ゲスト
(ka0000)
珈琲サロンとぱぁずと誕生祝
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/08 07:30
- 完成日
- 2016/02/16 01:00
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
蒸気工場都市フマーレ、その商業区の一角に常連で賑わう喫茶店、珈琲サロンとぱぁずが佇んでいる。
老齢の店長が隠居を宣言してから1年と少し、かつて看板娘だった孫娘のユリアが今では立派に店長代理を務めている。
ランチとティータイムを終えた店は静かで、カウンターに来客は1人。
工業区に済む職人で、最近この店を知って時折通っている。若くコーヒー好きの職人はユリアとも店員のローレンツとも気が合うらしく、空いた時間を見計らった様に訪ねてくる。
その職人が今日は自慢げにオルゴールを持参してきた。
カウンターで開く箱形のオルゴール、耳を澄ますとユリアには聞き覚えの無いメロディが流れてきた。
「――妻が、聞いていた子守歌らしいんだ。義父がリアルブルーの人だったらしくてね」
職人の妻はここから馬車で一日かかる極彩色の街ヴァリオスの出身で、父親は転移者のハンターで幼い頃に殉職していた。
見習いを終えたばかりの若い職人の工房へ籠もりがちな不規則な生活に、妻は身重の身体では伴えず、実家に帰っていた。
「春に、店を持てるようになったんで……やっと迎えに行けますよ」
カップを持つ傷だらけの手に彼の努力が覗える。
子供が生まれたと言う報せを先月受け取った。女の子だという。急いで作ったオルゴールは、妻がよく歌っていたリアルブルーの子守歌だ。
馬車の揺れはオルゴールには良くない、かといって、徒歩で街道を越えるのは難しいだろうから。
「ここでは、ハンターに依頼を通して貰えるんだろう?」
職人の言葉にユリアはぱちくりと目を瞠った。
奥の広いテーブルには、これまでの依頼の相談に使った地図がピンを刺したままで置かれているし、コルクボードには謝礼の手紙も飾ってある。
この店に来る以前、ユリアもハンターの助けを借りたことが有り、店で相談を受ける度にハンターオフィスへの依頼を進めていたら。
「いつの間にかそうなっていただけ。私は何もしていないわ」
とぱぁずを通じてハンターへの依頼が届けられた。
ヴァリオスまで徒歩で、大切なプレゼントを運びたい職人より。
●×××
相談にテーブルを使って貰うのは構わないからと、集合を待ちながらクッキーを焼き、ローレンツがコーヒーを煎れる。
ふと目を逸らしていた間に来客があったらしく、カウンターには華やかな和装に、黒髪を結い上げて簪を揺らし、頬にガーゼを貼った女性が掛けていた。
硝子玉の様な目でユリアを見詰めるとうっそりと微笑んだ。
「久しぶりね、ユリア」
「あら、どうしたの、怪我?」
「そう。苛められたの酷いでしょ……ねえ、ユリア、貴女にも会いたい人っているんじゃないかしら?」
小さな細い手がカウンターの奥に飾ったゴーグルを指す。
ひび割れたゴーグルは、海で逝った夫の形見。
「私ね、ある方に仕えていて……私が仕えるくらいだから、すごい方なんだけど……その方ね、会いたい人に会わせてくれる、すごい力を持っているの。ねえ、ユリア、一緒に来てみない?」
ユリアはゴーグルを手にとって歪んだフレームを、ひび割れたレンズを撫でる。寂しげに、愛おしげに。
「やめておくわ」
ゴーグルを置いて、ユリアが笑った。
「そう、残念。……また来るわ。ね、ユリア、私たち、お友達よね?」
「ええ、勿論」
硝子玉の様な目でうっそりと笑み、しゃん、と草履の鈴を鳴らして去っていった。
●
職人は旅支度を調えて、すぐに帰って来るけれど、と笑いながら出発前のコーヒーを飲む。
今度は妻と娘も連れて来たいな。
楽しみね、と賑わい始めた店のテーブルへ、コーヒーを、ケーキを運びながらユリアが振り返った。
そして、ハンター達と合流した職人が街を発ち、いつもと同じように店を常連の愉しげな談笑とコーヒーの香りが満たす。
日が沈み夜も更けて、ローレンツも帰途に就いた頃。
ユリアは寝起きしている店の2階で、クローゼットから1枚のドレスを取り出した。
ピンクのAライン、小花レースの丸襟と、裾にもフリルとレースをあしらうそれ。似合うと言ってくれた人はもういないけれど、捨てられなくて。
「……会いたい人に、か……」
暫く眺めたドレスをクローゼットに仕舞い込んでベッドに潜ると、旅の無事を祈りながら目を閉じた。
