎさんも手強そうなこと限りないが! 俺たちだって負けはしねえ!!」
筋肉質の身体に、きりんさんの褌が勇ましい。いや別に、キリンさんの首が出てる訳じゃないから。そっちのキリンじゃないから。
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)が好奇心でキラキラ光る翡翠色の瞳を見開く。
「きりんさんチーム、頑張ろうネ!」
パトリシアは素直で前向きだった。困っている人を助けられるよう、自分を鍛えよう。
そんな真摯な気持ちでやって来たが、なんだかお祭状態。けれどそれはそれで嬉しい。
尚、チーム名は、パトリシアがなんの脈絡もなく適当に命名した模様。
「これが海か!」
万歳丸(ka5665)の大声が、パトリシアの頭の上から響き渡る。
筋骨隆々の大鬼は山暮らしで、海を見るのも初めてなら、泳いだこともない。
だが根拠のない自信が、彼の中に満ちていた。
「ハッハァ!! お前ら纏めて掛かってこいやクルァ!」
物凄く泳げる人のような雰囲気で、同盟軍の面々や、他のハンター達をねめつける。
「えっと、泳ぐ前に、しっかり準備運動しないとネ! RB伝統の体操を教えるよ!」
「よっしゃあ! 気合入れて体操すっぞぉ!!」
「体操だァ? 上等だ、やってやろうじゃねェか!!」
ちゃ? んちゃ? ら らったった♪
ムキムキの男二人と、ふわふわ金髪の女子が、のどかにR‐体操を始める。
「参加希望の方でチーム未所属の方はいらっしゃいますか?」
メリンダが名簿を確認した。
「おう! 海だろうが何だろうが、俺の炎は誰にも消せやしねぇ! やってやろうじゃねぇか!!」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)の女性にしてはかなり逞しい身体は、海育ちらしい赤銅色だった。
「こちとら2本の足で立つ前から海で泳ぎまくってンだよ! 俺ひとりでも海軍ごときに負けるかぁ!」
さすがに少し盛った感じはするが、それでもリゼリオ近海育ちで泳ぎに自信があるのは本当だ。
一方、フリルいっぱいの可愛い水着姿で、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が元気いっぱい手を上げる。
「はい! ルンルン忍法と水着の魅力を駆使して、一等賞を狙っちゃいます!」
見た目に反し、祖先は大ニンジャ(自称)というだけあって、素早い動きには自信がある。
ただちょっと寒いのだけは、何とかしてほしいのが本音だが。
(この位の寒さ、ニンジャやカードゲームのシュギョーと思えばへっちゃらだもの! へっ、へっちゃらなんだからっ)
自分に言い聞かせつつ、プルプル震えている。
突然、ウィンス・デイランダール(ka0039)が紅い瞳で睨むように見据えつつ、メリンダの前に迫ってくる。
「今回の発案はあんただってな」
「え?」
メリンダは少しこわばった笑みを返した。だがウィンスは苦情を言いにきたわけではなかった。
「鍛錬は平時より必要なもの……それを過酷な環境で行ってこそ心身共に鍛えられる……分かってんじゃねーか」
そう言うなり、メリンダの腕をがっしと掴み、残る手で砂浜を指さした。
「さあ――掴みに行こうぜ。寒中水泳の頂点を」
「いやチョットマッテクダサイ、私はですね……!」
足を踏ん張り抵抗するメリンダだったが、ふと背後に見知った人の気配を感じる。
「まさかメリンダさんが泳ぎに自信がない。そんなはずないですよね? いやもしかしたら、水着姿に自信がない……?」
いつの間にか近寄っていたシバが煽りまくる。
「そ、そんなことはないですよ!?」
「じゃあ来いよメリンダ、コートとストーブなんか捨ててかかって来い!」
ジャック・エルギンが片手の指でくいくいと手招きする。とりあえず、自分だけ楽をするのは許さねえ。青い瞳がそう言っていた。
「軍人という枷を外せ。それがお前の魂の反逆だ」
ウィンスはそう言うと、メリンダに水着を押しつけた。前面に『魂の反逆』、背面に『リベリオン・オブ・ソウル』と、彼の信条が書かれている特注の水着である。
「ねえ、もうほとんどセクハラだと思うんだけど!?」
ともかくも、こうして混成チームが結成された。
ルナが銀色に輝くトランペットを取り出す。
「エールの代わりに、賑やかに行くよ!」
同盟軍の軍楽隊がそれに合わせて打楽器を打ち鳴らした。イザイア・バッシ名誉大将が杖をつきつつ現れる。
「では僭越ながら、スタートの合図はワシが」
音楽が一層華やかになり、イザイアの手が振り下ろされると同時に号砲が鳴り響いた。
●
泳ぎだした面々に、見物客から賑やかな声援が飛ぶ。
「おお、皆元気じゃのぅ。せいぜい頑張るが良いぞ!」
ヴィルマ・ネーベル(ka2549)が双眼鏡片手に声を張り上げる。
双眼鏡が必要な距離に居ながら、水着着用。何がなんでも自分は引きずりこまれて酷い目に遭ったりしないぞという、物凄い執念を感じる。
「安心するが良い。本当のピンチには『霧の魔女』が駆けつけてやるのじゃ」
尚、駆けつけるとは言ったが、必ず助けるとは言ってない。
フラン・レンナルツ(ka0170)は救護テントの近くで、火の準備を始める。
「訓練か、懐かしいな。とはいえ今回はお祭騒ぎの一面もあるみたいだが」
生真面目な性格のフランだが、この世界に来る前は軍属でもあり、軍隊にはこういった面もあることは承知している。
「まあ、幾らハンターと鍛えた軍人とはいえ、真冬の水泳では身体も冷えるだろうからね」
「そうじゃな。身体の外からも内からも温まるよう、準備しておくのじゃ」
「面白いことやるから来てヨ! って言われて来たら、これだもの。皆、正気なの?」
防寒具で完全防備の沢城 葵(ka3114)が、少し大げさな溜息をつく。
「訓練というのは多少なりとも過酷なものだろう」
フランが手を止めないまま言った。
「そんなこと言われても寒いのヤだし、海風でと塩水でお肌荒れるし! 泳ぐなんてもってのほかよ!」
葵は自分の頬に両手を当て、身震いする。
綺麗に整えられた栗色の髪が潮風に吹かれることすら、本当は我慢ならないのだ。
見た目はれっきとした男性の葵だが、いつも綺麗でありたいのである。
「わかるわ……その気持ち」
日浦・知々田・雄拝(ka2796)が小声で呟いた。
人見知りなので、葵に「そうよねー!!」と突っ走ることはできないが、全面同意である。
水着には長めのパレオをつけ、日傘も持参で日焼け対策。薄手の羽織物までしっかり身につけている。冒険したい、でも見られるのがちょっと恥ずかしい、乙女心の表れだ。
なお、こちらも見た目はれっきとした以下略。
「どうしたのちぃちゃん?」
知々田のソウルシスターであるNon=Bee(ka1604)が、悪戯っぽく背後から抱きついた。
「なんでもないわ。あらぁNonちゃん、今日も素敵!」
「うふふ、ありがとう!」
大好きな赤色のビキニが、褐色の肌によく映える。色んな意味でギリギリまで攻め込んだ水着姿のNon=Beeは以下略。
「ね、ちぃちゃん。同盟海軍ってマッチョイケメンがいっぱいって聞いたけどほんとかしらぁ!」
