ゲスト
(ka0000)
【節V】運命のインスパイア
マスター:大林さゆる

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~7人
- サポート
- 0~14人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2016/02/14 07:30
- 完成日
- 2016/02/19 00:58
このシナリオは2日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
『突然だけど、今年のヴァレンタインデーを再開する!』
『『『な、なんだってー!!!』』』
●
カカオ減産、そして高騰に伴うチョコレートの供給危機を前に、ハンターズソサエティのショップ店員シルキー・アークライトが敗北し、ソサエティショップ史上初のチョコレート販売停止がなされた事は記憶に新しい。
アカシラが偶さかカカオ豆の原生地を知っていた事から、突如として執り行われることとなった【長江】への進撃は、破竹の勢いを見せた。実に百名を超えるハンター達による怒涛の侵攻に、現地の歪虚達は手も足も出なかった。結果として、ハンター達は東方の支配地域に食い込み、西方へのカカオの供給を回復させしめたのである。
東方での争乱は、西方へも確かな影響を与えていた。西方に溜めこまれていたたカカオ豆は値下がりを免れず、爆発的な勢いで在庫が掃きだされることとなったのだ。カカオ豆は徐々に適正価格に近付いて行き――ついに、チョコレートの流通が、回復したのである。
バレンタインデーというハートウォーミングでキャッチ―なイベントを前にして届いた朗報に、市井には喜びの声が溢れたという。
尤も、裏方は血の涙を流しているかもしれないのだが。
●
「せっかく、こっちの世界に来たのに……」
リアルブルー出身の少年ハンター、水本 壮(みずもと・そう)は、河岸に座り込み、項垂れていた。
壮にとって、ヴァレンタインは無縁であった。
元の世界にいた頃の思い出と言えば、クラスにいた人気者の男子がダンボール箱一杯に入るほどのチョコをたくさん貰っていたのに対して、自分は義理チョコさえ貰うことができなかった。
かと言って、チョコレート頂戴と頼むのもプライドが許さなかった。いつか『男』として本命チョコレートが欲しいという想いもあったが、それを決意した翌日に転移してきたのだ。
さすがに異世界ではヴァレンタインの風習はないだろうと思いきや、あったのだ。
「今年のヴァレンタインデーは終了するって聞いたけど、カカオ豆があったなんて」
壮は川に向かって小石を投げていたが、しばらくすると水面から黒い鱗の半漁人たちが出現した。
「なんだよ、いきなり現れやがって」
戦闘開始……壮はすぐさま逃げ出した。
「俺は今、闘う余裕はないっす」
ひたすら走り、走って、走り続けて、辿り着いた場所は……どこだろう?
「やべっ、マジで、ここがどこだか分からないな」
壮が息を切らしながら立ち止まると、フードを被った二人の少女が近づいてきた。
「どうしたっすか」
「……。……」
少女たちは、何も言わずに、突然、チョコレートを壮に手渡した。
「な、な、なんてこった……いや、これは夢だ夢……現実である訳がない」
壮は立ち去ろうとするが、二人の少女はそそくさと壮に接近して、チョコレートを無理やり手渡した。
「な、なんて強引な女の子たちっすね。そんなにくれるっていうなら、ありがたくいただくっすよ」
ついに、この時が来た。
女の子から、チョコレートを貰った瞬間を一生、忘れはしないと壮は心に誓った。
「初めて会ったばかりのような気もするけど、どこかで俺の活躍でも聞いたのかな」
壮は照れながら、少女たちに話しかけた。
だが、彼女たちからの返事はない。
「君達、シャイなのかな。チョコレートは大切にするっすからね」
壮が少女たちに声をかけると、通りすがりの商人たちがやたらと距離を取って、道を通っていくのが見えた。
それに気が付いた壮は話しかけようとしたが、商人たちは何やら恐怖を感じ、一目散に逃げ出した。
「なんすか。ここはどこか、聞きたかっただけなのに……それとも、さっき見かけた半漁人たちがこっちに来てるとか?」
振り返ると、案の定、半漁人の群れが近づいてくるではないか。
だが、商人たちが逃げ出したのは、そのせいだけではない。
フードを被った少女たちの全身が『鉄』だったため、歪虚かと思い、危険を感じて逃げ出したのだ。
壮は初めてチョコレートを貰ったことがうれしくて、少女たちの本性に気付いていなかった。
歪虚化した鉄の人形…アンアンガールたちが壮に手渡したチョコレートは、商人たちから奪い取ったものだったのだ。
そうとは知らず、ウキウキ気分の壮。
「とりあえず、商人たちの後を追えば、どっかの町には辿り着くはずっすよ」
行商の道を辿って、壮が歩き出すと、二人の少女も付いてくるではないか。
「君達も俺と一緒に付いてくるっすか。良いっすよ。チョコのお礼で、町に着くまで俺が護衛するから」
壮は上機嫌であった。
その日の昼過ぎ。
ハンター・オフィスに依頼が舞い込んできた。
「アイアンガール退治か。この依頼は他のハンターに任せるか」
マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)は、控室で休むことにした。
依頼には『一人の少年がアイアンガールに付きまとわれている』と書かれていたが、その少年が水本だとは、マクシミリアンには知る由もなかった。
「そう言えば、水本のヤツ、最近……姿を見かけないな」
まさかという考えもあったが、マクシミリアンは水本が歪虚に付きまとわれる原因が分からなかった。
そのため、今回の依頼に出てくる少年が水本だとは思っていなかったのだ。
今回の依頼に目を付けたハンターたちも、少年の正体が「水本 壮」だとは知らなかった。
果たして、水本 壮の行く末は……?