祈りは届かなかったのか、翌朝に届けられた新聞には、昨日、職人がハンターと出発した日から、ヴァリオスへの街道にゴブリンの群が発生している記事が載っていた。
蒸気工場都市フマーレ、その商業区の一角に常連で賑わう喫茶店、珈琲サロンとぱぁずが佇んでいる。
老齢の店長が隠居を宣言してから1年と少し、かつて看板娘だった孫娘のユリアが今では立派に店長代理を務めている。
ランチとティータイムを終えた店は静かで、カウンターに来客は1人。
工業区に済む職人で、最近この店を知って時折通っている。若くコーヒー好きの職人はユリアとも店員のローレンツとも気が合うらしく、空いた時間を見計らった様に訪ねてくる。
その職人が今日は自慢げにオルゴールを持参してきた。
カウンターで開く箱形のオルゴール、耳を澄ますとユリアには聞き覚えの無いメロディが流れてきた。
「――妻が、聞いていた子守歌らしいんだ。義父がリアルブルーの人だったらしくてね」
職人の妻はここから馬車で一日かかる極彩色の街ヴァリオスの出身で、父親は転移者のハンターで幼い頃に殉職していた。
見習いを終えたばかりの若い職人の工房へ籠もりがちな不規則な生活に、妻は身重の身体では伴えず、実家に帰っていた。
「春に、店を持てるようになったんで……やっと迎えに行けますよ」
カップを持つ傷だらけの手に彼の努力が覗える。
子供が生まれたと言う報せを先月受け取った。女の子だという。急いで作ったオルゴールは、妻がよく歌っていたリアルブルーの子守歌だ。
馬車の揺れはオルゴールには良くない、かといって、徒歩で街道を越えるのは難しいだろうから。
「ここでは、ハンターに依頼を通して貰えるんだろう?」
職人の言葉にユリアはぱちくりと目を瞠った。
奥の広いテーブルには、これまでの依頼の相談に使った地図がピンを刺したままで置かれているし、コルクボードには謝礼の手紙も飾ってある。
この店に来る以前、ユリアもハンターの助けを借りたことが有り、店で相談を受ける度にハンターオフィスへの依頼を進めていたら。
「いつの間にかそうなっていただけ。私は何もしていないわ」
とぱぁずを通じてハンターへの依頼が届けられた。
ヴァリオスまで徒歩で、大切なプレゼントを運びたい職人より。
●×××
相談にテーブルを使って貰うのは構わないからと、集合を待ちながらクッキーを焼き、ローレンツがコーヒーを煎れる。
ふと目を逸らしていた間に来客があったらしく、カウンターには華やかな和装に、黒髪を結い上げて簪を揺らし、頬にガーゼを貼った女性が掛けていた。
硝子玉の様な目でユリアを見詰めるとうっそりと微笑んだ。
「久しぶりね、ユリア」
「あら、どうしたの、怪我?」
「そう。苛められたの酷いでしょ……ねえ、ユリア、貴女にも会いたい人っているんじゃないかしら?」
小さな細い手がカウンターの奥に飾ったゴーグルを指す。
ひび割れたゴーグルは、海で逝った夫の形見。
「私ね、ある方に仕えていて……私が仕えるくらいだから、すごい方なんだけど……その方ね、会いたい人に会わせてくれる、すごい力を持っているの。ねえ、ユリア、一緒に来てみない?」
ユリアはゴーグルを手にとって歪んだフレームを、ひび割れたレンズを撫でる。寂しげに、愛おしげに。
「やめておくわ」
ゴーグルを置いて、ユリアが笑った。
「そう、残念。……また来るわ。ね、ユリア、私たち、お友達よね?」
「ええ、勿論」
硝子玉の様な目でうっそりと笑み、しゃん、と草履の鈴を鳴らして去っていった。
●
職人は旅支度を調えて、すぐに帰って来るけれど、と笑いながら出発前のコーヒーを飲む。
今度は妻と娘も連れて来たいな。
楽しみね、と賑わい始めた店のテーブルへ、コーヒーを、ケーキを運びながらユリアが振り返った。
そして、ハンター達と合流した職人が街を発ち、いつもと同じように店を常連の愉しげな談笑とコーヒーの香りが満たす。
日が沈み夜も更けて、ローレンツも帰途に就いた頃。
ユリアは寝起きしている店の2階で、クローゼットから1枚のドレスを取り出した。
ピンクのAライン、小花レースの丸襟と、裾にもフリルとレースをあしらうそれ。似合うと言ってくれた人はもういないけれど、捨てられなくて。
「……会いたい人に、か……」
暫く眺めたドレスをクローゼットに仕舞い込んでベッドに潜ると、旅の無事を祈りながら目を閉じた。
祈りは届かなかったのか、翌朝に届けられた新聞には、昨日、職人がハンターと出発した日から、ヴァリオスへの街道にゴブリンの群が発生している記事が載っていた。
リプレイ本文
●
出発の間際、あ、と小さく声を上げたカリアナ・ノート(ka3733)が、見送りに誘われたユリアを振り返る。