「楽しみねっ! お持ち帰りとかできるかしら……」
「まっ! ちぃちゃんにしては大胆発言ねっ」
「やだあ、恥ずかしい!」
ふたりは秘密めいたくすくす笑いで、救助班のテントへ向かう。
火がついたのを確認し、フランは風避けの布でテントを覆い、大きな鍋に湯を沸かす。
ヴィルマは木箱の中から野菜を取り出し、順に下ごしらえをはじめた。
「日本人的にはこういうときの定番は豚汁なんだけどぉ。牛蒡とか蒟蒻とかは無理よねぇ。ね、あなた何作るの?」
葵がヴィルマの手元を覗き込む。
「ポトフとシチューなら腹にもたまるし、温まるじゃろ」
「素敵ね! あたしにも手伝わせてちょうだい。こう見えてもお料理は得意なのよ」
軽くウィンクし、葵もようやく重い上着を脱いだ。
そこにユピテール・オーク(ka5658)が声をかけて来る。
「火を分けてもらうことはできるかい?」
「ちょうど熾った所だよ。どうぞ」
フランがユピテールの七輪に炭を入れる。
「ありがとね。ま、丈夫な連中とはいえ、なにが理由でリタイヤするか判らないしさ。あたいは舟で先回りしておくよ」
さすがに死ぬようなことはないだろうが、救助は早いにこしたことはない。舟に七輪を積んで、少しでも暖を取ってもらおうというのだ。
「んじゃいってくるね。炊き出しも楽しみにしてるよ」
ユピテールはにっこり笑い、ひらひらと手を振った。
●
その頃、海では過酷な戦いが繰り広げられていた。
同盟海軍の精鋭チームは、まさに水を得た魚という勢いで波を掻き分けていく。
「ふわ~……さすがだね」
ユリアンがゆったりと泳ぎながら、彼らを見送る。
「あ、右手、波の戻りがありそうだね。使えるよ」
神託うさぎさんチームの先頭を泳ぐジュードが、潮の流れを読む。
平泳ぎで前半は消耗を抑え、潮の流れを上手く利用して体力を温存する。
当然、後半の展開によっては本気で追い込みをかけるつもりだが、今はまだ焦って自分のペースを乱すのは得策ではない。
「……とはいえ。抜かれるとイラッとくるな」
エアルドフリスの負けじ魂に火がついてしまったらしい。
「抜かれたら抜き返す。俺は先に行くぞ」
見事なクロールで海軍を追いたてていく。
「師匠、行っちゃった……」
「うん、でも大丈夫だと思うから。俺達も離れないように泳ごう?」
ユリアンとジュードは余裕のある泳ぎ方で後を追う。
広い海原に、点々と競技者たちが散らばりつつあった。
「くっそぉー、とっとと終わらせて水から上がるぜぇえええ!!」
真夏のシャチのシャケ担当、ジャック・エルギンはときどき方向確認のために平泳ぎに切り替えつつ、かなり本気で突き進む。
「同盟軍もやるわね。でもそれでこそ本気が出せるというものよ!」
牡丹は曲がったことが嫌いだ。
他人を蹴落としたり、だまし討ちしたりして勝利するのではなく、正面から全力で叩きのめすほうを好む。
「すごいですね。さすがは我々のリーダーです」
シバが心底感動したように、波間に見える牡丹の後頭部を見つめた。
ただし、尊敬はするが、行動に倣うとは言ってない。寧ろシバは大人しげな見た目に反し、天然策士系であった。
「だって勝負は非情だから……!」
「何か言った?」
「いいえ。根性でひたすら泳ぎます!」
波乱を予感させつつ、前半はどうにか平和に過ぎていく。
「みんなスッゴク頑張ってるネ! 誰が勝ってもいっぱいお祝いしてあげたいヨネ!」
砂浜で焚き火を囲むのは、アルヴィンとキヅカ・リク(ka0038)。
「やー……僕は皆の勇姿を見ているだけで胸がいっぱいになって来るよ」
キヅカは半笑いで、焚き火の傍にうずくまる。
水に入らなくても充分寒い冬の海岸。こんなときに泳ぐとか正気なの? 馬鹿なの? 死ぬの?
心の中でそう突っ込みを入れつつ、それでも本当に死にたい奴がいるとは思えないので、危なそうな人を救出しようという気持ちはあるのだ。
(そういうのはないほうがいいんだけどね……)
だが彼の勘が囁いていた。このまま平和に終わる筈がない、と……。
まだ大きな事件は起きていないが、エルバッハ・リオン(ka2434)は万一に備えて上着を脱いだ。
「寒中水泳に参加するのも良いかと思いましたが、支援の手も必要でしょう。ええ、決して冷たい水が嫌という訳ではないですが」
元々露出の高い衣装を好む性質だが、今回は海に遊びに来たわけではないので、オーソドックスな水着である。
とはいえ、シンプルな水着ほど、体の線はあらわになるものだ。
その辺りを当人は全く気にしないので、スタスタと海へ向かう。水の精霊の力を借りたウォーターウォークで波の上を移動し、いち早く救援に駆けつけるのだ。
その頭上を、2羽のイヌワシが滑空していく。
「あー……楽しそうですねえ」
Gacruxは焚き火の傍のテントから空を見上げていた。
ペットが賑やかさに興奮したのか、飛びたがっていたので離してやったが。
(連中が何に興味を示すかは、俺にもわからないですからね)
熱燗用の鍋がこぽこぽと平和な音を立て、Gacruxはのんびりと横になりつつ、不穏なことを考えていたのだった。
●
小島にある折り返し地点に競技者たちが到着しては、再び陸を目指す。
ボルディアは流す程度の泳ぎで、余力を残しながら折り返しに入った。
そのすぐ傍、素晴らしい抜き手でウィンスが泳ぐ。その目は前方を睨むように見つめ、全身には闘志が漲っていた。
今戦うのは歪虚でも悪人でもない。強いて言うなら、相手は大自然だ。
彼の反逆魂は、強大過ぎる敵を前にして萎えるどころか一層の力を得たかのようだ。
(フッ、俺も負けちゃあいられねえな)
ボルディアは、勝負の邪魔をする者はその場で海の藻屑にしてやるつもりだったが、正々堂々と戦えるなら本望。
水を掻く腕に一層力を籠めて、いよいよ全力をだして泳ぐ覚悟を決める。
メリンダも後に続きながら、内心で舌を巻いていた。
(さすがはハンターよね……でもうちの精鋭メンバーは何をしてるの?)
折り返し点で振り向き、息の代わりに水を飲みそうになる。
「な、がぼ、なんですって!?」
見えたのは、白波だった。V字型の白い高波がふた筋、海面に立ちあがっていたのだ。
それぞれの中心では男が泳いでいる。……というよりは、ほとんど溺れている。
「きりんさんは負けない! レッツゴー!! ……って、沈む!! 沈む!!!!」
研司の叫びと必死の形相。重い筋肉は推進力ともなるが、逆に錘ともなる。
「ぬがぁあああああ!!」
研司は海面を思い切り足で叩き、バタフライで浮かびあがる。
が、これは体力を使う。冷たい水と相まって、研司の体力がじわじわと削れて行く。
一方、もうひとりの男は万歳丸。
「足が届かねェ! この俺より深ェだと……!?」
もうかなり岸を離れた段階で、鬼の形相が波間に浮かんでいた。
当然岸を離れれば水は深くなっていくのだが、万歳丸はそんなことを知らない。
爪先が心もとないかと思った頃には、重い身体が浮いていた。
その目に、研司の泳ぎが目に入ったのだ。
「俺にはあの泳ぎ方が相応しいぜ!!」
知らないとは恐ろしいこと。だが蛙のような泳ぎ方や、顔を水につける泳ぎ方はあまり好みではない。
ならば顔を上げて、力一杯進んで行け!