『『『な、なんだってー!!!』』』
●
カカオ減産、そして高騰に伴うチョコレートの供給危機を前に、ハンターズソサエティのショップ店員シルキー・アークライトが敗北し、ソサエティショップ史上初のチョコレート販売停止がなされた事は記憶に新しい。
アカシラが偶さかカカオ豆の原生地を知っていた事から、突如として執り行われることとなった【長江】への進撃は、破竹の勢いを見せた。実に百名を超えるハンター達による怒涛の侵攻に、現地の歪虚達は手も足も出なかった。結果として、ハンター達は東方の支配地域に食い込み、西方へのカカオの供給を回復させしめたのである。
東方での争乱は、西方へも確かな影響を与えていた。西方に溜めこまれていたたカカオ豆は値下がりを免れず、爆発的な勢いで在庫が掃きだされることとなったのだ。カカオ豆は徐々に適正価格に近付いて行き――ついに、チョコレートの流通が、回復したのである。
バレンタインデーというハートウォーミングでキャッチ―なイベントを前にして届いた朗報に、市井には喜びの声が溢れたという。
尤も、裏方は血の涙を流しているかもしれないのだが。
●
「せっかく、こっちの世界に来たのに……」
リアルブルー出身の少年ハンター、水本 壮(みずもと・そう)は、河岸に座り込み、項垂れていた。
壮にとって、ヴァレンタインは無縁であった。
元の世界にいた頃の思い出と言えば、クラスにいた人気者の男子がダンボール箱一杯に入るほどのチョコをたくさん貰っていたのに対して、自分は義理チョコさえ貰うことができなかった。
かと言って、チョコレート頂戴と頼むのもプライドが許さなかった。いつか『男』として本命チョコレートが欲しいという想いもあったが、それを決意した翌日に転移してきたのだ。
さすがに異世界ではヴァレンタインの風習はないだろうと思いきや、あったのだ。
「今年のヴァレンタインデーは終了するって聞いたけど、カカオ豆があったなんて」
壮は川に向かって小石を投げていたが、しばらくすると水面から黒い鱗の半漁人たちが出現した。
「なんだよ、いきなり現れやがって」
戦闘開始……壮はすぐさま逃げ出した。
「俺は今、闘う余裕はないっす」
ひたすら走り、走って、走り続けて、辿り着いた場所は……どこだろう?