「去年はお世話になりました。今年もよろしくお願いします」
年が変わってから会うのは初めてだったと、ほっそりした肩を竦め、長い柄の杖を引き寄せて背筋を真っ直ぐに。こちらこそ、とハンター達を見送る笑顔に、にっこりと澄んだ瞳が笑って、思い出して良かったと胸中拳を握った。
憧れのレディーに近づけた気がする。そう心を弾ませて、依頼人の傍へ駆け寄った。
北風の吹き荒ぶ冬空は高い、依頼人が外套を掻き合わせながらハンター達によろしく頼むと頭を下げた。
「―ー娘さんにオルゴールをですか……いいですね」
「うん、娘さんにはきっと良い思い出になるはずだ」
エステル(ka5826)とアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が依頼人の話に目を細めた。
「そうですよ、将来に大切な思い出の宝物になります!」
だから、絶対無事に送り届けるとエステルが長柄の得物をぎゅっと握った。
それにしてもと、アルトは依頼人の横顔を見る。
「店を持てることになったということは、ある意味凱旋だ」
やるね、お父さん。アルトの言葉に、まだ見ぬ娘へ思いを馳せる依頼人が照れた頬を掻く。
思い出を込めたオルゴールかと、ロニ・カルディス(ka0551)が依頼人を振り返る。
「それは確かに、無事に届けねばなるまいな」
息は冬の空気に白く弾む。依頼人の周囲を見回すが、辺りに異常はまだ見られない。茂みの脇にも、ただ枯れ葉が吹き溜まって踊るだけだ。
外待雨 時雨(ka0227)が空を見上げる。晴れた空を映した青い瞳が瞼を伏せる。
「……子供には……親が必要なのですよ……」
笑んで、叱って。幸福とは何かを教えてくれる存在が。と、静かに瞬く瞳を依頼人へ向けた。
「子守唄……」
きっと、とどけましょう。
依頼人がリュックのベルトを握って頷く。子守歌なんですよね、とカリアナが笑んだ。
気になるかという依頼人の問い掛けに頷くと、依頼人は少しばかり困った顔をした。包みはリュックの底だという。
オルゴールも、子守歌も気になるけれど、と言葉を選ぶ指先が落ち付かなくヤドリギの柄を撫でる。
「あのねあのね」
何があるか、分からないから。
「もしもの為に、その包みの上からもう少し念入りに保管してもいいかしら?」
薄い包みのまま、リュックに入っているのなら。依頼人が足を止めた。
マフラーを解いて包み直す手を見詰めながら、アルトが声を掛ける。
隙無く包んでいく手に、それが大切な物だと十分に理解して。
「一つだけ約束をして欲しい」
嵩増したオルゴールをリュックに戻す手を止めて、依頼人がアルトの顔を見る。
真っ直ぐに見据える赤い瞳が真摯に語る。
「いざと言う時は、自分の命を最優先にしてくれ」
アルトの言葉に竦んだ依頼人が首を縦に揺らした。
依頼人の怯える様子に、そうならないようにするのがボクらの仕事だと、前方へ視線を向けた。
振り返るロニとカイン・マッコール(ka5336)が首を横に揺らした。
リュックの状態を確認し、歩き始める。
ロニとカイン、アルトの3人が襲撃に備え遠方を警戒を強める。エステルはアルトとトランシーバーの通信を確認し、他2人とともに依頼人の周囲を固めた。
街道脇に並ぶ木が揺れる。葉の落ちた枝が所々で視界を遮るように張り出してくる。
空を遮るように物寂しい陰りが落ちた。
「職人さん、お疲れでは無いでしょうか?」
街道を大分進んだ頃、エステルが朗らかに声を掛けた。連れる馬の歩を緩め依頼人の隣に合わせて歩ませる。
リュックは背負うから、疲れているなら乗って欲しいと鞍を示すが、依頼人は首を振った。
「ありがとう、気持ちだけ――」
止まれ、とカインの声が響く。
先にゴブリンがいると、銀の双銃を構えて低い声が告げた。
「…………ゴブリンは殺すだけだ」
吹き抜ける一陣の風が、獣の匂いを連れてくる。
アルトに従う2匹の猟犬も牙を剥いて唸っている。
依頼人との距離を測って、乾いた地面に躙るように足を進めた。
後方に4人を残しカインは銃の射程まで、目視の範囲にゴブリンは4匹。十分間合いに入った頃、ゴブリンがこちらに気付いた。
両手の銃を交互に鳴らす。たんたん、とリズミカルな銃声が響く。
空気を裂き風を纏う銃弾が敵へ向かう。
銃弾を撃ち鳴らす手は揺れることも無く、引鉄を引き続けた。
銃声に煽られたゴブリン達が得物を取る、全員棍棒を持っているようだ。周囲に他の影は見えない。
前進しロニがマテリアルを内に巡らせ杖を握り締めた。
「すまんな、わざわざ集まってくれていて」
ゴブリン達がロニへ向かって棍棒を振り下ろす。