「俺ァ、今泳いでンのか!」
ざぱぁん。
研司と万歳丸の身体が宙を舞い、太陽にシルエットとなって浮かび上がった。
「あら?」
同じきりんさんチームのパトリシアは、寒さに震えながらも二人から遅れずについていっていた。
……ふたりのバタフライの速度、推して知るべし。
だがパトリシアが驚いたのはそこではなかった。
削れたのはふたりの体力だけではなく、紐の耐久力。2枚の褌がふわふわと海面に漂っていたのだ。
「ひゃぁ!?」
パトリシアは咄嗟に目をつぶった。
「パティは。パティは何も見てないデスヨーっ! ふたりとも、ちゃんと責任をとってお嫁サンにもらいますカラっ……!」
パトリシアは混乱しつつも戦友たちを何とか助けようと、褌を握り締め、必死で泳ぐ。……目をつぶったままで。
鋭い目がこの機会を捉える。
「あはは、通報により『まりおと愉快な憲兵団』只今参上だよ~!!」
超級まりお(ka0824)がまっしぐらに突き進んでくる舟の先頭で、片手を上げて器用にジャンプしている。
舟を漕ぐのは、筋骨隆々の強面の男達。何本ものオールが規則正しく、海面を跳ねる。
どこでどう話をつけたのか、同盟軍の憲兵さんの集団であった。
「マッパ違反者は理由を問わず、海岸で1時間の磔刑(たっけい)が課せられてるので」
イイ笑顔で酷いことを言い出した。
「慈悲はない。情けも布もない。御愁傷様~♪」
「なんだとぉおおお!?」
研司は自分の状況にようやく気がついた。
そこに現れる救いの女神。いや、魔女か。
ヴィルマが水の上に立ち、おごそかに告げる。
「そなたが失ったのはこの呪符か? それともこの昆布か?」
危機を察知し水上を駆けて来てくれたのは有難いが、何故呪符と昆布。
「そんなちっこい呪符で隠れるわけないだろ!?」
「では昆布か」
ヴィルマは長い昆布をそっと差し出す。
「こ……昆布ぅ! お前が俺の新たなる褌だ! カラーチェンジだ!!」
研司の必死の形相に対し、万歳丸は至って冷静だった。
「なるほど、昆布ってやつァ褌の代わりになるのか。巻くなら手伝うぜ、ちーむ、だろ?」
受け取った昆布を手に、ニヤリと笑う万歳丸。カッコいいが自分の褌も流れている。
「万歳丸さん、手助けありがとう! 巻くなら俺も手伝い返す! いや要らないじゃなくて、巻こう? そして絶対に社会的に生きのびて、一番で焚き火に帰るんだー!! 」
ユピテールは波が激しく泡立っているのを見て、ジェットブーツで駆けつけたが。
「ま、命に関わることじゃなくて良かったよ」
クスッと笑った。何についてかは気にするな。
ユピテールは救助舟に戻り、脱ぎ捨てた上着を拾い上げた。身につけた水着はユピテールのダイナマイトバディを覆うには余りにも頼りなげに見える。
……その背中の紐がひらひらするのが、気になったのだろうか。Gacruxのイヌワシが急降下してくる。
普段のユピテールなら、敵の接近をみすみす許しはしなかっただろう。だが慣れない小舟の上、七輪が倒れないようにと、ほんの一瞬気を取られた。
「あれ?」
ふと気がつくと、はらりと自分の足元に、見慣れた布が落ちていく。
「違反者発見! ただちに向かえ~♪」
まりおが目ざとく見つけ、舟を向けさせる。が、綺麗に揃っていたはずのオールが、見事にバラバラになっていた。
そこでメリンダが鍛えた声を張り上げる。
「うろたえてどうするんですか! 名誉大将もご覧なのですよ!!」
美女の刺激的な姿と、凄く偉い人。同時に別方面のショックを受けて、却って海軍兵達のオールが乱れ、互いにぶつかり合う。
身内のオールで頭を打たれ海に落ちる者もいる始末だ。
エルバッハは念のために借りたゴムボートを引いて、波の上を歩いて来る。
「大丈夫だとは思いますけれど、怪我をしていては大変ですから」
そこまで言ったところで、背中に衝撃。イヌワシが思い切り激突してきたのだ。
「……あら?」
小柄なエルバッハの身体がよろめき、慌てて手を差し出した海軍兵の顔に思いきりぶつかった。……小柄な割に豊かな胸から、思い切り。
更に増える犠牲者を横目に、ある意味非情なハンター達は次々と先へ。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法波占い! カモメの落下物と、高波に注意です」
ルンルンは、きゅるん♪ と効果音が入りそうなポーズを決めた。
「ええ、落下物は危険ですね。……いけませんね、こんな所で寝てちゃ危ないですよ」
シバは何事も無かったかのように泳いでいるが、先を泳いでいた奴を眠らせた張本人である。
あとを追いつつ、ルンルンは犠牲者を足場にジャンプ。
「貴方の犠牲は忘れません」
少女は光をきらめかせ、シバの前方の海面へと飛び込んだ。非情すぎる。
ジュードとユリアンもすいすいと通り過ぎていく。
「頑張れ? 頑張れ?」
ジュードは一応は周りを気遣いつつ、容赦なくお先に失礼。
「あれ? なにか踏んだみたいな……あっ、ごめんね?」
ユリアンは水中で何か柔らかい物を踏んだが、軽く謝って誤魔化した。
だが勝負の舞台でそんなことが許される筈もなく。
「あ、あれ?」
ジュードは気がつけば、全く前に進まなくなっていた。ふと見ると片足を掴まれている。
そう、このレース、潜水部隊という伏兵が潜んでいたのだ。
しかしジュードの危機に、エアルドフリスも黙ってはいない。
「そのまま一生、陸に上がってくんじゃねえ!!」
怒り声がそのまま形になったような雷撃に撃たれ、海中の伏兵がぷかりと浮かんできた。
「さっさとここを離れるぞ!」
「うん。……ありがとう、エアさん」
どこか嬉しそうなジュードに憮然とした表情を見せつつ、エアルドフリスはユリアンと共にその場を去った。
「見た?」
