ゲスト
(ka0000)
独身ハンター、脱走するは君にあり?
マスター:奈華里
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/07 19:00
- 完成日
- 2016/02/18 00:02
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「あぁ…またなのか、チュースケ」
ハムスターのチュースケと暮らし始めて、もう何か月経っただろうか。
中堅ハンターのバンデラは今、ある問題に直面している。
籠の中にいるチュースケはその言葉に顔をあげこれと言って悪びれた表情は見せず、くりくりの瞳で彼を見つめ返してくる。だから、彼は怒る気にはなれなかった。しかし、このまま放置するのは非常にまずい。
『少し太ってきてますね…餌のやり過ぎにはくれぐれも注意して下さい』
獣医から受けた注意ごと――彼はそれを忠実に守ろうと、少しだけチュースケにやる餌を減らしている。
けれど、チュースケの体重は減るどころか増えていっているのだ。
「チュースケ…私はお前が心配なのだ」
ケージの出入口の鍵をしっかりとかけ、彼は寝床につく。
が、翌朝ケージに向かうと何故だか戸は開き、頬袋が膨らんだチュースケの姿がある。
「また、やったのか…?」
戸棚に閉まってあった瓶を取り出して中身を確かめる。
すると、昨日とは明らかに減っているではないか。
「ふむ…」
キッチンから見える場所にあるケージ――こう何度も繰り返されれば馬鹿でも判る。
「脱走…しているのだな」
利口なのは良い事なのだが……チュースケ自身の身体の事を考えるとこの辺で対策を打たねばなるまい。
(どうしたものか…あまり警戒をきつくしてストレスを溜められてもいかんし)
ハムスターは我慢する生き物だと聞いた。故に怪我をしていても発見が遅れる事は多々あるとか。
ストレスとなればそれこそ人でも見分けがつかない者も多いのだから、果たしてバンデラに見抜く事が出来るだろうか。答えは残念ながら否――過信は禁物だ。
「とすると、ストレスをかけずに脱走を止めさせる方法か…」
何かあるだろうか。しばし考えてみるが、どうにも皆目見当もつかない。
『ちう?』
そんな彼に気付いてか、チュースケは頬袋の餌の整理の手を止める。
「すまん、チュースケ。不甲斐無い私を許してくれ」
瓶を持ったままバンデラが言う。
『ニャーオ』
そんな折彼の耳に野良猫の声が入って、弱気になりつつあった自分に気付き、首を振る。
(駄目だ駄目だ、弱気になってどうする! もし、脱走を許したままにして、何かの拍子に外に行ってしまったらチュースケは、チュースケは…)
弱肉強食の世界だ。野性を失くしたハムスターの末路など決まっている。
「すまんが、今回だけは心を鬼にするぞ」
バンデラはそう言い、ケージの入り口の部分を紐でぐるぐる巻きに固定する。
だが数日後、
「なんと…」
見るも無残に齧られた紐は床に落ち、チュースケはケロッとした顔で籠の中から彼を見上げていた。
ハムスターのチュースケと暮らし始めて、もう何か月経っただろうか。
中堅ハンターのバンデラは今、ある問題に直面している。
籠の中にいるチュースケはその言葉に顔をあげこれと言って悪びれた表情は見せず、くりくりの瞳で彼を見つめ返してくる。だから、彼は怒る気にはなれなかった。しかし、このまま放置するのは非常にまずい。
『少し太ってきてますね…餌のやり過ぎにはくれぐれも注意して下さい』
獣医から受けた注意ごと――彼はそれを忠実に守ろうと、少しだけチュースケにやる餌を減らしている。
けれど、チュースケの体重は減るどころか増えていっているのだ。
「チュースケ…私はお前が心配なのだ」
ケージの出入口の鍵をしっかりとかけ、彼は寝床につく。
が、翌朝ケージに向かうと何故だか戸は開き、頬袋が膨らんだチュースケの姿がある。
「また、やったのか…?」
戸棚に閉まってあった瓶を取り出して中身を確かめる。
すると、昨日とは明らかに減っているではないか。
「ふむ…」
キッチンから見える場所にあるケージ――こう何度も繰り返されれば馬鹿でも判る。
「脱走…しているのだな」
利口なのは良い事なのだが……チュースケ自身の身体の事を考えるとこの辺で対策を打たねばなるまい。
(どうしたものか…あまり警戒をきつくしてストレスを溜められてもいかんし)