それが届く前に杖が地面を突くと、ロニから広がる光りがゴブリンを包んで広がっていく。
光りへ銃声が近付く。
それが一時途切れると、光りからあぶれた1匹が柄に黒の瞳を頂く大剣に切り裂かれて倒れる。
リカッソを握り喉へ据えた切っ先を、カインは躊躇いなく突き立て血溜まりの中を振り返った。
「物資補給の為の偵察か、それとも近くに巣穴があるか、どちらにしろ近くに拠点があるのは間違いないか」
そうだろうなと光りの収束する中心でロニが頷く。
まだ動けるらしく地面で藻掻くゴブリンに留めを刺しながら、ハンター達は慎重に進んだ。
●
すぐに次の群が見えた。先と同じ小さな集まりだが、その後方から更に接近してきている。
アルトは降りた馬を繋ぎ、最前衛まで進む。
トランシーバーを片手にマテリアルを騒がせると、鳥を象る炎の幻影が羽ばたき、大きな翼が抱き締めるようにアルトとその得物を包み込む。
鳥がその姿を無くすと、炎と同じ色に染まった短い髪が風に靡く程長く伸びて、瞬いた瞳は温かな赤から苛烈に燃える炎の光りに変わっている。
脚と得物、アルトの癖に合わせて調整した刀にマテリアルを巡らせて地面を蹴った。刃を翳しながら敵の中心まで走って行く。
――5匹、6匹、……石も持っている――
攻撃に移る瞬間の冷徹な声が届く。
前衛で引き付けているが、こちらへ気付いたものもいるらしい。
エステルは外待雨とカリアナにそれを伝えた。
「私は……職人さんの背後を……」
「私も、傍にいるから」
それぞれに頷いて依頼人の傍で構える。外待雨が依頼人の背後へ向かって歩くと、その白い頬に雫が転がった。濡れた青い瞳を静かに伏せると、白無垢を纏う外待雨の傍らに寄り添う狐面の新郎の姿。
幻の婚礼は、指輪から腕輪まで金鎖と宝石をレースの様に繋いだ煌びやかな装飾を纏う手を翳す瞬間に消え、何も無かったように外待雨が1人で佇んでいる。
依頼人の位置と前衛の距離を見ながら、パンジャの彩る手を揺らし目には見えない壁を作る。先でゴブリンの斃れる音が幾つも聞こえる。
「交代します」
金色の十字を掲げるメイス、その赤い柄を握りマテリアルを操って、エステルが壁を引き継ぐ。
壁を維持する間は動けない。外待雨はエステルと依頼人を守るように敵の接近に備える。
カリアナは長い射程を活かして水の礫を投じて前衛を援護する。
前衛を突破される様子は無いが、群が集まったらしく数が多い。
ゴブリンの射程を押さえ込めているようで、投じられた石はエステルと外待雨の壁にも届く事は無い。しかし、偶然木にぶつかった石が1つ跳ねて、依頼人の足下に落ちた。
その石に不意打ちかと慌てた依頼人が逃走を図ると、それを待っていたように別方向から石がもう1つ投じられた。リュックを抱えて依頼人が悲鳴を上げた。
「――っ、……」
外待雨に壁を代わったエステルが咄嗟に石と依頼人の間に入る。風の精霊の加護か背中にこつんと軽い衝撃を受けて石を防いだ。
杖を構え直してカリアナがそのゴブリンに石の礫を叩き付ける。
外待雨が同じ方へ手を翳すが、前衛と彼女達の警戒を抜けたのは、群からはぐれたその1匹だけらしい。
「音も……ありません、ね……姿も、見えませんし……」
攻撃の構えを解き、壁を作り直す。
「貴方個人に恨みはありませんが、敵対した以上倒させていただきます!」
エステルがメイスから放つ影が、ゴブリンを弾き飛ばした。
「大丈夫っ?」
慌てた声でカリアナが振り返る。座り込んだ依頼人が頷いてエステルを見上げた。
お姉さんにも言われていたのに済まないと青ざめた顔で言う。
「職人さんを待ってるいる方が居るんです。だから絶対に傷一つつけさせはしません!」
青い双眸がにっこりと笑った。
マテリアルを脚へ、刃へ、髪を靡かせて真っ直ぐ走りながら、擦れ違う敵を順に切り裂いていく。
勢いの収束する敵の中心、脇に構えた刀を直すと、対峙する手負いの1匹を袈裟に斬り倒して次へと切っ先を滑らせる。
手に石を握った物に狙いを定め、確実に切り伏せて辺りを赤く染め上げる。
刀を振るい巻いた血糊を払い落とすと、数匹が近づいてくる。吼えるゴブリンを睨むように見下ろし、得物を見る。
周囲には石を構える者は無く、少し先でまだ構えている。狙いをずらすが、棍棒を向けたゴブリン達は構わずに飛び掛かってくる。
「私に武器を向けたことを悔やむんだな」
冷えた声が告げる。身体に巡らせるマテリアルは進みを妨げようとする敵にも、それを断つ手にも止まること無く、アルトの身体を風の速さで運び続ける。
見えていた石を持つゴブリンを最後に薙ぐと、背後には斃れたゴブリンの道が出来る。