「ちょっと軍人さんにしては軽そうじゃなあい……?」
Non=Beeの艶やかに輝く唇が微笑むが、知々田は僅かに眉をひそめる。
「でも胸板はステキよ?」
「んもう、Nonちゃんたら! でも間近でしっかり確認しなくちゃ!」
ふたりは恋のハンター、猛然と舟を進ませる。
瞬時に手近の海軍兵の体格などを判別。合格ラインに達した者をエンタングルで捕縛する知々田は、一本釣りの名手と化した。
「きゃーNonちゃんイケメンの筋肉よ! 胸筋も脹脛も凄いわよ! 眼福ね!」
釣り上げた海軍兵を、ドーンと舟に引き上げる。
「やっだちぃちゃん、素敵な筋肉! 手厚く看護してあげなきゃだわぁ」
Non=Beeの手入れの行き届いた指がつつ~っと、白目を向いた男の鎖骨を滑って行った。
「まあ大変、意識がないみたい!! 人工呼吸よ!!」
「ちぃちゃん頑張って! でも他にも救助が必要な人はいないかしら?」
Non=Beeが色っぽい流し目で周囲を見渡す。その目を見た瞬間、さしもの屈強な海軍兵達も可憐な乙女のように打ち震えるのであった。
●
次々と戻ってくる競技者を、待機組が待ち構える。
「結局なんの訓練だったんだよ……」
ジャックはそう言いつつ、密かにテントに合図を送る。中に潜んでいた者が、スケッチブックにペンを走らせた。
「ふふふ……ホットワインだけじゃ、周りのカス商人共と似たり寄ったりだ。俺様はそんな連中とは一味違うぜ!!」
恐るべき商魂。めぼしい物を見つけては、連れてきた画家に水着姿を描かせ、それを売ろうというのだ。
「ポートレイトはコレクターもいるしな、今回は水着姿だ。割かし美男美女が勢ぞろいだからな、人気間違いなしだぜ!」
高笑いのジャックの背後に忍び寄るのは、まりおである。
「なんか良くわかんないけど、あれ犯罪っぽい」
「アイ、マム!!」
「な、なにしやがんだ!!!」
よく訓練された憲兵さん達が、ジャックの周囲を取り囲む。
……結局、モデルさん達にも相応の取り分ということになったが、それでもジャックの懐にはそれなりの金額が入ったという。
万歳丸の大きな肩が波間から上がってくる。
「さすがに死ぬかと思ったぜ……」
昆布を引きずる姿は疲労困憊。
「カッコよかったヨ! おかえりー!」
アルヴィンが兎の浮き輪を抱えたままで駆け寄った。
そこに突然、少し大きな波が寄せてくる。
「ぬお?」
万歳丸が咄嗟にアルヴィンの浮き輪を掴んだ。
「危ない!」
帰還者を救護していたキヅカが、血相を変えて海に入る。
「気をつけなくちゃだめだよ!」
「ワーイ、キヅカ君! 波が速いヨー!」
アルヴィンはキヅカに襟首を掴まれながら、どうにか溺れずに済んだ。
「何だこれ、便利じゃねェか! もう一度勝負だ!!」
兎の浮き輪に掴まる万歳丸の姿は、中々にシュールであった。
「みんなお疲れー! 寒かったでしょ? ほら、あったまって!」
「お疲れ様でした!」
戻った仲間を、葵とルナが笑顔で出迎える。
火の傍に案内し、身体を拭くタオルとくるまる毛布、そして暖かな食べ物を配る。
「お腹がすくと余計に寒くなるからな。しっかり食べるんだよ」
フランは熱いお茶を配りながら、塩焼きの魚をすすめる。
「泳いだ後には塩気が嬉しいですね。いただきます」
メリンダが早速齧りついた。
「ショウガ入りのポトフもあるのじゃ。温まるぞよ」
「すごいわ。足りないものなんてないみたい!」
「……足りないとしたらこれでしょう」
Gacruxが三白眼で迫りつつ、熱燗を差し出した。
「……私の分、とっておいてくださいねっ!」
辛うじて理性で耐えるメリンダ。なぜなら彼女にはまだ仕事があったのだ。
「皆様お疲れさまでした、表彰式に移ります」
制服に着替え、にこやかにアナウンス。終わったら酒宴、そう思えば辛くない。
さて、結果は。
「3位、シバ・ミラージュ様。2位、ウィンス・デイランダール様。そして1位、パトリシア=K=ポラリス様です! チーム優勝は『反逆魂』の皆さんです!」
「えっパティが1位だったの!?」
なんとパトリシアは、目をつぶったまま無我夢中で泳ぎ、そのままゴールしていたのだった。
「反逆魂? そんな名前のチームがあったか?」
他人事のようにウィンスが呟いたが、混成チームには名前がなく、メリンダが適当な名前でエントリーしたのだった。
「優勝チームと入賞者の方には、同盟軍正式採用の毛布を記念品として進呈します」
ごめん。しょぼいとか文句は私に言わないで。
メリンダの目がそう言っていた。
「それから、私から皆様にお土産を。また何かありましたら宜しくお願いします」
だがお辞儀するメリンダを見つめ、キヅカは思ったのだ。
(今後とも、同盟諸氏には是非とも最前線に来てもらおう、そうしよう)
何故ならこの試練を乗り越え、同盟軍人たちはより強くなっているはずなのだから……!
<了>
港には、多くの見物客が集まった。
メリンダ・ドナーティはハンター達に満面の笑みを向ける。
「皆様、今日は宜しくお願い致します。何か入用の物がありましたらお申し付けくださいね」
Gacrux(ka2726)が早速、テントを借りたいと申し出た。
「水錬に参加した方たちの救護用に、一角をお借りできればと思うのですがねえ」
「わかりました、手配しましょう」
「屋台一式を借りてぇんだが」
ジャック・J・グリーヴ(ka1305)が続いた。
「商工会のほうで用意しますね」
「頼むぜ。見物客だって寒いだろうしな、ほろ酔い気分になりてぇ奴も多いだろ。ホットワインでも出そうかと思ってな」
異名でもある「金の亡者」は褒め言葉、最初こそ同盟軍の士官ともあろう者がと眉をひそめていたが。
商人ジャックは密かにほくそ笑む。
(人が集まりゃ金も動く、俺様の腕の見せ所だぜ!)