ハムスターは我慢する生き物だと聞いた。故に怪我をしていても発見が遅れる事は多々あるとか。
ストレスとなればそれこそ人でも見分けがつかない者も多いのだから、果たしてバンデラに見抜く事が出来るだろうか。答えは残念ながら否――過信は禁物だ。
「とすると、ストレスをかけずに脱走を止めさせる方法か…」
何かあるだろうか。しばし考えてみるが、どうにも皆目見当もつかない。
『ちう?』
そんな彼に気付いてか、チュースケは頬袋の餌の整理の手を止める。
「すまん、チュースケ。不甲斐無い私を許してくれ」
瓶を持ったままバンデラが言う。
『ニャーオ』
そんな折彼の耳に野良猫の声が入って、弱気になりつつあった自分に気付き、首を振る。
(駄目だ駄目だ、弱気になってどうする! もし、脱走を許したままにして、何かの拍子に外に行ってしまったらチュースケは、チュースケは…)
弱肉強食の世界だ。野性を失くしたハムスターの末路など決まっている。
「すまんが、今回だけは心を鬼にするぞ」
バンデラはそう言い、ケージの入り口の部分を紐でぐるぐる巻きに固定する。
だが数日後、
「なんと…」
見るも無残に齧られた紐は床に落ち、チュースケはケロッとした顔で籠の中から彼を見上げていた。
リプレイ本文
●観察
『ちぅ?』
チュースケの家に現れた六人の訪問者――
その姿に困惑していたチュースケであったが、数日もすればチュースケの性格も手伝って一部の者達とは打ち解け始める。チュースケはハムスターには珍しく好奇心旺盛なようだった。でなければ、バンデラがペットショップを訪れた折に彼の頭へと駆け上ったりはしないだろう。それでも慣れるまで数日を要して、その間ハンターらは各々の観点からチュースケ脱走の原因を推理する。
「本当、ハムスターって頭が良いのね~」
ここ二日の行動を見ていた小紅(ka5734)が感心したように言う。
「チュースケは特別かもしれないです。と言うかいい意味で変わってるかも?」
そう言うのはマーオ(ka5475)だ。初日にやって来た折、カラカラと小刻みないい音をさせていたからてっきり回し車で遊んでいるのかと思いきや、内側には入らずケージの隅に背中を預けて外周をせっせと小さな手足で回していたのだから吃驚だ。
「でもそれが個性というもの…とはいえ困ったハムスターちゃんに変わりはないですし、どうにかしないと」
観察の結果、チュースケは真夜中にケージを抜け出す。
元々ハムスターは夜行性であるから当たり前ではあるが、バンデラが寝室に入ってからであるから、何とも確信犯に近い。転落防止の為低く作られたケージの隅にあるスライド式の入り口にまずは鼻から滑り込ませて、後はその勢いで強引にこじ開けては部屋の中へと脱出してゆく。
「でもその時怖がる素振りも見せていなかったし、朝になったら帰ってくるの。だから」
「部屋全体が彼の縄張りになってる?」
床に這い蹲る姿勢で終始にチュースケの観察をしていたディーナ・フェルミ(ka5843)に代って、マーオが付け加える。
「すると、ケージの中だけでは満足できていないという事か?」
その意見にバンデラが問う。
「多分、それは違うと思うの。私の考えからすると…」
ほわほわと昨日の事を思い出す彼女――時間は少し遡る。
彼女はハムスターについて初心者だった。
だから来る前に書店に寄って環境や飼育の仕方を勉強し、ここへやって来た。
だが、概ねバンデラのやり方に駄目な点は見つからない。
「巣箱よし、おトイレよし、回し車もあるみたいなの」
床材はハムスターに適したウッドチップ、水も毎日換えていると聞く。それに加えて、多少神経質かと思えるくらいの清潔さを維持し、見た感じは快適そのものだったから他の皆も首を傾げたものだ。
「チュースケくんは一体何が嫌だったのかな」
じぃーと彼を見つめて、彼女は視点を極力チュースケのものに寄せ考える。
「ディーナさん?」
その行為にティアが困惑した。しかし、彼女は至って真剣にその行為を続ける。
「こういう時はチュースケくんの気持ちになって考えてみるの。だから許して欲しいの」
さながら床を滑るモップの様に――汚れが服につくのも構わず、わさわさと這い回る。