「やべっ、マジで、ここがどこだか分からないな」
壮が息を切らしながら立ち止まると、フードを被った二人の少女が近づいてきた。
「どうしたっすか」
「……。……」
少女たちは、何も言わずに、突然、チョコレートを壮に手渡した。
「な、な、なんてこった……いや、これは夢だ夢……現実である訳がない」
壮は立ち去ろうとするが、二人の少女はそそくさと壮に接近して、チョコレートを無理やり手渡した。
「な、なんて強引な女の子たちっすね。そんなにくれるっていうなら、ありがたくいただくっすよ」
ついに、この時が来た。
女の子から、チョコレートを貰った瞬間を一生、忘れはしないと壮は心に誓った。
「初めて会ったばかりのような気もするけど、どこかで俺の活躍でも聞いたのかな」
壮は照れながら、少女たちに話しかけた。
だが、彼女たちからの返事はない。
「君達、シャイなのかな。チョコレートは大切にするっすからね」
壮が少女たちに声をかけると、通りすがりの商人たちがやたらと距離を取って、道を通っていくのが見えた。
それに気が付いた壮は話しかけようとしたが、商人たちは何やら恐怖を感じ、一目散に逃げ出した。
「なんすか。ここはどこか、聞きたかっただけなのに……それとも、さっき見かけた半漁人たちがこっちに来てるとか?」
振り返ると、案の定、半漁人の群れが近づいてくるではないか。
だが、商人たちが逃げ出したのは、そのせいだけではない。
フードを被った少女たちの全身が『鉄』だったため、歪虚かと思い、危険を感じて逃げ出したのだ。
壮は初めてチョコレートを貰ったことがうれしくて、少女たちの本性に気付いていなかった。
歪虚化した鉄の人形…アンアンガールたちが壮に手渡したチョコレートは、商人たちから奪い取ったものだったのだ。
そうとは知らず、ウキウキ気分の壮。
「とりあえず、商人たちの後を追えば、どっかの町には辿り着くはずっすよ」
行商の道を辿って、壮が歩き出すと、二人の少女も付いてくるではないか。
「君達も俺と一緒に付いてくるっすか。良いっすよ。チョコのお礼で、町に着くまで俺が護衛するから」
壮は上機嫌であった。
その日の昼過ぎ。
ハンター・オフィスに依頼が舞い込んできた。
「アイアンガール退治か。この依頼は他のハンターに任せるか」
マクシミリアン・ヴァイス(kz0003)は、控室で休むことにした。
依頼には『一人の少年がアイアンガールに付きまとわれている』と書かれていたが、その少年が水本だとは、マクシミリアンには知る由もなかった。
「そう言えば、水本のヤツ、最近……姿を見かけないな」
まさかという考えもあったが、マクシミリアンは水本が歪虚に付きまとわれる原因が分からなかった。
そのため、今回の依頼に出てくる少年が水本だとは思っていなかったのだ。
今回の依頼に目を付けたハンターたちも、少年の正体が「水本 壮」だとは知らなかった。
果たして、水本 壮の行く末は……?
リプレイ本文
ハンター・オフィスの本部にマクシミリアン・ヴァイス(kz0003)が待機中と聞き、 パトリシア=K=ポラリス(ka5996)が控室に入ってきた。
「こんにちは~」
「俺に何か用か?」
マクシミリアンは窓際で外の景色を眺めていたが、パトリシアは向かいの席に座り、気になっていたことを話した。
「依頼人の商人から聞いたノデスが、とある少年がアイアン・ガールに付きまとわれているとか……どうやら、その少年、リアルブルー出身のハンターらしいデス」
「……そうか」
思案顔のマクシミリアンであったが、 パトリシアは満悦の笑みを浮かべた。
「誰か探してるノ? もしかしたら、歪虚に狙われている少年はマクシミリアンの知り合いカモ。一緒に来てくれると助かるのデスガ、無理にとはいいません」
「……その少年が、水本 壮である可能性も考えていたが、念の為、確かめるためにも同行しよう」
マクシミリアンの返事に、うれしそうに微笑むパトリシア。
「ミズモト・ソウ、と言う少年デスネ。善は急げデス」
●
「マクシミリアン様も同行して下さるのですね。助かります」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は少し驚いた表情をしたが、すぐに温和な顔付きになった。
「ふむ、マクシミリアン殿が探している少年の名が水本 壮だというのは分かったが、アイアン・ガールは何故、少年を付け狙っているのだろうか?」