早速商工会の担当者に掛けあい、屋台の一角を確保することに成功した。
そして今回の主役は、当然水錬参加者である。
「冬の海ってスッゴク寒いって聞くケレド、同盟海軍は精悍ダネ!」
アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は兎の耳の付いたパーカーをはおり、兎の浮き輪を抱え、実に楽しそうである。
泳げないわけではないが、遠泳で競争する自信はないとのことで、今回は救護に回ることにしたらしい。
「溺れたり足が攣ったり、何かアレバ浮き輪を渡しに行くヨー!」
そう言って自慢げに見せる兎耳の付いた兎柄の浮き輪は「ピーター七世」という。当人は大真面目だ。
「寒いのは嫌いだけど、ポルトワールっ子として海は別! 参加しないわけにはいかないよね。ねっ、エアさん!」
ジュード・エアハート(ka0410)が無邪気な笑顔で、エアルドフリス(ka1856)の袖をひっぱった。
「ああ。我々は即席チームとは違う。【神託】の面子に掛けて、負けるわけにはいかん」
エアルドフリスは大真面目に頷く。当初は寒中水泳など正気の沙汰ではないと渋っていたが、期待されて逃げるのは男がすたるというもの。
「わーい、『うさぎさんチーム』! 頑張るよー!」
「え? うさぎさん……えっ!?」
聞いてねえよ。
エアルドフリスはそう思ったが、アルヴィンとハイタッチするジュードの嬉しそうな顔には逆らえない。
ユリアン(ka1664)も笑いながら上着を脱ぐ。
「うさぎはアルヴィン隊長のお守りだからね。ジュードさん、師匠 完泳と優勝目指して、行こう!」
「勿論だ。俺は辺境出身だ、寒さには強いぞ」
エアルドフリスも羽織り物を脱ぐ。無駄にイイ身体を強調する、ブーメランスタイルの水着が眩しい。若干腕に鳥肌が立っているのはご愛敬か。
ルナ・レンフィールド(ka1565)は皆の脱いだ服などを預かり、少し心配顔だ。
「皆さん、頑張ってくださいっ! でも無理はしないでね?」
「大丈夫! しっかり準備運動もするからね!」
ジュードはコートとセーラー服とうさみみカチューシャをルナに預け、ワンピース型の水着姿になった。
牡丹(ka4816)は海風に髪をなびかせ、腕組みで仁王立ちしていた。
「地元で『真夏のシャチ』とも呼ばれたこのあたしのプライドに掛けて、同盟軍には負けられないわ……!」
寒い。すごく寒い。だが勝負事となれば、血が騒ぐのである。
「なんだかカッコいいですね。さぞかし高名な方なのでしょう。ちなみに僕は『真冬もシャツ』です」
はにかむような笑顔で訳のわからないことを言っているのは、シバ・ミラージュ(ka2094)だった。
根性を鍛えるために真冬も薄着と言いつつ、実は金欠ゆえ。涙ぐましい話である。
「シャチにシャツね。いいわ、頑張りましょう!」
牡丹が力強くシバと手を握り合う。
「あとは……」
チーム参加には最低3名。
目に入ったのは、結構泳げそうな雰囲気を漂わせた金髪の青年、ジャック・エルギン(ka1522)である。泳げそうではあるのだが。
「寒みぃぃぃぃぃぃ!!」
自分で自分を抱きしめるようにして、寒風に身を震わせていた。
海→水着→女の子とキャッキャウフフ!
そんな期待は、冬の海風が吹き飛ばして行った。どう見てもそれどころじゃないのだ。
「くっそー、こうなったらせめて優勝を目指すぜ!!」
「気に入ったわ。一緒に勝利を掴んでみないかしら?」
牡丹に誘われ、ジャック・エルギンがニヤリと笑う。
「負ける気がしねえな」
シャチ、シャツ、と紹介され、何故かシャケしか思いつかないジャックだったが、『真夏のシャチ』チームが結成された。
そのすぐ傍で、藤堂研司(ka0569)の高笑いが響き渡る。
「真夏のシャチもうさぎさんも手強そうなこと限りないが! 俺たちだって負けはしねえ!!」
筋肉質の身体に、きりんさんの褌が勇ましい。いや別に、キリンさんの首が出てる訳じゃないから。そっちのキリンじゃないから。
パトリシア=K=ポラリス(ka5996)が好奇心でキラキラ光る翡翠色の瞳を見開く。
「きりんさんチーム、頑張ろうネ!」
パトリシアは素直で前向きだった。困っている人を助けられるよう、自分を鍛えよう。
そんな真摯な気持ちでやって来たが、なんだかお祭状態。けれどそれはそれで嬉しい。
尚、チーム名は、パトリシアがなんの脈絡もなく適当に命名した模様。
「これが海か!」
万歳丸(ka5665)の大声が、パトリシアの頭の上から響き渡る。
筋骨隆々の大鬼は山暮らしで、海を見るのも初めてなら、泳いだこともない。
だが根拠のない自信が、彼の中に満ちていた。
「ハッハァ!! お前ら纏めて掛かってこいやクルァ!」
物凄く泳げる人のような雰囲気で、同盟軍の面々や、他のハンター達をねめつける。
「えっと、泳ぐ前に、しっかり準備運動しないとネ! RB伝統の体操を教えるよ!」
「よっしゃあ! 気合入れて体操すっぞぉ!!」
「体操だァ? 上等だ、やってやろうじゃねェか!!」
ちゃ? んちゃ? ら らったった♪
ムキムキの男二人と、ふわふわ金髪の女子が、のどかにR‐体操を始める。
「参加希望の方でチーム未所属の方はいらっしゃいますか?」
メリンダが名簿を確認した。
「おう! 海だろうが何だろうが、俺の炎は誰にも消せやしねぇ! やってやろうじゃねぇか!!」
ボルディア・コンフラムス(ka0796)の女性にしてはかなり逞しい身体は、海育ちらしい赤銅色だった。
「こちとら2本の足で立つ前から海で泳ぎまくってンだよ! 俺ひとりでも海軍ごときに負けるかぁ!」
さすがに少し盛った感じはするが、それでもリゼリオ近海育ちで泳ぎに自信があるのは本当だ。
一方、フリルいっぱいの可愛い水着姿で、ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が元気いっぱい手を上げる。
「はい! ルンルン忍法と水着の魅力を駆使して、一等賞を狙っちゃいます!」
見た目に反し、祖先は大ニンジャ(自称)というだけあって、素早い動きには自信がある。
ただちょっと寒いのだけは、何とかしてほしいのが本音だが。
(この位の寒さ、ニンジャやカードゲームのシュギョーと思えばへっちゃらだもの! へっ、へっちゃらなんだからっ)
自分に言い聞かせつつ、プルプル震えている。
突然、ウィンス・デイランダール(ka0039)が紅い瞳で睨むように見据えつつ、メリンダの前に迫ってくる。
「今回の発案はあんただってな」
「え?」
メリンダは少しこわばった笑みを返した。だがウィンスは苦情を言いにきたわけではなかった。
「鍛錬は平時より必要なもの……それを過酷な環境で行ってこそ心身共に鍛えられる……分かってんじゃねーか」
そう言うなり、メリンダの腕をがっしと掴み、残る手で砂浜を指さした。
「さあ――掴みに行こうぜ。寒中水泳の頂点を」
「いやチョットマッテクダサイ、私はですね……!」
足を踏ん張り抵抗するメリンダだったが、ふと背後に見知った人の気配を感じる。
「まさかメリンダさんが泳ぎに自信がない。そんなはずないですよね? いやもしかしたら、水着姿に自信がない……?」
いつの間にか近寄っていたシバが煽りまくる。