そして気付いたのはケージから見える景色の広さ。直置きのケージから見渡せるリビングとキッチン。少し手を伸ばしとび出せたなら、ハムスターには広大な世界が広がっている。その目に映るものすべてが既に彼の世界となっているとしたら……入り口の針金など些細な障害に過ぎない。危険と隣り合わせだと判っていたとしても、無限に広がるその世界に興味を覚えない筈がない。ましてや、おやつの入った瓶を見てしまったら、食い意地も先行してとび出すきっかけとなっても無理はない。
「やっぱりこの場所、魅力的過ぎるの」
彼女がチュースケになって出した答え。それはストレスからと言うよりも好奇心と食い意地によるものだ。
「うーん、広さという点では俺も同意だな。一般的なケージであってもこれだけ周囲が見えていれば、もっと広い世界に興味を持つ事も考えられるだろうし」
ザレム・アズール(ka0878)が籠のチュースケをのんびりと眺めながら意見する。
「そうね。見えるのはきっと問題よね」
そこで小紅が籠と棚の位置を比較して、気付いた事を指摘する。
ちなみにケージのある場所はリビングの隅だった。窓側だと気温差がある事からそことは反対側に置いているが、そのせいでキッチンには近くなりおやつを保存している棚が彼から見えてしまう結果となっている。
「いやしかし、流石に見えたからと言って…」
「でも、現に餌は減っているんですよね?」
間髪置かず返されたティア・ユスティース(ka5635)の言葉にバンデラが言いよどむ。
臆病な生き物であるから視界は重要だ。くまなく視線を滑らせ辺りを警戒し、餌の有りかを見れば覚えてしまってもおかしくない。
「中身が見えないような瓶を使う事も必要だと思います」
チュースケの為、大好きなお菓子を我慢している木ノ下 道也(ka0843)が言う。
と言うのも彼らの滞在初日の事。彼がお菓子を食べつつ入ると同時にチュースケの目は彼に釘付け。欲しいチュースケとあげれない道也の我慢比べが勃発し、彼のつぶらな目力におされてあげそうになった経緯による。
「えと、ほら僕もついつい目に付いちゃうと食べたくなっちゃうんで…」
体重を気にしつつも食べてしまう。そんな葛藤を抱いている彼であるから、その言葉は誰よりも説得力がある。
「後、見つけたとしてもハムスターには開ける事が出来ない形状の蓋ものにするといいかもしれません」
今使っているのはジャムが入っていた透明の瓶で中身は丸見え。蓋の部分も少し捻れば開くからその様子を見て学習してしまったものと推測される。
「成程、そうとなれば早速買いに行かないとな」
バンデラはティアの意見を聞き、買い出しのメモを作り始める。
「だったら、この資材も頼む。ケージを広くする事で少しは改善されるかもしれないからな。俺が作ってみるよ」
皆の意見を聞いてどうせならとザレムが袖をまくり、持ち込んだ道具を手に取る。
「それはいい考えですね。僕も手伝います…ってその前にあれを片付けておかないと」
マーオはそう言って、流し台の下の扉を開き、そこにあるナッツを片付ける。
「ん…それは」
言わずものがな。チュースケの隠しおやつに他ならない。
「こんな所に置いておくとカビが来ちゃうかもですし、チュースケごめんね」
マーオは心を鬼にして、それを回収する。
「あの、けど脱走に対してはどうするのですか? 手っ取り早い方法としては南京錠が良いと思いますが」
ケージの変更で収まらなった時の事を考えて、皆を代表しティアが進言する。
だが、その方法は余り良いとは言い切れなかった。なぜなら南京錠は硬く、チュースケが出ようとして齧ったらどうなるか…予想するのは簡単だ。
「すまない。針金のケージを使っている私が言えた口ではないのだが…それは却下だ」
折角の提案を無碍にするのが忍びなくて、バンデラの声のトーンを少し落ちる。
「いえ、気にする事ないです。飼い主だったら当たり前の事ですよね」
その意見に賛成票を出していた道也他数名が恐縮する。
「大丈夫。きっと新しいお家になったら気に入ってくれるの。そうなれば勝手にお外には行かないと思うの。それでも行くようなら、毎日少しの時間ケージから出して遊んであげればいいの!」
俄か知識ではあるが、ディーナは皆を元気付けるように言う。
動物は欲望に忠実…彼女の言い分は強ち間違いではない。
「最悪出るようなら、チュースケには悪いが辛いものを出先に置いておいて外のものはまずいと覚えさせてやればいいだろう」
彼女に続いて、ザレムが新たな案を提案する。
「そうですね。覚えさせるのが一番ですね」