ゴブリン達が集まる場所を灼くような強い光りが覆う。
その光りの向こう、倒れたゴブリン達を鼓舞するようにきぃきぃと鳴いて、棍棒を振り回しその先をロニへ向けた1匹を見付けた。
「……あれか」
合流した小さな群、指揮を執れている様子は無いが、ゴブリン達はその1匹に従うようにロニへ得物を向けた。
棍棒を白地の盾に弾きながら進み、盾に身体を捕らえて踏み込むと、下から盾で跳ね上げる。バランスを崩したゴブリンが足をふらつかせ、振り回す棍棒が空気を撫でる。
「しばらくこの場で踊っていてくれ」
集るゴブリンの間を盾で抑え、囲まれる度に光りで薙ぎ払いながら、声を上げる1匹を目指した。
杖を向けるとゴブリンはぎぃと濁る声を上げた。
マテリアルを込めた杖を叩き付ける。受け止めようとした棍棒を弾き飛ばし、勢いを殺さずにその体を叩き伏せた。
群を見詰めたカインの青い瞳が瞳孔を開き震える。ぎりと奥歯を噛み締め、握り締めた大剣がかたかたと鳴った。
憎悪は、それを滅ぼす力を得ても消えることは無い。
投げられた石が鎧に掠める。衝撃を得る事も無いが響く音が意識を揺らす。
厄介だなと切っ先を向ける。
「――潰させて貰おう」
素早い流線を描いて上段から八双へ、脇に倒した刃にマテリアルを込めると、踏み込んだ全面の敵を薙ぎ払う。
手負いのゴブリン達は胴を断たれて倒れていく。
「悪いがここにいる奴は、一匹たりとも逃がすつもりはない」
呻くゴブリンの首を落とす。
「生きていれば情報が伝わって……」
血を流しながら棍棒を振り上げたゴブリンが、仲間を呼ぼうと声を上げる前に真二つに切り伏せる。
「……他の人間が被害に合うかも知れないからな」
だから、殺す。慈悲はない。屍を昏い青が見下ろした。
ざわめきを聞く。まだ来るのかと睨んだ先、吹き溜まりの落ち葉が音を立てて飛んでいった。
合流したハンター達は警戒を維持し街道を抜けた。
憔悴の見られた依頼人に、周囲で守る3人が励ますように声を掛ける。
到着までには穏やかな笑顔が戻っていた。
●
ヴァリオスに至ると、出迎えに来ていた家族が手を振った。依頼人の娘も、温かそうな毛布に包まれて眠っている。
無垢な寝顔を見詰めてエステルが頬を綻ばせた。
「もしよろしければ、生まれた娘さんの幸せを祈らせていただけないでしょうか?」
一応エクラのシスターですからと申し出ると、母親は驚いた顔を依頼人に向けた。
すごい方に守って頂いたのねと目を細め、エステルに視線を合わせるように屈むと、その腕を支えながら娘を抱かせた。
エステルの腕の中で澄んだ目を開けた赤子は、頬を震わせるとふにゃと笑った。
「……っ、お、お姉さま」
懐いた様に笑う赤子に目を瞠ったエステルに、アルトが頬を綻ばせた。
娘を見詰めて、依頼人は可愛い可愛いと頷いている。依頼人を見上げてカリアナはお父さんってみんなこうなのかしらと首を傾げた。
「……どうか……娘さんの手を、離さないであげて……くださいね……」
外待雨が静かな声で依頼人に告げる。勿論だと愛おしそうに娘の髪を撫でる手。外待雨が祈るように目を伏せた。その手は、家族を支えて掴むもの、離してしまえば、漣が心に巣くい続けると。
冷えて仕舞うからと、ハンター達を家へ招く。
マフラーを解いて取り出されたオルゴールは傷1つ無く、装飾の細やかな箱には娘の名前と誕生日が刻まれ、蓋には大粒の宝石が嵌め込まれていた。
捻子を巻いて開くと透き通った音で優しい子守歌が鳴る。
「いつか、貴方の作ったオルゴールが欲しいな」
ずいぶん親不孝というか好き勝手にしているから、落ち着く曲を贈りたい。
ワンフレーズ聞き終えたところでアルトが告げる。
良ければ帰りの護衛もと申し出て。
早朝に発ったハンター達を見送る家族は幸せそうで、赤子も母親に抱かれながら小さな手を揺らしていた。
「近いうちにあのエリアのゴブリンの巣を見つけて潰さないと、この先も被害が出続けるか」
街道を歩きながらカインが呟く。憂いを負う歩みは重く、けれど真っ直ぐに歩いて行く。
「残党を狩りながら帰ろうか」
折角だから経験を積もうと、アルトがエステルに笑みを向ける。
すこし、スパルタで。と口角を上げると、エステルはメイスを握って頷いた。
「はい。アルトお姉さまについていきます!」
溌剌とした声が答え2人も街道を歩いて行った。
出発の間際、あ、と小さく声を上げたカリアナ・ノート(ka3733)が、見送りに誘われたユリアを振り返る。
「去年はお世話になりました。今年もよろしくお願いします」