「そ、そんなことはないですよ!?」
「じゃあ来いよメリンダ、コートとストーブなんか捨ててかかって来い!」
ジャック・エルギンが片手の指でくいくいと手招きする。とりあえず、自分だけ楽をするのは許さねえ。青い瞳がそう言っていた。
「軍人という枷を外せ。それがお前の魂の反逆だ」
ウィンスはそう言うと、メリンダに水着を押しつけた。前面に『魂の反逆』、背面に『リベリオン・オブ・ソウル』と、彼の信条が書かれている特注の水着である。
「ねえ、もうほとんどセクハラだと思うんだけど!?」
ともかくも、こうして混成チームが結成された。
ルナが銀色に輝くトランペットを取り出す。
「エールの代わりに、賑やかに行くよ!」
同盟軍の軍楽隊がそれに合わせて打楽器を打ち鳴らした。イザイア・バッシ名誉大将が杖をつきつつ現れる。
「では僭越ながら、スタートの合図はワシが」
音楽が一層華やかになり、イザイアの手が振り下ろされると同時に号砲が鳴り響いた。
●
泳ぎだした面々に、見物客から賑やかな声援が飛ぶ。
「おお、皆元気じゃのぅ。せいぜい頑張るが良いぞ!」
ヴィルマ・ネーベル(ka2549)が双眼鏡片手に声を張り上げる。
双眼鏡が必要な距離に居ながら、水着着用。何がなんでも自分は引きずりこまれて酷い目に遭ったりしないぞという、物凄い執念を感じる。
「安心するが良い。本当のピンチには『霧の魔女』が駆けつけてやるのじゃ」
尚、駆けつけるとは言ったが、必ず助けるとは言ってない。
フラン・レンナルツ(ka0170)は救護テントの近くで、火の準備を始める。
「訓練か、懐かしいな。とはいえ今回はお祭騒ぎの一面もあるみたいだが」
生真面目な性格のフランだが、この世界に来る前は軍属でもあり、軍隊にはこういった面もあることは承知している。
「まあ、幾らハンターと鍛えた軍人とはいえ、真冬の水泳では身体も冷えるだろうからね」
「そうじゃな。身体の外からも内からも温まるよう、準備しておくのじゃ」
「面白いことやるから来てヨ! って言われて来たら、これだもの。皆、正気なの?」
防寒具で完全防備の沢城 葵(ka3114)が、少し大げさな溜息をつく。
「訓練というのは多少なりとも過酷なものだろう」
フランが手を止めないまま言った。
「そんなこと言われても寒いのヤだし、海風でと塩水でお肌荒れるし! 泳ぐなんてもってのほかよ!」
葵は自分の頬に両手を当て、身震いする。
綺麗に整えられた栗色の髪が潮風に吹かれることすら、本当は我慢ならないのだ。
見た目はれっきとした男性の葵だが、いつも綺麗でありたいのである。
「わかるわ……その気持ち」
日浦・知々田・雄拝(ka2796)が小声で呟いた。
人見知りなので、葵に「そうよねー!!」と突っ走ることはできないが、全面同意である。
水着には長めのパレオをつけ、日傘も持参で日焼け対策。薄手の羽織物までしっかり身につけている。冒険したい、でも見られるのがちょっと恥ずかしい、乙女心の表れだ。
なお、こちらも見た目はれっきとした以下略。
「どうしたのちぃちゃん?」
知々田のソウルシスターであるNon=Bee(ka1604)が、悪戯っぽく背後から抱きついた。
「なんでもないわ。あらぁNonちゃん、今日も素敵!」
「うふふ、ありがとう!」
大好きな赤色のビキニが、褐色の肌によく映える。色んな意味でギリギリまで攻め込んだ水着姿のNon=Beeは以下略。
「ね、ちぃちゃん。同盟海軍ってマッチョイケメンがいっぱいって聞いたけどほんとかしらぁ!」
「楽しみねっ! お持ち帰りとかできるかしら……」
「まっ! ちぃちゃんにしては大胆発言ねっ」
「やだあ、恥ずかしい!」
ふたりは秘密めいたくすくす笑いで、救助班のテントへ向かう。
火がついたのを確認し、フランは風避けの布でテントを覆い、大きな鍋に湯を沸かす。
ヴィルマは木箱の中から野菜を取り出し、順に下ごしらえをはじめた。
「日本人的にはこういうときの定番は豚汁なんだけどぉ。牛蒡とか蒟蒻とかは無理よねぇ。ね、あなた何作るの?」
葵がヴィルマの手元を覗き込む。
「ポトフとシチューなら腹にもたまるし、温まるじゃろ」
「素敵ね! あたしにも手伝わせてちょうだい。こう見えてもお料理は得意なのよ」
軽くウィンクし、葵もようやく重い上着を脱いだ。
そこにユピテール・オーク(ka5658)が声をかけて来る。
「火を分けてもらうことはできるかい?」
「ちょうど熾った所だよ。どうぞ」
フランがユピテールの七輪に炭を入れる。
「ありがとね。ま、丈夫な連中とはいえ、なにが理由でリタイヤするか判らないしさ。あたいは舟で先回りしておくよ」
さすがに死ぬようなことはないだろうが、救助は早いにこしたことはない。舟に七輪を積んで、少しでも暖を取ってもらおうというのだ。
「んじゃいってくるね。炊き出しも楽しみにしてるよ」
ユピテールはにっこり笑い、ひらひらと手を振った。
●
その頃、海では過酷な戦いが繰り広げられていた。
同盟海軍の精鋭チームは、まさに水を得た魚という勢いで波を掻き分けていく。
「ふわ~……さすがだね」
ユリアンがゆったりと泳ぎながら、彼らを見送る。
「あ、右手、波の戻りがありそうだね。使えるよ」
神託うさぎさんチームの先頭を泳ぐジュードが、潮の流れを読む。
平泳ぎで前半は消耗を抑え、潮の流れを上手く利用して体力を温存する。
当然、後半の展開によっては本気で追い込みをかけるつもりだが、今はまだ焦って自分のペースを乱すのは得策ではない。
「……とはいえ。抜かれるとイラッとくるな」
エアルドフリスの負けじ魂に火がついてしまったらしい。
「抜かれたら抜き返す。俺は先に行くぞ」
見事なクロールで海軍を追いたてていく。
「師匠、行っちゃった……」
「うん、でも大丈夫だと思うから。俺達も離れないように泳ごう?」
ユリアンとジュードは余裕のある泳ぎ方で後を追う。
広い海原に、点々と競技者たちが散らばりつつあった。
「くっそぉー、とっとと終わらせて水から上がるぜぇえええ!!」
真夏のシャチのシャケ担当、ジャック・エルギンはときどき方向確認のために平泳ぎに切り替えつつ、かなり本気で突き進む。
「同盟軍もやるわね。でもそれでこそ本気が出せるというものよ!」
牡丹は曲がったことが嫌いだ。
他人を蹴落としたり、だまし討ちしたりして勝利するのではなく、正面から全力で叩きのめすほうを好む。
「すごいですね。さすがは我々のリーダーです」
シバが心底感動したように、波間に見える牡丹の後頭部を見つめた。
ただし、尊敬はするが、行動に倣うとは言ってない。寧ろシバは大人しげな見た目に反し、天然策士系であった。
「だって勝負は非情だから……!」
「何か言った?」
「いいえ。根性でひたすら泳ぎます!」
波乱を予感させつつ、前半はどうにか平和に過ぎていく。
「みんなスッゴク頑張ってるネ! 誰が勝ってもいっぱいお祝いしてあげたいヨネ!」
砂浜で焚き火を囲むのは、アルヴィンとキヅカ・リク(ka0038)。
「やー……僕は皆の勇姿を見ているだけで胸がいっぱいになって来るよ」
キヅカは半笑いで、焚き火の傍にうずくまる。
水に入らなくても充分寒い冬の海岸。こんなときに泳ぐとか正気なの? 馬鹿なの? 死ぬの?