「あ、でも万一に備えて棚に鍵をつけるというのは有りですよね?」
ティアに加えて道也も言う。
「そうね。後新居が出来たらケージの置き場所をお引越ししたらどうかしら? 寝室…こっそり覗かせて貰ったんだけど、ベッドとクローゼットしかないみたいだし…」
更にしれっと小紅が意見を付け加える。
「うむ、わかった。それに従うとしよう」
バンデラ達が真面目に意見を交わす中、ケージのチュースケはといえば呑気にエサを一齧り。
そんな彼を見つけて小紅のひと言。
「チュースケ、食べてばかりいないの。これはアンタの為に皆で知恵を絞ってるのよ」
けれどその意味が分かる筈もなく、彼は首を傾げるばかりだった。
●実行
買い出しとケージ作り、そして大掃除。
ディーナが今のケージの大掃除をかって出たから、残りの三人はその間のチュースケの御相手役を担当する。そこで彼らはチュースケの気分転換も兼ねて、別の籠に移すのではなく部屋の一部に簡易的な柵を作って、遊んであげる事にした。けれど、やはり突然放たれてもすぐには動こうとしない。
「変ですね…呼んでも来ません」
「チュースケ君、反抗期かな?」
ティアと道也が固まった彼を見つめながら呟く。が小紅はそれを気にせず、自然体を保つ。
そんな彼をチュースケは気に入ったようだった。いや、ただ単に『静かだから害はない』と判断したのかもしれない。理由はどうあれ、彼は小紅に歩み寄ると手の平に乗り、更には肩にまで駆け上がってゆく。
「フフッ、そんなにそこが気に入ったの? 辺りがよく見えるからかしら」
指の腹で優しく撫でながら彼が言う。
「はうぅ…僕の方がきっとおいしいものの匂いがする筈なのになぁ」
そう気を落とすのは道也だ。それでもチュースケのストレスが除けるならばそれでいい。
「けど、チュースケはいいなぁ。バンデラさんみたいな頼りになる人がいて…」
無意識に本音を零し、道也がチュースケを見つめる。
「そうですか? もう少ししっかりして頂かないと親ばか気味では困ると思いますが」
そんな彼に気付かずにティアは少し厳しい一言。けれど、それはチュースケ達を思うからこそだ。
ザレムから預かったナッツをチュースケに差し出し、とてとてと走ってくる姿に母性本能が擽られるも自制心を保つ。
一方そんな三人を遠目に、ザレムは密かに堪えていた。
(まだだ…これもチュースケの為……撫でに行きたいが、我慢しなくてはッ)
小さい身体でせかせか動くチュースケの可愛さに心を奪われながらも、やらなくてはならない事がある。
鍛冶と機械修理の技能を活かして、彼は持参して来た針金の加工に集中する。
正直な所を言えば針金も余りよろしくないが、かと言って自然素材を使うと齧って再び脱走する可能性もある為、一部やむ負えないと判断した。それに自作監修する事で極力使用を抑える事が出来るから市販のものよりは断然マシだ。
「えーと…行きたいのなら、行ったらどうです?」
視線を行ったり来たりさせているザレムにマーオが言う。だがザレムは『これもアイツの為だから』と首を振る。
きっと出来た暁には一緒に和んでやるとか思ってるんだろうと思いつつも、それを尋ねるのは野暮だろう。
「ザレムさん、本当に彼の事が好きなんですね」
代わりにそう問えば、帰ってくるのはあぁやっぱり。
「勿論だとも。だってあの仕草、可愛いじゃないか。一日中でも見ていられる…」
マーオも動物は好きであるから判らないでもない。
しかし、作業中の油断は禁物。視線が外れると、ついつい作業が疎かになって…。
「あ、それ曲げ過ぎじゃ」
「……」
ザレムとマーオのケージ制作はまだまだ時間がかかりそうであった。
さて、御掃除係をかってでたディーナは現在ケージの洗浄中である。
「あぅ…冷たいけど、チュースケくんのためなのぉ」
飛び跳ねる水飛沫と格闘しつつ、彼女は真剣にケージ内の備品を洗う。
水入れに回し車に巣箱…やる事は多いが、闘うよりは断然ましだ。人や物を癒す事を一番に考えているから、こういう仕事は楽しくさえある。
「少しでもケージの中がステキな所だと思って貰えれば嬉しいの」
彼女は真心込めて丁寧に。そうして次は床材をとなった時、彼女は暫し手が止まる。
(取り換えるのは簡単だけど、全部換えちゃったら新しい場所で吃驚しちゃうかも…)
今作られている新たなケージは今使っているものよりは二回り大きく、当然の事ながら彼の匂いは全くついていない。部屋全体を縄張りとしているチュースケであるが、それでもケージの中に入れられればそこが生活の拠点となる訳で自分の匂いがしないとさぞ動揺する事だろう。