ダーヴィド・ラウティオ(ka1393)は右手で顎を支えながら言った。
「アイアン・ガールが『嫉妬』の眷属だとしたら、それが鍵かもしれませんね。ですが、嫉妬の眷属に精神支配の能力があるというのは聞いたことがありません……だとしたら、これは少年自身の問題でしょう」
レイの推測が当たっているならば、尚のこと少年を正気に戻すことが必要になる。
「少年に関しては、パティさんに任せましょう。私は歪虚退治を優先します」
エルバッハ・リオン(ka2434)の力強い言葉に、パトリシアは喜んでいた。
「ありがとう、エル。こうなったら、なにがなんでも、少年を見つけ出して、事実を付きとめてミルネ」
「事実、ですか。確かに、現場まで行ってみないと分からないことも多々ありますから、急ぎましょう」
レイがそう言うと、案内役の商人がハンターたちを連れて歩き出した。
2時間くらい経った頃だろうか。
行商を辿り、南側に河岸が見えた場所に少年とアイアン・ガール2体がこちらに向って歩いて来るのが見えた。半漁人たちは河に沿って警戒しながら、ゆっくりと少年たちを追い掛けていた。
「マクシミリアン、あの少年だケド、見覚えある?」
パトリシアが促すと、確信を得たようにマクシミリアンが呟いた。
「……水本 壮だ。間違いない。嫉妬の歪虚に付けられているのに、何故、気がつかない?」
呆れたように言うマクシミリアン。
それを聞いて、レイが応えた。
「水本様に直接、聞いた方が良いとは思いますが、まずは半漁人たちを退治してしまいましょう」
「では、私が囮になろう」
ダーヴィドは『守りの構え』を取り、戦馬に騎乗して河岸まで走ると、戦斧「アグスティニア」を振りかざして半漁人の群れに突っ込んだ。数本の矢がダーヴィドの肩や腕に突き刺さったが、それでも怯むことなく、接近戦まで持ち込み、斧で攻撃をしかけた。
「騎士ダーヴィド、推参仕る!」
一騎討ちは避けて、敵の動きを撹乱させることに成功。半漁人の群れは二手に分かれるように慌てていた。
「ここからなら、狙えそうですね」
10匹の半漁人が逃げ出そうとしたが、戦馬に騎乗していたエルバッハの『ファイアーボール』が炸裂。
火球の範囲攻撃により、半漁人たちは抵抗する術もなく10匹が消え去っていく。
「ダーヴィド様のおかげで、隙ができましたね」
レイは間合いを取り、ハルバード「ヒュペリオン」による『ラウンドスウィング』で周囲360度にいる半漁人たちを薙ぎ倒していく。
「パティも援護するヨ!」
パトリシアが『風雷陣』を投げ飛ばすと、3匹の半漁人に命中。ダメージを受けた半漁人たちは勝ち目がないと思ったのか、河へと逃げ込もうとする。
距離が少し離れたが、エルバッハの射程内に入っていた。
「あっけないものです」
エルバッハが発動させた『ファイアーボール』は狙い通りに半漁人たちを全て消滅させた。
「やったー。半漁人は全部倒せたネ。残りはアイアン・ガール2体デスガ、ソウも助けないと」
パトリシアはガッツ・ポーズをして、壮のいる方角を目指した。
●
レイたちが壮の近くまで歩いていくと、パトリシアが声をかけた。
「ミズモト・ソウ、探したヨ!」
「また女の子だ! ここ最近、付いてるなー俺ってば」
壮はウハウハな気分だった。アイアン・ガール2体は壮にピッタリと寄り添い、離れようとしない。
この状況で対峙することになれば、壮も巻き込むことになる。
ハンターたちは様子を窺いながら、まずは説得を試みることにした。
レイは観察するように壮を見つめていた。
「やはり水本様、ですね。隣にいる…その…少女たちの正体はご存知でしょうか?」
「どこの出身かは分からないけど、鉄の鎧を着てるから、ハンターかな? この間、俺にチョコレート、くれたんだよ」
壮の答えに、マクシミリアンは冷めた眼差しで溜息をつくだけだった。
さすがにダーヴィドも、考え込んでいたが、何か閃いたようだ。
「水本殿、形ある物はいずれ壊れる。執着に溺れては真実を見失うぞ」
「え? どういうこと?」
壮の疑問に、ダーヴィドは真剣に言った。
「形ある物とは、チョコレートのことだ。チョコレートも、いずれは消えてなくなるものだ。つまりだな」
ダーヴィドがそこまで言うと、パトリシアはニパッと笑いながら告げた。
「カノジョ達はお友達デスカ?」
「いや、知り合ったばかり。彼女たち、何も話してくれなくてさ」