心の中でそう突っ込みを入れつつ、それでも本当に死にたい奴がいるとは思えないので、危なそうな人を救出しようという気持ちはあるのだ。
(そういうのはないほうがいいんだけどね……)
だが彼の勘が囁いていた。このまま平和に終わる筈がない、と……。
まだ大きな事件は起きていないが、エルバッハ・リオン(ka2434)は万一に備えて上着を脱いだ。
「寒中水泳に参加するのも良いかと思いましたが、支援の手も必要でしょう。ええ、決して冷たい水が嫌という訳ではないですが」
元々露出の高い衣装を好む性質だが、今回は海に遊びに来たわけではないので、オーソドックスな水着である。
とはいえ、シンプルな水着ほど、体の線はあらわになるものだ。
その辺りを当人は全く気にしないので、スタスタと海へ向かう。水の精霊の力を借りたウォーターウォークで波の上を移動し、いち早く救援に駆けつけるのだ。
その頭上を、2羽のイヌワシが滑空していく。
「あー……楽しそうですねえ」
Gacruxは焚き火の傍のテントから空を見上げていた。
ペットが賑やかさに興奮したのか、飛びたがっていたので離してやったが。
(連中が何に興味を示すかは、俺にもわからないですからね)
熱燗用の鍋がこぽこぽと平和な音を立て、Gacruxはのんびりと横になりつつ、不穏なことを考えていたのだった。
●
小島にある折り返し地点に競技者たちが到着しては、再び陸を目指す。
ボルディアは流す程度の泳ぎで、余力を残しながら折り返しに入った。
そのすぐ傍、素晴らしい抜き手でウィンスが泳ぐ。その目は前方を睨むように見つめ、全身には闘志が漲っていた。
今戦うのは歪虚でも悪人でもない。強いて言うなら、相手は大自然だ。
彼の反逆魂は、強大過ぎる敵を前にして萎えるどころか一層の力を得たかのようだ。
(フッ、俺も負けちゃあいられねえな)
ボルディアは、勝負の邪魔をする者はその場で海の藻屑にしてやるつもりだったが、正々堂々と戦えるなら本望。
水を掻く腕に一層力を籠めて、いよいよ全力をだして泳ぐ覚悟を決める。
メリンダも後に続きながら、内心で舌を巻いていた。
(さすがはハンターよね……でもうちの精鋭メンバーは何をしてるの?)
折り返し点で振り向き、息の代わりに水を飲みそうになる。
「な、がぼ、なんですって!?」
見えたのは、白波だった。V字型の白い高波がふた筋、海面に立ちあがっていたのだ。
それぞれの中心では男が泳いでいる。……というよりは、ほとんど溺れている。
「きりんさんは負けない! レッツゴー!! ……って、沈む!! 沈む!!!!」
研司の叫びと必死の形相。重い筋肉は推進力ともなるが、逆に錘ともなる。
「ぬがぁあああああ!!」
研司は海面を思い切り足で叩き、バタフライで浮かびあがる。
が、これは体力を使う。冷たい水と相まって、研司の体力がじわじわと削れて行く。
一方、もうひとりの男は万歳丸。
「足が届かねェ! この俺より深ェだと……!?」
もうかなり岸を離れた段階で、鬼の形相が波間に浮かんでいた。
当然岸を離れれば水は深くなっていくのだが、万歳丸はそんなことを知らない。
爪先が心もとないかと思った頃には、重い身体が浮いていた。
その目に、研司の泳ぎが目に入ったのだ。
「俺にはあの泳ぎ方が相応しいぜ!!」
知らないとは恐ろしいこと。だが蛙のような泳ぎ方や、顔を水につける泳ぎ方はあまり好みではない。
ならば顔を上げて、力一杯進んで行け!
「俺ァ、今泳いでンのか!」
ざぱぁん。
研司と万歳丸の身体が宙を舞い、太陽にシルエットとなって浮かび上がった。
「あら?」
同じきりんさんチームのパトリシアは、寒さに震えながらも二人から遅れずについていっていた。
……ふたりのバタフライの速度、推して知るべし。
だがパトリシアが驚いたのはそこではなかった。
削れたのはふたりの体力だけではなく、紐の耐久力。2枚の褌がふわふわと海面に漂っていたのだ。
「ひゃぁ!?」
パトリシアは咄嗟に目をつぶった。
「パティは。パティは何も見てないデスヨーっ! ふたりとも、ちゃんと責任をとってお嫁サンにもらいますカラっ……!」
パトリシアは混乱しつつも戦友たちを何とか助けようと、褌を握り締め、必死で泳ぐ。……目をつぶったままで。
鋭い目がこの機会を捉える。
「あはは、通報により『まりおと愉快な憲兵団』只今参上だよ~!!」
超級まりお(ka0824)がまっしぐらに突き進んでくる舟の先頭で、片手を上げて器用にジャンプしている。
舟を漕ぐのは、筋骨隆々の強面の男達。何本ものオールが規則正しく、海面を跳ねる。
どこでどう話をつけたのか、同盟軍の憲兵さんの集団であった。
「マッパ違反者は理由を問わず、海岸で1時間の磔刑(たっけい)が課せられてるので」
イイ笑顔で酷いことを言い出した。
「慈悲はない。情けも布もない。御愁傷様~♪」
「なんだとぉおおお!?」
研司は自分の状況にようやく気がついた。
そこに現れる救いの女神。いや、魔女か。
ヴィルマが水の上に立ち、おごそかに告げる。
「そなたが失ったのはこの呪符か? それともこの昆布か?」
危機を察知し水上を駆けて来てくれたのは有難いが、何故呪符と昆布。
「そんなちっこい呪符で隠れるわけないだろ!?」
「では昆布か」
ヴィルマは長い昆布をそっと差し出す。
「こ……昆布ぅ! お前が俺の新たなる褌だ! カラーチェンジだ!!」
研司の必死の形相に対し、万歳丸は至って冷静だった。
「なるほど、昆布ってやつァ褌の代わりになるのか。巻くなら手伝うぜ、ちーむ、だろ?」
受け取った昆布を手に、ニヤリと笑う万歳丸。カッコいいが自分の褌も流れている。
「万歳丸さん、手助けありがとう! 巻くなら俺も手伝い返す! いや要らないじゃなくて、巻こう? そして絶対に社会的に生きのびて、一番で焚き火に帰るんだー!! 」
ユピテールは波が激しく泡立っているのを見て、ジェットブーツで駆けつけたが。
「ま、命に関わることじゃなくて良かったよ」
クスッと笑った。何についてかは気にするな。
ユピテールは救助舟に戻り、脱ぎ捨てた上着を拾い上げた。身につけた水着はユピテールのダイナマイトバディを覆うには余りにも頼りなげに見える。
……その背中の紐がひらひらするのが、気になったのだろうか。Gacruxのイヌワシが急降下してくる。
普段のユピテールなら、敵の接近をみすみす許しはしなかっただろう。だが慣れない小舟の上、七輪が倒れないようにと、ほんの一瞬気を取られた。
「あれ?」
ふと気がつくと、はらりと自分の足元に、見慣れた布が落ちていく。
「違反者発見! ただちに向かえ~♪」
まりおが目ざとく見つけ、舟を向けさせる。が、綺麗に揃っていたはずのオールが、見事にバラバラになっていた。
そこでメリンダが鍛えた声を張り上げる。
「うろたえてどうするんですか! 名誉大将もご覧なのですよ!!」
美女の刺激的な姿と、凄く偉い人。同時に別方面のショックを受けて、却って海軍兵達のオールが乱れ、互いにぶつかり合う。
身内のオールで頭を打たれ海に落ちる者もいる始末だ。