(始めのうちは汚れものだけ取り除いておいて、綺麗な所は少しだけケージに戻しておくのがいいかも…)
そう考えて彼女は捨てかけたチップをより分け始める。
そんなこんなで夕方を過ぎる頃には新たな資材を得てチュースケの新居は完成を迎える。
●新居
「おお、これは素晴らしい」
素人が作ったとは思えない見事なケージ――齧りにくい素材で出来た底板と底を囲う木材は特殊なものだ。周りには針金を網目状に巡らせ、その上には薄い金属製の所謂蓋。クッキー缶等に使われるような金属を用いて、ケージの天井部にすっぽりはめる形をとっているから、チュースケが周囲をよじ登ったとしても押し上げる事は出来ないだろう。
「あぁ、すまんな。こんな良いものを作って貰って」
バンデラが感激し、瞳を潤ませながら言う。
「このタイプの天井なら掃除もしやすいだろうしな。チュースケの為ならお安い御用だ」
そういうザレムも正直自分の出来に驚いていたり。初めてながらうまくいったと思うし、何より中に入って遊ぶチュースケの姿を思い浮かべるだけでにやにやが止まらない。
「では、早速入れてみましょうか?」
元あった床材に新しいのを足して、その他の餌皿やトイレ、回し車や巣箱を戻し入れる。
加えて追加したのは齧り木にもなるハムタワーと滑車やトンネル兼滑り台などの遊具の数々。
「さぁ、いきなよ。チュースケ」
小紅が彼を捕まえて、中にそっと放す。すると彼は暫くキョロキョロしていたが、匂いに気付くと一目散に自分の巣箱へ。そこで暫く様子を見た後チップに潜ってみたり、タワーに上ってみたりと自由な行動をし始める。
「あぁ、やっぱり可愛いなぁ…」
顔を綻ばせながらザレムが言う。
「このケージなら脱走の心配はないと思いますが、一応棚の鍵は忘れないで下さいね」
そう言うのはティアだ。
「これで解決、かな? 後は様子を見てみないとですし…」
マーオが言う。
「きっと大丈夫なの。だってこんなに玩具入れて貰ったんだもの…新しい楽しみ見つけた筈なの♪」
それにはまるで自分の事のようにディーナがそう答える。
「もし何かあればまた言ってくれればいいさ。なぁ、チュースケ」
ザレムがそう言うと、甘さを控えて作られたクッキーを一かけ、チュースケに与える。
そんな彼に駆け寄るチュースケの姿は愛らしく、彼らを和ませる。
そして寝室に新たなケージを移して――チュースケはその後は脱走をする事はなくなったそうな。
『ちぅ?』
チュースケの家に現れた六人の訪問者――
その姿に困惑していたチュースケであったが、数日もすればチュースケの性格も手伝って一部の者達とは打ち解け始める。チュースケはハムスターには珍しく好奇心旺盛なようだった。でなければ、バンデラがペットショップを訪れた折に彼の頭へと駆け上ったりはしないだろう。それでも慣れるまで数日を要して、その間ハンターらは各々の観点からチュースケ脱走の原因を推理する。
「本当、ハムスターって頭が良いのね~」
ここ二日の行動を見ていた小紅(ka5734)が感心したように言う。
「チュースケは特別かもしれないです。と言うかいい意味で変わってるかも?」
そう言うのはマーオ(ka5475)だ。初日にやって来た折、カラカラと小刻みないい音をさせていたからてっきり回し車で遊んでいるのかと思いきや、内側には入らずケージの隅に背中を預けて外周をせっせと小さな手足で回していたのだから吃驚だ。
「でもそれが個性というもの…とはいえ困ったハムスターちゃんに変わりはないですし、どうにかしないと」
観察の結果、チュースケは真夜中にケージを抜け出す。
元々ハムスターは夜行性であるから当たり前ではあるが、バンデラが寝室に入ってからであるから、何とも確信犯に近い。転落防止の為低く作られたケージの隅にあるスライド式の入り口にまずは鼻から滑り込ませて、後はその勢いで強引にこじ開けては部屋の中へと脱出してゆく。
「でもその時怖がる素振りも見せていなかったし、朝になったら帰ってくるの。だから」
「部屋全体が彼の縄張りになってる?」
床に這い蹲る姿勢で終始にチュースケの観察をしていたディーナ・フェルミ(ka5843)に代って、マーオが付け加える。
「すると、ケージの中だけでは満足できていないという事か?」