壮の言葉に、レイはきっぱりと言い放った。
「……彼女たちは歪虚です。水本様」
「ち、違う。嘘だ! 彼女たちは人間だ。歪虚が俺にチョコレートをくれる訳がないだろう!」
壮は否定したくて、思わず叫んだ。
それでもレイは、躊躇わずに話を続けた。
「貴方が望んだから与えられただけかもしれない。それは貴方がチョコレートを希求していたことを示しているのかもしれませんが……教えてください。それが、貴方にとって、美しく正しい貰い物足りえるのか……心の中で、真実…望んだもの足りえるのかを」
レイの言葉が壮の心を揺さぶる。
「……分からない……分からない!!」
壮は頭を抱えて座り込んだ。
「……だって、生まれて初めてだったんだよ。俺みたいなヤツ……一生、誰にも相手にされないって……だから……だから……」
壮は何故か自分でも理由が分からなかったが、涙が零れ落ちた。
ダーヴィドは壮の様子を見て、自分の少年時代を思い出してみた。……が、自分には全く心当たりがない。
だが、壮を助けたい一心からか、ダーヴィドは年長者として言うべきことは決まっていた。
「つまりは、その執着を失えば真実も見えようというもの! 執着とは、すなわちチョコレート……さあ、思い切って執着を捨てるのだ!」
ダーヴィドの喝に、壮は混乱したように叫んだ。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ! 捨てるなんて、できない!」
「……パティも、リアルブルーでは高校生だったから分かるヨ」
パトリシアは哀しそうな表情だった。
「突然、見知らぬ少女たちに話しかけられて、チョコレートを渡されて、それでも彼女たちはソウに付いてきてるネ。このパターンは、きっと」
人差し指を自分の頬に付け、パトリシアはキュピーンと瞳を輝かせた。
「直接、マクシミリアンに渡すのは恥ずかしいから、代わりに彼に渡してっというコトネ。ソウ、過去にもそういう経験あるんじゃない?」
「……」
一瞬、静まり返る。どうやら図星だったようだ。
「やっぱり。今回も、そのパターンなのかっ。俺ってば勘違いして…」
壮は少しずつ意識を取り戻し始めた。
「これが現実……残念デスガ、女の子たちから貰ったチョコレートはソウの物じゃないネ。それにバレンタインは何もチョコだけじゃないヨ。パティのクッキーをわけたげるネ」
パトリシアは朗らかな笑みを浮かべながら、壮にクッキーを手渡した。
「……いいのか、俺に?」
半信半疑の壮だったが、パトリシアが頷く。
「もちろんデス」
「あ、ありがとう。執着を捨てよって、こういうことか」
壮の言葉に、ダーヴィドは理解不能ながらも、これで良しという面持ちだった。
「流れがよく分からぬが、チョコレートはマクシミリアン殿に渡した方が良いのだろうか?」
その時であった。
アイアン・ガール2体は剣を構えて、壮を取り囲んだ。
「な、なんだ、こいつら、歪虚か。見た目が少女だったから騙されるところだったぜ…って、助けて~」
壮の首に、2本の剣が付きつけられる。
「正体を現したネ」
パトリシアの放った『桜幕符』がアイアン・ガール一体を包み込む。
「水本殿、しっかりせい」
ダーヴィドがすかさず壮の腕を掴み取り、アイアン・ガールから引き離す。
その隙にレイが『ワイルドラッシュ』を叩き込み、エルバッハが『ウィンドスラッシュ』を放つ。アイアン・ガール一体は衝撃に耐えきれず、粉々に砕け散り、消え去った。
残りのアイアン・ガールはレイに『強打』を繰り出すが、ハルバード「ヒュペリオン」で受け流されてしまう。
「純粋な少年を騙すとは、由々しきことです」
レイは容赦なく『ワイルドラッシュ』でアイアン・ガールの腹部を狙い撃ち、エルバッハが『ウィンドスラッシュ』を放った途端、敵は砕け散って、消滅した。
「やれやれ、歪虚は全て倒せましたが、水本さんの具合はどうでしょうね」
エルバッハが心配そうに言うと、ダーヴィドが壮の肩を叩いた。
「うむ、怪我はしとらんようだ。水本殿、執着は捨てられそうか?」
「……チョコレートは、マクシミリアンさんに渡すよ。俺にはパティから貰ったクッキーがあるから」
壮はマクシミリアンにチョコを渡して、クッキーが入った袋を握り締めていた。
「……これで良いな?」
マクシミリアンは元の持ち主である商人に、チョコレートを返すことにした。