年が変わってから会うのは初めてだったと、ほっそりした肩を竦め、長い柄の杖を引き寄せて背筋を真っ直ぐに。こちらこそ、とハンター達を見送る笑顔に、にっこりと澄んだ瞳が笑って、思い出して良かったと胸中拳を握った。
憧れのレディーに近づけた気がする。そう心を弾ませて、依頼人の傍へ駆け寄った。
北風の吹き荒ぶ冬空は高い、依頼人が外套を掻き合わせながらハンター達によろしく頼むと頭を下げた。
「―ー娘さんにオルゴールをですか……いいですね」
「うん、娘さんにはきっと良い思い出になるはずだ」
エステル(ka5826)とアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が依頼人の話に目を細めた。
「そうですよ、将来に大切な思い出の宝物になります!」
だから、絶対無事に送り届けるとエステルが長柄の得物をぎゅっと握った。
それにしてもと、アルトは依頼人の横顔を見る。
「店を持てることになったということは、ある意味凱旋だ」
やるね、お父さん。アルトの言葉に、まだ見ぬ娘へ思いを馳せる依頼人が照れた頬を掻く。
思い出を込めたオルゴールかと、ロニ・カルディス(ka0551)が依頼人を振り返る。
「それは確かに、無事に届けねばなるまいな」
息は冬の空気に白く弾む。依頼人の周囲を見回すが、辺りに異常はまだ見られない。茂みの脇にも、ただ枯れ葉が吹き溜まって踊るだけだ。
外待雨 時雨(ka0227)が空を見上げる。晴れた空を映した青い瞳が瞼を伏せる。
「……子供には……親が必要なのですよ……」
笑んで、叱って。幸福とは何かを教えてくれる存在が。と、静かに瞬く瞳を依頼人へ向けた。
「子守唄……」
きっと、とどけましょう。
依頼人がリュックのベルトを握って頷く。子守歌なんですよね、とカリアナが笑んだ。
気になるかという依頼人の問い掛けに頷くと、依頼人は少しばかり困った顔をした。包みはリュックの底だという。
オルゴールも、子守歌も気になるけれど、と言葉を選ぶ指先が落ち付かなくヤドリギの柄を撫でる。
「あのねあのね」
何があるか、分からないから。
「もしもの為に、その包みの上からもう少し念入りに保管してもいいかしら?」
薄い包みのまま、リュックに入っているのなら。依頼人が足を止めた。
マフラーを解いて包み直す手を見詰めながら、アルトが声を掛ける。
隙無く包んでいく手に、それが大切な物だと十分に理解して。
「一つだけ約束をして欲しい」
嵩増したオルゴールをリュックに戻す手を止めて、依頼人がアルトの顔を見る。
真っ直ぐに見据える赤い瞳が真摯に語る。
「いざと言う時は、自分の命を最優先にしてくれ」
アルトの言葉に竦んだ依頼人が首を縦に揺らした。
依頼人の怯える様子に、そうならないようにするのがボクらの仕事だと、前方へ視線を向けた。
振り返るロニとカイン・マッコール(ka5336)が首を横に揺らした。
リュックの状態を確認し、歩き始める。
ロニとカイン、アルトの3人が襲撃に備え遠方を警戒を強める。エステルはアルトとトランシーバーの通信を確認し、他2人とともに依頼人の周囲を固めた。
街道脇に並ぶ木が揺れる。葉の落ちた枝が所々で視界を遮るように張り出してくる。
空を遮るように物寂しい陰りが落ちた。
「職人さん、お疲れでは無いでしょうか?」
街道を大分進んだ頃、エステルが朗らかに声を掛けた。連れる馬の歩を緩め依頼人の隣に合わせて歩ませる。
リュックは背負うから、疲れているなら乗って欲しいと鞍を示すが、依頼人は首を振った。
「ありがとう、気持ちだけ――」
止まれ、とカインの声が響く。
先にゴブリンがいると、銀の双銃を構えて低い声が告げた。
「…………ゴブリンは殺すだけだ」
吹き抜ける一陣の風が、獣の匂いを連れてくる。
アルトに従う2匹の猟犬も牙を剥いて唸っている。
依頼人との距離を測って、乾いた地面に躙るように足を進めた。
後方に4人を残しカインは銃の射程まで、目視の範囲にゴブリンは4匹。十分間合いに入った頃、ゴブリンがこちらに気付いた。
両手の銃を交互に鳴らす。たんたん、とリズミカルな銃声が響く。
空気を裂き風を纏う銃弾が敵へ向かう。
銃弾を撃ち鳴らす手は揺れることも無く、引鉄を引き続けた。
銃声に煽られたゴブリン達が得物を取る、全員棍棒を持っているようだ。周囲に他の影は見えない。
前進しロニがマテリアルを内に巡らせ杖を握り締めた。
「すまんな、わざわざ集まってくれていて」
ゴブリン達がロニへ向かって棍棒を振り下ろす。
それが届く前に杖が地面を突くと、ロニから広がる光りがゴブリンを包んで広がっていく。
光りへ銃声が近付く。
それが一時途切れると、光りからあぶれた1匹が柄に黒の瞳を頂く大剣に切り裂かれて倒れる。