その意見にバンデラが問う。
「多分、それは違うと思うの。私の考えからすると…」
ほわほわと昨日の事を思い出す彼女――時間は少し遡る。
彼女はハムスターについて初心者だった。
だから来る前に書店に寄って環境や飼育の仕方を勉強し、ここへやって来た。
だが、概ねバンデラのやり方に駄目な点は見つからない。
「巣箱よし、おトイレよし、回し車もあるみたいなの」
床材はハムスターに適したウッドチップ、水も毎日換えていると聞く。それに加えて、多少神経質かと思えるくらいの清潔さを維持し、見た感じは快適そのものだったから他の皆も首を傾げたものだ。
「チュースケくんは一体何が嫌だったのかな」
じぃーと彼を見つめて、彼女は視点を極力チュースケのものに寄せ考える。
「ディーナさん?」
その行為にティアが困惑した。しかし、彼女は至って真剣にその行為を続ける。
「こういう時はチュースケくんの気持ちになって考えてみるの。だから許して欲しいの」
さながら床を滑るモップの様に――汚れが服につくのも構わず、わさわさと這い回る。
そして気付いたのはケージから見える景色の広さ。直置きのケージから見渡せるリビングとキッチン。少し手を伸ばしとび出せたなら、ハムスターには広大な世界が広がっている。その目に映るものすべてが既に彼の世界となっているとしたら……入り口の針金など些細な障害に過ぎない。危険と隣り合わせだと判っていたとしても、無限に広がるその世界に興味を覚えない筈がない。ましてや、おやつの入った瓶を見てしまったら、食い意地も先行してとび出すきっかけとなっても無理はない。
「やっぱりこの場所、魅力的過ぎるの」
彼女がチュースケになって出した答え。それはストレスからと言うよりも好奇心と食い意地によるものだ。
「うーん、広さという点では俺も同意だな。一般的なケージであってもこれだけ周囲が見えていれば、もっと広い世界に興味を持つ事も考えられるだろうし」
ザレム・アズール(ka0878)が籠のチュースケをのんびりと眺めながら意見する。
「そうね。見えるのはきっと問題よね」
そこで小紅が籠と棚の位置を比較して、気付いた事を指摘する。
ちなみにケージのある場所はリビングの隅だった。窓側だと気温差がある事からそことは反対側に置いているが、そのせいでキッチンには近くなりおやつを保存している棚が彼から見えてしまう結果となっている。
「いやしかし、流石に見えたからと言って…」
「でも、現に餌は減っているんですよね?」
間髪置かず返されたティア・ユスティース(ka5635)の言葉にバンデラが言いよどむ。
臆病な生き物であるから視界は重要だ。くまなく視線を滑らせ辺りを警戒し、餌の有りかを見れば覚えてしまってもおかしくない。
「中身が見えないような瓶を使う事も必要だと思います」
チュースケの為、大好きなお菓子を我慢している木ノ下 道也(ka0843)が言う。
と言うのも彼らの滞在初日の事。彼がお菓子を食べつつ入ると同時にチュースケの目は彼に釘付け。欲しいチュースケとあげれない道也の我慢比べが勃発し、彼のつぶらな目力におされてあげそうになった経緯による。
「えと、ほら僕もついつい目に付いちゃうと食べたくなっちゃうんで…」
体重を気にしつつも食べてしまう。そんな葛藤を抱いている彼であるから、その言葉は誰よりも説得力がある。
「後、見つけたとしてもハムスターには開ける事が出来ない形状の蓋ものにするといいかもしれません」
今使っているのはジャムが入っていた透明の瓶で中身は丸見え。蓋の部分も少し捻れば開くからその様子を見て学習してしまったものと推測される。
「成程、そうとなれば早速買いに行かないとな」
バンデラはティアの意見を聞き、買い出しのメモを作り始める。
「だったら、この資材も頼む。ケージを広くする事で少しは改善されるかもしれないからな。俺が作ってみるよ」
皆の意見を聞いてどうせならとザレムが袖をまくり、持ち込んだ道具を手に取る。
「それはいい考えですね。僕も手伝います…ってその前にあれを片付けておかないと」
マーオはそう言って、流し台の下の扉を開き、そこにあるナッツを片付ける。
「ん…それは」
言わずものがな。チュースケの隠しおやつに他ならない。
「こんな所に置いておくとカビが来ちゃうかもですし、チュースケごめんね」
マーオは心を鬼にして、それを回収する。