「おお、助かったぜ。売り物を盗まれて難儀してたとこだ」
依頼人の商人は歪虚退治の礼として、ハンターたちにカカオ豆を送った。
「あ、そう言えば、チョコレートは……」
レイはチョコレートが盗まれた物だということに気が付いたが、そのことは触れずにいた。
「レイさん、さっきはごめん」
壮に声をかけられて、レイが振り返る。
「いえ、謝る必要はありませんよ」
「でもさ、レイさんが俺に言ってたことは事実だし……チョコが欲しいと思ってたから、アイアン・ガールに付け込まれたのかもしれない」
「……それでも、最後には真実と向き合うことができた……だから、少女たちのことを歪虚だと受け入れることができたのでしょう」
優しく微笑むレイ。
パトリシアが壮の前に立って笑顔を見せた。
「ソウ、元気でたカナ?」
「バレンタインで初めてもらったものがクッキーなんて、考えもしなかったよ。本当にありがとう、パティ」
壮は少しだけ、自分の弱さに気付き始めた。
「なにはともあれ、解決できたようですね」
エルバッハは安堵していたが、ダーヴィドは遠い目をしていた。
「やはり何度思い返しても、私の少年時代では考えられないことばかりだ」
さてさて、ダーヴィドは恋愛そのものに興味があったのか、それは誰にも分からなかった。
「こんにちは~」
「俺に何か用か?」
マクシミリアンは窓際で外の景色を眺めていたが、パトリシアは向かいの席に座り、気になっていたことを話した。
「依頼人の商人から聞いたノデスが、とある少年がアイアン・ガールに付きまとわれているとか……どうやら、その少年、リアルブルー出身のハンターらしいデス」
「……そうか」
思案顔のマクシミリアンであったが、 パトリシアは満悦の笑みを浮かべた。
「誰か探してるノ? もしかしたら、歪虚に狙われている少年はマクシミリアンの知り合いカモ。一緒に来てくれると助かるのデスガ、無理にとはいいません」
「……その少年が、水本 壮である可能性も考えていたが、念の為、確かめるためにも同行しよう」
マクシミリアンの返事に、うれしそうに微笑むパトリシア。
「ミズモト・ソウ、と言う少年デスネ。善は急げデス」
●
「マクシミリアン様も同行して下さるのですね。助かります」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)は少し驚いた表情をしたが、すぐに温和な顔付きになった。
「ふむ、マクシミリアン殿が探している少年の名が水本 壮だというのは分かったが、アイアン・ガールは何故、少年を付け狙っているのだろうか?」
ダーヴィド・ラウティオ(ka1393)は右手で顎を支えながら言った。
「アイアン・ガールが『嫉妬』の眷属だとしたら、それが鍵かもしれませんね。ですが、嫉妬の眷属に精神支配の能力があるというのは聞いたことがありません……だとしたら、これは少年自身の問題でしょう」
レイの推測が当たっているならば、尚のこと少年を正気に戻すことが必要になる。
「少年に関しては、パティさんに任せましょう。私は歪虚退治を優先します」
エルバッハ・リオン(ka2434)の力強い言葉に、パトリシアは喜んでいた。
「ありがとう、エル。こうなったら、なにがなんでも、少年を見つけ出して、事実を付きとめてミルネ」
「事実、ですか。確かに、現場まで行ってみないと分からないことも多々ありますから、急ぎましょう」
レイがそう言うと、案内役の商人がハンターたちを連れて歩き出した。
2時間くらい経った頃だろうか。
行商を辿り、南側に河岸が見えた場所に少年とアイアン・ガール2体がこちらに向って歩いて来るのが見えた。半漁人たちは河に沿って警戒しながら、ゆっくりと少年たちを追い掛けていた。
「マクシミリアン、あの少年だケド、見覚えある?」
パトリシアが促すと、確信を得たようにマクシミリアンが呟いた。
「……水本 壮だ。間違いない。嫉妬の歪虚に付けられているのに、何故、気がつかない?」
呆れたように言うマクシミリアン。
それを聞いて、レイが応えた。
「水本様に直接、聞いた方が良いとは思いますが、まずは半漁人たちを退治してしまいましょう」
「では、私が囮になろう」
ダーヴィドは『守りの構え』を取り、戦馬に騎乗して河岸まで走ると、戦斧「アグスティニア」を振りかざして半漁人の群れに突っ込んだ。数本の矢がダーヴィドの肩や腕に突き刺さったが、それでも怯むことなく、接近戦まで持ち込み、斧で攻撃をしかけた。