リカッソを握り喉へ据えた切っ先を、カインは躊躇いなく突き立て血溜まりの中を振り返った。
「物資補給の為の偵察か、それとも近くに巣穴があるか、どちらにしろ近くに拠点があるのは間違いないか」
そうだろうなと光りの収束する中心でロニが頷く。
まだ動けるらしく地面で藻掻くゴブリンに留めを刺しながら、ハンター達は慎重に進んだ。
●
すぐに次の群が見えた。先と同じ小さな集まりだが、その後方から更に接近してきている。
アルトは降りた馬を繋ぎ、最前衛まで進む。
トランシーバーを片手にマテリアルを騒がせると、鳥を象る炎の幻影が羽ばたき、大きな翼が抱き締めるようにアルトとその得物を包み込む。
鳥がその姿を無くすと、炎と同じ色に染まった短い髪が風に靡く程長く伸びて、瞬いた瞳は温かな赤から苛烈に燃える炎の光りに変わっている。
脚と得物、アルトの癖に合わせて調整した刀にマテリアルを巡らせて地面を蹴った。刃を翳しながら敵の中心まで走って行く。
――5匹、6匹、……石も持っている――
攻撃に移る瞬間の冷徹な声が届く。
前衛で引き付けているが、こちらへ気付いたものもいるらしい。
エステルは外待雨とカリアナにそれを伝えた。
「私は……職人さんの背後を……」
「私も、傍にいるから」
それぞれに頷いて依頼人の傍で構える。外待雨が依頼人の背後へ向かって歩くと、その白い頬に雫が転がった。濡れた青い瞳を静かに伏せると、白無垢を纏う外待雨の傍らに寄り添う狐面の新郎の姿。
幻の婚礼は、指輪から腕輪まで金鎖と宝石をレースの様に繋いだ煌びやかな装飾を纏う手を翳す瞬間に消え、何も無かったように外待雨が1人で佇んでいる。
依頼人の位置と前衛の距離を見ながら、パンジャの彩る手を揺らし目には見えない壁を作る。先でゴブリンの斃れる音が幾つも聞こえる。
「交代します」
金色の十字を掲げるメイス、その赤い柄を握りマテリアルを操って、エステルが壁を引き継ぐ。
壁を維持する間は動けない。外待雨はエステルと依頼人を守るように敵の接近に備える。
カリアナは長い射程を活かして水の礫を投じて前衛を援護する。
前衛を突破される様子は無いが、群が集まったらしく数が多い。
ゴブリンの射程を押さえ込めているようで、投じられた石はエステルと外待雨の壁にも届く事は無い。しかし、偶然木にぶつかった石が1つ跳ねて、依頼人の足下に落ちた。
その石に不意打ちかと慌てた依頼人が逃走を図ると、それを待っていたように別方向から石がもう1つ投じられた。リュックを抱えて依頼人が悲鳴を上げた。
「――っ、……」
外待雨に壁を代わったエステルが咄嗟に石と依頼人の間に入る。風の精霊の加護か背中にこつんと軽い衝撃を受けて石を防いだ。
杖を構え直してカリアナがそのゴブリンに石の礫を叩き付ける。
外待雨が同じ方へ手を翳すが、前衛と彼女達の警戒を抜けたのは、群からはぐれたその1匹だけらしい。
「音も……ありません、ね……姿も、見えませんし……」
攻撃の構えを解き、壁を作り直す。
「貴方個人に恨みはありませんが、敵対した以上倒させていただきます!」
エステルがメイスから放つ影が、ゴブリンを弾き飛ばした。
「大丈夫っ?」
慌てた声でカリアナが振り返る。座り込んだ依頼人が頷いてエステルを見上げた。
お姉さんにも言われていたのに済まないと青ざめた顔で言う。
「職人さんを待ってるいる方が居るんです。だから絶対に傷一つつけさせはしません!」
青い双眸がにっこりと笑った。
マテリアルを脚へ、刃へ、髪を靡かせて真っ直ぐ走りながら、擦れ違う敵を順に切り裂いていく。
勢いの収束する敵の中心、脇に構えた刀を直すと、対峙する手負いの1匹を袈裟に斬り倒して次へと切っ先を滑らせる。
手に石を握った物に狙いを定め、確実に切り伏せて辺りを赤く染め上げる。
刀を振るい巻いた血糊を払い落とすと、数匹が近づいてくる。吼えるゴブリンを睨むように見下ろし、得物を見る。
周囲には石を構える者は無く、少し先でまだ構えている。狙いをずらすが、棍棒を向けたゴブリン達は構わずに飛び掛かってくる。
「私に武器を向けたことを悔やむんだな」
冷えた声が告げる。身体に巡らせるマテリアルは進みを妨げようとする敵にも、それを断つ手にも止まること無く、アルトの身体を風の速さで運び続ける。
見えていた石を持つゴブリンを最後に薙ぐと、背後には斃れたゴブリンの道が出来る。
ゴブリン達が集まる場所を灼くような強い光りが覆う。
その光りの向こう、倒れたゴブリン達を鼓舞するようにきぃきぃと鳴いて、棍棒を振り回しその先をロニへ向けた1匹を見付けた。
「……あれか」