「あの、けど脱走に対してはどうするのですか? 手っ取り早い方法としては南京錠が良いと思いますが」
ケージの変更で収まらなった時の事を考えて、皆を代表しティアが進言する。
だが、その方法は余り良いとは言い切れなかった。なぜなら南京錠は硬く、チュースケが出ようとして齧ったらどうなるか…予想するのは簡単だ。
「すまない。針金のケージを使っている私が言えた口ではないのだが…それは却下だ」
折角の提案を無碍にするのが忍びなくて、バンデラの声のトーンを少し落ちる。
「いえ、気にする事ないです。飼い主だったら当たり前の事ですよね」
その意見に賛成票を出していた道也他数名が恐縮する。
「大丈夫。きっと新しいお家になったら気に入ってくれるの。そうなれば勝手にお外には行かないと思うの。それでも行くようなら、毎日少しの時間ケージから出して遊んであげればいいの!」
俄か知識ではあるが、ディーナは皆を元気付けるように言う。
動物は欲望に忠実…彼女の言い分は強ち間違いではない。
「最悪出るようなら、チュースケには悪いが辛いものを出先に置いておいて外のものはまずいと覚えさせてやればいいだろう」
彼女に続いて、ザレムが新たな案を提案する。
「そうですね。覚えさせるのが一番ですね」
「あ、でも万一に備えて棚に鍵をつけるというのは有りですよね?」
ティアに加えて道也も言う。
「そうね。後新居が出来たらケージの置き場所をお引越ししたらどうかしら? 寝室…こっそり覗かせて貰ったんだけど、ベッドとクローゼットしかないみたいだし…」
更にしれっと小紅が意見を付け加える。
「うむ、わかった。それに従うとしよう」
バンデラ達が真面目に意見を交わす中、ケージのチュースケはといえば呑気にエサを一齧り。
そんな彼を見つけて小紅のひと言。
「チュースケ、食べてばかりいないの。これはアンタの為に皆で知恵を絞ってるのよ」
けれどその意味が分かる筈もなく、彼は首を傾げるばかりだった。
●実行
買い出しとケージ作り、そして大掃除。
ディーナが今のケージの大掃除をかって出たから、残りの三人はその間のチュースケの御相手役を担当する。そこで彼らはチュースケの気分転換も兼ねて、別の籠に移すのではなく部屋の一部に簡易的な柵を作って、遊んであげる事にした。けれど、やはり突然放たれてもすぐには動こうとしない。
「変ですね…呼んでも来ません」
「チュースケ君、反抗期かな?」
ティアと道也が固まった彼を見つめながら呟く。が小紅はそれを気にせず、自然体を保つ。
そんな彼をチュースケは気に入ったようだった。いや、ただ単に『静かだから害はない』と判断したのかもしれない。理由はどうあれ、彼は小紅に歩み寄ると手の平に乗り、更には肩にまで駆け上がってゆく。
「フフッ、そんなにそこが気に入ったの? 辺りがよく見えるからかしら」
指の腹で優しく撫でながら彼が言う。
「はうぅ…僕の方がきっとおいしいものの匂いがする筈なのになぁ」
そう気を落とすのは道也だ。それでもチュースケのストレスが除けるならばそれでいい。
「けど、チュースケはいいなぁ。バンデラさんみたいな頼りになる人がいて…」
無意識に本音を零し、道也がチュースケを見つめる。
「そうですか? もう少ししっかりして頂かないと親ばか気味では困ると思いますが」
そんな彼に気付かずにティアは少し厳しい一言。けれど、それはチュースケ達を思うからこそだ。
ザレムから預かったナッツをチュースケに差し出し、とてとてと走ってくる姿に母性本能が擽られるも自制心を保つ。
一方そんな三人を遠目に、ザレムは密かに堪えていた。
(まだだ…これもチュースケの為……撫でに行きたいが、我慢しなくてはッ)
小さい身体でせかせか動くチュースケの可愛さに心を奪われながらも、やらなくてはならない事がある。
鍛冶と機械修理の技能を活かして、彼は持参して来た針金の加工に集中する。
正直な所を言えば針金も余りよろしくないが、かと言って自然素材を使うと齧って再び脱走する可能性もある為、一部やむ負えないと判断した。それに自作監修する事で極力使用を抑える事が出来るから市販のものよりは断然マシだ。
「えーと…行きたいのなら、行ったらどうです?」
視線を行ったり来たりさせているザレムにマーオが言う。だがザレムは『これもアイツの為だから』と首を振る。
きっと出来た暁には一緒に和んでやるとか思ってるんだろうと思いつつも、それを尋ねるのは野暮だろう。