「騎士ダーヴィド、推参仕る!」
一騎討ちは避けて、敵の動きを撹乱させることに成功。半漁人の群れは二手に分かれるように慌てていた。
「ここからなら、狙えそうですね」
10匹の半漁人が逃げ出そうとしたが、戦馬に騎乗していたエルバッハの『ファイアーボール』が炸裂。
火球の範囲攻撃により、半漁人たちは抵抗する術もなく10匹が消え去っていく。
「ダーヴィド様のおかげで、隙ができましたね」
レイは間合いを取り、ハルバード「ヒュペリオン」による『ラウンドスウィング』で周囲360度にいる半漁人たちを薙ぎ倒していく。
「パティも援護するヨ!」
パトリシアが『風雷陣』を投げ飛ばすと、3匹の半漁人に命中。ダメージを受けた半漁人たちは勝ち目がないと思ったのか、河へと逃げ込もうとする。
距離が少し離れたが、エルバッハの射程内に入っていた。
「あっけないものです」
エルバッハが発動させた『ファイアーボール』は狙い通りに半漁人たちを全て消滅させた。
「やったー。半漁人は全部倒せたネ。残りはアイアン・ガール2体デスガ、ソウも助けないと」
パトリシアはガッツ・ポーズをして、壮のいる方角を目指した。
●
レイたちが壮の近くまで歩いていくと、パトリシアが声をかけた。
「ミズモト・ソウ、探したヨ!」
「また女の子だ! ここ最近、付いてるなー俺ってば」
壮はウハウハな気分だった。アイアン・ガール2体は壮にピッタリと寄り添い、離れようとしない。
この状況で対峙することになれば、壮も巻き込むことになる。
ハンターたちは様子を窺いながら、まずは説得を試みることにした。
レイは観察するように壮を見つめていた。
「やはり水本様、ですね。隣にいる…その…少女たちの正体はご存知でしょうか?」
「どこの出身かは分からないけど、鉄の鎧を着てるから、ハンターかな? この間、俺にチョコレート、くれたんだよ」
壮の答えに、マクシミリアンは冷めた眼差しで溜息をつくだけだった。
さすがにダーヴィドも、考え込んでいたが、何か閃いたようだ。
「水本殿、形ある物はいずれ壊れる。執着に溺れては真実を見失うぞ」
「え? どういうこと?」
壮の疑問に、ダーヴィドは真剣に言った。
「形ある物とは、チョコレートのことだ。チョコレートも、いずれは消えてなくなるものだ。つまりだな」
ダーヴィドがそこまで言うと、パトリシアはニパッと笑いながら告げた。
「カノジョ達はお友達デスカ?」
「いや、知り合ったばかり。彼女たち、何も話してくれなくてさ」
壮の言葉に、レイはきっぱりと言い放った。
「……彼女たちは歪虚です。水本様」
「ち、違う。嘘だ! 彼女たちは人間だ。歪虚が俺にチョコレートをくれる訳がないだろう!」
壮は否定したくて、思わず叫んだ。
それでもレイは、躊躇わずに話を続けた。
「貴方が望んだから与えられただけかもしれない。それは貴方がチョコレートを希求していたことを示しているのかもしれませんが……教えてください。それが、貴方にとって、美しく正しい貰い物足りえるのか……心の中で、真実…望んだもの足りえるのかを」
レイの言葉が壮の心を揺さぶる。
「……分からない……分からない!!」
壮は頭を抱えて座り込んだ。
「……だって、生まれて初めてだったんだよ。俺みたいなヤツ……一生、誰にも相手にされないって……だから……だから……」
壮は何故か自分でも理由が分からなかったが、涙が零れ落ちた。
ダーヴィドは壮の様子を見て、自分の少年時代を思い出してみた。……が、自分には全く心当たりがない。
だが、壮を助けたい一心からか、ダーヴィドは年長者として言うべきことは決まっていた。
「つまりは、その執着を失えば真実も見えようというもの! 執着とは、すなわちチョコレート……さあ、思い切って執着を捨てるのだ!」
ダーヴィドの喝に、壮は混乱したように叫んだ。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ! 捨てるなんて、できない!」
「……パティも、リアルブルーでは高校生だったから分かるヨ」
パトリシアは哀しそうな表情だった。
「突然、見知らぬ少女たちに話しかけられて、チョコレートを渡されて、それでも彼女たちはソウに付いてきてるネ。このパターンは、きっと」
人差し指を自分の頬に付け、パトリシアはキュピーンと瞳を輝かせた。