エルバッハは念のために借りたゴムボートを引いて、波の上を歩いて来る。
「大丈夫だとは思いますけれど、怪我をしていては大変ですから」
そこまで言ったところで、背中に衝撃。イヌワシが思い切り激突してきたのだ。
「……あら?」
小柄なエルバッハの身体がよろめき、慌てて手を差し出した海軍兵の顔に思いきりぶつかった。……小柄な割に豊かな胸から、思い切り。
更に増える犠牲者を横目に、ある意味非情なハンター達は次々と先へ。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法波占い! カモメの落下物と、高波に注意です」
ルンルンは、きゅるん♪ と効果音が入りそうなポーズを決めた。
「ええ、落下物は危険ですね。……いけませんね、こんな所で寝てちゃ危ないですよ」
シバは何事も無かったかのように泳いでいるが、先を泳いでいた奴を眠らせた張本人である。
あとを追いつつ、ルンルンは犠牲者を足場にジャンプ。
「貴方の犠牲は忘れません」
少女は光をきらめかせ、シバの前方の海面へと飛び込んだ。非情すぎる。
ジュードとユリアンもすいすいと通り過ぎていく。
「頑張れ? 頑張れ?」
ジュードは一応は周りを気遣いつつ、容赦なくお先に失礼。
「あれ? なにか踏んだみたいな……あっ、ごめんね?」
ユリアンは水中で何か柔らかい物を踏んだが、軽く謝って誤魔化した。
だが勝負の舞台でそんなことが許される筈もなく。
「あ、あれ?」
ジュードは気がつけば、全く前に進まなくなっていた。ふと見ると片足を掴まれている。
そう、このレース、潜水部隊という伏兵が潜んでいたのだ。
しかしジュードの危機に、エアルドフリスも黙ってはいない。
「そのまま一生、陸に上がってくんじゃねえ!!」
怒り声がそのまま形になったような雷撃に撃たれ、海中の伏兵がぷかりと浮かんできた。
「さっさとここを離れるぞ!」
「うん。……ありがとう、エアさん」
どこか嬉しそうなジュードに憮然とした表情を見せつつ、エアルドフリスはユリアンと共にその場を去った。
「見た?」
「ちょっと軍人さんにしては軽そうじゃなあい……?」
Non=Beeの艶やかに輝く唇が微笑むが、知々田は僅かに眉をひそめる。
「でも胸板はステキよ?」
「んもう、Nonちゃんたら! でも間近でしっかり確認しなくちゃ!」
ふたりは恋のハンター、猛然と舟を進ませる。
瞬時に手近の海軍兵の体格などを判別。合格ラインに達した者をエンタングルで捕縛する知々田は、一本釣りの名手と化した。
「きゃーNonちゃんイケメンの筋肉よ! 胸筋も脹脛も凄いわよ! 眼福ね!」
釣り上げた海軍兵を、ドーンと舟に引き上げる。
「やっだちぃちゃん、素敵な筋肉! 手厚く看護してあげなきゃだわぁ」
Non=Beeの手入れの行き届いた指がつつ~っと、白目を向いた男の鎖骨を滑って行った。
「まあ大変、意識がないみたい!! 人工呼吸よ!!」
「ちぃちゃん頑張って! でも他にも救助が必要な人はいないかしら?」
Non=Beeが色っぽい流し目で周囲を見渡す。その目を見た瞬間、さしもの屈強な海軍兵達も可憐な乙女のように打ち震えるのであった。
●
次々と戻ってくる競技者を、待機組が待ち構える。
「結局なんの訓練だったんだよ……」
ジャックはそう言いつつ、密かにテントに合図を送る。中に潜んでいた者が、スケッチブックにペンを走らせた。
「ふふふ……ホットワインだけじゃ、周りのカス商人共と似たり寄ったりだ。俺様はそんな連中とは一味違うぜ!!」
恐るべき商魂。めぼしい物を見つけては、連れてきた画家に水着姿を描かせ、それを売ろうというのだ。
「ポートレイトはコレクターもいるしな、今回は水着姿だ。割かし美男美女が勢ぞろいだからな、人気間違いなしだぜ!」
高笑いのジャックの背後に忍び寄るのは、まりおである。
「なんか良くわかんないけど、あれ犯罪っぽい」
「アイ、マム!!」
「な、なにしやがんだ!!!」
よく訓練された憲兵さん達が、ジャックの周囲を取り囲む。
……結局、モデルさん達にも相応の取り分ということになったが、それでもジャックの懐にはそれなりの金額が入ったという。
万歳丸の大きな肩が波間から上がってくる。
「さすがに死ぬかと思ったぜ……」
昆布を引きずる姿は疲労困憊。
「カッコよかったヨ! おかえりー!」
アルヴィンが兎の浮き輪を抱えたままで駆け寄った。
そこに突然、少し大きな波が寄せてくる。
「ぬお?」
万歳丸が咄嗟にアルヴィンの浮き輪を掴んだ。
「危ない!」
帰還者を救護していたキヅカが、血相を変えて海に入る。
「気をつけなくちゃだめだよ!」
「ワーイ、キヅカ君! 波が速いヨー!」
アルヴィンはキヅカに襟首を掴まれながら、どうにか溺れずに済んだ。
「何だこれ、便利じゃねェか! もう一度勝負だ!!」
兎の浮き輪に掴まる万歳丸の姿は、中々にシュールであった。
「みんなお疲れー! 寒かったでしょ? ほら、あったまって!」
「お疲れ様でした!」
戻った仲間を、葵とルナが笑顔で出迎える。
火の傍に案内し、身体を拭くタオルとくるまる毛布、そして暖かな食べ物を配る。
「お腹がすくと余計に寒くなるからな。しっかり食べるんだよ」
フランは熱いお茶を配りながら、塩焼きの魚をすすめる。
「泳いだ後には塩気が嬉しいですね。いただきます」
メリンダが早速齧りついた。
「ショウガ入りのポトフもあるのじゃ。温まるぞよ」
「すごいわ。足りないものなんてないみたい!」
「……足りないとしたらこれでしょう」
Gacruxが三白眼で迫りつつ、熱燗を差し出した。
「……私の分、とっておいてくださいねっ!」
辛うじて理性で耐えるメリンダ。なぜなら彼女にはまだ仕事があったのだ。
「皆様お疲れさまでした、表彰式に移ります」
制服に着替え、にこやかにアナウンス。終わったら酒宴、そう思えば辛くない。
さて、結果は。
「3位、シバ・ミラージュ様。2位、ウィンス・デイランダール様。そして1位、パトリシア=K=ポラリス様です! チーム優勝は『反逆魂』の皆さんです!」
「えっパティが1位だったの!?」
なんとパトリシアは、目をつぶったまま無我夢中で泳ぎ、そのままゴールしていたのだった。
「反逆魂? そんな名前のチームがあったか?」
他人事のようにウィンスが呟いたが、混成チームには名前がなく、メリンダが適当な名前でエントリーしたのだった。
「優勝チームと入賞者の方には、同盟軍正式採用の毛布を記念品として進呈します」
ごめん。しょぼいとか文句は私に言わないで。
メリンダの目がそう言っていた。
「それから、私から皆様にお土産を。また何かありましたら宜しくお願いします」
だがお辞儀するメリンダを見つめ、キヅカは思ったのだ。
(今後とも、同盟諸氏には是非とも最前線に来てもらおう、そうしよう)
何故ならこの試練を乗り越え、同盟軍人たちはより強くなっているはずなのだから……!
<了>
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