「ザレムさん、本当に彼の事が好きなんですね」
代わりにそう問えば、帰ってくるのはあぁやっぱり。
「勿論だとも。だってあの仕草、可愛いじゃないか。一日中でも見ていられる…」
マーオも動物は好きであるから判らないでもない。
しかし、作業中の油断は禁物。視線が外れると、ついつい作業が疎かになって…。
「あ、それ曲げ過ぎじゃ」
「……」
ザレムとマーオのケージ制作はまだまだ時間がかかりそうであった。
さて、御掃除係をかってでたディーナは現在ケージの洗浄中である。
「あぅ…冷たいけど、チュースケくんのためなのぉ」
飛び跳ねる水飛沫と格闘しつつ、彼女は真剣にケージ内の備品を洗う。
水入れに回し車に巣箱…やる事は多いが、闘うよりは断然ましだ。人や物を癒す事を一番に考えているから、こういう仕事は楽しくさえある。
「少しでもケージの中がステキな所だと思って貰えれば嬉しいの」
彼女は真心込めて丁寧に。そうして次は床材をとなった時、彼女は暫し手が止まる。
(取り換えるのは簡単だけど、全部換えちゃったら新しい場所で吃驚しちゃうかも…)
今作られている新たなケージは今使っているものよりは二回り大きく、当然の事ながら彼の匂いは全くついていない。部屋全体を縄張りとしているチュースケであるが、それでもケージの中に入れられればそこが生活の拠点となる訳で自分の匂いがしないとさぞ動揺する事だろう。
(始めのうちは汚れものだけ取り除いておいて、綺麗な所は少しだけケージに戻しておくのがいいかも…)
そう考えて彼女は捨てかけたチップをより分け始める。
そんなこんなで夕方を過ぎる頃には新たな資材を得てチュースケの新居は完成を迎える。
●新居
「おお、これは素晴らしい」
素人が作ったとは思えない見事なケージ――齧りにくい素材で出来た底板と底を囲う木材は特殊なものだ。周りには針金を網目状に巡らせ、その上には薄い金属製の所謂蓋。クッキー缶等に使われるような金属を用いて、ケージの天井部にすっぽりはめる形をとっているから、チュースケが周囲をよじ登ったとしても押し上げる事は出来ないだろう。
「あぁ、すまんな。こんな良いものを作って貰って」
バンデラが感激し、瞳を潤ませながら言う。
「このタイプの天井なら掃除もしやすいだろうしな。チュースケの為ならお安い御用だ」
そういうザレムも正直自分の出来に驚いていたり。初めてながらうまくいったと思うし、何より中に入って遊ぶチュースケの姿を思い浮かべるだけでにやにやが止まらない。
「では、早速入れてみましょうか?」
元あった床材に新しいのを足して、その他の餌皿やトイレ、回し車や巣箱を戻し入れる。
加えて追加したのは齧り木にもなるハムタワーと滑車やトンネル兼滑り台などの遊具の数々。
「さぁ、いきなよ。チュースケ」
小紅が彼を捕まえて、中にそっと放す。すると彼は暫くキョロキョロしていたが、匂いに気付くと一目散に自分の巣箱へ。そこで暫く様子を見た後チップに潜ってみたり、タワーに上ってみたりと自由な行動をし始める。
「あぁ、やっぱり可愛いなぁ…」
顔を綻ばせながらザレムが言う。
「このケージなら脱走の心配はないと思いますが、一応棚の鍵は忘れないで下さいね」
そう言うのはティアだ。
「これで解決、かな? 後は様子を見てみないとですし…」
マーオが言う。
「きっと大丈夫なの。だってこんなに玩具入れて貰ったんだもの…新しい楽しみ見つけた筈なの♪」
それにはまるで自分の事のようにディーナがそう答える。
「もし何かあればまた言ってくれればいいさ。なぁ、チュースケ」
ザレムがそう言うと、甘さを控えて作られたクッキーを一かけ、チュースケに与える。
そんな彼に駆け寄るチュースケの姿は愛らしく、彼らを和ませる。
そして寝室に新たなケージを移して――チュースケはその後は脱走をする事はなくなったそうな。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/06 13:00:40 |
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チュースケの脱走防止策検討会 ティア・ユスティース(ka5635) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/02/07 05:58:18 |