「直接、マクシミリアンに渡すのは恥ずかしいから、代わりに彼に渡してっというコトネ。ソウ、過去にもそういう経験あるんじゃない?」
「……」
一瞬、静まり返る。どうやら図星だったようだ。
「やっぱり。今回も、そのパターンなのかっ。俺ってば勘違いして…」
壮は少しずつ意識を取り戻し始めた。
「これが現実……残念デスガ、女の子たちから貰ったチョコレートはソウの物じゃないネ。それにバレンタインは何もチョコだけじゃないヨ。パティのクッキーをわけたげるネ」
パトリシアは朗らかな笑みを浮かべながら、壮にクッキーを手渡した。
「……いいのか、俺に?」
半信半疑の壮だったが、パトリシアが頷く。
「もちろんデス」
「あ、ありがとう。執着を捨てよって、こういうことか」
壮の言葉に、ダーヴィドは理解不能ながらも、これで良しという面持ちだった。
「流れがよく分からぬが、チョコレートはマクシミリアン殿に渡した方が良いのだろうか?」
その時であった。
アイアン・ガール2体は剣を構えて、壮を取り囲んだ。
「な、なんだ、こいつら、歪虚か。見た目が少女だったから騙されるところだったぜ…って、助けて~」
壮の首に、2本の剣が付きつけられる。
「正体を現したネ」
パトリシアの放った『桜幕符』がアイアン・ガール一体を包み込む。
「水本殿、しっかりせい」
ダーヴィドがすかさず壮の腕を掴み取り、アイアン・ガールから引き離す。
その隙にレイが『ワイルドラッシュ』を叩き込み、エルバッハが『ウィンドスラッシュ』を放つ。アイアン・ガール一体は衝撃に耐えきれず、粉々に砕け散り、消え去った。
残りのアイアン・ガールはレイに『強打』を繰り出すが、ハルバード「ヒュペリオン」で受け流されてしまう。
「純粋な少年を騙すとは、由々しきことです」
レイは容赦なく『ワイルドラッシュ』でアイアン・ガールの腹部を狙い撃ち、エルバッハが『ウィンドスラッシュ』を放った途端、敵は砕け散って、消滅した。
「やれやれ、歪虚は全て倒せましたが、水本さんの具合はどうでしょうね」
エルバッハが心配そうに言うと、ダーヴィドが壮の肩を叩いた。
「うむ、怪我はしとらんようだ。水本殿、執着は捨てられそうか?」
「……チョコレートは、マクシミリアンさんに渡すよ。俺にはパティから貰ったクッキーがあるから」
壮はマクシミリアンにチョコを渡して、クッキーが入った袋を握り締めていた。
「……これで良いな?」
マクシミリアンは元の持ち主である商人に、チョコレートを返すことにした。
「おお、助かったぜ。売り物を盗まれて難儀してたとこだ」
依頼人の商人は歪虚退治の礼として、ハンターたちにカカオ豆を送った。
「あ、そう言えば、チョコレートは……」
レイはチョコレートが盗まれた物だということに気が付いたが、そのことは触れずにいた。
「レイさん、さっきはごめん」
壮に声をかけられて、レイが振り返る。
「いえ、謝る必要はありませんよ」
「でもさ、レイさんが俺に言ってたことは事実だし……チョコが欲しいと思ってたから、アイアン・ガールに付け込まれたのかもしれない」
「……それでも、最後には真実と向き合うことができた……だから、少女たちのことを歪虚だと受け入れることができたのでしょう」
優しく微笑むレイ。
パトリシアが壮の前に立って笑顔を見せた。
「ソウ、元気でたカナ?」
「バレンタインで初めてもらったものがクッキーなんて、考えもしなかったよ。本当にありがとう、パティ」
壮は少しだけ、自分の弱さに気付き始めた。
「なにはともあれ、解決できたようですね」
エルバッハは安堵していたが、ダーヴィドは遠い目をしていた。
「やはり何度思い返しても、私の少年時代では考えられないことばかりだ」
さてさて、ダーヴィドは恋愛そのものに興味があったのか、それは誰にも分からなかった。
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運命のインスパイア 相談 レイ・T・ベッドフォード(ka2398) 人間(リアルブルー)|26才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2016/02/13 18:36:20 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2016/02/13 13:29:50 |