合流した小さな群、指揮を執れている様子は無いが、ゴブリン達はその1匹に従うようにロニへ得物を向けた。
棍棒を白地の盾に弾きながら進み、盾に身体を捕らえて踏み込むと、下から盾で跳ね上げる。バランスを崩したゴブリンが足をふらつかせ、振り回す棍棒が空気を撫でる。
「しばらくこの場で踊っていてくれ」
集るゴブリンの間を盾で抑え、囲まれる度に光りで薙ぎ払いながら、声を上げる1匹を目指した。
杖を向けるとゴブリンはぎぃと濁る声を上げた。
マテリアルを込めた杖を叩き付ける。受け止めようとした棍棒を弾き飛ばし、勢いを殺さずにその体を叩き伏せた。
群を見詰めたカインの青い瞳が瞳孔を開き震える。ぎりと奥歯を噛み締め、握り締めた大剣がかたかたと鳴った。
憎悪は、それを滅ぼす力を得ても消えることは無い。
投げられた石が鎧に掠める。衝撃を得る事も無いが響く音が意識を揺らす。
厄介だなと切っ先を向ける。
「――潰させて貰おう」
素早い流線を描いて上段から八双へ、脇に倒した刃にマテリアルを込めると、踏み込んだ全面の敵を薙ぎ払う。
手負いのゴブリン達は胴を断たれて倒れていく。
「悪いがここにいる奴は、一匹たりとも逃がすつもりはない」
呻くゴブリンの首を落とす。
「生きていれば情報が伝わって……」
血を流しながら棍棒を振り上げたゴブリンが、仲間を呼ぼうと声を上げる前に真二つに切り伏せる。
「……他の人間が被害に合うかも知れないからな」
だから、殺す。慈悲はない。屍を昏い青が見下ろした。
ざわめきを聞く。まだ来るのかと睨んだ先、吹き溜まりの落ち葉が音を立てて飛んでいった。
合流したハンター達は警戒を維持し街道を抜けた。
憔悴の見られた依頼人に、周囲で守る3人が励ますように声を掛ける。
到着までには穏やかな笑顔が戻っていた。
●
ヴァリオスに至ると、出迎えに来ていた家族が手を振った。依頼人の娘も、温かそうな毛布に包まれて眠っている。
無垢な寝顔を見詰めてエステルが頬を綻ばせた。
「もしよろしければ、生まれた娘さんの幸せを祈らせていただけないでしょうか?」
一応エクラのシスターですからと申し出ると、母親は驚いた顔を依頼人に向けた。
すごい方に守って頂いたのねと目を細め、エステルに視線を合わせるように屈むと、その腕を支えながら娘を抱かせた。
エステルの腕の中で澄んだ目を開けた赤子は、頬を震わせるとふにゃと笑った。
「……っ、お、お姉さま」
懐いた様に笑う赤子に目を瞠ったエステルに、アルトが頬を綻ばせた。
娘を見詰めて、依頼人は可愛い可愛いと頷いている。依頼人を見上げてカリアナはお父さんってみんなこうなのかしらと首を傾げた。
「……どうか……娘さんの手を、離さないであげて……くださいね……」
外待雨が静かな声で依頼人に告げる。勿論だと愛おしそうに娘の髪を撫でる手。外待雨が祈るように目を伏せた。その手は、家族を支えて掴むもの、離してしまえば、漣が心に巣くい続けると。
冷えて仕舞うからと、ハンター達を家へ招く。
マフラーを解いて取り出されたオルゴールは傷1つ無く、装飾の細やかな箱には娘の名前と誕生日が刻まれ、蓋には大粒の宝石が嵌め込まれていた。
捻子を巻いて開くと透き通った音で優しい子守歌が鳴る。
「いつか、貴方の作ったオルゴールが欲しいな」
ずいぶん親不孝というか好き勝手にしているから、落ち着く曲を贈りたい。
ワンフレーズ聞き終えたところでアルトが告げる。
良ければ帰りの護衛もと申し出て。
早朝に発ったハンター達を見送る家族は幸せそうで、赤子も母親に抱かれながら小さな手を揺らしていた。
「近いうちにあのエリアのゴブリンの巣を見つけて潰さないと、この先も被害が出続けるか」
街道を歩きながらカインが呟く。憂いを負う歩みは重く、けれど真っ直ぐに歩いて行く。
「残党を狩りながら帰ろうか」
折角だから経験を積もうと、アルトがエステルに笑みを向ける。
すこし、スパルタで。と口角を上げると、エステルはメイスを握って頷いた。
「はい。アルトお姉さまについていきます!」
溌剌とした声が答え2人も街道を歩いて行った。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/06 20:09:46 |
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音色の守り人 ロニ・カルディス(ka0551) ドワーフ|20才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2016/02/07 07:20:53 |